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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096226
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】減速機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209210
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】牧角 知祥
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027GB03
3J027GC06
3J027GC08
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD08
3J027GD12
3J027GD13
(57)【要約】
【課題】継続的に適正に動作させることができる減速機構を提供する。
【解決手段】平面部3a、及び平面部3aに設けられた円筒ころ10を有する固定歯車3と、軸方向で平面部3aと対向し、軸方向に弾性変形する平面部4a、及び平面部4aに設けられ中心軸を中心として環状に配置された歯部14を有する可撓性歯車4と、中心軸回りに回転し、平面部4aを平面部3aに向かって押し付けることで円筒ころ10に対して歯部14を噛み合わせる押圧部5と、を備え、円筒ころ10は、平面部3aに対して周方向に移動不能、かつ径方向を軸として転動可能に設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、
前記軸線方向で前記第1平面部と対向し、前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、
前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、
を備え、
前記第1歯部及び前記第2歯部の少なくともいずれか一方は、他方と噛み合わされる複数の転動体からなり、
前記転動体は、前記第1歯車及び前記第2歯車の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられている
減速機構。
【請求項2】
前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか一方は、他方と噛み合わされる複数の転動体からなり、
前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか他方の歯底は、前記転動体の形状に対応する円弧状に形成されている
請求項1に記載の減速機構。
【請求項3】
前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか他方の歯先は、円弧状に形成されている
請求項2に記載の減速機構。
【請求項4】
前記第1歯車に前記転動体を設けた
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の減速機構。
【請求項5】
前記押圧部は、
前記径方向に延びる支持軸と、
前記支持軸に回転自在に支持され、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けるローラと、
を備える
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の減速機構。
【請求項6】
前記押圧部はカムを備え、
前記カムは、
前記軸線回りに回転する板部と、
前記板部から前記第2歯車に向かって突出し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付ける凸部と、
を有する
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の減速機構。
【請求項7】
前記第2歯車と前記カムとの間に設けられ、前記軸線を中心として環状に設けられたスラストころ軸受を備える
請求項6に記載の減速機構。
【請求項8】
前記第2歯車及び前記凸部の少なくともいずれかの対向面に設けられ、前記第2歯車と前記凸部との接触抵抗を低減する抵抗低減層を有する
請求項6又は請求項7に記載の減速機構。
【請求項9】
前記第2歯車は、前記第2平面部から前記軸線と同軸上に突出して設けられたシャフトを有する
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の減速機構。
【請求項10】
軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、
前記軸線方向で前記第1平面部と対向するとともに前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、
前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、
を備え、
前記第1歯部は、保持器によって前記第1平面部に対する周方向への移動が規制され、前記第1平面部の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられた円筒ころであり、
前記第2歯部の歯底は、前記円筒ころの形状に対応する円弧状に形成されており、
前記第2歯部の歯先は、円弧状に形成されており、
前記押圧部は、
前記径方向に延びる支持軸と、
前記支持軸に回転自在に支持されたローラと、
を有する
減速機構。
【請求項11】
軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、
前記軸線方向で前記第1平面部と対向するとともに前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、
前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、
前記第2歯車と前記押圧部との間に設けられ、前記軸線を中心として環状に設けられたスラストころ軸受と、
を備え、
前記第1歯部は、保持器によって前記第1平面部に対する周方向への移動が規制され、前記第1平面部の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられた円筒ころであり、
前記第2歯部の歯底は、前記円筒ころの形状に対応する円弧状に形成されており、
前記第2歯部の歯先は、円弧状に形成されており、
前記押圧部はカムであり、
前記カムは、
前記軸線回りに回転する板部と、
前記板部から前記第2歯車に向かって突出する凸部と、
を有する
減速機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機構として、高い減速比を有する波動歯車が知られている。波動歯車の中には、スラスト方向で歯部同士の噛み合わせを変化させる構造のものがある。この種の波動歯車は、例えば軸線方向に延びる入力軸及び出力軸と、入力軸に設けられた回転押圧部材と、出力軸に設けられた可撓性を有する可撓性歯車と、可撓性歯車と軸線方向において対向する固定歯車と、を備える。
【0003】
回転押圧部材が可撓性歯車上を軸線回りに回転することにより、固定歯車に向かって可撓性歯車の一部が押圧される。これにより、固定歯車と可撓性歯車とが噛み合わされる。回転押圧部材の回転に伴って固定歯車と可撓性歯車との噛み合い箇所がずれ、固定歯車に対して可撓性歯車が軸線回りに回転される。これにより、入力軸の回転に対して出力軸の回転が減速される。
【0004】
ここで、可撓性歯車の回転押圧部材によって押圧されていない箇所は、可撓性歯車の復元力(弾性力)によって固定歯車から離間する。これによって、固定歯車と可撓性歯車との噛み合いが解除されるので、回転押圧部材の回転に伴う固定歯車と可撓性歯車との噛み合い箇所のずれ動作がスムーズに行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-3017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術では、固定歯車と可撓性歯車との噛み合い解除を、可撓性歯車の復元力に依存している。このため、可撓性歯車は、固定歯車に対して常に適正に噛み合い解除できる強度が必要である。例えば、固定歯車と可撓性歯車との噛み合い抵抗が大きかったり可撓性歯車の経年劣化等により復元力が弱まったりすると減速機構が適正に動作しなくなってしまう可能性があった。
【0007】
本発明は、継続的に適正に動作させることができる減速機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る減速機構は、軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、前記軸線方向で前記第1平面部と対向し、前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、を備え、前記第1歯部及び前記第2歯部の少なくともいずれか一方は、他方と噛み合わされる複数の転動体からなり、前記転動体は、前記第1歯車及び前記第2歯車の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられている。
【0009】
このように、第1歯部及び第2歯部の少なくともいずれか一方を転動体で構成した。このため、第1歯部と第2歯部との噛み合い箇所がずれる際、第1歯部と第2歯部とが噛み合っていない箇所では、転動体が回転して第1歯部に対して第2歯部が乗り上げやすくなる。したがって、第2平面部の復元力によらず、第1歯部と第2歯部との噛み合いを解除できる。この結果、第2歯車の強度を高めることなく、減速機構を継続的に適正に動作させることができる。
【0010】
上記構成で、前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか一方は、他方と噛み合わされる複数の転動体からなり、前記転動体は、前記径方向を軸とする円筒ころであり、前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか他方の歯底は、前記転動体の形状に対応する円弧状に形成されてもよい。
【0011】
上記構成で、前記第1歯部及び前記第2歯部のいずれか他方の歯先は、円弧状に形成されてもよい。
【0012】
上記構成で、前記第1歯車に前記転動体を設けてもよい。
【0013】
上記構成で、前記押圧部は、前記径方向に延びる支持軸と、前記支持軸に回転自在に支持され、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けるローラと、を備えてもよい。
【0014】
上記構成で、前記押圧部はカムを備え、前記カムは、前記軸線回りに回転する板部と、前記板部から前記第2歯車に向かって突出し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付ける凸部と、を有してもよい。
【0015】
上記構成で、前記第2歯車と前記カムとの間に設けられ、前記軸線を中心として環状に設けられたスラストころ軸受を備えてもよい。
【0016】
上記構成で、前記第2歯車及び前記凸部の少なくともいずれかの対向面に設けられ、前記第2歯車と前記凸部との接触抵抗を低減する抵抗低減層を有してもよい。
【0017】
上記構成で、前記第2歯車は、前記第2平面部から前記軸線と同軸上に突出して設けられたシャフトを有してもよい。
【0018】
本発明の他の態様に係る減速機構は、軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、前記軸線方向で前記第1平面部と対向するとともに前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、を備え、前記第1歯部は、保持器によって前記第1平面部に対する周方向への移動が規制され、前記第1平面部の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられた円筒ころであり、前記第2歯部の歯底は、前記円筒ころの形状に対応する円弧状に形成されており、前記第2歯部の歯先は、円弧状に形成されており、前記押圧部は、前記径方向に延びる支持軸と、前記支持軸に回転自在に支持されたローラと、を有する。
【0019】
このように、第1歯部を円筒ころで構成した。このため、第1歯部と第2歯部との噛み合い箇所がずれる際、第1歯部と第2歯部とが噛み合っていない箇所では、円筒ころが回転して第1歯部に対して第2歯部が乗り上げやすくなる。したがって、第2平面部の復元力によらず、第1歯部と第2歯部との噛み合いが解除される。この結果、第2歯車の強度を高めることなく、減速機構を継続的に適正に動作させることができる。
また、第2歯部の歯底を円筒ころの形状に対応する円弧状に形成することにより、第1歯部と第2歯部との噛み合い面積(接触面積)をできる限り大きくすることができる。このため、第1歯部と第2歯部とが噛み合う際の面圧を低減できる。よって、第1歯車及び第2歯車にかかる負荷を低減でき、これら歯車の強度を高めることなく、継続的に適正に動作させることができる。
さらに、第2歯部の歯先を円弧状に形成することにより、円筒ころに対して第2歯部を乗り上げやすくすることができる。このため、確実に第1歯部と第2歯部との噛み合いを解除できる。
弾性変形する第2歯車(第2平面部)に対し、第1歯車の強度が高いので、円筒ころを設けやすくすることができる。
押圧部は、径方向に延びる支持軸と、支持軸に回転自在に支持されたローラと、を有するので、第2歯車に対する押圧部の接触抵抗を低減できる。このため、効率よく押圧部や第2歯車を動作させることができる。また、接触抵抗を低減できる分、第2歯車や押圧部を延命化できる。
【0020】
本発明の他の態様に係る減速機構は、軸線方向と直交する第1平面部、及び前記第1平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された複数の第1歯部を有する第1歯車と、前記軸線方向で前記第1平面部と対向するとともに前記軸線方向に弾性変形する第2平面部、及び前記第2平面部に設けられ前記軸線を中心として環状に配置された第2歯部を有する第2歯車と、前記軸線回りに回転し、前記第2平面部を前記第1平面部に向かって押し付けることで前記第1歯部に対して前記第2歯部を噛み合わせる押圧部と、前記第2歯車と前記押圧部との間に設けられ、前記軸線を中心として環状に設けられたスラストころ軸受と、を備え、前記第1歯部は、保持器によって前記第1平面部に対する周方向への移動が規制され、前記第1平面部の周方向に直交する径方向を軸として転動可能に設けられた円筒ころであり、前記第2歯部の歯底は、前記円筒ころの形状に対応する円弧状に形成されており、前記第2歯部の歯先は、円弧状に形成されており、前記押圧部はカムであり、前記カムは、前記軸線回りに回転する板部と、前記板部から前記第2歯車に向かって突出する凸部と、を有する。
【0021】
このように、第1歯部を円筒ころで構成した。このため、第1歯部と第2歯部との噛み合い箇所がずれる際、第1歯部と第2歯部とが噛み合っていない箇所では、円筒ころが回転して第1歯部に対して第2歯部が乗り上げやすくなる。したがって、第2平面部の復元力によらず、第1歯部と第2歯部との噛み合いが解除される。この結果、第2歯車の強度を高めることなく、減速機構を継続的に適正に動作させることができる。
また、第2歯部の歯底を円筒ころの形状に対応する円弧状に形成することにより、第1歯部と第2歯部との噛み合い面積(接触面積)をできる限り大きくすることができる。このため、第1歯部と第2歯部とが噛み合う際の面圧を低減できる。よって、第1歯車及び第2歯車にかかる負荷を低減でき、これら歯車の強度を高めることなく、継続的に適正に動作させることができる。
さらに、第2歯部の歯先を円弧状に形成することにより、円筒ころに対して第2歯部を乗り上げやすくすることができる。このため、確実に第1歯部と第2歯部との噛み合いを解除できる。
弾性変形する第2歯車(第2平面部)に対し、第1歯車の強度が高いので、円筒ころを設けやすくすることができる。
押圧部はカムであり、カムは、軸線回りに回転する板部と、板部から第2歯車に向かって突出する凸部と、を有する。このため、押圧部の構成を簡素化できる。また、押圧部を扁平化できる。
【発明の効果】
【0022】
上述の減速機構は、継続的に適正に動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態における波動歯車機構の軸方向に沿う断面図。
図2】本発明の第1実施形態における波動歯車機構の一部分解斜視図。
図3】本発明の第1実施形態における固定歯車、可撓性歯車を展開した説明図。
図4】本発明の第2実施形態における波動歯車機構の軸方向に沿う断面図。
図5】本発明の第3実施形態における波動歯車機構の一部分解斜視図。
図6】本発明の第3実施形態における押圧部の構成を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
[第1実施形態]
<波動歯車機構>
図1は、第1実施形態における減速機構に係る波動歯車機構1の軸方向に沿う断面図である。図2は、波動歯車機構1の一部分解斜視図である。
図1図2に示すように、波動歯車機構1は、有底円筒状のケース2と、ケース2の開口部2aを閉塞するように設けられた円板状の固定歯車(請求項における第1歯車の一例)3と、ケース2内に設けられた可撓性歯車(請求項における第2歯車の一例)4及び押圧部5と、を主構成としている。
なお、以下の説明では、ケース2の中心軸Cと平行な方向を軸方向と称する。また、ケース2、固定歯車3及び可撓性歯車4の周方向(中心軸C回り)を単に周方向と称する場合があり、ケース2の径方向を単に径方向と称する場合がある。
【0026】
<ケース>
ケース2の底部2bには、径方向中央に、開口部2a側に向かって突出する円筒状の軸受ハウジング6が一体成形されている。軸受ハウジング6には、後述する入力軸17を回転自在に支持するための2つの軸受7a,7bが設けられている。軸受7a,7bとしては、例えば玉軸受を好適に用いることができる。しかしながらこれに限られるものではなく、他の転がり軸受や滑り軸受等、さまざまな軸受を用いることができる。
ケース2の開口部2a側端には、段差部2cを介して内径が拡大された拡径部8が形成されている。この拡径部8に嵌め合わさるように固定歯車3が設けられている。
【0027】
<固定歯車>
固定歯車3は、径方向中央がケース2の中心軸Cと一致する円板状の固定歯車本体9と、固定歯車本体9の底部2b(段差部2c)側の平面部(請求項における第1平面部の一例)9aに設けられた複数の円筒ころ10及び保持器11と、を主構成としている。
複数の円筒ころ10は、円筒ころ10の軸線方向がケース2の径方向と一致するように配置され、周方向に等間隔で配置されている。すなわち、軸方向からみて複数の円筒ころ10は、放射状に配置されている。
【0028】
保持器11は、複数の円筒ころ10を平面部9aに対して周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持する。
このような構成のもと、円筒ころ10は、可撓性歯車4と噛み合わされる歯部(請求項における第1歯部の一例)として機能する(詳細は後述する)。
【0029】
固定歯車本体9の径方向中央には、固定歯車本体9の厚さ方向(軸方向)に貫通する貫通孔9bが形成されている。貫通孔9bには、軸受12が設けられている。軸受12としては、例えば玉軸受を好適に用いることができる。しかしながらこれに限られるものではなく、他の転がり軸受や滑り軸受等、さまざまな軸受を用いることができる。このような軸受12を介し、固定歯車3に出力軸(請求項におけるシャフトの一例)13が回転自在に支持されている。
【0030】
出力軸13は、中実状に形成されている。出力軸13の軸線は、中心軸Cと一致している。出力軸13は、大部分が固定歯車3を介してケース2とは反対側に突出されている。出力軸13のケース2側に突出された一端13aに可撓性歯車4が固定されており、出力軸13と一体となって可撓性歯車4が回転される。換言すれば、可撓性歯車4の平面部4aから出力軸13が突出されている。
【0031】
<可撓性歯車>
図3は、固定歯車3、可撓性歯車4を展開した説明図である。
図1から図3に示すように、可撓性歯車4は、弾性変形する素材により円板状に形成されている。可撓性歯車4は、固定歯車本体9の平面部9aと軸方向で対向するように配置されている。可撓性歯車4の径方向中央は中心軸Cと一致しており、この径方向中央に出力軸13の一端13aが固定されている。この固定された可撓性歯車4の径方向内側が固定端となり、可撓性歯車4の外周部側が自由端となる。そして、可撓性歯車4は、この可撓性歯車4の外周部が固定歯車3に対して接近、離間するように軸方向に沿って弾性変形する。
【0032】
また、軸方向からみて、可撓性歯車4の外周部は、円筒ころ10と重なっている。可撓性歯車4の外周部には、固定歯車本体9の平面部9aと軸方向で対向する平面部(請求項における第2平面部の一例)4aに、複数の円筒ころ10に噛み合わされる歯部(請求項における第2歯部の一例)14が全周に渡って形成されている。歯部14の歯幅は、径方向に沿っている。歯部14の歯幅は、円筒ころ10の長さと同等程度が望ましい。歯部14の歯数は、円筒ころ10の個数よりも少ない。例えば歯部14の歯数は、円筒ころ10の個数よりも2個少ない。
【0033】
歯部14の歯底14aは、円筒ころ10の形状に対応するように、円弧状に形成されている。より具体的には、歯底14aの曲率半径は、円筒ころ10の半径と同等である。
歯部14の歯先14bも円弧状に形成されている。この歯先14bの曲率半径も歯底14aの曲率半径と同等である。
このような可撓性歯車4は、固定歯車3と軸方向で一定の間隔をあけて配置されている。具体的には、可撓性歯車4に負荷がかかっていない自然体の状態で、歯部14の歯先14bの頂部14cが円筒ころ10から僅かに離間しているか、又は僅かに接触している程度となるように、可撓性歯車4が配置されている。また、可撓性歯車4を挟んで固定歯車3とは反対側に、押圧部5が配置されている。
【0034】
<押圧部>
押圧部5は、ケース2に軸受7a,7bを介して回転自在に支持される入力軸17に固定された2つの支持軸15と、支持軸15に回転自在に支持されたローラ16と、を備える。
入力軸17は、中実状に形成されている。入力軸17の軸線は、中心軸Cと一致している。このように、入力軸17は、出力軸13と同軸上に配置される。入力軸17の可撓性歯車4側の端部には、軸固定座18が設けられている。軸固定座18は、径方向の大きさが入力軸17の外径よりも大きく形成されている。このような軸固定座18に、支持軸15の一端15aが取り付けられている。
【0035】
2つの支持軸15は、径方向に沿って延びている。また、2つの支持軸15は、入力軸17(軸固定座18)を挟んで両側で、かつ同一直線上に配置されている。各支持軸15の他端(径方向外側端)15bに、ローラ16が回転自在に支持されている。
ローラ16は、可撓性歯車4を平面部4aとは反対側の背面4b側から固定歯車3に向かって押し付けるためのものである。ローラ16は、軸方向からみて可撓性歯車4の歯部14及び固定歯車3の円筒ころ10と重なる位置に配置されている。
【0036】
<波動歯車機構の動作>
次に、波動歯車機構1の動作について説明する。
まず、可撓性歯車4の歯部14は、ローラ16によって背面4bが押し付けられることにより、この押し付けられた箇所だけ固定歯車3の円筒ころ10に噛み合わされる。このような状態から、入力軸17に例えば図示しないモータを連結し、このモータによって入力軸17を回転させると、この入力軸17と一体となって押圧部5のローラ16が中心軸C回りに回転する。
【0037】
すると、ローラ16の中心軸C回りの回転に伴って、固定歯車3の円筒ころ10と可撓性歯車4の歯部14との噛み合い位置が漸次変化される。歯部14の歯数は、円筒ころ10の数よりも例えば2個分少ない。このため、噛み合い位置が周方向に漸次ずれることにより、固定歯車3の円筒ころ10と可撓性歯車4の歯部14との噛み合いがずれて、その差動分だけ固定歯車3に対して可撓性歯車4が回転される。具体的には、ローラ16が一周回転すると、可撓性歯車4は、円筒ころ10の2個分だけ固定歯車3に対して回転する。
【0038】
ここで、固定歯車3の円筒ころ10と可撓性歯車4の歯部14との噛み合いがずれる際(例えば図3の矢印Y1参照)、このずれ動作に伴って円筒ころ10が軸線回りに転動される(例えば図3の矢印Y2参照)。このため、円筒ころ10と歯部14との噛み合い抵抗が極力低減され、ローラ16によって可撓性歯車4が押し付けられていない箇所では、可撓性歯車4の復元力によらずに歯部14が円筒ころ10を容易に乗り上げる。しかも、歯部14の歯先14bは円弧状に形成されているので、歯部14が円筒ころ10を乗り上げやすい。仮に円筒ころ10と歯部14とが噛み合わされていない箇所で、歯部14の歯先14bの頂部14cが円筒ころ10と僅かに接触していたとしても円筒ころ10に歯部14が引っ掛かってしまうことがない。
【0039】
また、歯部14の歯底14aは、円筒ころ10の形状に対応するように、円弧状に形成されている。このため、円筒ころ10と歯部14とが噛み合わされている箇所では、歯部14が台形状に形成されている場合と比較して円筒ころ10と歯部14との接触面積が大きくなる。このため、円筒ころ10や歯部14にかかる面圧が低減されるとともに、円筒ころ10と歯部14とが確実に噛み合わされる。
さらに、ローラ16によって可撓性歯車4を押し付けるので、中心軸C回りにローラ16が回転されても、ローラ16が転動されるので(例えば図3の矢印Y3参照)、可撓性歯車4に対する押圧部5の接触抵抗(摺動抵抗)が極力低減される。
【0040】
可撓性歯車4が回転されると、この可撓性歯車4と一体となって出力軸13が回転される。この出力軸13の回転は、入力軸17の回転に対して減速して出力されることになる。出力軸13に図示しない外部機器を取り付けることにより、この外部機器が駆動される。なお、出力軸13を固定して、ケース2に図示しない外部機器を取り付けることも可能である。このように構成することで、可撓性歯車4に対して固定歯車3が回転される。この固定歯車3となってケース2が回転されるので、外部機器が駆動される。
【0041】
このように上述の第1実施形態では、固定歯車3を構成する固定歯車本体9の平面部9a上に、複数の円筒ころ10を放射状に配置した。固定歯車本体9は弾性変形することもなく、可撓性歯車4と比較して強度も高い。このため、固定歯車本体9の平面部9aに、容易に円筒ころ10を設けることができる。
【0042】
そして、このような円筒ころ10を、可撓性歯車4の歯部14と噛み合わされる第1歯部として機能させた。保持器11によって、円筒ころ10は、固定歯車本体9の平面部9aに対して周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動する。
このため、円筒ころ10と歯部14とが噛み合わされていない箇所で、円筒ころ10に対して歯部14が乗り上げやすくなる。したがって、可撓性歯車4の復元力によらず、円筒ころ10と歯部14との噛み合いを解除できる。この結果、例えば可撓性歯車4の強度を高めることなく、波動歯車機構1を継続的に適正に動作させることができる。
【0043】
これに加え、歯部14の歯先14bは円弧状に形成されている。このため、歯部14の円筒ころ10に対する乗り上げをさらに行いやすくできる。よって、確実に円筒ころ10と歯部14との噛み合いを解除できる。
【0044】
また、可撓性歯車4では、歯部14の歯底14aが円筒ころ10の形状に対応するように、円弧状に形成されている。このため、円筒ころ10と歯部14とが噛み合わされている箇所では、歯部14が台形状に形成されている場合と比較して円筒ころ10と歯部14との接触面積が大きくなる。したがって、円筒ころ10や歯部14にかかる面圧が低減でき、これら円筒ころ10や歯部14の強度を高めることなく、波動歯車機構1を継続的に適正に動作させることができる。また、円筒ころ10と歯部14とを確実に噛み合わすことができる。
【0045】
また、押圧部5にローラ16を設け、このローラ16を用いて可撓性歯車4を押し付けるようにした。このため、可撓性歯車4に対する押圧部5の接触抵抗を低減できる。このため、効率よく押圧部5や可撓性歯車4を動作させることができる。また、接触抵抗を低減できる分、押圧部5や可撓性歯車4を延命化できる。
【0046】
また、可撓性歯車4の径方向中央に、出力軸13の一端13aが固定されている。換言すれば、可撓性歯車4の平面部4aから出力軸13が突出されている。出力軸13に固定された可撓性歯車4の径方向内側が固定端となり、可撓性歯車4の外周部側が自由端となる。このため、可撓性歯車4の外周部を軸線方向に弾性変形しやすくできる。すなわち、可撓性歯車4の径方向内側が固定端となって拘束されることにより、自由端である外周部側が大きく弾性変形しやすい。可撓性歯車4の径方向内側も自由端であると、外周部側の弾性変形が小さくなってしまう。このように、可撓性歯車4の径方向内側が固定端となり、可撓性歯車4の外周部側が自由端となることにより、可撓性歯車4の復元力を利用し、円筒ころ10に対して歯部14を確実に離間させることができる。よって、確実に円筒ころ10と歯部14との噛み合いを解除できる。
【0047】
なお、上述の第1実施形態では、出力軸13や入力軸17は、中実状に形成されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、出力軸13や入力軸17を中空状に形成してもよい。
【0048】
また、上述の第1実施形態では、固定歯車本体9の平面部9aに保持器11を設けた場合について説明した。この保持器11によって、平面部9aに対して複数の円筒ころ10を周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持する場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、保持器11に代わって平面部9aに複数の凹部を形成し、この凹部に円筒ころ10を配置するようにしてもよい。このように構成した場合であっても、平面部9aに対して複数の円筒ころ10を周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持することができる。
【0049】
上述の第1実施形態では、ケース2の底部2bには、径方向中央に、開口部2a側に向かって突出する円筒状の軸受ハウジング6が一体成形されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、ケース2とは別体で軸受ハウジング6を設けてもよい。
【0050】
[第2実施形態]
<波動歯車機構>
次に、図4に基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、前述の第1実施形態と同一態様には同一符号を付して説明を省略する(以下の実施形態についても同様)。
図4は、第2実施形態における波動歯車機構201の軸方向に沿う断面図である。
図4に示すように、波動歯車機構201は、ケース202と、固定歯車203と、可撓性歯車204と、押圧部205と、を主構成とする点は、前述の第1実施形態と同様である。
【0051】
ここで、第1実施形態と第2実施形態との相違点は、第1実施形態では可撓性歯車4に出力軸13が設けられているのに対し、第2実施形態では可撓性歯車204に出力軸13が設けられていない点である。また、第1実施形態ではケース2に固定歯車3が固定されているのに対し、第2実施形態ではケース202に可撓性歯車204が固定されている点である。
【0052】
<ケース>
より詳しくは、ケース202は、軸方向に並ぶ有底筒状の第1ケース21と、円環状の第2ケース22と、を備える。第1ケース21は、開口部21aを第2ケース22側に向けて配置されている。第1ケース21の底部21bには、径方向中央に、厚さ方向(軸方向)に貫通する貫通孔23が形成されている。この貫通孔23に、入力軸217が通されている。また、貫通孔23には、入力軸217を回転自在に支持するための軸受20が設けられている。軸受20としては、例えば玉軸受を好適に用いることができる。しかしながらこれに限られるものではなく、他の転がり軸受や滑り軸受等、さまざまな軸受を用いることができる。
【0053】
第1ケース21の周壁21cには、開口部21a側に、径方向外側に向かって張り出す外フランジ部24が一体成形されている。外フランジ部24の大部分には、軸方向からみて円形状の収納凹部25が形成されている。収納凹部25の内周面の直径は、第2ケース22の外径と同一である。そして、第1ケース21の収納凹部25の底面25aと第2ケース22の第1ケース21側の端面22aとにより、可撓性歯車204を挟むようにして保持している。
【0054】
<可撓性歯車>
可撓性歯車204は、円環状の固定部26と、固定部26の内周面から径方向内側に向かって張り出す可撓性歯車本体27と、が一体成形されたものである。可撓性歯車204の径方向中央は、中心軸Cと一致している。固定部26が、第1ケース21の収納凹部25の底面25aと第2ケース22の第1ケース21側の端面22aとにより、挟み込まれている。固定部26、第1ケース21の収納凹部25、及び第2ケース22には、それぞれ軸方向に貫通する貫通孔26a,25b,22cが形成されている。これら貫通孔26a,25b,22cに図示しないボルト等の固定部材を通し、各ケース21,22と可撓性歯車204とを一体化する。
【0055】
固定部26の内周面、及び第2ケース22の内周面には、それぞれ軸受収納凹部26b,22bが形成されている。これら軸受収納凹部26b,22bには、固定歯車203を回転自在に支持するための軸受28が設けられている。
可撓性歯車本体27は、外周部が固定部26に固定された形なので、この外周部側が固定端となり、径方向内側が自由端となる。そして、可撓性歯車4は、可撓性歯車本体27の径方向内側が軸方向に沿って(固定歯車203に対して接近、離間するように)弾性変形する。可撓性歯車本体27の径方向内側には、第2ケース22側の平面部(請求項における第2平面部の一例)27aに、全周に渡って歯部(請求項における第2歯部の一例)29が形成されている。
【0056】
<固定歯車>
可撓性歯車204の固定部26、及び第2ケース22に軸受28を介し、固定歯車203が回転自在に支持されている。固定歯車203は、円環状に形成されている。固定歯車203の径方向中央は、中心軸Cと一致している。
固定歯車203の可撓性歯車本体27側の平面部(請求項における第1平面部の一例)203aは、軸方向で可撓性歯車本体27の平面部27aと対向している。固定歯車203の平面部203aには、軸方向からみて可撓性歯車本体27の歯部29と重なる位置に、複数の凹部203bが形成されている。凹部203bは、軸方向からみて径方向に長い長方形状で、かつ軸方向及び周方向に沿う断面が半円状に形成されている。このような複数の凹部203bは、周方向に等間隔で配置されている。すなわち、軸方向からみて複数の凹部203bは、放射状に配置されている。
【0057】
各凹部203bには、円筒ころ10が配置されている。各凹部203bの形状は、円筒ころ10に対応しており、その軸線が径方向に沿っている。そして、凹部203bによって、円筒ころ10は、固定歯車203の平面部203aに対して周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持される。このような構成のもと、円筒ころ10は、可撓性歯車本体27の歯部29と噛み合わされる第1歯部として機能する。
【0058】
ここで、本第2実施形態では特に図示を省略するが、可撓性歯車本体27の歯部29の歯底は、円筒ころ10の形状に対応するように、円弧状に形成されている。すなわち、歯部29の歯底の曲率半径は、円筒ころ10の半径と同等である。歯部29の歯先も円弧状に形成されている。この歯先の曲率半径も歯底14aの曲率半径と同等である。
このような可撓性歯車本体27は、固定歯車203と軸方向で一定の間隔をあけて配置されている。具体的には、可撓性歯車本体27に負荷がかかっていない自然体の状態で、歯部29の歯先の頂部が円筒ころ10から僅かに離間しているか、又は僅かに接触している程度となるように、可撓性歯車本体27が配置されている。
【0059】
また、固定歯車203には、平面部203aとは反対側の他面203cに雌ねじ部30が形成されている。雌ねじ部30は、固定歯車203に図示しない外部機器を固定するために用いられる。
固定歯車203の内周面には、入力軸217を回転自在に支持するための軸受31が設けられている。軸受31としては、例えば玉軸受を好適に用いることができる。しかしながらこれに限られるものではなく、他の転がり軸受や滑り軸受等、さまざまな軸受を用いることができる。
【0060】
このように、入力軸217は、固定歯車203に設けられた軸受31と第1ケース21に設けられた軸受20とに回転自在に支持されている。そして、入力軸217は、第1ケース21、可撓性歯車本体27及び固定歯車203に通されている。入力軸217は、中空状に形成されている。入力軸217の外周部で、第1ケース21内に対応する位置に、押圧部205が設けられている。
【0061】
<押圧部>
押圧部205は、入力軸17に固定された2つの支持軸215と、支持軸215に回転自在に支持されたローラ216と、を備える。
2つの支持軸215は、入力軸217の外周部から径方向に沿って突出している。また、2つの支持軸215は、入力軸217を挟んで両側で、かつ同一直線上に配置されている。各支持軸215の径方向外側端部215bに、ローラ216が回転自在に支持されている。ローラ216は、軸方向からみて可撓性歯車本体27の歯部29及び固定歯車203の円筒ころ10と重なる位置に配置されている。
【0062】
<波動歯車機構の動作>
次に、波動歯車機構201の動作について説明する。
まず、ローラ216によって、可撓性歯車本体27の背面27bが固定歯車203側に向かって押し付けられる。この押し付けられた箇所の可撓性歯車本体27の歯部29だけ、固定歯車203の円筒ころ10に噛み合わされる。このような状態から、入力軸217に例えば図示しないモータを連結し、このモータによって入力軸217を回転させると、入力軸217と一体となって押圧部205のローラ216が中心軸C回りに回転される。
【0063】
すると、ローラ216の回転に伴って、固定歯車203の円筒ころ10と可撓性歯車本体27の歯部29との噛み合い位置が漸次変化される。歯部29の歯数は、円筒ころ10の数よりも例えば2個分少ないので、噛み合い位置が周方向に漸次ずれることにより、固定歯車203の円筒ころ10と可撓性歯車本体27の歯部29との噛み合いがずれる。
【0064】
第2実施形態では、ケース202に可撓性歯車204が固定されている。このため、固定歯車203の円筒ころ10と可撓性歯車本体27の歯部29との噛み合いのずれによる差動分だけ、可撓性歯車204に対して固定歯車203が回転される。具体的には、ローラ216が一周回転すると、固定歯車203は、円筒ころ10の2個分だけ可撓性歯車204に対して回転する。固定歯車203が回転されることにより、この固定歯車203に固定された図示しない外部機器が駆動される。すなわち、固定歯車203は、入力軸217の回転を図示しない外部機器に出力する出力軸として機能する。
【0065】
したがって、上述の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、入力軸217を中空状に形成するとともに固定歯車203を円環状に形成することにより、入力軸217内に、例えば波動歯車機構201を駆動するための図示しないモータに電力を供給する配線等を引き回すことができる。このため、波動歯車機構201の周辺に設けられる配線等の引き回し自由度を高めることができる。
【0066】
なお、上述の第2実施形態では、入力軸217を中空状に形成した場合について説明した。また、固定歯車203を円環状に形成した場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、入力軸217を中実状に形成してもよい。また、固定歯車203を円板状に形成してもよい。
【0067】
上述の第2実施形態では、固定歯車203の平面部203aに凹部203bを形成した場合について説明した。この凹部203bに円筒ころ10を配置することにより、円筒ころ10を、固定歯車203の平面部203aに対して周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持する場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、固定歯車203の平面部203aに、円筒ころ10を保持する保持器を設けてもよい。この保持器によって、平面部203aに円筒ころ10を周方向に移動不能、かつ円筒ころ10の軸線回りに転動可能に保持してもよい。
【0068】
[第3実施形態]
<波動歯車機構>
次に、図5図6に基づいて、本発明の第3実施形態について説明する。
図5は、第3実施形態の波動歯車機構301の一部分解斜視図である。
図5に示すように、波動歯車機構301は、ケース(本第3実施形態では図示略)と、固定歯車3と、可撓性歯車4と、押圧部305と、を主構成とする点は、前述の第1実施形態と同様である。
ここで、第1実施形態と第3実施形態との相違点は、第1実施形態の押圧部5と、第3実施形態の押圧部305とが異なる点にある。
【0069】
<押圧部>
図6は、押圧部305の構成を示す側面図である。
図5図6に示すように、押圧部305は、入力軸17の可撓性歯車4側の端部に設けられたカム40と、カム40と可撓性歯車4との間に設けられた環状のスラストころ軸受43と、を備える。
【0070】
カム40は、入力軸17と同軸上に設けられた円板体(請求項における板部の一例)41と、円板体41から可撓性歯車4側に向かって突出する凸部42と、が一体成形されたものである。凸部42は、円板体41の外周部に設けられている。凸部42は、可撓性歯車4側に向かうに従って先細りに形成されており、稜線部42aが径方向に沿っている。このような凸部42は、入力軸17を挟んで両側に配置され、かつ各々稜線部42aが同一直線上に位置するように配置されている。また、各凸部42は、軸方向からみて可撓性歯車4の歯部14及び固定歯車3の円筒ころ10と重なる位置に配置されている。
【0071】
スラストころ軸受43は、軸方向で可撓性歯車4の歯部14及び固定歯車3の円筒ころ10と各凸部42との間に位置する大きさに形成されている。スラストころ軸受43の径方向中央は、中心軸Cと一致している。スラストころ軸受43は、固定歯車3の円筒ころ10と同様に放射状に配置された複数の円筒ころ44と、複数の円筒ころ44を保持する保持器45と、を備える。
【0072】
保持器45によって、複数の円筒ころ44が周方向に移動不能、かつ円筒ころ44の軸線回りに転動可能に保持される。また、保持器45は、弾性変形する素材により形成されている。このため、保持器45は、軸方向に沿って弾性変形する。
【0073】
<波動歯車機構の動作>
次に、波動歯車機構301の動作について説明する。
まず、カム40の凸部42によって、スラストころ軸受43を介して可撓性歯車4の背面4bが固定歯車3側に押し付けられる。スラストころ軸受43の保持器45は、弾性変形するので、カム40の凸部42の形状に沿うように弾性変形する。この結果、凸部42によって押し付けられた箇所の可撓性歯車4の歯部14だけ、固定歯車203の円筒ころ10に噛み合わされる。
【0074】
このような状態から、入力軸17に例えば図示しないモータを連結し、このモータによって入力軸17を回転させると、入力軸17と一体となって押圧部305のカム40が中心軸C回りに回転される。カム40の凸部42は、円板体41の外周部に設けられているので、中心軸C回りに凸部42が回転する形になる。
【0075】
すると、凸部42の回転に伴って、固定歯車3の円筒ころ10と可撓性歯車4の歯部14との噛み合い位置が漸次変化される。歯部14の歯数は、円筒ころ10の数よりも例えば2個分少ないので、噛み合い位置が周方向に漸次ずれることにより、固定歯車3の円筒ころ10と可撓性歯車4の歯部14との噛み合いがずれて、その差動分だけ固定歯車3に対して可撓性歯車4が回転される。具体的には、カム40が一回転すると、可撓性歯車4は、円筒ころ10の2個分だけ固定歯車3に対して回転する。可撓性歯車4が回転されると、この可撓性歯車4と一体となって出力軸13が回転される。
【0076】
したがって、上述の第3実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、押圧部305をカム40により構成することで、押圧部305の構成を簡素化できる。さらに、前述の第1実施形態のようにローラ16を用いる場合と比較して、押圧部305を扁平化できる。
また、カム40の凸部42は、スラストころ軸受43を介して可撓性歯車4の背面4bを押し付ける。このため、スラストころ軸受43によって、可撓性歯車4に対するカム40の接触抵抗が低減される。よって、効率よく押圧部305や可撓性歯車4を動作させることができるとともに、接触抵抗を低減できる分、押圧部305や可撓性歯車4を延命化できる。
【0077】
なお、上述の第3実施形態のカム40を、第2実施形態の支持軸215及びローラ216に代わって採用してもよい。
また、上述の第3実施形態では、可撓性歯車4に対するカム40の接触抵抗を低減するために、スラストころ軸受43を設けた場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、凸部42の表面(請求項における対向面の一例)及び可撓性歯車4の背面(ここでは請求項における対向面の一例)4bの少なくともいずれか一方に、可撓性歯車4に対するカム40の接触抵抗を低減する抵抗低減層48(2点鎖線で示す)を設けてもよい。抵抗低減層48としては、被膜等が挙げられる。抵抗低減層48は、例えばフッ素樹脂コーティング被膜等である。この他、抵抗低減層48として、滑り軸受を採用してもよい。
【0078】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、固定歯車3,203に、可撓性歯車4,204の歯部14,29に噛み合わされる円筒ころ10を設けた場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、可撓性歯車4,204の歯部19,29に代わって円筒ころ10を設けてもよい。また、固定歯車3,203及び可撓性歯車4,204に、円筒ころ10を設け、これら円筒ころ10同士を噛み合わせるように構成してもよい。
【0079】
さらに、円筒ころ10に代わって球体を設けてもよい。球体を固定歯車3,203や可撓性歯車4,204に周方向に移動不能、かつその場で径方向を軸として転動可能に構成することにより、上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、径方向を軸とする転動とは、その軸が必ずしも完全に径方向と一致する必要はなく、転動体がおおよそ周方向に沿って転動していることも含むものとする。
【符号の説明】
【0080】
1,201,301…波動歯車機構(減速機構)、3,203…固定歯車(第1歯車)、4,204…可撓性歯車(第2歯車)、4a…平面部(第2平面部)、5,205,305…押圧部、9…固定歯車本体、9a…平面部(第1平面部)、10…円筒ころ(第1歯部、転動体)、11…保持器、13…出力軸、14…歯部(第2歯部)、14a…歯底、14b…歯先、15,215…支持軸、16,216…ローラ、27…可撓性歯車本体、27a…平面部(第2平面部)、29…歯部(第2歯部)、40…カム、41…円板体(板部)、42…凸部、43…スラストころ軸受、48…抵抗低減層、203a…平面部(第1平面部)、C…中心軸(軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6