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  • 特開-カチオン電着塗料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096854
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20220623BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20220623BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220623BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/44 A
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210077
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 佑梨
(72)【発明者】
【氏名】マハ シャラフ
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB391
4J038JA69
4J038KA03
4J038KA08
4J038PA04
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】低温硬化可能であり、かつ塗膜の優れた外観が得られるカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】アミン変性エポキシ樹脂(A)と、少なくとも2つのグリシジル基を有するエポキシ化合物(B)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)と、顔料(D)と、を含有するカチオン電着塗料組成物。エポキシ化合物(B)の含有量が、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂(A)と、
少なくとも2つのグリシジル基を有するエポキシ化合物(B)と、
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)と、
顔料(D)と、を含有するカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物(B)の固形分含有量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)、前記エポキシ化合物(B)、及び前記ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分含有量の合計に対して1質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記アミン変性エポキシ樹脂(A)はジケチミンに由来する1級アミノ基を有する、請求項1又は2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の20質量%以上が芳香族ジイソシアネート、又は脂環式ポリイソシアネートのいずれかに由来するものである請求項1~3のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの工業製品に防食性を付与するための下塗り塗料等として使用されるカチオン電着塗料が知られている。カチオン電着塗料により形成される塗膜は、被塗物を保護すると同時に好ましい外観を付与する。
【0003】
近年では、エネルギーコスト削減のため、電着塗料により形成される電着塗膜の焼付温度を低減可能な低温硬化電着塗料に関する技術が提案されている。例えば、低温硬化性のブロック化ポリイソシアネート化合物、アミノ基含有エポキシ樹脂、顔料分散ペーストを別々に水分散して混合するカチオン電着塗料に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/138445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術は、低温硬化性のブロック化ポリイソシアネート化合物を硬化剤として用いるものであるため、形成される電着塗膜の外観を十分に改善できているとは言えず、未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、低温硬化可能であり、かつ塗膜の優れた外観が得られるカチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、アミン変性エポキシ樹脂(A)と、少なくとも2つのグリシジル基を有するエポキシ化合物(B)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)と、
顔料(D)と、を含有するカチオン電着塗料組成物に関する。
【0008】
(2) 前記エポキシ化合物(B)の固形分含有量は、前記アミン変性エポキシ樹脂(A)、前記エポキシ化合物(B)、及び前記ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分含有量の合計に対して1質量%以上30質量%以下である、(1)に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0009】
(3) 前記アミン変性エポキシ樹脂(A)はジケチミンに由来する1級アミノ基を有する、(1)又は(2)に記載のカチオン電着塗料組成物。
【0010】
(4) 前記ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の20質量%以上が芳香族ジイソシアネート、又は脂環式ポリイソシアネートのいずれかに由来するものである(1)~(3)のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温硬化可能であり、かつ塗膜の優れた外観が得られるカチオン電着塗料組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例及び比較例に係る温度-粘度曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0014】
<カチオン電着塗料組成物>
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物は、被塗物に対して電着塗装を行い、塗膜を析出させ、その後例えば140℃以下の低温焼付により塗膜を硬化させることで、被塗物表面に好ましい外観を有する電着塗膜を形成できる。また、本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物は、水性媒体中に分散するエマルションであるが、低温硬化型のイソシアネートを使用することなく低温硬化可能であるため、好ましい貯蔵安定性を有する。本実施形態に係るカチオン電着塗料は、アミン変性エポキシ樹脂(A)と、少なくとも2つのグリシジル基を有するエポキシ化合物(B)と、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)と、顔料(D)と、を含有する。
【0015】
(アミン変性エポキシ樹脂(A))
アミン変性エポキシ樹脂(A)は、電着塗膜における塗膜形成樹脂である。アミン変性エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂のオキシラン環(以下、「エポキシ基」と記載する場合がある)をアミン化合物で変性することで得られる。
【0016】
アミン変性エポキシ樹脂(A)の出発原料であるエポキシ樹脂は、例えば、多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物である、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。上記多環式フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられる。本明細書において、上記「ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂」とは、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び多環式フェノール化合物が鎖延長反応した状態を含む。
【0017】
エポキシ樹脂のアミン化合物による変性においては、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂及び多環式フェノール化合物が鎖延長反応したエポキシ樹脂を用いることが好ましい。上記鎖延長反応の条件は、特に限定されず、用いる撹拌装置、反応スケール等に応じて適宜選択することができる。反応条件としては、例えば、85~180℃で0.1~8時間とすることができる。より好ましくは、100~150℃で2~8時間とすることができる。用いる撹拌装置としては、特に限定されず、塗料分野において一般的に用いられる撹拌装置を使用できる。
【0018】
エポキシ樹脂としては、上記以外に、特開平5-306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0019】
上記エポキシ樹脂として、アミン化合物による変性の前に、その一部を鎖延長反応させたものを用いてもよい。上記鎖延長反応には、例えば、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、2塩基性カルボン酸等を用いることができる。上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド基を有するポリオール、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオール等が挙げられる。これにより、例えば、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールを用いて鎖延長反応を行う場合は、ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂となる。上記ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1~40質量部であることが好ましく、15~25質量部であることがより好ましい。上記ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂と同様の態様であるエポキシ樹脂として、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、多環式フェノール化合物及びポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂が鎖延長反応したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0020】
アミン変性エポキシ樹脂(A)は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基とアミン化合物とを反応させることで得られる。上記エポキシ樹脂のエポキシ基は、上記アミン化合物との反応により全て消費されて、アミン変性エポキシ樹脂(A)の分子中には実質的に残存しない。
【0021】
エポキシ基と反応させるアミン化合物としては、1級アミン、2級アミン、ケチミン、及びジケチミンが挙げられる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。更に、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。例えば、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。なお、後述するジケチミン構造を有するアミン変性エポキシ樹脂(A)を得る際には、上記脱ブロック化の工程を行わずに調製する。また上記以外に、エポキシ基と反応させるアミンとして、必要に応じて、3級アミンを併用してもよい。
【0022】
上記アミン化合物としては、特に限定されず、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミン等の1級アミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等の2級アミン、ジエチレントリアミン等の複合アミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン等の3級アミン、アミノエチルエタノールアミンのアミノ基をブロックしたアミノエチルエタノールアミンケチミン等のケチミン、ジエチレントリアミンのアミノ基2つをブロックしたジエチレントリアミンジケチミンなどのジケチミンが挙げられる。
【0023】
アミン変性エポキシ樹脂(A)は、ジケチミンで変性することが好ましい。アミン変性エポキシ樹脂(A)がジケチミンで変性されていることで、後述する酸中和及び分散工程において、ジケチミンが脱ブロック化されてアミノ基が再生される。そして、焼付時において初めてエポキシ化合物(B)と上記アミノ基が反応する。これにより、塗料組成物の低温硬化性が得られると共に、好ましい貯蔵安定性が得られる。ジケチミンで変性したアミン変性エポキシ樹脂(A)は、例えば、ジエチレントリアミン等をケトンでブロック化してジケチミンとし、これをエポキシ樹脂に導入することで得られる。ここで、上記アミン変性エポキシ樹脂(A)における、ジケチミンに由来する1級アミノ基の比率が変性前のエポキシ基の全モル量に対して、15~25モル%であることが好ましい。ジケチミンに由来する1級アミノ基の比率が15モル%未満では低温での良好な硬化が得られにくい。ジケチミンに由来する1級アミノ基の比率が25モル%を超えると貯蔵安定性を損なうおそれがある。
【0024】
(エポキシ化合物(B))
エポキシ化合物(B)は、分子内に少なくとも2つのグリシジル基を有する。エポキシ化合物(B)は、アミン変性エポキシ樹脂(A)のアミノ基と反応する架橋剤としての機能を有する。カチオン電着塗料組成物にエポキシ化合物(B)が含有されることで、カチオン電着塗料組成物の好ましい低温硬化性が得られる。エポキシ化合物(B)は、常温において液状であることが好ましい。
【0025】
エポキシ化合物(B)としては、例えば、分子内に少なくとも2つのグリシジル基を有する、脂肪族多価アルコールのグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール等が挙げられる。上記以外に、エポキシ化合物(B)としては、例えば、アミン変性エポキシ樹脂(A)の出発原料であるエポキシ樹脂と同様のエポキシ化合物や、エポキシ基を有するシランカップリング剤の自己縮合体等を使用できる。
【0026】
エポキシ化合物(B)の例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0027】
エポキシ化合物(B)の固形分含有量は、アミン変性エポキシ樹脂(A)、エポキシ化合物(B)、及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分含有量の合計に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。エポキシ化合物(B)の上記含有量が1質量%以上であることで、カチオン電着塗料組成物の低温硬化性が得られる。エポキシ化合物(B)の上記含有量を30質量%超とすると、電着塗料の貯蔵安定性や電着塗膜の外観を損なうおそれがある。上記の観点から、エポキシ化合物(B)の上記含有量は、下限値としては5質量%がより好ましく、上限値としては20質量%であることがより好ましい。
【0028】
(ブロック化ポリイソシアネート化合物(C))
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくとも一部を公知のブロック剤でブロックしたものである。ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)のブロック化率は100%であることが好ましい。
【0029】
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環式ポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。上記は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)のうち芳香族ジイソシアネートと脂環式ポリイソシアネートとの合計の比率は、エマルションの安定性の観点で20質量%以上であることが好ましい。
【0030】
ブロック剤としては、特に限定されず、例えば、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノール等のポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類等が挙げられる。
【0031】
顔料(D)は、上記顔料及び顔料分散樹脂を混合し、水性媒体中に分散させた顔料分散ペーストとして予め調製される。これにより、粉体状である顔料を電着塗料組成物中において均一に分散させることができる。上記顔料分散樹脂としては、特に限定されず、例えば、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のカチオン性重合体が用いられる。上記水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等が用いられる。
【0032】
上記顔料分散ペースト中における顔料分散樹脂の含有量は、特に限定されず、例えば、顔料100質量部に対して、樹脂固形分比で20~100質量部とすることができる。
【0033】
上記顔料分散ペーストの固形分量は、特に限定されず、例えば、顔料分散ペースト全量に対して40~70質量%とすることができる。
【0034】
上記顔料分散ペーストは、例えば、顔料及び顔料分散樹脂を混合した後、混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の公知の分散装置を用いて分散させることで得られる。
【0035】
(その他の成分)
本実施形態に係るカチオン電着塗料は、上記以外の成分を含んでいてもよい。例えば、亜鉛化合物、第3族元素化合物、ビスマス化合物等を含んでいてもよい。これにより、形成される電着塗膜の防錆性を向上させることができる。亜鉛化合物としては、例えば、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸亜鉛等の亜硝酸金属塩が挙げられる。上記第3族元素化合物としては、例えば、酸化ランタン、水酸化ランタン、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、酸化ランタン及び有機酸の混合物、水酸化ランタン及び有機酸の混合物、酸化ネオジム及び有機酸の混合物、水酸化ネオジム及び有機酸の混合物等が挙げられる。上記ビスマス化合物は、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、酸化ビスマス及び有機酸の混合物、水酸化ビスマス及び有機酸の混合物等が挙げられる。
【0036】
<カチオン電着塗料組成物の調製方法>
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(A)、及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)をそれぞれ、有機溶媒中に溶解させて溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することで調製される。また、上記中和の際にエポキシ化合物(B)が添加される。中和酸としては、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸等の有機酸、及びリン酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。上記以外に、顔料(D)を含む顔料ペースト及び、上記その他の成分を添加してもよい。
【0037】
上記中和酸を用いた中和により、アミン変性エポキシ樹脂(A)が有するアミノ基の一部又は全てが中和され、水溶液中に分散される。水溶液中への分散は、撹拌条件下で水性溶媒を加えることによって行ってもよく、また、水性溶媒に対して、一部または全てが中和されたアミン変性エポキシ樹脂を撹拌条件下で加えることによって行ってもよい。上記中和際に上記エポキシ化合物(B)を添加する際の溶液の温度は、40度以下であることが好ましい。これにより、エポキシ化合物(B)とアミン変性エポキシ樹脂(A)とがカチオン電着塗料組成物中で反応することを抑制できる。
【0038】
上記により、水中油(O/W型)エマルションとしてのカチオン電着塗料組成物が得られる。上記水中油(O/W型)エマルションにおいて、コア部にはエポキシ化合物(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)が存在し、シェル部にはアミン変性エポキシ樹脂(A)が存在するように各成分が分散される。
【0039】
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物において、固形分濃度は15~25質量%の範囲となるように好ましくは調整される。固形分濃度の調整には水性溶媒を使用して行うことができる。上記水性溶媒の例としては、イオン交換水、純水などが挙げられる。
【0040】
<カチオン電着塗装方法>
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、被塗物の表面上に電着塗膜を形成することができる。本実施形態に係るカチオン電着塗装方法は、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印可し、塗膜を形成する電着工程と、塗膜を140℃以下の温度で硬化させて電着塗膜を得る、硬化工程と、を含む。
【0041】
(電着工程)
電着工程においては、被塗物を陰極とし、陽極との間に電圧を印可する、これにより、電着塗膜が被塗物上に析出する。上記被塗物としては、通電可能な材質であれば特に限定されず、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板等が挙げられる。
【0042】
電着工程において、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、50~450Vの電圧を印加することによって、電着塗装が行われる。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、例えば、10~45℃に調節される。電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、例えば、2~5分とすることができる。上記電着工程後に、必要に応じて電着塗膜を水洗する工程を設けてもよい。
【0043】
(硬化工程)
硬化工程においては、電着工程において析出させた塗膜を、140℃以下の温度で、例えば10~30分間加熱する工程である。上記硬化工程により、電着塗膜が硬化される。本実施形態に係る硬化工程においては、通常の電着塗膜の硬化温度よりも低温での硬化が可能である。
【0044】
上記のようにして得られるカチオン電着塗膜は、硬化後の膜厚が5~60μmであることが好ましく、20~45μmであることがより好ましい。電着塗膜の膜厚が5μm未満である場合、防錆性が不十分となる恐れがある。
【実施例0045】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0046】
製造例1 アミン変性エポキシ樹脂(樹脂A)の製造
ブチルセロソルブ66部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA236部、オクチル酸216部を混合し、120℃まで昇温した。その後、ジメチルベンジルアミン1部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が1043g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。ついでジエタノールアミン54部、ジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)161部、N-メチルエタノールアミン24部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂:樹脂A)を得た。
【0047】
製造例2-A ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(硬化剤A)の製造
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)362部およびMIBK80部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ブチルセロソルブ319部を1時間かけて滴下し、さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK43部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(硬化剤A)を得た(固形分85%)。
【0048】
製造例2-B ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(硬化剤B)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名スミジュールN3300、住化バイエルウレタン社製)165部およびMIBK24部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、メチルエチルケトオキシム(MEKオキシム)75部を2時間かけ滴下した。さらに70℃で2時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認した。その後、ブチルセロソルブ36部を加え、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(硬化剤B)を得た(固形分82%)。
【0049】
製造例3 顔料分散樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート2220部、メチルイソブチルケトン342.1部、ジブチル錫ラウレート2.2部、メチルエチルケトンオキシム878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温しIRでNCOピークが消失していることを確認後、50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して四級化剤を得た。次いで、異なる反応容器にトリレンジイソシアネート870部及びメチルイソブチルケトン49.5部を仕込み、2-エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後メチルイソブチルケトン35.5部を投入し、30分保温した。その後NCO当量が330~370になっていることを確認しハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0050】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940.0部メタノール38.5部で希釈した後、ここへジブチル錫ジラウレート0.1部、トリレンジイソシアネート87.1部、N,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を加え130℃で2時間保温した。このとき分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールA270.3部、2-エチルヘキサン酸39.2部を仕込み125℃で2時間加熱撹拌した後、上記ハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱撹拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、上記四級化剤を加え、70~80℃に保ち酸価2以下を確認して、顔料分散樹脂を得た(樹脂固形分濃度30%)。
【0051】
製造例4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分濃度60%)。
【0052】
製造例5-A 電着塗料樹脂エマルション(EmA)の製造
製造例1-Aで得た樹脂(樹脂A)252g(固形分)と、製造例2-Aで得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(硬化剤A)144g(固形分)とエポキシ化合物(B)として、液状エポキシ化合物であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「NPEL-128E」、南亜プラスチック株式会社製)4g(固形分)を混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(12g)になるように添加した。次にギ酸を中和率30%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し,固形分濃度が41%の電着塗料樹脂エマルション(EmA)を得た。
【0053】
製造例5-B~M 電着塗料樹脂エマルション(EmB~L)の製造
表1に示した配合で調製を行ったこと以外は製造例5-Aと同様にして、電着塗料樹脂エマルション(EmB~EmL)を得た。なお表1に示す各成分の割合(%)は、固形分比率を意味する。
【0054】
<実施例1>
ステンレス容器に、イオン交換水1394g、樹脂エマルション(EmA)560gおよび製造例4で得られた顔料分散ペースト41gを添加しその後40℃で16時間エージングして、電着塗料組成物を形成した。
【0055】
<実施例2~10及び比較例1~2>
実施例2~10(EmB~EmJ)及び比較例1~2(EmK~EmL)についても、表1に示した配合で調製を行ったこと以外は実施例1と同様にして、電着塗料組成物を得た。表1に示すエポキシ化合物(B)としては、以下に示すものを用いた。
EP-400P:ポリオキシプロピレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:ケミオール EP-400P、三洋化成工業株式会社製)
EX-614B:ソルビトールポリグリシジルエーテル(商品名:デナコール EX-614B、ナガセケムテックス株式会社製)
【0056】
<評価>
上記実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物を使用して、以下の条件で評価を行った。
【0057】
[ゲル分率(硬化性)評価]
上記実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物を、重量を予め測定したブリキ板に対して、塗膜の硬化後の膜厚が20μmとなるように塗膜を析出させた。その後、140℃で10分間焼き付けて塗膜を硬化させ、ブリキ板上にカチオン電着塗膜を作成した。得られた試験板は、その重量を測定した後、アセトンに浸漬して6時間還流を行い、その後105℃で20分間乾燥した。乾燥後の重量を測定し、以下の式(1)によりゲル分率を求めた。ゲル分率の数値により、以下の基準で硬化性の評価を行い、A、B、及びCを合格とした。結果を表1に示す。
ゲル分率(%)=(W2-W0)/(W1-W0)×100・・・(1)
式(1)中、W0はブリキ板の重量、W1は焼き付け後の塗板の重量、W2はアセトン浸漬後の塗板の重量をそれぞれ示す。
【0058】
A:ゲル分率90%以上
B:ゲル分率80%以上90%未満
C:ゲル分率70%以上80%未満
D:ゲル分率60%以上70%未満
E:ゲル分率60%未満
【0059】
[温度-粘度測定]
実施例2~4及び比較例1に係るカチオン電着塗料組成物を用いて被塗物に膜厚15μmとなるように電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置「Rheosol G-3000」(ユービーエム社製)に装着した。測定条件は、歪み0.5deg、周波数1Hz、温度60~160℃とした。得られた温度-粘度測定結果を図1に示した。
【0060】
[貯蔵安定性評価]
上記実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物200gを、40℃で4週間静置にて保存した後の凝集物量を測定した。上記凝集物量の測定は、380メッシュのナイロン製フィルターで各実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物をろ過し、フィルター上の残渣を100℃で20分間乾燥させた後、質量を測定することで行った。得られた残渣量の、各実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物の固形分質量に対する質量割合を算出し、以下の基準に基づいて評価を行い、評価A、B、Cを合格とした。結果を表1に示す。
A:1%未満
B:1%以上5%未満
C:5%以上10%未満
D:10%以上
【0061】
[外観評価(Ra測定)]
上記実施例及び比較例に係るカチオン電着塗料組成物を用いて、試験板を作成した。冷延鋼板(JISG3141、SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、実施例及び比較例で得られた電着塗料組成物を、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるように2-エチルヘキシルグリコールを必要量添加し、その後に鋼板を浸漬して、30秒昇圧180Vに達してから150秒間保持するという条件で電圧を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。得られた未硬化の電着塗膜を、140℃で15分間焼き付け硬化させて、カチオン電着塗膜を有する塗装板を得た。上記塗装板を用いて、以下外観評価試験を行った。
【0062】
上記塗装板について、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ-201P)を用いて、塗膜表面の算術平均粗さ(Ra(2.5)(2.5mm以上の波長を除去))をJIS-B0601に準拠して測定した。塗膜の厚さは20μmとし、測定を5回行い、その平均値を算出した。以下の基準で外観評価を行い、B以上を合格とした。結果を表1に示す。
【0063】
A:Ra値0.5以下
B:Ra値0.5超1.0未満
C:Ra値1.0以上
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から、各実施例に係るカチオン電着塗料組成物は、低温硬化可能であり、かつ塗膜の優れた外観が得られる結果が確認された。
【0066】
図1の結果から、実施例2~4に係るカチオン電着塗料組成物は、比較例1に係るカチオン電着塗料組成物と比較して、140℃以下の温度における粘度が高く、140℃以下の温度での硬化性に優れる結果が確認された。
図1