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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095564
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】感熱発色樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/337 20060101AFI20220621BHJP
   B41M 5/28 20060101ALI20220621BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20220621BHJP
   B41M 5/41 20060101ALI20220621BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20220621BHJP
   B41M 5/42 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B41M5/337 212
B41M5/28 220
B41M5/40 212
B41M5/41 200
B41M5/44 220
B41M5/42 210
B41M5/337 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201667
(22)【出願日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020208314
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000225267
【氏名又は名称】内外カーボンインキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥之
(72)【発明者】
【氏名】内田 大規
【テーマコード(参考)】
2H026
【Fターム(参考)】
2H026AA07
2H026BB02
2H026BB21
2H026CC07
2H026DD45
2H026DD48
2H026DD53
2H026DD56
2H026EE05
2H026FF03
2H026FF15
(57)【要約】
【課題】
本発明は、透明樹脂フィルムの間に、感熱発色インク層を形成し、長期保存が可能な感熱発色樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】
本発明は、2枚の樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を有する感熱発色樹脂フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムの一方が、3~12μmの厚さを有する薄膜透明樹脂フィルムであり、他方が25~120μmの厚さを有する厚膜樹脂フィルムであり、
前記感熱発色インク層がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成されたロイコ染料層と、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成された顕色剤層と、の2層からなる、
感熱発色樹脂フィルムを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の透明樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を有する感熱発色樹脂フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムの一方が、3~12μmの厚さを有する薄膜透明樹脂フィルムであり、他方が25~120μmの厚さを有する厚膜透明樹脂フィルムであり、
前記感熱発色インク層がロイコ染料層と顕色剤層との互いに接触する2層からなり、
前記ロイコ染料層がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成され、
前記顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成される、
感熱発色樹脂フィルム。
【請求項2】
透明樹脂フィルムが、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである、請求項1記載の感熱発色樹脂フィルム。
【請求項3】
炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤が、メチルシクロヘキサンである、請求項1または2記載の感熱発色樹脂フィルム。
【請求項4】
感熱発色樹脂フィルムが、厚膜透明樹脂フィルム側から顕色剤層、ロイコ染料層および薄膜透明樹脂フィルムの順に積層され、
前記厚膜透明樹脂フィルムと前記顕色剤層との間に、接着剤層が存在する、
請求項1~3のいずれか1項に記載する感熱発色樹脂フィルム。
【請求項5】
感熱発色樹脂フィルムが、厚膜透明樹脂フィルム側からロイコ染料層、顕色剤層および薄膜透明樹脂フィルムの順に積層され、
前記厚膜透明樹脂フィルムと前記ロイコ染料層との間に、接着剤層が存在し、
前記顕色剤層と前記薄膜透明樹脂フィルムとの間に、ウレタン樹脂層が存在する、
請求項1~3のいずれか1項に記載する感熱発色樹脂フィルム。
【請求項6】
前記顕色剤層が、第1の顕色剤層と第2の顕色剤層との互いに接触する2層からなり、
前記第1の顕色剤層が、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、
前記第2の顕色剤層が、顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、前記環状アルキル以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択される有機溶剤であり、
前記第1の顕色剤層が前記ロイコ染料層と接触し、前記第2の顕色剤層が前記ロイコ染料層と反対側に存在する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の感熱発色樹脂フィルム。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、ロジンエステルまたはスチレンブタジエンブロックコポリマーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の感熱発色樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱発色樹脂フィルム、特に2枚の透明樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を有する感熱発色樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
感熱発色紙は、コンビニやスーパーのレジなどで使用されていて、紙基材の上にロイコ染料と顕色剤の両方を水に分散した状態でロイコ染料と顕色剤とが接触しないようにして、塗布し乾燥することにより得られている。この場合、熱が掛けられると、ロイコ染料と顕色剤が結合して発色する。しかし、感熱紙の場合、ちょっとした衝撃で発色したり、保存時に発色したりして、長期保存がきかない。
【0003】
紙ではなく、樹脂フィルムを用いることで保存期間を長期化する性能を向上させることも考えられる。しかし、通常用いる感熱発色層の塗料は、溶媒が水で、ロイコ染料と顕色剤が含まれているものを用いる。このような塗料を樹脂フィルムに塗工すると、水の染み込みが無いので、溶媒(水)の乾燥に長時間を要する。溶媒を有機溶剤を主体にするものに変更すると、ロイコ染料と顕色剤とが溶解し接触して発色してしまい感熱発色層として使用できない。
【0004】
特開平8-039939号公報(特許文献1)には、感熱発色フィルムが提案されていて、160℃~250℃の融点範囲を有する水に溶解性の無いフェノール系化合物を顕色剤とするものが提案されている。しかし、この文献で使用できるのは、特定のフェノール系化合物に限られていて、設計の自由度が少なく、汎用性に欠ける。
【0005】
特開2017-47634号公報(特許文献2)には、基材紙の一方の表面上に、感熱発色層、接着層、透明樹脂フィルム層および耐熱層が順次積層された構成を有する感熱紙が記載されているが、この構成では透明樹脂フィルムが片面にあるだけで、紙を基材とするものであり、両面を樹脂フィルムとしたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-039939号公報
【特許文献2】特開2017-47634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、透明樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を形成し、長期保存が可能な感熱発色樹脂フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
2枚の透明樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を有する感熱発色樹脂フィルムであって、
前記透明樹脂フィルムの一方が、3~12μmの厚さを有する薄膜透明樹脂フィルムであり、他方が25~120μmの厚さを有する厚膜透明樹脂フィルムであり、
前記感熱発色インク層がロイコ染料層と顕色剤層との互いに接触する2層からなり、
前記ロイコ染料層がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成され、
前記顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成される、
感熱発色樹脂フィルム。
[2]
透明樹脂フィルムが、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである、[1]記載の感熱発色樹脂フィルム。
[3]
炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤が、メチルシクロヘキサンである、請求項1または2記載の感熱発色樹脂フィルム。
[4]
感熱発色樹脂フィルムが、厚膜透明樹脂フィルム側から顕色剤層、ロイコ染料層および薄膜透明樹脂フィルムの順に積層され、
前記厚膜透明樹脂フィルムと前記顕色剤層との間に、接着剤層が存在する、[1]~[3]のいずれかに記載する感熱発色樹脂フィルム。
[5]
感熱発色樹脂フィルムが、厚膜透明樹脂フィルム側からロイコ染料層、顕色剤層および薄膜透明樹脂フィルムの順に積層され、
前記厚膜透明樹脂フィルムと前記ロイコ染料層との間に、接着剤層が存在し、
前記顕色剤層と前記薄膜透明樹脂フィルムとの間に、ウレタン樹脂層が存在する、
[1]~[3]のいずれかに記載する感熱発色樹脂フィルム。
[6]
前記顕色剤層が、第1の顕色剤層と第2の顕色剤層との互いに接触する2層からなり、
前記第1の顕色剤層が、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、
前記第2の顕色剤層が、顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、前記環状アルキル以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択される有機溶剤であり、
前記第1の顕色剤層が前記ロイコ染料層と接触し、前記第2の顕色剤層が前記ロイコ染料層と反対側に存在する、
ことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の感熱発色樹脂フィルム。
[9]
前記バインダー樹脂が、ロジンエステルまたはスチレンブタジエンブロックコポリマーである、[1]~[6]のいずれかに記載の感熱発色樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、2枚の透明樹脂フィルムの間に、感熱発色インクを挟んだものが得られる。従って、感熱発色インクが透明またはそれに近い色の場合、紙とは異なり、透明な自立したフィルムが得られ、それに熱を掛けると熱が掛かった部分が発色することになり、透明なところに絵や文字が浮かび上がるものが得られる。従来の感熱紙の用途に比べて、自立した透明樹脂フィルを発色させるような、いろいろな用途に利用できる可能性がある。また、この感熱発色樹脂フィルムの後ろに、色がある基材(例えば、色紙)を持ってくれば、色がついている基材に、熱により絵や文字が形成できるので、これも基材の色と発色部分を合わせれば、インパクトのある宣伝等への利用も広がる。従って、本発明の感熱発色樹脂フィルムは、これまで感熱紙が利用されていたレジの打ち出しだけではなく、その他の広い用途に利用できるものであり、種々の用途が開けていくものと考える。
【0010】
本発明の感熱発色樹脂フィルムは、感熱発色インク層が透明樹脂フィルムの間にあり、感熱発色インク層が直接衝撃を受けることはなく、衝撃による発色などの不要な発色が起こりにくい。また、透明樹脂フィルムが保護層の役割を果たすので、感熱発色インク層が保護された形になり、インク層の剥がれや欠損なども殆ど起こらない。更に、透明樹脂フィルムは、片方がもう一方に比べて薄膜であり、薄膜側から熱を照射すると、有効に発色して画像を形成できる。
【0011】
また、本発明では、感熱発色インク層が、ロイコ染料層と顕色剤層との互いに接触する2層からなり、前記ロイコ染料層がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成され、前記顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成される、ことを特徴とする。このように特定の溶剤、即ち炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤を使用することで、ロイコ染料も顕色剤も溶解されにくくなり、不要な発色(例えば、いわゆる「かぶり」)を防止することができる。
【0012】
更に、本発明では、感熱発色樹脂フィルムの透明性を確保するために、顕色剤層を第1の顕色剤層と第2の顕色剤層との互いに接触する2層にし、前記第1の顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、前記第2の顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤を含有する顕色剤組成物から形成されるものであり、前記環状アルキル以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択される有機溶剤であるものから形成する。環状アルキル溶剤を用いる顕色剤層(即ち、第1の顕色剤層)だけの場合、顕色剤が層の中に分散状態で存在しているのが原因と思われるが、若干白色を帯びている傾向にあるので、それを防止するために通常の溶剤で溶解した第2の顕色剤層をロイコ染料層に接触しないように設けると、感熱発色樹脂フィルムの透明性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の感熱発色樹脂フィルムの1態様の模式的断面図である。
図2】本発明の感熱発色樹脂フィルムの顕色剤層が2層である場合における第1の顕色剤層、第2の顕色剤層およびロイコ染料層を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の感熱発色樹脂フィルムは、前述のように、2枚の透明樹脂フィルムの間に感熱発色インク層を有するものであって、前記透明樹脂フィルムの一方が、3~12μmの厚さを有する薄膜透明樹脂フィルムであり、他方が25~120μmの厚さを有する厚膜透明樹脂フィルムであり、前記感熱発色インク層がロイコ染料層と顕色剤層との互いに接触する二相からなり、ロイコ染料層がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成され、顕色剤層が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成される、ことを特徴としている。
【0015】
更に、必要に応じて、特に感熱発色樹脂フィルムに透明性が必要な時には、顕色剤層を第1の顕色剤層と第2の顕色剤層との互いに接触する2層にして、それぞれの組成を以下:
(a)第1の顕色剤層:顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するもの;
(b)第2の顕色剤層:顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤を含有するものであり、前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択するもの。
そして、更に、第1の顕色剤層がロイコ染料層と接触し、第2の顕色剤層は、前記のロイコ染料層に接触しないようにする、ことを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の感熱発色樹脂フィルムの1態様の模式的断面図を示す。図1において、1は厚膜透明樹脂フィルムであり、2は薄膜透明樹脂フィルムである。厚膜透明樹脂フィルム1と薄膜透明樹脂フィルム2の間に、厚膜透明樹脂フィルム1側から順に、接着剤層3、顕色剤層4、ロイコ染料層5が存在し、ロイコ染料層5が薄膜透明樹脂フィルム2に接している。薄膜透明樹脂フィルム2の外側(ロイコ染料層5と接していない表面)には、耐熱層6が存在する。本発明では、透明樹脂フィルム1および2、顕色剤層4、ロイコ染料層5が、必須の構成であり、接着剤層3および耐熱層6は必要に応じて形成される層である。また、顕色剤層4およびロイコ染料層5が感熱発色インク層Aを形成する。図1では、顕色剤層4が厚膜透明樹脂フィルム1側にあり、ロイコ染料層5が薄膜透明樹脂フィルム2側にあるが、この順序が逆であっても問題はない。
【0017】
図2は、本発明の感熱発色樹脂フィルムの顕色剤層4が互いに接触する2層である場合における第1の顕色剤層(4-1)、第2の顕色剤層(4-2)およびロイコ染料層5を示す模式的断面図である。第1の顕色剤層(4-1)は、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する層であり、第2の顕色剤層(4-2)は、顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤からなり、前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択するものである層である。要するに、第1の顕色剤層(4-1)と、第2の顕色剤層(4-2)とでは、使用する溶媒が異なるものである。このように顕色剤層を2層にする場合、ロイコ染料層と接触するのは、第1の顕色剤層(溶剤が炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤である層)であり、第2の顕色剤層はロイコ染料層と反対側に存在する。
以下、図面ごとに、各層について説明する。
【0018】
図1の態様の各層の説明>
[透明樹脂フィルム]
本発明では、2枚の透明樹脂フィルム(厚膜透明樹脂フィルム1および薄膜透明樹脂フィルム2)の間に感熱発色インク層Aを有するものである。透明樹脂フィルムとして、透明である樹脂フィルムを用いることができる。なお本明細書において「透明である」とは、感熱発色インク層に印字された画像の視認性を妨げることない程度に、可視光線が透過する状態を意味し、いわゆる半透明という概念も包含する。透明樹脂フィルムとして、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、アクリルフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。本発明では、透明樹脂フィルムとして、PETフィルムが好ましく用いられる。
【0019】
本発明では、透明樹脂フィルムは、一方が、3~12μmの厚さを有する薄膜透明樹脂フィルム2であり、他方が25~120μmの厚さを有する厚膜透明樹脂フィルム1である。このような厚さの違いがあるのは、感熱発色インク層Aを発色させるために熱を掛ける必要があるが、短時間に感熱発色インク層に達する必要があるため、熱をかける側の透明樹脂フィルムを薄く、3~12μmにし、薄膜透明樹脂フィルムとした。薄膜透明樹脂フィルムが3μmより薄いと、フィルムとして取り扱いが難しくなる。12μmより厚くてもよいが、厚くなれば感熱発色インク層を発色させるのに十分な熱量を付与することが難しくなる。薄膜透明樹脂フィルムの厚さは、好ましくは4~11μm、より好ましくは4.5~10μmである。一方、厚膜透明樹脂フィルムは、25~120μmの厚さが必要であり、好ましくは30~100μm、より好ましくは50~75μmである。25μmより薄いと、得られた感熱発色樹脂フィルムの強度や自立性がなくなり、逆に120μmより厚くても問題は無いが、費用がかさむのでむだになる。
【0020】
[感熱発色インク層A]
上記2枚の透明樹脂フィルム(1および2)の間には、感熱発色インク層Aが形成されるが、感熱発色インク層Aは、ロイコ染料層5と顕色剤層4との互いに接触する2層からなり、前記ロイコ染料層5がロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有するロイコ染料組成物から形成され、前記顕色剤層4が顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含有する顕色剤組成物から形成されるものを使用する。感熱発色インク層のいずれも、必要に応じて、その他の成分などを含んでもよい。
【0021】
ロイコ染料層5を形成するロイコ染料組成物には、ロイコ染料、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含む。ロイコ染料層は、ロイコ染料組成物を塗工して乾燥することにより形成されるので、炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤は乾燥で揮散するので、殆ど含まれていない。
【0022】
本発明のロイコ染料層で用いるロイコ染料としては、感熱紙の分野において通常用いられるものを用いることができる。ロイコ染料として、例えば、3-ジエチルアミノ-7-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-ベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチルアニリノ)-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチルシクロヘキシルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ピロリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ピペリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-p-トルイジノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、ベンゾ-β-ナフトスピロピラン、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトンなどが挙げられる。これらのロイコ染料は、1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0023】
ロイコ染料層中に含まれるロイコ染料の量(乾燥後の量)は、用いるロイコ染料の種類および色相に応じて適宜選択することができる。ロイコ染料の量は、感熱発色インク層の質量に対して、一般に50~70質量%含まれるのが好ましく、より好ましくは60~65である。50質量%より少ないと、ロイコ染料による発色が不十分になる。逆に、70質量%より多い場合は、発色に大きな変化がなく、塗膜性能が悪くなる。
【0024】
ロイコ染料層は、バインダー樹脂を含んでいる。バインダー樹脂は、ロイコ染料をロイコ染料層内に保持するために用いられる。バインダー樹脂は、顕色剤層にも含まれる。これらの層に用いられるバインダー樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール、デンプンおよびその誘導体、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ロジンエステル、テルペン樹脂、アクリルアミド/アクリル酸エステル共重合体、アクリルアミド/アクリル酸エステル/メタクリル酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリアクリルアミド、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カゼイン等の水溶性高分子、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体などのエマルジョン類、スチレン/ブタジエン共重合体などのラテックス類などが挙げられる。
【0025】
ロイコ染料層中に含まれるバインダー樹脂の量(乾燥後の量)は、ロイコ染料層の質量に対して、一般に10~50質量%含まれるのが好ましい。10質量%より少ないと、ロイコ染料をロイコ染料層内に保持できなくなる。逆に、50質量%より多い場合は、ロイコ染料と顕色剤との熱による反応が起こりにくくなり、発色感度が減少する。バインダー樹脂の量は、好ましくは25~40質量%、より好ましくは25~35質量%である。
【0026】
ロイコ染料層を形成するために用いられるロイコ染料組成物中に含まれる炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤は、顕色剤層にも含まれる。本発明では、この環状アルキル溶剤が、ロイコ染料および顕色剤のいずれも溶解しないものであり、両方の層が混ざったりロイコ染料と顕色剤とが反応したりしなくなるので、ロイコ染料層と顕色剤層とに分離したうえで、炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤を使用することで、無用な発色(いわゆる、かぶり)が発生しない。
【0027】
炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤は、具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンまたはシクロオクタンが炭素数1~3のアルキル基(具体的には、メタン、エタン、プロパン)で置換されたもので、より具体的にはメチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロヘプタン、メチルシクロオクタン、エチルシクロペンタン、エチルシクロヘキサン、エチルシクロペンタン、エチルシクロオクタン、プロピルシクロペンタン、プロピルシクロヘキサン、プロピルシクロペンタンおよびプロピルシクロオクタンが挙げられる。好ましい環状アルキル溶剤は、メチルシクロヘキサンである。環状アルキル溶剤は、ロイコ染料組成物中に50~80質量%、好ましくは50~75質量%、より好ましくは60~75質量%の量で含まれる。50質量%より少ないと、固形分が高くなり過ぎで、粘度が高くなる。80質量%より多いと、粘度が不足して塗装が困難になる。
【0028】
顕色剤層4には、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含む。顕色剤として、感熱紙の分野において通常用いられるものを用いることができる。顕色剤層に用いる顕色剤として、例えば、フェノール性化合物、チオフェノール性化合物、チオ尿素誘導体、有機酸およびこれらの金属塩などの電子受容性化合物を用いることができる。顕色剤として用いることができる化合物の具体例として、例えば、4,4’-イソプロピリデンビスフェノール、3,4’-イソプロピリデンビスフェノール、4,4’-イソプロピリデンビス(o-メチルフェノール)、4,4’-sec-ブチリデンビスフェノール、4,4’-イソプロピリデンビス(o-t-ブチルフェノール)、4,4’-シクロヘキシリデンジフェノール、4,4’-イソプロピリデンビス(2-クロロフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tブチルフェノール-2-メチル)フェノール、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)ブタン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-2-メチル)フェノール、4,2’-ジフェノールスルホン、4-イソプロポキシ-4’-ヒドロキシジフェニルスルホン、4-ベンジロキシ-4’-ヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジフェノールスルホキシド、p-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、p-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、プロトカテキュ酸ベンジル、没食子酸ステアリル、没食子酸ラウリル、没食子酸オクチル、1,7-ビス(4-ヒドロキシフェニルチオ)-3,5-ジオキサヘプタン、1,5-ビス(4-ヒドロキシフェニルチオ)-3-オキサペンタン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニルチオ)-プロパン、N,N’-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジ(m-クロロフェニル)チオ尿素、サリチルアニリド、5-クロロ-サリチルアニリド、サリチル-o-クロロアニリド、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、チオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体、2-アセチルオキシ-3-ナフトエ酸の亜鉛塩、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ヒドロキシナフトエ酸の亜鉛、アルミニウム、カルシウム等の金属塩、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸メチルエステル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸ベンジルエステル、4-{β-(P-メトキシフェノキシ)エトキシ}サリチル酸、1,3-ビス(4-ヒドロキシクミル)ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシクミル)ベンゼンなどが挙げられる。これらの顕色剤は1種のみを用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0029】
顕色剤層中に含まれる顕色剤の量は、ロイコ染料層に含まれるロイコ染料1質量部に対して、顕色剤が1~10質量部となる量であるのが好ましく、1~6質量部となる量であるのがより好ましい。1質量部より少ないと、顕色効果が不足し、10質量部より多くても増加量に比例して顕色効果が増加しない。顕色剤層中の顕色剤の量(乾燥後の量)は、55~70質量%、好ましくは60~70質量%、より好ましくは60~65質量%である。顕色剤層中にも前述の炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤を含む。それらは既にロイコ染料層の説明で例示したものと同じであり、顕色剤層中の使用量も、ロイコ染料層で使用した量と同じである。
【0030】
顕色剤層に含まれるバインダー樹脂は、ロイコ染料層で説明したものと同じであり、ロイコ染料層で使用したものと同じもの、または異なったものを使用してもよい。
【0031】
炭素数1~3のアルキル基で置換された炭素数5~8の環状アルキル溶剤は、ロイコ染料層で説明したものと同じであり、ロイコ染料層で使用したもの同じもの、または異なったものを使用してもよい。環状アルキル溶剤は、ロイコ染料層で説明したように、顕色剤層が乾燥した場合には、殆ど含まれていない。
【0032】
感熱発色インキ層を構成するロイコ染料層または顕色剤層に必要に応じて含まれてもよい他の成分として、例えば増感剤が挙げられる。増感剤の具体例として、例えば、テレフタル酸エステル、テレフェニル、トリベンジルアミン、ベンジルマンデン酸、パラベンジルビフェニル、アジピン酸ジ-o-クロルベンジル、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ-p-クロルベンジル、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、1,2-ジ-(3-メチルフェノキシ)エタンなどが挙げられる。増感剤を用いる場合は、通常用いられる量範囲で用いることができる。増感剤は、ロイコ染料層または顕色剤層中に10~50質量%(乾燥後の量)、好ましくは20~40質量%、より好ましくは20~30質量%の量で配合される。増感剤が20質量%より少ないと、増感剤の機能を果たすことができず、50質量%より多くても添加量の増加に応じた効果の増加が見られず、逆に塗膜性能を悪化させる。
【0033】
増感剤以外のその他の成分として、例えば、界面活性剤、ワックス類(例えば、ステアリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、オレイン酸アマイド、ラウリン酸アマイド、エチレンビスステアロアマイド、メチレンビスステアロアマイド、メチロールステアロアマイドなど)、分散剤(例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなど)、消泡剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、アクリル酸エステル系の各種の消泡剤など)、顔料(例えば、カオリン、焼成カオリン、タルク、ロウ石、ケイソウ土、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシア、酸化チタン、炭酸バリウムなど)が挙げられる。これらの成分は、必要に応じて用いることができる。これらの成分は、ロイコ染料層または顕色剤層中に、10~50質量%(乾燥後の量)、好ましくは10~30質量%、より好ましくは10~20質量%の量で配合される。これらの成分が10質量%より少ないと、添加剤の機能を果たすことができず、50質量%より多くても添加量の増加に応じた効果の増加が見られず、逆に塗膜性能を悪化させる。
【0034】
感熱発色インク層Aは、媒体中に、上記成分を、攪拌機などを用いて分散させて調製した組成物を、2枚の透明樹脂フィルム(1および2)の間に形成される。通常、まず、厚膜透明樹脂フィルム1の上に接着剤層3を形成する。次に、薄膜透明樹脂フィルム2の上に、ロイコ染料層5および顕色剤層4を順に形成し、その上に接着剤層3を形成した厚膜透明樹脂フィルム1を、顕色剤層4と接着剤層3とが接するように付着して、本発明の感熱発色樹脂フィルムを形成する。薄膜透明樹脂フィルム2の上(ロイコ染料層の無い表面)には、薄膜透明樹脂フィルムの側から熱が付与されて感熱発色インク層が発色するのであるから、耐熱層6が形成されるのが好ましい。耐熱層6は、予め薄膜透明樹脂フィルム2の感熱発色インク層Aが無い表面に形成しておいてもよい。ロイコ染料層5と顕色剤層4との順序は、図1とは逆で接着剤層3に接してロイコ染料層5を形成し、その上に顕色剤層4を形成しても良い。
【0035】
[接着層および耐熱層]
接着層3は、エチレン酢酸ビニル共重合体およびポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1種またはそれ以上の樹脂成分を含む。この接着層は、樹脂成分および有機溶媒を含む接着層形成組成物を、厚膜透明樹脂フィルム1上に塗布することによって、形成することができる。
【0036】
接着層に含まれる樹脂成分として用いることができるエチレン酢酸ビニル共重合体は、数平均分子量が1000~300000であるのが好ましい。数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0037】
エチレン酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が、10~50質量%の範囲内であるのが好ましい。酢酸ビニル含有量は、JIS K7192(1999)に準拠して求めることができる。
【0038】
上記エチレン酢酸ビニル共重合体は市販品であってもよい。市販品として、例えば、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のエバフレックス(商標)シリーズ(例えば、EV45X、EV45LX、EV40W、EV40LX、V5772ETR、V5773W、EV150、EV205WR、EV210、EV220、EV220ETR、EV250、EV260、EV310、EV360、V577、EV410、EV420、EV45
0、EV460、EV550、EV560、P1207など)などが挙げられる。エチレン酢酸ビニル共重合体は、軟化温度が40℃以上であるのが好ましい。軟化温度が40℃以上であることによって、得られる感熱紙の保存性が良好となるなどの利点がある。
【0039】
接着層に含まれる樹脂成分として用いることができるポリオレフィン樹脂として、例えば、ポリプロピレン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。上記ポリオレフィン樹脂は市販品であってもよい。市販品として、例えば、クラリアントジャパン社製のポリプロピレン樹脂である、リコセン(商標)PP1302、PP1502、PP1602など、日本製紙社製の変性ポリオレフィン樹脂である、アウローレン(商標)シリーズ(例えば100S、150S、200S、250S、350S、351S、353S、359S)などが挙げられる。
【0040】
上記樹脂成分は、ガラス転移点が40℃以下であるのが好ましい。樹脂成分のガラス転移点が40℃以下であることによって、積層工程において透明樹脂フィルムを良好に積層することができる。
【0041】
接着層の形成に用いられる接着層形成組成物は、上記樹脂成分に加えて、有機溶媒を含むのが好ましい。接着層形成組成物に含まれる有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチルエーテル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ペンチル、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、トルエン、キシレンからなる群から選択される1種またはそれ以上が挙げられる。
【0042】
接着層形成組成物は、必要に応じて、有機粒状物(例えば樹脂微粒子)または無機顔料(例えば、シリカ、カオリン、焼成カオリン、タルク、ロウ石、ケイソウ土、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシア、酸化チタン、炭酸バリウム)などの粒状物を含んでもよい。粒状物が含まれることによって、次の積層工程において、しわなどの不具合の発生を防ぎ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、上記接着層形成組成物は、感熱発色インク層との接触による発色または感熱発色インク層の減感をもたらす成分を含まないか、または、このような成分を含む場合であっても、不具合が生じる量未満であるのが好ましい。
【0043】
接着層形成組成物を、透明樹脂フィルムに塗装する方法として、当分野において通常用いられる方法を任意に用いることができる。塗装方法の具体例として、例えばバーコーターまたはグラビアコーターなどを用いた塗装方法が挙げられる。接着層形成組成物を、例えば乾燥質量1~5g/mとなる量で塗装するのが好ましい。塗装量が1g/m未満である場合は、透明樹脂フィルムを良好に積層することができないおそれがある。また塗装量が5g/mを超える場合は、接着層の厚みが増すこととなり、感熱発色インク層の感度低下が生じるおそれがある。
【0044】
接着層形成組成物を塗装した後、乾燥させるのが好ましい。塗装後に乾燥させることによって、有機溶媒の少なくとも一部を取り除くことができる。有機溶媒を取り除くことによって、組成物中に含まれる有機溶媒が感熱発色インク層に対して作用してしまい、感熱処理前に発色してしまう不具合の発生を防ぐことができる。塗装後の乾燥条件として、例えば80~120℃で1秒~600秒間乾燥する態様が挙げられる。
【0045】
本発明において、薄膜透明樹脂フィルム2の上(ロイコ染料層の無い表面)に形成され得る耐熱層6は、シリコーン樹脂または-Si-O-Si-結合を有する加水分解物を含むのが好ましい。シリコーン樹脂として、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、コーティングなどの分野において一般的に用いられているものを用いることができる。
【0046】
シリコーン樹脂を含む耐熱層を設ける方法として、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂などのシリコーン樹脂、そして必要に応じた硬化剤、有機溶媒などを含む組成物(耐熱層形成組成物)を塗装することによって、耐熱層を設ける方法が挙げられる。
【0047】
シリコーン変性アクリル樹脂として、例えば、シリコーンモノマーおよび/またはシリコーンマクロモノマーとアクリルモノマーとの共重合体が挙げられる。シリコーン変性アクリル樹脂は、市販品を用いてもよい。市販品として、東亞合成社製のサイマック(商標)シリーズ(例えば、US-120、US-270、US-350、US-352、US-380、US-450、US-480、GS-30、GS-101、GS-3000など)などが挙げられる。シリコーン変性ウレタン樹脂として、例えば、シリコーンモノマーおよび/またはシリコーン(マクロ)モノマーとウレタンモノマーおよび/またはウレタンオリゴマーとの共重合体が挙げられる。シリコーン変性ウレタン樹脂は、市販品を用いてもよい。市販品として、大日精化工業社製のダイアロマー(商標)シリーズ(例えば、SP-2105、SP-3035など)などが挙げられる。これらのシリコーン樹脂を用いる場合の含有量は、耐熱層形成組成物100質量部に対して1~40質量部含まれるのが好ましく、5~30質量部含まれるのがより好ましい。
【0048】
硬化剤として、例えば、ポリイソシアネート、ポリアミドなどが挙げられる。ポリイソシアネートとして、例えば、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチル-2,6-ジイソシアネートヘキサノエート、ノルボルナンジイソシアネートなどのジイソシアネート、および、上記ジイソシアネートのイソシアヌレート変性物、上記ジイソシアネートモノマーのアダクト変性物、上記ジイソシアネートモノマーのビウレット変性物、並びに、2-イソシアネートエチル-2,6-ジイソシアネートカプロエート、トリアミノノナントリイソシアネートなどのイソシアネートプレポリマーなどが挙げられる。また、これらのポリイソシアネートのブロック化物を用いることもできる。ポリアミドとして、例えばメラミン樹脂などが挙げられる。これらの硬化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。硬化剤を用いる場合における含有量は、通常用いられる範囲でよく、例えばシリコーン樹脂100質量部に対して1~40質量部の範囲で用いることができる。
【0049】
有機溶媒として、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソなどの芳香族系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-エチルヘキサノールなどのアルコール系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。有機溶媒を用いる場合における含有量は、塗装条件などに従い特に限定されることなく選択することができる。
【0050】
上記のような組成物を、薄膜透明樹脂フィルムの表面上に塗装することによって、耐熱層を有する薄膜透明樹脂フィルムを得ることができる。耐熱層形成組成物の塗装方法は、当分野において通常用いられる方法を任意に用いることができる。塗装方法の具体例として、例えばグラビアコーターまたはバーコーターなどを用いた塗装方法が挙げられる。耐熱層の形成においては、上記耐熱層形成組成物を、例えば乾燥質量0.05~0.5g/mとなる量で塗装するのが好ましい。0.05g/m未満である場合は、得られた感熱紙をサーマルヘッドプリンターに走行させる際に、スティッキングなどの不具合が発生するおそれがある。一方で、0.5g/mを超える場合は、サーマルヘッドプリンター走行時において、ヘッドカスとして付着し、印字不良を引き起こすおそれがある。
【0051】
[積層工程]
上記接着層形成工程で得られた厚膜透明樹脂フィルムの接着層と、薄膜透明樹脂フィルムの感熱発色インク層の顕色剤層側とを接触させ積層させることによって、本発明の感熱発色樹脂フィルムが得られる(積層工程)。この積層工程においては、例えば40~80℃、より好ましくは40~70℃、特に好ましくは40~65℃で、厚膜透明樹脂フィルムの接着層と、薄膜透明樹脂フィルムの感熱発色インク層の顕色剤層側とを接触させ積層させるのが好ましい。この積層工程における温度は、感熱発色インク層の熱発色が生じない範囲であることを条件とする。
【0052】
この積層工程においては、通常用いられるラミネート装置などを用いて行うことができる。こうして感熱発色樹脂フィルムを製造することができる。
【0053】
図2の態様の説明>
本発明では、顕色剤層4を2層にして、第1の顕色剤層4-1および第2の顕色剤層4-2にすることも可能である。顕色剤層4を2層にするのは、感熱発色樹脂フィルムの透明性が必要な時に、2層にして透明性をより高めることができる。本発明は、顕色剤層4やロイコ染料層5の溶剤を、炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤(以下、「環状アルキル溶剤」と呼ぶこともある。)にして、ロイコ染料も顕色剤を溶解状態ではない分散に近い状態にして、不要な発色(例えば、いわゆる「かぶり」)を防止しているのであるが、使用する材料や混合状態などにより、透明性が不足することがある。そのような場合(より透明性が必要な場合)には、顕色剤層4を以下の2層:
(a)第1の顕色剤層4-1が、顕色剤、バインダー樹脂および炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤(即ち、環状アルキル溶剤)を含有する顕色剤組成物から形成され、
(b)第2の顕色剤層4-2が、顕色剤、バインダー樹脂および前記環状アルキル溶剤以外の有機溶剤を含有する顕色剤組成物から形成され、その環状アルキル以外の有機溶剤が芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択されるものを使用する。
ようにして、更に第1の顕色剤層4-1がロイコ染料層5と接触し、第2の顕色剤層4-2がロイコ染料層5と反対側に存在する、ようにすると得られた感熱発色樹脂フィルムの透明性が確保できる。この透明性が高められた感熱発色樹脂フィルムも本発明の1態様とすることができる。前述のように、図1では、ロイコ染料層5と顕色剤層4の順序に図1でどちらが下層に来ても構わないので、この顕色剤層4を第1の顕色剤層4-1および第2の顕色剤層4-2にする場合も、ロイコ染料層5との接触する側が第1の顕色剤層4-1であるようにすれば、図1と同じく積層順序は図の上下のどちらであってもよい。
【0054】
第2の顕色剤層4-2に使用する環状アルキル溶剤以外の有機溶剤は、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、セロソルブ系溶剤、アルコール系溶剤およびそれらの混合物からなる群から選択される。それらの有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ソルベッソなどの芳香族系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-エチルヘキサノールなどのアルコール系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。有機溶媒を用いる場合における含有量は、塗装条件などに従い特に限定されることなく選択することができる。これらの溶剤の使用量等は、顕色剤層4の説明で説明した内容と同じで良い。
【0055】
図2の2層の顕色剤層4-1および4-2を図1に適用する場合、図1の下から厚膜透明樹脂フィルム1⇒接着剤層3⇒ロイコ染料層5⇒第1の顕色剤層4-1⇒第2の顕色剤層4-2⇒薄膜透明樹脂フィルム2の順番に層を形成する場合は、第2の顕色剤層4-2と薄膜透明樹脂フィルム2の間に、ウレタン樹脂層を形成すると、より接着性およびなじみ性がよくなる。図1の態様の顕色剤層4が1層の態様でも薄膜透明樹脂フィルム2と接触する時には、ウレタン樹脂層を形成しても良い。
【0056】
ウレタン樹脂層は、特に薄膜透明樹脂フィルムとの接着性を改善する場合に形成されるものあり、前述の接着剤層と機能は類似するが使用される樹脂は異なる。ウレタン樹脂層は、市販のものを使用することができ、例えば三洋化成(株)から市販のサンプレンIB-465、IB-2000や東洋紡(株)から市販のバイロンUR-1350、UR-1400、UR-8700等が挙げられる。ウレタン樹脂層は、これらの市販品を塗工することにより形成され、膜厚は0.1~1.0μm、好ましくは0.3~0.8μm、より好ましくは0.4~0.6μmである。0.1μmより薄くなると、接着力が不足する。
【0057】
[感熱発色樹脂フィルム]
本発明の感熱発色樹脂フィルムは、2枚の透明樹脂フィルムの間に、感熱発色インク層を挟んだものが得られる。この感熱発色樹脂フィルムは、透明または半透明の樹脂フィルの形態で存在し、その樹脂フィルムに熱をかけると、文字や絵が描けるものとなる。しかも、表示された文字や絵は、透明な樹脂フィルムに挟まれた形態であるので、表面を簡単に指で擦った程度では文字や絵が消えたり、破損したりすることはない。従って、本発明の感熱発色樹脂フィルムは、スーパーやコンビニのレジで受け取るレシートだけでなく、破損しない文字や絵を有する樹脂シートとして利用することができる。ロイコ染料層の色を変更して、樹脂フィルム内で、異なる色に発色するようにすれば、また色の変化に富む発色を楽しむこともできる。
【0058】
本発明の感熱発色樹脂フィルムは、既に述べたように、感熱発色インク層が透明樹脂フィルムの間にあり、感熱発色インク層が直接衝撃を受けることはなく、衝撃による発色などの不要な発色が起こりにくい。また、透明樹脂フィルムが保護層の役割を果たすので、感熱発色インク層が保護された形になり、インク層の剥がれや欠損なども殆ど起こらない。
【0059】
本発明の感熱発色樹脂フィルムは、かなり透明性があるものであるが、透明性が不足する場合には、顕色剤層を2層にして、一方の顕色剤層の溶剤を顕色剤の溶解を促進するような環状アルキル溶剤以外の溶剤を使用するものにして、その溶解が促進された顕色剤層をロイコ染料層に直接接触しないように形成すると、透明性をより高くすることができる。
【実施例0060】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0061】
<第1の態様の実施例>
製造例1(ロイコ染料組成物1の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して、ロイコ染料組成物1を形成した。


ODB-2は黒色のロイコ染料であり、ペンセルKKはバインダー樹脂として配合し、タフプレンAはバインダー樹脂として配合した。MCHとトルエンは溶媒である。
【0062】
製造例2(ロイコ染料組成物2の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して、ロイコ染料組成物2を形成した。


PA-100はバインダー樹脂として配合した。
【0063】
製造例3(ロイコ染料組成物3の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して、ロイコ染料組成物3を形成した。


バイロン200はバインダー樹脂として配合した。
【0064】
製造例4(顕色剤組成物1の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して顕色剤組成物1を形成した。


D-8は感熱紙用顕色剤として用いた。
【0065】
製造例5(顕色剤組成物2の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して顕色剤組成物2を形成した。

【0066】
製造例6(顕色剤組成物3の作成)
下記成分をペイントシェーカーにより2時間、分散して顕色剤組成物3を形成した。

【0067】
製造例7(接着剤組成物の作成)
下記の成分を混合して、接着剤層用組成物を形成した。

【0068】
<第1の態様の実施例>
実施例1
上記ロイコ染料組成物1を、東レ社製からルミラーとして市販の厚さ4.5μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(薄膜透明樹脂フィルムに相当)にバーコーターを用いて、1.5g/mになるように塗布し、70℃温風で乾燥した。塗布量は、1.5g/mであった。次いで、顕色剤層組成物1を、上記のロイコ染料層を形成したPETフィルムにバーコーターを用いて塗装した。塗布量は、2.5g/mであった。
【0069】
上記接着剤組成物を東洋紡社からクリスパーK1212として市販の膜厚50μmの白色PETフィルム(厚膜透明樹脂フィルムに相当)に塗布量が1.0g/m(乾燥重量)になるようバーコーターにて塗布した。塗布したものを前述のロイコ染料層、顕色剤層を形成したPETフィルムに貼り付け、市販のラミネーター(明光商会:THS330)にて45mm/sec、温度設定65℃にて熱溶着して感熱発色樹脂フィルムを得た。得られた感熱発色樹脂フィルムについて、塗工直後の地発色(カブリ)の評価と保存性試験後のカブリを以下のように行った。その結果を表1に記載する。
【0070】
塗工直後の地発色(カブリ)の評価
ロイコ染料層に顕色剤層用組成物1を塗布した直後の地発色(カブリ)の評価を目視にて下記基準で判定した。
〇:カブリは見られず白色。
△:若干のカブリが見られる。
×:カブリが発生する。
【0071】
保存試験後のカブリの評価
上記感熱発色樹脂フィルムを熱転写プリンター(Zebra社製:Zebra105SL)で印字を行って印字サンプルを得た。得られた印字サンプルを、恒温恒湿槽(ナガノサイエンス社製:LH-21)中にて、温度40℃、相対湿度80%の条件で48時間保管した。保管後に、印字部の発色状態および地発色(カブリ)状態を評価した。
〇:カブリも印字の発色低下も見られない。
△:印字の発色低下が見られる
▲:カブリが発生する。
×:印字の発色低下、カブリが両方発生する
【0072】
比較例1
実施例1において、顕色剤組成物1を顕色剤組成物2に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0073】
比較例2
実施例1において、顕色剤組成物1を顕色剤組成物3に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0074】
比較例3
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物2に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0075】
比較例4
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物2に変更し、顕色剤組成物1と顕色剤組成物2に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0076】
比較例5
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物2に変更し、顕色剤組成物1と顕色剤組成物3に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
比較例6
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物3に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0077】
比較例7
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物3に変更し、顕色剤組成物1と顕色剤組成物2に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0078】
比較例8
実施例1において、ロイコ染料組成物1をロイコ染料組成物3に変更し、顕色剤組成物1と顕色剤組成物3に変更したものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表1に記載する。
【0079】
【表1】
【0080】
上記表1において、保存試験後のカブリの評価における「評価せず」は顕色剤組成物3を用いたものであり、既に塗工直後にカブリが発生していたので、保存試験後のカブリ評価は行わなかった。
【0081】
上記評価結果の表1から明らかなように、本発明の請求項1の範囲内であれば、塗工直後のカブリや保存試験後のカブリの両方とも発生していない。一方、炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤であるメチルシクロヘキサンを用いていない例では、塗工直後のカブリおよび保存試験後のカブリのいずれかにカブリが発生している。これは、メチルシクロヘキサン(MCH)ではなく、イソプロピルアルコール(IPA)やメチルエチルケトン(MEK)を溶剤として用いた場合、例えば比較例1に見られるように、ロイコ染料層はMCHを用いて形成した層であっても、顕色剤層がIPAを用いると塗工直後に少しカブリが見られ、当然保存後にもカブリがでる。比較例2では、顕色剤層がMEKを用いる場合であるが、MEKを含む顕色剤層を塗工する時にMEKがロイコ染料を溶解して即発色が起こる。比較例3ではIPAを用いたロイコ染料層に、MCHを用いた顕色剤層が形成される場合であるが、IPAを用いたロイコ染料組成物を塗工し完全に乾かした後、MCHを用いた顕色剤層を塗工すると、塗工直後は発色しませんが保存すると理由は解らないがカブリが発生してくる。比較例4~8については、詳細には述べないが、IPAやMEKを使用した場合、溶解性が機能して顕色剤とロイコ染料を接触反応させる傾向にあり、カブリが発生するものと考えられる。
【0082】
<第2の態様の実施例>
実施例2(溶解⇒分散⇒ロイコ)
上記顕色剤組成物2(製造例5)を、東レ社製からルミラーとして市販の厚さ4.5μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(薄膜透明樹脂フィルムに相当)にバーコーターを用いて、1.5g/mになるように塗布し、70℃温風で乾燥した(第2の顕色剤層)。塗布量は、1.5g/mであった。次いで、顕色剤組成物1を、顕色剤層組成物2の層を形成したPETフィルムにバーコーターを用いて塗装した(第1の顕色剤層)。塗布量は、2.5g/mであった。更に、ロイコ染料組成物1を顕色剤組成物1の層の上にバーコーターを用いて塗装した(ロイコ染料層)。塗布量は2.0g/mであった。
【0083】
上記接着剤組成物を東洋紡社からクリスパーK1212として市販の膜厚50μmの白色PETフィルムに塗布量が1.0g/m(乾燥重量)になるようバーコーターにて塗布した。塗布したものを前述のロイコ染料層、顕色剤層を形成したPETフィルムに貼り付け、市販のラミネーター(明光商会:THS330)にて45mm/sec、温度設定65℃にて熱溶着して感熱発色樹脂フィルムを得た。得られた感熱発色樹脂フィルムについて、塗工直後の地発色(カブリ)の評価と保存性試験後のカブリを実施例1と同様に行った。その結果を表2に記載する。
【0084】
実施例3(溶解⇒分散⇒ロイコ)
実施例2において、顕色剤組成物2を顕色剤組成物3に変更したものを、実施例2塗装用に作成し、実施例2と同様に、塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表2に記載する。
【0085】
比較例9(分散⇒溶解⇒ロイコ)
実施例2において、顕色剤組成物2と顕色剤組成物1を入れ替えたものを、実施例2と同様に作成し、実施例1と同様に塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表2に記載する。
【0086】
比較例10(分散⇒溶解⇒ロイコ)
実施例3において、顕色剤組成物3と顕色剤組成物1を入れ替えたものを、実施例1と同様に作成し、実施例1と同様に塗工直後のカブリの評価と保存試験後のカブリの評価を行った。結果を表2に記載する。
【0087】
また、透明性をヘイズ値(曇価)で確認した。ヘイズ値は、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値であり、JIS K 7105に準じて測定される。測定値は表2に記載した。
【0088】
【表2】
【0089】
上記実施例2および3では、顕色剤層を2層にした例であるが、第1の顕色剤層(顕色剤組成物1利用の層)がロイコ染料層に接触して、第2の顕色剤層(顕色剤組成物2または3利用の層)がロイコ染料層に接触していないものは、カブリが発生しない。また、透明性を示すヘイズ値も共に50%前後と優れている。比較例9および10では、実施例2および3の顕色剤層の順番を入れ替えたもので、第2の顕色剤層(顕色剤組成物2または3利用の層)がロイコ染料層に接触している状態の例であり、塗工直後はカブリの発生は無いが、保存試験後のカブリが悪い。透明性(ヘイズ値)は顕色剤層の順番を入れ替える前のものと比べてそれほど悪くなっていないが、保存試験後のカブリが悪いので、使用は難しい。
【0090】
上記実施例よりロイコ染料、顕色剤を殆ど溶解しない有機溶媒、即ち炭素数1~3のアルキル基で置換した炭素数5~8の環状アルキル溶剤であるメチルシクロヘキサンを使用することにより、カブリの発生を抑えることができる。本発明の感熱発色樹脂フィルムは透明樹脂フィルムの感熱発色インク層が存在するので、ちょっとした衝撃などで発色することが無く、長期保存が可能であると共に、透明フィルムに発色が形成されるので、これまで感熱紙とことなる用途に応用が可能である。また、顕色剤を含む層を2層にして、第1の顕色剤層および第2の顕色剤層にして、ロイコ染料層に接触する層が第1の顕色剤層(環状アルキル溶剤を用いた例)の場合、カブリも透明性も優れていることが理解できる。
【符号の説明】
【0091】
1…厚膜透明樹脂フィルム
2…薄膜透明樹脂フィルム
3…接着剤層
4…顕色剤層
4-1…第1の顕色剤層
4-2…第2の顕色剤層
5…ロイコ染料層
6…耐熱層
A…感熱発色インク層
図1
図2