(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096846
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】セメントクリンカ製造システム
(51)【国際特許分類】
C04B 7/44 20060101AFI20220623BHJP
F27B 7/38 20060101ALI20220623BHJP
F27B 7/36 20060101ALI20220623BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20220623BHJP
F27B 7/20 20060101ALI20220623BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20220623BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/50 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/56 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/77 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20220623BHJP
B01D 53/80 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C04B7/44
F27B7/38
F27B7/36
F27D17/00 104G
F27D17/00 101G
F27B7/20
C07C9/04
C07C1/12
B01D53/50 230
B01D53/50 245
B01D53/56 ZAB
B01D53/56 100
B01D53/56 300
B01D53/68 100
B01D53/77
B01D53/81
B01D53/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210068
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 啓一
(72)【発明者】
【氏名】大桐 哲夫
【テーマコード(参考)】
4D002
4G112
4H006
4K056
4K061
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA12
4D002AA19
4D002AA40
4D002AC05
4D002BA02
4D002BA04
4D002BA05
4D002BA06
4D002BA13
4D002BA14
4D002DA02
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4D002DA07
4D002DA11
4D002DA12
4D002DA41
4D002FA03
4G112KA04
4G112KA05
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC29
4H006BD10
4H006BD70
4H006BD80
4H006BD84
4K056AA12
4K056BA06
4K056BB01
4K056CA08
4K056DA33
4K056DB04
4K061AA08
4K061BA05
4K061DA10
4K061GA10
4K061HA03
4K061HA05
4K061HA09
(57)【要約】
【課題】セメント製造における二酸化炭素の排出量が低減され、かつ、メタン製造装置で用いられる触媒の劣化が抑制されるセメントクリンカ製造システムを提供する。
【解決手段】ロータリーキルン2と、クリンカクーラー3と、触媒を用いたメタンの製造用のメタン製造装置4と、セメントクリンカ原料を加熱した際に生じる炭酸ガス含有排ガスの排出用の排ガス排出路5と、排ガス排出路5から炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部をメタン製造装置に導くための排ガス供給路6と、炭酸ガス含有排ガスからの触媒の阻害成分の分離用のメタン化阻害成分分離装置7と、水素ガスをメタン製造装置4に導くための水素ガス供給路8と、メタン製造装置4で製造されたメタンをセメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成用の熱エネルギー源として、ロータリーキルン又はその前流側の地点に供給するためのメタン供給路9を含むセメントクリンカ製造システム1a。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ原料を、加熱手段を用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルンと、
上記ロータリーキルンの後流側に配設された、上記セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラーと、
触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置と
を含むセメントクリンカ製造システムであって、
上記セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路と、
上記排ガス排出路から上記炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部を上記メタン製造装置に導くための排ガス供給路と、
上記排ガス供給路の途中に設けられた、上記炭酸ガス含有排ガスから上記触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置と、
上記水素ガスを上記メタン製造装置に導くための水素ガス供給路と、
上記メタン製造装置で製造したメタンを上記セメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、上記ロータリーキルン又はその前流側の地点に供給するためのメタン供給路と
を含むことを特徴とするセメントクリンカ製造システム。
【請求項2】
セメントクリンカ原料を予熱するためのサイクロン式予熱装置と、
上記サイクロン式予熱装置と共に上記ロータリーキルンの前流側に配設された、上記セメントクリンカ原料の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するための仮焼炉とを含み、
上記排ガス排出路は、上記ロータリーキルンで生じた排ガスと上記仮焼炉で生じた排ガスが合流してなる排ガス混合物が上記サイクロン式予熱装置から排出される地点から、延びて形成されているものであり、
上記メタン供給路が、上記ロータリーキルンの加熱手段及び上記仮焼炉の加熱手段の少なくともいずれか一方に、上記メタンを熱エネルギー源として供給するためのものである請求項1に記載のセメントクリンカ製造システム。
【請求項3】
上記ロータリーキルンの前流側に配設された、石灰石の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するための石灰石焼成炉と、
上記石灰石以外のセメントクリンカ原料である副原料を上記ロータリーキルンに供給するための副原料供給路と、
上記ロータリーキルンで生じた排ガスを排出するためのキルン排ガス排出路(ただし、上記排ガス排出路と異なるものに限る。)とを含み、
上記排ガス排出路が、上記石灰石焼成炉で生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するためのものであり、
上記メタン供給路が、上記石灰石焼成炉の加熱手段に上記メタンを熱エネルギー源として供給するためのものである請求項1に記載のセメントクリンカ製造システム。
【請求項4】
上記石灰石焼成炉が、上記石灰石を収容するための焼成炉本体と、上記焼成炉本体を収容する形で配設される間接加熱用付属体からなるものであり、
上記石灰石焼成炉の加熱手段が、上記間接加熱用付属体内に収容された間接加熱用ガスと外部から供給された熱エネルギー源の燃焼によって、上記焼成炉本体内の上記石灰石を間接的に加熱する第一の加熱手段を含み、かつ、上記石灰石焼成炉で生じた排ガスが、上記焼成炉本体で生じた排ガスであり、
さらに、上記間接加熱用ガスを上記間接加熱用付属体の中に導くための間接加熱用ガス供給路と、上記間接加熱用付属体で生じた排ガスを排出するための間接加熱用付属体排ガス排出路(ただし、上記排ガス排出路と異なるものに限る。)とを含む請求項3に記載のセメントクリンカ製造システム。
【請求項5】
上記石灰石焼成炉の加熱手段が、上記焼成炉本体内の上記石灰石を直接的に加熱するための第二の加熱手段を含む請求項4に記載のセメントクリンカ製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。一方、セメント産業は、二酸化炭素の排出量の大きい産業の一つである。
セメントは、主原料である石灰石、粘土、珪石、及び鉄原料等を適宜配合して、ロータリーキルンと呼ばれる巨大な回転窯に投入し、高温で焼成した後、空気で急冷してセメントクリンカと呼ばれる黒色の塊状物を得て、次いで、得られたセメントクリンカを粉砕して石膏と混合することで製造することができる。
また、セメントの製造において、セメントの原料である石灰石の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)は、通常、ロータリーキルンに投入される前に、加熱によって脱炭酸処理が行われ、その際に、多量の二酸化炭素が発生する。
【0003】
二酸化炭素の排出量を低減する方法として、発生した炭酸ガス(気体の二酸化炭素)を、分離、回収した後、貯留、隔離、又は有効利用する方法が知られている。
発生した炭酸ガスを分離、回収する方法として、例えば、特許文献1には、製鉄所で発生する副生ガスから化学吸収法にて二酸化炭素を分離回収する方法であって、当該ガスから化学吸収液で二酸化炭素を吸収後、化学吸収液を加熱し二酸化炭素を分離させるプロセスに、製鉄所で発生する500℃以下の低品位排熱を利用または活用することを特徴とする二酸化炭素の分離回収方法が記載されている。
また、炭酸ガスを有効利用する方法として、二酸化炭素を原料とするメタン化(メタネーション)が知られている。例えば、特許文献2には、水素と含炭素燃料の燃焼排ガスに含まれる二酸化炭素とを原料とし、触媒を用いたメタン化反応によりメタンを得るメタン化方法であって、a)前記燃焼排ガスを二酸化炭素吸収材に接触させて燃焼排ガス中の二酸化炭素を吸収させる工程と、b)二酸化炭素を吸収した前記二酸化炭素吸収材を加熱して二酸化炭素を主成分とする第1ガスを取り出す工程と、c)前記第1ガスに第一の量の水素である第1水素を添加して第2ガスとし、前記第2ガスを脱硫剤を充填した脱硫器に通じて、前記第2ガス中の硫黄化合物を除去する工程と、d)前記硫黄化合物を除去する工程を経た第3ガスに第二の量の水素である第2水素を添加し、メタン化触媒に通じたメタン化反応によりメタンに変換する工程と、を含むメタン化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-292298号公報
【特許文献2】特開2019-172595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメント製造の、石灰石の脱炭酸工程やセメントクリンカの焼成工程において二酸化炭素を含む排ガスが発生するが、上記排ガスは、通常、大気中に排出されている。
また、セメント製造において、ロータリーキルン等の加熱手段の熱エネルギー源として用いられる、石炭、コークス及び重油等の化石由来の熱エネルギー源(化石資源に由来する熱エネルギー源;以下、「化石熱エネルギー源」と略す。)や、近年、セメントクリンカ原料として用いられるリサイクル原料の一部には硫黄が含まれている。このため、セメントクリンカ原料の焼成等に伴って発生する排ガスには、微量の硫黄酸化物(SOx)が含まれている場合がある。また、ロータリーキルンにおけるセメントクリンカ原料の焼成は、高温(1,450℃程度)で行われるため、ロータリーキルンで発生する排ガスには、窒素酸化物として、フューエルNOxに加えて、サーマルNOxが含まれている。さらに、塩素を含む廃プラスチック等を、熱エネルギー源の代替物として用いた場合、上記排ガスには、塩化水素(HCl)が含まれる。
セメント製造において発生する排ガスに含まれる二酸化炭素を原料として、メタン製造装置を用いてメタンを製造する際に、上記排ガスに含まれる硫黄酸化物等によって、二酸化炭素のメタン化に用いられる触媒が劣化しやすくなるという問題があった。
本発明の目的は、セメント製造における二酸化炭素の排出量を低減することができ、かつ、メタン製造装置で用いられる触媒の劣化を防ぐことができるセメントクリンカ製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ原料を、加熱手段を用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルンと、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラーと、触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置とを含み、セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路と、排ガス排出路から炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部をメタン製造装置に導くための排ガス供給路と、排ガス供給路の途中に設けられた、炭酸ガス含有排ガスから触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置と、水素ガスをメタン製造装置に導くための水素ガス供給路と、メタン製造装置で製造したメタンをセメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、ロータリーキルン又はその前流側の地点に供給するためのメタン供給路とを含むセメントクリンカ製造システムによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] セメントクリンカ原料を、加熱手段を用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルンと、上記ロータリーキルンの後流側に配設された、上記セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラーと、触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置とを含むセメントクリンカ製造システムであって、上記セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路と、上記排ガス排出路から上記炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部を上記メタン製造装置に導くための排ガス供給路と、上記排ガス供給路の途中に設けられた、上記炭酸ガス含有排ガスから上記触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置と、上記水素ガスを上記メタン製造装置に導くための水素ガス供給路と、上記メタン製造装置で製造したメタンを上記セメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、上記ロータリーキルン又はその前流側の地点に供給するためのメタン供給路とを含むことを特徴とするセメントクリンカ製造システム。
【0008】
[2] セメントクリンカ原料を予熱するためのサイクロン式予熱装置と、上記サイクロン式予熱装置と共に上記ロータリーキルンの前流側に配設された、上記セメントクリンカ原料の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するための仮焼炉とを含み、上記排ガス排出路は、上記ロータリーキルンで生じた排ガスと上記仮焼炉で生じた排ガスが合流してなる排ガス混合物が上記サイクロン式予熱装置から排出される地点から、延びて形成されているものであり、上記メタン供給路が、上記ロータリーキルンの加熱手段及び上記仮焼炉の加熱手段の少なくともいずれか一方に、上記メタンを熱エネルギー源として供給するためのものである前記[1]に記載のセメントクリンカ製造システム。
[3] 上記ロータリーキルンの前流側に配設された、石灰石の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するための石灰石焼成炉と、上記石灰石以外のセメントクリンカ原料である副原料を上記ロータリーキルンに供給するための副原料供給路と、上記ロータリーキルンで生じた排ガスを排出するためのキルン排ガス排出路(ただし、上記排ガス排出路と異なるものに限る。)とを含み、上記排ガス排出路が、上記石灰石焼成炉で生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するためのものであり、上記メタン供給路が、上記石灰石焼成炉の加熱手段に上記メタンを熱エネルギー源として供給するためのものである前記[1]に記載のセメントクリンカ製造システム。
【0009】
[4] 上記石灰石焼成炉が、上記石灰石を収容するための焼成炉本体と、上記焼成炉本体を収容する形で配設される間接加熱用付属体からなるものであり、上記石灰石焼成炉の加熱手段が、上記間接加熱用付属体内に収容された間接加熱用ガスと外部から供給された熱エネルギー源の燃焼によって、上記焼成炉本体内の上記石灰石を間接的に加熱する第一の加熱手段を含み、かつ、上記石灰石焼成炉で生じた排ガスが、上記焼成炉本体で生じた排ガスであり、さらに、上記間接加熱用ガスを上記間接加熱用付属体の中に導くための間接加熱用ガス供給路と、上記間接加熱用付属体で生じた排ガスを排出するための間接加熱用付属体排ガス排出路(ただし、上記排ガス排出路と異なるものに限る。)とを含む前記[3]に記載のセメントクリンカ製造システム。
[5] 上記石灰石焼成炉の加熱手段が、上記焼成炉本体内の上記石灰石を直接的に加熱するための第二の加熱手段を含む前記[4]に記載のセメントクリンカ製造システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメントクリンカ製造システムによれば、セメントの製造における二酸化炭素の排出量を低減することができ、かつ、メタン製造装置で用いられる触媒の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のセメントクリンカ製造システムの一例(第一の実施形態例)を模式的に示す図である。
【
図2】本発明のセメントクリンカ製造システムの他の例(第二の実施形態例)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のセメントクリンカ製造システムは、セメントクリンカ原料を、加熱手段を用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルンと、ロータリーキルンの後流側に配設された、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラーと、触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置とを含むセメントクリンカ製造システムであって、セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路と、排ガス排出路から炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部をメタン製造装置に導くための排ガス供給路と、排ガス供給路の途中に設けられた、炭酸ガス含有排ガスから触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置と、水素ガスをメタン製造装置に導くための水素ガス供給路と、メタン製造装置で製造したメタンをセメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、ロータリーキルン又はその前流側の地点に供給するためのメタン供給路とを含むものである。
以下、
図1~2を参照にしながら、本発明のセメントクリンカ製造システムについて詳しく説明する。
【0013】
図1は、仮焼炉が組み込まれたニューサスペンションプレヒーター(NSP)キルンを用いた本発明のセメントクリンカ製造システムの実施形態の一例(第一の実施形態例)を模式的に表したものである。
セメントクリンカ製造システム1aは、セメントクリンカ原料を予熱するためのサイクロン式予熱装置10と、サイクロン式予熱装置10と共にロータリーキルン2の前流側に配設された、セメントクリンカ原料の脱炭酸を、加熱手段12bを用いて促進するための仮焼炉11と、セメントクリンカ原料を、加熱手段12aを用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルン2と、ロータリーキルン2の後流側に配設された、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラー3と、触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置4と、セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路5と、排ガス排出路5から炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部をメタン製造装置4に導くための排ガス供給路6と、排ガス供給路6の途中に設けられた、炭酸ガス含有排ガスから触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置7と、水素ガスをメタン製造装置4に導くための水素ガス供給路8と、メタン製造装置4で製造したメタンをセメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、ロータリーキルン2の加熱手段12a及び仮焼炉11の加熱手段12bの少なくともいずれか一方に供給するためのメタン供給路9とを含むものである。
【0014】
サイクロン式予熱装置10は、複数のサイクロン式熱交換器10a~10eからなるものである。複数のサイクロン式熱交換器10a~10eは、セメントクリンカ原料を移動するための流路、及び、ロータリーキルン2で生じた排ガスと仮焼炉11で生じた排ガスが合流してなる排ガス混合物が、複数のサイクロン式熱交換器10a~10eを経由した後に排出するための排ガス混合物排出路によって連結されている。サイクロン式熱交換器の数は、特に限定されないが、通常、4~5個である。また、複数のサイクロン式熱交換器は、通常、鉛直方向に配設されている。
【0015】
セメントクリンカ原料としては、特に限定されず、セメントクリンカの原料として一般的なものを用いることができる。具体的には、石灰石、土壌、粘土、珪石、鉄原料等の天然原料や、石炭灰、鉄鋼スラグ、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、生コンスラッジ、廃コンクリート微粉等の廃棄物又は副産物等が挙げられる。
セメントクリンカ原料は、原料ミルを用いて、各種原料を適切な割合で粉砕、混合した後、サイクロン式予熱装置10に投入される。セメントクリンカ原料の粒度は、セメントクリンカの製造をより容易にする観点から、好ましくは100μm以下である。
また、セメントクリンカ原料の一部(例えば、有機物を多く含む汚染土壌)を、サイクロン式予熱装置10に投入せずに、直接、ロータリーキルン2に投入してもよい。
【0016】
セメントクリンカ原料は、サイクロン式予熱装置10の最前流に配設されたサイクロン式熱交換器10aに投入され、サイクロン式熱交換器10a内において、上記排ガス混合物と、向流で接触することで熱交換しつつ遠心分離されて、サイクロン式熱交換器10aの下部から、後流側に配設されたサイクロン式熱交換器10bに投入された後、再び、上記排ガスと熱交換しつつ遠心分離されて、さらに後流側に配設されたサイクロン式熱交換器10cに投入される。このように、セメントクリンカ原料は、上記排ガスで予熱(加熱)され、脱炭酸が進行しながら、順次後流側に配設されたサイクロン式熱交換器10b~10dに移動した後、仮焼炉11に投入される。
【0017】
仮焼炉11は、セメントクリンカ原料の脱炭酸を促進する目的で、サイクロン式予熱装置10と共にロータリーキルン2の前流側に配設される。
図1において、仮焼炉11は、サイクロン式予熱装置10の後流側から二番目に配設されたサイクロン式熱交換器10dと最後流に配設されたサイクロン式熱交換器10eの間に配設され、サイクロン式熱交換器10a~10dを経由することで予熱されたセメントクリンカ原料は、サイクロン式熱交換器10dから仮焼炉11に投入される。仮焼炉11に投入されたセメントクリンカ原料は、仮焼炉11内において加熱手段12bによって加熱されて、セメントクリンカ原料の脱炭酸が促進される。
【0018】
仮焼炉11において、加熱手段12bを用いて、熱エネルギー源を燃焼することで、セメントクリンカ原料が直接的に加熱される。加熱手段12bの例としては、バーナー等が挙げられる。
上記熱エネルギー源としては、石炭、コークス、重油、天然ガス等の化石熱エネルギー源を用いてもよいが、二酸化炭素の排出量を低減する観点から、後述するセメントクリンカ製造で生じた炭酸ガスを原料としてメタン製造装置を用いて製造されたメタンを用いることが好ましい。
【0019】
ここで、セメントクリンカ原料の脱炭酸とは、セメントクリンカ原料に含まれている石灰石の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)を、加熱によって生石灰(CaO)と炭酸ガス(CO2)に分解することである。
セメントクリンカ原料の脱炭酸は、サイクロン式予熱装置10及び仮焼炉11内において進行する。
仮焼炉11において、セメントクリンカ原料を加熱する温度は、好ましくは800~1,000℃、より好ましくは850~975℃、特に好ましくは900~950℃である。上記温度が800℃以上であれば、セメントクリンカ原料の脱炭酸をより促進することができる。上記温度が1,000℃以下であれば、原料の焼結などにより、仮焼炉11内が閉塞することを防ぐことができる。
【0020】
セメントクリンカ原料は、仮焼炉11において脱炭酸が促進された後、加熱後の高温を維持したまま、サイクロン式予熱装置10の最後流に配設されたサイクロン式熱交換器10eに投入され、次いで、ロータリーキルン2に投入される。
なお、仮焼炉を、サイクロン式予熱装置とロータリーキルンの間に配設し、セメントクリンカ原料を、仮焼炉において脱炭酸が促進された後に、直接ロータリーキルンに投入してもよい。
【0021】
ロータリーキルン2において、セメントクリンカ原料を、加熱手段12aを用いて焼成することで、セメントクリンカを得ることができる。セメントクリンカ原料の焼成温度は、セメントクリンカ製造における一般的な温度でよく、通常、1,400℃以上である。
ロータリーキルン2において、セメントクリンカの原料の焼成に用いられる熱エネルギー源としては、仮焼炉11において用いられる熱エネルギー源と同様のものを使用することができる。また、有機成分を多く含む汚染土壌や廃タイヤ等の破砕しにくい熱エネルギー源は、ロータリーキルン2の原料投入口から直接投入してもよい。また、加熱手段12aの例としては、バーナー等が挙げられる。
ロータリーキルン2で得られたセメントクリンカは、ロータリーキルンの後流側に配設された、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラー3に投入されて、冷却される。
【0022】
ロータリーキルン2で生じた排ガスは、サイクロン式予熱装置10を経由した後、サイクロン式予熱装置10の上部から排出される。また、上記排ガスは、サイクロン式予熱装置10を経由する途中で、仮焼炉11で生じた排ガスと合流する。
なお、ロータリーキルン2で生じた排ガス及び仮焼炉11で生じた排ガスは、炭酸ガスを含有するガス(炭酸ガス含有排ガス)である。
排ガス排出路5は、セメントクリンカ原料を加熱した際に生じた炭酸ガス含有排ガス(ロータリーキルン2で生じた排ガスと仮焼炉11で生じた排ガスが合流してなる排ガス混合物)を排出するためのものであり、炭酸ガス含有排ガスが、サイクロン式予熱装置10から排出される地点から伸びて形成されている。
【0023】
炭酸ガス含有排ガスは、排ガス誘引機16により誘引されて、排ガス排出路5内を通って、煙突18から外部へ排出される。排ガス排出路の途中には、通常、集塵手段15が設けられている。集塵手段15の例としては、サイクロン、バグフィルター、及び電気集塵機等が挙げられる。
炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部は、排ガス排出路5の途中に設けられた排ガス供給路6を通ってメタン製造装置4に導かれる。
【0024】
排ガス供給路6の途中には、炭酸ガス含有排ガスからメタン製造装置4で用いられる触媒の阻害成分(触媒の作用を阻害して、触媒としての性能を低下させる成分)を分離するためのメタン化阻害成分分離装置7が設けられている。
上記阻害成分の例としては、硫黄酸化物(SOx)、窒素化合物(フューエルNOx、サーマルNOx)、塩化水素(HCl)等が挙げられる。
なお、メタン製造装置4で用いられる触媒の詳細は、後述する。
メタン化阻害成分分離装置7は、硫黄酸化物、窒素化合物、及び塩化水素等の上記阻害成分を除去するための既知の方法や装置を、適宜、組み合わせたものである。
【0025】
硫黄酸化物を除去する方法の例としては、炭酸ガス含有排ガスを苛性ソーダ等のアルカリ水溶液と接触させて、硫黄酸化物を硫酸イオンにして除去する方法;炭酸ガス含有排ガスに生石灰又は消石灰を噴霧することで、硫黄酸化物を石膏に変換して集塵機で回収、除去する方法等が挙げられる。
窒素化合物を除去する方法としては、炭酸ガス含有排ガスに、アンモニア又は尿素を噴霧することで、窒素化合物を窒素(N2)に変換して除去する方法;炭酸ガス含有排ガスを活性コークスに接触させることによって、窒素化合物を活性コークスに吸着させて除去する方法;炭酸ガス含有排ガスに強酸化剤を添加することで、NOをNO2にした後、水に吸収させる方法等が挙げられる。
【0026】
また、メタン化阻害成分分離装置7において、必要に応じて水を除去してもよい。
例えば、硫黄酸化物を除去する方法や窒素化合物を除去する方法が、乾式手段で行われる場合、炭酸ガス含有排ガスの温度が水の凝結温度以下になるまで冷却することによって、炭酸ガス含有排ガス中の水蒸気を、液体状の水として分離、除去することができる。
また、硫黄酸化物を除去する方法や窒素化合物を除去する方法が、湿式手段で行われる場合、水は自然と除去される。
【0027】
また、炭酸ガス含有排ガス中の酸素(O2)は、メタンを製造する際に用いられる水素ガスとメタン製造装置内で反応してしまうため、水素ガスを過剰に消費するという問題がある。また、炭酸ガス含有排ガス中の窒素(N2)は、メタン化に関与しない無用なガスである。そのため、効率的にメタン化を行う観点から、炭酸ガス含有排ガスから酸素及び窒素を除去し、炭酸ガスを分離、回収して、メタン化製造装置に導いてもよい。
炭酸ガス含有排ガスから炭酸ガスを分離、回収する方法の例としては、細孔径を調製したゼオライト膜を用いて炭酸ガスを物理的に吸着させて分離、回収する方法や、セレクソール法、レクチゾール法等の物理吸収法が挙げられる。また、再生のために過大なエネルギーを消費するという欠点があるものの、信頼性に優れた方法として、アミン系吸収液等を用いた化学吸収法が挙げられる。該方法によれば、アミン系吸収液に炭酸ガスを選択的に吸収させた後、再生塔において、アミン系吸収液を加熱することによって、高濃度の炭酸ガスを得ることができる。
【0028】
メタン製造装置4は、その内部に充填された触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのものである。
上記触媒の例としては、Rh/Mn系、Rh系、Ni系、Pd系及びPt系等の触媒が挙げられる。また、上記触媒を担持するための担体を用いてもよい。該担体の例としては、CeO2、ZrO2、Y2O3、Al2O3、MgO、TiO2等が挙げられる。これらは適宜選択して用いればよい。
上記炭酸ガスは、メタン化阻害成分分離装置7において、上述した阻害成分を分離した炭酸含有ガスに含まれている。上記水素ガスは、水素貯蔵タンク13から水素ガス供給路8を通って、メタン製造装置4に導かれる。
水素貯蔵タンク13に貯蔵されている水素は、水を電気分解することによって得ることができる。水を電気分解する際の電気エネルギーとして、水力、風力、地熱、又は太陽光等の再生可能なエネルギー由来のものを用いれば、二酸化炭素の排出量をさらに削減することができる。
【0029】
メタン製造装置4において製造されたメタンは、メタン、水分、並びに、反応せずに残存したCO2及びH2等を含むメタン含有ガスとして排出される。メタンは、その後、少なくとも水分を除去した後、メタン供給路9を通って、セメントクリンカ原料の脱炭酸または焼成のための熱エネルギー源として、ロータリーキルン2の加熱手段12a及び仮焼炉11の加熱手段12bの少なくともいずれか一方に供給される。
メタン供給路9の途中に、メタンを一時的に貯蔵するためのメタン貯蔵タンク14や、メタンを吸引し、メタンの供給量を調整するためのメタンガス誘引機17を設けてもよい。
【0030】
メタンを、ロータリーキルン2の加熱手段12aや仮焼炉11の加熱手段12bの熱エネルギー源として用いることで、セメントクリンカの焼成や原料の脱炭酸に必要な熱エネルギーを得ることができ、燃焼に伴って発生する二酸化炭素の排出量を低減することができる。
ここで、セメントクリンカ製造システム1aにおける二酸化炭素の排出量を以下に算出する。なお、実際のセメントクリンカ製造システムでは、様々な要因によって二酸化炭素の排出量は変化するので、必ずしも算出された数値となるわけではない。
例えば、セメントクリンカ1トンを得るために、CaCO3の純度が95質量%の石灰石を1,204kg使用すると仮定した場合、仮焼炉が組み込まれたニューサスペンションプレヒーター(NSP)キルンを用いたセメントクリンカ製造システムにおいて排出される二酸化炭素の排出量は、計算上、およそ825kg(脱炭酸によるもの:503kg、石炭及びその代替エネルギー源の燃焼によるもの:322kg)と考えられる。
また、仮焼炉及びロータリーキルンの入り口で投入される熱量は1,841MJ、ロータリーキルンの主バーナーで投入される熱量は1,650MJ程度と考えられる。
ロータリーキルンの主バーナーで投入される熱量(1,650MJ)を得るために、石炭の代わりに、石炭(低位発熱量:28.3MJ/kg)と同量の熱量のメタン(低位発熱量:35.8MJ/Nm3)を用いて燃焼を行った場合、燃焼に伴って発生する二酸化炭素の量をセメントクリンカ1トンあたり約59kg削減することができる。また、本発明のセメントクリンカ製造システムによれば、ロータリーキルンの主バーナーに供給されたメタンと同じモル量の二酸化炭素は、回収されて、再びメタン化されるため、大気中に排出される二酸化炭素量を、石炭を熱エネルギー源として用いた場合と比較して、約20%削減することができる。
また、メタンを熱エネルギー源とした場合、発生する排ガスには、メタン化阻害成分であるSOxが含まれないため、メタンを熱エネルギー源として使用した分だけ、排ガスに含まれるSOxの量を減らすことができる。
【0031】
図2は、石灰石焼成炉を用いた本発明のセメントクリンカ製造システムの実施形態の他の例(第二の実施形態例)を模式的に表したものである。なお、
図2中、
図1中の符号と同じ名称を有する各部には、
図1と同じ符号を付けてある。
セメントクリンカ製造システム1bは、セメントクリンカ原料を、加熱手段を用いて焼成して、セメントクリンカを得るためのロータリーキルン2と、ロータリーキルン2の前流側に配設された、石灰石の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するための石灰石焼成炉19と、上記石灰石以外のセメントクリンカ原料である副原料をロータリーキルン2に供給するための副原料供給路22と、ロータリーキルン2の後流側に配設された、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラー3と、触媒を用いて、炭酸ガス及び水素ガスからメタンを製造するためのメタン製造装置4と、石灰石焼成炉19で生じた炭酸ガス含有排ガスを排出するための排ガス排出路23と、排ガス排出路23から炭酸ガス含有排ガスの少なくとも一部をメタン製造装置4に導くための排ガス供給路24と、排ガス供給路24の途中に設けられた、炭酸ガス含有排ガスから触媒の阻害成分を分離するためのメタン化阻害成分分離装置7と、水素ガスをメタン製造装置4に導くための水素ガス供給路8と、メタン製造装置4で製造したメタンを、石灰石焼成炉19の加熱手段に、熱エネルギー源として供給するためのメタン供給路9と、ロータリーキルン2で生じた排ガスを排出するためのキルン排ガス排出路20(ただし、排ガス排出路23と異なるものに限る。)とを含むものである。
【0032】
石灰石焼成炉19は、セメントクリンカ原料の一種である石灰石の脱炭酸を、加熱手段を用いて促進するためのものである。石灰石は、破砕、粉砕され、乾燥された粉粒状のものが用いられる。脱炭酸された石灰石は、ロータリーキルン2に投入される。
石灰石焼成炉19は、ロータリーキルン2で生じた排ガスが入り込まないように、ロータリーキルン2とは明確に分けられている。このように分けることによって、ロータリーキルン2で生じた排ガスに含まれているSOxやNOx等のメタン化阻害成分が、石灰石焼成炉で生じる排ガスに混入することを防ぐことができる。
加熱手段(第一の加熱手段12c、第二の加熱手段12d)の例としては、バーナー等が挙げられる。加熱手段に用いられる熱エネルギー源の例としては、石炭、コークス、重油、天然ガス等の化石熱エネルギー源や、後述するセメントクリンカ製造で生じた炭酸ガスを原料としてメタン製造装置を用いて製造されたメタンが挙げられる。中でも、石灰石焼成炉19で生じた排ガス中のメタン化阻害成分(特に、化石燃料由来のSOx)の量を少なくする観点から、上記メタンが好ましい。
【0033】
石灰石焼成炉19で生じた排ガスは、炭酸ガスを含むガス(炭酸ガス含有排ガス)である。上記排ガスは排ガス排出路23を通って排出される。
上記排ガスは、排ガス供給路24を通ってメタン製造装置4に導かれる。
図2では、石灰石焼成炉19で生じた排ガスの全てが、排ガス排出路23を経た後、排ガス供給路24を通ってメタン製造装置4に導かれるように、排ガス排出路23と排ガス供給路24が連結されているが、石灰石焼成炉19で生じた排ガスの一部を、外部に排出するようにしてもよい。
【0034】
図2では、石灰石焼成炉19として、石灰石を収容するための焼成炉本体19aと、焼成炉本体19aを収容する形で配設される間接加熱用付属体19bからなるものを用いている。このような構造を有する焼成炉としては、二重円筒型のロータリーキルン等が挙げられる。なお、
図2の石灰石焼成炉19は、二重円筒型のロータリーキルンを、軸線に沿って鉛直方向に切断した状態を示している。
また、本発明は、このような構造を有する石灰石焼成炉に限定されるものではなく、加熱手段を有する単筒型のロータリーキルンを用いてもよい。
石灰石焼成炉19の加熱手段は、間接加熱用付属体19b内に収容された間接加熱用ガスと外部から供給された熱エネルギー源の燃焼によって、焼成炉本体19a内の石灰石を間接的に加熱する第一の加熱手段12cを含むものである。
第一の加熱手段12cを用いて、焼成炉本体19a内の石灰石を間接的に加熱することによって、焼成炉本体19aで生じた排ガスを、支燃性のガス(例えば、空気)由来の窒素や、化石燃料に由来するSOx、NOxを含まず、かつ、炭酸ガス濃度の大きいものにすることができる。
第一の加熱手段12cを用いた加熱温度は、好ましくは900~1,100℃、より好ましくは950~1,050℃、特に好ましくは980~1,020℃である。上記温度が900℃以上であれば、石灰石の脱炭酸をより促進することができる。上記温度が1,050℃以下であれば、石灰石の焼結などにより、焼成炉本体19a内が閉塞することを防ぐことができる。
なお、焼成炉本体19aで生じた排ガスは、上述した石灰石焼成炉19で生じた排ガスに該当する。
【0035】
また、焼成炉本体19a内の石灰石を直接的に加熱することができる第二の加熱手段12dを設けてもよい。第二の加熱手段12dを設けた場合、該加熱手段の熱エネルギー源としてメタンを用いることで、焼成炉本体19aで生じた排ガスを、化石燃料に由来するSOx、NOxを含まず、かつ、炭酸ガス濃度のより大きいものにすることができる。
第二の加熱手段12dを用いた加熱温度は、好ましくは600~1,050℃、より好ましくは700~1,000℃、特に好ましくは800~950℃である。上記温度が600℃以上であれば、石灰石の脱炭酸をより促進することができる。上記温度が1,000℃以下であれば、石灰石の焼結などにより、焼成炉本体19a内が閉塞することを防ぐことができる。
【0036】
間接加熱用ガスとしては、熱エネルギー源を燃焼することができるガスであれば、特に限定されないが、通常、空気が用いられる。空気の代わりに、空気に比べて酸素濃度を高めた支燃性ガスを用いてもよい。該支燃性ガスを用いることで、排ガスに含まれる窒素(空気等の支燃性のガス由来のもの)の量を減らすことができ、取り扱う排ガスの絶対量を減少させて、設備をコンパクトにすることができる。
間接加熱用ガスは、間接加熱用ガス供給路25を通って、間接加熱用付属体19bの中に導かれる。間接加熱用付属体19bで生じた排ガスは、間接加熱用付属体排ガス排出路21(ただし、上記排ガス排出路と異なるものに限る。)を通って、煙突18から外部へ排出される。間接加熱用付属体排ガス排出路21の途中には、通常、集塵手段15が設けられている。集塵手段15の例としては、サイクロン、バグフィルター、及び電気集塵機等が挙げられる。また、間接加熱用付属体排ガス排出路21の排ガスは、焼成炉本体19a内の石灰石を加熱することで発生した炭酸ガス含有排ガスの排出路23に合流させることもできる。
【0037】
また、第二の加熱手段12dにおける熱エネルギー源の燃焼に必要な支燃性のガスとしては、特に限定されないが、通常、空気が用いられる。空気の代わりに、空気に比べて酸素濃度を高めた支燃性ガスを用いてもよい。該支燃性ガスを用いることで、排ガスに含まれる窒素(空気等の支燃性のガス由来のもの)の量を減らすことができ、取り扱う排ガスの絶対量を減少させて、設備をコンパクトにすることができる。
【0038】
図2中の、排ガス供給路24、メタン化阻害成分分離装置7、メタン製造装置4、水素ガス供給路8、水素貯蔵タンク13、メタン貯蔵タンク14、排ガス誘引機16、メタンガス誘引機17は、各々、上述した
図1中の、排ガス供給路6、メタン化阻害成分分離装置7、メタン製造装置4、水素ガス供給路8、水素貯蔵タンク13、メタン貯蔵タンク14、排ガス誘引機16、メタンガス誘引機17と同様である。
【0039】
図2において、メタン製造装置4において製造されたメタンは、メタン、水分、並びに、反応せずに残存したCO
2及びH
2等を含むメタン含有ガスとして排出される。メタンは、その後、少なくとも水分を除去した後、メタン供給路9を通って、石灰石焼成炉19の加熱手段(第一の加熱手段12c、第二の加熱手段12d)の熱エネルギー源として供給される。また、上記メタン含有ガスを、ロータリーキルン2の加熱手段12aに供給してもよい。
また、メタン供給路9の途中に、メタンを一時的に貯蔵するためのメタン貯蔵タンク14や、メタンを吸引し、メタンの供給量を調整するためのメタンガス誘引機17を設けてもよい。
【0040】
副原料供給路22は、石灰石以外のセメントクリンカ原料である副原料をロータリーキルン2に供給するものである。
副原料供給路22の前流側に、副原料を予熱するためのサイクロン式予熱装置を設けてもよい。
ロータリーキルン2において、セメントクリンカ原料を、加熱手段12aを用いて焼成することで、セメントクリンカを得ることができる。セメントクリンカ原料の焼成温度は、セメントクリンカ製造における一般的な温度でよく、通常、1,400℃以上である。
ロータリーキルン2において、セメントクリンカの原料の焼成に用いられる熱エネルギー源としては、石灰石焼成炉19において用いられる熱エネルギー源と同様のものを使用することができる。また、有機成分を多く含む汚染土壌や廃タイヤ等の破砕しにくい熱エネルギー源は、ロータリーキルン2の原料投入口から直接投入してもよい。
加熱手段12aの熱エネルギー源として、石炭の代わりに、メタン製造装置4において製造されたメタンを用いてもよい。
【0041】
石灰石以外のセメントクリンカ原料には硫黄や窒素が含まれていることや、ロータリーキルン内が1,450℃以上の高温になることから、セメントクリンカ原料を焼成する際にSOx及びNOxは不可避的に生成される。ロータリーキルンで生じた排ガスに含まれている炭酸ガスを、メタン化の原料としても用いてもよいが、メタン化阻害成分分離装置の負荷が大きくなるため、通常、キルン排ガス排出路(ただし、排ガス排出路23と異なるものに限る。)を通って、脱硫、脱硝処理を行った後、外部へ排出される。キルン排ガス供給路は、間接加熱用付属体排ガス排出路21と連結させてもよい。
ロータリーキルン2で得られたセメントクリンカは、ロータリーキルンの後流側に配設された、セメントクリンカを冷却するためのクリンカクーラー3に投入されて、冷却される。
【0042】
ここで、セメントクリンカ製造システム1bにおける、二酸化炭素の排出量を以下に算出する。なお、実際のセメントクリンカ製造では、様々な要因によって二酸化炭素の排出量は変化するので、必ずしも算出された数値となるわけではない。
セメントクリンカ1トンを得るために、CaCO3の純度が95質量%の石灰石を1,204kg使用すると仮定した場合、石灰石焼成炉19に投入される熱量は3,767MJ、ロータリーキルンの主バーナーで投入される熱量は1,758MJ程度と考えられる。なお、石灰石の脱炭酸は900℃の条件で行われるものとする。
上記熱量の全てを石炭(低位発熱量:28.3MJ/kg)でまかなう場合、排出される二酸化炭素の排出量の合計は、計算上、セメントクリンカ1トンあたり、およそ1,503kg(脱炭酸によるもの:503kg、石炭の燃焼によるもの:1,000kg)と考えられる。一方、ロータリーキルンの主バーナーの熱エネルギー源は石炭とし、石灰石焼成炉の熱エネルギー源の全量を、石炭に代えて、メタン製造装置で製造したメタンを用いた場合、排出される二酸化炭素の排出量の合計は、計算上、およそ1,163kg(脱炭酸によるもの:503kg、メタンの燃焼によるものから、メタン化の原料として循環利用できる量を差し引いたもの:503kg、石炭の燃焼によるもの:157kg)と考えられる。
【0043】
また、セメントクリンカ製造システム1a、1bにおいて、メタン製造装置において製造されたメタン含有ガスの供給量及び組成に基いて、加熱手段に用いられる熱エネルギー源の供給量を制御してもよい。
メタン化製造装置におけるメタン化は平衡反応であるため、メタン濃度が100体積%であるガスを製造することはできない。また、メタン化の条件が変動すると、得られるメタン含有ガスの組成や熱量が変動するため、上記ガスの流量を一定にしてロータリーキルン等の加熱手段に供給したとしても、加熱手段における燃焼熱量を一定にすることは難しい。メタン含有ガスの供給量及び組成に基いて、加熱手段に補助的に供給される熱エネルギー源の量を増減することで、鉱物組成が一定であるセメントクリンカを得ることが可能となる。
熱エネルギー源の供給量を制御する方法としては、ロータリーキルン等の加熱手段に必要な熱量から、メタン製造装置において製造されたメタン含有ガスの燃焼で補うことが可能な熱量を減じて、不足分の熱量に相当する熱エネルギー源を供給する方法が挙げられる。
【符号の説明】
【0044】
1a,1b セメントクリンカ製造システム
2 ロータリーキルン
3 クリンカクーラー
4 メタン製造装置
5,23 排ガス排出路
6,24 排ガス供給路
7 メタン化阻害成分分離装置
8 水素ガス供給路
9 メタン供給路
10 サイクロン式予熱装置
10a,10b,10c,10d,10e サイクロン式熱交換器
11 仮焼炉
12a,12b 加熱手段
12c 第一の加熱手段
12d 第二の加熱手段
13 水素貯蔵タンク
14 メタン貯蔵タンク
15 集塵手段
16 排ガス誘引機
17 メタンガス誘引機
18 煙突
19 石灰石焼成炉
19a 焼成炉本体
19b 間接加熱用付属体
20 キルン排ガス排出路
21 間接加熱用付属体排ガス排出路
22 副原料供給路
25 間接加熱用ガス供給路