(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096899
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/54 20060101AFI20220623BHJP
F02B 19/16 20060101ALI20220623BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
H01T13/54
F02B19/16 C
F02B19/16 F
F02P13/00 302B
F02P13/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210150
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 典晃
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
【テーマコード(参考)】
3G019
3G023
5G059
【Fターム(参考)】
3G019AA08
3G019KA16
3G023AA02
3G023AB01
3G023AC03
3G023AD21
3G023AE04
5G059AA10
5G059FF02
5G059FF03
5G059GG01
5G059KK23
(57)【要約】
【課題】副燃焼室内の冷却損失を低減することができる、内燃機関用のスパークプラグを提供すること。
【解決手段】中心電極2と、中心電極2との間に放電ギャップGを形成する接地電極3と、放電ギャップGが配される副燃焼室40を外部と区画すると共に噴孔41を備えた副室形成部4と、を有する内燃機関用のスパークプラグ1。副室形成部4の内壁面に、副室形成部4よりも体積比熱が低い遮熱膜5が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極(2)と、
該中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(3)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(40)を外部と区画すると共に噴孔(41)を備えた副室形成部(4)と、を有する内燃機関用のスパークプラグ(1)であって、
上記副室形成部の内壁面に、上記副室形成部よりも体積比熱が低い遮熱膜(5)が形成されている、内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項2】
上記遮熱膜は、上記副室形成部よりも熱伝導率が低い、請求項1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
上記遮熱膜の体積比熱Cvと熱伝導率λとは、下記の不等式を満たす、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【数1】
ただし、x=logλ、y=logCv である。
【請求項4】
上記遮熱膜は、ジルコニアを主成分として含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項5】
上記中心電極を絶縁碍子(11)を介して内側に保持するハウジング(12)と、該ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(13)とを有し、上記ハウジングの一部と上記プラグカバーとが、上記副形成部を構成しており、上記遮熱膜は、上記プラグカバーに形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項6】
上記遮熱膜は、体積比熱Cvと熱伝導率λとが、下記の不等式の双方を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
1≦logCv≦3
-1≦logλ≦1
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
副燃焼室にて生成された燃焼火炎を複数の噴孔を介して主燃焼室に噴出せしめることで、主燃焼室の混合気を燃焼させる内燃機関が、特許文献1に開示されている。この内燃機関においては、熱効率を向上させるべく、主燃焼室の内面に遮熱膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、副燃焼室を備えた内燃機関においては、副燃焼室からの火炎ジェットを主燃焼室へ効率的に噴射させるようにすることが重要である。そのためには、副燃焼室内の冷却損失を低減させることが有効である。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、副燃焼室内の冷却損失を低減することができる、内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、中心電極(2)と、
該中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(3)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(40)を外部と区画すると共に噴孔(41)を備えた副室形成部(4)と、を有する内燃機関用のスパークプラグ(1)であって、
上記副室形成部の内壁面に、上記副室形成部よりも体積比熱が低い遮熱膜(5)が形成されている、内燃機関用のスパークプラグにある。
【発明の効果】
【0007】
上記内燃機関用のスパークプラグにおいては、上記副室形成部の内壁面に、上記遮熱膜が形成されている。遮熱膜は副室形成部よりも体積比熱が低い。それゆえ、副燃焼室内の昇温に伴う遮熱膜の昇温速度も速く、短時間にて遮熱膜を高温とすることができる。これにより、副燃焼室内の熱が副室形成部に逃げることを抑制することができる。その結果、副燃焼室内の冷却損失を低減することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、副燃焼室内の冷却損失を低減することができる、内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の断面図。
【
図3】実施形態1における、スパークプラグを取り付けた内燃機関の説明図。
【
図4】実施形態2における、スパークプラグの先端部付近の断面図。
【
図5】実験例1における、熱効率向上代のシミュレーション結果を示すコンター図。
【
図6】実験例1における、各試料の熱効率のシミュレーション結果を示す線図。
【
図7】実験例2における、副燃焼室の温度とガス充填量との関係を示す線図。
【
図8】実験例3における、各試料の点火時期付近の副燃焼室内壁面の温度変化を示す線図。
【
図9】実験例4における、各試料の点火時期付近の副燃焼室内の冷却損失の変化を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
本形態のスパークプラグ1は、
図1に示すごとく、中心電極2と、接地電極3と、副室形成部4と、を有する。接地電極3は、中心電極2との間に放電ギャップGを形成する。副室形成部4は、放電ギャップGが配される副燃焼室40を外部と区画すると共に噴孔41を備えている。副室形成部4の内壁面に、副室形成部4よりも体積比熱が低い遮熱膜5が形成されている。
【0011】
スパークプラグ1は、絶縁碍子11とハウジング12とプラグカバー13とを有する。絶縁碍子11は、中心電極2を内側に挿通して保持している。絶縁碍子11は、例えば、アルミナ等のセラミックからなる。ハウジング12は、絶縁碍子11を内側に挿通して保持している。ハウジング12は、例えば、低炭素鋼等の金属からなる。プラグカバー13は、ハウジング12の先端部に接合され、副燃焼室40を先端側から覆っている。プラグカバー13は、例えば、ニッケル等の金属からなる。また、プラグカバー13に、複数の噴孔41が形成されている。
【0012】
本形態において、ハウジング12の一部とプラグカバー13とが、副室形成部4を構成している。そして、副室形成部4のうち、プラグカバー13に、遮熱膜5が形成されている。また、ハウジング12の内壁面には、遮熱膜5は形成されていない。プラグカバー13の内壁面に形成された遮熱膜5は、プラグカバー13の本体よりも体積比熱が低い。上述した「副室形成部4よりも体積比熱が低い」とは、副室形成部4のうち、当該遮熱膜5が形成された部位よりも体積比熱が低いことを意味する。
【0013】
本形態においては、上述のように、遮熱膜5は、プラグカバー13よりも体積比熱が低い。プラグカバー13がニッケルからなる場合において、遮熱膜5は、ニッケルよりも体積比熱が低い材料からなる。この場合、遮熱膜5は、例えばジルコニアを主成分として含む材料からなる。例えば、遮熱膜5として、イットリアを含有しつつジルコニアを主成分とする材料を用いることができる。
【0014】
また、本形態において、遮熱膜5は、副室形成部4よりも熱伝導率が低い。つまり、本形態において遮熱膜5は、プラグカバー13よりも熱伝導率が低い。「副室形成部4よりも熱伝導率が低い」とは、副室形成部4のうち、当該遮熱膜5が形成された部位よりも熱伝導率が低いことを意味する。
本形態において、遮熱膜5は、
図1、
図2に示すごとく、プラグカバー13の内壁面の略全域にわたり形成されている。さらに、遮熱膜5は、噴孔41の内周面にも形成されている。
【0015】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。
図3に示すごとく、ハウジング12の外周面に形成した取付ネジ部124を、プラグホールの雌ネジ部75に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられる。そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端を、内燃機関10の主燃焼室71に配置する。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室71に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。なお、
図3において、符号72は、吸気口720を開閉する吸気弁を示す。符号73は、排気口730を開閉する排気弁を示す。符号74は、シリンダ70内を往復摺動するピストンを示す。
【0016】
本形態において、
図1、
図2に示すごとく、接地電極3はプラグカバー13に接合されている。接地電極3は、プラグカバー13の側壁に接合され、プラグ径方向に沿って、プラグ中心軸に向かって突出している。中心電極2は、その先端部において、プラグ径方向の外側へ突出した側方突出部21を有する。側方突出部21と接地電極3とが互いに対向し、その間に放電ギャップGが形成されている。
【0017】
中心電極2は、ハウジング12よりも先端側へ突出している。そして、放電ギャップGは、ハウジング12の先端よりも先端側に位置している。すなわち、放電ギャップGと同じ軸方向Zの位置には、プラグカバー13の側壁が存在している。そして、プラグカバー13の内壁面には、放電ギャップGと同じ軸方向Zの位置も含めて、遮熱膜5が形成されている。
【0018】
副室形成部4に遮熱膜5を形成するにあたっては、例えば、プラズマ溶射装置の溶射ガンによって、プラグカバー13の内壁面に溶射膜を形成することができる。
【0019】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記内燃機関用のスパークプラグ1においては、副室形成部4の内壁面に、遮熱膜5が形成されている。遮熱膜5は副室形成部4よりも体積比熱が低い。それゆえ、副燃焼室40内の昇温に伴う遮熱膜5の昇温速度も速く、短時間にて遮熱膜5が高温となる。これにより、副燃焼室40内の熱が副室形成部4に逃げることを抑制することができる。その結果、副燃焼室40内の冷却損失を低減することができる。
【0020】
これにより、副燃焼室40から主燃焼室71へ、高い熱量の火炎ジェットを噴射させることができる。それゆえ、内燃機関の熱効率を向上させることができる。
特に、EGR(Exhaust Gas Recirculation、すなわち、排出ガス再循環の略)、希薄燃焼等、燃料密度の低い状態での運転環境下においては、副燃焼室40内の冷却損失が大きいと、熱効率が低下しやすい。かかる運転環境下においても、本形態のように、副燃焼室40内の冷却損失を向上させて、副燃焼室40から主燃焼室71への火炎ジェットの熱量を高めることで、内燃機関の熱効率を向上させることができる。
【0021】
また、遮熱膜5は、副室形成部4よりも熱伝導率が低い。これによっても、副燃焼室40内の熱が遮熱膜5を通じて外部へ逃げにくい。その結果、より一層、副燃焼室40内の冷却損失を低減することができる。
【0022】
また、遮熱膜5は、ジルコニアを主成分として含む。これにより、遮熱膜5の体積比熱及び熱伝導率を低減しやすくなる。それゆえ、遮熱膜5による遮熱効果を向上させることができ、副燃焼室40内の冷却損失を、効果的に低減することができる。また、遮熱膜5の耐熱性を充分に確保することができる点でも有利である。
【0023】
また、遮熱膜5は、プラグカバー13に形成されている。それゆえ、遮熱膜5の形成を容易にすることができる。すなわち、例えば、ハウジング12に接合する前のプラグカバー13に遮熱膜5を形成することができる。そのため、生産性に優れたスパークプラグ1を得ることができる。
【0024】
以上のごとく、本形態によれば、副燃焼室内の冷却損失を低減することができる、内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
【0025】
(実施形態2)
本形態は、
図4に示すごとく、ハウジング12の一部の内壁面にも遮熱膜5を形成した、内燃機関用のスパークプラグ1の形態である。
すなわち、ハウジング12における、副燃焼室40に面する内壁面に、遮熱膜5を形成している。本形態においては、副燃焼室40に面するハウジング12の内壁面のうち、基端側の一部を除いた全面に、遮熱膜5が形成されている。
【0026】
ハウジング12に形成する遮熱膜5と、プラグカバー13に形成する遮熱膜5とは、同じ材料にて構成することもできる。例えば、いずれの遮熱膜5も、ジルコニアを主成分として含む材料とすることができる。
【0027】
なお、本形態の場合、ハウジング12に形成する遮熱膜5を、プラグカバー13に形成する遮熱膜5と異なる材料とすることもできる。すなわち、ハウジング12に形成する遮熱膜5は、ハウジング12よりも体積比熱が低いものであって、プラグカバー13と体積比熱が同等以上のものを用いることも可能である。
【0028】
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0029】
本形態においては、副室形成部4を構成するプラグカバー13とハウジング12との双方に遮熱膜5を形成することとなる。それゆえ、副燃焼室40に面する内壁面の広い範囲にわたり遮熱膜5を形成することができる。そのため、副燃焼室40内の冷却損失を、より効果的に低減することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0030】
(実験例1)
本形態は、
図5に示すごとく、遮熱膜5の体積比熱及び熱伝導率と、内燃機関の熱効率との関係につき、調べた例である。
そして、これによって、本願発明者らは、体積比熱と熱伝導率とが、後述する所定の関係式を満たすような遮熱膜5を設けることが、内燃機関の熱効率の向上において重要であることを見出した。
【0031】
すなわち、上記実施形態1において述べたように、副室形成部4よりも体積比熱の低い遮熱膜5を形成することで、内燃機関の熱効率を向上させることができる。そして、遮熱膜5の熱伝導率を副室形成部4よりも低くすることで、より内燃機関の熱効率を向上させることができる。しかし、例えば、遮熱膜5の体積比熱及び熱伝導率を低くすればするほど内燃機関の熱効率を向上させることができるとは限らない、という点に、本願発明者らは着目した。
【0032】
すなわち、例えば、遮熱膜5の体積比熱及び熱伝導率の双方を低くすると、副室形成部4の温度は上昇しやすくなる。そうすると、副燃焼室40の温度も高くなり、副燃焼室40内の気体が膨張する。これにより、後述する実験例2(
図7参照)に示すごとく、副燃焼室40内への混合気充填量が低下することとなる。副燃焼室40内への混合気充填量が低下すると、副燃焼室40内における燃焼効率が低下し、副燃焼室40からの火炎ジェットの熱量も低下し、ひいては、内燃機関の熱効率の低下につながる。
【0033】
したがって、副燃焼室40内の冷却損失の低減と、混合気充填率とは、いわゆるトレードオフの関係にある。つまり、混合気充填量を低下させすぎず、冷却損失を低減することで、内燃機関の熱効率の向上を図ることができるといえる。そこで、内燃機関の熱効率の向上という観点において、遮熱膜5の体積比熱と熱伝導率との関係について、下記のようなシミュレーション解析を行った。
【0034】
シミュレーションの前提として、実施形態1に示したスパークプラグ1を備えた内燃機関10を想定した(
図1~
図3参照)。なお、噴孔41の数は6個、噴孔41の直径は1.2mm、副燃焼室40の容量は0.5ccとした。
【0035】
そして、遮熱膜5の体積比熱と熱伝導率とを変動させたとき、内燃機関の熱効率がどのように変化するかを、解析した。また、内燃機関としては、直列4気筒、排気量2.5Lの過給エンジンを想定した。このエンジンを、回転数2000rpm、負荷0.65MPa、EGR率20%にて運転した場合を想定して、解析を行った。また、点火時期を706deg、点火エネルギを230mJとした。
なお、点火時期は、1サイクル前の圧縮上死点を0degとしたときのクランク角にて表したものである。
【0036】
シミュレーション解析の結果を、
図5のコンターマップに表す。このコンターマップは、数値流体力学(CFD:computational fluid dynamics)解析によるシミュレーションによって燃焼を計算し、算出した熱効率を基に、結果を3次スプラインにて補間して作成したものである。
【0037】
同図において、横軸が、遮熱膜5の熱伝導率λの対数xを示す。すなわち、x=logλ である。また、同図において、縦軸は、遮熱膜5の体積比熱Cvの対数yを示す。すなわち、y=logCv である。なお、ここでの対数は、常用対数である。そして、コンター図の等値線は、内燃機関の熱効率の向上代zを示す。向上代zは、副室形成部4に遮熱膜5を形成しない場合の内燃機関の熱効率(以下、基準熱効率という。)に対する、熱効率の向上分である。向上代zがマイナスの場合は、基準熱効率よりも、熱効率が低下していることを示す。
【0038】
同図から、熱伝導率λを小さくしすぎても、体積比熱Cvを小さくしすぎても、内燃機関の熱効率の向上代zが低下してしまうことが分かる。そして、体積比熱Cvと熱伝導率λとを所定の範囲内にすることで、内燃機関の熱効率を向上させることができることが分かる。つまり、同図において、z=0.0の等値線の内側の領域となる条件とすることにより、熱効率を向上させることができるといえる。
【0039】
図5の右上隅にある基準点S1が、プラグカバー13の熱伝導率λと体積比熱Cvとを示す。つまり、この基準点S1における熱効率は、基準熱効率であって、z=0.0となる。この基準点から、コンターマップの左下に向かうと、まずは、熱効率が高くなる。すなわち、基準点から、体積比熱Cvと熱伝導率λとを小さくすると、熱効率がまずは高くなる。これは、実施形態1の作用効果の説明にて述べた理屈に合った結果である。すなわち、遮熱膜5の体積比熱Cvが低下することで、副燃焼室40内の昇温に伴って短時間にて遮熱膜5を高温とすることができ、副室形成部4内の熱が逃げにくくなる。また、遮熱膜5の熱伝導率λが低下することで、副室形成部4内の熱が遮熱膜5を介して外部へ逃げにくくなる。その結果、副燃焼室40内の冷却損失が抑制され、内燃機関の熱効率が向上する。
【0040】
しかし、コンターマップの更に左下に向かうと、すなわち体積比熱Cvと熱伝導率λとがさらに小さくなると、熱効率が低下する。これは、本例の冒頭の考察のように、副燃焼室40内の温度上昇に伴う気体の膨張によって、副燃焼室40内への混合気の充填量が低下するためと考えられる。
【0041】
上述のように、コンターマップにおいて、z=0.0の等値線の内側の領域となる条件とすることにより、熱効率を向上させることができるといえる。そこで、まず、コンターマップに表れたx、y、zの関係を近似的に表す関係式を、下記の式(1)のように導出した。
【0042】
【0043】
上記式(1)の導出方法の概略につき、以下に説明する。
上述のように、熱効率の向上は、副燃焼室における冷却損失の低減と共に、副燃焼室への混合気充填率の低減が、関わっていると考えられる。副燃焼室への混合気充填率の低下は、副燃焼室の温度に対してほぼ線形にて影響があり、温度が低いほど充填率が増加して熱効率が向上する。一方で温度が高いほど冷却損失が低下するため、熱効率が向上する。この二つの現象のバランスで熱効率が決まるため、温度に対してある極大値がある。
そして、一般に、熱量Qは、Q=mCvdT、及び、Q=λSdT/dlにて表せる。ここで、mは質量、Sは伝熱面積、dlは伝熱距離を示す。このことから、Qが一定の場合には、温度変化dTは、体積比熱Cv、熱伝導率λに、概ね反比例すると考えられる。実際には温度が変化するとQも変化するため単純な反比例とはならないが、縦軸yをCvの対数とし、横軸xをλの対数としたコンターマップにおいて、熱効率の向上代zの反比例減少を表す下記の〔要素1〕を、式(1)の右辺に設けた。
1-exp(-x-y) ・・・〔要素1〕
【0044】
また、コンターマップにおける熱効率の向上代zの山が、比較的対称な形状を有することから、2次元ローレンツ関数を用いて、これを下記の〔要素2-1〕のように表した。
w/{(x-p)2+(y-q)2-w2} ・・・〔要素2-1〕
【0045】
ここで、pは、熱効率がピークを取るときのλをPとしたときに、p=logPを満たす値である。qは、熱効率がピークを取るときのCvをQとしたときに、p=logQを満たす値である。wは、2次元ローレンツ関数の半値半幅である。これらの値は、コンターマップから概ね読み取ることが可能であり、それぞれ、p=0.3、q=2.8、w=1.9とすることができる。これを、上記の〔要素2-1〕に代入して、下記の〔要素2-2〕が得られる。
1.9/{(x-0.3)2+(y-2.8)2-1.92} ・・・〔要素2-2〕
【0046】
上記の〔要素1〕と〔要素2-2〕との積に、変換係数Aを掛け合わせることで、熱効率の向上代zを概ね表す関数として、式(1)を得た。変換係数は、熱効率の値に変換するための係数である。
【0047】
このようにして得られた式(1)の左辺、すなわちzを0としたものが、
図5のコンターマップにおけるz=0.0の曲線を概ね表すものである。それゆえ、式(1)の右辺が0よりも大きいことを表す下記の不等式(2)が、コンターマップにおけるz=0.0の曲線の内側の領域を近似的に表すこととなる。
【0048】
【0049】
また、より好ましい範囲として、z>0.1となるx、yの関係は、下記の式(3)にて表される。それゆえ、x、yは、下記の式(3)を満たすことがより好ましいといえる。
【0050】
【0051】
さらに、z>0.2、或いはz>0.3となることがより好ましい。それゆえ、下記の式(4)、(5)のいずれかを満たすことがさらに好ましく、この中でも、式(4)よりも式(5)を満たすことが、内燃機関の熱効率の観点からは望ましいということができる。なお、遮熱膜をジルコニアにて構成した場合には、式(5)を満たすものとすることができる。
【0052】
【0053】
次に、下記の表1に示す具体的な体積比熱Cvおよび熱伝導率λを有する遮熱膜を形成した場合の、内燃機関の熱効率を、
図5のコンター図に基づいて得た。その結果を、
図6のグラフに示す。
【0054】
【0055】
表1に示した試料の中で、試料1が、遮熱膜を形成していないものに相当する。また、試料3が、遮熱膜をジルコニアにて形成したものに相当する。試料7は、遮熱膜をアルミナにて形成したものに相当する。
【0056】
表1及び
図6から分かるように、試料1に対して、試料3は、熱効率を向上できている。また、試料2よりも遮熱膜の体積比熱が小さい試料3は、試料2に対しても、熱効率を向上できている。また、試料4のように、体積比熱が小さすぎても、熱効率が低くなってしまう。
図5には、各試料のプロットを、符号S1~S7を添えて記す。符号S1~S7は、それぞれ、試料1~7を表す。
【0057】
なお、これらの中で、試料2、3、5、6、7は、上記の式(1)を満たすものである。
また、本例の結果から、遮熱膜は、体積比熱Cvと熱伝導率λとが、不等式、1≦logCv≦3、-1≦logλ≦1の双方を満たすことで、内燃機関の熱効率を向上させることができることも分かる。試料3、試料5、試料6は、この条件を満たすものである。
【0058】
(実験例2)
本例においては、
図7に示すごとく、上述の実験例1の表1に示した試料の中で、試料1、3、5、6を利用して、副燃焼室内の温度と、副燃焼室内へのガス充填量との関係を、シミュレーションにて算出した。
【0059】
上述のように、副燃焼室内の温度が上昇すると、副燃焼室内への混合気の充填量が低下して、却って熱効率の向上を阻害するおそれが懸念される。本例は、この点を、シミュレーションにて確かめたものである。結果を
図7に示す。副燃焼室内への混合気の導入は、主として吸気行程から圧縮行程にかけて行われるため、この間の副燃焼室の平均温度を横軸の指標とした。より具体的には、吸気行程直前の上死点(すなわち、クランク角360°)から、点火前のクランク角683°までの間の平均温度を、横軸の指標とした。縦軸の指標は、クランク角683°の時点における副燃焼室内における空気の充填量を重量にて示したものとした。各プロットに付した符号S1、S3、S5、S6は、それぞれ各試料1、3、5、6に相当する。
【0060】
同図から分かるように、副燃焼室内の温度が高いほど、副燃焼室内における空気の充填量が小さくなることが分かる。そして、遮熱膜を形成している試料2~7に着目すると、副燃焼室内の温度の上昇と、充填量の減少とは、概ね比例関係にあることが分かる。
【0061】
(実験例3)
本例においては、
図8に示すごとく、上述の試料1、3、5、6のスパークプラグについて、内燃機関の運転時における、点火タイミング付近の副燃焼室の内壁面の温度の時間変化をシミュレーションにて算出した。
ここで、点火タイミングは、クランク角706°の時点である。
【0062】
図8のグラフから分かるように、体積比熱及び熱伝導率が、試料1の副燃焼室の内壁面(すなわち、ニッケル)よりも低い遮熱膜を形成した試料3は、点火直後における内壁面の温度上昇が大きく、また、上昇速度も高い。
【0063】
(実験例4)
本例においては、
図9に示すごとく、上述の試料1、3、5、6のスパークプラグについて、内燃機関の運転時における、点火タイミング付近の副燃焼室内の冷却損失の時間変化をシミュレーションにて算出した。
ここで、点火タイミングは、クランク角706°の時点である。
【0064】
図9のグラフから分かるように、体積比熱及び熱伝導率が、試料1の副燃焼室の内壁面(すなわち、ニッケル)よりも低い遮熱膜を形成した試料3は、点火直後における副燃焼室内の冷却損失が小さい。
【0065】
上記実験例3の結果(
図8参照)からは、試料5、6が、試料3よりも、副燃焼室の内壁面の温度が高くなるという観点では望ましいと考えられる。また、上記実験例4の結果からは、試料5、6が、試料3よりも、副燃焼室内の冷却損失が小さくなるという観点では望ましいと考えられる。しかしながら、実験例1の
図6のグラフから分かるように、内燃機関の熱効率は、試料5、6よりも、試料3が優れている。これは、既に説明したように、副燃焼室の温度が高くなると、副燃焼室への混合気の充填量が低下することから、
図7に示すように、混合気の充填量が、試料5、6が、試料3よりも、少なくなってしまうためと考えられる。
【0066】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 内燃機関用のスパークプラグ
2 中心電極
3 接地電極
4 副室形成部
40 副燃焼室
41 噴孔
5 遮熱膜
G 放電ギャップ