(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095548
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用の伝達機構
(51)【国際特許分類】
G04B 5/14 20060101AFI20220621BHJP
【FI】
G04B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021195499
(22)【出願日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】01599/20
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(71)【出願人】
【識別番号】520032996
【氏名又は名称】マニュファクチュール ドルロジュリー オーデマ ピゲ エスアー
【氏名又は名称原語表記】Manufacture d’Horlogerie Audemars Piguet SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225543
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 真
(72)【発明者】
【氏名】ニコロ ロブスキ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来の変換機構と比較して、より小型で微妙に単純化された代替構造を有する時計伝達機構を提案する。
【解決手段】時計の伝達機構1は、駆動ホイールの動きに応答して第1の回転軸の周りを枢動するように構成された駆動板と、可撓性部分を有し、駆動ホイールが第1の変位方向に変位するときに従動ホイールを駆動するように構成された出力ホイール4と協働するように配置される一方向伝達機構を支持するリンク機構2と、を有する伝達ホイールを備える。リンク機構は、駆動板に固定されかつ駆動ホイールの動きに応答して第1の固定回転軸の周りで回転運動するように配置される基部と、基部から延在しかつ第1のアーム8の遠位端で一方向伝達機構を支持する第1のアームを備える。可撓性部分は、第1のアームに配置される。
【選択図】
図3a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメントの駆動ホイールの動きを従動ホイールに伝達するための伝達機構(1)であって、
前記駆動ホイールに運動学的にリンクすること、及び前記駆動ホイールの前記動きに応答して第1の固定回転軸の周りを枢動するように構成された駆動板(40)と、可撓性部分(36)を有し、前記従動ホイールにリンクするように構成される出力ホイール(4)の駆動面と協働して前記駆動ホイールが第1の変位方向に変位するときに前記駆動面を駆動するように配置される一方向伝達機構(18、20)を支持するリンク機構(2)と、を有する伝達ホイールを備え、
前記リンク機構(2)が、前記駆動板(40)に固定されかつ前記駆動ホイールの動きに応答して前記第1の固定回転軸の周りで回転運動するように配置される基部(6)を備えること、及び
前記リンク機構(2)が、前記基部(6)から延在しかつ第1のアーム(8、10)の遠位端に前記一方向伝達機構(18、20)を支持する前記第1のアーム(8、10)を備え、前記可撓性部分(36)が、前記第1のアーム(8、10)に配置されること、
を特徴とする、伝達機構(1)。
【請求項2】
前記第1のアーム(8、10)は、少なくとも1つの追加の可撓性部分(36)を支持することを特徴とする、請求項1に記載の伝達機構(1)。
【請求項3】
前記出力ホイール(4)は、第2の固定回転軸(30)の周りを枢動するように構成され、前記第1のアーム(8、10)の前記遠位端は、前記出力ホイール(4)に対して回転自在でありながら前記第2の固定回転軸(30)の周りを枢動するように配置される径方向ガイドアーム(26、28)に固定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の伝達機構(1)。
【請求項4】
前記一方向伝達機構(18、20)は、第3の可動回転軸(22、24)の周りを前記遠位端に対して枢動できるように前記遠位端に配置され、前記出力ホイール(4)の前記駆動面とオーバーセンター関係を有するように配置される接触面を支持し、これにより、
前記接触面は、前記径方向ガイドアーム(26、28)と前記出力ホイール(4)の間の第1の相対回転方向に前記駆動面を駆動し、また
前記接触面は、前記径方向ガイドアーム(26、28)と前記出力ホイール(4)の間の相対回転方向とは逆方向に前記駆動面を駆動することなく、変位する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の伝達機構(1)。
【請求項5】
前記第1のアーム(8、10)又は前記径方向ガイドアーム(26、28)は、前記一方向伝達機構(18、20)に作用するようにかつ前記一方向伝達機構(18、20)を予め画定された休止位置に配置する傾向があるように配置される弾性復帰機構(32)を支持することを特徴とする、請求項4に記載の伝達機構(1)。
【請求項6】
前記リンク機構(2)は、前記第1のアーム(8、10)と同様の構造特性を有しかつ追加の一方向伝達機構(18、20)を支持する第2のアーム(8、10)を支持し、前記追加の一方向伝達機構(18、20)は、前記駆動ホイールが前記第1の変位方向とは反対側の第2の変位方向に変位するときに前記出力ホイール(4)の前記駆動面を駆動するように配置されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか一項に記載の伝達機構。
【請求項7】
前記第1のアーム(8、10)及び前記第2のアーム(8、10)は、互いに対して70°~110°の角度だけ傾斜するそれぞれの全体的な方向に延在することを特徴とする、請求項6に記載の伝達機構。
【請求項8】
前記時計ムーブメントのフレーム要素に対して枢動できるように前記フレーム要素に取り付けられるように構成されかつ前記駆動板(40)との運動学的リンクを有する、巻き上げ錘を備えることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の伝達機構(1)を備える自動巻き機構。
【請求項9】
前記巻き上げ錘は、低振幅、好ましくは20度未満、より好ましくは10度未満の振動運動を示すように配置されることを特徴とする、請求項8に記載の自動巻き機構。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の伝達機構(1)を備える、時計ムーブメント。
【請求項11】
前記出力ホイール(4)は、弾性的な力学的エネルギー蓄積機構に蓄勢できるように、前記弾性的な力学的エネルギー蓄積機構の端部との運動学的リンクを有する駆動歯車(44)を備える、請求項8又は9に記載の自動巻き機構を備える時計ムーブメント。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の時計ムーブメントを備える、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントの駆動ホイールの動きを従動ホイールに伝達するように構成された時計ムーブメント用の伝達機構に関し、特に、駆動ホイールに運動学的にリンクすること、及び駆動ホイールの動きに応答して第1の固定回転軸の周りを枢動するように構成された駆動板と、可撓性部分を有し、従動ホイールにリンクするように構成された出力ホイールの駆動面と協働して駆動ホイールが第1の変位方向に変位するときに駆動面を駆動するように配置される一方向伝達機構を支持するリンク機構と、を有する伝達ホイールを備える伝達機構に関する。
【0002】
好ましい実施形態によれば、本発明は、このタイプの伝達機構であって、巻き上げ錘(winding mass)と力学的エネルギー蓄積デバイスとの間にリンクを作る伝達機構を備える自動巻き機構に関する。
【0003】
また、本発明は、このような伝達機構を有する時計ムーブメント及びこのような時計ムーブメントを備える時計に関する。
【背景技術】
【0004】
このタイプの時計機構は、従来技術で、特に自動巻き機構に関して、既に知られている。
【0005】
したがって、例えば、特許文献1(欧州特許第3203326号明細書)は、上記の特徴に当てはまる伝達機構を例示及び記載している。より具体的には、この伝達機構は、巻き上げ錘の双方向回転運動を、バレルスプリングを確実に巻き上げることを可能にする一方向運動に変換するように構成されている。この目的のために、この機構は、巻き上げ錘のある方向又は他の方向への動きによって駆動されるように構成された第1の回転ホイールを備える。この第1のホイールは伝達ディスクを支持する。当該伝達ディスクは、第1のホイールの回転軸に対して中心がずれており、円形並進運動によって伝達機構を駆動するように構成される。伝達機構は、クラッチ機構と協働して、バレルスプリングを確実に蓄勢する。当該クラッチ機構は、バレルスプリングの端部にリンクするように構成された出力ホイールが一方向回転駆動できるように配置される。この目的のために、伝達機構は、クラッチ機構とのオーバーセンターリンクを有することができる2つの駆動面を支持し、各駆動面は、所与の回転方向に関連する。巻き上げ錘の各回転方向に対して、駆動面は、伝達機構の円形並進運動によって、クラッチ機構に接近しまたクラッチ機構から離れるように、往復運動で交互に動かされる。したがって、駆動面は、クラッチ機講と交互に協働して、クラッチ機構を全く同じ回転方向に回転駆動する。
【0006】
このような構造は、駆動面の軌道がクラッチ機構の目標とするオーバーセンターリンクを効果的に得ることを確実にできるようにするために、製造に及び関係する様々な構成要素の位置合わせに、高い精度を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主目的の1つは、上記の変換機構と比較して、より小型で微妙に単純化された代替構造を有する時計伝達機構を提案することである。
【0009】
この目的のために、本発明は、より詳細には、上記のタイプの伝達機構であって、リンク機構が、駆動板に固定されかつ駆動ホイールの動きに応答して第1の固定回転軸の周りで回転運動を示すように配置される基部を備えること、及び、リンク機構が、基部から延在しかつ第1のアームの遠位端に一方向伝達機構を支持する第1のアームを備え、可撓性部分が、アームに配置されること、を特徴とする伝達機構に関する。
【0010】
これらの特徴によって、単純な回転運動に従ってリンク機構を駆動しながら、一方向伝達機構により出力ホイールの一方向駆動を良好に実施することを確実にするように、リンク機構のアームを、アームの可撓性部分も含めて成形及び寸法決めすることができる。
【0011】
好ましくは、アームは少なくとも1つの追加の可撓性部分を支持する。
【0012】
この特徴は、この機構の製造者に、アームの形状の選択に関してより大きな自由度を提供する。
【0013】
一般に、出力ホイールが第2の固定回転軸の周りを枢動する構成とされている場合、アームの遠位端は、出力ホイールに対して回転自在でありながら第2の固定回転軸の周りを枢動するように配置される径方向ガイドアームに固定される構成とすることも可能である。
【0014】
この場合、一方向伝達機構は、第3の可動回転軸の周りを遠位端に対して枢動できるように遠位端に配置され、出力ホイールの駆動面とオーバーセンター関係を有するように配置される接触面を支持し、その結果、接触面は、径方向ガイドアームと出力ホイールの間の第1の相対回転方向に駆動面を駆動し、接触面は、径方向ガイドアームと出力ホイールの間の相対回転方向とは逆方向に駆動面を駆動することなく変位する構成とすることも可能である。
【0015】
次いで、有利には、一方向伝達機構に作用するようにかつ一方向伝達機構を予め画定された休止位置に配置する傾向があるように配置される弾性復帰機構を支持する、リンク機構のアーム又は径方向ガイドアームを設けることが可能である。
【0016】
一般に、リンク機構は、第1のアームと同様の構造特性を有しかつ追加の一方向伝達機構を支持する第2のアームを支持し、第2のアームは、駆動ホイールが第1の変位方向とは逆方向の第2の変位方向に変位するときに出力ホイールの駆動面を駆動するように配置されることができる。
【0017】
少なくとも1つの可撓性部分を支持するアームが各一方向伝達機構に関連すると仮定した場合、このような構造は、構成要素の製造及び配置の観点から、上述の先行技術の機構よりも制限が少ない。
【0018】
この場合、有利には、第1のアーム及び第2のアームは、互いに対して70°~110°の角度だけ傾斜するそれぞれの全体的な方向に延在することが可能である。
【0019】
好ましい変形実施形態によれば、本発明は、上記の特徴に完全に又は部分的に適合する伝達機構を備え、並びに時計ムーブメントのフレーム要素に対して枢動できるようにフレーム要素に取り付けられるように構成され、かつ、駆動板との運動学的リンクを有する巻き上げ錘を備える、自動巻き機構に関する。
【0020】
この場合、好ましくは、巻き上げ錘は、低振幅の、好ましくは20°未満、より好ましくは10°未満の振動運動を示すように配置されることが可能である。
【0021】
本発明は一般に、伝達機構が自動巻き機構に組み込まれているか否かにかかわらず、上記の特徴に適合する伝達機構を備える時計ムーブメント、及びそのような時計ムーブメントを備える時計に関する。
【0022】
本発明の他の特徴及び利点は、非限定的な例として与えられる添付の図面を参照して与えられる、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことによって、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による伝達機構の一部の模式図であり、伝達機構の一般的な動作原理を説明するものである。
【
図2】本発明の好ましい実施形態による伝達機構の一部を簡略化して第1の面側から示す斜視図である。
【
図3a】時計回り方向に回転駆動される場合の
図2の伝達機構を第2の面側から示す正面図である。
【
図3b】反時計回り方向に回転駆動される場合の
図2の伝達機構を示す、
図3aと同様な正面図である
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の詳細な説明では、例示的かつ非限定的な例として、本発明の好ましい実施形態による時計伝達機構を提示及び記載する。より具体的には、例示及び記載されている実施形態によれば、伝達機構は、時計の自動巻き機構に組み込まれるように構成されているが、当業者であれば、特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、他のタイプの時計機構に関して本発明による伝達機構を実施できることは、明らかである。
【0025】
図1は、本発明による伝達機構1の一部の模式図であり、伝達機構の一般的な動作原理を説明するものである。
【0026】
概して、本発明による伝達機構1は、駆動ホイール(図示されず)の双方向回転運動を、従動ホイールの一方向回転運動に変換するように構成されている。この目的のために、伝達機構1は特にリンク機構2を備える。リンク機構2は、駆動ホイールの動きによって双方向に回転駆動されること、及び一方向回転運動に従って出力ホイール4を駆動するように構成されている。
【0027】
本発明による伝達機構1が自動巻き機構に組み込まれる場合、有利には、一方向回転運動が力学的エネルギー蓄積機構に伝達されて、力学的エネルギーで、典型的にはバレルスプリング(図示されず)で蓄勢される前に、巻き上げ錘(図示されず)の双方向回転運動を一方向回転運動に変換するように、伝達機構1を配置することができる。
【0028】
図1の模式図に戻ると、リンク機構1が基部6を備え、基部6が、時計ムーブメントのフレーム要素の周りを回転するように取り付けられるように構成されているのは、明らかである。
【0029】
基部6は2つのアーム8、10を支持する。アーム8、10は、互いに対して傾斜する全体的な方向に、出力ホイール4の円周部付近の領域に向かって延在する。自動巻き機構の場合、出力ホイール4は、力学的エネルギー蓄積機構に運動学的にリンクするように構成されている。
【0030】
各アーム8、10は、その遠位端に支持体14、16を備え、支持体14、16には、一般的な円形ホイール形状を有する一方向伝達機構18、20が、回転軸22、24の周りを回転するように取り付けられる。最後に、本例示的実施形態では、各支持体14、16を出力ホイール4の回転軸30にリンクさせるために、したがって、対応する回転軸22、24を回転軸30から一定の距離に維持するために、径方向ガイドアーム26、28が設けられる。
【0031】
各回転軸22、24は、出力ホイール4の回転軸30と、対応する一方向伝達機構及び出力ホイール4の接点と、を通過する半径に対して、わずかにずれていることが分かる。さらに、好ましくは、各回転軸22、24は、対応する一方向伝達機構の円周部に対して、中心がわずかにずれている。この円周部は出力ホイール4との接触面を画定する。
【0032】
したがって、
図1に示される構成から出発すると、一方向伝達機構18が時計回り回転方向に枢動する場合、一方向伝達機構18が、出力ホイール4の回転軸30と、一方向伝達機構18及び出力ホイール4の接点と、を通過する半径を超えて次第により大きくなる半径を示すようになることは明らかである。このような状態は、
図1で見て、リンク機構2が時計回り方向に回転する場合に発生する。
【0033】
一方向伝達機構18の回転軸22と出力ホイール4の円周部との間の距離が一定に保たれる場合、一定時間後、すなわち、一方向伝達機構18の回転軸22と、出力ホイール4の円周部と一方向伝達機構18の接点と、の間に位置する一方向伝達機構18の半径が、一方向伝達機構18の自由な枢動を妨げるのに十分大きくなった時、一方向伝達機構18が枢動することで、出力ホイール4とのオーバーセンターリンクを引き起こす。その瞬間から、リンク機構2がそれ以降同じ回転方向(
図1で見て時計回り)に回転すると、出力ホイール4と一方向伝達機構18の間で生じる著しい摩擦によって、出力ホイール4も同じ回転方向に回転駆動し、一方向伝達機構18は、その部分のせいで、もはや一方向伝達機構18の回転軸22の周りを枢動できない
【0034】
逆に、
図1で見て、リンク機構2が反時計回り方向に回転する場合、一方向伝達機構18も反時計回り方向に回転する。このような動きに従うことによって、一方向伝達機構18の回転軸22と、出力ホイール4の円周部と一方向伝達機構18の接点と、の間に位置する一方向伝達機構18の半径は、小さくなる傾向がある。よって、一方向伝達機構18は、(やはりオーバーセンターリンク状態にある場合、)出力ホイール4に対して自由に回転することができる。したがって、リンク機構2が反時計回り回転方向に枢動する場合、一方向伝達機構18は、出力ホイール4を回転駆動しない。
【0035】
図1から明らかなように、他方の一方向伝達機構20は、一方向伝達機構18と同様の方法で、一方向伝達機構20の支持体16に取り付けられる。しかしながら、アーム8及び10は、リンク機構2の中心と出力ホイール4の中心を通過する直線の両側に延在する。このため、リンク機構2の所与の回転方向に対して、2つの一方向伝達機構18及び20は、出力ホイール4の円周部と協働して、それぞれ反対の回転方向に枢動する。その結果、一方向伝達機構18、20はそれぞれ、リンク機構2の所与の回転方向に関連し、このリンク機構において出力ホイール4とのオーバーセンターリンクを有し、出力ホイール4を回転駆動する。
【0036】
図1に示す構成では、リンク機構2が時計回り方向に回転すると、それにより一方向伝達機構18は同じ方向に回転駆動し、これによって、一方向伝達機構18は出力ホイール4とのオーバーセンターリンク状態に置かれる傾向になり、出力ホイール4は時計回り回転方向に駆動する。同時に、一方向伝達機構20は、出力ホイール4の周辺部に何らの特別な作用を及ぼすことなく、反時計回り方向に自由に回転する。
【0037】
逆に、リンク機構2が反時計回り方向に回転すると、一方向伝達機構18は、出力ホイール4に対して同じ方向に自由に回転駆動する。同時に、一方向伝達機構20は時計回り方向に回転し、これによって、一方向伝達機構20は出力ホイール4とのオーバーセンターリンク状態に置かれる傾向になり、出力ホイールは時計回り回転方向に駆動する。
【0038】
従って、リンク機構2の回転がどのような方向であっても、一方向伝達機構18、20は交互に、出力ホイール4を全く同じ方向に確実に駆動する。
【0039】
好ましくは、戻しばね32が、各一方向伝達機構18、20と関連し、各一方向伝達機構に固定されるピン34と協働することによって、各一方向伝達機構の向きが出力ホイール4とのオーバーセンター相互作用が起こる向きから遠くに離れるすぎることを妨げ、したがって、特にリンク機構2の駆動方向が変化する際に、本発明による伝達機構の応答性がより大きいことを確実にすることに留意されたい。
【0040】
明らかに、上記の動作原理は、単一の一方向伝達機構を支持する単一のアームで実施することができる。この場合、伝達機構が例えば自動巻き機構に組み込まれる場合、巻き上げ錘のある回転方向のみが、力学的エネルギー蓄積機構の蓄勢に寄与するであろう。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、しかし非限定的な方法では、アーム8、10はそれぞれ、リンク機構2の基部6に固定されるアームの近位端と、対応する支持体14、16を備えるアームの遠位端との間に、2つの可撓性部分36を有する。可撓性部分36は、リンク機構2が回転駆動するときにアーム8、10を変形可能とすると共に、対応する一方向伝達機構18、20を適切に誘導することを確実にするように構成されている。
【0042】
当業者であれば、特定の必要性に応じてアームの形状を適合させることに、特に、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から決して逸脱することなく、アームの可撓性部分の数を変更することに、特段の困難を有しないであろう。
【0043】
伝達機構が2つのアーム8、10を備える場合、アームは、有利にはアーム間で70~110度程度の角度を有することができる。しかし、当業者が、アームを製造するために最終的に保持される形状に応じて、またアームが含む可撓性部分の数に応じて、この表示値を適応させることができることは、明らかである。その点では、2つのアームが必ずしも同数の可撓性部分を備えていないことにも留意されたい。
【0044】
図2は、本発明の好ましい実施形態による伝達機構1の一部を簡略化して第1の面側から示す斜視図であり、特定の構造の詳細をより良く理解可能とするものである。さらに、
図3a及び
図3bは、それぞれ異なる二つの操作段階における
図2の伝達機構1を第2の面側から示す正面図である。
【0045】
非限定的な例として示されているこの実施形態によれば、リンク機構2は駆動板40と関連する。駆動板40は、歯を有し、かつ回転するように基部6に固定され、伝達ホイールを画定する。駆動板40は、基部6を確実に駆動するために、したがってアーム8、10を確実に駆動するために、駆動板40の歯を介して、駆動ホイールとの運動学的リンクを有すること、例えば巻き上げ錘を有することが想定される。
【0046】
あるいは、駆動板40は、もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、基部6と一体で製造することができ、及び/又は駆動ホイールとの他のリンク手段を有することができる。実際、本発明の範囲から決して逸脱することなく、リンク機構2と駆動ホイールの間の他のリンク手段を実施することができる。
【0047】
出力ホイール4は、第1の従動ホイール42の円周部によって画定される駆動面を有する。当該駆動面は、摩擦によって一方向伝達機構48、50の円周接触面と協働するように配置され、かつ駆動歯車44に固定される。駆動歯車44は、従動ホイール(図示されず)との運動学的リンクを有すること、例えばバレルスプリングの巻き上げラチェットを有することが想定される。したがって、一方向伝達機構48、50は、駆動歯車44が従動歯車を全く同じ方向に回転駆動できるように、かつ駆動歯車44が駆動ホイールの回転方向にかかわらず同様に回転駆動できるように、第1の従動ホイール42を単一の回転方向に駆動するように構成されている。あるいは、従動ホイールを、出力ホイール4によって直接駆動することもできる。
【0048】
ここで、一方向伝達機構48、50は、
図1に示すものとは異なる形状を有することに留意されたい。実際、これらの機構はそれぞれ、その正中面に対してわずかに非対称なパッドの形状をとる。
図3a及び3bを精査すれば、各パッドは、その正中面の左側が右側よりもわずかに大きい半径を有することが明らかである。
【0049】
駆動板40は、中間リンクホイール52と係合するように配置される。中間リンクホイール52は、駆動ホイールによって回転駆動されることが想定される。
図2、
図3a及び
図3bに示す実施形態によれば、非限定的な方法では、駆動ホイールは、平衡位置付近で微小振動を行うように設けられ、その結果、中間リンクホイール52は、駆動されてリンク機構2と同様に往復運動を示す。
【0050】
図3aは、中間リンクホイール52が時計回り方向に回転駆動される場合の伝達機構1の動作を示す。次いで、リンク機構2は、反時計回り方向に回転駆動され、アーム8、10の遠位端は、リンク機構2の基部6から離れるように移動する。この場合、
図3aで見ると、一方向伝達機構50は、第1の従動ホイール42と協働して時計回り回転方向に枢動するが、機構48は、反時計回り回転方向に枢動する。機構50は、この場合、第1の従動ホイール42の方向に対する半径を示し、当該半径は大きくなっているが、機構48は、この同じホイール42の方向に対する半径を示し、当該半径は小さくなっている。その結果、機構50は、第1の従動ホイール42とオーバーセンター関係になるが、機構48は、この同じホイール42に作用することなく、回転自在である。このことは、矢印Hで示すように、
図3aで見て第1の従動ホイール42の時計回り回転方向への駆動によって反映されている。
【0051】
図3bは、中間リンクホイール52が反時計回り方向に回転駆動される場合の伝達機構1の動作を示す。次いで、リンク機構2は、時計回り方向に回転駆動され、アーム8、10の遠位端は、リンク機構2の基部6に近づくように移動する。この場合、
図3bで見ると、一方向伝達機構50は、第1の従動ホイール42と協働して反時計回り回転方向に枢動するが、機構48は、時計回り回転方向に枢動する。機構48は、この場合、第1の従動ホイール42の方向に対する半径を示し、当該半径は大きくなっているが、機構50は、この同じホイール42の方向に対する半径を示し、当該半径は小さくなっている。その結果、機構48は、第1の従動ホイール42とオーバーセンター関係になるが、機構50は、この同じホイール42に作用することなく、回転自在である。このことは、矢印Hで示すように、
図3bで見て第1の従動ホイール42の時計回り回転方向への駆動によって再び反映されている。
【0052】
すでに説明したように、回転方向の各変化に対して、第1の従動ホイール42とオーバーセンター関係にある一方向伝達機構48、50は、一方向伝達機構48、50が第1の従動ホイール42と相互作用せずに枢動することを可能にする小さくなる半径を示して、この状態から迅速に離れる。逆に、他方の一方向伝達機構は、第1の従動ホイール42に、大きくなる半径を迅速に示して、第1の従動ホイール42とオーバーセンター関係になる。
【0053】
上述した特徴によって、単純で、正確でかつ信頼できる構造及び組立モードを示す一方向変換をすると共に、駆動ホイールと従動ホイールの間で回転運動を伝達するための時計機構が取得される。さらに、この機構は、上記の従来の解決策よりも少ない摩擦で動作し、したがって優れた効率を提供する。
【0054】
本発明の実施は、図示及び記載された機構の様々な構成要素の正確な幾何学的形状に限定されない。実際、当業者であれば、アームの可撓性部分の数及び配置等の特定の必要性に適したリンク機構の複数のアームを実施することによって、又は一方向伝達機構の形状若しくは一方向伝達機構を伝達機構内に配列する方法さえも実施することによって、本発明の特徴に適合する伝達機構の実施に本教示を適合させることに、特段の困難を有しないであろう。
【0055】
既に上述したように、このような伝達機構は、巻き上げ錘の双方向運動を力学的エネルギー蓄積機構に伝達する自動巻き機構に組み込むのに完全に適しているが、当該伝達機構を、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の他のタイプの適切な時計システムに関して実施することができるであろう。この場合、有利には、小型の自動巻き機構の組立てに有利になるように、巻き上げ錘を、低振幅、好ましくは20度未満、より好ましくは10度未満の振動運動を示すように配置できることに留意されたい。
【外国語明細書】