(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096690
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】画像処理方法、装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20220623BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20220623BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209790
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】王 慶華
(72)【発明者】
【氏名】李 志遠
(72)【発明者】
【氏名】夏 鵬
(72)【発明者】
【氏名】遠山 暢之
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001DA09
2G001GA06
2G001HA07
2G001HA13
2G001KA08
2G001LA11
2G001MA05
2G001NA07
(57)【要約】
【課題】点欠陥を検出可能にする。
【解決手段】本画像処理方法は、(A)試料の画像から、予め定められた直交軸の各方向について、又は、試料の表面における格子の主方向に応じて当該主方向が直交軸のいずれかに平行になるように画像を回転する場合における直交軸の各方向について、所定のフィルタ処理にて格子の画像を生成するステップと、(B)上記方向毎に、格子の画像からサンプリングモアレ縞を算出し、当該サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチとした場合における仮想的な1次元モアレ縞の位相分布を算出するステップと、(C)上記方向毎に位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を合成することで得られる2次元増倍モアレ縞を生成するステップとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の画像から、予め定められた直交軸の各方向について、又は、前記試料の表面における格子の主方向に応じて当該主方向が前記直交軸のいずれかに平行になるように前記画像を回転する場合における前記直交軸の各方向について、所定のフィルタ処理にて格子の画像を生成するステップと、
前記方向毎に、前記格子の画像からサンプリングモアレ縞を算出し、当該サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチとした場合における仮想的な1次元モアレ縞の位相分布を算出するステップと、
前記方向毎に前記位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を合成することで得られる2次元増倍モアレ縞を生成するステップと、
を含み、コンピュータが実行する画像処理方法。
【請求項2】
前記2次元増倍モアレ縞から、当該2次元倍増モアレ縞の位相分布を算出するステップ
をさらに含む請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記方向毎に前記サンプリングモアレ縞に基づき算出される当該方向の格子の位相分布から、前記方向毎に前記格子のひずみ分布を算出するステップと、
前記方向毎の前記格子のひずみ分布を統合した画像から、欠陥位置座標を検出するステップと、
をさらに含む請求項1記載の画像処理方法。
【請求項4】
検出された前記欠陥位置座標を表す表示を、前記2次元増倍モアレ縞の画像上に行うステップ
をさらに含む請求項3記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記方向毎に前記サンプリングモアレ縞に基づき算出される当該方向の格子の位相分布から、前記方向毎に前記格子のひずみ分布を算出するステップと、
前記方向毎の前記格子のひずみ分布を統合した画像から、欠陥位置座標を検出するステップと、
検出された前記欠陥位置座標を表す表示を、前記2次元増倍モアレ縞の位相分布を表す画像上に行うステップと、
をさらに含む請求項2記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記ひずみ分布を算出するステップが、
前記方向毎に前記サンプリングモアレ縞に基づき算出される当該格子方向の格子の位相分布から、前記方向毎に当該格子の角度分布を算出するステップと、
前記方向毎に、前記格子の角度分布から前記格子のピッチ分布を算出するステップと、
前記方向毎に、前記格子のピッチ分布から前記格子のひずみ分布を算出するステップと、
を含む請求項3又は5記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記欠陥位置座標を検出するステップが、
前記方向毎の前記格子のひずみ分布を、所定の方法にて統合して画像を生成するステップと、
生成された前記画像において、所定の閾値と所定の関係を有する輝度値の画素の位置座標を特定するステップと、
を含む請求項3又は5記載の画像処理方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つ記載の画像処理方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
試料の画像から、予め定められた直交軸の各方向について、又は、前記試料の表面における格子の主方向に応じて当該主方向が前記直交軸のいずれかに平行になるように前記画像を回転する場合における前記直交軸の各方向について、所定のフィルタ処理にて格子の画像を生成する手段と、
前記方向毎に、前記格子の画像からサンプリングモアレ縞を算出し、当該サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチとした場合における仮想的な1次元モアレ縞の位相分布を算出する手段と、
前記方向毎に前記位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を合成することで得られる2次元増倍モアレ縞を生成する手段と、
を有する画像処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の欠陥を検出するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの性能や寿命を保証するため、製造時に発生する原子レベルの格子欠陥を精密に制御する技術の確立が強く求められている。また、金属加工の際に導入される原子空孔などの点欠陥や転位などの線欠陥を評価することは、塑性変形から破壊へ至るメカニズム解明に非常に重要である。そのため、製造プロセスや加工プロセスが格子欠陥の密度や分布に及ぼす影響を定量的に評価できれば、デバイスや金属材料の性能向上にとって最適な製造又は加工プロセス技術を確立することができる。
【0003】
これまで個別の格子欠陥の検出および評価は、主に透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)や原子力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いた高倍率の撮影画像の目視観察によって行っていたため、時間と手間が掛かり、効率のよい原子レベルでの欠陥の検出は極めて困難であった。ウェーハー表面解析システム等のいくつかの商用検査機器が開発されてきたが、これらの機器やソフトウェアは高価である。
【0004】
結晶構造やグラフェン、ナノ粒子、ナノホール、ナノロッド、ナノチューブなどの周期構造には回折格子が含まれているため、画像処理による光学的手法は、低コストの欠陥検出に適している。既存の光学的手法には、フーリエ変換(FT:Fourier Transform)、窓付きフーリエ変換(WFT:Windowed Fourier Transform)、走査モアレ法、幾何学的モアレ法、デジタルモアレ法、サンプリングモアレ法(SM:Sampling Moire。例えば特許文献2及び3など)などが存在している。
【0005】
広い視野での原子構造の転位分布を検出するために、フーリエ変換フィルタ処理されたサンプリングモアレ(FTF-SM:Fourier Transform Filtered Sampling Moire)技術(例えば特許文献1)が提案されており、GaNとSi半導体のTEM画像から転位とひずみ分布を可視化することができる。サンプリングモアレ法(例えば非特許文献1)とデジタル位相シフトモアレ法(非特許文献2)は、転位分布と界面の検出に利用されている。
【0006】
これらの既存の光学的手法では、結晶構造と周期構造の異なる方向の格子配列を別々に解析を行なっていた。そのため、転位などの線欠陥は容易に検出できるが、空孔などの点欠陥の検出は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-109593号公報
【特許文献2】特開2019-66369号公報
【特許文献3】特開2009-264852号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wang Q, Ri S, Xia P, Liu Z.,"Automatic detection of defect positions including interface dislocations and strain measurement in Ge/Si heterostructure from moire phase processing of TEM image", Optics and Lasers in Engineering, 2020, 129: 106077.
【非特許文献2】Zhu Y, Wen H, Zhang H, Liu Z.,"Application of digital phase shifting moire method in interface and dislocation location recognition and real strain characterization from HRTEM images", Optics Express, 2019, 27(25): 36990-37002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、一側面として、点欠陥を検出可能にする画像処理技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る画像処理方法は、(A)試料の画像から、予め定められた直交軸の各方向について、又は、試料の表面における格子の主方向に応じて当該主方向が直交軸のいずれかに平行になるように画像を回転する場合における直交軸の各方向について、所定のフィルタ処理にて格子の画像を生成するステップと、(B)上記方向毎に、格子の画像からサンプリングモアレ縞を算出し、当該サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチとした場合における仮想的な1次元モアレ縞の位相分布を算出するステップと、(C)上記方向毎に位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を合成することで得られる2次元増倍モアレ縞を生成するステップとを含む。
【発明の効果】
【0011】
一側面によれば、点欠陥が検出可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施の形態に係る欠陥検出システムの構成例を示すための図である。
【
図2】
図2は、格子の主方向及び角度について説明するための図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態における各段階の処理結果を表す図である。
【
図5】
図5は、画像の回転及びトリミングを説明するための図である。
【
図6】
図6は、サンプリングモアレ法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【
図8】
図8は、欠陥位置座標検出処理の処理フローを示す図である。
【
図9】
図9は、欠陥位置座標検出処理における各段階の処理結果を表す図である。
【
図14】
図14は、コンピュータの機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の実施の形態に係る欠陥検出システム100を示す。欠陥検出システム100は、撮像装置10と欠陥検出装置20とを有する。撮像装置10は、例えば透過電子顕微鏡(TEM)等であって、試料1の表面に現れる2次元結晶又は周期構造(格子と呼ぶ)を撮影するものである。
【0014】
欠陥検出装置20は、撮像装置10が撮影した画像のデータや処理途中のデータを格納するデータ格納部21と、以下で述べる処理を実行する画像処理部23と、画像処理部23の処理結果を出力装置(例えば表示装置、印刷装置、他のコンピュータなど)に出力する出力部25とを有する。画像処理部23は、前処理部231と、回転処理部232と、バーチャルモアレ生成部233と、2次元増倍モアレ生成部234と、欠陥位置検出部235とを有する。
【0015】
前処理部231は、撮像装置10が撮影した画像から主格子方向毎に主格子画像(例えば
図6(a)、
図4(c)及び(d))を生成する処理等を実行する。回転処理部232は、必要に応じて、画像を回転したりトリミングしたりする処理を実行する。バーチャルモアレ生成部233は、各主格子画像から、サンプリングモアレ法によりサンプリングモアレ縞(例えば
図6(b))を生成し、当該サンプリングモアレ縞の位相分布(例えば
図6(c))を算出し、当該サンプリングモアレ縞の位相分布から格子の位相分布を算出し、当該格子の位相分布からバーチャルモアレの位相分布(例えば
図4(e)(f))を算出する処理を実行する。バーチャルモアレは、サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチにした場合における仮想的な1次元モアレ縞である。なお、バーチャルモアレは、デジタルモアレと言う場合もある。
【0016】
2次元増倍モアレ生成部234は、各主格子方向のバーチャルモアレの位相分布から、2次元増倍モアレ縞(例えば
図4(g))を生成し、当該2次元増倍モアレ縞の位相分布(例えば
図4(h))を算出する。2次元増倍モアレ縞は、主方向毎にバーチャルモアレの位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を加算したものである。欠陥位置検出部235は、主方向毎に、格子の位相分布から格子のひずみ分布(例えば
図9(a)(b))を算出し、主方向毎の格子のひずみ分布を統合した画像(例えば
図9(c))を生成し、当該画像から欠陥位置座標を検出する処理を実行する。
【0017】
本実施の形態では、本来の2次元微小構造を拡大する2次元増倍モアレ縞を導入することで、格子の点欠陥を検出できるようにする。ここで結晶構造の原子配列を規則格子とみなすと、点欠陥を含めた格子欠陥は規則格子の一部に変形を与えることから、原子配列から生成されるモアレ模様も点欠陥に応じて変化することを利用するものである。なお、バーチャルモアレを用いることで線欠陥も検出可能になる。
【0018】
まず、
図2を用いて、観察される格子の主方向rと角度θを説明する。格子は、通常2方向または3方向の主格子から構成される。
図2(a)に示すようにx軸とy軸とを定義すると、ピッチp
nで並ぶ例えば原子列(太線)の法線方向が、主格子nの主方向r
nであり、主格子nの角度θ
nは、主方向r
nがx軸から反時計回りになす角度である。
図2(b)に模式的に示すように、2方向の主格子で構成される格子は、主方向r
1、角度θ
1とする主格子1と、主方向r
2、角度θ
2とする主格子2で決定される。
図3(c)に模式的に示すように、3方向の主格子から構成される格子は、主方向r
1、角度θ
1とする主格子1、主方向r
2、角度θ
2とする主格子2、主方向r
3、角度θ
3とする主格子3のうちの任意の2つで決定される。以下、2方向の主格子で構成される格子を一例に説明するが、3方向以上の主格子で構成される格子であっても、任意の2つの主方向について又は2つの主方向の組み合わせ毎に処理すれば良い。
【0019】
次に、
図3乃至
図9を用いて欠陥検出装置20の処理内容について説明する。
【0020】
まず、前処理部231は、撮像装置10が撮影した試料1の画像をデータ格納部21から読み出す(
図3:ステップS1)。撮像装置10によって又は前処理部231によって、試料1の画像に対してノイズ低減処理を行っても良い。なお、本例では、
図4(a)に示すように、丸で囲まれた点欠陥が2カ所、四角で囲まれた線欠陥が1カ所含まれている格子を撮像装置10で撮影することで、
図4(b)に示すような撮影画像(格子画像とも呼ぶ)が得られるものとする。この例では、主格子r
1はx軸とほぼ平行であり、主格子r
2はy軸とほぼ平行である例を示している。なお、画像の輝度値は256階調である例を示している。
【0021】
次に、前処理部231は、撮影画像から、主方向1及び2の角度及びピッチを算出する(ステップS3)。この算出には様々な方法を採用できるが、例えば特許文献2で示されている2次元フーリエ変換及び2次元逆フーリエ変換を用いた方法を用いてもよい。この方法の概要を示すと、2次元フーリエ変換及び2次元逆フーリエ変換を組み合わせて主方向r
n(n=1,2)毎に格子の位相φ
FT_n(x,y)を算出し、角度分布θ
n(x,y)を以下のように算出する。角度分布θ
n(x,y)から得られる評価領域にける平均角度は、回転処理部232による画像回転に用いる。
【数1】
さらに、主方向r
nのピッチp
n(x,y)を、以下のように算出する。このようなピッチp
n(x,y)から得られる評価領域におけるピッチの平均値は、所定のフィルタ処理やサンプリングモアレ縞の生成などで用いられる。なお、角度及びピッチについては、厳密な値でなくても良いので、外部から入力することで与えるようにしても良い。
【数2】
【0022】
次に、回転処理部232は、主方向1及び2の角度分布θ
n(x,y)に基づき、必要に応じて画像の回転を行う(ステップS5)。
図4(b)に示すような場合には、主格子r
1は水平のx軸とほぼ平行であり、主格子r
2は垂直のy軸とほぼ平行であるので回転の必要は無い。例えば、x軸またはy軸と10度程度の範囲内に主方向が入る場合には、回転させなくても良い。この場合、一方の主方向はx軸であり、他方の主方向はy軸となる。一方、
図5(a)に示すように、主方向r
1及びr
2がx軸及びy軸から傾いている場合には、
図5(b)に示すように、一方をx軸に平行になるように、他方をy軸に平行になるように回転させる。この際、角度分布θ
n(x,y)から得られる評価領域における平均角度とx軸又はy軸との差で回転角度を決定する。但し、厳密にこの回転角度で回転させなくてもよい。なお、回転させると、回転後の画像を囲む最小矩形のサイズの画像として処理される。回転後の画像を囲む最小矩形のサイズの画像になったので、余白が付加された形になっている。
【0023】
次に、前処理部231は、主方向毎に、撮影画像又は回転後の撮影画像に対して所定のフィルタ処理を行って主格子画像を生成する(ステップS7)。具体的には、x軸に平行又は近接する角度の主方向r1については、[2p1+1,1]サイズの平均化フィルタ又は中央値フィルタ(p1は主方向r1におけるピッチの平均値)を施すことで、主方向r1の主格子画像を生成する。一方、y軸に平行又は近接する角度の主方向r2については、[1,2p2+1]サイズの平均化フィルタ又は中央値フィルタ(p2は主方向r2におけるピッチの平均値)を施すことで主方向r2の主格子画像を生成する。平均化フィルタ及び中央値フィルタはローパスフィルタの一例である。なお、フィルタサイズは一例であって、多少異なっていても良い。
【0024】
図4(b)のような撮影画像に対してステップS7を実行すると、
図4(c)に示すような主方向r
1の主格子画像と、
図4(d)に示すような主方向r
2の主格子画像が得られる。なお、撮影画像を回転させた場合には、
図5(c)に示すような主方向r
1の主格子画像と、
図5(d)に示すような主方向r
2の主格子画像が得られる。
図5(c)及び(d)でも、付加された余白は維持されている。
【0025】
そして、バーチャルモアレ生成部233は、各主格子画像について、サンプリングモアレ法によりサンプリングモアレ縞を生成する(ステップS9)。サンプリングモアレ法は周知であるが、本実施の形態に関係する部分の概要を説明する。
【0026】
例えば
図4(c)のような主格子画像の場合、主方向r
1はx軸に平行であり、主格子1の輝度I
1(x,y)は、以下の式で表される。
【数3】
ここでA
1(x,y)は主格子1の振幅、φ
1(x,y)は主格子1の位相、B
1(x,y)は背景輝度、p
1(x,y)は主格子1のピッチを表す。なお、以下では、主方向r
1を例に示すが、「1」を「2」と表せば、主方向r
2の場合を表す。また、xのみを用いている部分についてはyに置換すれば良い。
【0027】
サンプリングモアレ法では、主格子画像にT
1ピクセルのダウンサンプリングと格子像の輝度補間、そして開始点を1ピクセルずつずらしながら同じT
1ピクセルのダウンサンプリングと格子像の輝度補間を実行することで、T
1段階の位相シフトされたサンプリングモアレ縞が生成される。
図6(a)は、
図4(c)と同じであるが、これに対してサンプリングモアレ法により、
図6(b)に示すようなサンプリングモアレ縞が生成される。このサンプリングモアレ縞の輝度分布I
m1(x,y,k)は以下のように表される。
【数4】
ここでkはk段階目のサンプリングモアレ縞を示しており、φ
m1(x,y)は、k=0において主方向r
1の主格子画像から生成されるサンプリングモアレ縞の位相である。さらに、T
1は正の整数であって、主格子1のピッチの平均値に近いサンプリングピッチである。例えば評価領域におけるピッチの平均値がp
1=10.4の場合には、T
1=10を採用する。
【0028】
次に、バーチャルモアレ生成部233は、主方向毎に生成したサンプリングモアレ縞から、その位相分布を算出する(ステップS11)。例えば、離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transformation)のアルゴリズムを用いる位相シフト法により、主方向r
1についてのサンプリングモアレ縞の位相分布φ
m1(x,y)は以下のように算出される。
【数5】
すなわち、I
m1(x,y,k)が得られれば、この式から位相分布φ
m1(x,y)が計算される。
図6(b)のようなサンプリングモアレ縞から、
図6(c)に示すようなサンプリングモアレ縞の位相分布が得られる。
【0029】
そして、バーチャルモアレ生成部233は、主方向毎に、サンプリングモアレ縞の位相分布から、主格子の位相分布を算出する(ステップS13)。具体的には、主方向r
1についての主格子の位相分布φ
1(x,y)を以下のような式に従って算出する。
【数6】
【0030】
サンプリングモアレ縞から主格子の位相分布を算出する方法としては、DFTに基づく方法だけではなく、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)、窓付きフーリエ変換法(WFT:Windowed Fourier Transformation)、ウェーブレット変換法等、他の空間的な位相解析方法を採用するようにしても良い。
【0031】
さらに、バーチャルモアレ生成部233は、主方向毎に、主格子の位相分布から、バーチャルモアレの位相分布を算出する(ステップS15)。主方向r
1についてのバーチャルモアレの位相分布φ
dm1(x,y)は、以下のような式に従って算出される。
【数7】
ここで、N
1は、主格子1のピッチp
1に近く且つそれより大きい正の実数である指定値である。このようなN
1を用いるのは、以下の処理で生成する2次元増倍モアレ縞を元格子の分布特徴と同一にするためである。
【0032】
上でも述べたように。格子のピッチに最も近い整数をサンプリングピッチとしてサンプリングモアレ縞を生成すると、サンプリングモアレ縞の位相分布の計算精度が高くなるが、サンプリングピッチが格子のピッチよりも小さい場合、モアレの歪んだ傾向と格子の歪んだ傾向が逆になってしまう。そこで、モアレの歪んだ傾向が格子の歪んだ傾向と同じになるように、格子のピッチよりも大きい実数である仮想的なピッチN1を選択し、バーチャルモアレの位相分布を計算する。逆に、サンプリングピッチが格子ピッチと近すぎると、モアレの間隔が広すぎて、モアレの歪んだ特徴を簡単に確認できないため、実数である仮想的なピッチN1を使用してバーチャルモアレの位相を生成し、格子の歪んだ特徴の拡大現象の可視化効果を任意に調整するものである。
【0033】
ここまでの処理は、特許文献1にも記載されている処理である。なお、主方向r
2については、(3)式、(4)式、(6)式及び(7)式におけるxをyにすれば良い。また、添え字「1」は「2」にすればよい。バーチャルモアレの位相分布φ
dm2(x,y)については、以下の式で算出される。
【数8】
ここで、N
2は、主格子2のピッチp
2に近く且つそれより大きい正の実数である指定値である。
【0034】
図4の例では、
図4(e)に示すように、主方向r
1のバーチャルモアレの位相分布が得られる。ここでは、四角で囲まれた部分に線欠陥による歪みが現れている。一方、
図4(f)に示すように、主方向r
2のバーチャルモアレの位相分布が得られる。なお、バーチャルモアレの位相分布は、(ーπ,+π]である。ここまでの処理では、線欠陥による歪みは把握できるが、点欠陥は検出できない。
【0035】
また、
図5の例では、
図5(e)に示すように、主方向r
1におけるバーチャルモアレの位相分布が得られ、
図5(f)に示すように、主方向r
2におけるバーチャルモアレの位相分布が得られる。
図5(c)及び(d)でも存在した余白は、
図5(e)及び(f)でも維持されている。
【0036】
処理は端子Aを介して
図7の処理に移行する。ここで、回転処理部232は、ステップS5で回転を行っている場合には、ステップS5の回転と同じ角度の逆回転を行うと共に、余白のトリミングを行う(ステップS17)。
図5(e)の例では、逆回転を行うと、
図5(g)に示すような画像が得られる。また、
図5(f)の例では、逆回転を行うと、
図5(h)に示すような画像が得られる。さらに、余白のトリミングを行うことで、
図5(g)の画像から、
図5(i)のような画像が得られる。さらに、
図5(h)の画像から、
図5(j)のような画像が得られる。これによって元の画像のサイズと同じサイズの画像が得られるようになる。なお、逆回転及びトリミングの対象となる画像については、バーチャルモアレの位相分布だけではなく、回転後の他の画像を含むようにしても良い。
【0037】
そして、2次元増倍モアレ生成部234は、バーチャルモアレの位相分布から、2次元増倍モアレ縞を生成する(ステップS19)。モアレ縞は元格子の拡大現象とみなすことができるため、2方向に格子を同時に拡大するための2次元モアレ縞、すなわち2次元増倍モアレ縞を生成する。さらに、格子欠陥などによるわずかな変形を強調するために、必要に応じてモアレの仮想的な増倍を併せて実行する。すなわち、2次元増倍モアレ縞の輝度分布I
m_2Dは、以下のような式にて算出される。
【数9】
ここで、M
1は、主方向r
1における1次元モアレ縞の密度に対する増倍率であり、M
2は、主方向r
2における1次元モアレ縞の密度に対する増倍率であり、共に正の実数である。
【0038】
M
1φ
dm1(x,y)は、主方向r
1における1次元の増倍モアレ縞の位相を表しており、M
2φ
dm2(x,y)は、主方向r
2における1次元の増倍モアレ縞の位相を表している。cos[M
1φ
dm1(x,y)]は、主方向r
1の1次元増倍モアレ縞の輝度分布であり、cos[M
2φ
dm2(x,y)]は、主方向r
2の1次元増倍モアレ縞の輝度分布である。よって、(9)式は、2つの主方向の1次元増倍モアレ縞の輝度値の平均を表しており、これが2次元増倍モアレ縞の輝度分布となる。
図4の例では、
図4(g)に示すような2次元倍増モアレ縞が得られるようになる。このように、2次元倍増モアレ縞を生成することで、丸で囲まれた点欠陥も四角で囲まれた線欠陥も検出することが出来るようになる。なお、(9)式は、各主方向の1次元増倍モアレ縞の輝度分布の合成を表す一例を示しており、平均ではなく和であっても良い。
【0039】
さらに、2次元倍増モアレ生成部234は、2次元倍増モアレ縞から、その位相分布を算出する(ステップS21)。2次元倍増モアレ縞の位相分布φ
m_2D(x,y)は、以下のような式にて算出される。
【数10】
バーチャルモアレの位相分布は(-π,+π]であったが、2次元増倍モアレ縞の位相分布は、(0,+π]となる。
図4の例では、
図4(h)に示すような位相分布が得られるようになる。この位相分布でも、丸で囲まれた点欠陥も四角で囲まれた線欠陥も検出することが出来るようになる。
【0040】
2次元増倍モアレ縞の位相分布は、2次元格子の位相を拡大(増幅)した画像となるため、格子ピッチに対する拡大(増幅)率は可視化のしやすさに応じて調整すればよい。欠陥可視化の拡大率は以下の式で表される。
【数11】
【数12】
【0041】
ここで、p1(x,y)は主方向r1のピッチ分布を表し、p2(x,y)は主方向r2のピッチ分布を表す。dm1は主方向r1の増倍モアレ縞の間隔であり、dm2は主方向r2の増倍モアレ縞の間隔である。そして、Mp1は主方向r1の格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率であり、Mp2は主方向r2の格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率である。これらの式から、欠陥可視化の拡大率は、M1及びN1、M2及びN2を調整することで、2次元増倍モアレ縞の間隔を任意に調整できることが分かる。
【0042】
格子構造を拡大する際に、格子本来の特徴を保持するためには、2つの主方向で、格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率が同じ又は近似するように設定することが望ましい。すなわち、Mp1=Mp2又はMp1≒Mp2とすることが好ましい。Mp1とMp2を等しく又はほぼ等しくすることができれば、任意のM1、M2、N1、N2を選択することができる。典型的には、主方向r1におけるピッチの平均値p1と主方向r2におけるピッチの平均値p2とすると、増倍前の格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率を等倍、すなわち|N1/(N1ーp1)|=|N2/(N2ーp2)|に設定し、同じ増倍率、すなわちM1=M2を選択する。より具体的には、N1はp1の1.05倍乃至1.2倍程度、N2はp2の1.05倍乃至1.2倍程度、M1=M2=3~6が好ましい。例えば、このような関係に基づき、N1及びN2についてピッチの平均値に対する倍数、M1及びM2を予め設定しておき、場合によって調整するようにすれば良い。
【0043】
その後、欠陥位置検出部235は、欠陥位置座標検出処理を実行する(ステップS23)。この処理については、
図8及び9を用いて説明する。2次元倍増モアレ縞又はその位相分布においてパターンの歪んだ箇所は、元の画像における欠陥の位置と同一である。このことから、欠陥のない模様と比較することで、点欠陥と線欠陥を検出することができるようになる。その自動検出は様々な画像処理方法により行うことが出来る。ここでは、一例として、2つの主格子についてのひずみ分布の乗積等を行って、その結果の二値化画像処理により欠陥の位置座標を検出する方法を説明する。
【0044】
まず、欠陥位置検出部235は、主格子1及び2の位相分布から、主格子1及び2の角度分布を算出する(ステップS31)。例えば、主格子1についての角度分布θ
1(x,y)は、以下の式にて算出される。
【数13】
ここで、φ
1(x,y)は、(6)式で算出される主格子1の位相分布である。主格子2については、同じ式でφ
2(x,y)により算出される。
【0045】
また、欠陥位置検出部235は、主格子1及び2の角度分布から、それぞれのピッチ分布を算出する(ステップS33)。例えば、主格子1についてのピッチ分布p
1(x,y)は、以下の式にて算出される。
【数14】
主格子2については、同じ式でφ
2(x,y)及びθ
2(x,y)により算出される。
【0046】
さらに、欠陥位置検出部235は、ピッチ分布及びピッチ平均値から、主格子1及び2のそれぞれについてひずみ分布を算出する(ステップS35)。ピッチ平均値p
1_Avgは、評価領域のピッチ分布から算出する。主格子1のひずみ分布については、以下の式にて算出される。
【数15】
主格子2については、同じ式でp
2(x,y)及びp
2_Avgにより算出される。例えば、
図9(a)に示すような主格子1のひずみ分布が得られ、
図9(b)に示すような主格子2のひずみ分布が得られる。
【0047】
そして、欠陥位置検出部235は、主格子1及び2についてのひずみ分布を統合して検出用の画像を生成する(ステップS37)。点欠陥となる箇所には2つの主格子のひずみが同時に大きく又は小さくなるという特徴があるため、2つの主格子のひずみ分布を同時に利用して欠陥箇所を検出する。ひずみ分布を統合する方法には様々なものを採用可能であるが、例えば、2つの主格子のひずみ分布の乗積を実行する。乗積の場合には、以下の式にて算出する。
【数16】
図9の例では、
図9(c)に示すような画像が生成される。
【0048】
そして、欠陥位置検出部235は、生成した画像を二値化して、欠陥位置座標を検出する(ステップS39)。二値化のための閾値については、実験結果などに基づき予め設定しておく。また、閾値については必要に応じて調整を行うこともある。例えば、閾値より大きい輝度値(ひずみが大きい)を有する画素については白、閾値以下の輝度値(ひずみが小さい)を有する画素については黒で表すものとする。そうすると、
図9の例では、
図9(d)に示すような画像が得られる。3カ所にひずみの大きい箇所が検出される。処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0049】
図7の処理の説明に戻って、出力部25は、2次元倍増モアレ縞又はその位相分布に、欠陥位置表示を実行する(ステップS25)。例えば、
図9(d)に示すような欠陥位置に丸印を2次元倍増モアレ縞にオーバーレイさせる場合には、
図9(e)に示すような表示がなされるようになる。線欠陥だけではなく点欠陥の欠陥位置が適切に把握できるようになる。なお、単に2次元倍増モアレ縞又はその位相分布そのものを、出力するようにしても良い。
【0050】
なお、ステップS37のひずみ分布の統合については、乗積だけではなく、以下に示すような乗積の絶対値((17)式)、和((18)式)、和の絶対値((19)式)を用いても良い。
【数17】
【数18】
【数19】
【0051】
さらに、2次元増倍モアレ縞又はその位相分布の歪んだ箇所を、他の画像処理方法や画像認識のアルゴリズムを利用して検出するようにしても良い。
【0052】
このような構成を採用することで、モアレによる広視野で、点欠陥と線欠陥の両方の検出が可能となる。なお、正方形、長方形、三角形、または六角形などの周期構造分布を含む任意のスケールでの結晶又は周期構造物の解析が可能である。また、シングルショットの試料の画像から解析が行えるため、動的試験中に撮影された画像に容易に適用可能である。さらに、モアレの位相解析を行っているため、カメラのランダムノイズに強く、測定精度が高い。
【0053】
本実施の形態は、半導体デバイス、自動車、航空宇宙、生医学、材料科学などの分野で様々なスケールでの材料や構造物の周期構造の欠陥検出に用いられる。分析できる対象は半導体、金属、複合材料、生体材料などを含む。
産業分野での典型的な応用は、主に下記を含む。
(1)金属と半導体などの材料の結晶構造内の空孔、置換原子、格子間原子などの点欠陥や、転位とスリップなどの線欠陥や、異相原子クラスターの検出により、材料損傷メカニズムの解明と不良発生率を低減させるプロセスの改善に利用できる。
(2)グラフェン、ナノ粒子、ナノホール、ナノロッド、ナノチューブ、マイクロシーブ、ナノインプリントモールドなどの周期的構造物内の不均一性、欠陥、ずれ、界面の検知、ならびにひずみ分布の測定による製造プロセスの改善に利用できる。
(3)外力下での周期構造を有する構造物(表面に模様を貼付または表面に人工的に模様が存在する)の変位、ずれ量、ひずみ測定に利用できる。
【0054】
[実施例1]点欠陥検出のシミュレーション検証
モアレ解析による点欠陥検出に関するシミュレーションを実施し、検証を行った結果を
図10に示す。まず、主方向r
1をx方向、r
2をy方向とする交差格子を、532×428画素で生成した。2つの主格子のピッチは約10.4画素である。2次元格子配列に空孔、置換原子、格子間原子の3種類の点欠陥を導入した(
図10(a))。TEM画像を模擬するため、σ=50%のガウシアンノイズ(ノイズ振幅が格子振幅の50%)を重畳させた
図10(b)を解析対象の画像とした。
【0055】
解析画像からローパスフィルタによるx方向とy方向の主格子を分離し、サンプリングピッチT
1=T
2=10画素を用いて、x方向とy方向での1次元サンプリングモアレ位相を(5)式でそれぞれ計算した。主格子のピッチより大きい仮想的なピッチN
1及びN
2を用いて、x方向とy方向での1次元バーチャルモアレの位相分布を(7)式及び(8)式でそれぞれ計算した。例として、仮想的なピッチN
2=12画素の場合におけるy方向の1次元バーチャルモアレ位相を
図10(c)に示す。このような1次元バーチャルの位相分布からは、点欠陥の検出とそれらの識別は困難である。
【0056】
一方、仮想的なピッチN
1=N
2=12画素で、1次元バーチャルモアレ縞の密度に対する増倍率M
1=M
2=6とした場合、(10)式及び(11)式で得られる2次元増倍モアレ縞の位相分布は、
図10(d)に示すようになる。丸で囲まれた点欠陥を明確に検出することができ、さらにそれらの種類を目視で識別できることを確認した。
【0057】
[実施例2]2次元増倍モアレ縞の拡大率調整に関するシミュレーション
2次元格子ピッチに対する2次元増倍モアレ縞の間隔の拡大率を、主方向r
1及びr
2において、仮想的なピッチ(N
1及びN
2)及び1次元モアレ縞の密度に対する増倍率(M
1及びM
2)に応じて、任意に調整できる。
図10(b)の格子を対象として、
図11に、異なる拡大率での2次元増倍モアレ縞の位相分布を示している。
図11では、仮想的なピッチN
1=N
2を、11,11.5,12画素に、増倍率M
1=M
2を1,3,5にそれぞれ変えた場合における2次元増倍モアレ縞の位相分布を示している。この例では、M
1=M
2=5、N
1=N
2=11.5または12画素の設定が、他の組み合わせよりも点欠陥を見つけやすい。このように適切なN
1、N
2、M
1、M
2の組み合わせによって、点欠陥の検出を容易にできる
【0058】
図11では、M
1=M
2、N
1=N
2の例を示したが、
図12に、M
xとM
y、N
xとN
yが異なる値の場合における2次元増倍モアレ縞の位相分布を示す。
【0059】
図12(a)は点欠陥とノイズを導入した周期構造の画像を示しており、x方向のピッチは10.4画素、y方向のピッチはx方向のピッチの1.05倍である。主方向r
1とx方向の間にはわずかな角度があり、解析時の画像の回転がないため、本例の拡大率のパラメータを、M
xとM
y、N
xとN
yと呼ぶものとする。
【0060】
図12(a)のように、x方向のピッチとy方向のピッチが異なる格子の場合、
図12(b)のように、M
xとM
y、N
xとN
yを同じ値で増倍した位相分布では縦横の比が大きく変わり、点欠陥の場所が分かりにくくなる。そこで、
図12(c)に示すとおり、y方向の仮想的なピッチがx方向の仮想的なピッチの1.05倍ではない場合(すなわち、N
x=N
y=12画素)には、異なる1次元モアレ縞の密度に対する増倍率(M
x=3,M
y=6)を選ぶことで、両方向に格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率は同じ倍率にすることができる。
【0061】
また、
図12(d)に示すとおり、 y方向の仮想的なピッチがx方向の仮想的なピッチの1.05倍の場合(すなわち、N
x=12画素、N
y=12.6画素)、1次元モアレ縞の密度に対する増倍率を、M
x=M
yとすれば、x方向とy方向に格子ピッチに対する増倍モアレ縞の拡大率が概ね同じになる。これらの調整方法により、対象物のx方向とy方向のピッチが異なる場合でも対応できるようになる。
【0062】
[実施例3]Si単結晶試料のTEM写真から原子空孔検出と検証
電子ビーム照射によって欠陥が導入されたSi単結晶構造のTEM写真(
図13(a))から、2次元原子構造を拡大する2次元増倍モアレ縞を生成し、2次元増倍モアレ縞の位相分布を算出した(
図13(b))。2次元増倍モアレ縞の位相パターン中の特異点から、Si結晶格子の点欠陥を検出できた。検出された点欠陥位置のTEM画像の拡大図を観察したところ、原子空孔の存在が確認され、本実施の形態における2次元増倍モアレ法の有効性が確認された。
【0063】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、処理フローは一例であって、処理結果が変わらない限り、ステップの順番入れ替えや複数ステップの並列実行を行うようにしてもよい。また、
図1の機能構成例も一例であって、プログラムモジュール構成とは一致しない場合もある。また、欠陥検出装置20は、1台のコンピュータで実装される場合もあれば、複数台のコンピュータで実装される場合もある。また、撮像装置10と欠陥検出装置20は一体化される場合もあれば、遠隔地に設けられる場合もある。
【0064】
なお、上で述べた欠陥検出装置20は、コンピュータ装置であって、
図14に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。なお、HDDはソリッドステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置でもよい。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本発明の実施の形態における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。本技術の実施例では、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
【0065】
なお、上で述べたような処理を実行することで用いられるデータは、処理途中のものであるか、処理結果であるかを問わず、メモリ2501又はHDD2505等の記憶装置に格納される。
【0066】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0067】
本実施の形態に係る画像処理方法は、(A)試料の画像から、予め定められた直交軸の各方向について、又は、試料の表面における格子の主方向に応じて当該主方向が直交軸のいずれかに平行になるように画像を回転する場合における直交軸の各方向について、所定のフィルタ処理にて格子の画像を生成するステップと、(B)上記方向毎に、格子の画像からサンプリングモアレ縞を算出し、当該サンプリングモアレ縞に基づき、ピッチを仮想的な指定ピッチとした場合における仮想的な1次元モアレ縞の位相分布を算出するステップと、(C)上記方向毎に位相分布を所定倍した位相分布によるモアレ縞の輝度分布を合成することで得られる2次元増倍モアレ縞を生成するステップとを含む。
【0068】
このような画像処理を実行することで、点欠陥の検出が出来るようになる。また、線欠陥も検出できる。なお、方向については、完全に一致する場合のみならず、完全に一致せずとも近似している場合をも含むものとする。
【0069】
上記画像処理方法は、(D)2次元増倍モアレ縞から、当該2次元倍増モアレ縞の位相分布を算出するステップをさらに含むようにしても良い。このような位相分布であっても、点欠陥を検出することが出来る。また、線欠陥も検出できる。
【0070】
上記画像処理方法は、(E)上記方向毎にサンプリングモアレ縞に基づき算出される当該方向の格子の位相分布から、上記方向毎に格子のひずみ分布を算出するステップと、(F)上記方向毎の格子のひずみ分布を統合した画像から、欠陥位置座標を検出するステップとをさらに含むようにしても良い。これによって、点欠陥や線欠陥の位置を自動的に検出できるようになる。
【0071】
上記画像処理方法は、(G)検出された欠陥位置座標を表す表示を、2次元増倍モアレ縞の画像上に行うステップをさらに含むようにしても良い。2次元増倍モアレ縞において欠陥位置を認識しやすくなる。
【0072】
なお、上記画像処理方法は、上記方向毎に前記サンプリングモアレ縞に基づき算出される当該方向の格子の位相分布から、上記方向毎に前記格子のひずみ分布を算出するステップと、上記方向毎の格子のひずみ分布を統合した画像から、欠陥位置座標を検出するステップと、検出された欠陥位置座標を表す表示を、2次元増倍モアレ縞の位相分布を表す画像上に行うステップとをさらに含むようにしても良い。2次元増倍モアレ縞の位相分布において欠陥位置を認識しやすくなる。
【0073】
上記ひずみ分布を算出するステップが、(e1)上記方向毎にサンプリングモアレ縞に基づき算出される当該格子方向の格子の位相分布から、上記方向毎に当該格子の角度分布を算出するステップと、(e2)上記方向毎に、格子の角度分布から格子のピッチ分布を算出するステップと、(e3)上記方向毎に、格子のピッチ分布から格子のひずみ分布を算出するステップとを含むようにしても良い。比較的容易にひずみ分布を得ることが出来るが、他の方法でひずみ分布を得るようにしても良い。
【0074】
上記欠陥位置座標を検出するステップが、(f1)上記方向毎の前記格子のひずみ分布を、所定の方法にて統合して画像を生成するステップと、(f2)生成された画像において、所定の閾値と所定の関係を有する輝度値の画素の位置座標を特定するステップとを含むようにしても良い。所定の方法には、例えば乗積、乗積の絶対値、和、和の絶対値などにより実現される。所定の関係は、輝度値が高いほどひずみが大きい場合には、所定の閾値より大きいという関係である。
【0075】
以上述べた画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを作成することができて、そのプログラムは、様々な記憶媒体に記憶される。
【0076】
また、上で述べたような画像処理方法を実行する装置は、1台のコンピュータで実現される場合もあれば、複数台のコンピュータで実現される場合もあり、それらを合わせて画像処理システム又は単にシステムと呼ぶものとする。
【符号の説明】
【0077】
100 欠陥検出システム
10 撮像装置
20 欠陥検出装置
21 データ格納部
23 画像処理部
25 出力部
231 前処理部
232 回転処理部
233 バーチャルモアレ生成部
235 2次元増倍モアレ生成部
235 欠陥位置検出部