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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096199
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】探傷装置および探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209169
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河井 寛記
(72)【発明者】
【氏名】鳩 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】春田 瑛介
(72)【発明者】
【氏名】畠中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 タケル
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053BA15
2G053BB11
2G053BC20
2G053CA01
2G053CA18
2G053CB10
2G053CB24
2G053CC05
2G053DA01
2G053DA10
2G053DB25
(57)【要約】
【課題】鋼床版のきずの有無を高精度に検出する。
【解決手段】探傷装置100は、鋼床版に磁束を生成する磁束生成部130と、鋼床版において生じる磁場の強さを測定する磁気センサ140と、鋼床版に積層された舗装体の表面と磁気センサ140との間の距離を測定する距離センサ150と、距離センサ150によって測定された距離に基づいて、磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)を補正する補正部と、少なくとも、磁束生成部130、磁気センサ140、および、距離センサ150を一体的に保持し、舗装体上を移動可能な移動部110と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版に磁束を生成する磁束生成部と、
前記鋼床版において生じる磁場の強さを測定する磁気センサと、
前記鋼床版に積層された舗装体の表面と前記磁気センサとの間の距離を測定する距離センサと、
前記距離センサによって測定された距離に基づいて、前記磁気センサによって測定された前記磁場の強さを補正する補正部と、
少なくとも、前記磁束生成部、前記磁気センサ、および、前記距離センサを一体的に保持し、前記舗装体上を移動可能な移動部と、
を備える探傷装置。
【請求項2】
前記補正部は、きずがない鋼床版において生じる磁場の強さと、前記舗装体の表面からの距離とが関連付けられた補正情報に基づいて、前記磁気センサによって測定された前記磁場の強さを補正する請求項1に記載の探傷装置。
【請求項3】
鋼床版に積層された舗装体上に設けられた磁束生成部が、前記鋼床版に磁束を生成する工程と、
前記舗装体上に設けられた磁気センサが、前記鋼床版において生じる磁場の強さを測定する工程と、
前記舗装体上に設けられた距離センサが、前記舗装体の表面と前記磁気センサとの間の距離を測定する工程と、
前記距離センサによって測定された距離に基づいて、前記磁気センサによって測定された前記磁場の強さを補正する工程と、
を含む探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、探傷装置および探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路、橋梁等の道路は、鋼床版と、鋼床版の上面に積層された、アスファルト等の舗装体で構成される。鋼床版は、舗装体上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、亀裂等のきずが生じる場合がある。
【0003】
鋼床版のきずを検査する技術として、超音波探傷法が利用されている。しかし、超音波探傷法では、鋼床版側、つまり、道路の真下に探触子を接触させなければならない。このため、道路の下に足場等を組む必要があった。
【0004】
そこで、道路上から鋼床版のきずを検査する技術として、渦電流探傷法(例えば、特許文献1)、または、漏洩磁束探傷法(MFL)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-151447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記漏洩磁束探傷法では、鋼床版と磁気センサとの距離が変動すると、きずの有無に拘わらず、磁気センサによって測定される磁場の強さが変動する。このため、本来きずがない箇所をきずと誤検出したり、本来きずが存在する箇所を検出できなかったりするおそれがある。
【0007】
このため、漏洩磁束探傷法を用いた鋼床版の検査において、精度よくきずを検出できる技術の開発が希求されている。
【0008】
本開示は、このような課題に鑑み、鋼床版のきずの有無を高精度に検出することが可能な探傷装置および探傷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る探傷装置は、鋼床版に磁束を生成する磁束生成部と、鋼床版において生じる磁場の強さを測定する磁気センサと、鋼床版に積層された舗装体の表面と磁気センサとの間の距離を測定する距離センサと、距離センサによって測定された距離に基づいて、磁気センサによって測定された磁場の強さを補正する補正部と、少なくとも、磁束生成部、磁気センサ、および、距離センサを一体的に保持し、舗装体上を移動可能な移動部と、を備える。
【0010】
また、補正部は、きずがない鋼床版において生じる磁場の強さと、舗装体の表面からの距離とが関連付けられた補正情報に基づいて、磁気センサによって測定された磁場の強さを補正してもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る探傷方法は、鋼床版に積層された舗装体上に設けられた磁束生成部が、鋼床版に磁束を生成する工程と、舗装体上に設けられた磁気センサが、鋼床版において生じる磁場の強さを測定する工程と、舗装体上に設けられた距離センサが、舗装体の表面と磁気センサとの間の距離を測定する工程と、距離センサによって測定された距離に基づいて、磁気センサによって測定された磁場の強さを補正する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、鋼床版のきずの有無を高精度に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る探傷装置の探傷対象である道路を説明する図である。
図2図2は、実施形態に係る探傷装置の外観を説明する図である。
図3図3は、磁気センサによる磁場の強さの測定を説明する図である。
図4図4は、実施形態に係る探傷装置の機能ブロック図である。
図5図5は、鋼床版と磁気センサとの間の距離と、磁気センサによって測定される磁場の強さとの関係をシミュレーションした結果を説明する図である。
図6図6は、補正部による補正を説明する図である。
図7図7は、実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図8図8は、探傷結果画像の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る探傷装置100の探傷対象である道路10を説明する図である。図1に示すように、道路10は、鋼床版20と、舗装体30とで構成される。鋼床版20は、鋼製の部材で構成される床版である。鋼床版20は、車両による鉛直下方の荷重を支持する。鋼床版20は、デッキプレート40と、主桁ウェブ42と、垂直補鋼材44と、横リブ46と、Uリブ48とを含む。
【0016】
デッキプレート40は、略水平方向に延在する鋼板である。主桁ウェブ42は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の延在方向に延在する鋼板である。垂直補鋼材44は、主桁ウェブ42に設けられる鋼板である。垂直補鋼材44は、上面がデッキプレート40に溶接される。横リブ46は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の幅方向に延在する鋼板である。横リブ46は、主桁ウェブ42に接続される。Uリブ48は、鉛直断面がU字形状の鋼板である。Uリブ48は、道路10の延在方向に延在するように、デッキプレート40に溶接される。
【0017】
舗装体30は、デッキプレート40上に積層される。舗装体30は、アスファルト等で構成される。舗装体30の厚みは、例えば、80mmである。
【0018】
上記舗装体30上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、鋼床版20における、デッキプレート40とUリブ48との溶接部、および、デッキプレート40と垂直補鋼材44との溶接部等に、亀裂等のきずが生じる場合がある。亀裂は、溶接部からデッキプレート40に向かって進展する。
【0019】
そこで、探傷装置100は、舗装体30上から鋼床版20におけるきずの有無を検査する。本実施形態において、探傷装置100は、車両の通過方向(道路10の延在方向、つまり、Uリブ48の延在方向)に道路10を走査しながら、きずの有無を検査する。
【0020】
[探傷装置100]
図2は、本実施形態に係る探傷装置100の外観を説明する図である。図2Aは、本実施形態に係る探傷装置100の斜視図である。図2Bは、本実施形態に係る探傷装置100を鉛直下方から見た図である。本実施形態の図2A図2B、および、後述する図3では、垂直に交わるX軸(水平方向)、Y軸(水平方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0021】
図2A図2Bに示すように、探傷装置100は、移動部110と、エンコーダ120と、磁束生成部130と、磁気センサ140と、距離センサ150と、制御ユニット200とを含む。
【0022】
移動部110は、舗装体30上を移動可能に設けられる。移動部110は、例えば、台車である。移動部110は、筐体112と、車輪114とを含む。筐体112は、箱形状である。筐体112は、上面板112aと、4枚の側面板112bとで構成される。上面板112aの上面には、後述する制御ユニット200が設けられる。上面板112aの下面には、後述するエンコーダ120、磁束生成部130、磁気センサ140、および、距離センサ150が設けられる。つまり、上面板112aは、エンコーダ120、磁束生成部130、磁気センサ140、および、距離センサ150を、位置関係を変えることなく、一体的に保持する。4枚の側面板112bは、上面板112aの端部から鉛直下方に延在するように設けられる。
【0023】
車輪114は、筐体112に設けられる。本実施形態において、車輪114は、4つ設けられる。隣り合う車輪114間の距離は、例えば、1000mm程度である。車輪114は、不図示の駆動機構によって回動される。車輪114が回動されることにより、筐体112(探傷装置100)は、舗装体30上を、図2A図2B中、X軸方向に移動する。
【0024】
エンコーダ120は、磁気センサ140の位置情報を取得する。エンコーダ120によって取得された位置情報は、制御ユニット200に出力される。
【0025】
磁束生成部130は、鋼床版20に磁場を印加し、鋼床版20に水平方向(図2A図2B中、XY方向)の磁束を生成する。本実施形態において、磁束生成部130は、第1磁石132と、第2磁石134とで構成される。第1磁石132および第2磁石134は、例えば、永久磁石である。第1磁石132は、N極が道路10に対向するように、筐体112に設けられる。第2磁石134は、S極が道路10に対向するように、筐体112に設けられる。第1磁石132および第2磁石134は、Uリブ48の延在方向と交差(直交)する方向に並列して上面板112aに設けられる。
【0026】
磁気センサ140は、第1磁石132と、第2磁石134との間に設けられる。磁気センサ140は、鋼床版20において生じる磁場(磁界)の強さを測定する。本実施形態において、磁気センサ140は、磁場の強さ[A/m]を電圧[V]に換算して制御ユニット200に出力する。
【0027】
図3は、磁気センサ140による磁場の強さの測定を説明する図である。図3中、実線の矢印は、磁場を示す。図3中、破線の矢印は、磁束を示す。図3中、一点鎖線の矢印は、漏洩磁束を示す。
【0028】
図3に示すように、第1磁石132および第2磁石134によって印加される磁場によって、鋼床版20(デッキプレート40)に磁束が生じる。ここで、第1磁石132と第2磁石134との間に亀裂等のきずがある場合、漏洩磁束が生じる。そうすると、磁気センサ140は、鋼床版20に生じた磁束に、漏洩磁束が加算された磁場の強さを測定することになる。
【0029】
一方、第1磁石132と第2磁石134との間に亀裂等のきずがない場合、漏洩磁束は生じない。このため、磁気センサ140は、鋼床版20に生じた磁束に相当する(漏洩磁束が加算されていない)磁場の強さを測定することになる。
【0030】
図2A図2Bに戻って説明すると、距離センサ150は、磁気センサ140の近傍(例えば、磁気センサ140との距離が20mm以内の箇所)に設けられる。探傷装置100によって道路10を走査する際に、移動部110を構成する1または複数の車輪114が、舗装体30に生じた轍等に嵌り、上面板112aが傾く場合がある。この場合、舗装体30の表面と磁気センサ140との距離が変動する。そこで、距離センサ150は、舗装体30の表面(道路10の表面)と磁気センサ140との間の距離(図2A図2B中、Z軸方向の距離、図3中、Hで示す)を測定する。つまり、距離センサ150は、舗装体30から磁気センサ140までの高さを測定する。距離センサ150は、例えば、光学センサ、または、レーザーレーダーである。距離センサ150によって測定された距離を示す情報(距離情報)は、制御ユニット200に出力される。
【0031】
制御ユニット200は、筐体112上に設けられる。図4は、本実施形態に係る探傷装置100の機能ブロック図である。
【0032】
図4に示すように、制御ユニット200は、差動増幅器210と、A/Dコンバータ220と、中央制御部230と、メモリ240と、表示装置250とを含む。
【0033】
磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)は、差動増幅器210に入力され、A/Dコンバータ220で変換されて、中央制御部230に入力される。差動増幅器210は、磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)を増幅する。
【0034】
A/Dコンバータ220は、エンコーダ120によって測定された位置情報、差動増幅器210によって増幅された電圧値、および、距離センサ150によって測定された距離情報をAD変換する。AD変換された位置情報、電圧値、および、距離情報は、中央制御部230に出力される。
【0035】
中央制御部230は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部230は、ROMからCPU自体を動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部230は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して探傷装置100全体を管理および制御する。
【0036】
メモリ240は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ240は、中央制御部230に用いられるプログラムや各種データを記憶する。本実施形態において、メモリ240は、後述する補正情報を記憶する。
【0037】
表示装置250は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される。
【0038】
本実施形態において、中央制御部230は、距離判定部232、選択部234、補正部236、きず判定部238として機能する。
【0039】
距離判定部232は、距離センサ150によって測定された距離が、基準距離であるか否かを判定する。基準距離は、予め定められた距離であり、例えば、40mmである。
【0040】
選択部234は、距離センサ150によって測定された距離に応じて、補正情報を選択する。
【0041】
図5は、鋼床版20と磁気センサ140との間の距離と、磁気センサ140によって測定される磁場の強さとの関係をシミュレーションした結果を説明する図である。図5Aは、鋼床版20と磁気センサ140との間の距離と、磁気センサ140によって測定される磁場の強さとの関係を説明する図である。図5Bは、図5Aの部分拡大図である。図5A図5B中、縦軸は、磁場の強さ[A/m]を示す。図5A図5B中、横軸は、鋼床版20と磁気センサ140との間の距離[mm]を示す。また、図5A中、実線は、きずがない箇所の磁場の強さを示す。図5A図5B中、破線は、きずがある箇所の磁場の強さを示す。
【0042】
図5Aに示すように、鋼床版20(デッキプレート40)と磁気センサ140と間の距離が1~2mm程度であると、きずがある場合と、きずがない場合とで、磁場の強さの差分は、2000[A/m]程度と大きい。
【0043】
一方、鋼床版20と磁気センサ140と間の距離が大きくなるほど、漏洩磁束が減衰するため、きずがある場合ときずがない場合との磁場の強さの差分は、小さくなる。
【0044】
また、きずの有無に拘わらず、鋼床版20と磁気センサ140と間の距離が100mm程度になるまでは、距離が大きくなるに従って磁場の強さは漸増し、100mmを超えると、距離が大きくなるに従って磁場の強さが漸減する。つまり、鋼床版20からの距離、すなわち、舗装体30の表面からの距離が変動すると、きずの有無に拘わらず、磁場の強さが変動する。
【0045】
ここで、探傷装置100によって道路10を走査する際に、移動部110を構成する1または複数の車輪114が、舗装体30に生じた轍等に嵌り、上面板112aが傾く場合がある。この場合、舗装体30の表面と磁気センサ140との距離が変動し、距離の変動によって磁場の強さが変動してしまう。そうすると、本来きずがない箇所をきずと誤検出したり、本来きずが存在する箇所を検出できなかったりするおそれがある。
【0046】
そこで、中央制御部230は、舗装体30に表面からの距離に応じた補正情報を作成し、予めメモリ240に記憶しておく。補正情報は、鋼床版20にきずがない場合の磁場の強さと、舗装体30の表面からの距離とが関連付けられた情報である。補正情報は、例えば、図5Bに示すように、きずがない場合の磁場の強さと、舗装体30の表面(鋼床版20)からの距離との関係を示す曲線の近似式(一次関数)である。本実施形態において、メモリ240は、補正情報として、第1補正情報、第2補正情報、第3補正情報を記憶する。
【0047】
第1補正情報は、図5B中、破線で示す、鋼床版20からの距離が80mm以上100mm未満の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。つまり、第1補正情報は、舗装体30の表面からの距離が0mm以上20mm未満の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。
【0048】
第2補正情報は、図5B中、一点鎖線で示す、鋼床版20からの距離が100mm以上120mm未満の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。つまり、第2補正情報は、舗装体30の表面からの距離が20mm以上40mm未満の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。
【0049】
第3補正情報は、図5B中、二点鎖線で示す、鋼床版20からの距離が120mm以上の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。つまり、第3補正情報は、舗装体30の表面からの距離が40mm以上の場合の磁場の強さを示す曲線の近似式である。
【0050】
そして、選択部234は、距離センサ150によって測定された距離に基づき、上記第1補正情報、第2補正情報、および、第3補正情報のうち、対応する補正情報を選択する。具体的に説明すると、選択部234は、距離センサ150によって測定された距離が0mm以上20mm未満の場合、第1補正情報を選択する。選択部234は、距離センサ150によって測定された距離が20mm以上40mm未満の場合、第2補正情報を選択する。選択部234は、距離センサ150によって測定された距離が40mmを上回る場合、第3補正情報を選択する。
【0051】
図4に戻って説明すると、補正部236は、距離センサ150によって測定された距離に基づいて、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを補正する。本実施形態において、補正部236は、選択部234によって選択された補正情報に基づいて、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを補正する。例えば、補正部236は、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを、選択部234によって選択された補正情報に基づき、基準距離を1として正規化する。
【0052】
例えば、第2補正情報が選択された場合、つまり、距離センサ150によって測定された距離が、20mm以上40mm未満である場合、磁気センサ140によって測定される磁場の強さは、基準距離において測定される磁場の強さよりも大きくなる。このため、補正部236は、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを、第2補正情報に基づいて算出される、1未満の補正係数で補正(乗算)する(磁場の強さ×補正係数)。具体的に説明すると、補正部236は、まず、距離センサ150によって測定された距離を、第2補正情報(一次関数)に代入して、補正係数を算出する。そして、補正部236は、算出した補正係数を、磁気センサ140によって測定された磁場の強さに乗算する。なお、第2補正情報に基準距離(40mm)を代入した場合、補正係数は1となる。
【0053】
同様に、第3補正情報が選択された場合、つまり、距離センサ150によって測定された距離が、40mmを上回る場合、磁気センサ140によって測定される磁場の強さは、基準距離において測定される磁場の強さよりも小さくなる。このため、補正部236は、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを、第3補正情報に基づいて算出される、1を上回る補正係数で補正する(磁場の強さ×補正係数)。具体的に説明すると、補正部236は、まず、距離センサ150によって測定された距離を、第3補正情報(一次関数)に代入して、補正係数を算出する。そして、補正部236は、算出した補正係数を、磁気センサ140によって測定された磁場の強さに乗算する。なお、第3補正情報に基準距離(40mm)を代入した場合、補正係数は1となる。
【0054】
また、第1補正情報が選択された場合、つまり、距離センサ150によって測定された距離が、0mm以上20mm未満である場合、補正部236は、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを、第1補正情報に基づいて算出される補正係数で補正(乗算)する(磁場の強さ×補正係数)。具体的に説明すると、補正部236は、まず、距離センサ150によって測定された距離を、第1補正情報(一次関数)に代入して、補正係数を算出する。そして、補正部236は、算出した補正係数を、磁気センサ140によって測定された磁場の強さに乗算する。
【0055】
図6は、補正部236による補正を説明する図である。図6Aは、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを説明する図である。図6Bは、補正部236によって補正された後の補正値を説明する図である。図6A図6B中、実線は、きずがない範囲を走査した結果を示す。図6A図6B中、破線は、きずがある範囲を走査した結果を示す。
【0056】
上記したように、舗装体30の表面と磁気センサ140との距離が変動すると、きずがない箇所であっても、距離の変動によって磁場の強さが変動する。このため、図6Aに示すように、舗装体30の表面からの距離が変動すると、磁気センサ140によって測定された磁場の強さの換算電圧値[V]は、きずの有無に拘わらず、変動してしまう。したがって、電圧値の変動が、距離による変動かきずによる変動か区別することができない。
【0057】
一方、図6B中、実線で示すように、きずがない場合、補正部236が、磁気センサ140によって測定された磁場の強さを補正すると、距離による変動が排除される。これにより、補正後の電圧値(補正値)[V]は、所定の変動範囲内に維持される。このため、図6B中、破線で示すように、きずがある箇所における補正値は、変動範囲から突出することになる。
【0058】
きず判定部238は、補正値が、予め定められた判定範囲内にあるか否かによって、きずの有無を判定する。なお、判定範囲は、閾値を基準とした所定の電圧範囲である。閾値は、基準距離における、きずがない場合の磁場の強さに決定される。また、判定範囲は、実験、または、シミュレーションによって算出され、所定の大きさのきずがある場合の補正値に基づいて設定される。判定範囲は、上記変動範囲と等しくてもよいし、変動範囲よりも大きくてもよい。
【0059】
きず判定部238は、補正値が判定範囲内である場合に、きずは無いと判定する。一方、きず判定部238は、補正値が判定範囲外である場合に、傷があると判定する。
【0060】
また、本実施形態において、きず判定部238は、距離判定部232によって基準距離ではないと判定された場合、補正部236によって補正された補正値に基づき、きずの有無を判定する。また、きず判定部238は、距離判定部232によって基準距離であると判定された場合、補正部236によって補正されていない、つまり、A/Dコンバータ220から入力された磁場の強さ(電圧値)に基づき、きずの有無を判定する。
【0061】
[探傷方法]
続いて、上記探傷装置100を用いた、道路10を探傷する探傷方法について説明する。図7は、本実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、本実施形態に係る探傷方法は、終了判定工程S110、信号取得工程S120、距離判定工程S130、選択工程S140、補正工程S150、記憶工程S160、きず判定工程S170、画像生成工程S180、画像表示工程S190を含む。以下、各工程について説明する。
【0062】
[終了判定工程S110]
中央制御部230は、所定の探傷範囲の走査が終了したか否かを判定する。その結果、探傷範囲の走査が終了していないと判定した場合(S110におけるNO)、中央制御部230は、信号取得工程S120に処理を移す。一方、探傷範囲の走査が終了したと判定した場合(S110におけるYES)、中央制御部230は、きず判定工程S170に処理を移す。
【0063】
[信号取得工程S120]
エンコーダ120は、位置情報を取得する。磁気センサ140は、磁束生成部130によって鋼床版20に生成された磁束に基づく、磁場の強さを測定する。距離センサ150は、舗装体30の表面と磁気センサ140との距離を測定する。位置情報、磁場の強さ(電圧値)、距離情報は、制御ユニット200に出力される。
【0064】
[距離判定工程S130]
距離判定部232は、信号取得工程S120で取得した距離情報が、基準距離に相当するか否かを判定する。その結果、基準距離に相当しないと判定した場合(S130におけるNO)、中央制御部230は、選択工程S140に処理を移す。一方、基準距離に相当すると判定した場合(S110におけるYES)、中央制御部230は、きず判定工程S170に処理を移す。
【0065】
[選択工程S140]
選択部234は、信号取得工程S120で取得した距離情報に基づき、上記第1補正情報、第2補正情報、および、第3補正情報のうち、対応する補正情報を選択する。
【0066】
[補正工程S150]
補正部236は、選択工程S140で選択された補正情報に基づいて、信号取得工程S120で取得した磁場の強さ(電圧値)を補正する。
【0067】
[記憶工程S160]
中央制御部230は、距離判定工程S130において基準距離であると判定した場合、信号取得工程S120で取得した磁場の強さ(電圧値)を位置情報に関連付けて、メモリ240に記憶する。
【0068】
一方、中央制御部230は、距離判定工程S130において基準距離ではないと判定した場合、補正工程S150で補正された補正値を位置情報に関連付けて、メモリ240に記憶する。
【0069】
[きず判定工程S170]
きず判定部238は、メモリ240に保持された、探傷範囲すべてにおいて、磁場の強さ(電圧値)および補正値と、判定範囲とを比較して、きずの有無を判定する。
【0070】
[画像生成工程S180]
中央制御部230は、メモリ240に記憶された、探傷範囲すべての、きずの有無と位置情報とに基づき、探傷範囲におけるきずの位置を示す探傷結果画像を生成する。
【0071】
[画像表示工程S190]
中央制御部230は、表示装置250に探傷結果画像を表示させる。図8は、探傷結果画像の一例を説明する図である。図8に示すように、例えば、結果画像252は、縦軸が探傷範囲の道路幅[m]を示し、横軸が探傷範囲の道路長[m]を示す矩形上の枠に、きずの箇所を黒色で示した画像である。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る探傷装置100およびこれを用いた探傷方法は、距離センサ150および補正部236を備える。これにより、探傷装置100は、走査中に上面板112aが傾き、磁気センサ140と舗装体30の表面との距離が変動したとしても、鋼床版20のきずの有無を高精度に検出することが可能となる。
【0073】
また、上記したように、補正部236は、補正情報に基づき、磁場の強さを補正する。これにより、補正部236は、補正に要する処理負荷を軽減することができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上述した実施形態において、制御ユニット200が、移動部110に設けられる場合を例に挙げた。しかし、制御ユニット200は、移動部110と離隔した場所に設けられていてもよい。
【0076】
また、上記実施形態において、磁束生成部130が永久磁石である場合を例に挙げた。しかし、いずれにせよ、磁束生成部130は、鋼床版20に所定方向の磁束を生成することができれば、構成に限定はない。例えば、磁束生成部130は、電磁石であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態において、探傷装置100が選択部234を備える場合を例に挙げた。しかし、選択部234は、必須の構成ではない。例えば、中央制御部230は、きずがない場合の磁場の強さと、舗装体30の表面(鋼床版20)からの距離との関係を示す曲線の近似式(例えば、2次関数)を補正情報としてもよい。この場合、補正部236は、距離情報と、補正情報とに基づき、磁場の強さ(電圧値)を補正する。
【0078】
また、上記実施形態において、車輪114が、不図示の駆動機構によって回動される場合を例に挙げた。しかし、探傷装置100は、牽引装置を備え、移動部110は、牽引装置によって牽引されてもよい。
【0079】
また、上記実施形態において、エンコーダ120によって測定された位置情報、磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)、および、距離センサ150によって測定された距離情報がアナログ値である場合を例に挙げた。しかし、エンコーダ120によって測定された位置情報、磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)、および、距離センサ150によって測定された距離情報のいずれか1または複数は、デジタル値であってもよい。なお、エンコーダ120によって測定された位置情報、磁気センサ140によって測定された磁場の強さ(電圧値)、および、距離センサ150によって測定された距離情報がデジタル値である場合、制御ユニット200は、A/Dコンバータ220を省略してもよい。
【0080】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0081】
100 探傷装置
110 移動部
130 磁束生成部
140 磁気センサ
150 距離センサ
236 補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8