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  • -芳香族アルコール化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095540
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】芳香族アルコール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20220621BHJP
   C09K 15/08 20060101ALI20220621BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220621BHJP
【FI】
C12P7/22
C09K15/08
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021184394
(22)【出願日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020220002
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕子
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H025
【Fターム(参考)】
4B064AC17
4B064CA02
4B064CB18
4B064CD05
4B064DA16
4B065AA30X
4B065BD28
4B065BD34
4B065CA05
4B065CA60
4H025AA12
4H025AA16
4H025AC04
(57)【要約】
【課題】 本発明では、乳酸菌及びその処理物を用いて、芳香族カルボニル化合物のカルボニル基を還元して、芳香族アルコール化合物を製造する、芳香族アルコール化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 芳香族カルボニル化合物に、乳酸菌及びその処理物を作用させることによって、芳香族アルコール化合物を生成できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシ基、Rは水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、カルボニルアルキル基又はアセトキシアルキル基を表し、nは0~2の整数を表す)
で表される芳香族カルボニル化合物に、該化合物を一般式(II)
【化2】
(式中、R、R、R及びnは前記と同じ意味を表す)
で表される芳香族アルコール化合物に還元する能力を有するラクトバチルス属に属する微生物又はその処理物を作用させ、一般式(II)で表される芳香族アルコール化合物を製造することを特徴とする、芳香族アルコール化合物の製造方法。
【請求項2】
芳香族カルボニル化合物がパラドールで、芳香族アルコール化合物がジヒドロパラドールである、請求項1記載の芳香族アルコール化合物の製造方法。
【請求項3】
ジヒドロパラドールを有効成分とする抗酸化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌による芳香族アルコール化合物の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、癌細胞又はマウスの代謝により、芳香族カルボニル化合物の一つである6-ジンゲロールが、芳香族アルコール化合物の一つである(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールに変換されること、それらの代謝物が癌細胞に細胞毒性を誘発することが記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、芳香族アルコール化合物の一つであるロドデンドロールが、肝障害に対する防護作用を示す成分として単離・同定され、芳香族カルボニル化合物の一つである4-(p-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノンから酵母の作用によって変換され、生産されることが記載されている。
【0004】
芳香族アルコール化合物は、医薬品や農薬等の中間体として有益だが、化学合成による製造が難しいものが多く、より簡便に製造する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04-75587
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lishuang Lv、他5名、“6-Gingerdiols as the Major Metabolites of 6-Gingerol in Cancer Cells and in Mice and Their Cytotoxic Effects on Human Cancer Cells”、Journal of Agricultural and Food Chemistry、(米国)、2012年11月14日、第60巻、第45号、p.11372-11377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、乳酸菌及びその処理物を用いて、芳香族カルボニル化合物のカルボニル基を還元して、芳香族アルコール化合物を製造する、芳香族アルコール化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、芳香族カルボニル化合物に、乳酸菌及びその処理物を作用させることによって、芳香族アルコール化合物を生成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]の態様に関する。
[1]一般式(I)
【化1】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシ基、Rは水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、カルボニルアルキル基又はアセトキシアルキル基を表し、nは0~2の整数を表す)
で表される芳香族カルボニル化合物に、該化合物を一般式(II)
【化2】
(式中、R、R、R及びnは前記と同じ意味を表す)
で表される芳香族アルコール化合物に還元する能力を有するラクトバチルス属に属する微生物又はその処理物を作用させ、一般式(II)で表される芳香族アルコール化合物を製造することを特徴とする、芳香族アルコール化合物の製造方法。
[2]芳香族カルボニル化合物がパラドールで、芳香族アルコール化合物がジヒドロパラドールである、[1]記載の芳香族アルコール化合物の製造方法。
[3]ジヒドロパラドールを有効成分とする抗酸化剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、芳香族カルボニル化合物に乳酸菌又はその処理物を作用させることにより、簡便に芳香族アルコール化合物を生成できることが分かり、大量生産も可能な芳香族アルコール化合物の製造方法を提供できるようになった。
【0011】
また、本発明の芳香族アルコール化合物は優れた抗酸化活性を有しており、抗酸化剤として用いることができることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】乳酸菌による発酵前後の6-ジンゲロール、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールの固形分あたりの濃度を示す。
図2】乳酸菌による発酵前後の6-ジンゲロール、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールの固形分あたりの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、一般式(I)
【化1】
で表される芳香族カルボニル化合物に、該化合物を一般式(II)
【化2】
で表される芳香族アルコール化合物に還元する能力を有するラクトバチルス属に属する微生物又はその処理物を作用させ、一般式(II)で表される芳香族アルコール化合物を製造する方法である。
【0014】
前記式中のRは水素原子又はヒドロキシ基であり、Rは水素原子、ヒドロキシ基又はメトキシ基であり、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、カルボニルアルキル基又はアセトキシアルキル基であり、nは0~2の整数を表し、0又は2が好ましい。Rのアルキル基は炭素数1~14の直鎖状のアルキル基が好ましい。Rのアルケニル基は炭素数1~14の直鎖状のアルケニル基が好ましく、C1とC2とが二重結合で結合しているのがさらに好ましい。Rのヒドロキシアルキル基、カルボニルアルキル基又はアセトキシアルキル基は、置換されている炭素数1~14の直鎖アルキル基が好ましく、置換される位置は特に限定されないが、C2の水素原子がヒドロキシ基、カルボニル基又はアセトキシ基により置換されているアルキル基が好ましい。Rの炭素数は、炭素数1、5、7、9又は11がより好ましく、炭素数1又は7がさらに好ましい。
【0015】
本発明で使用する微生物は、前記一般式(I)で表される芳香族カルボニル化合物を、前記一般式(II)で表される芳香族アルコール化合物に還元する能力を有するラクトバチルス属に属する微生物であれば特に限定されないが、ヘテロ発酵型乳酸菌が好ましく、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)、ラクトバチルス・ケフィリ(L.kefiri)又はラクトバチルス・フルクチボランス(L.fructivorans)が好ましく、1種又は2種以上を使用することができる。
【0016】
本発明に用いる微生物を培養するための培地は、該微生物が増殖可能な成分であれば特に限定されず、一般的な培地成分が使用できるが、炭素源、窒素源、無機物、微量栄養素等を含有するものが例示でき、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、トレハロース、グリセリン、ソルビトール、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、乳蛋白、大豆蛋白等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛等が使用できる。さらにTween80等の界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、オリーブオイル等の油脂を使用してもよい。
【0017】
培養は、前記培地成分を含む液体培地を殺菌後、前記微生物を接種し、静置又は振盪にて培養することができるが、通気、振盪、攪拌等により好気的条件下で培養するのが好ましく、培養温度は例えば10~50℃が例示でき、15~40℃が好ましく、培養時間は例えば1~120時間が例示でき、2~96時間が好ましく、6~72時間がより好ましく、pHは例えば2.0~8.5が例示でき、3.0~8.0が好ましく、培養中に例えば前記範囲でpH調整をしてもよい。pH調整は、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いることができるが、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を用いると、培養中に培養液が酸性になるのに伴い、徐々に溶解して、pHの低下を緩和し、pH調整が可能で、pH低下に伴う乳酸菌の増殖抑制が抑えられるため好ましい。
【0018】
本発明の芳香族アルコール化合物の製造方法としては、培養によって得られる微生物又はその処理物を用いて、前記一般式(I)で表される芳香族カルボニル化合物を前記一般式(II)で表される芳香族アルコール化合物に変換することができ、微生物の培養物、培養して得られる菌体、該菌体を破砕して得られる菌体破砕物、無細胞抽出液等の微生物の処理物の何れを用いても行うことができる。微生物の培養物に芳香族カルボニル化合物を添加して反応させる方法が例示でき、該芳香族カルボニル化合物は培養前、培養中又は培養後に、培養液に添加することができ、連続的に添加してもよく、培養と反応とを同時に行ってもよい。培養物から遠心分離等により分離した菌体を、緩衝液、水等に再懸濁し、芳香族カルボニル化合物を添加して反応させる方法も例示でき、反応の際、グルコース、スクロース等の炭素源をエネルギー源として添加してもよい。また、菌体破砕物、無細胞抽出液等の微生物の処理物と、芳香族カルボニル化合物とを接触させて反応させる方法も例示でき、公知の方法で固定化した菌体も用いることができる。
【0019】
芳香族カルボニル化合物と、微生物又はその処理物とが反応する液を反応液とした場合、反応開始時の液中の固形分あたりの芳香族カルボニル化合物含有量は、0.1重量%以上が好ましく、0.2~50重量%がより好ましく、0.4~40重量%がさらに好ましく、培養液又は発酵物と、反応液とが同義となることもあり、培養開始時の培地中の芳香族カルボニル化合物含有量も前記反応液中と同濃度となる場合がある。また、芳香族カルボニル化合物は、天然物由来又は合成品の何れでもよく、例えば植物に含まれる芳香族カルボニル化合物であれば、超臨界抽出法、水蒸気蒸留法、溶媒抽出法等により抽出した植物抽出物を使用してもよい。
【0020】
添加する芳香族カルボニル化合物は、反応液にそのまま添加してもよいが、液中でよく分散するように、乳化させるのが好ましく、乳化粉末としてもよい。乳化剤は、乳化能力を有する成分であれば特に限定されないが、例えば、アカシアガム、ガティガム、キサンタンガム等のガム質、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、カゼイン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン等が例示でき、1種又は2種以上を使用することができ、芳香族カルボニル化合物と乳化剤との乳化物を添加してもよく、反応液に芳香族カルボニル化合物と乳化剤とを加えてもよい。
【0021】
反応条件は、例えば10~60℃が例示でき、20~50℃が好ましく、反応時間は例えば1~120時間が例示でき、2~96時間が好ましく、6~72時間がより好ましく、pHは例えば2.5~9.0が例示でき、3.0~8.5が好ましく、反応中に例えば前記範囲でpH調整をしてもよく、培養時のpH調整で例示したpH調整剤を使用できる。静置下で反応させてもよいが、攪拌するのが好ましく、反応液中に本発明の芳香族アルコール化合物を生成、蓄積できる。
【0022】
芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率は、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、50%以上が特に好ましく、80%以上が最も好ましい。反応液中の芳香族アルコール化合物含有量は、固形分あたり、0.05重量%以上が好ましく、0.1~50重量%がより好ましく、0.2~40重量%がさらに好ましく、0.5~30重量%が特に好ましい。
【0023】
反応後は殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。生成物の回収は、不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等により、固液分離することで得られる液体として利用してもよいし、さらに濃縮及び/又は乾燥し、濃縮品や乾燥品として利用してもよい。乾燥は、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等により行うことができる。さらに反応によって生成した芳香族アルコール化合物を、反応液から直接又は菌体等分離後、有機溶媒により抽出して回収することができ、また、蒸留、カラムクロマトグラフィー等通常の精製方法を用いて精製品を得ることができる。
【0024】
本発明で得られる芳香族アルコール化合物は、優れた抗酸化活性を示すことから、抗酸化剤として利用できる。芳香族アルコール化合物としては、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール、(3S,5S)-6-ジンゲルジオール等の6-ジンゲルジオール、Zingerol、6-ジヒドロパラドールが例示でき、該化合物を有効成分とする抗酸化剤として用いることができる。
【0025】
本発明で得られる芳香族アルコール化合物は、各種製品に添加することにより、芳香族アルコール化合物含有品を製造できる。これにより、該芳香族アルコール化合物が有する各種機能性を容易に各種飲食品等に付加することができる。各飲食品等への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%、さらに好ましくは0.05~2重量%、特に好ましくは0.1~1重量%である。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料等にも利用できる。
【0026】
本発明の飲食品、医薬品又は医薬部外品は、芳香族アルコール化合物の抗酸化作用により、活性酸素によって引き起こされる疾患又は症状を改善又は予防し得る機能性食品、医薬品又は医薬部外品として利用できる。
【0027】
本発明の化粧品は、芳香族アルコール化合物の抗酸化作用により、活性酸素によって引き起こされる皮膚の老化・色素沈着等を予防し、皮膚の老化予防剤又は美白剤として利用できる。
【0028】
本発明の飼料は、芳香族アルコール化合物の抗酸化作用により、活性酸素によって引き起こされる動物等の疾患又は症状を改善又は予防し得る飼料として利用できる。
【実施例0029】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0030】
(芳香族アルコール化合物の製造1)
ジンゲロール含有物としてジンジャーエキスパウダーG2(6-ジンゲロール含有量:2.3%、池田糖化工業株式会社製)を終濃度で5%となるようにMRS培地に添加し、20gずつ、試験管に分注後、121℃で15分間加熱殺菌処理した。冷却した液体培地2本ずつに、Lactobacillus brevis NBRC3345(実施例1-1及び1-2)又はLactobacillus fermentum NBRC15885(実施例1-3及び1-4)を一白金耳植菌し、30℃で40時間静置培養した。培養終了後、90℃で10分間、殺菌処理し、各乳酸菌発酵物を得た。
【0031】
実施例1-1~1-4で得られた各乳酸菌発酵物について、発酵後のpHを測定し、表1に記載すると共に、6-ジンゲロールの含有量を下記のHPLC測定条件1にて測定し、培地中の濃度として図1に示した。
【0032】
<HPLC測定条件1>
・検出器:UV検出器(282nm)
・カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
・移動相:30%アセトニトリル水溶液から100%アセトニトリルへグラジエント
・流速:0.8ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:6-ジンゲロール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を95%エタノールに溶解して、検量線を作成した。構造式を記載しますか。
・検体:各試料を80%アセトニトリルにて適宜希釈して使用した。
【0033】
さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、6-ジンゲロール(リテンションタイム:17分付近)とは別に発酵後に現れた2つのピーク(リテンションタイム:L.brevisが14分付近、L.fermentumが15分付近)が確認でき、発酵により生成された物質と考えられたため、LC/MS及びNMRで解析した結果、該物質は何れも6-ジンゲルジオールの2種類の異性体、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールであることが明らかになった。
【0034】
(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールについては、NMRで解析した精製物を標品として、上記のHPLC測定条件1にて濃度を算出し、発酵物中の固形分あたりの濃度として図1に示した。尚、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールの合計を6-ジンゲルジオールの値とし、発酵物中の固形分あたりの6-ジンゲルジオール濃度として表1に示した。また、植菌直前の培地中の各成分について、発酵前の固形分あたりの濃度として、測定値を図1に示した。
【0035】
【表1】
【実施例0036】
(芳香族アルコール化合物の製造2)
実施例1の方法に準じて、表2に記載の条件でL.reuteri NBRC15892、L.kefiri NBRC15888又はL.fructivorans NBRC13954(実施例2-1、2-2又は2-3)による各乳酸菌発酵物を得た。尚、植菌には、グリセロールストック10μLを使用した。
【0037】
実施例2-1~2-3で得られた各乳酸菌発酵物について、実施例1と同様に、発酵後のpHを測定し表2に記載すると共に、発酵物中の6-ジンゲロール、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールの固形分あたりの含有量を測定して図2に示し、(3R,5S)-6-ジンゲルジオール及び(3S,5S)-6-ジンゲルジオールの合計を、発酵物中の固形分あたりの6-ジンゲルジオール濃度として表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
図1及び2より、実施例1及び2の何れもで、ジンゲロール含有物を含む培地で乳酸菌を培養することで、発酵後に6-ジンゲルジオールが生成され、特に、L.brevisは(3R,5S)-6-ジンゲルジオールを、L.fermentumは(3S,5S)-6-ジンゲルジオールを生成することが分かった。また、発酵前の6-ジンゲロールが減少し、6-ジンゲルジオールが増加していた。
【実施例0040】
(芳香族アルコール化合物の製造3)
MRS培地に、表3に記載の終濃度でその他の各培地成分及び各芳香族カルボニル化合物を添加して混合した後、121℃で15分間加熱殺菌処理して培地を調製した。冷却した培地に、L.brevis NBRC12005(実施例3-1~3-4)、L.reuteri NBRC15892(実施例3-5)又はL.fermentum NBRC15885(実施例3-6)を植菌し、表3記載の条件で各々培養した。培養終了後、90℃で10分間、殺菌処理し、各乳酸菌発酵物を得た。尚、乳化剤として用いたポリグリセリン脂肪酸エステル製剤は、サンソフト(登録商標)Q-17S(太陽化学株式会社製)を使用し、芳香族カルボニル化合物については、実施例3-1ではバニリルアセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、実施例3-3ではバニリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、実施例3-4ではラズベリーケトン(3-(4-Hydroxyphenyl)-2-butanone、東京化成工業株式会社製)を表3記載の終濃度になるように添加し、実施例3-2及び3-5では6-ジンゲロールを含有するGinger soft SCFE 35%(株式会社サビンサジャパンコーポレーション製)を使用し、実施例3-6では6-パラドール含有組成物である発酵ジンジャーエキスパウダーS(池田糖化工業株式会社製)を使用し、6-ジンゲロール又は6-パラドールが表3記載の各終濃度になるように添加した。
【0041】
<HPLC測定条件2>
・検出器:UV検出器(282nm)
・カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
・移動相:40%アセトニトリル水溶液から80%アセトニトリルへグラジエント
・流速:0.8ml/分
・カラム温度:40℃
・標品:バニリルアセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、6-ジンゲロール(富士フイルム和光純薬株式会社製)、6-パラドール(コスモ・バイオ株式会社製)、バニリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、バニリルアルコール(東京化成工業株式会社製)、ラズベリーケトン(東京化成工業株式会社製)、ロドデノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)を95%エタノールに溶解して、検量線を作成した。
・検体:各試料を80%アセトニトリルにて適宜希釈して使用した。
【0042】
実施例3-1の発酵前後のバニリルアセトン含有量を上記HPLC測定条件にて測定した。さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、バニリルアセトン(リテンションタイム:7分付近)とは別に発酵後に現れた新規ピーク(リテンションタイム:6分付近)が確認でき、発酵により生成された物質と考えられたため、該物質をC18カラムで精製してLC/MS及びNMRで解析した結果、該物質はZingerolであることが明らかになった。精製して得たZingerolを標品とし、95%エタノールに溶解して、上記のHPLC測定条件2にて測定することで検量線を作成し、HPLCのAREA値から発酵物中の濃度を算出して、発酵後のZingerolの濃度を発酵前のバニリルアセトンの濃度で割ることで、芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率を算出し、表3に記載した。
【0043】
実施例3-2及び3-5の発酵前後の6-ジンゲロール含有量を上記HPLC測定条件にて測定した。さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、実施例3-2では発酵後に(3R,5S)-6-ジンゲルジオール(6-ジンゲルジオール)が確認でき、実施例3-5では発酵後に(3S,5S)-6-ジンゲルジオール(6-ジンゲルジオール)が確認でき、前記の方法で、各6-ジンゲルジオールの発酵物中の濃度を算出して、発酵後の6-ジンゲルジオールの濃度を発酵前の6-ジンゲロールの濃度で割ることで、芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率を算出し、表3に記載した。
【0044】
実施例3-3の発酵前後のバニリン含有量を上記HPLC測定条件にて測定した。さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、発酵後に現れた新規ピークが確認でき、標品と比較することで、該物質はバニリルアルコールであることが明らかになった。バニリルアルコールの発酵物中の濃度を算出して、発酵後のバニリルアルコールの濃度を発酵前のバニリンの濃度で割ることで、芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率を算出し、表3に記載した。
【0045】
実施例3-4の発酵前後のラズベリーケトン含有量を上記HPLC測定条件にて測定した。さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、発酵後に現れた新規ピークが確認でき、標品と比較することで、該物質はロドデノールであることが明らかになった。ロドデノールの発酵物中の濃度を算出して、発酵後のロドデノールの濃度を発酵前のラズベリーケトンの濃度で割ることで、芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率を算出し、表3に記載した。
【0046】
実施例3-6の発酵前後の6-パラドール含有量を上記HPLC測定条件にて測定した。さらに、発酵前と発酵後のHPLCチャートを比較したところ、6-パラドール(リテンションタイム:33分付近)とは別に発酵後に現れた新規ピーク(リテンションタイム:29分付近)が確認でき、発酵により生成された物質と考えられたため、該物質をC18カラムで精製してLC/MS及びNMRで解析した結果、該物質は6-ジヒドロパラドールであることが明らかになった。精製して得た6-ジヒドロパラドールを標品とし、95%エタノールに溶解して、上記のHPLC測定条件にて測定することで検量線を作成し、HPLCのAREA値から発酵物中の濃度を算出して、発酵後の6-ジヒドロパラドールの濃度を発酵前の6-パラドールの濃度で割ることで、芳香族カルボニル化合物から芳香族アルコール化合物への変換率を算出し、表3に記載した。
【0047】
【表3】
【0048】
以上から、芳香族カルボニル化合物にラクトバチルス属に属する微生物を作用させることによって、芳香族アルコール化合物を生成できることが分かり、より簡便な芳香族アルコール化合物の製造方法が提供可能になった。
【実施例0049】
(抗酸化活性)
下記の各サンプルを80%アセトニトリルにて約2,000ppmに希釈した後、さらに、80%エタノールにて、適宜、約24ppm、18ppm、12ppm及び6ppmに希釈し、検体とした。各検体を、下記のDPPHラジカル消去活性の測定方法で測定し、抗酸化活性を評価した。
【0050】
<サンプル>
・バニリルアセトン(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度:>98.0%)
・6-ジンゲロール(富士フイルム和光純薬株式会社製、規格含量:98.0+%)
・6-ショウガオール(富士フイルム和光純薬株式会社製、局方生薬試験用)
・6-パラドール(Tronto Research Chemicals社製、標準品)
・Zingerol(実施例3-1で得られた化合物の下記精製方法による精製品)
・(3R,5S)-6-ジンゲルジオール(実施例1-1で得られた化合物の下記精製方法による精製品)
・(3S,5S)-6-ジンゲルジオール(実施例1-3で得られた化合物の下記精製方法による精製品)
・6-ジヒドロパラドール(実施例3-6で得られた化合物の下記精製方法による精製品)
【0051】
<精製方法>
(1)乳酸菌発酵物に酢酸エチルとNaClを加え、混合し、遠心分離する。
(2)酢酸エチル層を回収して濃縮し、アセトニトリルに溶解させ、精製に使用する。
(3)C18樹脂カラムに(2)を加え、適宜設定した濃度のアセトニトリル水溶液を流し、(2)中の成分を分離していく。
(4)(3)の間、一定時間おきにサンプリングを行って分取し、HPLCにて分析し、目的とする成分が検出されたサンプルを選抜する。
(5)選抜したサンプルを濃縮し、ジエチルエーテルにて回収後、ジエチルエーテルを揮発させ、精製品とする。
【0052】
<DPPHラジカル消去活性の測定方法>
参考文献(篠原ら編、食品機能研究法、光琳、2000年、p.218)を参照し、以下の通り測定した。
80%(w/v)エタノールにて適宜希釈した各検体50μLに、200mMの2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝液(200mM、pH6.0)50μL、20%エタノール50μL及び400μMの1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液50μLの混合液を添加して混和し、さらに20分間静置した後、マイクロプレートリーダーを用いて520nmにおける吸光度を測定した。
0~200μMのα-トコフェロール(和光純薬工業株式会社製)について同様の操作を行うことで検量線を作成し、得られた検量線をもとに、各検体1gあたりのラジカル消去活性をα-トコフェロール相当量(濃度)として算出した。
【0053】
各検体1gあたりのラジカル消去活性をα-トコフェロール相当量(濃度)として算出したところ、バニリルアセトンは4,073μmol/g、6-ジンゲロールは3,059μmol/g、6-ショウガオールは3,300μmol/g、6-パラドールは3,832μmol/g、Zingerolは4,706μmol/g、(3R,5S)-6-ジンゲルジオールは3,807μmol/g、(3S,5S)-6-ジンゲルジオールは3,689μmol/g、6-ジヒドロパラドールは3,825μmol/gと、何れも優れた抗酸化活性を示し、抗酸化剤として利用できることが分かった。
図1
図2