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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096399
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】流体制御器
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/12 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
F16K7/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209484
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】堀河 裕生
(72)【発明者】
【氏名】杉村 瞭
(57)【要約】      (修正有)
【課題】単純な簡略化された工程で製作でき、ダイヤフラムが常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、腐食性の強い液体を流してもダイヤフラムが破損することなく、流路内に高温の液体を流した場合でも、流体制御器の開閉時にダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触、離脱する際に、ゴム弾性体へのダメージが抑制された流体制御器を提供する。
【解決手段】流体制御器1は、弁箱2と、弁座に当接、離間し、流路を閉鎖、開放するダイヤフラム4と、を有し、ダイヤフラム4は、2層からなり、第1層20は、流路側に配され、耐食性を有する硬質樹脂材料からなり、第2層21は、第1層20とは非接合状態の別体であり、第1層20の非流路側に配され第1層20を支持する軟質樹脂材料22と、この軟質樹脂材料22の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料23からなる積層体である、ことを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路及び頂面が弁座となる堰を有する弁箱と、
前記弁座に当接、離間し、流路を閉鎖、開放するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムの周辺部を前記弁箱との間で狭持するキャビティと、
前記キャビティに内設され前記ダイヤフラムの非流路側に接続された操作機構と、
からなる流体制御器であって、
前記ダイヤフラムは、2層からなり、
第1層は、流路側に配され、耐食性を有する硬質樹脂材料からなり、
第2層は、前記第1層とは非接合状態の別体であり、前記第1層の非流路側に配され前記第1層を支持する軟質樹脂材料と、この軟質樹脂材料の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料からなる積層体である、
ことを特徴とする、流体制御器。
【請求項2】
前記操作機構は、前記ダイヤフラムの非流路側の面に対抗した先端部を有する、ダイヤフラム押さえを具備し、前記ダイヤフラム押さえの先端部は、前記流路を閉鎖したときの前記ダイヤフラムの非流路側の凹凸形状に適合して密着できる形状であることを特徴とする、
請求項1に記載の流体制御器。
【請求項3】
前記ダイヤフラムの第1層は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の流体制御器。
【請求項4】
前記ダイヤフラムの第2層において軟質樹脂材料の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流体制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
酸などの化学薬品の流れを遮断するために、図3に示すようなダイヤフラム(C)を備えた流体制御器が従来用いられてきた。従来の流体制御器は、弁箱(A)、ステム(B)、ダイヤフラム(C)、キャビティ(D)、スプリング(E)、ダイヤフラム押さえ(F)、インポート(図示せず)、および圧力室(T)とからなる。弁箱(A)内には、流体を流すための流路(G)と堰(H)が配されている。ダイヤフラム(C)は一面(以後、流路側)が弁箱(A)内部で流体に接し、他面(以後、非流路側)が弁箱(A)の外部に露出している。
【0003】
ダイヤフラム(C)の非流路側にはダイヤフラム押さえ(F)が接続し、ステム(B)の下端は、該ダイヤフラム押さえ(F)の上部に接続されている。ステム(B)の上端はピストン(P)に接続されている。
【0004】
ピストン(P)は、インポートより圧力室(T)に高圧空気が導入されると上方向に摺動し、高圧空気が排出されると下方向に移動する。それに伴い、ステム(B)とダイヤフラム押さえ(F)も上下方向に摺動する。ステム(B)が下方向に移動したとき、該ダイヤフラム押さえ(F)はダイヤフラム(C)を下方向に押圧し変形させる。ダイヤフラム(C)の流路側の中心部が堰(H)の頂部に接し、流路(G)を閉鎖する。
【0005】
このように、ダイヤフラム(C)で流路(G)を閉じる構造を有する流体制御器においては、ダイヤフラム(C)と弁箱(A)との密着性が要求されるため、ダイヤフラム(C)にはゴム弾性体が使用されることが一般的である。
【0006】
ゴム弾性体からなるダイヤフラム(C)の使用により、堰(H)との密着性は向上するが、以下に示す3つの問題があった。
【0007】
第1の問題は、ダイヤフラム(C)はゴム弾性体であるため、常に荷重がかかった状態で長期間使用されると、この弾性体に塑性変形が起こり、結果として老化や破損といった現象が起こることである。
【0008】
第2の問題は、腐食性の強い液体を流路に流した場合ゴム弾性体が腐食され、ひいては流体の漏洩が生ずることである。
【0009】
第3の問題は、ダイヤフラム(C)がダイヤフラム押さえ(F)によって劣化する問題である。ゴム弾性体であるダイヤフラム(C)の非流路側は、流体制御器の操作の度にダイヤフラム押さえ(F)と接触、離脱を繰り返す。詳しいメカニズムについては関しては後述するが、この接触および離脱の際、ダイヤフラム(C)の表面はダイヤフラム押さえ(F)によって単純に押されるだけでなく、ダイヤフラム押さえ(F)の表面を滑るような動作をすることになるため、ダイヤフラム(C)の表面にせん断応力が加わり、ダイヤフラム(C)にダメージを与える。このような動作を何千回、何万回と繰り返すことによりダイヤフラム(C)を破損に至らしめる。本現象は特に流体が高温であるとき顕著に生じることが知られている。
【従来技術】
【0010】
第1の問題を解決するため、特許文献1、特許文献2および特許文献3には、流路側に耐腐食性の硬質樹脂材料が積層されたダイヤフラムを用いた流体制御器が開示されている。図4に断面を示すように、ゴム弾性体(M)からなるダイヤフラム(L)の流路側にポリテトラフルオロエチレン樹脂膜などの耐食性を有する硬質樹脂材料(O)が積層される。流体制御器が閉状態になったとき、ゴム弾性体(M)と堰の間に硬質樹脂材料(O)が挟まるので、ゴム弾性体(M)は堰に直接的に押し付けられることは無くなる。これにより、長時間の荷重によるダイヤフラム(L)の塑性変形を回避することが出来る。
【0011】
上記構成は第2の問題も同時に解決する。弁箱を流れる流体は、ゴム弾性体(M)ではなく、硬質樹脂材料(O)と接することになるため、流体とゴム弾性体(M)の直接的な接触が回避される。したがって、腐食性の強い液体を流したときのダイヤフラム(L)のゴム弾性体(M)の腐食を抑制することができる。
【0012】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、第3の問題をも同時に解決する方法が開示されている。第3の問題を解決するため、ゴム弾性体(M)の流路側だけでなく、非流路側にも耐腐食性の硬質樹脂材料(N)を積層する。硬質樹脂材料(N)は、摩擦係数がゴムのそれに比べて非常に小さいので、ダイヤフラム押さえがダイヤフラム(L)に接触する際、滑るような動作をするときに生じる、ゴム弾性体(M)の表面へのせん断力を弱めることができ、ゴム弾性体(M)へのダメージを軽減できる。
【0013】
このように、特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示された方法は、第1、第2および第3の問題を解決する。しかし、ゴム弾性体(M)の流路側の面に、硬質樹脂材料(O)を積層するのは簡単ではない。硬質樹脂材料(O)が積層された面の表面形状は、弁箱の流路を隙間無くシールし、流体を完全に遮断するために、ゴム弾性体(M)が元々有する表面形状に高い精度で合致する必要がある。よって、硬質樹脂材料(O)はゴム弾性体(M)の表面を高度な均一性をもって被覆されなければならない。流路側の硬質樹脂材料(O)の積層には高い精度と特殊な工程が必要となる。さらに、非流路側にも同時に硬質樹脂材料(L)の積層を行わねばならぬため、工程はさらに複雑化する。すなわち、特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示された方法は、たしかに問題を解決するかもしれないが、これらの発明を実際に実施しようとする場合、その発明品の製作工程には更なる簡略化が必要とされる。
【0014】
また、他の手段を用いて、第3の問題を解決する方法も知られている。通常用いられるのは、ゴム弾性体にナイロン製などの補強布を入れることである。補強布はゴムが破断に至るまで伸びることを機械的に防ぐとともに、ゴムに亀裂が入った場合でも亀裂が全面に進展して粉々に破損することを防ぐ効果がある。しかし、この補強布の効果は、完全ではない。補強布は、ゴムの内部において強度を高めると考えられるが、ゴムの表面の摩擦係数自体を減らすわけでないので、依然としてゴムの表面には摩擦によるダメージが加わる。特に小口径の流体制御器に対しては、このような対策を施したゴムでも良い結果が得られないことが実験的にわかっている。
【0015】
その他、第3の問題を解決する方法として、特許文献4には、ダイヤフラム押さえのダイヤフラムと当接する部分に粗面化処理を施して、この表面に硬質樹脂材料を積層する方法が開示されている。この方法により、ダイヤフラムは従来のゴム弾性体から成るものであっても、ダイヤフラム押さえの当接部分との摩擦係数を減らすことができ、ダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触する際のダメージを軽減できる。しかしこの方法においても、ダイヤフラム押さえと硬質樹脂材料を密着させるためにダイヤフラム押さえに粗面化処理を施さねばならず、工程の増加は避けられなかった。また、ダイヤフラム押さえには、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮、鉄など様々な金属が用いられる。使用する金属を変更したとき、粗面化処理の方法も材料に適合した方法に変えねばならなかった。また全ての材料に対して必ずしも安定して硬質樹脂材料が密着するとは限らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3144853号公報
【特許文献2】特許第3027450号公報
【特許文献3】特許第3476940号公報
【特許文献4】特開平7-167314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、ダイヤフラムを用いて流路を遮断する流体制御器であって、単純な簡略化された工程で製作でき、ダイヤフラムが常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、腐食性の強い液体を流してもダイヤフラムが破損することなく、流路内に高温の液体を流した場合でも、流体制御器の開閉時にダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触、離脱する際に、ダイヤフラム押さえがダイヤフラムのゴム弾性体へ強いせん断力を与えることが無く、したがってゴム弾性体へのダメージが抑制された流体制御器を提供することである。
【課題を解決する手段】
【0018】
請求項1に係る発明は、流体の流路及び頂面が弁座となる堰を有する弁箱と、前記弁座に当接、離間し、流路を閉鎖、開放するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムの周辺部を前記弁箱との間で狭持するキャビティと、前記キャビティに内設され前記ダイヤフラムの非流路側に接続された操作機構と、からなる流体制御器であって、前記ダイヤフラムは、2層からなり、第1層は、流路側に配され、耐食性を有する硬質樹脂材料からなり、第2層は、前記第1層とは非接合状態の別体であり、前記第1層の非流路側に配され前記第1層を支持する軟質樹脂材料と、この軟質樹脂材料の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料からなる積層体である、ことを特徴とする、流体制御器に関する。
【0019】
請求項2に係る発明は、前記操作機構は、前記ダイヤフラムの非流路側の面に対抗した先端部を有する、ダイヤフラム押さえを具備し、前記ダイヤフラム押さえの先端部は、前記流路を閉鎖したときの前記ダイヤフラムの非流路側の凹凸形状に適合して密着できる形状であることを特徴とする、請求項1に記載の流体制御器に関する。
【0020】
請求項3に係る発明は、前記ダイヤフラムの第1層は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の流体制御器に関する。
【0021】
請求項4に係る発明は、前記ダイヤフラムの第2層において軟質樹脂材料の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流体制御器に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1に係る発明によれば、ダイヤフラムは、2層からなり、第1層は、流路側に配され、耐食性を有する硬質樹脂材料からなるので、ダイヤフラムが常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、腐食性の強い液体を流してもダイヤフラムが破損することがないという有利な効果を奏する。また、第2層は、前記第1層の非流路側に配され前記第1層を支持する軟質樹脂材料からなり第1層とは非接合状態の別体である。よって、第2層の流路側にダイヤフラムの表面形状と高い精度で合致するように、高度な均一性をもって硬質樹脂材料が積層される必要がない。すなわち複雑で高度な工程を用いなくても、特許文献1~3が有するのと同様な作用効果を奏することができる。
【0023】
ダイヤフラムの第2層には、非流路側に、この軟質樹脂材料と一体に接合され積層された硬質樹脂材料が存在するので、流路内に高温の液体を流した場合であっても、流体制御器の開閉時にダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触、離脱する際に、ダイヤフラム押さえがダイヤフラムのゴム弾性体へ強いせん断力を生じせしめることが無く、したがってゴム弾性体へのダメージが抑制されるという有利な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項2に係る発明によれば、前記操作機構は、前記ダイヤフラムの非流路側の面に対抗した先端部を有するダイヤフラム押さえを具備し、前記ダイヤフラム押さえの先端部は、前記流路を閉鎖したときの前記ダイヤフラムの非流路側の凹凸形状に適合して密着できる形状であるので、該流体制御器は流体を確実に遮断することができる。
【0025】
本発明の請求項3に係る発明によれば、前記ダイヤフラムの第1層は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とするので、ダイヤフラムが常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、腐食性の強い液体を流してもダイヤフラムが破損することがない。
【0026】
本発明の請求項4に係る発明によれば、前記ダイヤフラムの第2層において軟質樹脂材料と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料は、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂、三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂からなる群より選ばれる1種類以上の硬質樹脂からなることを特徴とするので、流体制御器の開閉時にダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触、離脱する際に、ダイヤフラム押さえがダイヤフラムのゴム弾性体へ強いせん断力を生じせしめることが無く、ゴム弾性体へのダメージが軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係る流体制御器の開状態における断面を示す図である。
図2】本発明に係る流体制御器の閉状態における断面を示す図である。
図3】従来の流体制御器の閉状態における断面を示す図である。
図4】従来の流体制御器のダイヤフラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る流体制御器の実施形態について、添付図面を参照しつつ以下に詳細に説明する。
【0029】
[構成]
図1図2に本発明に係る流体制御器を例証する。本発明に係る流体制御器(1)は、流体の流路(15)を有する弁箱(2)と、前記弁箱(2)内に配され、流路(15)を開放、閉鎖するダイヤフラム(4)と、前記ダイヤフラム(4)の周辺部を弁箱(2)との間で狭持するキャビティ(5)と、操作機構(6)とからなる。キャビティ(5)は、ダイヤフラム(4)を弁箱(2)との間で挟持する第1キャビティ(5A)と内周面をピストン(10)が摺接する第2キャビティ(5B)とからなり、両者はネジ等の締結手段で一体化されている。
【0030】
弁箱(2)内には、流体を流すための流路(15)と堰(16)が配されている。ダイヤフラム(4)は流路側が弁箱(2)内部で流体に接し、非流路側が弁箱(2)外部に露出している。堰(16)の頂面が弁座を構成し、ダイヤフラム(4)が弁体を構成している。
【0031】
操作機構(6)は、前記キャビティ(5)に内設され、ダイヤフラム押さえ(7)、ステム(3)、スプリング(8)、インポート(図示せず)、圧力室(9)、およびピストン(10)を含んでいる。
【0032】
ダイヤフラム(4)の非流路側の中心部には、ダイヤフラム押さえ(7)の中心部が接続ピン(11)によって連結されている。該ダイヤフラム押さえ(7)の上部にはステム(3)の下端が接続されている。さらに、ステム(3)の上端は、ピストン(10)の下部に接続されている。したがって、ダイヤフラム(4)の中心部とダイヤフラム押さえ(7)、ステム(3)およびピストン(10)は一体となって、キャビティ(5)に対して上下方向に摺動可能である。
【0033】
圧力室(9)は第2キャビティ(5B)の側壁によって囲まれており、第2キャビティ(5B)の側壁はピストン(10)と摺動可能に接触している。圧力室(9)には、インポートより高圧空気が導入される。
【0034】
図1図2の挿入図には、ダイヤフラム(4)の周辺が拡大して示されている。ダイヤフラム押さえ(7)は、ダイヤフラム(4)を上下方向に変位させるために設けられている。ダイヤフラム押さえ(7)は、ダイヤフラム(4)の非流路側の面に対向した先端部を有する。該先端部は、図2に示すように、流路(15)を閉鎖したときのダイヤフラム(4)の非流路側の凹凸形状に適合して密着できる形状であるが、流路(15)を開放したときには、図1に示すように、ダイヤフラム(4)の非流路側の凹凸形状に適合、および密着せず、該凹凸形状とは異なる形状を呈する。
【0035】
ダイヤフラム(4)は、2層からなり、第1層(20)は、流路側に配され、耐食性を有する硬質樹脂材料からなり、第2層(21)とは非接合状態の別体である。第2層(21)は、バックアップゴムと呼ばれ、硬質樹脂材料からなる第1層(20)が、直接、金属製のダイヤフラム押さえ(7)に当接し損傷することを防止するもので、第1層(20)の非流路側に配される軟質樹脂材料(22)と、この軟質樹脂材料の層と一体に接合され非流路側に積層された硬質樹脂材料(23)からなる積層体である。
【0036】
第1層(20)と第2層(21)が別体であることは流体制御器の製造工程において重要な意味がある。引用文献1~3に開示された発明においては、ゴム弾性体(M)から成るダイヤフラムの流路側に硬質樹脂材料(O)を積層させていた。これにより、ダイヤフラム(L)が常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、流路に腐食性の強い液体を流してもダイヤフラム(L)が破損することがないという有利な効果を得ていた。
【0037】
しかし前述のように、硬質樹脂材料(O)はダイヤフラム(L)の表面形状と高い精度で合致されるように、高度な均一性をもって積層させる必要があるため、このようなダイヤフラム(L)の製造には高い精度と特殊な工程が必要であった。本発明は、硬質樹脂材料からなる第1層(20)と、軟質樹脂材料(例えばゴム弾性体)からなる第2層(21)をそれぞれ分離して作製し重ね合わせて1個のダイヤフラム(4)として使用することにより、高い精度と特殊な工程なしに、引用文献1~3と同様な効果を奏する流体制御器の提供を可能としている。
【0038】
さらに、本発明における第2層(21)は軟質樹脂材料(22)を主体とし、その非流路側に、硬質樹脂材料(23)を積層している。該硬質樹脂材料(23)は、この軟質樹脂材料(22)と一体に接合されるように積層される。ただし、この硬質樹脂材料(23)の積層には特別に高い精度と特殊な工程は必要ない。なぜならば、本硬質樹脂材料(23)の役割は、ダイヤフラム押さえ(7)との接触において生じる摩擦を減じることだけであって、流路(15)における流体の流れを遮断することではないためである。特許文献1~3の説明で述べたように、流体の流れを遮断するのであれば、堰(16)とダイヤフラム(4)の接合部には僅かな隙間も許されないために、硬質樹脂材料はダイヤフラム(4)の外形に対して忠実に、高い精度で積層される必要がある。しかしながらダイヤフラム押さえ(7)との接触部における摩擦を減じることのみが目的であるならば、硬質樹脂材料(23)の積層は高い精度を必要としない。
【0039】
硬質樹脂材料(23)の積層の一例を次のように示す。例えば、ダイヤフラムの第2層(21)がゴム弾性体であり、硬質樹脂材料が四フッ化エチレン樹脂(PTFE)であった場合には、金型でゴム弾性体を成形する際に、既に成形された四フッ化エチレン樹脂(PTFE)シートを一緒に入れて貼り付ける方法を用いることができる。本工程は、特許文献1~3における硬質樹脂材料積層工程に比べて、極めて単純な工程である。
【0040】
両者の密着性を高める目的で、両者の間に接着剤を挿入する、または硬質樹脂材料の表面を予め粗面化する加工を施してもよい。
【0041】
[作用]
流体制御器の流路が開放された状態(図1)から閉鎖された状態(図2)に変化する場合を例証する。
【0042】
インポート(図示せず)より圧力室(9)に高圧空気が導入された状態にあるとき、ピストンは、図1に示すように上死点にある。同時に、ステム(3)及びダイヤフラム押さえ(7)も上位置にある。ダイヤフラム押さえ(7)はダイヤフラム(4)を押圧しないため、両者は中心部でのみ接触し、周辺部では接触していない。ダイヤフラム(4)は堰(16)の頂面に接触しないので、流体制御器の流路(15)は開放された状態にある。
【0043】
高圧空気が圧力室(9)より排出されると、スプリング(8)の伸長力によってピストン(10)は下降し、図2に示すように下死点に達する。同時に、ステム(3)及びダイヤフラム押さえ(7)も下位置に移動する。ダイヤフラム押さえ(7)はダイヤフラム(4)を押圧し、両者は全面で接触する。ダイヤフラム(4)は堰(16)の表面に接触し、流体制御器の流路(15)は閉鎖される。
【0044】
次に、ダイヤフラム(4)とダイヤフラム押さえ(7)の接触の際に生じるダイヤフラム(4)へのダメージについて詳しく説明する。
【0045】
ダイヤフラム押さえ(7)が上位置にあるとき、ダイヤフラム押さえ(7)はダイヤフラム(4)を押圧しないため、両者は中心部でのみ接触し、周辺部では接触していない。しかし、ダイヤフラム押さえ(7)が下降すると、ダイヤフラム(4)はダイヤフラム押さえ(7)の表面形状に沿うように、中心部から周辺部に向かって、徐々に同心円状にダイヤフラム押さえ(7)への接触を開始し、最終的には全面に亘って接触するようになる。
【0046】
すなわち流体制御器の流路が開放された状態では、ダイヤフラム(4)の非流路側の形状と、ダイヤフラム押さえ(7)の先端部の形状は異なっている。一方、流体制御器の流路(15)が閉鎖された状態になるまでダイヤフラム押さえ(7)を下降させると、ダイヤフラム(4)の形状はダイヤフラム押さえ(7)の先端部の形状と一致する。
【0047】
換言すれば、流体制御器の流路(15)が開放された状態から閉鎖された状態に変化させる過程は、元々同形状でない2つの表面が同形状になる過程であるということができ、その際、微視的には、ダイヤフラム(4)はダイヤフラム押さえ(7)の表面を滑りつつ、ダイヤフラム自身(4)を展延させていると見ることができる。ダイヤフラム(4)はダイヤフラム押さえ(7)の表面を滑る際に摩擦が生じ、この摩擦により、ゴム弾性体表面にせん断力が加わることになる。通常の温度であれば摩擦は小さいが、流体制御器に高温の流体を流しダイヤフラム(4)が高温になったときには、この部分の摩擦係数が大きくなり、当然にゴム弾性体表面に加わるせん断力も大きくなる。このような動作が、何千回、何万回と繰り返されるうち、ゴムに亀裂が生じる。
【0048】
本発明では、前述のように、ダイヤフラム(4)の第2層において、軟質樹脂材料(22)の非流路側の表面に低摩擦係数を有する硬質樹脂材料(23)を積層することにより、上記問題を回避する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ダイヤフラムを用いて流路を遮断する流体制御器であって、単純な簡略化された工程で製作でき、ダイヤフラムが常に荷重がかかった状態で長時間使用されても塑性変形が生じず、腐食性の強い液体を流してもダイヤフラムが破損することなく、流路内に高温の液体を流した場合でも、流体制御器の開閉時にダイヤフラム押さえがダイヤフラムに接触、離脱する際に、ダイヤフラム押さえがダイヤフラムのゴム弾性体へ強いせん断力を与えることが無く、したがってゴム弾性体へのダメージが少ない流体制御器の提供において好適に利用される。
【符号の説明】
【0050】
1 流体制御器
2 弁箱
4 ダイヤフラム
5 キャビティ
6 操作機構
7 ダイヤフラム押さえ
15 流路
20 第1層
21 第2層
22 軟質樹脂材料
23 硬質樹脂材料
図1
図2
図3
図4