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  • 特開-TIPARP産生促進剤 図1
  • 特開-TIPARP産生促進剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096767
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】TIPARP産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20220623BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 36/355 20060101ALI20220623BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20220623BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220623BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220623BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220623BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20220623BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20220623BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20220623BHJP
   A61K 8/73 20060101ALN20220623BHJP
   A61K 31/715 20060101ALN20220623BHJP
   A61K 133/00 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
A61K35/74 D
A61P43/00 111
A61K36/355
A61P43/00 105
A61Q19/02
A61Q19/08
A61K8/9789
A61K8/99
A61P1/16
A61P3/06
A61P35/00
A61K8/73
A61K31/715 ZNA
A61K133:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209920
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】蘇木 明日香
(72)【発明者】
【氏名】筒井 大気
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD211
4C083AD212
4C083EE12
4C083EE16
4C086EA20
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC31
4C087CA10
4C087NA14
4C087ZB22
4C088AB12
4C088AC03
4C088CA03
4C088CA06
4C088NA14
4C088ZA75
4C088ZB22
4C088ZB26
4C088ZC33
(57)【要約】
【課題】新規なTIPARP産生促進剤を提供する。
【解決手段】本発明は、アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを有効成分として含有するTIPARP産生促進剤を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを有効成分として含有するTIPARP産生促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のTIPARP産生促進剤を含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTIPARP産生促進剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
TIPARPは、免疫、幹細胞の多能性、転写因子の調節等における重要な調節因子である。また、TIPARPは、薬物や環境中の危険因子による毒性作用等を媒介する転写因子であるアリール炭化水素受容体(AhR)等の転写抑制因子である。TIPARPの産生が促進できれば、TIPARP減少又はAhRの活性化に起因する各種疾患や状態を予防・改善することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006-528239号公報
【特許文献2】特開2019-156752号公報
【特許文献3】特開平07-157412号公報
【特許文献4】特開2012-246226号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cancer Management and Research 2019:11 8991-9004
【非特許文献2】Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 2312; doi:10.3390/ijms20092312
【非特許文献3】Sci. STKE, 11 September 2007 Vol. 2007, Issue 403, p. pe49; DOI: 10.1126/stke.4032007pe49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、TIPARP産生促進剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アルテロモナス発酵エキスおよび金銀花エキスに高いTIPARP産生促進効果があることを見出した。以上の発見により、以下の発明を完成するに至った:
(1)アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを有効成分として含有するTIPARP産生促進剤。
(2)(1)に記載のTIPARP産生促進剤を含有する組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、TIPARP産生促進剤を含有する組成物や内服剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実験1において各濃度(0.10重量%、0.50重量%)のアルテロモナス発酵エキスを添加した場合の正常ヒト表皮角化細胞におけるTIPARP発現量を、陰性対照(1,3-BGのみ)を添加した場合を1.00とした相対値(ΔΔCt法)として示す。
図2図2は、実験1において各濃度(0.10重量%、0.50重量%)の金銀花エキスを添加した場合の正常ヒト表皮角化細胞におけるTIPARP発現量を、陰性対照(エタノールのみ)を添加した場合を1.00とした相対値(ΔΔCt法)として示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明はアルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを有効成分として含有するTIPARP産生促進剤を提供する。TIPARP(TCDD(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)-inducible poly-ADP-ribose polymerase)は、PARP7、ARTD14としても知られ、モノADPリボシルトランスフェラーゼ(mono-ADP-ribosyltransferases)およびアリール炭化水素受容体(AhR:Aryl hydrocarbon Receptor)の転写抑制因子である。TIPARPは、免疫、幹細胞の多能性、転写因子の調節等における重要な調節因子であり、TIPARPノックダウンにより肝臓脂肪が蓄積することや、乳癌においてTIPARPのメチル化が起こりその発現が減少することが知られている(非特許文献1、2)。本発明によりTIPARPの産生が促進できれば、免疫の改善、TIPARP減少に起因する各種疾患や状態を予防・改善することが期待される。
【0010】
本発明のTIPARP産生促進剤の一態様では、TIPARP産生を促進することによりAhRの活性化を抑制する。AhRは、薬物や環境中の危険因子による毒性作用等を媒介する転写因子である。AhRは、芳香族炭化水素類やダイオキシン類と結合し異物代謝を誘導すること、成長因子、抗酸化因子、炎症物質などを誘導すること等が報告されている(非特許文献3)。皮膚では、AhRの活性化により、活性酸素の発生、くすみ、メラニン産生といった悪影響を及ぼすことが知られており、これらの悪影響は紫外線の蓄積により悪化する。本発明のようなTIPARP産生促進を利用することにより、AhRの活性化を抑制し、AhRの活性化に起因する上述のような各種疾患や状態を予防・改善することが期待される。
【0011】
TIPARPの産生促進とは、例えばTIPARP遺伝子の発現はTIPARPタンパク質量を増加させること、例えば何も付与していない状態(コントロール)に比べて、TIPARP産生促進剤を付与した場合にTIPARP遺伝子の発現又はTIPARPタンパク質量が増加していることを意味し得る。本発明におけるTIPARPの産生促進とは、例えば何も付与していない状態(コントロール)に比べて、TIPARP産生促進剤を付与した場合に、TIPARP遺伝子の発現又はTIPARPタンパク質量が、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。TIPARP遺伝子の発現量は、任意の公知技術により求めることができる。
【0012】
このようなTIPARP産生促進作用は、in vivo、in vitro、ex vivo等を含む各種方法で測定できる。例えば、被験物質を肝細胞、乳腺細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、といった細胞に投与し、その細胞におけるTIPARPのmRNA発現量をqPCRなどの方法により求める、あるいはタンパク量をウエスタンブロッティング等の方法により求める等により決定できる。しかしながら測定方法は上記方法に限定されず、他の任意の方法を採用してもよい。例えば、ヒト等の動物に投与した後に肝臓、乳房、脂肪、皮膚組織/モデルなどの試料におけるTIPARPのmRNA発現量又はTIPARPタンパク質量を測定するといったin vivoやex vivoの方法を採用してもよい。
【0013】
本発明は、アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを有効成分として含有するTIPARP産生促進剤を提供する。本発明のTIPARP産生促進剤は、経口剤、あるいは経皮剤、注射剤と言った非経口剤等、任意の形態であってもよい。
【0014】
本発明で用いられるアルテロモナス発酵エキス(CAS番号:267233-41-0)は、深海に生息する微生物であるアルテロモナス(Alteromonas macleodii)から得られた発酵物のエキスであり、多糖類グルコシドの高分子である。抗炎症、皮膚刺激、敏感肌の症状を軽減させる作用などが知られている(特許文献1,2)。公知の方法により容易に発酵、精製、抽出等ができ、またUNIPEXIN NOVATIONS社のAbyssine PFといった市販品を容易に入手可能である。
【0015】
本発明で用いられる金銀花エキスは、スイカズラ(Lonicera japonica)の花蕾の抽出物である。抗炎症、抗菌、鎮痙作用などが知られている(特許文献3,4)。公知の方法により容易に乾燥、精製、抽出等ができ、また市販品を容易に入手可能である。生のままでも乾燥したものでも使用することができるが、抽出物、乾燥物、乾燥粉末、原料の粉末物、搾汁液等として用いることもでき、いずれの形態を用いるかは適宜選択することができる。
【0016】
上記エキスの抽出は例えば溶媒抽出により行うことができる。溶媒抽出の場合には、発酵物又は植物の全体又は部分を必要に応じて乾燥させ、更に必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤、水、例えば冷水、温水、又は沸点若しくはそれより低温の熱水、あるいは含水有機溶媒、有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、エーテル、1,3-ブチレングリコール等を原料の性質や組成物の用途等により好ましい溶媒を適宜選択して常温で又は加熱して用いることにより抽出される。しかしながら、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよく、本発明で用いる抽出物の抽出方法や抽出物の形態は、本発明の効果を損なわない限り任意である。上記抽出物の形態は、抽出液自体だけでなく、常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよく、更に、抽出液を乾燥することによって得られる粉状あるいは塊状の固体であってもよい。
【0017】
含水有機溶媒の例として、含水エタノール等の含水低級アルコールを用いてもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~50v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。
【0018】
本発明のTIPARP産生促進剤は、経皮、経口、局所注入等各種投与経路で投与でき、本発明の有効成分をTIPARP産生促進の効果が十分発揮されるような量で適用することが好ましい。アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスの配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。
【0019】
本発明のTIPARP産生促進剤を経皮剤又は経口剤として利用する場合には、経皮剤又は経口剤全量に対して、アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスの乾燥重量が、0.00001~1.0重量%程度になるように調製することが好ましく、0.001~0.8重量%程程度、0.10~0.5重量%程度がより好ましい。
【0020】
また、投与頻度は、限定されないものの、一例によれば、例えば2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回等の頻度で投与することができる。また、都度摂取するものであっても、継続的に摂取するものであっても、例えば数か月の間隔を空け断続的に投与するものであってもよい。
【0021】
また、本発明のTIPARP産生促進剤は、経皮又は経口摂取用の組成物、例えば、医薬、化粧品、食品組成物に含有できる。本発明のTIPARP産生促進剤及び組成物の形態としては、例えば、粉末状、液体状、錠剤等の固形、顆粒、粒状、ペースト状、ゲル状、クリーム状など任意に選択することができる。
【0022】
本発明のTIPARP産生促進剤及び組成物には、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤等については、公知のものを適宜選択して使用できる。
【0023】
本発明は、アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを例えば経皮、経口、局所注入経路で投与することにより肝細胞を含む肝臓組織、乳腺を含む乳房の組織、表皮又は真皮細胞を含む皮膚組織のTIPARP産生促進、TIPARP産生促進によるAhRの活性化を抑制を介する脂肪肝、乳癌、皮膚のくすみやメラニン生成といったTIPARPの抑制あるいはAhRの活性化により発症する疾患・状態を予防又は改善するための方法も提供する。本発明の方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0024】
さらに、本発明は、脂肪肝、乳癌、皮膚老化といったTIPARPの抑制あるいはAhRの活性化により発症する疾患・状態を予防又は改善するための経口剤又は経腸剤といった医薬の製造におけるアルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスの使用も提供する。本発明は、例えば経口又は経皮投与により、肝臓、脂肪、皮膚組織のTIPARP産生促進することによる、脂肪肝、乳癌、皮膚のくすみやメラニン生成といったTIPARPが抑制されることにより発症する疾患・状態を予防又は改善するための方法に使用するためのアルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスも提供する。
【実施例0025】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0026】
実験1:試料の調製
TIPARP産生促進剤の候補試料として、アルテロモナス発酵エキス及び/又は金銀花エキスを以下の表のように調製した。
【0027】
【表1】
【0028】
その他動植物の抽出物といった天然由来成分や合成成分を含め、合計29種類の候補試料を調製した。試料は各エキスの溶媒(エタノール又はは1,3-BG(1,3-ブチレングリコール))を用いて培地中の終濃度が0.10重量%~0.5重量%となるように調整した。対照として何も含まない各エキスの溶媒を用いた。
【0029】
実験2:qPCRによるTIPARP発現解析
本研究では、正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ:KK-4009)を用いた。表皮細胞は、EpiLife Medium M-EPI-500-CAにHuman Keratinocyte Growth Supplement(HKGS)を添加した培地(Thermo Fisher Scientific)を用いて、細胞培養ディッシュにて、37℃、5% CO2条件下で培養した。3.12x105 cells/cm2の密度で細胞を播種し細胞が定着したのち、過酸化水素処理を行い老化誘導した。老化状態はSA-β-gal(Dojindo:SG03 Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal)の検出で確認した。さらに紫外線(UVB 400mJ/cm2,UVA 5J/cm2)を照射し6h培養した。各エキスおよび溶媒を添加し一晩培養後10nM FICZ(Aryl Hydrocarbon Receptor Agonist)を添加しAhRを活性化させた。24h培養後のtotal RNAを回収した。
【0030】
上記方法で培養した正常ヒト表皮角化細胞におけるtotal RNAよりcDNAを合成した(Takara: PrimeScript RT reagent kit)。本cDNAを用いSYBR Green(KAPA SYBR Fast qPCRキット(UniversalqPCRキット))によりqPCRを行った。Internal controlはβ-actinとしTIPARPのmRNA産生増加能を評価した。また同時にAhRの下流にある活性酸素産生遺伝子であるCYPA1AおよびCYP1B1の遺伝子発現も評価し、これらについては産生増加させないことを確認した。各遺伝子に対応するプライマの具体的な配列を下記表2に示す。
【表2】
【0031】
結果を図2に示す。図2に示すように、アルテロモナス発酵エキス及び金銀花エキスを投与すると、対照と比べて濃度依存的にTIPARPの発現量が有意に増加した。したがって、本発明のエキスは、優れたTIPARP産生促進効果があることがわかる。
図1
図2
【配列表】
2022096767000001.app