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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096066
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】フラーレンの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/154 20170101AFI20220622BHJP
【FI】
C01B32/154
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208957
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匡
(72)【発明者】
【氏名】シュウ ティンティン
(72)【発明者】
【氏名】冨田 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】大坪 裕彦
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA07
4G146BA12
4G146BC02
4G146BC27
4G146BC31A
4G146BC38A
4G146DA03
4G146DA21
4G146DA23
4G146DA31
4G146DA40
(57)【要約】
【課題】フラーレンの収率を向上させることを可能としたフラーレンの製造装置を提供する。
【解決手段】炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを生成するフラーレンの製造装置は、一端側の壁部と、他端側の壁部と、前記一端側の壁部と前記他端側の壁部を囲む周壁部とを有する反応炉と、前記反応炉の一端側に設けられ、他端側に向けて前記炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを噴射して不完全燃焼させる第1の噴射部と、前記第1の噴射部の外側に配置され、第2の酸素含有ガスを反応炉2内に、噴射する第2の噴射部と、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを生成するフラーレンの製造装置であって、
一端側の壁部と、他端側の壁部と、前記一端側の壁部と前記他端側の壁部を囲む周壁部とを有する反応炉と、
前記反応炉の一端側に設けられ、他端側に向けて前記炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを噴射して不完全燃焼させる第1の噴射部と、
前記第1の噴射部の外側に配置され、第2の酸素含有ガスを反応炉2内に噴射する第2の噴射部と、を有するフラーレンの製造装置。
【請求項2】
前記第2の噴射部が前記第1の噴射部を囲むように配置される請求項1に記載のフラーレンの製造装置。
【請求項3】
前記第2の噴射部は、前記一端側と前記他端側との間の周囲から前記第2の酸素含有ガスを噴射することを特徴とする請求項1に記載のフラーレンの製造装置。
【請求項4】
前記反応炉内を吸引しながら、前記反応炉内を減圧状態とする減圧機構を備えることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のフラーレンの製造装置。
【請求項5】
炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを反応炉内で生成する生成工程と、
前記生成工程において、第1の噴射部から炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを前記反応炉内に噴射しながら、不完全燃焼させると共に、
第2の酸素含有ガスを前記第1の噴射部の外側に噴射することを特徴とするフラーレンの製造方法。
【請求項6】
前記反応炉内を吸引しながら、前記反応炉内を減圧状態とすることを特徴とする請求項5に記載のフラーレンの製造方法。
【請求項7】
前記反応炉内の圧力を1~30kPaとすることを特徴とする請求項6に記載のフラーレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンの製造方法として、反応炉内で炭化水素を含む原料ガス(以下、「原料ガス」ともいう)を不完全燃焼させることによって、フラーレンを生成する燃焼法が知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。この燃焼法では、原料ガスの不完全燃焼により生成される煤状物の中に含まれるフラーレンを大量且つ安価に製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-160316号公報
【特許文献1】特開2003-171106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来の燃焼法では、煤状物の中に含まれるフラーレンの収率が高くないため、このフラーレンの収率を高めて、フラーレンの製造コストを更に低減することが望まれている。
【0005】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、フラーレンの収率を向上させることを可能としたフラーレンの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の手段を提供する。
(1)炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを生成するフラーレンの製造装置であって、一端側の壁部と、他端側の壁部と、前記一端側の壁部と前記他端側の壁部を囲む周壁部とを有する反応炉と、前記反応炉の一端側に設けられ、他端側に向けて前記炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを噴射して不完全燃焼させる第1の噴射部と、前記第1の噴射部の外側に配置され、第2の酸素含有ガスを反応炉2内に噴射する第2の噴射部と、を有するフラーレンの製造装置。
(2)前記第2の噴射部が前記第1の噴射部を囲むように配置される前項(1)に記載のフラーレンの製造装置。
(3)前記第2の噴射部は、前記一端側と前記他端側との間の周囲から前記第2の酸素含有ガスを噴射することを特徴とする前項(1)に記載のフラーレンの製造装置。
(4)前記反応炉内を吸引しながら、前記反応炉内を減圧状態とする減圧機構を備えることを特徴とする前項(1)~(3)の何れか一項に記載のフラーレンの製造装置。
(5)炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを反応炉内で生成する生成工程と、前記生成工程において、第1の噴射部から炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを前記反応炉内に噴射しながら、不完全燃焼させると共に、第2の酸素含有ガスを前記第1の噴射部の外側に噴射することを特徴とするフラーレンの製造方法。
(6)前記反応炉内を吸引しながら、前記反応炉内を減圧状態とすることを特徴とする前項(5)に記載のフラーレンの製造方法。
(7)前記反応炉内の圧力を1~30kPaとすることを特徴とする前項(6)に記載のフラーレンの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、フラーレンの収率を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るフラーレンの製造装置の一例を示す構成図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るバーナ9及び第2の噴射部10Aを備える反応炉の構成を示す断面図である。
図3図2に示すバーナ9及び第2の噴射部10Aの先端面の構成を例示した平面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係るバーナ9及び第2の噴射部10Bを備える反応炉の構成を示す断面図である。
図5図4に示す第2の噴射部10B及び第2の噴射口22aの形状及び配置を例示する縦断面図である。
図6図4に示す第2の噴射部10Bの第2の噴射口22aの配置を例示する横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用したフラーレンの製造装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0010】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るフラーレンの製造装置について、図1及び図2を用いて説明する。
図1は、本実施形態のフラーレンの製造装置1の一例を示す構成図である。図2は、本実施形態のフラーレンの製造装置1が備える反応炉2の一例を示す断面図である。
【0011】
本実施形態のフラーレンの製造装置1は、図1に示すように、炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを含む煤状物を生成する反応炉2と、反応炉2内で生成された煤状物を回収する回収機構3と、回収機構3を通過したガスを冷却する冷却機構4と、冷却機構4で冷却されたガスを吸引しながら、反応炉2内を減圧状態とする減圧機構5とを備えている。
【0012】
また、このフラーレンの製造装置1は、反応炉2と回収機構3との間を接続する第1の配管6と、回収機構3と冷却機構4との間を接続する第2の配管7と、冷却機構4と減圧機構5との間を接続する第3の配管8とを有している。
【0013】
反応炉2は、円筒状であり、一端側(上側)の壁部2bと、他端側(下側)の壁部2cと、一端側の壁部2bと他端側の壁部2cを囲む周壁部2aとを有して、鉛直方向に起立した状態で配置されている。他端側の壁部2cには、排ガスを排出する排出口2d(以下、「排ガス排出口2d」ともいう)が設けられている。
【0014】
なお、反応炉2の材質については、例えば、ジルコニア(ZrO)やタングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、アルミナ(Al)、炭化ケイ素(SiC)などの耐熱材料が挙げられる。また、その外側と内側の少なく一部には、例えばアルミナ質の耐火煉瓦やアルミナ質の不定形耐火材等の断熱材がライニングされていてもよい。
【0015】
なお、反応炉2の配置については、上述した鉛直方向に配置することが、煤状物の滞留の影響が少ないことから好ましい。また、反応炉2の配置方向が鉛直方向である場合、原料ガスは上方から供給することが好ましい。一方、反応炉2については、例えば、水平方向や斜め方向に傾けた状態で配置することも可能である。
【0016】
さらに、反応炉2は、図2に示すバーナ9及び第2の噴射部10Aを備えている。図3(A),(B)は、バーナ9の第1の噴射部23cと第2の噴射部10Aとの先端面の構成を例示した平面図である。
【0017】
バーナ9は、反応炉2の一端側の壁部2bを貫通した状態で取り付けられた有天円筒状のバーナホルダ23と、バーナホルダ23の内側には、上側から順に設けられている予混合室23aと、蓄圧室23bと、第1の噴射部23cとを有している。また、バーナホルダ23の上部には、原料ガスを導入する配管24aと、第1の酸素含有ガスを導入する配管24bとが接続されている。
【0018】
予混合室23aは、配管24aから導入された原料ガスと、配管24bから導入された第1の酸素含有ガスと、を所定の割合で混合する。蓄圧室23bは、予混合室23aで混合された原料ガスと第1の酸素含有ガス(以下「混合ガス」ともいう)を所定の圧力で蓄圧する。第1の噴射部23cは、その先端面において、複数の第1の噴射口21aを有し、蓄圧室23bで蓄圧された混合ガスを第1の噴射口21aから下方(排ガス排出口2dに向かう方向)に向けて噴射する。第1の噴射部23cは、多孔質のセラミック焼結体や金属粉末の焼結体で構成されていてもよい。
【0019】
また、本実施形態では、バーナホルダ23の内側に、予混合室23aと、蓄圧室23bと、第1の噴射部23cとが設けられた構成となっているが、予混合室23aを省略した構成としてもよい。さらに、必要に応じて、予混合室23a及び蓄圧室23bをバーナホルダ23の外部に設けた構成としてもよい。
【0020】
第2の噴射部10Aは、例えば、一定の厚みを有する筒であり、反応炉2内の一端側の壁部2b側に、第1の噴射部23cの外側に配置され、第2の酸素含有ガスを供給する配管25と接続されている。ここで、第1の噴射部23cの外側に配置されるとは、第2の噴射部10Aの筒の内周面と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離が、第1の噴射部23cの外周側と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離より近い位置に、第2の噴射部10Aが配置されることである。より具体的には、図2に示すように、第2の噴射部10Aは、第1の噴射部23cの周囲を囲むように配置されている。すなわち、第2の噴射部10Aの筒の内周面と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離が、第1の噴射部23cの外周側と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離より近いになっているため、第2の噴射部10Aは第1の噴射部23cの外側に配置されている。また、第2の噴射部10Aの筒の内周面と周壁部2a内周面の最短水平直線距離は、短いほど好ましい。
【0021】
第2の噴射部10Aは、筒の先端面において、第2の酸素含有ガスを噴射する第2の噴射口22aが設けられている。また、第2の噴射部10Aの内部には、第2の噴射口22aと配管25とを接続する通路が設けられている。
【0022】
第2の噴射口22aの形状及び数については、特に限定していないが、一例として、図3(A)に示すように、円形状である。図3(A)において、第2の噴射部10Aの先端面がリンク状であり、複数の第2の噴射口22aが第2の噴射部10Aの先端面に均等に配置されている。
【0023】
また、図3(B)に示すように、リング状の第2の噴射部10Aの先端面にリンク状の第2の噴射口22aが配置されていてもよい。
【0024】
なお、第1の噴射部23cの先端面と、第2の噴射部10Aの先端面は、鉛直方向において、同様な高さ位置を有してもよく、異なる高さ位置を有してもよいが、同様な高さ位置を有するのが好ましい。
【0025】
配管25は、反応炉2の周壁部2aにおける上部を貫通した状態で、第2の酸素含有ガスを第2の噴射部10Aに供給する。配管25は、反応炉2の一端側の壁部2bを貫通して、第2の酸素含有ガスを第2の噴射部10Aに供給してもよい。第2の噴射部10Aは、配管25を介して供給された第2の酸素含有ガスを第2の噴射口22aから下方に向けて噴射する。
【0026】
また、反応炉2の第1の配管6が接続される位置の近傍には、原料ガスを着火するための着火機構30が設けられている。
【0027】
第1の噴射部23cから反応炉2内に噴射される原料ガス及び第1の酸素含有ガスを不完全燃焼させることにより、フラーレンを含む煤状物と一酸化炭素と二酸化炭素と水蒸気と未反応の原料ガスを有する排ガスが生成する。
【0028】
また、第1の噴射部23cの外側に配置される第2の噴射部10Aから反応炉2内に第2の酸素含有ガスを噴射することにより、第1の噴射部23cの外側に酸素が富むゾーンが形成される。
【0029】
第1の配管6は、排ガス排出口2dと接続されている。原料ガスの不完全燃焼により生成した排ガスが第1の配管6を通過して回収機構3に到達する。
【0030】
回収機構3は、フィルタ11が収容された捕集器12と、捕集器12の上端(一端)側に電磁弁13を介して接続されたタンク14と、捕集器12の下端(他端)側に設けられた排出弁15とを有している。
【0031】
第1の配管6は、捕集器12の上部側の側面に接続されている。第2の配管7は、捕集器12の上部に接続されている。フィルタ11には、例えば、焼結金属フィルタが用いられている。電磁弁13は、第2の配管7から分岐して接続されている。タンク14には、例えば、窒素ガス(N)やアルゴンガス(Ar)などの高圧の不活性ガスが貯留されている。
【0032】
回収機構3では、第1の配管6から供給される排ガスの中に含まれる煤状物をフィルタ11により捕集した後、電磁弁13を定期的に開放することで、タンク14から捕集器12に向けて不活性ガスを噴射する。これにより、フィルタ11に付着された煤状物が脱落する。その後、排出弁15を開放することで、捕集器12内に溜まった煤状物を回収することが可能となっている。
【0033】
冷却機構4は、通常の熱交換器と同一又は近似した構造を有し、その一端(上端)側が第2の配管7と接続され、その他端(下端)側が第3の配管8と接続されている。
【0034】
冷却機構4では、回収機構3を通過したガスが冷却される。また、冷却機構4では、ガス中の未反応の炭化水素や、水蒸気を液化させ、下部側に設けられたドレーン16から排出することが可能となっている。
【0035】
なお、このような冷却機構4とは別に、第1の配管6を通過する排ガスが高温であることから、この第1の配管6が冷却される構成としてもよい。
【0036】
減圧機構5は、真空ポンプからなり、第3の配管8を通して冷却機構4で冷却されたガスを吸引する。これにより、反応炉2との間で負圧を発生させながら、反応炉2内で生成された煤状物を第1の配管6を通して回収機構3側へと排出することが可能である。
【0037】
原料ガスに含まれる炭化水素としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の炭素数6~15の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等が挙げられる。また、これらの炭化水素を2種以上混合して用いてもよい。原料ガスには、上述した炭化水素の中でも、芳香族炭化水素を含むことが好ましい。なお、原料ガスは、必要に応じて、窒素やアルゴンなどの不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0038】
また、第1の酸素含有ガスは、酸素ガスを含むガスであり、例えば、酸素や空気などが挙げられる。第1の酸素含有ガスは、原料ガスとは別に反応炉2に供給してもよく、若しくは、予め原料ガスと混合してから反応炉2に供給してもよい。
【0039】
なお、第2の酸素含有ガスは、酸素ガス、空気、または酸素ガスと不活性ガスからなる混合ガスである。不活性ガスは、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素等が挙げられる。また、第2の酸素含有ガスは加熱されてもよい。
【0040】
反応炉2内に噴射される原料ガスと第1の酸素含有ガスの比率が、原料ガス中の炭素原子(C)数と第1の酸素含有ガス中の酸素原子(O)数との比(C/O)は、0.8~2.0であることが好ましく、1.0~1.5であることがさらに好ましい。
【0041】
また、反応炉2内に噴射される原料ガスと反応炉2内に噴射される第2の酸素含有ガスとの比率が、原料ガス中の炭素原子(C)数と第2の酸素含有ガス中の酸素原子(O)数との比(C/O)は、14.0~52.0であることが好ましく、20.0~30.0であることがさらに好ましい。
【0042】
生成されるフラーレンについては、例えば、C60フラーレン(C60)、C70フラーレン(C70)、C76、C78、C84、C90、C96等の高次フラーレンが挙げられる。
【0043】
このような構成を有する本実施形態のフラーレンの製造装置1では、排ガス中の未反応の原料ガスと生成した煤状物の大半が、第2の酸素含有ガスと反応することがなく、排ガス排出口2dより、反応炉2の外に排出されるが、少量の煤状物と未反応の原料ガスが第1の噴射部23cの外側に向かって拡散し、酸素が富むゾーンに入り、第2の酸素含有ガスと反応し、熱を放出する。これにより、第1の噴射部23cの外側の温度を向上することができ、ひいては反応炉2内の温度分布を低減することができるため、フラーレンの収率を向上させることが可能である。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るフラーレンの製造装置1について説明する。本発明の第2の実施形態に係るフラーレンの製造装置1は、図4に示す反応炉2を有する。
【0045】
図4は、バーナ9及び第2の噴射部10Bを備えている反応炉2の構成を示す断面図である。反応炉2は、鉛直方向に配置される。図5は、第2の噴射部10B及び第2の噴射部10Bが備える第2の噴射口22aの形状及び配置を例示する縦断面図である。図6は、第2の噴射部10Bの第2の噴射口22aの配置を例示する横断面図である。また、以下の説明では、第1の実施形態のフラーレンの製造装置1と同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。また、原料ガス、第1の酸素含有ガスと第2の酸素含有ガスも第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
第2の噴射部10Bは、第1の噴射部23cの外側に配置され、バーナホルダ23の周囲を囲む位置から下方に延在する円筒形状を有している。ここで、第1の噴射部23cの外側に配置されるとは、第2の噴射部10Bの内周面と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離が、第1の噴射部23cの外周側と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離より近い位置に、第2の噴射部10Bが配置されることである。より具体的には、図4に示すように、第2の噴射部10Bは、バーナホルダ23の周囲を囲む位置から下方に延在する円筒を有する。すなわち、第2の噴射部10Bの円筒の内周面と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離が、第1の噴射部23cの外周側と周壁部2aの内周面との最短水平直線距離より近いになっているため、第2の噴射部10Bは第1の噴射部23cの外側に配置されている。また、第2の噴射部10Bの内周面と周壁部2a内周面の最短水平直線距離は、短いほど好ましい。
【0047】
第2の噴射部10Bの内周面には、複数の第2の噴射口22aが並んで設けられている。また、第2の噴射部10Bの内部には、配管25と第2の噴射口22aとを接続する通路が設けられている。これにより、第2の噴射部10Bは、第2の噴射口22aから反応炉2内に第2の酸素含有ガスを噴射することができる。
【0048】
第2の噴射部10Bの内周面における第2の噴射口22aは、第2の噴射部10Bの軸線方向において、図5(A),(B),(C)に示すような形状及び配置を有してもよい。例えば、図5(A)に示す複数の第2の噴射口22aは、第2の噴射部10Bの軸線方向において、それぞれ軸線方向にスリット状に開口されて、第2の噴射部10Bの周方向に並んで配置されている。
【0049】
一方、図5(B)に示す複数の第2の噴射口22aは、それぞれ円形状に開口されて、第2の噴射部10Bの周方向及び軸線方向に並んで配置されている。
【0050】
一方、図5(C)に示す複数の第2の噴射口22aは、それぞれ第2の噴射部10Bの周方向にスリット状に開口されて、第2の噴射部10Bの軸線方向に並んで配置されている。
【0051】
また、第2の噴射部10Bは、その周方向において、図5(A),(B)に示すような複数の第2の噴射口22aを有する場合に、複数の第2の噴射口22aは、図6に示すように形成されていてもよい。例えば、図6(A)に示す複数の第2の噴射口22aは、第2の噴射部10Bの内周面の互いに同じ方向に斜めに開口している突起部33により形成されている。これにより、各第2の噴射口22aから噴射される第2の酸素含有ガスの渦状の流れを形成することが可能である。
【0052】
一方、図6(B)に示す複数の第2の噴射口22aは、第2の噴射部10Bの周方向において、互いに反応炉2の中心方向に向かって開口している。これにより、各第2の噴射口22aから噴射される第2の酸素含有ガスを反応炉2の中心に向かって噴射することが可能である。
【0053】
第1の噴射部23cの外側に配置される第2の噴射部10Bから反応炉2内に第2の酸素含有ガスを噴射することにより、第1の噴射部23cの外側に酸素が富むゾーンが形成される。
【0054】
このような構成を有する本実施形態のフラーレンの製造装置1では、排ガス中の未反応の原料ガスと生成した煤状物の大半が、第2の酸素含有ガスと反応することがなく、排ガス排出口2dより、反応炉2の外に排出されるが、少量の煤状物と未反応の原料ガスが第1の噴射部23cの外側に向かって拡散し、酸素が富むゾーンに入り、第2の酸素含有ガスと反応し、熱を放出する。これにより、第1の噴射部23cの外側の温度を向上することができ、ひいては反応炉2内の温度分布を低減することができるため、フラーレンの収率を向上させることが可能である。
【0055】
(フラーレンの製造方法)
次に、上記フラーレンの製造装置1を用いたフラーレンの製造方法について説明する。
本実施形態のフラーレンの製造方法は、炭化水素を含む原料ガスの不完全燃焼によりフラーレンを反応炉内で生成する生成工程と、前記生成工程において、第1の噴射部から炭化水素を含む原料ガスと第1の酸素含有ガスを前記反応炉内に噴射しながら、不完全燃焼させると共に、第2の酸素含有ガスを第1の噴射部の外側に噴射することを特徴とする。
【0056】
本実施形態のフラーレンの製造方法では、不完全燃焼による生成する煤状物と未反応の原料ガスが、第1の噴射部の外側に存在する第2の酸素含有ガスと反応し、熱を放出する。これにより、第1の噴射部の外側の温度を向上することができ、ひいては反応炉2内の温度分布を低減することができるため、フラーレンの収率を向上させることが可能である。
【0057】
また、反応炉2内の圧力は、1~30kPaとすることが好ましく、より好ましくは1~10kPaである。反応炉2内の圧力は、この範囲内であれば、減圧機構5の過負荷及び火炎が逆火を起こすことを防ぐことができる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0060】
[フラーレンの収率の算出]
実施例1~3及び比較例1では、C60及びC70の収率の合計をフラーレンの収率として算出した。
また、「JIS Z 8981」に準拠して、回収した煤状物に含まれるC60及びC70の含有率を、以下のように測定した。
【0061】
具体的には、回収した煤状物0.05gに対して、15gの1,2,3,5-テトラメチルベンゼン(TMB)を添加した後、15分間超音波処理し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を孔径0.5μmメンブランフイルターで濾過した後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で濾液(試料液)を分析してC60及びC70を定量し、煤状物に含まれるC60及びC70の含有率[質量%]を算出した。
【0062】
ここで、煤状物に含まれるC60及びC70の含有率を算出する際には、事前に複数の既知濃度のC60及びC70のTMB溶液により作成した検量線を用いた。
【0063】
HPLCの測定条件は、以下の通りである。
装置:Infinity1260(Agilent製)
試料液の注入量:5μL
溶離液:トルエン(47体積%)/メタノール(53体積%)混合溶媒
溶離液の流速:1ml/分
カラム:YMC-Pack ODS-AM 100*4.6mmID S-3μm,12nm
測定温度:40℃
検出器:UV 325nm(JIS)
【0064】
次に、煤状物に含まれるフラーレンの含有率(C60及びC70の含有率の合計)から、式{(煤状物の回収量[g])/(原料ガスの消費量[g])}×(フラーレンの含有率[質量%])により、フラーレン収率[質量%]を算出した。
【0065】
(実施例1)
図2に示す反応炉2を有するフラーレンの製造装置1を用いて、フラーレンを製造した。第2の噴射部10Aの先端部は、図3(A)に示す構造を有している。
【0066】
ここで、反応炉2は、鉛直方向に配置されるアルミナ製の円筒で、高さは1000mm、内径は200mmである。反応炉2の壁2bを貫通するように、バーナ9が設けられている。第1の噴射部23cは、直径が100mmの円板状の多孔質のセラミックス焼結体で構成されており、このセラミックス焼結体に直径0.5mm~1.0mm程度の孔(第1の噴出口21a)が、1cm当たりに60~80個形成されている。
【0067】
第2の噴射部10Aは、ジルコニア製で内径が170mm円筒であり、厚みは10mmである。第2の噴射部10Aの先端面には、直径5mmの第2の噴出口22aが40個均等に配置されている。
鉛直方向において、第2の噴射部10Aの先端面は、第1の噴射部23cの先端面と同様な高さ位置を有する。
【0068】
原料ガスとして、トルエンを使用し、第1の酸素含有ガスとして、純酸素ガス(純度99.9体積%)を使用した。ここで、トルエンを、一旦配管24aに設置された気化装置で加熱してガス状とした後に、バーナ9に供給した。第1の酸素含有ガスは配管24bに経由して、バーナ9に供給した。トルエンガスの流量を20g/minとし、純酸素の流量を13NL/minとした。
【0069】
第2の酸素含有ガスは、純酸素ガス(純度99.9体積%)を使用した。純酸素ガスの流量を0.65NL/minとした。
【0070】
また、フラーレンを生成させる際に、反応炉2の内部の圧力を5.33kPaとした。
【0071】
上記の条件で、フラーレンの製造装置1を3時間稼働させて、生成した煤状物を回収機構3から回収した。[フラーレンの収率の算出]に記載した方法で、煤状物中のフラーレンの含有率を測定して、フラーレンの収率を算出した。その結果、フラーレンの収率は1.3%であった。
【0072】
(実施例2)
第2の酸素含有ガスとして、純酸素ガスの流量を0.4NL/minとした以外は、実施例1と同様にフラーレンを生成した。
【0073】
上記の条件で、フラーレンの製造装置1を3時間稼働させて、実施例1と同様に生成した煤状物を回収機構3から回収して、フラーレンの収率を算出した。その結果、フラーレンの収率は0.9%であった。
【0074】
(実施例3)
図4に示す反応炉2を有するフラーレンの製造装置1を用いて、フラーレンを製造した。
【0075】
第2の噴射部10Bは、図5(B)に示す第2の噴出口22aを有している。また、第2の噴出口22aは、図6(A)のように開口している。第2の噴射部10Bは、ジルコニア製の円筒であり、円筒の内径は170mm、厚みは10mm、第1の噴射部23cの先端面より下方の部分の高さは300mmである。第2の噴射部10Bの第1の噴射部23cの先端面より下方の内周面には、20個の直径3mmの第2の噴射口22aからなる列が20列であり、互いに均等な距離で周方向に並んで配置されている。また、各列において、第2の噴射口22aの第2の噴射部10Bの軸線方向の距離も互いに均等である。
【0076】
上記以外は実施例1と同様にフラーレンを生成した。
【0077】
フラーレンの製造装置1を3時間稼働させて、実施例1と同様に生成した煤状物を回収機構3から回収して、フラーレンの収率を算出した。その結果、フラーレンの収率は1.5%であった。
【0078】
(比較例1)
第2の噴射部10Aを有しないフラーレンの製造装置1を用いてフラーレンを製造した以外は実施例1と同様にフラーレンを生成した。
【0079】
フラーレンの製造装置1を3時間稼働させて、実施例1と同様に生成した煤状物を回収機構3から回収して、フラーレンの収率を算出した。その結果、フラーレンの収率は0.6%であった。
【0080】
以上のことから、実施例1~3は、比較例1と比べて、フラーレンの収率が向上していることがわかる。すなわち、第1の噴射部の外側に配置される第2の噴射部により第2の酸素含有ガスを反応炉内に噴射することにより、フラーレンの収率を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…フラーレンの製造装置 2…反応炉 3…回収機構 4…冷却機構 5…減圧機構(真空ポンプ) 6…第1の配管 7…第2の配管 8…第3の配管 9…バーナ 10A,10B…第2の噴射部 11…フィルタ 12…捕集器 13…電磁弁 14…タンク 15…排出弁 16…ドレーン 21a…第1の噴出口 22a…第2の噴出口 23…バーナホルダ 23a…予混合室 23b…蓄圧室 23c…第1の噴射部 24a…配管 24b…配管 25…配管 30…着火機構

図1
図2
図3
図4
図5
図6