(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096324
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】細胞回収装置、細胞回収方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20220622BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220622BHJP
C12Q 1/24 20060101ALI20220622BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20220622BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220622BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20220622BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/00 A
C12Q1/24
C12N1/02
C12Q1/04
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209371
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】出澤 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】鎌戸 耀子
(72)【発明者】
【氏名】下地 恵令奈
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA04
4B029GA08
4B029HA10
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS07
4B063QS12
4B063QS36
4B063QX02
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC01
4B065BD14
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞回収時に細胞へ掛かるストレスを抑える、培養された細胞を分取する細胞回収装置、細胞回収方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】細胞回収装置100は、容器140内の媒質に挿入される挿入部111を有し、前記挿入部を介して前記媒質内を観察する観察装置110と、前記観察装置で観察される所定領域143に対して位置決めされた、前記容器140から前記媒質内の細胞を回収する回収装置120と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の媒質に挿入される挿入部を有し、前記挿入部を介して前記媒質内を観察する観察装置と、
前記観察装置で観察される所定領域に対して位置決めされた、前記容器から前記媒質内の細胞を回収する回収装置と、を備える
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞回収装置において、
前記回収装置は、
前記挿入部に設けられたチャンネルを有し、
前記チャンネルを介して前記容器から前記媒質内の細胞を回収する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞回収装置において、
前記回収装置は、
前記容器内の前記媒質に挿入される第2挿入部と、
前記第2挿入部に設けられたチャンネルと、を有し、
前記チャンネルを介して前記容器から前記媒質内の細胞を回収する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項4】
請求項3に記載の細胞回収装置において、さらに、
前記挿入部と前記第2挿入部を束ねるバンドル部、又は、前記挿入部と前記第2挿入部を収容する筐体を有する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の細胞回収装置において、
前記回収装置は、さらに、
吸引力を発生させる吸引部と、を備え、
前記吸引部で発生した吸引力で前記容器から前記媒質内の細胞を吸引し、吸引した細胞を、前記チャンネルを介して回収容器へ出力する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の細胞回収装置において、
前記回収装置は、さらに、前記回収装置によって前記細胞が回収される媒質内の領域を区画する区画部を備える
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の細胞回収装置において、さらに、
前記観察装置は、さらに、
前記挿入部に設けられた、光源から出射した照明光を前記所定領域に照射する照明部と、
前記挿入部に設けられた、前記所定領域の光学像を形成する結像光学系と、
前記挿入部に設けられた、前記光学像を受光する受光部と、を備える
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞回収装置において、
前記結像光学系は、ステレオ光学系を含む
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の細胞回収装置において、さらに、
制御装置を備え、
前記観察装置は、前記所定領域を撮像する撮像装置を含み、
前記制御装置は、前記撮像装置を用いて取得した前記所定領域の画像に対する解析の結果に基づいて前記回収装置を制御する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞回収装置において、
前記制御装置は、前記所定領域の画像に対する物体検出の結果に基づいて前記回収装置を制御する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞回収装置において、
前記制御装置は、
前記物体検出により回収対象の細胞を検出した場合に、前記回収装置に、回収動作を行わせ、
前記物体検出により前記回収対象の細胞を検出しない場合に、前記回収装置に、前記回収動作を行わせない
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項12】
請求項10に記載の細胞回収装置において、
前記制御装置は、
前記物体検出により回収対象の細胞を検出し且つ回収対象でない細胞を検出しない場合に、前記回収装置に、回収動作を行わせ、
前記物体検出により前記回収対象の細胞を検出しない場合に、前記回収装置に、前記回収動作を行わせず、
前記物体検出により前記回収対象でない細胞を検出した場合に、前記回収装置に、前記回収動作を行わせない
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の細胞回収装置において、
前記制御装置は、前記回収装置に、前記回収動作を、前記回収対象の細胞の位置に応じた吸引力を用いて行わせる
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の細胞回収装置において、さらに、
制御装置を備え、
前記観察装置は、前記所定領域を撮像する撮像装置を含み、
前記制御装置は、前記撮像装置を用いて取得した前記所定領域の画像を表示部に表示させる
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項15】
請求項14に記載された細胞回収装置において、
前記制御装置は、前記所定領域の画像に対する物体検出の結果に基づいて前記所定領域内における細胞の存在を報知する
ことを特徴とする細胞回収装置。
【請求項16】
撮像装置の挿入部を容器内の媒質に挿入した状態で、前記媒質内の所定領域を撮像し、
前記撮像装置で取得した画像に対する物体検出の結果に応じて、前記所定領域に対して位置決めされた回収装置で、前記容器から前記媒質内の細胞を回収する
ことを特徴とする細胞回収方法。
【請求項17】
コンピュータに、
撮像装置が前記撮像装置の挿入部を容器内の媒質に挿入した状態で前記媒質内の所定領域を撮像することで取得した画像に対して、物体検出を行い、
前記所定領域に対して位置決めされた回収装置であって前記容器から前記媒質内の細胞を回収する回収装置を、前記物体検出の結果に応じて制御する、
処理を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、培養された細胞を回収する細胞回収装置、細胞回収方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞を用いた創薬や再生医療の普及に当たっては、大量の細胞を一定以上の品質を維持しながら安定的に供給する培養技術が欠かせない。このため、近年、単層培養よりも一度に大量の細胞を培養可能な浮遊培養が注目されている。
【0003】
また、培養した細胞を臨床応用する場合、培養した細胞を分取すること(sorting)が必要となる。細胞の分取には、例えば、セルソータを用いることができる。また、セルソータを用いることなく細胞を分取する技術も提案されている。例えば、特許文献1には、誘電電気泳動によって所定の位置に導かれた細胞を接着し保持すること、保持した細胞の画像から目的細胞を検出すること、検出した目的細胞を回収することが記載されている。特許文献1に記載された技術を用いることによっても、細胞を分取することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、生細胞は、非常にデリケートでダメージに弱い。このため、細胞回収時に細胞へ掛かるストレスを可能な限り抑えることが望まれている。特に臨床応用を想定した場合には、この点は非常に重要である。
【0006】
しかしながら、セルソータを用いた細胞分取は、一般に、SICS(Sorter-Induced Cellular Stress:ソーター誘発性細胞ストレス)が生じるため、臨床応用を前提とした場合には、望ましくない。また、特許文献1に記載の技術を用いた細胞分取でも、培養環境とは異なる環境へ細胞を一旦移してから目的の細胞を回収するといった手順が取られるため、複雑な回収作業中に細胞へストレスがかかってしまう。
【0007】
このように、上述した細胞分取技術はいずれも、デリケートな扱いが求められる細胞への悪影響が懸念される。このため、培養された細胞を分取する新たな技術が求められている。
【0008】
以上のような実情を踏まえ、本発明の一側面に係る目的は、培養された細胞を分取する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る細胞回収装置は、容器内の媒質に挿入される挿入部を有し、前記挿入部を介して前記媒質内を観察する観察装置と、前記観察装置で観察される所定領域に対して位置決めされた、前記容器から前記媒質内の細胞を回収する回収装置と、を備える。
【0010】
本発明の一態様に係る細胞回収方法は、撮像装置の挿入部を容器内の媒質に挿入した状態で、前記媒質内の所定領域を撮像し、前記撮像装置で取得した画像に対する物体検出の結果に応じて、前記所定領域に対して位置決めされた回収装置で、前記容器から前記媒質内の細胞を回収する。
【0011】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、撮像装置が前記撮像装置の挿入部を容器内の媒質に挿入した状態で前記媒質内の所定領域を撮像することで取得した画像に対して、物体検出を行い、前記所定領域に対して位置決めされた回収装置であって前記容器から前記媒質内の細胞を回収する回収装置を、前記物体検出の結果に応じて制御する、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
上記の態様によれば、培養された細胞を分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】細胞回収装置1の全体構成を説明する概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係る細胞回収装置100の構成を例示した図である。
【
図3】細胞回収装置100の機能構成を例示したブロック図である。
【
図4】細胞回収装置100が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】細胞回収装置100が行う吸引制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】細胞回収装置100が行う吸引制御処理の別の例を示すフローチャートである。
【
図7】細胞回収装置100が行う吸引制御処理の更に別の例を示すフローチャートである。
【
図8】ステレオ光学系150の構成を例示した図である。
【
図9】細胞回収装置100が行う細胞回収処理のさらに別の例を示すフローチャートである。
【
図10】回収ノズル124の構成を例示した図である。
【
図11】回収ノズル126の構成を例示した図である。
【
図12】第2の実施形態に係る細胞回収装置200の構成を例示した図である。
【
図13】細胞回収装置200の変形例について説明するための図である。
【
図17】第3の実施形態に係る細胞回収装置300の構成を例示した図である。
【
図18】第4の実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
【
図20】挿入部411の高さ制御の一例を説明するための図である。
【
図21】第5の実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
【
図22】表示装置133に表示される画像の一例を示した図である。
【
図23】第6の実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
【
図24】表示装置133に表示される画像の別の例を示した図である。
【
図25】表示装置133に表示される画像の更に別の例を示した図である。
【
図26】表示装置133に表示される画像の更に別の例を示した図である。
【
図27】表示装置133に表示される画像の更に別の例を示した図である。
【
図28】表示装置133に表示される画像の更に別の例を示した図である。
【
図29】伸長ノズル321aの動作について説明するための図である。
【
図30】第7の実施形態に係る細胞回収装置600の構成を例示した図である。
【
図31】第8の実施形態に係る細胞回収装置700の構成を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、一実施形態に係る細胞回収装置1の全体構成を説明する概略構成図である。細胞回収装置1は、容器5に収容された媒質6内を観察する観察装置2と、容器5から媒質6内の細胞を回収する回収装置3と、を含んでいる。細胞回収装置1は、媒質6内の細胞を分取する装置であり、回収容器11には、回収対象の細胞(例えば、細胞7)が排出される。細胞回収装置1は、
図1に示すように、さらに、制御装置4を含んでもよい。ただし、細胞回収装置1は、制御装置4を含まなくてもよい。細胞回収装置1は、利用者端末12と通信してもよく、利用者端末12からの指示に従って細胞回収を行ってもよい。また、細胞回収装置1は、回収経過や回収結果などを利用者端末12へ通知してもよい。
【0015】
以下、
図1を参照しながら、後述する各実施形態に係る細胞回収装置について概説する。なお、
図1では、細胞回収装置1が、浮遊培養で培養された細胞を回収する例を示したが、細胞回収装置1が回収する細胞の培養方法は、浮遊培養に限らない。浮遊培養は、増殖増力が容器の表面積に依存する単層培養や回転培養などの二次元培養よりも大量の細胞を効率的に培養可能であるという点において望ましいが、細胞回収装置1は、二次元培養で培養された細胞を回収するために用いられてもよい。また、細胞回収装置1は、任意の三次元培養で培養された細胞を回収するために用いられてもよい。
【0016】
また、浮遊培養には、浮遊系細胞を例えば液体培地内に浮遊した状態で増殖させる一般的な浮遊培養に加えて、接着性細胞をマイクロビーズなどの担体に接着させた状態で担体とともに培地内に浮遊させて増殖させる培養が含まれる。即ち、本明細書において浮遊培養とは、特に断らない限り、担体に接着しているか否かを問わず、培地に浮遊した状態で細胞を培養する方法のことをいう。
【0017】
容器5に収容されている媒質6は、例えば、培地であり、例えば、液体培地であってもよい。ただし、例えば、細胞が3次元培養など浮遊培養以外で培養されている場合などでは、媒質6は、ゲルなどの固体培地であってもよい。また、媒質6は、培地でなくてもよい。
【0018】
容器5は、媒質6とともに細胞が収容された容器である。容器5は、例えば、培養容器であってもよく、その場合、容器5内で細胞が培養されてもよい。即ち、細胞回収装置1は、培養容器である容器5から直接に細胞を回収する装置であってもよい。なお、培養容器は、例えば、スピナーフラスコ、培養バッグなどの比較的小型の容器であってもよく、バイオリアクターのような比較的大型で複雑な構造を有する容器であってもよい。
【0019】
容器5は、例えば、培養容器以外の一般的な容器であってもよい。細胞は、培養容器から培地と共に容器5へ移されてもよく、細胞回収装置1は、培養容器から容器5へ細胞を移した後に、その容器5から細胞を回収してもよい。また、細胞は、培養容器から培地ではない媒質を収容した容器5へ移されてもよく、細胞回収装置1は、培地以外の媒質が収容された容器5へ細胞を移した後に、その容器5から細胞を回収してもよい。即ち、培養容器細胞回収装置1は、培養環境とは異なる環境で容器5から細胞を回収する装置であってもよい。
【0020】
回収容器11は、回収装置3で回収した細胞を収容する容器である。回収容器11は、例えば、培養容器であってもよく、その場合、回収装置3で回収した細胞は、さらに容器11内で培養されてもよい。なお、
図1では、回収容器11が細胞回収装置1に含まれない例を示したが、回収容器11は、回収装置3を構成してもよい。
【0021】
観察装置2は、容器5に収容された媒質6内を観察する装置である。観察装置2は、媒質6内を光学的に観察する装置であり、媒質6内の領域の光学像を形成するものであればよい。観察装置2は、撮像装置を含んでもよく、例えば、デジタルカメラ、内視鏡、デジタルカメラを備えた顕微鏡装置などであってもよい。また、観察装置2は、光学像を観察者の目やスクリーンへ投影してもよく、例えば、接眼レンズを備えた顕微鏡装置、プロジェクタなどであってもよい。
【0022】
観察装置2は、観察装置2の少なくとも先端部分が媒質6内に挿入された状態で、媒質6内を観察する観察装置であることが望ましい。即ち、観察装置2は、容器5内の媒質6に挿入される挿入部を有し、挿入部を介して媒質6内を観察することが望ましい。媒質6内に挿入された挿入部を介して媒質6内を観察することで、容器5を介して媒質6内を観察する場合とは異なり、容器5の形状や透明度(屈折率)などによって観察性能が左右されないからである。従って、観察装置2は、任意の容器5に収容された媒質6内を観察することが可能である。
【0023】
なお、観察装置2は、媒質6内の細胞を観察するのに十分な解像力を有していればよく、容器5内に存在する様々な細胞(細胞7、細胞8、細胞9、細胞10)の種類、細胞の変異、分化状態などを識別可能であることが望ましい。また、観察装置2は、位相物体である細胞を可視化できればよく、観察法は特に限定しない。観察装置2は、例えば、明視野観察法で媒質6内の細胞を可視化してもよく、位相差観察法などの位相物体の観察に適したその他の観察法で細胞を可視化してもよい。なお、細胞の臨床応用を考慮すると、観察法は細胞を非染色で観察可能な観察法が望ましい。ただし、観察装置2は、蛍光観察法で細胞を可視化してもよい。この場合は、蛍光色素などを用いて細胞を標識すればよい。また、観察光の波長域は特に限定しない。観察光は、可視光でも赤外光であってもよい。
【0024】
回収装置3は、容器5から媒質6内の細胞を回収する装置である。回収装置3が細胞を回収する方法は、例えば、吸引ノズルなどを用いた吸引であるが、回収装置3の回収方法は特に限定しない。回収装置3は、例えば、吸引の代わりに、ノズルからの送気又は送液などで細胞を容器5外へ押し出すことで細胞を回収してもよい。また、回収装置3は、細胞を容器5外へ掬い出すことで細胞を回収してもよい。
【0025】
回収装置3は、後工程で必要な細胞を回収してもよく、不要な細胞を容器5から除去するために不要な細胞を回収してもよい。即ち、回収装置3では、例えば、分化した特定の細胞を選択的に回収するなどのポジティブソーティングが行われてもよく、癌化する虞のある未分化細胞を除去するなどのネガティブソーティングが行われてもよい。回収装置3によって回収された回収対象の細胞7は、例えば、回収容器11へ出力される。回収装置3は、
図1に示すように、媒質6とともに細胞7を回収し、回収容器11へ出力してもよい。
【0026】
回収装置3は、観察装置2で観察される所定領域(以降、観察領域とも記す。)に対して位置決めされている。ここで、“回収装置3が所定領域に対して位置決めされている”とは、回収装置3が行う回収動作によって細胞を回収可能な媒質6内の領域(以降、回収領域と記す。)が、観察領域に対して位置決めされていることを意味し、観察領域と回収領域は、少なくとも細胞回収時における位置関係が既知である。観察領域と回収領域の位置関係が既知であれば、観察領域を観察することによって得られた情報に基づいて回収領域からの細胞回収のために回収動作を行うべきタイミングを把握することが可能である。これにより、回収装置3は、観察結果に応じた細胞の回収、即ち、細胞分取が可能となる。
【0027】
なお、観察領域と回収領域との間の位置関係は、観察領域を観察することで特定されてもよく、その結果として既知となってもよい。例えば、吸引ノズルの先端が観察されるように回収装置3を位置決めすることで、回収領域を観察領域に対して位置決めしてもよい。
【0028】
観察領域と回収領域は、少なくとも細胞回収時における位置関係が既知であればよく、従って、観察領域と回収領域は必ずしも一致している必要はなく、また、重複していなくてもよい。ただし、観察装置2を用いて媒質6内を観察したユーザが回収装置3を手動で操作することで媒質6から細胞が回収される場合を想定すると、観察領域と回収領域は、少なくとも一部が重複した領域であることが望ましい。観察領域と回収領域が重複している場合には、ユーザは、観察領域内に回収対象の細胞を発見すると、直ちに回収装置3を操作することで細胞を回収することができる。このため、細胞回収装置1の操作が容易であり、ユーザは、制御装置4による例えば吸引タイミングについての支援などがなくても適切に細胞を回収することができる。
【0029】
また、観察領域と回収領域は、少なくとも細胞回収時における位置関係が既知であればよく、これらの関係は固定されていなくてもよい。即ち、観察領域と回収領域の各々の位置と大きさは、各装置の設定によって変化してもよい。例えば、観察領域の位置や大きさは、例えば、観察倍率や照明条件などの観察装置2の設定によって変化してもよい。また、回収領域の位置や大きさは、吸引力などの回収装置3の設定によって変化してもよい。
【0030】
制御装置4は、少なくともプロセッサとメモリを含むコンピュータである。制御装置4は、パーソナルコンピュータなどの汎用装置であってもよく、細胞回収装置1専用のコンピュータであってもよい。制御装置4は、図示しない表示装置や入力装置を備えてもよく、さらに、利用者端末12などと通信する通信装置を備えてもよい。なお、利用者端末12は、例えば、ユーザが使用する端末であり、特に限定しないが、例えば、ノート型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、タブレット型コンピュータ、スマートフォンなどである。
【0031】
制御装置4は、回収装置3を制御する回収制御装置であってもよい。制御装置4は、例えば、観察装置2に含まれる撮像装置を用いて取得した観察領域の画像を解析し、その画像に対する解析の結果に基づいて回収装置3を制御してもよい。より具体的には、制御装置4は、撮像装置を用いて取得した画像に対する物体検出の結果に基づいて回収装置3を制御してもよい。物体検出には、深層学習によって得られた学習済みモデルを用いてもよく、その場合、学習済みモデルは少なくとも回収対象の細胞を学習することが望ましい。学習済みモデルは、さらに、回収対象以外の細胞や細胞以外の物体を学習することが望ましい。また、深層学習以外の機械学習によって得られた学習済みモデルを用いて物体検出が行われてもよく、回収対象の細胞の形状や大きさなどの既知の特徴量に基づいて回収対象の細胞を検出するアルゴリズムが物体検出のために用いられてもよい。なお、物体検出の結果に基づく回収装置3の具体的な制御は、回収対象の細胞を回収できる限り、特に限定しない。
【0032】
制御装置4が回収制御装置として機能することで、細胞回収工程を自動化することができる。このため、細胞培養を省力化することができる。また、細胞回収工程を含む細胞培養の工程の少なくとも一部を、制御装置4(及び利用者端末12)を用いた遠隔制御による行うことで、培養容器が置かれた培養室などの無菌環境に人間が立ち入る機会を減らすことができる。このため、コンタミネーションのリスクを低減することもできる。なお、これらの利点は、汚染による影響範囲が大きく、且つ、作業量も膨大な、細胞の大量培養において特に有益である。
【0033】
なお、回収装置3がユーザによって直接に操作される場合には、制御装置4は、回収装置3を制御しなくてもよい。制御装置4は、回収装置3を制御する代わりに、撮像装置を用いて取得した観察領域の画像を表示部に表示させてもよい。表示部は、制御装置4の一部であっても制御装置4とは異なる装置であってもよく、例えば、利用者端末12であってもよい。この場合も、制御装置4は、さらに、撮像装置を用いて取得した画像に対して物体検出を行ってもよく、その画像に対する物体検出の結果に基づいて観察領域内における細胞の存在を報知してもよい。なお、制御装置4は、例えば、観察領域の画像上に追加情報を表示することにより細胞の存在を報知してもよく、また、音声出力、発光、バイブレーションなどその他の方法によって細胞の存在をユーザに報知してもよい。
【0034】
以上のように構成された細胞回収装置1によれば、媒質6内を観察する観察装置2とともに回収装置3を備えることで、所望の細胞を選択的に回収すること、即ち、細胞を分取することができる。これにより、例えば、後工程へ誤った細胞や異物が混入することを回避することができる。
【0035】
また、細胞回収装置1では、細胞を分取するために遠心分離器やセルソータなどを用いる必要がない。このため、細胞回収作業を従来と比較して簡素化することが可能である。また、培養を継続しながら細胞を選択的に回収することも可能であり、培養工程と回収工程を時間的に並列に行うことが可能である。従って、細胞培養全体の作業効率が高めることができる。この点は、作業効率が特に重視される、細胞の大量培養に特に好適である。
【0036】
また、細胞回収装置1では、培養容器から直接細胞を分取することができる。このため、遠心分離機やセルソータといった機器を用いた場合に受けるであろうダメージや、容器に接着した細胞を剥離するための薬剤を使用することによるダメージを回避することができる。さらに、細胞を各機器へ搬送することに伴って生じる細胞へのダメージも回避することができる。特に、細胞回収装置1を浮遊培養で培養された細胞の回収に適用することで、浮遊中の細胞を最小限の吸引力で回収することができる。このため、回収時に細胞に過度に大きな力が加わることがなく、細胞が受けるストレスを低減することができる。従って、回収した細胞の品質維持が容易になり、一定以上の品質を有する細胞を安定して供給することが可能となる。
【0037】
以下、図面を参照しながら、各実施形態に係る細胞回収装置について具体的に説明する。
[第1の実施形態]
図2は、本実施形態に係る細胞回収装置100の構成を例示した図である。
図3は、細胞回収装置100の機能構成を例示したブロック図である。細胞回収装置100は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。まず、
図2及び
図3を参照しながら、細胞回収装置100の構成について説明する。
【0038】
細胞回収装置100は、
図2に示すように、容器140に収容された媒質内の所定領域143を観察する観察装置110と、容器140から媒質内の細胞を回収する回収装置120と、回収装置120を制御する制御装置130と、を備えている。
【0039】
容器140は、例えば、スピナーフラスコであり、容器140に収容された液体培地内で細胞が培養されている。容器140の回転軸142が回転することで、回転軸142に固定された攪拌翼141が液体培地を攪拌し、それによって、細胞が培地内を浮遊した状態で培養される。
【0040】
観察装置110は、
図2に示すように、容器140内の培地に挿入される挿入部111と、ユーザが直接に操作する操作部112と、制御装置130に接続されるユニバーサルコード部113と、を備えている。挿入部111は、先端部分の位置を固定することができることが望ましい。挿入部111は、例えば、硬性内視鏡の挿入部のように硬くてもよく、軟性内視鏡の挿入部と同様に、操作部112を操作することで自由に屈曲可能な構造を有してもよい。
【0041】
挿入部111には、
図3に示すように、ライトガイド111aと、結像光学系111bと、撮像素子111cが設けられている。ライトガイド111aは、後述する光源装置132内の光源132aから出射した照明光を培地内の所定領域143に照射する照明部の一例である。ライトガイド111aは、照明光を光源132aから所定領域143まで導くために、ユニバーサルコード部113の基端部から、ユニバーサルコード部113、操作部112、挿入部111を経由して、挿入部111の先端部にまで延びている。ライトガイド111aの先端には、照明レンズが設けられてもよい。
【0042】
結像光学系111bは、1枚以上のレンズを含み、所定領域143からの光を集光することで、撮像素子111cに所定領域143の光学像を形成する。結像光学系111bは、さらに、結像光学系111bに含まれる1枚以上のレンズの少なくとも一部を光軸方向へ移動させる移動構造を有してもよい。結像光学系111bは、その移動構造によって、光学像の投影倍率を変更する光学ズーム機能、焦点位置を移動させるフォーカス機能を実現してもよい。また、結像光学系111bは、レンズ形状を変更することで焦点距離を可変する1つ以上の可変焦点レンズを含んでもよく、結像光学系111bに含まれる1枚以上の可変焦点レンズによって光学ズーム機能やフォーカス機能を実現してもよい。また、結像光学系111bは、移動構造と可変焦点レンズを組み合わせて、これらの機能を実現してもよい。
【0043】
撮像素子111cは、結像光学系111bが形成した光学像を受光する受光部の一例であり、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの二次元イメージセンサである。撮像素子111cは、所定領域143からの光を、結像光学系111bを経由して受光面で受光し、受光した光を電気信号に変換することで、所定領域143の撮像信号を生成する。
【0044】
より詳細には、撮像素子111cには、例えば、各々がフォトダイオードとコンデンサを含む複数の画素が二次元に配列されている。各画素には、さらに、カラーフィルタが含まれてもよい。複数の画素に配置されたカラーフィルタは、例えば、ベイヤー配列で配置されている。また、カラーフィルタの代わりに、各画素には、厚さ方向に複数のフォトダイオードが積層されてもよい。撮像素子111cは、光電変換により生成された電気信号を複数の画素から読み出して、撮像信号として信号線111dを経由して画像処理装置131へ出力する。
【0045】
回収装置120は、
図2に示すように、回収ノズル121と、回収容器122と、吸引装置123と、を備えている。回収ノズル121は、容器140内の培地に挿入される第2挿入部の一例であり、一方の先端は容器140に、他方の先端は回収容器122に挿入されている。なお、回収ノズル121の容器140側の先端は、所定領域143に対して予め位置決めされている。この例では、所定領域143に対して回収領域が重複するように、回収ノズル121が配置されているが、回収領域は、例えば、所定領域143に対して培地の流れの下流側に位置決めされてもよい。
【0046】
回収ノズル121には、
図3に示すように、チャンネル121aが設けられている。チャンネル121aは、培地とともに吸引された細胞が通る管路である。回収装置120は、チャンネル121aを介して容器140から媒質内の細胞を回収する。なお、回収ノズル121には、複数のチャンネル121aが形成されてもよい。チャンネル121aの内径は、回収対象の細胞の直径よりも大きいことが望ましい。
【0047】
回収容器122は、容器140から回収した細胞を貯留する容器である。回収容器122には、分取した細胞を細胞のサイズやその他の特徴によってさらに峻別するフィルタが設けられてもよい。即ち、細胞回収装置100は、制御装置130によって行われる後述する物体検出に加えて、回収容器122に設けられたフィルタの物理構造によって、回収対象の細胞を他の物体から分離して回収してもよい。フィルタは、メッシュフィルタや中空糸フィルタなど、細胞とそれ以外の物体をサイズやその他の特徴によって峻別可能なものを用いればよい。
【0048】
吸引装置123は、吸引力を発生させる吸引部の一例である。吸引装置123は、回収対象の細胞を吸引するのに十分な吸引力を発生させることができればよく、例えば、回収容器122内の空気を吸引することで回収容器122に負圧を加える吸引ポンプであってもよい。また、吸引装置123は、例えば、ペリスタルティックポンプのような送液ポンプであってもよく、回収ノズル121の両端を培地に浸けた状態で回収容器122と容器140の間で回収ノズル121に作用してもよい。
【0049】
吸引装置123は、制御装置130によって制御される。吸引装置123は、例えば、制御装置130からの信号を受信することで、動作を開始してもよく、さらに、制御装置130からの信号を受信することで、動作を停止してもよい。吸引装置123が動作することで、チャンネル121aを介して回収ノズル121の先端に吸引力が発生する。回収装置120は、吸引装置123により発生した吸引力で容器140から媒質内の細胞を吸引し、吸引した細胞を、チャンネル121aを介して回収容器122へ出力する。
【0050】
なお、図示しないが、容器140と回収容器122の間に環流流路が形成されてもよく、細胞とともに回収容器122へ流入する培地は、容器140へ戻されてもよい。こうすることで、培地を無駄に消費することを防ぐことが出来る。環流構造は特に限定しない。例えば、回収容器122はフィルタを境界とする二層構造を有し、各層に後述する吸引装置123を作用させることで、容器140からフィルタより手前にある回収容器122の層への流れと、フィルタよりも後ろにある回収容器122の層から容器140への流れを形成してもよい。
【0051】
制御装置130は、
図2に示すように、観察装置110を用いて取得した画像を処理する画像処理装置131と、観察装置110へ照明光を供給する光源装置132と、画像を表示する表示装置133を備えている。
【0052】
画像処理装置131は、
図3に示すように、信号処理部131aと、画像解析部131bを備える。信号処理部131aは、観察装置110から受信した撮像信号に対して所定の処理を行うことで画像信号を生成する。所定の処理は、例えば、ノイズ除去処理、アナログデジタル変換処理、OB減算処理、WB補正処理、デモザイキング処理、色マトリクス処理等を含んでもよい。
【0053】
画像解析部131bは、信号処理部131aから受信した画像信号に基づいて、所定領域143の画像を解析する。画像解析部131bが行う画像解析は、例えば、回収対象の細胞を画像内から検出する物体検出であってもよく、物体検出は、予め深層学習によって回収対象の細胞を学習した学習済みモデルを用いて行われてもよい。画像解析部131bが回収対象の細胞を検出すると、画像処理装置131は、制御信号を回収装置120へ出力することで回収装置120を制御して、回収装置120に細胞を回収させる。なお、画像処理装置131、信号処理部131aおよび画像解析部131bは、特に限定しないが、例えば、制御装置130内のプロセッサにより構成されていてもよい。また、ネットワーク上で生じる通信遅延が許容できる程度に収まる場合であれば、画像処理装置131、信号処理部131aおよび画像解析部131bは、制御装置130とインターネットなどのネットワーク経由で接続される利用者端末12やその他のサーバにより構成されてもよい。
【0054】
光源装置132は、
図3に示すように、光源132aと、光源駆動部132bとを備えている。光源132aは、観察装置110に供給する照明光を出射する光源である。光源132aは、例えば、LED光源であるが、LED光源に限らず、キセノンランプ、ハロゲンランプなどのランプ光源であってもよく、レーザ光源であってもよい。また、光源132aは、それぞれ異なる色の照明光を出射する、複数のLED光源を含んでもよい。
【0055】
光源駆動部132bは、光源132aを駆動するドライバであり、例えば、LEDドライバである。光源駆動部132bは、光源装置132の設定に従って光源132aを駆動する。なお、光源装置132の設定は、制御装置130からの指示値(例えば、電流値、電圧値)によって指示されてもよく、光源装置132に設けられたスイッチに対する操作などによって指示されてもよい。
【0056】
表示装置133は、観察装置110及び制御装置130を用いて取得した画像を表示する。表示装置133は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイを含む、任意のディスプレイである。なお、表示装置133ではなく、利用者端末12に画像を表示しても良い。
【0057】
図4は、細胞回収装置100が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
図5は、細胞回収装置100が行う吸引制御処理の一例を示すフローチャートである。以下、
図4及び
図5を参照しながら、細胞回収装置100を用いて行われる細胞回収方法について説明する。
【0058】
図4に示す細胞回収処理は、制御装置130のプロセッサが細胞回収プログラムを実行することで、例えば、ユーザの開始指示や設定されたスケジュールに従って開始される。このとき、観察装置110の挿入部111と回収装置120の回収ノズル121は、細胞回収処理を開始する前に、予め容器140に挿入されている。より詳細には、挿入部111と回収ノズル121は、例えば、回収領域が所定領域143(観察領域)に対して重複するように位置決めされている。
【0059】
なお、細胞回収処理は、培地の攪拌を継続しながら行われてもよく、培地の攪拌を停止してから行われてもよい。培地の攪拌中に回収対象の細胞が浮遊している凡その高さが予想できる場合、所定領域143の高さをその予想される高さに合わせてもよく、細胞回収装置100は、攪拌しながら細胞を回収してもよい。また、例えば、所定領域143の高さを容器140の底面付近に合わせてもよく、細胞回収装置100は、攪拌を停止することで底面付近まで沈降した細胞を回収してもよい。
【0060】
細胞回収処理が開始されると、細胞回収装置100は、まず、所定領域143を照明する(ステップS10)。ステップS10では、光源装置132が光源132aから照明光を出射し、観察装置110がライトガイド111aに導かれた照明光を所定領域143に照射する。
【0061】
次に、細胞回収装置100は、所定領域143の画像を取得する(ステップS20)。ステップS20では、観察装置110が所定領域143を撮像し、観察装置110から受信した撮像信号に基づいて画像処理装置131が所定領域143の画像を生成する。即ち、制御装置130が観察装置110を用いて所定領域143の画像を取得する。
【0062】
所定領域143の画像を取得すると、細胞回収装置100は、取得した画像に対して物体検出を行う(ステップS30)。ステップS30では、画像処理装置131が、少なくとも回収対象の細胞を学習した学習済みモデルを用いて、物体検出を行う。
【0063】
その後、細胞回収装置100は、
図5に示す吸引制御処理を行う(ステップS40)。ステップS40では、制御装置130は、ステップS30の物体検出で所定の細胞、即ち、回収対象の細胞を検出したか否かを判定し(ステップS41)、判定結果に応じて回収装置120を制御する。具体的には、回収対象の細胞を検出した場合、制御装置130は、回収装置120に吸引を指示し、検出した細胞を回収装置120に回収させる(ステップS42)。一方で、回収対象の細胞を検出しない場合、制御装置130は、回収装置120に吸引を指示しない。換言すると、制御装置130は、物体検出により回収対象の細胞を検出した場合に、回収装置120に回収動作を行わせ、物体検出により回収対象の細胞を検出しない場合に、回収装置120に回収動作を行わせない。
【0064】
吸引制御処理が終了すると、細胞回収装置100は、細胞回収処理を終了するか否か判定する(ステップS50)。ステップS50では、細胞回収装置100は、予め決められたルール(例えば、細胞回収処理開始から所定時間の経過、ユーザからの終了指示など)に従って細胞回収処理を終了するか否かを判定してもよい。細胞回収装置100は、ステップS50で細胞回収処理を終了すると判定されるまで、ステップS20からステップS40の処理を繰り返し実行し、ステップS50で細胞回収処理を終了すると判定されると、細胞回収処理を終了する。
【0065】
以上のように、細胞回収装置100を用いることで、ユーザは、細胞回収装置100に細胞の回収を指示するだけで、培養環境から回収対象の細胞を直接回収することができる。この際、培地に浮遊した細胞を吸引することで、細胞に過度にストレスを与えることなく細胞を回収することができる。従って、細胞回収装置100によれば、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。
【0066】
図6は、細胞回収装置100が行う吸引制御処理の別の例を示すフローチャートである。細胞回収装置100は、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図6に示す吸引制御処理を行ってもよい。
図6に示す吸引制御処理は、回収対象の細胞の存在に加えて、回収対象外の細胞の不存在も確認する点が
図5に示す吸引制御処理とは異なっている。また、制御装置130では、回収対象の細胞に加えて回収対象の細胞以外の物体(例えば、回収対象以外の細胞)についても学習した学習済みモデルを用いて物体検出が行われる。
【0067】
図6に示す吸引制御処理が開始されると、制御装置130は、
図4のステップS30の物体検出で所定の細胞、即ち、回収対象の細胞を検出したか否かを判定する(ステップS43)。ステップS43で、回収対象の細胞を検出したと判定されると、制御装置130は、さらに、回収対象の細胞以外の細胞を検出したか否かを判定する(ステップS44)。ステップS44で、回収対象の細胞以外の細胞を検出しない場合、制御装置130は、回収装置120に吸引を指示し、検出した回収対象の細胞を回収装置120に回収させる(ステップS45)。一方で、回収対象の細胞を検出しない場合、及び、回収対象の細胞以外の細胞を検出した場合には、制御装置130は、回収装置120に吸引を指示しない。換言すると、制御装置130は、物体検出により回収対象の細胞を検出し且つ回収対象でない細胞を検出しない場合に、回収装置120に、回収動作を行わせ、物体検出により回収対象の細胞を検出しない場合に、回収装置120に、回収動作を行わせず、物体検出により回収対象でない細胞を検出した場合に、回収装置120に、回収動作を行わせない。
【0068】
以上のように、細胞回収装置100が、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図6に示す吸引制御処理を行う場合であっても、ユーザは、細胞回収装置100に細胞の回収を指示するだけで、培養環境から回収対象の細胞を直接回収することができる。特に、
図6に示す吸引制御処理では、回収対象の細胞の存在だけではなく回収対象外の細胞の不存在についても確認した上で回収動作が行われる。このために、細胞回収装置100は、回収対象の細胞とともに回収対象ではない細胞を回収してしまう可能性を大幅に減らすことができる。従って、高精度に細胞を分取することが可能となる。
【0069】
図7は、細胞回収装置100が行う吸引制御処理のさらに別の例を示すフローチャートである。
図8は、ステレオ光学系150を例示した図である。細胞回収装置100は、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図7に示す吸引制御処理を行ってもよい。
図7に示す吸引制御処理は、検出した回収対象の細胞の位置に応じて吸引力を制御する点が
図5に示す吸引制御処理とは異なっている。このため、観察装置110は、回収対象の細胞の位置を検出するための手段として、結像光学系111bに
図8に示すステレオ光学系150を備えてもよく、制御装置130は、回収対象の細胞物体の位置をステレオ計測するために、観察装置110を用いて、視差のある2枚の画像を取得してもよい。
【0070】
ステレオ光学系150は、
図8に示すように、例えば、対物レンズ151と、光軸AXに対して偏心した2つの開口を有する絞り152と、2つの開口のそれぞれを通過した光を集光して観察面Pの光学像を撮像素子111c上に形成する2つの結像レンズ153を備えてもよい。なお、
図8に示すステレオ光学系150は、視差のある光学像を形成するステレオ光学系のあくまで一例である。観察装置110は、ステレオ光学系150とは異なる構成のステレオ光学系を備えてもよい。
【0071】
また、細胞回収装置100は、物体検出により検出された物体の位置が検出できればよく、ステレオ光学系以外の手段によって物体の位置を検出してもよい。細胞回収装置100は、例えば、TOF(Time Of Flight)方式の距離画像センサを備えてもよく、距離画像に基づいて物体の位置を検出してもよい。
【0072】
図7に示す吸引制御処理が開始されると、制御装置130は、
図4のステップS30の物体検出で所定の細胞、即ち、回収対象の細胞を検出したか否かを判定する(ステップS51)。ステップS51で、回収対象の細胞を検出したと判定されると、制御装置130は、検出された回収対象の細胞の3次元位置を検出する(ステップS52)。ここでは、制御装置130は、例えば、ステレオ光学系を用いて取得した視差のある画像から回収対象の細胞の3次元位置を検出する。
【0073】
回収対象の細胞の3次元位置が検出されると、制御装置130は、回収対象の細胞を吸引するための吸引力を決定する(ステップS53)。ここでは、制御装置130は、例えば、ステップS52で検出された回収対象の細胞の3次元位置が回収ノズル121の先端から離れているほど吸引力を大きな値に決定してもよい。なお、回収対象の細胞が複数検出されている場合には、吸引力は回収ノズル121の先端から最も離れている細胞の3次元位置に基づいて決定してもよい。吸引力が決定されると、制御装置130は、ステップS53で決定した吸引力で回収対象の細胞を吸引するように、回収装置120を制御する(ステップS54)。即ち、制御装置130は、回収装置120、回収動作を、回収対象の細胞の3次元位置に応じた吸引力を用いて行わせる。
【0074】
以上のように、細胞回収装置100が、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図7に示す吸引制御処理を行う場合であっても、培地に浮遊した細胞を吸引することで、細胞に過度にストレスを与えることなく細胞を回収することができる。特に、
図7に示す吸引制御処理では、回収対象の細胞の3次元位置に応じて必要最小限の吸引力で細胞を回収することができる。このため、
図5に示す吸引制御処理を行う場合によりもさらに細胞へのストレスを抑制することができる。また、吸引力が過剰になることだけではなく不足することも回避することができるため、より確実に細胞を回収して、細胞回収作業を効率よく行うことができる。
【0075】
図9は、細胞回収装置100が行う吸引制御処理のさらに別の例を示すフローチャートである。細胞回収装置100は、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図9に示す吸引制御処理を行ってもよい。なお、
図9に示す吸引制御処理は、
図6に示す吸引制御処理と
図7に示す吸引制御処理を組み合わせた処理に相当する。即ち、
図9に示す吸引制御処理は、回収対象の細胞の存在に加えて回収対象外の細胞の不存在も確認する点と、検出した回収対象の細胞の3次元位置に応じて吸引力を制御する点が
図5に示す吸引制御処理とは異なっている。
【0076】
図9に示す吸引制御処理が開始されると、制御装置130は、物体検出で所定の細胞、即ち、回収対象の細胞を検出したか否かを判定し(ステップS55)、回収対象の細胞を検出したと判定されると、さらに、回収対象の細胞以外の細胞を検出したか否かを判定する(ステップS56)。ステップS55とステップS56の処理は、
図6のステップS43とステップS44の処理と同様である。
【0077】
ステップS56で、回収対象の細胞以外の細胞を検出しない場合、制御装置130は、検出された回収対象の細胞の3次元位置を検出し(ステップS57)、回収対象の細胞を吸引するための吸引力を決定し(ステップS58)、決定した吸引力で回収対象の細胞を吸引するように、回収装置120を制御する(ステップS59)。ステップS57からステップS59の処理は、
図7のステップS52からステップS54の処理と同様である。
【0078】
以上のように、細胞回収装置100が、
図5に示す吸引制御処理の代わりに、
図9に示す吸引制御処理を行うことで、
図5に示す吸引制御処理を行う場合によりもさらに細胞へのストレスを抑制しながら、回収対象の細胞とともに回収対象ではない細胞を回収してしまう可能性を大幅に減らすことができる。
【0079】
図10は、回収ノズル124の構成を例示した図である。
図11は、回収ノズル126の構成を例示した図である。回収装置120は、物体検出で検出された回収対象の細胞の回収を支援するために、回収装置120によって細胞が回収される媒質6内の領域を区画する区画部を備えてもよい。
図10に示す回収ノズル124と
図11に示す回収ノズル126は、上述した区画部を有する回収ノズルの例であり、回収装置120は、回収ノズル121の代わりに、回収ノズル124又は回収ノズル126を備えてもよい。
【0080】
図10に示す回収ノズル124は、ノズル先端に筒状のネット125が設けられている。ネット125は、細胞が回収される媒質6内の領域を区画する区画部の一例であり、ネット125が設けられることで、ネット125の外側の物体が回収ノズル124内に吸引されることを回避することができる。即ち、回収範囲を制限することで回収対象を制御することができるため、回収対象の細胞とともに不要な物体を回収する可能性を減らすことができる。
【0081】
図11に示す回収ノズル126は、ノズル先端に円筒を軸に沿って切断した形状を有する制御板127が設けられている。制御板127は、細胞が回収される媒質6内の領域を区画する区画部の一例であり、制御板127が設けられることで、吸引力によりチャンネル121aに近づく方向に移動する細胞を、チャンネル121aに導くことができる。このため、物体検出で検出した回収対象の細胞の回収漏れを減らすことができる。なお、制御板127は、所定領域143に対して培地の流れの下流側に配置されることが望ましい。これにより、吸引力に加えて培地の流れが作用した細胞を制御板127に沿ってチャンネル121a内に導くことができる。
【0082】
[第2の実施形態]
図12は、本実施形態に係る細胞回収装置200の構成を例示した図である。細胞回収装置200は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。細胞回収装置200は、観察装置110と、回収装置120と、制御装置130を備える点は、細胞回収装置100と同様である。
【0083】
細胞回収装置200は、挿入部111と回収ノズル121を束ねるバンドル部材210を備える点が、細胞回収装置100とは異なる。細胞回収装置200では、バンドル部材210によって、回収ノズル121が挿入部111に対して所定の関係に位置決めされる。
【0084】
本実施形態に係る細胞回収装置200によっても、細胞回収装置100と同様に、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。また、細胞回収装置200によれば、バンドル部材210を用いることで、ユーザによって行われる位置決め作業を支援することができる。
【0085】
図13は、細胞回収装置200の変形例について説明するための図である。
図12では、細胞回収装置200がバンドル部材210を用いて位置決め作業を支援する例を示したが、細胞回収装置200は、バンドル部材210の代わりに、
図13に示す筐体220を備えてもよい。筐体220は、挿入部111と回収ノズル121を収容し、筐体220内において挿入部111と回収ノズル121を所定の位置関係に維持する。
【0086】
挿入部111の先端は、筐体220に形成された開口に挿入されている。また、挿入部111の先端と筐体220の間の隙間には、例えば、Oリングを配置するなどして、筐体220に形成された開口から筐体220内に培地が侵入することを回避することが望ましい。
【0087】
細胞回収装置200は、バンドル部材210の代わりに筐体220を用いることによっても、ユーザによって行われる位置決め作業を支援することができる。また、細胞回収装置200では、除菌済みの使い捨てタイプの筐体を筐体220に利用することで、細胞回収装置200の洗浄や消毒といったメンテナンス作業の負担を軽減することができる。具体的には、筐体220を用いることで挿入部111が培地に触れないため、例えば、挿入部111の洗浄や消毒を、省略する、又は、簡易洗浄や簡易消毒で代替する、ことができる。
【0088】
図14は、挿入部230の構成を例示した図である。
図15は、挿入部240の構成を例示した図である。
図16は、挿入部250の構成を例示した図である。以下、
図14から
図16を参照しながら、挿入部の構成の変形例を説明する。
【0089】
図14に示す挿入部230は、ライトガイド111aの代わりにLED231と制御線232を備える点が、挿入部111とは異なっている。制御線232は、例えば、制御装置130に接続されている。LED231は、照明部の一例であり、制御装置130によって発光制御される。
【0090】
図15に示す挿入部240は、撮像素子111cの代わりにバンドル光ファイバー241を備える点が、挿入部111とは異なっている。バンドル光ファイバー241は、結像光学系111bが形成した光学像を受光する受光部の一例であり、観察装置110に設けられた図示しない撮像素子に所定領域143の光学像をリレーする。
【0091】
図16に示す挿入部250は、ライトガイド111aの代わりにLED231と制御線232を備える点と、撮像素子111cの代わりにバンドル光ファイバー241を備える点が、挿入部111とは異なっている。
【0092】
第1の実施形態に係る細胞回収装置100及び第2の実施形態に係る細胞回収装置200に含まれる観察装置110は、挿入部111の代わりに、
図14から
図16に示す挿入部を備えてもよい。
【0093】
[第3の実施形態]
図17は、本実施形態に係る細胞回収装置300の構成を例示した図である。細胞回収装置300は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。細胞回収装置300は、制御装置130を備える点は、細胞回収装置100と同様である。細胞回収装置300は、観察装置110の代わりに観察装置310を備える点と、回収装置120の代わりに回収装置320を備える点が、細胞回収装置100とは異なる。
【0094】
観察装置310は、観察装置110と類似した構造を有し、挿入部311と操作部312とユニバーサルコード部313を備えている。また、回収装置320は、回収ノズル321と回収容器122と吸引装置123を含んでいる。
【0095】
観察装置310は、少なくとも挿入部311を貫通するチャンネルが形成されている点が、観察装置110とは異なる。また、回収装置320は、観察装置310のチャンネルが、回収ノズル321のチャンネルを構成する点が回収装置120とは異なる。
【0096】
即ち、細胞回収装置300は、回収装置320は、観察装置310の挿入部311に設けられたチャンネルを有し、回収ノズル321が観察装置310を介して容器140へ挿入される点が、細胞回収装置100とは異なっている。これにより、細胞回収装置300では、
図17に示すように、所定領域143に対して回収ノズル321の位置が常に一定の関係に維持されることになるため、ユーザによる位置決め作業なしで、回収装置320が所定領域143に対して位置決めされる。
【0097】
なお、観察装置310は、既存の医療用や工業用の内視鏡であってもよく、内視鏡の鉗子チャンネルや送気送水チャンネルなどの既存のチャンネルを回収ノズル321のチャンネルとして利用してもよい。
【0098】
本実施形態に係る細胞回収装置300によっても、細胞回収装置100と同様に、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。また、細胞回収装置300によれば、ユーザは、所定領域143に対する回収装置320の位置決め作業を行うことなく、細胞回収装置300を使用することができる。
【0099】
[第4の実施形態]
図18は、本実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
図19は、挿入部411の構成を例示した図である。
図20は、挿入部411の高さ制御の一例を説明するための図である。本実施形態に係る細胞回収装置は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。本実施形態に係る細胞回収装置は、容器140内で細胞が存在する領域を推定し、推定結果に応じて媒質内で挿入部を移動する点が、上述した実施形態に係る細胞回収装置とは異なっている。
【0100】
なお、本実施形態に係る細胞回収装置の装置構成は、
図19に示すように、挿入部311の代わりに挿入部411を備える点で、細胞回収装置300とは異なっているが、その他の点は、細胞回収装置300と同様である。挿入部411は、挿入部411の先端位置を検出するためのセンサ412が挿入部411に設けられている点、挿入部411の位置が制御装置130によって制御されることができる点が、挿入部311とは異なっている。センサ412は、例えば、3次元位置センサである。3次元位置の測定方法は特に限定しない。センサ412は、3軸加速度センサと3軸角速度センサを備えてもよく、図示しない磁場発生装置と組み合わせ利用される磁気センサを備えてもよい。
【0101】
なお、センサ412で検出した情報は、例えば、制御装置130に出力され、挿入部411の位置制御に用いられてもよい。また、センサ412で検出した情報は、例えば、観察装置310内において、挿入部411の位置制御に用いられてもよい。
【0102】
図18に示す細胞回収処理は、制御装置130のプロセッサが細胞回収プログラムを実行することで、例えば、ユーザの開始指示や設定されたスケジュールに従って開始される。このとき、観察装置の挿入部411は、細胞回収処理を開始する前に、予め容器140に挿入されている。
【0103】
細胞回収処理が開始されると、細胞回収装置は、まず、培地の攪拌を停止する(ステップS101)。ここでは、例えば、容器140に接続された制御装置130が容器140のモータを停止することで、培地の攪拌を停止する。なお、攪拌停止は、ユーザが手動で行ってもよい。
【0104】
その後、細胞回収装置は、所定領域143を照明する(ステップS102)。ステップS102では、光源装置132が光源132aから照明光を出射し、観察装置が照明光を所定領域143に照射する。
【0105】
次に、細胞回収装置は、容器140における回収対象の細胞の存在位置を推定し(ステップS103)、推定した位置に応じて挿入部411を移動する(ステップS104)。ステップS103では、制御装置130が、例えば、回収対象の細胞の想定されるサイズ及び質量、攪拌停止からの経過時間などに基づいて、回収対象の細胞の位置(推定細胞位置と記す。)を推定する。ステップS104では、制御装置130は、推定細胞位置に基づいて挿入部411の移動後の位置を決定し、決定した位置に挿入部411を移動させる。
【0106】
なお、挿入部411の移動後の位置は、推定細胞位置とは異なってもよい。挿入部411の位置は、推定細胞位置に存在する細胞を回収するのに適した位置であればよく、挿入部411の向きなどを考慮して推定細胞位置から一定の距離だけ離れた位置であってもよい。例えば、
図20に示すように、推定細胞位置に対して距離ΔHだけ高い位置に移動してもよい。また、細胞が容器140の底面に達していると想定される場合には、細胞が接着するなど浮遊時よりも大きな吸引力が必要となることが予想されるため、
図20に示すように、距離ΔHよりもさらに近づいて細胞を回収してもよい。
【0107】
その後、細胞回収装置は、所定領域143の画像を取得し(ステップS105)、取得した画像に対して物体検出を行い(ステップS106)、吸引制御処理を行う(ステップS107)。なお、ステップS105からステップS107の処理は、
図4のステップS20からステップS40の処理と同様である。
【0108】
吸引制御処理が終了すると、細胞回収装置は、細胞回収処理を終了するか否か判定する(ステップS108)。細胞回収装置は、ステップS108で細胞回収処理を終了すると判定されるまで、ステップS103からステップS107の処理を繰り返し実行し、ステップS108で細胞回収処理を終了すると判定されると、細胞回収処理を終了する。
【0109】
本実施形態に係る細胞回収装置によっても、上述した実施形態に係る細胞回収装置と同様に、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。さらに、本実施形態に係る細胞回収装置によれば、挿入部411が回収対象の細胞が存在すると推定される位置に適宜移動するため、回収対象の細胞を効率よく回収することができる。
【0110】
なお、本実施形態では、攪拌を停止した状態で細胞を回収する例を示したが、攪拌中の細胞の位置が推定される場合には、攪拌中に
図18に示す細胞回収処理が行われてもよい。
【0111】
[第5の実施形態]
図21は、本実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
図22は、表示装置133に表示される画像の一例を示した図である。本実施形態に係る細胞回収装置は、浮遊培養で培養された細胞を分取する装置である。
【0112】
なお、本実施形態に係る細胞回収装置の装置構成は、制御装置130がユーザの指示に従って回収装置120を制御する点を除き、
図2に示す細胞回収装置100と同様である。即ち、本実施形態に係る細胞回収装置は、所定領域143の画像を見ながら行われるユーザによる手動操作に従って、回収装置120が細胞を回収する点が、細胞回収装置100とは異なっている。
【0113】
図21に示す細胞回収処理は、制御装置130のプロセッサが細胞回収プログラムを実行することで、例えば、ユーザの開始指示に従って開始される。細胞回収処理が開始されると、細胞回収装置は、まず、所定領域143を照明し(ステップS201)、所定領域143の画像を取得する(ステップS202)。なお、ステップS201及びステップS202の処理は、
図4のステップS10及びステップS20の処理と同様である。
【0114】
所定領域143の画像を取得すると、細胞回収装置は、取得した画像を表示する(ステップS203)。ここでは、制御装置130は、表示装置133に、例えば、
図22に示す画像を表示させる。ユーザは、表示装置133に表示された画像を見ることで、回収領域に回収対象の細胞が存在するか否かを判断する。
【0115】
その後、細胞回収装置は、吸引指示の有無を判断する(ステップS204)。ユーザが、画像を見て回収対象の細胞の存在を確認し、例えば、操作部112に設けられた吸引ボタンを押下すると、制御装置130は、吸引指示を検出し(ステップS204YES)、吸引制御処理を行う(ステップS205)。なお、ステップS205の処理は、
図4のステップSS40の処理と同様である。
【0116】
吸引制御処理が終了すると、細胞回収装置は、細胞回収処理を終了するか否か判定する(ステップS206)。細胞回収装置は、ステップS206で細胞回収処理を終了すると判定されるまで、ステップS202からステップS205の処理を繰り返し実行し、ステップS206で細胞回収処理を終了すると判定されると、細胞回収処理を終了する。
【0117】
本実施形態に係る細胞回収装置によっても、培地に浮遊した細胞を吸引することで、細胞に過度にストレスを与えることなく細胞を回収することができる。また、ユーザが画像で回収対象の細胞の存在を確認しながら回収操作を行うことで、細胞を分取することができる。従って、上述した実施形態に係る細胞回収装置によっても、細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。
【0118】
[第6の実施形態]
図23は、本実施形態に係る細胞回収装置が行う細胞回収処理の一例を示すフローチャートである。
図24は、表示装置133に表示される画像の別の例を示した図である。本実施形態に係る細胞回収装置は、浮遊培養で培養された細胞を分取する装置である。
【0119】
なお、本実施形態に係る細胞回収装置の装置構成は、第5の実施形態に係る細胞回収装置と同様であり、制御装置130がユーザの指示に従って回収装置120を制御する点を除き、
図2に示す細胞回収装置100と同様である。ただし、本実施形態に係る細胞回収装置では、制御装置130が物体検出を行い、物体検出結果に基づいて所定領域143の細胞の存在をユーザに報知する点が、第5の実施形態に係る細胞回収装置とは異なっている。
【0120】
図23に示す細胞回収処理は、制御装置130のプロセッサが細胞回収プログラムを実行することで、例えば、ユーザの開始指示に従って開始される。細胞回収処理が開始されると、細胞回収装置は、まず、所定領域143を照明し(ステップS301)、所定領域143の画像を取得し(ステップS302)、取得した画像に対して物体検出を行う(ステップS303)。なお、ステップS301からステップS303の処理は、
図4のステップS10からステップS30の処理と同様である。
【0121】
その後、細胞回収装置は、取得した画像を表示する(ステップS304)。ここでは、制御装置130は、例えば、
図24に示すように、取得した画像を物体検出結果に基づく補助情報とともに、表示装置133に表示させる。具体的には、制御装置130は、回収対象の細胞の存在をユーザに視覚的に報知するために、回収対象の細胞7を取り囲むバウンディングボックス501を画像上に表示させる。ユーザは、表示装置133に表示された画像を見ることで、回収領域に回収対象の細胞7が存在するか否かを判断する。なお、
図24に示す細胞9及び細胞10は、回収対象外の細胞である。
【0122】
その後、細胞回収装置は、吸引指示の有無を判断する(ステップS305)。ユーザが、画像を見て回収対象の細胞の存在を確認し、例えば、操作部112に設けられた吸引ボタンを押下すると、制御装置130は、吸引指示を検出し(ステップS305YES)、吸引制御処理を行う(ステップS306)。なお、ステップS306の処理は、
図4のステップSS40の処理と同様である。
【0123】
吸引制御処理が終了すると、細胞回収装置は、細胞回収処理を終了するか否か判定する(ステップS307)。細胞回収装置は、ステップS307で細胞回収処理を終了すると判定されるまで、ステップS302からステップS306の処理を繰り返し実行し、ステップS307で細胞回収処理を終了すると判定されると、細胞回収処理を終了する。
【0124】
本実施形態に係る細胞回収装置によっても、第5の実施形態に係る細胞回収装置と同様に、細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。また、本実施形態に係る細胞回収装置によれば、ユーザが回収対象の細胞を特定することを支援する情報が画像上に表示されるため、細胞分取を効率よく行うことができる。
【0125】
図25から
図28は、表示装置133に表示される画像の更に別の例を示した図である。
図29は、伸長ノズル321aの動作について説明するための図である。上述した実施形態では、回収対象の細胞7をバウンディングボックス501で囲んで表示する例を示したが、画像上に表示する補助情報は、回収対象の細胞7を囲むバウンディングボックス501に限らない。
【0126】
例えば、
図25に示すように、回収対象でない細胞(細胞9、細胞10)を囲むバウンディングボックス502を表示してもよい。バウンディングボックス502は、バウンディングボックス501とは一目で区別できるように、例えば異なる色で、表示してもよい。バウンディングボックス502を表示することで、回収対象でない細胞の存在をユーザに報知することができるため、回収対象でない細胞を誤って回収することを回避することができる。
【0127】
また、
図26に示すように、回収対象でない細胞(細胞9、細胞10)の存在を検出した場合には、その情報を含むメッセージ503を表示してもよい。この場合も、バウンディングボックス502を表示する場合と同様に、回収対象でない細胞の存在をユーザに報知することができるため、回収対象でない細胞を誤って回収することを回避することができる。
【0128】
また、
図27に示すように、画像上のすべての回収対象の細胞7をバウンディングボックス501で取り囲む代わりに、回収領域内に存在する回収対象の細胞7だけをバウンディングボックス501で取り囲んでもよい。即ち、回収ノズル121から遠く離れすぎていて回収できない細胞7については、物体検出で検出された場合であってもバウンディングボックス501で囲まなくてもよい。これにより、回収できない細胞7の存在を報知することを避けることができる。また、画像上のすべての回収対象でない細胞をバウンディングボックス502で取り囲む代わりに、回収領域内に存在する回収対象ではない細胞だけをバウンディングボックス502で取り囲んでもよい。特に、細胞の3次元位置を測定可能な装置構成の場合は、回収ノズル121からの細胞の距離を測定可能であるため、バウンディングボックスの大きさや太さや色などから回収可能性を可視化しても良い。例えば、距離が遠く回収可能性の低い細胞については青色枠、距離が近く回収可能性が高い細胞については赤色枠などとすればよい。
【0129】
また、
図28に示すように、回収領域外に存在する回収対象の細胞7を検出した場合には、その細胞を回収するための操作についての情報を含むメッセージ504を表示してもよい。細胞回収装置300が利用されている場合であれば、ユーザは、操作部312を操作してその細胞が回収領域に入るように挿入部311を動かして、細胞を回収してもよい。また、ユーザは、
図29に示すように、操作部312を操作して回収ノズル321から伸長ノズル321aを伸ばして、その細胞を回収してもよい。
【0130】
[第7の実施形態]
図30は、本実施形態に係る細胞回収装置600の構成を例示した図である。細胞回収装置600は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。細胞回収装置600は、回収装置120と、制御装置130を備える点は、細胞回収装置100と同様である。
【0131】
細胞回収装置600は、観察装置110の代わりに、観察装置の一例である顕微鏡610と、容器140に取り付ける再帰性反射部材620とを備える点が、細胞回収装置100とは異なる。顕微鏡610は、容器140の外側から容器140内を観察する装置であり、例えば、
図30に示すように、対物レンズ611が容器140の側面に向けて配置されている。なお、顕微鏡610は、例えば、位相差観察法で対象物を観察してもよく、明視野観察法で対象物を観察してもよい。
【0132】
再帰性反射部材620は、顕微鏡610から出射した光が容器140の側面で受けるレンズ効果をキャンセルするために用いられる。再帰性反射部材620は、水平方向に沿って多数の微小な反射要素621が配列されたアレイを有している。反射要素621は、例えば、プリズムまたは球状のガラスビーズなどである。再帰性反射部材620は、入射した光を反射要素621で反射し、入射時と同じ光路を反対向きに進行させる。
【0133】
容器140外から容器140内を観察する場合、一般に、容器140の形状に観察性能が依存するが、顕微鏡610を再帰性反射部材620とともに利用することで、例えば、国際公開第2019/163167号などに記載されるように、容器140側面で生じるレンズ効果をキャンセルすることができる。従って、容器140外から従来よりも安定した性能で容器140内を観察することができる。
【0134】
本実施形態に係る細胞回収装置600によっても、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。
【0135】
[第8の実施形態]
図31は、第8の実施形態に係る細胞回収装置700の構成を例示した図である。細胞回収装置700は、浮遊培養で培養された細胞を自動的に分取する装置である。細胞回収装置700は、顕微鏡610の代わりに観察装置710を備える点が、細胞回収装置600とは異なっている。なお、観察装置710は、第1の実施形態に係る細胞回収装置100に含まれる観察装置110と同様であるが、再帰性反射部材720と組み合わせて容器140の外側から容器140内を観察するために用いられている点が、観察装置110とは異なっている。
【0136】
本実施形態に係る細胞回収装置700でも、細胞回収装置600と同様に、容器140外から従来よりも安定した性能で容器140内を観察することができる。従って、細胞回収装置700によれば、細胞回収装置600と同様に、ユーザに回収作業の負担を強いることなく、効率良く且つ細胞へのダメージを抑制しながら、細胞を分取することができる。
【0137】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上述の実施形態を変形した変形形態および上述した実施形態に代替する代替形態が包含され得る。つまり、各実施形態は、その趣旨および範囲を逸脱しない範囲で構成要素を変形することが可能である。また、1つ以上の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、新たな実施形態を実施することができる。また、各実施形態に示される構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよく、または実施形態に示される構成要素にいくつかの構成要素を追加してもよい。さらに、各実施形態に示す処理手順は、矛盾しない限り順序を入れ替えて行われてもよい。即ち、本発明の細胞回収装置、細胞回収方法、及び、プログラムは、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0138】
例えば、上述した実施形態では、回収容器が吸引装置外に置かれる例を示したが、回収容器は、吸引装置に内蔵されてもよい。また、上述した実施形態では、制御装置が観察装置及び回収装置と有線ケーブルを介して接続される例を示したが、これらの装置間の通信は、無線通信により行われてもよく、これらの装置間の通信には、例えば、アクセスポイントなどの他の装置が介在してもよい。また、上述した実施形態では、制御装置は、観察装置、回収装置、及び容器と空間的に近接して配置される例を示したが、制御装置は、通信遅延が回収処理に影響を与えない限り、例えば、クラウド環境に置かれてもよく、インターネットを介して他の装置と接続されてもよい。
【0139】
また、上述した実施形態では、細胞回収装置を、細胞を分取するために用いる例を示したが、細胞回収装置は、容器から単に細胞を回収するために用いられてもよく、回収した細胞はその後に選別されてもよい。
【0140】
また、上述した実施形態では、細胞回収装置が、容器内又は容器外から培地を観察する例を示したが、細胞回収装置は、容器内と容器外の両方から培地を観察してもよい。このとき、観察装置は、容器内から培地を観察する装置と、容器外から培地を観察する装置を、備えてもよい。
【0141】
また、上述した実施形態では、回収動作の制御に利用するために、細胞の位置を検出する例を示したが、細胞の位置に加えて細胞の移動速度を検出してもよい。制御装置130は、細胞の位置と移動速度を回収動作の制御に利用してもよい。
【符号の説明】
【0142】
1、100、200、300、600、700 細胞回収装置
2、110、310、710 観察装置
3、120、320 回収装置
4、130 制御装置
5、140 容器
6 媒質
7、8、9、10 細胞
111、230、240、250、311、411 挿入部
143 所定領域
610 顕微鏡