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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096018
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20220622BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20220622BHJP
   B29C 64/371 20170101ALI20220622BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220622BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220622BHJP
【FI】
B22F3/105
B22F3/16
B29C64/371
B29C64/153
B33Y30/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208883
(22)【出願日】2020-12-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】川田 秀一
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AM30
4F213AR07
4F213AR08
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL67
4F213WL76
4F213WL87
4F213WL96
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】 ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルを利用することにより、ウインドウのサイズが大型化した場合であっても清浄度を維持することができ、不活性ガスの消費流量を削減した積層造形装置を提供すること。
【解決手段】
本発明の積層造形装置は、チャンバへ不活性ガスを供給する供給口と、供給口に取り付けられ、ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルと、チャンバから前記不活性ガスを排出する排出口を備え、供給ノズルは、入口面が前記供給口に接続された第1のノズル部材と、前記第1のノズル部材の出口面の下方の一部を覆うように取り付けられた複数の通孔を有する網状部材と、前記第1のノズル部材の出口面の上方に取り付けられた第2のノズル部材を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形領域を覆うチャンバと、
前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、
前記チャンバの上部に設けられ、前記レーザ光または前記電子ビームを透過するウインドウと、
前記チャンバへ不活性ガスを供給する供給口と、
前記供給口に取り付けられ、前記ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルと、
前記チャンバから前記不活性ガスを排出する排出口を備え、
前記供給ノズルは、入口面が前記供給口に接続された第1のノズル部材と、前記第1のノズル部材の出口面の下方の一部を覆うように取り付けられた複数の通孔を有する網状部材と、前記第1のノズル部材の出口面の上方に取り付けられた第2のノズル部材を有し、
前記供給口から導入された前記不活性ガスのうち、上方の気流は前記第2のノズル部材の内部を通って第1の気流として前記チャンバ内へと放出され、下方の気流は前記網状部材の複数の通孔を通過して前記第1の気流よりも速度の小さい第2の気流として前記チャンバ内へ放出されることを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
前記第2のノズル部材は、内部に流れる前記不活性ガスを平面状にするための複数の区画部材を有することを特徴とする請求項1記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記チャンバの外壁は、前記ウインドウの取付位置から前記排出口の取付位置まで、水平方向から傾斜した形状をなすことを特徴とする請求項1または2記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記排出口は、断面台形状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記照射装置は、複数のガルバノスキャナを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置に関し、特にヒュームをチャンバの外に除去する機能を有する金属粉末積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末積層造形装置は、一般には、金属3Dプリンタとして広く知られている。レーザ光による金属粉末焼結積層造形法においては、造形テーブル上に金属材料粉体を均一に撒布して材料粉体層を形成し、材料粉体層における所定の照射領域にレーザ光を照射して焼結層を形成し、焼結層を積層して一体化させることによって所望の三次元造形物を生成する。
【0003】
金属材料粉体をレーザ光によって焼結する場合は、材料粉体が変質しないように保護するために、所定の照射領域の周囲の環境を可能な限り酸素が存在しない雰囲気にすることが要求される。そのため、金属粉末積層造形装置は、密閉されたチャンバ内にレーザ光の所定の照射領域を設けて、チャンバに窒素ガスのような不活性ガスを供給して、酸素濃度が十分に低い雰囲気下でレーザ光を照射できるようにされている。
【0004】
また、材料層にレーザ光または電子ビームを照射して、材料層を焼結または溶融させて固化層を形成する際、ヒュームとよばれる金属蒸気が発生する。ヒュームがチャンバ内に存在すると、ヒュームがレーザ光または電子ビームを遮蔽したり、チャンバの上面に設けられるウインドウ等の光学部品にヒュームが付着したりするなどして、造形品質の低下を引き起こす可能性があった。
【0005】
そのため、従来の積層造形装置においては、チャンバに不活性ガスを供給するとともに、チャンバ内のヒュームを含む不活性ガスを排出して、チャンバ内を清浄な不活性ガス雰囲気に維持している。また、排出した不活性ガスを再利用するため、チャンバから排出された不活性ガスはヒュームコレクタへと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバに返送されることがなされている。
【0006】
特許文献1には、チャンバ11に第1の供給口13、第2の供給口14が設けられた積層造形装置が開示されている。本発明においては、チャンバ11の壁面に設けられた第1の供給口13から不活性ガスをチャンバ11に供給することで、照射領域の周囲のヒュームを回収するとともに酸素濃度を十分低下させ材料粉体が変質しないように保護する。さらに、チャンバ11の上面に設けられた第2の供給口14からウインドウ12を覆うように設けられた汚染防止装置5を介して不活性ガスを供給することで、ウインドウ12がヒュームによって汚染されることを防止するとともに、レーザ光Lの照射経路を横断しようとするヒュームを照射経路から排除する。
【0007】
特許文献2には、加工領域32内の気体が光学装置格納領域31に移動しないようシールドガスSGをチャンバ20の外部から加工領域32の内部に向って吐出するガス吐出装置70が開示されている。ガス吐出装置70から、加工領域32、負圧ポンプ71の吸入口71aを通るシールドガスSGの流れを形成することで、光学装置格納領域31に向かう気体等の逆流を防止し、スパッタやヒュームによる光学系部品の汚染を抑制する。
【0008】
特許文献3には、電磁放射の指向性ビームによる原料処理のための処理槽において、連接窓(9)と、前記連接窓(9)の一方の側に設けられ、第1ガス(18)が前記連接窓の窓面(9a)上で実質的に接線方向に流れ込むように策定された第1注入口(16)と、第2ガス(25)が前記第1ガス(18)の流れと実質的に同一方向で前記窓面(9a)から距離を隔てて流れ込むように策定されて設けられた第2注入口(23)とを備えたものが開示されている。上述した発明における処理槽を有する装置は、第2ガスが連接窓から離れた方向で流れているので、処理面から発生する汚れを取り込んだガスを連接窓から引き離すことが可能で、連接窓の光学面は、清潔さをより効果的に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6611141号公報
【特許文献2】特開2018-176214号公報
【特許文献3】特表2008-542550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の積層造形装置においては、チャンバに不活性ガスを供給してチャンバ内のヒュームを回収し、その後ヒュームを含む不活性ガスを排出させることにより、チャンバ内に不活性ガスを循環させて造形領域に存在するヒュームを回収することが行われている。
また、材料層を焼結または溶融させて固化層を形成する際にヒュームが光学部品であるウインドウに付着すると、レーザ光または電子ビームによって付着物の温度が上昇してウインドウが変形し、本来造形面に調整されたレーザ焦点位置がずれて造形不良が生じる可能性がある。よって、ウインドウの外周から不活性ガスを勢いよく放出し、不活性ガスの風圧によりウインドウにヒュームが付着するのを防止している。
【0011】
このように従来から不活性ガスは、チャンバ内のヒューム回収用およびウインドウへのヒューム付着防止用として使用されており、特許文献1および3の発明のように第1および第2の供給口を設けることで実現する構成や、特許文献2のように1つの供給口で実現する構成がとられている。
【0012】
しかしながら、例えば積層造形装置に複数台のガルバノスキャナが搭載される等により、ウインドウのサイズが大型化した場合、不活性ガスの風圧によってウインドウにヒュームが付着するのを防止するためには大量の不活性ガスを放出する必要がある。その結果、不活性ガスの消費量が増加し、積層造形装置を駆動するためのランニングコストが高騰する問題が生じていた。またウインドウのサイズによっては、大量の不活性ガスを放出したとしてもウインドウの清浄度を維持することが困難である問題が生じていた。
【0013】
上記課題に鑑み、本願発明者らはさらに鋭意検討した結果、(1)供給口に設けられたノズルの形状等に工夫を凝らすことにより、ひとつの供給口から速度の異なる2層の気流を生成することが可能であること、および(2)上述の2層の気流を使用することにより、光学部品のウインドウ等の汚れの防止および造形領域のヒュームの除去を一度に効率的に行うことが可能であることを見出した。
【0014】
よって本発明は、ウインドウ等の光学部品にヒュームが付着することを防ぎ、チャンバから効率よくヒュームを除去することができる積層造形装置を提供することを主たる目的とする。本発明によって得ることができるいくつかの利点は、本発明の実施の形態の説明において、詳しく記述される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の積層造形装置は、造形領域を覆うチャンバと、前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、前記チャンバの上部に設けられ、前記レーザ光または前記電子ビームを透過するウインドウと、前記チャンバへ不活性ガスを供給する供給口と、前記供給口に取り付けられ、前記ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルと、前記チャンバから前記不活性ガスを排出する排出口を備え、前記供給ノズルは、入口面が前記供給口に接続された第1のノズル部材と、前記第1のノズル部材の出口面の下方の一部を覆うように取り付けられた複数の通孔を有する網状部材と、前記第1のノズル部材の出口面の上方に取り付けられた第2のノズル部材を有し、前記第1の供給口から導入された前記不活性ガスのうち、上方の気流は前記第2のノズル部材の内部を通って第1の気流として前記チャンバ内へと放出され、下方の気流は前記網状部材の複数の通孔を通過して前記第1の気流よりも速度の小さい第2の気流として前記チャンバ内へ放出されることを特徴とする。
【0016】
ここで、「供給口」とは本実施形態においては第1の供給口を指すものとする。
本発明の供給ノズルを使用して不活性ガスを供給することで、ウインドウに近接した領域においてはウインドウのガラス面と略平行の高速(高速層)の気流を発生させ、高速の気流の下には高速の気流と略平行の低速(低速層)の気流を発生させることができる。高速層の気流は、気圧の変化によりウインドウから離れる方向の新たな気流を発生させるため、ウインドウの清浄状態を維持することが可能となるうえ、ウインドウ側へのヒュームの侵入を阻止することができる。また高速層の気流の下に発生した低速層の気流が造形領域のヒュームを捕獲して、ヒュームをチャンバの外に排出することができる。
【0017】
本発明の積層造形装置は、第2のノズル部材が内部に流れる前記不活性ガスを平面状にするための複数の区画部材を有することを特徴とする。
本発明によれば、不活性ガスが区画部材により区切られて放出されるため、不活性ガスが高速化されるとともに不活性ガスの流れが平面状となり、ウインドウのガラス面の下方全域に高速の気流を発生させることができる。
【0018】
本発明の積層造形装置は、チャンバの外壁が前記ウインドウの取付位置から前記排出口の取付位置まで、水平方向から傾斜した形状をなすことを特徴とする。
また本発明の積層造形装置は、排出口が断面台形状に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、チャンバの外壁がウインドウの取付位置から排出口の取付位置まで水平方向から傾斜した形状をなしており、また排出口が断面台形状に形成されているため、供給ノズルから供給された不活性ガスがウインドウの下方を通過し、チャンバの外壁に沿って滑らかに排出口から排出される。よってヒュームを効率的に排出することが可能となる。
【0019】
本発明の積層造形装置は、前記照射装置が複数のガルバノスキャナを有することを特徴とする。
本発明によれば、供給ノズルから2層の気流を発生させてウインドウの下方を通過させることによりウインドウの汚れの防止しているため、ウインドウのサイズが大型化した場合であっても大量の不活性ガスを放出する必要がなく、積層造形装置を駆動するためのランニングコストを削減することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルを利用することにより、ウインドウのサイズが大型化した場合であっても清浄度を維持することができ、不活性ガスの消費流量を削減した積層造形装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態の積層造形装置100を示す概略構成図である。
図2】上記実施形態の照射装置4を示す概略構成図である。
図3】上記実施形態の照射装置4のその他の例を示す概略構成図である。
図4】上記実施形態の供給ノズル6を示す図1のAを拡大した概略斜視図である。
図5】上記実施形態の供給ノズル6を示す図1のAを拡大した概略斜視図2である。
図6】上記実施形態のウインドウ12周辺の気流の流れを示した模式図である。
図7】上記実施形態のチャンバ11内に流れる気流の流れを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0023】
図1は、本実施形態の積層造形装置100を示す概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の積層造形装置は、チャンバ11と、チャンバ11内に設けられた材料層形成装置3と、照射装置4と、不活性ガス給排機構5と、供給ノズル6を備える。
【0024】
チャンバ11は、不活性ガスの給排経路を除いて実質的に密閉されるように構成された筐体であり、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。
チャンバ11は、上部に設けられたレーザ光Lを透過するウインドウ12と、不活性ガスの第1,第2の供給口13,14と、第1,第2の供給口13,14と相対する壁面に設けられた不活性ガスの排出口15を有する。チャンバ11の外壁形状は第1の供給口から放出された不活性ガスがウインドウ12の下方を通過し、その後チャンバ11の壁面に沿って排出口15まで滑らかに流れるように設計されている。具体的には、第1の供給口13が設けられた面と相対する壁面はウインドウ12の取付位置から排出口15の取付位置まで、水平方向から傾斜した形状をなしている。
第1,第2の供給口13,14は、所定の濃度の不活性ガスをチャンバ11に供給する供給口であり、不活性ガス供給装置51およびヒュームコレクタ52と接続されている。第1,第2の供給口13,14を介して、不活性ガス供給装置51で生成された不活性ガスおよびヒュームコレクタ52によってヒュームが除去された不活性ガスをチャンバ11に返送する。
第1の供給口13は、チャンバ11の壁面上方のウインドウ12に近接した位置に設けられ、第2の供給口14は、チャンバ11の壁面下方に設けられている。
排出口15は、チャンバ11内のヒュームを含んだ不活性ガスを外部へ排出する排出口であり、チャンバ11内の不活性ガスを吸引しやすいように断面台形状に形成されている。排出口15は、第1の供給口13と相対するチャンバ11の壁面で、第1の供給口13の断面略対角線上に設けることが望ましく、具体的にはチャンバ11の壁面下方に設けることが望ましい。
【0025】
材料層形成装置3は、造形領域Rを有するベース台31と、ベース台31上に配置され水平1軸方向に移動可能に構成されたリコータヘッド32と、を含む。リコータヘッド32の両側面にはそれぞれブレードが設けられる。リコータヘッド32は、不図示の材料供給装置から材料粉体が供給され、内部に収容した材料粉体を底面から排出しながら水平1軸方向に往復移動する。このとき、ブレードは排出された材料粉体を平坦化して材料層22を形成する。造形領域Rには、造形テーブル駆動装置33により鉛直方向に移動可能な造形テーブル34が設けられる。積層造形装置の使用時には、造形テーブル34上にベースプレート21が配置され、ベースプレート21上に材料層22が形成される。
【0026】
第1の供給口13から供給された不活性ガスの気流は、ウインドウ12の下方を通過し、その後チャンバ11の壁面に沿って流れて最後に排出口15から排出される。第1の供給口13からの不活性ガスの気流の効果により、造形領域Rの上方のヒュームの除去およびウインドウ12の汚れの防止が可能となる。
また、第2の供給口14から供給された不活性ガスの気流は、造形テーブル34の上方を通過し、その後、排出口15から排出される。第2の供給口14からの不活性ガスの気流の効果により、造形テーブル34の上面において生じる焼結時のヒュームを排出口15へ流すことができる。
本実施形態においては、チャンバ11には2つの供給口と1つの排出口が設けられていたが、第2の供給口14を省略することも可能である。また、不活性ガス給排機構5と接続される供給口と、ヒュームコレクタ52と接続される供給口は、別個に設けられてもよい。
さらにウインドウ12にヒュームが付着することを最小限にしたい場合には、第1の供給口13には不活性ガス供給装置51のみを接続し、第1の供給口13に再利用した不活性ガスの供給を行わないことも可能である。
【0027】
図2は、上記実施形態の照射装置4を示す概略構成図である。
照射装置4が、チャンバ11の上方に設けられる。本実施形態の照射装置4は、造形領域R上に形成される材料層22の所定箇所にレーザ光Lを照射して、照射位置の材料粉体を焼結または溶融して固化層23を形成する。図2に示すように、照射装置4は、光源41と、コリメータ43と、フォーカス制御ユニット45と、ガルバノスキャナと、を含む。ガルバノスキャナは、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49と、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49を回転させるアクチュエータと、を有する。
【0028】
光源41はレーザ光Lを生成する。ここで、レーザ光Lは、材料層22を可能なものであればその種類は限定されず、例えば、COレーザ、ファイバレーザまたはYAGレーザである。コリメータ43は、光源41より出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット45は、光源41より出力されたレーザ光Lを集光し所望のスポット径に調整する。2軸のガルバノスキャナは、光源41より出力されたレーザ光Lを2次元走査する。具体的に、X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49は、不図示の制御装置から入力される回転角度制御信号の大きさに応じて回転角度が制御され、それぞれX軸方向およびY軸方向にレーザ光Lを走査させる。
【0029】
X軸ガルバノミラー47およびY軸ガルバノミラー49を通過したレーザ光Lは、チャンバ11の上面に設けられたウインドウ12を透過して造形領域Rに形成された材料層22に照射される。ウインドウ12は、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバレーザまたはYAGレーザの場合、ウインドウ12は石英ガラスで構成可能である。
【0030】
なお、照射装置4は、例えば電子ビームを照射して材料層22を固化させて固化層23を形成するものであってもよい。例えば、照射装置4は、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層22と電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極と、を含むよう構成されてもよい。
【0031】
図3は、上記実施形態の照射装置4のその他の例を示す概略構成図である。
照射装置4は、複数のガルバノスキャナを並べて配置した構成であってもよい。具体的には、照射装置4は第1及び第2の光源41a,41bと、第1及び第2フォーカス制御ユニット45a,45bと、第1及び第2のX軸ガルバノミラー47a,47bと第1及び第2のY軸ガルバノミラー49a,49bを備える。不図示の制御装置により第1及び第2のX軸及びY軸のガルバノミラー47a,47b,49a,49bを駆動してレーザ光L1,L2を走査する。レーザ光L1,L2は、チャンバ11の上面に設けられたウインドウ12を透過して造形領域Rに形成された材料層22に照射される。複数台のガルバノスキャナを搭載した積層造形装置100で使用されるウインドウ12のサイズは大型となる。
【0032】
以上に説明した材料層形成装置3および照射装置4により、所望の三次元造形物が造形される。まず、ベースプレート21を載置した状態で造形テーブル34の高さを適切な位置に調整する。次にリコータヘッド32を造形領域Rの図1における左側から右側に移動させ、ベースプレート21上に1層目の材料層22を形成する。次に、1層目の材料層22の所定位置にレーザ光Lを照射し、1層目の固化層23を形成する。同様に、造形テーブル34の高さを材料層22の1層分下げ、リコータヘッド32を造形領域Rの図1における右側から左側に移動させることによって、1層目の固化層23上に2層目の材料層22を形成する。次に、2層目の材料層22の所定位置にレーザ光Lを照射して2層目の固化層23を形成する。1層目の固化層23と2層目の固化層23は、互いに固着される。以上の工程を繰り返すことによって、3層目以降の固化層23が順次形成される。このようにして、材料層22と固化層23の形成が繰り返され、所望の三次元造形物が造形される。
【0033】
不活性ガス給排機構5は、チャンバ11内に所定濃度の不活性ガスを充満させるとともに、チャンバ11からヒュームを含んだ不活性ガスを排出し、排出された不活性ガスからヒュームを除去した上でチャンバ11内に返送する装置である。
不活性ガス給排機構5は、不活性ガス供給装置51と、ヒュームコレクタ52と、ダクトボックス53,54を備える。
【0034】
不活性ガス供給装置51は、所定濃度の不活性ガスをチャンバ11に供給する装置であり、具体的には周囲の空気から不活性ガスを生成する不活性ガス発生装置、または不活性ガスが貯留されたガスボンベである。なお、不活性ガスとは、金属材料でなる材料層22、金属材料が固化してなる固化層23、および酸素を含む他の気体と実質的に反応しないガスであり、例えば窒素である。
【0035】
ヒュームコレクタ52は、チャンバ11から排出された不活性ガスからヒュームを除去した上で、チャンバ11に返送する部材であり、フィルタ式の部材が用いられる。ヒュームコレクタ52はダクトボックス53,54を介してチャンバ11に接続される。
【0036】
図4は、上記実施形態の供給ノズル6を示す図1のAを拡大した概略斜視図であり、図5は、上記実施形態の供給ノズル6を示す図1のAを拡大した概略斜視図2である。
供給ノズル6は、第1の供給口13から供給される不活性ガスから速度の異なる2層の気流を生成する部材であり、入口が第1の供給口13に設けられ、出口がウインドウ12に近接するように設けられている。供給ノズル6は、第1のノズル部材61と、網状部材62と、第2のノズル部材63と、複数の区画部材64から構成される。
第1のノズル部材61は、内部が空洞となった矩形状の部材であり、入口面61aが第1の供給口13に接続され、出口面61bには、網状部材62および第2のノズル部材63が設けられている。図5においては、内部構造を説明するために便宜上、第1のノズル部材61の外壁面61cは省略されている。
網状部材62は、複数の通孔を有する平板状の部材であり、第1のノズル部材61の出口面61bの下方の一部を覆うように第1のノズル部材61の底面61dから立直した状態で設けられている。網状部材62により第2の気流出口6bが形成されている。
第2のノズル部材63は、くの字状に形成された左右に外壁面63cを有する皿状の部材であって、内部に区画部材64が複数設けられている。第2のノズル部材63は第1のノズル部材61の出口面61bの上方に、入口側の底面63dが第1のノズル部材61の底面61dと平行となるように設けられている。また、第2のノズル部材63の出口側の底面63eはウインドウ12の下方でかつウインドウ12のガラス面と略平行となるように設けられている。ここで、第2のノズル部材63の出口を第1の気流出口6aと記す。
区画部材64は、くの字状に形成された平板状の部材であり、第2のノズル部材63の内部に外壁面63cと略平行に立設し、一定の間隔を空けて複数設けられている。
【0037】
図6は、上記実施形態のウインドウ12周辺の気流の流れを示した模式図であり、図7は、上記実施形態のチャンバ11内に流れる気流の流れを示した模式図である。
第1の供給口13から導入された不活性ガスは、第1のノズル部材61の入口面61aから第1のノズル部材61の内部を通り、第1のノズル部材61の出口面61bへと流れる。その後、不活性ガスの下方の気流は網状部材62の複数の通孔を通過し、第2の気流出口6bから第2の気流F2としてチャンバ11内へと放出される。一方、不活性ガスの上方の気流は第2のノズル部材63の内部を通って区画部材64により平面状に広がり、第1の気流F1として第1の気流出口6aからチャンバ11内へと放出される。第1の気流F1は、ウインドウ12のガラス面と略平行の気流となって、ウインドウ12のガラス面全面の下方を横切るように流れる。
第2の気流F2は、網状部材62の複数の通孔を通過したことにより第1の気流F1よりも速度が小さくなっている。第2の気流F2は気圧の違いから第1の気流F1に引き寄せられ、速度の異なる第1の気流F1と第2の気流F2の2層の気流がウインドウ12のガラス面と略平行にウインドウ12の下方を流れる。
図6に示すように、ウインドウ12に近接した領域においては、高速の第1の気流F1(高速層)が形成され、ウインドウ12から少し離れた領域において低速の第2の気流F2(低速層)が形成されている。よって、ウインドウ12の近接した領域では、風速の違いよる気圧の変化によって高速層(第1の気流F1)に引き寄せられる低速の気流F3が発生する。気流F3は、常にウインドウ12から離れる方向の気流となるため、ウインドウ12側へのヒュームの進入を防ぐことができ、ウインドウ12の清浄状態が維持される。
また図7に示すように、高速層である第1の気流F1はチャンバ11の壁面に沿って排出口15から排出される。その際に、造形領域Rから湧き上がってくるヒュームは高速層(第1の気流F1)に引き寄せられて新たな気流F4となり、さらに低速層である第2の気流F2が造形領域Rのヒュームを捕獲して、ヒュームを含んだ第2の気流F2および気流F4は高速層(第1の気流F1)と一緒に排出口15から排出される。
【0038】
このように、ウインドウ12に近接した領域においては常にウインドウ12から離れる方向の気流F3を形成するため、ウインドウ12のサイズが大型化した場合であっても気流F3によりウインドウ12へのヒュームの付着を好適に防ぐことができる。また高速の第1の気流F1自体は造形領域Rからウインドウ12側へのヒュームの進入をブロックする役割を担い、さらに造形領域Rから湧き上がってくるヒュームを含んだ第2の気流F2および気流F4を引き寄せて排出口15から排出するため、チャンバ11内のヒュームの回収およびウインドウ12へのヒューム付着防止の二つの目的を一度に達成することが可能となる。
【0039】
第2のノズル部材63の幅は、第1の気流F1がウインドウ12のガラス面の下方全域に流れるようにウインドウ12のガラス面の幅と略同一の幅に形成されていてもよい。そうすれば、好適にウインドウ12の全面を保護することが可能となる。
【0040】
以上の通り、本発明の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態で示した各技術的特徴は、技術的に矛盾が生じない範囲で互いに組み合わせ可能である。これら実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
11 チャンバ
12 ウインドウ
13 第1の供給口
14 第2の供給口
15 排出口
21 ベースプレート
22 材料層
23 固化層
3 材料層形成装置
31 ベース台
32 リコータヘッド
33 造形テーブル駆動装置
34 造形テーブル
4 照射装置
5 不活性ガス給排機構
51 不活性ガス供給装置
52 ヒュームコレクタ
53,54 ダクトボックス
6 供給ノズル
R 造形領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-06-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形領域を覆うチャンバと、
前記チャンバの上方に設けられ、前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、
前記チャンバの上部かつ前記照射装置の下方に設けられ、前記レーザ光または前記電子ビームを透過するウインドウと、
前記チャンバへ不活性ガスを供給する供給口と、
前記供給口に取り付けられ、前記ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルと、
前記供給口と相対する前記チャンバの壁面に設けられる前記不活性ガスを排出する排出口を備え、
前記供給ノズルは、入口面が前記供給口に接続された第1のノズル部材と、前記第1のノズル部材の出口面に設けられる網状部材と、入口面が前記第1のノズル部材の出口面に接続された第2のノズル部材と、前記第2のノズル部材に設けられる複数の区画部材とから構成され、
前記網状部材は、前記第1のノズル部材の出口面の下方の一部を覆うように前記第1のノズル部材の出口面の底面から立直した状態で取り付けられ複数の通孔を有
前記第2のノズル部材は、前記第1のノズル部材の出口面の上方に取り付けられると共に前記網状部材の上端に入口側の底面が接し、前記ウインドウの下方で前記ウインドウのガラス面と略平行に出口側の底面が設けられ、
前記複数の区画部材は、前記第2のノズル部材の内部に流れる前記不活性ガスを前記ウインドウのガラス面の下方全域に平面状に放出し、
前記第1のノズル部材の底面と前記第2のノズル部材の入口側の底面が平行となるように設けられ、
前記供給口から導入された前記不活性ガスのうち、上方の気流は前記第2のノズル部材の内部を通って第1の気流として前記チャンバ内へと放出され、下方の気流は前記網状部材の複数の通孔を通過して前記第1の気流よりも速度の小さい第2の気流として前記チャンバ内へ放出されることを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
前記第2のノズル部材の気流出口の上方が開放された前記第2のノズル部材を有することを特徴とする請求項1記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記チャンバの外壁は、前記ウインドウの取付位置から前記排出口の取付位置まで、水平方向から傾斜した形状をなすことを特徴とする請求項1または2記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記排出口は、断面台形状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記照射装置は、複数のガルバノスキャナを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の積層造形装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明の積層造形装置は、造形領域を覆うチャンバと、前記チャンバの上方に設けられ、前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、前記チャンバの上部かつ前記照射装置の下方に設けられ、前記レーザ光または前記電子ビームを透過するウインドウと、前記チャンバへ不活性ガスを供給する供給口と、前記供給口に取り付けられ、前記ウインドウに向けて速度の異なる2層の気流を放出する供給ノズルと、前記供給口と相対する前記チャンバの壁面に設けられる前記不活性ガスを排出する排出口を備え、前記供給ノズルは、入口面が前記供給口に接続された第1のノズル部材と、前記第1のノズル部材の出口面に設けられる網状部材と、入口面が前記第1のノズル部材の出口面に接続された第2のノズル部材と、前記第2のノズル部材に設けられる複数の区画部材とから構成され、前記網状部材は、前記第1のノズル部材の出口面の下方の一部を覆うように前記第1のノズル部材の出口面の底面から立直した状態で取り付けられ複数の通孔を有前記第2のノズル部材は、前記第1のノズル部材の出口面の上方に取り付けられると共に前記網状部材の上端に入口側の底面が接し、前記ウインドウの下方で前記ウインドウのガラス面と略平行に出口側の底面が設けられ、前記複数の区画部材は、前記第2のノズル部材の内部に流れる前記不活性ガスを前記ウインドウのガラス面の下方全域に平面状に放出し、前記第1のノズル部材の底面と前記第2のノズル部材の入口側の底面が平行となるように設けられ、前記第1の供給口から導入された前記不活性ガスのうち、上方の気流は前記第2のノズル部材の内部を通って第1の気流として前記チャンバ内へと放出され、下方の気流は前記網状部材の複数の通孔を通過して前記第1の気流よりも速度の小さい第2の気流として前記チャンバ内へ放出されることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本発明の積層造形装置は、第2のノズル部材が内部に流れる前記不活性ガスを平面状にするための複数の区画部材を有すること、前記第2のノズル部材の気流出口の上方が開放された前記第2のノズル部材を有することを特徴とする。
本発明によれば、不活性ガスが区画部材により区切られて放出されるため、不活性ガスが高速化されるとともに不活性ガスの流れが平面状となり、ウインドウのガラス面の下方全域に高速の気流を発生させることができる。