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特開2022-96542乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有するチョコレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096542
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有するチョコレート
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20220622BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220622BHJP
   A23G 1/42 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
A23L33/135
A23L33/125
A23G1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209703
(22)【出願日】2020-12-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ホームページのアドレス https://www.lotte.co.jp/products/brand/nyusankin-chocolat/ 掲載日 :令和2年 9月29日 2.テレビコマーシャルの放送局 (全国)フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京 (地方)メーテレ、朝日放送 テレビコマーシャルの放送日:令和2年 9月29日 3、販売した場所 株式会社山星屋(大阪本社 大阪府大阪市中央区南船場1丁目15番14号 堺筋稲畑ビル3階、東京本社 東京都港区海岸3丁目9番15号 LOOP-X 4階) 販売日 令和2年 9月14日
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 裕明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 隼登
(72)【発明者】
【氏名】杉森 信哉
(72)【発明者】
【氏名】高須 美紗子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 拓磨
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GG06
4B014GG11
4B014GG14
4B014GG18
4B014GK05
4B014GK07
4B014GK12
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP25
4B014GQ09
4B018MD86
4B018MD94
4B018ME14
(57)【要約】
【課題】便通を促進するもしくは便通を改善する食品の提供。
【解決手段】乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有する便通促進用もしくは便通改善用チョコレート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有するチョコレート。
【請求項2】
前記乳酸菌ラクトバチルスブレビス種が、ラクトバチルスブレビスNTT001である請求項1に記載のチョコレート。
【請求項3】
一日当たり摂取量として、前記ラクトバチルスブレビスNTT001を5.0億個以上、前記ガラクトオリゴ糖を1.5g以上含有した、請求項2に記載のチョコレート。
【請求項4】
便通促進もしくは便通改善のために使用される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチョコレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有した便通促進用もしくは便通改善用チョコレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸管内には多種・多様な細菌が生息し、複雑な腸内菌叢を形成している。近年、腸内環境と全身の健康との関係が多く報告され、腸内環境が健康の維持・増進に重要であることが示唆されている。更に、腸と脳が密接に関係していることも報告されており、非便秘気味の方に比べて便秘気味の方で心の健康、睡眠など、多岐にわたってQOLが低いことが報告されている。日本においては2019年度に行われた国民生活基礎調査によると、便秘の有訴者率は34.8人(/1000人)(男性25.4人(/1000人)、女性43.7人(/1000人))であり、約440万人近くが便秘に悩んでいることが報告されている。このような症状を改善する手段として、プロバイオティクスやプレバイオティクスがある。プロバイオティクスは一般的に賞味期限が短く、また、胃酸に弱いため健康効果を期待する上で乳酸菌を生きて腸まで届けることが重要とされている。これまでに乳酸菌ラクトバチルスブレビス種をチョコレートに配合し、経時安定性、耐酸性を向上させた品質の製品が開発されている(特許文献1)。また、乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを開示する文献もある(特許文献2、3)。
【0003】
ラクトバチルスブレビスNTT001は京都の伝統的な漬物『すぐき漬け』より単離された植物由来の乳酸菌であり、生きたまま腸に到達することが報告されており、宿主に有益な機能を発揮する可能性が期待される。1.0×10cfu/日、2週間の継続摂取により、糞便中のラクトバチルス、糞便中の酢酸が増加し、腸内腐敗産物であるインドールが低下するなど腸内環境改善機能を有することが報告されている(非特許文献1,2)。
【0004】
ガラクトオリゴ糖はガラクトースを主成分とするオリゴ糖で、難消化性の糖質である。ヒトにおいては、一日当たり4.0gのガラクトオリゴ糖を3週間摂取することで糞便中ビフィドバクテリウムが増加することが報告されている(非特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6181254号
【特許文献2】特開2006-501281号公報
【特許文献3】特開2012-519727号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】薬理と治療、2017;45(3)、463-472
【非特許文献2】薬理と治療、2018;46(4)、549-560
【非特許文献3】J.Jpn.Assoc. Dietary Fiber Res, 2005;9;22-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のチョコレートでは便通改善効果が十分とは言えない。また、特許文献2、3は、食用油を含むプレバイオティック組成物、またはプレバイオティクスを含む油性懸濁液に関する発明であり、便通促進もしくは便通改善を目的とした発明ではない。
非特許文献1、2では、腸内腐敗産物であるインドールが低下するなど腸内環境改善機能を有することが報告されているものの、1.0×10cfu/日の摂取量では便通促進機能を有していないことが報告されている。非特許文献3では、ガラクトオリゴ糖単独の効果が示されているが、一日当たり4.0gより少ない量のガラクトオリゴ糖を摂取することで便通促進作用効果が認められるかは判明していない。
【0008】
本発明の目的は、乳酸菌ラクトバチルスブレビス種とガラクトオリゴ糖とを含有したチョコレートにより、お腹の調子を整える機能を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、乳酸菌ラクトバチルスブレビス種であるラクトバチルスブレビスNTT001(Lactobacillus brevis NTT001)とガラクトオリゴ糖とを含有した便通促進用もしくは便通改善用チョコレートにより達成される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、ラクトバチルスブレビスNTT001とガラクトオリゴ糖の併用作用を詳細に検証するため、ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験を実施した。また本発明では、関与成分の適正量を検証するため、2つのヒト試験を実施した。被験食品であるラクトバチルスブレビスNTT001およびガラクトオリゴ糖含有チョコレート(ラクトバチルスブレビスNTT001 1.3×10cfu、ガラクトオリゴ糖0.38g含有)を、ヒト試験(実施例1)では1日当たり4枚、ヒト試験(比較例1)では1日当たり3枚摂取させた。その他の試験概要は実施例1と比較例1で同様であり、便秘傾向の健常成人を対象にラクトバチルスブレビスNTT001・ガラクトオリゴ糖含有チョコレートの2週間継続摂取試験を行い、糞便中のラクトバチルス及びビフィドバクテリウム、ラクトバチルスブレビスNTT001の腸管到達性、糞便中の有機酸や腐敗産物、便通ならびに便性状への影響を検討した。
【実施例0011】
(実施例1)
1 試験食品
試験食品として、ラクトバチルスブレビスNTT001・ガラクトオリゴ糖含有チョコレート(被験食品)及びラクトバチルスブレビスNTT001とガラクトオリゴ糖を含まないプラセボチョコレート(対照食品)を用いた。
具体的なチョコレートの配合を、以下の表1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
ラクトバチルスブレビスNTT001およびガラクトオリゴ糖配合チョコレートは、チョコレートにラクトバチルスブレビスNTT001粉末及びガラクトオリゴ糖を添加・混合し(30℃前後/数分)、成形、冷却(7-10℃/30-50分)して製造した。
すなわち、ラクトバチルスブレビスNTT001およびガラクトオリゴ糖配合チョコレートは、一般的なチョコレートの製法を用いて製造することができる。原料であるカカオ豆を、選別、分離、焙炒、磨砕してカカオマスとし、カカオマスと、砂糖、粉乳、植物油脂、ココアバターおよび乳化剤の一部を原料混合機で混合し、リファイナーにより粒子が所定の大きさになる様に均一に微細化し、精練(コンチング)し、精練の後半の段階で、香料、ラクトバチルスブレビスNTT001菌末と、残りのココアバターおよび乳化剤を添加してチョコレート生地を調製する。その後、テンパリングを行い、成型用の型に充填し、冷却・固化させ、型抜し、得られたチョコレートを包装する。ラクトバチルスブレビスNTT001菌末を含んだチョコレート生地は、別途テンパリングしたチョコレート生地に添加しても良い。ガラクトオリゴ糖は原料の混合時に添加しても良い。
【0014】
被験食品は、チョコレート1枚(4g)あたりにラクトバチルスブレビスNTT001が1.3×10cfu、ガラクトオリゴ糖が0.38g含まれるよう設計した。
【0015】
実施例1では被験食品を1日あたり4枚(ラクトバチルスブレビスNTT001として5.0×10cfu、ガラクトオリゴ糖として1.5g)と設定した。
【0016】
なお、摂取開始時と終了時にそれぞれ分析を行い、被験食品は1枚(4g)当たりラクトバチルスブレビスNTT001を1.3×10cfu以上、ガラクトオリゴ糖0.38g以上含有していた。また、被験者には被験食品と対照食品は、味・外観による区別ができないようにした。
【0017】
試験食品に用いたラクトバチルスブレビスNTT001(Lactobacillus brevis subsp.coagulans; 特許微生物寄託番号FERM BP-4693)はNoster株式会社より提供された。ガラクトオリゴ糖はサンブライト社のものを使用した。
【0018】
2 被験者
本試験では、下記の選択基準を満たし、かつ除外基準に抵触しない健常成人22名(年齢44.7±10.8歳、BMI21.4±3.0kg・m-2)、を被験者とした。
【0019】
選択基準は、(i)20歳以上65歳未満の男女、(ii)スクリーニング検査時に持参した2週間の被験者日誌の排便回数が週3~5回の者、(iii)試験の目的・内容について十分な説明を受け、同意能力があり、よく理解した上で自発的に参加を志願し、書面で本試験参加に同意した者、とした。除外基準は、(i)整腸剤や便秘薬(下剤を含む)を常用している者、(ii)スクリーニング検査時に便秘改善によいとされる健康食品類を常用している者、(iii)スクリーニング検査時に、抗生物質など消化吸収に影響を与える薬剤を服用している者、(iv)試験期間中に乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌などの生菌類含有食品、オリゴ糖・食物繊維を強化した食品、便秘改善によいとされる健康食品類(特定保健用食品、機能性表示食品を含む)、及び糖アルコール多量含有食品の摂取を止めることが出来ない者、(v)食物アレルギーを有する者、(vi)日常的に多量のアルコールを摂取している者、(vii)緊急に治療を要する疾患に罹患している者、または重篤な合併症を有する者、(viii)消化吸収や排便に影響を与える消化器疾患、または手術歴がある者、(ix)被験者背景アンケートの回答から被験者として不適当であると判断された者、(x)妊娠している者、試験期間中妊娠の意思がある者、授乳中の者、(xi)薬物依存、アルコール依存の既往歴あるいは現病歴がある者、(xii)他の食品の摂取や薬剤を使用する試験、化粧品及び薬剤などを塗布する試験に参加中の者、参加の意思がある者、(xiii)その他、試験責任医師が被験者として不適当と判断した者、とした。
【0020】
また、試験期間中、(i)試験食品は試験責任医師及び試験分担医師の指示通りに摂取すること、(ii)試験食品は、被験者本人以外には摂取させないこと、(iii)試験以前と同様の生活を送ること(暴飲・暴食、ダイエット、海外旅行等での食生活の大幅な変更、今までしていた運動を急に止める、新しく運動を始める、ことはしないこと)、(iv)多量のアルコールの摂取を控えること(1日最大量:1日あたり平均で純アルコール40g相当まで)、(v)整腸剤・便秘薬等の便秘改善に影響を及ぼす可能性がある医薬品はできる限り使用を避けること、(vi)乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌などの生菌類含有食品、オリゴ糖・食物繊維を強化した食品、便秘改善によいとされる健康食品類(特定保健用食品、機能性表示食品を含む)、及び糖アルコール多量含有食品の摂取を避けること、(vii)他の食品の摂取や薬剤を使用する試験、化粧品及び薬剤などを塗布する試験に参加しないこと、を指示した。
【0021】
3 試験スケジュール
本試験はランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験で実施し、統計解析責任者がスクリーニング検査時の年齢、性別、糞便中ラクトバチルス、糞便中酢酸、糞便中インドールに偏りを示さないように、ランダムに割り当てられた乱数種を用いて2群に層別ランダム化した(統計解析ソフトJMP10使用)。
【0022】
試験実施に関与しないコントローラーが2群を被験食品先行摂取群、対照食品先行摂取群に割り付けた。なお、割付表はコントローラーが封緘し、割付表開封時まで密封保管した。試験は、前観察期を2週間設定した後、摂取I期、休止期、摂取II期をそれぞれ2週間の計8週間で行った。
【0023】
被験者には、摂取期間中に試験食品を16g(4g×4枚)/日を、摂取時間を指定せず自由摂取させた。
【0024】
4 評価項目
ラクトバチルスブレビスNTT001とガラクトオリゴ糖との併用摂取による腸に対する影響を検証するため、主要評価項目は試験食品摂取期間における糞便中ラクトバチルス(生菌)数とし、副次評価項目は糞便中ラクトバチルスブレビス(生菌)数、糞便中ビフィドバクテリウム、糞便中有機酸含量、糞便中腐敗産物・アンモニア含量、便通・便性(排便回数、排便日数、排便量、便形状、便の色、便の臭い、排便後の感覚)とした。
【0025】
5 糞便解析
前観察期、摂取I期、休止期、摂取II期の計4回、採便させた。便検体は、被験者が自宅で採便し、便が出たタイミングで便全量を専用容器に採取し、蓄冷剤と共に嫌気条件下で、測定施設に直送した。
【0026】
5-1 糞便中ラクトバチルス、ラクトバチルスブレビス、ビフィドバクテリウムの測定
糞便中ラクトバチルス(生菌数)の測定は光岡らの方法を一部改変して培養法により測定した。ラクトバチルス選択培地として、変法LBS寒天培地を用いた。培地ごとにコロニーを観察し、コロニー形態と菌数を記載した。糞便中ラクトバチルスブレビスの生菌数測定は既報を参考に実施した。なお、糞便中ラクトバチルスブレビス測定は被験食品先行摂取群、対照食品先行摂取群から糞便中ラクトバチルスの菌数が少ない人から優先的に5名ずつ選抜してPCR解析対象とした。糞便中ビフィドバクテリウム数の測定はリアルタイムPCRにより測定した。
【0027】
5-2 糞便中有機酸含量、糞便中腐敗産物含量及び糞便中アンモニア含量の測定
有機酸は乳酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、iso-酪酸、n-酪酸、iso-吉草酸、n-吉草酸についてイオン排除HPLCにより分析した。糞便中の腐敗産物はインドール、フェノール、スカトール、パラエチルフェノール、パラクレゾールについてGC-MSを用いて分析した。また、糞便中アンモニア含量については、アンモニアテストワコー(WAKO)を用いて測定した。
【0028】
6 日誌による調査項目
被験者に対しては、試験期間中毎日(前観察期、摂取I期、休止期、摂取II期の計8週間)、試験食品摂取の有無(摂取期のみ)、排便回数、排便量、便形状、便の色、便の臭い、排便後の感覚、整腸剤・便秘薬を含む医薬品使用の有無、生理の有無、その他胃腸症状中心に体調の変化の有無、生活状況の変化の有無を「被験者日誌」に記載させた。被験者日誌の排便量については、鶏卵(Mサイズ1個)の大きさに換算した個数で記録させた。便形状は見本を参考に(i)コロコロ状、(ii)カチカチ状、(iii)バナナ状、(iv)半練状、(v)泥状、(vi)水状の6段階、便の色は見本色を見て、(i)黄褐色、(ii)茶褐色、(iii)黒褐色の3段階、便の臭いは(i)全く気にならない、(ii)ほとんど気にならない、(iii)普通、(iv)臭い、(v)とても臭い、の5段階評価をさせた。排便後の感覚は(i)スッキリ感がある、(ii)普通、(iii)残便感がある、の3段階評価をさせた。
【0029】
また、被験者には試験期間中毎日、食事・間食・禁止食品・サプリメント・健康食品類・ドリンク剤・アルコール等の摂取内容をすべて食事日誌に記載させた。各摂取期終了前3日間は、記載内容をもとに栄養管理ソフト(株式会社建帛社:エクセル栄養君ver.8)を使用して栄養摂取量を概算した。また、同期間は飲酒量を算出した。
【0030】
7 統計解析方法
主要評価項目の糞便中ラクトバチルス(生菌数)について一般化線形モデル(GLM)により持ち越し効果を検証した。時期効果を消去した上で対照食品先行摂取群と被験食品先行摂取群で対応のないt検定を実施した。前後比較については試験食品摂取期ごとに対応のあるt検定で実施した。なお、糞便中のラクトバチルスブレビス(生菌数)については、各試験食品の摂取前後で対応のあるt検定で実施した。有意水準は両側検定で5%とし、糞便中の細菌数の統計解析においては、検出限界値以下の場合には検出限界値を採用した。なお、統計解析ソフトはIBM SPSS Statistics 24を使用した。
【0031】
(結果)
1 被験者
試験参加者22名のうち中止症例は生じなかったため、試験完了被験者は22名であった。試験食品摂取率は21名の被験者で100%、1名の被験者で98.2%であった。食事記録から禁止食を複数回にわたり摂取した被験者1名を解析から除外し、被験食品先行摂取群10名、対照食品先行摂取群11名、合計21名(男性4名、女性17名、平均年齢44.3±10.9歳)のデータを解析した。
【0032】
割付後の被験者および解析対象被験者の年齢、身長、体重、BMI、糞便中ラクトバチルス(生菌数)、糞便中酢酸、糞便中インドールは被験食品先行摂取群、対照食品先行摂取群の両群間で差は認められなかった(表2)。
【0033】
被験食品摂取期と対照食品摂取期の間に、食事調査(エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維総量)、飲酒量のすべての項目で有意な差は認められなかった。また、試験期間中に認められた有害事象は22例中1例2件(感冒からの副鼻腔炎、食欲不振)であったが、試験責任医師により試験食品との因果関係は”関連なし”と判定され、試験食品に起因する副作用は認められなかった。
【0034】
【表2】

数値は、平均値±標準偏差を表す。
【0035】
2 糞便中ラクトバチルス
主要評価項目である糞便中ラクトバチルス(生菌数)について時期効果、順序効果の検定を行ったところ、時期効果p=0.572、順序効果p=0.814であり、いずれも有意な差は認められなかった。このことから、持ち越し効果はなくクロスオーバー試験は妥当であると判断し、有効性の解析を実施した。各試験食品摂取による糞便中ラクトバチルスへの影響を表3に示した。糞便中ラクトバチルス(log cfu/g)は、摂取前と比較して被験食品摂取後に有意に増加(摂取前:4.5±0.4、摂取後:5.2±0.3、p<0.05)したのに対し、対照食品摂取期では有意な変化は認められなかった(摂取前:5.0±0.4、摂取後:4.6±0.4)。また被験食品摂取後の糞便中ラクトバチルスは対照食品摂取後よりも有意に高かった(p<0.05)。
【0036】
3 糞便中ラクトバチルスブレビス、糞便中ビフィドバクテリウム
糞便中ラクトバチルスブレビス(生菌)のPCR検出率について、どの被験者においても試験食品摂取前は検出限界未満であった。被験食品摂取時には糞便中でラクトバチルスブレビスが検出された被験者は10名中7名であったのに対し、対照食品摂取時では10名中0名であった。糞便中ラクトバチルスブレビス数の推移を表2に示した。糞便中ラクトバチルスブレビス数(log cfu/g)について、被験食品摂取前は検出限界未満、被験食品摂取後は4.1±0.5であった。糞便中ビフィドバクテリウム(log cfu/g)については、被験食品摂取期では摂取前8.2±0.2、摂取後8.2±0.2、対照食品摂取期では摂取前8.3±0.2、摂取後8.2±0.2であった(表3)。
【0037】
【表3】
数値は、糞便1gあたりの当該菌数の常用対数の平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
対照食品摂取期と比較して有意差(p<0.05)あり
【0038】
4 糞便中有機酸
糞便中有機酸のうち、乳酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、iso-酪酸、n-酪酸、iso-吉草酸含量は、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった(表4)。糞便中n-吉草酸含量については、対照食品摂取期において摂取前と比較して摂取後に有意に減少したが(p<0.05)、被験食品摂取期と比較して有意な違いは認められなかった。
【0039】
【表4】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
対照食品摂取期と比較して有意差(p<0.05)あり
【0040】
5 糞便中腐敗産物・アンモニア
糞便中腐敗産物(インドール、パラクレゾール、フェノール、スカトール、パラエチルフェノール)およびアンモニア含量の解析結果を表5に示した。糞便中パラクレゾール含量(nmol/g)については、摂取前と比較して被験食品摂取後に有意に減少(摂取前:747.1±131.5、摂取後:579.4±99.9、p<0.05)したのに対し、対照食品摂取期では有意な変化は認められなかった(摂取前:818.4±116.5、摂取後:794.6±214.5)。しかし、被験食品摂取後の糞便中パラクレゾール含量は対照食品摂取後と比較して有意な違いは認められなかった。糞便中インドール、フェノール、スカトール、パラエチルフェノール、およびアンモニア含量については、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった。
【0041】
【表5】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
【0042】
6 便通および便性に対する影響
試験食品摂取による便通・便性状への影響を表6に示した。被験食品摂取期、対照食品摂取期ともに摂取前と比較して摂取後に排便回数が有意に増加し(p<0.05)、被験食品摂取期の排便回数は対照食品摂取期と比較して有意に高い傾向が認められた(p=0.07)。排便日数、排便量においても被験食品摂取期に摂取前と比較して摂取後に有意に増加したが(p<0.05)、群間差は認められなかった。また、便性状(便形状、便の色、便の臭い、排便後の感覚)については、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった。
【0043】
【表6】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
【0044】
被験者選定の際にスクリーニング前の排便日誌をもとに選定を行ったが、前観察期において排便回数が便秘傾向の定義よりも多い被験者(2週間の被験者日誌の排便回数が週3~5回の者)が2名含まれていた。本試験の目的である、便秘傾向者に対する被験食品の整腸効果を正確に把握するため、上記2名を除く19名で排便回数の層別解析を実施した(表7)。その結果、被験食品摂取期、対照食品摂取期ともに摂取前と比較して摂取後に排便回数が有意に増加し(p<0.05)、被験食品摂取期の排便回数は対照食品摂取期と比較して有意に高かった(p<0.05)。また、上記便秘傾向者19名において被験食品摂取後の糞便中ラクトバチルスは対照食品摂取後よりも有意に高かった(p<0.05)。
【0045】
【表7】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
ラクトバチルスは、糞便1gあたりの当該菌数の常用対数を表す
前観察期と比較して有意差(p<0.05)あり
対照食品摂取群と比較して有意差(p<0.05)あり
【0046】
実施例1において被験食品を一日当たり4枚、2週間の継続摂取により、便秘傾向者における排便回数の増加が確認でき、被験食品摂取後の糞便中ラクトバチルスの数が増加することも確認できた。
【0047】
(比較例1)
一日当たりの摂取量を3枚に減らした試験設計でヒト試験を実施し、同様の作用が確認できるか検証した。
【0048】
1 試験食品
実施例1と同様にして、試験食品として、ラクトバチルスブレビスNTT001・ガラクトオリゴ糖含有チョコレート(被験食品)及びラクトバチルスブレビスNTT001とガラクトオリゴ糖を含まないプラセボチョコレート(対照食品)を用いた。
具体的なチョコレートの配合を、以下の表8に示す。
【0049】
【表8】
【0050】
比較例1のラクトバチルスブレビスNTT001およびガラクトオリゴ糖配合チョコレートも、実施例1記載のチョコレートと同様に、チョコレートにラクトバチルスブレビスNTT001粉末及びガラクトオリゴ糖を添加・混合し(30℃前後/数分)、成形、冷却(7-10℃/30-50分)して製造した。
【0051】
被験食品は、チョコレート1枚(4g)あたりにラクトバチルスブレビスNTT001が1.3×10cfu、ガラクトオリゴ糖が0.38g含まれるよう設計した。
【0052】
比較例1では1日あたり3枚(ラクトバチルスブレビスNTT001として3.8×10cfu、ガラクトオリゴ糖として1.1g)と設定した。
【0053】
2 被験者
実施例1と同様に採用したが、健常成人22名(年齢44.0±12.4歳、BMI21.2±2.6kg・m-2)を被験者とし、比較例1の被験者選定にあたっては、実施例1に参加していた被験者も被験者候補(合計33名)として組込み、その中から最終的に22名の被験者を選定した。
【0054】
3 試験スケジュール
実施例1と同様に行った。
被験者には、摂取期間中に試験食品を12g(4g×3枚)/日を、摂取時間を指定せず自由摂取させた。
4 評価項目、5 糞便解析、5-1 糞便中ラクトバチルス、ラクトバチルスブレビス、ビフィドバクテリウムの測定、5-2 糞便中有機酸含量、糞便中腐敗産物含量及び糞便中アンモニア含量の測定、6 日誌による調査項目、7 統計解析方法は、実施例1と同様とした。
【0055】
(結果)
1 被験者
試験参加者22名のうち中止症例は生じなかったため、試験完了被験者は22名であった。試験食品摂取率は20名の被験者で100%、残り2名の被験者ではそれぞれ96.5、92.9%であった。棄却基準、解析対象除外基準に該当した被験者は認められなかったため、有効性の解析対象者は22名であった。割付後の被験者の年齢、身長、体重、BMI、糞便中ラクトバチルス(生菌数)、糞便中酢酸、糞便中インドールは被験食品先行摂取群、対照食品先行摂取群の両群間で差は認められなかった(表9)。被験食品摂取期と対照食品摂取期の間に食事調査、飲酒量のすべての項目で有意な差は認められなかった。また、試験期間中に有害事象の発現は認められなかった。
【0056】
【表9】
数値は、平均値±標準偏差を表す。
【0057】
2 糞便中ラクトバチルス
主要評価項目である糞便中ラクトバチルス(生菌数)について時期効果、順序効果の検定を行ったところ、いずれも有意な差は認められなかったことから、持ち越し効果はなくクロスオーバー試験は妥当であると判断し、有効性の解析を実施した。糞便中ラクトバチルス(log cfu/g)は、摂取前と比較して被験食品摂取後に有意に増加(摂取前:3.9±0.3、摂取後:5.3±0.3、p<0.05、表10)したのに対し、対照食品摂取期では有意な変化は認められなかった(摂取前:4.5±0.5、摂取後:4.5±0.3)。また被験食品摂取後の糞便中ラクトバチルスは対照食品摂取後よりも有意に高かった(p<0.05)。
【0058】
【表10】
数値は、糞便1gあたりの当該菌数の常用対数の平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
対照食品摂取期と比較して有意差(p<0.05)あり
【0059】
3 糞便中ラクトバチルスブレビス、糞便中ビフィドバクテリウム
糞便中ラクトバチルスブレビス(生菌)のPCR検出率について、どの被験者においても試験食品摂取前は検出限界未満であった。被験食品摂取時には糞便中でラクトバチルスブレビスが検出された被験者は10名中8名であったのに対し、対照食品摂取時では10名中0名であった。糞便中ラクトバチルスブレビス数および糞便中ビフィドバクテリウム数の推移を表10に示した。糞便中ビフィドバクテリウムについては、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった。
【0060】
4 糞便中有機酸・腐敗産物・アンモニア
糞便中有機酸のうち酢酸、プロピオン酸、iso-酪酸では、被験食品摂取期において摂取前と比較して摂取後で有意に高い値が認められたが、対照食品摂取期と比較して有意な違いは認められなかった。その他の有機酸については試験実施期間中に有意な変化は認められなかった(表11)。糞便中腐敗産物・アンモニアについては、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった(表12)。
【0061】
【表11】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
【0062】
【表12】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
【0063】
5 便通および便性に対する影響
試験食品摂取による便通・便性状への影響を表13に示した。被験食品摂取期において摂取前と比較して摂取後に排便回数、排便日数、排便量が有意に増加したが(p<0.05)、対照食品摂取期と比較して有意な違いは認められなかった。また、便性状(便形状、便の色、便の臭い、排便後の感覚)については、試験実施期間中に有意な変化は認められなかった。
【0064】
【表13】
数値は、平均値±標準誤差を表す。
摂取前と比較して有意差(p<0.05)あり
【0065】
以上のように、実施例1(試験食品の摂取枚数が4枚/日)では対照食品摂取時と比較して被験食品摂取時に糞便中ラクトバチルス(生菌数)の有意な増加が認められた。対照食品摂取時と被験食品摂取時で糞便中有機酸含量や腐敗産物含量について有意な違いは認められなかったものの、排便回数については対照食品摂取時と比較して被験食品摂取時に高くなる傾向が認められた。更に、排便回数が便秘傾向の定義よりも多い被験者(2週間の被験者日誌の排便回数が週3~5回の者)が2名含まれていたことから、便秘傾向者で層別解析(n=19)を実施したところ、対照食品摂取時と比較して被験食品摂取時に糞便中ラクトバチルス(生菌数)や排便回数が有意に高かった。一方、比較例1の試験食品の摂取枚数を3枚/日に減らして試験を実施したところ、対照食品摂取時と比較して被験食品摂取時に糞便中ラクトバチルス(生菌数)の有意な増加は認められたものの、排便回数については群間差が認められなかった。
【0066】
本発明では、それぞれ単独では便通促進作用が期待できない摂取量ではあるものの、ラクトバチルスブレビスNTT001(5.0×10cfu/日)、ガラクトオリゴ糖(1.5g/日)を併用することで、便秘傾向者に対する便通促進作用が認められた。
すなわち、ラクトバチルスブレビスNTT001を一日当たり5.0×10cfu以上、ガラクトオリゴ糖を一日当たり1.5g以上併用して摂取することで、便秘傾向者に対する便通促進作用が認められることが判明した。なお、本発明におけるチョコレート中のガラクトオリゴ糖は、全て砂糖と代替置換して配合することも可能だが、一日当たり摂取量として1.5g以上を担保していれば、風味の面を考慮して自由に調整して配合できる。ラクトバチルスブレビスNTT001は、他のラクトバチルスブレビス種細菌と置換して配合しても同様の効果が得られるが、一日当たり摂取量としては5.0×10cfu以上が望ましい。なお、風味や製造適性の面を考慮して、チョコレート1g当たり1.0×1012cfu以下とするのが望ましい。