(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009694
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】匂い画像の基データ作成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
G01N5/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176838
(22)【出願日】2021-10-28
(62)【分割の表示】P 2019518681の分割
【原出願日】2017-05-17
(71)【出願人】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】黒木 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵
(57)【要約】 (修正有)
【課題】匂いセンサを用いて測定した匂いの測定結果を、視覚的に把握し易くするべく匂いを画像で表現するための基データを作成する方法を提供する。
【解決手段】複数のセンサ素子を備える匂いセンサを用いて、サンプルに含まれる匂い物質について複数のセンサ素子のそれぞれにおいて測定された各測定結果を取得する測定結果取得ステップと、取得した測定結果をそれぞれ加工して、サンプルの匂いを画像で表現するための基データを生成するデータ加工ステップと、を有する。複数のセンサ素子は、匂い物質に対する検出特性が各々異なる。基データのそれぞれについて小画像2で表現した場合に、複数の小画像2の集合である所定の表示態様でサンプルの匂いが匂い画像1として表現されると共に、小画像2のそれぞれが基データの値の大きさに応じて変化する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い物質を含むサンプルの匂いを画像で表現するための基データを作成する匂い画像の基データ作成方法であって、
複数のセンサ素子を備える匂いセンサを用いて、前記サンプルに含まれる前記匂い物質について前記複数のセンサ素子のそれぞれにおいて測定された各測定結果を、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた状態で取得する測定結果取得ステップと、
取得した前記測定結果をそれぞれ加工して、前記サンプルの匂いを画像で表現するための基データであって、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた前記基データを生成するデータ加工ステップと、を有し、
前記複数のセンサ素子は、前記匂い物質に対する検出特性が各々異なり、
前記データ加工ステップにおいて、前記基データのそれぞれについて前記センサ素子のそれぞれに対応した小画像で表現した場合に、複数の前記小画像の集合である所定の表示態様で前記サンプルの匂いが画像として表現されると共に、前記小画像のそれぞれが前記基データの値の大きさに応じて変化するよう前記基データを生成する、匂い画像の基データ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂い画像の基データ作成方法に関する。具体的には、匂い物質を含むサンプルの匂いを画像で表現するための基データを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気の匂いを測定するために、空気中の匂い物質を特異的に吸着する水晶振動子を備えるセンサが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、空気の匂いをセンサで測定し、その測定結果を保存しただけでは、その匂いが、どのような匂いであるのかを直接的に把握することが難しい。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、匂いセンサを用いて測定した匂いの測定結果を、視覚的に把握し易くするべく匂いを画像で表現するための基データを作成する方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)匂い物質を含むサンプルの匂いを画像で表現するための基データを作成する匂い画像の基データ作成方法であって、複数のセンサ素子を備える匂いセンサを用いて、前記サンプルに含まれる前記匂い物質について前記複数のセンサ素子のそれぞれにおいて測定された各測定結果を、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた状態で取得する測定結果取得ステップと、取得した前記測定結果をそれぞれ加工して、前記サンプルの匂いを画像で表現するための基データであって、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた前記基データを生成するデータ加工ステップと、を有し、前記複数のセンサ素子は、前記匂い物質に対する検出特性が各々異なり、前記データ加工ステップにおいて、前記基データのそれぞれについて前記センサ素子のそれぞれに対応した小画像で表現した場合に、複数の前記小画像の集合である所定の表示態様で前記サンプルの匂いが画像として表現されると共に、前記小画像のそれぞれが前記基データの値の大きさに応じて変化するよう前記基データを生成する、匂い画像の基データ作成方法。
【0007】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、匂いセンサを用いて測定した匂いの測定結果を、視覚的に把握し易くするべく匂いを画像で表現するための基データを作成する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1の測定結果取得ステップにおいて取得される測定結果データベースD1である。
【
図2】実施形態1の測定結果取得ステップにおいて取得される測定結果を表すグラフである。
【
図3】実施形態1のデータ加工ステップS2の概要を説明する図である。
【
図4】実施形態1のデータ加工ステップS2において生成された基データに基づいて表現された画像の一例である。
【
図5】実施形態1における匂いセンサ10を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図5におけるA-A’断面を模式的に示す断面図である。
【
図7】実施形態1における匂い測定の機構を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係る匂い画像の基データ作成方法について説明する。実施形態1に係る匂い画像の基データ作成方法は、匂い物質を含むサンプルの匂いを画像で表現するための基データを作成する方法である。実施形態1に係る匂い画像の基データ作成方法は、測定結果取得ステップと、データ加工ステップと、を有する。
【0011】
実施形態1において、「匂い」とは、ヒト、又はヒトを含む生物が、嗅覚情報として取得することができるものであり、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを含む概念とする。
【0012】
実施形態1において、上述の匂いを構成する、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを「匂い物質」と称する。ただし、匂い物質は、広義において、後述する匂いセンサ10の物質吸着膜に吸着可能な物質を広く意味する場合があるものとする。すなわち、「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も存在し得るため、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれ得るものとする。
【0013】
<測定結果取得ステップS1>
測定結果取得ステップS1においては、匂いセンサ10を用いて、匂いセンサ10が備える複数のセンサ素子11のそれぞれにおいて、サンプルに含まれる匂い物質について測定された各測定結果を取得する。複数のセンサ素子11は、それぞれ匂い物質に対する検出特性が各々異なっている。匂いセンサ10の具体的構成については、後述する。
【0014】
各測定結果は、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた状態で取得される。具体的には、各センサ素子11と、センサ素子11のそれぞれにおいて測定された各測定結果と、が相互に関連付けられた状態で格納された測定結果データベースとして取得することができる。
【0015】
図1は、実施形態1の測定結果取得ステップにおいて取得される測定結果データベースD1である。測定結果データベースD1では、各センサ素子11と、センサ素子11のそれぞれにおいて測定された各測定結果と、が相互に関連付けられた状態で格納されている。
図1に示す測定結果データベースD1では、センサ素子11-01~11-35の計35個のセンサ素子11について、それぞれの測定結果が関連付けられた状態で格納されている。なお、
図1においては、センサ素子11-08~11-34については、説明の便宜上、記載が省略されている。
【0016】
測定結果は、具体的には、各センサ素子11が検出した生データである。匂いセンサ10が、例えば、水晶振動子センサ(QCM)である場合、センサ素子11が生成する生データとしては、水晶振動子の共振周波数の経時変化とすることができる。すなわち、センサ素子11による測定結果として、匂いセンサ10の動作開始からの経過時間が異なる複数の時点における共振周波数とすることができる。例えば、
図1に示すように、センサ素子11-01において測定された測定結果は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合に、14秒後において測定された共振周波数が「9.3」であり、16秒後において測定された共振周波数が「-11.0」である。また、センサ素子11-02において測定された測定結果は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合に、匂いセンサ10の動作開始から14秒後において測定された共振周波数が「10.7」であり、16秒後において測定された共振周波数が「-11.7」である。なお、測定に際して、測定結果の記録の時間間隔は特に制限されないが、例えば、1秒間隔とすることができる。
【0017】
匂いセンサ10による測定は、複数回行い、複数回行った測定の生データの平均値を測定結果とすることが好ましい。測定の回数は、特に制限されないが、例えば3回とすることができる。平均値としては、算術平均(相加平均)による平均値を採用することができる。
【0018】
<データ加工ステップS2>
データ加工ステップS2においては、測定結果取得ステップS1において取得した測定結果をそれぞれ加工して、サンプルの匂いを匂い画像1で表現するための基データであって、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた基データを生成する。また、データ加工ステップS2においては、基データのそれぞれについてセンサ素子11のそれぞれに対応した小画像2で表現した場合に、複数の小画像2の集合である所定の表示態様でサンプルの匂いが匂い画像1として表現されると共に、小画像2のそれぞれが基データの値の大きさに応じて変化するよう基データを生成する
【0019】
データ加工ステップS2は、差分算出サブステップS2-1と、対数演算サブステップS2-2と、値分類サブステップS2-3と、基データ生成サブステップS2-4と、の各サブステップを有していてもよい。
【0020】
<差分算出サブステップS2-1>
差分算出サブステップS2-1においては、測定結果取得ステップS1において取得された測定結果のそれぞれについて、極大値と、当該極大値を経た後の最初の極小値(以下「極大値直後の極小値」ともいう)と、の間の差(差分)を算出する。そして、差分(極大値とその直後の極小値)が複数存在する場合は、差分の値が最大のものを当該測定結果の差分とする。このようにして、各測定結果に対して、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた差分を得る。
【0021】
図2は、実施形態1の測定結果取得ステップにおいて取得される測定結果を表すグラフである。
図2において、縦軸は、匂いセンサ10の動作開始から0秒後における共振周波数を基準とした場合の所定時間後において測定された共振周波数の変位量[Hz]であり、横軸は、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間[秒]である。
図2においては、測定結果データベースD1に示されている測定結果のうち、センサ素子11-01、11-02、11-03についての測定結果が示されている。
図2中、センサ素子11-01の測定結果が実線で、センサ素子11-02の測定結果が破線で、センサ素子11-03の測定結果が一点破線で示されている。他のセンサ素子11-04~11-35についても、同様にグラフを作成できることは言うまでもない。
図2中、センサ素子11-01について、測定結果の差分は「22.6Hz」である。すなわち、センサ素子11-01についての測定結果において、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間14秒における極大値「9.3Hz」と、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間17秒における極小値「-13.3Hz」との間の差分である。
【0022】
差分の算出に際して、匂いセンサ10の動作開始後の経過時間の範囲を制限してもよい。例えば、匂いセンサ10の動作開始から15秒経過後にサンプルの匂いの測定を開始し、匂いセンサ10の動作開始から20秒経過後にサンプルの匂いの測定を終了した場合、差分の算出を行う経過時間の範囲を匂いセンサ10の動作開始からの経過時間が14秒から25秒までの間とすることができる。なお、この経過時間の範囲は、任意に設定することができる。
【0023】
<対数演算サブステップS2-2>
対数演算サブステップS2-2においては、差分算出サブステップS2-1において算出された差分のそれぞれについて対数演算を行い、複数のセンサ素子11のそれぞれに関連付けられた対数値を得る。対数演算に際して、底は特に制限されないが、例えば2とすることができる。なお、差分は、極大値と極小値との間の差であり、正の値(実数)である。
【0024】
<値分類サブステップS2-3>
値分類サブステップS2-3においては、対数演算サブステップS2-2において得た各対数値を値の大きさに応じて複数の領域に分類する。分類する領域の数としては、特に制限されないが、例えば、3~5領域等とすることができる。以下、3領域に分類する場合について説明する。
【0025】
値分類サブステップS2-3においては、まず、対数演算サブステップS2-2において得た各サンプルについての複数の対数値のうち、最大のものと、最小のものと、を特定する。次いで、最大の対数値と最小の対数値との間の差を3で除した場合の商を算出する。このようにして得られた商を用いて最大の対数値と最小の対数値との間の数値範囲を3等分された領域に区分することができる。すなわち、最小の対数値から最小の対数値に商を加算した値までの領域と、最小の対数値から最小の対数に商の2倍を加算した値までの領域と、最小の対数に商の2倍を加算した値から最大の対数値までの領域と、に3等分することができる。
【0026】
次いで、各センサ素子11に関連付けられた対数値のそれぞれを、3つの領域のうち、いずれかの領域に分類する。各対数値について、分類された領域を識別するためのフラグを設けてもよい。例えば、3等分された3つの領域に対して、値が小さいものから順に(1)、(2)、(3)のようにフラグを設けることができる。これにより、各センサ素子11に関連付けられた測定結果を、その値の大きさに応じて3つの段階に分類することができる。
【0027】
上述のデータ加工ステップS2について、
図3を用いて更に具体的に説明する。
図3は、実施形態1のデータ加工ステップS2の概要を説明する図である。
図3中、表(A)は、あるサンプルについて差分算出サブステップS2-1において算出された差分を示す表である。センサ素子11-01~11-35のそれぞれについて、その差分の値を示している。例えば、表(A)中、センサ素子11-01において得られた差分は「38.7」であり、センサ素子11-02において得られた差分は「27.0」である。なお、説明の便宜上、センサ素子11-11~11-34の値については、表示を省略する(後述する表(B)、表(E)についても同様)。
【0028】
次いで、対数演算サブステップS2-2により、各センサ素子11についての差分を対数演算処理する。ここでの対数演算は、下記式(1)で表される。すなわち、差分の値の絶対値を、底を2として対数演算することで、対数値を求める。
[対数値]=log2|[差分]|・・・式(1)
【0029】
表(B)は、対数演算サブステップS2-2によって求められた、各センサ素子11についての対数値を示す表である。例えば、表(B)中、センサ素子11-01において得られた差分に基づいて算出された対数値は「5.3」であり、センサ素子11-02において得られた差分に基づいて算出された対数値は「4.8」である。
【0030】
次いで、値分類サブステップS2-3により、得られた対数値に基づいて、各センサ素子11についての対数値を3つの領域に分類する。具体的には、まず、測定中のサンプルにおいて、各センサ素子11についての対数値のうち、最大のもの(最大値)と、最小のもの(最小値)とを特定する。そして、最大値と最小値との間の差を3で除した場合の商を算出する。これら特定した最大値、最小値、及び算出した商を表(C)に示す。表(C)中、特定された最大値は「6.7」であり、特定された最小値は「3.1」であり、算出された商は「1.2」である。
【0031】
これら特定した最大値、最小値、及び算出した商に基づき、各センサ素子11についての対数値を3段階に分類する。分類に際しては、表(D)に示すような分類規則に基づいて分類する。具体的には、最も小さい対数値の領域(領域1)は、3.1≦[対数値]≦4.3の範囲、次に小さい対数値の領域(領域2)は、4.3<[対数値]≦5.5の範囲、最も大きい対数値の領域(領域3)は、5.5<[対数値]≦6.7の範囲との分類規則に基づいて分類する。
【0032】
次いで、分類した結果に基づいて、各センサ素子11について、フラグを付与する。表(E)に各センサ素子11についてフラグを付与した結果を示す。領域1に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(1)を、領域2に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(2)を、領域3に該当する対数値が得られたセンサ素子11についてはフラグ(3)を付与する。例えば、表(E)中、センサ素子11-01についてはフラグ(2)が付与され、センサ素子11-30についてはフラグ(1)が付与され、センサ素子11-09についてはフラグ(3)が付与されている。
【0033】
<基データ生成サブステップS2-4>
基データ生成サブステップS2-4においては、値分類サブステップS2-3において分類された対数値(測定結果)であって、各センサ素子11に対応する対数値(測定結果)に基づき、基データを生成する。基データは、それぞれ、各センサ素子11に対応した値を有する。
【0034】
基データとは、サンプルの匂いを匂い画像1で表現するための画像データの基となるデータである。基データは、匂い画像1を形成する各画素の色や位置等の情報を示すデータ(ピクセルデータ)ではなく、小画像2の位置や大きさ、色、形状等を示すデータである。基データに基づいて作成された匂い画像1は、センサ素子11のそれぞれに対応する基データによって表現される小画像2を複数含むものである。匂い画像1は、それらの複数の小画像2の集合として、所定の表示態様によって表すことができる。小画像2のそれぞれは、対応する基データの値の大きさに応じて変化することができる。具体的には、対応する基データの値の大きさに応じて、小画像2の大きさ、色、形状を変化させることができる。すなわち、基データ生成サブステップS2-4においては、所定の表示態様でサンプルの匂いが匂い画像1として表現されるように、基データを生成する。また、基データ生成サブステップS2-4においては、小画像2のそれぞれが基データの値の大きさに応じて変化するように、基データを生成する。
【0035】
図4は、実施形態1のデータ加工ステップS2において生成された基データに基づいて表現された画像の一例である。
図4に示された匂い画像1は、35個の小画像2で構成されており、各小画像2の形状は円である。各小画像2は、各センサ素子11-01~11-35に対応して、左上から順に整列している。具体的には、
図4中、上から1行目の2つの小画像2は、左から順にセンサ素子11-01、11-02に対応しており、上から2行目の5つの小画像2は、左から順にセンサ素子11-03~11-07にそれぞれ対応している。また、センサ素子11-03(フラグ(1))に対応する小画像2は小さな円で、センサ素子11-09(フラグ(3))に対応する小画像2は大きな円で、センサ素子11-01(フラグ(2))に対応する小画像2は上記小さな円と大きな円の間の大きさの円で、表されている。
【0036】
図4においては、すべての小画像2の形状が円で表されているが、各小画像2の形状は円に限定されず、正方形、長方形、ひし形、その他不定形等であってもよい。また、すべての小画像2の形状が一致している必要はなく、各小画像2が異なる形状を有していてもよい。
図4においては、各小画像2の色は黒色で表されているが、各小画像2の色は黒色に限定されず、任意の色で表されていてもよい。また、すべての小画像2の色が一致している必要はなく、各小画像2が異なる色で表されていてもよい。
【0037】
図4においては、各小画像2が、対応する基データの値の大きさに応じて、大きさが異なるように表されている。具体的には、基データの値が大きければ、小画像2は大きく表示され、基データの値が小さければ、小画像2は小さく表示されている。ここで、各小画像2を表示する大きさは、値分類サブステップS2-3において分類した段階に応じて、複数の段階に分類されていてもよい。すなわち、値分類サブステップS2-3において、フラグ(1)、(2)、(3)の3段階に分類した場合、小画像2の大きさも3段階に分類して表示させることができる。
【0038】
所定の表示態様において、各小画像2の間の間隔は一定であること(等間隔に並んでいること)が好ましい。また、所定の表示態様において、各小画像2の位置(各小画像2の中心又は重心)は、一定であること(基データの値に応じて動かないこと)が好ましい。このように各小画像2の位置や間隔が一定であることにより、基データの値の大きさに応じて、各小画像2の大きさや形状が変化した場合に、変化の前後の匂い画像1を比較することによって、変化した小画像2を視覚的に把握し易くすることができる。なお、各小画像2の間の間隔は一定(等間隔)に限定されず、匂い画像1は、異なる形状の小画像2が複数組み合わせられたものであってもよい。
【0039】
<匂いセンサ10>
図5は、実施形態1における匂いセンサ10を模式的に示す平面図である。
図6は、
図5におけるA-A’断面を模式的に示す断面図である。匂いセンサ10は、複数のセンサ素子11を備える。センサ素子11は、それぞれ、匂い物質を吸着する物質吸着膜13と、この物質吸着膜13への匂い物質の吸着状態を検出する検出器15と、を有する。
【0040】
図6に示すように、センサ素子11は、検出器15と、検出器15の表面上に設けられた物質吸着膜13と、で構成されている。物質吸着膜13は、検出器15の表面の全体を覆っていることが好ましい。すなわち、検出器15の大きさは、物質吸着膜13の形成範囲と同じか、又は物質吸着膜13の形成範囲よりも小さいことが好ましい。なお、1つの物質吸着膜13の形成範囲内に複数の検出器15が設けられていてもよい。
【0041】
センサ素子11は、センサ基板17上に、複数配設されており、
図5に示すように3行3列の格子状に整列されている。このとき、隣り合うセンサ素子11の物質吸着膜13同士が接触していないか、又は絶縁されている。なお、センサ素子11は、センサ基板17上で、必ずしも整列されている必要はなく、ランダムに配設されていたり、3行3列以外の形態に整列されていたりしてもよい。なお、
図4に示すような、35個の小画像2を有する匂い画像1を作成するためには、各小画像2にそれぞれ対応した35個のセンサ素子11を使用することが好ましい。この場合、すべてのセンサ素子11が1枚のセンサ基板17上に配設される必要はなく、複数枚のセンサ基板17上に、それぞれ異なるセンサ素子11が配設されていてもよい。
【0042】
センサ基板17上に配設される複数のセンサ素子11は、それぞれの物質吸着膜13の性状が互いに異なっている。具体的には、複数のセンサ素子11のすべてがそれぞれ異なる組成の物質吸着膜13で構成されており、同一の性状の物質吸着膜13は存在しないことが好ましい。ここで、物質吸着膜13の性状とは、匂い物質の物質吸着膜13への吸着特性ということもできる。すなわち、同じ匂い物質(又はその集合体)であっても、異なる性状を有する物質吸着膜13には、異なる吸着特性を示すことになる。
図5及び
図6においては、便宜上、物質吸着膜13をすべて同様に示しているが、実際にはその性状が互いに異なっている。なお、各センサ素子11の物質吸着膜13の吸着特性は、必ずしもすべて異なっている必要はなく、中には、同一の吸着特性を有する物質吸着膜13が配設されたセンサ素子11が設けられていてもよい。
【0043】
物質吸着膜13の材質としては、π電子共役高分子で形成される薄膜を用いることができる。この薄膜には、ドーパントとして、無機酸、有機酸、又はイオン性液体のうち、少なくとも1種を含有させることができる。ドーパントの種類や含有量を変化させることで、物質吸着膜13の性状を変化させることができる。
【0044】
π電子共役高分子としては、特に限定されないが、ポリピロール及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリアズレン及びその誘導体等の、π電子共役高分子を骨格とする高分子が好ましい。
【0045】
π電子共役高分子が酸化状態で骨格高分子自体がカチオンとなる場合、ドーパントとしてアニオンを含有させることによって導電性を発現させることができる。なお、本発明では、ドーパントを含有させていない中性のπ電子共役高分子も物質吸着膜13として採用することができる。
【0046】
ドーパントの具体例としては、塩素イオン、塩素酸化物イオン、臭素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ホウ酸イオン等の無機イオン、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸等の有機酸アニオン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸等の高分子酸アニオン等を挙げることができる。
【0047】
また、中性のπ電子共役高分子に、食塩のような塩や、イオン性液体のような陽イオン、陰イオン両方を含むイオン性化合物を共存させることで化学平衡的にドーピングを行う方法も用いることができる。
【0048】
π電子共役高分子におけるドーパントの含有量は、π電子共役高分子を構成する2つの繰り返し単位あたり1つのドーパント単位(イオン)が入る状態を1とした場合、0.01~5の範囲、好ましくは0.1~2の範囲に調整されればよい。ドーパントの含有量を、この範囲の最低値以上とすることにより、物質吸着膜13としての特性が消失することを抑制することができる。また、ドーパントの含有量を、この範囲の最大値以下とすることにより、π電子共役高分子自体が持つ吸着特性の効果が低下し、望ましい吸着特性を有する物質吸着膜13を作成するのが困難になることを抑制することができる。また、通常は低分子量物質であるドーパントが優勢な膜となるために、物質吸着膜13の耐久性が大幅に低下することを抑制することができる。よって、ドーパントの含有量を上述の範囲とすることにより、匂い物質の検出感度を好適に維持することが可能である。
【0049】
複数のセンサ素子11において、それぞれ物質吸着膜13の吸着特性を変化させるために、異なる種類のπ電子共役高分子を用いることができる。また、同種のπ電子共役高分子を用いて、ドーパントの種類や含有量を変化させることで、異なる吸着特性を発現させてもよい。例えば、π電子共役高分子の種類や、ドーパントの種類、含有量等を変化させることにより、物質吸着膜13の疎水・親水性能を変化させることができる。
【0050】
物質吸着膜13の厚さは、吸着対象となる匂い物質の特性に応じて適宜選択することが可能である。例えば、物質吸着膜13の厚さは10nm~10μmの範囲とすることができ、50nm~800nmとすることが好ましい。物質吸着膜13の厚さが10nm未満となると、十分な感度が得られない場合がある。また、物質吸着膜13の厚さが10μmを越えると、検出器15が検出できる重量の上限を超えてしまう場合がある。
【0051】
検出器15は、物質吸着膜13の表面に吸着した匂い物質による、物質吸着膜13の物理、化学、又は電気的特性の変化を測定し、その測定データを例えば電気信号として出力する信号変換部(トランスデューサ)としての機能を有する。すなわち、検出器15は、匂い物質の物質吸着膜13の表面への吸着状態を検出する。検出器15が測定データとして出力する信号としては、電気信号、発光、電気抵抗の変化、振動周波数の変化等の物理情報が挙げられる。
【0052】
検出器15としては、物質吸着膜13の物理、化学、又は電気的特性の変化を測定するセンサであれば特に制限されず、種々のセンサを適宜用いることができる。検出器15として、具体的には、水晶振動子センサ(QCM)、表面弾性波センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、金属酸化物半導体センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等を挙げることができる。
【0053】
なお、検出器15として水晶振動子センサを用いる場合には、図示しないが、励振電極として、水晶振動子の両面に電極を設けてもよいし、高いQ値を検出するべく片面に分離電極を設けてもよい。また、励振電極は、水晶振動子のセンサ基板17側に、センサ基板17を挟んで設けられていてもよい。励振電極は、任意の導電性材料で形成することができる。励振電極の材料として、具体的には、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン、カーボン、カーボンナノチューブ等の無機材料、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等の有機材料を挙げることができる。
【0054】
検出器15の形状は、
図6に示すように、平板形状とすることができる。平板形状の平板面の形状は、
図5に示すように、四角形や正方形とすることができるが、円形や楕円形等、種々の形状とすることができる。また、検出器15の形状は、平板形上に限られず、その厚さが変動していてもよく、凹状部や凸状部が形成されていてもよい。
【0055】
検出器15が、上述の水晶振動子センサのように振動子を用いるものである場合、複数のセンサ素子11における各振動子の共振周波数を変化させることで、同一のセンサ基板17上に共存する他の振動子から受ける影響(クロストーク)を低減することが可能である。同一のセンサ基板17上の各振動子が、ある振動数に対して異なる感度を示すよう、共振周波数を任意に設計することが可能である。共振周波数は、例えば、振動子や物質吸着膜13の厚さを調節することで変化させることができる。
【0056】
センサ基板17としては、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板は、インターポーザ基板等の多層配線基板であり、水晶基板を振動させるための励振電極と実装配線、通電するための電極が任意の位置に配置されている。
【0057】
上述のような構成とすることにより、匂い物質の吸着特性がそれぞれ異なる物質吸着膜13を有するセンサ素子11を複数有する匂いセンサ10を得ることができる。これにより、ある匂い物質又はその組成を含む空気の匂いを匂いセンサ10で測定した場合、各センサ素子11の物質吸着膜13には、同様に匂い物質又はその組成が接触することになるが、各物質吸着膜13には、匂い物質がそれぞれ異なる態様で吸着される。すなわち、各物質吸着膜13において、匂い物質の吸着量が異なる。そのため、各センサ素子11において検出器15の検出結果が異なることになる。したがって、ある匂い物質又はその組成に対して、匂いセンサ10が備えるセンサ素子11(物質吸着膜13)の数だけ、検出器15による測定データが生成される。
【0058】
ある匂い物質又はその組成について測定することにより匂いセンサ10が生成する測定データのセット(以下、匂いデータという)は、通常、特定の匂い物質や匂い物質の組成に対して特異的(ユニーク)である。そのため、匂いセンサ10によって匂いデータを測定することにより、匂いを、匂い物質単独で、又は匂い物質の組成(混合物)として識別することが可能である。
【0059】
次に、匂いセンサ10を用いて匂いデータを取得する匂いデータ取得手段の構成について説明する。
図7は、実施形態1における匂い測定の機構を模式的に示す説明図である。匂い測定は、例えば匂い測定装置を用いて行うことができる。匂い測定装置は、匂いセンサ10と、匂いセンサ10に接続された演算処理装置51と、演算処理装置51に接続された記憶装置52と、を有する。匂いセンサ10によって測定された測定結果は、演算処理装置51において処理され、記憶装置52に記憶させることができる。匂い測定結果取得ステップS1を実現する匂い測定手段M1は、プログラムP1として記憶装置52に記憶され、そのプログラムを演算処理装置51に実行させることにより、匂いセンサ10を匂い測定手段として機能させることができる。なお、匂いデータの取得は、演算処理装置51による実行によらずとも、その他の構成によって実行されてもよい。
【0060】
匂い測定手段(プログラム)は、匂いセンサ10の各センサ素子11のそれぞれから得られた測定結果を、匂い画像1の各小画像2のそれぞれへと、1対1に対応付けすることができる。このとき、匂いセンサ10上での各センサ素子11の配列と、匂い画像1上での各小画像2の配列との間には、相関関係があってもよく、相関関係がなくても(すなわち、ランダムであっても)よい。例えば、各センサ素子11に配設された物質吸着膜13の物質吸着特性が近いセンサ素子11に関連付けられた小画像2が、匂い画像1上で近接した位置に配置されていてもよい。このように、各センサ素子11の物質吸着膜13の種類と各小画像2の配置との間に所定の相関関係を持たせておくことにより、その相関関係の情報を知得していない第三者が匂いセンサ10を取得したとしても、当該相関関係の情報を利用することができないようにすることができる。そのため、そのような第三者は当該相関関係に基づいた基データ及び匂い画像1を作成することができない。
【0061】
<匂い画像1の使用例>
実施形態1に係る匂い画像の基データ作成方法によって作成された基データに基づいて得られる匂い画像は、サンプルの匂いを匂い画像1で表現することを可能とするものである。すなわち、匂い画像は、サンプルの匂いを視覚的に表現し得るものである。例えば、飲食物や、空気(雰囲気)等の匂いを視覚的に表現し得るものである。
【0062】
例えば、酒類やコーヒー、紅茶等の飲料をサンプルとして作成した基データに基づいて得られた匂い画像を、それら飲料のパッケージやラベルに表示することで、飲料の容器を開封せずとも、匂い画像を参照することで、その匂いの情報を視覚的に得ることができる。もちろん、サンプルとしては、飲料に限定されず、匂い物質を含有する気体(雰囲気)であれば、特に制限なくサンプルとして採用することができる。
【0063】
以上、実施形態1に係る匂い画像の基データ作成方法について説明したが、本発明は実施形態1に限定されるものではない。例えば、データ加工ステップS2において、値分類サブステップS2-3は、必須の工程ではなく、省略することができる。その場合、匂い画像1は、基データの値の大きさに応じて、小画像2の大きさ、色、形を複数の段階に分類することなく、変化させてもよい。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0065】
(趣旨1)匂い物質を含むサンプルの匂いを画像で表現するための基データを作成する匂い画像の基データ作成方法であって、複数のセンサ素子を備える匂いセンサを用いて、前記サンプルに含まれる前記匂い物質について前記複数のセンサ素子のそれぞれにおいて測定された各測定結果を、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた状態で取得する測定結果取得ステップと、取得した前記測定結果をそれぞれ加工して、前記サンプルの匂いを画像で表現するための基データであって、前記複数のセンサ素子のそれぞれに関連付けられた前記基データを生成するデータ加工ステップと、を有し、前記複数のセンサ素子は、前記匂い物質に対する検出特性が各々異なり、前記データ加工ステップにおいて、前記基データのそれぞれについて前記センサ素子のそれぞれに対応した小画像で表現した場合に、複数の前記小画像の集合である所定の表示態様で前記サンプルの匂いが画像として表現されると共に、前記小画像のそれぞれが前記基データの値の大きさに応じて変化するよう前記基データを生成する、匂い画像の基データ作成方法を趣旨とする。
【0066】
これによれば、匂いセンサを用いて測定した匂いの測定結果を、視覚的に把握し易くするべく匂いを画像で表現することができる。
【0067】
(趣旨2)前記所定の表示態様は、前記基データのそれぞれに対応する複数の小画像が互いに所定の間隔を有しつつ所定の大きさ、色、及び形状で表される表示態様であってもよい。
【0068】
(趣旨3)前記データ加工ステップにおいて、前記基データを、前記基データの値に応じて、複数の段階に分類し、分類された前記複数の段階の各々に応じて、前記小画像の大きさ、色、及び形状の少なくとも1つを変化させてもよい。
【0069】
(趣旨4)前記複数のセンサ素子は、前記匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記匂い物質の前記物質吸着膜への吸着状態を検出する検出器と、を各々有し、前記物質吸着膜の前記匂い物質に対する吸着特性が、前記複数のセンサ素子において各々異なっていてもよい。
【0070】
(趣旨5)趣旨1から趣旨4のいずれか1つに記載の匂い画像の基データ作成方法によって作成された前記基データに基づいて表現される匂い画像の作成方法も趣旨とする。
【符号の説明】
【0071】
1:匂い画像 2:小画像
10:匂いセンサ 11:センサ素子
13:物質吸着膜 15:検出器
17:センサ基板 19:センサ面
20:撮像装置 21:レンズ部
51:演算処理装置 52:記憶装置
D1:測定結果データベース