(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096698
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】拡散防止剤およびフッ素グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 133/16 20060101AFI20220623BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20220623BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220623BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220623BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
C10M133/16
C10M107/38
C10N50:10
C10N30:00 Z
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209803
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】595141111
【氏名又は名称】カントーカセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】戸矢 正則
(72)【発明者】
【氏名】向後 莞爾
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BE11C
4H104CD04A
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】過酷な高温高湿条件下においても油滲みを抑制可能で、パーフルオロポリエーテル油に対しても効果がある拡散防止剤及びフッ素グリース組成物を提供する。
【解決手段】拡散防止剤が式(I)、及び/又は式(II)で表される化合物を含む。
(式(I)及び(II)中のRfは、C
nF
2n+1(OCFCF
3CF
2OCFCF
3)
mCH
2-において、nが1~4、mが1~2で表されるパーフルオロエーテル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物、および/または式(II)で表される化合物を含むことを特徴とする拡散防止剤。
(式(I)および(II)中のRfは、C
nF
2n+1(OCFCF
3CF
2OCFCF
3)
mCH
2-において、nが1~4、mが1~2で表されるパーフルオロエーテル基である。)
【請求項2】
フッ素グリースに対し、請求項1に記載の拡散防止剤が0.1~10質量%配合されていることを特徴とするフッ素グリース組成物。
【請求項3】
前記フッ素グリースが、フッ素油と増ちょう剤を含む請求項2に記載のフッ素グリース組成物。
【請求項4】
前記フッ素油が、式(III)または式(IV)で示される直鎖状のパーフルオロポリエーテルを基油として含む請求項3に記載のフッ素グリース組成物。
CF3-[(OCF2CF2)p-(OCF2)q]OCF3 (III)
(式(III)中のpとqは、ともに正の整数であり、p+q=40~180、p/q=0.5~2を満足する)
F-(CF2-CF2-CF2-O-)r-CF2-CF3 (IV)
(式(IV)中のrは、正の整数でありr=15~50を満足する)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散防止剤およびフッ素グリース組成物に関し、具体的には、フッ素グリースから拡散する基油を防止するために用いる拡散防止剤および、その拡散防止剤を含むフッ素グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは増ちょう剤、基油、添加剤からなりそれらの種類によって分類される。例えば増ちょう剤の種類には金属石鹸やポリテトラフルオロエチレンが、基油にはエステル系やポリアルファオレフィン系の合成潤滑油やパーフルオロポリエーテル油などが用いられる。
【0003】
この中でも特にポリテトラフルオロエチレンとパーフルオロポリエーテル油からなるグリースはフッ素グリースと呼ばれ、その優れた低温特性や潤滑性、化学的安定性から車載製品や家電製品の要求事項を満足させうる性能を有す。
【0004】
ところが、上述のような高い性能を有しているフッ素グリースは増ちょう剤に由来する増ちょう性の低さから、汎用的に使用されている金属石鹸グリースなどと比較して油拡散が大きいという欠点を有す。
【0005】
グリースの拡散防止剤として例えば特許文献1に記載されている技術が知られている。この特許文献1には、フッ素系界面活性剤からなることを特徴とするグリースの基油拡散防止剤が提案されている。
【0006】
また、フッ素グリースの拡散防止剤について特許文献2に記載されている技術が知られている。この特許文献2には直鎖のパーフルオロポリエーテル基を有したパーフルオロポリエーテル油の拡散防止剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4-46999号公報
【特許文献2】特開2016-20405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のグリースの基油拡散防止剤は合成潤滑油に対して効果を発揮するものの、ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製Fomblin Mシリーズオイル等の直鎖状パーフルオロポリエーテルを含め、パーフルオロポリエーテル油に対しては効果を発揮しないという問題があった。また、特許文献2に記載のパーフルオロポリエーテル油の拡散防止剤は、高温高湿環境下においての性能が報告されておらず、さらに、パーフルオロポリエーテル油の種類に関して、直鎖状パーフルオロポリエーテルに対しての効果も報告されていないとの問題があった。すなわち、フッ素グリースに対して、高温高湿環境下で基油拡散防止効果を発揮し、かつ、直鎖状パーフルオロポリエーテルに対しての効果が明確な技術は、これまで存在していなかった。
【0009】
そこで、本発明の主たる目的は、過酷な高温高湿条件下に対しても、フッ素グリースの性能を損なうことなく油滲みを抑制可能で、直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対しても効果がある拡散防止剤、およびフッ素グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討した。その結果、特定の構造を有するフッ素化合物が直鎖状のパーフルオロポリエーテル油含有のフッ素グリースに対してもその性能を損なうことなく、また、油滲みによる拡散を、高温高湿下の過酷な条件でも抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の拡散防止剤は、式(I)で表される化合物、および/または式(II)で表される化合物を含むことを特徴とする。
(式(I)および(II)中のRfは、C
nF
2n+1(OCFCF
3CF
2OCFCF
3)
mCH
2-において、nが1~4、mが1~2で表されるパーフルオロエーテル基である。)
【0012】
また、本発明のフッ素グリース組成物は、フッ素グリースに対し、本発明の拡散防止剤が0.1~10質量%混合されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のフッ素グリース組成物は、前記フッ素グリースが、フッ素油と増ちょう剤を含むことが好ましい。また、前記フッ素油が、下式(III)または式(IV)で示される直鎖状のパーフルオロポリエーテルを基油として含むことが好ましい。
CF3-[(OCF2CF2)p-(OCF2)q]OCF3 (III)
(式(III)中のpとqは、ともに正の整数であり、p+q=40~180、p/q=0.5~2を満足する)
F-(CF2-CF2-CF2-O-)r-CF2-CF3 (IV)
(式(IV)中のrは、正の整数でありr=15~50を満足する)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な高温高湿条件下に対しても、フッ素グリースの性能を損なうことなく油滲みを抑制可能で、直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対しても効果がある拡散防止剤、およびフッ素グリース組成物を得ることができる。特に、本発明の拡散防止剤は60℃、90%RHといった過酷な条件でも直鎖状のパーフルオロポリエーテル油含有のフッ素グリースの油拡散を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の拡散防止剤は、式(I)で表される化合物、および/または式(II)で表される化合物を含むことを特徴とするものである。
(式(I)および(II)中のRfは、C
nF
2n+1(OCFCF
3CF
2OCFCF
3)
mCH
2-において、nが1~4、mが1~2で表されるパーフルオロエーテル基である。)
【0016】
本発明に係る新規フッ素拡散防止剤を添加したフッ素グリース組成物によれば、フッ素グリースの高い性能を損なうことなく、従来油拡散が多いとされるフッ素グリースの油拡散を防止することができる。また、過酷な条件(60℃、90%RH)でも直鎖タイプのパーフルオロポリエーテル油に対して油拡散防止効果があることから、高湿度環境下での使用が多い機器における軸受け部、回転部、摺動部にも適用して好ましいものである。
以下、本発明の各構成成分について、詳しく説明する。
【0017】
[拡散について]
フッ素グリースはパーフルオロポリエーテル油、増ちょう剤から成るものであるがフッ素グリースはその優れた性能を有する反面、増ちょう剤の増ちょう性の低さに起因した離油しやすいという欠点が存在する。本発明の拡散防止剤は上記組成のフッ素グリースに添加して用いられフッ素グリースの組成中のパーフルオロポリエーテル油の拡散を防止することができる。
【0018】
[拡散防止剤の原理]
グリースの塗布部は微細な表面構造をもっていることが多く、フッ素グリース中のパーフルオロポリエーテル油はこのような表面状態のため毛細管現象により油分が滲みでて拡散される。この油分の滲みだしには、油の粘度や増ちょう剤の表面積も関係する。油の粘度が低いほど拡散しやすく、増ちょう剤の表面積が大きいほど油分は拡散しにくい。このときフッ素グリースに拡散防止剤が添加されていると、油中の拡散防止剤の一部が油の滲みだしよりも先に滲みだすことで塗布面に拡散防止剤が配向される。拡散防止剤は極性基とパーフルオロポリエーテル基をそれぞれ有しており塗布部表面には極性基が配向し、パーフルオロポリエーテル基は外向きに配向される。一方、グリース中の拡散防止剤はグリース側にパーフルオロポリエーテル基が向き外側に極性基が配向される。この結果先行して滲みだした拡散防止剤のパーフルオロポリエーテル基と、グリース内に残った拡散防止剤の極性基とが反発することによってオイルの拡散が防がれると考えられる。
【0019】
ところで、本発明のフッ素拡散防止剤はパーフルオロアルキル基が分岐しており側鎖型である。そのため、側鎖状のパーフルオロポリエーテル油と直鎖状のパーフルオロポリエーテル油を比較すると側鎖状のパーフルオロポリエーテル油の方が親和性は高いと考えられる。よって、親和性の低い直鎖状のパーフルオロポリエーテル油の方が拡散防止剤は分離しやすく塗布面に対して先行して配向される。結果として、側鎖状のパーフルオロポリエーテル油よりも直鎖状のパーフルオロポリエーテル油の方が、拡散防止効果が高いと考えられる。
【0020】
そのため、本発明の拡散防止剤は高温高湿(60℃、90%RH)条件においても直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対して拡散防止効果が確認された。一般的にパーフルオロポリエーテル油は温度が高いほど粘度が低くなり油が滲みやすい。また、高湿度条件下では水分子の極性基によって拡散防止剤の配向が阻害され、拡散防止効果が失われるため配向が阻害された部分から油が拡散してしまう。ところが、本発明のフッ素拡散防止剤はこのような条件においても効果が確認された。
【0021】
[フッ素グリースの組成物について]
使用できるパーフルオロポリエーテル油には、例えば以下のような一般式で表される構造の化合物があげられる。ここで、基油としてのパーフルオロポリエーテル油は、例えば下記式(III)~(V)で表される構造を有するものをあげることができる。具体的な製品としては、例えばFomblin Mシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)、デムナム Sシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、Fomblin Yシリーズ(ソルベイスペシャリティポリマーズジャパン製)があげられる。Fomblin Mシリーズおよびデムナム Sシリーズは、それぞれ直鎖状((III)および(IV))のパーフルオロポリエーテル油であり、Fomblin Yシリーズは側鎖状((V))のパーフルオロポリエーテル油である。
【0022】
CF3-[(OCF2CF2)p-(OCF2)q]OCF3 (III)
(式(III)中のpとqは、ともに正の整数であり、p+q=40~180、p/q=0.5~2を満足する)
F-(CF2-CF2-CF2-O-)r-CF2-CF3 (IV)
(式(IV)中のrは、正の整数でありr=15~50を満足する)
CF3-(O-CFCF3-CF2)s-(O-CF2-)t-O-CF3 (V)
(式(V)中のsとtは、ともに正の整数であり、s+t=8~45、s/t=20~44を満足する)
【0023】
先にも述べた通り、パーフルオロポリエーテル油の粘度は油拡散に大きく影響を及ぼす。本発明の拡散防止剤はパーフルオロポリエーテル油の粘度が40℃で10~600mm2/sの範囲のものに対して好ましいものである。また、本発明の拡散防止剤は式(III)、(IV)のような直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対して特に効果があるものである。
【0024】
フッ素グリースの増ちょう剤としては、特に限定されるものではないがポリテトラフルオロエチレンを使用することが望ましい。ポリテトラフルオロエチレンはパーフルオロポリエーテル油に対して増ちょう性が高くフッ素グリースの増ちょう剤として広く使用されている。
【0025】
その中でも平均粒径が10.0μm以下のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンの粒形が小さいほど、表面積が増加するためパーフルオロポリエーテル油との接触面積が大きくなり油分離が小さくなる。また、ポリテトラフルオロエチレンの含有量を増加させることで油分離量を低減させることが可能だが、それと同時にグリースのちょう度が低くなり粘度も増加する。そのため、低温時にトルクが増加しやすくなるなど、用途によっては適さない場合がある。このようにポリテトラフルオロエチレンの粒径が小さいほど油分離しにくく好ましい。
【0026】
また、フッ素グリースには潤滑性やその他特殊な性能を付与するために、固体潤滑剤をはじめ、増粘剤や防錆剤などを配合することができる。
【0027】
[配合量]
本発明の拡散防止剤の配合量としては、特に限定されるものではなくグリースの組成に応じて適宜決定することが好ましい。パーフルオロポリエーテル油の粘度や増ちょう剤の配合量によって拡散防止剤の添加量は変化するが、フッ素グリースに対し、一般的には0.1~10質量%の割合で配合することができる。この範囲よりも配合量が少なすぎると十分な効果が得られず、配合量が多すぎると性能が頭打ちになるとともに、油がグリースから全く分離せず潤滑性が損なわれる。
【0028】
フッ素グリース中のパーフルオロポリエーテル油の配合量としては50~90質量%が一般的であるが、油の配合量が多いほど拡散防止剤の量を多く添加することが好ましい。また、上述したように油の粘度が低いほど油分離が起こりやすいため、拡散防止剤が塗布面に配向されるよりも先に油の拡散が起こる。そのため、油の粘度が低いほど拡散防止剤の添加量を増やすことが望ましい。
【0029】
フッ素グリース中の増ちょう剤の配合量としては5~50質量%が一般的であるが、増ちょう剤の配合量が少ないほど拡散防止剤の添加量を多くすることが好ましい。増ちょう剤の配合量が少ないほど油との接触面積が小さくなり油分離が起こりやすくなる。また、上述したように増ちょう剤の粒径が大きいほど油分離が起こりやすいため拡散防止剤の配合量を多くするように調製することが好ましい。
【0030】
[フッ素グリース組成物の製造方法について]
本発明のフッ素グリース組成物は周知の一般的な方法により製造が可能である。例えば、基油であるパーフルオロポリエーテル油と増ちょう剤であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を万能混錬機によって混錬しグリース基材を得る。得られたグリース基材に対して上述の拡散防止剤を所定量添加し分散させる。必要であればその他の各種添加剤を添加した後、三本ロールなどを用いて混錬を行う。これらにより拡散防止剤添加のフッ素グリース組成物を得ることができる。
【実施例0031】
[拡散防止剤]
以下に拡散防止剤の作成方法を示す。
【0032】
攪拌子、温度計、ジムロート冷却管、三方コックを備えた100mL4つ口フラスコに1H,1H-2,5-ジ(トリフルオロメチル)-3,6-ジオキソウンデアフルオロノナノール14.5g(30.0mmol)、クロロホルム(脱水)60mL、m-キシレンジイソシアネート2.82g(15.0mmol)、およびジラウリン酸ジブチルすず(IV)0.142g(0.225mmol)を仕込み、室温で攪拌した。その後、室温で5日間攪拌を行った。次に、溶液を100mLナスフラスコに移液し、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。これをクロロホルム30gに溶解してシリカゲルのショートカラムに通した。最後に溶液を濃縮し、16.1gの無色透明粘稠液体を得た。
【0033】
このようにして得られた、拡散防止剤Aは、式(I)の構造を有し、Rfは、C
nF
2n+1(OCFCF
3CF
2OCFCF
3)
mCH
2-において、nが3、mが1で表されるパーフルオロエーテル基であった。
【0034】
[実施例のフッ素グリース組成物および比較例のフッ素グリース]
次に実施例1~3において、上述の添加剤を下記表1に示した配合比で含有させたフッ素グリース組成物を作成した。なお、配合量は「質量部」で表される。
【0035】
ここで、基油となるパーフルオロポリエーテル油はソルベイ株式会社製のFomblin M-15(式(III)の構造の直鎖状のパーフルオロポリエーテル油、40℃における粘度が85mm2/s)と、ダイキン工業株式会社製のデムナムS-65(式(IV)の構造の直鎖状のパーフルオロポリエーテル油、40℃における粘度が65mm2/s)、ソルベイ株式会社製のFomblin Y-45(式(V)の構造の側鎖状のパーフルオロポリエーテル油、40℃における粘度が147mm2/s)をそれぞれ用いた。
【0036】
加えて、増ちょう剤としてデュポン株式会社製のZONYL TLP-10F-1(平均粒径が0.2μmのポリテトラフルオロエチレン)を用いた。
【0037】
実施例1~3のフッ素グリース組成物については以下の方法により調製を行った。すなわち、上述の基油となるパーフルオロポリエーテル油と増ちょう剤とをそれぞれ混錬して得たグリース基材に対して規定量の拡散防止剤Aを添加した後、3本ロールミルで均一に分散させることで実施例1~3のフッ素グリース組成物を作成した。
【0038】
また、比較例1のフッ素グリースについては、以下の方法により調製を行った。すなわち、上述の基油となるパーフルオロポリエーテル油と増ちょう剤とをそれぞれ混錬して得たグリース基材に対して拡散防止剤Aを添加しないことで比較例1のフッ素グリースを作成した。実施例1~3のフッ素グリース組成物および比較例1のフッ素グリースの25℃における混和ちょう度は、267~277とほぼ同一であった。
【0039】
[拡散性試験、および評価]
実施例1~3のフッ素グリース組成物および比較例1のフッ素グリースについて、それぞれパーフルオロポリエーテル油の拡散性試験を行った。
【0040】
パーフルオロポリエーテル油の拡散性試験として、まず初めにすりガラスに対して半径15mm、厚さ1mmとなるようにフッ素グリースを均一に塗布した。その後、80℃、0%RHの恒温槽内で24時間放置し円柱状のグリース外周部からオイルが滲みだした最長距離を測定し、拡散幅とした。
【0041】
また、実施例1~3のフッ素グリース組成物および比較例1のフッ素グリースをそれぞれ上述の塗布条件ですりガラスに対して塗布し、60℃、90%RHの恒温槽内にて、上述の試験条件よりも高湿度で過酷な条件で24時間放置したものを実施例4~6および比較例2とし、それらについて、円柱状のグリース外周部からオイルが滲みだした最長距離を測定し、拡散幅とした。
【0042】
表1に、実施例1~3のフッ素グリース組成物と比較例1のフッ素グリースについての、80℃、0%RHで24時間放置後の油拡散試験結果を示す。
【0043】
【0044】
表1に示すように、本発明の拡散防止剤Aを添加した実施例1~3のフッ素グリース組成物は油拡散が起きていない一方、本発明の拡散防止剤Aを添加していない比較例1のフッ素グリースは54mmの油拡散がみられた。このことから本発明の拡散防止剤はパーフルオロポリエーテル油の拡散を防止することが可能であることが確認された。
【0045】
表2に、実施例4~6のフッ素グリース組成物と比較例2のフッ素グリースについての、60℃、90%RHで24時間放置後の油拡散試験結果を示す。
【0046】
【0047】
表2に示すように、本発明の拡散防止剤Aを添加した実施例4~6のフッ素グリース組成物と本発明の拡散防止剤Aを添加していない比較例2のフッ素グリースとを比較すると、60℃、90%RHの恒温槽内と、上述の試験条件よりも高湿度で過酷な条件においても、表1の結果同様、実施例4~6の方がはるかに良い結果が得られた。また、本発明の拡散防止剤Aを添加した実施例4~6同士を比較すると、24時間後では直鎖状のパーフルオロポリエーテル油を含む実施例4および5では油拡散が起きていないのに対し、側鎖状のパーフルオロポリエーテル油を含む実施例6では油拡散が起きており、このことにより、拡散防止剤Aは、直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対して、より油拡散防止効果があることが確認された。
【0048】
以上のように、本発明によれば、過酷な高温高湿条件下に対しても、フッ素グリースの性能を損なうことなく油滲みを抑制可能で、直鎖状のパーフルオロポリエーテル油に対しても効果がある拡散防止剤、およびフッ素グリース組成物を得ることができることが分かる。特に、本発明の拡散防止剤は60℃、90%RHといった過酷な条件でも直鎖状のパーフルオロポリエーテル油含有のフッ素グリースの油拡散を効果的に抑制することができる。