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特開2022-96765細胞移植装置、および、細胞移植装置の使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096765
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】細胞移植装置、および、細胞移植装置の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220623BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220623BHJP
   C12M 3/08 20060101ALI20220623BHJP
   C12M 1/32 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A61M37/00 514
C12M1/00 A
C12M3/08
C12M1/32
A61M37/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209917
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
(72)【発明者】
【氏名】今井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
(72)【発明者】
【氏名】武井 優芽
【テーマコード(参考)】
4B029
4C267
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029GA03
4B029GA08
4B029GB02
4B029GB05
4B029GB10
4B029HA04
4B029HA10
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB10
4C267BB12
4C267BB19
4C267BB39
4C267CC05
(57)【要約】
【課題】細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を効率的に形成することのできる細胞移植装置、および、細胞移植装置の使用方法を提供する。
【解決手段】細胞移植装置は、筒状に延びる針状部10であって、先端部に開口11を有し、移植物を針状部10の内部に収容可能に構成された針状部10と、針状部10の内側に延びる棒状部31を備える内側部材30と、を備える。棒状部31は、先端部が針状部10の内部に配置される位置と、先端部が針状部10の開口11から突出する位置との間で針状部10に対して相対的に移動可能に構成される。内側部材30は、棒状部31の先端部を含む分離部32と、分離部32の基端部を支持する支持部33とを有し、分離部32が支持部33から分離可能に構成されている。細胞移植装置は、細胞群を含む移植物の生体への移植に好適に用いられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部に開口を有し、生体内への移植の対象である細胞群を含む移植物を内部に収容可能に構成された前記針状部と、
前記針状部の内側に延びる棒状部を備える内側部材と、を備え、
前記棒状部は、当該棒状部の先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、当該棒状部の先端部が前記針状部の前記開口から突出する位置との間で前記針状部に対して相対的に移動可能に構成され、
前記内側部材は、前記棒状部の先端部を含む分離部と、前記分離部の基端部を支持する支持部とを有し、前記分離部が、前記支持部から分離可能に構成されている
細胞移植装置。
【請求項2】
前記棒状部は、筒状の構造体である
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記棒状部は、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体である
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
前記棒状部は、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体であり、
前記内側部材は、前記針状部の内側で前記棒状部と並列に延びる筒状の構造体である筒状部を備える
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項5】
前記筒状の構造体である筒状部は、当該筒状部内を吸引する吸引部に接続されており、
前記筒状部は、前記筒状部内の吸引によって当該筒状部の先端部に前記移植物を保持可能に構成されている
請求項2または4に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
前記分離部および前記支持部の各々は、前記棒状部の一部であり、
前記分離部の基端部に、前記支持部の先端部が繋がっている
請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項7】
前記棒状部は、前記分離部の基端部を含む位置に、外力に対する強度が前記棒状部の他の部分よりも低い部分である脆弱部を有する
請求項6に記載の細胞移植装置。
【請求項8】
前記脆弱部の断面積は、前記支持部の平均断面積の90%以下である
請求項7に記載の細胞移植装置。
【請求項9】
前記棒状部の全体が前記分離部である
請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項10】
前記支持部から前記分離部を分離するための機構を含む分離形成部を備え、
前記分離形成部は、前記分離部の全体が前記針状部の前記開口から出ている状態で前記分離部を分離するように構成されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項11】
前記支持部から前記分離部を分離するための機構を含む分離形成部を備え、
前記分離形成部は、前記分離部の基端部が前記針状部の前記開口から出ていない状態で前記分離部を分離するように構成されている
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項12】
前記針状部は、100μm以上1000μm以下の径を有する細胞集合体である前記細胞群を含む前記移植物を、収容可能に構成されている
請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項13】
皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である前記細胞群を含む前記移植物を、生体内に移植するために用いられる
請求項1~12のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞移植装置の使用方法であって、
前記移植物を前記針状部の内部に取り込むことと、
前記針状部を生体に刺した後、前記分離部と前記移植物とを前記針状部の前記開口から出すことと、
前記分離部を前記支持部から分離することと、
を含む細胞移植装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞移植装置、および、細胞移植装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
さらに、培養された細胞群を、培養容器から生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発も進められている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【特許文献4】国際公開第2019/064653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞群の移植によって組織の再生等の所望の結果を得るためには、生体内に配置された細胞群からの組織形成が良好に進行することが重要である。例えば、毛包の形成に寄与する細胞群を移植した場合、毛包が皮膚表層まで形成され、毛包基部で作り出された毛が皮膚表層から外部へ出ていくように、組織形成が進むことが望ましい。
【0006】
生体内において細胞群が配置される環境は、細胞群に基づく組織形成に影響を与える因子の1つである。それゆえ、細胞群の周辺環境が、細胞群からの良好な組織形成を誘導可能であることが好ましい。細胞移植装置によってこうした周辺環境を形成可能であれば、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを効率的に実施することができる。
【0007】
したがって、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を形成することのできる細胞移植装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための細胞移植装置は、筒状に延びる針状部であって、当該針状部の先端部に開口を有し、生体内への移植の対象である細胞群を含む移植物を内部に収容可能に構成された前記針状部と、前記針状部の内側に延びる棒状部を備える内側部材と、を備え、前記棒状部は、当該棒状部の先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、当該棒状部の先端部が前記針状部の前記開口から突出する位置との間で前記針状部に対して相対的に移動可能に構成され、前記内側部材は、前記棒状部の先端部を含む分離部と、前記分離部の基端部を支持する支持部とを有し、前記分離部が、前記支持部から分離可能に構成されている。
【0009】
上記構成によれば、細胞移植装置は、針状部の開口を通じて、移植物と分離部とを生体に対して配置することができる。これにより、分離部は、生体の内部から表面に向けて延びるように配置されるため、細胞群から分離部に沿った組織形成が誘導される。したがって、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を形成することができる。そして、細胞移植装置によれば、移植物と共に、組織形成を誘導する分離部を生体に対して配置することができるため、移植物の配置とは別に組織形成の誘導のための部材を移植箇所に配置することと比較して、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを容易にかつ効率的に実施することができる。
【0010】
上記構成において、前記棒状部は、筒状の構造体であってもよい。
上記構成によれば、分離部を含む棒状部は、生体への配置後に組織形成を誘導する機能に加えて、針状部内への移植物の取り込みに際して移植物を保持する機能等のように、移植物の移植を補助する機能を担うことができる。したがって、移植物の移植を円滑に進めることができる。
【0011】
上記構成において、前記棒状部は、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体であってもよい。
上記構成によれば、棒状部が、筒状である場合よりも組織形成の誘導により適した形状を有する。したがって、細胞群の周辺環境をより好適に形成することができる。
【0012】
上記構成において、前記棒状部は、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体であり、前記内側部材は、前記針状部の内側で前記棒状部と並列に延びる筒状の構造体である筒状部を備えてもよい。
【0013】
上記構成によれば、棒状部が、筒状である場合よりも組織形成の誘導により適した形状を有する。さらに、筒状部を、針状部内への移植物の取り込みに際しての移植物の保持に利用することができる。そして、棒状部と筒状部との機能が分けられていることにより、棒状部と筒状部とを、それぞれの機能により適した構成とすることができるため、移植物の保持と細胞群の周辺環境の形成とのそれぞれを的確に行うことができる。
【0014】
上記構成において、前記筒状の構造体である筒状部は、当該筒状部内を吸引する吸引部に接続されており、前記筒状部は、前記筒状部内の吸引によって当該筒状部の先端部に前記移植物を保持可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、移植物の安定した保持が可能であるため、針状部への移植物の取り込み、および、取り込んだ移植物の搬送を円滑に進めることができる。
【0015】
上記構成において、前記分離部および前記支持部の各々は、前記棒状部の一部であり、前記分離部の基端部に、前記支持部の先端部が繋がっていてもよい。
上記構成によれば、分離部を分離可能に支持する支持部の構成が簡易に実現可能である。
【0016】
上記構成において、前記棒状部は、前記分離部の基端部を含む位置に、外力に対する強度が前記棒状部の他の部分よりも低い部分である脆弱部を有してもよい。
上記構成によれば、棒状部に外力を加えて脆弱部を破断させることによって、分離部を分離することができる。したがって、分離部の分離が容易である。
【0017】
上記構成において、前記脆弱部の断面積は、前記支持部の平均断面積の90%以下であってもよい。
上記構成によれば、外力によって脆弱部が破断しやすくなるため、分離部の分離を円滑に行うことができる。
【0018】
上記構成において、前記棒状部の全体が前記分離部であってもよい。
上記構成によれば、棒状部の一部が分離部である形態と比較して、棒状部の長さを短くすることが可能である。そのため、微小な棒状部の形成が容易になる。
【0019】
上記構成において、細胞移植装置は、前記支持部から前記分離部を分離するための機構を含む分離形成部を備え、前記分離形成部は、前記分離部の全体が前記針状部の前記開口から出ている状態で前記分離部を分離するように構成されていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、針状部を有する構造体の外部に、分離部を分離するための機構が配置される。したがって、当該機構の構造、大きさ、動き等についての自由度が大きい。そのため、当該機構を棒状部の分断に適した構成とすることが容易であり、分離部の分離を円滑に進めることができる。
【0021】
上記構成において、細胞移植装置は、前記支持部から前記分離部を分離するための機構を含む分離形成部を備え、前記分離形成部は、前記分離部の基端部が前記針状部の前記開口から出ていない状態で前記分離部を分離するように構成されていてもよい。
上記構成によれば、分離部の全体が針状部の開口から出ている状態で分離部を分離する形態と比較して、棒状部の長さを短くすることが可能である。そのため、微小な棒状部の形成が容易になる。
【0022】
上記構成において、前記針状部は、100μm以上1000μm以下の径を有する細胞集合体である前記細胞群を含む前記移植物を、収容可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、細胞移植装置が、毛包原基等の発毛または育毛に寄与する細胞群の移植に適した装置となる。
【0023】
上記構成において、細胞移植装置が、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である前記細胞群を含む前記移植物を、生体内に移植するために用いられてもよい。
上記構成によれば、細胞移植装置の使用によって、毛包原基等の発毛または育毛に寄与する細胞群を含む移植物と共に、分離部が生体の皮膚に対して配置される。そして、分離部が移植物の近傍から皮膚表面に向けて延び、分離部の端部が皮膚から出ていることにより、毛包が皮膚表層まで形成され、形成された毛が皮膚の外へ出ていくように、組織形成を誘導することができる。
【0024】
上記課題を解決するための細胞移植装置の使用方法は、前記移植物を前記針状部の内部に取り込むことと、前記針状部を生体に刺した後、前記分離部と前記移植物とを前記針状部の前記開口から出すことと、前記分離部を前記支持部から分離することと、を含む。
【0025】
上記方法によれば、針状部の開口を通じて、移植物と分離部とが生体に対して配置される。これにより、分離部は、生体の内部から表面に向けて延びるように配置されるため、細胞群から分離部に沿った組織形成が誘導される。このように、移植物と共に、組織形成を誘導する分離部を生体に対して配置することができるため、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを容易にかつ効率的に実施することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態の細胞移植装置の全体構成を示す図。
図2】第1実施形態の細胞移植装置であって、複数の針状部を備える細胞移植装置の構成を示す図。
図3】第1実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図4】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図5】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図6】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図7】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図。
図8】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図。
図9】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程を示す図。
図10】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程を示す図。
図11】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程の変形例を示す図。
図12】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程の変形例を示す図。
図13】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程の変形例を示す図。
図14】第1実施形態の細胞移植装置であって、脆弱部を有する内側部材を備える細胞移植装置の内部構造を示す図。
図15】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程であって、脆弱部を有する内側部材を備える細胞移植装置を用いた分離工程を示す図。
図16】第2実施形態の細胞移植装置の全体構成を示す図。
図17】第2実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図18】第2実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程を示す図。
図19】第2実施形態の細胞移植装置であって、脆弱部を有する内側部材を備える細胞移植装置の内部構造を示す図。
図20】第3実施形態の細胞移植装置の全体構成を示す図。
図21】第3実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図22】第3実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の分離工程を示す図。
図23】第3実施形態の細胞移植装置であって、脆弱部を有する内側部材を備える細胞移植装置の内部構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
図1図15を参照して、細胞移植装置およびその使用方法の第1実施形態を説明する。本実施形態の細胞移植装置は、細胞群を含む移植物を生体内へ移植するために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織内である。本実施形態において「生体」には、生物の身体や組織だけでなく、身体や組織を模した人工的な生体モデルが含まれる。つまり、本実施形態の細胞移植装置は、生物への移植物の移植だけでなく、生体モデルへも移植物の移植を行い得る。
【0029】
[移植物]
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群が含む細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官等である。
【0030】
細胞群は、生体内における移植の対象領域に配置されることによって、組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である。細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。
【0031】
具体的には、本実施形態における細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0032】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
なお、移植物は、細胞群とともに、細胞群を保護する部材や細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。
【0033】
[細胞移植装置]
図1および図2を参照して、細胞移植装置の全体構成を説明する。
図1が示すように、細胞移植装置100は、筒状に延びる針状部10と、針状部10の基端部を支持する筐体部20とを備えている。
【0034】
針状部10は、1つの方向に沿って延び、その先端部に開口11を有している。言い換えれば、針状部10は、中空の針形状を有する。針状部10の先端部が、生体における皮膚等の移植の対象部位を刺すことの可能な形状を有していれば、針状部10の外形形状は特に限定されない。針状部10は、例えば、円筒における先端部をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、針状部10の先端部は、尖っている。
【0035】
筐体部20は、その内部に、細胞移植装置100の構成部材を収容可能な空間を区画している。筐体部20の外形形状は特に限定されない。筐体部20は、針状部10と一体に形成されていてもよいし、針状部10とは別々に形成された部材であってもよい。針状部10は、針状部10の延びる方向に沿って、筐体部20から突き出している。針状部10のなかで筐体部20から突き出している部分には、少なくとも、生体における移植の対象領域に進入する部分が含まれる。
【0036】
細胞移植装置100は、針状部10および筐体部20の内側に、内側部材30を備えている。内側部材30は、針状部10の内側で針状部10の延びる方向に沿って延びる筒状部31を備えている。筒状部31は棒状部の一例である。筒状部31は、針状部10の延びる方向に沿って、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。
【0037】
細胞移植装置100は、さらに、針状部10に対する筒状部31の位置を変更する位置変更部40と、筒状部31の内部を吸引する吸引部50と、内側部材30において筒状部31の先端部を含む部分を分離させる分離形成部60とを備えている。
【0038】
位置変更部40は、針状部10に対して筒状部31を相対的に動かすための構造を含む。位置変更部40の作動は、手動で行われてもよいし、あるいは、位置変更部40がモーター等の電子部品を含み、位置変更部40の作動は、電気制御により行われてもよい。
【0039】
吸引部50は、ポンプやピストンの動き等によって空気等の流体を吸引する機構を含む。吸引部50の作動は、手動で行われてもよいし、電気制御により行われてもよい。吸引部50は、筒状部31内を吸引可能なように、筒状部31と直接または間接に接続されていればよい。
【0040】
分離形成部60は、筒状部31に押し当てられるエッジ部61と、エッジ部61を動かすための構造を含む移動機構部62とを含む。エッジ部61は、針状部10および筐体部20の外側に位置する。移動機構部62の作動は、手動で行われてもよいし、あるいは、移動機構部62がモーター等の電子部品を含み、移動機構部62の作動は、電気制御により行われてもよい。
【0041】
図2が示すように、細胞移植装置100は、複数の針状部10を備えていてもよい。複数の針状部10は、1つの筐体部20に支持され、共通した1つの方向に沿って延びる。複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は、規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0042】
細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、内側部材30は複数の筒状部31を備え、各針状部10に1つずつ筒状部31が配置される。すなわち、1つの針状部10の内側に1つの筒状部31が配置される。
【0043】
以下、図面においては細胞移植装置100が複数の針状部10を備える形態を例示する。
図3を参照して、内側部材30の詳細な構成を説明する。内側部材30は、針状部10の数に対応する数の筒状部31を備えている。筒状部31の外形形状は特に限定されず、筒状部31は、針状部10の延びる方向に沿って延びる筒状を有していればよい。例えば、針状部10が円筒状に延びる場合、筒状部31も円筒状であればよい。筒状部31の先端面は、筒状部31の延びる方向に直交する平面であることが好ましい。
【0044】
筒状部31は、筒状部31の先端部を含む分離部32と、筒状部31の基端部を含む延設部33とを有している。筒状部31の先端部から基端部に向けて、分離部32と延設部33とはこの順に並び、分離部32の基端部と延設部33の先端部とは繋がっている。延設部33は、分離部32を支持する支持部の一例である。分離部32は、生体内への移植物の配置に際して延設部33から分離される。
【0045】
針状部10の延びる方向において、筒状部31の長さは、針状部10の長さよりも大きい。針状部10の長さは、筐体部20から突き出ている部分の長さである。
筒状部31は、筒状部31の先端部、すなわち分離部32の先端部が針状部10の内部に配置される位置と、分離部32の先端部が針状部10の開口11から針状部10の外部に突出する位置との間で、針状部10に対して相対的に移動可能である。例えば、筒状部31は、分離部32の先端部が針状部10の内部に配置される位置と、分離部32の全体が開口11から針状部10の外部に出ている位置との間で、針状部10に対して移動可能である。針状部10に対する筒状部31の移動は、上述した位置変更部40の作動に基づき行われる。
【0046】
針状部10および筐体部20の材料は、特に限定されない。針状部10および筐体部20の材料は、例えば、金属や樹脂である。延設部33の材料も特に限定されず、延設部33の材料は、例えば、金属や樹脂である。分離部32は、生体適合性を有する材料から形成される。分離部32と延設部33とは、同一の材料から形成されていてもよいし、互いに異なる材料から形成されていてもよい。また、分離部32と延設部33とは、別々に形成された後に接合されてもよいし、一体に形成されていてもよい。分離部32と延設部33とが一体に形成される場合、分離部32および延設部33の材料として生体適合性の樹脂が用いられることが好ましい。これにより、分離部32を延設部33から分離可能に構成することが容易である。
【0047】
筒状部31は、分離部32と延設部33との明確な境界を有していてもよいし、有していなくてもよい。言い換えれば、分離部32の分離前において、分離部32と延設部33との識別は可能であってもよいし、可能でなくてもよい。筒状部31においてその先端部が破断等により分離可能であれば、筒状部31は、分離部32と延設部33とを有していると言える。
【0048】
細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、内側部材30は、複数の筒状部31に加えて、複数の筒状部31の基端部を支持する1つの基幹部34を有することが好ましい。基幹部34は筒状を有し、筐体部20の内部に位置する。各筒状部31内の空間は、基幹部34内の空間に連通している。
【0049】
内側部材30が基幹部34を備える場合、位置変更部40が筐体部20に対して基幹部34を動かすことにより、各筒状部31を各針状部10に対してまとめて動かすことができる。したがって、針状部10に対する筒状部31の移動の効率が高められる。また、吸引部50が基幹部34内を吸引することによって、各筒状部31内がまとめて吸引される。したがって、吸引の効率が高められる。
【0050】
なお、内側部材30は基幹部34を備えていなくてもよい。この場合、複数の筒状部31は各別に針状部10に対して動かされてもよいし、また、複数の筒状部31内が各別に吸引されてもよい。
【0051】
[細胞移植装置の使用方法]
図4図9を参照して、細胞移植装置100の使用方法を説明する。細胞移植装置100の使用方法は、細胞移植装置100に移植物を取り込む工程である取込工程と、移植物を生体内に配置する工程である配置工程とを含む。配置工程は、筒状部31にて分離部32を分離する工程である分離工程を含む。
【0052】
まず、取込工程について説明する。図4が示すように、移植前において、移植物Cgは、培養容器等のトレイ90に保護液Plと共に保持されている。保護液Plは移植物Cgを保護する液状体である。例えば、図4が示すように、移植物Cgおよび保護液Plは、トレイ90が有する凹部91に入れられている。なお、トレイ90における移植物Cgと保護液Plとの保持形態は、凹部91に移植物Cgおよび保護液Plが保持される形態に限られない。例えば、トレイ90が有する平面上に移植物Cgと保護液Plとが配置されていてもよい。
【0053】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い組成を有していればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい物質から構成されることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ90が培養容器であって、移植物Cgがトレイ90にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。保護液Plは、ゾル状体、ゲル状体、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0054】
取込工程では、まず、細胞移植装置100が、分離部32の先端部が針状部10の開口11から針状部10の外部に突出している状態とされる。開口11からは、分離部32の一部が出ていてもよいし、分離部32の全体が出ていてもよい。そして、トレイ90に配置されている移植物Cgに、分離部32の先端部が近づけられ、筒状部31内が吸引される。
【0055】
これにより、図5が示すように、分離部32の先端部に移植物Cgが引き付けられ、移植物Cgが、分離部32の先端部に当接するように、筒状部31に保持される。このとき、保護液Plが筒状部31内に取り込まれ、筒状部31が移植物Cgを保持した状態において、筒状部31内の少なくとも一部が保護液Plで満たされていてもよい。
【0056】
そして、図6が示すように、筒状部31が針状部10に対して動かされ、分離部32の先端部と移植物Cgとが開口11から針状部10の内部に引き込まれる。これにより、針状部10の内部に移植物Cgが取り込まれる。なお、取込工程においては、針状部10内の吸引によって保護液Plが針状部10の内部に取り込まれ、針状部10内において移植物Cgの周囲に保護液Plが存在していてもよい。
【0057】
移植物Cgの含む細胞群が毛包原基である場合、1つの針状部10には1つの移植物Cgが取り込まれる。細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合には、複数の針状部10の配列によって、移植物Cgの移植に基づき形成される毛の分布を制御することができる。
【0058】
移植物Cgの含む細胞群が、毛包原基のように、発毛または育毛に寄与する細胞集合体である場合、細胞群の径は、例えば、100μm以上1000μm以下である。移植の対象がこうした細胞集合体である場合、針状部10は、上記の大きさの細胞群を含む移植物Cgを内部に収容可能な大きさに形成されていればよい。また、筒状部31の先端部の内径、すなわち分離部32の先端部の内径は、移植物Cgが筒状部31の内部に入り込まない程度に小さければよい。細胞群の径は、細胞群を球体に近似した場合の当該球体の直径、言い換えれば、細胞群に外接する最小の球の直径である。
【0059】
続いて、配置工程について説明する。取込工程の後、細胞移植装置100は、生体の例えば頭部の皮膚である移植部位Skまで運ばれる。そして、図7が示すように、針状部10によって移植部位Skが刺される。このとき、分離部32の先端部および移植物Cgは針状部10の内部に位置し、細胞移植装置100の先端部には、針状部10の先端部が位置する。針状部10の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、針状部10は移植部位Skに円滑に進入できる。針状部10は、針状部10の先端部が移植の対象領域に配置される位置まで、移植部位Skに進入する。
【0060】
次に、図8が示すように、針状部10に対して筒状部31が相対的に動かされ、分離部32の全体が開口11から出た状態とされる。詳細には、筒状部31および移植物Cgの位置は変わらずに、針状部10が移植部位Skから引き抜かれる方向に後退させられる。これにより、移植部位Skの内部において、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物Cgが配置されるため、移植物Cgが針状部10から出るときに周囲の組織から押圧されて細胞に負荷がかかることが抑えられる。
【0061】
針状部10は、針状部10の全体が移植部位Skから抜け出る位置まで後退させられる。これにより、分離部32の先端部と移植物Cgとが移植部位Skの内部に位置し、筒状部31の一部が針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間に露出した状態となる。このとき、分離部32の基端部は、移植部位Skの表面から外に出ている。言い換えれば、分離部32と延設部33との境界が存在する場合において、当該境界は、針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間に位置する。
【0062】
例えば、移植物Cgが針状部10の内部に取り込まれている状態において、分離部32の基端部が筐体部20の内部に配置されることにより、針状部10を移植部位Skに刺したときに、分離部32の基端部は、移植部位Skの内部に入り込まない位置に配置される。したがって、針状部10を後退させたときには、分離部32の基端部が移植部位Skの表面から外に出るようになる。
【0063】
続いて、分離工程が実施される。すなわち、図9が示すように、分離部32が延設部33から分離される。これにより、移植部位Skにおける移植の対象領域に移植物Cgが配置されるとともに、移植物Cgの近傍に分離部32が配置される。分離部32は、移植部位Skの内部から表面に向けて延び、移植部位Skの表面から外部に出ている。なお、筒状部31内の吸引は、針状部10が移植部位Skに刺さってから分離部32が分離されるまでに停止されればよい。吸引の停止によって、筒状部31による移植物Cgの保持は解除される。
【0064】
移植物Cgの近傍に分離部32が配置されていることによって、移植物Cgの移植に基づく組織形成の方向の誘導が可能である。具体的には、分離部32に沿った組織形成が誘導される。詳細には、移植物Cgが含む細胞群が毛包原基である場合、分離部32が移植物Cgの近傍から皮膚表面に向けて延び、分離部32の端部が皮膚から出ていることにより、毛包が皮膚表層まで形成され、形成された毛が皮膚の外へ出ていくように、組織形成を誘導することができる。したがって、形成された毛が皮膚の内部に埋もれてしまうことが抑えられる。
【0065】
分離部32による組織形成の誘導を好適に進めるためには、生体に対して移植物Cgと分離部32とが配置された状態において、分離部32と移植物Cgとの間の最短距離が100μm以内であることが好ましく、分離部32が移植物Cgに接していることがより好ましい。
【0066】
以上のように、分離部32の配置によって、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を形成することができる。そして、本実施形態の細胞移植装置100によれば、移植物Cgと共に、組織形成を誘導する分離部32が生体に対して配置されるため、移植物Cgの配置とは別に組織形成の誘導のための部材を1つずつ移植箇所に配置することと比較して、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを容易にかつ効率的に実施することができる。特に、細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合には、複数の移植物Cgの配置と複数の分離部32の配置とをまとめて行うことができるため、細胞群の配置と周辺環境の形成との効率がより高められる。
【0067】
また、分離部32が筒状部31の先端部を含むため、分離部32は、移植物Cgの取り込みおよび搬送に際しては移植物Cgを保持する機能を担い、かつ、生体内への移植物Cgの配置後には組織形成を誘導する部材として機能する。したがって、移植物Cgの保持のための部材を分離部32とは別に設ける場合と比較して、簡素な構成によって、移植物Cgの保持と細胞群の周辺環境の形成との両方を好適に行うことができる。
【0068】
なお、組織形成が誘導された後、分離部32は除去されてもよいし、分離部32が生分解性の材料から形成されている場合には、分離部32は除去されなくてもよい。
[分離工程]
図10図13を参照して、分離工程の詳細および変形例について説明する。
【0069】
図10が示すように、分離工程では、分離形成部60のエッジ部61が、針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間に露出する筒状部31に、側方から押し当てられる。これにより、筒状部31の延びる方向と略直交する方向から筒状部31に力が加わる結果、筒状部31が破断されて、分離部32が分離される。
【0070】
筒状部31において、分離部32と延設部33との間に境界が存在する場合には、分離部32と延設部33との境界部分にエッジ部61が押し当てられるように、エッジ部61の位置が調整される。筒状部31において、分離部32と延設部33との間に境界が存在しない場合には、エッジ部61は、筒状部31の任意の位置に押し当てられ、筒状部31の破断によって切り離された部分が分離部32となる。
【0071】
なお、細胞移植装置100が複数の針状部10および複数の筒状部31を有する場合、エッジ部61は、複数の針状部10の並ぶ方向に沿って、複数の筒状部31を順に押圧してもよい。例えば、図10の場合、紙面に向かって右から左に向けてエッジ部61が動き、各筒状部31における分離部32の分離が順に進む。
【0072】
あるいは、エッジ部61は、複数の筒状部31をまとめて押圧してもよい。例えば、図10の場合、紙面の手前から奥に向けてエッジ部61が動き、各筒状部31における分離部32の分離が一括して行われる。
【0073】
エッジ部61の形状および材質は、筒状部31の強度に応じて選択されればよい。要は、エッジ部61の押し当てによって筒状部31が破断可能であればよい。さらに、筒状部31の分断によって分離部32の分離が可能であれば、エッジ部61は上述した構成に限定されず、例えば、エッジ部61は鋏状を有し、筒状部31を挟んで切断することにより分離部32を分離してもよい。
【0074】
図10に例示したように、エッジ部61が針状部10および筐体部20の外部に設けられる形態であれば、エッジ部61の構造、大きさ、動き等についての自由度が大きい。そのため、エッジ部61を含む分離形成部60を筒状部31の分断に適した構成とすることが容易であり、分離部32の分離を円滑に進めることができる。
【0075】
以下、分離工程の変形例を説明する。いずれの場合においても、分離工程は、針状部10を移植部位Skに刺した後に行われる。
図11が示すように、エッジ部61は、筐体部20の内部に位置し、筐体部20の内部で分離部32を分離してもよい。図11の場合、例えば、紙面の手前から奥に向けてエッジ部61が動くことで、筒状部31が破断されるが、エッジ部61の動きはこれに限定されない。また、筒状部31の分断によって分離部32の分離が可能であれば、エッジ部61は上述した構成に限定されず、例えば、エッジ部61は鋏状を有し、筒状部31を挟んで切断してもよい。
【0076】
筐体部20の内部で分離部32が分離される場合、分離工程は、針状部10が移植部位Skに刺さった状態で行われてもよいし、針状部10のみが移植部位Skから引き抜かれた後に行われてもよい。ただし、針状部10内と比較して移植部位Skの組織内の圧力は高いため、移植物Cgおよび分離部32の全体が針状部10内に位置する状態で分離部32が分離されると、針状部10を引き抜いた際に、移植物Cgおよび分離部32が針状部10の開口11から移植部位Skの内部に出ていきにくい。したがって、移植物Cgと分離部32の少なくとも一部とが開口11から出る位置まで針状部10を後退させた後に、分離工程が行われることが好ましい。移植物Cgと分離部32の少なくとも一部とが開口11から移植部位Skの内部に出ていれば、移植物Cgと分離部32の端部とに周囲の組織がからむことにより、針状部10を引き抜いた際に、移植物Cgおよび分離部32が開口11から出て移植部位Skの内部に残りやすい。
【0077】
筐体部20の内部で分離部32が分離される場合、筒状部31は、分離部32の全体が開口11から出る位置まで針状部10に対して移動可能でなくてもよく、取込工程および分離工程の各々が行われる位置まで、針状部10に対して相対的に移動可能であればよい。分離工程においては、分離部32の一部が開口11から出ていれば、分離部32の先端は、針状部10の先端を越える位置まで突出していなくてもよい。
【0078】
針状部10を移植部位Skから完全に引き抜かずに、筐体部20の内部で分離部32を分離する形態であれば、上述した針状部10を移植部位Skから引き抜いた後に針状部10の外部で分離部32を分離する形態と比較して、筒状部31に要する長さを小さくできる。筒状部31は微小な筒状の構造体であるため、筒状部31が短いほど、筒状部31の形成が容易である。
【0079】
また、エッジ部61による筒状部31の分断とは異なる方法によって分離部32が分離されてもよい。
例えば、図12が示すように、筐体部20の内部において、内側部材30に側方から力が加えられてもよい。すなわち、筐体部20の内部において、筒状部31および基幹部34が、筒状部31の延びる方向と略直交する方向に押される、もしくは、引っ張られる。これにより、針状部10と筐体部20との境界付近で筒状部31が破断されて、分離部32が分離される。
【0080】
この場合、分離部32を分離する分離形成部60は、筒状部31の延びる方向と略直交する方向の力を内側部材30に加えるための機構を含み、分離形成部60の作動によって、筒状部31および基幹部34に力が加えられる。分離工程は、図11に示した形態と同様、針状部10が移植部位Skに刺さった状態で行われてもよいし、針状部10のみが移植部位Skから引き抜かれた後に行われてもよい。このとき、移植物Cgと分離部32の少なくとも一部とが開口11から出る位置まで針状部10を後退させた後に、分離工程が行われることが好ましい。
【0081】
上記構成によれば、筐体部20内で筒状部31の付近にエッジ部61が配置される形態と比較して、筐体部20の大きさを小さくすることができる。また、内側部材30に一方向の力を加えることによって分離部32を分離させるため、分離形成部60の構造が複雑になることが抑えられる。
【0082】
また、図13が示すように、筒状部31の全体が分離部32であって、内側部材30は、分離部32の基端部を支持する支持部を含み、かつ、分離部32の支持を解除可能に構成されていてもよい。例えば、筐体部20の内部において、基幹部34が、分離部32の基端部を解除可能に支持し、この基端部の支持が解除されることによって、分離部32が分離される。上記構成では、基幹部34が支持部の一例である。具体的には、基幹部34に形成された孔に分離部32の基端部が通されており、この孔が広がることによって、分離部32の支持が解除される。
【0083】
この場合、分離形成部60は、支持部に分離部32の支持を解除させるための機構を含み、分離形成部60の作動によって、分離部32の支持が解除される。分離工程は、図11に示した形態と同様、針状部10が移植部位Skに刺さった状態で行われてもよいし、針状部10のみが移植部位Skから引き抜かれた後に行われてもよい。このとき、移植物Cgと分離部32の少なくとも一部とが開口11から出る位置まで針状部10を後退させた後に、分離工程が行われることが好ましい。
【0084】
上記構成によっても、筐体部20内で筒状部31の付近にエッジ部61が配置される形態と比較して、筐体部20の大きさを小さくすることができる。また、筒状部31の長さをより短くできるため、筒状部31の形成がより容易になる。
【0085】
筒状部31の破断によって分離部32が分離される場合、筒状部31は、外力に対する強度が筒状部31の他の部分と比較して低い部分である脆弱部を有していることが好ましい。脆弱部は、分離部32の基端部を含む。筒状部31の延びる方向と直交する方向からの力に対する脆弱部の強度は、例えば、延設部33におけるその延びる方向の中央部分と比較して低い。脆弱部が設けられていることにより、分離形成部60の作動により筒状部31が外力を受けた場合に、脆弱部で筒状部31が破断されやすくなる。そのため、分離部32の分離が円滑に進む。
【0086】
図14は、脆弱部を有する筒状部31の例を示す。脆弱部35は、分離部32の基端部を含み、分離部32と延設部33との境界付近に位置する。脆弱部35においては、側壁の厚さが筒状部31の他の部分と比較して小さくなっている。言い換えれば、脆弱部35においては、筒状部31の延びる方向と直交する方向に沿った断面積が、筒状部31の他の部分と比較して小さくなっている。なお、当該断面積は、筒状部31の側壁が存在する環状の領域の面積である。
【0087】
脆弱部での筒状部31の破断を好適に生じさせるためには、脆弱部35の断面積は、延設部33の平均断面積の90%以下であることが好ましい。延設部33の平均断面積は、延設部33の先端、基端、および、先端と基端との中間点での断面積の平均である。
【0088】
脆弱部35が設けられていることによって、図15が示すように、分離形成部60の作動により筒状部31が外力を受けた場合に、脆弱部35で筒状部31が破断され、分離部32が分離される。これにより、分離部32の分離を円滑に進めることができるとともに、脆弱部35の位置の設定によって、移植物Cgと共に生体に対して配置される分離部32の長さを予め設定することが容易である。
【0089】
また、脆弱部は、上述した筒状部31の側壁が薄くされた部分のように、形状的な差異によって強度を低くされた部分に限らず、材質的な差異によって強度を低くされた部分であってもよい。例えば、脆弱部は、結晶化度の差異によって筒状部31の他の部分よりも強度が低い、すなわち破断されやすい部分であってもよい。具体的には、分離部32となる部分と延設部33となる部分とを、同一の樹脂材料から一体に形成した後、部分的に熱を加えて結晶化度を変えることにより、分離部32の基端部を、他の部分よりも破断されやすい脆弱部とすることができる。なお、分離部32の全体が脆弱部とされてもよい。
【0090】
また、分離部32と延設部33とが別々に形成されて接着剤等によって接合されることにより筒状部31が形成されている場合には、分離部32と延設部33との接合部分の強度は筒状部31の他の部分と比較して低くなりやすい。このことを利用して、上記接合部分の強度が他の部分と比較して低くなるように筒状部31を形成することで、上記接合部分を脆弱部として機能させてもよい。
【0091】
以上のように、第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)細胞移植装置100が、分離部32を分離可能に有する内側部材30を備えている。そのため、細胞移植装置100は、針状部10の開口11を通じて、移植物Cgと分離部32とを生体に対して配置することができる。これにより、分離部32は、生体の内部から表面に向けて延びるように配置されるため、細胞群から分離部32に沿った組織形成が誘導される。したがって、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境を形成することができる。そして、細胞移植装置100によれば、移植物Cgと共に、組織形成を誘導する分離部32を生体に対して配置することができるため、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを容易にかつ効率的に実施することができる。
【0092】
(2)分離部32を有する棒状部が、筒状の構造体である筒状部31である。こうした構成によれば、分離部32は、生体への配置後に組織形成を誘導する機能に加えて、針状部10内への移植物Cgの取り込みに際して移植物Cgを保持する機能のように、移植物Cgの移植を補助する機能を担うことができる。したがって、移植物Cgの移植が円滑に進められる。
【0093】
(3)筒状部31は、筒状部31内の吸引によって筒状部31の先端部に移植物Cgを保持可能に構成されている。これにより、移植物Cgの安定した保持が可能であるため、針状部10への移植物Cgの取り込み、および、取り込んだ移植物Cgの搬送を円滑に進めることができる。
【0094】
(4)分離部32と、分離部32の基端部を支持する支持部である延設部33との各々が棒状部の一部であり、分離部32の基端部に延設部33の先端部が繋がっている形態であれば、分離部32を分離可能に支持する支持部の構成が簡易に実現可能である。
【0095】
(5)棒状部が、分離部32の基端部を含む位置に脆弱部35を有する形態であれば、棒状部に外力を加えて脆弱部35を破断させることによって、分離部32を分離することができる。したがって、分離部32の分離が容易である。
【0096】
(6)脆弱部35の断面積が、支持部である延設部33の平均断面積の90%以下であれば、外力によって脆弱部35が破断しやすくなるため、分離部32の分離を円滑に行うことができる。
【0097】
(7)棒状部の全体が分離部32である形態であれば、棒状部の一部が分離部32である形態と比較して、棒状部の長さを短くすることが可能である。そのため、微小な棒状部の形成が容易になる。
【0098】
(8)分離形成部60が、分離部32の全体が針状部10の開口11から出ている状態で、分離部32を分離する。こうした構成によれば、針状部10を有する構造体の外部に、分離部32を分離するための機構が配置される。したがって、当該機構の構造、大きさ、動き等についての自由度が大きい。そのため、当該機構を棒状部の分断に適した構成とすることが容易であり、分離部32の分離を円滑に進めることができる。
【0099】
(9)分離形成部60が、分離部32の基端部が針状部10の開口11から出ていない状態で、分離部32を分離する。こうした構成によれば、分離部32の全体が針状部10の開口11から出ている状態で分離部32を分離する形態と比較して、棒状部全体の長さを短くすることが可能である。そのため、微小な棒状部の形成が容易になる。
【0100】
(10)針状部10が、100μm以上1000μm以下の径を有する細胞集合体を含む移植物Cgを収容可能に構成されていれば、細胞移植装置100が、毛包原基等の発毛または育毛に寄与する細胞群の移植に適した装置となる。
【0101】
(11)細胞移植装置100が、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体を含む移植物Cgを、生体内に移植するために用いられる。こうした構成によれば、細胞移植装置100の使用によって、毛包原基等の発毛または育毛に寄与する細胞群と共に、分離部32が生体の皮膚に対して配置される。そして、分離部32が細胞群の近傍から皮膚表面に向けて延び、分離部32の端部が皮膚から出ていることにより、毛包が皮膚表層まで形成され、形成された毛が皮膚の外へ出ていくように、組織形成を誘導することができる。
【0102】
(12)細胞移植装置100の使用方法は、移植物Cgを針状部10の内部に取り込むことと、針状部10を生体に刺した後、分離部32と移植物Cgとを針状部10の開口11から出すことと、分離部32を支持部から分離することと、を含む。こうした方法によれば、針状部10の開口11を通じて、移植物Cgと分離部32とが生体に対して配置される。このように、移植物Cgと共に、組織形成を誘導する分離部32を生体に対して配置することができるため、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを容易にかつ効率的に実施することができる。
【0103】
(第2実施形態)
図16図19を参照して、細胞移植装置およびその使用方法の第2実施形態を説明する。第2実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、内側部材の構造が異なっている。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0104】
[細胞移植装置]
図16が示すように、第2実施形態の細胞移植装置110が備える内側部材70は、筒状部31に代えて、柱状部71を備えている。柱状部71は、棒状部の一例である。柱状部71は、内部に流体が流れる空間を有さない構造体である。柱状部71は、針状部10の内側で針状部10の延びる方向に沿って延びる。針状部10の延びる方向において、柱状部71の長さは、針状部10の長さよりも大きい。柱状部71の外形形状は特に限定されない。例えば、針状部10が円筒状に延びる場合、柱状部71は円柱状であればよい。柱状部71の先端面は、柱状部71の延びる方向に直交する平面であることが好ましい。
【0105】
柱状部71は、柱状部71の先端部を含む分離部72と、柱状部71の基端部を含む延設部73とを有している。柱状部71の先端部から基端部に向けて、分離部72と延設部73とがこの順に並び、分離部72の基端部と延設部73の先端部とは繋がっている。延設部73は、分離部72を支持する支持部の一例である。分離部72は、生体内への移植物の配置に際して延設部73から分離される。
【0106】
延設部73の材料は特に限定されず、延設部73の材料は、例えば、金属や樹脂である。分離部72は、生体適合性を有する材料から形成される。分離部72と延設部73とは、同一の材料から形成されていてもよいし、互いに異なる材料から形成されていてもよい。また、分離部72と延設部73とは、別々に形成された後に接合されてもよいし、一体に形成されていてもよい。分離部72と延設部73とが一体に形成される場合、分離部72および延設部73の材料として生体適合性の樹脂が用いられることが好ましい。これにより、分離部72を延設部73から分離可能に構成することが容易である。
【0107】
柱状部71は、分離部72と延設部73との明確な境界を有していてもよいし、有していなくてもよい。言い換えれば、分離部72の分離前において、分離部72と延設部73との識別は可能であってもよいし、可能でなくてもよい。柱状部71においてその先端部が破断等により分離可能であれば、柱状部71は、分離部72と延設部73とを有していると言える。
【0108】
柱状部71は、柱状部71の先端部、すなわち分離部72の先端部が針状部10の内部に配置される位置と、分離部72の先端部が針状部10の開口11から針状部10の外部に突出する位置との間で、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。針状部10に対する柱状部71の移動は、位置変更部40の作動に基づき行われる。第2実施形態において、位置変更部40は、針状部10に対して柱状部71を相対的に動かすための構造を含む。また、第2実施形態において、吸引部50は、針状部10の内部を吸引する。
【0109】
なお、図示を省略しているが、第2実施形態の細胞移植装置110も、第1実施形態と同様、内側部材70において柱状部71の分離部72を分離させる機構を含む分離形成部60を備えている。
【0110】
細胞移植装置110が複数の針状部10を備える場合、内側部材70は複数の柱状部71を備え、各針状部10に1つずつ柱状部71が配置される。このとき、内側部材70は、複数の柱状部71の基端部を支持する1つの基幹部74を有することが好ましい。基幹部74は筐体部20の内部に位置する。位置変更部40が筐体部20に対して基幹部74を動かすことにより、各柱状部71を各針状部10に対してまとめて動かすことができる。したがって、針状部10に対する柱状部71の移動の効率が高められる。
【0111】
なお、内側部材70は基幹部74を備えなくてもよい。この場合、複数の柱状部71は各別に針状部10に対して動かされてもよい。また、基幹部74の有無に関わらず、吸引部50は、筐体部20内を吸引することで、複数の針状部10内をまとめて吸引してもよいし、あるいは、複数の針状部10内を各別に吸引してもよい。
【0112】
[細胞移植装置の使用方法]
第2実施形態においても、細胞移植装置110の使用方法は、移植物の取込工程と配置工程とを含み、配置工程は、分離部72の分離工程を含む。
【0113】
第2実施形態の取込工程においては、分離部72の先端部が針状部10内に配置された状態で、針状部10の先端部が、第1実施形態と同様に培養容器等のトレイに配置されている移植物Cgに近づけられ、針状部10内が吸引される。
【0114】
これにより、図17が示すように、移植物Cgが、開口11から針状部10の内部に引き込まれる。針状部10の内部において、柱状部71の先端部と開口11との間には、移植物Cgが留められる空間が区画されており、移植物Cgはこの空間に収容される。柱状部71の側面と針状部10の内側面との間の隙間は、移植物Cgが入り込まない程度に狭く、移植物Cgは、柱状部71と開口11との間に留められる。
【0115】
針状部10内へ移植物Cgを取り込む際には、トレイに移植物Cgと共に保持されていた保護液も、針状部10内に取り込まれ、針状部10の内部において移植物Cgの周囲には保護液が存在してもよい。
【0116】
なお、柱状部71の先端部は粘着性を有していてもよい。柱状部71の先端部が粘着性を有していれば、柱状部71の先端部に移植物Cgが付着することにより、柱状部71の先端部に移植物Cgが保持される。これにより、針状部10内において移植物Cgを安定して保持することができる。
【0117】
さらに、柱状部71の先端部が粘着性を有している場合には、第1実施形態と同様、柱状部71の先端部、すなわち分離部72の先端部が針状部10の開口11から突き出した状態で、トレイ内の移植物Cgが柱状部71の先端部に保持されてもよい。その後、針状部10に対して柱状部71が動かされることにより、移植物Cgが針状部10の内部に取り込まれる。
【0118】
なお、細胞移植装置110は、柱状部71とは別に、針状部10の内部において移植物Cgを針状部10の先端部の付近に留めるための構成として、例えばフィルターや網状の構造を備えていてもよい。
【0119】
配置工程および分離工程は、第1実施形態と同様に行われる。すなわち、取込工程の後、細胞移植装置110は、移植部位Skまで運ばれ、針状部10によって移植部位Skが刺される。そして、図18が示すように、針状部10のみが後退させられて移植部位Skから引き抜かれることにより、分離部72の全体が開口11から出た状態とされた後、分離部72が分離される。
【0120】
針状部10が引き抜かれるとき、移植物Cgよりも移植部位Skの表面側に柱状部71が位置することから、移植物Cgが針状部10と共に移動することが抑えられ、移植物Cgは移植部位Skの内部に残される。
【0121】
分離工程では、第1実施形態と同様、分離形成部60のエッジ部61が、針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間に露出する柱状部71に、側方から押し当てられる。その結果、柱状部71が破断されて、分離部72が分離される。
【0122】
これにより、移植部位Skにおける移植の対象領域に移植物Cgが配置されるとともに、移植物Cgの近傍に分離部72が配置される。分離部72は、移植部位Skの内部から表面に向けて延び、移植部位Skの表面から外部に出ている。
【0123】
移植物Cgの近傍に分離部72が配置されることにより、細胞群からの組織形成を誘導可能な周辺環境の形成することができる。第2実施形態の細胞移植装置110によっても、移植物Cgと共に、組織形成を誘導する分離部72が生体に対して配置されるため、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを効率的に実施することができる。
【0124】
分離部72による組織形成の誘導を好適に進めるためには、第1実施形態と同様、生体に対して移植物Cgと分離部72とが配置された状態において、分離部72と移植物Cgとの間の最短距離が100μm以内であることが好ましく、分離部72が移植物Cgに接していることがより好ましい。
【0125】
第2実施形態では、分離部72が筒状ではなく柱状であり、組織形成の誘導により適した形状を有している。特に、分離部72が移植物Cgの保持機能を有さない場合には、分離部72を、組織形成の誘導により適した太さや長さ、形状、材質、表面状態等に形成することができる。したがって、生体内での細胞群の周辺環境の形成をより的確に行うことができる。
【0126】
第1実施形態にて説明した分離工程の変形例は、いずれも第2実施形態に適用できる。すなわち、分離形成部60のエッジ部61が、筐体部20の内部で柱状部71に側方から押し当てられることにより、柱状部71が破断されて、分離部72が分離されてもよい。
【0127】
あるいは、筐体部20の内部において、内側部材70に側方から力が加えられることにより、針状部10と筐体部20との境界付近で柱状部71が破断されて、分離部72が分離されてもよい。
【0128】
あるいは、柱状部71の全体が分離部72であって、内側部材70は、分離部72の基端部を支持する支持部を含み、かつ、分離部72の支持を解除可能に構成されていてもよい。支持部による基端部の支持が解除されることによって、分離部72が分離される。
【0129】
また、第2実施形態においても、柱状部71の破断によって分離部72が分離される場合、柱状部71は、分離部72の基端部を含む部分に脆弱部を有していることが好ましい。柱状部71の延びる方向と直交する方向からの力に対する脆弱部の強度は、例えば、延設部73におけるその延びる方向の中央部分と比較して低い。
【0130】
図19は、脆弱部を有する柱状部71の例を示す。脆弱部75は、分離部72の基端部を含み、分離部72と延設部73との境界付近に位置する。脆弱部75においては、柱状部71が細くなっている。すなわち、脆弱部75では、柱状部71の延びる方向と直交する方向に沿った断面積が、柱状部71の他の部分と比較して小さくなっている。脆弱部75での柱状部71の破断を好適に生じさせるためには、脆弱部75の断面積は、延設部73の平均断面積の90%以下であることが好ましい。延設部73の平均断面積は、延設部73の先端、基端、および、先端と基端との中間点での断面積の平均である。
【0131】
脆弱部75が設けられていることによって、分離形成部60の作動により柱状部71が外力を受けた場合に、脆弱部75で柱状部71が破断され、分離部72が分離される。これにより、分離部72の分離を円滑に進めることができるとともに、脆弱部75の位置の設定によって、移植物Cgと共に生体に対して配置される分離部72の長さを予め設定することが容易である。
【0132】
なお、第1実施形態と同様、脆弱部は、形状的な差異によって強度を低くされた部分に限らず、材質的な差異によって強度を低くされた部分であってもよい。すなわち、脆弱部は、結晶化度の差異によって柱状部71の他の部分よりも破断されやすい部分であってもよいまた、分離部72と延設部73との接合部分の強度が他の部分と比較して低くなるように柱状部71を形成することで、上記接合部分を脆弱部として機能させてもよい。
【0133】
以上のように、第2実施形態によれば、第1実施形態の(1),(4)~(12)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(13)分離部72を有する棒状部が、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体である柱状部71である。こうした構成によれば、棒状部が、筒状である場合よりも組織形成の誘導により適した形状を有する。したがって、細胞群の周辺環境をより好適に形成することができる。
【0134】
(第3実施形態)
図20図23を参照して、細胞移植装置およびその使用方法の第3実施形態を説明する。第3実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第3実施形態は、第1実施形態および第2実施形態と比較して、内側部材の構造が異なっている。以下では、第3実施形態と第1実施形態および第2実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態および第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0135】
[細胞移植装置]
図20が示すように、第3実施形態の細胞移植装置120が備える内側部材80は、筒状部81と柱状部82とを備えている。柱状部82は、棒状部の一例である。筒状部81および柱状部82の各々は、針状部10の内側で針状部10の延びる方向に沿って並列して延びる。筒状部81は、内部に流体が流れる空間を有する筒状の構造体であり、柱状部82は、内部に流体が流れる空間を有さない構造体である。針状部10の延びる方向において、柱状部82の長さは、針状部10の長さよりも大きい。
【0136】
筒状部81および柱状部82の外形形状は特に限定されない。例えば、筒状部81は円筒状であり、柱状部82は円柱状である。筒状部81および柱状部82の先端面は、針状部10の延びる方向に直交する平面であることが好ましい。
【0137】
柱状部82は、第2実施形態と柱状部71と同様の構成を有する。すなわち、柱状部82は、分離部83と延設部84とを有している。分離部83は、柱状部82の先端部を含み、分離部83の基端部と延設部84の先端部とは繋がっている。延設部84は、支持部の一例である。
【0138】
筒状部81は、移植物の配置に際して分離される分離部を有していない。針状部10の延びる方向において、筒状部81の先端の位置と、柱状部82の先端の位置とは、一致していてもよいし異なっていてもよい。移植物のより近くに分離部83を配置するためには、針状部10の延びる方向において、柱状部82の先端部は、筒状部81の先端部よりも先まで延びていることが好ましい。
【0139】
筒状部81と柱状部82とは、同一の材料から形成されていてもよいし、互いに異なる材料から形成されていてもよい。また、筒状部81と柱状部82とは、別々に形成された部材であってもよいし、筒状部81と柱状部82との基端部でこれらが繋がるように一体に形成されていてもよい。
【0140】
筒状部81および柱状部82は、これらの先端部が針状部10の内部に配置される位置と、当該先端部が針状部10の開口11から針状部10の外部に突出する位置との間で、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。筒状部81および柱状部82は、針状部10に対して一括して動かされる。
【0141】
針状部10に対する筒状部81および柱状部82の移動は、位置変更部40の作動に基づき行われる。第3実施形態において、位置変更部40は、針状部10に対して筒状部81および柱状部82を相対的に動かすための構造を含む。また、第2実施形態において、吸引部50は、筒状部81の内部を吸引する。
【0142】
なお、図示を省略しているが、第3実施形態の細胞移植装置120も、第1実施形態と同様、内側部材80において柱状部82の分離部83を分離させる機構を含む分離形成部60を備えている。
【0143】
細胞移植装置120が複数の針状部10を備える場合、内側部材80は複数の筒状部81と複数の柱状部82とを備え、各針状部10に筒状部81と柱状部82とが1つずつ配置される。このとき、内側部材80は、複数の筒状部81の基端部と複数の柱状部82の基端部とを支持する1つの基幹部85を有することが好ましい。基幹部85は筐体部20の内部に位置する。位置変更部40が筐体部20に対して基幹部85を動かすことにより、各筒状部81および各柱状部82を各針状部10に対してまとめて動かすことができる。したがって、針状部10に対する筒状部81および柱状部82の移動の効率が高められる。また、吸引部50が基幹部85内を吸引することによって、各筒状部81内がまとめて吸引される。したがって、吸引の効率が高められる。
【0144】
なお、内側部材80は基幹部85を備えなくてもよい。この場合、針状部10ごとに別々に、筒状部81および柱状部82が針状部10に対して動かされてもよい。また、吸引部50は、複数の筒状部81内を各別に吸引してもよい。
【0145】
[細胞移植装置の使用方法]
第3実施形態においても、細胞移植装置120の使用方法は、移植物の取込工程と配置工程とを含み、配置工程は、分離部83の分離工程を含む。
【0146】
第3実施形態の取込工程では、第1実施形態と同様、筒状部81の先端部が針状部10の開口11から外部に突出している状態で、培養容器等のトレイに配置されている移植物Cgに筒状部81の先端部が近づけられ、筒状部81内が吸引される。これにより、筒状部81の先端部に移植物Cgが保持される。そして、筒状部81が針状部10に対して動かされ、筒状部81の先端部と移植物Cgとが開口11から針状部10の内部に引き込まれる。その結果、図21が示すように、針状部10の内部に移植物Cgが取り込まれる。
【0147】
配置工程では、細胞移植装置120が移植部位Skまで運ばれ、針状部10によって移植部位Skが刺される。そして、針状部10のみが後退させられて移植部位Skから引き抜かれることにより、分離部83の全体が開口11から出た状態とされる。その後、図22が示すように、分離部83が分離される。また、吸引部50による吸引が停止されることによって、筒状部81による移植物Cgの保持が解除される。
【0148】
分離工程では、第1実施形態と同様、分離形成部60のエッジ部61が、針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間に露出する柱状部82に、側方から押し当てられることにより、柱状部82が破断されて、分離部83が分離される。エッジ部61は、筒状部81に阻害されない方向から柱状部82に押し当てられればよく、複数の柱状部82は、1つのエッジ部61が適宜移動することによって順に破断されてもよいし、複数のエッジ部61によって各別に破断されてもよい。
【0149】
これにより、移植部位Skにおける移植の対象領域に移植物Cgが配置されるとともに、移植物Cgの近傍に分離部83が配置される。第3実施形態の細胞移植装置120によっても、移植物Cgと共に、組織形成を誘導する分離部83が生体に対して配置されるため、生体内への細胞群の配置と周辺環境の形成とを効率的に実施することができる。
【0150】
分離部83による組織形成の誘導を好適に進めるためには、第1実施形態と同様、生体に対して移植物Cgと分離部83とが配置された状態において、分離部83と移植物Cgとの間の最短距離が100μm以内であることが好ましい。
【0151】
第3実施形態では、組織形成を誘導する部材として機能する分離部83とは別に、移植物Cgを保持する部材である筒状部81が設けられる。したがって、分離部83と筒状部81とを、それぞれの機能により適した太さや長さ、形状、材質、表面状態等に形成することができる。そのため、移植物Cgの保持と、細胞群の周辺環境の形成とのそれぞれが的確に行われる。
【0152】
第1実施形態にて説明した分離工程の変形例は、いずれも第3実施形態に適用できる。すなわち、分離形成部60のエッジ部61が、筐体部20の内部で柱状部82に側方から押し当てられることにより、柱状部82が破断されて、分離部83が分離されてもよい。
【0153】
あるいは、筐体部20の内部において、内側部材80に側方から力が加えられることにより、針状部10と筐体部20との境界付近で柱状部82が破断されて、分離部83が分離されてもよい。
【0154】
あるいは、柱状部82の全体が分離部83であって、内側部材80は、分離部83の基端部を支持する支持部を含み、かつ、分離部83の支持を解除可能に構成されていてもよい。支持部による基端部の支持が解除されることによって、分離部83が分離される。
【0155】
また、第3実施形態においても、柱状部82の破断によって分離部83が分離される場合、柱状部82は、分離部83の基端部を含む部分に脆弱部を有していることが好ましい。柱状部82の延びる方向と直交する方向からの力に対する脆弱部の強度は、例えば、延設部84におけるその延びる方向の中央部分と比較して低い。
【0156】
図23は、脆弱部を有する柱状部82の例を示す。脆弱部86は、分離部83の基端部を含み、分離部83と延設部84との境界付近に位置する。脆弱部86においては、柱状部82が細くなっている。すなわち、脆弱部86では、柱状部82の延びる方向と直交する方向に沿った断面積が、柱状部82の他の部分と比較して小さくなっている。脆弱部86での柱状部82の破断を好適に生じさせるためには、脆弱部86の断面積は、延設部84の平均断面積の90%以下であることが好ましい。延設部84の平均断面積は、延設部84の先端、基端、および、先端と基端との中間点での断面積の平均である。
【0157】
なお、第1実施形態と同様、脆弱部は、形状的な差異によって強度を低くされた部分に限らず、材質的な差異によって強度を低くされた部分であってもよい。すなわち、脆弱部は、結晶化度の差異によって柱状部82の他の部分よりも破断されやすい部分であってもよい。また、分離部83と延設部84との接合部分の強度が他の部分と比較して低くなるように柱状部82を形成することで、上記接合部分を脆弱部として機能させてもよい。
【0158】
上記実施形態では、筒状部81および柱状部82が針状部10に対して一括して動かされる形態を説明したが、筒状部81と柱状部82とは針状部10に対して各別に動かされてもよい。例えば、取込工程においては、筒状部81の先端部が針状部10の開口11から突出した状態とされる一方で、柱状部82の先端部は、常に針状部10の内部に配置されてもよい。また、分離工程において針状部10の開口11と移植部位Skの表面との間で柱状部82が分断される場合、移植物Cgの保持を解除した筒状部81が針状部10の内部に引き込まれた後に、分離部83の分離が行われてもよい。
【0159】
以上のように、第3実施形態によれば、第1実施形態の(1),(3)~(12)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(14)分離部83を有する棒状部が、内部に流体の流路を有さない柱状の構造体である柱状部82であり、内側部材80が、柱状部82と並列に延びる筒状の構造体である筒状部81を備えている。こうした構成によれば、棒状部である柱状部82が、筒状である場合よりも組織形成の誘導により適した形状を有する。さらに、筒状部81を、針状部10内への移植物Cgの取り込みに際しての移植物Cgの保持に利用することができる。そして、柱状部82と筒状部81との機能が分けられていることにより、柱状部82と筒状部81とを、それぞれの機能により適した構成とすることができるため、移植物Cgの保持と細胞群の周辺環境の形成とのそれぞれを的確に行うことができる。
【符号の説明】
【0160】
Cg…移植物
10…針状部
11…開口
20…筐体部
30,70,80…内側部材
31,81…筒状部
71,82…棒状部
32,72,83…分離部
33,73,84…延設部
34,74,85…基幹部
35,75,86…脆弱部
40…位置変更部
50…吸引部
60…分離形成部
61…エッジ部
90…トレイ
100,110,120…細胞移植装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23