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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096689
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】放射線検出フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
G01T1/20 B
G01T1/20 A
G01T1/20 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209789
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 歩美
(72)【発明者】
【氏名】三好 弘一
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC17
2G188CC20
2G188CC22
2G188DD11
2G188DD42
2G188DD44
(57)【要約】
【課題】放射線検出フィルムの可撓性を高める。
【解決手段】放射線検出フィルムの製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルムの製造方法であって、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16を含有する紙シート10を準備する工程と、紙シート10を、フィルム基材8と重ねて、熱圧加工し、フィルム基材8にシンチレータ成分を転写する工程とを含む。これにより、従来のシンチレータ層を基材に塗布する方法と異なり、接着のためのバインダー類を使用しないため、放射線検出フィルムの薄型化が容易で、また柔軟性を発揮させ易くできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルムの製造方法であって、
シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有する紙シートを準備する工程と、
前記紙シートを、フィルム基材と重ねて、熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程と、
を含む、放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートを準備する工程が、ケイ酸粒子を繊維の表面に凝集させて抄紙する湿式抄紙法により作成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成する工程、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化する工程である放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートを準備する工程が、抄紙シートにコーティング液を塗布するコーティング法により作成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成する工程、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化する工程である放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、
前記フィルム基材を二枚用意し、前記紙シートの両面に重ねて配置して熱圧加工する工程を含む放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材が透光性を有する放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記フィルム基材がPET製である放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、さらに、前記シンチレータ成分が転写された放射線検出フィルムを複数枚積層する工程を含む放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、80℃以上で行われてなる放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、
平板状又はロール状のフィルム基材に対して熱圧加し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程である放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記シンチレータが、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、
前記複合体は、包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法により前記シリカナノ粒子内部または表面に固定されてなる放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記紙シートを準備する工程が、
有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、前記包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子を前記有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により前記有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、前記カップリング剤による芳香環が内部または表面に固定されたシリカナノ粒子を形成して、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、
前記第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固してシンチレータ固定化ケイ酸粒子を得る加熱乾固工程と、
湿式抄紙法により形成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成して、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化して紙シートを得る工程と
を含む放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムの製造方法であって、
前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、
珪石粒子、及び該粒子の表面上に固定化された前記シンチレータを含有し、
前記珪石粒子の平均粒径が1.5~20μmであり、
前記シンチレータが有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子であり、且つ前記シリカナノ粒子の平均粒子径が30~400nmである放射線検出フィルムの製造方法。
【請求項13】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルムであって、
一面に、シンチレータ固定化ケイ酸粒子が熱転写された転写面を有するフィルム基材を備える放射線検出フィルム。
【請求項14】
請求項13に記載の放射線検出フィルムであって、
前記転写面において、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子と前記フィルム基材との間にバインダ層を有しない放射線検出フィルム。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の放射線検出フィルムであって、
前記転写面において、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が縞状又はタイル状に前記フィルム基材の一面を被覆してなる放射線検出フィルム。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムであって、
前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、液体シンチレータに使用されている有機分子と有機シンチレータを粒子担持して固定化されてなる放射線検出フィルム。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムであって、
前記放射線検出フィルムの厚さが、50μm以下である放射線検出フィルム。
【請求項18】
請求項13~17のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムであって、
前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、
珪石粒子、及び該粒子の表面上に固定化された前記シンチレータを含有し、
前記珪石粒子の平均粒径が1.5~20μmであり、
前記シンチレータが有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子であり、且つ前記シリカナノ粒子の平均粒子径が30~400nmである放射線検出フィルム。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムであって、
前記フィルム基材が透光性を有する放射線検出フィルム。
【請求項20】
請求項19に記載の放射線検出フィルムであって、
前記フィルム基材がPET製である放射線検出フィルム。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の放射線検出フィルムであって、
37kBq/mlの放射能濃度のトリチウムの低エネルギーβ線で励起された発光が、液体シンチレーションカウンタによる測定で100CPM以上である放射線検出フィルム。
【請求項22】
請求項19~21のいずれか一項に記載の放射線検出フィルムを複数枚積層してなる放射線検出フィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルム及びその製造方法並びに放射線検出フィルム積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を検出するシンチレータとして、液状の物やペレット状の物が知られている。液体のシンチレータは、大量に使用する結果、大量に廃棄しなければならないという問題があった。一方、ペレット型の放射線検出用プラスチックシンチレータとしては、特許文献1に開示されるものが挙げられる。このようなペレット型放射線検出用プラスチックシンチレータは高価であった。
【0003】
これに対して本願発明者は、粒子型のシンチレータ固定化ケイ酸粒子を開発した(特許文献2)。このシンチレータ固定化ケイ酸粒子は、平均粒径が0.1~100μmであるケイ酸粒子、及び該粒子の表面上に、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子シンチレータ、及びバインダー、及びシンチレータより発せられる蛍光を増強する物質を接着剤を介してケイ酸粒子に固定化したものである。このシンチレータ固定化ケイ酸粒子を材料として放射線検出材を得ることで、より安価に作製でき、且つ放射線検出感度を高めることができる。
【0004】
一方で、このようなペレット型や粒子型では扱い難いことから、シート型とした放射線検出シートも提案されている(特許文献3)。しかしながら、従来の放射線検出シートは十分な可撓性が得られないという問題があった。また放射線検出材として、現行ではイメージングプレート(IP)やプラスチックシンチレータと呼ばれる板状の検出材が広く使用されている。これらはいずれも非常に高価である上に、放射性物質が付着した場合は使い捨てにせざるを得ず、捨てる際にも廃棄が困難という問題があった。また、これらは薄いものでも約0.5mm程度と厚みがあり、扱い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-131476号公報
【特許文献2】特許6590185号公報
【特許文献3】特開2019-184281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、可撓性を高めて扱い易くした放射線検出フィルム及びその製造方法並びに放射線検出フィルム積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の第1の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルムの製造方法であって、シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有する紙シートを準備する工程と、前記紙シートを、フィルム基材と重ねて、熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程とを含む。これにより、従来のシンチレータ層を基材に塗布する方法と異なり、接着のためのバインダー類を使用しないため、放射線検出フィルムの薄型化が容易で、また柔軟性を発揮させ易くできる。
【0008】
また、第2の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記に加えて、前記紙シートを準備する工程が、ケイ酸粒子を繊維の表面に凝集させて抄紙する湿式抄紙法又はコーティング法により作成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成する工程、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化する工程である。
【0009】
さらに、第3の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記紙シートを準備する工程が、抄紙シートにコーティング液を塗布するコーティング法により作成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成する工程、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化する工程である。
【0010】
さらに、第4の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、前記フィルム基材を二枚用意し、前記紙シートの両面に重ねて配置して熱圧加工する工程を含む。これにより、2枚のフィルム基材に対してそれぞれ転写面を形成することが可能となり、1枚の紙シートから2枚の放射線検出フィルムを製造して製造効率を向上できる利点が得られる。
【0011】
さらにまた、第5の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記フィルム基材が透光性を有する。これにより、透光性を有する放射線検出フィルムが得られ、これを複数枚積層することで発光強度を増すことが可能となる。
【0012】
さらにまた、第6の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記フィルム基材がPET製である。
【0013】
さらにまた、第7の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、さらに、前記シンチレータ成分が転写された放射線検出フィルムを複数枚積層する工程を含む。これにより、透光性を有する放射線検出フィルムが得られ、これを複数枚積層することで発光強度を増すことが可能となる。
【0014】
さらにまた、第8の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、80℃以上で行われるものである。
【0015】
さらにまた、第9の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記紙シートをフィルム基材と重ねて熱圧加工し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程が、平板状又はロール状のフィルム基材に対して熱圧加し、前記フィルム基材にシンチレータ成分を転写する工程である。
【0016】
さらにまた、第10の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記シンチレータが、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、前記複合体は、包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法により前記シリカナノ粒子内部または表面に固定されている。
【0017】
さらにまた、第11の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記紙シートを準備する工程が、有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、前記包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子を前記有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、前記第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により前記有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、前記カップリング剤による芳香環が内部または表面に固定されたシリカナノ粒子を形成して、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、前記第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固してシンチレータ固定化ケイ酸粒子を得る加熱乾固工程と、湿式抄紙法により形成するシートに、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を含有するコーティング層を形成して、又は前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子を担持させた繊維を含む原料を、湿式抄紙法によりシート化して紙シートを得る工程とを含む。
【0018】
さらにまた、第12の形態に係る放射線検出フィルムの製造方法は、上記いずれかに加えて、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、珪石粒子、及び該粒子の表面上に固定化された前記シンチレータを含有し、前記珪石粒子の平均粒径が1.5~20μmであり、前記シンチレータが有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子であり、且つ前記シリカナノ粒子の平均粒子径が30~400nmである。
【0019】
さらにまた、第13の形態に係る放射線検出フィルムは、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出フィルムであって、一面に、シンチレータ固定化ケイ酸粒子が熱転写された転写面を有するフィルム基材を備える。上記構成により、従来のシンチレータ層を基材に塗布する方法と異なり、接着のためのバインダー類を使用しないため、放射線検出フィルムの薄型化が容易で、また柔軟性を発揮させ易くできる。
【0020】
さらにまた、第14の形態に係る放射線検出フィルムは、上記構成に加えて、前記転写面において、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子と前記フィルム基材との間にバインダ層を有しない。
【0021】
さらにまた、第15の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記転写面において、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が縞状又はタイル状に前記フィルム基材の一面を被覆している。上記構成により、トリチウムの低エネルギーβ線を効率よく検出できる
【0022】
さらにまた、第16の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、液体シンチレータに使用されている有機分子と有機シンチレータを粒子担持して固定化されている。
【0023】
さらにまた、第17の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記放射線検出フィルムの厚さが、50μm以下である。
【0024】
さらにまた、第18の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記シンチレータ固定化ケイ酸粒子が、珪石粒子、及び該粒子の表面上に固定化された前記シンチレータを含有し、前記珪石粒子の平均粒径が1.5~20μmであり、前記シンチレータが有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子であり、且つ前記シリカナノ粒子の平均粒子径が30~400nmである。
【0025】
さらにまた、第19の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記フィルム基材が透光性を有する。上記構成により、透光性を有する放射線検出フィルムが得られ、これを複数枚積層することで発光強度を増すことが可能となる。
【0026】
さらにまた、第20の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、前記フィルム基材がPET製である。
【0027】
さらにまた、第21の形態に係る放射線検出フィルムは、上記いずれかの構成に加えて、37kBq/mlの放射能濃度のトリチウムの低エネルギーβ線で励起された発光が、液体シンチレーションカウンタによる測定で100CPM以上である。
【0028】
さらにまた、第22の形態に係る放射線検出フィルム積層体は、上記いずれかの放射線検出フィルムを複数枚積層して構成される。上記構成により、透光性を有する放射線検出フィルムを複数枚積層して発光強度を増し、放射線の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1に係る放射線検出フィルムの模式断面図である。
図2図2A図2Cは実施形態1に係る放射線検出フィルムの製造方法を示す模式断面図である。
図3】実施形態2に係る放射線検出フィルムの製造方法を示す模式断面図である。
図4】実施形態3に係る放射線検出フィルムの製造方法を示す模式断面図である。
図5】実施形態4に係る放射線検出フィルムの製造方法を示す模式断面図である。
図6】実施例1に係る放射線検出フィルムと、熱転写前のフィルム基材と、珪石粉末のXRDパターンを示すグラフである。
図7】放射線検出フィルムと、熱転写後の紙シートのXRDパターンを示すグラフである。
図8】放射線検出フィルムを280nmで励起した際の表面蛍光を示すグラフである。
図9図9Aは紙シートの低倍率のSEM写真、図9Bは高倍率のSEM写真、図9Cはさらに高倍率のSEM写真、図9D図9Cにおける緑色枠内の定性スペクトル、図9Eは青色枠内の定性スペクトル、図9Fは赤色枠内の定性スペクトル、図9Gは紫色枠内の定性スペクトル、図9H図9D図9Gの元素分析結果である。
図10図10Aは放射線検出フィルムのSEM写真、図10Bはフィルム基材のSEM写真、図10C図10Aの拡大SEM写真、図10D図10Cにおける緑色枠内の定性スペクトル、図10Eは青色枠内の定性スペクトル、図10Fは赤色枠内の定性スペクトル、図10Gは紫色枠内の定性スペクトル、図10H図10D図10Gの元素分析結果である。
図11】(a)は放射線検出フィルムを内部に巻いたガラスバイアル、(b)は空気中のラドンガスを静電的に吸着した風船にシンチレーションペーパーを巻きつけて内部に入れたガラスバイアルの写真である。
図12図12Aは放射線検出フィルムのSEM写真、図12B図12Aにおける緑色枠内の定性スペクトル、図12Cは青色枠内の定性スペクトル、図12D図12B図12Cの元素分析結果である。
図13】ガラスバイアルにマントルを入れた写真である。
図14図14Aはマントルに放射線検出フィルムを被せた写真、図14Bはシンチレーション光のCCD画像を重ねた画像である。
図15図15Aは放射線検出フィルムを5枚に切断した状態、図15Bは各切断片をガラスバイアルのトリチウム水溶液に浸す様子を示す模式図である。
図16】計数率の測定結果を示すグラフである。
図17】本発明の一実施形態に係る紙シートを示す模式断面図である。
図18】本発明の他の実施形態に係る紙シートを示す模式断面図及び要部拡大断面図である。
図19】本発明の他の実施形態に係る紙シートの模式断面図である。
図20】本発明の一実施形態に係る紙シートの製造工程を示す斜視図である。
図21】本発明の他の実施形態に係る紙シートの製造工程を示す概略工程図である。
図22】本発明の他の実施形態に係る紙シートの拡大断面図である。
図23】放射線検出フィルム及び熱転写を行っていないフィルム基材の表面を、波長365~375nmの紫外LED光の照射の有無に分けて撮影した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える紙シートとその製造方法を例示するものであって、本発明は放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える紙シートとその製造方法を以下のもの及び方法に特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0031】
実施形態1に係る放射線検出フィルムは、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出材の一種であり、シンチレーションフィルムとも呼ばれる。放射線検出材は、現行ではイメージングプレートやプラスチックシンチレータと呼ばれる板状の検出材が広く使用されている。これらはいずれも非常に高価である上に、放射性物質が付着した場合使い捨てにせざるを得ず、捨てる際にも廃棄が困難であるという問題があった。また、これらは薄いものでも約0.5mm程度と厚みがあり、薄くフレキシブル性を持ちながら十分な検出性能を持つ製品はこれまで存在しなかった。
【0032】
そこで本実施形態に係る放射線検出フィルムでは、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16を抄紙法等によりシート化し、この紙シート10をフィルム等のフィルム基材8と重ねて熱圧加工することで、フィルム基材8側にシンチレータ成分を転写することで、透明な放射線検出フィルムを得ている。
【0033】
この放射線検出フィルムは、従来のシンチレータ層塗布法と異なり、シンチレータ層をフィルム基材8に接着するためのバインダー類を使用しないため、薄型化が容易で、柔軟性を発揮させ易くなる。さらに、シンチレータを含む粒子が基材表面に露出している。このため、トリチウムの低エネルギーβ線によりシンチレータが発光することで液体シンチレーションカウンタで検出できる。特に50μm以下のフィルムに放射線検出機能を持たせることができるため、高い可撓性により外形を変形させ易くして、測定したい対象物を包んで使用する他、机の上に引いて放射能の分布を確認することや、ロール状に巻き付けて使用することも可能となる。
【0034】
また、薄膜化により廃棄量を低減する効果も得られる。すなわち、薄くしたことで廃棄物の発生量もわずかで済む。
【0035】
さらに本実施形態に係る放射線検出フィルムでは、有機シンチレータを非常に簡便な方法でフィルム基材8に固定化することができる。また固定化するフィルム基材8は、透明なフィルムに限らず、紙などの不透明なシート状のものや、容器など立体形状のものとすることもでき、さらに利便性を高められる。特にシート状の基材に限らず、容器表面に固定化できれば、容器自体を検出材とすることも可能である。
【0036】
さらにまたフィルム基材8に透光性の基材を採用することで、透光性を持たせることができる。透明性が高い放射線検出フィルムとすることで、フィルム基材8が発光の伝搬を阻害せず、従って、例えば、ガラスバイアル内のトリチウム水に浸漬した場合、同時に多くの放射線検出フィルムを加えて浸漬することが可能となり、トリチウムとの接触面積が増加することにより発光強度を増すことができる。この様子を図16に示す。この図において、横軸が放射線検出フィルムの枚数が1枚、2枚、3枚、4枚、5枚の場合に相当する。
【0037】
加えて、薄黄白色のシンチレータシリカ珪石粉末を圧着することによって、透明なフィルムに付着させることができる。また、そのように圧着されて形成したシンチレーションフィルムでもってトリチウムのβ線を検出することが可能となる。トリチウムの飛程距離は短く、プラスチック製シンチレータでは表面のみで検出される。本実施形態に係る放射線検出フィルムでは、シンチレータとなるシリカ粒子が縞状に付いていること、またこのシンチレータシリカ珪石粉末はその表面が親水性であることから、より多くのトリチウムがシンチレータ近傍にまで接触し、シンチレータが発光してシンチレーション光を発することができる。
【0038】
さらに、シンチレータを含む粒子が基材表面に露出していることから、トリチウムの低エネルギーβ線によりシンチレータが発光することでこれを検出できる。
【0039】
さらに加えて、マントルや空気中の埃に付着したラドンガスからのアルファ線を容易に検出できるという特性も得られる。
(放射線検出フィルム)
【0040】
放射線検出フィルムを図1の模式断面図に示す。この図に示す放射線検出フィルムは、フィルム基材8で構成される。フィルム基材8の一面(図1において上面)は、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16が熱転写された転写面としている。シンチレータ固定化ケイ酸粒子16とフィルム基材8との間には、接着剤のようなバインダ層を有しない。このように有機樹脂製接着剤のようなバインダ層を用いることなく、熱転写によりシンチレータ固定化ケイ酸粒子16を転写面に固定することで、放射線検出フィルムの柔軟性を発揮できる。また放射線検出フィルムの薄型化も実現される。薄型化により、フレキシブル性がさらに向上され、形状の可変や追従性も向上される。例えば空気中のラドンガスが静電的に付着する風船に、予め放射線検出フィルムを巻き付けておき、ラドンガスの検出に利用することができる。また、放射線検出フィルムをガラスバイアルの内壁を覆うことで、簡単にシンチレーションバイアルを構成できる。これらの発光(シンチレーション光)はシンチレーションカウンタを使用してそれらの放射線を容易に測定できる。さらに薄膜の放射線検出フィルムを生地として、ベータ線やアルファ線検出用のウエアラブル検出器に応用することも可能となる。
【0041】
転写面において、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16は厚さが均一な層状となってフィルム基材8の一面を覆っているのでなく、図1に示すようにシンチレータ固定化ケイ酸粒子16が部分的に存在している状態となっている。シンチレータ固定化ケイ酸粒子16は、縞状又はタイル状にフィルム基材8の一面を部分的に被覆している状態となっている。いいかえると、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16は、フィルム基材8の一面を完全に覆っているのでなく、部分的にフィルム基材8が露出した状態となっている。このような状態とすることで、フィルム基材8の持つ可撓性を十分に発揮させ、接着剤等のバインダによって柔軟性を低下させる事態を回避できる。また、転写面の大半はシンチレータ固定化ケイ酸粒子16が存在しているため、放射線を検出して発光する機能が阻害されることはない。また、シンチレータを含む粒子が基材表面に露出しているため、トリチウムの低エネルギーβ線によりシンチレータが発光することで液体シンチレーションカウンタで検出できる効果がある。
(フィルム基材8)
【0042】
フィルム基材8は、透光性を有することが好ましい。これにより、透光性を有する放射線検出フィルムが得られる。また透光性を有する放射線検出フィルムを複数枚積層して放射線検出フィルム積層体とすることで、励起光の光量を増し、放射線検出時の発光強度を増すことが可能となる。すなわち、透明とすることで放射線検出フィルムの枚数を重ねても、各放射線検出フィルムで検出された放射線の発光を透過させることができる。これによって高感度検出が可能となる。例えばトリチウム(3H)水を検出するに際して、トリチウム水との接触面積を増やすことで検出効率を枚数に応じて増加させることが可能となる。従来はトリチウム水の検出に液体シンチレータを用いていたことから、液体シンチレータ廃液が大量に発生するという問題があった。またシンチレータ使用時には最大50%までしかトリチウム水を含むことができないという問題もあった。これに対して本実施形態に係る放射線検出フィルムをトリチウム水に直接浸すことで、トリチウムからのβ線を測定できる。また従来の液体シンチレータでは、溶媒としてトルエン等の有機分子が使用されている。これに対して本実施形態では、トルエンの代わりに安息香酸を使用してシリカ粒子を担持して固定化している。
【0043】
さらに透明としたことで、放射線検出フィルムで覆った内部の状態を目視で確認できる。同時に、CCDカメラ等のイメージセンサを用いてシンチレーション光画像を得ることもできる。
【0044】
フィルム基材8は、シンチレーション光に対して透明であれば材質は特に限定されず、例えばPET、PE、PP、PVA、PC、PVC、PS、PAN、EVA、EVOH、EMAA、PA、ガラス、金属、再生セルロース、セルロース誘導体、グラシン紙等が利用できる。中でもPETは、透明度が高く可撓性に優れ、安価で入手容易であることから好ましい。
【0045】
フィルム基材8の厚さは、ほぼ放射線検出フィルムの厚さとなる。フィルム基材8の厚さは、10μm~0.1mmとする。好ましくは、50μm以下とする。
【0046】
また放射線検出フィルム一枚あたりの、37kBq/mlの放射能濃度のトリチウム(β線の最大エネルギーが18.6keV)の低エネルギーβ線で励起された発光が、液体シンチレーションカウンタによる測定で100CPM以上である。
(シンチレータ固定化ケイ酸粒子16)
【0047】
シンチレータ固定化ケイ酸粒子16は、珪石粒子、及びこの粒子の表面上に固定化されたシンチレータを含有する。珪石粒子の平均粒径は、1.5~20μmである。またシンチレータは、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子である。さらにシリカナノ粒子の平均粒子径は、30~400nmである。
【0048】
また放射線検出フィルムは水素原子を含むので、ホウ素(B)原子を添加して調製することで中性子線の検出にも使用できる。これにより、中性子線捕捉療法の中性子線検出にも使用できる。
(放射線検出フィルムの製造方法)
【0049】
ここで、放射線検出フィルムの製造方法の一例を図2A図2Cに基づいて説明する。まず、シンチレータ固定化ケイ酸粒子16を繊維に担持させた紙シート10を準備する。紙シート10は、抄紙法によりシート化することができる。特に湿式抄紙法が好ましい。湿式抄紙法は、ケイ酸粒子を繊維の表面に凝集させて抄紙する方法であり、内添方式と呼ばれる。なおシンチレータ固定化ケイ酸粒子16は、シンチレータ-シリカ珪石粉末を用いることができる。また、紙シートを準備する工程は湿式抄紙法に限られず、コーティング法等、他の方法を用いてもよい。コーティング法は、抄紙シートにコーティング液を塗布する方法であり、外添方式と呼ばれる。
【0050】
次にこの紙シート10を、図2Aに示すようにフィルム基材8と重ねて、熱圧加工し、フィルム基材8にシンチレータ成分を転写する。熱圧加工は、例えば図2Bに示すように紙シート10とフィルム基材8の積層体を、一対のプレス板PRで両面から押圧して加熱する。加熱温度は80℃以上、例えば80℃~200℃、好ましくは120~160℃とする。圧力は1MPa以上が好ましく、10MPa以上がさらに好ましい。
【0051】
加熱押圧状態で約2分間放置した後、押圧状態を解除し、図2Cに示すように紙シート10を除去して、放射線検出フィルムを得ることができる。このような製造方法とすることで、従来のシンチレータ層を基材に塗布する方法のように接着のためのバインダー類を使用する必要性を無くすことができる。このため、放射線検出フィルムの薄型化が容易で、また柔軟性を発揮させ易くできる。
【0052】
また、シンチレータ成分が転写された放射線検出フィルムを複数枚積層してもよい。これにより、透光性を有する放射線検出フィルムが得られ、これを複数枚積層することで発光強度を増すことが可能となる。
【0053】
このようにして得られた放射線検出フィルムは、透明かつ薄膜で、シンチレータ-シリカ珪石粉末がほぼ均一に固着していることをSEM写真で確認した。また既存の放射線検出シートに比べて、シンチレータがシートの内部に含まれているのではなく、フィルム基材8の表面にむき出しで固着させているため、反応性にも優れる。
[実施形態2]
【0054】
図2Aの方法では、裁断等により予め所定の大きさに形成した紙シートを用いて熱転写を行う例を説明した。ただ本発明は、この方法に限らず、ロール状に巻き取った紙シートを用いてもよい。このような例を実施形態2に係る放射線検出フィルムの製造方法として、図3に基づいて説明する。この図に示す放射線検出フィルムの製造方法では、予めロール状に巻き取った紙シート10を準備する。そしてロールから紙を送り出し、同様にロールから送り出したフィルム基材8と重ねて、熱圧加工する。熱圧加工は、例えば一対の加熱加圧ロール18を使用することができる。加熱加圧ロール18を用いる場合は温度を高温(例えば160℃)かつ圧力を高圧(例えば線圧にして100kgf/cm以上)にして、短時間(例えば1秒未満)で熱転写が行えるようにする。また、対となる加熱加圧ロール18の両方を金属製加熱ロールとしてもよいし、一方を耐熱樹脂等の弾性体としてもよい。さらに、熱転写が十分に進むよう複数対の加熱加圧ロールを備えていてもよい。この方法であれば、連続的に処理できるので、タクトタイムを短縮して製造効率を大幅に高めることができる。
[実施形態3]
【0055】
また以上の方法では、紙シートの一面にフィルム基材を一枚重ねて、シンチレータを熱転写する方法を説明した。ただ本発明はこの構成に限らず、紙シートの両面にフィルム基材をそれぞれ配置して、二枚のフィルム基材にシンチレータを同時に熱転写させてもよい。この方法を、図4に示す。ここでは、フィルム基材8を二枚用意し、紙シート10の両面に重ねて配置して熱圧加工する。これにより、2枚のフィルム基材8A、8Bに対してそれぞれ転写面を形成することが可能となり、1枚の紙シートから2枚の放射線検出フィルムを製造して製造効率を向上できる利点が得られる。
[実施形態4]
【0056】
さらに、以上の方法では紙シートを介してシンチレータを熱転写させる方法を説明したが、本発明は放射線検出フィルムの製造方法をこの方法に限定せず、シンチレータ固定化ケイ酸粒子を直接、フィルム基材に塗布させてもよい。例えば図5に示す実施形態4に係る放射線検出フィルムの製造方法では、グラビア印刷の要領でフィルム基材8に対し、グラビアロールGRに彫刻された窪みにシンチレータ固定化ケイ酸粒子16を充填させ、余剰分をドクターブレードDBで掻き取った後で付着させている。この方法であれば、一旦紙シートを作製する手間を省き、また熱転写後の紙シートを廃棄する手間もなくし、廃棄物の発生も抑制できる利点が得られる。
[実施例1]
【0057】
次に、上述した実施形態1の方法で放射線検出フィルムを作製し、得られた放射線検出フィルムのXRD・表面蛍光・SEM/元素分析・放射線検出特性を行った。
【0058】
ここでは紙シートとして、後述するシンチレータシリカ珪石粉末の製造方法で作成したシンチレーションペーパー(珪石粉末2.6μm)を用いて、この両面にフィルム基材(PET樹脂製シート)を配置し、さらに外側をクッション紙(リンターパルプ製ろ紙)に挟んで、約100℃、10MPaで加熱加圧した。得られた放射線検出フィルムと、熱転写後の紙シートについて、以下の実験を行った。
【0059】
まず放射線検出フィルム及び熱転写を行っていないフィルム基材の表面を、光学顕微鏡(カートン光学株式会社)で観察した写真を図23に示す。図23A及びBは放射線検出フィルム、図23C及びDは熱転写を行っていないフィルム基材を、それぞれ撮影した光学顕微鏡写真である。また図23A及びCは波長365~375nmの紫外LED光を上方から照射して撮影しており、図23B及びDは顕微鏡付属の可視光ランプを照射して撮影した。図23Aが発光していることから、放射線検出フィルムは、紫外光で発光していることが確認された。このことから、紙シートの珪石粉末がフィルム基材に転写されているものと考えられる。なお図23Bに模様がついているのは、プレス機との間にクッションとして挟んだろ紙(リンターパルプ)の型が裏面についてしまったものであり、転写面は平滑である。
【0060】
ここで放射線検出フィルムと、熱転写前のフィルム基材と、珪石粉末のX線結晶回折測定を行った結果のXRDパターンを、図6に示す。この図において、放射線検出フィルムは青色で、フィルム基材は黒色で、珪石粉末は緑色で、それぞれ示している。この図に示すように、フィルム基材のみでは2θ=26.02°に鋭いピークが見られた。また珪石粉末では、2θ=26.56°に最大の鋭いピークが見られた。一方、放射線検出フィルムでは、フィルム基材のピークとほぼ同様だったが、2θ=26.18°と低角度側にシフトしていた。
【0061】
次に、放射線検出フィルムと、熱転写後の紙シートのX線結晶回折測定を行った。この結果を、図7のグラフに示す。この図において、シンチレーションペーパーは黒色で、熱転写後の紙シートは赤色で、珪石粉末は緑色で、それぞれ示している。この図に示すように、放射線検出フィルムと熱転写後の紙シートを比較すると、2θ=26°付近のピークは消失した。以上のことから、シンチレーションペーパー表面に存在していた珪石粉末が、シンチレーションフィルム表面に転写されたことが確認できた。
(放射線検出フィルムの表面蛍光スペクトル)
【0062】
さらに、浜松ホトニクス社製Quantaurus Tauを用いて、放射線検出フィルムを280nmで励起した際の表面蛍光を測定した。この結果を図8のグラフに示す。ここでは、約430nm付近にピークを持つシンチレーションペーパーに類似する表面蛍光スペクトルが得られた。
(SEM観察と元素分析の結果)
【0063】
次に、熱転写後の紙シートのSEM画像と元素分析を行った。この結果を図9A図9Hに示す。これらの図において、図9Aは紙シートの低倍率のSEM写真、図9Bは高倍率のSEM写真、図9Cはさらに高倍率のSEM写真、図9D図9Cにおける緑色枠内の定性スペクトル、図9Eは青色枠内の定性スペクトル、図9Fは赤色枠内の定性スペクトル、図9Gは紫色枠内の定性スペクトル、図9H図9D図9Gの元素分析結果を、それぞれ示している。図9Aの低倍率SEM写真においては、白色、黒色コントラスト部が確認された。また図9Bの高倍率SEM写真においては、黒色不定形物、顆粒状物、繊維状物が確認された。さらに図9Hから、シンチレータシリカ珪石粉末と思われる物質が見られ、001(図9D),004(図9G)ではSiが32.18%,14.41%見られた。一方、紙の材料と思われる003(図9F)でもSiが28.42%見られた。002(図9E)はCが93.99%であったので、結着剤として使われているポリマーの可能性が示唆された。
【0064】
同様にして、放射線検出フィルムとフィルム基材に対しても、SEM画像と元素分析を行った。この結果を図10A図10Hに示す。これらの図において、図10Aは放射線検出フィルムのSEM写真、図10Bはフィルム基材のSEM写真、図10C図10Aの拡大SEM写真、図10D図10Cにおける緑色枠内の定性スペクトル、図10Eは青色枠内の定性スペクトル、図10Fは赤色枠内の定性スペクトル、図10Gは紫色枠内の定性スペクトル、図10H図10D図10Gの元素分析結果を、それぞれ示している。図10Aの放射線検出フィルムのSEM写真においては、表面に凹凸があり、Si微粒子や、Siを含むシート状物質の付着を確認した。また図10Bのフィルム基材のSEM写真においては、Si微粒子の付着を確認した。さらに図10Hから、固形物が見られる001(図10D),002(図10E)ではSi19.26%,13.23%見られたが、003(図10F),004(図10G)では固形物はほとんど見られず、Siの割合も2.79%,0%であった。フィルム基材のみでも、表面に固形物が見られ001ではSiが19.11%存在したが、固形物の見られない002ではSiが1.61%と低い割合であり、本来フィルム基材にはSiは含まれていないと思われる。
(放射線の検出)
【0065】
次に、放射線検出フィルムを用いて実際に放射線の検出を行った。まず、放射線検出フィルムによる空気中のラドンガスの検出特性を行った。ここでは、風船を膨らませてハンカチで静電気を帯びさせ、これを密閉室内の隅に2時間放置して空気中のラドンガスを含む埃を吸着させた。その後、風船の空気を抜き、放射線検出フィルムで包んでガラスバイアルに入れた。この様子を図11の写真に示す。この図において、(a)は放射線検出フィルムを内部に巻いたガラスバイアル、(b)は空気中のラドンガスを静電的に吸着した風船にシンチレーションペーパーを巻きつけて内部に入れたガラスバイアルの写真を、それぞれ示している。これらに対して、トライアスラー検出器を使い32Pモードで60秒間、放射線を測定した。この結果を図12A図12Dに示す。これらの図において、図12Aは放射線検出フィルムのSEM写真、図12B図12Aにおける緑色枠内の定性スペクトル、図12Cは青色枠内の定性スペクトル、図12D図12B図12Cの元素分析結果を、それぞれ示している。ここでは、バックグラウンド:1569cpm、ラドンガスを含む塵吸着風船:7202cpm、正味の計数率:5633cpm(7202cpm-1569cpm)であった。以上のように、放射線検出フィルムは室内のラドンガスからのα線を容易に検出することができた。
【0066】
次に、トリウム232を含浸した市販のマントルのα線を測定した。ここでは、図13の写真に示すようにガラスバイアルにマントルを入れて測定した後、放射線検出フィルムをガラスバイアルの内側に、円筒状に沿わせて上部までセットし、HIDEX社製トライアスラー検出器にてトリチウムモードで300秒測定して計数率を得た。この結果、マントル+ガラスバイアル:1476cpm、マントル+放射線検出フィルム+ガラスバイアル:7912cpm、正味の計数率:7912-1476=6436cpmであった。
【0067】
さらに、上記のマントルに放射線検出フィルムを被せて、シンチレーション光をCCDカメラで測定した。ここでは測定機としてPerkinElmer社製LAS4000miniを使用し、測定モードをPrecision mode、Highとした3分間の測定で、図14A図14Bを得た。これらの図において、図14Aはマントルに放射線検出フィルムを被せた写真、図14Bはシンチレーション光のCCD画像を重ねた画像を、それぞれ示している。
【0068】
次に、トリチウム(3H)の37kBq/mlの放射能濃度5mlの水溶液をガラスバイアルに加えて、放射線検出フィルム(12.5cmx12.5cm)を図15Aに示すように5枚に切断したものを1枚ずつ、図15Bに示すようにガラスバイアルのトリチウム水溶液に浸して、計数率をトライアスラー検出器のトリチウムモードで測定した。なお、切断されたフィルムがトリチウム水溶液に浸された部分は約半分であった。この結果を図16に示す。この結果から、トリチウムの37kBq/mlの5mlの水溶液に放射線検出フィルムを5等分に切断して円筒状に加えて測定した正味の計数率は、フィルムの枚数と共に増加することが判明した。
(トリチウムの検出効率)
【0069】
次に、実施例1の放射線検出フィルムを用いたトリチウムの検出効率を確認した。まず、トリチウム(3H)のβ線(18.6keV)の水中での最大飛程は平均0.56μm、最大で6μmであることから、ここでは放射線検出フィルム1枚の15.625cm2の表面1μmまでの体積0.0015625cm3を考える。上述の通りトリチウム水溶液は37kBq/cm3であるので、0.0015625×37000=58Bqのトリチウムがその体積に存在していることとなる。放射線検出フィルムが約半分浸されていたことから、58/2=29Bqとなる。
【0070】
また放射線検出フィルム5枚では、29×5=145Bq存在することになる。したがって、正味の計数率に直すと145×60=8700dpmとなる。
【0071】
このように放射線検出フィルムを5枚使用した正味の計数率として839cpmが得られたので、計数効率は839/8700×100=9.6%となった。なお、液体シンチレータの計数効率は60~70%である。
(積層体)
【0072】
次に、ストロンチウム90/イットリウム90からのエネルギーの大きなβ線(90Sr:0.546MeV、90Y:2.274MeV)を、放射線検出フィルムの積層体を用いて検出が可能か確認した。その結果、放射線検出フィルムの積層数が1~10枚では発光しなかったが、積層数を32~64枚とした時にはシンチレーション光がCCDカメラで確認できた。このことから、本発明の放射線検出フィルムはその積層数を調節することにより、放射線のエネルギーを分けて測定・検出できることが確認できた。
(放射線検出粉末)
【0073】
次に、放射線検出フィルムで担持するシンチレータとして利用可能な放射線検出粉末を実施形態5として説明する。放射線検出粉末は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末であって、シンチレータが、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、この複合体は、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定されている。
【0074】
この放射線検出粉末は、有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程とで製造される。
【0075】
放射線検出粉末を構成する有機シンチレータ分子は、放射線で励起されて発光する蛍光特性を有するシンチレータ粒子であって、例えば以下のものが挙げられる。
【0076】
ベンゾオキサゾール誘導体:1,1’-ビフェニル、4-イル-6-フェニル-ベンゾオキサゾールTLA、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-ベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-5-メチルベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-5-t-ブチルベンゾオキサゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-ベンゾオキサゾール、2-フェニル-5-t-ブチル-ベンゾオキサゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-t-butylベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-ベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-5-t-butylベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-6-フェニル-ベンゾオキサゾール(PBBO)等
【0077】
オキサゾール誘導体:2-p-ビフェニリル-5-フェニルオキサゾール(BPO)、2,2’-p-フェニレンビス(5-フェニルオキサゾール)(POPOB)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)等
【0078】
オキサジアゾール誘導体:2,5-ジフェニルオキサジアゾール(PPD)、2,5-ジフェニル-1,3,4-オキサジアゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ-(4’-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-フェニル-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(ブチル-PBD)等
【0079】
テルフェニル誘導体:4,4’’-ジ-tert-アミル-p-テルフェニル(DAT)等
【0080】
多核芳香族化合物:4,4’-ビス(2,5-ジメチルスチリル)ジフェニル(BDB)、p-テルフェニルシンチレータ等
【0081】
ピラゾリン誘導体:1-フェニル-3-メシチル-2-ピラゾリン(PMP)、1,5-ジフェニル-3-(4-フェニル-1,3-ブタジエニル)-2-ピラゾリン(DBP)、1,5-ジフェニル-β-スチリルピラゾリン(DSP)等
【0082】
ホスホルアミド誘導体:アニリノビス(1-アジリジニル)ホスフィンオキシド(PDP)等
【0083】
チオフェン誘導体:2,5-ビス-ベンゾオキサゾリル(2’)-チオフェン、2,5-ビス-[5’-メチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[4’,5’-ジメチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[4’,5’-ジメチルベンゾオキサゾリル(2’)]-3,4-ジメチルチオフェン、2,5-ビス-[5’-イソプロピルベンゾオキサゾリル(2’)]-3,4-ジメチルチオフェン、2-ベンゾオキサゾリル(2’)-5-[7’-sec-ブチル-ベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2-ベンゾオキサゾリル(2’)-5-[5’-t-ブチル-ベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[5’-t-ブチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン(BBOT)等。
【0084】
放射線検出粉末に使用される有機シンチレータ分子は、1種単独であってもよいが、好ましくは、2種以上の組み合わせとする。有機シンチレータ分子は、放射線を検出できる限りにおいて、適宜組み合わせて用いることができる。このような組み合わせとしては、例えば、液体シンチレータに用いられる第1溶質と第2溶質との組み合わせを採用することができる。第1溶質としては、例えばp-テルフェニル、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(ブチル-PBD)等が挙げられる。第2溶質としては、例えば1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)等が挙げられる。好ましい組み合わせとしては、DPOとPOPOPとの組み合わせが採用できる。
【0085】
有機シンチレータ分子の複合体としては、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子との複合体であれば特に限定されず、好ましくは、複数種の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子との複合体とする。シリカナノ粒子は、その粒子表面上に有機シンチレータ分子が付着し、あるいは粒子内部に有機シンチレータ分子が包含される状態で結合されて複合体を形成している。有機シンチレータ分子は、シリカナノ粒子内部に包含されていることが好ましい。
【0086】
シリカナノ粒子は、通常のシリカナノ粒子の製造方法で得られる粒子径とすることができる。シリカナノ粒子の平均粒子径は、例えば10~500nm、好ましくは30~400nm、より好ましくは70~300nm、さらに好ましくは100~200nm程度とすることができる。
【0087】
有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体は、公知の方法に従って得ることができる。例えば、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子は、有機シンチレータ分子の存在下でシリカナノ粒子を形成させることにより得ることができる。例えば、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子は、有機溶媒(低級アルコール)中に有機シンチレータ分子を溶解後、ここに水、ケイ酸源、及び触媒を加えてゾル-ゲル法により得ることができる。
【0088】
有機シンチレータ分子を溶解させる有機溶媒としては、例えばエタノール等が挙げられる。有機シンチレータ分子と有機溶媒との配合比(有機シンチレータ分子重量:有機溶媒重量)は、有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解することができる限り特に限定されない。これらの配合比は、例えば1:10~90、好ましくは1:30~70程度とすることができる。有機シンチレータ分子は、シクロデキストリンで包接させることにより、エタノール中に溶解させやすくできる。
【0089】
その他の使用できる有機溶媒としては、シリカナノ粒子の形成に用いることができる低級アルコールである限り特に限定されない。低級アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール等挙げられ、好ましくはエタノールが挙げられる。本実施形態では、前述の有機シンチレータ分子を溶解させる有機溶媒としてエタノールを使用している。
【0090】
本実施形態では、有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程において、有機溶媒(低級アルコール)中に、包接化合物を添加している。包接化合物には、例えば、環状オリゴ糖の一種であるシクロデキストリン、具体的にはβシクロデキストリン硫酸化Na塩(β-Cyclodextrine,sulfated,sodium salt)が使用できる。βシクロデキストリン硫酸化Na塩の内側の空孔は、孔サイズが0.6~0.8nmであり、空孔内部は疎水性の分子を包接しやすいため、水に不溶なものを内部に包接しやすい特性がある。このように、包接化合物で有機シンチレータ分子を包接することで、有機シンチレータ分子を速やかに有機溶媒に溶解させることができる。また、硫酸化βシクロデキストリンは、-SO3O-のように、後述するケイ酸源であるTEOSのSi(O-)4と同じ構造を有しているため、シリカ形成時において、シリカナノ粒子の内部または表面に固定され易くなる。なお、第1混合工程において、包接化合物は、重量比で1wt%以上、好ましくは、1.6wt%以上となるように添加される。
【0091】
さらに、有機シンチレータ分子が表面または内部に固定されたシリカナノ粒子を形成するために、第1混合工程で得られた第1混合液に対して、第2混合工程において、シリカ源であるケイ酸源に加えてカップリング剤を加える。すなわち、第2混合工程では、第1混合液に、水、ケイ酸源、カップリング剤、及び触媒を加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成し、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する。
【0092】
ケイ酸源は、シリカナノ粒子の形成に用いることができるケイ酸源である限り特に限定されない。ケイ酸源としては、例えばオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)等が挙げられ、好ましくはオルトケイ酸テトラエチルを使用する。ケイ酸源の配合量は、例えば低級アルコールの1/500~1/5程度とすることができる。
【0093】
カップリング剤は、例えば、シランカップリング剤を用いることができ、具体的にはp-スチリルトリメトキシシランを使用する。シランカップリング剤であるp-スチリルトリメトキシシランは、分子内に有機材料及び無機材料と結合する官能基を併せ持ち、有機材料と無機材料とを結合する特性がある。ただ、カップリング剤には、スチリル基、フェニル基等のベンゼン環構造などの芳香環をもつものであれば使用できる。なお、第2混合工程において、カップリング剤は、有機シンチレータ分子に対するモル比0.2倍以上、好ましくは2倍以上となるように加える。
【0094】
触媒は、シリカナノ粒子の形成に用いることができる触媒である限り特に限定されない。触媒としては、例えば塩基触媒、酸触媒等が挙げられ、好ましくは塩基触媒が挙げられる。塩基触媒としては、アンモニア等が挙げられ、酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられる。
【0095】
有機シンチレータ分子の複合体の総重量に占める有機シンチレータ分子の割合は、例えば5~80重量%、好ましくは15~70重量%、より好ましくは25~60重量%、さらに好ましくは30~55重量%であることができる。
[実施例2]
【0096】
以上の構造の放射線検出粉末は、以下の工程により製造される。
(1)第1混合工程
【0097】
エタノール40mLに、有機シンチレータ分子として、DPO(2,5 Diphenyloxazole)約4.6gとPOPOP(1,4-Bis(5-phenyl-2-oxazolyl)benzene)約0.53gをそれぞれ加えた後、包接化合物としてβシクロデキストリン硫酸化Na塩を約0.4g加えて、ホットスターラー上で約80℃で30分間加熱し、有機シンチレータ分子をエタノールに溶解させる(第1混合液)。
(2)第2混合工程
【0098】
有機シンチレータ分子が溶解したエタノール溶液に、ケイ酸源としてTEOS(Tetraethylorthosilicate)9mL、第1のカップリング剤としてp-スチリルトリメトキシシラン10mL、蒸留水100mL、触媒として濃アンモニア水10mLを加える。このとき、p-スチリルトリメトキシシランは、DPOに対するモル比で約2倍になるように、βシクロデキストリン硫酸化Na塩は、重量比で約1.6wt%になるように調製する。また、第1混合工程でのエタノール400mLに対して第2混合工程での水の添加量が100mLとなるように、すなわちエタノール:水の体積比が4:1となるように調製する。
【0099】
以上のように調製された混合液を、ホットスターラー上で約80℃で2時間加熱攪拌して、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する(第2混合液)。
(3)加熱乾固工程
【0100】
有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体が溶液中に形成された第2混合液をホットスターラー上で加熱乾固して約14.5gの白色粉末(放射線検出粉末)が得られた。
【0101】
以上のようにして製造された放射線検出粉末は、有機シンチレータ分子の割合が、放射線検出粉末全体に対して約35wt%であった。また、放射線検出粉末は、室温ではエタノールに分散しないが、約80℃に加熱すると均一に分散し、水には均一に分散しなかった。また、この放射線検出粉末は、エタノールを含んで膨潤し、低温(冷蔵庫)では固形化する物性を示した。とくに、以上の製造方法では、第1混合工程において、シクロデキストリンを使用することで、シリカナノ粒子をエタノールに対して分散しやすくなった。
【0102】
以上のように、本発明の実施形態にかかる放射線検出粉末は、放射線検出粉末全体に対する有機シンチレータ分子の割合を約35wt%として、従来よりも大幅に高くすることができた。このため、単位量あたりの放射線の検出感度を高くしながら、放射線の検出を簡便にできる特徴が実現できる。また、第2混合工程において、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成するのに要する時間を数時間として、従来の製造方法に対して大幅に短縮することができた。これにより、放射線検出粉末の製造にかかる時間を短縮でき、安価に多量生産が可能になった。
【0103】
以上のようにして製造された放射線検出粉末は、放射線に励起されて発光する放射線検出用の粉末として種々の用途に使用できる。さらに、本発明では、以上の放射線検出粉末の使用例の一つとして、放射線検出粉末を紙製シートに含有させることで、紙シートとして使用することができる。以下、放射線検出粉末を備える紙シートとその製造方法について詳述する。
[実施形態6]
【0104】
本発明の一実施形態にかかる紙シートを図17の概略断面図に示す。図17に示す紙シート10は、シート状に抄紙された紙製のシート状基材1と、シート状基材1の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層2とを備えている。この紙シート10は、シート状に抄紙された紙製のシート状基材1を準備する準備工程と、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材1の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材1に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層2を形成する乾燥工程とで製造される。このように、シンチレータ固定化ケイ酸粒子等の放射線検出粉末を含有する紙シートは、コーティング法により製造される。
(シート状基材1)
【0105】
シート状基材1は紙製であって、天然繊維や合成繊維を湿式抄紙して製造される。天然繊維としては、セルロース系の繊維、例えば木材繊維、種子毛繊維、靭皮繊維、葉脈繊維等が使用できる。一方、合成繊維は、例えばポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系等の合成繊維が好適に使用できる。紙製のシート状基材1を構成する繊維の繊維径は、含有する放射線検出粉末の平均径等を考慮して、例えば0.05μm~100μm、好ましくは0.1μm~80μmとする。とくに、1μm~60μmとすることが好ましい。これにより、放射線検出粉末を効果的に保持することができる。
【0106】
なお、図17の例では、説明のため、シート状基材1の一面にコーティング層2を塗布した二層構造の紙シートを示しているが、これらシート状基材1とコーティング層2とは必ずしも明確な層状に分かれていることは要せず、シート状基材1の表面にコーティング層2が形成された状態であれば足りる。すなわち後述するように、シート状基材1を構成する紙の繊維に、コーティング液を塗布してコーティング層2を形成する場合は、図18の要部拡大断面図に示すように、シート状基材1の繊維6の表面にコーティング層2が形成されているような態様となる。このような、微視的にシート状基材1を構成する繊維6の表面にコーティング層2が形成されている態様も、本発明でいうシート状基材1の表面に形成されたコーティング層2に含むものとする。
(コーティング層2)
【0107】
コーティング層2は、シート状基材1の表面に塗布されたコーティング液により形成される。コーティング液は、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液が使用される。この実施形態に係る紙シートでは、放射線検出粉末として、前述の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体であって、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子内部または表面に芳香環が固定されてなる複合体で構成される放射線検出粉末を使用する。この放射線検出粉末は、水には分散しないが有機溶媒には分散するので、コーティング液には、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させたものを使用する。有機溶媒には、放射線検出粉末を分散させ易い液体としてエタノール等の溶剤が利用できる。この放射線検出粉末は、前述のように、約80℃に加熱されたエタノールに対して均一に分散する。したがって、この放射線検出粉末は、加熱されたエタノールに分散された状態で、コーティング液として使用される。ただ、有機溶媒には、エタノールに代わってメタノール等の極性溶媒を使用することもできる。
【0108】
高温に加熱された状態において放射線検出粉末が分散されたコーティング液は、シート状基材1に塗布された後、冷却されることで固形化が促進されると共に、溶媒の全部又は一部が気化して除去されることで、溶質である放射線検出粉末が固形化されてシート状基材1の繊維に定着する。
【0109】
コーティング液の塗布には、例えば図20に示すようにバーコータ9が利用できる。バーコータ9は、棒状体の表面にワイヤを巻き付けており、このワイヤ間にコーティング液を保持することで、塗布量をコントロールできる。その他の塗布方式としてはロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、カーテンコーター、ファウンテンコーター、キスコーター、スクリーンコーター、押出コーター等にて塗布することができる。さらに、コーティング液は、スプレーや刷毛により塗布することもできる。
【0110】
さらに、コーティング液の塗布量は、シート状基材1に対して1m2あたり10g以上、好ましくは100g~400gを塗布する。なお、コーティング層2は、図17に示すように、シート状基材1の全面にわたって設けることも、図20に示すように、シート状基材1の特定の領域に部分的に設けることもできる。
【0111】
図17に示す紙シート10は、コーティング層2が形成された面(図において上面)を検査面5として放射線の検出検査に使用することができる。図に示すように、シート状基材1の表面に放射線検出粉末を含有するコーティング層2を設ける構造は、シート状基材1の片側面に放射線検出粉末を集中的に配置できるので、この面を検査面5として使用することで効果的に放射線を検出できる。
【0112】
さらに、紙シート10は、図17の鎖線で示すように、コーティング層2の表面に表面層3を設けることもできる。この表面層3は、たとえは、薄い紙製の薄膜とすることができる。この紙シート10は、コーティング層2に固着された放射線検出粉末がコーティング層2の表面から脱落するのを有効に防止できる特長がある。
【0113】
さらにまた、紙シートは、図19に示すように、コーティング層2の表面に剥離シート4を積層することもできる。この紙シート30は、コーティング層2の表面を剥離シート4で被覆することで、未使用時においては、剥離シート4でコーティング層2を保護しながら、紙シート30を使用する際には、剥離シート4を剥離することで、検査面5を表出させて使用することができる。このような剥離シート4として、たとえば、疎水性の材質、例えばPET、PP、PE、PMP、PTFE、PVDF等の樹脂製のシート、あるいは紙やフィルムにシリコーンやフッ素コートしたシートが好適に利用できる。ただ、放射線検出粉末は、必ずしもコーティング層の表面に、表面層や剥離シートを設けることなく、コーティング層を表出させた状態とすることもできる。
[実施例3]
【0114】
以上の構造の紙シートは、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
【0115】
シート状に抄紙された紙製のシート状基材1を準備する。紙製のシート状基材1は、例えば、セルロース繊維を湿式抄紙した紙製のシートが使用できる。シート状基材1は、厚さを50μm、坪量を30g/m2とすることができる。
(2)コーティング工程
【0116】
放射線検出粉末を溶媒に分散させてコーティング液を調製する。ここでは、放射線検出粉末として、実施例2で製造された、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で構成される放射線検出粉末を使用する。この放射線検出粉末を分散させる有機溶媒としてエタノールを使用する。50gのエタノールを用意し、75℃に加熱しながら200rpmで攪拌する。加熱されたエタノールに、0.5gの放射線検出粉末を加えて、さらに、75℃に保持しながら200rpmで60分間攪拌する。これにより、エタノールに対して放射線検出粉末が均一に分散されたコーティング液が得られる。
【0117】
以上のコーティング液をシート状基材1の表面に塗布する。コーティング液は、例えば、図20に示すバーコータ9を使用してシート状基材1の表面に所定量が塗布される。コーティング液の塗布量は、例えば、100g/m2とする。
(3)乾燥工程
【0118】
シート状基材1に塗布されたコーティング液を100℃で30分間乾燥させて、コーティング液の溶媒の全部又は一部を気化させて除去し、コーティング液の溶質である放射線検出粉末を固形化させてシート状基材1の繊維に定着させる。これにより、シート状基材1の表面にコーティング層2が形成される。
[実施形態7]
【0119】
さらに、本発明の他の実施形態にかかる紙シートを詳述する。この紙シートは、放射線検出粉末を、前述の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体としており、この放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体を集合してシート状に抄紙している。このようにシンチレータ固定化ケイ酸粒子等の放射線検出粉末を含有する紙シートは、ケイ酸粒子を繊維の表面に凝集させて抄紙する湿式抄紙法により作成される。この紙シートは、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子の内部または表面に芳香環が固定されてなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体である放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液とする第1分散工程と、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液とする第2分散工程と、第1分散液と第2分散液を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーとを凝集させる凝集工程と、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された凝集体を含む混合液を濾過してシート状に抄紙する抄紙工程とで製造される。
【0120】
この紙シートは、前述の実施形態5に示す放射線検出粉末を使用して抄紙法により製造される。ここで使用する放射線検出粉末は、前述のように、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体の平均粒径がナノサイズであるため、通常の抄紙方法では、複合体がメッシュを通過するため紙として抄くことができない。また、この放射線検出粉末は、水に分散しないので、このことも通常の方法による抄紙を困難にしている。
【0121】
この問題点を解消するために、この実施形態に係る紙シートの製造方法では、図21に示すように、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液11とすると共に、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液12とし、それぞれの分散液を混合することにより、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーを凝集させて凝集体15を形成させ、この凝集体15を濾過することでシート状に抄紙している。
[実施例4]
【0122】
以上の構造の紙シートは、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
【0123】
放射線検出粉末として、前述の実施例2で製造された、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で構成される放射線検出粉末を準備する。
(2)第1分散工程
【0124】
この工程では、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液11とする。この放射線検出粉末を分散させる有機溶媒としてエタノールを使用する。100gのエタノールを用意し、75℃に加熱しながら200rpmで攪拌する。加熱されたエタノールに、0.50g(50重量部)の放射線検出粉末を加えて、さらに、75℃に保持しながら200rpmで60分間攪拌する。これにより、エタノールに対して放射線検出粉末が均一に分散された第1分散液11が調製される。
(3)第2分散工程
【0125】
この工程では、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液12とする。セルロースナノファイバーには、好ましくは、繊維径が3nm~200nmのもの、さらに好ましくは、繊維径が50nm~100nmのものを使用する。ここでは、セルロースナノファイバーとして微細繊維状セルロース(ダイセル社製)を使用する。所定量の微細繊維状セルロースを分散液である水に懸濁して分散し、微細繊維状セルロースの0.5wt%水溶液、50重量部を調製する。
(4)凝集工程
【0126】
第1分散液11と第2分散液12を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバー(微細繊維状セルロース)とを凝集させる(2分間)。このように、それぞれの良溶媒(放射線検出粉末:エタノール、セルロースナノファイバー:水)を分散させた後、それぞれの貧溶媒(放射線検出粉末:水、セルロースナノファイバー:エタノール)を混合させると、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体15を得ることができる。有機溶媒に分散された放射線検出粉末と水に分散されたセルロースナノファイバーは、いずれもナノサイズであるため、そのままでは歩留らないが、凝集させて濾過することで紙として抄くことが可能になる。
(5)抄紙工程
【0127】
放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された混合液13を濾過してシート状に抄紙する。この工程では、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体15を含む混合液を定性濾紙No1(アドバンテック東洋社製)を使用して濾過する。ただ、混合液13の濾過には、ヌッチェフィルターを使用して吸引濾過することもできる。濾過された凝集体15を濾紙から剥離して100℃で10分間乾燥して、紙シートとする。ここで、得られた紙シートは、厚さが0.23mmで、坪量が106g/m2であった。
【0128】
さらに、本発明は、紙シートに使用する放射線検出粉末として、前述の包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子内部または表面に芳香環が固定されてなる複合体で構成される放射線検出粉末に代わって、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化してなる放射線検出粉末を使用することができる。この放射線検出粉末は、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を表面に固定化する粒子として、例えば、珪石粒子等の無機粒子を使用することができ、また、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を表面に固定化する繊維として、所定の繊維径を有する担持繊維を使用することができる。
【0129】
シリカナノ粒子を固定化する粒子に珪石粒子を使用する放射線検出粉末(以後、シンチレータシリカ珪石粉末とも呼ぶ)は、珪石粒子と、珪石粒子の表面上に固定化されたシンチレータを備えており、このシンチレータを有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子としている。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)は、珪石粒子の平均粒径を、0.5~50μm、好ましくは1~30μm、さらに好ましくは1.5~20μmとすることができ、シリカナノ粒子の平均粒子径を30ないし400nmとすることができる。また、この放射線検出粉末は、シンチレータを接着剤を介して珪石粒子に固定化することもできる。
【0130】
この放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)は、以下のようにして製造される。
(1)第1混合工程
【0131】
有機溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)溶液240mLに、有機シンチレータ分子として、安息香酸(benzoic acid)約0.53gとDPO(2,5 Diphenyloxazole)約4.6gとPOPOP(1,4-Bis(5-phenyl-2-oxazolyl)benzene)約5.1gを加えた後、エタノール160mLを加える。ホットスターラー上で約80℃に加熱して有機シンチレータ分子が溶解して透明な溶液になるまで撹拌する。
(2)第2混合工程
【0132】
次に、有機シンチレータ分子が溶解した混合液に対して、あらかじめ珪石粉末(6.78μm)約1.2gを0.5wt%水ガラス溶液25mL中に加えて約80℃で加熱攪拌した溶液と、蒸留水75mL、ケイ酸源であるTEOS(Tetraethylorthosilicate)10mL、及び触媒としての28wt%の濃アンモニア水10mLを加える。このとき、DMSOを含むエタノール溶液400mLに対して水100mLが追加されるように、言い換えると、エタノール溶液と加える水溶液の比が4:1となるように調製する。
【0133】
以上のようにして調製された混合液を、ホットスターラー上で約80℃に加熱して約2日間撹拌し、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を形成して、珪石粉末の表面上に有機シンチレータ分子含有シリカナノ粒子を結合させた。
(3)加熱乾固工程
【0134】
以上の混合液をホットスターラー上で加熱乾固して粉末が得られた。
(4)濾過洗浄工程
【0135】
加熱乾固工程で得られた粉末を400~600mLの蒸留水を用いて、孔径0.1μmのフィルターで洗浄濾過して、水溶性の硫黄化合物を除去する操作を繰り返した。
【0136】
デジケータで乾燥後、ホットスターラーで加熱乾燥して約31.4gの白色粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)が得られた。
【0137】
また、シリカナノ粒子を繊維に固定化する放射線検出粉末(以後、シンチレータシリカ繊維粉末とも呼ぶ)は、所定の繊維径を有する担持繊維と、担持繊維の表面上に固定化されたシンチレータを備えており、このシンチレータを、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子としている。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ繊維粉末)は、担持繊維として、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維や、合成繊維や天然繊維等の有機繊維を使用することができる。担持繊維の繊維径は、3nm~200nm、好ましくは3nm~40nmとすることができる。また、この放射線検出粉末は、有機シンチレータを含有するシリカナノ粒子をバインダー繊維を介して繊維の表面上に固定化することもできる。このようなバインダー繊維として、例えば、マイクロオーダーのセルロースナノファイバー等が使用できる。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ繊維粉末)は、前述の第2混合工程において、珪石粉末に代わって担持繊維を加える以外は、前述の製造工程と同様にして製造される。
【0138】
さらに、繊維径が0.1μm~100μm、好ましくは10μm~50μmの担持繊維を使用して前述の製造工程と同様にして製造することができる。
[実施形態8]
【0139】
以上のようにして製造された放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を使用して製造される紙シートを、本発明の他の実施形態として以下に詳述する。この紙シートは、前述の実施形態6の紙シートと同様にコーティング法を用いており、シート状に抄紙された紙製のシート状基材と、シート状基材の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層とを備えている。この紙シートは、シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程とで製造される。
【0140】
さらに、放射線検出粉末を、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末とする紙シートは、コーティング液として、セルロースナノファイバーを含む分散液に放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を分散させたものを使用している。このコーティング液は、セルロースナノファイバーを所定の濃度に含有する分散液に対して、所定量の放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を分散させたものを使用している。セルロースナノファイバーを含有する分散液の濃度は、0.01wt%~5wt%とすることができ、セルロースナノファイバーを含有する分散液と放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)の質量比は、10:90~3:97とすることができる。なお、セルロースナノファイバーは、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)と混合させる前に予め物理開繊しておく。たとえば、木材パルプ等を水等の溶媒に混ぜて、グラインダ等により粉砕処理することができる。
[実施例5]
【0141】
以上の構造の紙シートは、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
【0142】
シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する。紙製のシート状基材は、例えば、ポリエステル繊維を湿式抄紙した紙製のシートが使用できる。シート状基材は、厚さを130μm、坪量を100g/m2とすることができる。
(2)コーティング工程
【0143】
放射線検出粉末を溶媒に分散させてコーティング液を調製する。ここでは、放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末を使用する。この放射線検出粉末を分散させる分散液として、セルロースナノファイバーの2wt%水溶液を使用する。このセルロースナノファイバーの水溶液5重量部に対して、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)95重量部を加えて、コーティング液とする。これにより、セルロースナノファイバーに対して放射線検出粉末が均一に分散されたコーティング液が得られる。
【0144】
以上のコーティング液をシート状基材の表面に塗布する。コーティング液は、例えば、図20に示すバーコータ9を使用してシート状基材1の表面に所定量が塗布される。コーティング液の塗布量は、例えば、309g/m2とする。
(3)乾燥工程
【0145】
シート状基材に塗布されたコーティング液を100℃で30分間乾燥させて、コーティング液の溶媒の全部又は一部を気化させて除去し、コーティング液の溶質である放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を固形化させてシート状基材の繊維に定着させる。これにより、シート状基材の表面にコーティング層が形成される。
[実施形態9]
【0146】
さらに、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を使用して製造される紙シートの他の実施形態を図22に示す。この紙シート40は、放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したものとし、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維とを湿式抄紙してシート状に形成している。この紙シートは、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化してなる放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末7)を準備する準備工程と、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維6とを分散液に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の紙シートとする抄紙工程とで紙シートを製造する。
(抄紙用スラリー)
【0147】
紙シートは、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)とバインダー繊維を含む繊維とを分散液に懸濁して調整された抄紙用スラリーを湿式抄紙して抄造される。放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維とを懸濁する分散液には、例えば水が使用できる。
【0148】
抄紙スラリーに混合されるバインダー繊維には、天然セルロース繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維が使用できる。特にパルプ状に成形された繊維が最適である。さらに、バインダー繊維には、これらの繊維に加えてPET等の樹脂繊維を添加することもできる。
【0149】
さらに、抄紙スラリーは、バインダー繊維以外の繊維を含むこともできる。抄紙スラリーに含有される繊維には、たとえば、前述のシート状基材の抄紙に使用される繊維と同じものや天然繊維、再生繊維、合成繊維、無機繊維等も適宜使用することができる。
【0150】
さらに、抄紙スラリーは、定着剤として凝結剤又は凝集剤を添加することができる。具体的には、硫酸アルミニウム、アラム、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリエチレンイミン、カチオン化デンプン、コロイド状シリカ、コロイド状アルミ、ベントナイト、ポリフェノール等の定着剤が利用できる。あるいは、乾燥紙力剤として、デンプン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールが、また湿潤紙力剤としてポリエチレンイミン、メラミンホルムアルデヒド、尿素ホルムアルデヒド、ポリアミドエピクロルヒドリン、ポリビニルアミン等が使用できる。
[実施例6]
【0151】
以上の構造の紙シートは、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
【0152】
放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末を準備する。
(2)抄紙工程
【0153】
放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)とバインダー繊維を含む繊維とを分散液に懸濁して抄紙用スラリーとする。抄紙用スラリーは、以下のように調製される。
【0154】
水1Lに対してポリオレフィン合成パルプ(三井化学社製)10重量部を加えて300回攪拌する。さらに、マイクロガラス繊維(H&V社製)20質量部と紙シート(シンチレータシリカ珪石粉末)70質量部を加えて100回攪拌して繊維及び放射線検出粉末を均一に分散させる。
【0155】
以上のスラリーを1.5Lに希釈した後300rpmで攪拌する。バインダー繊維として、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂(星光PMC社製)1%を加えて1分間攪拌する。さらに、バインダー繊維として、ポリアクリルアミド樹脂(荒川化学工業社製)1%を加えて1分間撹拌する。さらに、硫酸アルミニウム0.2%を加えて1分間撹拌する。
【0156】
以上のように調製された抄紙用スラリーを250mm角の角形シートマシンで抄紙してシート化する。
【0157】
抄紙されたシートを100℃で20分間乾燥して、紙シートとする。ここで、得られた紙シートは、厚さが0.35mmで、坪量が160.3g/m2であった。
【0158】
以上のようにして製造される本発明の紙シートは、所定の形状に裁断されて、放射線の拭き取り検査等に使用される。拭き取り検査される紙シートは、被検査部分の表面を紙シートの検査面で拭き取り、この紙シートのシンチレータからの発光をシンチレーションカウンターで検出して放射線計数率が測定される。紙シートは、放射線検出粉末に含有されるシンチレータが、放射線で励起されることで発光する。シンチレーションカウンターは、セットされる紙シートの発光を光電子倍増管で増幅して電流値に変え、その検出値から放射線計数率が測定される。
[付記]
【0159】
放射線検出粉末は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末であって、シンチレータが、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、この複合体は、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定されている。
【0160】
放射線検出粉末は、複合体が、二種類以上の有機シンチレータ分子を含んでいる。
【0161】
放射線検出粉末は、包接化合物を環状オリゴ糖とし、カップリング剤をシランカップリング剤としている。
【0162】
放射線検出粉末の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末の製造方法であって、有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程とを含んでいる。
【0163】
放射線検出粉末の製造方法は、包接化合物を環状オリゴ糖とし、カップリング剤をシランカップリング剤とし、さらに、ケイ酸源をオルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラプロピルのいずれかとしている。
【0164】
紙シートは、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートであって、シート状に抄紙された紙製のシート状基材と、シート状基材の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層とを備えている。放射線検出粉末は、包接化合物で包接されたシンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体、または、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したものとしている。
【0165】
紙シートは、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートであって、放射線検出粉末が、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体を集合してシート状に抄紙している。
【0166】
紙シートは、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートであって、放射線検出粉末が、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したもので、放射線検出粉末と、バインダー繊維を含む繊維とを湿式抄紙してシート状に形成している。
【0167】
紙シートの製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートの製造方法であって、シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程とを含んでいる。
【0168】
紙シートの製造方法は、放射線検出粉末を、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体とし、この放射線検出粉末を有機溶媒に分散させてコーティング液としている。
【0169】
紙シートの製造方法は、放射線検出粉末を、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したものとし、この放射線検出粉末をセルロースナノファイバーを含む分散液に分散させてコーティング液としている。
【0170】
紙シートの製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートの製造方法であって、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体である放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液とする第1分散工程と、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液とする第2分散工程と、第1分散液と第2分散液を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーとを凝集させる凝集工程と、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された凝集体を含む混合液を濾過してシート状に抄紙する抄紙工程とを含んでいる。
【0171】
紙シートの製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える紙シートの製造方法であって、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化してなる放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維を分散液に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の紙シートとする抄紙工程とを含んでいる。
【0172】
以上の放射線検出粉末とその製造方法によれば、放射線検出粉末全体に対する有機シンチレータ分子の割合を高くして、単位量あたりの放射線の検出感度を高くできる特徴が実現できる。また、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子の形成に要する時間を大幅に短縮でき、これにより、安価に多量生産が可能になった。
【0173】
また以上の紙シートとその製造方法によれば、放射線検出材を紙製とすることで、安価に多量生産しながら、検査作業を簡便にできる特徴がある。また、液体シンチレータのように、放射性廃液の処理や保管に伴う煩雑な問題を解消できると共に、水の測定も可能になるという優れた特長を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の放射線検出フィルム及びその製造方法並びに放射線検出フィルム積層体によれば、放射線の検出感度を高くしながら、簡便に使用できることにより、放射線の検査を行う現場で便利に使用できる。例えば放射線検出フィルムを32~64枚積層することで、Sr-90/Y-90のベータ線によるシンチレーション光をCCDで検出できた。なおベータ線のエネルギーが低い場合、例えばトリチウムであれば、放射線検出フィルム1枚で検出できる。ベータ線のエネルギーの大きい場合、放射線検出フィルムを積層することで検出できる。
【符号の説明】
【0175】
10、20、30、40…紙シート
1…シート状基材
2…コーティング層
3…表面層
4…剥離シート
5…検査面
6…繊維
7…シンチレータシリカ珪石粉末
8、8A、8B…フィルム基材
9…バーコータ
11…第1分散液
12…第2分散液
13…混合液
15…凝集体
16…シンチレータ固定化ケイ酸粒子
18…加熱加圧ロール
PR…プレス板
GR…グラビアロール
DB…ドクターブレード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図19
図20
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