(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096731
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】巻鉄心用誘導加熱式熱処理装置およびその熱処理方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20220623BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20220623BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20220623BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220623BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C21D9/00 S
H05B6/10 331
C21D1/42 J
C21D9/46 501Z
C21D9/46 501A
H01F41/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209860
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】507076126
【氏名又は名称】株式会社IFG
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】森 仁
(72)【発明者】
【氏名】八島 建樹
【テーマコード(参考)】
3K059
4K033
4K042
5E062
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AB26
3K059AD05
3K059CD77
4K033RA01
4K033RA02
4K033RA06
4K033SA01
4K033SA04
4K033UA01
4K042AA25
4K042BA10
4K042BA12
4K042DA03
4K042DA06
4K042DB01
4K042EA01
5E062AB15
(57)【要約】
【課題】巻鉄心の誘導加熱方式による熱処理において、巻鉄心内部まで均一に加熱可能な熱処理装置の実用化を目的とする。
【解決手段】熱処理装置は、金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端3・4同士が電気的接続手段5により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の巻鉄心1の内側を貫通するように配設された磁性コア7と、巻鉄心1の外周より外側に、巻鉄心1を内包する様に巻きまわされ、変動電流の通電により、前記巻鉄心1に誘導電流6を誘導し、該誘導電流6により前記巻鉄心1を加熱するように構成された加熱コイル8とで構成されている。これにより、長尺物や複数製品の加熱の均一な加熱が可能となり、生産性の向上や処理時間短縮のための急速加熱が可能となる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端同士が電気的接続手段により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の巻鉄心の外周より外側に、前記巻鉄心を内包する様に巻きまわされ、変動電流の通電により、前記巻鉄心に誘導電流を誘導し、該誘導電流により前記巻鉄心を加熱するように構成された加熱コイルとで構成されていることを特徴とする巻鉄心の熱処理装置。
【請求項2】
前記1乃至複数の巻鉄心の内側を貫通するように磁性コアが更に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項3】
磁気コアの外周と巻鉄心の内周の間の空間に、その一端から他端に至るスリットが設けられ、熱処理時にその一端と他端との間に直流電圧が印加される金属製パイプが更に配設されていることを特徴とする請求項2に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項4】
前記加熱コイルを内包するように前記加熱コイルの外周の外側に巻きまわされ、熱処理時に直流電流が通電される励磁コイルを更に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項5】
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端同士が電気的接続手段により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の左右一対の巻鉄心の内側を貫通し、その貫通部分の両端が接続されてリング状の閉磁路をなす磁性コアと、
前記磁性コアに配設される前記左右の巻鉄心の外周より外側に、前記巻鉄心を内包する様にそれぞれ巻きまわされ、変動電流の通電により、前記巻鉄心に誘導電流をそれぞれ誘導し、該誘導電流により前記巻鉄心を加熱するように構成された左右の加熱コイルとで構成されていることを特徴とする巻鉄心の熱処理装置。
【請求項6】
左右1対の巻鉄心の内周と、該左右1対の巻鉄心に対応する磁気コアの側辺部分の外周との間の空間に、その一端から他端に至るスリットが設けられ、熱処理時に両端から直流電流が通電される金属製パイプがそれぞれ更に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項7】
左右一対の加熱コイルの双方を内包するように、その外側に巻きまわされ、熱処理時に直流電流が通電される励磁コイルが更に設置されていることを特徴とする請求項5に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項8】
加熱時に加熱コイルに流す変動電流が直流オフセットを持っていることを特徴とする請求項1又は2に記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項9】
巻鉄心は、金属箔体がコイル形状に巻設された二つのコイルを同軸にて上下に積層して構成されており、
一方のコイル1aは内側から外側に向かって反時計回りに巻設され、他のコイル1bは内側から外側に向かって時計回りに巻設されて形成され、
両コイルの最内周の巻端間と最外周の巻端間がそれぞれ電気的接続手段で電気的に接続されていることを特徴とする請求項1、2又は5のいずれかに記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項10】
複数の巻鉄心が同軸に積み重ねられた構造となっており、各巻鉄心の間に電気的絶縁のために挟み込まれた絶縁体のリングが設置されていることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の巻鉄心の熱処理装置。
【請求項11】
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端同士が電気的接続手段により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の巻鉄心を、前記巻鉄心の外周より外側に、前記巻鉄心を内包する様に巻きまわされた加熱コイルにて加熱することを特徴とする巻鉄心の熱処理方法。
【請求項12】
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端同士が電気的接続手段により電気的に接続されて閉回路をなし、その内側を貫通するように磁性コアが配設された1乃至複数の巻鉄心を、前記巻鉄心の外周より外側に、前記巻鉄心を内包する様に巻きまわされた加熱コイルにて加熱することを特徴とする巻鉄心の熱処理方法。
【請求項13】
巻鉄心の内周と磁気コアの外周、又は巻鉄心の内周と磁気コアを構成する側辺部分の外周の間の空間に更に設けた金属製パイプの両端から直流電流を通電することを特徴とする請求項12に記載の巻鉄心の熱処理方法。
【請求項14】
加熱コイルを内包するように前記加熱コイルの外周の外側に更に巻きまわされて設置された励磁コイルに、熱処理時に直流電流を通電して巻鉄心内部の磁界分布に軸方向直流磁界を重畳することを特徴とする請求項12に記載の巻鉄心の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス軟磁性合金、ナノ結晶軟磁性材料、珪素鋼の箔体などの磁性体箔体をコイル状に巻いた巻鉄心を均一に加熱する巻鉄心用熱処理装置およびその熱処理方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素鋼板をコイル状に巻いた巻鉄心はトランスやリアクトルの鉄心として、長年にわたり使用されてきている。また、近年では国際的に、送電や機器にて消費される電力の省電力化が強く求められており、より鉄損の小さい巻鉄心として、アモルファス軟磁性合金やナノ結晶軟磁性材料の箔体を材料とする巻鉄心が用いられている。
【0003】
これらの巻鉄心では、コイル状に巻いて成形する際にその内部に歪が生じ、その歪により、特性が悪化することが知られている。そのため、その歪を取り除くために巻鉄心を800℃程度まで加熱する熱処理が行われている(特許文献1参照)。また、より高い磁気特性を与えるため巻鉄心に磁界を与えながら熱処理を行う磁場中熱処理も実施されている(特許文献2参照)。またナノ結晶軟磁性材料を材料とする巻鉄心製造においては、ナノ結晶構造を得るためにアモルファス軟磁性合金の熱処理が実施されている(非特許文献1参照)。この熱処理時に、巻鉄心に磁界を印加することで、巻鉄心の磁気特性を制御することができる。
【0004】
一方これらの熱処理においては、巻鉄心内部の温度分布が均一になりにくいという課題がある。その課題を解決するため、巻鉄心を二次コイルとしたリング状トランスを構成して誘導加熱を行う装置および方法についての発明が開示されている(特許文献3、4参照)。この装置および方法によれば、巻鉄心全体にほぼ均一な誘導電流が誘導され、この誘導電流によるジュール熱にて加熱されるため、外部からヒーター等で加熱する場合に比較して、より均一な温度分布下における熱処理が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉沢 克仁,山内 清隆著「超微細結晶粒組織からなるFe基軟磁性合金」日本金属学会誌 第53巻 第2号(1989)241-248
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-147980号公報
【特許文献2】特開2003-113421号公報
【特許文献3】特開平11-236626号公報
【特許文献4】特開2003-328040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、巻鉄心を二次コイルとしたリング状トランスを構成して誘導加熱を行う「巻鉄心用誘導加熱式熱処理」の従来技術について、
図1、
図2および
図3を用いて、その構成を簡単に説明する。
【0008】
図3に示すように、まず被加熱物である巻鉄心1は、箔の間が絶縁された金属箔を円筒状に巻いたものであり、その最外周部の巻端4と最内周部の巻端3は電気的接続手段5で電気的に接続されている。
図1、
図2に示すようにリング状(ロ字状)の磁気コア7の一方の側辺部分75がこの巻鉄心1を貫通するように配置し、他方の側辺部分75’に一次コイル8を配置してトランス構成としている。
【0009】
この状態で一次コイル8に変動する電流を通電すれば、磁気コア7を磁路とした磁束2が巻鉄心1の内側を貫通し、その結果、巻鉄心1の最外周部の巻端4と最内周部の巻端3の間には変動磁束2の時間変化に巻鉄心1の巻数を乗じた大きさの起電力が生じる。
図3に示すように、最外周部の巻端4と最内周部の巻端3は電気的接続手段5にて電気的に接続されているため、この起電力により巻鉄心1には大きな誘導電流6が流れることになる。箔間は絶縁されているため、誘導電流6は巻鉄心1全体をコイル状に流れる。誘導電流6の流路となる巻鉄心1を構成する箔の断面積は巻鉄心1全体において一定であるため、この誘導電流6により発生する単位体積あたりのジュール熱は巻鉄心1内部のいずれの部位においても同量であり、巻鉄心1は均一に加熱されることとなる。
【0010】
一方、この巻鉄心1を二次コイルとしたリング状トランス構造における課題として、複数の巻鉄心1A~1Eの両端の巻鉄心1A・1Eに生じる誘導電流6A・6Eによって巻鉄心1A~1Eを貫通する磁気コア7の内部の磁束2が妨げられてしまうという問題がある。即ち、
図2に示す様に、生産性を上げるために複数の巻鉄心1A~1Eを同軸に積層して一括で熱処理する場合には、端部の巻鉄心1A・1Eに発生する誘導電流6A・6Eによって内側の巻鉄心1B~1Dの内側の磁束2’が減衰し、内側の巻鉄心1B~1Dの内側まで磁束2が到達しにくくなる。特に急速に加熱するために高周波で加熱する場合には、端部の巻鉄心1A・1Eの内部に発生する誘導電流6A・6Eが大きくなり、内側の巻鉄心1B~1Dの内部には全く磁束2’が到達しない状況も生じうる。その場合、巻鉄心1B~1Dには誘導電流が生じないため全く加熱しない状況となる。また、
図5(a)のように巻鉄心1が単体だった場合でも、該巻鉄心1が積層した巻鉄心1A~1Eを繋いだような磁束方向に長い形状の場合は、上記端部の巻鉄心1A・1Eに相当する巻鉄心1の両端部分74・74のみに誘導電流6A・6Eが発生して加熱し、内側の巻鉄心1B~1Dに相当する巻鉄心1の中央付近73は発熱せず、両端部分74・74のみに偏った均一度の悪い温度分布となってしまうという問題もある。
【0011】
また、もう一つの課題として、この構造の構成要素だけでは、磁場中熱処理ができないという問題がある。
図2において一次コイル8にて発生した磁束2は、主として磁気コア7のみを透過し、磁気コア7が飽和しない限りは、巻鉄心1はほとんど磁化されることがない。ナノ結晶軟磁性材料等を使用した高機能巻鉄心の製造においては、その磁気特性のコントロールのため巻鉄心1を磁化させた状態で熱処理を行うことがあるが、現在の構成要素では実施できないという課題がある。
【0012】
よって上記の理由から、従来の巻鉄心用誘導加熱式熱処理装置では、特定条件のもとでしか均一な加熱ができず、特に生産性の向上のための複数製品の加熱や処理時間短縮のための急速加熱時には、温度分布が大きく偏ってしまうという課題があり、加えて高機能巻鉄心の製造時に求められる磁界中での熱処理が困難であるという課題がある。
なお、本明細書では、巻鉄心には、
図3に示す丈の短いもの、
図5(a)に示す長尺物、
図17に示す丈が短く、巻き方向が互いに逆巻き上下に積層された一対のものがあるが、これらを区別する必要がある場合以外は、これらを含めた上位概念として、符号1を使う。
また、
図1、
図2や
図10以下の磁気コア7としてリング状(四角形)のものを使用する場合で、磁気コア7の対向側辺部分75・75’に巻鉄心1を装着して熱処理を行う場合で左右の区別が必要な場合、右側の装着物の符号は、左側の装着物の符号に“ダッシュ”を添字して表す。
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、複数製品の熱処理時や急速加熱時においても複数巻鉄心間の温度差および巻鉄心内部の温度分布の偏りを抑制し、かつ軸方向磁界および周方向磁界中での熱処理を可能にする熱処理装置および熱処理方法の実用化を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1は、本発明の空芯熱処理装置(
図4(a)、
図5(a))の構成に関し、
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端3・4(3a・3b)、(4a・4b)同士が電気的接続手段5(5a・5b)により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の巻鉄心1の外周より外側に、前記巻鉄心1を内包する様に巻きまわされ、変動電流の通電により、前記巻鉄心1に誘導電流6を誘導し、該誘導電流6により前記巻鉄心1を加熱するように構成された加熱コイル8とで構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2は、本発明の熱処理装置(
図4(a)、
図5(a))の構成に関し、
前記1乃至複数の巻鉄心1の内側を貫通するように磁性コア7が更に配設されていることを特徴とする。
これらにより、巻鉄心1の長尺物や複数の製品(巻鉄心)1A~1Eの均一な加熱が可能となり、生産性の向上や処理時間短縮のための急速加熱が可能となる。
【0015】
請求項3は、巻鉄心1に周方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理装置(
図6、
図7)に関するもので、
請求項2に記載の熱処理装置において、
磁気コア7の外周と巻鉄心1の内周の間の空間に、その一端から他端に至るスリット11が設けられ、熱処理時にその一端と他端との間に直流電圧が印加される金属製パイプ10が更に配設されていることを特徴とする。
これにより、熱処理時に巻鉄心1内部の周方向に直流磁界を発生させることができる。
【0016】
請求項4は、巻鉄心1に軸方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理装置(
図8、
図9)に関するもので、
請求項2に記載の熱処理装置において、
前記加熱コイル8を内包するように前記加熱コイル8の外周の外側に巻きまわされ、熱処理時に直流電流が通電される励磁コイル12を更に設置されていることを特徴とする。
これにより、熱処理時に巻鉄心1内部の磁界分布に軸方向直流磁界を重畳することができる。
【0017】
請求項5は、左右一対の巻鉄心1・1’を左右一対の加熱コイル8・8’を用いて加熱する熱処理装置(
図10、
図11)に関するもので、
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端3、4(3a・3b)(4a・4b)同士が電気的接続手段5(5a・5b)により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の左右一対の巻鉄心1・1’の内側を貫通し、その貫通部分の両端が接続されてリング状の閉磁路をなす磁性コア7と、
前記磁性コア7に配設される前記左右の巻鉄心1・1’の外周より外側に、前記巻鉄心1・1’を内包する様にそれぞれ巻きまわされ、変動電流の通電により、前記巻鉄心1・1’に誘導電流6、6’をそれぞれ誘導し、該誘導電流6、6’により前記巻鉄心1・1’を加熱するように構成された左右の加熱コイル8・8’とで構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項6は、左右一対の巻鉄心1・1’に周方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理装置(
図12、
図13)に関するもので、
請求項5に記載の熱処理装置において、
左右1対の巻鉄心1・1’の内周と、該左右1対の巻鉄心1・1’に対応する磁気コア7の側辺部分75・75’の外周との間の空間に、その一端から他端に至るスリット11・11’が設けられ、熱処理時に両端から直流電流が通電される金属製パイプ10・10’がそれぞれ更に配置されていることを特徴とする。
【0019】
請求項7は、左右一対の巻鉄心1・1’に軸方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理装置(
図14、
図15)に関するもので、
請求項5に記載の熱処理装置において、
左右一対の加熱コイル8・8’の双方を内包するように、その外側に巻きまわされ、熱処理時に直流電流が通電される励磁コイル12を更に設置されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8は、巻鉄心1に軸方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理装置に関するもので(
図4(a)(b))、
請求項1又は2に記載の熱処理装置において、
加熱時に加熱コイル8に流す変動電流が直流オフセットを持っていることを特徴とする。
【0021】
請求項9は、巻鉄心1(1’)の閉回路形成を容易にするコイル構造(
図16、
図17)に関するもので、
請求項1、2又は5のいずれかに記載の熱処理装置において、
巻鉄心1は、金属箔体がコイル形状に巻設された二つのコイル1a・1bを同軸にて上下に積層して構成されており、
一方のコイル1aは内側から外側に向かって反時計回りに巻設され、他のコイル1bは内側から外側に向かって時計回りに巻設されて形成され、
両コイル1a・1bの最内周の巻端3a・3b間と最外周の巻端4a・4b間がそれぞれ電気的接続手段5a・5bで電気的に接続されていることを特徴とする。
【0022】
請求項10は、複数の巻鉄心1A~1E(1A’~1E’)を同時に熱処理することを可能にする構成(
図4~
図15)に関し、
請求項1~9のいずれかに記載の熱処理装置において、
複数の巻鉄心1A~1E(1A’~1E’)が同軸に積み重ねられた構造となっており、各巻鉄心1A~1E(1A’~1E’)の間に電気的絶縁のために挟み込まれた絶縁体のリング9が設置されていることを特徴とする。
【0023】
請求項11は、本発明の熱処理装置(
図4(a)、
図5(a))による空芯巻鉄心1の熱処理方法に関し、
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端3・4(3a・3b)、(4a・4b)同士が電気的接続手段5(5a・5b)により電気的に接続されて閉回路をなした1乃至複数の巻鉄心1を、前記巻鉄心1の外周より外側に、前記巻鉄心1を内包する様に巻きまわされた加熱コイル8にて加熱することを特徴とする。
【0024】
請求項12は、本発明の熱処理装置(
図4(b)(c)、
図5(b)(c)、
図10、
図11)による巻鉄心1の熱処理方法に関し、
金属箔体がコイル形状に巻設され、該コイルの巻端3・4(3a・3b)、(4a・4b)同士が電気的接続手段5(5a・5b)により電気的に接続されて閉回路をなし、その内側を貫通するように磁性コア7が配設された1乃至複数の巻鉄心1を、前記巻鉄心1の外周より外側に、前記巻鉄心1を内包する様に巻きまわされた加熱コイル8にて加熱することを特徴とする。
【0025】
請求項13は、本発明の熱処理装置(
図6、
図7、
図12、
図13)による周方向磁界を印加する磁場中加熱処理を可能とする巻鉄心1の熱処理方法に関し、
請求項12に記載の巻鉄心の熱処理方法において、
巻鉄心1の内周と磁気コア7の外周、又は巻鉄心1の内周と磁気コア7を構成する側辺部分75・75’の外周の間の空間に更に設けた金属製パイプ10の両端から直流電流を通電することを特徴とする。
【0026】
請求項14は、巻鉄心1に軸方向磁界を印加する磁場中熱処理を可能とする熱処理方法(
図8、
図9、
図14、
図15)に関するもので、
請求項12に記載の巻鉄心の熱処理方法において、
加熱コイル8を内包するように前記加熱コイル8の外周の外側に更に巻きまわされて設置された励磁コイル12に、熱処理時に直流電流を通電して巻鉄心1内部の磁界分布に軸方向直流磁界を重畳することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の第1の実施態様(
図4(a)(b)、
図5(a)~(c))においては、加熱コイル8で巻鉄心1の加熱を行うことにより、巻鉄心1に発生する誘導電流6による磁束2の減衰を抑制し、長尺の巻鉄心1の両端部1m・1n或いは複数の積層巻鉄心1A~1Eの端部の巻鉄心1A・1Eのみではなく、巻鉄心1・1A~1E全体に誘導電流6を誘導することが可能となる。
なお、巻鉄心1に比して磁気コア7を用いる場合は、磁気コア7の径が小さく、また軸方向寸法も長いため、磁界中において、磁気コア7の内部に発生する反磁界は、巻鉄心1に発生する反磁界に比して小さくなる。よって、巻鉄心1の外側にある加熱コイル8にて発生した起磁力により誘起する磁束2は、巻鉄心1ではなく、主として磁気コア7を磁路とすることになる。その結果、巻鉄心1の外側の加熱コイル8による起磁力でも、磁気コア7に磁束2を誘起し、巻鉄心1に誘導電流6を誘導することが可能である。加えて、加熱コイル8は巻鉄心1を内包する構造となっているため、巻鉄心1にて発生した誘導電流6に抗して、磁気コア7の巻鉄心1の内側の領域全体に十分な起磁力を補うことができるため、巻鉄心1全体に誘導電流6を誘導せしめ均一度の高い加熱を実施することができる。
【0028】
また、この構造に周方向励磁用の金属パイプ10(
図6、
図7)または軸方向磁界用の励磁コイル12(
図8、
図9)を組み合わせることで、高機能磁性材料の磁気特性の制御に必要とされる磁場中熱処理を実施することができる。
【0029】
加えて、巻鉄心1をお互いに逆向きに巻きまわした2層のコイル構造とすることで、容易に巻鉄心1内に閉回路を形成することが可能となる。
【0030】
さらに、巻鉄心1が複数の巻鉄心1A~1Eの積層体である場合には、各巻鉄心1A~1E間に絶縁リング9を挿入することで隣接する巻鉄心間の非絶縁部の接触によるショートやスパークの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図4】本発明の第1実施形態の熱処理装置の斜視図で、(a)は空芯、(b)は有芯である。
【
図5】
図4の内部構造を示す断面図で、(a)は空芯、(b)は巻鉄心が長尺物の場合、(c)は巻鉄心が複数の積層物の場合である。
【
図6】本発明の第2実施形態で、周方向磁界を用いた磁場中熱処理装置の斜視図である。
【
図8】本発明の第3実施形態で、軸方向磁界を用いた磁場中熱処理装置の斜視図である。
【
図10】本発明の第4実施形態で、閉磁路型の熱処理装置を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第5実施形態で、周方向磁界を用いた閉磁路型磁場中熱処理装置の斜視図である。
【
図14】本発明の第6実施形態で、軸方向磁界を用いた閉磁路型磁場中熱処理装置の斜視図である。
【
図16】ダブルパンケーキ型巻鉄心の構成要素を示す斜視図である。
【
図17】ダブルパンケーキ型巻鉄心の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の詳細を実施形態に基づいて説明する。なお、この実施形態は本発明に付いて、当業者の理解を容易にするためのものである。すなわち、本発明の明細書の全体に記載されている技術思想によってのみ限定されるものであり、本実施例のみに限定されるものでないことは理解されるべきである。
【0033】
本発明装置の熱処理対象である巻鉄心1は、3種類あり、その1は、
図3に示すように、例えば0.5mm厚以下の珪素鋼や鉄系アモルファス、ナノ結晶軟磁性材料などの金属の箔体を、箔と箔の間が絶縁された状態で巻きまわしてコイル状に製作され、最内周の端部3と最外周の端部5とが接続手段5で接続されている。
その2は
図5(b)に示すように、
図3に示す巻鉄心1を複数個、積層した長尺物である。
その3は
図17に示すように、
図3に示す、巻き方向が互いに逆の巻鉄心(コイル)1a・1bを上下に積層し、隣接する端部3a・3b/4a・4b同士を接続手段5a・5bでそれぞれ接続した物である。
箔と箔間の絶縁は、箔の片側の表面に絶縁体による膜を形成して行うが、箔の間に絶縁紙や絶縁テープなどを挟みながら巻いてもよい。
【0034】
巻鉄心1(1a・1b)の巻端(巻き始めおよび巻き終わり)3・4(3a・3b/4a・4b)は、上記のように電気的接続手段5(5a・5b)によって接続される。電気的接続手段5(5a・5b)としては、電線や導体テープ、或いは上下一対で積層された巻鉄心1a・1bの隣接する巻端3a・3b/4a・4b同士を溶接やろう付け、或いはハンダ付けなどで接続する場合があり、図示していないが、更には上下一対で積層された巻鉄心1a・1bの巻き方を工夫することで、上下の巻鉄心(1a・1b)を1本の箔で形成し、金属箔体自体を電気的接続手段5とすることも可能である。この電気的接続5により、巻鉄心1(1a・1b)は、「入力端子を短絡されたコイルよりなる閉回路」と電気的に等価となる。
【0035】
本発明の第一の実施形態である熱処理装置は、磁性コア7及び加熱コイル8にて構成されている(
図4(a)(b)、
図5(a)(b))。
図4(a)、
図5(a)は空芯で、巻鉄心1の外側に、該巻鉄心1の一部又は全体を内包するように加熱コイル8が設置されている。
図4(b)、
図5(b)(c)は有芯で、巻鉄心1の内側を貫通するように、磁性コア7が設置されている。磁性コア7の材質は、軟磁性材料であり、巻鉄心1と同等、もしくはより高い透磁率を持っている。また、誘導加熱中に、磁性コア7内部に渦電流が生じない様、表面を絶縁した縦長長方形の箔体の積層構造もしくは、表面を絶縁した圧粉による圧粉磁心構造を用いた磁性コア7を用いる。形状については、巻鉄心1が貫通できれば棒状の開磁路(
図4(b))でもロ字状の閉磁路(
図10)でもよいが、閉磁路の場合は、巻鉄心1を取り出すために、磁性コア7は分割可能な構造とする必要がある。後述する閉磁路の磁性コアを分割する場合、例えば、U形の部分71に対して天井部分の横部材72を脱着するようにしてもよい(
図11)。
【0036】
加熱コイル8は、巻鉄心1の外周より外側に巻鉄心1の一部又は全体を内包する様に巻きまわされて配置される。加熱コイル8を巻鉄心1に重ねて配置することで、磁気コア7の、巻鉄心1の内周に位置する部分7aに対して、直接、起磁力を与えることができる効果がある。加熱コイル8は、電気伝導性の高い金属(銅、アルミ)の線材を巻きまわして製作される。加熱コイル8は高い周波数の電流を流すため、インダクタンスを低く抑える必要があり、ターン数を減らして通電電流を増やす設計が好ましく、十分な大電流が流せるように断面積の大きな線材が用いられる。高い周波数成分を持つ電流は通電時に、線材断面において、外周部に偏った電流分布をとるため、内部が空洞となったパイプ状の線材を使用し、その内部に水等の冷媒を通水して冷却するコイル構造がもっとも高い熱効率が得られる。
【0037】
以上の構成において、加熱コイル8に交流電流や電流パルス等の変動する電流を通電することにより、加熱コイル8より起磁力が発生する。発生した起磁力は、巻鉄心1および磁気コア7を設けた場合にはこれを磁化させるが、巻鉄心1に比して磁気コア7の径が小さく、また軸方向寸法が長いため、磁気コア7内部に発生する反磁界は、巻鉄心1に発生する反磁界に比して小さくなり、加熱コイル8にて発生した起磁力により誘起する磁束2は、主として磁気コア7を磁路とすることになる。その結果、巻鉄心1の外側にある加熱コイル8からでも、磁気コア7に十分な量の磁束2を発生させることが可能である。この磁気コア7の磁束2は、巻鉄心1を貫通しており、且つ、巻鉄心1は、「両端の端子短絡された閉磁路のコイル」と電気的に等価であるため、巻鉄心1には磁束変化を打ち消そうとする誘導電流6が誘導される。具体的には、「磁束の時間変化」と「巻鉄心1の巻き数」の積に比例する起電力が誘起され、巻鉄心1内部にコイル状に誘導電流が流れることとなる。そしてこの誘導電流6は巻鉄心1にほぼ均一に流れるため、巻鉄心1は、均一に誘導加熱されることとなる。
【0038】
従来例(
図1、
図2)においては、トランス構造のため、一次コイル(加熱コイル)8が、磁気コア7上の巻鉄心1とは異なる位置に配置されており、一次コイル8による起磁力にて発生した磁束は、磁気コア7を通じて、巻鉄心1の内周側に対向する内側部分73に到達する構造となっている。そのため、
図5(b)に示すように巻鉄心1の軸方向寸法が大きい場合や、
図2に示すように複数の巻鉄心1A~1Eを同時に熱処理する場合、前者では巻鉄心1の上下端部1m・1n、後者では上下両端の巻鉄心1A・1Eに発生する誘導電流6’によって、巻鉄心1の内側の部分や内側の巻鉄心1B~1Dの磁束2’が減衰し、巻鉄心1の内側の部分や内側の巻鉄心1B~1Dまで磁束2が到達しにくくなる。
【0039】
特に急速に加熱するために高周波で加熱する場合には、上記両端の誘導電流6’が大きくなり、内側には全く磁束2’が到達しない状況も生じうる。
一方、本発明の第1の実施形態(
図4、
図5)においては、磁気コア7に磁束を発生させる起磁力が巻鉄心1の外周の外側に、該巻鉄心1の一部又は全体を覆うように配置された加熱コイル8から供給されるため、上記上下端部の誘導電流6’に抗して、磁気コア7の、巻鉄心1の内側の領域全体、又は内側の巻鉄心1B~1Dに十分な起磁力を補うことができるため、巻鉄心1全体に誘導電流を誘導せしめ、均一度の高い温度分布を維持した加熱を実施することができる。
【0040】
本発明の第二の実施形態(
図6、
図7)である熱処理装置は、第一の実施形態(有芯)の構成に加えて、磁気コア7の外周と巻鉄心1の内周の間の空間に、金属製パイプ10を有している。金属製パイプ10の材料は、電気伝導度の高い金属であり、銅または銅合金を用いることが望ましい。金属製パイプ10は、その外周面および内周面が絶縁体で覆われており、磁気コア7や巻鉄心1との電気的接触や放電を防止できる。この金属製パイプ10は、一方の端部から他方の端部に至るスリット11が設けられており、両端間で直流電流を流すことにより、該金属製パイプ10を軸とした周方向磁界が金属製パイプ10の周囲に発生する。この磁界により、巻鉄心1を周方向に磁化することが可能であり、周方向に磁化された状態で巻鉄心1を加熱コイル8にて誘導加熱すれば、周方向磁界による磁場中熱処理が可能となる。
【0041】
なお、金属製パイプ10には、その内部のどの経路を通っても、磁気コア7を内包する閉曲線が形成されないように、上記のようにスリット11が設けられている。この第二の実施形態においては、加熱コイル8による誘導加熱時に、金属製パイプ10の内周にも磁気コア7の磁束2が貫通することになり、その磁束2により金属製パイプ10の周方向には、巻鉄心1と同様に磁気コア7の磁束変化を妨げようとする方向の誘導起電力が発生する。仮に、金属製パイプ10にスリット11がなければ、この誘導起電力によって金属製パイプ10に大きな誘導電流が誘導され、金属製パイプ10が加熱することになる。また金属製パイプ10に流れる誘導電流によって、金属製パイプ10の内周部にある磁気コア7の磁束が減衰することとなる。
図6、
図7においては、スリット11はストレートのスリットとなっているが、金属製パイプ10内の磁気コア7を内包する閉曲線を全て立ち切れるのであれば、曲線状のスリットでも問題ない。
【0042】
本発明の第三の実施形態(
図8、
図9)である熱処理装置は、第一の実施形態の構成に加えて、加熱コイル8の一部又は全体を覆うようその外周の外側に巻きまわされた励磁コイル12を備えている。励磁コイル12は、周囲を絶縁された電気伝導度の高い金属(アルミ、銅またはそれらの合金)製の導体を巻きまわして製作される。励磁コイル12には交流フィルターとしてのリアクトル20が直列接続され、このリアクトル20を介して励磁コイル12に直流電流を流すことにより、巻鉄心1の軸方向に磁界が発生する。この磁界により、巻鉄心1を軸方向に磁化することが可能であり、軸方向に磁化された状態で巻鉄心1を、加熱コイル8にて誘導加熱すれば、軸方向磁界による磁場中熱処理が可能となる。
【0043】
本発明の第四の実施形態(
図10、
図11)である熱処理装置は、第一の実施形態を基として、四角形の磁気コア7と左右一対の加熱コイル8・8’を用いることにより、より容易に左右一対の巻鉄心1・1’を加熱できる構成としたものである。
第四の実施形態で用いられる磁気コア7は上記のように四角形で閉磁路をなしており、左右の巻鉄心1・1’は同じ軸方向を向き、かつ磁気コア7のつくる閉磁路の相対する位置(例えば、四角い閉磁路の磁気コア7であれば、その向かい合う側辺部分75・75’)に配置される。この巻鉄心1・1’の外周より外側に、両巻鉄心1・1’の一部又は全体をそれぞれ内包する様に左右1対の加熱コイル8・8’が巻きまわされている。この左右1対の加熱コイル8・8’の一方の端部8a・8b(8a’・8b’)は合成インダクタンスが高くなる極性間で直列に接続されている。即ち、端部8aと端部8b’、端部8a’と端部8bとが接続されている。
加熱コイル8の端部8a’と端部8b(或いは他の加熱コイル8’の端部8aと端部8b’)より交流電流を通電した場合、加熱コイル8による起磁力で磁気コア7内に発生する磁束2と、加熱コイル8’による起磁力で磁気コア7に発生する磁束2は、同方向(換言すれば、磁場を強め合う方向)となる。なお磁気コア7は左右の巻鉄心1・1’を取り出すため、既述のように分割できるようになっている。
【0044】
この実施形態では、加熱コイル8の発生する起磁力は、巻鉄心1の内側の磁束のみならず磁気コア7を磁路として、巻鉄心1’の内側の磁束も強める。同様に加熱コイル8’の発生する起磁力は、巻鉄心1’の内側の磁束2のみならず磁気コア7を磁路として、巻鉄心1の内側の磁束2も強める。よって、第一の実施形態と比較してより効率的に巻鉄心1・1’内部を貫通する磁束2を強めることが可能となり、かつ一度の熱処理での処理量が2倍になるメリットがある。
【0045】
本発明の第五の実施形態(
図12、
図13)である熱処理装置は、第四の実施形態の構成に加えて、磁気コア7の外周と左右1対の巻鉄心1・1’の内周の間の空間に、それぞれ金属製パイプ10・10’を有したものである。これらの金属パイプ10・10’それぞれに直流電流を通電することにより、第二の実施形態と同様、巻鉄心1・1’に周方向磁界発生させることができるので、この周方向磁界を印加しながら磁場中熱処理を実施することが可能である。
【0046】
本発明の第六の実施形態(
図14、
図15)である熱処理装置は、第四の実施形態の構成に加えて、一対の加熱コイル8・8’の双方の一部又は全体を内包するように、その外側に巻きまわされた励磁コイル12を備えている。励磁コイル12に直流電流を流すことにより、左右の巻鉄心1・1’の軸方向に磁界が発生する。この磁界により、巻鉄心1・1’を軸方向に磁化することが可能であり、軸方向に磁化された状態で両巻鉄心1・1’を、加熱コイル8にて誘導加熱すれば、軸方向磁界による磁場中熱処理が可能となる。
【0047】
同様に軸方向磁界を発生する第三の実施形態(
図8、
図9)では、加熱コイル8が発生する変動磁界による磁束変化により、励磁コイル12に誘導起電力が生じる。この起電力の影響が大きい場合には、電流ソースとしてバイポーラ電源を使用するか、または、励磁コイル12に直列にリアクトル20等を接続するなどの対策が必要となる。
一方、この第六の実施形態(
図14、
図15)によれば、誘導加熱のための磁束2の磁路が磁気コア7にて閉じられていることに加え、通電時に加熱コイル8・8’が発生する磁界方向が互いに向かい合う方向となっているため、励磁コイル12の内部全体における誘導加熱時の軸方向の磁束変化の総和は概ねゼロとなり、励磁コイル12には誘導起電力が生じない。そのため、通常の直流電源のみで、励磁コイル12に直流電流を供給することが可能となる。
【0048】
また、この磁気コア7’は閉磁路となっているため、閉磁路全体を内包している励磁コイル12が発生する起磁力に対しては磁化しづらいが、閉磁路が貫通している加熱コイル8・8’が発する起磁力に対しては容易に磁化する。よって、加熱コイル8・8’によって生じる誘導加熱用の変動磁束は主に磁気コア7を磁路とするが、励磁コイル12によって生じる磁束(図示せず)は、巻鉄心1・1’も透過する。その結果、巻鉄心1・1’の内部は直流成分の強い磁束密度分布、磁気コア7内部は、変動成分の強い磁束密度分布となる。これは、巻鉄心1・1’の軸方向に磁気特性持たせる熱処理に適した磁束密度分布である。加えて励磁コイル12が発生する磁束は、加熱コイル8・8’それぞれに逆向きの起電力を誘導し、それらは相殺されるため、励磁コイル12の磁界発生による加熱コイル8・8’への影響も小さいというメリットがある。
【0049】
上記にて、軸方向磁界による熱処理装置として、第三の実施形態について説明したが、励磁コイル12を用いずに、加熱コイル8・8’に流す変動電流に直流オフセットを持たせることにより、加熱コイル8・8’に誘導加熱のための変動磁界と同時に巻鉄心1を磁化させるための直流磁界を与えることも可能である。
【0050】
上記にて、様々な実施形態について説明しているが、いずれの実施形態においても、巻鉄心1の構造を
図16、
図17に示す様に、二つのコイル1a・1bを同軸に積層して構成し、その軸端3aを視点とした際に、一方のコイル1aは内側から外側に向かって反時計回りに、もう一方のコイル1bは内側の軸端3bから外側に向かって時計回りに巻きまわすことにより、コイル1a・1bそれぞれの最内周の巻端3a・3b間と最外周の巻端4a・4b間を空間的に近しい場所に配置することが可能になる。この構造において、これらの巻端3a・3b/4a・4b間を電線等の電気的接続手段5a・5bにて接続すれば、シンプルな構造にて閉回路を持ったコイル構造を構成することが可能である。また電気的接続手段5a・5bは、既に述べたように電線ではなく巻鉄心1の材料である金属箔体自体でもよい。特に、銅コイル巻き線時によく用いられるダブルパンケーキ巻(またはα巻とも呼称される)とすれば、最内周がつながった一体構造として、この二層構造の巻鉄心の製作が可能であり、この場合は、最外周巻端のみ何らかの電気的接続手段にて接続すればよい。
【0051】
上記にて述べたすべての実施形態において、巻鉄心端部に発生する誘導電流による巻鉄心内周部の磁束の減衰の問題が解決可能であり、従来技術では難しかった複数巻鉄心を積層した状態での誘導加熱が可能である。しかし、一般に巻鉄心の材料である金属箔体はその表面の片側のみが絶縁されており、箔体のエッジの部分は生地が露出しているため、そのまま複数の巻鉄心を積層すると、巻鉄心の間で短絡が生じ、または巻鉄心に生じた起電力によって、巻鉄心間に放電が起こってしまう。これを防止するため、複数巻鉄心を積層して誘導加熱する場合、巻鉄心巻鉄心の各巻鉄心間に絶縁リングを挿入する必要がある。この絶縁リングで絶縁することにより巻鉄心と巻鉄心の間の非絶縁部の接触によるショートやスパークの発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0052】
1、1’:(短・長尺)巻鉄心
1m・1n:巻鉄心の端部
1A、1B,1C,1D,1E:積層した各巻鉄心
1a:ダブルパンケーキ型巻鉄心(2層構造巻鉄心)の上層コイル
1b:ダブルパンケーキ型巻鉄心(2層構造巻鉄心)の下層コイル
2:磁気コア内の磁束
2’:巻鉄心の誘導電流によって減衰した磁束
3(3a・3b):巻鉄心の内周部の巻端
4(4a・4b):巻鉄心の外周部の巻端
5(5a・5b):電気的接続手段
6:巻鉄心内の誘導電流
6’:端部の巻鉄心に発生する誘導電流
7:磁気コア
7a:巻芯の内周に位置する部分
71:U形の部分
72:横部材
73:磁気コアの、巻鉄心1の内周側に対向する内側部分
75・75’:側辺部分
8、8’:加熱コイル(一次コイル)
9、9’:絶縁リング
10、10’:金属製パイプ
11、11’:スリット
12:励磁コイル