(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096080
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】造影剤含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 49/04 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
A61K49/04
A61K49/04 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020208979
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔
(72)【発明者】
【氏名】松澤 篤史
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH05
4C085JJ03
4C085KB24
4C085KB26
4C085KB41
4C085KB69
(57)【要約】
【課題】操作性が良好で、X線CTマーカー用に好適な撮像性を有する造影剤含有組成物を提供する。
【解決手段】造影剤、スチレン・ブタジエン系ラテックス、およびアルコールを少なくとも含有する造影剤含有組成物であって、該造影剤の含有量が該組成物の固形分中34~89質量%であり、該スチレン・ブタジエン系ラテックスのTgが-50℃~17℃であり、且つ、該アルコールの含有量が該組成物中1~5質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤、スチレン・ブタジエン系ラテックス、およびアルコールを少なくとも含有する造影剤含有組成物であって、該造影剤の含有量が該組成物の固形分中34~89質量%であり、該スチレン・ブタジエン系ラテックスのTgが-50℃~17℃であり、且つ、該アルコールの含有量が該組成物中1~5質量%である造影剤含有組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CTマーカー用の造影剤含有組成物に関し、詳しくは、操作性が良好で、X線CTマーカー用に好適な撮像性を有する造影剤含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影は、医療分野において骨や歯等の生体硬組織、肺、腹部の病変を観測する手技として、広く知られている撮影技術である。X線を利用したコンピュータ断層撮影(以下、X線CTと称す)は、人体内部の血管、臓器、骨の立体画像を短時間で撮影可能な技術であり、脳出血、くも膜下出血や肺をはじめとした種々臓器の癌、骨折等、多様な疾患の検出に広く用いられている。
【0003】
X線CTにおいて、撮影画像上に患部の位置を特定するための視覚的基準点を設けることが一般的に行われる。そのような視覚的基準点を提供する方法としては、例えば、特表2015-502819号公報(特許文献1)に記載される造影剤を含有するヒドロゲル層をフレームに備えるマーキンググリッドや、米国特許出願公開第2003/0081732号明細書(特許文献2)に記載される放射線透過性の基材の片側に感圧接着剤を有し、反対側に放射線不透過性材の複数の平行帯を有するマーキンググリッドが挙げられる。
【0004】
また、特表2017-518266号公報(特許文献3)にはゴム剤、蛍光染料、および造影剤を含有する多目的医用撮影用マーカーが開示され、標識部位を非侵襲的な方法で、正確に確認できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-502819号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0081732号明細書
【特許文献3】特表2017-518266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されるマーキンググリッドで視覚的基準点を提供する方法は、何れもグリッド形状が特定されているため、撮影部位へ留置する際に予め撮影部位に合わせた形状にカットしたり、留置する位置を調整したりする必要があり、留置する際の操作性に改善の余地があった。また、特許文献3に記載される多目的医用撮影用マーカーは円形状等に成形した後に乾燥および架橋反応を進める必要があり、同じく操作性において改善の余地があった。
【0007】
本発明の課題は、操作性が良好で、X線CTマーカー用に好適な撮像性を有する造影剤含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成の造影剤含有組成物により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
造影剤、スチレン・ブタジエン系ラテックス、およびアルコールを少なくとも含有し、該造影剤の含有量が組成物の固形分中34~89質量%であり、該スチレン・ブタジエン系ラテックスのTgが-50℃~17℃であり、且つ、該アルコールの含有量が組成物中1~5質量%である造影剤含有組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、操作性が良好で、X線CTマーカー用に好適な撮像性を有する造影剤含有組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の造影剤含有組成物を充填するペンタイプの押し出し容器の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の造影剤含有組成物は、造影剤、スチレン・ブタジエン系ラテックス、およびアルコールを少なくとも含有し、該造影剤の含有量が組成物の固形分中34~89質量%であり、該スチレン・ブタジエン系ラテックスのTgが-50℃~17℃であり、且つ、該アルコールの含有量が組成物中1~5質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の造影剤含有組成物が含有する造影剤は、CT値(CTの画像濃度値)の違いにより、人体軟部組織との区別を可能にするものであれば特に限定されない。造影剤の例としては、硫酸バリウムに代表されるバリウム化合物、ヨードホルムに代表されるヨウ素化合物、炭酸カルシウムに代表されるカルシウム化合物が挙げられるほか、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、ストロンチウム化合物、ガドリニウム化合物、チタン化合物、鉄化合物、亜鉛化合物、銀化合物、銅化合物等が挙げられる。造影剤の形状は特に限定されず、針状、棒状、紡錘状、板状、球状、不定形等を挙げることができる。造影剤の平均粒子径は造影剤含有組成物中における分散性の観点から5μm以下が好ましい。前記した造影剤の中でも硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムはその撮像性、化学的安定性、材料コスト、および後述するスチレン・ブタジエン系ラテックスを含有する造影剤含有組成物中での分散性の観点から好ましく用いることができる。市販品としては、例えば炭酸カルシウムとして奥多摩工業(株)製タマパール(登録商標)TP-121(紡錘状、平均粒子径3.5μm)、硫酸バリウムとして堺化学工業(株)製バリエース(登録商標)B-35(不定形、平均粒子径0.3μm)等が例示され、これらを好適に用いることができる。
【0014】
本発明の造影剤含有組成物における造影剤の含有量は、該組成物の固形分中34~89質量%である。造影剤の含有量が上記範囲より多い場合、造影剤の分散性が低下して均一な線幅の線を切れ目なく留置することができない。また、造影剤の含有量が上記範囲より少ない場合は、良好な撮像性が得られない。
【0015】
本発明の造影剤含有組成物が含有するスチレン・ブタジエン系ラテックスは、スチレンとブタジエンを主成分とした合成ゴムラテックスであり、Tgが-50~17℃である。Tgがこの範囲にあることで、本発明の造影剤含有組成物を撮影箇所に留置した際の成膜性が良好となり、操作性が向上する。このようなスチレン・ブタジエン系ラテックスとしては市販品を用いることができ、例えば、日本エイアンドエル(株)製スマーテックス(登録商標)PA9281(Tg7℃)、日本ゼオン(株)製Nipol(登録商標)LX426(Tg-42℃)等を挙げることができる。
【0016】
本発明の造影剤含有組成物におけるスチレン・ブタジエン系ラテックスの含有量は、該組成物の固形分中11~66質量%であることが好ましい。スチレン・ブタジエン系ラテックスの含有量がこの範囲より少ない場合、十分な成膜性が得られない場合があり、多い場合は、十分な撮像性が得られない場合がある。
【0017】
本発明の造影剤含有組成物が含有するアルコールとは、造影剤含有組成物を撮影箇所に留置した際に、上述したスチレン・ブタジエン系ラテックスの成膜性を向上させるためのものであり、詳細には沸点が85℃以下の低級アルコールである。該低級アルコールとしては、エタノール、イソプロピルアルコールを例示することができ、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0018】
本発明の造影剤含有組成物におけるアルコールの含有量は、組成物中1~5質量%である。アルコールの含有量が前記範囲より少ない場合は、造影剤含有組成物留置後の成膜性が十分でない。また、上記範囲より多い場合は、造影剤やスチレン・ブタジエン系ラテックスの分散性が低下して均一な造影剤含有組成物が得られず操作性が低下する。
【0019】
本発明の造影剤含有組成物は、粘度調整を目的として増粘剤を含有することができる。増粘剤としては例えば、ポリビニルアルコール類、ポリ(メタ)アクリル酸類、ポリエーテル類(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリビニルピロリドン類、ポリビニルホルマール類、タンパク質(例えば、ゼラチン、カゼイン、にかわ等)、多糖類(例えば、プルラン、デキストラン、デキストリン、シクロデキストリン、カラギーナン、ペクチン、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グアーガム、タマリンドガム等)、澱粉類(例えば、澱粉、酸化澱粉、カルボキシル澱粉、ジアルデヒド澱粉等)、セルロース又はその誘導体(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等)アルギン酸エステル(例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル等)などが挙げられる。増粘剤の含有量は、撮影部位へ留置する際の操作性の観点から、造影剤含有組成物中10質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明の造影剤含有組成物は、押し出し操作により内容物をノズル開口部から吐出することができる押し出し容器に充填することが好ましい。押し出し容器は特に限定されず、例えば先端側にノズル開口部を備え、基端側に押圧部を備えた筒状容器が例示され、該筒状容器本体の押圧部を押圧して先端方向に圧力を加えることによって、容器本体内の内容物をノズル開口部から吐出することができる。このような押し出し容器としてはシリンジ形状の容器が挙げられる。あるいはノズル開口部を備えた弾性容器が例示される。
図1に本発明の造影剤含有組成物を充填するペンタイプの押し出し容器の一例を示した。ペンタイプの押し出し容器1の側面を手指で挟んで加圧することによってノズル開口部より内容物(造影剤含有組成物2)を吐出することができる。ペンタイプの押し出し容器1としてはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂をペン形状に成型した押し出し容器を例示することができる。
【0021】
本発明の造影剤含有組成物は、撮影箇所にポリウレタンフィルムやポリオレフィンフィルム等の樹脂フィルムを予め貼り付けておき、該フィルム上に留置することが望ましい。該フィルムの厚みは50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。
【0022】
また、本発明の造影剤含有組成物は、撮影箇所以外の場所で、予め前述したフィルム上に任意の形状に乾燥、成膜させてから撮影箇所に設置して撮像に用いることも可能である。
【実施例0023】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
(株)シンキー製撹拌機AR250の容器に、日本エイアンドエル(株)製スマーテックスPA9281(スチレン・ブタジエン系ラテックス、固形分率48質量%、Tg7℃)10.0gと堺化学工業(株)製バリエースB-35(硫酸バリウム、造影剤として)1.8gを加え、撹拌モード(自転800rpm/公転2000rpm)で10分間撹拌処理を行った。次いで、該容器内にさらに奥多摩工業(株)製タマパールTP-121(炭酸カルシウム、造影剤として)を8.0g加えて、さらに上記した撹拌モードで10分間撹拌処理を行った。続いて、該容器にキシダ化学(株)製エタノール(純度99.5%)を0.6g加えて、上記した撹拌モードで2分間撹拌処理を行い、実施例1の造影剤含有組成物を得た。
【0025】
(実施例2)
実施例1において、スマーテックスPA9281を5.0gとし、バリエースB-35を15gとし、タマパールTP-121を添加しなかった以外は同様にして、実施例2の造影剤含有組成物を得た。
【0026】
(実施例3)
実施例1において、スマーテックスPA9281を15.5gとし、バリエースB-35の添加量を4.5gとし、タマパールTP-121を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、実施例3の造影剤含有組成物を得た。
【0027】
(実施例4)
実施例1において、スチレン・ブタジエン系ラテックスとして、スマーテックスPA9281を日本ゼオン(株)製Nipol(登録商標)LX426(固形分率50質量%、Tg-42℃)に変更し、該LX426を9.6g用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の造影剤含有組成物を得た。
【0028】
(実施例5)
実施例1において、エタノール0.6gを、エタノール0.6gと富士フイルム和光純薬工業(株)製ポリエチレングリコール1,000(平均分子量900~1,000、増粘剤として)1.0gを予め混合したものに変更した以外は同様にして、実施例5の造影剤含有組成物を得た。
【0029】
(比較例1)
実施例1において、スマーテックスPA9281を3gとし、バリエースB-35を17gとし、タマパールTP-121を添加しなかった以外は同様にして、比較例1の造影剤含有組成物を得た。
【0030】
(比較例2)
実施例1において、スマーテックスPA9281を16.5gとし、バリエースB-35を3.5gとし、タマパールTP-121を添加しなかった以外は同様にして、比較例2の造影剤含有組成物を得た。
【0031】
(比較例3)
実施例1において、スチレン・ブタジエン系ラテックスとして、スマーテックスPA9281を日本ゼオン(株)製Nipol LX432M(固形分率41質量%、Tg-58℃)に変更し、該LX432Mを11.7g用いた以外は同様にして、比較例3の造影剤含有組成物を作製したが、作製直後に造影剤含有組成物の流動性がなくなり、後述する操作性および撮像性の評価に供することができなかった。
【0032】
(比較例4)
実施例1において、スチレン・ブタジエン系ラテックスとして、スマーテックスPA9281を日本ゼオン(株)製Nipol LX407G51(固形分率48.5質量%、Tg27℃)に変更し、該LX407G51を9.9g用いた以外は同様にして、比較例4の造影剤含有組成物を得た。
【0033】
(比較例5)
実施例1において、キシダ化学(株)製純度99.5%のエタノールを1.5gとし、スマーテックスPA9281を9.3gとする以外は実施例1と同様にして、比較例5の造影剤含有組成物を得た。
【0034】
(比較例6)
実施例1において、エタノールを添加しなかった以外は同様にして、比較例6の造影剤含有組成物を得た。
【0035】
<操作性の評価>
得られた実施例1~5および比較例1、2、並びに比較例4~6の造影剤含有組成物を、
図1に図示したペンタイプの押し出し容器(容量5ml)に充填した。該押し出し容器の先端(吐出部)の開口径はφ1.0mmである。X線水ファントム(人体の放射線吸収およびX線散乱にほぼ近似する効果を示す放射性水溶液を満たした円筒形状のプラスチック容器)に三菱ケミカル(株)製ポリオレフィン系多層ラップフィルム、ダイアラップ(登録商標)エコぴたっ!(登録商標)(厚み6.3μm)を貼り付け、その上に前記押し出し容器の先端から各々の造影剤含有組成物を直線状および円形状に吐出することで、造影剤含有組成物を立体面に留置する操作を行った。このときの操作性を、描画性と成膜性の観点から以下の評価基準により評価した。結果を表1に示す。
【0036】
<描画性の評価基準>
○:線幅が均一で、切れ目なくきれいに留置できる。
×:線幅が不均一だったり、切れ目が発生したりしてきれいに留置できない。
【0037】
<成膜性の評価基準>
○:留置後10分以内に成膜する。
×:留置後10分以内に成膜しない。
【0038】
<撮像性の評価>
上記操作性の評価において、実施例1~5および比較例1、2、並びに比較例4~6の造影剤含有組成物を留置したX線水ファントムをGEヘルスケア・ジャパン(株)製マルチスライスCTスキャナDiscovery CT750HD-Aを用いて軟部条件(脂肪と空気が判別可能な条件)で撮影した。このときの撮像性を、以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
【0039】
<撮像性の評価基準>
○:撮像した画像上で留置した造影剤含有組成物を明瞭に観察でき、虚像も見られない。
×:撮像した画像上で留置した造影剤含有組成物を明瞭に観察できない、あるいは虚像が見られる。
【0040】
【0041】
表1の結果から、本発明の有効性が分かる。なお、実施例1においてエタノールをイソプロピルアルコールに変更した以外は同様にして得られた造影剤含有組成物についても操作性と撮像性の評価を行ったところ、実施例1と同様、良好であった。