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特開2022-95878パクリタキセル-アルブミン-結合剤組成物並びに該組成物の使用及び製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022095878
(43)【公開日】2022-06-28
(54)【発明の名称】パクリタキセル-アルブミン-結合剤組成物並びに該組成物の使用及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/235 20060101AFI20220621BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220621BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220621BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20220621BHJP
【FI】
A61K31/235
A61K9/14
A61K47/42
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K31/337
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066233
(22)【出願日】2022-04-13
(62)【分割の表示】P 2022019316の分割
【原出願日】2017-09-06
(31)【優先権主張番号】62/384,119
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511281899
【氏名又は名称】マヨ ファウンデーション フォー メディカル エデュケーション アンド リサーチ
【氏名又は名称原語表記】MAYO FOUNDATION FOR MEDICAL EDUCATION AND RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スヴェトミール エヌ. マルコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ウェンディ ケイ. ネヴァラ
(57)【要約】
【課題】結合剤、担体タンパク質及びある量のパクリタキセル誘導体、及び任意的に治療剤を含むナノ粒子組成物を提供すること。
【解決手段】本明細書では、担体タンパク質及びある量のパクリタキセル、及び任意的に結合剤及び/又は治療剤を含むナノ粒子組成物であって、パクリタキセルが治療効果をもたらすよりも少ない量で存在するナノ粒子組成物も開示する。本明細書では、(a)担体タンパク質、(b)パクリタキセルよりも毒性が低いパクリタキセル誘導体、及び任意的に(c)結合剤及び/又は(d)治療剤を含むナノ粒子も開示する。本明細書では、さらに、これらの、特に癌治療薬としての、使用及び製造方法も開示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合剤及び担体タンパク質の新規組成物並びに該組成物の、特に癌治療薬としての、使用及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は、黒色腫を始めとする多くの種類の癌に対する全身療法のよりどころである。大半の化学療法薬は腫瘍細胞に対してわずかな選択性しかなく、健全な増殖細胞に対する毒性が高いことがあり(Allen TM. (2002) Cancer 2:750-763)、用量の減量さらには治療の中断さえ必要とされることがある。理論的には、化学療法の毒性の問題を克服するとともに薬効を改善する一つの方法は、標的薬を腫瘍に引きつけるために、癌細胞で選択的に発現(又は過剰発現)されるタンパク質に特異的な抗体を用いて化学療法薬を腫瘍にターゲティングし、もって化学療法薬の生体分布を変化させて、腫瘍に届く薬の量を増やし、健全な組織への影響を減らすことである。しかし、30年間に及ぶ研究にもかかわらず、治療に関連して特異的ターゲティングが成功した例はほとんどない。
【0003】
従来の抗体依存性化学療法(ADC)は、毒性薬物をターゲティング抗体に合成プロテアーゼ切断性リンカーを介して結合させて設計される。このようなADC療法の有効性は、標的細胞が抗体に結合する能力、リンカーが切断される能力及び毒性薬物が標的細胞に取り込まれる能力に依存する。Schrama, D. et al. (2006) Nature reviews. Drug discovery 5:147-159参照。
【0004】
抗体標的化学療法(antibody-targeted chemotherapy)は、ターゲティング能と、多様な細胞障害性薬物と、潜在的に低減した毒性を伴う治療能力の向上との組合せをもたらすので、従来の療法よりも優れていると期待されていた。広範な研究にもかかわらず、臨床的に有効な抗体標的化学療法は未だ判然としない。大きなネックとなっているのは、抗体と化学療法薬の間のリンカーの不安定性、抗体に結合したときの化学療法薬の腫瘍毒性の低下、並びにコンジュゲートが腫瘍細胞に結合及び侵入できないことである。さらに、これらの治療法では抗体-薬物コンジュゲートのサイズを制御できなかった。
【0005】
従来の治療薬よりも信頼性があって改善された抗腫瘍活性をもたらすべく、標的薬物送達のための細胞傷害性効果を保持する抗体癌治療薬が当技術分野で依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、(a)担体タンパク質、(b)任意的に結合剤、及び(c)治療効果をもたらす量よりも少ない量で存在するパクリタキセル、及び任意的に(d)治療剤(c)を含むナノ粒子について開示する。本発明の幾つかの態様は、例えばアブラキサン(登録商標)のようなアルブミン結合ナノ粒子におけるパクリタキセルの量に比べて、パクリタキセルの量を低減することによって、アルブミンのような担体タンパク質と抗体のような結合剤との複合体の形成が促進され、安定なナノ粒子をもたらすという思想に部分的に基づく。本明細書では、これらのナノ粒子を、「低毒性ナノ粒子」(RTP)又はRTP複合体と呼ぶこともある。
【0007】
本明細書では、(a)担体タンパク質、(b)パクリタキセルよりも毒性が低いパクリタキセル誘導体、及び任意的に(c)結合剤及び/又は(d)治療剤を含むナノ粒子又は複合体も開示される。
【0008】
本明細書では、さらに、ナノ粒子組成物並びにナノ粒子の製造及び使用方法について記載する。
【0009】
一態様では、アルブミンと、パクリタキセルよりも毒性が低いパクリタキセル誘導体とを含むナノ粒子が提供される。一実施形態では、パクリタキセル誘導体は、パクリタキセルのメーヤワイン(Meerwein)生成物である。好ましい実施形態では、パクリタキセル誘導体は、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソールである。一実施形態では、パクリタキセル誘導体は、バッカチンIII((2β,5α,7α,10α,13β)-4,10-ジアセトキシ-1,7,13-トリヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシタキサ-11-エン-2-イルベンゾエート)である。一実施形態では、ナノ粒子は、アルブミンとパクリタキセル誘導体との間の非共有結合によって一体化される。一実施形態では、アルブミンとパクリタキセル誘導体は、約10:1未満の相対重量比を有する。一実施形態では、ナノ粒子はパクリタキセルを含まない。
【0010】
一実施形態では、アルブミン及びパクリタキセル誘導体、さらに抗原結合性ドメインを有する結合剤(例えば抗体)を含むナノ粒子複合体が提供される。一実施形態では、ある量の結合剤(例えば抗体)がナノ粒子複合体の外側表面に配置される。幾つかの実施形態では、結合剤は、ナノ粒子の表面の全体又は一部に存在する実質的に単層の結合剤である。一実施形態では、結合剤は、非共有結合によって担体タンパク質に結合している。好ましくは、結合剤は抗体である。
【0011】
一実施形態では、ナノ粒子複合体はさらに治療剤を含む。一実施形態では、治療剤は、アビラテロン、ベンダムスチン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カバジタキセル、シスプラチン、クロラムブシル、ダサチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、ゲフィチニブ、イダルビシン、イマチニブ、ヒドロキシウレア、ラパチニブ、リュープロレリン、メルファラン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ネダプラチン、ニロチニブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、パゾパニブ、ペメトレキセド、ピコプラチン、ロミデプシン、サトラプラチン、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、スニチニブ、テニポシド、トリプラチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン又はシクロホスファミドである。一実施形態では、治療剤は表2に記載された薬剤である。
【0012】
一態様では、本明細書に記載のナノ粒子又はナノ粒子複合体を含むナノ粒子組成物が提供される。
【0013】
一態様では、担体タンパク質(例えばアルブミン)及びパクリタキセルを含むナノ粒子であって、パクリタキセルが、治療効果をもたらす量よりも少ない量で存在する、ナノ粒子が提供される。一実施形態では、ナノ粒子は、担体タンパク質とパクリタキセルとの間の非共有結合によって一体化される。一態様では、ナノ粒子複合体は、担体タンパク質(例えばアルブミン)とパクリタキセルを、約10:1を超える担体タンパク質/パクリタキセルの相対重量比で組合せることによって製造される。
【0014】
一実施形態では、ナノ粒子(ナノ粒子複合体)又はナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、タンパク質担体(例えばアルブミン)及びパクリタキセルを含むナノ粒子複合体に安定性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、ナノ粒子又はナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、タンパク質担体(例えばアルブミン)に対するパクリタキセルの親和性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、ナノ粒子又はナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、パクリタキセルとタンパク質担体(例えばアルブミン)との複合体形成を促進することができる最小量以上である。
【0015】
ナノ粒子又はナノ粒子組成物中のアルブミンとパクリタキセルとの比は、好ましくはアブラキサン(登録商標)における比よりも小さい。アブラキサン(登録商標)は、約900mgのアルブミンに対して100mgのパクリタキセルを含有する。一実施形態では、ナノ粒子組成物中の担体タンパク質(例えばアルブミン)とパクリタキセルとの重量比は約9:1超である。一実施形態では、重量比は約10:1超、11:1超、12:1超、13:1超、14:1超、15:1超、約16:1超、約17:1超、約18:1超、約19:1超、約20:1超、約21:1超、約22:1超、約23:1超、約24:1超、約25:1超、約26:1超、約27:1超、約28:1超、約29:1超又は約30:1超である。一実施形態では、ナノ粒子複合体中の担体タンパク質とパクリタキセルとの重量比は約9:1超である。一実施形態では、重量比は約10:1超、11:1超、12:1超、13:1超、14:1超、15:1超、約16:1超、約17:1超、約18:1超、約19:1超、約20:1超、約21:1超、約22:1超、約23:1超、約24:1超、約25:1超、約26:1超、約27:1超、約28:1超、約29:1超又は約30:1超である。
【0016】
一実施形態では、パクリタキセルの量は、タンパク質担体(例えばアルブミン)、パクリタキセル、及び任意的に1種以上の治療剤を含むナノ粒子複合体に安定性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、パクリタキセルの量は、タンパク質担体に対する1種以上の治療剤の親和性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、パクリタキセルの量は、1種以上の治療剤とタンパク質担体との複合体形成を促進することができる最小量以上である。
【0017】
これらの実施形態のいずれにおいても、パクリタキセルの量は、パクリタキセルの治療量未満とすることができる。換言すると、その量は、治療効果をもたらすために規定又は想定される量(例えば癌を効果的に治療するための化学療法量など)よりも少なくてもよい。
【0018】
一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は約5mg/mL未満である。一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は約4.54mg/mL未満、約4.16mg/mL未満、約3.57mg/mL未満、約3.33mg/mL未満、約3.12mg/mL未満、約2.94mg/mL未満、約2.78mg/mL未満、約2.63mg/mL未満、約2.5mg/mL未満、約2.38mg/mL未満、約2.27mg/mL未満、約2.17mg/mL未満、約2.08mg/mL未満、約2mg/mL未満、約1.92mg/mL未満、約1.85mg/mL未満、約1.78mg/mL未満、約1.72mg/mL未満又は約1.67mg/mL未満である。
【0019】
理論に縛られるものではないが、担体タンパク質への結合、例えば担体タンパク質との結合剤の複合体形成は、結合剤のアルブミン結合性モチーフ及び/又は担体タンパク質の抗体結合性モチーフを介して起こると考えられる。一実施形態では、結合剤はアルブミン結合性モチーフを含む。一実施形態では、担体タンパク質は抗体結合性モチーフを含む。抗体結合性モチーフの非限定的な例は、2017年8月4日出願のPCT出願PCT/US2017/045643号に記載されており、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。幾つかの実施形態では、結合剤は、非治療用及び非内在性ヒト抗体、融合タンパク質(例えば抗体Fcドメインと標的抗原に結合するペプチドとの融合体)、又はアプタマーである。
【0020】
一実施形態では、結合剤は抗原結合性ドメインを含む。一実施形態では、抗原はCD3、CD19、CD20、CD38、CD30、CD33、CD52、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、RANK-L、GD-2、Ly6E、HER3、EGFR、DAF、ERBB-3受容体、CSF-1R、HER2、STEAP1、CD3、CEA、CD40、OX40、Ang2-VEGF又はVEGFである。
【0021】
一実施形態では、結合剤は、トラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、ラムシルマブ、アベルマブ又はデュルバルマブ、ピディリズマブ、BMS 936559、OKT3及びトラスツズマブから選択される抗体である。
【0022】
本発明はさらに、凍結乾燥ナノ粒子及びナノ粒子組成物、並びに調製したてのナノ粒子の性質と実質的に差がないか或いは同じである凍結乾燥ナノ粒子及び組成物を包含する。特に、凍結乾燥組成物は、水溶液中に再懸濁したときに、粒子サイズ、粒子サイズ分布、癌細胞に対する毒性、結合剤親和性及び結合剤特異性に関して、新鮮な組成物と同様又は同一である。驚くべきことに、凍結乾燥ナノ粒子は、それらの粒子中に2種類の異なるタンパク質成分が存在しているにもかかわらず、再懸濁後に、作りたてのナノ粒子の特性を保持している。一実施形態では、凍結乾燥組成物は室温で少なくとも約3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月又はそれ以上安定である。一実施形態では、凍結乾燥組成物は室温で少なくとも3ヶ月間安定である。一実施形態では、再構成ナノ粒子は治療剤の活性を保持し、かつインビボで標的に結合することができる。
【0023】
幾つかの実施形態では、1種以上の治療剤がナノ粒子の内部に位置する。別の実施形態では、1種以上の治療剤がナノ粒子の外側表面に配置される。さらに別の実施形態では、1種以上の治療剤がナノ粒子の内側及びナノ粒子の外側表面に配置される。
【0024】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子は2種類以上の治療剤を含む。例えば、タキサン及び白金薬、例えばパクリタキセル及びシスプラチンなどである。
【0025】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子は、パクリタキセル以外の1種以上の追加の治療剤をさらに含む。幾つかの実施形態では、1種以上の治療剤は、アビラテロン、ベンダムスチン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カバジタキセル、シスプラチン、クロラムブシル、ダサチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、ゲフィチニブ、イダルビシン、イマチニブ、ヒドロキシウレア、ラパチニブ、リュープロレリン、メルファラン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ネダプラチン、ニロチニブ、オキサリプラチン、パゾパニブ、ペメトレキセド、ピコプラチン、ロミデプシン、サトラプラチン、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、スニチニブ、テニポシド、トリプラチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン又はシクロホスファミドである。
【0026】
幾つかの実施形態では、結合剤、担体タンパク質、及び/又は存在する場合には治療剤は、非共有結合によって結合している。
【0027】
幾つかの実施形態では、担体タンパク質は、ゼラチン、エラスチン、グリアジン、レグミン、ゼイン、大豆タンパク質、乳タンパク質及び乳清タンパク質からなる群から選択される。好ましい実施形態では、担体タンパク質はアルブミン、例えばヒト血清アルブミンである。
【0028】
幾つかの実施形態では、本組成物は静脈内送達用に製剤化される。別の実施形態では、本組成物は腫瘍への直接注射又は灌流用に製剤化される。
【0029】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子は、約1×10-11M~約1×10-9Mの解離定数を有する。
【0030】
一実施形態では、ナノ粒子組成物の製造方法であって、担体タンパク質、パクリタキセル及び1種以上の治療剤を、所望のナノ粒子が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法を提供する。
【0031】
幾つかの態様では、アルブミン-パクリタキセル誘導体又はアルブミン-パクリタキセルナノ粒子を形成する方法であって、高圧下で溶液中でアルブミンをパクリタキセル誘導体又はパクリタキセルとホモジナイズして、アルブミン-パクリタキセル誘導体又はアルブミン-パクリタキセルナノ粒子を生成させる方法を含む方法が提供される。
【0032】
幾つかの態様では、ナノ粒子組成物の製造方法であって、担体タンパク質、パクリタキセル及び/又は治療剤を、pH5.0~7.5及び約5℃~約60℃、約23℃~約60℃又は約55℃~約60℃の温度の溶液中で、結合剤と、所望のナノ粒子が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法が提供される。一実施形態では、ナノ粒子は55℃~60℃及びpH7.0で製造される。別の態様では、ナノ粒子組成物の製造方法であって、(a)担体タンパク質、パクリタキセル及び治療剤を接触させてコアを形成するステップと、(b)任意的に、コアを、約5℃~約60℃、約23℃~約60℃又は約55℃~約60℃の温度でpH約5.0~約7.5の溶液中で、抗体と、所望のナノ粒子が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法が提供される。
【0033】
幾つかの態様では、ある量の治療剤(例えばパクリタキセルではない治療剤)も担体タンパク質に添加することができる。
【0034】
別の実施形態では、ナノ粒子は上述の通り製造され、次いで凍結乾燥される。
【0035】
別の態様では、癌細胞を治療するための方法であって、癌細胞を治療するため、該細胞を本明細書に開示した有効量のナノ粒子組成物と接触させることを含む方法が提供される。
別の態様では、癌細胞を治療するための、本明細書に記載のナノ粒子複合体、又は本明細書に記載のナノ粒子組成物が提供される。
【0036】
一実施形態では、癌細胞の集団において癌細胞を死滅させる方法であって、当該方法が、上記細胞を有効量のナノ粒子組成物と接触させることを含んでおり、上記組成物が癌細胞を死滅させるのに十分な期間上記細胞と接触した状態に維持され、上記ナノ粒子組成物がナノ粒子複合体を含んでおり、ナノ粒子の各々がアルブミン及びパクリタキセルを含んでおり、パクリタキセルが、治療効果をもたらす量よりも少ない量で存在する、方法が提供される。
別の態様では、癌細胞の集団において癌細胞を死滅させるための、本明細書に記載のナノ粒子複合体、又は本明細書に記載のナノ粒子組成物が提供される。
【0037】
一実施形態では、癌の治療を必要とする患者の癌を治療する方法であって、当該方法が、ナノ粒子複合体を含むナノ粒子組成物を患者に投与することを含んでおり、上記ナノ粒子の各々がアルブミン及びパクリタキセルを含んでおり、パクリタキセルが、治療効果をもたらす量よりも少ない量で存在する、方法が提供される。
別の態様では、癌の治療を必要とする患者の癌を治療するための、本明細書に記載のナノ粒子複合体、又は本明細書に記載のナノ粒子組成物が提供される。
【0038】
別の態様では、腫瘍の治療を必要とする患者の腫瘍を治療するための方法であって、腫瘍を治療するため、細胞を本明細書に開示した有効量のナノ粒子組成物と接触させることを含む方法が提供される。
別の態様では、腫瘍の治療を必要とする患者の腫瘍を治療するため、本明細書に記載のナノ粒子複合体、又は本明細書に記載のナノ粒子組成物が提供される。
幾つかの実施形態では、腫瘍の大きさが縮小する。別の実施形態では、ナノ粒子組成物は静脈内投与される。さらに別の実施形態では、ナノ粒子組成物は腫瘍への直接注射又は灌流によって投与される。
【0039】
幾つかの実施形態では、本明細書で提供される方法は、a)ナノ粒子組成物を3週間にわたって週1回投与するステップ、b)ナノ粒子組成物の投与を1週間中止するステップ、及びc)腫瘍を治療するため必要に応じてステップa)及びb)を繰り返すステップを含む。
【0040】
幾つかの実施形態では、治療有効量は、約75mg/m~約175mg/mの担体タンパク質(すなわち、患者1m当たりの担体タンパク質ミリグラム数)を含む。別の実施形態では、パクリタキセルは、約75mg/m未満の量、例えば5mg/m~75mg/mの量である。別の実施形態では、パクリタキセルは治療有効量よりも少ない量のものである。幾つかの実施形態では、治療剤は治療有効量のものである。幾つかの実施形態では、治療有効量は約30mg/m~約70mg/mの結合剤を含む。さらに別の実施形態では、治療有効量は約30mg/m~約70mg/mのベバシズマブを含む。
【0041】
本発明の一実施形態は、抗体(例えば腫瘍表面の抗原又は腫瘍から抗原に特異的に結合する抗体)と表面複合体形成する化学療法薬及び担体タンパク質を含むナノ粒子中の化学療法薬を投与することによって化学療法薬の腫瘍取り込みの期間を増加させる方法を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
以下の図面は、本発明の代表的なものにすぎず、限定を意図するものではない。一貫性のために、アブラキサン(登録商標)及びベバシズマブを使用した本発明のナノ粒子には、「AB」という頭字語を用い、AB160のようなABの後の数字は、これらのナノ粒子の平均粒子サイズ(ナノメートル)を示すためのものである。同様に、結合剤がリツキシマブである場合、頭字語は「AR」であり、その後の数字は同じ意味をもつ。
図1図1は、パクリタキセルのメーヤワイン生成物(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)を生成する、パクリタキセルとメーヤワイン試薬との反応を示す。
図2A図2A図2Eは、非毒性ナノ粒子(NTP)単独(図2A)、或いは4mg/mL(図2B)、6mg/mL(図2C)、8mg/mL(図2D)又は10mg/mL(図2E)のベバシズマブと共に30分間インキュベートしたナノ粒子の直径を示す。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
図2B図2A図2Eは、非毒性ナノ粒子(NTP)単独(図2A)、或いは4mg/mL(図2B)、6mg/mL(図2C)、8mg/mL(図2D)又は10mg/mL(図2E)のベバシズマブと共に30分間インキュベートしたナノ粒子の直径を示す。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
図2C図2A図2Eは、非毒性ナノ粒子(NTP)単独(図2A)、或いは4mg/mL(図2B)、6mg/mL(図2C)、8mg/mL(図2D)又は10mg/mL(図2E)のベバシズマブと共に30分間インキュベートしたナノ粒子の直径を示す。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
図2D図2A図2Eは、非毒性ナノ粒子(NTP)単独(図2A)、或いは4mg/mL(図2B)、6mg/mL(図2C)、8mg/mL(図2D)又は10mg/mL(図2E)のベバシズマブと共に30分間インキュベートしたナノ粒子の直径を示す。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
図2E図2A図2Eは、非毒性ナノ粒子(NTP)単独(図2A)、或いは4mg/mL(図2B)、6mg/mL(図2C)、8mg/mL(図2D)又は10mg/mL(図2E)のベバシズマブと共に30分間インキュベートしたナノ粒子の直径を示す。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
図3A図3A及び図3Bは、ベバシズマブ(図3A)又はリツキシマブ(図3B)のNTPに対する結合親和性(Kd)を示す。Kdはバイオレイヤー干渉法(Bio LayerInterferometry:BLI)を用いて測定した。
図3B図3A及び図3Bは、ベバシズマブ(図3A)又はリツキシマブ(図3B)のNTPに対する結合親和性(Kd)を示す。Kdはバイオレイヤー干渉法(Bio Layer Interferometry:BLI)を用いて測定した。
図4A図4Aは、PBS中でのナノ粒子複合体の安定性を示す。図4Bは、血清中でのナノ粒子複合体の安定性を示す。
図4B図4Aは、PBS中でのナノ粒子複合体の安定性を示す。図4Bは、血清中でのナノ粒子複合体の安定性を示す。
図5A図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5B図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5C図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5D図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5E図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5F図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
図5G図5A図5Eは、アイソタイプ対照(図5A)、抗CD20抗体(図5B)、アブラキサン(登録商標)(図5C)、AR160(図5D)、NTP(図5E)、リツキシマブ結合NTP(NTRit;図5F)又はリツキシマブ単独(図5G)によるCD20陽性Daudi細胞の結合阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明を読了すれば、本発明を様々な代替的実施形態及び代替的用途で如何に実施すればよいか当業者には明らかになろう。ただし、本明細書には本発明の様々な実施形態がすべて記載されているわけではない。本明細書に記載された実施形態は例示のためのものであり、限定のためのものではない。したがって、様々な代替実施形態に関する発明の詳細な説明は、本発明の技術的範囲を以下に開示されたものに限定するものと解釈すべきではない。
【0044】
本発明を開示するに当たり、以下に記載される態様は特定の組成物、かかる組成物の製造方法又はその使用方法に限定されるものではなく、それらは当然ながら変更し得ることを理解されたい。本明細書で用いる用語は専ら特定の態様を説明することを目的としたものであり、限定的なものではないことも理解すべきである。
【0045】
本発明の詳細な説明は、専ら読者の便宜のために様々な欄に分けられているが、いずれかの欄に記載された開示内容は他の欄の開示内容と組合せることができる。本明細書では、読者の便宜のために表題又は副題を用いることがあるが、それらは本発明の技術的範囲に影響を及ぼすことを意図するものではない。
【0046】
定義
別途定義しない限り、本明細書で用いる技術用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解する通りの意味を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる幾つかの用語については、以下の意味を有するものと定義される。
【0047】
本明細書で用いる用語は、特定の実施形態を説明することを目的としたものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書では単数形で記載されたものであっても、文脈から別途明らかでない限り、複数形の場合も含む。
【0048】
「任意的に」とは、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいことを意味しており、かかる記載はその事象又は状況が起こる場合と起こらない場合とを包含する。
【0049】
「約」という用語が、範囲を含めて、温度、時間、量、濃度その他の数値の前に用いられている場合、±10%、±5%、±1%、又はそれらの間の部分範囲又は中間値で変動し得る近似値を示す。好ましくは、用量に関して用いられる「約」という用語は、用量が±10%変動し得ることを意味する。例えば、「約400~約800個の結合剤」とは、ナノ粒子の外側表面が360~880個の粒子の結合剤を含んでいることを示す。
【0050】
「含む」とは、組成物及び方法が記載された要素を含んでいるが、その他の要素を除外するものではないことを意味する。「から本質的になる」とは、組成物及び方法の定義に用いられる場合、記載された目的に関して組合せに本質的重要性をもつ他の要素を除外することを意味する。したがって、本明細書で定義された要素から本質的になる組成物は、特許請求の範囲に記載された発明の基本的かつ新規な特徴に実質的な影響を与えない他の材料又はステップを除外するものではない。「からなる」とは、痕跡量を超える他の成分及び実質的な方法ステップを除外することを意味する。これらの移行句の各々によって定義される実施形態は、本発明の技術的範囲に属する。
【0051】
本明細書で用いる「ナノ粒子」という用語は、少なくとも1つの寸法が5μm未満である粒子をいう。静脈内投与のような好ましい実施形態では、ナノ粒子は1μm未満である。直接投与の場合、ナノ粒子はもっと大きい。大きな粒子であっても明示的に本発明の想定内である。
【0052】
粒子の集団において、個々の粒子のサイズは平均の周りで分布している。したがって、母集団の粒子サイズは平均値で表すことができるし、パーセンタイルで表すこともできる。D50は、粒子の50%がその粒子サイズ未満に属する粒子サイズである。粒子の10%はD10値よりも小さく、粒子の90%はD90よりも小さい。明らかでない場合、「平均」サイズはD50に等しい。例えば、AB160及びAR160は、160nmの平均サイズを有するナノ粒子をいう。
【0053】
「ナノ粒子」という用語は、小さな単位ナノ粒子の離散多量体も包含し得る。従って、160nmのナノ粒子について、多量体は、約320nm、約480nm、640nm、800nm、960nm、1120nmなどであろう。
【0054】
本明細書で用いる「担体タンパク質」という用語は、結合剤及び/又は治療剤を運搬する機能を担うタンパク質をいう。本開示の結合剤は、担体タンパク質に可逆的に結合できる。担体タンパク質の具体例については、以下でさらに詳しく説明する。
【0055】
本明細書で用いる「コア」という用語は、ナノ粒子の中心部分又は内側部分をいい、担体タンパク質、担体タンパク質と治療剤又は他の薬剤若しくは薬剤の組合せからなることができる。幾つかの実施形態では、結合剤のアルブミン結合性モチーフがコアと会合し得る。
【0056】
本明細書で用いる「治療剤」という用語は、治療に有用な薬物、例えば、病状、生理学的状態、症状又は病因の治療、寛解又は軽減のための薬物或いはそれらの評価又は診断のための薬物を意味する。治療剤は、化学療法薬とすることができ、例えば有糸分裂阻害薬、トポイソメラーゼ阻害薬、ステロイド、抗腫瘍抗生物質、代謝拮抗薬、アルキル化薬、酵素、プロテアソーム阻害薬又はこれらの組合せとし得る。
【0057】
本明細書で用いる「結合剤」、「に特異的な結合剤」又は「に特異的に結合する結合剤」という用語は、標的抗原に結合し、かつ無関係の化合物には有意に結合しない薬剤をいう。開示された方法で有効に使用できる結合剤の具体例としては、限定されるものではないが、レクチン、タンパク質、及びモノクローナル抗体(ヒト化モノクローナル抗体など)、キメラ抗体もしくはポリクローナル抗体又はそれらの抗原結合性断片のような抗体、並びにアプタマー、融合タンパク質、アルブミン結合性モチーフを有する又はアルブミン結合性モチーフに融合した及びアプタマーが挙げられる。一実施形態では、結合剤は外来性抗体である。外来性抗体は、哺乳動物(例えばヒト)においてその哺乳動物の免疫系によって天然には産生されない抗体である。
【0058】
本明細書で用いる「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子)をいう。この用語は、2本の免疫グロブリン重鎖と2本の免疫グロブリン軽鎖からなる抗体、並びに全長抗体及びその一部分を含む様々な形態も指し、例えば、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、シングルドメイン抗体(dAb)、diabody、多特異性抗体、二重特異性抗体、抗イディオタイプ抗体、二特異性抗体、これらの機能的に活性なエピトープ結合断片、二機能性ハイブリッド抗体(例えばLanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17, 105 (1987))及び単鎖(例えばHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85, 5879-5883 (1988)及びBird et al., Science 242, 423-426 (1988)、これらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)が挙げられる。(全般には、Hood et al., Immunology, Benjamin, N.Y., 2ND ed. (1984);Harlow and Lane, Antibodies. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988);Hunkapiller and Hood, Nature, 323, 15-16 (1986)を参照されたい。これらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。抗体はどのような種類(例えばIgG、IgA、IgM、IgE又はIgD)のものであってもよい。好ましくは、抗体はIgGである。抗体は、ヒト以外のもの(例えばマウス、ヤギその他の動物由来のもの)、完全にヒトのもの、ヒト化されたもの又はキメラであってもよい。1種以上の抗体は、本明細書に開示した抗体のバイオシミラーを包含する。本明細書で用いるバイオシミラーとは、開発企業によって販売されている基準製品と品質、安全性及び有効性が同等であるとみなされるバイオ医薬品をいう(米国公衆衛生サービス法(42U.S.C. 262(i))のSection 351(i))。
【0059】
「K」とも呼ばれる「解離定数」という用語は、特定の物質が個々の構成成分(例えばタンパク質担体、抗体及び治療剤)に分かれる程度を表す量をいう。
【0060】
本明細書で用いる「凍結乾燥」などの用語は、乾燥すべき材料(例えばナノ粒子)をまず凍結してから、真空環境中での昇華によって氷又は凍結溶媒を除去するプロセスをいう。保存時の凍結乾燥品の安定性を高めるため、予備凍結乾燥製剤に添加物を任意的に配合してもよい。幾つかの実施形態では、治療剤として使用する前に、凍結乾燥成分(担体タンパク質、パクリタキセル、及び任意的に抗体及び/又は治療剤)からナノ粒子を形成することができる。別の実施形態では、安定ナノ粒子の形成を促進するため担体タンパク質及びパクリタキセル、任意的に結合剤(例えば抗体)及び/又は治療剤を最初に組合せ、次いで凍結乾燥する。凍結乾燥試料はさらに追加の添加物を含んでもよい。
【0061】
「賦形剤(bulkingagent)」という用語は、凍結乾燥品の構造をもたらす薬剤を包含する。賦形剤に用いられる一般的な例としては、マンニトール、グリシン、ラクトース及びスクロースが挙げられる。薬学的に優れたケーキをもたらすことに加えて、賦形剤は、コラプス温度を変化させ、凍結融解保護をもたらし、長期保存中のタンパク質安定性を高めることに関して有用な品質も付与し得る。これらの賦形剤は等張化剤としても作用し得る。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の凍結乾燥組成物は賦形剤を含む。幾つかの実施形態では、本明細書に記載の凍結乾燥組成物は賦形剤を含まない。
【0062】
「緩衝剤」という用語は、凍結乾燥前に溶液のpHを許容範囲内に維持する薬剤を包含し、コハク酸塩(ナトリウム又はカリウム)、ヒスチジン、リン酸塩(ナトリウム又はカリウム)、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、ジエタノールアミン、クエン酸塩(ナトリウム)などを挙げることができる。本発明の緩衝液は約5.5~約6.5の範囲のpHを有し、好ましくは約6.0のpHを有する。pHをこの範囲に制御する緩衝剤の例としては、コハク酸塩(コハク酸ナトリウムなど)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩その他の有機酸緩衝剤が挙げられる。
【0063】
「凍結保護剤(cryoprotectant)」という用語は、一般に、凍結によるストレスに対する安定性を、おそらくはタンパク質表面から優先的に排除されることによって、タンパク質にもたらす薬剤を包含する。これらは、一次乾燥及び二次乾燥中並びに長期製品貯蔵中の保護ももたらし得る。具体例は、デキストラン及びポリエチレングリコールのようなポリマー;スクロース、グルコース、トレハロース、ラクトースのような糖類;ポリソルベートのような界面活性剤;並びにグリシン、アルギニン、セリンのようなアミノ酸である。
【0064】
「凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)」という用語は、乾燥又は「脱水」プロセス(一次及び二次乾燥サイクル)中に、おそらくは非晶質ガラス状マトリックスをもたらすこと並びに乾燥プロセス中に除去される水分子の代わりに水素結合を介してタンパク質と結合することによって、タンパク質に安定性をもたらす薬剤を包含する。これは、タンパク質の高次構造を維持し、凍結乾燥サイクル中のタンパク質の分解を最小限に抑え、長期製品の改善に役立つ。具体例としては、スクロース及びトレハロースのようなポリオール又は糖類が挙げられる。
【0065】
「医薬製剤」という用語は、活性成分を有効にすることができる形態の標品であって、製剤が投与される対象に対して毒性である追加成分を含まない標品をいう。
【0066】
「薬学的に許容される」添加物(ビヒクル、添加剤)は、用いられる有効成分の有効量を与えるために対象哺乳動物に適切に投与できるものである。
【0067】
「再構成時間」は、凍結乾燥製剤を溶液中で再水和するのに要する時間である。
【0068】
「安定」な製剤は、それに含まれるタンパク質が、保存中にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持するものである。例えば、タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野で利用でき、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10:29-90 (1993)に概説されている。安定性は、所定の温度で所定の期間測定することができる。
【0069】
本明細書で用いる「エピトープ」という用語は、結合剤(例えば抗体)によって認識される抗原の部分をいう。エピトープとしては、タンパク質(例えば抗体)又はリガンドとの特異的相互作用を可能にする短いアミノ酸配列又はペプチド(任意的にグリコシル化その他の修飾されたもの)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、エピトープは、結合剤の抗原結合部位が結合する分子の部分とし得る。
【0070】
「治療」という用語は、ヒト患者のような対象における病気又は疾患(例えば癌)の治療を包含し、(i)病気又は疾患の抑制、すなわち病気又は疾患の進行の停止、(ii)病気又は疾患の緩和、すなわち病気又は疾患の後退、(iii)病気又は疾患の増悪の遅延、及び/又は(iv)病気又は疾患の1以上の症状の抑制、緩和又は増悪遅延を包含する。幾つかの実施形態では、「治療」は癌細胞を死滅させることをいう。
【0071】
癌治療に関して「死滅させる」という用語は、その癌細胞又は癌細胞集団の少なくとも一部の死を直接又は間接的にもたらす任意の種類の操作を包含する。
【0072】
「アプタマー」という用語は、ポリペプチドのような標的分子に結合することができる核酸分子をいう。例えば、本発明のアプタマーは、例えばCD20、CD38、CD52、PD-1、PD-L1、PD-L2、Ly6E、HER2、HER3/EGFR DAF、ERBB-3受容体、CSF-1R、STEAP1、CD3、CEA、CD40、OX40、Ang2-VEGF及びVEGFに特異的に結合できる。ある結合特異性を有する抗体の作製及びアプタマーの治療的使用は当技術分野で十分に確立されている。例えば、米国特許第5475096号、同第5270163号、同第5582981号、同第5840867号、同第6011020号、同第6051698号、同第6147204号、同第6180348号及び同第6699843号、並びに加齢黄斑変性の治療に関するMacugen(登録商標)(Eyetech社(米国ニューヨーク))の治療効果を参照されたい。
【0073】
本明細書で用いる「オリゴマー」又は「オリゴマー状」又は「オリゴマー化」という用語は、2以上のモノマーからなるオリゴマーをいう。
【0074】
融合タンパク質は、所望の構造-機能特性及び顕著な治療可能性をもつ分子を生成するためタンパク質又はその断片(例えば抗体の結晶化できる断片(Fc)ドメイン)を別の生物活性剤(例えばタンパク質ドメイン、ペプチド又は核酸もしくはペプチドアプタマー)と結合させた遺伝子組換えポリペプチドである。ガンマ免疫グロブリン(IgG)アイソタイプは、エフェクター機能の漸増及び血漿半減期の増加のような有益な特色のために、Fc融合タンパク質を生成するための基礎として多用される。融合相手として使用できるアプタマー(ペプチド及び核酸の両方)の範囲を考慮すると、融合タンパク質は、数多くの生物学的及び薬学的用途を有する。
【0075】
「非毒性ナノ粒子」(NTP)又は「NTP複合体」という用語は、担体タンパク質(例えばアルブミン)とパクリタキセルよりも毒性が低いパクリタキセル誘導体とを含むナノ粒子をいう。任意的に、NTP又はNTP複合体は、結合剤(例えば抗体)及び/又は治療剤(例えば化学療法薬)を含む。
【0076】
「パクリタキセルよりも毒性が低い」という記載は、パクリタキセルと比較して、癌細胞及び正常細胞を含む細胞に対して低下した毒性(例えば細胞の死滅の低下)を示すパクリタキセル誘導体をいう。例えば、パクリタキセルのメーヤワイン生成物(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)は大幅に低下した毒性を有するが、これはおそらくはパクリタキセルのC-4,C-5オキセタン環の切断によるものと思われる。
【0077】
「低毒性ナノ粒子」(RTP)又は「RTP複合体」という用語は、担体タンパク質(例えばアルブミン)と、アブラキサン(登録商標)(約9:1のアルブミン:パクリタキセル比)よりも少ない量のパクリタキセルとを含むナノ粒子をいう。任意的に、RTP又はRTP複合体は、結合剤(例えば抗体)及び/又は治療剤(例えば化学療法薬)を含む。
【0078】
さらに、本明細書で用いる幾つかの用語については、以下でさらに具体的に定義される。
【0079】
概要
懸濁注射剤用アブラキサン(登録商標)(懸濁注射剤用パクリタキセル・タンパク質結合粒子)は、平均粒子サイズ約130nmのアルブミン結合型パクリタキセルである。パクリタキセルは、粒子内に非結晶性無定形状態で存在し得る。アブラキサン(登録商標)は、例えば、点滴静注前に20mLの0.9%塩化ナトリウム注射液(米国薬局方)で再構成するための凍結乾燥粉末として供給できる。使い捨てバイアルには、100mgのパクリタキセルと約900mgのヒトアルブミンが含まれる。再構成された懸濁液1mLは5mgのパクリタキセルを含有する。
【0080】
アブラキサン(登録商標)ナノ粒子は、安定化されたアルブミン結合パクリタキセルである。パクリタキセルとアルブミンとの会合は、例えば疎水性相互作用によるものでもよい。幾つかの例では、ナノ粒子は130nmの平均サイズで安定である。例えばドセタキセル、ラパマイシンのような他の疎水性薬物も、同様に、アルブミンに結合することによって安定化ナノ粒子を形成できることが知られている。
【0081】
従来のADCを有効にするには、リンカーが体循環中は解離しないように十分に安定であるが腫瘍部位で十分に薬物放出できることが重要である。Alley, S.C., et al. (2008) Bioconjug Chem 19:759-765。これが、有効な薬物コンジュゲートを開発する際の大きなネックとなっていることが判明している(Julien, D.C., et al. (2011) MAbs 3:467-478; Alley, S.C., et al. (2008) Bioconjug Chem 19:759-765)。そのため、ナノ免疫複合体の魅力は生化学的リンカーを必要としないことである。
【0082】
現行のADCのもう一つの短所は、腫瘍への高い薬物浸透が、ヒト腫瘍において実質的に証明されていないことである。マウスモデルにおける初期のADC試験は、抗体による腫瘍ターゲティングによって腫瘍内での有効成分の濃度が高まることを示唆していたが(Deguchi, T. et al. (1986) Cancer Res 46: 3751-3755)、この結果はヒトの疾患の治療とは相関していない。ヒトの腫瘍は、マウスの腫瘍よりも透過性がはるかに不均一であるからである。Jain, R.K. et al. (2010) Nat Rev Clin Oncol 7:653-664。また、ナノ粒子のサイズも血管系から腫瘍への血管外漏出に重要である。ヒト結腸腺癌異種移植モデルを用いたマウス研究では、血管孔は400nm以下のリポソームに対して透過性であった。Yuan, F., et al. (1995) Cancer Res 55: 3752-3756。腫瘍孔径及び透過性に関する別の研究は、両特性が腫瘍の位置及び増殖状態に依存し、退行性腫瘍及び頭蓋腫瘍は200nm未満の粒子に対して透過性であることを実証している。Hobbs, S.K., et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:4607-4612。本明細書に記載のナノ-免疫複合体は、インタクトな状態で200nm未満である大きな複合体が体循環中に、腫瘍組織を容易に透過できる小さな機能単位へと部分的に解離されることによって、この問題を克服する。さらに、コンジュゲートが腫瘍部位に到達すると、さらに小さな毒性ペイロードを放出することができるが、腫瘍細胞によって取り込まれる必要があるのはこの毒性部分のみであり、コンジュゲート全体ではない。
【0083】
治療剤(アブラキサン(登録商標))を含有する、抗体(すなわちアバスチン(登録商標))でコートされたアルブミンナノ粒子の出現は、インビボで所定部位への2種以上の治療剤の方向性送達の新たなパラダイムをもたらした。国際公開第2012/154861号及び同第2014/055415号を参照されたい(それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。
【0084】
ただし、ある種の癌はアブラキサン(登録商標)-抗体複合体中のパクリタキセルによっては治療されないこと、及び/又はある種の癌には他の治療剤(例えば抗癌化学療法薬)の方がより効果的であることも想定される。本明細書では、担体タンパク質(例えばアルブミン)と低減した量(例えばアブラキサン(登録商標)と比較して)のパクリタキセルとを含む低毒性ナノ粒子(RTP)、又は担体タンパク質(例えばアルブミン)とパクリタキセルよりも毒性が低いパクリタキセル誘導体とを含む非毒性ナノ粒子(NTP)について開示する。ナノ粒子は、治療剤及び/又は結合剤(例えば抗体)をさらに含んでいてもよい。
【0085】
ナノ粒子及びナノ粒子組成物
本開示から当業者には明らかであろうが、本開示は、担体タンパク質(例えばアルブミン)とパクリタキセル誘導体(例えばパクリタキセルよりも毒性が低い誘導体)又は低減した量(治療量及び/又はアブラキサン(登録商標)の量と比較して)のパクリタキセルとを含むナノ粒子及びナノ粒子組成物に関する。幾つかの実施形態では、ナノ粒子は結合剤及び/又は治療剤も含む。幾つかの実施形態では、ナノ粒子又はナノ粒子組成物は凍結乾燥されている。
【0086】
本発明は、さらに、担体タンパク質、アブラキサン(登録商標)における存在量よりも少ない量のパクリタキセル又はパクリタキセルよりも(例えば細胞に対して)毒性が低いパクリタキセル誘導体、及び任意的に結合剤及び/又は治療剤を含むナノ粒子の形成に部分的に基づく。理論に縛られるものではないが、かかるナノ粒子は、患者への毒性を最小限に抑制しながら腫瘍に対する標的療法をもたらし、かつ従前パクリタキセルに感受性ではない腫瘍及び/又は別の治療剤の方によく反応する腫瘍の治療に使用できると考えられる。
【0087】
幾つかの実施形態では、担体タンパク質は、アルブミン、ゼラチン、エラスチン(トポエラスチンを含む)又はエラスチン由来ポリペプチド(例えばα-エラスチン及びエラスチン様ポリペプチド(ELP))、グリアジン、レグミン、ゼイン、大豆タンパク質(例えば分離大豆タンパク質(SPI))、乳タンパク質(例えばβ-ラクトグロブリン(BLG)及びカゼイン)又は乳清タンパク質(例えば乳清タンパク質濃縮物(WPC)及び乳清タンパク質分離物(WPI))。好ましい実施形態では、担体タンパク質はアルブミンである。好ましい実施形態では、アルブミンは卵白(オボアルブミン)、ウシ血清アルブミン(BSA)などである。さらに一段と好ましい態様では、担体タンパク質はヒト血清アルブミン(HSA)である。幾つかの実施形態では、担体タンパク質は組換えタンパク質(例えば組換えHSA)である。幾つかの実施形態では、担体タンパク質は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された一般に安全と認められる(GRAS;generally regarded assafe)添加物である。
【0088】
幾つかの実施形態では、結合剤は、トラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、アベルマブ又はデュルバルマブ、ピディリズマブ、BMS
936559及びトラスツズマブから選択される抗体である。幾つかの実施形態では、抗体は表1に記載した抗体から選択される。幾つかの実施形態では、抗体はナノ粒子の表面の全体又は一部に存在する実質的に単層の抗体である。
【0089】
表1は、抗体の非限定的なリストを示す。
【0090】

【表1】


【0091】
幾つかの実施形態では、1種以上の治療剤は、アビラテロン、ベンダムスチン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カバジタキセル、シスプラチン、クロラムブシル、ダサチニブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、ゲフィチニブ、イダルビシン、イマチニブ、ヒドロキシウレア、ラパチニブ、リュープロレリン、メルファラン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ネダプラチン、ニロチニブ、オキサリプラチン、パゾパニブ、ペメトレキセド、ピコプラチン、ロミデプシン、サトラプラチン、ソラフェニブ、ベムラフェニブ、スニチニブ、テニポシド、トリプラチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン及びシクロホスファミドから選択される。
【0092】
表2は、癌治療剤の非限定的なリストのリストを表す。一実施形態では、治療剤は表2に記載された薬剤から選択される。
【0093】

【表2】












【0094】
なお、治療剤は、ナノ粒子の内側、外側表面又はその両方に位置し得る。ナノ粒子は、2種以上の治療剤、例えば、2種類の治療剤、3種類の治療剤、4種類の治療剤、5種類の治療剤又はそれ以上を含んでいてもよい。さらに、ナノ粒子は、ナノ粒子の内側及び外側に同一又は異なる治療剤を含んでいてもよい。
【0095】
一態様では、ナノ粒子は、ナノ粒子の表面に非共有結合した100個以上の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子は、ナノ粒子の表面に非共有結合した少なくとも200個、300個、400個、500個、600個、700個又は800個の結合剤を含む。
【0096】
一態様では、ナノ粒子は、ナノ粒子の表面に非共有した約100~約1000個の結合剤を含む。一態様では、ナノ粒子は、ナノ粒子の表面に非共有した約200~約1000個、約300~約1000個、約400~約1000個、約500~約1000個、約600~約1000個、約200~約800個、約300~約800個又は約400~約800個の結合剤を含む。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0097】
一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約1μm未満である。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約50nm~約1μmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約900nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約800nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約700nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約600nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約500nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約400nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約300nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約60nm~約200nmである。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約80nmから約900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm又は200nmの間である。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約100nmから約900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm又は200nmの間である。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約120nmから約900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm又は200nmの間である。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0098】
一態様では、ナノ粒子組成物は静脈内注射用に製剤化される。虚血性イベントを避けるために、静脈内注射用に製剤化されたナノ粒子組成物は、平均粒子サイズ約1μm未満のナノ粒子を含むべきである。
【0099】
一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約1μm超である。一態様では、ナノ粒子組成物中の平均粒子サイズは約1μm~約5μm、約1μm~約4μm、約1μm~約3μm、約1μm~約2μm又は約1μm~約1.5μmである。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0100】
一態様では、ナノ粒子組成物は、腫瘍への直接注射用に製剤化される。直接注射は、腫瘍部位又はその近傍への注射、腫瘍への灌流などを包含する。腫瘍への直接注射用に製剤化する場合、ナノ粒子は任意の平均粒子サイズを含んでいてもよい。理論に縛られるものではないが、大きな粒子(例えば500nm超、1μm超など)は、腫瘍内に固定化される可能性が高く、そのため有益な効果をもたらすと考えられる。大きな粒子は腫瘍又は特定の臓器に蓄積することがある。例えば、「THERASPHERE(登録商標)」(肝癌に臨床使用されている)と呼ばれる、肝臓の腫瘍への栄養肝動脈に注入される20~60ミクロンのガラス粒子を参照されたい。従って、静脈内投与には、通例1μm未満の粒子が使用される。1μm超の粒子は、通例、腫瘍内(「直接注射」)に直接又は腫瘍部位に栄養動脈に投与される。
【0101】
一態様では、組成物中のナノ粒子の約0.01%未満が、200nm超、300nm超、400nm超、500nm超、600nm超、700nm超又は800nm超の粒子サイズを有する。一態様では、組成物中のナノ粒子の約0.001%未満が、200nm超、300nm超、400nm超、500nm超、600nm超、700nm超又は800nm超の粒子サイズを有する。好ましい実施形態では、組成物中のナノ粒子の約0.01%未満が800nm超の粒子サイズを有する。さらに好ましい実施形態では、組成物中の粒子の約0.001%未満が800nm超の粒子サイズを有する。
【0102】
好ましい態様では、本明細書に記載されたサイズ及びサイズ範囲は、再構成した凍結乾燥ナノ粒子組成物の粒子サイズに関する。すなわち、凍結乾燥ナノ粒子を水溶液(例えば水、その他の薬学的に許容される添加物、緩衝液など)に再懸濁した後の粒子サイズ又は平均粒子サイズは本明細書に記載された範囲内にある。
【0103】
一態様では、ナノ粒子の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%又は99.9%は、再構成組成物中で単一ナノ粒子として存在する。すなわち、ナノ粒子の約50%未満、40%未満、30%未満等々しか二量化又は多量体化(オリゴマー化)されない。
【0104】
幾つかの実施形態では、組成物中のナノ粒子の二量化の割合は、個数基準で、20%未満、10%未満、好ましくは5%未満である。
【0105】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子のサイズは、パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体に対する担体タンパク質の量(例えば比率)及び/又は結合剤に対する担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子の量(例えば比率)を調整することによって制御できる。ナノ粒子のサイズ及びサイズ分布も重要である。本発明のナノ粒子は、それらのサイズに応じて異なる挙動を呈することがある。大きなサイズでは、凝集塊が血管を塞ぎかねない。したがって、ナノ粒子の凝集は、組成物の性能及び安全性に影響を与えかねない。一方、大きな粒子は、特定の条件下(例えば静脈内投与しない場合)で高い治療効果を示すことがある。
【0106】
ナノ粒子は治療に用いられるので、さらに課題が課される。
【0107】
ナノ粒子中の成分の再配列は成分間の共有結合によって軽減し得るが、かかる共有結合は、ナノ粒子を癌治療に使用する場合に課題を生じる。結合剤、担体タンパク質及び治療剤は、典型的には、腫瘍内の異なる位置で異なる機構によって作用する。非共有結合によって、ナノ粒子の各成分が腫瘍で解離することができる。したがって、共有結合は凍結乾燥には有利となり得るが、治療用途には不利となりかねない。
【0108】
ナノ粒子のサイズ及びサイズ分布も重要である。ナノ粒子は、それらのサイズに応じて異なる挙動を呈することがある。大きなサイズでは、ナノ粒子又は粒子の凝集塊が血管を塞ぎくおそれがあり、そのいずれも、組成物の性能及び安全性に影響を与えかねない。
【0109】
パクリタキセル誘導体
本発明で用いられるパクリタキセル誘導体は、好ましくはパクリタキセルよりも毒性が低い。すなわち、パクリタキセル誘導体は、パクリタキセルと比べて、細胞に対する毒性が低い(例えば癌及び/又は正常細胞を死滅させず、細胞増殖も阻害しない)。パクリタキセル誘導体としては、パクリタキセルの任意の誘導体又は前駆体が挙げられる。例として、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール(パクリタキセルのメーヤワイン生成物)、又はバッカチンIII((2β,5α,7α,10α,13β)-4,10-ジアセトキシ-1,7,13-トリヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシタキサ-11-エン-2-イルベンゾエート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
例えば、C-13単純化パクリタキセル誘導体及び立体化学の異なる誘導体のほとんどが、パクリタキセルに比べて低い活性を示すことが判明している。2’-ヒドロキシル基及び3’-ベンズアミド基は生物活性に必須ではないが、微小管との強い結合及び細胞毒性には重要である。2’-ヒドロキシル基でのエーテル形成、例えばアルキルエーテル(例えばメチルエーテル)及びアルキルシリルエーテル(例えばtert-ブチルジメチルシリルエーテル)形成なども細胞毒性を低下させる。2’-ヒドロキシル基(例えば2’-アセチルタキソール)のアシル化も活性の損失をもたらす。2’-ヒドロキシル基のハロゲン(例えばフッ素)による置換も細胞毒性を大きく低下させることが判明している。6α-ヒドロキシ-7-エピ-パクリタキセルの四酢酸鉛酸化は、C-ノル-パクリタキセル誘導体及びC-セコ-パクリタキセル誘導体をもたらす。6α-ヒドロキシ-7-エピ-パクリタキセル誘導体の過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム(TPAP)酸化は、6-ホルミル-C-ノル-パクリタキセル誘導体をもたらす。6α-O-トリフルオロメタンスルホニル-7-エピ-パクリタキセル誘導体とDMAPとの反応によって、20-O-アセチル-4-デアセチル-5,6-デヒドロ-6-ホルミル-C-ノル-パクリタキセル誘導体が得られる。C-ノル-パクリタキセル類似体はパクリタキセルよりも活性が低い。したがって、パクリタキセル誘導体は、これらの部位の1以上の任意の部位における修飾を含んでいてもよいし、或いはこれらの方法の1以上によって生成されるものを含んでいてもよい。例えば、Liang et al. Tetrahedron, 53(10):3441-3456 (1997)、米国特許第5756301号及び同第5981777号を参照されたい(それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。
【0111】
ナノ粒子及びナノ粒子複合体の製造方法
幾つかの態様では、本発明は、本明細書に記載のナノ粒子組成物の製造方法に関する。幾つかの実施形態では、本開示は、ナノ粒子組成物の製造方法であって、担体タンパク質とパクリタキセル又はパクリタキセル誘導体とを、所望のナノ粒子が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法に関する。幾つかの実施形態では、本方法はさらに、ナノ粒子を、ナノ粒子複合体を形成する条件下で、結合剤及び/又は治療剤と接触させることに関する。
【0112】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子は、担体タンパク質とパクリタキセル又はパクリタキセル誘導体とを組合せ、高圧下でホモジナイズして安定なナノ粒子を形成することによって製造される。アルブミンとタキサン(例えばパクリタキセル)をホモジナイズするための非限定的な方法は、例えば、実施例1、並びに米国特許第5916596号、同第6506405号及び同第6537579号に記載されており、これらの各開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0113】
一実施形態では、結合剤及び/又は治療剤を、例えば米国特許第9757453号及び同第9446148号に記載されているように、ナノ粒子と複合体形成させる。
【0114】
幾つかの態様では、本明細書では、ナノ粒子複合体の製造方法であって、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子を、結合剤及び/又は治療剤と、pH5.0~7.5及び約5℃~約60℃、約23℃~約60℃又は約55℃~約60℃の温度の溶液中で、所望のナノ粒子が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法が提供される。一実施形態では、ナノ粒子は55~60℃及びpH7.0で作られる。別の態様では、本明細書では、ナノ粒子複合体の製造方法であって、(a)担体タンパク質とパクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)をホモジナイズしてナノ粒子コアを形成するステップと、(b)該コアを、約5℃~約60℃、約23℃~約60℃又は約55℃~約60℃の温度でpH約5.0~約7.5の溶液中で、抗体と、所望のナノ粒子複合体が形成する条件及び成分比で接触させることを含む方法が提供される。
【0115】
本発明の別の実施形態は、タンパク質担体と治療剤との複合体形成を促進することによってナノ粒子組成物を製造する方法であって、当該方法は、担体タンパク質、本明細書に記載された量のパクリタキセル、及び治療剤を、pH5.0以上及び温度約5℃~約60℃の溶液中で接触させて、ナノ粒子を生成させることを含む方法を包含する。さらに別の実施形態では、本方法はタンパク質担体複合体を結合剤と接触させることをさらに含む。
【0116】
所望のナノ粒子の形成をもたらすため、成分(例えば担体タンパク質、抗体、パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体、治療剤、これらの組合せ)の量を制御する。成分量を希釈しすぎた組成物は、本明細書に記載されるナノ粒子を形成しないであろう。過度に濃縮された溶液は、構造化されていない凝集物をもたらすであろう。
【0117】
好ましい態様では、担体タンパク質と結合剤との重量比は10:4である。幾つかの実施形態では、担体タンパク質の量は約1mg/mL~約100mg/mLである。幾つかの実施形態では、結合剤の量は約1mg/mL~約30mg/mLである。例えば、幾つかの実施形態では、担体タンパク質:結合剤:溶液の比は、1mLの溶液(例えば生理食塩水)中、約9mgの担体タンパク質(例えばアルブミン)と4mgの結合剤(例えばBEV)である。
【0118】
一実施形態では、ナノ粒子の形成に使用される溶液その他の液体媒体の量が特に重要である。幾つかの実施形態では、溶液(例えば滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水)の使用量は約0.5mLの溶液~約20mLの溶液である。
【0119】
一態様では、ナノ粒子組成物のナノ粒子複合体は、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子及び1種以上の治療剤を結合剤と、約10:1~約10:30の担体タンパク質粒子又は担体タンパク質-治療剤粒子/結合剤比で接触させることによって形成される。一実施形態では、上記比は約10:2~約10:25である。一実施形態では、上記比は約10:2~約1:1である。好ましい実施形態では、上記比は約10:2~約10:6である。特に好ましい実施形態では、上記比は約10:4である。想定される比は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0120】
一態様では、ナノ粒子組成物のナノ粒子は、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子と1種以上の治療剤を接触させることによって形成される。一実施形態では、上記比は約10:2~約10:25である。一実施形態では、上記比は約10:2~約1:1である。好ましい実施形態では、上記比は約10:2~約10:6である。特に好ましい実施形態では、上記比は約10:4である。想定される比は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0121】
一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約4~約8の溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約4の溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約5の溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約6の溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約7の溶液中で結合剤と接触させる。一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約8の溶液中で結合剤と接触させる。好ましい実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子は、pH約5~約7の溶液中で結合剤と接触させる。
【0122】
一実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子を、約5℃~約60℃の温度或いは上下限を含めて、この範囲内の任意の範囲、部分範囲又は値の温度で、結合剤と共にインキュベートする。好ましい実施形態では、担体タンパク質-パクリタキセル(又はパクリタキセル誘導体)ナノ粒子を、約23℃~約60℃の温度で結合剤と共にインキュベートする。
【0123】
理論に縛られるものではないが、ナノ粒子複合体の安定性は、少なくとも部分的には、ナノ粒子が形成される温度及び/又はpH、並びに溶液中の各成分(すなわち、担体タンパク質、結合剤、パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体、及び治療剤)の濃度に依存すると考えられる。一実施形態では、ナノ粒子のKは約1×10-11M~約2×10-5Mである。一実施形態では、ナノ粒子のKは約1×10-11M~約2×10-8Mである。
一実施形態では、ナノ粒子のKは約1×10-11M~約7×10-9Mである。好ましい実施形態では、ナノ粒子のKは約1×10-11M~3×10-8Mである。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0124】
低毒性ナノ粒子の製造
担体タンパク質とパクリタキセルとの相対重量比は約9:1超である。一実施形態では、担体タンパク質とパクリタキセルとの相対重量比は、約10:1超、約11:1超、約12:1超、約13:1超、約14:1超、約15:1超、約16:1超、約17:1超、約18:1超、約19:1超、約20:1超、約21:1超、約22:1超、約23:1超、約24:1超、約25:1超、約26:1超、約27:1超、約28:1超、約29:1超又は約30:1超である。一実施形態では、上記重量比は10:1~100:1、10:1~50:1、10:1~40:1、10:1~30:1、10:1~20:1又は10:1~15:1である。一実施形態では、上記重量比は、15:1~50:1、15:1~50:1、15:1~40:1、15:1~30:1又は15:1~20:1である。重量比は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値又は部分範囲とし得る。
【0125】
一実施形態では、パクリタキセルの量は、ナノ粒子に安定性をもたらすことができる最小量に等しい。一実施形態では、パクリタキセルの量は、タンパク質担体に対する1種以上の治療剤の親和性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、パクリタキセルの量は、1種以上の治療剤とタンパク質担体との複合体形成を促進することができる最小量以上である。例えば、1mLの溶液中で、約1mg未満のタキソールを、9mgの担体タンパク質(10mgの担体タンパク質治療剤)及び4mgの結合剤(例えば抗体、Fc融合分子又はアプタマー)に加えることができる。
【0126】
なお、典型的な静注用バッグを例えば約1リットルの溶液と共に使用する場合、1mLで使用する場合と比較して1000倍量の担体タンパク質/担体タンパク質-治療剤及び抗体を使用する必要がある。そのため、本発明のナノ粒子は、標準的な静注用バッグ内では形成することはできない。さらに、各成分を本発明の治療量で標準的な静注用バッグに加えても、それらの成分が自己集合してナノ粒子を形成することはない。
【0127】
一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は約5mg/mL未満である。一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、約4.54mg/mL未満、約4.16mg/mL未満、約3.57mg/mL未満、約3.33mg/mL未満、約3.12mg/mL未満、約2.94mg/mL未満、約2.78mg/mL未満、約2.63mg/mL未満、約2.5mg/mL未満、約2.38mg/mL未満、約2.27mg/mL未満、約2.17mg/mL未満、約2.08mg/mL未満、約2mg/mL未満、約1.92mg/mL未満、約1.85mg/mL未満、約1.78mg/mL未満、約1.72mg/mL未満又は約1.67mg/mL未満である。一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、ナノ粒子に安定性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、タンパク質担体に対する1種以上の治療剤の親和性をもたらすことができる最小量以上である。一実施形態では、ナノ粒子組成物中に存在するパクリタキセルの量は、1種以上の治療剤とタンパク質担体との複合体形成を促進することができる最小量以上である。
【0128】
一実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子組成物は結合剤を含まない。
【0129】
凍結乾燥
単一源からのタンパク質を含むタンパク質組成物は一般に凍結乾燥形態で貯蔵され、かなりの貯蔵寿命を呈するが、かかる凍結乾燥組成物は、疎水性-疎水性相互作用で統合した2種類の異なるタンパク質の自己集合ナノ粒子を含まない。さらに、結合剤の結合性部分の大部分がナノ粒子の表面に露出しているナノ粒子の構成は、普通は穏和と考えられる条件による移動又は再構成を受けやすくなる。例えば、凍結乾燥中、タンパク質表面のイオン電荷が脱水されて、下層の電荷が露出される。露出した電荷によって、2つのタンパク質間で電荷電荷相互作用が起こり、他のタンパク質に対する各タンパク質の結合親和性が変わる可能性がある。さらに、溶媒(例えば水)の除去に伴って、ナノ粒子の濃度は著しく増加する。このようなナノ粒子濃度の増加は、不可逆的なオリゴマー化を招きかねない。オリゴマー化は、モノマー形態と比較してオリゴマーの生物学的特性を低下させるタンパク質の公知の特性であり、粒子のサイズが増大して1ミクロンを超えることもある。
【0130】
一方、臨床及び/又は商業的使用には安定な形態のナノ粒子組成物が必要とされ、3ヶ月以上の貯蔵寿命が必要とされ、6ヶ月又は9ヶ月を超える貯蔵寿命が好ましい。かかる安定な組成物は、静脈内注射に容易に利用できるものでなければならず、ナノ粒子をインビボで所定の部位に送るために静脈内注射の際に自己集合形態を保持していなければならず、血流中に送達されたときの虚血性イベントを避けるために1μm未満の最大サイズを有していなければならず、最後に注射に使用される水性組成物と適合性でなければならない。
【0131】
凍結乾燥は、組成物から水を除去する。このプロセスでは、乾燥すべき材料をまず凍結させ、次いで氷又は凍結させた溶媒を真空環境中での昇華によって除去する。凍結乾燥プロセス中の安定性の向上及び/又は凍結乾燥品の保存中の安定性の改善のために、予備凍結乾燥製剤に添加物を配合してもよい。Pikal, M. Biopharm. 3(9)26-30 (1990)及びArakawa et al., Pharm. Res. 8(3):285-291 (1991))。
【0132】
タンパク質は凍結乾燥し得るが、凍結乾燥及び再構成のプロセスはタンパク質の特性に影響しかねない。タンパク質は伝統的な有機及び無機薬物よりも大きく複雑である(すなわち複雑な三次元構造に加えて多数の官能基を有する)ので、このようなタンパク質の製剤は特殊な問題を提起する。タンパク質を生物学的活性な状態に保つためには、製剤は、タンパク質のアミノ酸の少なくともコア配列の立体配座の完全性を損なわないように保たなければならないと同時に、タンパク質の複数の官能基を分解から保護しなければならない。タンパク質の分解経路には、化学的不安定性(すなわち、新たな化学成分を生じる結合形成又は開裂によるタンパク質の修飾を伴う任意のプロセス)又は物理的不安定性(すなわち、タンパク質の高次構造の変化)が関与する可能性がある。化学的不安定性は、脱アミド、ラセミ化、加水分解、酸化、β脱離又はジスルフィド交換に起因し得る。物理的不安定性は、例えば変性、凝集、沈殿又は吸着に起因し得る。3つの最も一般的なタンパク質分解経路はタンパク質凝集、脱アミド及び酸化である。Cleland, et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug
Carrier Systems 10(4): 307-377 (1993)。
【0133】
最後に、凍結保護剤及び凍結乾燥プロセスを補助する薬剤は治療に使用する際に安全で忍容性でなければならない。
【0134】
本発明の凍結乾燥組成物は、安定剤、緩衝剤などの存在下又は非存在下での、標準的な凍結乾燥技術によって調製される。驚くべきことに、これらの条件はナノ粒子の比較的脆弱な構造を変化させない。さらに、これらのナノ粒子は凍結乾燥時にそれらのサイズ分布を保持し、さらに重要なことに、あたかも新たに調製したかのように実質的に同じ形態及び比率でインビボ投与(例えば静脈内送達)のために再構成し得る。
【0135】
幾つかの実施形態では、ナノ粒子(例えばRTP又はNTP)は凍結乾燥される。幾つかの実施形態では、ナノ粒子複合体(例えば治療剤及び/又は結合剤を伴うRTP又はNTP)は凍結乾燥される。幾つかの実施形態では、水溶液で再構成すると、ある量の結合剤がナノ粒子の表面に配置される。幾つかの実施形態では、ナノ粒子複合体は抗原に結合することができる。幾つかの実施形態では、ナノ粒子複合体と会合した抗体は、抗原に結合する能力を保持する。
【0136】
製剤
一態様では、ナノ粒子組成物は全身送達、例えば静脈内投与用に製剤化される。
【0137】
一態様では、ナノ粒子組成物は、腫瘍への直接注射用に製剤化される。直接注射は、腫瘍部位又はその近傍への注射、腫瘍への灌流などを包含する。ナノ粒子組成物は全身投与されないので、ナノ粒子組成物は腫瘍への直接注射用に製剤化され、任意の平均粒子サイズを含んでいてもよい。理論に縛られるものではないが、大きな粒子(例えば500nm超、1μm超など)は、腫瘍内に固定化される可能性が高く、そのため有益な効果が高まると考えられる。
【0138】
別の態様では、本明細書では、本明細書で提供される化合物と1種以上の薬学的に許容される添加物とを含む組成物が提供される。
【0139】
一般に、本明細書で提供される化合物は、許容される投与様式のいずれかによって患者に投与するために製剤化することができる。様々な製剤及び薬物送達システムが当技術分野で利用できる。例えば、Gennaro, A.R., ed. (1995) Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co.参照。
【0140】
一般に、本明細書で提供される化合物は、医薬組成物として、以下の経路:経口、全身(例えば経皮、鼻腔内又は坐剤)又は非経口(例えば筋肉内、静脈内又は皮下)投与のいずれかによって投与される。
【0141】
組成物は、一般に、本発明の化合物と1種以上の薬学的に許容される添加物との組合せからなる。許容される添加物は非毒性であり、投与を助長し、本発明に係る化合物の治療効果に悪影響を及ぼさない。かかる添加物は、固体、液体、半固体、或いはエアロゾル組成物の場合には当業者が一般に入手し得る気体添加物とし得る。
【0142】
固体医薬添加物としては、デンプン、セルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルクなどが挙げられる。液体及び半固体添加物は、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、並びに石油、動物、植物又は合成起源のものを始めとする各種の油、例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などから選択し得る。液体担体、特に注射液用の液体担体としては、水、生理食塩水、水性デキストロース及びグリコール類が挙げられる。他の適切な医薬添加物及びそれらの製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, edited by E. W. Martin (Mack Publishing Company, 18th ed., 1990)に記載されている。
【0143】
本発明の組成物は、所望に応じて、活性成分を含有する1以上の単位用量剤形を含むパック又はディスペンサー装置で提供し得る。かかるパック又は装置は、例えば、ブリスターパックのように金属若しくはプラスチック箔、又はバイアルのようにガラス及びゴム栓を備えていてもよい。パック又はディスペンサー装置には、投与のための説明書を添付してもよい。また、本発明の化合物を適合性の医薬担体中に製剤化してなる組成物を調製し、適切な容器に入れ、所定の状態の治療に関するラベルを貼付してもよい。
【0144】
治療方法
本明細書に記載のナノ粒子組成物は、哺乳動物の癌細胞及び/又は腫瘍の治療に有用である。好ましい実施形態では、哺乳動物はヒト(すなわちヒトの患者)である。好ましくは、凍結乾燥ナノ粒子組成物は投与前に再構成される(水性添加物中に懸濁される)。
【0145】
一態様では、癌細胞を治療するための方法であって、癌細胞を治療するため、該細胞を本明細書に記載のナノ粒子組成物の有効量と接触させることを含む方法が提供される。癌細胞の治療としては、増殖の減少、細胞の死滅、細胞の転移の予防などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
一態様では、腫瘍の治療を必要とする患者の腫瘍を治療するための方法であって、腫瘍を治療するため、本明細書に記載の治療有効量のナノ粒子組成物を患者に投与することを含む方法が提供される。一実施形態では、ナノ粒子が、抗原結合性ドメインを含む結合剤を含んでいる場合、本方法は、上記抗原を発現する癌を有する患者を選択することを含む。一実施形態では、腫瘍の大きさが縮小される。一実施形態では、腫瘍の大きさは、治療中及び/又は治療後の少なくとも一定期間増大(進行)しない。
【0147】
一実施形態では、ナノ粒子組成物は静脈内投与される。一実施形態では、ナノ粒子組成物は腫瘍に直接投与される。一実施形態では、ナノ粒子組成物は腫瘍への直接注射又は灌流によって投与される。
【0148】
一実施形態では、本方法は以下のステップ:
a)ナノ粒子組成物を3週間にわたって週1回投与するステップ、
b)ナノ粒子組成物の投与を1週間中止するステップ、及び
c)腫瘍を治療するため必要に応じてステップa)及びb)を繰り返すステップ
を含む。
【0149】
一実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子の治療有効量は、約1mg/m~約200mg/mの抗体、約2mg/m~約150mg/m、約5mg/m~約100mg/m、約10mg/m~約85mg/m、約15mg/m~約75mg/m、約20mg/m~約65mg/m、約25mg/m~約55mg/m、約30mg/m~約45mg/m又は約35mg/m~約40mg/mの抗体を含む。別の実施形態では、治療有効量は約20mg/m~約90mg/mの抗体を含む。一実施形態では、治療有効量は30mg/m~約70mg/mの抗体を含む。
【0150】
一実施形態では、本明細書に記載のナノ粒子の治療有効量は、約50mg/m~約200mg/mの担体タンパク質又は担体タンパク質及び治療剤を含む。一実施形態では、本明細書に記載の治療有効量のナノ粒子組成物は結合剤を含まない。一実施形態では、本明細書に記載の治療有効量のナノ粒子組成物は、治療有効量未満のパクリタキセルを含む。好ましい実施形態では、治療有効量は約75mg/m未満のパクリタキセルを含む。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0151】
一実施形態では、治療有効量は、約20mg/m~約90mg/mの結合剤(例えば抗体、アプタマー又は融合タンパク質)を含む。好ましい実施形態では、治療有効量は30mg/m~約70mg/mの結合剤(例えば抗体、アプタマー又は融合タンパク質)を含む。想定される値は、上下限を含め、これらの範囲内の任意の値、部分範囲又は範囲を包含する。
【0152】
本明細書に記載の組成物及び方法によって治療することができる癌又は腫瘍としては、上述の表に示す癌、並びに胆道癌;膠芽腫及び髄芽腫を含む脳腫瘍;乳癌;子宮頸癌;絨毛癌;大腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;急性リンパ性白血病及び骨髄性白血病を含む血液腫瘍;多発性骨髄腫;エイズ関連白血病及び成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン病及びパジェット病を含む上皮内腫瘍;肝癌(肝細胞癌);肺癌;ホジキン病及びリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮癌を含む口腔癌;上皮細胞、間質細胞、生殖細胞及び間葉細胞から発生するものを含む卵巣癌;膵癌;前立腺癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫及び骨肉腫を含む肉腫;黒色腫、カポジ肉腫、基底細胞癌及び扁平上皮癌を含む皮膚癌;胚性腫瘍(セミノーマ、非セミノーマ[奇形腫、絨毛癌])、間質性腫瘍及び胚細胞性腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌(甲状腺腺癌及び髄様癌を含む);並びに腺癌及びウィルムス腫瘍を含む腎臓癌が挙げられるが、これらに限定されない。重要な実施形態では、癌又は腫瘍として、乳癌、リンパ腫、多発性骨髄腫及び黒色腫が挙げられる。
【0153】
一般に、本発明の化合物は、同様の効用に役立つ薬剤で許容されている投与モードのいずれかによって治療有効量で投与される。本発明の化合物、すなわちナノ粒子の実際の量は、治療すべき疾患の重症度、対象の年齢及び相対的健康状態、使用される化合物の効力、投与の経路及び形態、並びに当業者に周知の他の要因などの多数の要因に依存する。
【0154】
かかる薬剤の有効量は、簡単な実験によって容易に決定することができ、最も効果的で簡便な投与経路及び最も適切な製剤についても同様である。様々な製剤及び薬物送達システムが当技術分野で利用できる。例えば、Gennaro, A.R., ed. (1995) Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co.参照。
【0155】
薬剤(例えば本発明の化合物)の有効量又は治療有効量又は投与量とは、対象において症状の改善又は生存期間の延長をもたらす薬剤又は化合物の量をいう。かかる分子の毒性及び治療効果は、細胞培養物又は実験動物における標準的な薬学的手順によって求めることができ、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%で治療効果のある用量)によって求めることができる。治療効果に対する毒性の用量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す薬剤が好ましい。
【0156】
有効量又は治療有効量は、研究者、獣医、医師その他の臨床医が求める組織、系、動物又はヒトの生物学的又は医学的反応を惹起する化合物又は医薬組成物の量である。投与量は、この範囲内において、用いられる剤形及び/又は利用される投与経路に応じて変動し得る。正確な製剤、投与経路、投与量及び投与間隔は、対象の状態の詳細に鑑みて、当技術分野で公知の方法に従って選択すべきである。
【0157】
投与量及び投与間隔は、所望の効果を達成するのに十分な活性部分の血漿レベル、すなわち最小有効濃度(MEC)をもたらすため個々に調整し得る。MECは化合物ごとに異なるが、例えばインビトロデータ及び動物実験などから推定できる。MECを達成するのに必要な投与量は、個体の特性及び投与経路に依存するであろう。局所投与又は選択的取込みの場合、薬物の有効局所濃度は血漿中濃度と関連しないことがある。
【0158】
関連する実施形態では、治療は、ナノ粒子の投与前にターゲティング用の結合剤を投与することを含む。一実施形態では、ターゲティング用結合剤は、ナノ粒子の投与の約6~48時間前又は12~48時間前に投与される。別の実施形態では、ターゲティング用結合剤は、ナノ粒子の投与の6~12時間前に投与される。さらに別の実施形態では、ターゲティング用結合剤は、ナノ粒子の投与の2~8時間前に投与される。さらに別の実施形態では、ターゲティング用結合剤は、ナノ粒子の投与の1週間前に投与される。例えば、ベバシズマブ又は他のVEGF結合性抗体を含むナノ粒子複合体の投与の24時間前に、ある用量のBEVが投与される。別の例では、リツキシマブ含有ナノ粒子複合体の投与前にリツキシマブが事前投与される。ナノ粒子の前に投与される結合剤は、治療量以下、例えば一般に治療量とみなされる量の1/2、1/10又は1/20などの量で投与できる。例えば、ヒトでは、BEVの事前処置は、通常の投与量の1/10量である1mg/kgのBEVの投与を含んでいてもよく、その後のナノ粒子又はナノ粒子複合体が投与される。
【実施例0159】
本開示を、コアとしてのアルブミン結合パクリタキセル又はパクリタキセル誘導体と、抗体としてのベバシズマブ(Avastin(登録商標))又はリツキシマブ(Rituxan(登録商標))とからなるナノ粒子を用いて例示する。
【0160】
当業者には明らかであろうが、実施例のナノ粒子の製造及び使用に関する説明は専ら例示を目的としたものであり、本開示はこうした例示に限定されるものではない。
【0161】
本明細書で用いる略語は、通常の科学的意味を有する。別途記載しない限り、温度はすべて℃である。本明細書において、以下に示す用語は、別途定義しない限り、以下の意味を有する。
【表3】
【0162】
実施例1:ナノ粒子の調製
Samaranayake et al. in “Modified Taxols. Reaction of Taxol with Electrophilic Reagents and Preperation of a Rearranged Taxol Derivative with Tubulin Assembly Activity” (J. Org. Chem. 1991, 56, 5114-5119)(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)に記載された反応スキームに従って、パクリタキセルをメーヤワイン試薬と反応させて切断した。この反応はC-4,C-5オキセタン環を切断して毒性を大きく阻害する。反応及び精製は、Organix社(米国マサチューセッツ州ウォーバン)によって行われた。この反応を図1に示す。
【0163】
パクリタキセルのメーヤワイン生成物(20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール)を次いで高圧下でアルブミンとホモジナイズして安定な非毒性ナノ粒子(NTP)を形成した。アルブミン及びタキサン(例えばパクリタキセル)をホモジナイズする方法は、例えば米国特許第5916596号、同第6506405号及び同第6537579号に記載されており、これらの各開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0164】
簡単に説明すると、ヒト血清アルブミン(HSA;Sigma Aldrich社)を滅菌水に1~1.5%w/vで溶解した。別の容器内で、20-アセトキシ-4-デアセチル-5-エピ-20,O-セコタキソール(HSAに対して10%w/w)をクロロホルムに溶解して10mg/mlとした。クロロホルム溶液をアルブミン溶液に添加し、ハンドヘルド型ホモジナイザーで5分間低RPMで混合した。溶液を20000psiでマイクロホモジナイズポンプに15サイクル流した。溶液が危うい高温(50℃超)に達するのを防ぐため、ポンプコイル経路及び回収チューブは氷浴に入れた。溶液をコールドトラップを備えたロータリーエバポレーターに移し、減圧下で45分間運転してクロロホルムを蒸発させた。溶液を200nm酢酸セルロースフィルターで濾過した。
【0165】
凍結乾燥ナノ粒子については、生成物を完全に凍結乾燥できるように、溶液を適切な容量に分割して凍結乾燥フラスコに入れた。溶液を入れたフラスコを-80℃に2~4時間置いた。フラスコ内の凍結溶液を、-85℃の凝縮器を備えた卓上型凍結乾燥機を用いて<20ミリトルで凍結乾燥した。
【0166】
実施例2:インビトロでのNTPとベバシズマブの結合
NTPとベバシズマブ(BEV)が相互作用するか否かを決定するため、実施例1で形成したNTPのサイズを単独で並びに4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL及び10mg/mLのベバシズマブと共に30分間インキュベートした後で、Malvern Nanosight技術によって分析した。
【0167】
BEVの濃度の増加に伴うナノ粒子の直径の増加(図2A~2E)は、BEVによるNEPの非共有結合コーティングの増大を示唆している。直径は、Malvern Nanosight技術を用いて1:300希釈で測定した。
【0168】
実施例3:非毒性ナノ粒子(NTP)に対するベバシズマブ及びリツキシマブの結合の親和性
NTPに対するベバシズマブ(図3A)及びリツキシマブ(図3B)の結合親和性(K)を、バイオレイヤー干渉法(Bio LayerInterferometry:BLI)を用いて測定した
。これら2種類の抗体をアミンカップリングを用いてビオチン化し、次いで各々100μg/mLのBLITZストレプトアビジンプローブに結合させた。様々な濃度のNTPを、120秒間の会合及び解離期間でプローブとの結合についてアッセイした。キネティクス解析は、BLITZ評価ソフトウェアによって実施した。ナノ乃至ピコモル親和性は、リツキシマブとNTP間及びベバシズマブとNTP間の強い結合を示す。
【0169】
実施例4:PBS及び血清中での非毒性ナノ粒子(NTP)の安定性-アブラキサン(登録商標)(ABX)との比較
抗体を含むまないNTP及びアブラキサン(登録商標)(ABX)溶液を、それぞれ、PBS中30μg/mLのパクリタキセルのメーヤワイン生成物及びパクリタキセルで調製した。1mL当たりのナノ粒子の基準カウント数は、Malvern Nanosight技術を用いて得た。次いで、これら2種類の溶液についてある範囲の希釈を行って、粒子濃度を測定した。
【0170】
図4Aは、生理食塩水中でのABX及びNTPの安定性を示す。アブラキサンナノ粒子は、初期溶液の1:1.33希釈付近で崩壊し始め、約1:2希釈で基準PBSレベルに達した。NTPは希釈率と共に直線的に減少し、粒子が崩壊しないことを示唆している。
【0171】
図4Bは、血清中でのABX及びNTPの安定性を示す。NTP及びABX溶液は、それぞれ、血清中250μg/mLのパクリタキセルのメーヤワイン生成物及びパクリタキセルで調製した。Malvern Nanosight技術を用いてナノ粒子の初期濃度を測定し、その後の測定値は初期濃度の百分率として示す。血清中15分、30分、45分及び60分後の各溶液の濃度を測定した。
【0172】
実施例5:NTP-リツキシマブ複合体によるDaudi細胞CD20結合阻害
ABX、AR160、非毒性ナノ粒子(NTP)及びリツキシマブ結合NTPを、上述又は従前の通り調製した(例えば国際公開第2014/055415号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)参照)。ナノ粒子及び未標識リツキシマブをCD20+Daudiリンパ腫細胞と室温で30分間共インキュベートした。細胞を洗浄し、続いてPE抗ヒトCD20で染色した。アイソタイプ(図5A)及び抗CD20(図5B)染色細胞をそれぞれ陰性対照及び陽性対照とした。
【0173】
結果は、AR160(図5D)、リツキシマブ結合NT粒子(NTRit;図5F)及びリツキシマブ(図5G)がその後のPE抗ヒトCD20の結合を阻害するのに対して、、ABX(図5C)及びNTナノ粒子(図5E)単独は阻害しないことを示す。これは、AR160及びリツキシマブ結合NT粒子中のリツキシマブがそのリガンド結合特性を保持していることを示している。
【0174】
実施例6:パクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセルナノ粒子
アブラキサン(登録商標)に比べてパクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセルナノ粒子を形成させる。
【0175】
例えば、30mg未満(例えば1mg~25mg)のパクリタキセルを溶媒(例えば塩化メチレン;又はクロロホルムとエタノール)中に溶解させる。この溶液を27.0mLのヒト血清アルブミン溶液(1%w/v)に加える。この混合物を低RPMで5分間ホモジナイズして粗エマルジョンを形成し、次いで高圧ホモジナイザーに移す。乳化は、エマルジョンを少なくとも5回リサイクルしながら、9000~40000psiで行う。得られた系をロータリーエバポレーターに移し、40℃、減圧下(30mmHg)で20~30分間で塩化メチレンを急速に除去する。任意的に、分散液を0.22ミクロンのフィルターで濾過する。
【0176】
濾過したナノ粒子は凍結乾燥して保存できる。
【0177】
実施例7:パクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子
アブラキサン(登録商標)に比べてパクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子を形成させる。
【0178】
例えば、実施例6に記載の通り、アルブミン-パクリタキセルナノ粒子を形成する。治療剤(例えばシスプラチン)をナノ粒子と、約10:1(ナノ粒子:薬剤)比で、室温で30分間インキュベートする。ナノ粒子微粒子を除去した後の上清中の遊離の治療剤(例えばシスプラチン)をHPLCで測定する。
【0179】
実施例8:パクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセル-抗体ナノ粒子
アブラキサン(登録商標)に比べてパクリタキセル量の低減したアルブミン-パクリタキセル-抗体ナノ粒子を形成させる。
【0180】
例えば、実施例6に記載の通り、アルブミン-パクリタキセルナノ粒子を形成する。ナノ粒子(10mg)を抗体(例えばベバシズマブ)(4mg)と混合し、840μlの0.9%生理食塩水を添加して、ナノ粒子及び抗体の最終濃度をそれぞれ10mg/ml及び2mg/mlとする。混合物を室温で30分間インキュベートして粒子を形成させる。
【0181】
抗体-アルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子複合体を形成できる。任意的に、抗体をアルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子(実施例7から)とインキュベートして、抗体-アルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子複合体を形成させる。或いは、抗体-アルブミン-パクリタキセル-ナノ粒子を治療剤とインキュベートして抗体-アルブミン-パクリタキセル-治療剤ナノ粒子複合体を形成させてもよい。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G