(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096976
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】トルク変動吸収ダンパー
(51)【国際特許分類】
F16F 15/136 20060101AFI20220623BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20220623BHJP
F16F 15/126 20060101ALI20220623BHJP
F16H 55/36 20060101ALN20220623BHJP
【FI】
F16F15/136 Z
F16F15/12 L
F16F15/126 B
F16F15/126 D
F16F15/12 S
F16H55/36 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210293
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】濱上 涼太郎
【テーマコード(参考)】
3J031
【Fターム(参考)】
3J031AA04
3J031BA09
3J031CA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転軸の回転数が高い場合であってもカップリングゴムとダンパーステー部とが干渉しないトルク変動吸収ダンパーを提供する。
【解決手段】ハブ2と、ダンパーステー部12、その外周筒部の外周側に配置されたダンパゴム13、およびさらに外周側に配置されたダンパマス14を備えるダンパー部と、ダンパーステー部の内周筒部の外周側かつ前記外周筒部の内周側に配置された円筒状のカップリングゴム23、およびその外周側に配置され、カップリングゴムに結合されたプーリ24を備えるカップリング部とを有するトルク変動吸収ダンパー1であって、カップリングゴムは特定材料からなり、カップリングゴムの外周面とダンパーステー部の外周筒部の内周面との空間の径方向の幅である径方向クリアランスをC[mm]とし、カップリングゴムの回転軸方向の長さである脚長をX[mm]としたときに、これらが特定の式を満たすトルク変動吸収ダンパー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定されるハブと、
前記ハブに嵌合されたダンパーステー部、前記ダンパーステー部の外周筒部の外周側に配置されたダンパゴム、および前記ダンパゴムの外周側に配置されたダンパマスを備えるダンパー部と、
前記ダンパーステー部の内周筒部の外周側かつ前記外周筒部の内周側に配置された円筒状のカップリングゴム、および前記カップリングゴムの外周側に配置され、前記カップリングゴムに結合されたプーリを備え、前記ハブに直接的または間接的に固定されたカップリング部と、
を有するトルク変動吸収ダンパーであって、
前記カップリングゴムはEPDMを主成分とするゴム組成物からなり、ゴム温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.05以上であり、加振振幅が±0.5degであり、カップリングバネ定数が50~200Nm/radであり、
前記カップリングゴムの外周面と前記ダンパーステー部の前記外周筒部の内周面との空間の径方向の幅である径方向クリアランスをC[mm]とし、前記カップリングゴムの前記回転軸方向の長さである脚長をX[mm]としたときに、次の式1を満たすトルク変動吸収ダンパー。
式1:C≦0.0067X2-0.001X+0.9
【請求項2】
さらに次の式2を満たす、請求項1に記載のトルク変動吸収ダンパー。
式2:C≧0.0011X2+0.002X+0.08
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルク変動吸収ダンパーに関する。本発明のトルク変動吸収ダンパーは、例えば、自動車補機や制御装置、電子装置等を防振支持するために用いられる。また、本発明のトルク変動吸収ダンパーは家電や電子機器等の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来のトルク変動吸収ダンパーとして、
図8に示すような、ハブ102にダンパゴム104を介してダンパマス106が結合したダンパー部108と、ハブ102にカップリングアングル110およびカップリングゴム112を介してプーリ114が結合したカップリング部116とを備えるトルク変動吸収ダンパー100が挙げられる。
このようなトルク変動吸収ダンパーは、例えば回転変動の大きいディーゼルエンジンに適用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
昨今、回転数をより高めることができるエンジンの需要が高まっている。それに伴い、高回転数に耐え得るトルク変動吸収ダンパーが求められている。
【0004】
ここで回転軸の回転数が高まった場合、トルク変動吸収ダンパーにおけるカップリングゴムは遠心力によって外周側にたわむ。この結果、カップリングゴムがその外周側に存するダンパーステー部の一部と干渉してしまい、何らかの不都合が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、回転軸の回転数が高い場合であってもカップリングゴムとその外周側に存するダンパーステー部とが干渉しないトルク変動吸収ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(2)である。
(1)回転軸に固定されるハブと、
前記ハブに嵌合されたダンパーステー部、前記ダンパーステー部の外周筒部の外周側に配置されたダンパゴム、および前記ダンパゴムの外周側に配置されたダンパマスを備えるダンパー部と、
前記ダンパーステー部の内周筒部の外周側かつ前記外周筒部の内周側に配置された円筒状のカップリングゴム、および前記カップリングゴムの外周側に配置され、前記カップリングゴムに結合されたプーリを備え、前記ハブに直接的または間接的に固定されたカップリング部と、
を有するトルク変動吸収ダンパーであって、
前記カップリングゴムはEPDMを主成分とするゴム組成物からなり、ゴム温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.05以上であり、加振振幅が±0.5degであり、カップリングバネ定数が50~200Nm/radであり、
前記カップリングゴムの外周面と前記ダンパーステー部の前記外周筒部の内周面との空間の径方向の幅である径方向クリアランスをC[mm]とし、前記カップリングゴムの前記回転軸方向の長さである脚長をX[mm]としたときに、次の式1を満たすトルク変動吸収ダンパーである。
式1:C≦0.0067X2-0.001X+0.9
(2)さらに次の式2を満たす、上記(1)に記載のトルク変動吸収ダンパー。
式2:C≧0.0011X2+0.002X+0.08
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転軸の回転数が高い場合であってもカップリングゴムとその外周側に存するダンパーステー部とが干渉しないトルク変動吸収ダンパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のトルク変動吸収ダンパーを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略斜視図である。
【
図2】ハブを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図である。
【
図3】ダンパー部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図である。
【
図4】カップリング部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図である。
【
図5】
図1に示した本発明のトルク変動吸収ダンパーを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略斜視図の一部拡大図である。
【
図6】
図4に示したカップリング部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図の一部拡大図であって、カップリングゴムが外周側にたわんだ状態を示す図である。
【
図7】カップリングゴムの脚長(X)と径方向変位量(Y)との関係を示すグラフである。
【
図8】従来のトルク変動吸収ダンパーの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のトルク変動吸収ダンパーについて説明する。
本発明のトルク変動吸収ダンパーは、回転軸に固定されるハブと、前記ハブに嵌合されたダンパーステー部、前記ダンパーステー部の外周筒部の外周側に配置されたダンパゴム、および前記ダンパゴムの外周側に配置されたダンパマスを備えるダンパー部と、前記ダンパーステー部の内周筒部の外周側かつ前記外周筒部の内周側に配置された円筒状のカップリングゴム、および前記カップリングゴムの外周側に配置され、前記カップリングゴムに結合されたプーリを備え、前記ハブに直接的または間接的に固定されたカップリング部と、を有するトルク変動吸収ダンパーであって、前記カップリングゴムはEPDMを主成分とするゴム組成物からなり、ゴム温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.05以上であり、加振振幅が±0.5degであり、カップリングバネ定数が50~200Nm/radであり、前記カップリングゴムの外周面と前記ダンパーステー部の前記外周筒部の内周面との空間の径方向の幅である径方向クリアランスをC[mm]とし、前記カップリングゴムの前記回転軸方向の長さである脚長をX[mm]としたときに、次の式1を満たすトルク変動吸収ダンパーである。
式1:C≦0.0067X2-0.001X+0.9
【0010】
本発明のトルク変動吸収ダンパーについて図を用いて説明する。
図1は本発明のトルク変動吸収ダンパーを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略斜視図であり、
図2はハブを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図であり、
図3はダンパー部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図であり、
図4はカップリング部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図である。
ただし、ここで図に挙げる態様は、本発明のトルク変動吸収ダンパーの例示である。本発明のトルク変動吸収ダンパーは、図に示す態様に限定されない。
【0011】
図1に示す本発明のトルク変動吸収ダンパー1は、
図2に示すハブ2と、
図3に示すダンパー部11と、
図4に示すカップリング部21とを有する。
【0012】
図1~4において、回転軸の中心線ωに平行な方向を、単に軸方向ともいう。また、軸方向における一方をA側、他方をB側ともいう。本発明のトルク変動吸収ダンパーを車両用エンジンのクランクシャフトに取り付けた場合、通常、A側が車両前方側、B側が車両後方側となる。
【0013】
<ハブ>
ハブ2は、
図1、
図2に示すように、車両用エンジンのクランクシャフト等の回転軸(図示せず)に固定される円筒状の内周筒部2aを備える。
また、内周筒部2aにおける軸方向A側の端部から径方向外側へ向けて端面部2bが延びている。端面部2bは板状リングの形状を備えている。
また、端面部2bの外周端部から軸方向A側へ向けて外周筒部2cが延びている。外周筒部2cは円筒状の形状を備えている。
また、外周筒部2cの軸方向A側の端部から径方向外方へ向けて外向きフランジ部2dが延びている。フランジ部2dはリング状の形状を備えている。
内周筒部2a、端面部2b、外周筒部2cおよびフランジ部2dは連続していて一体に成形されていることが好ましい。
【0014】
<ダンパー部>
ダンパー部11は、
図1、
図3に示すように、ダンパーステー部12と、ダンパゴム13と、ダンパマス14とを備える。
【0015】
ダンパーステー部12は内周側に存する円筒状の内周筒部12aと、その外周側に存する円筒状の外周筒部12cと、内周筒部12aと外周筒部12cとを軸方向B側でつなぐ端面部12bとを備える。
内周筒部12a、端面部12bおよび外周筒部12cは連続していて一体に成形されていることが好ましい。
【0016】
内周筒部12aは円筒状であり、その中心軸は回転軸の中心軸ωと原則一致する。また、
図3のような断面において内周筒部12aの内周面および外周面は中心軸ωと平行となる。
内周筒部12aの内周面がハブ2の外周筒部2cの外周面に付くように嵌合されることによって、ダンパー部11はハブ2に嵌合される。
【0017】
なお、本発明において「平行」とは完全平行でなくてよく、平行となるように配置されていることを意味する。例えば製造誤差等によって対象の2線が完全平行になっていない場合、それら2線は本発明において「平行」であると考える。
図1~
図6のような断面図において、対象の2線がなす角度が3度程度以内(好ましくは2度以内、より好ましくは1度以内)であれば、それらは「平行」といえる。
【0018】
図3に示すように、端面部12bは、内周筒部12aの軸方向B側の端部から径方向外方へ向けて延びている。
【0019】
外周筒部12cは円筒状であり、その中心軸は回転軸の中心軸ωと原則一致する。また、
図3のような断面において外周筒部12cの内周面および外周面は中心軸ωと平行となる。
図3に示すように、外周筒部12cは、端面部12bの外周端部から軸方向A側へ向けて延びている。
【0020】
ダンパゴム13は、ダンパーステー部12の外周筒部12cの外周側に配置されている。
ダンパゴム13は円筒状に成形されたゴムであり、ダンパーステー部12の外周筒部12cの外周面に密着するように圧入嵌合されていることが好ましい。
【0021】
ダンパマス14はダンパゴム13の外周側に配置されている。
ダンパマス14は円筒状であり、ダンパゴム13の外周面に密着するように嵌合されていることが好ましい。
図1、
図3に示す態様の場合、ダンパマス14の外周面に無端ベルトを巻架するためのプーリ溝14aが設けられている。
【0022】
<カップリング部>
カップリング部21は、
図1、
図4に示すように、カップリングゴム23と、プーリ24とを備える。本発明のトルク変動吸収ダンパーは、
図1、
図4に示す態様のように、さらにカップリングアングル22を備えることが好ましい。
【0023】
カップリングアングル22は、ダンパーステー部12の内周筒部12aの外周側に嵌合される筒状部22aを備える。カップリングアングル22の筒状部22aがダンパーステー部12の内周筒部12aの外周面に付き、内周筒部12aの内周面がハブ2の外周筒部2cの外周面に付くことで、カップリング部21はダンパーステー部12の内周筒部12aを介して間接的にハブ2に嵌合される。
本発明のトルク変動吸収ダンパーでは、カップリング部21がハブ2に直接的に固定されていてもよい。
【0024】
カップリングアングル22における筒状部22aの軸方向B側の端部から径方向外方へ向けて、外向きのフランジ部22bが延びている。筒状部22aとフランジ部22bとは連続していて一体に成形されていることが好ましい。
【0025】
カップリングゴム23は円筒状であり、ダンパーステー部12の内周筒部12aの外周側かつ外周筒部12cの内周側に配置されている。
カップリングゴム23は、その軸方向B側の端部23bにおいて、カップリングアングル22のフランジ部22bに接着(加硫接着)されている。
【0026】
ここでカップリングゴム23は、エチレン・プロピレン・ジエン三元コポリマー(EPDM)を主成分とし、その他に好ましくはカーボンブラックやプロセスオイルを含むゴム組成物を、例えば従来公知の方法によって円筒形等に加硫成形することによって得ることができる。
ゴム組成物は配合量としてEPDMを10~60質量以上含むことが好ましく、15~55質量%含むことがより好ましく、20~50質量%含むことがより好ましく、30~50質量%含むことがさらに好ましい。
また、EPDM100質量部に対してカーボンブラックが40~130質量部であることが好ましく、50~100質量部であることがより好ましく、60~80質量部であることがさらに好ましい。
ここでゴム組成物は、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、過酸化物、架橋剤等を含んでもよい。
【0027】
また、カップリングゴム23は、ゴム温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)が0.05以上であり、0.05~0.15であることが好ましく、0.07~0.12であることがより好ましい。
なお、ゴム温度は、カップリングゴムの表面を放射温度計によって測定して得た値を意味するものとする。
【0028】
ここで、ゴム温度が60±5℃のときの損失係数(tanδ)は、固定捩り試験機によるスイープ法(固有振動数測定)によって測定して得られる値を意味するものとする。なお、スイープ法による測定は、以下の条件において行うものとする。
・加振周波数:5~20Hz
・加振ステップ:1Hz/秒
・加振振幅:±0.05deg
・雰囲気温度:60±3℃(恒温槽による加熱)
【0029】
また、カップリングゴム23は、カップリングゴム定数が50~200Nm/radのものであり、80~150Nm/radであることが好ましく、100~120Nm/radであることがより好ましい。
【0030】
ここで、カップリングゴム定数は、固定捩り試験機によるスイープ法(固有振動数測定)によって測定して得られる値を意味するものとする。なお、スイープ法による測定は、以下の条件において行うものとする。
・加振周波数:5~20Hz
・加振ステップ:1Hz/秒
・加振振幅:±0.05deg
・雰囲気温度:60±3℃(恒温槽による加熱)
【0031】
プーリ24は、カップリングゴム23の外周側に配置されている。
プーリ24は、カップリングゴム23における軸方向A側の端部23aにおいて、カップリングゴム23に接着(加硫接着)されている。
プーリ24は、ダンパマス14の外周側に配置される筒状部24aを備え、筒状部24aの外周面に無端ベルトを巻架するためのプーリ溝24bが設けられている。また、筒状部24aの軸方向A側の端部から径方向内方へ向けて端面部24cが延びている。さらに、端面部24cの内周端部に内向きフランジ部24dが段差状に形成されていて、この内向きフランジ部24dの軸方向B側の端面にカップリングゴム23のA側の端部23aが接着されている。
筒状部24a、端面部24cおよびフランジ部24dは連続していて一体に成形されていることが好ましい。
【0032】
このような構成の本発明のトルク変動吸収ダンパー1は、回転軸に取り付けられるハブ2にダンパゴム13を介してダンパマス14が連結されることによりダンパー部11が構成されているため、回転軸の捩り共振による振動を低減することができる。また、ハブ2にカップリングゴム23を介してプーリ24が連結されることによりカップリング部21が構成されているため、回転軸の回転変動(トルク変動)による振動伝達を低減することができる。
したがって、捩り振動および回転変動の双方を有効に低減することが可能である。
【0033】
なお、
図1~
図4を例示して説明した本発明のトルク変動吸収ダンパーにおいて、各部位の材質、形状、大きさ等は、特に言及されていない限り、限定されない。例えば従来公知の材質、形状、大きさのものを用いることができる。
【0034】
本発明者は、上記のような態様の本発明のトルク変動吸収ダンパーを回転軸に取り付けて高回転数で回転させたときに、カップリングゴムが遠心力に外周側にたわむ量を測定した。
具体的には、脚長、厚さ、外径が異なる36種類のカップリングゴムを用意し、各々を備えるトルク変動吸収ダンパーを用いた実験を行った。
【0035】
なお、トルク変動吸収ダンパーは、そのカップリングゴムの形状に基づいて、トルク変動吸収ダンパーにおけるその他の部位の形状も変更した。ただし、その形状の変更は最小限とした。具体的には、カップリングゴムの脚長が相対的に長くなった場合、その分、ダンパーステー部、ハブが軸方向に長いものを用いた。また、カップリングゴムの外径が大きい場合、その分、カップリング部における各要素は径が大きいものを用いた。ただし、カップリングゴムの厚さが相対的に厚くなった場合、カップリング部およびダンパー部における各要素は径が同じものを用いた。
【0036】
ここでカップリングゴムの脚長、厚さおよび外径について、
図5を用いて説明する。
図5は、
図1に示した、本発明のトルク変動吸収ダンパーを回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略斜視図の一部拡大図である。
【0037】
カップリングゴム23の脚長(X)は、
図5に示すような断面図において、カップリングゴムの軸方向における平均長さを意味するものとする。
また、カップリングゴム23の厚さ(H)は、
図5に示すような断面図において、カップリングゴムの径方向における厚さの最大値を意味するものとする。
また、カップリングゴム23の外径(R)は、
図5に示すような断面において、カップリングゴムの外径の最大値を意味するものとする。
【0038】
さらに、
図5に示すような断面図において、カップリングゴム23の外周面とダンパーステー部12の外周筒部12cの内周面との空間の径方向の幅の最小値を径方向クリアランスC[mm]とする。
【0039】
具体的には、表1に示す態様の36種類のカップリングゴムを備えたトルク変動吸収ダンパーについて、各々、プーリー回転試験を行った。
プーリー回転試験によってトルク変動吸収ダンパーを高回転数で回転させると、
図6に示すように、カップリングゴムが遠心力によって外周側にたわむ。このたわんだ量である径方向変位量(Y)を測定した。なお、
図6は
図4に示したカップリング部を回転軸の中心線を含む面で切断した場合の概略断面図の一部拡大図であって、カップリングゴムが外周側にたわんだ状態を示す図である。
【0040】
プーリー回転試験は株式会社石戸電機製作所製のプーリー回転試験機を用いて行う試験である。カップリングゴムをハブ、ダンパプーリを模擬した試験用治具に圧入した状態のものをプーリー回転試験機の回転軸の先端に取り付け回転させる。このとき、ダンパプーリを模擬した試験用治具の外周側にねじ穴を空け、ボルトのねじ部が内周側に向くように締める。試験完了後、カップリングゴムと試験用治具を分解し、カップリングゴムの外周にボルトとの干渉有無を確認するという態様のものである。干渉有りの場合、カップリングゴムとボルトの距離が径方向変位量となる。
このような試験機を用いて、以下の条件でプーリー回転試験を行った。
雰囲気温度:23±3℃
補機トルク:0Nm
ベルト張力:250N
回転数:5900rpm
試験時間:1分~10分
【0041】
結果を表1に示す。また、表1中の「カップリングゴムの脚長」と「径方向変位量」との関係を
図7に示す。
【0042】
【0043】
図7に示すように、カップリングゴム脚長の値が大きくなると径方向変位量も大きくなる傾向があることが分かった。そして、36個のデータ(プロット)における最も上側に存在するプロットをつなぐ曲線は、径方向変位量をY[mm]、カップリングゴム脚長をX[mm]としたとき、Y=0.0067X
2-0.001X+0.9と表すことができることが分かった。つまり、36種類のトルク変動吸収ダンパーにおける径方向変位量[mm]は、カップリングゴム脚長に依存し、0.0067X
2-0.001X+0.9の計算結果以下となるといえる。
【0044】
このような実験結果より、カップリングゴムの外周面とダンパーステー部の外周筒部の内周面との径方向クリアランス(C[mm])が0.0067X2-0.001X+0.9の計算結果以下であっても、すなわち、カップリングゴム脚長をX[mm]、径方向クリアランスをC[mm]として下記式1を満たす場合であっても、カップリングゴムの厚さと外径を調整することで、高回転数で回転させたとしてもカップリングゴムがダンパーステー部に干渉し難い、小型の変動吸収ダンパーが得られると言える。
式1:C≦0.0067X2-0.001X+0.9
【0045】
カップリングゴム脚長(X)は、10~60mmであってよく、30~35mmであってもよい。
【0046】
一方、本発明のトルク変動吸収ダンパーは式1を満たしたうえで、さらに次の式2を満たすことが好ましい。この場合、高回転数で回転させたとしても、カップリングゴムの厚さと外径を調整することで、カップリングゴムがダンパーステー部に干渉し難い。
式2:C≧0.0011X2+0.002X+0.08
【0047】
径方向クリアランス(C)の範囲は、例えば5~15mmであってよい。
【符号の説明】
【0048】
2 ハブ
2a 内周筒部
2b 端面部
2c 外周筒部
2d フランジ部
11 ダンパー部
12 ダンパーステー部
12a 内周筒部
12b 端面部
12c 外周筒部
13 ダンパゴム
14 ダンパマス
14a プーリ溝
21 カップリング部
22 カップリングアングル
22a 筒状部
22b フランジ部
23 カップリングゴム
22a 筒状部
23b 端部
24 プーリ
24a 筒状部
24b プーリ溝
24c 端面部
24d フランジ部
100 従来の回転変動吸収ダンパー
102 ハブ
104 ダンパゴム
106 ダンパマス
108 ダンパー部
110 カップリングアングル
112 カップリングゴム
114 プーリ
116 カップリング部
ω 中心軸
X カップリングゴムの脚長
H カップリングゴムの厚さ
R カップリングゴムの外径
C 径方向クリアランス