(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096437
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】撥水紙及び撥水紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/82 20060101AFI20220622BHJP
D21H 19/20 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
D21H19/82
D21H19/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209542
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
(72)【発明者】
【氏名】増子 達也
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG08
4L055AG11
4L055AG12
4L055AG18
4L055AG19
4L055AG20
4L055AG26
4L055AG27
4L055AG34
4L055AG44
4L055AG47
4L055AG56
4L055AG57
4L055AG71
4L055AH02
4L055AH23
4L055AH37
4L055AH50
4L055AJ04
4L055BE09
4L055CH14
4L055EA10
4L055EA14
4L055EA19
4L055EA29
4L055EA30
4L055FA11
4L055FA30
4L055GA47
(57)【要約】
【課題】本発明は、撥水性の向上、プラスチックの使用量低減およびコストの低減を可能とした撥水紙および撥水紙の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】撥水紙10は、紙基材11と、紙基材11の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層12と、アンカー層12上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層13と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層と、
前記アンカー層上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層と、
を備える
ことを特徴とする撥水紙。
【請求項2】
前記アンカー層は、
一又は複数の塗工層で形成され、
前記顔料として無機顔料または有機顔料のうち少なくともいずれか一方を含み、
前記バインダーとして、でんぷん類、天然多糖類または合成高分子のうち少なくともいずれか一つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の撥水紙。
【請求項3】
前記アンカー層は、
前記無機顔料として、クレー、タルクまたは炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、少なくともいずれか一つを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の撥水紙。
【請求項4】
前記多孔質層は、前記ラジカル重合性モノマーとして、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価が500以下である低分子量モノマーを含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撥水紙。
分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数・・・(1)
【請求項5】
前記紙基材と前記アンカー層との単位面積当たりの合計質量(g/m2)に対する前記多孔質層の単位面積当たりの質量(g/m2)の比が1未満である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の撥水紙。
【請求項6】
最表層である前記多孔質層の表面における水の接触角は140°以上である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の撥水紙。
【請求項7】
最表層である前記多孔質層を含む表層部における水の吸水度は15g/m2以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の撥水紙。
【請求項8】
ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を、紙基材に塗工されたアンカー層上に塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、
前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該塗膜に細孔を形成して多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層に撥水剤を塗布する工程と、
を含む撥水紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水紙及び撥水紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、優れた撥水性が要求される撥水紙として、ポリエチレン等のラミネート紙、フィルム貼合紙が知られている。しかしながら、この種の撥水紙は、プラスチックとの複合材料であることから、離解性(古紙回収性)がない。すなわち、近年の環境問題への要求の高まりとは逆に、資源回収が困難な撥水紙である。
このため、最近は、資源回収が容易な撥水紙か、又は少なくともプラスチックの使用量を
低減させた撥水紙が望まれている。
【0003】
プラスチックの使用量が少ない撥水紙としては、アクリル系エマルションを塗布した撥水紙や、紙の表面にポリエステル系エマルジョンを塗布し、紙基材に撥水性が付与された耐水紙が知られている。(例えば、特許文献1参照)。このように従来から、表面層の化学的な性質を改良して撥水性を向上させるために、表面層の材料の研究開発が重ねられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、更なるプラスチックの使用量低減と、撥水性の向上、コストの低減が望まれている。しかしながら、従来の撥水紙はこれらの要求を満たすことは困難であった。
本発明は、このような点を鑑みてなされたもので、撥水性の向上、プラスチックの使用量低減およびコストの低減を可能とした撥水紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による撥水紙は、前記紙基材の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層と、前記アンカー層上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層と、を備える。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の一態様による撥水紙の製造方法は、ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を、紙基材に塗工されたアンカー層上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質層を形成する工程と、前記多孔質層に撥水剤を塗布する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、撥水性の向上、プラスチックの使用量低減およびコストの低減を可能とした撥水紙および撥水紙の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る撥水紙の一構成例を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る撥水紙の断面の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る撥水紙について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
本実施形態に係る撥水紙は、紙基材と当該紙基材の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層と、当該アンカー層上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層と、を備える。
上記構成によれば、紙基材と多孔質層との間に設けたアンカー層により多孔質層の紙基材への過剰な浸透が抑えられ、プラスチックの使用量が低減する。また、撥水紙10における樹脂の比率が小さくなり、多孔質層13の製造に要するコストが低減する。さらに、多孔質層による微細な凹凸構造が撥水紙の表面(最表層)に位置するため、撥水紙の撥水性が高められる。
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る撥水紙、および、撥水紙の製造方法の一実施形態を説明する。
【0012】
[撥水紙の構造]
図1は、本実施形態に係る撥水紙10の一構成例を示す断面模式図である。また、
図2は、本実施形態に係る撥水紙10の断面を走査型電子顕微鏡で撮影したSEM画像である。
図1に示すように、本実施形態による撥水紙10は、紙からなる紙基材11と、アンカー層12と、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層13とを備えている。具体的には、撥水紙10は、紙基材11と、紙基材11の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層12と、アンカー層12上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層13と、を備える。
【0013】
撥水紙が十分な撥水性を得るには、最表面(最表層)に多孔質層13が露出している事が必要である。一方で、紙を材料とする基材は、内部に空隙があるため、多孔質層13の塗工時において基材の内部に多孔質層13を形成するための多孔質塗液が入り込み易い。したがって、撥水紙の最表面に多孔質層13を設けるためには、多孔質塗液の塗布量が多量に必要となる。また、多孔質層13の塗工の際は、多孔質塗液が基材の裏面まで浸透(裏移り)してしまう場合があり、最表面の膜厚の制御が困難であるという問題がある。
【0014】
そこで、本実施形態に係る撥水紙10では、紙基材11にアンカー層12を設けることにより、多孔質層13の過剰な紙基材への入り込みを抑えることができ、少量の多孔質塗液で高い撥水性を得ることができる。アンカー層12は、紙基材11に塗工してもよいし、または、紙基材11としてアンカー層が予め塗工された市販の紙を用いてもよい。
【0015】
撥水紙10において、紙基材11とアンカー層12との単位面積当たりの合計質量(g/m2)に対する多孔質膜の単位面積当たりの質量(g/m2)の比が1未満であることが好ましい。具体的には、紙基材11とアンカー層12との単位面積あたりの合計質量をTM、上記合計質量に対する多孔質層13の単位面積あたりの質量をMとし、合計質量TMと質量Mとの比(撥水紙10における多孔質層13の比率)を対基材比率(M/TM)とする。このとき、対基材比率は、1未満であることが好ましい(M/TM<1)。対基材比率が1未満であれば、撥水紙10における多孔質層13の比率、特に樹脂材料の比率が低く抑えられるため、上述した効果(プラスチックの使用量が低減およびコスト低減)が高く得られる。
【0016】
また、撥水紙10において、多孔質層13の厚さが大きいほど、撥水性の持続性が高められる。一方で、多孔質層13の厚さが小さいほど、アンカー層12の表面から多孔質層13が剥離し難くなり、撥水紙10における樹脂の比率が小さくなる。さらに、多孔質層13の製造に要するコストや時間が削減される、といった効果が得られる。こうした観点から、紙基材11の表面上における多孔質層13の厚さは、100μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。また、耐久性や製造容易性の観点から、多孔質層13の厚さは、5μm以上が好ましい。
【0017】
また、撥水紙10において、最表層である多孔質層13の表面における水の接触角は140°以上であることが好ましい。これにより、撥水紙10は、実利用するにあたって、優れた撥水性を有しているといえる。
【0018】
以下、本実施形態に係る撥水紙10の各層の構成について説明する。
<紙基材>
紙基材11を構成するパルプとしては、バージンパルプ、古紙パルプ、木材パルプ、非木材パルプ、機械パルプ、化学パルプ等の各種のパルプが使用可能である。紙基材11は、1種類のパルプから構成されていてもよいし、複数種類のパルプの混合により構成されていてもよい。また、紙基材11は、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料、ロジン、アルキルケテンダイマー等の内部サイジング剤、スターチ、カゼイン、ワックス、ポリビニルアルコール、メラミン樹脂等の表面サイジング剤、ポリアクリルアミド、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ホルマリン樹脂等の紙力増強剤、染料等である。
【0019】
<アンカー層>
上述のように、アンカー層12は、顔料及びバインダーを主成分とする。
具体的には、アンカー層12は、顔料として無機顔料および有機顔料のうち少なくともいずれか一つを含み、バインダーとして、でんぷん類、天然多糖類および合成高分子のうち少なくともいずれか一つを含んでいてもよい。
【0020】
アンカー層12は、顔料として、無機顔料が含まれることが好ましい。アンカー層12が無機顔料を含む事で、多孔質層13の紙基材11への侵入をより効果的に防ぎ、多孔質層13を安定した膜厚で形成することができる。アンカー層12は、無機顔料としてクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩またはコロイダルシリカのうち少なくともいずれか一つを含んでいることが好ましい。また、上記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0021】
また、アンカー層12は、バインダーとして、でんぷん類、天然多糖類または合成高分子のうち少なくとも何れか一つを含む事がさらに好ましい。バインダーを含む事により、アンカー層12における無機顔料の紙基材11への接着が強まり、アンカー層12及び多孔質層13が剥離し難くなる。
【0022】
アンカー層12は1層(単層)であってもよく、2層以上の複層構成であってもよい。つまり、本実施形態においてアンカー層12は、一又は複数の塗工層であってもよい。アンカー層12の厚さは特に限定されないが、例えば、1μm以上100μm以下の範囲から選択されていればよい。アンカー層12は、多孔質層13の紙基材11への吸収を抑える層であるため、紙基材11にアンカー層12を塗工した際(紙基材11+アンカー層12)の吸水度が所定範囲内であることが好ましい。
【0023】
具体的には、コッブ吸水度(JIS P 8140)の試験方法において、紙基材11に塗工したアンカー層12と蒸留水との接触時間を120秒間として試験した場合、吸水度が100[g/m2・120秒]以下から1[g/m2・120秒]までの範囲内に入っていることが好ましい。アンカー層12の吸水度が1[g/m2・120秒]未満の場合、紙基材11およびアンカー層12への多孔質層13の浸透が少なく、アンカー層12によるアンカー効果が弱くなり、多孔質層13が紙基材11から剥離し易くなる。アンカー層12の吸水度は15[g/m2・120秒]以下であることがより好ましい。
【0024】
<多孔質層>
〔多孔質塗布液〕
多孔質層13の形成のためにアンカー層12上に塗布される多孔質塗布液(以下、単に「塗布液」ともいう)は、ラジカル重合性モノマーと、細孔形成剤として機能する溶媒とを含む。また、塗布液は、重合開始剤や各種の添加剤を含んでいてもよい。以下、塗布液に含まれる材料の詳細を説明する。
【0025】
(ラジカル重合性モノマー)
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーは、反応速度の速さが良好である等の観点から、アクリル基、メタクリル基、α塩素置換アクリル基、アクリルアミド、メタクリルアミド等の構造を有するモノマーであることが好ましい。特に、アクリル基やメタクリル基を有するモノマーであれば、様々な構造のモノマーを安価に入手できることから、これらのモノマーを用いることで、多孔質層13の製造に要するコストの削減が可能である。
【0026】
本実施形態において多孔質層13は、ラジカル重合性モノマーとして、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価が500以下である低分子量モノマーを含むことが好ましい。つまり、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価Vが500以下である低分子量モノマーが含まれることが好ましい。反応点価Vは、下記式(1)に示すように、モノマーの分子量を、モノマー1分子が有する反応点の数、すなわち、ラジカル重合反応官能基の数で除した値である。
反応点価V=分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(1)
なお、モノマーの構造に分布がある場合、反応点価Vの計算に際して、分子量および反応点の数については、その平均値が代表値として用いられる。
【0027】
上記低分子量モノマーが重合されることにより、撥水紙10の最表層である多孔質層13の凹凸構造が好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質層13の耐摩耗性が高められる。
上記低分子量モノマーは、例えば、硬化樹脂膜を形成する際に汎用的に用いられるモノマーのなかから、塗布液の粘度の調整、多孔質層13の硬度の調整、多孔質の形状や大きさの調整等の観点に基づき適宜選択することができる。
【0028】
上記低分子量モノマーの一例は、1官能(メタ)アクリル基を有するモノマーである。1官能(メタ)アクリル基を有するモノマーとしては、例えば、市販されているモノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ω-カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸-2-メチルプロパン-2-アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N-アルキル)アクリルアミド、(N、N-ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
ここで、撥水性の向上のために多孔質層13の表面における自由エネルギーを低下させる場合は、低分子量モノマーとして、炭素鎖1から18の分岐したアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を含有するモノマー、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、ポリ-パーフルオロアルキルエーテル鎖含有(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等を用いることが好ましい。
【0030】
また、上記低分子量モノマーの他の例は、(メタ)アクリル基を有し、1分子中に2つ以上の官能基を有するモノマーである。
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、2官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、3官能モノマーの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、4官能モノマーの例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられ、6官能モノマーの例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
また、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が10000以上であり、かつ、上記式(1)で表される反応点価Vが250以上である高分子量多官能モノマーが含まれていてもよい。ラジカル重合性モノマーに高分子量多官能モノマーが含まれることにより、多孔質層13の耐摩耗性が高められる。また、上記高分子量多官能モノマーの分子量が25000以上であれば、多孔質層13の耐摩耗性がより高められる。
塗布液が、上記低分子量モノマーに加えて上記高分子量多官能モノマーを含む場合、高分子量多官能モノマーとしては、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーが選択される。本実施形態において、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーとは、低分子量モノマーと、対象のモノマーとを1対1の質量比で混合した際に、透明な均一液体になるモノマーである。
【0033】
高分子量多官能モノマーは、例えば、ポリエチレングリコールである軸分子と、ラジカル重合性反応基を有するシクロデキストリンである環状分子とを有するポリロタキサン分子である。当該ポリロタキサン分子は、環状分子であるシクロデキストリンに、軸分子であるポリエチレングリコール鎖が包摂された構造を有する。こうした構造では、環状分子が軸分子に共有結合していないため、環状分子が軸分子に沿って自由に移動できる。このため、多孔質層13の変形に対する耐性を高めることができる。
こうしたポリロタキサン分子の例としては、アドバンスト・ソフトマテリアル社製のSREMシリーズ(SM1303P、SM2403P、SM3403P、SA1303P、SA2403P、SA3403P)が挙げられる。
【0034】
塗布液が高分子量多官能モノマーを含む場合、塗布液が含有するラジカル重合性モノマー全体に対する高分子量多官能モノマーの質量割合は、1wt%以上30wt%以下であることが好ましい。当該範囲内の添加量で高分子量多官能モノマーを加えることによって、多孔質層13の耐摩耗性を好適に高めることができる。
なお、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、上記低分子量モノマーおよび上記高分子量多官能モノマー以外のモノマーが含まれてもよい。
【0035】
(細孔形成剤)
塗布液が含有する細孔形成剤は、ラジカル重合性モノマーに対して不活性であって、塗膜に細孔を形成して多孔膜とするための溶媒である。具体的には、本実施形態における細孔形成剤は、付加重合反応(ここでは、ラジカル重合反応)を阻害しない溶媒成分であればよく、また塗料の全ての成分を混合した後に、経時で不均一化しない相溶状態を形成し、紙基材11に浸透し、かつラジカル重合反応の完了後に後述の細孔形成剤の除去工程を行うことで多孔質を形成可能な組成であればよい。
【0036】
撥水紙10における多孔質層13の形成に適した溶媒(細孔形成剤)は、塗料に用いるラジカル重合性モノマーの組成によって異なる。このため、細孔形成剤は、ラジカル重合性モノマーを組成する各種モノマー(例えば、上述の低分子量モノマー及び添加モノマー)によって適切に選択される必要がある。例えば、本実施形態においてラジカル重合性モノマーとして、親水性の官能基を持つモノマーを多く含む場合には、長い炭化水素鎖を有する極性の低い分子(例えばミリスチン酸メチル等)を細孔形成剤として用いると、発達した相分離構造が形成される傾向にあり好ましい。
【0037】
例えば、ラジカル重合反応を開放環境で行う場合には、少なくとも当該ラジカル重合反応の進行期間における細孔形成剤の揮発量の割合が小さいことが求められる。このため、細孔形成剤としては、揮発性の小さい分子で形成された第一の溶媒を使用することが望ましい。
【0038】
ここで、開放環境において多孔質を形成する場合に適した細孔形成剤(第一の溶媒)としては、例えば、ジエチルカーボネート、キシレン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、オルトクレゾール、パラクレゾール、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエキシルエーテル、ジイソペンチルエーテル、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸2-(2ブトキシエトキシ)エチル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、などがあげられる。
【0039】
また、細孔形成剤として用いられる第一の溶媒に溶解可能な増粘剤を、塗料の均一性が保持される範囲内の添加量で加えてもよい。例えば、第一の溶媒に対し、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの誘導体、またはポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなどを加えてもよい。撥水紙10の多孔質層13における多孔質の形態は、塗料の粘度によって変化する。また、細孔形成剤の除去工程における、第一の溶媒の洗浄による除去を容易にするため、増粘剤としてのこれらの成分の添加割合(質量割合)は、塗料全体の質量のうち2wt%以下に抑えることが望ましい。
【0040】
(重合開始剤)
ラジカル重合性モノマーの重合に活性エネルギー線の照射を利用する場合、重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカル重合反応を開始させることが可能な化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0041】
例えば、重合開始剤としては、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等のケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンジルケタール類、N-アジドスルフォニルフェニルマレイミド等のアジドが挙げられる。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液に活性エネルギー線を照射することによってラジカル重合反応を開始させることができる。
【0042】
また、活性エネルギー線の照射に代えて、塗布液を加熱することによりラジカル重合反応を開始させる場合は、重合開始剤として、アゾ-ビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を用いればよい。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液の加熱によってラジカル重合反応を開始させることができる。
重合反応の好適な進行のためには、塗布液への重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性モノマー全体の質量に対して0.5wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
【0043】
(添加剤)
塗布液には、細孔形成剤として用いられる溶媒に溶解可能な増粘剤が添加されてもよい。増粘剤の添加量は、塗布液の均一性が保持される範囲内とされる。例えば、塗布液には、増粘剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの誘導体、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が加えられてもよい。多孔質層13における細孔の形状は、塗布液の粘度によって変化する。細孔形成剤の除去工程において、洗浄によって細孔形成剤を除去する場合には、塗布液に添加される増粘剤の質量割合が、塗布液全体の質量に対して2wt%以下であると、細孔形成剤の除去が容易であるため好ましい。
【0044】
また、塗布液には、塗布適正の調整のために表面調整剤が添加されてもよい。例えば、塗布液には、表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物等の低表面張力化合物が添加されてもよい。表面調整剤の添加は少量でよく、塗布液全体の質量に対して0.1wt%以下の量の表面調整剤を加えることで、表面調整剤は十分に機能する。
【0045】
(撥水剤)
撥水紙10の形成のための撥水剤としては、例えば、フッ素化アルキル基含有アクリレート重合体を含むポリマー、パーフルオロポリエーテル基を有するポリマー、ポリジメチルシロキサン部分を含むポリマー、C4以上のアルキル基を有するポリマー等が挙げられる。多孔質層13に撥水剤が塗布されることにより、多孔質層13における凹凸構造の表面を被覆する撥水膜が形成される。撥水剤が、凹凸構造の表面との共有結合を形成可能な官能基を有していると、塗布された撥水剤と凹凸構造の表面との間に共有結合が形成されて撥水膜が凹凸構造の表面から脱落しにくくなるため、好ましい。
【0046】
[製造方法]
次に、本実施形態に係る撥水紙10の製造方法について説明する。本実施形態における撥水紙10の製造方法は、ラジカル重合性モノマーと、当該ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を、紙基材11に塗工されたアンカー層12上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、当該ラジカル重合反応後の塗膜から細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質層13を形成する工程と、多孔質層13に撥水剤を塗布する工程と、を含む。以下、各工程について具体的に説明する。
<アンカー層の塗布工程>
アンカー層12は、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法によって紙基材11に塗布されていればよい。また、アンカー層12は、紙基材11の製造工程の中で塗工されてもよい。紙基材11の製造工程と同時にアンカー層12を塗工する場合、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。
【0047】
<多孔質層の塗布工程>
多孔質を形成する塗布液(多孔質塗布液)の塗布工程では、上述の各材料を含むように調整した塗布液を、アンカー層12上に塗布する。アンカー層12への塗布液の塗布方法は、特に限定されず、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法が用いられる。大面積かつ高速な塗布が可能であるという観点からは、グラビアコート、ダイコート、スプレーコートの各塗布方法が用いられることが好ましい。
【0048】
<ラジカル重合反応工程>
ラジカル重合反応工程では、上記多孔質塗布液による塗膜に対して、活性エネルギー線の照射または加熱を行うことにより、ラジカル重合反応を進行させる。
重合反応の開始に活性エネルギーの線の照射を利用する場合、例えば、重合開始剤として光ラジカル発生剤あるいは光酸発生剤を用い、塗膜の表面に紫外線を照射することで、重合反応を開始させる。塗膜に照射される紫外線の波長は、塗布液に含まれる重合開始剤が効率的にエネルギーを吸収して分解可能な波長であればよい。また、紫外線の照射に用いる光源は、所望の波長の紫外線を照射可能な光源であればよい。光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。ラジカル重合反応工程において、塗膜の表面に酸素分子が存在するとラジカル重合反応が阻害される。これを避けるために、紫外線は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で照射されてもよい。
【0049】
また、重合反応の開始に加熱を利用する場合には、塗膜の表面を加熱することで重合反応を開始させる。塗膜表面の加熱温度は、塗布液に含まれる重合開始剤の分解温度に基づいて決定すればよい。
なお、ラジカル重合反応工程では、重合反応の進行が可能であれば、上記とは異なる方法が用いられてもよい。例えば、塗膜の表面に電子線を照射することでラジカル重合反応を開始させてもよい。この場合、重合開始剤を塗布液に添加せずともラジカル重合反応を進めることが可能である。
【0050】
<細孔形成剤の除去工程>
細孔形成剤の除去工程では、ラジカル重合反応工程を経た塗膜から、細孔形成剤を除去する。細孔形成剤を除去することで、細孔形成剤が存在していた領域に細孔が形成される。これにより、アンカー層12の上に多孔質層13が形成される。
細孔形成剤の除去方法としては、例えば、細孔形成剤を溶出させる溶媒を用いて塗膜を洗浄する方法や、加熱または減圧によって塗膜を乾燥させることにより細孔形成剤を除去する方法を用いることができる。
【0051】
<撥水剤の塗布工程>
撥水剤の塗布工程では、多孔質層13に撥水剤を塗布することにより、多孔質層13における凹凸構造の表面を被覆する撥水膜を形成する。
撥水剤は、所定の溶媒を用いて希釈された後に、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法によって多孔質層13に塗布されていればよい。撥水剤と凹凸構造の表面との間に共有結合を形成するために、撥水剤が塗布された多孔質層13に対して、加熱や活性エネルギー線の照射が行われてもよい。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態に係る撥水紙10は、紙基材11と、紙基材11の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層12と、アンカー層12上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層と、を備える。
このような構成によれば、アンカー層12により多孔質層13の紙基材11への過剰な浸透が抑えられ、プラスチックの使用量を低減できる。また、撥水紙10における樹脂の比率が小さくなり、多孔質層13の製造に要するコストが低減できる。さらに、多孔質層による微細な凹凸構造が撥水紙の表面(最表層)に位置するため、撥水紙の撥水性が高められる。したがって、撥水性の向上、プラスチックの使用量低減およびコストの低減を可能とした撥水紙を提供することができる。
【0053】
また、本実施形態に係る撥水紙10の製造方法は、ラジカル重合性モノマーと、当該ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を、紙基材11に塗工されたアンカー層12上に塗布して塗膜を形成する工程と、当該塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、当該ラジカル重合反応後の塗膜から細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質層13を形成する工程と、多孔質層13に撥水剤を塗布する工程と、を含む。
このような構成によれば、撥水性の向上、プラスチックの使用量低減およびコストの低減を可能とした撥水紙の製造方法を提供することができる。
【0054】
[実施例]
上述した撥水紙およびその製造方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。なお、以下の実施例の構成は一例であって、実施可能な範囲を限定するものではない。
【0055】
(実施例1)
ラジカル重合性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)、細孔形成剤としてデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)を用い、4gのラジカル重合性モノマーと5gの細孔形成剤とを混合して塗布液を調整した。塗布液には、光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-330)とを、0.1gずつ添加した。
アンカー層を備えた基材としてコート紙(日本製紙製 オーロラコート 米坪127.9g/m2)を用い、バーコーター(番手#9)を利用して、塗布液を基材に塗布した。塗膜に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。その後、80℃のオーブンで1分間、塗膜を乾燥し、細孔形成剤を除去した。これにより、紙基材とアンカー層と多孔質層とからなる撥水紙が形成された。
【0056】
撥水剤としてパーフルオロアルキル基含有アクリレート(信越化学工業社製、KY-1203(不揮発成分20wt%))を用い、3.3gの撥水剤と、6.55gの酢酸ブチルとを混合して、撥水剤の希釈液を調整した。希釈液には、0.17gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を添加した。バーコーター(番手#6)を利用して、上記撥水紙の表面に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後の撥水紙に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。これにより、多孔質層の凹凸構造の表面に撥水膜が形成された。以上により、実施例1の撥水紙を得た。
【0057】
(実施例2)
アンカー層を備えた基材としてコート紙(日本製紙製 オーロラコート 米坪52.3g/m2)を用いた以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の撥水紙を得た。
(実施例3)
塗布液の塗布により形成する塗膜の厚さを変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の撥水紙を得た。実施例2では、バーコーター(番手#20)を利用して、塗布液を紙基材に塗布した。
(実施例4)
ラジカル重合性モノマーとして2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸(共栄者化学社製、ライトアクリレートHOA―HH)、細孔形成剤としてミリスチン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)を用い、4gのラジカル重合性モノマーと5gの細孔形成剤とを混合して塗布液を調整した。塗布液には、光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-330)とを、0.1gずつ添加した。それ以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例4の撥水紙を得た。
【0058】
(比較例1)
基材としてアンカー層を備えない非塗工紙(中越パルプ工業社製 雷鳥上質 米坪127.9g/m2)を用い、バーコーター(番手#20)を利用して塗布液を基材に塗布した以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、比較例1の撥水紙を得た。
(比較例2)
アンカー層を備えた基材としてコート紙(日本製紙製 オーロラコート 米坪127.9g/m2)を用い、撥水剤としてパーフルオロアルキル基含有アクリレート(信越化学工業社製、KY-1203(不揮発成分20wt%))を用い、3.3gの撥水剤と、6.55gの酢酸ブチルとを混合して、撥水剤の希釈液を調整した。希釈液には、0.17gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を添加した。バーコーター(番手#6)を利用して、上記アンカー層を備えた基材の表面に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後のアンカー層を備えた基材に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。これにより、アンカー層の上に多孔質ではない撥水膜が形成された。以上により、比較例2の撥水紙を得た。
【0059】
<測定・評価判定>
上述した実施例1~4、比較例1および2で得られた撥水紙について、以下の方法で測定・評価を実施した。
【0060】
(多孔質比率の測定)
各実施例および各比較例の撥水紙について、一辺が10cmの正方形状に裁断したアンカー層を含んだ基材の重さ(質量)として重さW1を測定し、撥水紙の作製後に、撥水紙全体の重さ(質量)として重さW2を測定した。撥水紙の重さW2からアンカー層を含んだ基材の重さW1を減算した値を、撥水紙中の多孔質層の重さ(質量)を示す重さW3とし、アンカー層を含んだ基材の重さW1に対する多孔質層の重さW3を算出した(重さW3=重さW2-重さW1)。これにより、各実施例および各比較例の撥水紙における多孔質比率、すなわち対基材比率を算出した。
評価においては、多孔質比率が1未満を合格とした。
【0061】
〔撥水性評価〕
(表面の水接触角測定)
撥水性の評価として、各実施例および各比較例による撥水紙の表面、つまり最表層である多孔質層の表面における純水の接触角を測定した。測定は、協和界面化学社製の接触角測定システム(DropMaster300)を用い、水滴サイズを2μL以上3μL以下として行った。
評価においては、水接触角が140°以上を合格とした。
【0062】
(吸水度測定)
撥水性の評価として、各実施例および各比較例による撥水紙の吸水度を測定した。まず、撥水紙を一辺が13cmの正方形状に裁断して試験片を作製した。そして、試験片に対し、JIS P 8140(紙および板紙の吸水度試験方法)に準拠して、試験時間120秒の吸水度を測定した。
評価においては、試験時間120秒の吸水度が15g/m2以下を合格とした。
【0063】
〔塗膜強度評価〕
塗膜強度の評価として、各実施例および各比較例による撥水紙の引っかき硬度を測定した。測定は、テスター産業社製のHA-301を用いJIS K 5600-5-4(引っかき硬度(鉛筆法))に準拠した方法により鉛筆で引っかき、膜剥がれの有無を検証した。なお、3H以上の硬度の鉛筆を用いると、紙基材の破損が生じるため、2H、HBの硬度の鉛筆を使用した。
評価においては、硬度2Hで膜の剥がれが生じなかった場合を「〇」、2Hで剥がれが発生し、HBで剥がれが生じなかった場合を「△」、HBで膜が剥がれた場合を「×」とした。ここで、評価結果「△」以上を合格とした。
【0064】
<評価結果>
表1に、各実施例および各比較例についての、多孔質比率の測定結果、撥水性評価における水接触角の測定結果および吸水度の測定結果、さらに塗膜強度評価を示す。
【0065】
【0066】
表1に示すように、アンカー層と多孔質層の積層構造を有する実施例1~4による撥水紙では、表面の接触角が140°以上かつ吸水度が15g/m2以下であり、高い撥水性が得られていることが分かった。
これに対し、多孔質層による凹凸構造を有さない比較例2による撥水紙では、表面の水接触角が120°よりも低く、撥水性が不十分であった。また、アンカー層を有さない比較例1による撥水紙においても、表面の水接触角が140°未満であり、実施例1~4による撥水紙と比較して、撥水性が劣っていた。また、比較例1および2のいずれの撥水紙も、吸水度が15g/m2を超えていた。
また、実施例1~4による撥水紙では、アンカー層を有さない比較例1と比べて、低い多孔質比率でありながら、高い撥水性の実現が可能であることが示された。
【0067】
このように、実施例1~4による撥水紙は、紙基材11と、紙基材11の少なくとも一方の面上に積層され、顔料及びバインダーを主成分とするアンカー層12と、アンカー層12上に積層され、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質層13と、を備えている。このような構成によれば、撥水性の向上、および多孔質比率の低減によるプラスチックの使用量低減およびコストの低減を実現することができる。
【0068】
なお、本発明の撥水紙および撥水紙の製造方法は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 撥水紙
11 紙基材
12 アンカー層
13 多孔質層