IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特開2022-96249圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ
<>
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図1
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図2
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図3
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図4
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図5
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図6
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図7
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図8
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図9
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図10
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図11
  • 特開-圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096249
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20220622BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20220622BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20220622BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
H03H9/54 Z
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209249
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】岸本 亮三
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB02
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE07
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
5J108MM14
5J108NA02
(57)【要約】
【課題】制御性の高い開口を有する圧電素子を提供する。
【解決手段】圧電素子は、圧電層14と、圧電層14の第1面に設けられた第1電極と、圧電層14の第2面に設けられ、少なくとも一部が第1電極の少なくとも一部と重なる第2電極と、第1面に設けられ、圧電層14の少なくとも一部を挟み第1電極と第2電極とが重なる領域50の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口30を有し、開口30内において圧電層14に最も近い第1側面32aと第1側面32aより圧電層14から遠い第2側面32bとを有し、第1側面32aと第1面とがなす角度θaは第2側面32bと第1面とがなす角度θbより大きい支持層15とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と、
前記圧電層の第1面に設けられた第1電極と、
前記圧電層の第2面に設けられ、少なくとも一部が前記第1電極の少なくとも一部と重なる第2電極と、
前記第1面に設けられ、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記第1電極と前記第2電極とが重なる領域の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口を有し、前記開口内において前記圧電層に最も近い第1側面と前記第1側面より前記圧電層から遠い第2側面とを有し、前記第1側面と前記第1面とがなす角度は前記第2側面と前記第1面とがなす角度より大きい支持層と、
を備える圧電素子。
【請求項2】
前記支持層は、前記第1側面および前記第2側面を有する第1支持層と、前記第1支持層と異なる材料からなり前記圧電層とで前記第1支持層を挟み前記開口において第3側面を有する第2支持層と、を備える請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第3側面と前記第1面とがなす角度は前記第2側面と前記第1面とがなす角度より大きい請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1側面は前記領域より内側に位置する請求項1から3のいずれか一項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記第2側面は、前記第1面が延長する面より外側に位置する請求項1から4のいずれか一項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記圧電層は、単結晶である請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電素子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の圧電素子を備えるフィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【請求項9】
第1面に第1電極が形成された圧電層の前記第1面に、前記圧電層とで前記第1電極を挟み、前記圧電層の第2面に形成される第2電極と前記第1電極とが前記圧電層の少なくとも一部を挟み重なる領域の少なくとも一部に少なくとも一部が重なるダミー層を形成する工程と、
前記第1面に、前記圧電層とで前記ダミー層を挟む第1支持層を形成する工程と、
前記第1支持層の前記圧電層と反対側の面に、平面視において前記ダミー層の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口を有するマスク層を形成する工程と、
前記マスク層をマスクに、前記第1支持層をエッチングすることで第1開口を形成し、前記第1支持層のエッチング速度より速いエッチング速度で前記ダミー層をエッチングすることで前記第1開口につながる第2開口を形成する工程と、
を含む圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1支持層の前記圧電層と反対側の面に、第2支持層を形成する工程を含み、
前記マスク層を形成する工程は、前記第2支持層の前記圧電層と反対側の面に前記マスク層を形成する工程を含み、
前記第1開口および前記第2開口を形成する工程は、前記第1支持層のエッチング速度より速いエッチング速度で前記第2支持層をエッチングすることで前記第2開口とつながる第3開口を形成する工程を含む請求項9に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサに関し、例えば、圧電層を有する圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子として圧電薄膜共振器が知られている。携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)およびSMR(Solid Mounted Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器が用いられている。BAW共振器は圧電薄膜共振器とよばれている。圧電薄膜共振器は、基板上に、圧電層を挟み下部電極と上部電極とを設ける構造を有する。圧電層の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが対向する共振領域は弾性波が共振する領域である(例えば特許文献1および2)。FBARでは、基板を貫通し共振領域の少なくとも一部と重なる開口が設けられている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-42871号公報
【特許文献2】特開2006-319479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板を貫通する開口の形状は、圧電薄膜共振器の特性に影響する。しかし、基板をエッチングし開口を形成するときに、開口の形状および大きさを制御することが難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、制御性の高い開口を有する圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電層と、前記圧電層の第1面に設けられた第1電極と、前記圧電層の第2面に設けられ、少なくとも一部が前記第1電極の少なくとも一部と重なる第2電極と、前記第1面に設けられ、前記圧電層の少なくとも一部を挟み前記第1電極と前記第2電極とが重なる領域の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口を有し、前記開口内において前記圧電層に最も近い第1側面と前記第1側面より前記圧電層から遠い第2側面とを有し、前記第1側面と前記第1面とがなす角度は前記第2側面と前記第1面とがなす角度より大きい支持層と、を備える圧電素子である。
【0007】
上記構成において、前記支持層は、前記第1側面および前記第2側面を有する第1支持層と、前記第1支持層と異なる材料からなり前記圧電層とで前記第1支持層を挟み前記開口において第3側面を有する第2支持層と、を備える構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第3側面と前記第1面とがなす角度は前記第2側面と前記第1面とがなす角度より大きい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1側面は前記領域より内側に位置する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2側面は、前記第1面が延長する面より外側に位置する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電層は、単結晶である構成とすることができる。
【0012】
本発明は、上記圧電素子を備えるフィルタである。
【0013】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【0014】
本発明は、第1面に第1電極が形成された圧電層の前記第1面に、前記圧電層とで前記第1電極を挟み、前記圧電層の第2面に形成される第2電極と前記第1電極とが前記圧電層の少なくとも一部を挟み重なる領域の少なくとも一部に少なくとも一部が重なるダミー層を形成する工程と、前記第1面に、前記圧電層とで前記ダミー層を挟む第1支持層を形成する工程と、前記第1支持層の前記圧電層と反対側の面に、平面視において前記ダミー層の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口を有するマスク層を形成する工程と、前記マスク層をマスクに、前記第1支持層をエッチングすることで第1開口を形成し、前記第1支持層のエッチング速度より速いエッチング速度で前記ダミー層をエッチングすることで前記第1開口につながる第2開口を形成する工程と、を含む圧電素子の製造方法である。
【0015】
上記構成において、前記第1支持層の前記圧電層と反対側の面に、第2支持層を形成する工程を含み、前記マスク層を形成する工程は、前記第2支持層の前記圧電層と反対側の面に前記マスク層を形成する工程を含み、前記第1開口および前記第2開口を形成する工程は、前記第1支持層のエッチング速度より速いエッチング速度で前記第2支持層をエッチングすることで前記第2開口とつながる第3開口を形成する工程を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制御性の高い開口を有する圧電素子およびその製造方法、フィルタ並びにマルチプレクサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。
図2図2(a)から図2(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
図3図3(a)から図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
図4図4(a)および図4(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その3)である。
図5図5(a)および図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その4)である。
図6図6(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図、図6(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図7図7(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、図7(b)および図7(c)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図8図8は、箇所A~Dにおける横モードの分散特性を示す図である。
図9図9(a)および図9(b)は、実施例1における製造方法を示す断面図である。
図10図10(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、それぞれ実施例1の変形例2および3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12図12(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、図12(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0019】
以下の実施例では圧電素子として圧電薄膜共振器を例に説明する。図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。圧電層14の法線方向をZ方向、圧電層14の平面方向のうち上部電極16の引き出し方向を+X方向、X方向に直交する方向をY方向とする。
【0020】
図1(a)および図1(b)に示すように、基板10上に絶縁層11が設けられている。絶縁層11上に圧電層14が設けられている。圧電層14の下面(第1面)に下部電極12(第1電極)が設けられている。圧電層14の上面(第2面)に少なくとも一部が下部電極12の少なくとも一部と平面視において重なる上部電極16(第2電極)が設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域は共振領域50である。基板10と絶縁層11は、下部電極12、圧電層14および上部電極16を支持する支持層15である。
【0021】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力を印加すると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は下部電極12、圧電層14および上部電極16の厚さの合計のほぼ2倍である。支持層15に開口30が設けられている。開口30内は空隙である。平面視において、開口30の少なくとも一部は共振領域50の少なくとも一部と重なる。圧電層14を伝搬する弾性波は下部電極12と開口30の界面により反射される。
【0022】
支持層15は開口30内において複数の側面32a~32cを有している。側面32aは絶縁層11のうち最も圧電層14側に設けられている。側面32bは絶縁層11のうち圧電層14から遠い方に設けられている。側面32cは基板10に設けられている。共振領域50の外周を位置60とする。側面32a、32cおよび32cの上端の位置をそれぞれ位置62、63および64とする。位置62は位置60の内側であり、位置63は位置60の外側、位置64は位置63の外側である。側面32a~32cとXY平面(圧電層14の下面)とのなす角度をそれぞれθa~θcとする。θaはほぼ90°であり、θa>θc>θbである。側面32a~32cの断面はほぼ直線であるが曲線でもよい。
【0023】
共振領域50の外側において、圧電層14を貫通する貫通孔18が設けられている。金属層20は貫通孔18を介し下部電極12に電気的に接続される。共振領域50の外側において、金属層21は上部電極16上に設けられ、上部電極16と電気的に接続される。金属層20および21は、下部電極12および上部電極16を外部と電気的に接続するためのパッド、および/または下部電極12および上部電極16を他の圧電薄膜共振器と電気的に接続するための配線として機能する。
【0024】
基板10は、例えばシリコン基板であり、例えばサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs(ガリウム砒素)基板等でもよい。圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム層、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶水晶基板である。圧電層14が単結晶タンタル酸リチウムまたは単結晶ニオブ酸リチウムの場合、圧電層14には、厚みすべり振動の弾性波が励振される。
【0025】
絶縁層11は、例えば酸化シリコン層であり、例えば窒化シリコン層、酸化アルミニウム層または樹脂膜でもよい。下部電極12および上部電極16は、例えばアルミニウム(Al)膜であり、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0026】
例えば、圧電層14に励振する弾性波が厚みすべり振動する例を説明する。圧電層14を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のY軸Z軸平面内の方向となる。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。また、X方向を結晶方位でX軸方向とし、Z方向を、結晶方位のY軸Z軸平面内においてY軸方向からZ軸方向に105°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0027】
別の例として、圧電層14をXカットタンタル酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のX軸方向である。これにより、圧電層14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。また、Y方向を結晶方位の+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0028】
例えば、共振周波数を2GHzとする場合、圧電層14を厚さが1000nmの回転Yカットニオブ酸リチウム基板とし、下部電極12および上部電極16を各々厚さが100nmのアルミニウム層とする。下部電極12および上部電極16の厚さは各々圧電層14の厚さの1%~20%である。絶縁層11の厚さは、下部電極12を覆う厚さであり、例えば500nmである。金属層20および21の厚さは例えば各々0.1μm~5μmである。基板10の厚さは、例えば50μm~500μmである。絶縁層11の厚さは、例えば100nm~1μmである。開口30の高さは、例えば50nm~500nmであり、例えば絶縁層11の厚さの1/10~3/4である。開口30の幅は例えば50μm~1mmである。共振領域50のX方向の幅は例えば10μm~500μmである。
【0029】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から図5(b)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。図2(a)に示すように、圧電層14として圧電基板を準備する。圧電層14上に下部電極12を形成する。下部電極12の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法(例えばイオンビームを用いたエッチングまたはドライエッチング)を用い下部電極12を所望形状にパターニングする。下部電極12はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0030】
図2(b)に示すように、下部電極12上に犠牲層38を形成する。犠牲層38は基板10とエッチング速度が同じ程度の材料である。例えば基板10がシリコン基板のとき、犠牲層38はシリコン層である。犠牲層38の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い犠牲層38を所望形状にパターニングする。犠牲層38がシリコン層の場合、犠牲層38の形成にはスパッタリング法を用いる。
【0031】
図2(c)に示すように、圧電層14および下部電極12上に絶縁層11を形成する。絶縁層11の形成は、例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用いる。絶縁層11の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。これにより、絶縁層11の上面は略平坦化される。
【0032】
図2(d)に示すように、上下逆にする。絶縁層11の上面(図2(d)では下面)を基板10の下面(図2(d)では上面)に接合させる。接合には例えば表面活性化法を用いる。基板10と絶縁層11との間にはシリコン膜または酸化アルミニウム膜等の接合膜を設けてもよい。
【0033】
図3(a)に示すように、圧電層14を薄膜化することで圧電層14を所望の厚さとする。薄膜化には、例えば研削法またはCMP法を用いる。これにより、圧電層14の上面は製造誤差程度に略平坦面となる。
【0034】
図3(b)に示すように、圧電層14上に上部電極16を形成する。上部電極16の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法(例えばイオンビームを用いたエッチングまたはドライエッチング)を用い上部電極16を所望形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0035】
図3(c)に示すように、圧電層14に下部電極12に達する貫通孔18を形成する。貫通孔18の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。エッチングには例えばイオンビームを用いたエッチング(イオンミリング法)を用いる。貫通孔18の側面および圧電層14の上面に下部電極12と接触する金属層20を形成する。上部電極16上に金属層21を形成する。金属層20および21の形成は、例えばスパッタリング法または真空蒸着法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い金属層20および21をパターニングする。金属層20および21はリフトオフ法により形成してもよい。金属層20および21は例えば同時に形成される。
【0036】
図4(a)に示すように、上下を逆にする。基板10上に開口41を有するマスク層40を形成する。マスク層40は例えばフォトレジストである。マスク層40の形成には、フォトレジストの塗布、露光現像を行う。
【0037】
図4(b)に示すように、エッチングガス42を導入しドライエッチング法を用い基板10をエッチングする。基板10は圧電層14等を支持するため例えば100μm以上と厚い。このため、エッチングにはドライエッチング法を用いる。基板10がシリコン基板の場合、基板10のエッチングにはフッ素系ガス(例えばSF)を用いる。SFを用いシリコンをエッチングするとサイドエッチングが大きくなる。そこで、SFによるエッチング後Cを用い基板10の開口30cの側面32cにフロロカーボン系の保護膜を形成する。SFによる基板10のエッチングとCによる保護膜形成を交互に行うことで基板10に開口30cを形成する。これにより、サイドエッチングが抑制され、アスペクト比の大きな開口30cが形成される。開口30cのアスペクト比を大きくするため、側面32cの角度θcが90°に近くなるように、エッチング条件が選択される。
【0038】
図5(a)に示すように、基板10に開口30cが形成されると、絶縁層11がエッチングされ、開口30bが形成される。エッチングガス42は厚い基板10を高速にエッチングするためのガスを選択しており、エッチングガス42により絶縁層11のエッチング速度は基板10のエッチング速度より遅い。このため、側面32bの角度θbはθcより小さくなる。絶縁層11のエッチングガスおよびエッチング条件を基板10のエッチングガスおよびエッチング条件と異ならせ、絶縁層11のエッチング速度が速くなるように選択することも考えられる。しかし、基板10の厚さは絶縁層11の厚さの100倍以上あり、基板10のエッチングが終了した時点でエッチングガスおよびエッチング条件を切り替えることは難しい。このため、絶縁層11のエッチングガスおよびエッチング条件は基板10のエッチングのために最適化されたものとなる。
【0039】
図5(b)に示すように、開口30bの下面が犠牲層38の上面に達すると、犠牲層38がエッチングされ、開口30aが形成される。エッチングガス42による犠牲層38のエッチング速度は絶縁層11のエッチング速度より速い。例えば犠牲層38の材料を基板10の材料とほぼ同じとすると、犠牲層38のエッチング速度は基板10のエッチング速度とほぼ同じとなる。開口30aの側面32aは犠牲層38の側面によりほぼ画定される。これにより、開口30aの大きさは犠牲層38の大きさによりほぼ決まる。犠牲層38の側面がほぼ垂直の場合、側面32aの角度θaはほぼ90°となる。その後、マスク層40を除去することにより、実施例1の圧電薄膜共振器が製造できる。
【0040】
[比較例1]
図6(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図、図6(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図6(a)に示すように、比較例1では、犠牲層38を用いない。基板10に開口30を形成した後、絶縁層11に開口30bを形成すると、絶縁層11のエッチング速度は基板10のエッチング速度より遅いため、側面32bの角度θbがθcより小さくなる。
【0041】
図6(b)に示すように、比較例1では、開口30が下部電極12に接する側面32bの角度θbが小さくなる。このため、開口30の上端の位置62がばらついてしまう。例えば図6(a)において、オーバーエッチング量が小さい場合、開口30の上端の位置62はより内側になる。オーバーエッチング量が大きい場合、開口30の上端の位置62はより外側になる。このように、開口30の大きさがばらつくと、実質的に弾性波励振する領域の面積がばらつき、圧電薄膜共振器の特性がばらついてしまう。
【0042】
また、横モードの弾性波の観点から説明する。図7(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、図7(b)および図7(c)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図7(a)に示すように、実施例1において、共振領域50のうち、絶縁層11が設けられていない位置62より内側を箇所Aとし、位置60と62との間を箇所Bとする。図7(b)に示すように、比較例1において共振領域50の外周の位置60と開口30の端の位置62の間では絶縁層11の厚さは連続的に変化する。位置60と62との間を箇所Cとする。図7(c)に示すように、比較例1において開口30を形成するときのエッチングがオーバーエッチングの場合、開口30の端の位置62は共振領域50の外周の位置60より外側に位置する。位置60と62との間を箇所Dとする。
【0043】
図8は、箇所A~Dにおける横モードの分散特性を示す図である。横軸は横方向(XY平面方向)に伝搬する弾性波の波数である。波数が0より右側は波数が実数であり、左側は波数が虚数である。縦軸は周波数fである。波数が虚数のとき弾性波は伝搬しない。波数が0のとき、弾性波は横方向に伝搬せず、厚みすべり振動または厚み縦振動の応答が生じる。波数が0の周波数は遮断周波数である。波数が実数であり0より大きい場合、横方向に弾性波が伝搬し、横モードの弾性波となる。
【0044】
図8に示すように、分散特性は波数が実数では波数が大きくなると周波数fが低くなる。これはポアソン比が1/3以下の場合に相当する。ポアソン比が1/3以下の圧電材料としては、ニオブ酸リチウムおよび窒化アルミニウムである。箇所Aにおける遮断周波数は圧電薄膜共振器の共振周波数frにほぼ対応する。箇所Bでは、箇所Aに比べ絶縁層11が付加される。このとき、伝搬特性は箇所Aより低くなる。共振周波数frにおいて波数は虚数である。よって、箇所Bでは、共振周波数frにおける横モード弾性波は伝搬しない。このため、横モード弾性波(すなわち弾性波のエネルギー)が共振領域50の外側に漏洩せず、Q値を高くでき損失が抑制される。側面32aの角度θaが90°に近いため、位置62において伝搬特性は急激に箇所Bの伝搬特性となる。このため、横モード弾性波の共振領域50内への閉じ込め効果が高い。
【0045】
比較例1の箇所Cでは、実施例1の箇所Bより絶縁層11が薄い。このため、伝搬特性は箇所AとBとの間に位置する。図7(b)において、側面32bのθbが90°より小さいため、位置62から60にかけて絶縁層11の厚さが徐々に厚くなる。このため、位置62から60にかけて箇所Aの伝搬特性から箇所Bの伝搬特性に徐々に変化する。このため、比較例1では横モード弾性波の閉じ込め効果が実施例1より弱くなり、損失が実施例1より大きくなる。
【0046】
図7(c)のように、比較例1において開口30が大きくなりすぎた場合、箇所Dの伝搬特性は箇所Aより高くなる。このため、共振周波数frの波数はk0となり、位置60と62の間を横モード弾性波が伝搬し、弾性波エネルギーが共振領域50の外側に漏洩する。よって、損失が大きくなる。
【0047】
このように、比較例1では、横モードの弾性波が共振領域50の外側に漏洩し損失が大きくなる。開口30の形状の制御性が悪いため、圧電薄膜共振器の特性がばらついてしまう。実施例1では、側面32aの角度θaが急峻なため、横モード弾性波の共振領域50への閉じ込め効果が高く、損失を抑制できる。
【0048】
図9(a)および図9(b)は、実施例1における製造方法を示す別の断面図である。図9(a)に示すように、マスク層40の開口41が犠牲層38に対し-X方向に位置合わせずれしている。エッチングガス42を用い開口30を形成するときに、絶縁層11に開口30bが形成される。開口30bの底面が犠牲層38に接する。
【0049】
図9(b)に示すように、犠牲層38のエッチング速度は絶縁層11のエッチング速度より速いため、開口30bの底面が犠牲層38に接すると、犠牲層38がエッチングされ絶縁層11に開口30aが形成される。
【0050】
犠牲層38は、圧電層14の下面の下部電極12に対し位置合わせするため位置合わせ精度が高い。また、犠牲層38は薄いため、平面形状および大きさのばらつきは小さい。一方、開口41は圧電層14の上面の上部電極16に対し位置合わせするため位置合わせ精度が低い。また、厚い基板10をエッチングするため開口30cの形状および大きさがばらつき、さらに絶縁層11のエッチング速度が遅いと開口30bの形状および大きさがばらつく。実施例1のように開口30aを犠牲層38を用い形成することで、圧電薄膜共振器の特性に影響する下部電極12側の開口30aの形状および大きさを再現性よく形成できる。これにより、圧電薄膜共振器の特性の制御性を向上させることができる。
【0051】
[実施例1の変形例1]
図10(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、図10(b)は、図10(a)のA-A断面図である。図10(a)および図10(b)に示すように、側面32aの上端の位置62は共振領域50の外周の位置60より外側に位置している。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
実施例1の変形例1のように、開口30の側面32aは共振領域50の外側に位置してもよい。この場合、図7(c)と同様に、横モード弾性波は共振領域50の外に漏洩する。しかし、開口30の側面32aを再現性よく形成できるため、特性の制御性を向上させることができる。
【0053】
[実施例1の変形例2]
図11(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図11(a)に示すように、側面32aと32bとの間に段差は形成されていない。側面32bの上端の位置63は側面32aの上端の位置62に略一致する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例2のように、位置62と63とは略一致していてもよい。また、位置63は位置62より内側に位置していてもよい。
【0054】
[実施例1の変形例3]
図11(b)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。図11(b)に示すように、基板10内の開口30に側面32cが形成され、絶縁層11内の開口に側面32aが形成されている。側面32bは形成されていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
実施例1およびその変形例1によれば、開口30内における圧電層14に最も近い側面32a(第1側面)と圧電層14の下面とがなす角度θaは、側面32aより圧電層14から遠い側面32b(第2側面)と圧電層14の下面とがなす角度θbより大きい。これにより、圧電層14に最も近い開口30aの形状および大きさの制御性を向上できる。よって、圧電薄膜共振器の特性のばらつきを向上させることができる。
【0056】
開口30aの形状および大きさの制御性を向上するため、角度θaは70°~110°が好ましく、80°~100°がより好ましい。角度θa、θbおよびθcは90°以下が好ましい。角度θaは角度θbより10°以上大きいことが好ましく、20°以上大きいことがより好ましく、30°以上大きいことがさらに好ましい。角度θbが小さすぎると開口30bの形成が難しい。よって、角度θbは10°以上が好ましい。
【0057】
絶縁層11(第1支持層)は側面32aおよび32bを有し、基板10(第2支持層)は絶縁層11と異なる材料からなり側面32c(第3側面)有する。側面32cと圧電層14の下面とがなす角度θcは角度θbより大きい。角度θcは角度θbより10°以上大きいことが好ましく、20°以上大きいことがより好ましく、30°以上大きいことがさらに好ましい。
【0058】
側面32aは共振領域50の内側に位置する。また、側面32bは側面32aが延長する面(平面)より外側に位置する。これにより、図8において説明したように損失を抑制できる。
【0059】
圧電層14が単結晶であるとき、電気機械結合係数が大きくなる。例えば圧電層14として単結晶タンタル酸リチウム層、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶窒化アルミニウム層を用いると電気機械結合係数が大きくなる。
【0060】
図2(a)のように、下部電極12が形成された圧電層14の面に、共振領域50の少なくとも一部に少なくとも一部が重なる犠牲層38(ダミー層)を形成する。図2(c)に示すように、圧電層14に、圧電層14とで犠牲層38を挟む絶縁層11を形成する。図4(a)のように、絶縁層11の圧電層14と反対側の面に、平面視において犠牲層38の少なくとも一部と少なくとも一部が重なる開口41を有するマスク層40を形成する。図5(a)および図5(b)のように、マスク層40をマスクに、絶縁層11をエッチングすることで開口30b(第1開口)を形成し、絶縁層11のエッチング速度より速いエッチング速度で犠牲層38をエッチングすることで開口30bにつながる開口30a(第2開口)を形成する。
【0061】
絶縁層11のエッチング速度が遅い場合、比較例1のように圧電層14付近の開口30の形状および大きさの制御性がよくない。そこで、絶縁層11のエッチング速度より速いエッチング速度で犠牲層38をエッチングすることで開口30aを形成する。これにより、開口30aの形状および大きさの制御性が向上する。また、犠牲層38を設けることで開口30を効率よく形成できる。
【0062】
図2(d)のように、絶縁層11の圧電層14と反対側の面に、基板10(第2支持層)を形成する。図4(a)のように、マスク層を形成する工程では、基板10の圧電層14と反対側の面にマスク層40を形成する。図4(b)のように、開口30を形成するときに、絶縁層11のエッチング速度より速いエッチング速度で基板10をエッチングすることで開口30bとつながる開口30c(第3開口)を形成する。このように、基板10は厚いため、エッチング速度の速いエッチングガスおよび条件を用いて基板10をエッチングする。基板10と異なる材料の絶縁層11のエッチング速度は遅くなり、開口30bの形状および大きさの制御性が悪くなる。そこで、犠牲層38を用い開口30aを形成することで、開口30aの形状および大きさの制御性を向上できる。
【0063】
実施例1およびその変形例では、共振領域50の平面形状が略矩形の例を説明したが、共振領域50は略楕円形状でもよいし、多角形状でもよい。
【実施例0064】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。図12(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。図12(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0065】
図12(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。図12(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ44が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ46が接続されている。送信フィルタ44は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ46は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ44および受信フィルタ46の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0066】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0067】
実施例1およびその変形例では、圧電素子の例として、圧電薄膜共振器について説明した。圧電素子は、弾性波素子以外に例えばLamb波デバイス、アクチュエータおよびセンサ等でもよい。アクチュエータとしては、例えばインクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、および光ミラーである。センサは、例えば加速度センサ、ジャイロセンサ、およびエナジーハーベストセンサである。下部電極12の下に別の圧電層が設けられていてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 基板
11 絶縁層
12 下部電極
14 圧電層
16 上部電極
18 貫通孔
20、21 金属層
30、30a~30c、41 開口
32a~32c 側面
38 犠牲層
40 マスク層
44 送信フィルタ
46 受信フィルタ
50 共振領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12