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特開2022-95541蓄電デバイス用外装材および蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095541
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用外装材および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/131 20210101AFI20220621BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20220621BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20220621BHJP
【FI】
H01M50/131
H01M50/105
H01M50/121
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186839
(22)【出願日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020208209
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 大介
(72)【発明者】
【氏名】南堀 勇二
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA01
5H011AA09
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD13
5H011KK00
(57)【要約】
【課題】加工性および突き刺し耐性に優れた蓄電デバイス用外装材を提供する。
【解決手段】本発明は、基材層51と、基材層51の内側に積層されたバリア層52と、バリア層52の内側に積層されたシーラント層53とを含む蓄電デバイス用外装材1を対象とする。基材層51は、ポリアミドフィルムによって構成される。基材層51は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率が共に2.0%~5.0%であり、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率間の差が1.5%以下であり、TDの弾性率およびMDの弾性率が共に1.5GPa~3GPaであり、TDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方が320MPa以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の内側に積層されたバリア層と、前記バリア層の内側に積層されたシーラント層とを含む蓄電デバイス用外装材であって、
前記基材層は、ポリアミドフィルムによって構成され、
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率が共に2.0%~5.0%であり、
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率間の差が1.5%以下であり、
前記基材層は、TDの弾性率およびMDの弾性率が共に1.5GPa~3GPaであり、
前記基材層は、TDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方が320MPa以上であることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【請求項2】
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率が共に2.5%~4.5である請求項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項3】
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率間の差が1.2%以下である請求項1または2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記基材層は、TDの弾性率およびMDの弾性率が共に2.0GPa~2.5GPaである請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
前記基材層は、TDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方が400MPa以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項6】
蓄電デバイス本体部と、
請求項1~5のいずれか1項に記載の外装材と、を備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装材で外装されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スマートフォン、タブレット型パーソナルコンピュータ(タブレットPC)等の携帯端末に使用される電池やコンデンサの他、ハイブリッド自動車、電気自動車等に使用される電池やコンデンサ等の蓄電デバイス用外装材および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスは、電気自動車、ハイブリッド自動車等の移動機器のエネルギー供給体や、電動工具や携帯端末等の携帯機器のエネルギー供給体として利用されている。このような蓄電デバイスは、移動や持ち運びを容易にするために、軽量化および小型化が求められている。そのため、蓄電デバイスのケーシングとして、従来、金属缶が主として用いられていたが、近年、基材層、バリア層(金属箔層)およびシーラント層の積層体を基本構成とする金属ラミネート材(外装材)が用いられることが多くなっている。
【0003】
このような移動型や持ち運び型等の非定置型の蓄電デバイスは、定置型とは異なり、振動や外圧等によって外装材が破損する可能性が高いため、外装材にも金属缶と同様な機械強度、特に突き刺し耐性が求められる。
【0004】
従来、外装材としては、バリア層にアルミニウム箔が用いられているが、通常のアルミニウムラミネート材では、十分な突き刺し耐性を得ることが困難であった。
【0005】
そこで下記特許文献1に示す蓄電デバイスにおいては、外装材として、バリア層が、アルミニウム箔よりも剛性が高いステンレス箔(SUS箔)によって形成された金属ラミネート材(ステンレスラミメート材)を用いることによって、突き刺し耐性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-161362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ステンレス箔は剛性が高いため、ステンレスラミネート材を蓄電デバイス用外装材として用いた場合、外装材の成形性(加工性)が悪くなり、寸法精度の低下や生産効率の低下を来すおそれがあった。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、成形性および突き刺し耐性に優れた蓄電デバイス用外装材および蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0010】
[1]基材層と、前記基材層の内側に積層されたバリア層と、前記バリア層の内側に積層されたシーラント層とを含む蓄電デバイス用外装材であって、
前記基材層は、ポリアミドフィルムによって構成され、
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率が共に2.0%~5.0%であり、
前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率間の差が1.5%以下であり、
前記基材層は、TDの弾性率およびMDの弾性率が共に1.5GPa~3GPaであり、
前記基材層は、TDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方が320MPa以上であることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【0011】
[2]前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率が共に2.5%~4.5である前項1に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0012】
[3]前記基材層は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率間の差が1.2%以下である前項1または2に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0013】
「4]前記基材層は、TDの弾性率およびMDの弾性率が共に2.0GPa~2.5GPaである前項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0014】
[5]前記基材層は、TDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方が400MPa以下である前項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0015】
[6]蓄電デバイス本体部と、
前項1~5のいずれか1項に記載の外装材と、を備え、
前記蓄電デバイス本体部が、前記外装材で外装されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0016】
発明[1]の蓄電デバイス用外装材によれば、外面側に配置される基材層を、特有のポリアミドフィルムによって構成しているため、適度な柔軟性を有し、所望の強度を維持することができる。さらに基材層は、MDおよびTD間の熱水収縮率の差が小さいため、外圧からの力を効率良く分散させることができる。その上さらに基材層は、所定の破断強度を備えているため、十分な強度を確実に維持することができる。従って本発明の蓄電デバイス用外装材は、成形性に優れ、かつ十分な突き刺し耐性を備えるものである。
【0017】
発明[2]~[5]の蓄電デバイス用外装材によれば、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【0018】
発明[6]の蓄電デバイスによれば、上記発明の外装材を用いて作製しているため、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1はこの発明の実施形態である蓄電デバイスを示す側面断面図である。
図2図2は実施形態の蓄電デバイスを分解して示す斜視図である。
図3図3は実施形態の蓄電デバイスの外装材を模式的に示す概略断面図である。
図4図4は樹脂フィルムのけるMDおよびTDを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1この発明の実施形態である蓄電デバイスを示す側面断面図、図2は実施形態の蓄電デバイスを分解して示す斜視図である。
【0021】
両図に示すように、本実施形態の蓄電デバイスは、外包体としてのケーシング(容器)11と、ケーシング11の内部に収容される電気化学素子等の蓄電デバイス本体10とを備えている。
【0022】
ケーシング11は、外装材1によって形成される平面視矩形状のトレイ部材2と、外装材1によって形成される平面視矩形状のカバー部材3とによって構成されている。
【0023】
トレイ部材2は、外装材1を深絞り成形等の手法を用いて成形した成形品によって構成されている。トレイ部材2は、外周縁部を除く中間領域全域が下方に凹陥形成されて、平面視矩形状の凹陥部21が形成されるとともに、凹陥部21の開口縁部外周に外方突出状のフランジ部22が一体に形成されている。
【0024】
またカバー部材3は、シート状に形成された外装材1によって構成されている。カバー部材3は、外周縁部がトレイ部材2のフランジ部22に対応するフランジ部32として構成されている。
【0025】
トレイ部材2およびカバー部材3としての外装材1は、柔軟性および可撓性を有するラミネートシートないしフィルムである外包ラミネートによって構成されている。
【0026】
また蓄電デバイス本体10は、特に限定されるものではないが、電池本体、キャパシタ本体、コンデンサ本体等を例示することができる。蓄電デバイス本体10は、トレイ部材2の凹陥部21に対応する形状に形成されている。
【0027】
そして後述するようにこの蓄電デバイス本体10が、凹陥部21内に収容された状態で、トレイ部材2に凹陥部21を被覆するようにカバー部材3が配置されて、トレイ部材2およびカバー部材3のフランジ部22,32同士が熱融着されることにより、本実施形態の蓄電デバイスが形成されている。
【0028】
なお図示は省略するが、タブリードの一端(内端)が蓄電デバイス本体10に接続されるとともに、他端(外端)が蓄電デバイスの外部に引き出された状態に配置されており、そのタブリードを介して蓄電デバイス本体10に対し電気の出し入れを行えるようになっている。
【0029】
図3は本実施形態において外装材1を構成する外包ラミネート材の基本構造を模式的に示す概略断面図である。同図に示すように本実施形態において用いられる外装材1(ラミネート材)は、基材層51と、基材層51の一面(内面)に接着剤層61を介して接着されるバリア層(金属箔層)52と、金属箔層52の一面(内面)に接着剤層62を介して接着されるシーラント層(熱融着性樹脂層)53とを備えている。
【0030】
本実施形態において基材層51は、ポリアミドフィルムによって構成されている。
【0031】
このポリアミドフィルムとしては、6ナイロン、6,6ナイロン、MXDナイロン等の2軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。本実施形態において2軸延伸フィルムの製法としては、同時延伸および逐次延伸を用いるのが好ましい。
【0032】
本実施形態において、基材層51は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率を共に1.52.0%~5.0%に調整する必要があり、好ましくは2.5%~4.5%に調整するのが良い。
【0033】
ここで図4に示すように「MD」とは、樹脂フィルムFの成形方向(樹脂の流れ方向)を言い、「TD」とは、MDに対し直交する方向を言う。
【0034】
さらに熱水収縮率とは、フィルム(測定対象物)を100℃の熱水中に5分間浸漬した際の浸漬前後における収縮方向(延伸方向)の寸法変化率である。例えば熱水浸漬前の収縮方向(MDまたはTD)の寸法を「X」とし、熱水浸漬後の収縮方向(MDまたはTD)の寸法を「Y」としたとき、収縮方向(MDまたはTD)の熱水収縮率(%)は、{(X-Y)/X}×100の関係式で求められる。
【0035】
なお本発明において、ポリアミドフィルムの特性値を示す「熱水収縮率」としては、熱水収縮率の平均値(平均熱水収縮率)を採用するのが好ましい。本発明において平均熱水収縮率とは、後にも説明するように測定対象となるシート(フィルム)の一方向に対し、両端部2点の熱水収縮率と中央部1点の熱水収縮率との3点の熱水収縮率の平均値である。もっとも本発明においてや蓄電デバイス本体10の大きさによっては、ポリアミドフィルムの特性値を示す「熱水収縮率」として、平均値ではない、ある特定の箇所で測定された熱水収縮率(基準位置の熱水吸収率)を採用することも可能である。
【0036】
本実施形態においてTDおよびMDの熱水収縮率が2.0%以上であるため、適度な柔軟性を備え、基材層51として、良好な成形性を確保することができる。また5.0%以下であるため、基材層51として、過度の柔軟性を回避できて、所望の強度を維持することができる。
【0037】
また本実施形態において、基材層51のMDの熱水収縮率およびTDの熱水収縮率間の差が1.5%以下に調整する必要があり、好ましくは1.2%以下に調整するのが良い。具体的には、MDの平均熱水収縮率を「MDz」、TDの熱水収縮率を「TDz」としたとき、|MDz-TDz|≦1.5%の関係式を成立させる必要があり、好ましくは|MDz-TDz|≦1.2%以下に調整するのが良い。
【0038】
すなわち本実施形態において、TDおよびMDの熱水収縮率の差が上記の特定範囲内に調整されているため、外圧からの力を効率良く分散させることが可能となり、基材層51として、所望の強度を確実に維持することができる。
【0039】
また本実施形態においては、基材層51のMDの弾性率およびTDの弾性率を共に1.5GPa~3GPaに調整する必要があり、好ましくは2.0GPa~2.5GPaに調整するのが良い。
【0040】
すなわちTDおよびMDの弾性率が上記の特定範囲内に調整されている場合、基材層51として、適度な柔軟性と強度をより確実に維持することができる。
【0041】
また本実施形態においては、基材層51におけるTDの破断強度およびMDの破断強度のうち少なくともいずれか一方を320MPa以上に調整する必要があり、好ましくは400MPa以下に調整するのが良い。
【0042】
すなわちTDおよびMDの破断強度が上記の特定範囲内に調整されている場合、基材層51として、所望の強度をより一層確実に得ることができる。
【0043】
このように基材層51に上記の特性を備えたポリアミドフィルムを採用することによって、成形性が良く、十分な突き刺し耐性に優れた外装材1を得ることができる。
【0044】
また本実施形態において、基材層51を構成するフィルムのポリアミド樹脂含有率を90wt%~100wt%に調整するのが良く、好ましくは95wt%~100wt%wt、より好ましくは98%~100wt%に調整するのが良い。
【0045】
また本実施形態において基材層51を構成するポリアミドフィルムとしてのナイロンの数平均分子量を15000~30000に調整するのが良く、より好ましくは20000~30000に調整するのが良く、特に20000~25000に調整するのが良い。
【0046】
すなわち基材層51としてのナイロンの数平均分子量が15000以上の場合、基材層51が破れ難くなり、さらに分子量が40000以下の場合、基材層51の柔軟性を維持できて、割れ難くなる。
【0047】
また本実施形態においては、基材層51としてのポリアミドフィルムの相対粘度を2.9~3.1に調整するのが好ましい。すなわち相対粘度が上記特定の範囲に調整されている場合には、基材層51として強度と柔軟性をより効果的に付与でき、外装材1として成形性が良く、突き刺し耐性が高いものを確実に得ることができる。
【0048】
ここで本実施形態においては、外装材1の突き刺し強度は、22N~30Nの範囲が好適であり、より好ましくは24N~30Nであり、より一層好ましくは26N~30Nである。
【0049】
また本実施形態においては、基材層51としての(ポリアミドフィルム)の厚さを9μm~25μmに調整するのが良く、より好ましくは12μm~25μmに調整するのが良く、より一層好ましくは17μm~23μmに調整するのが良い。なおポリアミドフィルムの厚み誤差は、1μm以内に調整するのが良い。
【0050】
ここで本実施形態のポリアミドフィルムにおける熱水収縮率の分布について説明する。まず正方形のポリアミドフィルムにおいて、縦方向(MD)の両辺および中心線の3箇所での熱水収縮率をMDの3点の定点熱水収縮率とし、横方向(TD)の両辺および中心線の3箇所での熱水収縮率をTDの3点の定点熱水収縮率としたとき、MDの3点の定点熱水吸収率とTDの3点の定点熱水吸収率との計6点の定点熱水収縮率のうち、最大の定点熱水収縮率と、最小の定点熱水収縮率との差が2.5以下に調整されたフィルムを用いるのが好ましい。
【0051】
なお上記MDの3点の定点熱水収縮率の平均値がMDの平均熱水収縮率に相当し、上記TDの3点の熱水収縮率の平均値がTDの平均熱水収縮率に相当する。
【0052】
ここで図4の破線で示す3つの領域は、ポリアミドフィルム(基材層51)のうちすべて同じサイズの正方形の領域であり、この正方形の領域が上記の熱水収縮率の分布条件を満足する場合には、基材層51の全域にわたって柔軟性の偏りが抑制されるため、外部応力が加わったとしても基材層51全体に分散されて破れ難くなり、強度を確実に向上させることができる。
【0053】
本実施形態において、基材層51は、ポリアミドフィルムによって形成するものであるが、その基材層51に他の層を積層しても良い。
【0054】
例えば基材層51に、二軸延伸ポリアミドフィルム(6ナイロン、6,6ナイロン、MXDナイロン等)、二軸延伸ポリエステルフィルム(ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)を積層するようにしても良い。
【0055】
なお基材層51は、シーラント層53を構成する全ての樹脂に対し10℃以上融点が高い樹脂を採用するのが良く、より好ましくは20℃以上高い樹脂を採用するのが良い。すなわちこの構成を採用する場合には、シーラント層53を熱融着する際に、基材層51に対し熱による悪影響を回避することができる。
【0056】
本実施形態において、基材層51のバリア層52との接着面には、易接着処理を施して易接着層を形成するのが好ましい。すなわち当該接着面に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタアクリル酸エステル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリエチレンイミン樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂の水性エマルジョン(水系エマルジョン)を塗布して乾燥させることによって易接着層を形成するものである。この易接着層の形成量は、0.01g/m~0.5g/mに設定するのが良い。
【0057】
このように基材層51に易接着処理を施すことによって、バリア層52との接着強度を十分に確保することができる。
【0058】
バリア層52は、アルミニウム箔、銅箔、ステンレス箔、チタン箔、ニッケル箔、クラッド材等の金属箔層によって構成するのが好ましい。
【0059】
バリア層52の厚みは、20μm~100μmに設定するのが良い。さらにバリア層52には、化成処理等の下地処理(表面処理)を施しておくことによって、バリア層52の腐食防止や、樹脂との接着性の向上等を図ることができる。
【0060】
シーラント層53としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂の無延伸フィルムを用いるのが好ましい。
【0061】
このシーラント層53の厚みは、20μm~100μmに設定するのが良い。
【0062】
また基材層51とバリア層52との間を接着するための接着剤層61としては、2液硬化型接着剤により形成された接着剤層を採用することができる。例えば、ポリウレタン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオールおよびポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液と、イソシアネートからなる第2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤等を好適に用いることができる。
【0063】
この接着剤層61の厚みは、2μm~5μmに設定するのが良い。
【0064】
またバリア層52とシーラント層53との間を接着するための接着剤層62としては、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー系樹脂、フッ素系樹脂、酸変性ポリプロピレン樹脂を1種以上含む接着剤等を用いるのが好ましく、特に、酸変性ポリオレフィンを主剤とするポリウレタン複合樹脂からなる接着剤を用いるのがより好ましい。
【0065】
この接着剤層62の厚みは、2μm~5μmに設定するのが良い。
【0066】
既述したように本実施形態においては、以上の構成の外装材1によってトレイ部材2およびカバー部材3が構成されている。
【0067】
なおトレイ部材2の凹陥部21を成形するに際して、成形品であるトレイ部材2の短辺方向が、外装材1の基材層としてのポリアミドフィルムにおける熱水収縮率が高い方と平行となるようにすると、良好な成形性を得ることができる。例えば外装材1の基材層におけるMDがTDよりも熱水収縮率が高い場合には、図2に示すようなトレイ部材2を成形するに際して、短辺方向Aと基材層のMDとを一致させ、長辺方向Bと基材層のTDを一致させるようにして、トレイ部材2を成形することにより、良好な成形性を得ることができる。
【0068】
本実施形態において、トレイ部材2、カバー部材3および蓄電デバイス本体10を組み付けるに際しては、トレイ部材2の凹陥部21内に蓄電デバイス本体10を収容した状態で、カバー部材3をトレイ部材2にその凹陥部21の開口を閉塞するように配置して、仮組状態の蓄電デバイス仮組品を製作する。
【0069】
この仮組品におけるトレイ部材2およびカバー部材3の互いのフランジ部22、32同士を挟み込みつつ加熱することによって、各フランジ部22,32の互いのシーラント層53同士を熱融着(熱接着)する。これによりトレイ部材2およびカバー部材3によるケーシング11内に蓄電デバイス本体10が封止された蓄電デバイスを製作するものである。
【0070】
この蓄電デバイスにおいては、ケーシング11における外装材1の外周面に配置される基材層51が、MDおよびTDの熱水収縮率および弾性率が特定範囲に設定されたポリアミドフィルムによって構成されているため、適度な柔軟性を有し、所望の強度を維持することができる。さらに基材層51は、MDおよびTD間の熱水収縮率の差が特定の範囲内に設定されているため、外圧からの力を効率良く分散させることができる。その上さらに基材層51は、所定の破断強度を備えているため、十分な強度を確実に維持することができる。従って本実施形態の蓄電デバイスにおける外装材1は、成形性が良くて寸法精度および寸法安定性に優れ、かつ、十分な突き刺し耐性を備えるものであるため、高品質の蓄電デバイスを提供することができる。
【0071】
また基材層51のバリア層52との接着面に易接着処理を行っているため、両層51,52間を十分な強度で接着できて、基材層51およびバリア層52の一体化が図られる。このため基材層51が安定した状態に配置されるため、成形性および突き刺し耐性をより向上させることができる。
【0072】
なお上記実施形態においては、カバー部材3として、シート状の外装材1を使用する場合について説明したが、それだけに限られず、本発明においては、カバー部材3に成形加工を施すようにしても良い。例えばカバー部材を、中央部が上方に凹陥形成(膨出形成)された断面ハット状の成形品によって構成し、そのハット状のカバー部材を、上記のようなトレイ部材にその上方から覆うように外周縁部を接合一体化するようにしても良い。さらに本発明においては、成形されていない2枚のシート状の外装材1を蓄電デバイス本体を挟み込むように重ね合わせて、その外周縁部を熱融着することによって、ケーシングを形成するようにしても良い。
【0073】
また上記実施形態においては、ケーシングを形成するのに、2枚の外装材(外包ラミネート材)を用いる場合を例に挙げて説明しているが、それだけに限られず、本発明において、ケーシングを形成する外装材の枚数は限定されず、1枚であっても、3枚以上であっても良い。
【0074】
また本実施形態においては、3層構造の外装材を用いるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、4層以上の構造の外装材を用いるようにしても良い。例えば、基材層とバリア層との間に他の層を介在させたり、バリア層とシーラント層との間に他の層を介在したりして、4層以上に構成するようにしても良い。
【実施例0075】
この実施例においては、本発明の要旨を含む実施例1~7の蓄電デバイス用外装材1と、本発明の要旨を逸脱する比較例1~3の蓄電デバイス用外装材1,2を作製し、各種の評価を行った。
【0076】
<実施例1>
バリア層52としての厚さ35μmのアルミニウム箔(JIS H4160で規定される合金番号A8079のアルミニウム箔)の両面に、ポリアクリル酸、三価クロム化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布し、150℃で乾燥を行うことによって、両面に化成皮膜を形成したアルミニウム箔を準備した。この化成皮膜によるクロム付着量は、片面で5mg/mであった。
【0077】
次に、上記化成処理済みアルミニウム箔(バリア層52)の一方の面(外面)に、2液硬化型のウレタン系接着剤(接着層61)を介して、基材層51として厚さ20μmの二軸延伸6ナイロン(ONy)フィルムをドライラミネートにより貼り合わせた。なおこのナイロンフィルムの詳細については後に説明する。
【0078】
次に、シーラント層53としての厚さ40μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを、2液硬化型のマレイン酸変性ポリプロピレン接着剤(接着剤層62)を介して、上記ドライラミネート後のアルミニウム箔(バリア層52)の他方の面(内面)に重ね合わせて、ゴムニップロールと、100℃に加熱されたラミネートロールとの間に挟み込んで圧着することによりドライラミネートした。その後、40℃で10日間エージング(加熱)することによって、蓄電デバイス用外装材1を得た。
【0079】
なお、基材層としての二軸延伸6ナイロンフィルムはTダイ法により押し出されたナイロンフィルムをテンター法によって延伸させた。さらにこの基材層としてのナイロンフィルムの両面には、コロナ処理を行った。さらに必要に応じてナイロンフィルムの一方の面(内面)にアクリル酸エステル樹脂とエポキシ樹脂を含む塗工液を塗布し乾燥させることで易接着層(0.05μm)を形成した(易接着処理)。易接着層を形成する場合、その易接着層が形成された側の面をバリア層52に貼り合わせるようにしている。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1の基材層としてのナイロンフィルムの特性を表1に示す。表1に示すように実施例1のナイロンフィルムは、TDの熱水収縮率が4.3%、MDの熱水収縮率が3.4%、TDおよびMD間の熱水収縮率の差(TD-MD)が0.9%であり、TDの弾性率が2.3GPa、MDの弾性率が2.5GPaであり、TDの破断強度が345MPa、MDの破断強度が282MPaであり、ポリアミドの数平均分子量が30000である。
【0082】
なお表1の備考欄には、ナイロンフィルムの厚さと、易接着層の有無を記載している。例えば実施例1において、「ONY20」は、ナイロンフィルムの厚みが20μmであることを示し、「易接着」は、易接着層が形成されていることを示している。
【0083】
ここで熱水収縮率は、ナイロンフィルムの試験片(1cm×1cm)を100℃の熱水中に5分間漬した際の浸漬前後の試験片の延伸方向(収縮方向)における寸法変化率であり、次式で求められる。
【0084】
熱水収縮率(%)={(X-Y)/X}×100
X:浸漬処理前の延伸方向(MDまたはTD)の寸法
Y:浸漬処理後の延伸方向(MDまたはTD)の寸法
なお本実施例では、1cm×1cmの試験片を用いて熱水収集率を測定するようにしているが、本発明において試験片の大きさは特に限定されるものではなく、例えば1cm~10cm×1cm~10cmの適宜の大きさの試験片を用いることができる。
【0085】
弾性率(ヤング率)は、コア材について、JIS K7127(1999)に準拠して、試料長さ100mm、試料幅15mm、評点間距離50mm、引張速度200mm/分の条件で、試料片(基材層用フィルムの試料片)を引張試験機で引張測定して得られた「応力-ひずみ曲線(SSカーブ)」からヤング率(単位:GPa)を算出した。前記応力-ひずみ曲線における「直線部分の接線の傾き」がヤング率である。引張試験機として島津製作所製の「ストログラフ(AGS-5kNX)」を使用した。上記「ヤング率」の語は、ASTM-D-882で定義されているヤング率と同義である。
【0086】
引張破断強度は、JIS K7127-1999の引張試験に準拠して、試料幅15mm、評点間距離100mm、引張速度100mm/分の条件で測定して得られた破断強度(単位:MPa)である。
【0087】
ポリアミドの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)で測定した。
【0088】
<実施例2~7>
表1の実施例2~7に示す特性を有するナイロンフィルムを準備した。そのナイロンフィルムを用いて、上記と同様に実施例2~7の外装材1を作製した。なお実施例6においては、表1の備考欄に示すように、易接着層が形成されず、かつ実施例3と同じ厚さのナイロンフィルムを用いた。
【0089】
<比較例1,2>
比較例1,2表1に示す特性を有するナイロンフィルムを準備した。そのナイロンフィルムを用いてそれ以外は、上記と同様に比較例1,2の外装材1を作製した。
【0090】
<成形性の評価>
実施例1~7および比較例1,2の外装材1に対し、株式会社アマダ製の深絞り成形具を用いて深絞り成形を行って、縦55mm×横35mmの大きさの平面視矩形状の凹陥部を形成した。そして得られた成形体におけるコーナー部のピンホールおよび割れの有無を確認することにより、このようなピンホールおよび割れが発生しない「最大成形深さ(mm)」を調べ、下記判定基準に基づいて評価した。なお、評価するに際してクラックやピンホールの有無は、暗室にて光透過法で調べた。以下に説明する評価基準の「◎」「○」「×」のうち、「◎」「〇」が合格、「×」が不合格である。
【0091】
◎:成形深さ7mm以上でクラックやピンホール無し
〇:成形深さ5mm以上、7mm未満でクラックやピンホール無し
×:成形深さ5mm未満でクラックやピンホール有り
こうして得られた成形性の評価結果を表1に示す。
【0092】
<突き刺し強さ試験(突き刺し耐性の評価)>
突き刺し強さは、JIS(日本産業規格) Z1707:2019に準拠して測定された値である。すなわち突き刺し強さ試験は、次の手順(1)~(3)によって測定したものである。
【0093】
(1)各実施例および各比較例の外装材1から得られた試験片をジグで固定し、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度50±5mm/minで突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)を測定する。
【0094】
(2)試験片の数は、各実施例および各比較例においてそれぞれ5個以上とし、試験片の全幅にわたって平均するように採取する。
【0095】
(3)フィルム(試験片)のいずれかの面から貫通するかによって、試験結果が依存する場合は、それぞれの面について実施する。報告数値は,小数点以下1桁とする。
【0096】
こうして得られた突き刺し強さ試験の結果を表1に示す。
【0097】
以上の評価結果から明らかなように、実施例の外装材は、成形性および突き刺し耐性のいずれにも優れた評価が得られた。これに対し比較例の外装材は、実施例の外装材に比べて、成形性および突き刺し耐性に劣っていた。
が判る。
【符号の説明】
【0098】
1:外装材
10:蓄電デバイス本体
51:基材層
52:バリア層
53:シーラント層
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
本実施形態において、基材層51は、TDの熱水収縮率およびMDの熱水収縮率を共に2.0%~5.0%に調整する必要があり、好ましくは2.5%~4.5%に調整するのが良い。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0097
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0097】
以上の評価結果から明らかなように、実施例の外装材は、成形性および突き刺し耐性のいずれにも優れた評価が得られた。これに対し比較例の外装材は、実施例の外装材に比べて、成形性および突き刺し耐性に劣っていた