IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ロックフェラー ユニバーシティーの特許一覧 ▶ カルフォルニア インスティテュート オブ テクノロジーの特許一覧

特開2022-95613広域中和抗HIV-1抗体およびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095613
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】広域中和抗HIV-1抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220621BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220621BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220621BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220621BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220621BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220621BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20220621BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 39/21 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/10
C07K16/46
A61P43/00 121
A61P31/18
A61K45/00
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61K39/21
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031580
(22)【出願日】2022-03-02
(62)【分割の表示】P 2019536207の分割
【原出願日】2017-12-22
(31)【優先権主張番号】62/444,946
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/439,339
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PLURONIC
2.プルロニック
3.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】592054292
【氏名又は名称】ザ ロックフェラー ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】519234464
【氏名又は名称】カルフォルニア インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヌッセンツヴァイク,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】フロイント,ナタリア,ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ビョルクマン,パメラ,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シャーフ,ルイーズ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】強力な広域中和抗HIV-1抗体または抗原結合部分、ならびに該抗体または抗原結合部分を含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】いくつかの実施形態において、抗HIV-1抗体は、NC37およびその抗原結合部分を含み、いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体はBG1およびその抗原結合部分を含み、いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体はBG18およびその抗原結合部分を含み、いくつかの実施形態では、BG18の変異体およびその抗原結合部分を含む、抗HIV-1抗体であって、重鎖可変領域のCDRH1、CDRH2およびCDRH3が特定の配列を含み、および、軽鎖可変領域のCDRL1、CDRL2およびCDRL3が特定の配列を含む、単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分、および該抗体または抗原結合部分を含む医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)CDRH1、CDRH2およびCDRH3を含む重鎖可変領域を含み、前記CDRH1、CDRH2およびCDRH3が、配列番号10~12のそれぞれの配列を含む、および
(ii)CDRL1、CDRL2およびCDRL3を含む軽鎖可変領域を含み、前記CDRL1、CDRL2およびCDRL3が、配列番号14~16のそれぞれの配列を含む、単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号9および13のそれぞれの配列を含む、請求項1に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
前記抗体がヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体である、請求項1または2に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
前記抗体抗原またはその結合部分が組換え作製される、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む、二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体をコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む、培養細胞。
【請求項9】
(i)請求項1~4のいずれか一項に記載の第1の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体と、(ii)薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項10】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号9および13のそれぞれの配列を含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分をさらに含む、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
HIV-1感染を治療するための薬剤の製造における、第1の請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、もしくは請求項5に記載の二重特異性抗体、または請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を含む第1の治療剤の使用。
【請求項13】
前記治療が、第2の治療剤を投与することをさらに含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記第2の治療剤が、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、エントリー阻害剤または融合阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、および第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分からなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体を含む、ワクチン組成物。
【請求項16】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号9および13のそれぞれの配列を含む、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
HIV-1感染を予防するための薬剤の製造における、請求項15または16に記載のワクチン組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.連邦政府の資金供与に関する声明
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって与えられた助成金番号AI100148の下で政府の支援を受けて行われたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0002】
II.発明の技術分野
本発明の分野は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)およびその使用方法である。
【背景技術】
【0003】
ヒト免疫不全ウイルス(「HIV」)は、ヒトに感染するレンチウイルス(レトロウイルス科)である。治療しないままにしておくと、HIV感染は時間の経過とともに、免疫系の進行性不全が、生命を脅かす日和見感染症(例えば、トキソプラズマ症)および癌(例えば、カポジ肉腫)を引き起こし、最終的に感染者が死亡する症状である後天性免疫不全症候群(AIDS)に至る。治療をしなければ、初感染後の平均生存期間は合計9~11年である。HIV/AIDSは重大な世界規模の健康危機であり、CDCによればパンデミックと解釈され、2014年現在、約3700万人がHIVに感染しており、同年約120万人が死亡している。
【0004】
HIVは、HIV-1およびHIV-2を含む、特徴付けられたいくつかのサブタイプを有する。HIV-1の方が悪性度が高く、感染性が高く、世界的に流行しているのに対して、HIV-2の方が悪性度が低く、感染性が低く、現時点では西アフリカでのみ流行している。HIV-1は、HIV感染の大部分の原因であるため、臨床的にいっそう重要な標的となっている。HIV-1には、グループM、グループN、グループOおよびグループPを含むいくつかのサブグループがある。グループMは、「主系統」を表し、HIV感染の約90%を占め、さらにサブタイプA~Kに分類され、時にサブサブタイプ(A1、A2など)に分割される。高い突然変異率によってもたらされるHIV-1の著しい多様性は、HIVを効果的に治療することを困難にする。この問題に対抗するために、研究者らは、広域中和抗体(「bNAb」)として知られるものを開発することを試みている。広域中和抗体は、HIVの複数のウイルス株、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第2014/0328862号明細書に開示されているものなどの複数のHIV-1ウイルス株を中和するそれらの能力に関してそのように指定されている。HIV-1感染個体のごく一部では、典型的には、循環ウイルス株および抗体が共進化する1~3年の期間にわたって発現するbNAbが発現する。しかし、これらのbNabは、典型的には、感受性ウイルス株に対する抗体媒介選択のために、共存する自己由来ウイルスを中和することができない。したがって、HIV-1感染に対して高度な効力を示す新規な広域中和抗HIV抗体が緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2014/0328862号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明は、複数の強力な広域中和抗HIV-1抗体およびその使用方法に関する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は抗HIV-1抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)またはその抗原結合部分である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体は、NC37およびその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体はBG1およびその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体はBG18およびその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、BG18の変異体およびその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、BG18の変異体は、354BG8、354BG18、354BG42、354BG33、354BG129、354BG188、354BG411および354BG426のうちの1つ、またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体(mAb)を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、組換え作製された抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はヒト抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は二重特異性抗体を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は可変重鎖領域を含む。いくつかの実施形態では、可変重鎖領域は、配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、可変重鎖領域は、配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性を有する。いくつかの実施形態では、配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つ以上は、保存的置換を有する。
【0008】
いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は可変軽鎖領域を含む。いくつかの実施形態では、可変軽鎖領域は、配列番号5、13、21、29、37、45、53、61、69、77、85および93のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、可変軽鎖領域は、配列番号5、13、21、29、37、45、53、61、69、77、85および93のうちの1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性を有する。いくつかの実施形態では、配列番号5、13、21、29、37、45、53、61、69、77、85および93のうちの1つ以上は、保存的置換を有する。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、可変重鎖領域内に少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのCDRは、配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのCDRは、配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性を有する。いくつかの実施形態では、配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つ以上は、保存的置換を有する。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、可変軽鎖領域内に少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのCDRは、配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのCDRは、配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つと少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性を有する。いくつかの実施形態では、配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つ以上は、保存的置換を有する。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、第1の抗体を含むキットに関する。いくつかの実施形態では、第1の抗体は抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)を含む。いくつかの実施形態では、広域中和抗HIV-1抗体は、本発明による任意の抗HIV-1抗体である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体は、HIV-1またはその抗原性断片に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体は結合時にHIV-1を中和する。いくつかの実施形態では、キットは第2の抗体を含有する。いくつかの実施形態では、第2の抗体は、HIV-1またはその抗原性断片に特異的に結合する抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む。他の実施形態では、第2の抗体は、第1の抗体またはその抗原結合部分に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第1の抗体またはその抗原結合部分は、基質に結合している。いくつかの実施形態では、第2の抗体またはその抗原結合部分は、基質に結合している。いくつかの実施形態では、第1の抗体またはその抗原結合部分は、検出可能に標識されている。いくつかの実施形態では、第2の抗体またはその抗原結合部分は、検出可能に標識されている。いくつかの実施形態では、第1の抗体またはその抗原結合部分および第2の抗体またはその抗原結合部分のうちの少なくとも1つは、検出可能に標識されている。いくつかの実施形態では、検出可能な標識はレポーター分子を含む。いくつかの実施形態では、レポーター分子は蛍光分子を含む。いくつかの実施形態では、レポーターは放射性標識を含む。他の実施形態では、検出可能な標識は酵素を含む。いくつかの実施形態では、キットは酵素のための基質を含む。いくつかの実施形態では、酵素に基質を加えると、検出可能なシグナルが生成される。いくつかの実施形態では、検出可能なシグナルは、着色された可溶性産物を含む。いくつかの実施形態では、放射性標識はI-125を含む。いくつかの実施形態では、酵素は西洋ワサビペルオキシダーゼを含む。いくつかの実施形態では、酵素のための基質はTMBを含む。いくつかの実施形態では、キットは、試料中のHIV-1またはその抗原性断片を検出することができる。いくつかの実施形態では、キットは、試料中に存在するHIV-1またはその抗原性断片の量を定量することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、キットはHIV剤をさらに含む。いくつかの実施形態では、HIV剤は、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト/エントリー阻害剤、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(INSTI)およびそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、HIV剤は単位剤形である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は単位剤形である。いくつかの実施形態では、単位剤形は単位用量の注射可能形態である。いくつかの実施形態では、HIV剤は、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分と同じ容器に保存される。いくつかの実施形態では、HIV剤は別の容器に保存される。いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分をさらに含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明の任意の抗HIV-1抗体を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、NC37、NC133、NC102、AC40、AC41、AC72およびそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、キットは使用説明書を含む。いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の薬学的に許容される担体または保存剤を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料中に存在するHIV-1またはその抗原性断片を検出する方法に関する。いくつかの実施形態では、該方法は、HIV-1またはその抗原性断片を含有する試料を得ることを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、試料と、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、HIVまたはその抗原性断片に対する抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分の特異的結合の存在を検出することを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、試料中に存在するHIV-1またはその抗原性断片の量を定量することを含む。いくつかの実施形態では、試料は生体試料である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明の任意の態様による抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え作製される。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はヒト抗体を含む。いくつかの実施形態では、特異的結合の存在を検出することは、イムノアッセイによって達成される。いくつかの実施形態では、特異的結合の存在を検出することは、競合イムノアッセイによって達成される。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、HIV-1感染を有すると個体を診断する方法に関する。いくつかの実施形態では、該方法は、HIV-1感染を有するか、HIV-1感染を有すると疑われる個体を識別することを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、個体からHIV-1またはその抗原性断片を含有する試料を得ることを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、試料と、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明の任意の態様による抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分である。いくつかの実施形態では、該方法は、HIVまたはその抗原性断片に対する抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分の特異的結合の存在を検出することを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、個体をHIV-1感染を有すると診断することを含む。いくつかの実施形態では、個体はAIDSを有すると診断される。いくつかの実施形態では、試料は生体試料である。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え作製される。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はヒト抗体を含む。いくつかの実施形態では、特異的結合の存在を検出することは、イムノアッセイによって達成される。いくつかの実施形態では、特異的結合の存在を検出することは、競合イムノアッセイによって達成される。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明は、それを必要とする個体のHIV-1感染を治療する方法に関する。いくつかの実施形態では、HIV-1感染を治療する方法は、HIV-1感染を有するか、HIV-1感染を有すると疑われる個体に、少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を投与することを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明による任意の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、該方法は、投与工程の前に、個体をHIV-1感染を有すると識別する工程を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え作製される。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はヒト抗体を含む。いくつかの実施形態では、該方法は、少なくとも1つの追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分の投与をさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明による任意の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え作製される。いくつかの実施形態では、該方法は、HIV剤の投与をさらに含む。いくつかの実施形態では、HIV剤は、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト/エントリー阻害剤、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(INSTI)およびそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、追加の単数もしくは複数の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分および/または単数もしくは複数のHIV剤と同時投与されてもよい。他の実施形態では、抗HIV抗体またはその抗原結合部分は、追加の単数もしくは複数の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分および/または単数もしくは複数のHIV剤の前に投与される。さらに他の実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、追加の単数もしくは複数の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分および/または単数もしくは複数のHIV剤の後に投与される。またさらに他の実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分および/または単数もしくは複数のHIV剤の間に投与されてもよい。
【0016】
別の実施形態では、本発明は受動ワクチンに関する。いくつかの実施形態では、ワクチンは、少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明による任意の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はモノクローナル抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は組換え作製される。いくつかの実施形態では、受動ワクチンはアジュバントをさらに含む。いくつかの実施形態では、受動ワクチンは、薬学的に許容される賦形剤、保存剤および/または担体をさらに含む。別の実施形態では、本発明は、それを必要とする個体のHIV-1感染を予防する方法に関する。いくつかの実施形態では、該方法は、本発明の任意の態様による受動ワクチン組成物を個体に投与することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明は核酸に関する。いくつかの実施形態では、核酸は、本発明の抗HIV-1抗体の1つ以上の重鎖および/または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号1、5、9、13、17、21、25、29、33、37、41、45、49、53、57、61、65、99、73、77、81、85、89および93のうちの1つ以上をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸は保存的置換を有する。いくつかの実施形態では、核酸は、本発明の抗HIV-1抗体の1つ以上のCDRをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号2~4、6~8、10~12、14~16、18~20、22~24、26~28、30~32、34~36、38~40、42~44、46~48、50~52、54~56、58~60、62~64、66~68、70~72、74~76、78~80、82~84、86~88、90~92および94~96のうちの1つ以上をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸は保存的置換を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分のうちの1つ以上の重鎖および/または軽鎖および/またはCDRをコードする1つ以上の核酸配列を含有するベクターまたはベクター系に関する。いくつかの実施形態では、ベクターまたはベクター系は、可変重鎖領域をコードする核酸配列および可変軽鎖領域をコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸配列は、軽鎖をコードする核酸配列と同じベクター上にある。いくつかの実施形態では、可変重鎖領域をコードする核酸配列は、可変軽鎖領域をコードする核酸配列とは異なるベクター上にある。いくつかの実施形態では、ベクターまたはベクター系は単数または複数のプラスミドである。いくつかの実施形態では、ベクターまたはベクター系は単数または複数のファージベクターである。いくつかの実施形態では、ファージベクターはγファージである。いくつかの実施形態では、単数または複数のベクターは単数または複数のコスミドである。いくつかの実施形態では、ベクターまたはベクター系は、単数または複数の組換え染色体である。いくつかの実施形態では、ベクター系は様々なベクターの組合せである。いくつかの実施形態では、様々な核酸配列の発現が同時に起こり得る。他の実施形態では、様々な核酸配列の発現が別個に誘導可能であり得る。別の実施形態では、本発明は、1つ以上の本発明の抗HIV-1抗体の1つ以上の重鎖および/または軽鎖の1つ以上の相補性決定領域(CDR)をコードする1つ以上の核酸配列を含有するベクターまたはベクター系に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A-C】ドナーEB354におけるHIV-1抗体レパートリーを表す。図1A:2002年~2015年に測定されたウイルス量の値。中和抗体が単離された時点がグラフに示されている。血漿が採取された時点は、下向きの矢印でマークされている。図1B:HIV-1株の集団に対して試験した((1A)中の矢印によって示された)4つの時点から得られた精製血清IgGのTZM-blアッセイにおけるIC50値を示すヒートマップ。中和アッセイはいずれも2連で行った。図1C:上部パネル:CD19を用いて予め濃縮したIgG+メモリーB細胞をCD19と、3つの非ネイティブHIV-1ベイト(bait)、すなわち、2CCコア、gp140YU2フォールドオン(fold-on)三量体およびgp14092UG37.8+gp140CZA79012(gp140A+C)フォールドオン三量体と、1つのネイティブベイトBG505.SOSIP-AviBとを用いて染色した。四角い挿入枠内の集団は選別された単一細胞であった細胞を表し、数字は全IgG+細胞のうちCD19+/ベイト+であった細胞の割合を示す。下部パネル:円グラフは、上部に示された対応するFACSプロットからの単一の選別された細胞から増幅された総Ig配列を表す。円の中央の数字は抗体の総数を表す。空のスライスは、一度だけ出現し、クローン性関連物を有しなかった配列を表す。スライスは、抗体クローンを表し、各クローンの配列数に比例している。アスタリスクでマークしたクローンはtier 2中和を示したクローンであり、これらは変異体NC37、BG18およびBG1によって表される。図1D:上部パネル:モノクローナル抗体NC37、BG1およびBG18のTZM-blアッセイにおけるIC50値に基づく中和効力を示すヒートマップ。下部パネル:2014年に得られたドナーポリクローナルIgG、ならびにYU2WT、YU2N280Y、YU2NN332KおよびYU2NN160Kに対するNC37、BG1およびBG18のTZM-blアッセイにおけるIC50値に基づく中和効力。TZM-blアッセイはいずれも2連で行った。図1E:120 Tier 2 HIV-1シュードウイルスの集団に対して試験された抗体NC37、BG1、BG18、および1:1:1の組合せ(「comb.」)のTZM-blアッセイにおけるIC50に基づく中和効力のヒートマップ。中和されたウイルス全種の幾何平均とパーセント広域性とを下部パネルに示す。中和アッセイは2連で行った。図1F:(1E)の値に基づく範囲曲線。
図1D-F】ドナーEB354におけるHIV-1抗体レパートリーを表す。図1A:2002年~2015年に測定されたウイルス量の値。中和抗体が単離された時点がグラフに示されている。血漿が採取された時点は、下向きの矢印でマークされている。図1B:HIV-1株の集団に対して試験した((1A)中の矢印によって示された)4つの時点から得られた精製血清IgGのTZM-blアッセイにおけるIC50値を示すヒートマップ。中和アッセイはいずれも2連で行った。図1C:上部パネル:CD19を用いて予め濃縮したIgG+メモリーB細胞をCD19と、3つの非ネイティブHIV-1ベイト(bait)、すなわち、2CCコア、gp140YU2フォールドオン(fold-on)三量体およびgp14092UG37.8+gp140CZA79012(gp140A+C)フォールドオン三量体と、1つのネイティブベイトBG505.SOSIP-AviBとを用いて染色した。四角い挿入枠内の集団は選別された単一細胞であった細胞を表し、数字は全IgG+細胞のうちCD19+/ベイト+であった細胞の割合を示す。下部パネル:円グラフは、上部に示された対応するFACSプロットからの単一の選別された細胞から増幅された総Ig配列を表す。円の中央の数字は抗体の総数を表す。空のスライスは、一度だけ出現し、クローン性関連物を有しなかった配列を表す。スライスは、抗体クローンを表し、各クローンの配列数に比例している。アスタリスクでマークしたクローンはtier 2中和を示したクローンであり、これらは変異体NC37、BG18およびBG1によって表される。図1D:上部パネル:モノクローナル抗体NC37、BG1およびBG18のTZM-blアッセイにおけるIC50値に基づく中和効力を示すヒートマップ。下部パネル:2014年に得られたドナーポリクローナルIgG、ならびにYU2WT、YU2N280Y、YU2NN332KおよびYU2NN160Kに対するNC37、BG1およびBG18のTZM-blアッセイにおけるIC50値に基づく中和効力。TZM-blアッセイはいずれも2連で行った。図1E:120 Tier 2 HIV-1シュードウイルスの集団に対して試験された抗体NC37、BG1、BG18、および1:1:1の組合せ(「comb.」)のTZM-blアッセイにおけるIC50に基づく中和効力のヒートマップ。中和されたウイルス全種の幾何平均とパーセント広域性とを下部パネルに示す。中和アッセイは2連で行った。図1F:(1E)の値に基づく範囲曲線。
図2A-D】BG18 bNabの配列および構造分析を表す。図2A:10-1074、PGT121およびBG18の重鎖アミノ酸配列のアラインメント。アスタリスクはアラインメントのギャップを示す。矢印は、3つの抗体がいずれもそれぞれの生殖系列遺伝子と比較して変異しているフレームワーク位置を表す。CDR H1、H2およびH3を示す。図2B:10-1074、PGT121およびBG18の(A)のような軽鎖配列アラインメント。図2C:左パネル:1.3Å分解能で解明した際のBG18 FabのV(ダークグレー)ドメインおよびV(ライトグレー)ドメインのリボン図。中央パネル:BG18可変ドメインの表面図。右パネル:CDRH3立体構造は、ループ内の水素結合(破線で示す)によって安定化されている。相互作用残基は棒として示し、CDRH3の残部と近傍CDRH1とはリボン図として示す。図2D:パネル:BG18(紫)、PGT121(緑)および10-1074(青)可変ドメインの重ね合わせ(superimposition)を示すリボン図。BG18のCDRH3は赤で強調されており、PGT121および10ー1074のCDRH3ループはえび茶色である。右パネル:Vの重ね合わせ後のBG18(薄いピンク)およびPGT121(薄い緑色)のVが示されている。CDRL2BG18は結晶中で無秩序であり、破線で示されている。10-1074はPGT121と密接に関連しており、わかりやすくするため省略した。図2E:BG18およびPGT121の表面図。図2F:BG18および179NC75 Fabに結合したBG505 SOSIP.664の単一粒子EM構造(灰色透明密度(gray transparent density))。BG505 SOSIP.664、BG18 Fab、および179NC75 Fab(CH103 Fab:PDB 4JAM)のモデルの座標を、下記の実施例1に記載されるようにEM密度に適合させた。2Dクラスの平均を示す。図2G:10-1074、PGT122(PDB 5FYJ)、PGT135(PDB 4JM2)およびPGT128(PDB 5ACO)のFabに対してBG18 FabがとったBG505結合の角度の比較。比較を容易にするために、179NC75 Fabの密度をBG18-179NC75-BG505マップから差し引いた。
図2E-G】BG18 bNabの配列および構造分析を表す。図2A:10-1074、PGT121およびBG18の重鎖アミノ酸配列のアラインメント。アスタリスクはアラインメントのギャップを示す。矢印は、3つの抗体がいずれもそれぞれの生殖系列遺伝子と比較して変異しているフレームワーク位置を表す。CDR H1、H2およびH3を示す。図2B:10-1074、PGT121およびBG18の(A)のような軽鎖配列アラインメント。図2C:左パネル:1.3Å分解能で解明した際のBG18 FabのV(ダークグレー)ドメインおよびV(ライトグレー)ドメインのリボン図。中央パネル:BG18可変ドメインの表面図。右パネル:CDRH3立体構造は、ループ内の水素結合(破線で示す)によって安定化されている。相互作用残基は棒として示し、CDRH3の残部と近傍CDRH1とはリボン図として示す。図2D:パネル:BG18(紫)、PGT121(緑)および10-1074(青)可変ドメインの重ね合わせ(superimposition)を示すリボン図。BG18のCDRH3は赤で強調されており、PGT121および10ー1074のCDRH3ループはえび茶色である。右パネル:Vの重ね合わせ後のBG18(薄いピンク)およびPGT121(薄い緑色)のVが示されている。CDRL2BG18は結晶中で無秩序であり、破線で示されている。10-1074はPGT121と密接に関連しており、わかりやすくするため省略した。図2E:BG18およびPGT121の表面図。図2F:BG18および179NC75 Fabに結合したBG505 SOSIP.664の単一粒子EM構造(灰色透明密度(gray transparent density))。BG505 SOSIP.664、BG18 Fab、および179NC75 Fab(CH103 Fab:PDB 4JAM)のモデルの座標を、下記の実施例1に記載されるようにEM密度に適合させた。2Dクラスの平均を示す。図2G:10-1074、PGT122(PDB 5FYJ)、PGT135(PDB 4JM2)およびPGT128(PDB 5ACO)のFabに対してBG18 FabがとったBG505結合の角度の比較。比較を容易にするために、179NC75 Fabの密度をBG18-179NC75-BG505マップから差し引いた。
図3A-E】ドナーEB354における自己由来のプラズマウイルスを表す。図3A:2006年、2010年、2013年および2014年に採取されたドナーEB354由来の単一ゲノム由来env遺伝子配列の最尤分子系統樹。赤いアスタリスクは、ブートストラップサポートが90%以上のクレードを示す。3つの主要な配列群は任意にクラスターA、BおよびCと命名されている。3つの三角形は、N結合型グリコシル化部位が存在しないenv配列を示す。破線枠はVOC培養物を示す。丸括弧内の数字はウイルス性env VOC配列の数を表す。図3B:2010年、2013年および2014年に得られた血漿env配列のペアワイズヌクレオチド配列多様性を表す散布プロット。各点は、所与の時点での2つの配列間のペアワイズ遺伝的差異を表す。P値は、2標本U統計量ベースのZ検定を使用して決定し、***p<0.0005である。図3C:EB354 env配列を用いて自己由来シュードウイルスに対するウイルスenv遺伝子と同じ時点から精製したBG18、BG1、NC37および同時期のIgGのTZM-blアッセイにおけるIC50値を示すヒートマップ。星印は、3つの自己由来bNAbいずれに対しても耐性のシュードウイルスを示す。抗体3BNC117(米国特許第2014/0328862号明細書に記載)を対照として用いた。左側の円は、(3A)に示すように、配列が得られた時点に対応する。中和アッセイは2連で行い、少なくとも2回繰り返した。灰色の四角はアッセイが行われなかったことを示す。図3D:円グラフは、分析した様々な時点での3つの自己由来bNAbのそれぞれに対してEB354 env配列を用いた自己由来シュードウイルスの感受性を表す。円の中央の数字は、試験したenvシュードウイルスの数を表し、様々なスライスはシュードウイルスの数に比例する。bNAbは左側に示され、試料が採取された時点はグラフの上に示されている。円の下のバーは、PCRによって抗体転写物が検出された時点を示す。図3E:2014年および2015年に得られたEB354 CD4 T細胞から得られたVOCに対するBG18、BG1、NC37および対照bNAb 3BNC117のTZM-blアッセイにおけるIC50値。
図4A-C】HIVYU2感染huマウスの治療を表す。図4A:BG18(上部パネル)またはNC37(下部パネル)による単独療法の前後の4匹(BG18)および5匹(NC37)のHIVYU2感染huマウスにおけるウイルス量の値。グラフ上の灰色の網掛け部分は、BG18(上)またはNC37(下)が投与された期間を示す。太線は各治療実験における幾何平均値を示す。図4B:BG18(上)またはNC37(下)による治療後21日目にクローニングされたウイルス由来のgp120配列のアミノ酸配列アラインメント。各水平バーは、HIV-1YU2にアラインさせた単一のgp120クローンの配列を表す。アミノ酸置換はチェックマークとして示されている。配列が得られたマウスIDは垂直バー上に示されている。枠で囲まれた領域の拡大図は、各パネルの右側に示されている。図4C:野生型HIV-1YU2配列と比較した、gp120におけるBG18(上)およびNC37(下)に関する反復突然変異を示す円グラフ。様々なスライスは、突然変異を担持した配列の数に比例する。円の中央にある数字は、クローニングされた配列の総数を表す。NC37の白いスライスは、反復突然変異がないことを示している。図4D:BG18+NC37+BG1の組合せによる治療前後の7匹のhuマウスにおけるウイルス量の値。マウスT1およびT2は未治療の対照マウスである(白い印)。マウスT3~T7には、BG18+NC37+BG1の組合せを投与した(黒い印)。網掛け部分は、bNAbの組合せが投与された期間を示す。幾何平均の平均は太線で示されており、未治療群については破線で、治療群については実線である。図4E:0日目(抗体投与前)と比較したウイルス量のLog10の差。アスタリスクは概略値を示す。
図4D-E】HIVYU2感染huマウスの治療を表す。図4A:BG18(上部パネル)またはNC37(下部パネル)による単独療法の前後の4匹(BG18)および5匹(NC37)のHIVYU2感染huマウスにおけるウイルス量の値。グラフ上の灰色の網掛け部分は、BG18(上)またはNC37(下)が投与された期間を示す。太線は各治療実験における幾何平均値を示す。図4B:BG18(上)またはNC37(下)による治療後21日目にクローニングされたウイルス由来のgp120配列のアミノ酸配列アラインメント。各水平バーは、HIV-1YU2にアラインさせた単一のgp120クローンの配列を表す。アミノ酸置換はチェックマークとして示されている。配列が得られたマウスIDは垂直バー上に示されている。枠で囲まれた領域の拡大図は、各パネルの右側に示されている。図4C:野生型HIV-1YU2配列と比較した、gp120におけるBG18(上)およびNC37(下)に関する反復突然変異を示す円グラフ。様々なスライスは、突然変異を担持した配列の数に比例する。円の中央にある数字は、クローニングされた配列の総数を表す。NC37の白いスライスは、反復突然変異がないことを示している。図4D:BG18+NC37+BG1の組合せによる治療前後の7匹のhuマウスにおけるウイルス量の値。マウスT1およびT2は未治療の対照マウスである(白い印)。マウスT3~T7には、BG18+NC37+BG1の組合せを投与した(黒い印)。網掛け部分は、bNAbの組合せが投与された期間を示す。幾何平均の平均は太線で示されており、未治療群については破線で、治療群については実線である。図4E:0日目(抗体投与前)と比較したウイルス量のLog10の差。アスタリスクは概略値を示す。
図5】競合ELISAの結果を表す。漸増量の様々な競合抗体の存在下で、ELISAにおけるBG505 SOSIP.664に対する結合について各中和抗体(等量)をアッセイした。黒線は、競合がない場合のビオチン化抗体の結合を示す。図5A:BG18、図5B:BG1。
図6A-D】BG18、PGT121および10-1074の間の配列比較を表す。図6A:PGT121、10-1074および9つのBG18クローン変異体の重鎖の配列のデンドログラム、ならびにそれらの予測される生殖系列。図6B:重鎖CDRのアラインメント。PGT121/10-1074およびBG18変異体に共通の位置が強調表示されている。図6C:軽鎖について以外は(6A)と同じ。図6D:軽鎖CDRのアラインメント。PGT121/10-1074およびBG18変異体に共通の位置が強調表示されている。
図7】BG18の静電位を表す。APBSを用いてFabの静電表面電位を計算し、表面図をUCSFキメラで表示し、陰影を付けた。予測された結合界面は黒い点線で輪郭を描かれている。Asn137gp120、Asn156gp120およびAsn332gp120に結合したgp120グリカンのPGT121および10-1074 Fab表面上のおおよその占有面積は黒い三角形で示されている。
図8A-C】NC37 Fab-gp120複合体構造を表す。図8A:8ANC134 Fab-gp120複合体構造(PDB 4RX4)上に重ね合わせたNC37 Fab-gp120複合体の2.7Å結晶構造は、2つの抗体について同様のgp120結合配向を明らかにする。図8B:Fab-gp120界面の拡大図は、8ANC134 CDRH3と比較したNC37の伸長CDRH3を示す。図8C:三量体の1つのプロトマー上に示されたNC37、8ANC134およびNIH45-46について予測されたエピトープを有する表面図(PDB 4TVP)におけるBG505三量体構造の側面図。NC37の長い方のCDRH3は、三量体の隣接プロトマー(薄い灰色)上の比較的大きい接触面積を示唆する。
図9A-B】合成HIV-1 V3糖ペプチドに結合するBG18抗体を表す。ビオチンタグ付きV3糖ペプチドをネオトラビジン(neotravidin)チップ上に固定化し、BG8 IgGを分析物として使用した。図9A:BG18と、N301にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9B:BG18と、N332にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9C:BG18 IgGと、N301に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9D:BG18 IgGと、N332に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9E:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するA244 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9F:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するCAP45 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。
図9C-D】合成HIV-1 V3糖ペプチドに結合するBG18抗体を表す。ビオチンタグ付きV3糖ペプチドをネオトラビジン(neotravidin)チップ上に固定化し、BG8 IgGを分析物として使用した。図9A:BG18と、N301にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9B:BG18と、N332にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9C:BG18 IgGと、N301に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9D:BG18 IgGと、N332に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9E:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するA244 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9F:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するCAP45 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。
図9E-F】合成HIV-1 V3糖ペプチドに結合するBG18抗体を表す。ビオチンタグ付きV3糖ペプチドをネオトラビジン(neotravidin)チップ上に固定化し、BG8 IgGを分析物として使用した。図9A:BG18と、N301にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9B:BG18と、N332にManGlcNAcグリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9C:BG18 IgGと、N301に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9D:BG18 IgGと、N332に2分岐複合型N-グリカンを担持するJR-FL mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。結合は観察されなかった。図9E:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するA244 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。図9F:BG18 IgGと、N334にManGlcNAcグリカンを担持するCAP45 mini-V3糖ペプチドとの間の相互作用。弱い結合が観察された。
図10】ドナーEB354から得られたプラズマウイルスの単一ゲノムenv配列決定を表す。図10A:円グラフは、採取時点ごとに単一ゲノムPCRによって増幅された全env配列を表す。各時点から得られた配列の総数が円の中央に示され、様々なスライスは配列の数に比例する。図10B:2006年、2010年、2013年および2014年に採取されたドナーEB354由来の単一ゲノム由来env遺伝子配列の最尤分子系統樹。アスタリスクは、ブートストラップサポートが90%以上のクレードを示す。右側の表は、EB354 env配列を用いた自己由来シュードウイルスに対するBG18、BG1、NC37および対照抗体3BNC117のTZM-blアッセイにおけるTCID50値およびIC50値を示す。図10C:少なくとも1つのbNAbに感受性であったEB354 env配列を用いたシュードウイルスとは対照的に、3つのbNAbいずれに対しても耐性であったEB354 envを用いたシュードウイルスのTCID50値の比較。P値(t検定)=0.0016。
図11A-C】BG8を用いたHIVYU2感染huマウスの治療を表す。図11A:BG8投与前後の4匹のhuマウスにおけるウイルス量の値。グラフ上の灰色の網掛け部分は、抗体が投与された期間を示す。太線は幾何平均値を示す。図11B:治療後21日目にクローニングされたウイルス由来のgp120配列のアミノ酸配列アラインメント。各灰色の水平バーは、HIV-1YU2にアラインさせた単一のgp120クローンの配列を表す。アミノ酸置換は黒いチェックマークとして示されている。配列が得られたマウスIDは、黒い垂直バー上に示されている。枠で囲まれた領域の拡大図は、各パネルの右側に示されている。図11C:BG8治療後の野生型HIV-1YU2配列と比較したgp120の反復突然変異を示す円グラフ。円の中央の数字は、クローニングされた配列の総数を表す。スライスは、gp120で最も一定して突然変異している領域を表し、突然変異を担持した配列の数に比例する。
図12A】HIVYU2感染抗体治療ヒト化マウスにおけるウイルス量を表す。BG18(図12A)およびNC37(図12B)による単独療法前後のHIVYU2感染ヒト化マウスにおけるウイルス量の値。グラフ上の網掛け部分は、抗体が投与された期間を示す。各グラフは、円(1回の実験)および四角(2回目の実験)によって示される2つの独立した実験を示す。黒色形状および白色形状は、それぞれ治療マウスおよび対照マウスを示す。破線および太い実線は、それぞれ対照マウスおよび治療マウスの平均値を示す。
図12B】HIVYU2感染抗体治療ヒト化マウスにおけるウイルス量を表す。BG18(図12A)およびNC37(図12B)による単独療法前後のHIVYU2感染ヒト化マウスにおけるウイルス量の値。グラフ上の網掛け部分は、抗体が投与された期間を示す。各グラフは、円(1回の実験)および四角(2回目の実験)によって示される2つの独立した実験を示す。黒色形状および白色形状は、それぞれ治療マウスおよび対照マウスを示す。破線および太い実線は、それぞれ対照マウスおよび治療マウスの平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.定義
抗HIV-1抗体は、本明細書中に開示されるように、当技術分野では多数の形態のうちの1つをとり得る。抗体は、それらが結合する抗原によって部分的に定義され、したがって、「抗HIV-1抗体」は、本明細書に記載のように、gp120および/またはgp140内など、ヒト免疫不全ウイルス1(「HIV-1」)のウイルスエンベロープ上に見出される少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する任意のそのような抗体である。当技術分野では、抗体とは、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分であることが理解されている。重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)から構成される。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)から構成される。重鎖および軽鎖の両方の可変領域は、フレームワーク領域(FWR)および相補性決定領域(CDR)を含む。4つのFWR領域は比較的保存されるが、CDR領域(CDR1、CDR2およびCDR3)は、超可変領域を表し、以下のようにNH末端からCOOH末端に配置される:FWR1、CDR1、FWR2、CDR2、FWR3、CDR3、FWR4。重鎖および軽鎖の可変領域が抗原と相互作用する結合ドメインを含有するのに対して、定常領域は、アイソタイプに応じて、宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。当技術分野では、モノクローナル抗体および他の抗体を操作し、組換えDNA技術の技法を使用して、元の抗体の特異性を保持する他の抗体またはキメラ分子を作製することが可能であることが知られている。そのような技法は、異なる免疫グロブリンの定常領域、または定常領域+フレームワーク領域に、抗体の免疫グロブリン可変領域またはCDRをコードするDNAを導入することを発展させ得る。
【0021】
本明細書で使用される用語「抗体」(Ab)は、最も広い意味で使用され、具体的には、天然のものであれ、部分的または全体的に合成的に作製されたものであれ、限定するものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体および多反応性(polyreactive)抗体)および抗体断片を含む任意の免疫グロブリンを含み得る。したがって、本明細書内の任意の文脈で使用される用語「抗体」は、限定するものではないが、任意の特異的結合メンバー、免疫グロブリンクラスおよび/またはアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgDおよびIgE)ならびにFab、F(ab’)、scFv(一本鎖または関連実体)および(scFv)を含むがこれらに限定されない生物学的に関連のある断片またはその特異的結合メンバーを含むことを意味する。
【0022】
本明細書で使用される用語「抗体断片」は、本明細書で概説されるように、当業者には容易に知られ利用可能な技法を使用して得られる抗体断片を含み得る。したがって、上記の「抗体」の定義に加えて、用語「抗体」は、無傷抗体の抗原結合領域または可変領域などの無傷抗体の一部を含む任意のポリペプチドまたはタンパク質をさらに包含し得る。これらは天然源から誘導することができるか、部分的または全体的に合成的に作製されてもよい。抗体断片の例には、限定するものではないが、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片、ダイアボディならびに直鎖抗体が挙げられる。本明細書で使用される用語「抗原結合部分」、「抗原結合断片」または「Fab」は、抗原に結合する抗体上の領域を指し得る。当業者であれば、Fabが抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの1つの定常の1つの可変ドメインから構成されることを理解するであろう。
【0023】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」または「mAb」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し得、すなわち、その集団を含む個々の抗体は、少量存在する可能性のある天然の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、組換え抗体およびヒト抗体を含み得る。モノクローナル抗体の作製方法は当技術分野では周知であり、以下に考察されるいくつかの具体例は、ハイブリドーマ技術、例えば、ファージディスプレイまたは酵母ディスプレイ技術による組換え抗体作製、トランスジェニックマウスによる作製、および単一B細胞培養を含む。インビトロまたは細菌系および/または哺乳動物系および/または酵母系のいずれかでPCR(または類似の技術)によって抗体遺伝子(例えば、プラスミドまたはコスミド)の重鎖および/または軽鎖を増幅することを含む方法は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0024】
本明細書で使用される用語「保存的配列修飾」または「保存的置換」は、本発明の標的エピトープに対するアミノ酸修飾を指し得、これは、エピトープに対する抗HIV-1抗体の結合特性に顕著に影響を及ぼすことも、それを変化させることもない。そのような保存的修飾は、アミノ酸置換、付加および欠失を含む。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野で定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。したがって、本発明の抗HIV-1抗体が特異的に結合する標的エピトープ、例えば、HIV-1のウイルスエンベロープ上のエピトープ、例えば、gp120および/またはgp140上のエピトープ内の1つ以上のアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基で置換することができ、本発明の抗体は、標的エピトープに対して試験することができ、例えば、本明細書に記載されているか、そうでなければ当技術分野で公知の機能的アッセイを使用して試験することができる。
【0025】
用語「生体試料」は、生物(例えば、患者)から、または生物の構成要素(例えば、細胞)から得られた試料を指す。試料は、任意の生物学的組織、細胞または流体であり得る。試料は、ヒト患者などの対象に由来する試料である「臨床試料」であり得る。そのような試料には、限定するものではないが、唾液、痰、血液、血液細胞(例えば、白血球)、体液、洗浄液、膵液、胃液、排泄物、CSF、リンパ羊水、血漿、精液、骨髄、および組織または細針生検試料、尿、大便、腹水、および胸水、またはそれらからの細胞、ならびにそれらの任意の組合せが挙げられる。生体試料にはまた、組織学的目的のために採取された凍結切片などの組織の切片が挙げられ得る。生体試料はまた、「患者試料」とも呼ばれ得る。生体試料にはまた、実質的に精製もしくは単離されたタンパク質、膜調製物または細胞培養物が挙げられ得る。
【0026】
用語「二重特異性抗体」は、2つの異なる抗原に結合する2つの異なるモノクローナル抗体の断片から構成される人工免疫グロブリン構築物を指す。限定するものではないが、三機能抗体および化学的に結合したFabを含むいくつかの異なる種類の二重特異性抗体がある。本発明の抗HIV-1抗体は、二重特異性抗体を含み得、本発明の1つ以上の異なる抗HIV-1抗体を含む1つ以上の異なる抗HIV-1抗体の断片、例えば、BG18およびBG1、または本発明の1つ以上の抗HIV-1抗体および既知の抗HIV-1抗体、例えば、BG18および3BNC117(米国特許第2014/0328862号明細書に記載)、または米国特許第8,637,036号明細書に記載されるBG18およびVRC01を含み得る。二重特異性抗HIV bNabならびにその作製方法および使用方法は、参照により本明細書に組み込まれるPCT/US16/64713号明細書に記載されている。
【0027】
本明細書で使用される用語「有効量」または「治療有効量」は、治療対象に対して医学的に望ましい結果をもたらすことができる化合物または薬剤の量を指し得る。治療方法は、インビボまたはエクスビボで、単独でまたは他の薬物もしくは療法と組み合わせて実施することができる。治療有効量は、1回以上の投与、適用または投与量で投与することができ、特定の製剤または投与経路に限定されることを意図しない。
【0028】
用語「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」および「特異的に結合する」は、所定の抗原上のエピトープに結合するが他の抗原には結合しない抗体を指し得る。典型的には、抗体は、例えば、所定の抗原、例えば、HIV-1のウイルスエンベロープ上のエピトープ、例えば、分析物としてのgp120およびリガンドとしての抗体を使用する平衡透析もしくはBIACORE(登録商標)2000表面プラズモン共鳴装置における表面プラズモン共鳴(SPR)技術、または抗原陽性細胞に対する抗体の結合のスキャッチャード解析によって決定した場合に、約10-6M未満、例えば、約10-7M、10-8M、10-9Mまたは10-10M未満またはさらにそれ以下の平衡解離定数(K)で結合し、(ii)所定の抗原または密接に関連した抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対するその親和性の少なくとも2倍の親和性で所定の抗原に結合する。
【0029】
本明細書で使用される用語「相同性」は、2つの組成物間の共有構造の存在を指し得る。タンパク質の文脈での用語「相同性」は、2つ以上のアミノ酸および/またはペプチド配列間の重複の量(例えば、百分率で表される)を指し得る。核酸の文脈では、この用語は、2つ以上の核酸配列間の重複の量(例えば、百分率で表される)を指し得る。本明細書で使用される場合、2つの配列間のパーセント(%)相同性は、2つの配列間のパーセント同一性に等しい。2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップの数および各ギャップの長さを考慮して、配列によって共有される同一位置の数の関数であり(すなわち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)、これは、2つの配列の最適アラインメントのために導入される必要がある。2つの配列間の配列の比較およびパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。そのような相同性は、当技術分野では、局所的アラインメントツールおよび/またはアルゴリズム、例えば、BLASTおよび/またはBLAST 2.0を介してよく表され、ペアワイズアラインメント、マルチプルシーケンスアラインメント法、構造的アラインメント法および/または系統発生分析法を含み得る。
【0030】
本明細書で使用される用語「同時投与」、「同時投与された」および「と組み合わせて」は、対象に対する少なくとも2つの薬剤または療法の投与を指し得る。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤/療法の同時投与は同時である。他の実施形態では、第1の薬剤/療法は第2の薬剤/療法の前に投与される。当業者であれば、使用される様々な製剤/療法の処方および/または投与経路が変わり得ることを理解している。例えば、本発明の抗HIV-1抗体は互いに同時投与されてもよいか、他の抗体、例えば、米国特許第2014/0328862号明細書に開示されている広域中和抗HIV抗体などの他の広域中和抗体、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,637,036号明細書に記載の3BNC117またはVRC01とともに同時投与されてもよいか、場合により、他のHIV剤と同時投与される。同時投与は、同時に起きてもそうでなくてもよく、例えば、本発明の1つ以上の抗HIV-1抗体が、本発明の別の抗HIV-1抗体(または他の抗HIV抗体もしくは他のHIV剤)の前または後に投与されてもよいか、同時にまたは実質的に同様の時期に投与されてもよい。当業者であれば、同時投与とは、患者のレジメンの一部として他の化合物および/または療法とともに投与することを記載することを意味するため、時間を限定することを意味しないことを理解するであろう。
【0031】
本明細書で使用される用語「HIV剤」は、それ自体では抗HIV-1抗体を含まない、HIVの治療のための療法を指し得る。例えば、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト/エントリー阻害剤、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(INSTI)およびそれらの組合せはいずれも、本発明の1つ以上の抗HIV-1抗体および/または追加の抗HIV-1抗体と同時投与することができる非抗体ベースの治療的処置であるため、「HIV剤」と解釈される。当業者であれば、この列挙が網羅的であると解釈されるべきではなく、最新技術が進歩し、追加の治療が利用可能になるにつれて、それらがこの定義の範囲内にあると解釈されることを理解するであろう。
【0032】
本明細書で使用される用語「担体」は、使用される投与量および濃度でそれらに曝露される細胞または哺乳動物に無毒の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定化剤を含み得る。多くの場合、生理学的に許容される担体はpH緩衝水溶液である。生理学的に許容される担体の例には、限定するものではないが、ホスフェート、シトレートおよび他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸を含むがこれに限定されない抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどであるがこれらに限定されないタンパク質;ポリビニルピロリドンなどであるがこれに限定されない親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジンなどであるがこれらに限定されないアミノ酸;単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノースまたはデキストリンを含むがこれらに限定されない他の炭水化物;EDTAなどであるがこれに限定されないキレート剤;マンニトールまたはソルビトールなどであるがこれらに限定されない糖アルコール;ナトリウムなどであるがこれに限定されない塩形成対イオン;および/またはTWEENなどであるがこれに限定されない非イオン界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG)、ならびにPLURONICSが挙げられる。
【0033】
疾患を「治療すること」または疾患の「治療」という用語は、疾患の徴候または症状を軽減することを目的として、患者(ヒトまたはそれ以外)に1つ以上の薬物を投与することを含み得るプロトコルを実行することを指す。緩和は、疾患の徴候または症状が現れる前、ならびにそれらの出現後に起こり得る。したがって、「治療すること」または「治療」は、疾患を「予防すること」または疾患の「予防」を含む。用語「予防」または「予防すること」は保護的および/または予防的手段を指し、ここで目的は標的の病理学的状態または障害を予防または抑制することである。例えば、免疫不全ウイルス1(HIV-1)による感染の場合、受動的ワクチン接種を介するなどして、HIV-1による感染を予防または失速させるために一連の治療が進められる状況では、「予防すること」または「予防すること」が起こり得る。そのような「予防すること」または「予防」はまた、例えば血清反応陽性であるがいかなる症状も示さない(すなわちAIDSの症状に進行していない)個体にHIV-1が潜伏感染している場合にも起こり、ここで目的は、活性感染を予防すること、および/または上記HIV-1感染患者を治すことである。さらに、「治療すること」または「治療」は、徴候または症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、特に、患者に対してわずかではあるが好ましい効果を有するプロトコルを含む。
【0034】
本明細書で使用される用語「エピトープ」は、抗体またはT細胞が結合する抗原の領域、例えば、限定するものではないが、糖タンパク質、例えば、gp120、または糖タンパク質上の領域を含むHIV-1のウイルスエンベロープの領域を指し得る。「抗原」は、免疫学的反応を誘発するか、その反応の生成物に結合する物質を指す。
【0035】
本明細書で使用される用語「精製された」または「単離された」抗体、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、他のタンパク質、脂質、およびそれが天然に関連している核酸から分離されているペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を指し得る。ポリペプチド/タンパク質は、精製された調製物の乾燥重量で少なくとも10%(すなわち、10%~100%の任意の割合、例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%および99%)を構成し得る。純度は、任意の適切な標準的方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLC分析によって測定することができる。本発明に記載の単離されたポリペプチド/タンパク質(例えば、抗HIV-1抗体)は、組換えDNA技術によって作製することができる。
【0036】
B.広域中和抗HIV-1抗体
本発明は、広域中和抗HIV-1抗体(bNab)およびその抗原結合部分に関する。特に、本発明は、いくつかの異なるモノクローナル抗体、BG18、NC37、およびBG1、限定するものではないがそれらの相補性決定領域(CDR)を含むそれらの抗原結合部分、ならびにそれらの誘導体および変異体に関し、これらはインビボでHIV-1の広域かつ強力な中和を示す(下記実施例1参照)。したがって、本発明の抗HIV-1抗体は、本明細書中で考察されるように、単独で、または互いに組み合わせて、もしくは他のbNabと、もしくは他のHIV治療と組み合わせて、強力な治療的有用性を有する。
【0037】
BG18、NC37およびBG1のそれぞれは、別個の重複しないエピトープを有する。NC37はCD4bsを認識する。NC37およびそのクローン変異体は、V1-2およびV1-46由来の両方のbNAbの特性を示す。しかし、構造分析は、NC37がEnvをV1-46型の様式で認識することを示唆している。理論に縛られることを望むものではないが、NC37の長いCDRH3が三量体上の隣接プロトマーと接触し、それによってそのコアがCD4bsと重複する四級三量体(quaternary trimer)エピトープを認識することが予測される。
【0038】
BG1は、自然感染の間に生じるbNAbの別の高頻度な標的であるEnvのV1V2領域に結合する。BG1は、クレードB感染ドナーから単離されるこのクラスの第1の抗体(bNab)である。その効力は、N.A.Doria-Roseら、Developmental pathway for potent V1V2-directed HIV-neutralizing antibodies.Nature 509, 55-62(2014)に開示されているもののようなVRC26抗体ファミリーのメンバーとほぼ同等であるが、PG9/16およびPGDM1400 bNAbよりも効力が低い。今日までに単離された他のV1V2 bNAbと同様に、BG1は長く、チロシンに富むCDRH3を有する。
【0039】
BG18、NC37およびBG1のそれぞれの中で最も強力なBG18は、V3ループの基部にあるAsn332gp120中心グリカンパッチに対して導かれる。これは、位置Asn332gp120、Asn301gp120、Asn386gp120、Asn392gp120、Asn137gp120、Asn156gp120で炭水化物を含む高度にグリコシル化された領域である。L.M.Walkerら、Broad neutralization coverage of HIV by multiple highly potent antibodies.Nature 477, 466-470(2011)に記載されているPGT121-124およびH.Mouquetら、Complex-type N-glycan recognition by potent broadly neutralizing HIV antibodies.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, E3268-3277(2012)に記載されている10-1074など、この部位でタンパク質および炭水化物成分の両方に結合する多数のモノクローナルbNAbが単離されている。これらのbNAbはいずれもクレードAドナーから単離されたものであり、Asn332gp120グリカン(10-1074およびPGT124)のみに依存するものと、V3グリカンパッチ(PGT121-123)で周囲のグリカンとさらに接触するものとにさらに分類することができる。BG18およびそのクローン変異体は、それらがAsn332gp120に依存するという点で10-1074に似ているが、BG18は発表されている抗V3 bNAbよりも強力であり、クレードBドナーから最初に単離されたものである。
【0040】
BG18は、CDRH3および軽鎖ドメインの驚くほど明確な配向によって、このクラスの以前に特徴付けられたメンバーとは異なる。さらに、BG18は、それが比較的短いCDRH3を有し、挿入または欠失を有しないという点でこの抗体群の他のメンバーとは異なり、理論に縛られることを望むものではないが、BG18様抗体が比較的容易に誘発され得ることを示唆する。BG18-Env複合体の高分解能構造が存在しない場合、BG18の比較的短いCDRH3がEnvとどのように相互作用するかを予測することは困難である。PGT122および10-1074FabとのEnv複合体の構造試験は、それらがEnv三量体内のgp120プロトマーにほぼ垂直である類似の接近角度をとることを実証する。BG18-Env EM構造は、詳細な相互作用を解明するのに十分な分解能ではないが、それでもBG18が異なる角度からEnvに接近し、これが10-1074およびPGT122の接近角度と比較してgp120プロモーターに向かって最大40°シフトしていることを実証する。354BG8、354BG18、354BG42、354BG33、354BG129、354BG188、354BG411および354BG426を含むBG18クローン変異体および誘導体、ならびにそれらの全長配列、重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)を以下の表1に示す。BG18変異体のデンドログラムを図6に示し、下記の実施例1で考察する。BG1、BG22およびBG47を含むBG1クローン変異体および誘導体、ならびにそれらの全長配列、重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)を以下の表2に示す。
【0041】
【表1-1】
【0042】
【表1-2】
【0043】
【表1-3】
【0044】
【表2】
【0045】
当業者であれば、ほとんどの抗体、例えば、NC37、BG1の全変異体を含むBG1、およびBG18の全変異体を含むBG18の相補性決定領域(「CDR」)が、主に、CDRH3が最も独特の特徴を有するパラトープを抗体上に形成することによって抗体の生物学的活性を決定することを理解するであろう。したがって、本発明の抗体は、NC37、BG1およびBG18の全変異体およびそれらのそれぞれのCDRを含め、NC37、そのCDR、BG1、そのCDRならびにBG18およびそのCDRを含み得る。また、当業者であれば、本発明の抗体がCDRを含む保存的置換を含有し得、なお本発明の範囲内にあることを理解するであろう。したがって、本発明のいくつかの実施形態は、表1および表2に列挙されたCDRを発現する抗体およびその抗原結合部分に関する。
【0046】
例えば、本発明のいくつかの実施形態は、配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つ以上を含むか、配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つ以上とある程度の相同性、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%およびその中の任意の介在範囲の相同性を有する重鎖を有する抗体またはその抗原結合部分に関する。配列番号1、9、17、25、33、41、49、57、65、73、81および89のうちの1つ以上は、保存的置換を有してもよい。本発明のいくつかの実施形態は、配列番号5、13、21、20、37、45、53、61、69、77、85および、93のうちの1つ以上を含むか、配列番号55、13、21、20、37、45、53、61、69、77、85および93のうちの1つ以上とある程度の相同性、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%およびその中の任意の介在範囲の相同性を有する軽鎖を有する抗体またはその抗原結合部分に関する。配列番号5、13、21、20、37、45、53、61、69、77、85および93のうちの1つ以上は、保存的置換を有してもよい。
【0047】
IgG重鎖は、典型的には約400~約600アミノ酸、さらに典型的には450~約550アミノ酸のサイズである。各重鎖の可変領域は、抗体クラスにかかわらず、典型的には約100~140アミノ酸長、最も典型的には約110~130アミノ酸である。軽鎖は典型的には約210~220アミノ酸長、さらに典型的には211~217アミノ酸長である。軽鎖の可変領域は、典型的には約100~120アミノ酸長である。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態は、重鎖内に、配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つ以上を含むか、配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つ以上とある程度の相同性、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%およびその中の任意の介在範囲の相同性を有する1つ以上のCDRを有する抗体またはその抗原結合部分に関する。配列番号2~4、10~12、18~20、26~28、34~36、42~44、50~52、58~60、66~68、74~76、82~84および90~92のうちの1つ以上は、保存的置換を有してもよい。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態は、軽鎖内に、配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つ以上を含むか、配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つとある程度の相同性、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%およびその中の任意の介在範囲の相同性を有する1つ以上のCDRを有する抗体またはその抗原結合部分に関する。配列番号6~8、14~16、22~24、30~32、38~40、46~48、54~56、62~64、70~72、78~80、86~88および94~96のうちの1つ以上は、保存的置換を有してもよい。
【0050】
さらに、本発明の抗体は、抗原結合部分、例えば、本発明のbNabを含むがこれに限定されない異なる個々のbNab由来のCDRから構成されてもよい。純粋に例として、操作された誘導体は、任意の変異体を含むNC37、BG1またはBG18のうちの1つに由来する軽鎖と、任意の変異体を含むNC37、BG1またはBG18のうちの1つを含む異なるbNab由来の重鎖とを含み得る。または、操作された誘導体は、BG18の1つの変異体由来の軽鎖と、BG18の別の変異体由来の重鎖とを含み得る。当業者であれば、組換え抗体作製方法が相当数の組換え抗体を可能にし、その各々が本開示の範囲内にあると明白に考えられることを理解するであろう。したがって、本発明のbNabは、米国特許第4,816,567号明細書に記載されているもののような組換えDNA法によって作製され得る。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)容易に単離され配列決定され得る。単離後、DNAを発現ベクターに入れ、次いで、普通なら免疫グロブリンタンパク質を産生しないサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはミエローマ細胞などの宿主細胞にこれをトランスフェクトし、組換え宿主細胞内でモノクローナル抗体を合成する。また、DNAは、例えば、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部に免疫グロブリンコード配列を共有結合させることによって修飾してもよい。そのような非免疫グロブリンポリペプチドは、本発明の抗体の定常ドメインを置換することができるか、本発明の抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインを置換してキメラ二価抗体を作製することができる。
【0051】
抗体が、例えば、いかなる血清、上清または他の細胞培養物もしくは関連物質をも実質的に含まないように、組換えまたはその他の方法で作製後、抗HIV-1抗体を精製または単離してもよい。抗体精製の方法は当技術分野で公知であり、選択的濃縮または特異的単離法を含み得る。例えば、クラス特異的親和性などの親和性精製を使用してもよい。免疫グロブリンを含む試料タンパク質のサブセットを単離するのを援助するために、最初に分画法を用いてもよい。典型的には、抗原特異的親和性は、抗原に結合する抗体を単離するために適用される。次いで、抗体を、薬学的に許容される抗HIV-1抗体組成物を作製するのに役立つ担体、緩衝剤、希釈剤、溶媒および/または保存剤などと組み合わせてもよい。
【0052】
抗体は一価抗体であり得る。一価抗体を調製するための方法は当技術分野で周知である。例えば、一方法は、免疫グロブリン軽鎖および修飾重鎖の組換え発現を含む。重鎖は、重鎖架橋を防ぐために、一般にFc領域内の任意の点で切断される。あるいは、関連するシステイン残基が、架橋を防ぐために別のアミノ酸残基で置換されるか、欠失される。インビトロ法も一価抗体を調製するのに適している。その断片、特にFab断片を作製するための抗体の消化は、当技術分野で公知の日常的な技術を使用して達成することができる。
【0053】
ヒトモノクローナル抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含む当技術分野で公知の様々な技術を用いて作製することができる[HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marksら、J.Mol.Biol.,222:581(1991)]。ColeらおよびBoernerらの技術も、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R.Liss, p.77(1985)およびBoernerら、J.Immunol., 147(1):86-95(1991)]。同様に、トランスジェニック動物、例えば内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されているマウスにヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによって、ヒト抗体を作製することができる。惹起後、ヒト抗体産生が観察され、これは遺伝子再配列、集合および抗体レパートリーを含むあらゆる点でヒトに見られるものと非常によく似ている。この手法は、例えば、米国特許第5,545,807号明細書、米国特許第5,545,806号明細書、米国特許第5,569,825号明細書、米国特許第5,625,126号明細書、米国特許第5,633,425号明細書、米国特許第5,661,016号明細書および以下の科学刊行物に記載されている:Marksら、Bio/Technology 10, 779-783(1992);Lonbergら、Nature 368 856-859(1994);Morrison、Nature 368, 812-13(1994);Fishwildら、Nature Biotechnology 14, 845-51(1996);Neuberger、Nature Biotechnology 14, 826(1996);LonbergおよびHuszar、Intern.Rev.Immunol.13 65-93(1995)。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態は、限定するものではないが、本発明の抗HIV-1抗体のCDR、例えば、任意の変異体およびその抗原結合部分を含むNC37、BG1およびBG18など、可変領域をコードするヌクレオチド配列を含有するベクターおよびベクター系に関する。ベクターは、例えば、必ずしもそうとは限らないがプラスミドであり得る。他の組換えベクターは当技術分野で公知であり、例えば、λファージベクターなどのファージベクター、非複製アデノウイルスベクターなどの他のウイルスベクター、コスミド、および/または人工染色体を含み得る。ベクター系は別個に誘導可能であってもなくてもよく、すなわち、異なるプロモーターおよび/またはリプレッサー要素を有してもよい。ベクター(ベクター系、例えば複数のプラスミドを含む)が本発明の範囲に包含されると考えられる系を含有する限り、ほとんどの操作されたベクターに共通するのは複製起点、マルチクローニング部位および選択マーカーである。所与のペプチド配列から核酸配列を導き出し、それらを最適な系にクローニングすることは、十分に当業者の範囲内である。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号1、5、9、13、17、21、25、29、33、37、41、45、49、53、57、61、65、73、77、81、85、89および93のうちの1つ以上をコードする1つ以上の核酸配列を含有するベクターまたはベクター系に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の抗HIV-1抗体のうちの1つ以上の1つ以上の重鎖および/または軽鎖の1つ以上のCDRをコードする1つ以上の核酸配列、例えば、配列番号2~4、6~8、10~12、14~16、18~20、22~24、26~28、30~32、34~36、38~40、42~44、46~48、50~52、54~56、58~60、62~64、66~68、70~72、74~76、78~80、82~84、86~88、90~92および94~96ならびにそれらの組合せのうちの1つ以上をコードする単数または複数のヌクレオチド配列を含有するベクターまたはベクター系に関する。重鎖/軽鎖および/またはCDRをコードするこれらのヌクレオチドは、保存的置換を有してもよく、CDRをコードするものについては、そのような保存的置換とは無関係に、ヌクレオチド配列とある程度(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)の相同性を共有してもよい。本発明のベクターまたはベクター系は、1つ以上の細胞に導入されてもよく(すなわち、細胞はベクターによって「形質転換」される)、そのような手段は当技術分野で公知である。
【0055】
C.医薬製剤および送達
本発明の一実施形態は、本発明の少なくとも1つの抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む医薬組成物、ならびにそれを必要とする患者の治療でのそれらの使用方法に関する。患者は、HIV-1による潜在感染または活性感染を有し得る。これらの組成物および方法に利用される抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、本発明の任意の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分であり得るが、特に有用なものは、組換え作製されたその変異体および/または操作された誘導体を含むBG18またはその変異体を含む抗HIV抗体またはその抗原結合部分である。
【0056】
患者への投与に適した薬学的に許容される抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分組成物は、生物学的活性を維持しながら許容温度範囲内での保存中に最大の安定性も促進する製剤中に有効量の単数または複数の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含有する。医薬組成物はまた、所望の製剤に応じて、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容される賦形剤、または動物もしくはヒト投与用の医薬組成物を製剤化するために通常用いられる任意のそのようなビヒクルを含むことができる。希釈剤は、この組合せの生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理的リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液およびハンクス液である。本発明の医薬組成物または製剤に有用な賦形剤の量は、それを必要とする対象に送達された際に抗体を均一に分散させることができるように組成物全体に抗体を均一に分布させるのに役立つ量である。賦形剤は、同時に、高すぎる濃度から起こり得る有害な副作用を最小限に抑えながら、望ましい有益な緩和または治癒効果をもたらす濃度に抗体を希釈するのに役立ち得る。賦形剤はまた、防腐効果も有し得る。したがって、高い生理学的活性を有する抗体に対しては、さらに多くの賦形剤が使用される。他方では、比較的低い生理学的活性を示す任意の活性成分については、さらに少量の賦形剤が使用される。
【0057】
薬学的に許容される組成物は、液体形態または固体形態であり得る。固体製剤は、必ずしもそうとは限らないが一般に凍結乾燥され、単回または複数回投与のいずれかのために投与前に溶液にされる。製剤は、熱変性を避けるために極端な温度またはpHにさらされるべきではない。したがって、生物学的に関連のあるpH範囲内で本発明の抗体組成物を製剤化することが不可欠である。特に製剤化と投与との間に長期間保存される液体製剤では、保存中に適切なpH範囲を維持するために緩衝化された溶液が多くの場合必要とされる。典型的には、液体製剤および固体製剤はともに、長期間にわたって安定性を維持するために、低温(通常2~8℃)での保存を必要とする。製剤化された抗体組成物、特に液体製剤は、限定するものではないが、有効濃度(通常<1%w/v)のベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノール、メチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンなど、保存中にタンパク質分解を防止または最小限に抑えるための静菌剤を含有してもよい。静菌剤は患者によっては禁忌であり得る。したがって、凍結乾燥製剤は、そのような成分を含有するか含有しない溶液中に再構成することができる。凍結防止剤としての糖類(ソルビトール、マンニトール、グリセロールおよびズルシトールなどのポリヒドロキシ炭化水素および/またはスクロース、ラクトース、マルトースまたはトレハロースなどの二糖類を含むが必ずしもこれらに限定されない)、および場合によっては関連塩(NaCl、KClまたはLiClを含むがこれらに限定されない)を含むがこれらに限定されない追加の成分を緩衝化された液体または固体抗体製剤に加えてもよい。そのような抗体製剤、特に長期保存が予定された液体製剤は、非経口注射にも製剤を有用にしながら、2~8℃またはそれ以上の温度で長期安定性を促進するために有用な範囲の総モル浸透圧濃度に依存する。例えば、必ずしもそうとは限らないが、総モル浸透圧濃度(溶液中の分子の総数)の有効範囲は、約200mOs/L~約800mOs/Lであり得る。溶液の総モル浸透圧濃度を適切な範囲内に維持するために、スクロースまたはソルビトールなどの凍結防止剤の量が製剤中の塩の量に応じて決まることは明らかであろう。したがって、塩を含まない製剤は、必ずしもそうとは限らないが、約5%~約25%のスクロースを含有し得る。
【0058】
あるいは、塩を含まないソルビトールベースの製剤は、必ずしもそうとは限らないが、約3%~約12%の範囲内でソルビトールを含有し得る。塩を含まない製剤は、有効なモル浸透圧濃度レベルを維持するために、それぞれの凍結防止剤の範囲を増加させることを必要とし得る。これらの製剤はまた、二価カチオン(MgCl、CaClおよびMnClを含むが必ずしもこれらに限定されない)および非32イオン性界面活性剤(non-32 ionic surfactant)(例えば必ずしも限定するものではないがポリソルベート80(Tween80(登録商標))、ポリソルベート60(Tween60(登録商標))、ポリソルベート40(Tween40(登録商標))およびポリソルベート20(Tween20(登録商標))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば限定するものではないがBrij58(登録商標)、Brij35(登録商標)、ならびにその他、例えば、Triton X-100(登録商標)、Triton X 114(登録商標)、NP40(登録商標)、Span85および非イオン性界面活性剤のPluronicシリーズ(例えば、Pluronic 121))を含有してもよい。静菌剤の考えられる封入を含む、そのような成分の任意の組合せは、本発明の抗体含有製剤を充填するのに有用であり得る。本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分はまた、通常は免疫グロブリン分子の一部ではない追加の化学的部分(例えば、ペグ化)を含有する抗体を表す「化学的誘導体」であり得る。そのような部分は、塩基分子の溶解度、半減期、吸収などを改善し得る。あるいは、これらの部分は、塩基分子の望ましくない副作用を減弱させ得るか、塩基分子の毒性を低下させ得る。
【0059】
インビボ治療のために、本発明の少なくとも1つの抗HIV抗体またはその抗原結合部分を含む医薬製剤を患者に投与または提供する。インビボ療法に使用される場合、本発明の抗HIV抗体またはその抗原結合部分は、治療有効量(すなわち、下記の実施例1に記載されるように総ウイルス量を排除または減少させる量)で患者に投与される。抗体は、公知の方法、例えば、静脈内投与に従い、例えば、ボーラスとしてか長期にわたる連続注入により、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、関節滑液嚢内、髄腔内、経口、局所または吸入経路により、ヒト患者に投与される。抗体またはその抗原結合部分は、可能であれば、標的細胞部位に非経口的に投与するか、静脈内に投与することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、静脈内または皮下投与によって投与される。本発明の治療用組成物は、全身的に、非経口的に、または局所的に患者または対象に投与され得る。疾患に対する治療および改善の成功を評価するための上記のパラメータは、医師によく知られている日常的な手順によって容易に測定可能である。
【0060】
非経口投与の場合、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、薬学的に許容される非経口ビヒクルと組み合わせて、単位用量の注射可能形態(溶液、懸濁液、エマルジョン)に製剤化されてもよい。そのようなビヒクルの例には、限定するものではないが、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。非水性ビヒクルには、限定するものではないが、不揮発性油およびオレイン酸エチルが挙げられる。担体としてリポソームを使用することができる。ビヒクルは、少量の添加剤、例えば、等張性および化学安定性を増強する物質、例えば緩衝剤および保存剤などを含有してもよい。
【0061】
本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、HIV-1に対する治療的処置を提供するのに十分な量で、当技術分野で利用可能な任意の方法、戦略および/または組合せで宿主に投与され得る。これらの組成物は、当技術分野で公知の様々な経路、特に、静脈内(IV)、筋肉内(IM)または皮下(SC)投与などの非経口経路を含むがこれらに限定されない非経口経路により個体に提供されてもよく、治療用抗体投与に関する当技術分野ではIV投与が標準である。これらの組成物は、分割または複数回用量として投与されてもよい(すなわち、治療レジームを通して製剤の滅菌状態を維持することによる時間差での抗体の投与)。
【0062】
用量および投与量レジメンは、医師により容易に決定される様々な要素、例えば感染の性質、例えば、その治療指数、患者、および患者の病歴に応じて決まる。一般に、治療有効量の抗体が患者に投与される。いくつかの実施形態では、投与される抗体の量は、約0.001mg/kg~約100mg/kg(患者体重)の範囲内、およびその間の任意の範囲内である。感染の種類および重症度に応じて、約0.1mg/kg~約50mg/kg体重(例えば、約0.1~15mg/kg/用量)の抗体が、例えば、1回以上の分割投与によるか、持続注入による患者への投与のための初期候補投与量である。抗HIV-1抗体は、製剤が放出される部位の近くの組織の障害または外傷を最小限に抑えるために、比較的低い容量速度、例えば、必ずしもそうとは限らないが、約0.001ml/日~10ml/日の容量速度で送達することができる。特定の生物学的製剤に応じて、低用量、例えば、約0.01μg/時または0.1μg/時、0.25μg/時、1μg/時、一般に最大約200μg/時の速度で製剤が放出され得るか、例えば、約0.001mL/日~約1mL/日の容量速度、例えば、1日当たり0.01マイクログラムから1日当たり約20ミリグラムまでの低容量速度で製剤が送達される。投与量は、使用される活性成分(例えば、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分)の効力、バイオアベイラビリティおよび毒性などのいくつかの要因、および対象の要件に応じて決まる。この療法の進行は、従来の方法およびアッセイにより、また医師または他の当業者に公知の基準に基づき、容易に監視される。疾患に対する治療および改善の成功を評価するための上記のパラメータは、医師によく知られている日常的な手順によって容易に測定可能である。
【0063】
本発明の抗HIV-1抗体用の送達ビヒクルの具体的な実施形態は、本明細書中で考察され、当技術分野でさらに公知であるようなPLGAマイクロスフェア、ならびにポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル;PEVAc)を含むポリマーベースの非分解性ビヒクルを含む。さらに、抗体ベースの治療用製品の制御放出および局所送達が、Graingerら、2004, Expert Opin.Biol.Ther.4(7):1029-1044)に概説されている。抗体をカプセル化することができる好適なマイクロカプセルにはまた、コアセルベーション技術または界面重合によって調製されたヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリメチルメタクリレートマイクロカプセルが挙げられ得る。タンパク質がPLGAマイクロスフェアに封入されている「Method for Producing IGF-1 Sustained-Release Formulations」と題されたPCT公開の国際公開第99/24061号パンフレットを参照されたい。この参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、マイクロエマルジョンまたはコロイド状薬物送達システム、例えばリポソームおよびアルブミンマイクロスフェアもまた使用され得る。他の好ましい徐放性組成物は、抗体を投与部位に保持するために生体接着剤を使用する。上記のように、徐放性製剤は、その中に抗体が配置される生分解性ポリマーを含み得、これにより、非即時放出がもたらされ得る。非注射用デバイスは、「インプラント」、「薬物デポーインプラント」、「デポーインプラント」、「非注射用デポー」またはそのようないくつかの類似用語として本明細書に記載され得る。一般的なデポーインプラントには、限定するものではないが、固体の生分解性および非生分解性ポリマーデバイス(延伸ポリマーまたは同軸ロッド状デバイスなど)、ならびに同様に当技術分野で公知の多数のポンプシステムが挙げられ得る。注射用デバイスは、ボーラス注射(注射後の薬物の放出および散逸)と、貯蔵リザーバーを注射部位に提供する貯蔵またはデポー注射とに分けられ、生物学的製剤の経時的な徐放を可能にする。抗体の経時的な長時間放出のための適切なリザーバーを提供するために、デポーインプラントが送達部位に外科的に繋留されてもよい。そのようなデバイスは、予め選択された期間にわたって治療のために治療的または予防的に必要とされるような量で薬物製剤を運搬することができる。デポーインプラントはまた、治療期間中の体内プロセス(プロテアーゼなど)による分解から製剤を保護し得る。当技術分野で知られているように、用語「徐放」は、長期間にわたるブロックポリマーマトリックスからのそのような薬剤のゆるやかな(連続的または不連続的)放出を指す。特定のデバイスとは無関係に、組成物の徐放は、抗体の局所的な生物学的有効濃度をもたらす。生物学的製剤の徐放は、製剤に応じて、1日、数日、1週以上の期間にわたるが、1カ月以上、または最大で約6カ月にわたる可能性が最も高い。当技術分野で公知の天然または合成ポリマーは、用途の広い分解動態、安全性、および生体適合性などの特性により、デポーインプラントとして有用であろう。これらのコポリマーは、活性成分の薬物動態を改良し、薬剤を酵素攻撃から保護するとともに、付着または注射の部位で経時的に分解するように操作することができる。当業者であれば、それぞれの製造方法、用いられる触媒、および徐放性デポーインプラントまたはデポー注射の最終分子量を含めて、これらのコポリマーの特性を操作するために、当技術分野には十分な教示があることを理解するであろう。天然ポリマーには、限定するものではないが、タンパク質(例えば、コラーゲン、アルブミンまたはゼラチン)、多糖類(セルロース、デンプン、アルジネート、キチン、キトサン、シクロデキストリン、デキストラン、ヒアルロン酸)および脂質が挙げられる。生分解性合成ポリマーには、限定するものではないが、様々なポリエステル、L-グルタミン酸とガンマエチル-L-グルタメートとのコポリマー(Sidmanら、1983、Biopolymers 22:547-556)、ポリラクチド([PLA];米国特許第3,773,919号明細書および欧州特許第058,481号明細書)、ポリ乳酸ポリグリコレート(PLGA)、例えば、上記のように、ポリラクチド-コ-グリコリド(例えば、米国特許第4,767,628号明細書および米国特許第5,654,008号明細書参照)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(α-ヒドロキシ酸)のポリエチレングリコール(PEG)コンジュゲート、ポリオルトエステル、ポリアスピリン、ポリホスファゲン、ビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、PVA-g-PLGA、PEGT-PBTコポリマー(ポリアクティブ)、メタクリレート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、PEO-PPO-PEO(pluronics)、PEO-PPO-PAAコポリマー、PLGA-PEO-PLGA、ポリオルトエステル(POE)またはそれらの任意の組合せ(例えば、米国特許第6,991,654号明細書および米国特許出願第20050187631号明細書参照(これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、ヒドロゲル(例えば、Langerら、1981、J.Biomed.Mater.Res.15:167-277:Langer、1982、Chem.Tech.12:98-105参照、非分解性エチレン-酢酸ビニル(例えば、エチレン酢酸ビニルディスクおよびポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル))、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えば、Lupron Depot(商標)、ポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸(欧州特許第133,988号明細書)、ヒアルロン酸ゲル(例えば、米国特許第4,636,524号明細書参照)、アルギン酸懸濁液、ポリオルトエステル(POE)などが挙げられ得る。ポリラクチド(PLA)およびグリコリドとのそのコポリマー(PLGA)は、Lupron Depot(商標)の商品化がPLAポリマーを利用する最初の非経口徐放性製剤として1989年に認可されたことから、当技術分野で周知である。活性成分の徐放を達成するための賦形剤としてPLAおよびPLGAを利用する製品の追加の例には、Amidox(PLA;歯周病)、Nutropin Depot(PLGA;hGHを伴う)およびTrelstar Depot(PLGA;前立腺癌)が挙げられる。他の合成ポリマーには、限定するものではないが、ポリ(c-カプロラクトン)、ポリ3-ヒドロキシ酪酸、ポリ(β-リンゴ酸)およびポリ(ジオキサノン)];ポリ無水物、ポリウレタン(国際公開第2005/013936号パンフレット参照)、ポリアミド、シクロデキストラン、ポリオルトエステル、n-ビニルアルコール、ポリエチレンオキシド/ポリエチレンテレフタレート、ポリホスフェート、ポリホスホネート、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリジヒドロピランおよびポリアセタールが挙げられた。非生分解性デバイスには、限定するものではないが、様々なセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)シリコンベースのインプラント(ポリジメチルシロキサン)、アクリルポリマー、(ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシ(エチルメチルアクリレート)、ならびにポリエチレン-コ-(酢酸ビニル)、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、ポロキサミン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリエチレン-クロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEまたは「テフロン(商標)」)、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド-ポリスチレン、ポリ-a-クロロ-p-キシレン、ポリメチルペンテン、ポリスルホンおよび他の関連する生物学的に安定なポリマーが挙げられる。徐放性デポー製剤に適した担体には、限定するものではないが、マイクロスフェア、フィルム、カプセル、粒子、ゲル、コーティング、マトリックス、ウェーハ、丸剤または他の医薬送達組成物が挙げられる。そのような徐放性製剤の例は上に記載されている。米国特許第6,953,593号明細書、米国特許第6,946,146号明細書、米国特許第6,656,508号明細書、米国特許第6,541,033号明細書および米国特許第6,451,346号明細書もまた参照されたい。これらの各内容は参照により本明細書に組み込まれる。剤形は、予め選択された期間にわたって治療のために治療的に必要とされるような量および濃度で薬物製剤を運搬することができなければならず、治療期間中の体内プロセスによる分解から製剤を十分に保護しなければならない。例えば、剤形は、代謝過程からの分解、および漏出、クラッキング、破損または歪みなどのリスクに対して保護するための特性を有する材料から製造された外面によって囲まれ得る。これは、例えば、対象による正常な関節およびその他の運動の結果として、薬物放出デバイス上、または例えば対流性薬物送達デバイス内に及ぼされる物理的力、リザーバー内で生成される圧力に関連した物理的力のために、使用中に受けるであろうストレス下での制御されない様式での剤形内容物の排出を阻止することができる。薬物リザーバーまたは薬物を保持もしくは含有するための他の手段はまた、活性剤製剤との意図されない反応を回避するような材料でなければならず、好ましくは生体適合性である(例えば、剤形が移植される場合、対象の身体または体液に対して実質的に非反応性である)。一般に、抗HIV-1抗体は、少なくとも12時間から少なくとも1週間にわたり個体に投与され、必要に応じて、少なくとも10、20、30、100日または少なくとも4カ月もしくは少なくとも6カ月、12カ月、24カ月以上にわたって薬物を送達するように設計されたインプラントを介する可能性が最も高い。
【0064】
いくつかの実施形態では、本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、HIV-1のための1つ以上の追加の治療剤と同時投与され得、例えば、1つ以上のHIV剤(例えば、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト/エントリー阻害剤、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(INSTI)およびそれらの組合せ)、および/または本発明の追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含むがこれらに限定されない追加の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分と同時投与され得る。下記の実施例1に示すように、NC17、BG1およびBG18の1:1:1投与は、インビボでウイルス量を減少させるのに有効であった。理論に縛られることを望むものではないが、データはモノクローナルbNAbおよび非常に低レベルの中和感受性ウイルスがEB354に共存することを示し、これは抗体がこの個体のエリートコントロールに寄与することを示唆する。別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つの本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分と薬学的に許容される担体とを含有する受動ワクチンまたは医薬組成物を提供する。一実施形態によれば、ワクチンまたは医薬組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つの抗体と薬学的に許容される賦形剤とを含有する組成物である。ワクチンは、本明細書に記載の特性を有する複数の抗体を任意の組合せで含むことができ、他の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分をさらに含むことができる。受動ワクチンは、当技術分野で公知の1つ以上の薬学的に許容される保存剤、担体および/または賦形剤を含み得る。他の実施形態では、本発明は、HIV-1またはその抗原性断片を含有する活性ワクチンまたは医薬組成物を提供する。HIV-1を使用する場合、これは弱毒化され得る。HIV-1は加熱殺菌され得る。抗原性断片が利用される場合、必須ではないが糖タンパク質gp120を使用することが好ましい場合があるが、糖タンパク質gp120の断片は許容され得る。
【0065】
本組成物は、動物を免疫するための免疫原性組成物に使用され得る。本発明によるそのような免疫原性組成物は、ワクチンの調製に使用され得る。好ましくは、予防用および/または治療用ワクチンが製造される。したがって、本発明の範囲内には、上記のように薬学的に許容される担体および有効量の抗原を含有する免疫原性またはワクチン組成物がある。組成物に使用される担体は、投与方法および投与経路、ならびに標準的な薬務に基づいて選択することができる。組成物はアジュバントも含有することができる。アジュバントの例には、コレラ毒素、大腸菌熱不安定性エンテロトキシン、リポソーム、非メチル化DNA(CpG)または任意の他の先天性免疫刺激複合体が挙げられる。免疫学的応答をさらに高めるために使用することができる様々なアジュバントは、宿主種に応じて決まり、フロイントアジュバント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニンおよびジニトロフェノールを含む。
【0066】
ワクチン製剤は、それ自体で、または医薬組成物もしくは治療用組成物の形態で対象に投与され得る。本発明の組成物、およびアジュバントは、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、水簸、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。医薬組成物は、本発明の抗原を薬学的に使用可能な調製物に加工するのを容易にする1つ以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または助剤を使用して従来の方法で製剤化され得る。適切な製剤は選択された投与経路に応じて決まる。
【0067】
注射では、ワクチン調製物は、水溶液中、好ましくはハンクス液、リンゲル液、リン酸緩衝食塩水または任意の他の生理食塩水緩衝液などの生理学的に適合性の緩衝液中で製剤化され得る。溶液は、懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの処方剤を含有し得る。あるいは、組成物は、使用前に好適なビヒクル、例えば、無菌パイロジェンフリー水を用いて構成するための粉末形態であり得る。
【0068】
投与される組成物の量は、当業者によって決定され得るように、例えば、組成物中の特定の抗原、アジュバントが抗原と同時投与されるかどうか、同時投与されるアジュバントの種類、投与の様式および頻度、ならびに所望の効果(例えば、保護または治療)に応じて決まる。投与のためのワクチン製剤の有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。有効量は、最初にインビトロアッセイから推定することができる。例えば、当技術分野で周知の技術を用いて動物モデルに対してある用量を処方して、免疫応答の誘導を達成することができる。当業者であれば、本明細書に記載の結果に基づいて、あらゆる動物種に対する投与を容易に最適化することができよう。投与量および間隔は個々に調整されてもよい。例えば、ワクチンとして使用される場合、本発明のワクチン製剤は、1~36週間にわたり約1~3用量で投与されてもよい。ワクチン接種は、状況によっては、特に受動的ワクチン接種の場合、無期限に継続する場合がある。好ましくは、1または2用量を約3週間から約4カ月の間隔で投与し、その後にブースターワクチン接種を定期的に行ってもよい。個々の動物には代替のプロトコルが適切である場合がある。好適な用量は、上記のように投与された場合、少なくとも4~12カ月間感染から動物を保護するのに十分な、免疫化動物の免疫応答を上昇させることができるワクチン製剤の量である。一般に、用量中に存在する抗原の量は、宿主1kg当たり約1pg~約100mg、典型的には約10pg~約1mg、好ましくは約100pg~約1pgの範囲である。好適な用量範囲は注射経路および対象の大きさによって変わるが、典型的には約0.1mL~約5mLの範囲である。必要に応じて追加のブースターを投与することができる。
【0069】
D.キットおよび診断方法
本発明の一実施形態は、試料中に存在するHIV-1を検出するためのキットに関する。これらのキットは、本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分および様々な試薬、例えば、抗HIV-1抗体とHIV-1上に存在するエピトープ、例えばgp120および/またはgp140、またはそれらの抗原性断片との間の結合の検出を助ける試薬を含み得る。
【0070】
キットは、イムノアッセイなどのインビトロアッセイ、例えば、酵素免疫アッセイ(EIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ELISPOT(酵素結合免疫スポット)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫蛍光法、およびウエスタンブロット分析および/または免疫沈降法を含むがこれらに限定されない当技術分野で公知の他のアッセイであり得る。インビトロアッセイは、競合的であり得るか、サンドイッチアッセイにおけるように間接的であり得るか、抗体捕捉方法であり得る。例えば、直接ELISAでは、抗原の緩衝溶液、例えば、HIV-1もしくはその抗原性断片を含有する試料、またはHIV-1を含有するか含有すると疑われる生体試料をマイクロタイタープレート、例えば、96ウェルプレートのウェルに加える。次いで、未反応のタンパク質の溶液、例えば、ウシ血清アルブミンまたはカゼインをウェルに加える。他の一般的な酵素はアルカリホスファターゼまたはβ-D-ガラクトシダーゼを含むが、他の酵素も考えられ、本発明によって具体化されると解釈されるように、レポーター分子酵素にコンジュゲートした、例えば、必ずしも酵素ではないが西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を加える。次いで、酵素用の基質を加え、これにより検出可能なシグナルをもたらす。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼにTMBを加えると着色生成物が得られ、その場合ELISAは比色アッセイである。ELISAは、定性的または定量的なフォーマットで操作され得る。定性的結果は、試料について単純な陽または陰の結果(有または無)を提供する。陽と陰との間のカットオフは分析者によって決定され、統計的であってよい。サンドイッチELISAは一般に以下のプロトコルに従う。基質、例えばマイクロタイタープレート上に、捕捉抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を結合させる(すなわち、「固定化する」)。次いで、抗原含有試料(すなわち、HIV-1またはその抗原性断片を含有する試料を基質に加え、その時点で抗原含有試料が抗HIV-1抗体によって捕捉される。その後、基質を洗浄して未結合抗原を除去する。gp120上の異なるエピトープなどのHIV-1上の異なるエピトープ、またはgp140などの異なる抗原上の異なるエピトープに結合する第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を加える。第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、レポーター分子、例えば酵素に結合するが、レポーター分子は検出可能なシグナルをもたらす任意の分子であり得る。プレートは2回洗浄してもよく、レポーター分子が酵素である場合は、検出可能なシグナルをもたらすTMBなどの基質を加えてもよい(同様に比色アッセイ)。第3の種類の一般的なELISAは競合ELISAである。これらの実施形態では、抗原含有試料の存在下で、未標識の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分をインキュベートし、次いでこれを抗原被覆ウェルに加える。プレートを洗浄して未結合抗体を除去する。一次抗体に特異的な二次抗体、例えば、抗HIV-1抗体に特異的な二次抗体。二次抗体は、本明細書に記載されるように、酵素(または検出可能なシグナルをもたらし得る任意の他の分子)などのレポーター分子に結合する。一部の競合ELISAは、標識抗体ではなく標識抗原を利用する。試料中の抗原が少なければ少ないほど、さらに多くの標識抗原が保持され、さらに強力な検出可能なシグナルが生じる。
【0071】
他の形態の一般的なインビトロアッセイには、ラジオイムノアッセイ(RIA)が挙げられる。典型的には、既知量の抗原が放射性トレーサー、例えばI-125に結合するが、99Tcなどの他のものが使用に適しており、次いでそれを抗原に特異的な既知量の抗体、例えば、抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分と混合する。次いで、未知量の抗原を含有する試料(例えば、HIV-1またはその抗原性断片を含有するか含有すると疑われる生体試料)を加える。これは、特異的な結合に対する直接的な競合である。未標識抗原の濃度が増加するにつれて、抗HIV-1抗体と標識標準との間の結合は減少し、放射能を測定することによってこれを直接測定することができる。他のアッセイが公知であり、当業者であればそれらの適用性を容易に認識するであろう。
【0072】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料中のHIV-1またはその抗原性断片を検出する方法に関する。そのような方法は、本明細書に記載されるアッセイのいずれか、または当技術分野で公知の他のアッセイを利用し得る。本明細書に記載のアッセイのいくつかは、試料中に存在する抗原の量を定量することができ、したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、試料中、例えば生体試料中に存在するHIV-1またはその抗原性断片の量を定量する方法に関する。
【0073】
本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含有するアッセイは、診断目的に利用してもしなくてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分の診断的使用方法に関する。本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分の特異性のために、本発明の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含むイムノアッセイは、HIV-1の活性感染または潜伏感染を有すると個体を診断するのに十分であり得る。使用される抗体またはその抗原結合部分がHIV-1に特異的である限り、抗体またはその抗原結合部分はいかなる特定のエピトープにも限定される必要はない。例えば、サンドイッチアッセイでは、第1の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は、gp120上などの第1のエピトープに結合し得、(レポーター分子に結合する)第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分は第2のエピトープに結合し得、これらは同じ抗原上に存在してもしなくてもよい。したがって、HIV-1またはその抗原性断片の量を検出または定量するために使用されるキットおよび方法は、それらの抗原結合部分を含むBG18、NC37およびBG1を含有し得、本発明の範囲内であると考えられる。または、それらがそのようなキット/方法への組み込みに適している限り、それらの抗原結合部分を含むBG18、NC37およびBG1のいずれか、ならびに他の任意の抗HIV-1抗体。試料中に存在するHIV-1を検出および/または定量する目的で、または診断目的であっても、そのような目的のための有用性を有するために、使用される抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分がHIV-1を広域に中和することができる必要は必ずしもないことが理解される。
【0074】
E.均等物
範囲の値が提供される場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間にある介在値、およびその記載された範囲内の任意の他の記載された値または介在値のそれぞれが、本発明内に包含されると理解される。これらの小さい方の範囲の上限および下限は、独立して小さい方の範囲に含まれ得、同様に本発明内に包含され、記載された範囲内の任意の具体的に除外される限界に従属する。記載された範囲が限界のうち一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界の両方を除く範囲も本発明に含まれる。
【0075】
別途定義しない限り、本明細書で使用されるあらゆる技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するものと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施および試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書で言及されるあらゆる刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0076】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「and」および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の参照対象を含む。
【0077】
用語「約」は、ベースライン値と実質的に異なると当業者によって解釈されないであろう値の範囲を指す。例えば、用語「約」は、記載された値の20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%以内の値、ならびにそのような記載された値の間に介在する値を指し得る。
【0078】
本明細書に開示された刊行物は、本発明の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、先行発明によるそのような刊行物に本発明が先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行日は実際の刊行日とは異なることがあり、実際の刊行日は独立して確認する必要があることがある。
【0079】
本明細書に引用された各出願および特許、ならびに各出願および特許に引用された各文献または参考文献、特許または非特許文献(発行された各特許の審査中を含む;「出願引用文献」)、およびこれらの出願および特許のいずれかに対応するおよび/またはそれらから優先権を主張するPCTおよび外国出願または特許の各々、および各出願引用文献内で引用または参照された各文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に明示的に組み込まれる。さらに一般的には、文献または参考文献は、特許請求の範囲の前の参考文献一覧または文献自体のいずれかで本文に引用されており、これらの文献または参考文献(「本明細書中に引用された参考文献」)の各々、ならびに本明細書中に引用された参考文献の各々に引用された各文献または参考文献(任意の製造業者の仕様書、指示書などを含む)は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0080】
以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに説明するのに役立つ。
【0081】
VII.実施例
1.ウイルス血症コントローラー(Viremic Controller)に見られる強力なHIV-1広域中和抗体および抗体感受性ウイルスの共存
A.方法
HIV-1感染者EB354
HIV-1感染長期非進行者394例のコホート内で、中和の広域性および効力について上位1%に入ったドナーEB354から得られたIgGを精製した。ドナーEB354は1986年にHIV-1クレードBと診断された。ドナーEB354は1995年から1998年の間にジダノシンおよびスタブジンによる治療を受けたが、それ以来抗レトロウイルス療法は受けていない。ドナーEB354は、2002年以降臨床的に頻繁に追跡されてきた(表3:HLA A*01:01、24:02、B*27:05、57:01、C*01:02、06:02)。ほとんどの個体では、感染直後に株特異的抗体が急速に発現する。この応答は、場合によってはbNAbを誘発する耐性ウイルス変異体の選択と関連している。ただし、bNAbの発現が、共存するbNAbに対して耐性である自己由来のプラズマウイルスの迅速な選択と関連しているという点で、詳細に試験された個体とEB354とは異なる。感受性かつ耐性のウイルス株がbNAbと共存しているためEB354は重要であり、耐性株は、何らかの方法で部分的にしか有効でないか、CD8+T細胞によって抑制されているため、高レベルのウイルス血症を引き起こすことができない。したがって、bNAb感受性プラズマウイルスはこの個体の免疫圧力を逃れられず、ウイルスが持続するbNAb:ウイルスの平衡状態をもたらすが、高レベルのウイルス血症を引き起こすことはできない。EB354は、エリートコントローラーおよびエリートニュートラライザーの両方であるという点で独特である。HIV-1エリートコントローラーとは、長年にわたってウイルス量を低く維持する感染者である。これらの個体はウイルスを伝播する可能性が低く、AIDSを発症せず長期間生存を維持する。HIV-1エリートコントローラーの85%には、HLA対立遺伝子B57*01および/またはB27*05が見られる。これらの対立遺伝子は、CD8T細胞の細胞傷害活性の増強と関連している。ウイルス血症進行者(すなわち、高いウイルス量を有する患者)と比較して、エリートコントローラーはbNAbを発現する可能性が低い。EB354では、感染を部分的に制御している可能性がある堅牢なCD8+T細胞応答に関係なく、bNAbの発現および親和性成熟を補助するのに十分なHIV-1複製が見られた。本明細書中で考察されるように、ドナーEB354の血清学的中和活性を説明するbNAbは、いくつかの重複しないエピトープを認識する。
【0082】
【表3】
【0083】
B細胞選別および抗体単離
J.F.Scheidら、A method for identification of HIV gp140 binding memory B cells in human blood.Journal of immunological methods 343, 65-67(2009)に記載されているように、ドナーEB354 PBMC由来のベイトCD19IgGB細胞の単一細胞選別を行った。抗CD19磁気ビーズ(MACS)を用いてメモリーB細胞を予め濃縮し、以下の4種類のベイトを用いて染色した:ベイトとしてのgp120 2CCコアタンパク質、gp140YU2、gp14092UG37.8(クレードA)+gp140CZA79012(クレードC)の1:1混合物およびBG505 SOSIP.664。レスキュープライマーを使用して重鎖およびIgλ遺伝子の両方を増幅し、通常のプライマーをIgK鎖に使用した。PCR産物をいずれも配列決定し、Ig遺伝子使用、CDR3、およびV/V体細胞超変異の数(IgBLASTおよびIMGT)について分析した。T.Tillerら、Efficient generation of monoclonal antibodies from single human B cells by single cell RT-PCR and expression vector cloning.Journal of immunological methods 329, 112-124(2008)に以前に記載されているように、精製し消化したPCR産物をヒトIgγ1、IgκまたはIgλ発現ベクターにクローニングし、F.Kleinら、Enhanced HIV-1 immunotherapy by commonly arising antibodies that target virus escape variants.The Journal of experimental medicine 211, 2361-2372(2014)に記載されているように、指数関数的に増殖するHEK 293-6E細胞へのIgH、IgKおよびIgL発現プラスミドの一過性トランスフェクションによって作製した。
【0084】
中和試験
ルシフェラーゼベースのTZM.bl細胞アッセイを用いて、HIV-1中和を評価した。要約すると、エンベロープシュードウイルスを単一抗体の5倍連続希釈物とともにインキュベートし、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を保有するTZM.bl細胞に適用した。48時間後、細胞を溶解し、発光を測定した。IC50およびIC80は、相対発光単位(RLU)をそれぞれ50%および80%減少させる単一抗体濃度を反映する。抗体データベース計算ツールを使用して、範囲曲線を構築した。
【0085】
結晶化、X線データ収集および構造決定
Asn26HCをGlnに変異させることによって重鎖位置26にある潜在的なN結合型グリコシル化部位が除去されたBG18 Fabの結晶が、野生型BG18 Fabの結晶と比較して優れたサイズおよび形態を示したため、BG18N26Q Fabを用いて構造決定を行った。BG18N26Q Fabの結晶(空間群P2;a=46.12Å、b=71.04Å、c=69.54Å;β=98.48°;非対称単位当たり1分子)は、0.2μLの18mg/mLタンパク質溶液と、0.2mLの0.1M酢酸ナトリウムpH4.5、26.8%(v/v)ポリエチレングリコール(PEG)400および13.4%(w/v)PEG8,000とを20℃で混合し、20%(v/v)エチレングリコールを補充した母液中で凍結保護し、液体窒素中で急速冷却することによって得られた。1.5:1のタンパク質:リザーバー比で250nLの液滴を用いる0.1M酢酸ナトリウム三水和物pH4.6および2.0M硫酸アンモニウムのリザーバーを用いたシッティングドロップでの蒸気拡散により、NC102Fab(空間群P2;a=60.2Å、b=82.5Å、c=117.2Å;非対称単位当たり1分子)の結晶を作製した。25%(v/v)エチレングリコールを補充した母液中で結晶を凍結保護し、液体窒素中で急速冷却した。1.5:1タンパク質:リザーバー比でタンパク質とリザーバー(0.1M HEPES pH7.5および20%(w/v)PEG10,000を含む)とをインキュベートすることによる250nLのシッティングドロップでの蒸気拡散により、NC37-93TH057複合体(空間群P2;a=63.6Å、b=67.4Å、c=210.4Å;非対称単位当たり1個の複合体)の結晶を作製した。20%(w/v)PEG400を補充した母液中で結晶を凍結保護し、液体窒素中で急速冷却した。
【0086】
Pilatus 6Mピクセル検出器(Dectris)を装備したStanford Synchrotron Radiation Lightsource beamline 12-2でX線回折データを収集した。データの索引付け、統合および拡大縮小にXDSを使用した。BG18N26Q Fabの結晶は1.5Åに回折し、検索モデルとしてCDRループを除去した10-1074 Fab(PDBコード4FQ2)VとC1Cとを用いた分子置換によって構造を解明した。PhenixとCootでの手動モデル構築とによる精密化の反復アプローチを使用して構造を精密化した。BG18N26Q Fabの最終モデル(Rwork=18.0%、Rfree=18.9%)は、ラマチャンドランプロットの好ましい領域、許容される領域および許容されない領域それぞれに、98.3%、1.7%および0%の残基を有した。NC102 Fabは1.6Åに回折し、検索モデルとしてCDRループを除去したVを有するNIH45-46のモデル(PDBコード3U7W)とC1Cとを用いた分子置換によって構造を解明した。NC102 Fabの最終モデル(Rwork=18.0%、Rfree=20.0%)は、ラマチャンドランプロットの好ましい領域、許容される領域および許容されない領域それぞれに、98%、2%および0%の残基を有した。検索モデルとしてNC102 V、C1Cおよび切断型gp120コア(PDB 3U7Y由来)の検索モデルを使用して、分子置換によってNC37-93TH057 gp120複合体構造を解明した。NC37-93TH057複合体の最終モデル(Rwork=21.0%、Rfree=26.0%)は、ラマチャンドランプロットの好ましい領域、許容される領域および許容されない領域それぞれに、96%、4%および0%の残基を有した。データ収集および精密化統計を表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
約40Åの分解能までの極低温電子トモグラフィー/サブトモグラム平均法によってBG505 SOSIP.664-BG18-179NC75複合体の構造を解明し、ネガティブ染色された試料から単一粒子EM構造を解明するための参照構造として使用した。精製したBG505 SOSIP.664-BG18-179NC75複合体をTBS中10μg/mLに希釈した直後に、穴あきカーボンサポートフィルム(400メッシュ、Cuグリッド(Ted Pella, Inc.))上のグロー放電した極薄Cフィルムに3μLを加えた。グルタルアルデヒド蒸気を用いてグリッド上の試料を架橋し、次いで3%酢酸ウラニルにより染色した。Gatan Ultrascan 2k X 2k CCDを備えた120keVで作動するFEI Tecnai T12透過型電子顕微鏡を使用してデータを収集した。1画素当たり2.5Åをもたらす1μmのデフォーカスで42,000倍の公称倍率で0.5秒の露光時間を使用して画像を取得した。EMAN2.1でスウォームピッキング(swarm picking)を使用して合計25,639個の粒子をピッキングし、EMAN2.1を使用してCTF補正を行った。RELIONを使用して最初の参照のない2Dクラスの平均化を行い、全粒子を250のクラスに分類した。良好なクラス平均に対応する9,827個の粒子を選択し、RELIONで3D分類を使用してその粒子をさらに分類し、その後、7,925個の粒子を精密化のために選択した。3D分類および精密化のための参照構造を得るために、極低温電子トモグラフィーによって、独立したBG505 SOSIP.664-BG18-179NC75複合体試料からデータを収集し、Scharf, L.ら、Broadly Neutralizing Antibody 8ANC195 Recognizes Closed and Open States of HIV-1 Env.Cell, 2015.162(6):p.1379-90に記載された方法を用いて、40Åサブトモグラム平均化構造を得た。単一粒子再構成のための参照構造として使用するために、サブトモグラム平均化構造を80Åにローパスフィルタリングした。RELIONと、単一粒子EM再構成の分解能推定に推奨されるカットオフ0.143のゴールドスタンダードFSCとを使用して、最終的な単一粒子再構成の分解能を計算した(約25Å)。
【0089】
EM密度マップの適合
USCFキメラを用いてEM構造を視覚化した。以下の選択肢を有するUCSFキメラ内のフィット・イン・マップ・ユーティリティ(fit in map utility)を使用して、結晶構造からの座標をサブトモグラム平均化またはネガティブ染色単一粒子EM構造に適合させた:リアルタイム相関/平均更新、原子からシミュレートしたマップの使用、分解能25Å。BG505 SOSIP.664構造(PDB 4TVP)を最初に密度に適合させ、次いでBG18 FabおよびCH103 Fab(PDB 4JAM;179NC75 Fabのモデルとして)について個々に対応する密度に適合させた。FabのC1-Cドメイン領域は低い密度を示した。
【0090】
構造決定試験のためのタンパク質作製および精製
一過性トランスフェクションによって6×-Hisタグ付きBG18、BG18N26Q、NC102およびNC37 FabをHEK293-6E細胞に発現させ、Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィー(GE Healthcare)およびSuperdex 200 16/60サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(GE Healthcare)を用いて、トランスフェクトした細胞上清から精製した。切断されたHisタグ付き93TH057 gp120コアタンパク質をバキュロウイルス感染昆虫細胞内で産生させ、Ni2+アフィニティークロマトグラフィー(GE Healthcare)を用いて、記載されているように精製した(Diskinら、Science 2011;Diskinら、NSMB 2010)。結晶化試験の前に、精製NC37および93TH057タンパク質を同時インキュベートし(2:1モル比のFab対gp120コア)、gp120タンパク質1mg当たり5kUのエンドグリコシダーゼHを用いて25℃で3時間処理した。Superdex 200 10/300 GLカラム(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって、エンドグリコシダーゼH処理複合体を精製した。
【0091】
Sanders, R.W.ら、A next-generation cleaved, soluble HIV-1 Env trimer, BG505 SOSIP.664 gp140, expresses multiple epitopes for broadly neutralizing but not non-neutralizing antibodies.PLoS Pathog, 2013.9(9):p.e1003618に記載されているように、EM試験用の可溶性BG505 SOSIP.664三量体を構築した。5μMのキフネンシン(Sigma)を用いて処理したHEK293-6E細胞を、4:1の比でBG505 SOSIP.664および可溶性フューリンをコードするプラスミドを用いて同時トランスフェクトした。2G12 IgGモノマーをNHS活性化セファロースカラム(GE Healthcare)に共有結合させることによって作製された2G12免疫親和性カラムを使用して、細胞上清からBG505 SOSIP.664タンパク質を回収した。3M MgClを用いてタンパク質を溶出した後、直ちに緩衝液をトリス緩衝食塩水(TBS)pH7.4(50mM NaCl)に交換した。Mono Q 5/50 GL(GE Healthcare)、続いてSuperose 6 10/300 SEC(GE Healthcare)を用いて三量体をさらに精製した。
【0092】
自己由来ウイルス
製造業者の指示に従ってQiagen MinElute Virus Spinキットを用いて、患者の血漿からHIV-1 env遺伝子HIV-1-RNAの単一ゲノム配列決定(SGS)を抽出した。抽出したRNAを、SuperScript III Reverse TranscriptaseおよびHIV-1特異的プライマーenvB3outを用いてEnv特異的cDNA合成に供した。
【0093】
envB5out:5’-TAGAGCCCTGGAAGCATCCAGGAAG-3’(配列番号97)
envB3out:5’-TTGCTACTTGTGATTGCTCCATGT-3’(配列番号98)
envB5in:5’-TTAGGCATCTCCTATGGCAGGAAGAAG-3’(配列番号99)
envB3in:5’-GTCTCGAGATACTGCTCCCACCC-3’(配列番号100)。
【0094】
第1ラウンドのPCRは、1×High Fidelity緩衝液、2mM MgSO4、0.2mM dNTPおよび0.5単位のHigh Fidelity Platinum Taqを含有する20μLの容量で、プライマーenvB5outおよびenvB3outの各々を0.2μM用いて行った。第2ラウンドのPCRは、1μLのPCR 1ならびに0.2μMのenvB5inおよびenvB3inのプライマーを用いて行った。PCR条件は、45サイクルおよび58℃の上昇させたアニーリング温度を除いてPCR-1と同じであった。PCR-2産物は、1%96ウェルE-Gels(Invitrogen)を用いて確認した。30%未満の増幅効率を有するPCRからのバンドをライブラリー調製に供し、Illumina Nextera DNAサンプル調製キット(Illumina)を用いて配列決定した。J. L.Kirchherrら、High throughput functional analysis of HIV-1 env genes without cloning.J Virol Methods 143, 104-111(2007)に記載のプロトコルに従って、CMV-Env発現カセットを作製した。6ウェルプレート中で500ngのCMV-envをpSG3Δenvとともに293T細胞に同時トランスフェクトし、48時間後に上清を回収した。いずれのプラスミドも発現前に配列確認した。TZM-blアッセイによる中和試験に上清を供した。
【0095】
Envグリコール変異ウイルスのTZM-blアッセイ
Li, M.ら、Human immunodeficiency virus type 1 env clones from acute and early subtype B infections for standardized assessments of vaccine-elicited neutralizing antibodies.J Virol, 2005.79(16):p.10108-25に記載されているように、293T細胞(ATCC)にHIV-1 Env発現プラスミドと、pSG3ΔEnvと呼ばれるEnv欠損ゲノムバックボーンプラスミド(Env-deficient genomic backbone plasmid)とをトランスフェクトすることによってシュードウイルスを作製した。中和アッセイで使用するために、シュードウイルスをトランスフェクションの72時間後に回収した。上記のLiらに記載されているように、単一ラウンドの複製シュードウイルスアッセイとTZM-Bl標的細胞とを使用して中和活性を評価した。要約すると、TZM-bl細胞を96ウェル平底プレートに播種した。このプレートにシュードウイルスを加え、これを抗体の連続希釈物とともに37℃で1時間プレインキュベートした。感染の72時間後に、溶解およびBright-Glo TMルシフェラーゼ基質(Promega)の添加時にルシフェラーゼレポーター遺伝子発現を定量した。IC50値を決定するために、非線形回帰により用量反応曲線を適合させた。
【0096】
HIV-1 V3糖ペプチドの合成
Amin, M.N.ら、Synthetic glycopeptides reveal the glycan specificity of HIV-neutralizing antibodies.Nat Chem Biol, 2013.9(8):p.521-6に記載の手順に従って、標的糖ペプチドを作製するために、GlcNAc-ペプチド前駆体の自動固相ペプチド合成およびその後のGlcNAc-ペプチドの酵素的糖転移反応からなる化学酵素的方法を用いて、いくつかのHIV-1株に由来するV3糖ペプチドの合成を達成した。25℃でBIAcore T200システム(GE Healthcare)を用いるSPRにより、ビオチン化合成糖ペプチドとBG18およびBG8 IgG抗体との相互作用を評価した。200応答単位(RU)が達成されるまで、HBS-P緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、P20界面活性剤0.05%v/v、pH7.4)中のニュートラアビジン被覆CM5センサーチップ上にビオチン化糖ペプチドを固定化した。BG18(またはBG8)を、BS-P緩衝液中で4μMから始めて2倍の系列希釈の濃度で流速40μL/分で180秒間注入した。次いで、流速40μL/分でBS-P緩衝液を1210秒間注入して解離させた。流速50μL/分で3M MgClを3分間注入してから、流速50μL/分でHBS-P緩衝液を5分間注入することによって再生を行った。
【0097】
インビボマウスモデル
週2回、3週間にわたって各抗体1mgを皮下(s.c.)投与することにより、ヒト化NOD Rag1-/-Il2rgnull(NOD.Cg-Rag1tm1Mom Il2rgtm1Wjl/SzJ)マウス(The Jackson Laboratory)を治療し、合計6回の抗体注射を実施した。同じドナー由来のヒト細胞により対照huマウスを再構成し、HIV-1YU2に感染させたが、抗体により治療はしなかった。プラズマウイルス量を毎週測定した。F.Kleinら、HIV therapy by a combination of broadly neutralizing antibodies in humanized mice.Nature 492, 118-122(2012)に記載されているように、リバウンドウイルスを有するマウス由来のgp120配列を得た。
【0098】
ELISA
PBS中の5μg/mLの精製2CCコア、gp120.YU2(野生型または変異体)またはgp140.YU2フォールドオン三量体により、高結合96ウェルELISAプレート(Costar)を一晩コーティングした。PBS+0.05%Tween20で6回洗浄した後、2%BSA、1μM EDTAおよび0.05%Tween-PBS(「ブロッキング緩衝液」)を用いてプレートを2時間ブロックし、次いで、初期濃度4μg/mLからPBS中7連続1:4希釈物として加えたIgGとともに1時間インキュベートした。さらに洗浄した後、ヤギHRPコンジュゲート抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)(ブロッキング緩衝液中0.8μg/mL)とともに1時間インキュベートし、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)発色基質(ABTS溶液;Invitrogen)とともにインキュベートすることによってプレートを発色させた。競合ELISAでは、0.5μg/mLのBG505.SOSIP.664によりプレートをコーティングし、洗浄し、ブロッキング緩衝液を用いて2時間ブロッキングし、次いで、初期濃度32μg/mLからPBS中7連続1:4希釈物として加えたIgGとともに、4μg/mLの一定濃度のビオチン化抗体の存在下で1時間インキュベートした。次いで、HRPコンジュゲートストレプトアビジン(Jackson ImmunoReseach)(ブロッキング緩衝液中1μg/mL)を用いてプレートを発色させた。
【0099】
D7324エピトープタグを有するBG505 SOSIP.664三量体(BG505 SOSIP.664-D7324)を使用するELISAでは、Sanders, R.W.ら、A next-generation cleaved, soluble HIV-1 Env trimer, BG505 SOSIP.664 gp140, expresses multiple epitopes for broadly neutralizing but not non-neutralizing antibodies.PLoS Pathog, 2013.9(9):p.e1003618に記載されているように、5μg/mLのD7324抗体によりプレートを一晩コーティングし、次いで洗浄し、500ng/mLの三量体とともにインキュベートした。さらに洗浄した後、初期濃度4μg/mLからPBS中7連続1:4希釈物としてIgGを1時間かけて加えた。上記のように、ヤギHRPコンジュゲート抗ヒトIgG抗体とのインキュベーションによってエンドポイントを作成した。実験はいずれも少なくとも3回行った。
【0100】
CMV-Envウイルスの作製
確立されたプロトコルに従って、CMV-env発現カセットを作製した(52)。要約すると、以下のプライマーを用いてpcDNA 3.1D/V5-His-TOPO発現ベクターからCMVプロモーターを増幅した:
CMVenv:5’-AGTAATCAATTACGGGGTCATTAGTTCAT-3’(配列番号101)および
CMVenv1A 5’-CATAGGAGATGCCTAAGCCGGTGGAGCTCTGCTTATATAGACCTC-3’(配列番号102)。
【0101】
Macherey-Nagel PCRおよびGel Purificationキットを用いてPCR産物を精製した。以下のプライマーを用いて、1μlの第1ラウンドのPCR産物を増幅した:
env1ATOPO 5’-CACCGGCTTAGGCATCTCCTATGGCAGGAAGAA-3 ’(配列番号103)および
Rev19 5’-ACTTTTTGACCACTTGCCACCCAT-3’(配列番号104)(1×High Fidelity緩衝液、2mM MgSO、0.2mM dNTP、0.5単位のHigh Fidelity Platinum Taqおよび0.2μMの各プライマーを含有する20μL容量中)。サイクル条件は、94℃、2分;(94℃、15秒;55℃ 30秒; 68℃、4分)×35;68℃、10分であった。0.7%アガロースゲルを用いた分析によりenvの存在を確認し、Macherey-Nagel GelおよびPCR Purificationキットを用いて産物を精製した。次いで、プライマーCMVenvおよびRev19を用いて、10ngのエンベロープおよび0.5ngのCMVを3連でオーバーラップPCRに供した。全反応容量6は、1×High Fidelity緩衝液、0.2μM MgSO、0.2mM dNTP、1単位のHigh Fidelity Platinum Taqおよび0.4μMの各プライマーを含有する50μLであった。PCRは、94℃、2分間;(94℃、30秒;60℃ 30秒;68℃、4分)×25;68℃、10分で行った。6ウェルプレート中で500ngのCMV-envをpSG3Δenvとともに293T細胞に同時トランスフェクトし、48時間後に上清を回収した。上記のように、TZM-blによる中和試験に上清を供した。
【0102】
培養ウイルス(VOA)
van ’t Woutら、Isolation and propagation of HIV-1 on peripheral blood mononuclear cells.Nat Protoc, 2008. 3(3):p.363-70に記載されているように、患者の末梢血単核細胞(PBMC)と健常ドナーPBMCとの共培養によって、ドナーEB354由来のウイルスを得た。ロックフェラー大学の試験プロトコルMNU-0628の下で、白血球除去によって患者から健常ドナーPBMCを得た。10%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシンおよびPHAを1μg/mL含有するIMDM中、1mL当たり5×10細胞の密度で37℃および5%COで健常ドナーPBMCを2~3日間予備刺激した。次いで、刺激したドナーPBMC 6×10個を、10%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、10IU/mLのIL-2および5μg/mLのポリブレンを含有するIMDMに移し、5~10×10個のEB354 PBMCと37℃および5%COで共培養した。培地を毎週交換し、Lenti-X p24 Rapid Titerキット(Clontech)により培養上清中のp24の存在を定量した。上清1mL当たり1ngのp24を超える培養物を凍結し、-80℃で保存した。上記のプロトコルに従ってTZM-bl中和アッセイを用いて、組織培養感染用量50(TCID50)の決定と、その後の様々な広域中和抗体および自己由来血清IgGに対する自己由来ウイルスの感受性に関する試験とを行った。中和アッセイはいずれも2連で行った。
【0103】
HIV-1YU2エンベロープ変異体
製造業者の仕様書(Agilent Technologies)に従って、QuikChange(multi-)site-directed mutagenesisキットを用いて、野生型HIV-1YU2エンベロープに一重、二重および三重の突然変異を導入した。
【0104】
ウイルス進化の分析
ClustalW(バージョン2.11)を使用して、またはGeneious(バージョン8.1.6)配列分析ソフトウェアを使用する手動アラインメントによって、envヌクレオチド配列のアラインメントを生成した。明確にアラインさせることができなかった領域は、系統発生分析および多様性計算のために除去した。jModelTestを用いて、最尤系統発生分析のための進化モデルクラスを選択した。モデルパラメータ値および系統発生の結合推定とともにPhyML(バージョン3)を使用して、最尤分子系統樹を生成した。DIVEIN webtoolの2標本U統計量検定を使用して、標本間のペアワイズ遺伝的多様性を比較した。
【0105】
MiSeq env配列の生物情報学的処理
Cutadapt v1.8.3を用いて配列アダプターを除去した。各ウイルスに対するリードアセンブリは3つの工程で行った。まず、Spades v3.6.1を使用してデノボアセンブリを実行し、長いコンティグファイルを作成した。続いて、255bpよりも長いコンティグをHIVエンベロープ参照配列にアラインし、Geneious 8を用いてコンセンサス配列を生成した。最後に、ギャップを埋めるためにコンセンサス配列にリードを再アラインし、最終コンセンサスを生成した。二重ピークを有する配列(任意の残基に対するカットオフコンセンサス同一性<75%)は、下流分析から省略した。
【0106】
統計分析
マン-ホイットニー検定によって統計的差異を分析した。GraphPad Prismソフトウェアを分析に使用し、*p≦0.05、**p≦0.01および***p≦0.001でデータを有意と見なした。
【0107】
B.結果
複数のbNAb
HIV-1感染長期非進行者394例のコホート内で、中和の広域性および効力について上位1%に入ったドナーEB354から得られたIgGを精製した。このドナーは1986年にHIV-1クレードBと診断された。EB354は1995年から1998年の間にジダノシンおよびスタブジンによる治療を受けたが、それ以来抗レトロウイルス療法は受けていない。2002年に、EB354のウイルス量は<400コピー/mLであり、CD4およびCD8の数はそれぞれ954および1046細胞/mmであった。EB354は、2002年から2006年の間にウイルス血症に3つの実証されたピークを有した(図1A)。ウイルス量が<400コピー/mlであった2006年に、血清学的中和効力および広域性が最初に評価された(図1Aおよび図1Bならびに表3)。中和活性は2010年まで増大し、その時以来広域かつ強力なままである(図1B)。HLAタイピングでは、HLA A*01:01、24:02、B*27:05、57:01、C*01:02、06:02が明らかにされた(表3)。
【0108】
この対象の血清学的活性を説明する抗体を単離するために、以下の4種類のHIV-1ベイトを用いて単一細胞を選別した;2CCコア、gp140YU2、gp14092UG37.8(クレードA)+gp140CZA79012(クレードC)の1:1混合物およびBG505 SOSIP.664(図1C)。合計241対の重鎖および軽鎖を単離し、そのうち152の抗体が22の異なるクローンを形成した。3つのクローン由来の抗体は、tier 2中和活性を示した(図1Cおよび表13)。2010年~2015年に得られた血清IgGと比較した場合、抗体BG18によって例示されるようなクローンに属する抗体(図1C)は、ほとんどの血清学的活性を再現した(図1D)。抗体NC37および抗体BG1によって例示される他の2つの中和クローンに属する抗体(図1C)は、それほど強力ではなかったが、BG18の活性を補完した(図1D)。
【0109】
3つの中和クローンにおける抗体の結合部位をマッピングするために、Envにおいてエピトープ特異的点突然変異を保有するHIV-1YU2変異体を用いてTZM-blアッセイを行った。ポリクローナルIgGは変異体に対して測定可能な感受性の変化を示さなかったが、抗体BG18はYU2N332K(グリカン-V3)に感受性であり、抗体BG1はYU2N160K(V1V2)に感受性であり、抗体NC37はYU2N280Y(CD4bs)に感受性であった(図1D)。中和結果と一致して、ELISAによるBG18結合は、PGT121および10-1074によって競合的に阻害された。BG1結合はPGT145によって減少した(図5)。
【0110】
BG18は、118のウイルス集団(図1E、表5)中の64%のウイルスを0.03μg/mlの幾何平均IC50で中和し、その広域性は同等であったが、PGT121または10-1074のいずれかよりも強力であった(図1F、表5~表10)。抗体NC37およびBG1は、それぞれ0.3μg/mLおよび0.67μg/mLの幾何平均IC50ならびに33%および37%の広域性を示した。(図1Eおよび図1F、表6および表7)。3つのbNAbの1:1:1混合物は、118のウイルス集団中の81%のウイルスを0.130μg/mLの幾何平均IC50で中和し、相加効果を示した(図1E、表11)。
【0111】
【表5-1】
【0112】
【表5-2】
【0113】
【表5-3】
【0114】
【表5-4】
【0115】
【表6-1】
【0116】
【表6-2】
【0117】
【表6-3】
【0118】
【表6-4】
【0119】
【表7-1】
【0120】
【表7-2】
【0121】
【表7-3】
【0122】
【表7-4】
【0123】
【表8-1】
【0124】
【表8-2】
【0125】
【表8-3】
【0126】
【表8-4】
【0127】
【表9-1】
【0128】
【表9-2】
【0129】
【表9-3】
【0130】
【表9-4】
【0131】
【表10-1】
【0132】
【表10-2】
【0133】
【表10-3】
【0134】
【表10-4】
【0135】
【表11-1】
【0136】
【表11-2】
【0137】
【表11-3】
【0138】
【表11-4】
【0139】
BG18
アミノ酸レベルでは、BG18は、ともにV4-59生殖系列前駆体から生じる10-1074およびPGT121の重鎖とそれぞれ63%および62%同一である。BG18は、密接に関連した(90.8%の同一性)生殖系列遺伝子V4-4から生じる(図6A)。PGT121、10-1074およびBG18ならびにそのクローン変異体の重鎖の相補性決定領域(CDR)のアラインメントは、CDRH1とCDRH2との間に高度な類似性を示す。BG18のCDRH3は、PGT121/10-1074よりも3残基短い(21対24残基;図2Aおよび図6B)。さらに、BG18は、PGT121ファミリーに共通のフレームワーク領域内に7つの突然変異のうち6つを共有するが(図2A)、PGT121/10-1074のメンバーとは異なり、いかなる挿入または欠失も含有しない。
【0140】
BG18は、VL遺伝子セグメントV2-25を用い、PGT121および10-1074によってそれぞれ用いられるV3-21遺伝子セグメントに対して、アミノ酸配列レベルで46%および50%の同一性のみで関連している(図2B図6Cおよび図6D)。さらに、BG18およびその変異体の軽鎖は10-1074およびPGT121よりもわずかに変異しているが、重鎖として挿入または欠失を含有しない。したがって、BG18およびそのクローン変異体は、先に単離されたPGT121/10-1074クラスの抗体と類似の重鎖を示すが、異なる軽鎖を示す。
【0141】
BG18 Fabの1.3Å分解能の結晶構造から、他のCDRよりも約11Å突出したCDRH3を除いて、CDRループがコンパクトな結合部位を形成し、主に疎水性残基からなる先端を示すことが明らかにされた(図2C)。CDRH3は、完全に伸長する代わりに、CDRH3残基Gly100aHC、Val100bHC、Val100cHC、Gly100eHCおよびGlu100fHCの間の水素結合によって安定化された立体構造でそれ自体の上に折り返される(図2C)。CDRL2の構造は無秩序であり、CDRL2が未結合抗体では複数の立体構造をとることができることを示唆している。未結合BG18、PGT121(PDB 4FQ1)および10-1074 Fab(PDB 4FQ2)構造の重ね合わせから、それらのVドメインが、BG18のVドメイン上に位置するがPGT121および10-1074 Fab構造のVよりも著しく傾いているCDRH3を除いて、密接に整列していたことが明らかにされた(図2D)。BG18およびPGT121軽鎖に関する低い配列同一性と一致して(図2B図6Cおよび図6D)、整列したVドメイン(それぞれBG18-PGT121およびBG18-10-1074の重ね合わせでは、軽鎖の比較において93または92のCα原子を重ね合わせることについて3.1Åの平均二乗偏差が見出された)は、すべてのCDRLループの配向に差があることを示した(図2D)。これらの差にもかかわらず、BG18では、PGT121および10-1074のCDRH2とCDRH3との間の裂け目も見られる(図2E)。この裂け目を裏打ちする残基は、グリコシル化PGT121 Fab構造中の複合型N-グリカンと相互作用し、PGT122-BG505 SOSIP複合体構造(PDB 4TVP)中のAsn137gp120に結合したN-グリカンと相互作用する。BG18はCDRH3とCDRL1/CDRL3との間に第2の裂け目を示し、これらはそれらの抗体の軽鎖上のCDRH3の位置のためにPGT121およびそのクローン性関連物では形成することができない(図2E)。これらの構造的相違に加えて、BG18 V-Vドメインの静電表面電位は、PGT121および10-1074の表面電位と比較して、正に帯電したパッチの異なる分布を示す(図7)。まとめると、これらの結果は、PGT121関連bNAbによる認識と比較した、EnvのBG18認識における相違と一致する。
【0142】
BG18がどのようにEnvを認識するかを検討するために、BG18由来のFabおよびCD4bs bNAb 179NC75と複合体を形成したBG505 SOSIP.664三量体の約25Å分解能のネガティブ染色単一粒子電子顕微鏡(EM)構造を解明した。BG18 Fab結晶構造からEMマップへの座標の適合により(図2F)、接近角度とBG18および他のAsn332gp120-V3 bNAbの潜在的なEnv相互作用との間の比較が可能になった(図2G)。PGT122(PGT121の変異体)および10-1074と同様に、BG18のCDRH3は、Asn332gp120グリカン、およびgp120の324GDIR327モチーフと相互作用すると予測される。しかし、PGT122および10-1074が、Envを結合するための類似の接近角度を示すのに対して、BG18は、PGT122およびPGT124に対して34~41°だけシフトした異なる角度でEnv三量体と接触する(図2G)。
【0143】
特定のN結合型グリコシル化部位を欠失したHIV-1シュードウイルスの集団に対する中和についてBG18を評価した。結果は、Asn332gp120を除いて、V3ループの基部にあるいずれのグリカンも中和活性に影響を及ぼさなかったことを示した(表12)。これらのデータと一致して、BG18は、位置Asn332gp120でオリゴマンノースN-グリカンを含有する合成V3糖ペプチドに優先的に結合し、この位置に結合した複合型N-グリカンを含有する糖ペプチド、またはgp120内の他の潜在的なN結合型グリコシル化部位には結合しなかった(図9)。これらのデータは、BG18認識特性がPGT121よりも10-1074に類似していることを示唆している。
【0144】
【表12-1】
【0145】
【表12-2】
【0146】
NC37
gp120コアに結合したNC37 Fabの2.7Å分解能の結晶構造(図1C)は、NC37がCD4bsを認識することを証明した(図8Aおよび図8B)。NC37ファミリーの一部のメンバーはV1-2に整列し、他のメンバーはV1-46に整列したため、配列のみに基づいて、NC37のVがV1-2またはV1-46生殖系列遺伝子に由来していたかどうかを決定することは当初困難であった(表13)。しかし、構造比較から、NC37がV1-46由来抗体8ANC131/134と同様の配向および結合角度をとることが明らかにされた(図8Aおよび図8B)。結果として、NC37がその軽鎖を用いてループD残基Asn280gp120と接触するのに対して、V1-2由来抗体、例えばNIH45-46はそれらの重鎖を用いてAsn280gp120と接触する。NC37のCDRH3は、gp120内部ドメインに向かって伸長し、CDRH3残基Tyr100GHCとgp120内部ドメイン残基Lys97gp120およびGlu102gp120との間に接触を形成する。NC37 Fab-gp120複合体をSOSIP三量体構造に重ね合わせると、NC37 CDRH3がEnv三量体内の隣接プロトマーと接触することが示唆される(図8C)。
【0147】
NC37が2010年に単離されたのに対して、BG1およびBG18は2014年に採取されたPBMCから単離された。BG1およびBG18に特異的なPCRプライマーを用いて、2010年および2013年から利用可能なPBMCを検討した。BG1転写物が両時点で検出されたのに対して、BG18は2013年に最初に検出された。これは、BG18が2010年から2013年の間に出現したのに対して、BG1およびNC37はそれ以前に発現したことを示している。
【0148】
自己由来中和
自己由来ウイルスに対する3つのbNAbの効果を検討するために、2006年~2015年の間の5つの異なる時点(2006年、2010年、2013年、2014年および2015年)に得られた単一ゲノム配列決定(SGS)によって、循環プラズマウイルス由来の個々のenv遺伝子をクローニングした。37個のみの機能的インフレーム転写物(functional in-frame transcript)が回収されたが、これは一つには、全時点での400コピー/mL未満のウイルス量の値によるものである。さらに、2015年から回収された配列はいずれも非機能的であった(図10)。37個の機能的配列は、以下の3つのクラスターを形成した-残りの配列と約15%異なる2006年に得られた1つの配列を含有するクラスターA、4つの時点すべてからの配列を含有する最大のクラスターであるクラスターB、およびいずれも2014年に得られた3つの配列を含有するクラスターC(図3A)。2014年に出現した配列の新しいクラスターと一致して、2013年から2014年の間にウイルス多様性の増加が見られた(図3B)。
【0149】
クラスターC中の3つの配列がいずれもAsn332gp120にあるN結合型グリコシル化部位を変化させる突然変異を含有していたのに対して、他の34の配列はAsn332gp120に完全なN結合型グリコシル化部位を有した(図3A)。さらに、クラスターC中の3つの配列はいずれも、他の34の配列には見られなかったAsp282gp120残基を有した。282gp120位は、ロスアラモスデータベース内の全HIV-1配列の94.4%においてLysを保有し、この位置にあるAspはCD4bs抗体に対する耐性と関連する。
【0150】
3つの自己由来bNAbに対する機能的Envの感受性を決定するために、シュードウイルスを作製し、TZM-blアッセイで試験した。首尾よく作製された35のシュードウイルスのうち、4つのみが3つすべてのbNAbに対して耐性であった。これらは、2014年に得られた血漿中および2013年に得られた血漿中に見出されたクラスターC由来のEnvであった(図3Cおよび図10)。残りの31のシュードウイルス(全シュードウイルスの88.5%)は、3つのbNAbのうちの少なくとも1つに感受性であった。さらに、2006年、2010年および2014年に得られたシュードウイルスを、ウイルスのenv遺伝子と同じ時点から単離した同時血清IgGに対するそれらの感受性について試験した(2013年に得られた血漿IgGはこのアッセイには利用できなかった)。結果は、試験した22のウイルスのうち19が、同時期のIgGによってなお中和されていたことを示した(図3Cおよび図10)。
【0151】
BG18およびNC37感受性ウイルス、ならびに同時IgGに感受性のウイルスが、BG18およびNC37が単離された時を含めて、分析したあらゆる時点で見出された(図3D)。対照的に、2006年に得られた1つのウイルスを除いて、ほとんどの株はBG1に対して耐性であった。これは、ドナーEB354の自己由来ウイルスの大部分はBG1から逃がれたが、BG18およびNC37抗体から逃がれることはできなかったことを示唆し、したがって、BG18およびNC37の広域性および効力を示している。
【0152】
2015年に得られた血漿試料からウイルス配列を得ることは不可能であったが、5つのEB354 CD4+ウイルス増殖培養物(VOC)のうち2つからウイルスを増殖させることは可能であった。いずれの場合にも、p24 ELISAによって測定されるように、培養物がウイルスに対して陽性になるのに5週間超かかった。両方の2015年の増殖培養物由来のSGS配列は、クラスターC由来の配列と密接に密集しており、Asn332gp120にN結合型グリコシル化部位を欠いていた(図3A)。さらに、配列はいずれもAsp282gp120を示した。これらの知見と一致して、2015年に得られた培養上清は、TZM-blアッセイでは3つすべてのbNAbに対して耐性であった(図3E)。
【0153】
BG18、NC37およびBG1のインビボ有効性
BG18またはNC37が独立してインビボでHIV-1に選択的圧力をかけることができるかどうかを決定するために、ヒト化マウス(huマウス)をHIV-1YU2に感染させ、確立された感染を治療した。BG1は、HIV-1YU2に対して低い活性を示したため(IC50=15.8μg/mL)、その後の併用治療実験にのみ使用し、単独療法実験には使用しなかった。10-1074と同様に、それほど強力ではないが依然として有効なクローン変異体であるBG18またはBG8の投与は、ウイルス量の急速な減少(平均1.5log10)、その後のリバウンドウイルス血症と関連していた(図4A図11および図12)。リバウンドウイルス配列はいずれも、Asn332gp120のN結合型グリコシル化部位を変化させた変異を含有していた(図4Bおよび図4C)。NC37による単独療法もウイルス血症を一過性に抑制したが、ウイルス量の減少の大きさは、BG18を用いた場合よりも顕著ではなく、平均0.5log10であった(図4Aおよび図12)。これは、BG18およびNC37がHIVを治療するのに有効であり、BG18が最も顕著な効果を有することを示している。NC37リバウンドウイルスEnv配列の大部分は、CD4bs抗体に対する耐性と関連するR456K突然変異を示した(図4Bおよび図4C)。これはさらに、huマウスでは、BG18およびNC37がインビボでHIV-1YU2抗体耐性変異体を選択することができることを示している。
【0154】
抗体を組み合わせることにより、huマウスのHIV-1YU2感染を制御することができる。BG18、NC37およびBG1の組合せがウイルス血症を抑制できるかどうかを決定するために、3つのbNAb(BG18、NC37およびBG1)の1:1:1の組合せを用いて、HIV-1YU2感染huマウス5匹を治療した。3つのbNAbの投与直後に、全動物のウイルス量は平均1.74Log10減少し、驚くべきことに、4/5のマウスでは3週間後に実質的に検出不可能なウイルス量が示された(図4Dおよび図4E)。ウイルス血症は1匹のマウスT6でのみリバウンドし、治療を中止した後わずか3週間で起こった。残りの4匹のマウスでは、治療終了4週間後であってもウイルス血症が抑制されたか、ウイルス血症が検出不可能であることが顕著に示され続けた(図4Dおよび図4E)。これは、NC37、BG1および特にBG18を個々にではあるが特に組み合わせて適用するかどうかにかかわらず、これらがインビボでのHIV-1の持続的抑制および中和において強力であることを示している。
【0155】
【表13】
【0156】
前述の実施例および好ましい実施形態の説明は、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものとしてではなく、例示として解釈されるべきである。容易に理解されるように、特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱することなく、上記に記載された特徴の多数の変形例および組合せを利用することができる。そのような変形例は本発明の範囲からの逸脱と見なされるものではなく、そのような変形例はいずれも下記の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。本明細書に引用された参考文献はいずれも、参照によりその全体が組み込まれる。
図1A-C】
図1D-F】
図2A-D】
図2E-G】
図3A-E】
図4A-C】
図4D-E】
図5
図6A-D】
図7
図8A-C】
図9A-B】
図9C-D】
図9E-F】
図10
図11A-C】
図12A
図12B
【配列表】
2022095613000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)CDRH1、CDRH2およびCDRH3を含む重鎖可変領域を含み、前記CDRH1、CDRH2およびCDRH3が、配列番号のそれぞれの配列を含む、および
(ii)CDRL1、CDRL2およびCDRL3を含む軽鎖可変領域を含み、前記CDRL1、CDRL2およびCDRL3が、配列番号のそれぞれの配列を含む、単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号およびのそれぞれの配列を含む、請求項1に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
前記抗体がヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体である、請求項1または2に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
前記抗体抗原またはその結合部分が組換え作製される、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
請求項1~4いずれか一項に記載の単離された抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分を含む、二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体をコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む、培養細胞。
【請求項9】
(i)請求項1~4のいずれか一項に記載の第1の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体と、(ii)薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項10】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号およびのそれぞれの配列を含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分をさらに含む、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
HIV-1感染を治療するための薬剤の製造における、第1の請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、もしくは請求項5に記載の二重特異性抗体、または請求項9~11のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量を含む第1の治療剤の使用。
【請求項13】
前記治療が、第2の治療剤を投与することをさらに含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記第2の治療剤が、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、エントリー阻害剤または融合阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、および第2の抗HIV-1抗体またはその抗原結合部分からなる群から選択される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗HIV-1抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項5に記載の二重特異性抗体を含む、ワクチン組成物。
【請求項16】
前記重鎖および前記軽鎖が、配列番号およびのそれぞれの配列を含む、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
HIV-1感染を予防するための薬剤の製造における、請求項15または16に記載のワクチン組成物の使用。