(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095616
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】包装体および包装容器
(51)【国際特許分類】
B65D 73/00 20060101AFI20220621BHJP
B65D 65/04 20060101ALI20220621BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
B65D73/00 L
B65D65/04 A
C08J5/18 CFD
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032455
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2018069004の分割
【原出願日】2018-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】実質的に非晶質成分を含まない熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた包装体またはそれを容器の外周の少なくとも一部に有する包装容器を提供すること。
【解決手段】包装対象物に応じてカットされ、フィルムの両端が接着された環状体が、包装対象物の外周の少なくとも一部を熱収縮して被覆している包装体であって、基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、(1)全エステルユニット100モル%中にエチレンテレフタレートユニットを90モル%以上含有する、(2)示差走査熱量計(DSC)の昇温過程で融解ピークを有しており、そのピーク温度である融点(Tm)が200℃以上280℃以下であり、かつそのピーク面積である融解熱量(ΔHm)が40J/g以上60J/g以下、(3)包装対象物の周方向において、熱収縮率のピークが60℃以上120℃以下にあらわれ、そのピークにおける熱収縮率が1%以上40%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材として印刷部を有し、フィルムの両端が接着された環状体が、包装対象物の外周の少なくとも一部に熱収縮した状態で被覆されている包装体であって、被覆されている該環状体が下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする包装体。
(1)基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、全エステルユニット100モル%中にエチレンテレフタレートユニットを90モル%以上含有する
(2)基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、示差走査熱量計(DSC)の昇温過程で融解ピークを有しており、そのピーク温度である融点(Tm)が200℃以上280℃以下であり、かつそのピーク面積である融解熱量(ΔHm)が40J/g以上60J/g以下
(3)包装対象物の周方向において、熱機械分析(TMA)で得られる基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮率のピークが60℃以上120℃以下にあらわれ、そのピークにおける熱収縮率が1%以上40%以下
【請求項2】
前記の被覆されている環状体の接着部分の剥離強度が2N/15mm以上15N/15mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の包装体。
【請求項3】
前記の基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムの固有粘度(IV)が0.5dL/g以上0.8dL/g以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の包装体。
【請求項4】
前記接着が、有機溶剤組成物によりなされていることを特徴とする請求項1~3に記載の包装体。
【請求項5】
前記有機溶剤組成物中に高分子成分を含むことを特徴とする請求項4に記載の包装体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の包装体を容器の外周の少なくとも一部に有することを特徴とする包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムが熱収縮した後の包装体およびこの包装体が被覆されている包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶またはプラスチックボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途の他、弁当箱等の容器を結束するバンディング等の用途にポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる延伸フィルム(いわゆる、熱収縮性フィルム)が使用されている。このような熱収縮性フィルムのうち、ポリ塩化ビニル系フィルムは耐熱性が低い上、焼却時に塩化水素ガスが発生する、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。一方、ポリエステル系の熱収縮性フィルムは、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性にも優れるため、熱収縮ラベルとして広範に利用されており、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル等の流通量の増大に伴って、使用量が益々増加する傾向にある。
近年、環境問題や資源の有効活用の観点から、使用済みのPETボトルを再利用する動きが活発である。例えば特許文献1の実施例には、PETボトルからリサイクルされたPET樹脂(リサイクルPET)を原料として80重量%用いたポリエステル系フィルムが開示されている。
【0003】
ただし、特許文献1で開示されているフィルムを用いたラベル(リサイクルPETラベル)は熱収縮性能がなく、ボトルに密着させることはできないため、使用されるボトルは寸胴型等の一部に限られてきた。すなわち、リサイクルPETラベルは、熱収縮性ポリエステル系フィルムと比べて意匠性や適用範囲の低い点が問題だった。
【0004】
一方、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、例えば特許文献2に記載されているように、非晶質のポリエステル原料(非晶質原料)を用いることが一般的である。これは、収縮率の発現には非晶質分子が関与していると考えられているためである。例えば特許文献2の実施例には、非晶質成分となるモノマーの含有量が増加するに伴って収縮率も増加する傾向が示されている。しかし、非晶質原料を用いた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、樹脂の組成がPETボトルと異なるために一緒にリサイクルすることができない。これは、非晶質原料を用いたフィルムをPETボトルと一緒にリサイクルしてしまうと、リサイクルPETの組成が変化してしまうだけでなく、リサイクル工程で粉砕したボトルを溶融・固化して再生する際、PETボトルとラベルで熱特性が異なるために押し出し不良が発生してしまうためである。現状のリサイクル方法としては、使用済みのPETボトルをラベルと一緒に粉砕した後、アルカリ洗浄を経て、ボトルとラベルの比重差を利用した選別(たとえば水を用いた浮沈法による)工程が必要となる。さらに、非晶質原料を用いた熱収縮性ポリエステル系フィルムをラベルとして使用すると、包装対象の内容物が高温(例えば、ホット飲料など)の場合は、ラベル同士がブロッキングしてしまうという問題があった。この問題に関しては、例えば特許文献3に記載されているように、ポリエステル系基材フィルムの少なくとも片面に耐ブロッキング性改良層を設けることで、ブロッキングを防止できる技術が開示されている。ただし、フィルムの表面に耐ブロッキング層を設けた場合でも、依然としてリサイクル性に問題があった。すなわち、耐ブロッキング層が容器とは組成が異なるため、やはりラベルを除去する必要があった。そのため、耐ブロッキング性とリサイクル性を両立させたラベルが望まれている。
【0005】
ところで、通常、熱収縮性フィルムをボトルラベルとして使用する際、フィルムの端部同士を溶剤や接着剤等によって固定して輪状(チューブ状)のラベルを作製し、これをボトルに被せて収縮させる方法が採用されている。収縮方向を幅方向とすることで、収縮ラベルを連続的に作製することができるため効率的である。
そこで特許文献4には、横(幅)方向に熱収縮し縦(長手)方向には殆ど熱収縮が起こらない熱収縮性フィルムおよびその製造方法が開示されている。特許文献4の実施例では、ポリエチレンテレフタレートを原料とし、縦方向に皺曲処理されたフィルムを横一軸延伸することにより所望とする熱収縮特性を示すフィルムを製造している。
【0006】
また、本願出願人は、非晶質成分となりうるモノマー成分を多く含まなくても、長手方向(機械方向)である主収縮方向に十分な熱収縮特性を有し、前記主収縮方向と直交する幅方向(垂直方向)においては熱収縮率が低く、且つ、長手方向の厚み斑が小さい熱収縮性ポリエステル系フィルムを特許文献5に開示している。特許文献5では、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分が0モル%以上5モル%以下含有されたポリエステル系未延伸フィルムを用い、横延伸の後、縦延伸する二軸延伸方法によって上記フィルムを製造しており、例えば延伸方式Aとして、
図1に示す同時二軸延伸機を用いて、フィルムTg以上(Tg+40℃)以下の温度で3.5倍以上6倍以下の倍率で幅方向に延伸(横延伸)した後、フィルムTg以上(Tg+40℃)以下の温度でクリップの間隔を広げることで1.5倍以上から2.5倍以下の倍率で長手方向に延伸(縦延伸)しながら、テンター幅を横延伸後から5%以上30%以下狭めることで幅方向に弛緩する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6150125号公報
【特許文献2】特開平8-27260号公報
【特許文献3】特許第5564753号公報
【特許文献4】特開平5―169535号公報
【特許文献5】国際公開第2015/118968号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鞠谷 雄士,「繊維構造の形成機構と高性能繊維の開発」,繊維学会誌(繊維と工業),Vol.63,No.12(2007)
【非特許文献2】A. Mahendrasingam et al “Effect of draw ratio and temperature on the strain induced crystallization of poly (ethylene terephthalate) at fast draw rates” Polym. 40 5556 (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように幅方向に大きく収縮する熱収縮性フィルムとして特許文献4のフィルムが開示されている。しかし、特許文献4の実施例では、幅方向における95℃の熱収縮率が最大でも12.5%であり、現在の熱収縮フィルムに要求される収縮率の水準を満たしているとは言い難い。
【0010】
一方、上記特許文献5記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムは主収縮方向が長手方向である。よって、幅方向が主収縮方向であるフィルムにおいて幅方向の熱収縮率が高く、且つ、厚み斑の小さいものは未だ開示されていない。特許文献5に記載の横→縦延伸方法を、単純に縦→横延伸に変更したとしても、非収縮方向(長手方向)を緩和できず長手方向の収縮率が高くなってしまい、所望とするフィルムは得られない。更に縦→横延伸にしたとしても、幅方向の熱収縮応力も高くなる虞がある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、実質的に非晶質成分を含まない熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた環状体が被覆されている包装体またはそれを容器の外周の少なくとも一部に有する包装容器を提供することにあり、環状体の周方向の熱収縮率が高く収縮後の外観性に優れ、且つ、耐熱ブロッキング性に優れ、PETボトルをはじめとした容器と一緒にリサイクルすることのできる熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いた環状体が被覆されている包装体またはそれを容器の外周の少なくとも一部に有する包装容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決してなる、本発明の構成は以下のとおりである。
1.熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材とし、フィルムの両端が接着された環状体が、包装対象物の外周の少なくとも一部に熱収縮した状態で被覆されている包装体であって、被覆されている該環状体が下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする包装体。
(1)基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、全エステルユニット100モル%中にエチレンテレフタレートユニットを90モル%以上含有する
(2)基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムが、示差走査熱量計(DSC)の昇温過程で融解ピークを有しており、そのピーク温度である融点(Tm)が200℃以上280℃以下であり、かつそのピーク面積である融解熱量(ΔHm)が40J/g以上60J/g以下
(3)包装対象物の周方向において、熱機械分析(TMA)で得られる基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮率のピークが60℃以上120℃以下にあらわれ、そのピークにおける熱収縮率が1%以上40%以下
2.前記の被覆されている環状体の接着部分の剥離強度が2N/15mm以上15N/15mm以下であることを特徴とする1に記載の包装体。
3.前記の基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムの固有粘度(IV)が0.5dL/g以上0.8dL/g以下であることを特徴とする1又は2に記載の包装体。
4.前記接着が、有機溶剤組成物によりなされていることを特徴とする1~3に記載の包装体。
5.前記有機溶剤組成物中に高分子成分を含むことを特徴とする4に記載の包装体。
6.前記1~5のいずれかに記載の包装体を容器の外周の少なくとも一部に有することを特徴とする包装容器。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実質的に非晶質成分を含まず、熱収縮性ポリエステル系フィルムの主収縮方向である幅方向(すなわち環状体の周方向)の熱収縮率が高く収縮後の外観性に優れ、且つ、熱ブロッキング性に優れた環状体が被覆されている包装体を提供することができる。それゆえ、包装体を容器と一緒にリサイクルすることができるようになり、リサイクルの生産性増加だけでなく、リサイクルPETの品質向上にも資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1と比較例1の包装体について、TMAより得られた熱収縮率である。
【
図2】実施例1と比較例3の包装体の基材となる熱収縮性ポリエステル系フィルムと、PETボトルのDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.包装体
本発明の包装体は、熱収縮性ポリエステル系フィルムを基材とした環状体を、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させてなるものであり、包装対象物としては、飲料用のPETボトルをはじめ、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる(以下、これらを総称して包装対象物という)。包装対象物に被覆される包装体には、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良く、環状体(以下ラベルと称する場合がある)の主収縮方向である周方向と直交する方向にミシン目またはノッチが設けられていてもよい。また、本発明のラベルは印刷されていても、印刷されていなくても構わないが、その評価手段としてラベルの印刷層の測定外乱要素を除くため、ラベルの印刷層のないフィルム基材だけを測定する場合がある。即ち、印刷が施されていないラベルはそのもの自体がフィルム基材であり、印刷が施されているラベルは有機溶剤で印刷層を拭取るなどして透明なフィルム基材のみとして評価する場合がある。このことを以下、「印刷層を除いたフィルム基材」と記載することがある。
本発明の環状体(印刷層を含む)の厚みは、ボトルのラベル用途や弁当箱等の結束目的で使用するバンディングフィルム用途等に用いられることを考慮すると、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上150μmがより好ましい。厚みが200μmを超えると、単にフィルムの面積あたりの重量が増加するだけで経済的でない。一方、厚みが5μmを下回るとフィルムが極端に薄くなるため、環状体にする等の工程で扱い難く(ハンドリング性が悪く)なってしまう。
【0016】
1.1.包装体の熱収縮率
本発明の容器へ被覆された環状体(印刷層を除いたフィルム基材)は、熱機械分析(TMA)で得られる熱収縮率のピーク温度が60℃以上120℃以下にあらわれ、そのピークにおける熱収縮率が1%以上40%以下であることが好ましい。被覆された環状体の熱収縮率は、熱収縮性ポリエステル系フィルムを熱収縮させた後に残留している熱収縮率を意味しており、これは熱収縮性ポリエステル系フィルムを、後述の方法で熱収縮させて容器へ被覆させるときに消費される熱収縮率と言い換えることができる。被覆された環状体の熱収縮率のピーク温度が120℃より高いことは、フィルムを容器へ収縮させるときの温度が適正温度よりも高温であったことを示しており、収縮仕上がり性が悪化しやすくなる。被覆された環状体の熱収縮率のピーク温度が60℃よりも低い場合、包装体とした後に(常温下であっても)フィルムが収縮(寸法変化)しやすくなるため、包装体の意匠性が低下しやすくなるだけでなく、巻き締まりによる容器の変形も起きやすくなるため好ましくない。被覆された環状体の熱収縮率のピーク温度は65℃以上115℃以下であるとより好ましく、70℃以上120℃以下であるとさらに好ましい。
【0017】
また、被覆された環状体のピーク温度における熱収縮率が40%よりも高いと、容器へ熱収縮させたときに収縮率の消費量が小さくなり、被覆された環状体が容器へ密着しにくくなってしまう。容器への密着が小さいと、被覆された環状体にシワやアバタといった外観不良が生じやすくなるため好ましくない。一方、被覆された環状体の熱収縮率が1%よりも小さいと、容器へのフィルムの熱収縮が過剰に発現したことを意味しており、容器が変形しやすくなるだけでなく、被覆された環状体(ラベル)のタテヒケやシワが発生しやすくなる。この場合も、やはり外観不良が生じやすくなるため好ましくない。被覆された環状体の熱収縮率は、2%以上35%以下だとさらに好ましい。
【0018】
1.2.被覆された環状体の融点(Tm)、融解熱量(ΔHm)
本発明の容器へ被覆された環状体(印刷層を除いたフィルム基材)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて40℃から300℃まで昇温速度10℃/分で昇温して得られるサーモグラムにおいて、140℃以上の温度帯にあらわれる吸熱ピーク(融解ピーク)を有しており、そのピーク温度である融点(Tm)が200℃以上280℃以下であり、かつそのピーク面積である融解熱量(ΔHm)が40J/g以上60J/g以下であることが好ましい。DSCで室温から300℃まで昇温速度10℃/分で昇温したときのPETボトルのTmは約255℃、ΔHmは約50J/gであり、これらの熱特性からの乖離が大きいと、PETボトルと一緒に粉砕・溶融・固化して再生させる際、問題が生じやすくなるため好ましくない。具体的には、被覆された環状体のTmが200℃未満またはΔHmが40J/g未満であると、PETボトルと一緒に押し出し工程で溶融させる際、スクリューに樹脂が粘着する(いわゆる巻きつき)などの問題が発生しやすくなる。また、被覆された環状体に融解ピークが現れない場合も、上記の問題が生じやすくなる。一方、包装体のTmが280℃より高い、またはΔHmが60J/gよりも高いと、PETボトルと一緒に押し出し工程で溶融させる際、被覆された環状体の溶融に必要な熱が不足するため、急激な押し出し圧力の上昇によって押し出しがストップしてしまう可能性が大きくなる。被覆された環状体のTmは205℃以上275℃以下であるとより好ましく、210℃以上270℃以下であるとさらに好ましい。また、被覆された環状体のΔHmは42J/g以上58J/g以下であるとより好ましく、44J/g以上56J/g以下であるとさらに好ましい。
【0019】
1.3.環状体を容器へ被覆させる方法
1.3.1.環状体の形成方法
包装対象物に熱収縮性ポリエステル系フィルムを被覆させるには、予め、主収縮方向が周方向になるように環状体を形成した上で、その環状体を包装対象物に被せて熱収縮させる方法を採用することが好ましい。環状体を形成する場合には、各種の接着剤を用いて熱収縮性ポリエステル系フィルムを接着する方法の他に、高温発熱体を利用して熱収縮性ポリエステル系フィルムを融着させ接着させる方法(たとえばヒートシール法、インパルスシール法、溶断シール法)等を利用することも可能である。
接着剤を用いて環状体を形成する場合、熱収縮性ポリエステル系フィルムの両端部を重ねて接着することが好ましい。ここで、端部とは幅方向(長手方向に沿う方向)の端部を意味し、端部より20mm以内の部分を含む位置のことである。従来、非晶質原料を用いた熱収縮性フィルムから環状体を形成する際、接着溶剤としては1,3-ジオキソランやテトラヒドロフラン等の溶剤が用いられてきた。ただし、本発明のように、全エステルユニット中にエチレンテレフタレートユニットを90モル%より多く含む熱収縮性ポリエステル系フィルムは、溶剤だけでは溶解しにくいため、高い接着強度を得ることが困難である。また、ポリエステル樹脂を熱で溶かしたホットメルトを接着剤として使用することで接着は可能だが、ホットメルトの熱によってフィルムが収縮してシワが入るために外観不良が発生しやすくなる。さらに、ホットメルトは粘度が高いため、接着剤を塗布する工程では、安定的に一定量をフィルムに塗布することは困難であり、生産速度が高速になるほど安定性が低下する。そこで、本発明では、環状体を形成するための接着剤として、溶剤(溶媒)に高分子組成物を含有させた、接着溶剤組成物を用いることで上記の欠点をカバーできるため好ましい。
【0020】
接着溶剤組成物に用いる溶剤としては、高分子組成物への溶解性が高い良溶媒が挙げられ、具体例としては、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、トルエン、1,4-ジオキサン、1,2,2,2-テトラクロロエタン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。この中でも、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフランは、高分子組成物への溶解性が高いため好ましく、中でも1,3-ジオキソランは溶解性が最も高いため特に好ましい。また、環状体の接着強度を調整する等の目的で、上記の良溶媒に、高分子組成物への溶解性が低い貧溶媒を混合してもよい。貧溶媒としての具体例は、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等が挙げられる。これらの良溶媒と貧溶媒は、高分子組成物を溶解できる限り、単一もしくは混合いずれの状態で使用してもよい。
接着溶剤組成物に用いる高分子組成物は、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするポリエステルであることが好ましい。ここで、「エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とする」とは、ポリエステルの全構成成分量に対して、エチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含有することを示す。しかし、耐薬品性が強くなり、1,3-ジオキソラン等の有機溶剤への可溶性が低下することから、エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。また、エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。
【0021】
接着溶剤組成物に用いるポリエステルを構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。
接着溶剤組成物に用いるポリエステルを構成するエチレングリコール以外の他のジオール成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
接着溶剤組成物に用いるポリエステルは、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや炭素数3個以上を有するジオール(例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を70℃以下としたポリエステルが好ましい。
また、接着溶剤組成物に用いるポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価カルボン酸成分100モル%中あるいは多価アルコール成分100モル%中の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が30モル%以上、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。非晶質成分となり得るモノマー成分の合計が30モル%未満だと、1,3-ジオキソランを始めとする有機溶剤への溶解性が低くなり、接着溶剤として用いることができないためである。
【0022】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。
接着溶剤組成物に含まれるポリエステルの含有量の上限は25質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。これは、接着溶剤組成物に含まれるポリエステルの含有量が多いほど接着溶剤組成物の粘度が高くなり、フィルムの端部を接着させる工程で、安定的に一定量で接着溶剤組成物をフィルムに塗布することが困難になるためである。また、接着溶剤組成物に含まれるポリエステルの含有量の下限は1質量%以上、好ましくは2重量%以上である。接着溶剤組成物に含まれるポリエステルの含有量が1質量%未満だと、ポリエチレンテレフタレートを25質量%より多く含むポリエステル系フィルムを接着した際に、十分な剥離強度を得ることができない。
接着溶剤組成物には、必要に応じて各種の添加剤や減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加しても良い。
また、接着溶剤組成物の粘度の下限は特に限定されないが、粘度が低すぎると、接着工程において安定的に一定量を塗布することが困難になるため、100mPa・s以下が好ましい。
【0023】
接着工程に際しては、接着溶剤組成物をフィルムに対し、50~550mg/m2程度で、公知のセンターシールマシン等を用いて塗布することが好ましい。また、接着工程での接着溶剤組成物の塗布幅は、接着部の剥がれを抑制するためにも1mm以上が好ましく、上限は特に限定されないが、使用するラベル面積は小さいほどコストも小さくなるため、10mm以下が好ましい。
接着工程の速度は特に限定されないが、高速化の点で300~500m/分が好ましい。接着工程後の環状体は、通常、平らに畳まれてロール状に巻き取られた後、環状体を繰り出して所定長さに裁断されて最終製品となる。ただし、最終製品とする際には、接着工程後にロールに巻き取らずに裁断工程を行ってもよい。
【0024】
本発明の被覆された環状体は、溶剤接着部の剥離強度が2N/15mm以上あると好ましく、3N/15mm以上あればさらに好ましく、4N/15mm以上であれば特に好ましい。剥離強度が2N/15mm以上あれば、被覆された環状体が容器から剥離する等のトラブルを防ぐことができる。また、本発明の被覆された環状体において、溶剤接着部の剥離強度の上限は15N/15mm未満である。剥離強度が高いほど好ましいが、本発明では15N/15mmが技術的な限界であった。接着強度の測定方法は、実施例に記載の方法に従う。
【0025】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを溶断シールする場合には、所定の自動製袋機械(たとえば、共栄印刷機械材料社製-RP500)を用いて、溶断刃の温度、角度を所定の条件(たとえば、溶断刃の温度=240℃、刃角=70°)に調整した上で、所定の速度(たとえば、100個/分)で環状体や袋状体を形成する方法等を採用することができる。なお、本発明においては、袋状体も環状体に含まれるものとする。加えて、包装対象物にラベルを被覆させる場合には、包装対象物の周囲に環状体を構成するフィルムを捲回させて重なった部分を溶断シールすることにより包装対象物の周囲に環状体を被せた後に熱収縮させる方法を採用することも可能である。
【0026】
1.3.2.容器への熱収縮
上記で作製した環状体を容器へ被覆させるには、公知の方法を採用することができる。すなわち、熱収縮前の環状体を被せた容器をベルトコンベアー等にのせ、熱媒の吹き出すトンネル内部へと運んで環状体を熱収縮させることにより包装体を被覆させる。熱収縮前の環状体を容器へ被せる方法としては、人手、機械いずれでもよく、限定されるものではない。熱媒の種類は、水蒸気、または熱風が使用され、前者はスチームトンネル、後者は熱風トンネルとよばれる。熱媒には、スチーム、熱風いずれか単独で使用してもよく、これらのトンネルをつないで2種類を使用してもよい。また、トンネルは温度帯の異なるゾーンが2つ以上連結されていると、包装体を容器へ収縮させた後の仕上がり性が良好になりやすくなるため好ましい。温度帯の異なるゾーンを複数設ける場合、最初のゾーンを低温とし、その後のゾーンで徐々に温度を増加させていくと、仕上がり性が良好となるため、特に好ましい方法である。これらのトンネル通過時にラベルが熱収縮することにより、熱収縮後の環状体が容器に被覆される。本発明の包装体は、熱収縮後のものを指す。
【0027】
環状体を熱収縮させるときのトンネル内温度としては、スチームトンネルの場合は50℃以上120℃以下、熱風トンネルの場合は60℃以上230℃以下であると好ましい。上記それぞれの下限温度よりも低い温度であると、包装体の幅方向における熱収縮最大応力が10MPaを超えやすくなり、外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。上記それぞれの上限温度よりも高い温度である場合、包装体の幅方向における熱収縮最大応力が1MPaを下回りやすくなり、やはり外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。スチームトンネルの場合、55℃以上115℃以下、熱風トンネルの場合、65℃以上225℃以下であるとより好ましい。
トンネルを通過させるときの滞留時間は、5秒以上60秒以下であると好ましい。滞留時間が5秒以下だと、包装体の熱収縮率が40%を超えやすくなり、外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。一方、滞留時間が60秒以下だと、包装体の熱収縮率が1%を下回りやすくなり、やはり外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。トンネル内の滞留時間は、10秒以上55秒以下であるとより好ましく、15秒以上50秒以下であるとさらに好ましい。
通常、容器に環状体を被覆させる場合には、当該の包装体を2~30%程度熱収縮させて包装対象物に密着させる。なお、本発明には、本発明のラベルを容器の外周の少なくとも一部に有する包装容器も含まれる。
【0028】
1.4.包装体の固有粘度(IV)
本発明の容器へ被覆された環状体(印刷層を除いたフィルム基材)の固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)は、0.5~0.8の範囲が好ましい。環状体のIVが0.5よりも低いと、耐引き裂き性向上効果の低下や輸送するときにクラックが発生しやすくなるため好ましくない。一方、IVが0.8より大きいと、基材フィルムの製膜工程で溶融押し出しする際、フィルターの濾圧上昇が大きくなり、高精度濾過が困難となる。上記固有粘度は、より好ましくは0.52以上、0.78以下である。
【0029】
2.熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル原料
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル原料は、エチレンテレフタレートユニットを全エステルユニット100モル%中、90モル%以上有する。好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。エチレンテレフタレートユニットは、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。エチレンテレフタレートを用いることにより、熱収縮性ポリエステル系フィルムとして優れた耐熱性と透明性を得ることができ、融点Tmと融解熱量ΔHmをPETボトルに近づけることができる。
本発明に用いるポリエステル原料は、非晶質成分(非晶質アルコール成分および非晶質酸成分)を含み得るが、全アルコール成分100モル%中の非晶質アルコール成分の割合と、全酸成分100モル%中の非晶質酸成分の割合との合計が0モル%以上、5モル%以下に抑制されている。非晶質成分を5モル%より多く含むことで、融解ピークがあらわれにくくなる、融点Tmが200℃未満となりやすくなる、融解熱量ΔHmが40J/g未満となりやすくなるといった問題が生じる。非晶質成分を5モル%以下とすることで、これらの問題を解決することができる。本発明では上記のとおり、エチレンテレフタレートユニットのみからなるポリエステルであることが好ましいが、積極的に共重合するわけではなく、エチレンエレフタレートユニット中に、テレフタル酸とジエチレングリコールによる構成ユニットが副生成物として存在しても良い。非晶質成分の含有量は少ない程良く、最も好ましくは0モル%である。
【0030】
非晶質酸成分(カルボン酸成分)のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
また非晶質アルコール成分(ジオール成分)のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。
本発明に用いるポリエステル原料は、上述したエチレンテレフタレートや非晶質成分以外の成分として、エチレングリコール以外のジオール成分である1,4-ブタンジオールを用いても良い。1,4-ブタンジオールは、ポリエステルフィルムの融点を下げ、低Tg成分として有用であるが、本発明の趣旨から言えば出来るだけ含まないことが好ましい。1,4-ブタンジオールの含有量を10モル%以下とすることで、融点Tmと融解熱量ΔHmをPETボトルに近づけることができる。全アルコール成分および全酸成分に占める1,4-ブタンジオールの好ましい含有量は10モル%以下であり、より好ましくは5モル%以下、最も好ましくは0モル%である。
【0031】
本発明に用いるポリエステル原料は、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。上記添加剤は特に限定されず、例えばワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤が挙げられる。
また、上記ポリエステル原料は、フィルムの作業性(滑り性)を良好にするため、滑剤として作用する微粒子を添加することが好ましい。上記微粒子としては、無機系微粒子および有機系微粒子の種類を問わず、任意のものを選択することができる。無機系微粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等が挙げられる。有機系微粒子としては、例えばアクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等が挙げられる。上記微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定した場合、約0.05~3.0μmの範囲内であることが好ましい。
上記ポリエステル原料中に上記微粒子を配合する方法は特に限定されず、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階で添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた微粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法;または混練押出し機を用いて、乾燥させた微粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行っても良い。
【0032】
ポリエステル原料の固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)は、0.5~0.8の範囲が好ましい。IVが0.5よりも低いと、耐引き裂き性向上効果の低下や包装体として輸送するときにクラックが発生しやすくなるため好ましくない。一方、IVが0.8より大きいと濾圧上昇が大きくなり、高精度濾過が困難となる。上記固有粘度は、より好ましくは0.52以上、0.78以下である。
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム表面の印刷性や接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0033】
3.熱収縮性ポリエステル系フィルムの特性
本発明の環状体に使用する熱収縮性ポリエステル系フィルムをボトルのラベル用途に用いる場合、ラベルの収縮仕上がり性に最も寄与するのが、幅方向では90℃、長手方向では70℃、90℃であり、当該温度帯における収縮率の制御が他の温度帯より技術的に難しい。本発明によれば、主収縮方向である幅方向の熱収縮率が非常に高く、長手方向の熱収縮率が低いフィルムであって、且つ、厚み斑の小さい熱収縮性ポリエステル系フィルムを環状体として使用できた点で非常に有用である。
3.1 幅方向の熱収縮率
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温湯中に10秒間浸漬させたときの幅方向(主収縮方向)における収縮率が50%以上75%以下であると好ましい。ここで「幅方向」とは長手方向(機械方向、Machine Direction;MD)と直交する方向であり、横方向(Transverse Direction;TD)とも呼ばれる。90℃における幅方向の熱収縮率が50%未満であると、容器等に被覆収縮させる際に、フィルムの収縮が不足して容器にきれいに密着せず、外観不良が起こるため好ましくない。一方、90℃における幅方向の熱収縮率が75%を超えると、容器等に被覆収縮させる際に収縮速度が極端に速くなってしまい、フィルムの歪み等が発生するため好ましくない。90℃における幅方向の熱収縮率は、55%以上70%以下がより好ましく、60%以上65%以下がさらに好ましい。
【0034】
3.2.長手方向の熱収縮率
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温湯中に10秒間浸漬させたときの長手方向(機械方向、MD)における熱収縮率が-6%以上14%以下であると好ましい。90℃における長手方向の熱収縮率が-6%未満であると、容器等に被覆収縮させる際に、伸びが生じすぎてシワになり易く、良好な収縮外観を得ることができないので好ましくない。一方、90℃における長手方向の熱収縮率が14%を超えると、収縮後に歪みやヒケが生じ易くなるので好ましくない。90℃における長手方向の熱収縮率は、-4%以上12%以下がより好ましく、-2%以上10%以下がさらに好ましい。
更に本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、70℃の温湯中に10秒間浸漬させたときの長手方向(機械方向、MD)における熱収縮率が-6%以上6%以下であると好ましい。70℃における長手方向の熱収縮率が-6%未満であると、容器等に被覆収縮させる際に、伸びが生じすぎてシワになり易く、良好な収縮外観を得ることができないので好ましくない。一方、70℃における長手方向の熱収縮率が6%を超えると、収縮後に歪みやヒケが生じ易くなるので好ましくない。70℃における長手方向の熱収縮率は、-4%以上4%以下がより好ましく、-2%以上2%以下がさらに好ましい。
【0035】
3.3.幅方向の厚み斑
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向にわたって測定長さを1mとした場合の厚み斑が1%以上20%以下であると好ましい。幅方向の厚み斑が20%を超えると、フィルムをロールとして巻き取ったときに端面ズレやシワ等の外観不良が起こるだけでなく、フィルムを印刷するときに印刷不良が発生し易くなるので好ましくない。長手方向の厚み斑は、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましい。幅方向の厚み斑は小さいほど好ましいが、製膜装置の性能等を考慮すると1%程度が限界であると考えらえる。
【0036】
3.4.幅方向の最大熱収縮応力
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮前において、機械分析(TMA)で得られる縮方向の最大熱収縮応力が4MPa以上13MPa以下であることが好ましい。
熱収縮の際、幅方向の最大熱収縮応力が13MPaを上回ると、容器等の被包装対象物が変形し易くなるため好ましくない。一方、幅方向における最大熱収縮応力が4MPaを下回ると、熱収縮の際に容器への密着度合いが低下し、収縮後の仕上がり性が悪化するので好ましくない。熱収縮前における幅方向の最大熱収縮応力は、5MPa以上12MPa以下であるとより好ましく、6MPa以上11MPa以下であるとさらに好ましい。
【0037】
3.5.密度から算出した結晶化度
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、密度から算出した結晶化度が1%以上15%以下であることが好ましい。上記結晶化度が15%を上回ると、幅方向における熱収縮率が増加する。幅方向における熱収縮率と結晶化度との関係については、後述する。上記結晶化度は低ければ低いほど、幅方向における熱収縮率が増加するため良く、13%以下がより好ましく、11%以下が更に好ましい。なお上記結晶化度は、現在の技術水準では1%程度が下限である。結晶化度の測定方法は、実施例の欄に記載する。
【0038】
3.6.その他の特性
本発明に環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルム(印刷層を除いたフィルム基材)の厚みは、ボトルのラベル用途や弁当箱等の結束目的で使用するバンディングフィルム用途等に用いられることを考慮すると、5μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上150μmがより好ましい。厚みが200μmを超えると、単にフィルムの面積あたりの重量が増加するだけで経済的でない。一方、厚みが5μmを下回るとフィルムが極端に薄くなるため、環状体にする等の工程で扱い難く(ハンドリング性が悪く)なってしまう。
また、ヘイズ値は2%以上13%以下が好ましい。ヘイズ値が13%を超えると、透明性が不良となり、ラベル作成の際に見栄えが悪くなる虞があるので好ましくない。ヘイズ値は、11%以下がより好ましく、9%以下が更に好ましい。なおヘイズ値は小さいほど好ましいが、実用上必要な滑り性を付与する目的でフィルムに所定量の滑剤を添加せざるを得ないこと等を考慮すると、2%程度が下限になる。
【0039】
4.環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記2.熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステル原料で記載した原料を押出機により溶融押し出しして得られた未延伸フィルムを用いて、下記条件で横延伸することによって製造することができる。具体的には、(Tg+40℃)以上(Tg+70℃)以下の温度(T1)で予熱し、前記予熱されたフィルムを(Tg+5℃)以上(Tg+40℃)以下の温度(T2)で横延伸し、前記横延伸されたフィルムを(Tg-10℃)以上(Tg+15℃)以下の温度(T3)で更に延伸する。ここで前記T1、T2、T3はT1>T2>T3の関係を満足する。必要に応じて、前記T3での第2横延伸の後、(Tg-30℃)以上Tg以下の温度で熱処理しても良い。なお、ポリエステルは、前述した好適なジカルボン酸成分とジオール成分とを公知の方法で重縮合させることによって得ることができる。また通常は、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用する。
以下、各工程について詳述する。
【0040】
4.1.溶融押し出し
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。このようにしてポリエステル原料を乾燥した後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融し、フィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法が好適に用いられる。
得られた未延伸フィルムを、以下に詳述する方法で幅(横)方向へ延伸することにより、本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることができる。
【0041】
4.2.横延伸
以下、本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための延伸方法について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法、および非特許文献1及び2を引用して分子構造との差異を考慮しつつ、詳細に説明する。
フィルムの収縮挙動を支配する分子構造の詳細は、未だ明らかになっていない部分が多いが、大まかには配向した非晶質分子が収縮特性に関与していると考えられている。そのため、通常、熱収縮性ポリエステル系フィルムは非晶質原料を使用し、収縮させたい方向(主収縮方向、通常は幅方向)へ延伸することによって製造される。従来の非晶質原料を用いた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、一般的にはガラス転移温度(Tg)からTg+30℃の温度で、3.5倍から5.5倍程度の延伸倍率(最終延伸倍率)で延伸して製造されている。この延伸条件によって非晶質分子が配向し、フィルムに収縮率が備わると考えられており、延伸温度が低いほど、または延伸倍率が高いほど収縮率は高くなる(すなわち非晶質分子が配向し易くなる)。
一方、本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムように、非晶質成分となり得るモノマー成分(非晶質原料)が0モル%以上5モル%以下と、実質的に非晶質原料を含まない場合、上記と同じ温度、すなわちTgからTg+30℃の温度で延伸すると、2倍から2.5倍までの倍率で延伸すればフィルムは収縮するものの、上記と同じ倍率、すなわち3.5倍から5.5倍程度の延伸を施すとフィルムの収縮率は逆に低下してしまう。例えば後記する表1の比較例1、3は、いずれもTg=75℃のポリエステル原料を用いて、85~90℃(比較例1)または80℃(比較例3)の温度で、3.6倍(比較例1)または2.4倍(比較例3)で横延伸してフィルムを製造した例である。延伸倍率が2.4倍と低い比較例3では幅方向の収縮率は55.3%と高いが、延伸倍率が3.6倍と高い比較例1では幅方向の収縮率は26.8%と大幅に低下した。
【0042】
この理由は、延伸によって配向した分子が結晶化(配向結晶化)し、フィルムの収縮(すなわち、非晶質分子の収縮)を阻害するためと考えられている。例えば非特許文献1の
図4には、ポリエチレンテレフタレート繊維の一軸延伸における応力(横軸)と複屈折(縦軸)との関係が示されており、この図から分子配向の変化の様子を読み取ることができる。すなわち、延伸倍率DRが約2倍までの領域では応力と複屈折は線形関係にあり、延伸を停止すると応力が緩和されると共に複屈折が低下する。複屈折の低下は分子鎖の緩和を示しており、フィルムに置き換えた場合、フィルムの収縮を示している(収縮率の発現)と考えられる。一方、延伸倍率DRが2倍を超えると、応力と複屈折の線形関係は成立し難くなり、延伸を停止しても複屈折の低下は見られなくなる。この現象が配向結晶化による収縮率の低下を示していると考えられる。このことより、本発明のように非晶質原料を実質的に含まない場合であっても、延伸による配向結晶化が発生しない条件であればフィルムに収縮率を発現させることができると考えられる。
【0043】
ここで、延伸しても配向結晶化しない延伸条件は、例えば非特許文献2の
図2の写真に示されている。ここには、85℃(=Tg+10℃)の低温延伸では結晶ピークが見られたのに対し、130℃(=Tg+55℃)程度の高温延伸では結晶ピークが見られず、分子が全く配向結晶化しないことが示されている。これは、高温延伸では延伸中に起こる分子の緩和が配向する速度よりも速いためと考えられている。実際のところ本発明者らがフィルムの製造ラインで130℃の一定温度にて高温延伸を実施したところ、上記メカニズムの通り、分子が配向しないため収縮率が発現しなかった。更に収縮率が見られないだけでなく、延伸中の応力が増加しないため厚み斑が悪い(大きくなる)ことも判明した。
そこで、本発明者らは延伸工程全般を上記のように高温延伸(一定)とするのではなく、高温延伸によって分子をほとんど配向させない工程と、低温延伸によって分子を積極的に配向させる工程とに分けて行えば、配向結晶化による収縮率の低下を抑制しつつ、非晶質分子のみを配向させて収縮率を発現できると共に、厚み斑も低く抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下に詳述するとおり温度T1で予熱し、温度T2で横延伸した後、温度T3で横延伸する(T1>T2>T3)方法により、非晶質分子のみをフィルム中に存在させ、長手方向と幅方向の熱収縮率をコントロールできること、しかも幅方向の厚み斑も低減できることが判明した。
【0044】
以下、各工程について、順次説明する。
まず、(Tg+40℃)以上(Tg+70℃)以下の温度T1で予熱ゾーンを予熱する。予熱温度T1が(Tg+40℃)未満であると、次工程のT2での横延伸時に分子が配向結晶化し易くなってフィルム幅方向の熱収縮率が下限の50%を下回り易くなってしまう(後記する表1の比較例1を参照)。また、予熱温度T1が(Tg+40℃未満)であると、横延伸で生じるネックインによって縦方向へかかる応力が大きくなり、長手方向の熱収縮率が上限の6%を超え易くなるため好ましくない。一方、予熱温度T1が(Tg+70℃)を超えると、幅方向の厚み斑が悪化して上限の20%を超え易くなるため好ましくない。予熱温度T1は、(Tg+45℃)以上(Tg+65℃)以下がより好ましく、(Tg+50℃)以上(Tg+60℃)以下が更に好ましい。
具体的には、上記予熱温度T1となるように、予熱ゾーンの通過時間を2秒以上10秒以下に制御することが好ましい。予熱ゾーンの通過時間が2秒未満であると、フィルムが上記の予熱温度T1に達しないうちに次工程のT2での横延伸が開始されてしまう。そのため、予熱温度T1が(Tg+40℃)未満の場合と同様の問題が生じてしまう。予熱ゾーンの通過時間が長いほど、フィルムの温度が上記予熱温度T1に達し易くなるため好ましいが、通過時間が長くなり過ぎると、予熱ゾーンの温度が冷結晶化温度を超えて設定されるため、未延伸フィルムの結晶化が過度に促進されてしまうため好ましくない。さらに、予熱ゾーンの通過時間が長いほど生産設備は増大するため好ましくない。予熱ゾーンの通過時間は10秒あれば十分である。
【0045】
次に、上記温度T1で予熱されたフィルムを、(Tg+5℃)以上(Tg+40℃)以下の温度T2で横延伸する(第1横延伸と呼ぶ場合がある)。第1横延伸では前述したように延伸による分子配向を抑制する必要があり、第1横延伸での温度T2を、予熱温度T1よりも低くして、(Tg+5℃)以上(Tg+40℃)以下に制御する。第1横延伸での温度T2が(Tg+5℃)未満であると、予熱時と同様の問題が生じ、フィルム幅方向の熱収縮率が下限の50%を下回り易くなるだけでなく、長手方向の熱収縮率が上限の6%を超え易くなるため好ましくない。一方、第1横延伸での温度T2が(Tg+40℃)を超えると、幅方向の厚み斑が上限の20%を超え易くなってしまうため好ましくない。第1横延伸での温度T2は、(Tg+10℃)以上(Tg+35℃)以下がより好ましく、(Tg+15℃)以上(Tg+30℃)以下が更に好ましい。
また、第1横延伸での延伸倍率は1.5倍以上2.5倍以下が好ましい。第1横延伸での延伸倍率が1.5倍未満であると、配向結晶化の抑制効果が小さくなり、フィルム幅方向の収縮率が50%を下回り易くなる他、長手方向の収縮率が6%を超え易くなるため好ましくない。一方、第1横延伸での延伸倍率5倍を超えると、幅方向の厚み斑が20%を超え易くなってしまうため好ましくない。第1横延伸での延伸倍率は、1.6倍以上2.4倍以下がより好ましく、1.7倍以上2.3倍以下が更に好ましい。
【0046】
前記横延伸されたフィルムを、(Tg-10℃)以上(Tg+15℃)以下の温度T3で更に延伸する(第2横延伸と呼ぶ場合がある。)。上述したように第1横延伸では分子配向が抑制されるように高温で延伸するが、その後の第2横延伸では反対に、延伸によって積極的に分子配向を生じさせる必要がある。そのため、本発明ではT2>T3となるように低温で延伸しており、具体的には第2横延伸での温度T3は(Tg-10℃)以上(Tg+15℃以下)である。第2横延伸での温度T3が(Tg-10℃)を下回ると、横延伸で生じるネックインによって縦方向へかかる応力が大きくなり、長手方向の熱収縮率が上限の6%を超え易くなってしまうため好ましくない。一方、第2横延伸での温度T3が(Tg+15℃)を超えると、分子配向が小さくなり、幅方向の熱収縮率が下限の50%を下回り易くなってしまう(後記する表1の比較例5を参照)。第2横延伸での温度T3は、(Tg-7℃)以上(Tg+12℃)以下がより好ましく、(Tg-4℃)以上(Tg+9℃)以下が更に好ましい。
【0047】
また、第2横延伸での延伸倍率は1.5倍以上2.5倍以下が好ましい。第2横延伸での延伸倍率が1.5倍未満であると、幅方向における厚み斑が悪化してしまう。一方、第2横延伸で延伸倍率が2.5倍を超えると、幅方向の収縮率が低下し易くなるだけでなく、幅方向の収縮応力が増加してしまう。第2横延伸での延伸倍率は、1.6倍以上2.4倍以下がより好ましく、1.7倍以上2.3倍以下が更に好ましい。
また最終延伸倍率(第1横延伸での延伸倍率と第2横延伸での延伸倍率の積)は、3倍以上5.5倍以下が好ましい。最終延伸倍率が3倍未満であると、幅方向の収縮率が低下し易くなるだけでなく、幅方向における厚み斑が悪化してしまう。一方、最終延伸倍率が5.5倍を超えると、幅方向への延伸中に破断が発生しやすくなる。最終延伸倍率は、3.1倍以上5.4倍以下がより好ましく、3.2倍以上5.3倍以下が更に好ましい。
本発明の環状体に用いる熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、予熱温度T1と、第1延伸での温度T2と、第2延伸での温度T3が、T1>T2>T3の関係を満足する。この関係を満足しつつ、個々のT1、T2、T3が上記範囲を満足するように横延伸を行えば所望とするフィルムが得られる。
【0048】
4.3.熱処理
上記のようにして横延伸を行ったフィルムは、必要に応じて、テンター内で幅方向の両端際をクリップで把持した状態で熱処理しても良い。ここで熱処理とは、(Tg-20℃)以上Tg以下の温度で1秒以上9秒以下、熱処理することを意味する。このような熱処理により、熱収縮率の低下を抑制できる他、経時保管後の寸法安定性が向上するため、好ましく用いられる。熱処理温度が(Tg-20℃)より低いと、熱処理による上記効果が有効に発揮されない。一方、熱処理温度がTgより高いと、幅方向の熱収縮率が下限の50%を下回り易くなる。
なお、熱処理時の温度は、第2延伸での温度T3以下であることが好ましい。
上記熱処理の規定に基づけば、後記する実施例1~6、比較例1~3、5(いずれもTg=75℃)のうち実施例2を除く例は全て、横延伸後の加熱温度が50℃であり、上記の温度範囲を満足しないため、本発明における熱処理を行った例とはみなされない。これに対し、実施例2では横延伸後の加熱温度を75℃としたため、本発明における熱処理を行った例とみなされる。
熱処理時間は長いほど効果を発揮し易くなるが、あまり長いと設備が巨大化するので、1秒以上9秒以下に制御することが好ましい。より好ましくは、5秒以上、8秒以下である。
また、熱処理工程においては、テンター内の把持用クリップ間の距離を縮めることにより、幅方向へのリラックスを実施することもできる。これにより、経時保管後の寸法変化や熱収縮特性の低下を抑制することができる。
【実施例0049】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能である。
【0050】
[ポリエステルの合成]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、重合後の樹脂組成が表1に記載の組成となるように酸成分としてテレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、セバシン酸(SA)、アジピン酸(AA)を、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)、ネオペンチルグリコール(NPG)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、ブタンジオール(BD)をそれぞれ仕込み、140℃から220℃まで、溜出する水を系外に除きつつ4時間かけてエステル化反応を行った。次いで、60分かけて徐々に133.3Paまで減圧するとともに270℃まで昇温した。さらに13.3~40.0Paの減圧下、270℃にて約90分間重縮合反応を行い、共重合ポリエステルA~Cを得た。得られた共重合ポリエステルA~Gの樹脂組成を表1に示す。なお、表1中のDEGはジエチレングリコールであり、重合で生じた副生成物である。表1中、「酸成分」の欄には全酸成分100モル%に占める各モノマー成分の含有量を、「多価アルコール成分」の欄には全多価アルコール成分100モル%中に占める各モノマー成分の含有量を示している。
【0051】
【0052】
[フィルム1の製造方法]
ポリエステルDおよびポリエステルEを質量比95:5で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ約150μmの未延伸フィルムを得た。未延伸フィルムのTgは75℃であった。
得られた未延伸フィルムを横延伸機(テンター)に導き、135℃で5秒間の予熱を行った。予熱後のフィルムは連続して横延伸前半ゾーンに導き、105℃で2.1倍になるまで横延伸した。続いて、横延伸後半ゾーンでは81℃で1.9倍になるまで横延伸した。最終的な横延伸倍率は4.0倍であった。最後に熱処理ゾーンにて50℃で3秒間熱処理した後、冷却し、両縁部を裁断除去して、幅を約242mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ40μmの横延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造し、フィルム1を得た。フィルム1の製造条件と特性を表2に示す。
【0053】
[フィルム2~6の製造方法]
フィルム2~6については、ポリエステル原料、横延伸条件を変更した以外はフィルム1と同様の製造方法で製膜し、評価した。各フィルムの製造条件と特性を表2に示す。
なお、フィルム6については、上記式3による結晶化度の算出方法を適用できないため、表2の欄は「-」と記載している。
【0054】
[収縮仕上がり性]
上記の熱収縮性ラベルを巻き取ったロールから、長手方向に90mmピッチでカットした熱収縮性ラベルを採取し、市販の280mlPETボトル(伊藤園社製 おーいお茶、内容物入り、未開封)に被せ、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH-1500-L)を用いてスチームに通して熱収縮させた(トンネル条件は実施例または比較例に記載)。
収縮後のラベルの仕上がり性を、以下の基準に従って目視で5段階評価した。以下に記載の欠点とは、飛び上がり、シワ、収縮不足、ラベル端部折れ込み、収縮白化、印刷インキのかすれ等を意味する。
5:仕上がり性最良(欠点なし)
4:仕上がり性良(欠点1箇所あり)
3:欠点2箇所あり
2:欠点3~5箇所あり
1:欠点多数あり(6箇所以上)
【0055】
[熱収縮率(熱収縮後)]
上記の収縮仕上がり性を評価したラベルから長手方向4mm×幅方向(ボトルの周方向)25mmのサンプル切り出し、セイコー電子工業社製TMA SS100を用いて変位モードにて熱収縮率を測定した。チャック間距離は15mmとし、チャック間の方向がラベルの幅方向となるよう、専用のチャックを用いてサンプルをプローブに取り付け、荷重49mNで30℃から130℃までに間を10℃/分で昇温した。得られた変位より、下式1に従って熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100 式1
【0056】
[基材フィルムの樹脂組成]
包装体から印刷層の除去した基材フィルム10mgを、重クロロホルム/トリフルオロ酢酸を体積比で85%/15%で混合した溶媒0.6mlに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ-200(500MHz)を用いて積算回数32回で1H-NMR分析を行った。得られたNMRスペクトルは、解析ソフトJEOL RESONANCE(日本電子製)を用い、積分比より樹脂のモル%比を決定した。
[融点(Tm)、融解熱量(ΔHm)]
セイコー電子工業株式会社社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、JIS-K7121-1987に従って融点Tmと融解熱量ΔHmを求めた。詳細には包装体から印刷層の除去した基材フィルム10mgを、30℃から300℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱曲線を測定した。得られた吸熱曲線の140℃以上にあらわれるピーク温度を融点Tm(℃)とし、そのピーク面積を融解熱量ΔHm(J/g)とした。なお、吸熱ピークが2つ以上あらわれる場合は、より温度の高いピークをTmとし、そこからΔHmを求めた。
【0057】
[耐熱ブロッキング性]
上記の収縮仕上がり性の評価に使用した、ラベル付きのボトルに水を充填して蓋を閉めた後、60℃/50%RHに調整した恒温槽(エスペック製LHU-124)の中に、ラベル同士が接触するように10個入れ、1週間放置した。その後、ラベル付きのボトルを取り出し、ラベル同士がブロッキングしていなければ○、ブロッキングしていれば×として耐熱ブロッキング性を評価した。
【0058】
[リサイクル性]
上記の収縮仕上がり性の評価に使用したラベル付きのボトル500個を粉砕してフレークを得た後、フレーク濃度10重量%、85℃、30分の条件で3.5重量%の水酸化ナトリウム溶液で攪拌下で洗浄を行った。アルカリ洗浄後、フレークを取り出し、フレーク濃度10重量%、25℃、20分の条件で蒸留水を用いて攪拌下で洗浄を行った。この水洗を蒸留水を交換してさらに2回繰り返し実施した。水洗したフレークを乾燥後、押出機で溶融し、順次目開きサイズの細かなものにフィルターを変えて2回更に細かな異物を濾別し、3回目に50μmの最も小さな目開きサイズのフィルターで濾別して、再生ポリエステルを得た。また、ラベルの付いていないPETボトルについても、同様の方法で再生ポリエステルを得た。ポリエステルを再生する際、フレークの食い込み不良やフィルター昇圧の有無により、リサイクル性を評価した。ラベルが入っていないフレークに比べて、ラベルの入っているフレークで食い込み不良やフィルター昇圧の回数が同等、または1回多い場合を○、2回以上多い場合を×として評価した。
後記する表2に記載したそれぞれのポリエステル系フィルムについて、以下の特性を評価した。
【0059】
[熱収縮率(熱収縮前)]
ポリエステル系フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度[(90℃または70℃)±0.5℃]の温湯中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下式1に従ってそれぞれの熱収縮率を求めた。熱収縮率の大きい方向を主収縮方向(幅方向)とした。
熱収縮率(%)={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100 式1
【0060】
[幅方向の厚み斑(熱収縮前)]
フィルムロールから、フィルム長手方向の寸法40mm×フィルム幅方向の寸法1.2mの幅広な帯状のフィルム試料をサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、測定速度5m/minで上記フィルム試料の幅方向に沿って連続的に厚みを測定した(測定長さは1m)。測定時の最大厚みをTmax.、最小厚みをTmin.、平均厚みをTave.とし、下式2に従ってフィルムの幅方向の厚み斑を算出した。
厚み斑(%)={(Tmax.-Tmin.)/Tave.}×100 式2
【0061】
[幅方向の最大熱収縮応力(熱収縮前)]
ポリエステル系フィルムから、長手方向4mm×幅方向25mmのサンプル切り出し、セイコー電子工業社製TMA SS100を用いて、応力モードにて最大熱収縮応力を測定した。チャック間距離は15mmとし、チャック間の方向がフィルムの幅方向となるよう、専用のチャックを用いてサンプルをプローブに取り付け、初期荷重40mNで30℃から130℃までに間を10℃/分で昇温した。得られた収縮応力の中で最大値を幅方向の最大収縮応力とした。
【0062】
[ヘイズ(熱収縮前)]
JIS K7136に準拠して、ヘイズメータ「500A」(日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0063】
[結晶化度(熱収縮前)]
JIS-K-7112の密度勾配管法により、硝酸カルシウム水溶液を用いて約3mm四方のサンプルの密度dを測定し、下式3に従って結晶化度を測定した。
結晶化度(%)={dc×(d-da)/(d×(dc-da)}×100 式3
dc:1.455g/cm3(ポリエチレンテレフタレート完全結晶の密度)
da:1.335g/cm3(ポリエチレンテレフタレート完全非晶の密度)
d: サンプルの密度(g/cm3)
【0064】
[Tg;ガラス転移点(熱収縮前)]
セイコー電子工業株式会社社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、JIS-K7121-1987に従ってTgを求めた。詳細には未延伸フィルム10mgを、-40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱曲線を測定した。得られた吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をガラス転移点(Tg;℃)とした。
【0065】
上記ポリエステル原料D~Gを用いて、表2に記載の各種ポリエステル系フィルムを得た。
【0066】
【0067】
[実施例1]
フィルム1のロールの幅方向における端部から20mmを除く全面に、東洋インキ社製の草・金・白色のインキを用いて、ラベル用の印刷(3色印刷)を繰り返し施して巻き取り、印刷フィルムロールを作製した。このロールから印刷フィルムを繰り出して、フィルム幅方向の片端部の内側に、1,3-ジオキソラン/ポリエステルAを重量比で90/10となるように混合した接着用溶剤組成物を塗布幅が4±2mmの範囲で300mg/m
2となるよう調整し、加工速度400m/分で連続的に塗布した。この溶剤組成物塗布部をフィルムのもう一方の幅方向端部の上に、重なり部が中央部にくるようにフィルムを折り重ねて接着し、熱収縮性フィルムを環状体としたラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としたラベル)を作製した。その後、このラベルの長手方向にミシン目(約1mm径の穴が約4mm間隔で並ぶミシン目)を約22mmの間隔で2本平行に形成して、ラベルを連続的に巻き取った。
上記の熱収縮性ラベルを巻き取ったロールから、スチームトンネルに通して熱収縮させた。トンネルは3つのゾーンに分かれており、1ゾーン/2ゾーン/3ゾーンの温度を60/79/81℃、全ゾーン合計の滞留時間は28秒となるよう設定した。
実施例1の製造条件と得られた特性を表3に、TMAより得られた熱収縮率を
図1に示す。
【0068】
[実施例2~7、比較例1~4]
上記実施例1において、用いたフィルム、接着用溶剤組成物、スチームトンネルの温度と滞留時間を表3のように変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2~7、および比較例1~4の包装体を製造した。
実施例1の製造条件と得られた特性を表3に示す。また比較例1については、TMAより得られた熱収縮率を
図1に示す。
【0069】
【0070】
本発明の要件を満足する実施例1~7の包装体は、収縮仕上がり性評価が4または5と美麗な外観を有しており、包装体の接着強度、残留収縮率、融点、耐熱ブロッキング性、リサイクル性も所定の範囲を満たしており、好ましいものであった。
これに対し、比較例1では、幅方向における90℃での熱収縮率が26.8%と低いフィルム5を用いたため、包装体の残留熱収縮率のピークが120℃以下であらわれず(120℃における残留収縮率は0.9%)、包装体の収縮仕上がり性が著しく低下した(評価1)。そのため、耐熱ブロッキングテストとリサイクル性については、評価していない。
【0071】
比較例2では、幅方向における厚みムラが22.0%であるフィルム7を用いたため、包装体のインキが均一に印刷されずに かすれ等の欠点が多く発生したため、収縮仕上がり性が低下した(評価2)。また、フィルム7には、非晶原料(ポリエステルF、G)を用いたため、融点が173℃と低く、融解熱量(ΔHm)も17J/gに低下し、耐熱ブロッキング性とリサイクル性の評価が「×」となった
【0072】
比較例3では、接着用溶剤を1,3-ジオキソラン単体としたため、接着強度がゼロ(接着不可)となってしまい、環状の包装体を作製することができなかった。そのため、耐熱ブロッキングテストとリサイクル性については、評価していない。
比較例4は、熱収縮後の残留収縮率が44.9%と高いため、収縮仕上がり性は著しく低下した(評価1)
本発明の包装体は、上記のように優れた接着強度と収縮仕上がり性を有しており、実質的にポリエチレンテレフタレートのみからなる原料を使用しているので、PETボトルと一緒にリサイクルすることができる。以上より、本発明は、飲料ボトル用の包装体として有用である。