(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096337
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】抗がん作用増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220622BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220622BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220622BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220622BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220622BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220622BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P43/00 121
A61P35/00 ZNA
A61K45/00
A61K48/00
C12N15/12
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209390
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】520498837
【氏名又は名称】株式会社Craftide
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 淳平
(72)【発明者】
【氏名】國料 俊男
(72)【発明者】
【氏名】江畑 智希
(72)【発明者】
【氏名】大石 俊輔
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084CA18
4C084CA25
4C084CA59
4C084DC50
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】抗がん作用を増強する技術を提供すること。
【解決手段】TFF1(Trefoil Factor Family 1)タンパク質、及びTFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗がん作用増強剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TFF1(Trefoil Factor Family 1)タンパク質、及びTFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗がん作用増強剤。
【請求項2】
前記TFF1タンパク質を含有する、請求項1に記載の抗がん作用増強剤。
【請求項3】
前記TFF1タンパク質が化学合成タンパク質である、請求項1又は2に記載の抗がん作用増強剤。
【請求項4】
対象がん細胞が消化器がん細胞である、請求項1~3のいずれかに記載の抗がん作用増強剤。
【請求項5】
抗がん剤と併用するように用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の抗がん作用増強剤。
【請求項6】
核酸アナログの抗がん作用の増強剤である、請求項1~6のいずれかに記載の抗がん作用増強剤。
【請求項7】
医薬又は試薬である、請求項1~7のいずれかに記載の抗がん作用増強剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の抗がん作用増強剤、及び抗がん剤を含有する、がんの改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん作用増強剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤によるがん治療においては、抗がん剤感受性が問題となることがある。抗がん剤感受性は、例えば患者個々のがんの性質に起因することもあるし、抗がん剤の投与によりがんが獲得する耐性に起因することもある。このため、抗がん剤治療においては、抗がん剤感受性を試験により確認してから、使用する抗がん剤を選択することがある。しかしながら、抗がん剤の選択肢は限られており、高治療効果が期待される抗がん剤を選択できないことも想定される。そこで、抗がん剤感受性を向上させる、すなわち化学療法における抗がん作用を増強する技術が求められている。
【0003】
Trefoil Factor Family 1 (TFF1)は、胃がん及び膵臓がんについて研究が進んでいる。TFF1は、膵臓がんのバイオマーカーとして使用できることが報告されている(特許文献1)。また、TFF1は主に胃粘膜上皮で豊富に産生されていることが明らかとなっており、またTFF1遺伝子が欠損したTFF1ノックアウトマウスでは胃がんが発生するとされ、胃がんに対してがん抑制作用を持つことが示唆されている。ただ、一方で、TFF1は、膵臓がんに対してもがん抑制作用を持つことが示唆されていたが、その後の研究によりTFF1産生膵がんマウスと非産生膵がんマウスの間に生存率の有意な差が認められないことが判明しており、これらの結果からTFF1単独ではがんに対して有効な治療ができないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗がん作用を増強する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、TFF1タンパク質、及びTFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗がん作用増強剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. TFF1(Trefoil Factor Family 1)タンパク質、及びTFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗がん作用増強剤.
項2. 前記TFF1タンパク質を含有する、項1に記載の抗がん作用増強剤.
項3. 前記TFF1タンパク質が化学合成タンパク質である、項1又は2に記載の抗がん作用増強剤.
項4. 対象がん細胞が消化器がん細胞である、項1~3のいずれかに記載の抗がん作用増強剤.
項5. 抗がん剤と併用するように用いられる、項1~5のいずれかに記載の抗がん作用増強剤.
項6. 核酸アナログの抗がん作用の増強剤である、項1~6のいずれかに記載の抗がん作用増強剤.
項7. 医薬又は試薬である、項1~7のいずれかに記載の抗がん作用増強剤.
項8. 項1~7のいずれかに記載の抗がん作用増強剤、及び抗がん剤を含有する、がんの改善用組成物.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗がん作用を増強する技術、及び該技術を利用したがん治療技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験例1の結果を示す。A:TFF1過剰発現によるEMTマーカーの発現量の変化を示す。B:TFF1を過剰発現した場合における抗がん剤処理による細胞数の変化を示す。**はp<0.01を示す。C及びD:TFF1を過剰発現した場合における抗がん剤処理によるアポトーシス細胞数の変化を示す。Cはフローサイトメトリーのヒストグラムを示し、Dはアポトーシス細胞数のグラフを示す。
【
図2】試験例2の結果を示す。A及びB:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理によるアポトーシス細胞比率の変化を示す。Aはフローサイトメトリーのヒストグラムを示し、Bはアポトーシス細胞比率の変化を示す。C:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理によるアポトーシスマーカー量の変化を示す。D:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理による細胞数の変化を示す。**はp<0.01を示す。
【
図3】試験例3の結果を示す。A、B、及びC:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理によるEMTマーカーの発現量の変化(A)、上皮マーカーの発現量の変化(B)、及びWnt標的遺伝子の発現量の変化(C)をmRNAレベルで解析した結果を示す。*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。D、E、及びF:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理によるEMTマーカーの発現量の変化(D)、上皮マーカーの発現量の変化(E)、及びWnt標的タンパクであるβ-cateninのリン酸化状況の変化(F)をタンパク質レベルで解析した結果を示す。
【
図4】試験例4の結果を示す。A:試験スケジュールを示す。B:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理を開始してから4週間後の腫瘍外観写真を示す。C:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理を開始してからの腫瘍体積の変化を示す。Cのグラフ中、左側のプロットから、投与開始時、投与開始から1週間経過時、2週間経過時、3週間経過時、4週間経過時である。D:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理を開始してから4週間後の腫瘍体積を示す。*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図5】試験例5の結果を示す。A~C:化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理による、がん幹細胞マーカーの発現量の変化を示す。Aはフローサイトメトリーのヒストグラムを示し、Bはウェスタンブロッティングの結果を示し、CはRT-PCRの結果を示す。**はp<0.01を示す。
【
図6】試験例6の結果を示す。A:KPCマウスの生存率を示す。B及びC:リコンビナントTFF1処理及び抗がん剤処理による、がん幹細胞マーカーの発現量の変化を示す。Bは免疫染色像であり、Cはがん幹細胞マーカーの発現が弱いグループ(染色領域50%未満)と強いグループ(染色領域50%以上)の個体数の比率を示す。
【
図7】試験例7の結果を示す。化学合成TFF1処理及び抗がん剤処理による、がん幹細胞マーカーの発現量の変化を示す、RT-PCRの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0012】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0013】
本明細書において、「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、特に制限されず、天然、人工のいずれのものも包含する。具体的には、DNA、RNA等の他にも、次に例示するように、公知の化学修飾が施されたものであってもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、用いられ得る。
【0014】
2.抗がん作用増強剤、がんの改善用組成物
本発明は、その一態様において、TFF1タンパク質、及びTFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも1種(「本発明の有効成分」と示すこともある。)を含有する、抗がん作用増強剤(本明細書において、「本発明の増強剤」と示すこともある。)に関する。また、本発明は、その一態様において、本発明の増強剤、及び抗がん剤を含有する、がんの改善用組成物(本明細書において、「本発明の組成物」と示すこともある。)に関する。以下に、これらについて説明する。
【0015】
2-1.TFF1タンパク質
本発明の好ましい一態様において、本発明の増強剤は、TFF1タンパク質を含有する。
【0016】
TFF1タンパク質としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類由来のTrefoil Factor Family 1タンパク質を採用することができる。中でも、本発明の増強剤及び本発明の組成物の対象がん細胞の由来生物種のTFF1タンパク質、或いは該生物種と進化上より近い生物種(例えば、対象がん細胞の由来生物種がヒトである場合は、例えばサル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等)が好ましい。
【0017】
種々の生物種由来TFF1タンパク質のアミノ酸配列は公知である。具体的には、例えば、ヒトTFF1タンパク質としては配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_003216)が挙げられ、マウスTFF1タンパク質としては配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Reference Sequence:NP_033388)等が挙げられる。また、TFF1タンパク質は、N末シグナル配列(例えば、配列番号1におけるN末端から1~24番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列、配列番号2におけるN末端から1~21番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)が欠失したもの(例えば、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質等)であってもよい。
【0018】
TFF1タンパク質は、抗がん作用増強活性を有する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有していてもよい。変異としては、抗がん作用増強活性がより損なわれ難いという観点から、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。
【0019】
TFF1タンパク質の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、及び
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ抗がん作用増強活性を有するタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0020】
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、とりわけ好ましくは98%以上である。
【0021】
抗がん作用増強活性は、公知の方法に従って又は準じて判定することができる。例えば、がん細胞に対して、被検タンパク質及び抗がん剤の両方を、それぞれ単独ではがん抑制効果を発揮しない程度の濃度及び/又は頻度で作用させた後、細胞増殖の程度やアポトーシスの程度を測定し、その結果がん抑制効果が確認できれば、被検タンパク質は抗がん作用増強活性を有すると判定することができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0022】
上記(b)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(b’)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つ抗がん作用増強活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0023】
上記(b’)において、複数個とは、例えば2~8個であり、好ましくは2~6個であり、より好ましくは2~4個であり、よりさらに好ましくは2又は3個、とりわけ好ましくは2個である。
【0024】
TFF1タンパク質は、抗がん作用増強活性を有する限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0025】
TFF1タンパク質は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0026】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0027】
TFF1タンパク質は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0028】
さらに、TFF1タンパク質には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0029】
TFF1タンパク質は、抗がん作用増強活性を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばヒスチジンタグ、FLAGタグ、GSTタグ等が挙げられる。
【0030】
TFF1タンパク質は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0031】
TFF1タンパク質は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0032】
TFF1タンパク質は、公知の方法に従って、例えば化学合成、哺乳動物の細胞又は組織(例えば血清等)からの精製、TFF1タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体からの精製等によって得ることができる。本発明の好ましい一態様において、TFF1タンパク質は、化学合成タンパク質である。形質転換体からの精製により得る場合、形質転換体としては、TFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドからTFF1タンパク質を発現させることができる細胞である限り特に限定されず、大腸菌などの細菌、昆虫細胞、哺乳類細胞等の種々の細胞を利用することができる。
【0033】
昆虫細胞としては、例えば、Sf細胞、MG1細胞、High FiveTM細胞、BmN細胞などが用いられる。Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞などが用いられる。動物細胞としては、例えば、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター細胞CHO、マウスL細胞、マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0034】
TFF1タンパク質は、1種単独であることもでき、2種以上の組合せであることもできる。
【0035】
2-2.TFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチド
TFF1タンパク質コード配列としては、TFF1タンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0036】
TFF1タンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドは、TFF1タンパク質の発現を発現させることができるものである限り、特に制限されない。典型的には、該ポリヌクレオチドは、プロモーター配列、及びTFF1タンパク質コード配列(必要に応じて、さらに転写終結シグナル配列)を含む。該ポリヌクレオチドは、発現ベクターの形態であることもできる。
【0037】
プロモーターは、特に制限されず、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。また、薬剤により誘導可能な各種プロモーターも使用することができる。
【0038】
上記ポリヌクレオチドは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。)を含んでいてもよい。
【0039】
発現ベクターは、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。
【0040】
上記ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に得ることができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0041】
2-3.用途、その他の成分等
本発明の有効成分は、抗がん作用増強活性、すなわち抗がん作用を有する物質(抗がん剤等)の抗がん作用(例えば、細胞増殖抑制作用、アポトーシス誘導作用、腫瘍体積縮小作用等)を増強する活性を有する。このため、本発明の有効成分は、抗がん作用増強剤(例えば医薬、試薬の他、食品組成物、口腔用組成物、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)など)としての利用、さらには抗がん剤と共にがんの改善用組成物(例えば医薬、試薬の他、食品組成物、口腔用組成物、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)など)としての利用が可能である。本発明の有効成分は、これをそのまま、あるいは慣用の成分とともに各種組成物となし、動物、ヒト、及び各種細胞に適用(例えば、投与、摂取、接種、処理など)することができる。
【0042】
また、本発明の有効成分は、抗がん剤により誘導されるEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition:上皮間葉転換)を抑制すること、抗がん剤により活性化(上方制御)されるWnt経路を抑制すること、抗がん剤により誘導される幹細胞性(Stemness)を抑制すること等も可能である。このため、本発明の有効成分、本発明の増強剤等は、これらの活性を利用した用途とすることもできる。
【0043】
本発明の増強剤及び本発明の組成物の使用態様は、特に制限されず、その種類に応じて適切な使用態様を採ることができる。本発明の薬剤は、その用途に応じて、例えばin vitroで使用する(例えば、培養細胞の培地に添加する。)こともできるし、in vivoで使用する(例えば、動物に投与する。)こともできる。
【0044】
本発明の増強剤及び本発明の組成物の適用対象は特に限定されないが、哺乳動物では、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等が挙げられる。本発明の一態様において適用対象である動物(例えば、患者)はがんを有する。適用対象である細胞としては、動物細胞等が挙げられる。適用対象である細胞の種類も特に制限されず、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0045】
本発明の増強剤及び本発明の組成物が対象とするがん(がん細胞)は、特に制限されず、例えば膵臓がん、腎臓がん、肝がん、食道がん、胃がん、大腸がん、白血病、肺がん、前立腺がん、皮膚がん、乳がん、子宮頚がん等が挙げられる。これらの中でも、膵臓がん、腎臓がん、肝がん、食道がん、胃がん、大腸がん等の消化器がんが好ましく、膵臓がんが特に好ましい。
【0046】
本発明の増強剤は、抗がん剤と併用するように用いられることが好ましい。併用は、同時に適用される場合のみならず、間隔を空けて(例えば数分間~数日間(1分間~10日間等)空けて)適用される場合も包含する。
【0047】
本発明の増強剤と併用される抗がん剤、及び本発明の組成物が含有する抗がん剤としては、特に制限されず、各種抗がん剤を用いることができる。抗がん剤としては、例えば代謝拮抗剤、アルキル化剤、微小管阻害剤、抗生物質抗がん剤、トポイソメラーゼ阻害剤、白金製剤、分子標的薬、ホルモン剤、生物製剤等が挙げられ、好ましくは代謝拮抗剤(特に好ましくは、代謝拮抗剤の中でも、核酸アナログ)が挙げられる。
【0048】
代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カルモフール、カペシタビン、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、ネララビン、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メトトレキサート、クラドリビン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、メルカプトプリンなどが挙げられる。
【0049】
アルキル化剤としては、例えばシクロホスファミド、イホスファミド、ニトロソウレア、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、メルファラン、プロカルバジン、ラニムスチンなどが挙げられる。
【0050】
微小管阻害剤としては、例えば、ビンクリスチンなどのアルカロイド系抗がん剤、ドセタキセル、パクリタキセルなどのタキサン系抗がん剤が挙げられる。
【0051】
抗生物質抗がん剤としては、例えば、マイトマイシンC、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、アクチノマイシンD、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマーなどが挙げられる。
【0052】
トポイソメラーゼ阻害剤としてはトポイソメラーゼI阻害作用を有するCPT-11、イリノテカン、ノギテカン、トポイソメラーゼII阻害作用をもつエトポシド、ソブゾキサンが挙げられる。
【0053】
白金製剤としては、例えば、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどが挙げられる。
【0054】
ホルモン剤としては、例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、アストロゾール、エキセメスタン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、ビカルタミド、フルタミド、ブレドニゾロン、リュープロレリン、レトロゾール、エストラムスチン、トレミフェン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタンなどが挙げられる。
【0055】
生物製剤としては、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、インターロイキン2、ウベニメクス、乾燥BCGなどが挙げられる。
【0056】
分子標的薬としては、例えば、リツキシマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、テムシロリムス、ベバシズマブ、VEGF trap、スニチニブ、ソラフェニブ、トシツズマブ、ボルテゾミブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブ・オゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タミバロテン、トレチノインなどが挙げられる。ここに特定する分子標的薬以外にも、ヒト上皮性増殖因子受容体2阻害剤、上皮性増殖因子受容体阻害剤、Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤、上皮性増殖因子チロシンキナーゼ阻害剤、mTOR阻害剤、血管内皮増殖因子受容体2阻害剤(α-VEGFR-2抗体)などの血管新生を標的にした阻害剤、MAPキナーゼ阻害剤などの各種チロシンキナーゼ阻害剤、サイトカインを標的とした阻害剤、プロテアソーム阻害剤、抗体-抗がん剤配合体などの分子標的薬なども含めることができる。これら阻害剤には抗体も含む。
【0057】
本発明の増強剤及び本発明の組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば医薬、食品組成物、口腔用組成物、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。医薬上許容される担体および添加剤としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑沢剤;クエン酸、メントール等の芳香剤;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水等の希釈剤;ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。 本発明の増強剤及び本発明の組成物の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0058】
形態としては、用途が医薬である場合は、任意の剤形、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口製剤形態、注射用製剤(例えば、点滴注射剤(例えば点滴静注用製剤等)、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等の非経口製剤形態を採ることができる。
【0059】
本発明の増強剤及び本発明の組成物の投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0060】
形態としては、用途が健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)、点鼻剤、吸入剤、肛門坐剤、挿入剤、浣腸剤、ゼリー剤、注射剤、貼付剤、ローション剤、クリーム剤などの非経口摂取に適した製剤形態(非経口製剤形態)が挙げられる。
【0061】
形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキーなどが挙げられる。
【0062】
形態としては、用途が口腔用組成物である場合は、例えば液体(溶液、乳液、懸濁液など)、半固体(ゲル、クリーム、ペーストなど)、固体(錠剤、粒子状剤、カプセル剤、フィルム剤、混練物、溶融固体、ロウ状固体、弾性固体など)などの任意の形態、より具体的には、歯磨剤(練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、粉歯磨など)、洗口剤、塗布剤、貼付剤、口中清涼剤、食品(例えば、チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、フィルム、トローチなど)などが挙げられる。
【0063】
本発明の増強剤及び本発明の組成物中の本発明の有効成分の含有量は、有効成分の種類、用途、使用態様、適用対象、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100重量%、好ましくは0.001~50重量%とすることができる。
【0064】
本発明の増強剤及び本発明の組成物の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、目的の効果(抗がん作用増強活性、又はこれにより増強された抗がん作用)を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の重量として、一般に一日あたり0.01~1000 mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は複数回(2~3回)に分けて投与することができ、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例0065】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
材料と方法
後述の試験例における各実験は、特に断りの無い限り、以下に記載の材料を使用し、また以下に記載の方法に従って行った。
【0067】
材料と方法1.ヒトサンプル
ヒトの膵臓のサンプルは、名古屋大学医学部附属病院の治験審査委員会のガイドラインに従って、名古屋大学医学部附属病院で浸潤性膵肝癌(n = 46)に対して膵切除を受けた患者から得た。
【0068】
材料と方法2.組織学および免疫組織化学
標本を10%ホルマリン/リン酸緩衝生理食塩水で一晩固定した。 組織学的分析は、4μmのパラフィン包埋切片で行った。表1に示す抗体を使用して免疫組織化学染色を実行した。切片を4℃で各一次抗体と一晩インキュベートし、二次抗体と室温で1時間インキュベートした。EnVision検出システム(Dako Japan)を使用してタンパク質を可視化した。スライドをヘマトキシリンで対比染色した。染色された切片のランダムに選択された約10の重複しない視野(x200の顕微鏡視野)を、Keyence BZ-X800(Keyence)を使用して画像化して評価した。分析は、国立衛生研究所(NIH)から公開されているImageJソフトウェアを使用して実行された。
【0069】
【0070】
材料と方法3.細胞培養
ヒト膵臓がん細胞株(panc1、MiaPaca2、KLM1、KP4、PK8、PK9、PK45h、およびPK59)は、日本東北大学加齢医学研究所細胞医学センターから入手した。すべての細胞株は、10%熱不活性化ウシ胎児血清(Equitech-Bio Inc)を含むRPMI 1640培地(Invitrogen Life Technologies)で、5%CO2を含む加湿雰囲気で37℃で培養した。
【0071】
材料と方法4.TFF1過剰発現プラスミドのトランスフェクション
製造元のプロトコルに従って、CUY21EDIT ver 2.10エレクトロポレーションシステム(BEX)を使用して、TFF1過剰発現プラスミドまたはコントロールプラスミドを膵臓がん細胞株にトランスフェクトした。トランスフェクション後、がん細胞株を48時間インキュベートし、分析した。ゲムシタビン処理の設定では、細胞をトランスフェクトし、24時間インキュベートした後、ゲムシタビン処理(1μM)を行い、分析した。
【0072】
材料と方法5.TFF1タンパク質による細胞処理
ヒト組換えTFF1(hrTFF1)はPeprotechから購入した。合成ヒトTFF1(sTFF1)は、固相ペプチド合成法(Fmoc法)によって合成し、得られた粗生成物を逆相液体クロマトグラフィーによって精製し、リン酸緩衝液中でDMSOを酸化剤として用いてリフォールディングして得た。ヒト膵臓がん細胞株を6ウェルプレートに播種し、ゲムシタビン(終濃度1μM)或いは5-フルオロウラシル(終濃度100μM)および/またはTFF1(hrTFF1またはsTFF1、終濃度100ng/ml)で処理した。36時間後、分析した。
【0073】
材料と方法6.細胞増殖アッセイ
細胞増殖は、WST-1細胞増殖アッセイシステム(Cell Proliferation Reagent WST-1; Roche)を使用して評価した。がん細胞株をTFF1-プラスミドでトランスフェクトし、96ウェルプレートに播種するか(ウェルあたり5×103細胞)、または播種してからゲムシタビンおよび/またはsTFF1で処理した。72時間のインキュベーション後、培地を10 μlのWST-1試薬を含む新鮮な培地と交換した。相対細胞数は、各ウェルの450 nmでの吸光度を測定することで計算した。
【0074】
材料と方法7.ウエスタンブロッティング
Laemmliサンプルバッファーを使用して、培養細胞からタンパク質を抽出した。タンパク質を10%または15%SDS-ポリアクリルアミド電気泳動にかけ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレン(Immobilon; Millipore)に転写した。メンブレンを表2に示す一次抗体とインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgG(1:1,000、Cell Signaling Technology)およびHRP結合抗マウスIgG(1:1,000、Cell Signaling Technology))を二次抗体として使用した。タンパク質発現は、Pierce Western Blot Substrate(Thermo)を使用して検出された。
【0075】
【0076】
材料と方法8.リアルタイムPCR
メーカーのプロトコルに従って、QIAcube(Qiagen)を使用して細胞株からRNAを抽出した。高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを合成した。リアルタイムPCRアッセイは、7300 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して行った。各反応は、TaqManユニバーサルPCRマスターミックス(Applied Biosystems)を含む10μlの混合液で行った。TaqManプローブおよびプライマーは、Applied Biosystemsから入手した(表3に示す)。各評価において、目的の遺伝子の相対的発現は、18S内部対照のそれに対して正規化された。
【0077】
【0078】
材料と方法9.アポトーシスアッセイ
アポトーシスの解析は、製造元のプロトコルに従って、ミューズアネキシンVおよびデッドセルキット(ミリポア)を使用して行った。膵臓細胞を6ウェルプレートに播種し、アポトーシス率をゲムシタビンおよび/またはTFF1との48時間のインキュベーション後に分析した。
【0079】
材料と方法10.フローサイトメトリー
細胞を回収し、PBSで2回すすぎ、CD133(BD Pharmingen、クローン:W6B3C1)に対する抗体およびHoechst 33342(Invitrogen)と室温で1時間インキュベートした。洗浄後、細胞をPBSに再懸濁した。フローサイトメトリー分析の前に、7-AAD(BD bioscience)を追加した。7AAD陰性およびHoechst陽性細胞をゲーティングし、フローサイトメトリー(FACS Canto 2、BD)で分析した。
【0080】
材料と方法11.動物
Pdx1-Cre(ストック番号:014647)、LSL-p53R172H(ストック番号:008652)、およびLSL-KRASG12D(ストック番号:008179)マウスは、Jackson Laboratory(バーハーバー)から購入した。TFF1-KO(遺伝子名:Tff1tm1a(EUCOMM)Wtsi)マウスは、IMPC(International Mouse Phenotyping Consortium)から購入した。Pdx1-Cre、LSL-p53R172H、およびLSL-KRASG12DマウスをTFF1-KOマウスと交配して、次の遺伝子型のマウスを生成した:LSL-KRASG12D; LSL-p53R172H; TFF1-KO(KPC / TFF1KO)。マウス組換えTFF1(mrTFF1)はPeprotech(ニュージャージー州クランベリー)から購入した。ゲムシタビン(100 mg / kg、腹腔内注射)とmrTFF1(1μg/体、皮下注射)は2ヶ月の年齢で投与開始された。瀕死の状態になったらマウスを回収した。
【0081】
材料と方法12.異種移植マウスモデル
オスのBALB / cヌードマウス(8週齢、体重20-25 g)は日本SLCから購入した。Panc1細胞(1×107)を各マウスの大腿部に接種した。10日後、マウスをランダムに3つのグループ(グループごとに5匹のマウス)に分け、PBS、ゲムシタビン(40mg / kg)およびsTFF1(1μg/ body)のいずれかで週2回4週間処理した。体積(mm3)を測定することにより、腫瘍の成長を評価した。体積は次の式で計算された:(L×W2)/ 2。ここで、Lは腫瘍の長径、Wは腫瘍の短径である。
【0082】
材料と方法13.統計分析
すべてのデータは平均±SDとして示した。差異は、分散分析によって有意性についてテストした。マウスの生存はカプラン・マイヤー法を使用して計算され、生存曲線の違いはログランク検定を使用して比較した。すべての統計分析は、Statistical Package for the Social Sciences(SPSS)ver. 24を使用して実行した。P値<0.05は、統計的に有意であると見なした。
【0083】
試験例1.TFF1過剰発現がEMT(Epithelial-Mesenchymal Transition)及び抗がん剤感受性に与える影響の解析
まず、TFF1過剰発現プラスミドがトランスフェクトされたpanc 1細胞におけるEMTマーカー(snail及びslug)の発現量を、ウェスタンブロッティングにより解析した。結果を
図1Aに示す。
図1Aより、TFF1の過剰発現により、EMTマーカーの発現量が低下することが分かった。
【0084】
次に、TFF1過剰発現プラスミドがトランスフェクトされたpanc 1細胞を、抗がん剤(ゲムシタビン)で処理して、細胞増殖アッセイを行った。結果を
図1Bに示す。
図1Bより、TFF1を過剰発現させた場合では、抗がん剤処理による細胞増殖抑制が亢進した。
【0085】
続いて、TFF1過剰発現プラスミドがトランスフェクトされたpanc 1細胞を、抗がん剤(ゲムシタビン)で処理して、アポトーシスアッセイを行った。結果を
図1C及び
図1Dに示す。
図1C及び
図1Dより、TFF1を過剰発現させた場合では、抗がん剤処理によるアポトーシスが促進された。
【0086】
試験例2.化学合成TFF1が抗がん剤により誘導されるアポトーシスに与える影響の解析
ヒト膵癌細胞を、抗がん剤(ゲムシタビン)単独或いは抗がん剤と化学合成TFF1(sTFF1)の両方で処理して、アポトーシスアッセイを行った。結果を
図2A及び2Bに示す。
図2A及び
図2Bより、抗がん剤及び化学合成TFF1の両方で処理した場合の方が、アポトーシス細胞の比率がより高いことが分かった。
【0087】
次に、ヒト膵癌細胞を、化学合成TFF1単独、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方で処理して、アポトーシスマーカー(切断型(活性型)カスパーゼ3及び7)の量を、ウェスタンブロッティングにより解析した。結果を
図2Cに示す。
図2Cより、化学合成TFF1単独ではアポトーシスマーカーの増加は見られないが、抗がん剤と化学合成TFF1を併用することにより、抗がん剤単独よりも、アポトーシスマーカーが増加することが分かった。
【0088】
続いて、ヒト膵癌細胞を、化学合成TFF1単独、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方で処理して、細胞増殖アッセイを行った。結果を
図2Dに示す。
図2Dより、化学合成TFF1単独では細胞増殖の抑制は見られないが、抗がん剤と化学合成TFF1を併用することにより、抗がん剤単独よりも、細胞増殖を抑制することが分かった。
【0089】
試験例3.化学合成TFF1が抗がん剤により誘導されるEMT及びWnt経路に与える影響の解析
ヒト膵癌細胞を、化学合成TFF1単独、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方で処理して、EMTマーカー、上皮マーカー、及びWnt標的遺伝子の発現量を、RT-PCRにより解析した。結果を
図3A、
図3B、及び
図3Cに示す。
図3A、
図3B、及び
図3Cより、抗がん剤によりEMTが誘導され且つWnt経路が上方制御される一方、化学合成TFF1処理によりこれらの変化が抑制されることが分かった。また、タンパク質レベルの解析でも同様の結果が得られた(
図3D、
図3E、及び
図3F)。
【0090】
試験例4.化学合成TFF1が抗がん剤感受性に与える影響の解析
図4Aに記載のスケジュールに従って、マウスにヒト膵癌細胞を接種し(implantation)、その後、抗がん剤及び化学合成TFF1を一定期間投与した。試験スケジュール中は体表より腫瘍径を測定し、また試験スケジュール終了後に腫瘍を摘出し、外観観察及び腫瘍体積測定を行った。結果を
図4B、
図4C、及び
図4Dに示す。
図4B、
図4C、及び
図4Dより、抗がん剤及び化学合成TFF1の投与により、腫瘍成長をより抑制できることが分かった。
【0091】
試験例5.化学合成TFF1が抗がん剤により誘導される幹細胞性(stemness)に与える影響の解析1
ヒト膵癌細胞を、化学合成TFF1単独、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方で処理して、がん幹細胞マーカー(CD133、NANOG、及びSOX2)の発現を、フローサイトメトリー、ウェスタンブロッティング、及びRT-PCRで解析した。結果を
図5A、
図5B、及び
図5Cに示す。
図5A、
図5B、及び
図5Cより、抗がん剤により発現が増加するがん幹細胞マーカーが、化学合成TFF1により抑制されることが分かった。
【0092】
試験例6.リコンビナントTFF1が抗がん剤感受性に与える影響の解析
KPCマウスに、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方を投与して、生存率を測定した。結果を
図6Aに示す。
図6Aより、抗がん剤と化学合成TFF1の投与により、生存率がより上昇することが分かった。
【0093】
一方で、上記試験における膵がん組織を、がん幹細胞マーカー(CD133)に対する抗体で免疫染色した。免疫染色像からCD133の発現が弱いグループ(染色領域50%未満)と強いグループ(染色領域50%以上)に分け、それぞれのグループの個体数を計測した。結果を
図6B及び
図6Cに示す。
図6B及び
図6Cより、抗がん剤により発現が増加するがん幹細胞マーカーが、リコンビナントTFF1により抑制されることが分かった。
【0094】
試験例7.化学合成TFF1が抗がん剤により誘導される幹細胞性(stemness)に与える影響の解析2
ヒト大腸癌細胞(DLD1)を、化学合成TFF1単独、抗がん剤単独、或いは抗がん剤と化学合成TFF1の両方で処理して、がん幹細胞マーカー(CD133、NANOG、及びSOX2)の発現を、RT-PCRで解析した。結果を
図7に示す。
図7より、抗がん剤により発現が増加するがん幹細胞マーカーが、化学合成TFF1により抑制されることが分かった。