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特開2022-95811サイレントキャリア遺伝子型を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095811
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】サイレントキャリア遺伝子型を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6881 20180101AFI20220621BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220621BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220621BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220621BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20220621BHJP
【FI】
C12Q1/6881 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6883 Z
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022063180
(22)【出願日】2022-04-06
(62)【分割の表示】P 2020095815の分割
【原出願日】2015-11-13
(31)【優先権主張番号】62/080,047
(32)【優先日】2014-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515335987
【氏名又は名称】アテナ ダイアグナスティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,デーヴィッド エー.
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンス,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ブラーステッド,コレイ ディー.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト対象における染色体欠失対立遺伝子のサイレントキャリアを検出するためのキット、及び該キットの使用方法を提供する。
【解決手段】ヒト対象における染色体欠失対立遺伝子のサイレントキャリアを検出するためのキットであって、(a)SMN1遺伝子の標的領域の増幅のための1対のオリゴヌクレオチドプライマー対であって、前記標的領域がSMN1サイレントキャリアの標的遺伝子ヌル対立遺伝子において欠失している、オリゴヌクレオチドプライマー対、及び(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない、参照遺伝子の標的領域の増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマー対、及び(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬を含むキットとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして同定するための方法であって、
(a)複数の核酸増幅反応を実施する工程であって、各々の核酸増幅反応が、(i)対象からの単一の一倍体細胞から得られたゲノムDNAサンプル、(ii)標的遺伝子の標的領域であって標的遺伝子ヌル対立遺伝子には存在しない標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマー、及び(iii)参照遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、工程、
(b)標的遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、
(c)参照遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、並びに
(d)参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が、約0.5~約0.8の閾値レベル以下である場合、対象を前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子のキャリアとして特徴付ける工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記閾値レベルが約0.75である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアにおける参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が約0.5である、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
一倍体細胞が天然に存在する配偶子細胞又は人工一倍体細胞である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一倍体細胞が精子細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
人工一倍体細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記対象がヒト対象である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
標的遺伝子がSMN1である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
標的遺伝子のホモ接合型欠失が疾患又は状態に関連する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患又は状態が脊髄性筋萎縮症(SMA)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
標的遺伝子の増幅のための少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーが、検出可能な成分により標識されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
参照遺伝子の増幅のための少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーが、検出可能な成分により標識されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記検出可能な成分が蛍光成分である、請求項13又は請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸増幅反応が定量的PCRである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
各々の核酸増幅反応が、マルチウェルプレートの別々のウェルで行われる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各々の一倍体細胞がマイクロ液滴中に封入されている、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
マイクロ液滴が油中水型エマルション中に分散されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
核酸増幅反応がデジタル液滴PCRである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
標的遺伝子増幅産物が、該標的遺伝子増幅産物に特異的な標識核酸プローブで検出される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
参照遺伝子増幅産物が、該参照遺伝子増幅産物に特異的な標識核酸プローブで検出される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象からの二倍体細胞中の前記標的遺伝子のコピー数を決定する工程をさらに含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアである可能性の評価を含むレポートの作成をさらに含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程を含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程が、
(a)単一の一倍体細胞群を、1反応容器当たり1個の一倍体細胞の濃度で別々の反応容器に分別する工程、及び
(b)各々の分別された細胞を溶解緩衝液と接触させて、細胞からゲノムDNAを放出させる工程
を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記溶解緩衝液が酵素を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記溶解緩衝液がプロテイナーゼKを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ゲノムDNAの調製及び前記核酸増幅反応が同じ反応容器内で行われる、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記ゲノムDNAの調製及び前記核酸増幅反応が、別々の反応容器内で行われる、請求項27~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記反応容器がマイクロタイタープレートである、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程が、
(a)単一の一倍体細胞群を、1反応容器当たり1個の一倍体細胞の濃度で水性マイクロ液滴に封入する工程、及び
(b)各々のマイクロ液滴内の各々の単一の一倍体細胞を溶解緩衝液と接触させて、細胞からゲノムDNAを放出させる工程
を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
(a)SMN1遺伝子の標的領域の増幅のための1対のオリゴヌクレオチドプライマー対であって、前記標的領域がSMN1サイレントキャリアの標的遺伝子ヌル対立遺伝子において欠失している、オリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない、参照遺伝子の標的領域の増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬
を含むキット。
【請求項35】
ヌクレオチド三リン酸、熱安定性ポリメラーゼ、及び/又は適切な緩衝液を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される、請求項34に記載のキット。
【請求項37】
標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、請求項34に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月14日に出願された米国特許仮出願第62/080,047号に対する優先権及びその利益を請求するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、嚢胞性線維症に次いで2番目に多い致死性常染色体劣性疾患であり、6,000~10,000人の出生数のうち約1人が罹患する。この障害は、脊髄の運動ニューロンの変性に起因する低血圧、近位筋力低下及び呼吸困難によって特徴付けられる。SMAは、5番染色体の5q11.2-13.3に位置する生存運動ニューロン1(SMN1)遺伝子の突然変異によって引き起こされる。罹患した個体の大部分は、完全な遺伝子欠失によるか、又は隣接するSMN2遺伝子を巻き込んだ遺伝子変換事象を介した、SMN1遺伝子の喪失を示す。SMN2遺伝子は、エクソン7において単一ヌクレオチドがSMN1遺伝子と異なり(840C>T)、5番染色体においてSMN1遺伝子とシスで逆向きの配向で存在している。SMN1遺伝子の少なくとも1コピーは、運動ニューロンの正常な生存に不可欠である。対照的に、場合によってSMN2コピーの数が臨床表現型を変化させることはあり得るものの、正常個体の約5~10%がSMN2の両方のコピーを欠いているので、SMN2遺伝子の両方のコピーはなくてもよい。
【0003】
SMAの分子診断は、一般的に、SMN1のホモ接合性欠失の検出によって達成される。SMA患者の95%超は、SMN1エクソン7のホモ接合型欠失を有する。しかし、SMAのキャリア検査は、いくつかの理由から特に厄介である。SMN1遺伝子はSMN2に対して高い相同性を有するため、注意深く設計された対立遺伝子特異的アッセイによってのみ、SMN1遺伝子の異常を検出することができる。さらに、キャリア集団の約4%において、SMN1遺伝子の両方のコピーを一方の染色体に置き、他方にはコピーが無いという染色体の変異が見られる(すなわち、サイレントキャリア又は2+0遺伝子型)。遺伝子量解析は、SMN1の非存在についてヘテロ接合である個体におけるキャリア状態を検出するためにSMN1のコピー数を決定することができるが、SMN1遺伝子の2つのコピーが一方の染色体上のみに存在するサイレントキャリア遺伝子型の検出には無効である。さらに、SMN1及びSMN2遺伝子は同じ染色体上で長距離(800kb)離れているため、染色体欠損の連鎖分析は困難である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書では、特定の実施形態において、対象に由来する一倍体細胞を使用して、ヒト対象における染色体欠失対立遺伝子のサイレントキャリアを検出するための方法及び組成物が記載される。いくつかの実施形態において、一倍体細胞は配偶子(例えば、精子細胞又は卵細胞)である。特定の実施形態において、本明細書で提供される方法は、個体が一方の5番染色体ホモログにSMN1遺伝子の欠失及び他方の5番染色体ホモログにSMN1遺伝子の2つ以上のコピーを有する、SMAのサイレント(2+0)キャリアの検出を可能とする。
【0005】
本明細書では、特定の実施形態において、対象を標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして同定するための方法が提供される。いくつかの実施形態において、この方法は、(a)複数の核酸増幅反応を実施する工程であって、各々の核酸増幅反応が、対象からの単一の一倍体細胞から得られたゲノムDNAサンプル、標的遺伝子増幅産物の生成のための標的遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーであって、前記標的遺伝子増幅産物において増幅される領域が標的遺伝子ヌル対立遺伝子において欠失している、オリゴヌクレオチドプライマー、及び参照遺伝子増幅産物の生成のための参照遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、工程、(b)標的遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、(c)参照遺伝子増幅産物の有無を検出する工程;並びに(d)参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が閾値レベル以下である場合、対象を前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子のキャリアとして特徴付ける工程、を含む。いくつかの実施形態において、閾値レベルは約0.5~約0.8にある。例えば、いくつかの実施形態において、閾値レベルは約0.75又は約0.8である。いくつかの実施形態において、標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアにおける、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率は約0.5である。本明細書において提供される方法は、典型的には、哺乳動物対象、特にヒト対象から得られたサンプルに対して実施される。特定の実施形態において、増幅のための標的遺伝子はSMN1である。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物は、SMN1のエクソン7又はその一部を含む。いくつかの実施形態において、参照遺伝子は、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される。特定の実施形態において、参照遺伝子はCFTRである。いくつかの実施形態において、標的遺伝子のホモ接合型欠失は、疾患又は状態に関連する。いくつかの実施形態において、疾患又は状態は、脊髄性筋萎縮症(SMA)である。
【0006】
この方法において使用される例示的な一倍体細胞には、天然に存在する配偶子細胞又は人工一倍体細胞(induced haploid cell)が含まれる。いくつかの実施形態において、一倍体細胞は、精子細胞又は卵細胞である。いくつかの実施形態において、一倍体細胞が人工一倍体細胞である場合には、一倍体細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する。いくつかの実施形態において、iPSCは、対象からの成体幹細胞から生成される。
【0007】
いくつかの実施形態において、標的遺伝子及び/又は参照遺伝子の標的領域の増幅のためのプライマー対の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーは、放射活性成分、蛍光成分、又は色素分子のような検出可能な成分により標識される。いくつかの実施形態において、核酸増幅反応は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は特に定量的PCRである。いくつかの実施形態において、各々の核酸増幅反応は、マルチウェルプレートの別々のウェルにおいて行われる。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物及び/又は参照遺伝子増幅産物は、標的遺伝子増幅産物に特異的な標識核酸プローブで検出される。
【0008】
いくつかの実施形態において、提供される方法は、単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程を含む。例示的な方法において、単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程は、(a)単一の一倍体細胞群を、1反応容器当たり1個の一倍体細胞の濃度で別々の反応容器に分別する工程、及び(b)各々の分別された細胞を溶解緩衝液と接触させて、細胞からゲノムDNAを放出させる工程を含む。いくつかの実施形態において、溶解緩衝液は、一倍体細胞の溶解を補助する酵素を含む。例えば、いくつかの実施形態において、溶解緩衝液はプロテアーゼを含む。いくつかの実施形態において、溶解緩衝液はプロテイナーゼKを含む。ゲノムDNAの調製及び核酸増幅反応は、同じ反応容器又は別々の反応容器内で行うことができる。同じ反応容器中でのゲノムDNAの調製及び核酸増幅反応は、ゲノムDNAの損失を最小限にする。いくつかの実施形態において、反応容器は、マイクロタイタープレート、マイクロチップ又は反応グリッドスライドのウェルである。
【0009】
いくつかの実施形態において、本方法は液滴デジタルPCRを含む。いくつかの実施形態において、解析される各々の一倍体細胞は、最初にマイクロ液滴に封入される。いくつかの実施形態において、マイクロ液滴は、単一の容器内で油中水型エマルション中に分散される。いくつかの実施形態において、マイクロ液滴は個々の容器に分別される。いくつかの実施形態において、各々の一倍体細胞はマイクロ液滴内で溶解される。いくつかの実施形態において、溶解された細胞を含むマイクロ液滴は、その後、核酸増幅反応に供される。いくつかの実施形態において、核酸増幅産物はマイクロ液滴内で検出される。他の実施形態において、増幅産物はマイクロ液滴から単離され、検出される。
【0010】
いくつかの実施形態において、本方法は、試験対象からの二倍体細胞中の標的遺伝子のコピー数を決定する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、試験対象の二倍体細胞から細胞株を生成することをさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、SMN1及び/若しくはSMN2遺伝子又はその一部の配列決定をさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、本方法は、対象が標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアである可能性の評価を含むレポートの作成をさらに含む。
【0012】
本明細書に記載の方法を実施するためのキットも本明細書において提供される。例示的な実施形態において、提供される方法を実施するためのキットは、
(a)標的遺伝子増幅産物の生成のためのSMN1遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対であって、SMN1遺伝子増幅産物中で増幅される領域がSMN1サイレントキャリアにおいて欠失しているオリゴヌクレオチドプライマー対、及び(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない参照遺伝子増幅産物を生成するための参照遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対、及び(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬を含む。いくつかの実施形態において、キットは、ヌクレオチド三リン酸、熱安定性ポリメラーゼ、及び/又は適切な緩衝液を含む。いくつかの実施形態において、参照遺伝子は、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物は、SMN1のエクソン7又はその一部を含む。
【0013】
本明細書に記載の方法を実施するためのマイクロタイタープレートも本明細書で提供される。典型的なマイクロタイタープレートは、複数の反応容器(例えば、ウェル)を含み、前記マイクロタイタープレートの1つ以上の反応容器は、(a)標的遺伝子増幅産物の生成のためのSMN1遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対であって、SMN1遺伝子増幅産物において増幅される領域がSMN1サイレントキャリアにおいて欠失しているオリゴヌクレオチドプライマー、(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない参照遺伝子増幅産物の生成のための参照遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対、及び(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上の反応容器は、ヌクレオチド三リン酸、熱安定性ポリメラーゼ、及び/又は適切な緩衝液を含む。いくつかの実施形態において、参照遺伝子は、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物は、SMN1のエクソン7又はその一部を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、5番染色体上の5q13におけるSMN1及びSMN2遺伝子座の構成を示す図である。正常、キャリア及びサイレントキャリア遺伝子型に関連した、SMN1及びSMN2遺伝子コピーの染色体配置の詳細が提供される。
図2図2は、単一精子細胞qPCRアッセイの例示的アッセイワークフローを示す図である。
図3図3は、単一精子qPCRアッセイにおいてSMN1遺伝子を検出するためのデータを示す図である。SMN1 対 参照遺伝子、及び両方の遺伝子標的 対 参照遺伝子の単一細胞qPCRアッセイ比率の値の平均値を示す。*P<0.01。観測値の標準偏差をエラーバーにより示す。
図4図4は、同定された2+0遺伝子型結果の分解能を示す図である。(A) 検体DS11についての、SMN1 対 参照遺伝子、及び両方の遺伝子標的 対 参照遺伝子の、単一細胞qPCRアッセイ比率の値の平均値。(B)SMN1及びSMN2遺伝子の非特異的配列決定、赤色ボックスで強調されたエクソン7 c.840C>Tの+6位。(C)SMN1 qPCRプライマー及びプローブ部位の特異的配列決定。*P<0.001。観測値の標準偏差をエラーバーにより示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特定の用語法
本開示の理解を容易にするために、いくつかの用語及び語句を以下に定義する。
【0016】
本明細書で使用されるように、特に言及しない限り、単数形「a」、「an」及び「the」には複数も含まれる。したがって、例えば、「オリゴヌクレオチド(an oligonucleotide)」への言及は複数のオリゴヌクレオチド分子を含み、「標識(a label)」への参照は1つ以上の標識への参照であり、「プローブ(a probe)」への参照は1つ以上のプローブへの参照であり、「核酸(a nucleic acid)」への言及は、1つ以上のポリヌクレオチドへの言及である。
【0017】
本明細書中で使用されるように、特に示さない限り、数値を参照する場合、用語「約」は、挙げられた値のプラス又はマイナス10%を意味する。
【0018】
本明細書中で使用される「キャリア」又は「遺伝子キャリア」は、SMAのような特定の表現型の発現に関与する遺伝的決定因子の少なくとも1コピーの対立遺伝子を有する個体である。
【0019】
本明細書中で使用される「サイレントキャリア」は、コピー数に基づいた診断技術を用いて検出することができない遺伝子キャリアである。例えば、「サイレントキャリア」は、一方の染色体ホモログ上に標的遺伝子の全体又は一部の欠失を有しており、他の染色体ホモログ上に標的遺伝子の2つ以上のコピーを有する、遺伝的キャリアである。
【0020】
本明細書中で使用される「SMAサイレントキャリア」又は「SMA(2+0)キャリア」は、一方の5番染色体ホモログ上に全部又は一部のSMN1遺伝子の欠失を有しており、他方の5番染色体ホモログ上に2つ以上のコピーのSMN1遺伝子を有する、遺伝的キャリアである。
【0021】
本明細書中で使用される用語「増幅」又は「増幅する」は、標的核酸をコピーし、それによって、選択された核酸配列のコピー数を増加させる方法を含む。増幅は指数関数的又は線形であってよい。標的核酸は、DNA又はRNAのいずれかであってよい。このようにして増幅された配列は、「アンプリコン」としても知られている「増幅産物」を形成する。以下に記載する例示的な方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた増幅に関するものであるが、核酸の増幅のための多くの他の方法(例えば、等温法、ローリングサークル法など)が当該技術分野において知られている。当業者であれば、これらの他の方法は、PCR法の代わりに、又はPCR法とともに使用してもよいことを理解するであろう。例えば、PCRプロトコールのSaiki「ゲノムDNAの増幅」、Innisら、編、Academic Press社、サンディエゴ、カルフォルニア州 1990、pp.13~20; Wharamら、Nucleic Acids Res.、 29(11):E54-E54、2001; Hafnerら、 Biotechniques、30(4):852-56, 858, 860、2001; Zhongら、 Biotechniques、30(4):852-6、858、860、2001を参照されたい。
【0022】
本明細書中で使用されるように、用語「検出する」は、標的の存在を示すために検出可能な標識からのシグナルを観察することを指す。より具体的には、検出は特定の配列を検出する文脈において使用される。
【0023】
ポリヌクレオチド(すなわち、オリゴヌクレオチド又はゲノム核酸のようなヌクレオチドの配列)に関して本明細書中で使用される用語「相補体」、「相補的」又は「相補性」は、塩基対形成規則によって関連したものである。本明細書中で使用する核酸配列の相補体は、一方の配列の5'末端が他方の配列の3'末端と対形成するように核酸配列と整列された場合に、「逆平行会合」しているオリゴヌクレオチドを指す。例えば、配列5'-A-G-T-3'については配列3'-T-C-A-5'と相補的である。天然核酸には通常見出されないある種の塩基は、本開示の核酸に含まれてもよく、例えば、イノシン及び7-デアザグアニンを含んでもよい。相補性は完全である必要はなく、安定した二重鎖は、ミスマッチ塩基対又は不一致塩基を含み得る。核酸技術の当業者は、オリゴヌクレオチドの長さ、オリゴヌクレオチドの塩基組成及び配列、イオン強度並びにミスマッチ塩基対の出現率を含む多くの変数を経験的に考慮して、二重鎖の安定性を決定することができる。相補性は、核酸の塩基のいくつかのみが塩基対形成規則に従って一致している、「部分的」なものであってもよい。または、核酸間に「完全」、「全体」又は「全」相補性が存在し得る。
【0024】
本明細書中で使用される用語「検出可能な標識」は、プローブに関連する分子又は化合物又は分子群又は化合物群を指し、ゲノム核酸又は参照核酸にハイブリダイズしたプローブを同定するために使用される。
【0025】
ポリヌクレオチドの文脈における「断片」は、少なくとも約2ヌクレオチド、少なくとも約5ヌクレオチド、少なくとも約10ヌクレオチド、少なくとも約20個のヌクレオチド、少なくとも約25個のヌクレオチド、少なくとも約30個のヌクレオチド、少なくとも約40個のヌクレオチド、少なくとも約50個のヌクレオチド、少なくとも約100個のヌクレオチドである、二本鎖又は一本鎖のいずれかのヌクレオチド残基の配列を指す。
【0026】
用語「同一性」及び「同一」は、配列間の同一性の程度を指す。部分的な同一性又は完全な同一性があり得る。部分的に同一である配列は、別の配列と100%未満同一である配列である。部分的に同一である配列は、少なくとも70%又は少なくとも75%、少なくとも80%又は少なくとも85%、又は少なくとも90%又は少なくとも95%の全体的な同一性を有し得る。
【0027】
本明細書中で使用される「単離された」、「精製された」又は「実質的に精製された」という用語は、その天然の環境から取り出され、単離又は分離され、またそれらが天然に結びついている他の成分を少なくとも60%、好ましくは75%、最も好ましくは90%含まない、核酸のような、分子を指す。したがって、単離された分子は実質的に精製された分子である。
【0028】
本明細書中で使用される「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、又はそれらの任意の組合せから構成される短いポリマーを指す。オリゴヌクレオチドは、一般に、約10、11、12、13、14、15、20、25、又は30ヌクレオチド(nt)~約150ヌクレオチド(nt)の長さ、より好ましくは約10、11、12、13、14、15、20、25又は30ヌクレオチド(nt)~約70ntである。
【0029】
本明細書中で使用される「プライマー」は、標的ヌクレオチド配列に相補的であり、DNA又はRNAポリメラーゼの存在下においてプライマーの3'末端へのヌクレオチドの付加を生じるオリゴヌクレオチドである。プライマーの3'ヌクレオチドは、対応するヌクレオチド位置において、最適な伸長及び/又は増幅のために、一般に標的配列と同一であるべきである。「プライマー」という用語は、ペプチド核酸プライマー、ロックド核酸プライマー(locked nucleic acid primers)、ホスホロチオエート修飾プライマー、標識プライマーなどを含む、合成され得る全ての形態のプライマーを含む。本明細書中で使用する「フォワードプライマー」は、DNAのアンチセンス鎖に相補的であるプライマーである。「リバースプライマー」は、DNAのセンス鎖に相補的である。
【0030】
標的核酸に特異的であるオリゴヌクレオチド(例えば、プローブ又はプライマー)は、適切な条件下において標的核酸に「ハイブリダイズ」する。本明細書中で使用される「ハイブリダイゼーション」又は「ハイブリダイズ」は、定義されたハイブリダイゼーション条件下において塩基対合によりオリゴヌクレオチド一本鎖が相補鎖とアニールするプロセスを指す。これは、2つの相補的なポリヌクレオチド間の特異的な、すなわち、非ランダム的な相互作用である。ハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、関与する条件のストリンジェンシー及び形成されたハイブリッドのTmなどの因子によって影響される。
【0031】
「特異的ハイブリダイゼーション」は、2つの核酸配列が高度の相補性を共有することを表すものである。特異的ハイブリダイゼーション複合体は、許容的なアニーリング条件下で形成され、引き続く洗浄工程後にハイブリダイズしたまま残る。核酸配列のアニーリングの許容条件は、当業者によって日常的に決定可能であり、例えば約6×SSCの存在下、65℃で起こり得る。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、部分的に、洗浄工程が行われる温度を参照して表現され得る。そのような温度は、典型的には、特定の配列についての規定のイオン強度及びpHにおける熱融点(Tm)より約5℃~20℃低くなるように選択される。Tmは、標的配列の50%が完全に一致したプローブに(規定されたイオン強度及びpHの下で)ハイブリダイズする温度である。核酸ハイブリダイゼーションのためのTm及び条件を計算するための式は、当該技術分野において知られている。
【0032】
本明細書中で使用されるように、オリゴヌクレオチドは、目的の標的にハイブリダイズすることができ、かつ目的のものではない核酸に実質的にハイブリダイズすることができない場合、核酸に対して「特異的」である。高レベルの配列同一性が好ましく、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%及びより好ましくは少なくとも98%の配列同一性を含む。配列同一性は、当該技術分野でよく知られているアルゴリズム(例えばBLAST)を利用するデフォルト設定にて市販のコンピュータプログラムを用いて決定することができる。
【0033】
本明細書中で使用される、用語「目的の領域」又は「標的領域」は、増幅されるべき核酸の領域を指す。
【0034】
用語「エマルション液滴」又は「エマルションマイクロ液滴」は、2つの非混和性液体を合わせたときに形成される液滴を指す。例えば、水性液体を非水性液体と混合するとき、水性液滴を形成することができる。他の例としては、非水性液体を水性液体に加えて液滴を形成することができる。液滴は、ある流体を別の流体に注入する、オリフィス又は開口部を通じて複数の液体を押し込む又は引き込む、剪断力により液滴を形成するなどの、マイクロ流体デバイス又は他の方法によって実施される方法を含む、さまざまな方法によって形成することができる。エマルションの液滴は、均一又は不均一な分布を有することもあり得る。本明細書中に開示されているエマルションはいずれも、単分散(少なくとも一般的に単一サイズの液滴で構成されている)であってもよく、又は多分散(さまざまなサイズの液滴から構成される)であってもよい。単分散の場合、エマルションの液滴は、平均液滴体積の約プラスマイナス100%、50%、20%、10%、5%、2%、又は1%未満の標準偏差で体積がさまざまであってもよい。オリフィスから生成される液滴は、単分散又は多分散であり得る。エマルションは、任意の適切な組成を有することができる。エマルションは、使用される主な液体化合物又は液体化合物のタイプによって特徴付けられ得る。エマルション中の主な液体化合物は、水及び油であり得る。「油」は、水と非混和性の、炭素含有量が高い任意の液体化合物又は液体化合物の混合物である。いくつかの例において、油はまた、とりわけ、水素、フッ素、ケイ素、酸素、又はそれらの任意の組合せを高い含量で有することができる。例えば、本明細書中に開示される任意のエマルションは、油中水型(W/O)エマルション(すなわち、連続油相中の水性小滴)であり得る。油は、とりわけ、少なくとも1つのシリコーン油、鉱油、フルオロカーボン油、植物油、又はそれらの組合せであり得るか、又はそれらを含み得る。任意の他の適切な成分、例えば、少なくとも1つの界面活性剤、試薬、サンプル(すなわち、それらの分割物)、緩衝液、塩、イオン性要素、他の添加剤、標識、粒子、又はそれらの任意の組合せなどが、エマルション相のいずれかに存在してもよい。
【0035】
本明細書中で使用される「液滴」という用語は、典型的には球形であるか、又は不混和性流体によって包み込まれたマイクロチャネルの直径を満たすスラグとしての、少量の液体を指す。エマルション中の液滴の体積及び/又は液滴の平均体積は、約1マイクロリットル未満(すなわち、「マイクロ液滴」)(又は約1マイクロリットルと1ナノリットルの間、又は約1マイクロリットルと1ピコリットルの間)、約1ナノリットル未満(又は約1ナノリットルと1ピコリットルの間)、又は約1ピコリットル未満(又は約1ピコリットルと1フェムトリットルの間)であってもよい。液滴は、とりわけ、約1000、100、又は10マイクロメートル未満、又は約1000~10マイクロメートルの、直径(又は平均直径)を有していてもよい。液滴は球状であっても非球状であってもよい。いくつかの実施形態において、液滴は、細胞を封入するのに十分な大きさの体積及び直径を有する。いくつかの実施形態において、液滴は、一倍体細胞を封入するのに十分な大きさの体積及び直径を有する。いくつかの実施形態において、液滴は、精子細胞を封入するのに十分な大きさの体積及び直径を有する。
【0036】
用語「バルク配列決定法」又は「次世代配列決定法」又は「超並列配列決定法」は、DNA配列決定プロセスを並列化する任意の高スループット配列決定技術を指す。例えば、バルク配列決定法は、典型的には、単一のアッセイにおいて100万個を超えるポリ核酸アンプリコンを生成することができる。用語「バルク配列決定法」、「超並列配列決定法」、「次世代配列決定法」は一般的な方法のみを指し、1回の操作で100万を超えるシーケンスタグを取得することを指すとは必ずしも限らない。例えば、可逆ターミネーター化学(reversible terminator chemistry)(例えば、Illumina)、ポロニーエマルション液滴(polony emulsion droplet)を用いたピロシーケンシング(例えば、Roche)、イオン半導体シーケンシング(IonTorrent)、一分子シーケンシング(例えば、Pacific Biosciences)、大規模並列符号シーケンシングなどの任意のバルク配列決定法を、本発明において実施することができる。
【0037】
本明細書中で使用される用語「対象」は、ヒト又は非ヒト霊長類などの哺乳動物を指すが、家庭動物(例えば、イヌ、ネコなど)、農業動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)又は実験動物(例えば、サル、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなど)のような別の動物であってもよい。「患者」という用語は、目的の遺伝子多型を有するか、又は有すると疑われる「対象」を指す。
【0038】
サイレントキャリア遺伝子型判定アッセイの概要
本明細書中において、相同対の少なくとも1つの染色体が目的の遺伝子を欠損している障害の遺伝子型判定のための方法が提供される。特定の例において、本方法は、遺伝子について1つの染色体をヌルにすることができる染色体再編成の傾向を有する遺伝子のキャリア状態を決定することを含む。特定の例において、本方法は、配偶子細胞(例えば、精子又は卵細胞)のような一倍体細胞における目的の標的遺伝子の有無の検出を含む。配偶子は天然において一倍体であるので、標的遺伝子についてヌルである染色体の存在は、核酸増幅などの単一細胞ゲノム解析法によって検出することができる。いくつかの実施形態において、人工一倍体細胞(例えば、多能性幹細胞の誘導された生殖細胞分化による)もまた使用することができる。
【0039】
従来の遺伝子型判定は、二倍体細胞、最も一般的には全血から単離されたリンパ球(白血球)を用いて実施される。このような方法は、キャリアが2つのコピーの正常遺伝子を有するので、2+0サイレントキャリア遺伝子型のキャリア状態を決定するためには有効ではない。供給源として単一の一倍体細胞を用いた遺伝的障害の試験は、解析のための潜在的鋳型として全ての常染色体遺伝子を2コピーを有することの複雑性を除去する。
【0040】
例示的な方法において、単一の一倍体細胞は反応容器に送達され、細胞のゲノムDNAを遺伝子アッセイ(例えば、PCR)の実施のために利用可能にするように処理される(例えば、溶解される)。他の例示的な方法において、単一の一倍体細胞をマイクロ液滴中に封入し(すなわち1液滴当たり1個の細胞)、例えば油中水型エマルション、アガロース油中液滴型エマルションのマイクロ液滴中に封入するか、又はアルギン酸塩マイクロスフェア中に埋め込む(例えば、Clausell-Tormosら(2008) Chem. Biol. 15:427-437を参照されたい)。そのような実施形態において、細胞は、細胞のゲノムDNAを遺伝子アッセイ(例えば、PCR)の実施のために利用可能になるようにマイクロ液滴内で処理される(例えば、溶解される)。
【0041】
いくつかの実施形態において、本アッセイは、同じ反応容器又はマイクロ液滴内における細胞内に存在する標的遺伝子及び参照遺伝子(例えばハウスキーピング遺伝子)の核酸増幅及び生成した増幅産物の解析を含む。いくつかの実施形態において、単一の細胞を各々含む複数のマイクロ液滴が単一の反応容器に含まれ、核酸増幅が各々のマイクロ液滴内で実施される。常に存在するはずの参照遺伝子に対する標的遺伝子の存在又は非存在が複数の反応から決定され、その各々の反応が単一の一倍体細胞の遺伝的状態を表す。キャリア状態を決定するために、統計を使用して複製反応を解析することができる。いくつかの実施形態において、増幅産物は標識される。いくつかの実施形態において、増幅産物は、プライマー対の少なくとも1つのプライマーが検出可能な成分で標識されている、増幅のためのプライマー対を用いて標識される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物及び参照遺伝子増幅産物は、異なる検出可能な成分で標識される。
【0042】
特定の実施形態において、複数の一倍体細胞(例えば、精子細胞)が試験対象から得られる。一倍体細胞は、1容器あたり1個の細胞の濃度で反応容器に送達される。分別されると、細胞のゲノムDNAを遺伝子アッセイの実施のために利用可能にするように、各々の細胞は個別に処理される。いくつかの実施形態において、遺伝子アッセイには、標的遺伝子と、同じ反応容器中の細胞中に存在する参照遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の核酸増幅が含まれる。常に存在するはずの参照遺伝子に対する標的遺伝子の存在又は非存在について複製反応を解析するために、統計を使用することができる。そのような実施形態において、複数の一倍体細胞がアッセイされる場合、個体からの細胞の約50%に標的遺伝子が存在しないことは、その個体がヌル欠失変異体のキャリアであることを示す。
【0043】
代替的な実施形態において、複数の一倍体細胞(例えば、精子細胞)が試験対象から得られ、その一倍体細胞は、1マイクロ液滴あたり1個の細胞の濃度でマイクロ液滴に封入される。マイクロ液滴は、1容器当たり1細胞の濃度で反応容器に分別することができるか、又は複数のマイクロ液滴を油中水型エマルションの状態で1つ以上の容器に含めることができる。いくつかの実施形態において、細胞を含むマイクロ液滴を濃縮するために、マイクロ液滴が細胞を含むかどうかに基づいてマイクロ液滴が分別される。いくつかの実施形態において、細胞は標識される。各々が一倍体細胞を含むマイクロ液滴を、細胞のゲノムDNAを遺伝子アッセイの実施のために利用可能にするように処理する。いくつかの実施形態において、遺伝子アッセイは、標的遺伝子と、同じマイクロ液滴中の細胞中に存在する参照遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の、核酸増幅を含む。増幅産物は、各々のマイクロ液滴における増幅産物の検出によって解析することができる。いくつかの実施形態において、マイクロ流体検出装置を用いて、標的遺伝子及び参照遺伝子増幅産物について液滴をスキャンする。常に存在するはずの参照遺伝子に対する標的遺伝子の存在又は非存在について複製反応を解析するために、統計を使用することができる。そのような実施形態において、複数の一倍体細胞がアッセイされる場合、個体からの細胞の約50%に標的遺伝子が存在しないことは、その個体がヌル欠失変異体のキャリアであることを示す。単一細胞からのマイクロ液滴ベースのエマルション増幅及び検出の例示的な方法は知られており、本明細書中で提供される一倍体細胞増幅方法と組み合わせて使用することができる(例えば、米国特許第8,338,166号、第8,454,906号、Novakら (2011) Angew Chem Int Ed Engl. 50(2):390-395、Clausell-Tormosら (2008) Chem. Biol. 15:427-437、 Novakeら (2010) Anal Chem. 82(8):3183-90、 及びSolvasら(2001) J. Vis. Exp. (58):e3437を参照されたい)。
【0044】
本明細書中に記載されるように、提供される方法は、単一の5番染色体上に2コピーのSMN1遺伝子が位置し、その5番染色体ホモログ上に前記遺伝子のコピーが位置しないSMAのSMN1サイレントキャリア遺伝子型の検出に有用である。特定の実施形態において、SMAを有する疑いのある試験対象から、複数の一倍体細胞が得られる。そのような場合、対象から得られた単一の一倍体細胞を、1容器につき1個の細胞の濃度で反応容器に送達する。各々の細胞は、SMN1遺伝子の検出のための遺伝的アッセイの実施のために、細胞のゲノムDNAを利用可能にするように個々に処理される。いくつかの実施形態において、遺伝子アッセイは、SMN1遺伝子の標的領域及び同じ反応容器の中の細胞(例えば、ハウスキーピング遺伝子)に存在する参照遺伝子の標的領域の核酸増幅を含む。常に存在するはずの参照遺伝子に対するSMN1遺伝子の存在又は非存在について複製反応を解析するために、統計を使用することができる。そのような実施形態において、複数の一倍体細胞がアッセイされる場合、個体からの細胞の約50%にSMN1遺伝子が存在しないことは、その個体がSMN1ヌル欠失変異体のキャリアであることを示す。
【0045】
個体をSMN1ヌル欠失変異体のキャリアとして検出するための代替的な実施形態としては、試験対象から複数の一倍体細胞(例えば、精子細胞)が得られ、一倍体細胞は、1つのマイクロ液滴につき1個の細胞の濃度で、マイクロ液滴の中に封入される。マイクロ液滴は、1容器につき1個の細胞の濃度で反応容器に分別することができるか、又は複数のマイクロ液滴を油中水型エマルションの状態で1つ以上の容器に含めることができる。いくつかの実施形態において、細胞を含むマイクロ液滴を濃縮するために、マイクロ液滴が細胞を含むか否かに基づいてマイクロ液滴を分別する。いくつかの実施形態において、細胞は標識される。その各々が一倍体細胞を含むマイクロ液滴は、SMN1遺伝子の検出のための遺伝的アッセイの実施のために、細胞のゲノムDNAを利用可能にするように処理される。いくつかの実施形態において、遺伝子アッセイには、SMN1遺伝子の標的領域及び同じマイクロ液滴中の細胞(例えば、ハウスキーピング遺伝子)に存在する参照遺伝子の核酸増幅が含まれる。増幅産物は、各々のマイクロ液滴における増幅産物の検出によって解析することができる。いくつかの実施形態において、マイクロ流体検出装置を用いて、標的遺伝子及び参照遺伝子増幅産物について液滴をスキャンする。常に存在するはずの参照遺伝子に対するSMN1遺伝子の存在又は非存在について複製反応を解析するために、統計を使用することができる。そのような実施形態において、複数の一倍体細胞がアッセイされる場合、個体からの細胞の約50%にSMN1遺伝子が存在しないことは、その個体がヌル欠失変異体のキャリアであることを示す。単一細胞からのマイクロ液滴ベースのエマルション増幅及び検出の例示的な方法は知られており、SMN1ヌル欠失変異体及びサイレントキャリア状態の検出について本明細書中で提供される一倍体細胞増幅方法と組み合わせて使用することができる(例えば、米国特許第8,338,166号、第8,454,906号、Novakら (2011) Angew Chem Int Ed Engl. 50(2):390-395、 Clausell-Tormosら (2008) Chem. Biol. 15:427-437、Novakeら (2010) Anal Chem. 82(8):3183-90、及びSolvasら (2001) J. Vis. Exp. (58):e3437)。
【0046】
いくつかの実施形態において、アッセイは、試験対象の二倍体細胞における遺伝子コピー数の解析をさらに含む。いくつかの実施形態において、試験対象からの単一の二倍体細胞の遺伝子解析を実施して、SMN1及び/又はSMN2遺伝子のコピー数を決定する。いくつかの実施形態において、試験対象からの単一の二倍体細胞の遺伝子解析を実施して、対象が2つのコピーのSMN1遺伝子を有することを確認する。いくつかの実施形態において、SMN1遺伝子の遺伝子コピー数を決定するためのアッセイは、Curetら (2007) Neurogenetics 8:271-278において記載されているように実施する。いくつかの実施形態において、二倍体細胞は血液細胞である。
【0047】
いくつかの実施形態において、アッセイは、試験対象の二倍体細胞(例えば、リンパ球、線維芽細胞、幹細胞、上皮細胞などに由来)からの細胞株の作製をさらに含む。いくつかの実施形態において、細胞株は、細胞形質転換のための標準的な技術を用いて、作製される(例えば、Hahn (2002) Mol. Cells 13(3):351-361、Stableyら (2015) Mol. Gen Genomic Med. 3(4) 248-257)。いくつかの実施形態において、形質転換された細胞株は、SMN1及び/又はSMN2遺伝子の遺伝子コピー数の解析に使用される。いくつかの実施形態において、対象が2つのコピーのSMN1遺伝子を有することを確認するために、形質転換された細胞株の遺伝子解析が実施される。
【0048】
いくつかの実施形態において、本アッセイは、SMN1遺伝子サイレントキャリア遺伝子型を有すると同定された試験対象の二倍体細胞からの細胞株の作製をさらに含む。細胞株の作製により、このまれな遺伝子型を有する個体の長期間記録が提供される。不死細胞株は、いかなる追加の試料採取を行わずにそのような個体から無制限の量のサンプルを提供する。そのような細胞株は、「サイレントキャリア」創始者対立遺伝子に特有の配列マーカーを同定するために使用することができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、本方法は、標的遺伝子、例えばSMN1及びSMN2遺伝子、又はその1つ以上の部分の配列決定をさらに含む。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物が配列決定される。いくつかの実施形態において、油-水型マイクロ液滴におけるPCRによって生成された標的遺伝子増幅産物が配列決定される。核酸を配列決定するための任意の適切な方法を用いることができる。いくつかの実施形態において、次世代配列決定法が採用される。
【0050】
いくつかの実施形態において、本方法は、アッセイの結果に基づくレポートの作成をさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、アッセイの結果に基づいてSMAを持つ子孫を産生するリスクを決定することをさらに含む。
【0051】
標的遺伝子及び参照遺伝子
本明細書中に記載される方法は、標的遺伝子におけるヌル欠失の検出に用いることができる。特定の実施形態において、標的遺伝子は、サイレントキャリアにおいて、1つの染色体上において遺伝子の少なくとも1コピーが欠失しており、相同染色体又は他の位置において複数コピー(例えば、2、3、4又はそれ以上)が存在するものである。特定の実施形態において、標的遺伝子はSMN1遺伝子である。
【0052】
本明細書で提供される方法の実施のために、標的遺伝子の非存在は、選択された参照遺伝子からの参照核酸増幅産物に対する核酸増幅産物の非存在によって決定され、ここで標的遺伝子及び参照遺伝子は同じ反応容器内で増幅される。提供される方法における使用のための例示的な参照遺伝子としては、嚢胞性線維症トランスメンブレントランスレギュレーター(CFTR)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、ヒドロキシメチル-ビランシンターゼ(HMBS)、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)、リボソームタンパク質L13a(RPL13A)、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体、サブユニットA(SDHA)、TATAボックス結合タンパク質(TBP)、ユビキチンC(UBC)、リン酸化活性タンパク質に結合するチロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ、ゼータポリペプチド(YWHAZ)、ペルオキシレドキシン-6(PRDX6)、アルファ-アデュシン(ADD1)、主要組織適合複合体クラスI A(HLA-A)、RAD9A、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)7(ARHGEF7)、真核生物翻訳開始因子2Bサブユニット2ベータ(EIF2B2)、26Sプロテアソーム非ATPアーゼ調節サブユニット7(PSMD7)、分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ2(BCAT2)、及びATPシンターゼサブユニットO(ATP5O)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、本明細書中で提供される方法において使用するための参照遺伝子は、CFTR遺伝子である。
【0053】
試験のための対象とサンプル取得
一般に、本明細書中に提供される方法は、哺乳類(例えば、霊長類、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ及びブタ)におけるサイレントキャリア状態を決定するために使用される。特定の実施形態において、対象はヒト患者である。
【0054】
特定の例において、特定の標的遺伝子についてのサイレントキャリア状態を試験するための対象の選択は、複数の因子に基づく。いくつかの実施形態において、一般集団又は特定の民族集団における当該欠失の有病率に基づく試験のために、対象が選択される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子に関連する疾患の確認された又は疑わしい家族歴に基づいた試験のために、対象が選択される。いくつかの実施形態において、SMAの確認された又は疑わしい家族歴に基づいた試験のために、対象が選択される。特定の例では、対象は、免許を持つ医師の勧めに基づいて、又は遺伝カウンセリングの手段又はプログラムの一部として、サイレントキャリア状態の試験のために選択される。
【0055】
特定の例において、試験のために選択された対象は、一方の5番染色体ホモログ上にSMN1遺伝子の欠失及び他方の5番染色体ホモログ上に2つ以上のSMN1遺伝子のコピーを有すると疑われる。
【0056】
特定の実施形態において、天然の一倍体細胞がアッセイに用いられる。そのような例において、適切なオス又はメスの配偶子を得るための標準的な方法を、特定の対象に用いることができる。
【0057】
特定の実施形態において、成体幹細胞に由来する人工一倍体細胞をアッセイに用いる。そのような例において、対象からの幹細胞の任意の供給源を使用することができる。成体幹細胞は、脳、骨髄、末梢血、血管、骨格筋、皮膚、歯、心臓、腸、肝臓、卵巣上皮及び精巣を含むが、これらに限定されないさまざまな臓器及び組織から得ることができる。特定の例において、成体幹細胞は、幹細胞の多分化能を誘導する(例えば、人工多能性幹細胞(iPSC)を生成する)ように処理される。例えば、特定の例において、成体幹細胞は、例えばOct4、Sox2、cMyc及び/又はKlf4のような多能性を誘導する1つ以上の遺伝子を発現するように改変することができる。多能性細胞が生成されると、細胞は、減数分裂を誘導して人工一倍体細胞を生成させるように処理することができる(例えば、Eguizabalら (2011) Stem Cells 29:1186-1195参照)。
【0058】
単一細胞の分別(ソーティング)方法
提供される方法においては、個々の一倍体細胞を別々の反応容器に分別するための任意の適切な方法を解析のために使用することができる。例示的な細胞分別方法には、希釈ソーティング、液滴ベースのマイクロ流体、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)、レーザー支援細胞ピッキング、細胞外マトリックス(ECM)若しくは他のリガンドの制御パッチにおけるマイクロパターン形成又はマイクロ流体チップソーティングが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、細胞を1ウェルあたり1個の細胞の濃度で反応容器に播種する。ゲノム解析のための単一細胞の分別及びさまざまな反応容器への単一の細胞の播種のための方法は、当該技術分野で知られており、例えば、米国特許第6,673,542号及び米国特許出願公開第2011/0237445号に記載されている方法が挙げられる。
【0059】
特定の実施形態において、一倍体細胞ソーティング法を補助するために、一倍体細胞を適切な色素(例えば、Hoechst 33342)で標識する。そのような方法において、一倍体細胞の標識を可能にするために、一倍体細胞を所定の長さの時間、色素と接触させる。その後、標識された一倍体細胞は、選択された細胞分別方法に供する。
【0060】
細胞は、本明細書中で提供される方法の実施に適した任意の適切な反応容器に分別されることができる。いくつかの実施形態において、細胞は、遺伝子特異的プローブのハイブリダイゼーションに適した適切な反応容器中で分別される。いくつかの実施形態において、細胞は、核酸増幅に適した適切な反応容器内で分別される。例示的な反応容器には、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、反応グリッドスライド(例えば、AmpliGridスライド及び疎水性リングによって各々が枠取りされた親水性アンカースポットを含む化学的に構造化されたガラススライド)及びPCRチューブが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、単一の細胞は、96-、384-、1536-又はそれ以上のマルチウェルプレートのようなマルチウェルプレートに分別される。いくつかの実施形態において、反応容器中の単一の細胞の配置は、顕微鏡下の視覚的又は自動検査によって確認される。いくつかの実施形態において、反応容器への単一の細胞の配置は、細胞特異的色素又はプローブの添加によって確認される。いくつかの実施形態において、単一の一倍体細胞は細胞分別の前に標識し、細胞分別の確認は、標識された細胞の検出によって確認する。例えば、いくつかの実施形態において、蛍光シグナルのようなシグナルの強度の検出は、1ウェル当たりの細胞の数の指標となる。
【0061】
いくつかの実施形態において、細胞を溶解させるために1反応容器あたり1個の細胞の濃度で反応容器に細胞を播種し、核酸増幅反応を同じ反応容器内で実施する。いくつかの実施形態において、細胞を溶解させるために、1反応容器あたり1個の細胞の濃度で反応容器に細胞を播種し、核酸増幅反応を異なる反応容器で実施する(すなわち、ゲノムDNAサンプルを核酸増幅反応のための新しい反応容器に移す)。
【0062】
いくつかの実施形態において、細胞はマイクロ液滴中に個々に封入される。マイクロ液滴は、一般に、第2のキャリア流体中に第1のサンプル流体のある量を含む。液滴を形成するための当該技術分野において知られている任意の技術を、本発明の方法と共に使用してもよい。例示的な方法には、標的物質(例えば、一倍体細胞)を含むサンプル液体の流れを、流れているキャリア液体の2つの対向する流れを交差させるように流すことが含まれる。キャリア液体はサンプル液体と非混和性である。流れるキャリア液体の2つの対向する流れとのサンプル液体の交差は、標的材料を含む個々のサンプル液滴にサンプル液体を分割する結果となる。キャリア液体は、サンプル液体と非混和性の任意の液体であってもよい。例示的なキャリア液体は油である。特定の実施形態において、キャリア液体は界面活性剤を含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、マイクロ流体デバイスを使用して、単一細胞エマルション液滴を生成する。マイクロ流体デバイスは、水性反応緩衝液中の単一細胞を疎水性の油混合物中に排出する。このデバイスは、毎分数千のエマルションマイクロ液滴を作成することができる。エマルションのマイクロ液滴が作成された後、デバイスはエマルション混合物をトラフ(trough)に排出する。混合物は、溶解及び/又は熱サイクルのために、標準的な反応チューブにピペッティング又は収集することができる。いくつかの実施形態において、個々の反応容器(例えば、マイクロタイタープレート、マイクロチップ又は反応グリッドスライド)にマイクロ液滴を播種する。
【0064】
いくつかの実施形態において、マイクロ液滴を分別して、単一の一倍体細胞を担持するマイクロ液滴を濃縮する。いくつかの実施形態において、単一の一倍体細胞を担持するマイクロ液滴は、単一の一倍体細胞を担持するマイクロ液滴の光不応性(light refractory properties)の違いに基づいて、空のマイクロ液滴及び/又は2つ以上の一倍体細胞を担持するマイクロ液滴から分別される。いくつかの実施形態において、一倍体細胞は、細胞分別方法を援助するために適切な色素(例えば、Hoechst 33342)で標識される。そのような方法において、一倍体細胞の標識を可能にするために、所定の時間の間、一倍体細胞を色素と接触させる。その後、標識された一倍体細胞を担持するマイクロ液滴を、選択された細胞分別方法に供する。
【0065】
約0.001、0.01、0.05、0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、100、120、130、140、150、160、180、200、300、400、又は500ミクロン、それら未満、又はそれらを超える値の、又は少なくともそれらの値の平均直径を有する液滴を生成することができる。液滴は、約0.001~約500、約0.01~約500、約0.1~約500、約0.1~約100、約0.01~100、又は約1~約100ミクロンの平均直径を有することができる。マイクロチャネルクロスフローフォーカシング(microchannel cross-flow focusing)又は物理的攪拌を使用してエマルション液滴を生成するマイクロ流体方法は、単分散又は多分散エマルションのいずれかを生成することが知られている。液滴は単分散液滴であってもよい。液滴のサイズが液滴の平均サイズのプラス又はマイナス5%を超えて変化しないように液滴を生成することができる。いくつかの場合において、液滴のサイズが液滴の平均サイズのプラス又はマイナス2%を超えて変化しないように液滴が生成される。液滴生成装置は、液滴総集団の平均サイズのプラス又はマイナス約0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%又は10%を超えてサイズが変化する液滴がないように、単一のサンプルから液滴の集団を生成することができる。
【0066】
マイクロ流体システム及びデバイスはさまざまな文脈で、典型的には、小型化された実験室(例えば、臨床)解析の文脈において、記載されている。他の用途も同様に記述されている。例えば、国際特許出願公開番号第WO01/89788号、第WO2006/040551号、第WO2006/040554号、第WO2004/002627号、第WO2008/063227号、第WO2004/091763号、第WO2005/021151号、第WO2006/096571号、第WO2007/089541号、第WO2007/081385号及び第WO2008/063227号である。
【0067】
単一細胞解析のためのカスタムマイクロ流体デバイスは、学術及び企業研究室において日常的に製造されている(Kintsesら (2010) Current Opinion in Chemical Biology 14:548-555)。例えば、チップは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、プラスチック、ガラス、又は石英から製造してもよい。いくつかの実施形態において、液体は、圧力又はシリンジポンプの作用によってチップを通過する。単一の細胞は、カスタム誘電泳動デバイス(custom dielectrophoresis device)(Huntら (2008) Lab Chip 8:81-87)を用いてプログラム可能なマイクロ流体チップ上で操作することさえできる。1つの実施形態において、ソフトリソグラフィ技術で製造されたフローフォーカシングジオメトリ(flow-focusing geometry)から構成される圧力ベースのPDMSチップが使用される(Dolomite Microfluidics(イギリス、ロイストン))(Annaら (2003) Applied Physics Letters 82:364-366)。ストックデザインは、典型的には、直径10~150μmの範囲のサイズで、1秒当たり10000個の油中水マイクロ液滴を生成することができる。いくつかの実施形態において、疎水相は、分子生物学のための最適条件を保証し、液滴融合の確率を低下させる、カルボキシ-ペルフルオロポリエーテルのアンモニウム塩を含むフッ素化油からなるであろう(Johnstonら(1996) Science 271:624-626)。細胞及び液滴の流れの周期性を測定するために、Phantom V7カメラ又はFastec InLine(Abateら (2009) Lab Chip 9:2628-31)のような標準技術を用いて、毎秒50000フレームで画像を記録することができる。
【0068】
マイクロ流体システムは、98%を超える液滴が単一細胞を含むように、マイクロ液滴サイズ、入力細胞密度、チップデザイン、及び細胞ローディングパラメータを最適化することができる。そのような統計を達成するための3つの一般的な方法は、(i)細胞溶液の限界希釈、(ii)単一細胞を含む液滴の蛍光選択、及び(iii)細胞入力周期性の最適化である。各々の方法について、成功のための測定基準は、(i)封入化率(すなわち、ちょうど1つの細胞を含む液滴の数)、(ii)収量(すなわち、最後にはちょうど1つの細胞を含む液滴となる元々の細胞集団の割合)、(iii)マルチヒット率(すなわち、1個を超える細胞を含む液滴の割合)、(iv)陰性率(すなわち、細胞を含まない液滴の割合)、及び(v)1秒あたりの封入化率(すなわち、1秒あたりに形成される単一細胞を含む液滴の数)を含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、単一細胞エマルションは限界細胞希釈によって生成される。不規則条件下で、マイクロ液滴がk個の細胞を含む確率は、ポアソン分布によって以下のとおり与えられる。
f(k;λ)=(λke)/k!
【0070】
ここで、eは自然対数であり、区間内の予想発生数はλである。したがって、P(k=1)≒0.98の場合、λ≒0.04であり、全ての液滴の3.84%のみが単一の細胞を含むように、細胞溶液は極度に希薄でなければならない。
【0071】
いくつかの実施形態において、水流が10μm平方のノズルを通って流れ、油中水型エマルション混合物をリザーバーに分配するように、液滴生成接合部を持つ単純なマイクロ流体チップが使用される。その後、エマルション混合物をリザーバーからピペッティングし、標準反応チューブ、マイクロタイタープレート、マイクロチップ又は反応グリッドスライド内で熱サイクルを行うことができる。この方法は、予測可能に高い封入率及び低いマルチヒット率をもたらすが、1秒あたりの封入率は低い。1000Hzの充填液滴処理量を達成することができるデザインは、17分未満で106個までの細胞を分別することができる。
【0072】
いくつかの実施形態において、蛍光技術を使用して、特定の放出特性を持つマイクロ液滴を分別することもできる(Baroudら (2007) Lab Chip 7:1029-1033、Kintsesら (2010) Current Opinion in Chemical Biology 14:548-555)。これらの研究において、化学的方法を用いて細胞を染色する。いくつかの実施形態において、自己蛍光を用いて細胞を含むマイクロ液滴を選択する。蛍光検出器は、限界細胞希釈に起因する陰性率を減少させる。マイクロ流体デバイスは、細胞封入用接合部の下部の「Y」分別接合部に向けられたレーザーを備えることもできる。Y接合部は、「キープ」及び「廃棄」チャネルを有する。光電子増倍管を使用して、レーザーを通過する際に各々の液滴の蛍光を収集する。電圧差は、空の液滴と少なくとも1つの細胞を有する液滴との間でキャリブレーションされる。次に、デバイスが少なくとも1つの細胞を含む液滴を検出し、Y分別接合部の電極が誘電泳動によって電界勾配を生成し(Huntら (2008) Lab on a Chip 8:81-87)、細胞を含む液滴をキープチャネルに押し込む。マイクロ流体デバイスは、限界細胞希釈を用いてマルチヒット率及び蛍光細胞ソーティングを制御し、陰性率を低減する。
【0073】
いくつかの実施形態において、98%を超える液滴が単一細胞を含むように、入力細胞流を液滴形成周期性と一致させる(Eddら (2008) Lab Chip 8:1262-1264、Abateら (2009) Lab Chip 9:2628-31)。これらのマイクロ流体デバイスにおいて、細胞直径がチャネルの幅の大きな割合となるように高アスペクト比のチャネルに細胞の高密度懸濁液を通過させる。このチップは、細胞を>104/分でマイクロ液滴に流し込む27μm×52μmの矩形マイクロチャネルを有するように設計されている(Eddら (2008) Lab Chip 8:1262-1264)。多数の入力チャネルの幅と流量が最適解に達するように試験される。
【0074】
いくつかの実施形態において、異なる形態を有する細胞は、マイクロ流体デバイスのマイクロチャネル流において異なるように挙動するため、臨床生物学的サンプルに適用された場合に技術の最適化を混乱させる。この問題に対応するために、いくつかの実施形態において、誘電泳動によってマイクロチャネルに垂直な電界勾配が誘導される。誘電泳動は、細胞をマイクロチャネルの一方の側に引き込み、細胞形態に依存しないチャネル内の順序を作り出す。この方法は、電荷及び流速の実質的な最適化並びにより複雑なチップ及びデバイス設計を必要とするため、既存の方法論が特定の細胞タイプに対して実施できない場合には、この方法が必要であり得る。
【0075】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、エマルション液滴ではなく、反応容器内で単一細胞を使用する。そのような反応容器の例としては、96ウェルプレート、0.2mLチューブ、0.5mLチューブ、1.5mLチューブ、384ウェルプレート、1536ウェルプレートなどが挙げられる。
【0076】
ゲノムDNAの調製
核酸増幅のような遺伝子アッセイのための一倍体細胞からのゲノムDNA試料の調製には、典型的には、ゲノムDNAをむき出しにするための細胞の溶解が含まれる。細胞からのゲノムDNAの調製のために適切な任意の溶解緩衝液を使用することができる。特定の例において、例えば、精子細胞のような特定の一倍体細胞は、従来の溶解手法に耐性である。したがって、特定の実施形態において、ゲノムDNAサンプルの調製方法には、1つ以上の適切な酵素(例えば、プロテイナーゼKなどのプロテアーゼ)を用いた細胞の溶解が含まれる。
【0077】
いくつかの実施形態において、一倍体細胞をアルカリ溶解溶液(例えば水酸化カリウムアルカリ溶解溶液)又は界面活性剤溶液、例えばTween 20中で溶解させる。いくつかの実施形態において、溶解溶液は、例えばプロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼK)のような、溶解を助ける酵素を含む。いくつかの実施形態において、溶解溶液はまた、レドックス安定化試薬(例えば、ジチオスレイトール(DDT))、キレート剤(例えば、EDTA)又は緩衝剤などの1つ以上の追加成分も含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、マイクロ液滴に一倍体細胞を封入する際に、細胞の早期破裂を防止するために、共流液滴作成器を用いて細胞封入時に溶解緩衝液を導入する。
【0079】
核酸増幅及び検出
ゲノムDNAの調製後、標的遺伝子ヌル対立遺伝子を検出するために遺伝子アッセイを実施する。提供される方法の特定の実施形態において、標的遺伝子ヌル対立遺伝子は、核酸増幅によって、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子における欠失と重複するか、又はその欠失を含む領域が、対象からの単一の一倍体細胞由来のゲノムDNAサンプルから増幅される。欠失を有するサンプルにおいては、標的遺伝子領域は増幅されない。ゲノムDNAサンプルが反応容器中に存在し、核酸増幅の条件が適切であることを確実にするために、参照遺伝子もまた標的遺伝子と同じ増幅反応で増幅される。したがって、標的遺伝子増幅の成功又は失敗は、参照遺伝子の増幅と比較して評価される。
【0080】
標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアである任意の特定の対象について、対象によって産生された一倍体細胞の約50%がヌル対立遺伝子を有するであろう。したがって、本明細書中で提供される方法を使用して対象から試験された一倍体細胞の50%は、参照遺伝子と比較して標的遺伝子を増幅することができないであろうが、それは標的遺伝子が一倍体細胞において欠失を有することを示している。したがって、欠失が存在することを確認するために、複数の増幅反応が実施される(すなわち、試験された対象からの複数の一倍体細胞)。いくつかの実施形態において、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、500、1000、5000又はそれ以上の増幅反応が実施され、ここで各々の増幅反応は単一の一倍体細胞を表す。
【0081】
核酸増幅のための例示的な反応容器には、マルチウェルプレート、マイクロタイタープレート、マイクロチップ、反応グリッドスライド(例えば、AmpliGridスライド及び疎水性リングによって各々が枠取りされた親水性アンカースポットを含む化学的に構造化されたガラススライド)及びPCRチューブが含まれるが、それらに限定されない。
【0082】
本方法を行うための例示的な核酸増幅反応混合物は、DNA鋳型(例えば、単一の一倍体細胞から得られたゲノムDNAサンプル)、標的遺伝子に特異的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーセット(例えば、標的遺伝子の標的領域の増幅のための)、参照遺伝子に特異的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーセット(例えば、参照遺伝子の標的領域の増幅のための)、熱安定性DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、Mg2+、及び適切な緩衝液を含む。
【0083】
例示的な実施形態において、増幅反応混合物は、約1、5、10、15、20、30、50、100、若しくは200mMの、又はそれを超える、又はそれ未満のトリス(Tris)を含む。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、約10、20、30、40、50、60、80、100、200mMの、又はそれを超える、又はそれ未満の濃度の塩化カリウムを含む。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、約15mMのトリス(Tris)及び50mMのKClを含む。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、各々が約50、100、200、300、400、500、600、若しくは700μMの、又はそれを超える、又はそれ未満の濃度のdATP、dCTP、dGTP、dTTPを含むデオキシリボヌクレオチド三リン酸分子を含む。いくつかの実施形態において、約1.0、2.0、3.0、4.0、又は5.0mMの、又はそれを超える、又はそれ未満の濃度で、塩化マグネシウム又は酢酸マグネシウム(MgCl2)を増幅反応混合物に添加する。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、約3.2mMの濃度のMgCl2を含む。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は酢酸マグネシウムを含むか、又はマグネシウムが使用される。いくつかの実施形態において、硫酸マグネシウム。いくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、約0.1~0.9% w/vの濃度範囲で存在するBSA又はウシの皮膚由来のゼラチンのような、非特異的ブロッキング剤を含む。他の可能性のあるブロッキング剤には、ベータラクトグロブリン、カゼイン、粉ミルク、又は他の一般的なブロッキング剤が含まれ得る。いくつかの場合において、BSA及びゼラチンの好ましい濃度は、約0.1% w/vである。
【0084】
核酸増幅のための例示的なポリメラーゼ酵素には、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus(Tth))DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus(Taq))DNAポリメラーゼ、サーモトガ・ネオパリタナ(Thermotoga neopalitana(Tne))DNAポリメラーゼ、サームトガ・マリティマ(Thermotoga maritima(Tma))DNAポリメラーゼ、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis(Tli又はVENT(商標)))DNAポリメラーゼ、サーマス・エッガートソニイ(Thermus eggertssonii(Teg))DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus(Pfu))DNAポリメラーゼ、ディープヴェント(DEEPVENT.)DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・ウォオシイ(Pyrococcus woosii(Pwo))DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・sp・KDD2(Pyrococcus sp KDD2(KOD))DNAポリメラーゼ、バシルス・ステロサーモフィラス(Bacillus sterothermophilus(Bst))DNAポリメラーゼ、バシルス・カルドフィラス(Bacillus caldophilus(Bea))DNAポリメラーゼ、スルフォロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius(Sac))DNAポリメラーゼ、サーモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum(Tac))DNAポリメラーゼ、サーマス・フラヴァス(Thermus flavus(Tfl/Tub))DNAポリメラーゼ、サーマス・ルバー(Thermus ruber(Tru))DNAポリメラーゼ、サーマス・ブロッキアヌス(Thermus brockianus(DYNAZYME))DNAポリメラーゼ、メタノバクテリウム・サーモアウトトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum(Mth))DNAポリメラーゼ、マイコバクテリウム(mycobacterium)DNAポリメラーゼ(Mtb、Mlep)、又はそれらの変異体、バリアント若しくは誘導体のような熱安定性DNAポリメラーゼが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、ポリメラーゼは、ホットスタートTaqポリメラーゼのような、ホットスタートポリメラーゼである。いくつかの実施形態において、ポリメラーゼは、化学的に修飾されたホットスタートポリメラーゼ又は抗体修飾ホットスタートポリメラーゼである。
【0085】
単一の細胞から得られたゲノムDNAからの核酸の核酸増幅のための標準的な方法は、当該技術分野で知られており、本明細書中において提供される方法(例えば、米国特許出願公開第2011/0237445号を参照されたい)において使用することができる。典型的なプロトコールでは、核酸増幅は、一般的な工程で、(a)各々の核酸鎖鋳型を、4つの異なるヌクレオチド三リン酸、及び増幅させる異なる特定配列の各々に対して1つのオリゴヌクレオチドプライマー対を接触させる工程であって、ここで、1つのプライマーから合成された伸長産物が、その相補体から分離されたときに、他方のプライマーの伸長産物の合成のための鋳型として機能することができるように、プライマー対の各々のプライマーが、各々の特定配列の異なる鎖に実質的に相補的であるように選択され、前記接触は各々のプライマーがその相補的な核酸鎖へハイブリダイゼーションすることを促進させる温度で為される工程、(b)各々の核酸鎖を、工程(a)と同時又はその後に、ヌクレオチド三リン酸の組合せにより各々の核酸の各々の鎖に相補的なプライマー伸長産物を形成させることを可能にするサーマス・アクアティカスのような熱安定性DNAポリメラーゼと接触させる工程、(c)その酵素の活性を促進するため、及び増幅される各々の異なる配列に対し、各々の核酸鎖鋳型に相補的である各々のプライマーの伸長産物を合成するのに有効な時間及び有効な温度(但し各々の伸長産物をその相補鎖鋳型から分離するほど高くはない)で、工程(b)からの混合物を維持する工程、(d)プライマー伸長産物をそれらが合成された鋳型から分離して一本鎖分子を生成するために有効な時間及び有効な温度(但し酵素を不可逆的に変性させるほど高くはない)で、工程(c)からの混合物を加熱する工程、(e)ステップ(d)で生成された各々の一本鎖分子に対する各々のプライマーのハイブリダイゼーションを促進するために有効な温度に及び有効な時間で、工程(d)からの混合物を冷却する工程、並びに(f)酵素の活性を促進するため、及び増幅される各々の異なる配列について、工程(d)において生成した各々の核酸鎖鋳型に相補的である各々のプライマーの伸長産物を合成するために有効な時間及び有効な温度(但し各々の伸長産物をその相補鎖鋳型から分離するほど高くはない)で、工程(e)からの混合物を維持する工程を含み、ここで工程(e)及び(f)の有効な時間及び有効な温度は一致していてもよいし(工程(e)及び(f)が同時に実施される)、又は別々であってもよい。所望のレベルの配列増幅が得られるまで、工程(d)~(f)を繰り返してもよい。
【0086】
溶解した一倍体細胞がマイクロ液滴中に封入されるいくつかの実施形態において、増幅反応混合物は、液滴融合によるマイクロ液滴の希釈及び/又は増幅試薬の液滴ピコインジェクションによって導入される。
【0087】
いくつかの実施形態において、増幅反応は、マイクロ流体ベースのデジタルPCR又は液滴デジタルPCRのようなデジタルPCRを実施することによってマイクロ液滴中で行われる。いくつかの実施形態において、熱サイクリングは、複数のマイクロ液滴を含む単一の容器(例えば、チューブ、マイクロタイターウェル、マイクロチップ又は反応グリッドスライド)中であるか、又は定義された温度ゾーンを通じたマイクロ流体チャネルを介したマイクロ液滴の連続流(例えば、米国特許出願公開第2009/0042737号を参照されたい)として達成される。
【0088】
いくつかの場合において、増幅のための標的領域は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、1000、1500、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、11000、12000、13000、14000、15000、16000、17000、18000、19000、又は20000塩基若しくは塩基対の長さであるか、その長さを超えるか、あるいはその長さ未満である。いくつかの場合において、増幅の標的は、約10~約100、約100~約200、約100~約300、約100~約400、約100~約500、約100~約600、約100~約700約100~約800、約100~約900、約100~約1000、約1000~約2000、約1000~約5000、又は約1000~約10000の塩基若しくは塩基対の長さである。
【0089】
フォワードプライマー及びリバースプライマーの長さは、標的ポリヌクレオチド及び標的遺伝子座の配列に依存し得る。例えば、フォワードプライマー及びリバースプライマーの長さ及び/又はTmを最適化することができる。いくつかの場合において、プライマーは、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、若しくは60ヌクレオチド、又はそれを超えるヌクレオチド、又はそれ未満のヌクレオチドの長さを有する。いくつかの場合において、プライマーは、約15~約20、15~約25、約15~約30、約15~約40、約15~約45、約15~約50、約15~約55、約15~約60、約20~約25、約20~約30、約20~約35、約20~約40、約20~約45、約20~約50、約20~約55、又は約20~約60ヌクレオチドの長さである。
【0090】
いくつかの実施形態において、増幅反応混合物内の増幅のためのプライマーは、約0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.2、1.5、1.7又は2.0μMの濃度であるか、それを超える濃度であるか、又はそれ未満の濃度を有し得る。水相中のプライマー濃度は、約0.05~約2、約0.1~約1.0、約0.2~約1.0、約0.3~約1.0、約0.4~約1.0、又は約0.5~約1.0μMであり得る。プライマーの濃度は約0.5μMであり得る。PCRにおける標的核酸濃度の許容範囲は、約1pg~約500ngである。
【0091】
本明細書中で提供される方法による例示的アッセイのおいては、核酸増幅反応は、標的遺伝子の標的領域(例えば、SMN1のエクソン7又はその一部)の増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマーセット及び参照遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーセットであるオリゴヌクレオチドプライマー対を含む。標的遺伝子(例えば、SMN1標的遺伝子)及び参照遺伝子(例えば、CFTR参照遺伝子)の増幅のための例示的なプライマーが提供される。いくつかの実施形態において、SMN1の標的領域の増幅のために、プライマー対のプライマーの少なくとも1つがSMN1とSMN2を判別する。SMN1及びSMN2は、SMN1及びSMN2のエクソン7における6位の単一ヌクレオチドの相違(C/T)によって異なる。いくつかの実施形態において、対立遺伝子特異的プライマーは、SMN1及びSMN2のエクソン7における6位に対応するプライマーの3'末端に、それぞれC又はTを有する、SMN1及びSMN2の間を区別するフォワードプライマーである。いくつかの実施形態において、ミスマッチT→Gもまた、対立遺伝子特異性を助けるSMN1及びSMN2フォワードプライマーの両方の3'末端から-3位において付加された。
【0092】
いくつかの実施形態において、SMN1の標的領域の増幅のためのフォワードプライマーは、配列番号1の配列を有する。いくつかの実施形態において、SMN1の標的領域の増幅のためのリバースプライマーは、配列番号3の配列を有する。いくつかの実施形態において、SMN2の標的領域の増幅のためのフォワードプライマーは、配列番号2の配列を有する。いくつかの実施形態において、SMN2の標的領域の増幅のためのリバースプライマーは、配列番号3の配列を有する。
【0093】
いくつかの実施形態において、CFTR参照遺伝子の増幅のためのフォワードプライマーは、配列番号4の配列を有する。いくつかの実施形態において、CFTR参照遺伝子を増幅するためのリバースプライマーは、配列番号5の配列を有する。
【0094】
いくつかの実施形態において、核酸増幅反応における1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーが標識される。いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは、放射活性成分、蛍光成分、又は色素分子のような検出可能な成分で標識される。いくつかの実施形態において、組成物は二重標識蛍光エネルギー移動(FRET)プローブを含む。特定の実施形態において、標的遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーセットの少なくとも1つのプライマー、及び参照遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーセットの少なくとも1つのプライマーが標識される。
【0095】
いくつかの実施形態において、標的遺伝子及び参照遺伝子増幅産物の有無は、核酸増幅反応の後に検出される。例えばゲル電気泳動又は標識された核酸プローブのような、増幅産物の検出のための任意の適切な方法を用いることができる。
【0096】
いくつかの実施形態において、定量的PCR法を用いて、各々の核酸反応における標的遺伝子及び参照遺伝子の増幅をモニターする(例えば、比較Ct法)。そのような方法において、標的遺伝子又は参照遺伝子に特異的な各々のプライマー対の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーは、同じ反応容器内の異なる増幅産物の検出を可能にする異なる検出可能な成分で標識される。
【0097】
特定の実施形態において、本方法は、試験対象における遺伝子コピー数の確認をさらに含む。いくつかの実施形態において、遺伝子コピー数は、定量的PCR解析法(例えば、RT PCR)を使用して、対象からの複数の二倍体細胞又は複数の一倍体細胞から単離されたゲノムDNAサンプルからの核酸増幅によって決定される。そのような方法においては、コピー数は、参照遺伝子に対して比較Ctによって決定される。
【0098】
いくつかの実施形態において、核酸増幅反応における1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーは、増幅産物の同定及び/又はその後の操作又は解析を補助するための付加的な核酸配列を含む。例えば、いくつかの実施形態において、核酸増幅反応における1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーは、固有の核酸バーコードを含む。いくつかの実施形態において、核酸増幅反応における1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーは、シーケンシングプライマーのアニーリングのための、さらなる増幅のためのアダプター配列を含み、これはマイクロビーズなどの固体支持体へ増幅産物を固定する。いくつかの実施形態において、1つ以上のオリゴヌクレオチドプライマーは、マイクロビーズのような固体支持体に連結される。
【0099】
データ解析
核酸増幅及び増幅された産物の検出の後、各々の増幅産物、参照遺伝子増幅産物及び/又は標的遺伝子増幅産物を含むサンプル数をカウントする。サイレントキャリア状態の決定は、参照遺伝子増幅産物を含むサンプルのおよそ50%に標的遺伝子増幅産物が存在しないことに基づいて決定される。いくつかの実施形態において、標的遺伝子増幅産物と参照遺伝子増幅産物との比率が決定される。例えば、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の約0.5の比率は、サイレントキャリアを示す。
【0100】
SMN1遺伝子欠失のサイレントキャリアではなく、2コピーのSMN1遺伝子を含む個体については、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率は約1であることが期待される。いくつかの実施形態において、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が約1から有意に逸脱する場合、さらなる解析のためにサンプルが選択される。いくつかの実施形態において、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率の約1からの有意な偏位は、その個体がSMN1ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアであることを示す。したがって、いくつかの実施形態において、参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が閾値レベル以下である場合、潜在的なサイレントキャリアが選択される。閾値レベルは、適切な統計的方法として、例えば単一の値のt検定により決定することができる。いくつかの実施形態において、閾値レベルは0.8以下である。いくつかの実施形態において、閾値レベルは0.75以下である。
【0101】
本明細書で提供される方法は、1つ以上の自動化デバイス又はコンピュータモジュールの支援により実施することができることが理解される。例えば、細胞播種、ゲノムDNAの調製、反応容器への、若しくは、反応容器からの試薬の分配、混合、除去及び/又は移送、核酸増幅のための熱サイクリング、増幅産物の検出及び定量、データの解析、並びにレポートの作成の手順は、1つ以上の自動化デバイス又はコンピュータモジュールの支援により、部分的に又は完全に自動化することができる。
【0102】
キット
いくつかの実施形態において、本明細書中で提供される方法を行うためのキットが提供される。いくつかの実施形態において、キットは、標的遺伝子及び参照遺伝子のための増幅反応を行うための1つ以上の試薬、並びに場合によっては使用のための取り扱い説明書を含む。いくつかの実施形態において、それはマイクロタイタープレート、マイクロチップ又は反応グリッドスライドなどの反応容器、及び/又は本明細書中で提供される方法を行うために適した容器を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、標的遺伝子及び参照遺伝子の増幅反応を行うための1つ以上の試薬を含むマイクロタイタープレートが提供される。いくつかの実施形態において、1つ以上の試薬は、マイクロタイタープレート中で凍結乾燥される。いくつかの実施形態において、凍結乾燥された試薬は、使用の前に適切な緩衝液中で再構成される。例えば、凍結乾燥された試薬は、ゲノムDNAサンプルの添加前に適切な緩衝液中で再構成される。いくつかの実施形態において、マイクロタイタープレートは緩衝剤を含む。いくつかの実施形態において、緩衝剤は、トリス(Tris)、MOPS、HEPES、TAPS、ビシン、トリシン、TES、PIPES、MESの中から選択される。いくつかの実施形態において、緩衝剤はトリスである。いくつかの実施形態において、マイクロタイタープレートは、ポリメラーゼ及びポリメラーゼ安定化剤、例えば非イオン性界面活性剤、両性イオン性化合物、カチオン性エステル化合物、ポリマー、BSA、又は多糖類を含む。いくつかの実施形態において、マイクロタイタープレートは、少なくとも1つのdNTPを含む。いくつかの実施形態において、マイクロタイタープレートは、参照遺伝子、標的遺伝子、又は参照遺伝子及び標的遺伝子の両方を増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーセットを含む。
【実施例0104】
[実施例1]
方法:
凍結したヒト精液検体(Bioreclamation IVT)を解凍し、TC20自動セルカウンター(BioRad)で計数した。計数の前に、検体を37℃で30分間インキュベーションし、最短30秒間ボルテックスし、TEで1: 1に希釈して単一細胞懸濁液を確保した。得られた計数値は、その後、遺伝子型判定及び単一精子アッセイに用いた。SMN1及びSMN2遺伝子型判定アッセイのために、改変ピュアジーン(Puregene)マニュアル抽出プロトコール(Qiagen)を用い、精子検体由来のDNAを抽出した。単一細胞精子アッセイのために、各々の検体をTC20細胞計数器上で個別に計数し、0.8細胞/μl及び0.4細胞/μlの最終濃度に希釈した。
【0105】
精子溶解は96ウェルPCRプレート中で行ったが、そこでは、全量6μl/ウェルとなるように、希釈したドナー精子検体の1μlを5μlの溶解緩衝液(0.1M DDT、10mM EDTA、0.4M KOH、及び10%ロシュ(Roche)組換えPCRグレードのプロテイナーゼK)に添加した。各検体は0.8細胞/μl及び0.4細胞/μlの最終濃度について48個の複製ウェルを有していた。溶解が完了したら、標準的な操作手順からわずかに改変した定量的PCRアッセイのために各々のプレートを準備し、総反応量50μlとした。TaqManファーストアドバンストマスターミックス(TaqMan Fast Advanced Master Mix)(Life Technologies)にSMN1プローブ及びプライマー(100μM濃度)を添加し、ViiA 7 リアルタイムPCRシステムで比較CT実験として60サイクル実行した。ViiA 7 ソフトウェアを用いて検体を解析し、ここでSMN1及び参照コントロールプローブ陽性標的を同定し、定量した。各々の精子検体を1ウェルあたり0.8及び0.4個の細胞に希釈し、単一細胞の存在を確認するための参照遺伝子とともにSMN1について試験した。各々のウェルを計数し、参照遺伝子及びSMN1の値を比較した。
【0106】
SMN1及びSMN2の増幅のために、Curetら (2007) Neurogenetics 8:271-278に記載のように各々の遺伝子のエクソン7を増幅するようにオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。SMNフォワードプライマーは、エクソン7の6位のヌクレオチドの相違(C/T)で終結することにより、SMN1とSMN2とを区別する。SMN1及びSMN2フォワードプライマーの両方の3'末端から-3位で付加されたミスマッチT→Gは、対立遺伝子特異性を援助する。
【0107】
-ex7F-3g:
5'-TTCCTTTATTTTCCTTACAGGGTGTC-3'(配列番号1)
【0108】
SMN2-ex7F-3g:
5'-TTCCTTTATTTTCCTTACAGGGTGTT-3'(配列番号2)
【0109】
SMN-ex7R:
5'-GCTGGCAGACTTACTCCTTAATTTAA-3'(配列番号3)
【0110】
CFTR-F:
5'-TAGGAAGTCACCAAAGCAGTACAGC-3'(配列番号4)
【0111】
CFTR-R:
5'-AGCTATTCTCATCTGCATTCCAATG-3'(配列番号5)
【0112】
結果:
単一精子qPCRアッセイを使用して、合計46人のアフリカ系アメリカ人男性をSMAキャリア状態についてスクリーニングした(図2)。低いカウント数及びコンタミネーションを含む低質な検体は、細胞数の不一致及びqPCR反応の大幅な失敗[7/46(15%)]をもたらした。信頼性のある検体の全ては、同じ精液検体から抽出したDNAを用いた従来の用量アッセイにより検出された少なくとも2コピーのSMN1遺伝子を有していた(データは示さず)。この初期データセットでは、従来のSMAキャリア(SMN1の単一コピー)は同定されなかった。
【0113】
単一の検体(DS11)は、2コピー個体の平均比率について、期待されるSMN1 対 参照遺伝子の比率から0.729±SD 0.66の値で統計学的ばらつきを示した(単一値 t検定p値=0.0014)(図3)。約0.5のSMN1 対 参照遺伝子比率は、50%の疾患対立遺伝子を見過ごすリスクを有する、精子細胞の半分がSMN1についてヌルであるキャリア検体を示している。2コピーのSMN1及び50%ヌル精子である観察された遺伝子型は、2+0遺伝子型又はサイレントキャリアを示す。
【0114】
DS11検体をqPCRにより再試験して、SMN1及びSMN2遺伝子の用量を決定し、単一細胞アッセイにて2つの異なる希釈で2つの完全プレートに塗り広げた(n=192合計ウェル)。検体DS11の遺伝子型は、2コピーのSMN1及び2コピーのSMN2を有することが確認された。SMN1 対 参照遺伝子の比率の結果は0.589±SD 0.024(単一値 t検定p値=2.2×10-4)であり、これは2+0遺伝子型及び最初のサイレントキャリア結果を確認した(図4A)。検体は、SMN1についてサンガー法によって、SMN1及びホモログSMN2について非特異的配列決定によって配列決定した。2つの相同遺伝子の非特異的配列決定は、エクソン7の+6位でおよそ50/50(C/T)比を示し、2つの遺伝子のコピーの数が等しいことを示した(図4B)。SMN1遺伝子の特異的配列決定は、qPCRプローブ又はプライマー部位の下で、対立遺伝子の欠落又はプローブ親和性の低下をもたらし得る配列変異体を示さなかった(図4C)。
【0115】
この研究の結果は、従来の遺伝子量法の残存リスクを除外する、男性のサイレントSMAキャリアを同定するための単一細胞精子qPCRアッセイの使用を裏付ける。SMN1遺伝子の特異的配列決定と組み合わせて、この新規のアッセイは、SMN1遺伝子座の欠失又は突然変異から生じる全ての男性SMAキャリアの100%を同定することができる。
【0116】
本明細書中に記載された例及び実施形態は、例示のみを目的とするものであり、当業者に示唆されるさまざまな修正又は変更が、本出願の精神及び視野内並びに添付の特許請求の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2022095811000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SMN1遺伝子の標的領域の増幅のための1対のオリゴヌクレオチドプライマー対であって、前記標的領域がSMN1サイレントキャリアの標的遺伝子ヌル対立遺伝子において欠失している、オリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない、参照遺伝子の標的領域の増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬
を含むキット。
【請求項2】
ヌクレオチド三リン酸、熱安定性ポリメラーゼ、及び/又は適切な緩衝液を含む、請求項に記載のキット。
【請求項3】
参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oから選択される、請求項に記載のキット。
【請求項4】
標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、請求項に記載のキット。
【請求項5】
対象を標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして同定するための方法であって、
(a)複数の定量的核酸増幅反応を実施する工程であって、各々の核酸増幅反応が、(i)対象からの単一の一倍体細胞からのゲノムDNAサンプル、(ii)標的遺伝子の標的領域であって前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子には存在しない標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマー、及び(iii)参照遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、工程、
(b)標的遺伝子増幅産物の有無検出する工程、
(c)参照遺伝子増幅産物の有無検出する工程、
(d)検出された標的遺伝子増幅産物と検出された参照遺伝子増幅産物との比率を決定すること、並びに
(e)参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が、約0.5~約0.8の閾値レベル以下である場合、対象を前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子のキャリアとして特徴付ける工程、
を含む、方法。
【請求項6】
対象を標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして同定するための方法であって、
(a)複数の酸増幅反応を実施する工程であって、各々の核酸増幅反応が、
(i)標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアであることが疑われる対象から取得されたゲノムDNAサンプル、
(ii)標的遺伝子の標的領域であって前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子には存在しない標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーであって、該1対のオリゴヌクレオチドプライマーのうちの1つのオリゴヌクレオチドプライマーが固有の核酸バーコードを含むものである、及び
(iii)参照遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、工程、
(b)標的遺伝子増幅産物の有無検出する工程、
(c)参照遺伝子増幅産物の有無検出する工程、
(d)検出された標的遺伝子増幅産物と検出された参照遺伝子増幅産物との比率を決定すること、並びに
(e)参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率に基づき、対象を前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして特徴付ける工程
を含む、方法。
【請求項7】
標的遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、及び参照遺伝子増幅産物の有無を検出する工程が、標的遺伝子増幅産物及び参照遺伝子増幅産物を配列決定することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
配列決定が、バルク配列決定法、次世代配列決定法、又は超並列配列決定法を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
ゲノムDNAサンプルが一倍体細胞から取得される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
ゲノムDNAサンプルが二倍体細胞から取得される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記二倍体細胞が血液細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項13】
標的遺伝子がSMN1である、請求項に記載の方法。
【請求項14】
標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、請求項に記載の方法。
【請求項15】
(a)細胞を、1反応容器当たり1細胞の濃度にて、個別の反応容器にソーティングする工程、及び
(b)各ソーティングされた細胞を溶解緩衝液と接触させて、該細胞からゲノムDNAを放出させる工程、
を含む、標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアであることが疑われる対象からサンプルを調製する方法。
【請求項16】
前記対象が、一方の5番染色体ホモログ上にSMN1遺伝子の欠失及び他方の5番染色体ホモログ上に2つ以上のSMN1遺伝子のコピーを有すると疑われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が一倍体細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が二倍体細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が血液細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶解緩衝液が酵素を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記溶解緩衝液がプロテイナーゼKを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
単一の一倍体細胞からゲノムDNAを調製することが、
(a)単一の一倍体細胞を、1反応容器当たり細胞の濃度にて、水性マイクロ液滴中に封入する工程、及び
(b)マイクロ液滴中の単一の一倍体細胞を溶解緩衝液と接触させて、該細胞からゲノムDNAを放出させる工程、
を含む、請求項15に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0116
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0116】
本明細書中に記載された例及び実施形態は、例示のみを目的とするものであり、当業者に示唆されるさまざまな修正又は変更が、本出願の精神及び視野内並びに添付の特許請求の範囲内に含まれる。本発明は以下の実施形態を包含する。
[1] 対象を標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアとして同定するための方法であって、
(a)複数の核酸増幅反応を実施する工程であって、各々の核酸増幅反応が、(i)対象からの単一の一倍体細胞から得られたゲノムDNAサンプル、(ii)標的遺伝子の標的領域であって標的遺伝子ヌル対立遺伝子には存在しない標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマー、及び(iii)参照遺伝子の標的領域の増幅のための少なくとも1対のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、工程、
(b)標的遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、
(c)参照遺伝子増幅産物の有無を検出する工程、並びに
(d)参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が、約0.5~約0.8の閾値レベル以下である場合、対象を前記標的遺伝子ヌル対立遺伝子のキャリアとして特徴付ける工程
を含む、方法。
[2] 前記閾値レベルが約0.75である、実施形態1に記載の方法。
[3] 標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアにおける参照遺伝子増幅産物に対する標的遺伝子増幅産物の比率が約0.5である、実施形態1~2のいずれかに記載の方法。
[4] 一倍体細胞が天然に存在する配偶子細胞又は人工一倍体細胞である、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
[5] 一倍体細胞が精子細胞である、実施形態4に記載の方法。
[6] 人工一倍体細胞が、人工多能性幹細胞(iPSC)に由来する、実施形態4に記載の方法。
[7] 前記対象がヒト対象である、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 標的遺伝子がSMN1である、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
[10] 標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[11] 標的遺伝子のホモ接合型欠失が疾患又は状態に関連する、実施形態1~10のいずれかに記載の方法。
[12] 前記疾患又は状態が脊髄性筋萎縮症(SMA)である、実施形態11に記載の方法。 [13] 標的遺伝子の増幅のための少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーが、検出可能な成分により標識されている、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
[14] 参照遺伝子の増幅のための少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーが、検出可能な成分により標識されている、実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記検出可能な成分が蛍光成分である、実施形態13又は実施形態14に記載の方法。
[16] 前記核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である、実施形態1~15のいずれかに記載の方法。
[17] 前記核酸増幅反応が定量的PCRである、実施形態1~16のいずれかに記載の方法。
[18] 各々の核酸増幅反応が、マルチウェルプレートの別々のウェルで行われる、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
[19] 各々の一倍体細胞がマイクロ液滴中に封入されている、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
[20] マイクロ液滴が油中水型エマルション中に分散されている、実施形態19に記載の方法。
[21] 核酸増幅反応がデジタル液滴PCRである、実施形態19又は20に記載の方法。
[22] 標的遺伝子増幅産物が、該標的遺伝子増幅産物に特異的な標識核酸プローブで検出される、実施形態1~21のいずれかに記載の方法。
[23] 参照遺伝子増幅産物が、該参照遺伝子増幅産物に特異的な標識核酸プローブで検出される、実施形態1~22のいずれかに記載の方法。
[24] 前記対象からの二倍体細胞中の前記標的遺伝子のコピー数を決定する工程をさらに含む、実施形態1~23のいずれかに記載の方法。
[25] 前記対象が標的遺伝子ヌル対立遺伝子のサイレントキャリアである可能性の評価を含むレポートの作成をさらに含む、実施形態1~24のいずれかに記載の方法。
[26] 単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程を含む、実施形態1~25のいずれかに記載の方法。
[27] 単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程が、
(a)単一の一倍体細胞群を、1反応容器当たり1個の一倍体細胞の濃度で別々の反応容器に分別する工程、及び
(b)各々の分別された細胞を溶解緩衝液と接触させて、細胞からゲノムDNAを放出させる工程
を含む、実施形態26に記載の方法。
[28] 前記溶解緩衝液が酵素を含む、実施形態27に記載の方法。
[29] 前記溶解緩衝液がプロテイナーゼKを含む、実施形態28に記載の方法。
[30] 前記ゲノムDNAの調製及び前記核酸増幅反応が同じ反応容器内で行われる、実施形態27~29のいずれかに記載の方法。
[31] 前記ゲノムDNAの調製及び前記核酸増幅反応が、別々の反応容器内で行われる、実施形態27~30のいずれかに記載の方法。
[32] 前記反応容器がマイクロタイタープレートである、実施形態27~31のいずれかに記載の方法。
[33] 単一の一倍体細胞群からゲノムDNAを調製する工程が、
(a)単一の一倍体細胞群を、1反応容器当たり1個の一倍体細胞の濃度で水性マイクロ液滴に封入する工程、及び
(b)各々のマイクロ液滴内の各々の単一の一倍体細胞を溶解緩衝液と接触させて、細胞からゲノムDNAを放出させる工程
を含む、実施形態26に記載の方法。
[34] (a)SMN1遺伝子の標的領域の増幅のための1対のオリゴヌクレオチドプライマー対であって、前記標的領域がSMN1サイレントキャリアの標的遺伝子ヌル対立遺伝子において欠失している、オリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(b)SMN1サイレントキャリアにおいて欠失していない、参照遺伝子の標的領域の増幅のためのオリゴヌクレオチドプライマー対、及び
(c)核酸増幅反応を実施するための1つ以上の試薬
を含むキット。
[35] ヌクレオチド三リン酸、熱安定性ポリメラーゼ、及び/又は適切な緩衝液を含む、実施形態34に記載のキット。
[36] 参照遺伝子が、CFTR、GAPDH、HMBS、B2M、HPRT1、RPL13A、SDHA、TBP、UBC、YWHAZ、PRDX6、ADD1、HLA-A、RAD9A、ARHGEF7、EIF2B2、PSMD7、BCAT2、及びATP5Oの中から選択される、実施形態34に記載のキット。
[37] 標的遺伝子増幅産物が、SMN1のエクソン7又はその一部を含む、実施形態34に記載のキット。
【外国語明細書】