(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096056
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】盗難防止ボルト及び盗難防止締結構造
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20220622BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20220622BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
F16B41/00 P
F16B35/00 T
F16B37/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208945
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和興
(57)【要約】
【課題】締結及び取外しに特殊な工具を必要とせず、しかも盗難防止効果を備えた盗難防止ボルトとこれを用いた盗難防止締結構造を提供する。
【解決手段】ボルトの軸部12に、複数のおねじ部13,14を順次形成した盗難防止ボルトである。これらの複数のおねじ部は互いに逆方向のねじ山を持つものであり、ボルトの頭部側のおねじ部13のねじ山径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部14のねじ山径よりも大きくした。これらのおねじ部13,14が順次螺合するめねじ部25,25を持つめねじ部材20と組み合わせて盗難防止締結構造を構成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの軸部に、複数のおねじ部を順次形成した盗難防止ボルトであって、
前記複数のおねじ部は互いに逆方向のねじ山を持つものであり、
前記複数のおねじ部は、ボルトの頭部側のおねじ部のねじ山径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きくしたことを特徴とする盗難防止ボルト。
【請求項2】
前記複数のおねじ部は、ボルトの頭部側のおねじ部の谷径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の盗難防止ボルト。
【請求項3】
前記複数のおねじ部の個数が、2又は3であることを特徴とする請求項1または2に記載の盗難防止ボルト。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の盗難防止ボルトと、めねじ部材を組み合わせた盗難防止締結構造であって、
前記めねじ部材は、前記複数のおねじ部と順次螺合する複数のめねじ部を備えたものであることを特徴とする盗難防止締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盗難防止ボルトと、これをめねじ部材と組み合わせた盗難防止締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のナンバープレート等を固定するためには、締結後は容易に取外せない構造の各種の盗難防止ボルトが用いられている。盗難防止ボルトの多くは特殊な工具を用いないと外すことができない構造であり、例えば特許文献1には、通常の工具により締結することはできるが、取外すためには特殊な工具を必要とする盗難防止ボルトが記載されている。
【0003】
ナンバープレートの固定にこのような盗難防止ボルトを用いた場合、ナンバープレートを取外すことがある自動車ディーラなどでは、必要な人全員に特殊な工具を配備することとなる。しかし大量生産される一般的な工具とは異なり、特殊な工具は高価になり勝ちであるから、ユーザにとっては経済的負担が大きくなる。また、世界中のディーラにその特殊な工具が行き届くということは、逆にその特殊な工具によって取外されてしまう危険も大きくなることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決して、締結及び取外しに特殊な工具を必要とせず、しかも盗難防止効果を備えた盗難防止ボルトとこれを用いた盗難防止締結構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の盗難防止ボルトは、ボルトの軸部に、複数のおねじ部を順次形成した盗難防止ボルトであって、前記複数のおねじ部は互いに逆方向のねじ山を持つものであり、前記複数のおねじ部は、ボルトの頭部側のおねじ部のねじ山径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きくしたことを特徴とするものである。なお、前記複数のおねじ部は、ボルトの頭部側のおねじ部の谷径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きくしたものであることが好ましく、前記複数のおねじ部の個数が、2又は3であることが好ましい。
【0007】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の盗難防止締結構造は、上記した盗難防止ボルトと、めねじ部材を組み合わせた盗難防止締結構造であって、前記めねじ部材は、前記複数のおねじ部と順次螺合する複数のめねじ部を備えたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の盗難防止ボルト及び盗難防止締結構造は、通常工具を用いて先ず一方向にボルトを回して軸先端側のおねじ部をそれに対応するめねじ部から離脱させると、回転トルクがゼロとなる。しかしこの段階でボルトの頭部側のおねじ部がそれに対応するめねじ部に当たるため、そのまま引き抜くことができない。この2番目のおねじ部は1番目のおねじ部とは逆方向のねじ山を持つものであるから、そのまま回転を続けても空回りするだけである。この状態から逆方向に回転させることによって、2番目のおねじ部が2番目のめねじ部に噛み合いながら通過し、ボルトを引き抜くことができる。
【0009】
このように途中でボルトの回転方向を反転させることは、この盗難防止ボルトの構造を知らない人にとっては容易に行うことができず、試行錯誤の時間を要することになる。従って予定外の時間がかかるため諦める可能性が高く、盗難防止効果を得ることができる。しかも特殊な工具を必要としないので、ユーザの経済的負担を軽減できる利点がある。
【0010】
なお、ボルトの頭部側のおねじ部の谷径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きくしておけば、頭部側のおねじ部がそれに対応するめねじ部を通過した後、軸先端側に隣接するおねじ部はこのめねじ部の内部を自由に通過することができ、締結及び取外しの際にねじ山を潰すことがない。また、おねじ部の個数を3としておけば、回転方向を2度逆転させる必要があるので、さらに盗難防止効果を高めることができる。また、頭部側のねじを中間のねじより大きくすることにより、例えば右回転、左回転、右回転など、2回回転方向を変化させることもでき、盗難防止効果を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の盗難防止ボルトの斜視図である。
【
図2】第1の実施形態のめねじ部材の斜視図である。
【
図4】軸先端側のおねじ部をめねじ部から離脱させた状態を示す断面図である。
【
図5】頭部側のおねじ部がめねじ部に噛み合いながら通過する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は第1の実施形態の盗難防止ボルト10の斜視図であり、11は頭部、12は頭部11に続く軸部である。頭部11の形状はこの実施形態では六角柱であるが、特殊な工具を必要とせずに盗難防止ボルト10を回転できる形状であれば、任意の形状とすることができる。この第1の実施形態では、軸部12に2つのおねじ部13、14が順次形成されている。13はボルトの頭部側のおねじ部であり、14はボルトの軸先端側のおねじ部である。
【0013】
これらのおねじ部13、14は互いに逆方向のねじ山を持つものであり、この実施形態では軸先端側のおねじ部14は一般的な右ねじ、頭部側のおねじ部13は左ねじである。しかしこれとは逆に、小径おねじ部14を左ねじとし、大径おねじ部13を右ねじとしてもよい。
【0014】
また、頭部側のおねじ部13のねじ山径を、軸先端側に隣接するおねじ部14のねじ山径よりも大きくしておく。この実施形態では、大径おねじ部13はM8サイズであり、小径おねじ部14はM5サイズである。さらに、頭部側のおねじ部13の谷径を、軸先端側に隣接するおねじ部14のねじ山径よりも大きくしておくことが好ましい。メートル並目ねじのJISによれば、M8ねじの谷径は6.647mmであり、M5ねじの外径は5.000mmであり、この条件を満たしている。この条件を設定した理由は後述する。なおこの条件の範囲内において、具体的なねじのサイズを様々に変更可能であることはいうまでもない。
【0015】
この実施形態ではおねじ部13とおねじ部14とは隣接しているが、両者間に適宜の間隔を明けてもよい。ねじなし軸部12の長さは、以下に説明するめねじ部材20との関係で決定されるため、後述する。
【0016】
なお、頭部側のおねじ部13のねじ山は完全なねじ山ではなく、
図11に示すように頂部を切り欠いた台形状としてもよい。その理由は、頭部側のおねじ部13は締結時に軸力を受けないためである。一方、軸先端側のおねじ部14は締結時に軸力を受けるため、完全なねじ山とすることが望ましい。
【0017】
図2は、上記の盗難防止ボルト10と組み合わせて盗難防止締結構造を構成するめねじ部材20の斜視図である。この実施形態ではめねじ部材20は箱型となっているが、その外形は任意に変更可能である。
【0018】
めねじ部材20の盗難防止ボルト10が差し込まれる表面21には、ボルト挿入口22が形成されている。その内径は盗難防止ボルト10の大径のおねじ部13を自由に通過させることができるものとしておく。
【0019】
めねじ部材20の内部は空洞23となっており、前記した複数のおねじ部13、14と順次螺合する複数のめねじ部24、25が形成されている。具体的には、めねじ部材20の入口側には盗難防止ボルト10の大径のおねじ部13と螺合する大径のめねじ部24が形成され、奥側には小径のおねじ部14と螺合する小径のめねじ部25が形成されている。この実施形態ではめねじ部24はおねじ部13が噛み合う左ねじのM8ナットであり、めねじ部25はおねじ部14が噛み合う右ねじのM5ナットである。M8ナットとM5ナットは空洞23の上下に形成されたナット挿入部に横方向から挿入されており、ボルトに軸線方向には移動できないようになっている。しかしこの実施形態のようにめねじ部材20の内部にナットを挿入する構造ではなく、めねじ部材20の内面に直接めねじを切ってもよい。
【0020】
図3に盗難防止ボルト10をめねじ部材20に締結した状態を示す。30は、盗難防止ボルト10の頭部11の座面と、めねじ部材20の表面21との間に固定されたナンバープレート等の被締結部材である。この状態では、盗難防止ボルト10の軸先端のおねじ部14が、めねじ部材20のめねじ部25と螺合している。また頭部側のおねじ部13は、空洞23の内部にある。
【0021】
図3の締結状態から盗難防止ボルト10を右ねじを緩める方向(左方向)に回転させると、
図4に示すように盗難防止ボルト10のおねじ部14がめねじ部材20のめねじ部25から離脱し、その時点で回転トルクはゼロとなる。通常のボルトであればそのまま引き抜くことができる筈であるが、本発明の盗難防止ボルト10は大径のおねじ部13の端部が大径のめねじ部24の端面に当たるため、そのまま引き抜くことはできない。
【0022】
引き抜くためには、
図5に示すように盗難防止ボルト10のおねじ部13をめねじ部24に螺合させながら回転することにより、移動させねばならない。しかしおねじ部13はおねじ部14とは逆方向ねじであるから、
図4の状態から
図5の状態とするには、盗難防止ボルト10を引き上げながらそれまでとは逆方向(右方向)に回転させねばならない。この操作は盗難防止ボルト10の構造を知らない者にとっては試行錯誤を繰り返さないと行うことができず、盗難に予想外の時間を要することとなるので外すことを諦め、盗難防止効果が発揮されることとなる。しかもこの操作は、盗難防止ボルト10の構造を知っている作業者にとっては容易に行うことができる。
【0023】
図5の状態から盗難防止ボルト10を更に逆回転させれば、おねじ部13はめねじ部24から離脱し、
図6のように締結を解除して被締結部材30を取外すことができる。このように、本発明の盗難防止ボルト10は、特殊な工具を必要とせず、盗難防止効果を得ることができる。なお締結の際には、上記とは逆の手順を踏めばよい。
【0024】
上記したように、
図5の状態から
図6の状態まで盗難防止ボルト10を引き抜くためには、大径のめねじ部24の内部を小径のおねじ部14を通過させる必要がある。このため前記したように、ボルトの頭部側のおねじ部13の谷径を、ボルトの軸先端側に隣接するおねじ部14のねじ山径よりも大きくしておく。おねじ部13の谷径はめねじ部24の内径とほぼ等しいため、このように設計しておけばめねじ部24のねじ山を損傷することなく、おねじ部14を通過させることが可能となる。
【0025】
また本発明では途中で盗難防止ボルト10の回転方向を反転させるので、
図4のように盗難防止ボルト10のおねじ部14がめねじ部材20のめねじ部25から離脱し、しかも盗難防止ボルト10のおねじ部13がめねじ部24に螺合しない状態が必要である。このためには
図7に示すように、めねじ部材20のめねじ部13の終端Aとめねじ部25の始端Bとの距離Xを、盗難防止ボルト10のおねじ部13の終端Cとおねじ部25の始端Dとの距離Yよりも長くしておく必要がある。これにより途中で回転トルクがゼロの状態を作り、次に反対方向に回転させる動作が可能となる。
【0026】
図8~
図10に、本発明の第2の実施形態を説明する。この実施形態では、盗難防止ボルト10の軸部12に、3つのおねじ部41、42、43が形成されている。これらのおねじ部は何れも、ボルトの頭部側のおねじ部のねじ山径がボルトの軸先端側に隣接するおねじ部のねじ山径よりも大きく、かつ、互いに逆方向のねじ山を持つものである。例えば、おねじ部41、42、43のねじ山の方向は、右、左、右と設定されている。しかし左、右、左としてもよい。めねじ部材20にも、これらのおねじ部41、42、43が螺合する3つのめねじ51、52、53が形成されている。
【0027】
図8に示す締結状態から盗難防止ボルト10を一方向に回転させておねじ部15をめねじ部53から離脱させると、
図9の状態となる。ここで盗難防止ボルト10を逆回転させると、おねじ部14がめねじ部52を通過し、
図10の状態となる。さらに盗難防止ボルト10を最初の方向に回転させると、おねじ部13がめねじ部51を通過し、締結を解除することができる。このように途中で回転方向を2度反転させる必要があるので、さらに盗難防止効果を高めることができる。
【0028】
図11~
図13に、本発明の第3の実施形態を説明する。この実施形態は盗難防止ボルト10の軸部12に、3つのおねじ部41、42、43が形成されていることは第2の実施形態と同様であるが、めねじ部51、52、53の大きさを変えた形状となっている。このように、本発明は様々な変形が可能である。
【0029】
以上に説明したように、本発明は、締結及び取外しに特殊な工具を必要とせず、しかも盗難防止効果に優れた盗難防止ボルトとこれを用いた盗難防止締結構造を提供するものである。
【符号の説明】
【0030】
10 盗難防止ボルト
11 頭部
12 軸部
13 おねじ部
14 おねじ部
15 おねじ部
20 めねじ部材
21 表面
22 ボルト挿入口
23 空洞
24 めねじ部
25 めねじ部
26 段部
30 被締結部材
41 おねじ部
42 おねじ部
43 おねじ部
51 めねじ部
52 めねじ部
53 めねじ部