(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096646
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】接着性ポリペプチド、塗布剤及び医療用デバイス
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20220622BHJP
A61L 24/10 20060101ALI20220622BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220622BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20220622BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20220622BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220622BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20220622BHJP
C07K 11/00 20060101ALI20220622BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220622BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
A61L24/10
A61L31/10
A61L29/08 100
A61L27/34
A61P17/02
A61K38/16
C07K11/00
C07K14/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204309
(22)【出願日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020209191
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼介
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB00
4C081AC04
4C081BA11
4C081BA17
4C081CD111
4C081CD112
4C081EA06
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084MA63
4C084MA67
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA89
4H045AA10
4H045BA12
4H045BA13
4H045CA40
4H045EA34
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生体組織及び無機材料に対する接着性、生体適合性に優れる接着性ポリペプチドを提供する。
【解決手段】ポリペプチド鎖(y1)及び/又はポリペプチド鎖(y2)を合計で1~100個有し、(y1)は、所定のアミノ酸配列が2個~100個連続したポリペプチド鎖であり、(y2)は、所定のアミノ酸配列が2個~100個連続したポリペプチド中の、アミノ酸残基の0.2~5%がリシン残基により置換されたポリペプチド鎖であって、リシン残基の合計が1~100個であり、さらに、チロシン残基、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基及びリシン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖(z)を有する接着性ポリペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)のうちの少なくとも一方と、ポリペプチド鎖(z)とを有する接着性ポリペプチドであって、
前記ポリペプチド鎖(y1)及び前記ポリペプチド鎖(y2)の合計個数が1~100個であり、
前記ポリペプチド鎖(y1)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列、及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列(x1)が2個~100個連続したポリペプチド鎖であり、
前記ポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列が2個~100個連続したポリペプチド中の、アミノ酸残基の数に基づき、0.2%~5%のアミノ酸残基がリシン残基により置換された構造のポリペプチド鎖であって、前記リシン残基の合計個数が1~100個であり、
前記ポリペプチド鎖(z)は、チロシン残基、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基及びリシン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖である、接着性ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、並びに/又は、前記ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方が、ポリペプチド鎖(z)により修飾されている請求項1に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチド鎖(z)の重量割合が、接着性ポリペプチドの重量を基準として、5~50重量%である請求項1又は2に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項4】
さらに、1個のGAGAGS配列からなるペプチド鎖及び2個~100個のGAGAGS配列が連続して結合したポリペプチド鎖から選ばれる少なくとも一種の(ポリ)ペプチド鎖(y3)を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチド鎖(y2)及び前記ポリペプチド鎖(y3)を有し、
前記ポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数に基づき、20~60%のアミノ酸残基がリシン残基により置換されたアミノ酸配列(x2)を含み、
前記GAGAGS配列の数と、前記アミノ酸配列(x1)の数及び前記アミノ酸配列(x2)の数の合計との比率[GAGAGS配列の数:アミノ酸配列(x1)の数及びアミノ酸配列(x2)の数の合計]が、4:1~1:20である請求項4に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項6】
前記接着性ポリペプチドのSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法により測定した分子質量が1~200kDaである請求項1~5のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項7】
前記ポリペプチド鎖(z)中のアミノ酸残基の数に基づき、0~50%のアミノ酸残基が、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基であり、10~50%のアミノ酸残基がリシン残基である請求項1~6のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチド鎖(y2)は、前記GVGVP配列が2個~100個連続したポリペプチド中の1個のアミノ酸残基がリシン残基で置換されたポリペプチド鎖である請求項1~7のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項9】
前記ポリペプチド鎖(y2)及び前記ポリペプチド鎖(y3)を有し、
前記ポリペプチド鎖(y2)は、アミノ酸配列が(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列であるポリペプチド鎖であり、前記ポリペプチド鎖(y3)は、GAGAGS配列が4個連続して結合したポリペプチド鎖である請求項4~8のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の接着性ポリペプチドを含む塗布剤。
【請求項11】
前記接着性ポリペプチドの濃度が、前記塗布剤の重量に基づき1~20重量%である請求項10に記載の塗布剤。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の塗布剤を塗布してなる医療用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性ポリペプチド、塗布剤及び医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
人工の細胞接着性ポリペプチドとして、細胞接着性最小アミノ酸配列と補助アミノ酸配列とが交互に化学結合してなる構造を有し、補助アミノ酸配列に含まれる全アミノ酸個数が1~50個であり、かつ補助アミノ酸配列に含まれるグリシン(Gly)及びアラニン(Ala)の合計含有割合が補助アミノ酸配列の全アミノ酸の個数に基づいて42~100個数%である細胞接着性ポリペプチドが知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の接着性ポリペプチドは、接着性が十分ではなく、より優れた接着性ポリペプチドの開発が求められていた。
本発明の目的は、より接着性に優れた接着性ポリペプチド、当該接着性ポリペプチドを含む塗布剤及び医療用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)のうちの少なくとも一方と、ポリペプチド鎖(z)とを有する接着性ポリペプチドであって、前記ポリペプチド鎖(y1)及び前記ポリペプチド鎖(y2)の合計個数が1~100個であり、前記ポリペプチド鎖(y1)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列、及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列(x1)が2個~100個連続したポリペプチド鎖であり、前記ポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列が2個~100個連続したポリペプチド中の、アミノ酸残基の数に基づき、0.2%~5%のアミノ酸残基がリシン残基により置換された構造のポリペプチド鎖であって、前記リシン残基の合計個数が1~100個であり、前記ポリペプチド鎖(z)は、チロシン残基、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基及びリシン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖である、接着性ポリペプチド;前記接着性ポリペプチドを含む塗布剤;前記塗布剤を塗布してなる医療用デバイスである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生体組織に対する接着性及び無機材料(金属、セラミック等)に対する接着性に優れ、かつ、生体適合性に優れる接着性ポリペプチド、当該接着性ポリペプチドを含む塗布剤並びに医療用デバイスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[接着性ポリペプチド]
本発明の接着性ポリペプチドは、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)のうちの少なくとも一方、並びに、ポリペプチド鎖(z)を有する。接着性に優れるという観点から、接着性ポリペプチドは、ポリペプチド鎖(y2)を含むことが好ましい。ポリペプチド鎖(y2)を含む態様には、ポリペプチド鎖(y2)を有する態様、並びに、ポリペプチド鎖(y2)及びポリペプチド鎖(y1)を有する態様が含まれる。
【0008】
本発明において、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)の合計個数は1~100個である。ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)の合計個数は、接着性の観点から、好ましくは5~80個であり、より好ましくは5~40個である。
【0009】
本発明において、ポリペプチド鎖(y1)の個数は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列から選ばれるアミノ酸配列(x1)が連続している部分の全体を1個として計数する。アミノ酸配列(x1)については後述する。
本発明において、ポリペプチド鎖(y2)の個数は、アミノ酸残基がリシン残基で置換されたアミノ酸配列(リシン置換アミノ酸配列)部分と、当該リシン置換アミノ酸配列に連続するアミノ酸配列(VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸配列)部分を1個として計数する。
【0010】
本発明において、ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、前記ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、並びに/又は、接着性ポリペプチドの構成単位であるアミノ酸[前記ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)に含まれないアミノ酸]が有するカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方が、ポリペプチド鎖(z)により修飾されていることが好ましい。
また、ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、並びに/又は、前記ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方が、ポリペプチド鎖(z)により修飾されていることがより好ましい。
「ポリペプチド鎖(z)により修飾」とは、ポリペプチド鎖(y1)若しくはポリペプチド鎖(y2)の構成単位であるアミノ酸又はその他のアミノ酸が有するアミノ基及び/又はカルボキシル基と、ポリペプチド鎖(z)の構成単位である化合物(リシン、チロシン、又は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)の有するアミノ基又はカルボキシル基とがペプチド結合により結合することにより、ポリペプチド鎖(y1)、ポリペプチド鎖(y2)及び/又はその他のアミノ酸中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方に、ポリペプチド鎖(z)が結合していることをいう。
ポリペプチド鎖(y1)、ポリペプチド鎖(y2)及び/又はその他のアミノ酸は、末端(N末端及び/又はC末端)がポリペプチド鎖(z)により修飾されていてもよいし、末端以外の部分(リシン、アルギニン及びヒスチジン等が有するアミノ基、並びに、アスパラギン酸及びグルタミン酸等が有するカルボキシル基等)がポリペプチド鎖(z)により修飾されていてもよい。
以下、接着性ポリペプチドが有する、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)、並びに接着性ポリペプチドが有しうるポリペプチド鎖(y3)等について説明する。
【0011】
<ポリペプチド鎖(y1)>
本発明におけるポリペプチド鎖(y1)は、VPGVG配列[配列番号1のアミノ酸配列:配列(1)]、GVGVP配列[配列番号2のアミノ酸配列:配列(2)]、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列(x1)が2個~100個連続したポリペプチド鎖である。アミノ酸配列(x1)におけるVはバリン、Pはプロリン、Gはグリシン、Aはアラニンである。
上記アミノ酸配列(x1)のうち、生体適合性及び接着性に優れるという観点から、好ましいのはVPGVG配列及びGVGVP配列であり、より好ましいのはGVGVP配列である。
ポリペプチド鎖(y1)として、好ましいのはGVGVP配列がb個連続した(GVGYP)b配列である。bは、好ましくは2~30、より好ましくは3~15である。
上記アミノ酸配列におけるVはバリン、Pはプロリン、Gはグリシン、Aはアラニンである。
【0012】
ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方は、ポリペプチド鎖(z)により修飾されていることが好ましい。ポリペプチド鎖(z)は、チロシン残基、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基(DOPA残基)及びリシン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖である。
【0013】
ポリペプチド鎖(z)を構成するアミノ酸残基は、接着性の観点から、チロシン残基及び/又はDOPA残基と、リシン残基とを含むことが好ましく、DOPA残基及びリシン残基を含むことがより好ましい。
ポリペプチド鎖(z)を構成する全アミノ酸残基の数に対する、チロシン残基及びDOPA残基の合計数は、接着性の観点から、50~90%であることが好ましく、50~80%であることがより好ましい。
ポリペプチド鎖(z)中のアミノ酸残基は、接着性の観点から、当該アミノ酸残基の数に基づき25~75%のアミノ酸残基がチロシン残基であることが好ましい。前記チロシン残基の割合は、接着性(特に生体組織への接着性)の観点から、より好ましくは30~75%であり、さらに好ましくは50~75%である。
ポリペプチド鎖(z)中のアミノ酸残基は、接着性の観点から、当該アミノ酸残基の数に基づき0~50%のアミノ酸残基がDOPA残基であることが好ましい。前記DOPA残基の割合は、接着性(特に無機材料への接着性)の観点から、より好ましくは5~50%、さらに好ましくは10~45%、特に好ましくは20~40%である。
【0014】
ポリペプチド鎖(z)中のアミノ酸残基は、当該アミノ酸残基の数に基づき10~50%のアミノ酸残基がリシン残基であることが好ましい。前記リシン残基の割合はより好ましくは10~45%、さらに好ましくは20~40%である。
また、チロシン残基及びDOPA残基の合計数と、リシン残基の数との比率[チロシン残基及びDOPA残基の合計数/リシン残基の数]は、接着性の観点から、9.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。
また、チロシン残基の数と、リシン残基の数との比率[チロシン残基の数/リシン残基の数]は、接着性の観点から、6.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。
また、DOPA残基の数と、リシン残基の数との比率[DOPA残基の数/リシン残基の数]は、接着性の観点から、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。
【0015】
チロシン残基及び/又はDOPA残基と、リシン残基とを含むポリペプチド鎖(z)を有する接着性ポリペプチドの接着性が、更に向上する理由については、以下のメカニズムが推定される。
生体組織表面(主に負の電荷を有する)に対しては、正の電荷を有するリシンの作用(静電相互作用)により、接着性が高まると考えられる。
一方、水分が多い環境においては、上記の静電相互作用の効果が低減することになる。
ここで、ポリペプチド鎖(z)は、リシン残基の近傍に、チロシン残基及び/又はDOPA残基を有する構造となっており、これらが有する芳香環は、水に対する親和性が比較的低い。このため、ポリペプチド鎖(z)が有するリシン残基は、チロシン残基及び/又はDOPA残基の効果により、水に起因する静電相互作用の阻害が低減され、更に優れた接着性を発揮できるものと考えられる。
また、ポリペプチド鎖(z)は、水酸基及び芳香環を有するチロシン残基及び/又はDOPA残基を有するため、これらの基による相互作用(配位結合、水素結合及び疎水性相互作用等)により、親水性表面(無機物等)に対する接着性及び疎水性表面(有機物等)に対する接着性が向上するものと考えられる。
【0016】
<ポリペプチド鎖(y2)>
本発明におけるポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列が2個~100個連続したポリペプチド中の、アミノ酸残基の一部がリシン残基により置換された構造のポリペプチド鎖である。
前記ポリペプチド中のリシン残基により置換されたアミノ酸残基の割合は、前記ポリペプチド中のアミノ酸残基の数に基づき、0.2%~5%である。前記割合は、接着性に優れるという観点から、好ましくは0.5%~4%、より好ましくは1%~3%である。
本発明において、ポリペプチド鎖(y2)中のリシン残基の合計個数は1~100個である。ポリペプチド鎖(y2)中のリシン残基の合計個数は、接着性に優れるという観点から、好ましくは1~50個、より好ましくは5~30個である。
【0017】
ポリペプチド鎖(y2)は、アミノ酸残基の一部がリシン残基で置換されたアミノ酸配列(リシン置換アミノ酸配列)部分と、当該リシン置換アミノ酸配列部分に連続するアミノ酸配列[VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列から選ばれる少なくとも一種のアミノ酸配列(x1)]部分とを有する。
リシン置換アミノ酸配列とは、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列から選ばれるアミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基の一部がK(リシン)で置換された構造のアミノ酸配列である。リシン置換アミノ酸配列の具体例としては、GVGVP配列のV(バリン)残基の一部又は全部をKで置換したGKGVP配列、GVGKP配列及びGKGKP配列などがあげられ、後述のアミノ酸配列(x2)はその一例である。
【0018】
ポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数に基づき、20~60%のアミノ酸残基がリシン残基により置換されたアミノ酸配列(x2)を含んでいることが好ましい。ポリペプチド鎖(y2)が有するリシン置換アミノ酸配列は、アミノ酸配列(x2)であることがより好ましい。この場合、ポリペプチド鎖(y2)はアミノ酸配列(x2)とアミノ酸配列(x1)とで構成される。
【0019】
アミノ酸配列(x2)の具体例としては、例えばGVGVP配列に含まれるV(バリン)残基の一部をK(リシン)で置換したGKGVP配列及びGVGKP配列(いずれもリシン残基により置換されたアミノ酸残基の割合がアミノ酸残基の数に基づき20%)並びに、GVGVP配列に含まれるV(バリン)残基の全部をKで置換したGKGKP配列(リシン残基により置換されたアミノ酸残基の割合がアミノ酸残基の数に基づき40%)などがあげられる。
ポリペプチド鎖(y2)は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数に基づき20%未満のアミノ酸残基がリシン残基により置換されたアミノ酸配列、及び/又は、VPGVG配列、GVGVP配列、GPP配列及びGAP配列からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数に基づき60%超のアミノ酸残基がリシン残基により置換されたアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0020】
ポリペプチド鎖(y2)は、接着性に優れるという観点から、GVGVP配列が2個~100個連続したポリペプチド鎖中の1個のアミノ酸残基がリシン残基で置換されたポリペプチド鎖であることが好ましく、アミノ酸配列が(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列であるポリペプチド鎖であることがより好ましい。
【0021】
ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方は、ポリペプチド鎖(z)により修飾されていることが好ましい。ポリペプチド鎖(z)は、チロシン残基、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン残基(DOPA残基)及びリシン残基からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸残基からなるポリペプチド鎖である。ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方を修飾するポリペプチド鎖(z)の好適な例は、ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方を修飾するポリペプチド鎖(z)と同じである。
【0022】
<ポリペプチド鎖(y3)>
本発明の接着性ポリペプチドは、接着性及び強度の観点から、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)以外に、1個のGAGAGS配列[配列番号3のアミノ酸配列:配列(3)]からなるペプチド鎖及び2個~100個のGAGAGS配列が連続して結合したポリペプチド鎖から選ばれる少なくとも一種の(ポリ)ペプチド鎖(y3)を有することが好ましい。配列(3)中のGはグリシン、Aはアラニン、Sはセリンである。ポリペプチド鎖(y3)は、接着性に優れるという観点から、GAGAGS配列が4個連続して結合した(GAGAGS)4配列[配列番号4のアミノ酸配列:配列(4)]のポリペプチド鎖であることが好ましい。
【0023】
接着性ポリペプチドがポリペプチド鎖(y2)及びポリペプチド鎖(y3)を有し、ポリペプチド鎖(y2)が、アミノ酸配列(x2)を含む場合、GAGAGS配列の数と、アミノ酸配列(x1)の数及びアミノ酸配列(x2)の数の合計との比率[GAGAGS配列の数:アミノ酸配列(x1)の数及びアミノ酸配列(x2)の数の合計]}は、接着性に優れるという観点から4:1~1:20であることが好ましく、3:1~1:12であることがより好ましい。アミノ酸配列(x1)及び(x2)の数は、1つの配列を1個として計数する。また、GAGAGS配列の数は、「GAGAGS」を1個として計数する。
接着性ポリペプチドは、ポリペプチド鎖(y1)、ポリペプチド鎖(y2)、ポリペプチド鎖(y3)及びポリペプチド鎖(z)以外の(ポリ)ペプチド鎖を含みうる。また接着性ポリペプチドは、ポリペプチド鎖(y1)~(y3)を構成するアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含みうる。
【0024】
<接着性ポリペプチドの分子質量>
接着性ポリペプチドのSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法による分子質量は、接着性及び取り扱いの観点から、好ましくは1~300kDa、より好ましくは1~200kDa、さらに好ましくは3~150kDa、とくに好ましくは5~120kDaである。
【0025】
<ポリペプチド鎖(z)の重量割合>
ポリペプチド鎖(z)の重量割合は、接着性ポリペプチドの重量を基準として、5~50重量%であることが好ましく、10~40重量%であることがより好ましい。
接着性ポリペプチドを、後述の製造方法で得る場合[後述のポリペプチド(Y)をポリペプチド鎖(z)により修飾して得る場合]、上記の重量割合は、例えば以下の方法により求めることができる。
接着性ポリペプチドの分子質量から、ポリペプチド(Y)の分子質量(上記のSDS-PAGE法等により測定できる)を減算することで、ポリペプチド鎖(z)に相当する部分の分子質量を求め、更に接着性ポリペプチドの分子質量で除することで、上記の重量割合を求めることができる。
【0026】
<接着性ポリペプチドの製造方法>
本発明における接着性ポリペプチドは、ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)のうちの少なくとも一方を有し、必要に応じポリペプチド鎖(y3)を有するポリペプチド(Y)の、ポリペプチド鎖(y1)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、ポリペプチド鎖(y2)中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方、並びに/又は、接着性ポリペプチドの構成単位であるアミノ酸[前記ポリペプチド鎖(y1)及びポリペプチド鎖(y2)に含まれないアミノ酸]が有するカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方をポリペプチド鎖(z)により修飾することにより得られる。
【0027】
ポリペプチド(Y)は公知の方法により製造できるが、例えば、天然物からの抽出、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって得られる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。また、特許第4088341号公報の実施例に記載の方法なども適用することができる。天然物からの抽出、有機合成法及び遺伝子組み換え法はともに、ポリペプチド(Y)を得られるが、アミノ酸配列を簡便に変更でき、安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0028】
ポリペプチド鎖(z)は、例えば、以下の方法により製造することができる。ポリペプチド鎖(z)として例えばチロシン残基及びリシン残基からなるポリペプチド鎖を製造する場合、L-チロシンエチルエステル塩酸塩及びL-リシンエチルエステル塩酸塩を含むホウ酸塩緩衝液に、パパイン等の酵素を加えて反応させることにより、チロシン残基及びリシン残基からなるポリペプチド鎖を得ることができる。また、ポリペプチド鎖(z)として、チロシン残基、リシン残基及びDOPA残基からなるポリペプチド鎖を製造する場合、前記チロシン残基及びリシン残基からなるポリペプチド鎖にチロシナーゼを反応させて前記チロシン残基の一部をDOPAに変換することにより、チロシン残基、リシン残基及びDOPA残基からなるポリペプチド鎖を得ることができる。
【0029】
接着性ポリペプチドは、例えば、ポリペプチド(Y)とポリペプチド鎖(z)とを臭化リチウムを含むN-メチルピロリドン(以下「NMP」)に溶解し、窒素雰囲気下、80℃~150℃で6時間~30時間反応させた後、水を加えて水溶液(又は水分散液)とし、脱塩することにより製造することができる。前記反応温度及び反応時間は一例であり、適宜変更可能である。ポリペプチド(Y)とポリペプチド鎖(z)とを反応させると、ポリペプチド鎖(y1)若しくはポリペプチド鎖(y2)の構成単位であるアミノ酸又はその他のアミノ酸が有するアミノ基及び/又はカルボキシル基と、ポリペプチド鎖(z)の構成単位である化合物(リシン、チロシン、又は3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)の有するアミノ基又はカルボキシル基とがペプチド結合により結合し、ポリペプチド鎖(y1)、ポリペプチド鎖(y2)及び/又はその他のアミノ酸中のカルボキシル基及びアミノ基のうちの少なくとも一方にポリペプチド鎖(z)が結合する。これにより、ポリペプチド鎖(z)が結合してなる接着性ポリペプチドが得られる。
【0030】
<接着性ポリペプチドの用途>
本発明の接着性ポリペプチドは、生体組織に対する接着性に優れ、無機材料(金属、セラミック等)に対する接着性に優れ、さらに生体適合性に優れる。
このため、種々の接着性の必要な用途、例えば、後述の塗布剤、とりわけ創傷治癒用塗布剤、医療用デバイス用塗布剤に適用可能である。また、塗布することにより、接着剤としても好適である。
【0031】
[塗布剤]
本発明の塗布剤は、本発明の接着性ポリペプチドを含有してなる。本発明の塗布剤は、本発明の接着性ポリペプチドを、そのまま用いてもよい。
本発明の塗布剤は、本発明の接着性ポリペプチドを水性媒体(例えば、水)で希釈することにより調製してもよい。その場合、前記接着性ポリペプチドの濃度が、前記塗布剤の重量に基づき、好ましくは1~20重量%、さらに好ましくは2~15重量%である。
【0032】
<医療用デバイス>
本発明の医療用デバイスは、本発明の塗布剤を塗布してなる。医療用デバイスとしては、例えば、無機材料に塗布剤を塗布したもの、無機材料同士を塗布剤で接着したものが挙げられる。
具体的には、ペースメーカー、センサー、透析器、及びインプラント材(カテーテル、ステント、人工関節、人工骨等)等に本発明の塗布剤を塗布したものが挙げられる。これらのうち、インプラント材の表面に本発明の塗布剤を塗布したものが好適である。
【実施例0033】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0034】
<製造例1:ポリペプチド鎖(y2)とポリペプチド鎖(y3)とを有するポリペプチドの作製>
(SELP8Kの生産)
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345を作製した。
作製したプラスミドpPT0345を大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加え、該培養液を30℃で攪拌しながら(200rpm)培養した。培養液がOD600=0.8(吸光度計UV1700:島津製作所製を使用)となったときに、40mlの培養液を、あらかじめ42℃に温めたフラスコに移し、同じ温度で約2時間培養した。該培養体を氷上で冷却し、培養液のOD600を測定した。大腸菌を遠心分離で集めた。集菌した大腸菌からポリペプチドを取り出すために、超音波破砕(4℃、30秒×10回)をして溶菌した。
この大腸菌により産生されたタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した後、ポリフッ化ビニリデン膜にトランスファーした。その後、一次抗体にラビット抗SELP8K抗体、2次抗体に抗ラビットIgG HRP標識抗体(GEヘルスケア社製)を用いたウエスタンブロット分析を行なった。該生成物の見かけ分子質量は80kDaであった。よってSELP8K生産株は、見かけ分子質量80kDaのラビット抗SELP8K抗体反応性を有するSELP8Kを生成したことが分かった。
【0035】
(SELP8Kの精製)
上記で得たSELP8Kを、菌体溶解、遠心分離による不溶性細片の除去、及びアフィニティークロマトグラフィーにより大腸菌バイオマスから精製した。このようにして、分子質量が80kDaのポリペプチド(SELP8K)を得た。
【0036】
(SELP8Kの同定)
得られたポリペプチド(SELP8K)を下記の手順で同定した。
ラビット抗SELP8K抗体及びC末端配列の6×Hisタグに対するラビット抗6×His抗体(Roland社製)を用いたウエスタンブロットにより分析した。見かけ分子質量80kDaのタンパク質バンドが、各抗体に抗体反応性を示した。また得られたポリペプチドをアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、グリシン(43.7%)、アラニン(12.3%)、セリン(5.3%)、プロリン(11.7%)、バリン(21.2%)、及びチロシン(1.1%)に富むものであった。また、該生成物はリシンを1.5%含んでいた。下記の表1は、精製された生成物の組成と、合成遺伝子配列から推測された予測理論組成との相関関係を示す。
したがって、ポリペプチド(SELP8K)が(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列[配列番号5のアミノ酸配列:配列(5)]を13個及び(GAGAGS)4配列[配列(4)]を12個有し、これらが交互に化学結合してなるものの両端に、(GAGAGS)2配列[配列番号6のアミノ酸配列:配列(6)]が化学結合したアミノ酸配列[配列番号7のアミノ酸配列:配列(7)]のポリペプチドであることを確認した。
【0037】
【0038】
<製造例2:ポリペプチド鎖(y2)とポリペプチド鎖(y3)とを有するポリペプチドの作製>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に代えて、「SELP0KをコードしたプラスミドpPT0t364」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が82kDaのポリペプチド(SELP0K)を得た。
製造例1に記載の同定方法と同様にして、ポリペプチド(SELP0K)が(GAGAGS)2配列を18個及び(GVGVP)4GKGVP(GVGVP)3配列[配列(5)]を17個有し、これらが交互に化学結合してなる構造{配列番号8のアミノ酸配列[配列(8)]で示す構造}を有するポリペプチドであることを確認した。
【0039】
<製造例3:ポリペプチド鎖(y1)とポリペプチド鎖(y3)とを有するポリペプチドの作製>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に代えて、「SLP4.1をコードしたpSY1398-1」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が93kDaのポリペプチド(SLP4.1)を得た。
製造例1に記載の同定方法と同様にして、ポリペプチド(SLP4.1)が、GVGVP配列[配列(2)]が2個連続したポリペプチド鎖とGAGAGS配列[配列(3)]が6個連続したポリペプチド鎖が結合したアミノ酸ブロックが29個繰り返し化学結合した構造{配列番号9のアミノ酸配列[配列(9)]で示す構造}を有するポリペプチドであることを確認した。
【0040】
<製造例4:ポリペプチド鎖(y1)及びペプチド鎖(y3)を有するポリペプチドの作製>
製造例1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に代えて、「ELP1.1をコードしたプラスミドpPT0102-1」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が220kDaのポリペプチド(ELP1.1)を得た。
製造例1に記載の同定方法と同様にして、ポリペプチド(ELP1.1)が、VPGVG配列[配列(1)]が4個連続したポリペプチド鎖にGAGAGS配列[配列(3)]が1個結合し、さらにVPGVG配列[配列(1)]が8個連続したポリペプチド鎖が結合したアミノ酸ブロックが40個繰り返し化学結合した構造{配列番号10のアミノ酸配列[配列(10)]で示す構造}を有するポリペプチドであることを確認した。
【0041】
<製造例5:ポリペプチド(z-1)の作製>
L-チロシンエチルエステル塩酸塩(0.3M)及びL-リシンエチルエステル塩酸塩(0.3M)を含むホウ酸塩緩衝液(1.0M、pH9.5)を、撹拌子を備えたガラス管に入れた。これに、パパイン(富士フィルム和光純薬製)を含むホウ酸塩緩衝液を加えて混合物を得た(終濃度7.0mg/mL)。使用したパパインの酵素活性は約0.5U/gであった(pH7.5、25℃の条件下、1分間に1μmolのN-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド塩酸塩を分解する酵素量を1Uと定義する)。
混合物を800rpm、40℃で12時間撹拌した。室温に冷却後、15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド(z-1)を得た。
得られたポリペプチド(z-1)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(75%)、リシン(25%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0042】
<製造例6:ポリペプチド(z-2)の作製>
製造例5で作製したポリペプチド(z-1)を1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で3時間反応させることで、ポリペプチド(z-1)中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド(z-2)を得た。
また得られたポリペプチド(z-2)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(50%)、リシン(25%)、DOPA(25%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0043】
<製造例7:ポリペプチド(z-3)の作製>
製造例5で作製したポリペプチド(z-1)を1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で12時間反応させることで、ポリペプチド鎖(z-1)中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド鎖(z-3)を得た。
また得られたポリペプチド(z-3)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(30%)、リシン(25%)、DOPA(45%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0044】
<製造例8:ポリペプチド(z-4)の作製>
製造例5で作製したポリペプチド(z-1)を1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で20時間反応させることで、ポリペプチド鎖(z-1)中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド鎖(z-4)を得た。
また得られたポリペプチド(z-4)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(25%)、リシン(25%)、DOPA(50%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0045】
<製造例9:ポリペプチド(z-5)の作製>
L-チロシンエチルエステル塩酸塩(0.3M)及びL-リシンエチルエステル塩酸塩(0.1M)を含むホウ酸塩緩衝液(1.0M、pH9.5)を、撹拌子を備えたガラス管に入れた。これに、パパイン(富士フィルム和光純薬製)を含むホウ酸塩緩衝液を加えて混合物を得た(終濃度7.0mg/mL)。使用したパパインの酵素活性は約0.5U/gであった(pH7.5、25℃の条件下、1分間に1μmolのN-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド塩酸塩を分解する酵素量を1Uと定義する)。
混合物を800rpm、40℃で12時間撹拌した。室温に冷却後、15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の中間体ポリペプチドを得た。
この中間体ポリペプチドを1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で3時間反応させることで、中間体ポリペプチド鎖中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド鎖(z-5)を得た。
また得られたポリペプチド(z-5)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(65%)、リシン(10%)、DOPA(25%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0046】
<製造例10:ポリペプチド(z-6)の作製>
L-チロシンエチルエステル塩酸塩(0.3M)及びL-リシンエチルエステル塩酸塩(0.2M)を含むホウ酸塩緩衝液(1.0M、pH9.5)を、撹拌子を備えたガラス管に入れた。これに、パパイン(富士フィルム和光純薬製)を含むホウ酸塩緩衝液を加えて混合物を得た(終濃度7.0mg/mL)。使用したパパインの酵素活性は約0.5U/gであった(pH7.5、25℃の条件下、1分間に1μmolのN-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド塩酸塩を分解する酵素量を1Uと定義する)。
混合物を800rpm、40℃で12時間撹拌した。室温に冷却後、15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の中間体ポリペプチドを得た。
この中間体ポリペプチドを1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で3時間反応させることで、中間体ポリペプチド鎖中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド鎖(z-6)を得た。
また得られたポリペプチド(z-6)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(55%)、リシン(20%)、DOPA(25%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0047】
<製造例11:ポリペプチド(z-7)の作製>
L-チロシンエチルエステル塩酸塩(0.1M)及びL-リシンエチルエステル塩酸塩(0.3M)を含むホウ酸塩緩衝液(1.0M、pH9.5)を、撹拌子を備えたガラス管に入れた。これに、パパイン(富士フィルム和光純薬製)を含むホウ酸塩緩衝液を加えて混合物を得た(終濃度7.0mg/mL)。使用したパパインの酵素活性は約0.5U/gであった(pH7.5、25℃の条件下、1分間に1μmolのN-ベンゾイル-DL-アルギニン-p-ニトロアニリド塩酸塩を分解する酵素量を1Uと定義する)。
混合物を800rpm、40℃で12時間撹拌した。室温に冷却後、15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥した。凍結乾燥後の中間体ポリペプチドを得た。
この中間体ポリペプチドを1g/Lとなるようにリン酸緩衝液(20mMボロン酸、150mM NaCl、0.1Mアスコルビン酸、0.1Mリン酸緩衝液、pH7)に懸濁した。この溶液にチロシナーゼ(シグマ社製)を終濃度が1300U/mLとなるように加え、25℃で3時間反応させることで、中間体ポリペプチド鎖中のチロシンをDOPAに変換した。15000g、4℃で15分間遠心分離することによって沈殿物を収集した。粗生成物を4℃のミリQ水で2回洗浄し、遠心分離し、凍結乾燥してポリペプチド鎖(z-7)を得た。
また得られたポリペプチド(z-7)をアミノ酸分析に供した結果、該生成物が、チロシン(25%)、リシン(50%)、DOPA(25%)からなるポリペプチドであることを確認した。
【0048】
<実施例1>
製造例1で製造したポリペプチド(SELP8K)1gと、製造例6で製造したポリペプチド(z-2)1gとを、1mmolの臭化リチウムを含むNMP(20mL)に溶解し、窒素雰囲気下、ポリリン酸(3g)を含む、撹拌子及びコックを備えた200mLフラスコに入れた。窒素雰囲気下、120℃で24時間溶液を撹拌した。室温に冷却後、混合物を水に注ぎ、1時間撹拌した。水溶液から透析膜を用いて脱塩し、凍結乾燥することで分子質量が120kDaのポリペプチド(A-1)[ポリペプチド(A-1)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0049】
<実施例2>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-3)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-2)[ポリペプチド(A-2)の重量に対するポリペプチド(z-3)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0050】
<実施例3>
製造例2で製造したポリペプチド(SELP0K)1gと製造例6で製造したポリペプチド(z-2)1gとを、1mmolの臭化リチウムを含むNMP(20mL)に溶解し、窒素雰囲気下、ポリリン酸(3g)を含む、撹拌子及びコックを備えた200mLフラスコに入れた。窒素雰囲気下、120℃で24時間溶液を撹拌した。室温に冷却後、混合物を水に注ぎ、1時間撹拌した。水溶液から透析膜を用いて脱塩し、凍結乾燥することで分子質量が120kDaのポリペプチド(A-3)[ポリペプチド(A-3)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、32重量%]を得た。
【0051】
<実施例4>
実施例3において、「ポリペプチド鎖(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-3)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-4)[ポリペプチド(A-4)の重量に対するポリペプチド(z-3)の重量割合は、32重量%]を得た。
【0052】
<実施例5>
製造例3で製造したポリペプチド(SLP4.1)1gと製造例6で製造したポリペプチド(z-2)1gとを、1mmolの臭化リチウムを含むNMP(20mL)に溶解し、窒素雰囲気下、ポリリン酸(3g)を含む、撹拌子及びコックを備えた200mLフラスコに入れた。窒素下、120℃で24時間溶液を撹拌した。室温に冷却後、混合物を水に注ぎ、1時間撹拌した。水溶液から透析膜を用いて脱塩し、凍結乾燥することで分子質量が110kDaのポリペプチド(A-5)[ポリペプチド(A-5)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、15重量%]を得た。
【0053】
<実施例6>
実施例5において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-3)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が110kDaのポリペプチド(A-6)[ポリペプチド(A-6)の重量に対するポリペプチド(z-3)の重量割合は、15重量%]を得た。
【0054】
<実施例7>
製造例4で製造したポリペプチド(ELP1.1)1gと製造例6で製造したポリペプチド(z-2)1gとを、1mmolの臭化リチウムを含むNMP(20mL)に溶解し、窒素下、ポリリン酸(3g)を含む、撹拌子及びコックを備えた200mLフラスコに入れた。窒素下、120℃で24時間溶液を撹拌した。室温に冷却後、混合物を水に注ぎ、1時間撹拌した。水溶液から透析膜を用いて脱塩し、凍結乾燥することで分子質量が240kDaのポリペプチド(A-7)[ポリペプチド(A-7)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、8重量%]を得た。
【0055】
<実施例8>
実施例7において、「ポリペプチド鎖(z-2)1g」に変えて、「ポリペプチド鎖(z-3)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が240kDaのポリペプチド(A-8)[ポリペプチド(A-8)の重量に対するポリペプチド(z-3)の重量割合は、8重量%]を得た。
【0056】
<実施例9>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-1)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-9)[ポリペプチド(A-9)の重量に対するポリペプチド(z-1)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0057】
<実施例10>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-4)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-10)[ポリペプチド(A-10)の重量に対するポリペプチド(z-4)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0058】
<実施例11>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-5)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-11)[ポリペプチド(A-11)の重量に対するポリペプチド(z-5)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0059】
<実施例12>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-6)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-12)[ポリペプチド(A-12)の重量に対するポリペプチド(z-6)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0060】
<実施例13>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-7)1g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が120kDaのポリペプチド(A-13)[ポリペプチド(A-13)の重量に対するポリペプチド(z-7)の重量割合は、33重量%]を得た。
【0061】
<実施例14>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-2)0.5g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が100kDaのポリペプチド(A-14)[ポリペプチド(A-14)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、20重量%]を得た。
【0062】
<実施例15>
実施例1において、「ポリペプチド(z-2)1g」に代えて、「ポリペプチド(z-2)0.3g」を用いたこと以外は同様にして、分子質量が90kDaのポリペプチド(A-15)[ポリペプチド(A-15)の重量に対するポリペプチド(z-2)の重量割合は、11重量%]を得た。
【0063】
<実施例16>
実施例1で製造したポリペプチド(A-1)を10重量%となるように純水で溶解し、塗布剤を調製した。当該塗布剤について、以下の方法により、In vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。
【0064】
[In vitro接着力の評価試験]
油圧式万能材料試験機(UTM)の測定部位にブタの皮膚を固定し、この上に実施例16の塗布剤を100μL塗布し、37℃で10分間静置後、接着強度を測定した。接着強度は、上記試験機に固定したブタの皮膚を速度300mm/分で引っ張り、固定した皮膚が剥離したときの強度を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
[金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験]
実施例16の塗布剤5μLを金属板(アルミニウム板、鉄板、及びチタン板)及びセラミック板表面に滴下し、室温にて30分の減圧乾燥を行った。
次いで、各板を蒸留水に浸したまま、45回/分の振とうで30分間洗浄を行い、再度、室温にて30分減圧乾燥を行った。乾燥後、各板を0.25%クマシーブリリアントブルー(CBB)R-250溶液(バイオラッド社製)に1時間浸し、次いで蒸留水で各板を数回洗浄した。CBBによる染色で青色になった部分を撮影し、その染色面積をImageJ画像解析で測定した。測定した染色面積は、比較例5[ポリペプチド(A-1)に代えてフィブリングルーを用いた例]の染色面積の測定値を1.00とした場合の相対比を算出した。結果を表3に示す。
ポリペプチドが各板表面に付着していれば、CBB染色による青色部分が確認されるので、上記相対比が大きければ接着性は優れている。
【0066】
<実施例17~30>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「ポリペプチド(A-2)~(A-15)」を用いたこと以外は、実施例16と同様の操作を行って実施例17~30に係る塗布剤を調製した。各例の塗布剤について、実施例16と同じ方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0067】
<比較例1>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例1で得られたポリペプチド(SELP8K)」を用いたこと以外は、実施例16と同様に操作して、比較例1に係る塗布剤を調製した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0068】
<比較例2>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例2で得られたポリペプチド(SELP0K)」を用いたこと以外は、実施例16と同様に操作して、比較例2に係る塗布剤を調製した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0069】
<比較例3>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例3で得られたポリペプチド(SLP4.1)」を用いたこと以外は、実施例16と同様に操作して、比較例3に係る塗布剤を調製した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0070】
<比較例4>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例4で得られたポリペプチド(ELP1.1)」を用いたこと以外は、実施例16と同様に操作して、比較例4に係る塗布剤を調製した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0071】
<比較例5>
有効成分としてフィブリノゲンを8重量%含む「フィブリングルー(べリプラストPコンビセット:CSLベーリング社製)」を塗布剤として使用して比較例5に係る評価を実施した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法でIn vitro接着力の評価試験、並びに、金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0072】
<比較例6>
実施例16において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「ウシ血清アルブミン(富士フィルム和光純薬社製)」を用いたこと以外は、実施例16と同様に操作して、比較例6に係る塗布剤(ウシ血清アルブミンの濃度は10重量%)を調製した。当該塗布剤を用いて実施例16と同様の方法で金属及びセラミック材料に対する接着性の評価試験を行った。結果を表3に示す。
【0073】
表2~表4中の記号は以下のとおりである。
A-1:実施例1で製造したポリペプチド(A-1)
A-2:実施例2で製造したポリペプチド(A-2)
A-3:実施例3で製造したポリペプチド(A-3)
A-4:実施例4で製造したポリペプチド(A-4)
A-5:実施例5で製造したポリペプチド(A-5)
A-6:実施例6で製造したポリペプチド(A-6)
A-7:実施例7で製造したポリペプチド(A-7)
A-8:実施例8で製造したポリペプチド(A-8)
A-9:実施例9で製造したポリペプチド(A-9)
A-10:実施例10で製造したポリペプチド(A-10)
A-11:実施例11で製造したポリペプチド(A-11)
A-12:実施例12で製造したポリペプチド(A-12)
A-13:実施例13で製造したポリペプチド(A-13)
A-14:実施例14で製造したポリペプチド(A-14)
A-15:実施例15で製造したポリペプチド(A-15)
SELP8K:製造例1で製造したポリペプチド
SELP0K:製造例2で製造したポリペプチド
SLP4.1:製造例3で製造したポリペプチド
ELP1.1:製造例4で製造したポリペプチド
z-1:製造例5で製造したポリペプチド(z-1)
z-2:製造例6で製造したポリペプチド(z-2)
z-3:製造例7で製造したポリペプチド(z-3)
z-4:製造例8で製造したポリペプチド(z-4)
z-5:製造例9で製造したポリペプチド(z-5)
z-6:製造例10で製造したポリペプチド(z-6)
z-7:製造例11で製造したポリペプチド(z-7)
GAGAGS:(x1)+(x2):GAGAGS配列の数:アミノ酸配列(x1)の数及びアミノ酸配列(x2)の数の合計
【0074】
【0075】
【0076】
<実施例31:ポリペプチドのIn vivo止血作用・炎症反応の評価>
(止血作用の評価)
白ウサギの背中をバリカン及び脱毛剤を使用して脱毛し、メスで5cmサイズの傷をつけて試験体とした。試験体の傷の上に500mgのポリペプチド(A-1)を塗布し、10分間静置した。静置後、あらかじめ重量を測定したガーゼを傷の上に載せて10秒間、軽く押し付けた。傷の上に載せた後(処置後)のガーゼの重量を測定し、処置の前後のガーゼの重量差を算出して、止血性能を評価した。重量差は小さいほうが、止血性能は高い。
【0077】
(炎症反応の評価)
また、試験体について、生体適合性の評価として、炎症の発生状況を観察した。観察項目としては、試験試料周囲組織における出血、変色の有無とその程度(広がり、厚さなど)を肉眼により観察した。結果を表4に示す。なお、表中、「炎症反応」の欄には、炎症反応があるものを「+」、炎症反応がないものを「-」で示す。
【0078】
<実施例32~45>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「ポリペプチド(A-2)~(A-15)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、実施例32~45に係るポリペプチドの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0079】
<比較例7>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例1で得られたポリペプチド(SELP8K)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、比較例7に係るポリペプチドの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0080】
<比較例8>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例2で得られたポリペプチド(SELP0K)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、比較例8に係るポリペプチドの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0081】
<比較例9>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例3で得られたポリペプチド(SLP4.1)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、比較例9に係るポリペプチドの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0082】
<比較例10>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「製造例4で得られたポリペプチド(ELP1.1)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、比較例10に係るポリペプチドの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0083】
<比較例11>
実施例31において、「ポリペプチド(A-1)」に代えて、「フィブリングルー(べリプラストPコンビセット:CSLベーリング社製)」を用いたこと以外は、実施例31と同様に操作し、フィブリングルーの止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0084】
<比較例12>
実施例31において、「試験体の傷の上に500mgのポリペプチド(A-1)を塗布した」ことに代えて、「縫合糸を用いて傷口を縫合した」こと以外は、実施例31と同様に操作し、縫合糸で縫合することによる止血性能を評価した。結果を表4に示す。
【0085】
【0086】
表1~4の結果から、本発明の接着性ポリペプチドは、比較のものと比べて、生体組織に対する接着性に優れ、さらに無機材料(金属、セラミック等)に対する接着性に優れていることがわかった。また、本発明の接着性ポリペプチドは、比較のものと比べて、止血性能が高く、生体適合性にも優れていることもわかった。
本発明の接着性ポリペプチドは、生体組織、金属、セラミック等との接着性が高く、さらに止血性能が高いことがわかる。したがって、本発明の接着性ポリペプチド、並びに当該接着性ポリペプチドを含む塗布剤及び接着剤は、生体組織用の接着剤や止血剤として使用することができる。また、センサーや医療用デバイス(人工骨・ステント等)等のインプラント材の表面コーティング剤として使用することで、これらのデバイスの生体適合性を向上させうる。