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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096248
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】コイル部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20220622BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20220622BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220622BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220622BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220622BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220622BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/24
H01F41/02 D
C22C38/00 303S
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209248
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】高舘 金四郎
(72)【発明者】
【氏名】棚田 淳
(72)【発明者】
【氏名】土屋 健吾
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC01
4K018BD01
4K018CA11
4K018DA03
4K018DA21
4K018KA43
5E041AA02
5E041AA11
5E041AA19
5E041BB01
5E041BC01
5E041CA01
5E041HB09
5E041HB11
5E041HB14
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN18
5E070AA01
5E070AB08
5E070BA03
5E070BA12
(57)【要約】
【課題】金属磁性粒子同士が厚みの薄い絶縁被膜を介して結合された、電気的絶縁性の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品を、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子、及び前記金属磁性粒子同士を接合する、酸素及び窒素を含む接合層で形成された磁性基体、並びに前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体を備えるものとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子、及び
前記金属磁性粒子同士を接合する、酸素及び窒素を含む接合層
で形成された磁性基体、並びに
前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体
を備えるコイル部品。
【請求項2】
前記接合層における酸素(O)に対する窒素(N)の原子数比率(N/O)が0.04以上である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記金属磁性粒子のFe含有量が90質量%以上であり、かつ
前記接合層における鉄(Fe)に対するクロム(Cr)の原子数比率(Cr/Fe)が3.0以上である、
請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末を成形して成形体とすること、
前記成形体を、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、
前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行って磁性基体とすること、及び
前記磁性基体の表面に導体を配置すること
を含む、コイル部品の製造方法。
【請求項5】
Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末、及び導体又はその前駆体を成形し、前記導体又はその前駆体が内部に配置された成形体とすること、
前記成形体を、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、並びに
前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行うこと
を含む、コイル部品の製造方法。
【請求項6】
前記第1の熱処理を、550℃以上の温度にて行う、請求項4又は5に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品を搭載した回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話を初めとする高周波通信用システムにおいて、小型化・高性能化を促進するために、内部に搭載される電子部品にも小型化・高性能化が求められている。インダクタなどのコイル部品に関しては、高性能化の一つの指針として、大電流化が挙げられる。こうした小型化・大電流化の要求を満たすために、コイル部品に使用される磁性材料として、フェライト材料よりも磁気飽和しにくい金属磁性材料が使用され始めている。
【0003】
金属磁性材料の使用に際しては、その電気的絶縁性がフェライト材料よりも劣ることから、これを改善するために、金属磁性材料で形成された粒子の表面に絶縁層を形成し、該粒子同士を電気的に絶縁することが多い。
【0004】
例えば、特許文献1では、Fe-Si-Cr系軟磁性合金粒子の成形体を酸素雰囲気下で熱処理することで、該合金粒子どうしが表面の酸化被膜を介して結合した組織を有する磁心材料とすることが開示されている。この磁心材料は、粒子間の酸化物層の存在により、高い機械的強度と良好な絶縁性が容易に得られる特徴がある。
【0005】
また、特許文献2では、鉄を含む軟磁性材料のコア上に、ゾル-ゲル反応を利用してあらかじめ絶縁被膜を形成した磁性体粒子を利用して、成形体を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-46055号公報
【特許文献2】国際公開第2018/131536号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示されるような、磁性粉末を成形して得られる圧粉磁心においては、これを構成する磁性粉末の充填率を高めること、及び磁性粉末を構成する各粒子表面の絶縁被膜の厚さを薄くすることが、飽和磁束密度の向上に繋がる。そして、このことにより、同一体積のコイル部品ではより大きい入力電流に対応でき、同じ入力電流に対してはより小さな体積のコイル部品で対応できるようになる。
【0008】
飽和磁束密度の向上のために磁性粉末の充填率を高める場合には、圧粉磁心及びその前駆体である成形体における空隙が減少することとなる。このため、特許文献1に開示されるように、成形体を酸素雰囲気下で熱処理することで酸化物の絶縁被膜を形成する場合には、成形体の空隙の減少により、次のような問題が生じることがあった。まず、成形体の内部に拡散する酸素の量が減少することで、成形体内部での酸化反応が抑制されて絶縁被膜の形成が不十分となり、磁心の絶縁性が低下することがあった。また、この絶縁性の低下を抑制するために、熱処理雰囲気中の酸素濃度の増加、熱処理温度の高温化及び/又は熱処理時間の長時間化等の対策を講じた場合、成形体の表面近傍の合金粒子が過度に酸化されて磁気特性が低下することがあった。
【0009】
他方、軟磁性材料のコア上に、あらかじめ絶縁被膜を形成した磁性体粒子を成形する特許文献2に記載の技術においては、成形体の熱処理により絶縁被膜を形成する場合よりも、絶縁被膜の厚みが厚くなる傾向にある。このため、成形体中の絶縁被膜の体積割合が高まり、その分だけ正味の軟磁性材料の割合が低下することとなり、飽和磁束密度の向上が困難であった。また、製法上の課題として、コアに対して絶縁被膜を形成するための処理を別途設ける必要があるため、製造コストが上昇することも挙げられる。
【0010】
そこで本発明は、金属磁性粒子同士が厚みの薄い絶縁被膜を介して結合された、電気的絶縁性の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述の問題点を解決するために種々の検討を行ったところ、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粉末の成形体に対して、絶縁被膜を形成するための熱処理に先立って、脱脂処理後に、酸素の実質存在しない窒素雰囲気下での熱処理を施すことで、金属磁性粒子同士が酸素及び窒素を含む接合層で接合された磁性基体が得られ、前述の問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の側面は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子、及び前記金属磁性粒子同士を接合する、酸素及び窒素を含む接合層で形成された磁性基体、並びに前記磁性基体の内部又は表面に配置された導体を備えるコイル部品である。
【0013】
また、本発明の第2の側面は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末を成形して成形体とすること、前記成形体を、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行って磁性基体とすること、及び前記磁性基体の表面に導体を配置することを含む、コイル部品の製造方法である。
【0014】
また、本発明の第3の側面は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末、及び導体又はその前駆体を成形し、前記導体又はその前駆体が内部に配置された成形体とすること、前記成形体を酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、並びに前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行うことを含む、コイル部品の製造方法である。
【0015】
さらに、本発明の第4の側面は、前述した第1の側面に係るコイル部品を搭載した回路基板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属磁性粒子同士が厚みの薄い絶縁被膜を介して結合された、絶縁性の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1側面に係るコイル部品の構造を示す模式図
図2】本発明の第1側面において、金属磁性粒子及び接合層の組成を決定する方法を示す説明図
図3】本発明の実施例及び比較例における接合層中のN/O比と磁性基体の比抵抗との関係を示すグラフ
図4】本発明の実施例及び比較例における接合層中のCr/Fe比と磁性基体の比抵抗との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0019】
[コイル部品]
図1に模式的に示すように、本発明の第1の側面に係るコイル部品(以下、単に「第1側面」と記載することがある。)100は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子1、及び前記金属磁性粒子1同士を接合する、酸素及び窒素を含む接合層2で形成された磁性基体10、並びに前記磁性基体10の内部又は表面に配置された導体20で構成される。なお、図1には、導体20としての導線が磁性基体10の表面に巻回された形状を示しているが、第1側面は、該形状に限定されるものではない。
【0020】
金属磁性粒子1は、必須成分としてFeを含む。金属磁性粒子1がFeを含むことで、磁性基体10を透磁率及び飽和磁束密度の高いものとすることができる。金属磁性粒子1中のFeの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。Feの含有量が多いほど、大きな透磁率及び飽和磁束密度が得られることから、Feの含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。他方、Feの酸化や渦電流の発生に起因する磁気特性の低下を抑制する点からは、Feの含有量は、99質量%以下とすることが好ましく、98質量%以下とすることがより好ましい。
【0021】
また、金属磁性粒子1は、必須成分としてSiを含む。金属磁性粒子1がSiを含むことで、電気抵抗が高くなり、渦電流による磁気特性の低下を抑制することができる。金属磁性粒子1中のSiの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。渦電流の抑制効果を十分に発揮する点からは、Siの含有量は1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。他方、金属磁性粒子1中のFeの含有量を多くして優れた磁気特性を得る点からは、Siの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
さらに、金属磁性粒子1は、必須成分としてCrを含む。金属磁性粒子1がCrを含むことで、該粒子中に含まれるFeの酸化が抑制され、高い透磁率及び飽和磁束密度を保持できる。金属磁性粒子1中のCrの含有量は、所期の特性の磁性基体10が得られるものであれば特に限定されない。Feの酸化抑制効果を十分に発揮する点からは、Crの含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。他方、金属磁性粒子中のFeの含有量を多くして優れた磁気特性を得る点からは、Crの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
金属磁性粒子1は、本発明の目的を達成できる範囲で、前述の必須成分以外の元素を含有してもよい。含有することができる元素としては、Al、Ti及びZr等が例示される。
【0024】
磁性基体10中では、金属磁性粒子1は、酸素及び窒素を含む接合層2により、隣接する金属磁性粒子1と接合されている。
【0025】
接合層2は、酸素を含有する。これは、接合層2が、金属磁性粒子1に含まれる元素の酸化により形成されることに由来するものである。金属磁性粒子1の必須成分であるFe、Si及びCrはいずれも、酸化物の電気抵抗率が金属磁性粒子1のそれよりも高い。このため、金属磁性粒子1同士を接合する接合層2が酸素を含有することで、換言すればFe、Si及びCrから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含有することで、金属磁性粒子1間を電気的に絶縁することが可能となる。
【0026】
接合層2は、窒素を含有する。このことにより、金属磁性粒子1間の効果的な電気的絶縁が可能となる。これは、窒素を含有することが、接合層2中のCr酸化物濃度が、Fe酸化物濃度に比べて十分に高い状態を示しているためと考えられる。Crは、金属磁性粒子1中の他の成分に比べて窒素との反応性が高い。このため、接合層2中の窒素は、Crと結合して窒化物ないし酸窒化物として存在している。そして、接合層2中の窒素が存在する領域には、こうしたCrの窒化物ないし酸窒化物に加えて、これらの化合物が酸化されたCrの酸化物が比較的高濃度で含まれる。Crの酸化物であるCrは、Crの価数が+3価で安定であり、電気的絶縁性が良好である。他方、Feは、Fe(ヘマタイト)やFe(マグネタイト)を初めとする種々の酸化物を形成することが知られており、酸素量が少ない状態で酸化された場合には、+2価と+3価とが共存するマグネタイトを生成する。マグネタイトは、Feの価数変動に起因するホッピング伝導により導電性を示すため、これが接合層2中に含まれると、金属磁性粒子1間の電気的絶縁性が低下する。ところが、Feは、窒素との反応性に乏しいため、窒素が存在する領域では、比較的低濃度となる。このため、導電性を示すマグネタイトの濃度も低くなる。したがって、窒素を含む接合層2は、良好な電気的絶縁性を有するCrの濃度が高く、かつ導電性を有するマグネタイトの濃度が低いことにより、金属磁性粒子1間の電気的絶縁を効果的に達成できる。
【0027】
ここで、前述した金属磁性粒子1及び接合層2の組成はそれぞれ、以下の手順により決定する。
まず、磁性基体10の中央部から、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、厚さ50nm~100nmの薄片試料を取り出した後、直ちに環状暗視野検出器及びエネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)内に配置する。次いで、薄片試料のSTEM観察を行い、コントラスト(明度)の差異に基づいて、図2に模式的に示すような、金属磁性粒子1同士が接合層2を介して接合されている接合部を特定する。次いで、特定された接合部について、一方の金属磁性粒子1内の任意の点Aから、接合層2を通って他方の金属磁性粒子1内の任意の点Bへと至る線分ABに沿って、EDSにより線分析を行う。EDSの測定条件は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、金属磁性粒子1内の各点における6.22keV~6.58keVの範囲の信号強度の積算値が25カウント以上となるように測定時間を設定する。また、測定点の間隔は、後述する接合層2の中央部における測定点数が5点以上となるように設定する。次いで、検出された各金属元素の特性X線のうち最大強度を示したものの信号強度の合計(IM(total))に対する、OKα線の信号強度(IOKα)の比(IOKα/IM(total))を、各測定点について算出する。例えば、金属元素としてFe及びCrが検出された場合には、Feの特性X線のうち最大強度を示すKα線の信号強度(IFeKα)、及びCrの特性X線のうち最大強度を示すKα線の信号強度(ICrKα)の合計に対するOKα線の信号強度の比(IOKα/(IFeKα+ICrKα))を、IOKα/IM(total)として算出する。そして、この値が0.5以上である領域を接合層2とし、該値が0.5未満である領域を金属磁性粒子1とする。次いで、金属磁性粒子1とした領域について、各測定点における元素の割合を質量%で算出し、該各元素の含有割合の変動が±1質量%以内となる連続する3測定点のうち、接合層2に最も近いものについて、各元素の含有割合の平均値を算出し、これを金属磁性粒子1の組成とする。なお、磁性基体10の製造に使用した金属磁性粉末の組成が既知である場合には、該既知の組成を金属磁性粒子1の組成としてもよい。次いで、接合層2とした領域に位置する測定点同士の間隔から、接合層2の厚みwを算出する。そして、線分ABを接合層2の両端で切り取って得られる線分の中点cから、接合層2の両端方向への距離が、前記接合層の厚みwの10%以内にある領域、すなわち接合層2の中央に位置する前記接合層2の厚みwの20%に相当する領域を、接合層2の中央部とする。最後に、接合層2の中央部に位置する各測定点につき、各元素の原子割合(at%)をそれぞれ算出し、これらに基づいて求めた、任意に選択した連続する5点の平均値を、接合層2の組成とする。
【0028】
接合層2が窒素を含有することは、前述の方法で決定した接合層2の組成において、酸素(O)に対する窒素(N)の原子数比率(N/O)を算出し、これが0.03以上となったことをもって確認する。接合層2における窒素の含有の有無をこのように決定する理由は、接合層2における酸素の割合が50~60at%であるのに対し、窒素の割合は、高くても数at%と非常に低いため、前記原子数比率(N/O)が0.03未満となる場合には、窒素に起因する特性X線とノイズとの区別が困難となり、窒素の有無が確定できないためである。翻って、前記原子数比率(N/O)が0.03以上となる場合には、接合層2中に確実に窒素が存在するものといえる。接合層2における窒素の含有量の上限は特に限定されないが、接合層2中の窒素は、後述するように、成形体の脱脂処理後に行われる、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中での熱処理(第1の熱処理)により主として導入されるものであるため、一般的な熱処理条件で形成された接合層2においては、前記原子数比率(N/O)がおおよそ0.20以下となる。また、金属磁性粒子1の酸化を極力抑制するための、低温での熱処理で形成された接合層2では、前記原子数比率(N/O)がおおよそ0.16以下となる。なお、本明細書における酸素の実質存在しない窒素雰囲気とは、窒素ガスとして通常入手されるガス以上の窒素濃度を有する雰囲気を意味し、その酸素濃度は概ね10ppm以下となる。
【0029】
接合層2は、好ましくは、酸素(O)に対する窒素(N)の原子数比率(N/O)が0.04以上である。このことにより、接合層2中のCr酸化物濃度がFe酸化物濃度よりも十分に高くなり、接合層2の電気的絶縁性がより向上することで、金属磁性粒子1間のより効果的な電気的絶縁が可能となる。この点からは、接合層2における前記原子数比率(N/O)は、0.05以上であることがより好ましく、0.07以上であることがさらに好ましい。
【0030】
磁性基体10は、好ましくは、金属磁性粒子1のFe含有量が90質量%以上であり、かつ接合層2における鉄(Fe)に対するクロム(Cr)の原子数比率(Cr/Fe)が3.0以上である。金属磁性粒子1のFe含有量が90質量%以上であることは、優れた磁気特性を得る点からは好ましいものであるが、接合層2中のFe濃度が高くなりやすく、マグネタイトの生成により金属磁性粒子1間の電気的絶縁性が不十分となることがある。このようなFeの含有割合の高い金属磁性粒子1を含む場合であっても、接合層2において、前記原子数比率(Cr/Fe)を3.0以上とすることで、十分な電気的絶縁性を保持することができる。より高い電気的絶縁性を得る点からは、前記原子数比率(Cr/Fe)は3.5以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましく、4.5以上であることが特に好ましい。
【0031】
第1側面にて使用する導体20の材質、形状及び配置は特に限定されず、要求特性に応じて適宜決定すればよい。材質の一例としては、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が挙げられる。また、形状の一例としては、直線状、ミアンダー状、平面コイル状、螺旋状等が挙げられる。さらに、配置の一例としては、被覆付きの導線を磁性基体10の周囲に巻回したものや、各種形状の導体20を磁性基体10の内部に埋め込んだもの等が挙げられる。
【0032】
以上説明した第1側面は、電流に対して磁気飽和しにくく、低損失のコイル部品となる。これは、磁性基体10が、金属磁性粒子1同士が電気的絶縁性に優れる接合層2を介して接合されて形成されていることで、高い飽和磁束密度及び比抵抗を有するためである。
【0033】
[コイル部品の製造方法1]
本発明の第2の側面に係るコイル部品の製造方法(以下、単に「第2側面」と記載することがある。)は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末を成形して成形体とすること、前記成形体を必要に応じて脱脂処理した後、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行って磁性基体とすること、及び前記磁性基体の表面に導体を配置することを含む。
【0034】
金属磁性粉末は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される。金属磁性粒子中の前記各元素の好ましい含有量は、第1側面における金属磁性粒子におけるものと同様である。金属磁性粉末として、金属磁性粒子中のFeの含有量が多いものを用いると、該粒子が塑性変形しやすくなるため、加圧成形して成形体を作製した場合に、粉末の充填率が高まる点で好ましい。
【0035】
金属磁性粉末の成形方法は特に限定されず、例えば、金属磁性粉末を金型等の成形型に供給し、プレス等により加圧して、金属磁性粉末を構成する金属磁性粒子の塑性変形により成形体を得る方法が挙げられる。プレスを利用した成形方法においては、金属磁性粉末に樹脂を混合した混合物をプレス成形した後、樹脂を硬化させて成形体としてもよい。この他に、金属磁性粉末を含むグリーンシートを積層・圧着する方法を採用してもよい。
【0036】
金型等を用いたプレス成形で成形体を得る場合、プレスの条件は、金属磁性粉末及びこれと混合する樹脂の種類やこれらの配合割合等に応じて適宜決定すればよい。
金属磁性粉末と混合する樹脂としては、金属磁性粉末の粒子同士を接着して成形及び保形が可能で、かつ後述する脱脂(脱バインダー)処理によって炭素分等を残存させることなく揮発するものであれば特に限定されない。一例として、分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。また、樹脂と共に、あるいは樹脂に代えて、ステアリン酸又はその塩、リン酸又はその塩、及びホウ酸又はその塩に代表される潤滑剤を使用してもよい。樹脂ないし潤滑剤の添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、金属磁性粉末100質量部に対して0.1~5質量部とすることができる。
【0037】
グリーンシートを積層・圧着して成形体を得る場合、吸着搬送機等を用いて個々のグリーンシートを積み重ね、プレス機を用いて熱圧着する方法が採用できる。圧着された積層体から複数のコイル部品を得る場合には、該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて分割してもよい。
この場合、グリーンシートは、典型的には、金属磁性粉末とバインダーとを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーター等の塗工機により、プラスチックフィルム等のベースフィルムの表面に塗布・乾燥することで製造される。使用するバインダーとしては、金属磁性粉末をシート状に成形し、その形状を保持できると共に、加熱により炭素分等を残存させることなく除去できるものであれば特に限定されない。一例として、ポリビニルブチラールを初めとするポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。前記スラリーを調製するための溶媒も特に限定されず、ブチルカルビトールを初めとするグリコールエーテル等を用いることができる。前記スラリー中の各成分の含有量は、採用するグリーンシートの成形方法や調製するグリーンシートの厚み等に応じて適宜調節すればよい。
【0038】
第2側面では、金属磁性粉末の成形体に対し、後述する第1及び第2の熱処理を行うが、成形体が樹脂等の有機物を含む場合には、第1の熱処理に先立って、これを除去する脱バインダー処理を行う。脱バインダー処理の条件は、成形体中の金属磁性粒子の酸化を抑制しつつバインダーを除去できるものであれば特に限定されない。一例として、大気中で200~400℃の温度に30分~5時間保持することが挙げられる。
【0039】
金属磁性粉末の成形体は、必要に応じて前述の脱バインダー処理がなされた後、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱する第1の熱処理が施される。このことにより、金属磁性粒子の表面にCrの窒化物が生成し、該表面におけるCr濃度が増大する。そして、このCr濃度の増加が、磁性基体における、Cr酸化物濃度がFe酸化物濃度に比べて十分に高い接合層の形成に寄与することで、金属磁性粒子間の絶縁性が向上する。本明細書における酸素の実質存在しない窒素雰囲気とは、窒素ガスとして通常入手されるガス以上の窒素濃度を有する雰囲気を意味し、その酸素濃度は概ね10ppm以下となる。
【0040】
第1の熱処理の温度及び時間は、金属磁性粒子表面のCr濃度がFe濃度に比べて十分に高くなるものであれば特に限定されない。一例として、500~800℃にて30分~3時間とすることが挙げられる。熱処理温度が高いほど、窒素とCrとの反応が活発になると共に、金属磁性粒子の内部から表面へと拡散するCrの量が多くなるため、短時間の熱処理で所期のCr濃度を得ることができる。また、熱処理時間が長いほど、窒素と反応するCrの量が増加すると共に、金属磁性粒子の内部から表面へと拡散するCrの量が多くなるため、熱処理温度が低い場合でも所期のCr濃度を得ることができる。接合層における窒素含有量を高めて電気的絶縁性により優れた磁性基体を得る点からは、第1の熱処理温度は550℃以上とすることが好ましい。
【0041】
第1の熱処理がなされた成形体は、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理が施される。このことにより、金属磁性粒子表面で窒化物を形成していたCrの一部、及び金属磁性粒子に含まれる元素がそれぞれ酸化され、接合層を形成して金属磁性粒子同士を接合することで、磁性基体となる。
【0042】
第2の熱処理における雰囲気中の酸素濃度は特に限定されず、適用可能な熱処理温度及び熱処理時間において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般的に、雰囲気中の酸素濃度が高くなるほど、低温・短時間の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、成形体の表面近傍と内部とで接合層の厚みの差が大きくなりやすい。このため、雰囲気中の酸素濃度を決定するにあたっては、この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する酸素濃度を選択すればよい。電気的絶縁性に優れ、機械的強度の高い接合層が、薄く均一な厚さで得られやすい酸素濃度としては、500~5000ppmが例示される。
【0043】
第2の熱処理における熱処理温度は特に限定されず、適用可能な雰囲気中の酸素濃度及び熱処理時間において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般に、熱処理温度が高くなるほど、低酸素雰囲気中・短時間の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、接合層中のFe濃度が高くなることで電気的絶縁性が低下しやすい。この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する熱処理温度を選択すればよい。電気的絶縁性に優れ、機械的強度の高い接合層が、薄く形成されやすい熱処理温度としては、500~900℃が例示される。
【0044】
第2の熱処理における熱処理時間も特に限定されず、適用可能な雰囲気中の酸素濃度及び熱処理温度において、所期の特性を有する磁性基体が得られるものであればよい。一般に、熱処理時間が長くなるほど、低酸素雰囲気中・低温の熱処理で接合層が得られやすくなる一方、製造に要する時間が長くなることで生産性が低下してしまう。この一般的な傾向を考慮して、製造しようとする磁性基体に適する熱処理時間を選択すればよい。電気的絶縁性に優れ、機械的強度の高い接合層が十分な厚さで形成されやすい熱処理時間としては、30分~3時間が例示される。
【0045】
前述した脱バインダー処理、第1の熱処理及び第2の熱処理は、雰囲気と温度を切り変えた設定ができる単一の熱処理装置を用いて連続的に行ってもよく、2以上の異なる熱処理装置を用いて断続的に行ってもよい。
【0046】
第2側面では、第2の熱処理を経て得られた磁性基体の表面に導体を配置する。具体的な配置方法としては、磁性基体に被覆付きの導線を巻回す方法や、磁性基体の表面に導体ペーストの印刷等により導体の前駆体を配置した後、焼成炉等の加熱装置を用いて焼付け処理を行う方法が例示される。
【0047】
[コイル部品の製造方法2]
本発明の第3の側面に係るコイル部品の製造方法(以下、単に「第3側面」と記載することがある。)は、Fe、Si及びCrを含む金属磁性粒子で構成される金属磁性粉末、及び導体又はその前駆体を成形し、前記導体又はその前駆体が内部に配置された成形体とすること、前記成形体を必要に応じて脱脂処理した後、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中で加熱して、第1の熱処理を行うこと、並びに前記第1の熱処理後の成形体に対して、酸素含有雰囲気中で第2の熱処理を行うことを含む。
【0048】
第3側面で使用する金属磁性粉末は、前述の第2側面と同様であるため、説明を省略する。また、金属磁性粉末を成形する方法も、第2側面と同様に、プレス成形やグリーンシートを積層・圧着する方法が採用できる。
【0049】
第3側面では、金属磁性粉末の成形体の内部に、導体又はその前駆体を配置する。ここで、導体とは、そのままコイル部品中で導電経路として機能するものであり、導体の前駆体とは、コイル部品中で導体を形成する導電性の材料に加えてバインダー樹脂等を含み、熱処理によって導体となるものである。導体又はその前駆体を配置する方法としては、前記成形体をプレス成形で得る場合には、予め導体若しくはその前駆体を配置した金型中に金属磁性粉末を充填し、プレスする方法が採用できる。また、前記成形体をグリーンシートの積層・圧着で得る場合には、導体ペーストの印刷等によりグリーンシート上に導体の前駆体を配置した後、積層・圧着する方法が採用できる。
【0050】
導体の前駆体を、導体ペーストを用いて配置する場合、使用する導体ペーストとしては、導体粉末と有機ビヒクルとを含むものが挙げられる。導体粉末としては、銀若しくは銅又はこれらの合金等の粉末が用いられる。導体粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))が1μm~10μmのものが用いられる。有機ビヒクルの組成は、グリーンシートに含まれるバインダーとの相性を考慮して決定すればよい。一例として、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂を、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤に溶解ないし膨潤させたものが挙げられる。導体ペーストにおける導体粉末及び有機ビヒクルの配合比率は、使用する印刷機に好適なペーストの粘度や形成しようとする導体パターンの膜厚等に応じて適宜調節することができる。
【0051】
第3側面において、成形体に行う第1及び第2の熱処理、並びに必要に応じて第1の熱処理前に行う脱バインダー処理の条件は、前述した第2側面と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
以上説明した第2側面及び第3側面によれば、上記第1側面にて説明したような、電気的絶縁性の高い磁性基体を備えたコイル部品が得られる。
【0053】
[回路基板]
本発明の第4の側面に係る回路基板(以下、単に「第4側面」と記載することがある。)は、前述の第1側面に係るコイル部品を載せた回路基板である。
【0054】
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
【0055】
第4側面は、第1側面に係るコイル部品を使用することで、損失の小さなものとなる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(磁性基体の製造)
金属磁性粉末として、Fe、Si及びCrの合計を100wt%としたときに、Feを96wt%、Siを2wt%、Crを3wt%の割合で含むFe-Si-Cr系の金属磁性粒子で構成された、平均粒径約4μmのものを準備した。この金属磁性粉末を、ポリビニルブチラール(PVB)系のバインダー樹脂及び分散媒と混合してスラリーを調製した。得られたスラリーを、ドクターブレード法にてPETフィルム上に塗工し、乾燥して生シートを得た。この生シートを積層した後、7ton/cmの圧力で圧着して成形体とした。得られた成形体を、大気中、350℃で2時間脱バインダーした後、該成形体に、N雰囲気(O濃度10ppm以下)での600℃、1時間の第1の熱処理、及びこれに続くN-O混合雰囲気(O濃度1600ppm)での600℃、1時間の第2の熱処理を行って、実施例1に係る試験用磁性基体を得た。
【0058】
(磁性基体における接合層の組成分析)
得られた試験用磁性基体について、STEM-EDS(日本電子株式会社製、JEM2100F)を用い、上述した方法で、接合層の組成を決定した。得られた組成から、酸素に対する窒素の原子数比率(N/O)、及び鉄(Fe)に対するクロム(Cr)の原子数比率(Cr/Fe)をそれぞれ算出したところ、N/O=0.10、Cr/Fe=5.7となった。
【0059】
(磁性基体の比抵抗ρ測定)
得られた試験用磁性基体について、電気的絶縁性を確認するために、比抵抗ρの測定を行った。まず、直径8mm、厚さ0.5mmの試験用磁性基体の表裏面(面積が最も大きい対向する2面)に、Agペーストを塗布した後、焼き付けて電極を形成した。次いで、この試験用磁性基体の電気抵抗値を、抵抗計(日置電機株式会社製、RM3544)を用いて測定し、得られた電気抵抗値、並びに電極面積及び試験用磁性基体の厚さから、比抵抗(Ω・cm)を算出した。得られた比抵抗ρは、1.3×10Ω・cmであった。
【0060】
[実施例2~4]
(磁性基体の製造)
第1の熱処理の温度を、500℃(実施例2)、550℃(実施例3)、及び650℃(実施例4)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2及び実施例3に係る試験用磁性基体を製造した。
【0061】
(磁性基体における接合層の組成分析及び磁性基体の比抵抗測定)
得られた試験用磁性基体について、実施例1と同様の方法で、接合層の組成の決定及び比抵抗の測定を行った。その結果、実施例2に係る試験用磁性基体では、接合層のN/O比が0.03、Cr/Fe比が1.7となり、比抵抗ρが6.6×10Ω・cmとなった。また、実施例3に係る試験用磁性基体では、接合層のN/O比が0.04、Cr/Fe比が3.0となり、比抵抗ρが3.0×10Ω・cmとなった。また、実施例4に係る試験用磁性基体では、接合層のN/O比が0.15、Cr/Fe比が6.7となり、比抵抗ρが1.5×10Ω・cmとなった。
【0062】
[実施例5~6]
(磁性基体の製造)
第2の熱処理時の雰囲気中の酸素濃度を、800ppm(実施例5)及び3000ppm(実施例6)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例5及び実施例6に係る試験用磁性基体を製造した。
【0063】
(磁性基体における接合層の組成分析及び磁性基体の比抵抗測定)
得られた試験用磁性基体について、実施例1と同様の方法で、接合層の組成の決定及び比抵抗の測定を行った。その結果、実施例5に係る試験用磁性基体では、接合層のN/O比が0.07、Cr/Fe比が4.5となり、比抵抗ρが1.0×10Ω・cmとなった。また、実施例6に係る試験用磁性基体では、接合層のN/O比が0.13、Cr/Fe比が6.2となり、比抵抗ρが1.4×10Ω・cmとなった。
【0064】
[比較例1]
(磁性基体の製造)
第1の熱処理を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で、比較例1に係る試験用磁性基体を製造した。
【0065】
(磁性基体における接合層の組成分析及び磁性基体の比抵抗測定)
得られた試験用磁性基体について、実施例1と同様の方法で、接合層の組成の決定及び比抵抗の測定を行った。その結果、接合層のN/O比が0.01、Cr/Fe比が0.8となり、比抵抗ρが5.4×10Ω・cmとなった。
【0066】
以上で説明した実施例及び比較例の結果を、表1にまとめて示す。また、得られた結果を基に作成した、接合層中のN/O比と磁性基体の比抵抗との関係を示すグラフを図3に、接合層中のFe/Cr比と磁性基体の比抵抗との関係を示すグラフを図4に、それぞれ示す。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の結果から、磁性基体を製造する際に、脱脂処理後に、酸素の実質存在しない窒素雰囲気中での第1の熱処理と、酸素含有雰囲気中での第2の熱処理とを行うことで、酸素に加えて窒素を含む接合層が形成され、優れた電気的絶縁性を発現するといえる。特に、接合層中のN/O比が0.04以上の磁性基体では、比抵抗の値が急激に上昇しており、より優れた電気的絶縁性に優れたものとなっていることが判る。さらに、接合層中のN/O比が0.07以上の磁性基体では、10Ω・cmオーダーの比抵抗が得られており、極めて電気的絶縁性に優れたものとなっていることが判る。
【0069】
[参考例1~2]
第2の熱処理の温度を高くした場合の、接合層中のN/O比の値の変化の有無を検討した。これは、第2の熱処理の温度が高くなると、磁性基体中の成分の酸化反応が活発になるため、接合層中に生成したCrの窒化物ないし酸窒化物のほとんどが酸化された上で、Feの酸化によるマグネタイトの生成が始まり、電気的絶縁性が低下することが懸念されたためである。第2の熱処理の温度を高くしても接合層中のN/O比が高く保たれていれば、Feの酸化は抑制されているといえる。
【0070】
(磁性基体の製造)
第2の熱処理の温度を700℃(参考例1)及び800℃(参考例2)にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様の方法で、参考例1~2に係る試験用磁性基体を製造した。
【0071】
(磁性基体における接合層の組成分析)
得られた試験用磁性基体について、実施例1と同様の方法で、接合層の組成の決定を行った。その結果、接合層のN/O比は、参考例1、参考例2共に0.16であった。この結果から、本検討の範囲内では、第2の熱処理の温度を高くしても、接合層中のCrの窒化物ないし酸窒化物は安定して存在するといえる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、金属磁性粒子同士が厚みの薄い絶縁被膜を介して結合された、絶縁性の高い圧粉磁心を磁性基体として備えるコイル部品を提供することができる。このコイル部品は、磁気飽和しにくい金属磁性粒子を、大きな体積割合で磁性基体中に備えるため、大電流を流すことができる。しかも、金属磁性粒子同士を接合する接合層が良好な電気的絶縁性を有することにより、磁性基体の比抵抗が大きくなって電流が流れにくくなるため、エネルギー損失も小さなものとなる。このため、コイル部品の高性能化ないし小型化が可能となる点で、本発明は有用なものである。
【符号の説明】
【0073】
100 コイル部品
10 磁性基体(圧粉磁心)
1 金属磁性粒子
2 接合層
20 導体
A,B 分析対象の線分の端点
w 接合層の厚み
c 線分ABを接合層の両端で切り取って得られる線分の中点
図1
図2
図3
図4