IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KBセーレン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-貼付型シート状マスク 図1
  • 特開-貼付型シート状マスク 図2
  • 特開-貼付型シート状マスク 図3
  • 特開-貼付型シート状マスク 図4
  • 特開-貼付型シート状マスク 図5
  • 特開-貼付型シート状マスク 図6
  • 特開-貼付型シート状マスク 図7
  • 特開-貼付型シート状マスク 図8
  • 特開-貼付型シート状マスク 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096737
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】貼付型シート状マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220623BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A41D13/11 A
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209870
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】宮原 和久
(72)【発明者】
【氏名】山下 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】大竹 康介
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA08
2E185CB11
2E185CC32
(57)【要約】
【課題】顔面に直接貼付することができ、しかも顔面への着用感と密着性に優れた貼付型シート状マスクを提供する。
【解決手段】鼻と口を覆うためのマスク本体部1と、上記マスク本体部1を直接顔面に貼付するための粘着部2とを備え、上記マスク本体部1は、鼻と口を覆い、かつ下縁部が顔面の下端縁まで到達する面積を有する略矩形状の、一枚のシート状のポリウレタン弾性不織布からなり、上記粘着部2は、上記マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成されている。そして、上記マスク本体部1を構成するポリウレタン弾性不織布が、特定の物性を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻と口を覆うためのマスク本体部と、上記マスク本体部を直接顔面に貼付するための粘着部とを備えたマスクであって、
上記マスク本体部は、鼻と口を覆い、かつ下縁部が顔面の下端縁まで到達する面積を有する略矩形状の、一枚のシート状のポリウレタン弾性不織布からなり、
上記粘着部は、上記マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成されており、
上記マスク本体部を構成するポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものであることを特徴とする貼付型シート状マスク。
(1)目付:50~100g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに800cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【請求項2】
上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものである請求項1記載の貼付型シート状マスク。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【請求項3】
顔面着用時に鼻と口の少なくとも輪郭形状が、マスク本体部を透かして見えるようになっている請求項1または2記載の貼付型シート状マスク。
【請求項4】
上記マスク本体部が、縦90~130mm、横130~170mmの略長方形状である請求項1~3のいずれか一項に記載の貼付型シート状マスク。
【請求項5】
上記粘着部が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の貼付型シート状マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面に直接貼り付けて着用することができ、簡易な構成でありながら、着用感および密着性に優れた貼付型シート状マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、感染症や花粉症等の防止のために、鼻と口を覆うマスクが広く用いられている。このようなマスクとしては、鼻と口を覆う略四角状のマスク本体部と、その左右の縁部から側方に延びる耳かけ部とを備えたものが主流であるが、長く着用していると耳かけ部の耳に当たる部分が痛くなるという理由や、美容院や理髪店、エステティックサロン等において耳かけ部が散髪やシャンプー等の施術時に邪魔になるという理由から、このような耳かけ部をなくして顔面に直接貼り付けて使用するタイプの使い捨てマスクが提案されている(以下の特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6446281号公報
【特許文献2】実用新案登録第3227455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1には、図6に示すように、織布や不織布からなるマスク本体部11と、その左右の縁部にそれぞれ取り付けられる保持部12とを備えた貼付型の立体マスクが開示されている。このものは、各保持部12の片面(顔面に対する側の面)に、斜線で示すように粘着層13が形成されており、未使用時には、その表面が剥離シート(図示せず)で覆われており、使用時には、これを剥がして顔面に貼付することにより、マスク本体部11を顔面に貼付することができるようになっている。
【0005】
そして、上記の各保持部12には、図示のように切欠き14が設けられており、各保持部12を顔面に貼付する際には、図7に示すように、上記切欠き14を閉じるようにして貼付すると、マスクに、顔面に沿う立体形状が付与されるようになっている。
【0006】
しかしながら、上記立体マスクは、マスク本体部11の左右に、別部材である保持部12をそれぞれ取り付けなければならず、手間とコストを要するという問題がある。また、マスク本体部11と保持部12との接合部が頬に当たり、口の開閉に伴って違和感を与えるという問題もある。さらに、マスク本体部11を構成する織布や不織布に伸縮性がないため、口の開閉に伴ってマスク本体部11全体が動いて保持部12が顔面から剥がれやすいという問題もある。
【0007】
また、上記特許文献2には、図8に示すように、1枚のマスク生地からなり、その上部に切り込み20を設けてこれを接合することによって立体形状を付与した立体マスクが開示されている。この立体マスクには、その左右両側に、直接、帯状の粘着性部材21が取り付けられており、この粘着性部材21を利用して、立体マスクを顔面に貼付することができるようになっている。
【0008】
しかしながら、このものは、切り込み20の接合によって鼻にかかる部分のみに立体形状が付与され、他の部分は平たいシート状であるため、口元に生地が貼りつく感じになって窮屈感が避けられない。また、口の開閉に伴って生地が引っ張られるため、粘着性部材21が顔面から剥がれやすいという問題もある。
【0009】
なお、上記特許文献2において、マスク生地として、連続気泡を有するポリエチレン発泡シートを用いることが提案されているが、連続気泡を有する発泡シートは、生地表面に多数の気泡開口が分布形成されているため、生地の動きとともに、そのざらついた感触が顔面に擦れて着用感がよくないという問題もある。
【0010】
このように、貼付型の立体マスクは、製造コストがかかるわりに、密着性(顔面における保持性)や着用感に問題があるため、美容や理容の現場において需要が高まっているものの、広く用いられるにはいたっていない。
【0011】
これに対し、最近、図9(a)に示すような、長方形状のシート状マスクが提案され、美容や理容の現場において使用されている。このものは、鼻と口を簡易的に覆うことを主眼としており、伸縮性のない不織布を長方形に裁断してマスク本体部30とし、その左右両側の内側に、上下に延びる粘着層31(図において斜線で示す)を設けて、顔面に直接貼付するようになっている。
【0012】
上記シート状マスクは、安価に提供することができることから、美容院等に常備しておき、施術の間だけ使用して使い捨てる、といった使い方に適している。ただし、マスク本体部30として、伸縮性のない一般的な不織布が用いられているため、口の開閉に追従することができず、口を動かすと、全体が剥がれたり、生地が部分的に浮き上がって隙間を生じ、異物(飛沫や、散髪時の髪等)が入り込んだりする、という問題がある。そのため、比較的短時間で使用し、使用時には口を動かさないことが求められており、顔面への密着性や口元の自由度等の改善が課題となっている。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、顔面に直接貼付することができ、簡易な構成でありながら密着性に優れ、しかも口元にもある程度自由度があり着用感に優れた貼付型シート状マスクの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明は、鼻と口を覆うためのマスク本体部と、上記マスク本体部を直接顔面に貼付するための粘着部とを備えたマスクであって、上記マスク本体部は、鼻と口を覆い、かつ下縁部が顔面の下端縁まで到達する面積を有する略矩形状の、一枚のシート状のポリウレタン弾性不織布からなり、上記粘着部は、上記マスク本体部の左右両側の縁部に沿って帯状に形成されており、上記マスク本体部を構成するポリウレタン弾性不織布が、下記の特性(1)~(4)を備えたものである貼付型シート状マスクを第1の要旨とする。
(1)目付:50~100g/m2
(2)縦方向(MD方向)、横方向(CD方向)の引張強さ:ともに800cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上
【0015】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布が、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものである貼付型シート状マスクを第2の要旨とする。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上
【0016】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、顔面着用時に鼻と口の少なくとも輪郭形状が、マスク本体部を透かして見えるようになっている貼付型シート状マスクを第3の要旨とし、上記マスク本体部が、縦90~130mm、横130~170mmの略長方形状である貼付型シート状マスクを第4の要旨とする。
【0017】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記粘着部が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されている貼付型シート状マスクを第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
すなわち、本発明の貼付型シート状マスク(以下、単に「マスク」ともいう)は、そのマスク本体部が、シート状という簡易な構成であって、鼻と口を覆うだけでなく、下端部が顔面の下端縁まで到達するという、比較的縦方向に大きな略矩形状になっている。そして、上記マスク本体部が、伸縮性に優れた特定の物性を備えた特殊なポリウレタン弾性不織布によって形成されているため、顔面への追従性に優れており、非常に優れた着用感を有している。
【0019】
特に、上記マスク本体部の下端部が、顔面の下端縁まで到達していることから、伸縮性に優れたマスク本体部の下端部が、顔面の下縁部と係合した状態で顔面に貼付されると、左右の粘着部と、鼻にかかる部分と、上記下顎にかかる部分とで、マスク本体部の周囲が顔面にぴったりと密着する一方、鼻から下の口元周辺では、生地が口元に貼りつかず、比較的自由度が確保される。したがって、会話をする等の多少の口の開閉動作に違和感がなく、それによってマスク本体部が顔面から剥がれたり隙間が生じたりすることもない。したがって、非常に使い勝手のよいものとなる。
【0020】
なお、本発明のなかでも、特に、上記ポリウレタン弾性不織布の、(5)通気度、(6)最大熱吸収速度(Q-max)、の各特性が所定の範囲に設定されているものは、より呼吸がしやすく、蒸れにくいものとなり、着用感がさらに向上したものとなって好適である。
【0021】
また、本発明のなかでも、特に、顔面着用時に鼻と口の少なくとも輪郭形状が、マスク本体部を透かして見えるようになっているものは、マスク着用時にも、鼻と口の形状が見えて顔全体の印象を把握しやすいため、美容院等において散髪やヘアカラー等の施術を行いやすく、好適である。
【0022】
さらに、本発明のなかでも、特に、上記マスク本体部が、縦90~130mm、横130~170mmの略長方形状であるものは、従来のシート状マスクでは、面積が広いと剥がれやすくなることを考慮して、縦方向の寸法をたかだか90mmに限定していたのに対し、下顎側まで充分に覆う大きな面積のマスクであるため、安定した着用感と密着感を兼ね備えており、好適である。
【0023】
そして、本発明のなかでも、特に、上記粘着部が、アクリル系粘着剤からなる層で構成されているものは、肌に対する負担が比較的小さいとともに、マスク本体部に用いられるポリウレタン弾性不織布の伸縮性を損なわないという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(a)は本発明の一実施の形態のマスクの平面図、(b)は(a)のA-A’断面を拡大して示す模式的な説明図である。
図2】上記マスクの製法の一例を示す説明図である。
図3】上記マスクを顔面に貼付した状態を示す説明図である。
図4】本発明のマスクの他の例を示す模式的な説明図である。
図5】(a)、(b)は、ともに本発明のマスクにおける粘着部の構成の変形例を示す模式的な説明図である。
図6】従来の貼付型立体マスクの一例を示す平面図である。
図7】上記貼付型立体マスクを顔面に貼付した状態を示す説明図である。
図8】従来の貼付型立体マスクの他の例を示す平面図である。
図9】(a)は従来の貼付型シート状マスクの一例を示す平面図、(b)はそのマスクを顔面に貼付した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに、本発明を実施するための形態について、図面にもとづいて詳細に説明する。
【0026】
図1(a)は、本発明の一実施形態であるマスクの平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A’断面を拡大して模式的に示す説明図である。
【0027】
すなわち、上記マスクは、鼻と口を覆うためのマスク本体部1と、上記マスク本体部1を顔面に直接貼付するためにその左右両側の縁部に沿って帯状に延びる粘着部2とを備えている。なお、粘着部2が設けられている領域を、図1(a)において斜線で示す。
【0028】
上記マスク本体部1は、縦寸法L1が110mm、横寸法L2が150mmの横長の長方形状である。また、粘着部2は、幅Wが15mmの帯状で、マスク本体部1の左右両側の内側面(顔面に対する面)において、マスク本体部1の上端縁から下端縁まで設けられている。
【0029】
そして、上記粘着部2の粘着面は、図1(b)に示すように、マスク本体部1と同一形状の剥離シート3によって保護されており、使用時に、マスク本体部1の内側面から、上記剥離シート3を剥がして粘着部2の粘着面を露出させ、顔面に貼着することにより、マスクを着用することができるようになっている。
【0030】
上記マスク本体部1に用いられるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維を用いた不織布である。ポリウレタン弾性繊維は、ポリプロピレン等の他の繊維に比べて柔軟であり、また、熱伝導率が高いため、マスク内で熱がこもりにくい、という利点を有する。
【0031】
なお、上記ポリウレタン弾性不織布は、全体がポリウレタン弾性繊維のみからなるものである必要はなく、その一部が他の繊維に置き換えられたものであっても差し支えない。ただし、マスクとしての伸縮性、柔軟性等を確保する必要から、他の繊維を用いる場合は、その割合を、繊維全体に対し10質量%以下に設定することが望ましい。
【0032】
そして、上記ポリウレタン弾性不織布に用いられるポリウレタン弾性繊維の太さは、特に限定するものではないが、花粉や飛沫に対する除去性能を考慮すると、微細な空隙を数多く形成できるように、繊維径もできるだけ小さいことが望ましく、全体の強度や伸縮性、通気性等を考慮すると、その平均繊維径は30μm以下、なかでも5~25μmであることが好ましく、10~22μmであることがさらに好ましい。そして、とりわけ15~22μmであることが好ましい。なお、ポリウレタン弾性不織布に、鼻や口元が透けて見える「透け感」を付与するには、目付に応じて繊維径の大きさを適宜調整することが好ましい。
【0033】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布は、特に、下記の特性(1)~(4)を備えたものであることが、良好な着用感と充分な密着性を得る上で必要である。
(1)目付:50~100g/m2、とりわけ60~90g/m2、さらには70~80g/m2
(2)縦方向(MD方向、以下同じ)、横方向(CD方向、以下同じ)の引張強さ:ともに800cN/20mm以上
とりわけ縦方向の引張強さが1100cN/20mm以上、さらには1400cN/20mm以上
とりわけ横方向の引張強さが900cN/20mm以上、さらには1000cN/20mm以上
(3)縦方向、横方向の引張伸度:ともに300%以上、とりわけ350~520%
(4)縦方向、横方向の100%伸長回復率:ともに90%以上、とりわけ92~100%
【0034】
なお、上記「引張強さ」、「引張伸度」は、JIS L1913:2010 6.3.1に準じて測定される値であり、上記「100%伸長回復率」は、JIS L1096:2010 8.16.2に準じて測定される値である。
【0035】
そして、上記ポリウレタン弾性不織布は、目付が比較的小さいため、繊維径や空隙率によって、いわゆる「透け感」があるものとなりやすく、その場合、マスクを顔面に着用した状態であっても、鼻や口が、マスク本体部1を透かして見えるため、美容院等において散髪やヘアカラー等の施術を行う場合に、顔全体の印象を把握しやすいという利点がある。特に、鼻や口の輪郭形状が充分に把握できる「透け感」を得るには、同じ目付であっても、繊維径が比較的大きなものを用いることが好ましく、例えば、平均繊維径が15~22μmの繊維を用いて、目付70~80g/m2の不織布を得ることが好ましい。
【0036】
また、上記ポリウレタン弾性不織布は、さらに、下記の特性(5)、(6)を備えたものであることが、より優れた着用感を得る上で好適である。なお、通気度の上限については、要求されるフィルター性能等によって適宜に設定される。また、最大熱吸収速度(Q-max)とは、触ったときに冷たく感じる程度の指標であり、値が大きければ大きいほど冷感が強く得られ、好適である。
(5)通気度:50cc/cm2/sec以上、とりわけ75cc/cm2/sec以上
(6)最大熱吸収速度(Q-max):0.08以上、とりわけ0.10以上
【0037】
なお、上記「通気度」は、JIS L1913:2010 6.8.1 フラジール法に準じて測定される値であり、上記「最大熱吸収速度(Q-max)」は、JIS L1927:2020に準じて測定される値である。
【0038】
このような特性を備えたポリウレタン弾性不織布としては、特に、メルトブロー法によって得られるものが最適である。この方法をより詳しく説明すると、例えば特公昭41-7883号公報に記載された紡糸装置を用い、その紡糸口金から、熱可塑性ポリウレタン弾性体を溶融吐出し、そのノズル両側から加速気体流を噴射させてフィラメントを細化させる。そして、細化されたフィラメントを、例えば移動するコンベアネット等の補集装置上で、気体流と分離して積層し、互いの接触点同士で接合しながら冷却固化することにより得る方法である。もちろん、上記補集装置上での冷却固化後に、ローラー等を用いて加熱加圧して接合させたものであってもよい。このようにして得られるポリウレタン弾性不織布は、ポリウレタン弾性繊維の細い連続フィラメントがランダムに積層した構造をしているため、優れた通気性と緻密なフィルター機能、高い伸縮性、柔軟性を備えている。
【0039】
また、上記ポリウレタン弾性不織布として、抗菌性、殺菌性あるいは抗ウイルス性を付与したものを用いることができる。抗菌性もしくは抗ウイルス性を付与したものは、雑菌の繁殖もしくはウイルスの増殖が抑制され、衛生的である。そして、殺菌性を付与したものは、外部からの菌の侵入を阻止することができるため、特殊な用途に用いることができる。
【0040】
さらに、上記ポリウレタン弾性不織布として、導電性を付与したものを用いることができる。導電性を付与すると、マスクに静電気が溜まらなくなるため、埃や塵を寄せ付けず、より衛生的なものとなる。
【0041】
つぎに、上記マスク本体部1を顔面に直接貼付するための粘着部2について説明する。上記粘着部2は、上記マスク本体部1の左右両側の縁部に沿って、上下方向に、その上端から下端まで帯状に延びた配置で形成されている。なお、上記粘着部2の縁部が上記マスク本体部1の縁部よりも内側に入り込むと、マスク本体部1がシート状の一枚生地であるため、マスク本体部1の四隅の角部から剥がれるおそれがあり、好ましくない。そして、後述するように、このマスクを安価に製造する上でも、粘着部2は、マスク本体部1の左右両縁部から内側に入り込むことなく、互いの外側の縁部が重なった状態で形成されていることが好適である。
【0042】
上記粘着部2は、顔面に対して低刺激性であることが好ましく、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が用いられる。なかでも、コストの点で、アクリル系粘着剤が好適に用いられる。
【0043】
上記粘着部2は、例えば以下に示すような手順でマスクを製造することにより、簡単に得ることができる。以下、その製法を説明する。
【0044】
まず、図2に示すように、マスク本体部1に用いるポリウレタン弾性不織布1Aを、多数枚のマスク本体部1を縦横に複数枚切り出せるような大きさで準備する(図では、縦5枚×横8枚のマスク本体部1を切り出せるようになっている)。このとき、ポリウレタン弾性不織布1Aの横方向(CD方向、図において矢印Pで示す)がマスクの長手方向になるように裁断方向を配置する。
【0045】
そして、粘着部2となる予定領域(図において斜線Qで示す)に、粘着部2の材料である粘着剤組成物を所定厚みで塗工して粘着剤層を形成した後、上記ポリウレタン弾性不織布1Aの全面を、剥離シート3で覆って粘着剤層を保護し、その状態で、縦横の裁断線X、Yにしたがって、全体を裁断(もしくは溶断)する。これにより、マスク本体部1に粘着部2が設けられ、その粘着部2を含む全面に剥離シート3が取り付けられた、40枚のマスクを、一挙に得ることができる。この製法によれば、安価なコストで効率よく多数枚のマスクを得ることができ、好適である。
【0046】
このようにして得られるマスクは、剥離シート3を剥がして粘着部2を露出させ、これを顔面に直接貼付することにより、簡単に着用することができる。この状態を図3に示す。このマスクによれば、耳にかける部分がないため、耳が痛くなることがない。そして、美容院等においてシャンプーや散髪等の施術を受ける際も、耳にかける部分が邪魔にならない、という利点を有する。
【0047】
しかも、マスク本体部1の生地として用いるポリウレタン弾性不織布が、特定の物性を備えた特殊なものであるため、顔面への追従性に優れており、着用感に優れたものとなる。さらに、マスク本体部1の縦方向の寸法が従来のシート状マスクに比べて大きく、マスク本体部1の下縁部が、顔面の下縁部、すなわち下顎部に回り込んだ状態で保持されるため、全体が顔面から剥がれにくくなっているとともに、手前に突出した鼻と下顎部にかかる部分とで、マスク本体部1の生地が口元との間に空隙をつくるため、口の回りが窮屈にならないという利点を有する。
【0048】
また、マスク本体部1に用いられるポリウレタン弾性不織布にいわゆる「透け感」がある場合には、マスク着用時にも鼻や口の輪郭形状を視認することができるため、とりわけ、美容院等における施術時に用いるのに好適である。
【0049】
そして、上記マスクは、前述のように、簡単な製法で大量に製造することができ、安価に提供することができるため、手軽に使い捨てることができる。したがって、例えば美容院や理容室等において、サービスの一環として、顧客に無料で提供して着用してもらうことができる。
【0050】
なお、上記の例では、長方形のマスクを多数枚、一挙に製造して安価に提供するようにしたが、本発明のマスクは、上記の製法に限らず、どのような方法によっても得ることができる。例えば、マスクを、縦横に複数枚同時に切り出すのではなく、ロール状に巻かれた長尺のポリウレタン弾性不織布を繰り出しながら、粘着部2となる粘着剤層を形成し、同じくロール状に巻かれた剥離シート3を繰り出しながら粘着剤層付きのポリウレタン弾性不織布に重ねた後、所定間隔で裁断(溶断)することにより、連続的にマスクを得ることができる。
【0051】
また、本発明において、マスクの全体形状が、上記の例のように長方形であるか、あるいは正方形であると、四隅が直角になるため、上記のように多数枚のマスクを一枚のポリウレタン弾性不織布から一挙に切り出すことができ、好適であるが、上記の製法にこだわらなければ、マスク形状を、台形状や、四隅がやや丸くなった矩形状等にしてもよい。これらの形状も、本発明における「略矩形状」に含まれるものとする。
【0052】
ただし、本発明におけるマスク本体部1は、その下縁部が顔面の下端縁まで到達する面積を有することが、優れた密着性と着用感を得る上で必要であり、そのために、マスク本体部1の縦寸法L1が90~130mm、横寸法L2が130~170mmの略長方形状(130mm×130mmの正方形の場合を含む)であることが好適である[図1[a]を参照]。
【0053】
そして、上記の例では、マスク本体部1の左右両縁部に粘着部2を設け、その表面を、上記マスク本体部1と同一形状の剥離シート3で保護したが[図1(b)を参照]、例えば、図4に示すように、1枚の剥離シート3の表裏面に、マスク本体部1に設けられた粘着部2を貼付して、2枚一組のマスクを保持するようにしても差し支えない。
【0054】
また、上記の例のように、多数枚のマスクを一挙に切り出して得る製法によらない場合、粘着剤層を塗工によって形成するのではなく、両面粘着テープを利用して形成してもよい。その場合は、例えば図5(a)に示すように、マスク本体部1の内側面全面を剥離シートで覆うのではなく、両面粘着テープの粘着剤層を、マスク本体部1の内側面に貼付して粘着部2とし、その粘着面を、両面粘着テープの、帯状の剥離シート3’で保護しておけばよい。
【0055】
そして、上記のような両面粘着テープを用いる場合、単層の粘着層を備えたもの以外に、例えば、図5(b)に示すように、支持体6を挟んでアクリル系粘着剤層7と合成ゴム系粘着剤層8が積層された三層構造のものを用いてもよい。すなわち、上記合成ゴム系粘着剤層8をマスク本体部1の内側面に取り付け、上記アクリル系粘着剤層7を顔面に貼付される側の面とすることによって、顔面に対して低刺激で、しかもマスク本体部1に粘着部2をしっかりと取り付けることができ、好適である。なお、上記アクリル系粘着剤層7の表面は、この場合も、剥離シート3’で保護する。
【0056】
このような粘着性能を備えた両面粘着テープとして、例えば、アクリル系粘着剤/合成ゴム系粘着剤積層タイプ(両面2110R、ニチバンメディカル社製)、アクリル系粘着剤/合成ゴム系粘着剤積層タイプ(1577、スリーエム社製)等の市販品をあげることができる。
【0057】
なお、本発明において、粘着部2の幅W[図1(a)を参照]は、特に限定するものではないが、生地に追従性があり、マスク本体部1の周囲が無理に引っ張られることがないため、従来の、貼付型シート状マスクにおける粘着部よりも、この幅Wを大きくしても剥がれにくいものとなる。したがって、上記幅Wは、5~25mm、なかでも、10~20mmに設定することが好適である。
【0058】
そして、上記粘着部2は、上記の例では、左右に1本ずつ上下方向に帯状に延びる配置としたが、厳密な「帯状」である必要はなく、緩やかな湾曲波状がついているものや、「く」の字状に屈曲したものであっても差し支えない。また、粘着部2を構成する粘着層が、ドット状やストライプ状等のように、粘着層形成領域において断続的に配置され、途中に隙間のあるものであってもよい。ただし、そのような粘着層が、帯状で一続きの剥離紙で被覆された、一続きの帯状の粘着部2となっていることが望ましい。すなわち、上下方向に複数の剥離紙で分割された粘着部2では、第1の剥離紙、第2の剥離紙、と順次剥離紙を剥がしていく手間を要するため、その間に、先に露出した粘着部分が、顔面ではなくマスク本体部1側に貼り付いて、顔面に貼付できなくなるおそれがあり、好ましくないからである。
【実施例0059】
つぎに、本発明を実施例と比較例にもとづいて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
まず、マスク本体部に用いるマスク生地として、物性の異なる6種類のポリウレタン弾性不織布A~Eを準備した。各不織布の物性は以下の表1に示すとおりである。
なお、不織布A~Eのポリウレタン弾性不織布は、ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオールと、1,4-ブタンジオールからなる熱可塑性ポリウレタン弾性体をメルトブロー法で不織布としたものである。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例1~11、比較例1、2]
上記不織布A~Eを用いて、基本的な形状が図1(a)、(b)に示す形状であり、後記の表2~表4に示す特徴を備えた13種類のマスク(実施例1~11品、比較例1、2品)を作製した。すなわち、図2に示すように、一枚の不織布材料の所定領域に粘着部となる粘着剤塗工層を形成し、剥離シートを重ねた後、高周波ウェルダーを用いて溶断することにより、多数枚のマスクを一挙に得た。
なお、粘着部となる粘着剤の種類は、下記の2種類である。
【0063】
<粘着部>
・粘着剤1:アクリル系粘着剤(リキダインAR-2415、ビッグテクノス社製)
・粘着剤2:シリコーン系粘着剤(SILPURAN[登録商標]2122、旭化成ワッカーシリコーン社製)
【0064】
[比較例3]
マスク生地として、ポリウレタン弾性不織布ではなく、前記特許文献2(実用新案登録第3227455号公報)に記載されたポリエチレン発泡シートである、オプセルLC-150(三和化工社製)に準じたポリエチレン発泡シート(自社試作品)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、マスクを作製した。
【0065】
[比較例4]
マスク生地として、ポリウレタン弾性不織布ではなく、使い捨てマスクの素材として汎用されているポリプロピレン不織布(ストラテック[登録商標]RW2050、出光ユニテック社製)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、マスクを作製した。
【0066】
これらの実施例品、比較例品に対して、下記の各項目に関し、下記の手順に従って評価を行い、その結果を、後記の表2~表4に併せて示す。
【0067】
[着用感等]
モニター11名に、各マスクを、午後1時から夕方6時までの5時間、それぞれ着用させ、顔面へのフィット感、口開閉時の口元の自由度、顔面からの剥がれにくさ(密着性)、透け感、の4項目について、◎…非常に良好、○…良好、△…ふつう、×…不良、の4段階で評価させ、最も多い評価をその評価とした。同人数の評価が並んだ場合には、その並んだ評価について、全員で再評価を行った。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
上記の結果から、実施例品は、いずれも、良好な着用感と密着性を備えていることがわかる。一方、比較例1、2品は、生地の目付が本願発明の範囲から外れており、薄すぎたり厚すぎたりして、着用感等が実施例品に比べて劣っている。また、比較例3品、比較例4品は、実施例品に比べてさらに劣っているものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、優れた着用感と密着性とを兼ね備えており、使い勝手のよい貼付型シート状マスクとして、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 マスク本体部
2 粘着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9