(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096036
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20220622BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20220622BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/22 A
B60C9/22 C
B60C9/18 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208920
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】張替 紳也
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA39
3D131BA02
3D131BB03
3D131BC31
3D131CA03
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐久性を改善することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1におけるカーカス層4の外周側に複数層のベルト層7と少なくとも1層の周方向補強層8とが配設された空気入りラジアルタイヤにおいて、周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em
0と周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em
1とが-5GPa≦Em
0-Em
1<15GPaの関係を満足し、周方向補強層8の幅Woとベルト層の最大幅Wmとが0.5≦Wo/Wm≦0.9の関係を満足し、周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Eeと周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecとが0.8≦Ee/Ec≦1.2の関係を満足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部におけるカーカス層の外周側に、タイヤ周方向に対して傾斜するスチールコードを含む複数層のベルト層と、タイヤ周方向に配向するスチールコードを含む少なくとも1層の周方向補強層とが配設された空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0と前記周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1とが-5GPa≦Em0-Em1<15GPaの関係を満足し、
前記周方向補強層の幅Woと前記ベルト層の最大幅Wmとが0.5≦Wo/Wm≦0.9の関係を満足し、
前記周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Eeと前記周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecとが0.8≦Ee/Ec≦1.2の関係を満足することを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
空気圧100kPaを充填した状態から最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態までの間で変化する前記トレッド部の外周長のタイヤ赤道での外周長変化率Rcとショルダー部での外周長変化率Rsとが0.7≦Rc/Rs≦1.3の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態でのタイヤ最大幅が350mm以上であって、偏平率が60%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にスチールコードのベルト層とスチールコードの周方向補強層とを備えた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、ベルト層及び周方向補強層に起因する故障の発生を抑制し、耐久性を改善することを可能にした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラックやバス等に使用される重荷重用の空気入りラジアルタイヤにおいて、軽量化や省資源化等を目的として、複輪を単輪化することが行われている。複輪を単輪化したタイヤは、外径を変更することなくトレッド幅だけが広くなるため偏平率が小さくなる傾向がある。また、複輪の能力を単輪で賄うため、充填空気圧も高くするように設定されている。
【0003】
このようにトレッド幅が広く低偏平率になった重荷重用の空気入りラジアルタイヤは、走行時においてトレッド部のベルト層に対する負荷が著しく増大するため、ベルト層の耐久性が低下するという問題がある。従来、このような空気入りラジアルタイヤのベルト層を補強する対策として、タイヤ周方向に配向するスチールコードを含む周方向補強層をベルト層の外周側に配置し、トレッド部における周方向剛性を増大させることが提案されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0004】
しかしながら、スチールコードは弾性率が大きくて圧縮に対して弱いため、上述した周方向補強層のようにスチールコードがタイヤ周方向に配列した構成になっていると、タイヤ転動時の繰り返し変形により疲労破断を生じ易くなる。特に、周方向補強層のエッジ部に配置されたスチールコードが疲労破断を起こし、これがタイヤの耐久性を低下させる要因となる。
【0005】
また、周方向補強層による締め付けが不十分であると、高速走行時の遠心力によりベルト層がせり上がる現象を抑制することが難しくなる。そして、ベルト層に反復的なせり上がりを生じることにより、タイヤの耐久性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001-522748号公報
【特許文献2】特表2000-504655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ベルト層及び周方向補強層に起因する故障の発生を抑制し、耐久性を改善することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、タイヤ周方向に対して傾斜するスチールコードを含む複数層のベルト層と、タイヤ周方向に配向するスチールコードを含む少なくとも1層の周方向補強層とが配設された空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0と前記周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1とが-5GPa≦Em0-Em1<15GPaの関係を満足し、
前記周方向補強層の幅Woと前記ベルト層の最大幅Wmとが0.5≦Wo/Wm≦0.9の関係を満足し、
前記周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Eeと前記周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecとが0.8≦Ee/Ec≦1.2の関係を満足することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、トレッド部にスチールコードのベルト層とスチールコードの周方向補強層とを備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0と周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1との関係、周方向補強層の幅Woとベルト層の最大幅Wmとの関係、周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Eeと周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecとの関係を上記の如く規定することにより、ベルト層及び周方向補強層に起因する故障の発生を抑制し、空気入りラジアルタイヤの耐久性を改善することができる。
【0010】
本発明において、空気圧100kPaを充填した状態から最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態までの間で変化するトレッド部の外周長のタイヤ赤道での外周長変化率Rcとショルダー部での外周長変化率Rsとが0.7≦Rc/Rs≦1.3の関係を満足することが好ましい。これにより、トレッド部のセンター部及びショルダー部における局所的な変形を抑制し、ベルト層及び周方向補強層に起因する故障の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態でのタイヤ最大幅が350mm以上であって、偏平率が60%以下であることが好ましい。このような広幅かつ低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて顕著な効果を得ることができる。
【0012】
本発明において、スチールコードのタイヤから取り出された状態とは、スチールコードがタイヤから取り出されてスチールコードの周囲を覆うゴムが取り除かれた状態である。一方、スチールコードの初期状態とは、スチールコードの原料段階の状態を意図するものであるが、タイヤから取り出されたスチールコードをトルエン中に少なくとも60分間浸漬し、スチールコードに付着したゴムを全て溶解することにより、スチールコードの初期状態を実質的に再現することが可能である。周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0及び周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1は、それぞれ所定の状態にあるスチールコードについて、JIS-G3510の規定に従って試長250mm、引張り速度5mm/minの条件で引張り試験を行い、それによって得られる引張り応力-伸び率曲線から求められる最大接線弾性率(GPa)である。最大接線弾性率Em0,Em1は、周方向補強層の幅方向の全域から採取されたスチールコードの各々について測定された値の平均値である。
【0013】
周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ee及び周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecは、タイヤから取り出された状態にあるスチールコードについて、JIS-G3510の規定に従って試長250mm、引張り速度5mm/minの条件で引張り試験を行い、下記の式(1)により計算された弾性率である。
E=0.2×(L1.0-L0.5)/SSC ・・・(1)
但し、E:弾性率(GPa)
L0.5:0.5%伸長時の張力(N)
L1.0:1.0%伸長時の張力(N)
SSC:スチールコードの横断面積[素線の横断面積の和](mm2)
【0014】
また、周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの弾性率Eeとは、周方向補強層のエッジ端から周方向補強層の幅の5%の領域内に含まれるスチールコードの各々について測定された弾性率の平均値である。一方、周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの弾性率Ecとは、タイヤ赤道を中心とした周方向補強層の幅の5%の領域内に含まれるスチールコードの各々について測定された弾性率の平均値である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りラジアルタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りラジアルタイヤのベルト層及び周方向補強層を抽出して示す展開図である。
【
図3】スチールコードの引張り張力と伸び率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる重荷重用の空気入りラジアルタイヤを示し、
図2はそのベルト層及び周方向補強層を抽出して示すものである。本実施形態は、最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態でのタイヤ最大幅が350mm以上であって、偏平率が60%以下である空気入りラジアルタイヤを描写するものである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0018】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のスチールコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられた構造を有している。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0019】
トレッド部1におけるカーカス層4の外径側には4層のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のスチールコードを含んでいる。これらベルト層7は、スチールコードが互いに交差する中央2層の主ベルト層72,73と、これら主ベルト層72,73の内径側及び外径側に配置された補助ベルト層71,74とを有している。より具体的には、補助ベルト層71及び主ベルト層72はタイヤ周方向に対して一方側(L貼り)に傾斜し、主ベルト層73及び補助ベルト層74はタイヤ周方向に対して他方側(R貼り)に傾斜している。主ベルト層72,73を構成するスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば15°~35°の範囲に設定され、補助ベルト層71,74を構成するスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば15°~75°の範囲に設定されている。
【0020】
主ベルト層72,73の層間には、タイヤ周方向に配向するスチールコードを含む少なくとも1層の周方向補強層8が配設されている。この周方向補強層8は少なくとも1本のスチールコードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に対して5°以下であって実質的に0°で連続的に巻回したジョイントレス構造を有している。周方向補強層8は、補助ベルト層71と主ベルト層72との間や主ベルト層73と補助ベルト層74との間に配設されていても良く、或いは、補助ベルト層71の内周側や補助ベルト層74の外周側に配設されていても良い。
【0021】
また、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の周方向主溝11が形成されており、これら周方向溝11により複数列の陸部12が区画されている。
【0022】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、周方向補強層8を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0と周方向補強層8を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1とは-5GPa≦Em0-Em1<15GPaの関係を満足している。
【0023】
図3はスチールコードの引張り張力と伸び率との関係を示すグラフである。
図3において、曲線C
0は周方向補強層8を構成するスチールコードの初期状態での引張り張力と伸び率との関係を示し、曲線C
1は周方向補強層8を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での引張り張力と伸び率との関係を示している。
図3の例では、周方向補強層8を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em
1は、スチールコード内部へのゴム浸透により、周方向補強層8を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em
0よりも小さくなっている。そして、周方向補強層8を構成するスチールコードは、初期状態での最大接線弾性率Em
0とタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em
1とが上記関係を満足するようなコード構造を有している。
【0024】
周方向補強層8に使用されるスチールコードの撚り構造は特に限定されるものではないが、M本(M=5~10)の素線からなるN本(N=3~5)のストランドを撚り合わせたN×M構造を採用することが好ましい。このようなN×M構造として、例えば3×7構造が例示される。また、各素線の直径は0.20mm~0.40mmの範囲にあると良い。
【0025】
このように周方向補強層8を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0と周方向補強層8を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1とが所定の関係を満足することにより、広幅かつ低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層7及び周方向補強層8に起因する故障の発生を効果的に抑制し、その耐久性を改善することができる。
【0026】
ここで、Em0-Em1の値が15GPaよりも大きいと、ベルト層7に対する補強作用が低減するため、高速走行時において、ベルト層7のエッジ部が遠心力によりせり上がる現象を抑制することが難しくなる。逆に、Em0-Em1の値が-5GPaよりも小さいと、コーナリング時に発生するベルト層7に面内曲げにより、周方向補強層8のエッジ部に位置するスチールコードに圧縮方向の座屈が発生し易くなる。特に、最大接線弾性率Em0は30GPa~40GPaの範囲にあり、最大接線弾性率Em1は20GPa~30GPaの範囲にあることが望ましい。
【0027】
また、上記空気入りラジアルタイヤにおいて、
図2に示すように、周方向補強層8の幅Woとベルト層7の最大幅Wmとは0.5≦Wo/Wm≦0.9の関係を満足している。これにより、広幅かつ低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層7及び周方向補強層8に起因する故障の発生を効果的に抑制し、その耐久性を改善することができる。
【0028】
ここで、Wo/Wmの値が0.5よりも小さいと、ベルト層7に対する補強作用が低減するため、高速走行時において、ベルト層7のエッジ部が遠心力によりせり上がる現象を抑制することが難しくなる。逆に、Wo/Wmの値が0.9よりも大きい、コーナリング時に発生するベルト層7に面内曲げにより、周方向補強層8のエッジ部に位置するスチールコードに圧縮方向の座屈が発生し易くなる。
【0029】
更に、周方向補強層8においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Eeと周方向補強層8においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ecとは0.8≦Ee/Ec≦1.2の関係を満足している。これにより、広幅かつ低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層7及び周方向補強層8に起因する故障の発生を効果的に抑制し、その耐久性を改善することができる。
【0030】
ここで、Ee/Ecの値が0.8よりも小さいと、ベルト層7に対する補強作用が低減するため、高速走行時において、ベルト層7のエッジ部が遠心力によりせり上がる現象を抑制することが難しくなる。逆に、Ee/Ecの値が1.2よりも大きい、コーナリング時に発生するベルト層7に面内曲げにより、周方向補強層8のエッジ部に位置するスチールコードに圧縮方向の座屈が発生し易くなる。特に、弾性率Eeは40GPa~65GPaの範囲にあり、弾性率Ecは40GPa~65GPaの範囲にあることが望ましい。
【0031】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、空気圧100kPaを充填した状態から最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態までの間で変化するトレッド部1の外周長のタイヤ赤道での外周長変化率Rcとショルダー部での外周長変化率Rsとは0.7≦Rc/Rs≦1.3の関係を満足すると良い。これにより、トレッド部1のセンター部及びショルダー部における局所的な変形を抑制し、ベルト層7及び周方向補強層8に起因する故障の発生を抑制することができる。
【0032】
ここで、Rc/Rsの値が0.7よりも小さいと、ショルダー部の変形が大きくなり、ベルト層7のエッジ部の剥離や周方向補強層8のエッジ部におけるスチールコードの疲労破断を発生し易くなる。逆に、Rc/Rsの値が1.3よりも大きいと、センター部の変形が大きくなり、ベルト層7と周方向補強層8との間で層間剥離が生じ易くなる。
【0033】
重荷重用の空気入りラジアルタイヤにおいて、空気圧100kPaを充填した時のトレッド部の外形は成形金型のトレッド成形面の外形に相当する。従って、トレッド部のタイヤ赤道における外周長の変化率Rcとショルダー部における外周長の変化率Rsとの比Rc/Rsが上記範囲であることは、タイヤに許容された最大の規定空気圧を充填したときのトレッド部の外形が、成形金型のトレッド成形面の外形に対してタイヤ赤道から両ショルダー部までのトレッド幅全体において略均等な割合で変化することを意味する。このことは、特に広幅かつ低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて、耐久性の改善に寄与する。
【0034】
なお、外周長変化率Rcが測定されるタイヤ赤道とは、トレッド部のタイヤ幅方向を2等分した中央位置である。また、外周長変化率Rsが測定されるショルダー部とは、タイヤ赤道からタイヤ総幅の35%離れた位置である。但し、タイヤ赤道及びショルダー部にそれぞれ周方向主溝11が存在する場合、タイヤ赤道の位置はその周方向主溝11に直近の陸部12上の位置とし、ショルダー部の位置はその周方向主溝11からタイヤ幅方向外側にずれた直近の陸部12上の位置とする。
【0035】
また、外周長変化率Rc,Rsは、下記の式(2)及び(3)により算出される。
Rc=(Cc2-Cc1)/Cc1 ・・・(2)
Rs=(Cs2-Cs1)/Cs1 ・・・(3)
但し、Cc1:空気圧100kPaを充填時のタイヤ赤道での外周長
Cc2:最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填時のタイヤ赤道での外周長
Cs1:空気圧100kPaを充填時のショルダー部での外周長
Cs2:最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填時のショルダー部での外周長
なお、ショルダー部での外周長Cs1及びCs2はそれぞれ左右のショルダー部で測定された値の平均値である。
【0036】
上述した実施形態では、最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態でのタイヤ最大幅が350mm以上であって、偏平率が60%以下である空気入りラジアルタイヤについて説明したが、本発明は上記要件を満たさない空気入りラジアルタイヤにも適用可能である。しかしながら、本発明は、上述のような広幅であって低偏平率の空気入りラジアルタイヤにおいて顕著な効果を奏するものである。
【実施例0037】
タイヤサイズ445/50R22.5で、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、タイヤ周方向に対して傾斜するスチールコードを含む4層のベルト層と、タイヤ周方向に配向するスチールコードを含む1層の周方向補強層とが配設された空気入りラジアルタイヤにおいて、周方向補強層を構成するスチールコードの初期状態での最大接線弾性率Em0、周方向補強層を構成するスチールコードのタイヤから取り出された状態での最大接線弾性率Em1、差Em0-Em1、周方向補強層においてセンター部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ec、周方向補強層においてエッジ部に配置されるスチールコードの0.5%~1.0%伸長時の弾性率Ee、比Ee/Ec、周方向補強層の幅Woとベルト層の最大幅Wmとの比Wo/Wm、空気圧100kPaを充填した状態から最大負荷能力に対応する規定空気圧を充填した状態までの間で変化するトレッド部の外周長のタイヤ赤道での外周長変化率Rcとショルダー部での外周長変化率Rsとの比Rc/Rsを表1のように設定した従来例、比較例1~4及び実施例1~9のタイヤを製作した。
【0038】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0039】
耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ22.5×17.00のホイールに組み付けて空気圧として900kPaを充填した後、ドラム表面が平滑な鋼製で直径が1707mmであるドラムを備えたドラム試験機を使用し、周辺温度を38±3℃に制御し、走行速度60km/hとし、荷重をJATMA最大負荷能力の88%とする条件下で60分間予備走行を行った。予備走行を完走した後、引き続き同じ速度で荷重をJATMA最大負荷能力の120%とし、振り幅±4°のスリップ角を0.05Hzのサイン波で与えながら本走行を開始し、タイヤが破壊するまでの走行距離を計測した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、耐久性が優れていることを意味する。
【0040】
【0041】
表1から判るように、実施例1~9のタイヤは、従来例に比べて耐久性が改善されていた。一方、比較例1,3,4のタイヤは、比Ee/Ecの値が小さ過ぎるため、ベルト層のせり上がりを十分に抑制することができず、従来例に比べて耐久性が悪化していた。比較例2のタイヤは、比Ee/Ecの値が大き過ぎるため、周方向補強層のスチールコードに圧縮方向の座屈が発生し、従来例に比べて耐久性が悪化していた。また、比較例3のタイヤは、比Ee/Ecの値が小さ過ぎるため、ベルト層のせり上がりを十分に抑制することができず、従来例に比べて耐久性が悪化していた。
【0042】
また、実施例1~4の対比において、比Rc/Rsの値が大き過ぎるとセンター部の変形が大きくなることでベルト層と周方向補強層との間に層間剥離が生じ易くなり、比Rc/Rsの値が小さ過ぎるとショルダー部の変形が大きくなることでベルト層のエッジ部の剥離や周方向補強層のスチールコードの疲労破断が発生し易くなる傾向が見られた。