(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096138
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】ガラス撥水剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20220622BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220622BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220622BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220622BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220622BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/65
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209066
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227331
【氏名又は名称】株式会社ソフト99コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100082083
【弁理士】
【氏名又は名称】玉田 修三
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄平
(72)【発明者】
【氏名】野中 純一
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA05
4H020BA32
4J038DL032
4J038JC32
4J038KA04
4J038MA02
4J038NA07
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】車輌のガラスへの塗布施工にかかる時間を短縮する。反応速度が相対的に遅い低温下、撥水成分が熱によりこびりついてしまう高温下、といった悪い施工条件の下でも十分な撥水性能が得られるガラス撥水剤を提供する。
【解決策】アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物と、分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサンと、触媒と、機能性微粒子とが、揮発性溶媒で希釈されている。必要に応じて、ジメチルポリシロキサンを添加する。機能性微粒子が、有機系微粒子及び無機系微粒子の2種類の微粒子でなる。機能性微粒子に含まれる有機系微粒子が無機系微粒子よりも粗大である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス面に撥水性皮膜を形成するためのガラス撥水剤であって、
アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物と、分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサンと、触媒と、機能性微粒子とが、揮発性溶媒で希釈されていることを特徴とするガラス撥水剤。
【請求項2】
分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサンの25℃における動粘度が31cSt以上である請求項1に記載したガラス撥水剤。
【請求項3】
分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサンの添加量が0.05~20wt%である請求項1又は請求項2に記載したガラス撥水剤。
【請求項4】
機能性微粒子が、有機系微粒子及び無機系微粒子の2種類の微粒子でなる請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載したガラス撥水剤。
【請求項5】
機能性微粒子の合計添加量が0.1~5wt%である請求項1ないし請求項4のずれか1項に記載したガラス撥水剤。
【請求項6】
機能性微粒子に含まれる有機系微粒子が機能性微粒子に含まれる無機系微粒子よりも粗大であり、有機系微粒子の平均粒子系が20μm以下、無機系微粒子の平均粒子系が5μm以下である請求項4又は請求項5に記載したガラス撥水剤。
【請求項7】
揮発性溶媒に、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物、分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサン、触媒、及び、機能性微粒子と共に、ジメチルポリシロキサンが希釈されている請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載したガラス撥水剤。
【請求項8】
ジメチルポリシロキサンの添加量が10wt%未満である請求項7に記載したガラス撥水剤。
【請求項9】
揮発性溶媒が、沸点150℃以上の極性溶媒を1種類以上含有し、かつ、揮発性溶媒中における極性溶媒の添加量が1~10wt%である請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載したガラス撥水剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス撥水剤、特に、ガラス面に雨滴が付着して視界が低下することを抑制するために、車輌のフロントガラスやミラーといったガラス面に撥水性皮膜を形成することに使用されるガラス撥水剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のガラス表面に撥水性を付与することに使用される撥水剤は知られていた。先行文献によってもガラス用撥水剤やコーティング組成物が提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-137775号公報
【特許文献2】特開2016-169307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行文献のうち、特許文献1には、主鎖の末端にOR基(Rは炭素数1~6の炭化水素)を有するアミノ変性ポリシロキサンを含むガラス用撥水剤についての記述がある。このガラス用撥水剤は、塗布後の乾燥や被膜化を必要とせず、適用直後の撥水性(初期撥水性)を発揮し、ガラス面に雨滴が残っていても使用可能であるとされている。しかしながら、調査の結果、このガラス用撥水剤は、適用後の撥水耐久性(撥水持続性)に乏しいという傾向のあることが判っている。
【0005】
特許文献2には、シラン化合物と、分子鎖の両末端にシラノール基(SiOH基)を有するジメチルポリシロキサンと触媒とを揮発性溶媒で希釈してなるコーティング組成物についての記述がある。このコーティング組成物では、ジメチルポリシロキサンが分子鎖の両末端にシラノール基を有していることにより、ガラス面への密着性が高まり、湿度や温度などの様々な施工環境によっても安定した初期撥水性や撥水持続性が発現されるとされている。しかしながら、調査の結果、施工条件の悪い低温下においては、施工(塗布工程)に要する時間が長くなる傾向や、分子鎖の両末端にシラノール基を有するジメチルポリシロキサンとガラス面との反応性が低下して撥水性が発現し難くなる、という傾向のあることが判った。
【0006】
そこで、本願発明者は、特許文献2に記載されているコーティング組成物によれば、特許文献1のガラス用撥水剤に見られる撥水持続性に乏しいという傾向が改善されて、安定した初期撥水性や撥水持続性を発現する、という特性が発揮される、という点に着目して本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、特許文献2に記載されているコーティング組成物による初期撥水性や撥水持続性についての優れた特性をそのまま生かしつつ、当該ガラス撥水剤(薬液)に対する機能性微粒子の特性を利用して、施工条件の悪い低温下のみならず、撥水成分が熱によりこびり付いてしまうような高温下においても、十分に満足のいく初期撥水性や撥水持続性が得られるガラス撥水剤を提供することを目的としている。また、本発明は、ガラス面に撥水性のコーティング皮膜を形成するための施工に要する時間を短縮することのできるガラス撥水剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
当該項目中においては変性シリコーンオイルである「分子鎖の両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサン」を「OHシリコーン」と略記し、ストレートシリコーンオイルである「ジメチルポリシロキサン」についてはそのまま「ジメチルポリシロキサン」と記述する。
【0009】
本発明に係るガラス撥水剤は、ガラス面に撥水性皮膜を形成するためのガラス撥水剤であって、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物と、OHシリコーンと、触媒と、機能性微粒子とが、揮発性溶媒で希釈されている、というものである。
【0010】
この発明において、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物には、下記一般式(1)で示されるシラン化合物を好適に採用することができる。
(R1O)nSi(R2)4-n・・・・・(1)
ただし、n=1又はn=2、R1は炭素数がC=1~3のアルキル基であり、R2は炭素数がC=1又はC=3のアルキル基である。
【0011】
アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物は、アルコキシ基(R1O)がガラス表面の水酸基(OH基)と加水分解・縮合反応(脱水縮合反応)を起こす。この加水分解・縮合反応は触媒の作用により促進されて、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物が塗布直後(施工直後)に高い撥水性を示す撥水性被膜を形成する。この撥水性被膜は優れた滑り性を示すため、ワイパーによる摩擦や砂汚れなどが付着した状態で擦ったときの摩擦が軽減され、撥水性皮膜の劣化も軽減される。
【0012】
アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物としては、たとえば、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、トリエチルプロポキシシラン、ジエチルジプロポキシシランが挙げられる、この中でもジメチルジメトキシシランが最も好ましい。アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物は、上記の各アルキルシラン化合物のうちの1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用しても構わない。
【0013】
この発明において、OHシリコーンは、ガラス面への撥水性皮膜の密着性を高めたり、ガラス面に形成された撥水性被膜の撥水性を向上させたりするほか、撥水性被膜に液滴の転落性を付与することを意図して添加した。
【0014】
この発明において、触媒は、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物やOHシリコーンのOH基が、ガラス面に存在するOH基と脱水縮合するのに必要な活性化エネルギーを低下させる働きがある。このため、触媒を併用することにより、高湿度条件でのアルコキシ基を有するアルキルシラン化合物やOHシリコーンのガラス面への反応性も維持されて施工直後の撥水性と撥水持続性が改善される。触媒には、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸、酢酸、クエン酸、蟻酸などのカルボン酸、といった酸から任意に選択することができる。酸触媒以外の触媒では、アルカリ触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、といったアルカリ金属の水酸化物から任意に選択することができるし、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、といったアルカリ土類金属の水酸化物からも任意に選択することができるし、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、といったテトラアルキルアンモニウムの水酸化物からも任意に選択することができるし、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、といったアミン類から任意に選択することができるし、金属触媒としてトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどの有機アルミニウム化合物や、チタンアルコキシド、鉄アルコキシド、有機スズアルコキシド、といった金属アルコキシドからも任意に選択することができる。触媒は、上記の各種触媒のうちの1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用しても構わないが、特に酸触媒を使用することによって好ましい結果が得られる。
【0015】
この発明において、揮発性溶媒は、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物やOHシリコーンなどの有効成分のガラス面への塗布性を維持させることに役立つ。
【0016】
この発明において、機能性微粒子はガラス面に対するガラス撥水剤(薬液)の濡れ性の向上や拭き上げ時の作業性向上のために添加される。高温時においては、ガラス面に対する薬液の濡れ性を向上させることにより薬液を均一に塗布することが可能となる。また低温時においては、揮発性溶媒が揮発する前に拭きあげることによる撥水性の低下が懸念されるけれども、機能性微粒子を添加することにより乾燥性が向上し、低温時でも撥水性を向上させることができる。機能性微粒子は、当該微粒子の相互間で揮発性溶媒が担持されることにより、揮発性溶媒や、アルキルシラン化合物、OHシリコーンなどの撥水成分がガラス面上で凝集することを抑制する作用を発揮し、この作用によってガラス面へのガラス撥水剤の濡れ性を向上させ、しかも、濡れ性の向上によって空気接触面積が増大して乾燥性が向上して拭き上げ時の作業性が向上する。
【0017】
本発明においては、OHシリコーンの25℃における動粘度が31cSt以上であることが望ましい。ガラス面へのOHシリコーンの密着性はその動粘度によって変化することが判っている。このことを勘案すると、OHシリコーンの25℃における動粘度は31cSt以上であることが望ましく、25℃における動粘度が31cStを下回ると、ガラス面への密着性が乏しくなりすぎて施工直後の初期撥水性や撥水持続性が得られにくくなったりする。25℃における動粘度が31cSt以上のOHシリコーンを添加しておくと、上掲の特許文献2に記載されているコーティング組成物と同等の初期撥水性や撥水持続性についての優れた特性が得られる。なお、OHシリコーンの動粘度は、市販されている異なる動粘度のOHシリコーンを混合することによって増減調整することが可能であり、異なる動粘度のOHシリコーン混合物としての25℃における動粘度が31cStであればよい。
【0018】
本発明では、OHシリコーンの添加量が0.05~20wt%であることが望ましく、好ましくは1~10wt%である。添加量が0.05wt%より少ないと、被膜の撥水性能が低下し、20wt%を超えると拭き上げ時の作業性が悪くなるという傾向を生じる。配合量が0.05~20wt%であると、被膜の撥水性能が向上し、拭き上げ時の作業性も向上する。
【0019】
OHシリコーンは一般工業製品として入手可能であり、たとえば、信越化学工業株式会社製の商品名X-21-5841(25℃における動粘度30cSt)、同商品名KF9701(25℃における動粘度60cSt)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の商品名X96-723、YF3057、YF3800、YF3802、YF3807、YF3807、YF3905、ゲレスト(Gelest)社製のDMS-S12、DMS-S14、DMS-S15、DMS-S21、DMS-S27、DMS-S31、DMS-S32、DMS-S33、DMS-S35、DMS-S42、DMS-S45などが挙げられる。これら原料は1種類を使用してもよいし、2種類以上を併用しても構わない。
【0020】
本発明では、機能性微粒子が、有機系微粒子及び無機系微粒子の2種類の微粒子でなることが望ましい。上記したように、機能性微粒子は、ガラス面に対するガラス撥水剤(薬液)の濡れ性の向上や拭き上げ時の作業性向上のために添加され、高温時においては、ガラス面に対する薬液の濡れ性を向上させることにより薬液を均一に塗布することが可能となり、低温時においては、揮発性溶媒が揮発する前に拭きあげることによる撥水性の低下が懸念されるけれども、機能性微粒子を添加することにより乾燥性が向上し、低温時でも撥水性を向上させることができる。機能性微粒子を有機系微粒子のみで構成すると、特に高温時に拭き上げの作業性が悪くなる傾向が生じ、この現象は熱可塑性の有機系微粒子を用いた場合に顕著である。これに対し、機能性微粒子を無機系微粒子のみで構成すると、拭き上げ時の摩擦が大きくなりすぎて被膜の耐久性が低下する傾向が生じる。有機系微粒子と無機系微粒子とを組み合わせて併用することにより、それぞれの欠点を補い合い、単独では示さないような性能が得られると考えられる。
【0021】
有機系微粒子として、ポリエチレン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)、ポリエチレン酢ビ共重合樹脂、ワックス、ポリプロピレン、セルロース・アセテート・ブチレート、シリコーンゴム、微結晶セルロース、ナイロン、キトサン、ポリスチレン、ベンゾグアナミン・メラミン縮合物、アクリル、フェノールなどの樹脂粉末を使用できる。
【0022】
無機系粉末として、アルミナ、シリカ、硅酸アルミニウム、ゼオライト、ベントナイト、タルク、モンモリロナイト、硅藻土、スメクタイト、カオリナイト、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、硅酸ジルコニウム、炭化硅素、酸化チタン、トリポリ燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硅酸カルシウムなどの粉末、球状シリカ、球状アルミナ、球状シリカゲルなどの球状微粉末及び球形中空シリカ、中空ガラスビーズ等の中空状微粉末が挙げられる。また、別の金属酸化物や有機物で表面処理を施した無機系微粒子も使用することができる。
【0023】
有機系微粒子では特にワックスパウダーが好ましく、塗布時の作業性付与に加えワイパー作動時の滑性向上も期待できる。無機系微粒子では、主に含水硅酸などのSiO2を主成分とするものが好ましい。これらはガラス面に油分などの汚れが付着している場合に汚れを除去する作用を発揮する。
【0024】
本発明では、機能性微粒子の合計添加量が0.1~5wt%であることが望ましい。機能性微粒子の合計添加量が0.1wt%を下回ると、ガラス面に対する薬液の濡れ性の向上・拭き上げ時の作業性向上といった効果が得られにくく、5wt%を超えると逆に拭き上げ時の作業性が悪くなるだけでなく、被膜の耐久性も低下する。機能性微粒子の好ましい合計添加量は0.5~2wt%である。
【0025】
本発明では、機能性微粒子に含まれる有機系微粒子が同機能性微粒子に含まれる無機系微粒子よりも粗大であり、有機系微粒子の平均粒子系が20μm以下、無機系微粒子の平均粒子系が5μm以下であることが望ましい。この構成を採用すると、機能性微粒子が、粗大な有機系微粒子と微細な無機系微粒子とからなるバイモーダル(二峰性)な系を形成し、2種類の異なる粒子径の粒子が、拭き上げ時にクロスと薬液塗布面との摩擦を大きくすることに役立って拭き上げ時の作業性を高めることに役立つ。ここで、「粗大な有機系微粒子と微細な無機系微粒子とからなるバイモーダルな系」とは、微粒子の粒度分布を表すグラフにおいて、粗大な有機系微粒子と微細な無機系微粒子とが2つの峰を形成する形で分布している系を指している。なお、本発明において、粒子径については、必ずしも上記のように制限を設けておく必要はない。
【0026】
本発明では、揮発性溶媒に、アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物、OHシリコーン、触媒、及び、機能性微粒子と共に、ジメチルポリシロキサンが希釈されていることが望ましい。ジメチルポリシロキサンは撥水性を向上する目的で添加される。ジメチルポリシロキサンの動粘度は特に限定されないけれども、揮発性溶媒との相溶性の観点から25℃における動粘度が30cSt以下であることが望まれる。この点については、後述するところの「揮発性溶媒に含まれる極性溶媒の沸点や種類との関係」から25℃における動粘度が30cSt以下であることが望まれる。
【0027】
本発明においては、ジメチルポリシロキサンの添加量が10wt%未満であることが望ましい。ジメチルポリシロキサンの添加量が10wt%以上であると、拭き上げ時の作業性が低下するだけでなく、撥水性皮膜の耐久性も低下する。ジメチルポリシロキサンは1種類を使用しても、2種類以上を併用しても構わない。
【0028】
本発明では、揮発性溶媒が、沸点150℃以上の極性溶媒を1種類以上含有し、かつ、揮発性溶媒中における極性溶媒の添加量が1~10wt%であることが望ましい。揮発性溶媒は、アルキルシラン化合物やOHシリコーンなどの撥水成分のガラス表面への塗布性(施工性)を維持することに役立つ。
【0029】
揮発性溶媒は、夏場などの高温条件下でもそれほど揮発性が高くないものを使用することが望まれる。すなわち、夏場などの高温条件下では揮発性溶媒が短時間で揮発してしまい、上記したアルコキシ基を有するアルキルシラン化合物や分子鎖のOHシリコーンなどの有効成分のガラス表面への反応性が高過ぎるために、有効成分を均一に塗布することができなくなるという事態が起こり、その結果、撥水性が十分に得られないという事態が起こり得る。そこで、この発明のように、揮発性溶媒が、沸点150℃ 以上の極性溶媒(揮発保留剤)を1 種類以上含有していると、揮発性溶媒の揮発性が抑えられ、有効成分のガラス表面への縮合反応も阻害されずに、アルキルシラン化合物やジメチルポロシロキサンなどの有効成分を均一に塗布することができるようになり、そのことが十分な撥水性を発揮させることに役立つようになる。これに対し、冬場などの低温条件下では反応性が低く、沸点150℃ 以上の極性溶媒が揮発する前に拭きあげると、有効成分が反応する前にクロスに掻き取られてしまい、良好な撥水性が発現し難いといった問題もある。そのため沸点150℃ 以上の極性溶媒の添加量は、夏季・冬季における拭き上げ時の作業性向上を両立するため、1~10wt%であることが好ましい。沸点150℃ 以上の極性溶媒が1wt%未満であると高温下での目的成分のこびり付きが生じやすく、10wt%を上まわると低温下での性能が発現し難くなる。沸点150℃ 以上の極性溶媒が1~10wt%であると、夏季・冬季における拭き上げ時の作業性向上を両立させやすい。
【0030】
採用し得る極性溶媒は、特に限定されるものではないが、たとえば、ケトン類であればジイソブチルケトン、エステル類であればエチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、3-メトキシ-ブチルアセテート、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、ブチセロアセテート、アルコール類であればベンジルアルコール、グリコール類であれば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリコールエーテル類であれば、ダウ・ケミカル社製の商品名ダワノールTPM(トリプロピレングリコールメチルエーテル)、同ダワノールDPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル)、同ダワノールDPnP(プロピレングリコール-n-プロピルエーテル)、同ダワノールPnP(プロピレングリコール-n-プロピルエーテル)、同ダワノールPnB(プロピレングリコール-n-ブチルエーテル)、同ダワノールDPnB(ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル)、同ダワノールTPnB(トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル)、同ダワノールDPMA(ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、同ダワノールPGDA(プロピレングリコールジアセテート)、同ダワノールPPH(プロピレングリコールフェニルエーテル)、同ダワノールDMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)があり、さらに、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなども使用可能である。
【0031】
揮発性溶媒は沸点150℃以上の極性溶媒を1種類以上含有していることが望まれるのであり、特にイソプロピルアルコール(IPA)を好適に採用することができる。このため、イソプロピルアルコールとの相溶性の観点から、ジメチルポリシロキサンには、25℃における動粘度が30cSt以下のものを使用しておくことが望ましいのである。
本発明では、撥水性を向上させたり作業性を改善したりする意図の下で、各種のシリコーンオイルを添加することも可能である。シリコーンオイルは、必要に応じて添加することができ、その種類は特に限定されるのではないけれども、たとえば、環状シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0032】
撥水性を向上させるためには、特にジメチルシリコーンオイルを使用することが有益であり、その他にも、環状シリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルを特に好ましく使用することができる。ガラス面に対する含有成分の濡れ性の向上、拭き上げ時の作業性の向上のためには、ポリエーテル変性シリコーンオイルや長鎖アルキル変性シリコーンオイルが好ましい。これらのシリコーンオイルは1種類を使用してもよいし、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0033】
本発明に係るガラス撥水剤は、その目的を損なわない範囲で、水、界面活性剤、油剤、顔料、染料、香料、キレート剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、樹脂、増粘剤、pH調整剤、UV吸収剤、IR吸収剤昆虫忌避剤などの成分を適宜配合することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、施工後の初期撥水性や撥水持続性に関しての優れた特性が発揮され、施工に要する時間を短縮することができるだけでなく、施工条件の悪い低温下においては勿論、撥水成分が熱によりこびり付いてしまうような高温下であっても、十分に満足のいく初期撥水性や撥水持続性が得られるガラス撥水剤を提供することが可能になる
【発明を実施するための形態】
【0035】
実施例1~7及び比較例1~4の試料を以下に示した方法で調製した。
【0036】
実施例1
IPA(イソプロピルアルコール)70gにH2SO4(硫酸)0.5g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤(極性溶媒)3gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン(両末端にOH基を有するジメチルポリシロキサン)1.5g及びジメチルジメトキシシラン1.5gを添加し、IPA19.5gに無機系微粒子4gを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0037】
実施例2
IPA70gにH2SO40.5g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤3gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が30cStであるOHシリコーン0.5g、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン0.5g及びジメチルジメトキシシラン0.8gを添加し、IPA21.7gに無機系微粒子3gを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0038】
実施例3
IPA70gにH2SO40.5g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤1.5gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン1.5g及びジメチルジメトキシシラン1.5gを添加し、IPA22gに有機系微粒子3gを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0039】
実施例4
IPA70gにH2SO41g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤1.5gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン1.5g及びジメチルジメトキシシラン1.5gを添加し、IPA15.5gに無機系微粒子6gと有機系微粒子3gとを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0040】
実施例5
IPA70gにH2SO40.5g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤3gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン1.5g及びジメチルジメトキシシラン2gを添加し、IPA21.5gに無機系微粒子1gと有機系微粒子0.5gとを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0041】
実施例6
IPA70gにH2SO40.5g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤3gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン1.5g及びジメチルジメトキシシラン2gを添加し、IPA21gに無機系微粒子0.75gと有機系微粒子1.25gとを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0042】
実施例7
IPA70gにH2SO40.75g及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤2gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン2g、ジメチルジメトキシシラン1g及び25℃における動粘度が10cStであるジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーンオイル)1.5gを添加し、IPA21gに無機系微粒子1.25gと有機系微粒子0.5gとを分散させたものを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0043】
比較例1
IPA94.5gに沸点150℃ 以上の揮発保留剤3gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーン2.5gを添加し、十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0044】
比較例2
IPA96.8gに76%ギ酸水溶液0.2gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が60cStであるOHシリコーンを1.0g、アミノ変性シリコーンを2.0g添加し十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0045】
比較例3
IPA94gにH2SO41gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が10cStであるジメチルシリコーンオイル5gを添加したものを十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0046】
比較例4
IPA93gにH2SO40.5及び沸点150℃ 以上の揮発保留剤5gを希釈して得られる溶液に、25℃における動粘度が30cStであるOHシリコーン0.5g及びジメチルメトキシシラン1gを添加したものを十分に攪拌することにより試料を調製した。
【0047】
評価方法
日産自動車株式会社製の商品名ラフェスタのリアガラス表面を十分に洗浄・研磨・脱脂したものを試験板とした。この試験板についての実施例1~7及び比較例1~4で得られた試料の性能を評価した。
【0048】
高温 (50℃)、低温(2℃)の環境下においての試験板についての試料の適用方法及び評価方法を、下記の評価項目ごとに個別に記載する。
【0049】
作業性
各試料を3g滴下し、乾いた綿タオルですぐに拭き伸ばした際の作業感を次の3段階で評価した。
○:軽い力で拭き上げが可能で、拭き上げ後のガラス面全体が透明である。
△:拭きあげに際し、少し力を加えるか或いは綿タオルの面を変えることで、ガラス面を透明に仕上げることができる。
×:薬液がガラス面にこびりつき、拭きあげることができない。
【0050】
撥水性
各試料を3g滴下し、乾いた綿タオルですぐに拭き伸ばしたのち、30分間乾燥した。その後、撥水状態を目視で次の3段階で評価した。
○:シャワーで掛けた水がすぐに水滴状になって流れ落ちる。
△:シャワーで掛けた水が面状に濡れ拡がり、次に水滴状になって流れ落ちる。
×:シャワーで掛けた水が面状に濡れ拡がり、流れ落ちる。
【0051】
摩耗耐久性(撥水耐久性)
各試料を3g滴下し、乾いた綿タオルですぐに拭き伸ばしたのち、30分間乾燥した。その後、ソフト99コーポレーション製の商品名「ガラスコンパウンドZ」を用いて、ガラス板を研磨することにより、ガラス板に形成した撥水性被膜の耐久性を次の3段階で評価した。
○:5往復以上研磨しても、ガラス面が濡れ面にならず、水滴ができる。
△:5往復以上研磨すると一部濡れ面を生じる。
×:5往復以下で濡れ面を生じる/もとより濡れ面である。
【0052】
表1には実施例1~7及び比較例1~4の試料に使用した配合成分、配合量 (g) 、評価結果を示した。また、表1に掲げられている官能基当量500g/molに相応するOHシリコーンには、一般工業製品として入手可能な信越化学工業株式会社製の商品名X-21-5841(25℃における動粘度30cSt、25℃における比重0.97、25℃における屈折率1.404)を採用し、官能基当量1500g/molに相応するOHシリコーンには、同じく一般工業製品として入手可能な信越化学工業株式会社製の商品名KF9701(25℃における動粘度60cSt、25℃における比重0.977、25℃における屈折率1.404)を採用した。
【0053】
【0054】
なお、表1において、OHシリコーンは「両末端にOH基を有するジメチルポロシロキサン」を示し、シラン化合物は「アルコキシ基を有するアルキルシラン化合物」を示し、揮発保留剤は沸点150℃以上の極性溶媒を示し、IPAはイソプロピルアルコールを示し、H2SO4は硫酸を示している。
【0055】
また、官能基当量500g/molのOHシリコーンは、信越化学工業株式会社製の商品名X-21-5841(25℃における動粘度30cSt、25℃における比重0.97、25℃における屈折率1.404)に相応し、官能基当量1500g/molのOHシリコーンは、信越化学工業株式会社製の商品名KF9701(25℃における動粘度60cSt、25℃における比重0.977、25℃における屈折率1.404)に相応している。
【0056】
表1によると、無機系微粒子及び有機系微粒子のうちの少なくとも一方又は両方を含んでいる実施例1~7は、それらを含んでいない比較例1~4に比べ、高温時及び低温時の作業性・撥水性・摩耗耐久性に概して優れているだけでなく、比較例1~4に見られる×の評価が存在しない。加えて、無機系微粒子及び有機系微粒子の両方を含んでいる実施例5~7では高温時及び低温時の作業性・撥水性・摩耗耐久性のすべてで○の評価が得られた。また、25℃における動粘度が60cStのOHシリコーンを含む実施例1~7のうち、実施例5~7では高温時及び低温時の作業性・撥水性・摩耗耐久性のすべてで○の評価が得られ、実施例1~4では、高温時及び低温時の作業性・撥水性・摩耗耐久性について一部に△の評価が見られるものの概ね同等の高評価が得られた。
一方、比較例1~4のうち、OHシリコーンを含む比較例4については、高温時の撥水性・摩耗耐久性で○の評価が得られているのに対して、高温時の作業性、及び低温時の作業性・撥水性について△のと評価され、摩耗耐久性について×と評価されている。これは、比較例4に含まれるOHシリコーンの25℃における動粘度が30cStという小さな値であるために、ガラス面への適用後の撥水耐久性に乏しくなるという傾向が顕在化したものと考えられる。
【0057】
これらの評価結果を勘案すると、本発明に係るガラス撥水剤では、無機系微粒子及び有機系微粒子のうちの少なくとも一方又は両方の機能性微粒子を添加したことによって、高温時及び低温時での濡れ性や乾燥性、ひいては施工性や拭き上げ作業性が向上したものと考えられる。また、OHシリコーンとして、平均分子量の高い25℃における動粘度が一定値(31sSt)以上であるものを使用したことによって、ガラス面への撥水性皮膜の密着性が高まり、ガラス面に形成された撥水性被膜の撥水性が向上したりし、撥水性被膜に良好な液滴の転落性が付与されたものと考えられる。