(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009638
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】面トポロジーが形成された、特に、計時器のための、部品
(51)【国際特許分類】
G04B 31/08 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G04B31/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021176163
(22)【出願日】2021-10-28
(62)【分割の表示】P 2019124946の分割
【原出願日】2019-07-04
(31)【優先権主張番号】18188355.4
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】アレックス・ガンデルマン
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・キュザン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
(57)【要約】
【課題】2つの部品が摩擦接触するシステムにおいて、摩擦によって作られる粒子の除去を促進し潤滑剤のための槽を形成するようなトポロジーを形成する。
【解決手段】所与の摩擦方向に互いに摩擦接触するように意図された2つの部品2を有するシステム1であって、この摩擦が機能的領域で発生し、2つの部品2の少なくとも1つには、機能的領域における面に、ピーク3bによって分離される丸まった形の一連のトラフ3a又はトラフ3aによって分離される丸まった形の一連のバンプによって形成されたテクスチャが形成されており、トラフ3aどうしは、所与の方向に平行に延在しており、トラフ3aが、摩擦によって発生する砕片4を排出できるようになり、潤滑剤5のための槽としてはたらく。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の摩擦方向に摩擦面を介して互いに摩擦接触するように意図された2つの部品(2)を有するシステム(1)であって、
この摩擦が機能的領域で発生し、
当該システム(1)においては、前記2つの部品(2)の少なくとも1つには、前記機能的領域に、ピーク(3b)によって分離される丸まった形の一連のトラフ(3a)又はトラフ(3a)によって分離される丸まった形の一連のバンプ(3c)によって形成されたテクスチャが形成された面があり、
前記トラフ(3a)どうしは、前記所与の方向に平行に延在しており、
前記トラフ(3a)が、摩擦によって発生する砕片(4)を排出できるようになり、潤滑剤(5)のための槽としてはたらくよう前記トラフ(3a)の深さPは、100~1000nmである
ことを特徴とするシステム(1)。
【請求項2】
前記トラフ(3a)は互いに平行に長手方向に並んでいる
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム(1)。
【請求項3】
前記トラフ(3a)の深さPは、300nm以下でである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシステム(1)。
【請求項4】
前記一連のトラフ(3a)とピーク(3b)又は前記一連のバンプ(3c)とトラフ(3a)は、周期的構造を形成する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つの部品(2)の1つの側壁(8a、9b)に、前記深掘り反応性イオンエッチングによって機械加工されたテクスチャが形成されている
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項6】
前記2つの部品(2)のそれぞれの前記機能的領域における1つの面に、前記テクスチャが形成されており、
前記トラフ(3a)どうしが互いに対向するように配置される
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項7】
前記2つの部品(2)のうちの前記少なくとも1つの部品(2)の面のみに、前記テクスチャが形成されており、
当該システム(1)の他方の部品(2)の機能的領域には滑らかな面がある
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの部品(2)は、ケイ素又は金属によって形成されている
ことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項9】
前記2つの部品(2)の両方の部品(2)は、計時器用部品である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のシステム(1)。
【請求項10】
請求項9に記載のシステム(1)を有する
ことを特徴とする計時器。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のシステムにおける、トラフ(3a)によって分離される丸まった形の一連のバンプ(3c)を有する前記少なくとも1つの部品(2)を作るための型であって、
面の1つにおいて、ピーク(3b)によって分離される丸まった形の一連のトラフ(3a)によって形成される前記テクスチャが形成された空洞が形成されている
ことを特徴とする型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時に他方の部品と摩擦接触するように意図されている、特に、計時器の分野において使用される、微細機械的な部品に関する。本発明は、さらに、このような部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エスケープ部品、ジャンパー、ばねのような多くの計時器用部品においては、使用時に摩擦が発生する。伝統的に、このような部品を良好に作るためには、完全に滑らかな接触面/摩擦面がなければならない。しかし、2つの物体の間の摩擦によって、一般的に、摩耗粒子が形成され、これが第3の物体を形成する。この第3の物体は、検証済みの肯定的な効果を発揮することからはほど遠く、部品の磨耗を加速させて、部品の機能に有害な影響を与えることがある。このような磨耗を防ぎ、特定の機能の損失をもたらす摩擦力を減少させるために、摩擦接触する部品の面に潤滑剤を与える。しかし、2つの完全に滑らかな接触面どうしがこすれる構成において、接触/摩擦領域から潤滑剤が徐々に流れ出てしまい、中期及び長期的には摩擦接触の状態が劣化してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、2つの部品が摩擦接触するシステムであって、少なくとも1つの部品が、摩擦が発生するように意図されている領域において、一方では、摩擦によって作られる粒子の除去を促進し、他方では、潤滑剤のための槽を形成するようなトポロジーを形成するものを提案することによって前記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このために、当該部品は前記領域にスカロップが形成された構造を有する。この構造は、摩擦の方向に延在しているトラフ群の形を定めており、このトラフ群は、摩擦によって発生する砕片の排出及び潤滑剤の流れのためにトラフと同じ数のチャネルを形成している。本発明のシステムは、請求項1によって定められる。
【0005】
本発明によると、スカロップが形成された構造は、部品を機械加工するステップにて作られる。用いられる製造方法は、DRIE(深掘り反応性イオンエッチング)プロセスである。このプロセスによって、部品のエッチングされた壁にスカラップないし起伏が形成される。このスカロップの形成は、現状の技術にしたがって当業者が排除することを望むような、プロセスに固有な欠陥と考えられている。このために、DRIEプロセスの後には、一般的に、スカロップが形成された輪郭を滑らかにするように意図された酸化と脱酸素のステップを行う。対照的に、本発明によると、このステップは、摩耗の砕片を排出したり潤滑剤槽としてはたらいたりすることを可能にするスカロップが形成された輪郭を維持するために少なくとも部分的に除去される。
【0006】
このように、本発明に係る製造法によって、単一のステップで、部品を機械加工し、面にテクスチャを形成することが可能になる。また、本発明に係る方法は、スカロップが形成されたテクスチャがエッチングされた壁上の摩擦の方向に自然に整列するという利点がある。本発明の方法は、請求項12によって定められる。
【0007】
本発明は、さらに、DRIEプロセスを用いて機械加工された型であって、その型のエッチングされた側壁にスカロップが形成された構造が形成されるものに関する。スカロップが形成されたテクスチャが形成されたこのような型は、その後に電鋳された部品を作るためのパターンを形成する。このようにして電鋳された部品にも、スカロップに対して相補的な形のテクスチャが形成され、摩擦が発生する領域において、砕片排出チャネル及び潤滑剤槽としてトラフがはたらく。当該型は請求項9において定義されている。
【0008】
本発明の他の好ましい変形実施形態は、以下の特徴を有する。
* 前記トラフは互いに平行に長手方向に並んでいる。
* 前記トラフの深さPは、100~500nmであり、好ましくは、300nm以下である。
* 前記一連のピークとトラフ又は前記一連のバンプと窪みは、周期的構造を形成する。
* 前記少なくとも1つの部品の1つの側方に、前記深掘り反応性イオンエッチングによって機械加工されたテクスチャが形成されている。
* 前記2つの部品のそれぞれの前記機能的領域における面に、前記テクスチャが形成されており、前記トラフどうしが互いに対向するように配置される。
* 前記少なくとも1つの部品の面のみに、前記テクスチャが形成されており、当該システムの他方の部品の機能的領域には滑らかな面がある。
* 前記少なくとも1つの部品は、ケイ素又は金属によって形成されている。
* 前記2つの部品の両方の部品は、計時器用部品である。
【0009】
添付の図面を参照しながら例として与えられる好ましい実施形態についての以下の説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1A及び1Bは、2つの部品を有するシステムを概略的に示している。これら2つの部品のうちの一方の部品には、他方の部品に部分的に接するように意図された摩擦面上にて、本発明にしたがって互いに平行な一連のスカラップの形態であるテクスチャが形成されている。第3の物体(
図1A)及び潤滑剤(
図1B)を受けるトラフの長手方向と平行な長手方向に沿って摩擦が発生する。
【
図2】
図2A及び2Bは、2つの部品を備えたシステムの変形実施形態を示しており、これら2つの部品のうちの一方の部品には、
図1A及び1Bに示しているテクスチャに対して相補的な形のテクスチャが形成されている。
【
図3】
図3Aは、歯及び/又はパレットの縁部に本発明に係るテクスチャが形成されている2つの部品(エスケープ車/パレットレバー)を有する計時器システムを示している。
図3Bは、エッチングされた壁にあるテクスチャを概略的に示している。
【
図4】既知の形態で、DRIE(深掘り反応性イオンエッチング)プロセスの様々なステップを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、使用時に摩擦が発生するように意図されている面を有する金属又はケイ素によって作られた部品に関する。本発明は、より詳細には、いわゆる「機能的」領域において摩擦が発生する面を有する2つの部品を有するシステムに関する。計時器の分野では、これは、例えば、エスケープ車/パレット、カム/センサー、クリック/歯車、ジャンパー/ディスク、連結ディスク/ばね、ブレーキディスク/ブレーキレバーなどのタイプのシステムであることができる。本発明は、さらに、電鋳によってこれらの部品を作ることを可能にする型に関する。本発明は、さらに、このような部品や型を製造する方法に関する。
【0012】
図1A~2Bにおいて概略的に示しているように、システム1の2つの部品2の少なくとも1つには、その摩擦面の機能的領域において、一方では、第3の物体の粒子の排出を促進し、他方では、潤滑剤のための槽を形成するような、面トポロジーを形成する。
【0013】
図1A及び1Bを参照すると、この面トポロジーは、ピーク3bによって分離される丸まった形の、窪みとも呼ばれる、トラフ3aを備える互いに平行な周期的なスカラップによって形成されている。この変形実施形態によると、当該構造のピーク3bにて、2つの部品2が接触する。トラフ3aの長手方向の寸法は、機能的領域における摩擦の方向と平行に延在しており、トラフは、潤滑剤5のための槽として、また、摩擦砕片4の排出のためのチャネルとして、はたらく。本発明によると、ピークの頂上からトラフの低い箇所の深さまでの距離である、トラフの深さPは、典型的には、100~500nmである(
図3B)。
【0014】
図2A及び2Bにおいて、当該構造には、トラフ3aによって分離される一連の丸まったバンプ3cがある。この構造は、
図1A及び1Bのスカロップが形成された構造を有する型内において電鋳して金属部品を形成することによって得られる。ここで、窪みの深さPは、バンプの頂上からトラフの低い箇所の深さまでの距離に対応し、当然、前記深さPと等しい。この別の変形実施形態によると、当該テクスチャのバンプ3cの頂上にて、2つの部品2どうしが接触する。
【0015】
図1A~2Bに示している変形実施形態では、2つの部品のうちの一方の部品のみにトラフがあり、他方の部品には、機能的領域において相当に滑らかな摩擦面がある。図示していない別の変形実施形態によると、2つの部品は、この領域に互いに対向しているいくつものトラフを有し、これらのトラフどうしが一緒に砕片排出チャネルや潤滑剤槽を形成することができる。
【0016】
例えば、
図3Aは、エスケープ車6/パレットレバー7を有する計時器システム1を示しており、このシステムにおいて、部品6、7の一方又は双方においては、摩擦が発生する歯8及び/又はパレット9の少なくとも側壁8a、9a上にて、本発明に係るテクスチャがある(
図3B)。
【0017】
この面テクスチャは、部品又は型の機械加工時に、DRIEプロセスによって得られる。このDRIEプロセスは、互いの後に順次的に行われる2つの異なるサイクル、すなわち、エッチングサイクルと不動態化サイクル、を有するプラズマエッチングプロセスである。
図4に、この方法を概略的に示している。既知の形態で、ケイ素のブランク10が用意される。機械加工されるトレンチの形を定めている、穴が開いたマスク11が、ブランク10の面上に形成される(
図4a)。そして、この方法は、フッ素化ガス(例えば、SF6)内にてエッチングするステップ(
図4b)、フッ化炭素ガス(例えば、C4F8)などを用いて不動態化するステップ(層12)の一連のステップを実行する。代わる代わる行われるこれらのエッチングステップと不動態化ステップは、エッチングされた側壁にスカロップが形成された構造を作る。トラフの周期と深さは、既知の形態で、エッチングと不動態化のシーケンスの時間(例えば、エッチングを6とし不動態化を2にしたり、エッチングを3とし不動態化を1にしたりする)を変えることによって調整することができる。好ましくは、エッチング段階の持続時間は不動態化段階の持続時間よりも大きい。典型的には、これらのトラフの深さPは、100~1000nmであり、好ましくは、数百nmのオーダーであり、トラフの周期は、1.5~6μmであり、好ましくは、3μmのオーダーである。
【0018】
トラフの深さを減少させ、かつ、それによって面の粗さをなくさないようにするために、随意的に、酸化ステップと、その後の脱酸素ステップを実行することを考えることができる(図示せず)。このステップは、典型的には900~1200℃の温度で熱酸化を行い、その後に、典型的にはフッ化水素酸内で化学的脱酸素を行うことを伴う。このようにして、トラフの深さPを、このステップの間に、例えば、300nmから100~200nmまで減少させることができる。
【0019】
そして、当該方法が型を製造するために用いられる場合、当該方法は、さらに、面上に一連のバンプとトラフがある部品を作るように、型のテクスチャが形成された面上に金属合金を電鋳することによって堆積させるステップを有する。
【符号の説明】
【0020】
1 部品のシステム
2 部品
3 スカロップが形成された構造
3a トラフ又は窪み
3b ピーク
3c バンプ
4 砕片
5 潤滑剤
6 エスケープ車
7 パレットレバー
8 エスケープ車の歯
8a 縁部又は側壁
9 パレット
9a 縁部又は側壁
10 ブランク
11 マスク
12 不動態化層
【外国語明細書】