(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097009
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】クラッチユニット
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20220623BHJP
F16D 41/066 20060101ALI20220623BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
F16D41/066
B60N2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210345
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】シロキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】三笠 訓寛
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BB21
3B087BC15
3B087BC28
(57)【要約】
【課題】第1クラッチ部の内輪を中立位置に戻すときの回転による外輪の連れ回りを確実に防止し、動力伝達効率の低下を回避する。
【解決手段】クラッチユニット1は、静止系(ハウジング40)と、出力軸30と、第1クラッチ部10と、第2クラッチ部20とを有する。第1クラッチ部10は、内輪13を含む入力側回転体、外輪14を含む出力側回転体、及びこれらの間に配された複数の円筒ころ15を有する。クラッチユニット1は、第1クラッチ部10の出力側回転部材に回転抵抗を付与する回転抑制部材70と、ハウジング40に対する回転抑制部材70の回転を規制する回り止め機構80(回転抑制部材70の凹部71及びハウジング40の延在部41)とを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止系と、
前記静止系に対して回転可能な出力軸と、
入力側回転体、出力側回転体、及びこれらの間に配された複数の係合子を有し、前記入力側回転体を中立位置から回転させたときの回転トルクを前記出力側回転体に伝達すると共に、前記入力側回転体を中立位置に戻すときの回転トルクを遮断する第1クラッチ部と、
前記第1クラッチ部の出力側回転体の回転トルクを前記出力軸に伝達すると共に、前記出力軸から前記第1クラッチ部の出力側回転体への回転トルクを遮断する第2クラッチ部と、
前記出力側回転部材に回転抵抗を付与する回転抑制部材と、
前記静止系に対する前記回転抑制部材の回転を規制する回り止め機構とを備えたクラッチユニット。
【請求項2】
前記回り止め機構が、前記静止系に設けられた係合部と、前記回転抑制部材に設けられ、前記係合部と周方向に嵌合する被係合部とを有する請求項1に記載のクラッチユニット。
【請求項3】
前記係合部と前記被係合部とを周方向の締め代をもって当接させた請求項2に記載のクラッチユニット。
【請求項4】
前記回り止め機構が、前記静止系に設けられた複数の係合部と、前記回転抑制部材に設けられ、前記複数の係合部と周方向に嵌合する複数の被係合部とを有し、
前記複数の係合部の周方向ピッチと前記複数の被係合部の周方向ピッチとを異ならせた請求項1に記載のクラッチユニット。
【請求項5】
前記第1クラッチ部が、前記入力側回転体と前記出力側回転体との間に設けられた楔すきまと、前記係合子を前記楔すきまの幅狭側に付勢する付勢部材とを有する請求項1~4の何れか1項に記載のクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、車両のシートリフタ装置に設けられるクラッチユニットが示されている。このクラッチユニットは、
図10に示すように、入力側クラッチ部150と出力側クラッチ部160とを有する。入力側クラッチ部150は、内輪151と、外輪152と、円筒ころ155とを有する。出力側クラッチ部160は、内輪161と、外輪162と、円筒ころ165とを有する。入力側クラッチ部150の内輪151には、操作ブラケット154及び操作板122を介して、図示しない操作レバーが固定される。入力側クラッチ部150の内輪151、操作ブラケット154、操作板122、及び操作レバーは一体に回転し、これらを中立位置に復帰する方向に付勢する戻しバネ123が設けられる。
【0003】
操作レバーを操作して、入力側クラッチ部150の内輪151を中立位置から一方又は他方に回転させると、この回転トルクが円筒ころ155を介して外輪152に伝達され、外輪152が回転する。この回転トルクが、出力側クラッチ部160の解除ブラケット164及び内輪161を介して出力軸130に伝達され、出力軸130が回転駆動される。
【0004】
一方、操作レバーを操作する力を解放すると、戻しバネ123の弾性力により入力側クラッチ部150の内輪151が中立位置に戻る方向に回転する。この場合、入力側クラッチ部150の円筒ころ155を介した外輪152と内輪151との回転方向の係合が解除され、回転トルクが遮断される。これにより、内輪151が戻り方向に回転して中立位置に復帰する一方で、外輪152及びこれと連動する解除ブラケット164、内輪161、出力軸130は戻り方向に回転することなくその場に止まる。従って、操作レバーの回転及び戻しの操作を繰り返すことで、出力軸130を一方向(例えば、シートを上昇させる方向)に間欠的に回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10のクラッチユニットでは、上述のとおり、操作レバーを中立位置に戻すときに、入力側クラッチ部150の内輪151は戻り方向に回転するが、この回転が外輪152に伝達されないため、外輪152は回転しない。しかし、このとき、入力側クラッチ部150の内輪151と円筒ころ155との接触部、及び、円筒ころ155と外輪152との接触部における摩擦力により、内輪151の戻り方向の回転に伴って外輪152が連れ回ることがある。この場合、次に操作レバーを中立位置から回転させるときに、クラッチユニットに内部ロスが発生し、動力の伝達効率が低下する。
【0007】
そこで、上記特許文献1のクラッチユニットでは、入力側クラッチ部150の外輪152に回転抵抗を付与するウェーブワッシャ153を設けている。具体的には、入力側クラッチ部150の外輪152と操作ブラケット154との軸方向間にウェーブワッシャ153を配置している。ウェーブワッシャ153で外輪152及び解除ブラケット164の一体品を出力側(図中左側)に付勢して、この一体品を、操作レバーを中立位置に戻すときに回転しない部材(例えば出力側クラッチ部160の円筒ころ165)に押し付ける。これにより、入力側クラッチ部150の外輪152に回転抵抗が付与され、内輪151の戻り方向の回転に伴う外輪152の連れ回りを防止できる。
【0008】
しかし、ウェーブワッシャ153は、操作ブラケット154及び外輪152に押し付けられているため、操作ブラケット154の戻り方向の回転がウェーブワッシャ153を介して外輪152に伝達され、外輪152が連れ回ってしまう恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は、上記のようなクラッチユニットにおいて、入力側クラッチ部(第1クラッチ部)の内輪を中立位置に戻すときの回転による外輪の連れ回りを確実に防止し、動力伝達効率の低下を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、静止系と、前記静止系に対して回転可能な出力軸と、入力側回転体、出力側回転体、及びこれらの間に配された複数の係合子を有し、前記入力側回転体を中立位置から回転させたときの回転トルクを前記出力側回転体に伝達すると共に、前記入力側回転体を中立位置に戻すときの回転トルクを遮断する第1クラッチ部と、前記第1クラッチ部の出力側回転体の回転トルクを前記出力軸に伝達すると共に、前記出力軸から前記第1クラッチ部の出力側回転体への回転トルクを遮断する第2クラッチ部と、前記出力側回転部材に回転抵抗を付与する回転抑制部材と、前記静止系に対する前記回転抑制部材の回転を規制する回り止め機構とを備えたクラッチユニットを提供する。
【0011】
上記のように、本発明では、回り止め機構により、静止系に対する回転抑制部材の回転を規制する。これにより、第1クラッチ部の入力側回転体を中立位置に戻す方向に回転させたときに、入力側回転体の回転が回転抑制部材を介して出力側回転体に伝達されて出力側回転体が連れ回る事態を防止できる。
【0012】
回り止め機構は、例えば、静止系に設けられた係合部と、回転抑制部材に設けられ、係合部と周方向に嵌合する被係合部とを有する構成とすることができる。係合部と被係合部とが周方向で係合することで、静止系に対する回転抑制部材の回転が規制される。この場合、係合部と被係合部との間に周方向(回転方向)の隙間があると、この隙間の分だけ回転抑制部材が回転し、これに伴って入力側回転体が僅かに回転する恐れがある。従って、係合部と被係合部とを周方向の締め代をもって嵌合させて、両者の間の周方向隙間を0にすることが好ましい。
【0013】
回り止め機構は、静止系に設けられた複数の係合部と、回転抑制部材に設けられ、複数の係合部と周方向に嵌合する複数の被係合部とを有していてもよい。この場合、複数の係合部の周方向ピッチと複数の被係合部の周方向ピッチとを異ならせることで、係合部と被係合部とを周方向の締め代をもって当接させることができる。
【0014】
第1クラッチ部は、例えば、入力側回転体と出力側回転体との間に設けられた楔すきまと、係合子を楔すきまの幅狭側に付勢する付勢部材とを有することができる。常時は、付勢部材により係合子が楔すきまの幅狭側に押し込まれることで、入力側回転体と出力側回転体とが係合子を介してトルク伝達可能な状態とされる(いわゆる、常時噛合い式のクラッチ)。この場合、入力側回転体を中立位置に戻すときに、係合子を介して出力側回転体が連れ回りやすいため、上記の回転抑制部材及び回り止め機構を設けることが特に有効となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のクラッチユニットによれば、第1クラッチ部の入力側回転体を中立位置に戻すときに、回転抑制部材を介して出力側回転体が連れ回る事態を防止することができる。これにより、クラッチユニットの内部ロスを低減して、動力伝達効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の一実施形態に係るクラッチユニットの断面図である。
【
図3】上記クラッチユニットの第1クラッチ部における断面図(
図2のA-A断面図)であり、操作レバーが中立位置にある状態を示す。
【
図4】上記クラッチユニットの第2クラッチ部における断面図(
図2のB-B断面図)であり、操作レバーが中立位置にある状態を示す。
【
図5】
図3の断面図において、操作レバーを操作してトルクを伝達している状態を示す。
【
図6】
図4の断面図において、操作レバーを操作してトルクを伝達している状態を示す。
【
図7】
図2のC-C断面図であり、回転抑制部材の回り止め機構を示す。
【
図8】回転抑制部材の回り止め機構の他の例を示す断面図である。
【
図9】回転抑制部材の回り止め機構のさらに他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、自動車のシートリフタ装置に組み込まれたクラッチユニットを例示するが、本発明に係るクラッチユニットは、自動車のシートリフタ装置以外にも適用可能である。
【0018】
図1に、自動車の座席シート50の座面高さを調整するシートリフタ装置60を示す。シートリフタ装置60は、操作レバー61と、クラッチユニット1と、リンク部材62、63とを有する。リンク部材62,63の下端は、車体に対して前後方向にスライド可能に設けられたスライド部材64に回動自在に枢着されている。リンク部材62,63の上端は、座席シート50のフレームに回動自在に枢着されている。リンク部材62の上端には、セクターギヤ65が一体的に設けられる。クラッチユニット1の出力軸30には、セクターギヤ65と噛み合うピニオンギヤ部31が設けられる。
【0019】
例えば、座席シート50の座面を低くする場合、操作レバー61を下側へ揺動させることにより、クラッチユニット1の出力軸30が回転し、出力軸30に設けられたピニオンギヤ部31が時計方向(
図1の矢印方向)に回動する。そして、ピニオンギヤ部31と噛合するセクターギヤ65が反時計方向(
図1の矢印方向)に揺動し、リンク部材62、63が共に傾倒して座席シート50の座面が低くなる。
【0020】
操作レバー61を押し下げる力を解放すると、操作レバー61が上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。このときの回転トルクは、クラッチユニット1によって遮断され、出力軸30及びピニオンギヤ部31は回転せず、座席シート50の座面の位置が維持される。その後、操作レバー61の押し下げ及び解放を繰り返すことで、座面が所望の位置まで降下する。なお、操作レバー61を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で座席シート50の座面が高くなる。
【0021】
また、座席シート50に乗員が着座して出力軸30に回転トルクが逆入力されると、この逆入力トルクがクラッチユニット1により遮断され、座席シート50の座面高さは保持される。
【0022】
以下、クラッチユニット1の構造を詳しく説明する。
【0023】
クラッチユニット1は、
図2に示すように、第1クラッチ部10と、第2クラッチ部20と、これらの内周に挿通された出力軸30と、ハウジング40とを備える。ハウジング40は、座席シート50のフレームに固定された静止系であり、このハウジング40に対して出力軸30が回転可能に設けられる。以下、出力軸30の軸心方向を「軸方向」と言い、軸方向で第1クラッチ部10側(
図2の右側)を「入力側」、第2クラッチ部20側(
図2の左側)を「出力側」と言う。
【0024】
第1クラッチ部10は、操作レバー61(
図1参照)から入力される回転トルクの伝達・遮断を制御する。第2クラッチ部20は、第1クラッチ部10からの回転トルクを出力軸30へ伝達すると共に、出力軸30から逆入力される回転トルクを遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0025】
第1クラッチ部10は、
図2および
図3に示すように、入力側回転体としての側板11、操作ブラケット12、及び内輪13と、出力側回転体としての外輪14と、複数の係合子としての円筒ころ15と、付勢部材としてのころ付勢ばね16と、センタリングばね17とを備える。
【0026】
図2に示すように、側板11に設けられた穴11aに操作ブラケット12の端部が挿入され、この端部がかしめ等により側板11に固定される。内輪13の入力側の端面に設けられた突起13bが、操作ブラケット12に設けられた穴12bに嵌合挿入される。以上により、側板11、操作ブラケット12、及び内輪13が一体化される。側板11には操作レバー61(
図1参照)が取り付けられる。操作レバー61を操作することで、側板11、操作ブラケット12、及び内輪13が一体に回転する。
【0027】
内輪13の外周には、複数のカム面13aが設けられる(
図3参照)。内輪13のカム面13aと、外輪14の円筒面状の内周面14aとの間には、周方向一方又は他方に行くにつれて径方向隙間が狭くなる楔すきま18が形成される。円筒ころ15は、内輪13と外輪14との間に配置される。隣り合う円筒ころ15の間には、ころ付勢ばね16と、ハウジング40に設けられた延在部41とが、周方向で交互に配される。ころ付勢ばね16により、隣接する一対の円筒ころ15が互いに離反する側に付勢され、内輪13のカム面13aと外輪14の内周面14aとの間に形成された楔すきま18の幅狭側に押し込まれる。
【0028】
センタリングばね17(
図2参照)は、側板11を含む入力側回転体を中立位置に保持するものである。操作レバー61を操作して側板11を中立位置から一方又は他方に回転させると、側板11とセンタリングばね17とが係合してセンタリングばね17に弾性力が蓄積される。操作レバー61に加える力を解放すると、センタリングばね17の弾性力により側板11を含む入力側回転体が中立位置に復帰する。
【0029】
第2クラッチ部20は、
図2及び
図4に示すように、解除ブラケット21と、外輪22と、内輪23と、複数の円筒ころ24と、ころ付勢ばね25とを備える。
【0030】
解除ブラケット21は、第1クラッチ部10の外輪14に固定される平板部21aと、平板部21aの外周端の複数箇所から軸方向出力側に延びる延在部21bとを有する(
図2参照)。延在部21bは、隣接する円筒ころ24の間(ころ付勢ばね25が配されていない場所)に配される(
図4参照)。
【0031】
外輪22は、ハウジング40に固定される(
図2参照)。内輪23は出力軸30の外周に固定される。図示例では、内輪23と出力軸30とがスプライン嵌合により固定される(
図4参照)。内輪23の外周には、複数のカム面23aが周方向等間隔に設けられる。内輪23のカム面23aと外輪22の円筒面状の内周面との間には、周方向一方又は他方に行くにつれて径方向幅が狭くなる楔すきま26が形成されている。
【0032】
円筒ころ24は、内輪23と外輪22との間に配置される。隣り合う円筒ころ24の間には、ころ付勢ばね25が配される。ころ付勢ばね25により、隣接する一対の円筒ころ24が互いに離反する側に付勢され、内輪23のカム面23aと外輪22の内周面との間に形成された楔すきま26の幅狭側に押し込まれる。
【0033】
内輪23の入力側の端面には突起23bが設けられる(
図2参照)。この突起23bは、解除ブラケット21の平板部21aに設けられた穴21cに、周方向のクリアランスをもって挿入される(
図4参照)。
【0034】
以上のような構造を具備するクラッチユニット1の動作例を以下に説明する。
【0035】
操作レバー61を引き上げあるいは押し下げることにより、内輪13が中立位置(
図3参照)から一方又は他方に回転する。例えば
図5に示すように、内輪13が反時計回り方向に角度αだけ回転すると、ころ付勢ばね16を介して隣接する一対の円筒ころ15のうち、回転方向上流側の円筒ころ15が楔すきま18に係合して、外輪14に回転トルクを伝達する。一方、ころ付勢ばね16を介して隣接する一対の円筒ころ15のうち、回転方向下流側の円筒ころ15は、ハウジング40の延在部41に当接して回転方向の移動が規制され、楔すきま18から離脱される。以上により、内輪13の回転トルクが外輪14に伝達され、これらが一体に回転する。この時、側板11の回転に伴ってセンタリングばね17に弾性力が蓄積される。
【0036】
こうして第1クラッチ部10の外輪14が回転すると、外輪14に固定された第2クラッチ部20の解除ブラケット21が一体に回転する。そして、
図6に示すように、解除ブラケット21の延在部21bが、ころ付勢ばね25を介して隣接する一対の円筒ころ24のうち、回転方向上流側の円筒ころ24に当接し、ころ付勢ばね25の弾性力に抗して円筒ころ24を周方向に押圧する。これにより、円筒ころ24が楔すきま26から離脱し、内輪23と外輪22とのロック状態が解除されて、内輪23及び出力軸30が回転可能となる。
【0037】
そして、解除ブラケット21がさらに回転すると、内輪23の突起23bと解除ブラケット21の平板部21aの穴21cとの回転方向のクリアランスが詰まって、解除ブラケット21の穴21cの内壁が内輪23の突起23bに回転方向で当接する。これにより、第1クラッチ部10からの回転トルクが解除ブラケット21を介して内輪23に伝達され、内輪23及び出力軸30が一体に角度βだけ回転する。
【0038】
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、センタリングばね17の弾性力により第1クラッチ部10の入力側回転体(側板11、操作ブラケット12、及び内輪13)が中立位置に復帰する。このとき、
図5に示すように、戻り回転方向のトルクを伝達する円筒ころ15が、楔すきま18から離脱しているため、内輪13の回転トルクは外輪14に伝達されず、外輪14は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、第2クラッチ部20には回転トルクが入力されず、出力軸30はその回転位置を維持する。
【0039】
以上より、操作レバー61(
図1参照)をポンピング操作(上下往復動)すると、第1クラッチ部10の内輪13が回転往復動を繰り返し、外輪14が寸動回転する。これに伴って、第2クラッチ部20の内輪23及び出力軸30が寸動回転し、その結果、座席シート50の座面高さが調整可能となる。
【0040】
第2クラッチ部20では、座席シート50(
図1参照)への乗員の着座により出力軸30に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ24が外輪22と内輪23間の楔すきま26と係合して内輪23及び出力軸30が外輪22に対してロックされる。このようにして、出力軸30から逆入力された回転トルクは、第2クラッチ部20によってロックされ、第1クラッチ部10へ逆入力される回転トルクの還流が遮断される。これにより、座席シート50の座面高さは保持される。
【0041】
クラッチユニット1の全体構成は上述のとおりであるが、その特徴的な構成である回転抑制部材70及び回り止め機構80について、以下に詳述する。
【0042】
回転抑制部材70(
図2参照)は、第1クラッチ部10の外輪14に回転抵抗を付与する部材である。回転抑制部材70としては、軸方向に弾性的に圧縮可能な付勢部材が使用され、例えばウェーブワッシャ、皿ばね、樹脂リング等が使用される。本実施形態では、回転抑制部材70としてウェーブワッシャが使用される。
【0043】
回転抑制部材70は、第1クラッチ部10の操作ブラケット12と外輪14との軸方向間に圧縮状態で配されている。回転抑制部材70の入力側の面は操作ブラケット12に接触し、回転抑制部材70の出力側の面は外輪14に接触している。回転抑制部材70の弾性力により、第1クラッチ部10の出力側回転体(図示例では外輪14)と、入力側回転体(図示例では、内輪13、操作ブラケット12、及び側板11)とが軸方向に離反するように付勢される。入力側回転体は、ハウジング40に当接することで入力側への移動が規制される。出力側回転体を含む回転体(図示例では、外輪14及び解除ブラケット21の一体品)は、ハウジング40に対して出力側に付勢され、第2クラッチ部20の内輪23に押し付けられる。
【0044】
操作レバー61を中立位置に戻すとき、
図5に示すように、第1クラッチ部10の隣接する一対の円筒ころ15のうち、一方の円筒ころ15はハウジング40の延在部41に当接することで楔すきま18から離脱しているが、他方の円筒ころ15は楔すきま18に嵌まり込んでいる。この他方の円筒ころ15は、内輪13が中立位置に戻る方向(図中時計回り方向)に回転すると、楔すきま18の幅広側に相対移動するため、外輪14へのトルク伝達に積極的には寄与しない。しかし、この他方の円筒ころ15は、内輪13及び外輪14に接触しているため、これらの接触部の摩擦力により、内輪13の戻り方向の回転が他方の円筒ころ15を介して外輪14に伝達され、外輪14が戻り方向に僅かに連れ回る恐れがある。
【0045】
そこで、上記のクラッチユニット1では、回転抑制部材70により、出力側回転体(外輪14)に回転抵抗を付与している。具体的には、回転抑制部材70の弾性力により、外輪14を含む回転体(外輪14及び解除ブラケット21)を第2クラッチ部20の内輪23に押し付けている(
図2参照)。操作レバー61を中立位置に戻すとき、第2クラッチ部20では、
図6に示すように、解除ブラケット21の延在部21bと当接していない円筒ころ24が楔すきま26の幅狭側に押し込まれているため、内輪23及び円筒ころ24の戻り方向の回転が規制されている。従って、外輪14を含む回転体を、戻り方向の回転が規制された第2クラッチ部20の内輪23に押し付けることで、これらの接触部に生じる摩擦力で外輪14に回転抵抗が付与される。この回転抵抗により、第1クラッチ部10の内輪13の戻り方向の回転に伴う外輪14の連れ回りを防止できる。
【0046】
このとき、回転抑制部材70自体が、操作ブラケット12との接触部の摩擦力により内輪13と共に戻り方向に回転すると、回転抑制部材70を介して外輪14が連れ回る恐れがある。そこで、上記のクラッチユニット1は、静止系(ハウジング40)に対する回転抑制部材70の回転を規制する回り止め機構80を有する。
【0047】
回り止め機構80としては、例えば、ハウジング40に設けられた係合部と、回転抑制部材70に設けられ、係合部と周方向に嵌合する被係合部とが設けられる。本実施形態では、
図7に示すように、被係合部として、回転抑制部材70に凹部71が形成される。具体的には、回転抑制部材70の周方向複数箇所(図示例では3箇所)に、内周に開口した複数の凹部71が形成される。ハウジング40には、回転抑制部材70の各凹部71に挿入される複数の係合部が設けられる。本実施形態では、第1クラッチ部10の円筒ころ15の間に配されたハウジング40の延在部41(
図2、3参照)を係合部として利用している。回転抑制部材70の凹部71の周方向ピッチとハウジング40の延在部41の周方向ピッチは等しく、図示例では何れも周方向等間隔に設けられる。各凹部71と各延在部41とは、周方向の遊びを介して嵌合している。ハウジング40の延在部41が、回転抑制部材70の凹部71の内面と両回転方向に係合することで、回転抑制部材70の両方向への回転を規制する回り止め機構80が形成される。
【0048】
このように、回転抑制部材70の凹部71(被係合部)とハウジング40の延在部41(係合部)とを両回転方向で係合させることで、回転抑制部材70の両方向への回転が規制される。これにより、操作レバー61を中立位置に戻すとき、入力側回転体(内輪13、操作ブラケット12、及び側板11)の戻り方向の回転に伴って、回転抑制部材70を介して外輪14が連れ回る事態を確実に防止することができる。
【0049】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0050】
回転抑制部材70の被係合部(凹部71)と、ハウジング40の係合部(延在部41)とは、周方向の締め代をもって当接させてもよい。例えば、
図8に示すように、回転抑制部材70の凹部71に、ハウジング40の延在部41を周方向で圧入してもよい。この場合、回転抑制部材70とハウジング40とを組み付ける前の状態で、回転抑制部材70の少なくとも一つの凹部71の周方向幅は、これに嵌合するハウジング40の延在部41の周方向幅よりも僅かに小さくなっている。これにより、回転抑制部材70のハウジング40に対する両方向の回転が完全に規制されるため、外輪14の連れ回りを確実に規制できる。尚、凹部71と延在部41とが周方向隙間を介して嵌合した他の回り止め機構80は、予備の回り止めとして機能するが、特に必要がなければ省略してもよい。また、
図8では、周方向複数箇所に設けられた凹部71及び延在部41のうち、一箇所の凹部71に延在部41を圧入しているが、これに限らず、複数箇所の凹部71(例えば全ての凹部71)に延在部41を圧入してもよい。
【0051】
図9に示す実施形態では、回転抑制部材70に設けられた複数の凹部(ここでは、第1の凹部71A、第2の凹部71B、第3の凹部71Cと言う。)の周方向ピッチと、ハウジング40に設けられた複数の延在部(ここでは、第1の延在部41A、第2の延在部41B、第3の延在部41Cと言う。)の周方向ピッチとを異ならせている。その結果、回転抑制部材70の第1の凹部71Aの周方向一方側の内壁に、ハウジング40の第1の延在部41Aが締め代をもって当接する(第1の回り止め機構80A)と共に、回転抑制部材70の第2の凹部71Bの周方向他方側の内壁に、ハウジング40の第2の延在部41Bが締め代をもって当接する(第2の回り止め機構80B)。この場合も、回転抑制部材70のハウジング40に対する両方向の回転が完全に規制されるため、外輪14の連れ回りを確実に規制できる。尚、周方向隙間を介して嵌合した第3の凹部71C及び第3の延在部41Cからなる第3の回り止め機構80Cは、予備の回り止めとして機能するが、特に必要がなければ省略してもよい。
【0052】
また、回転抑制部材70に表裏がある場合(すなわち、ハウジング40に組み付ける向きが決まっている場合)、正しい向きでハウジング40に組み付けたときのみに凹部71と延在部41とが所望の状態(
図9に示す状態)で嵌合するように、凹部71の周方向ピッチと延在部41の周方向ピッチを設定することが好ましい。これにより、回転抑制部材70を誤った向きでハウジング40に組み付けたときには、凹部71と延在部41とが正しく嵌合しないため、回転抑制部材70の表裏間違いを容易に検知できる。
【0053】
回転抑制部材70の回り止め機構80の構成は上記に限られない。例えば、被係合部として、回転抑制部材70の外周に開口した凹部や、回転抑制部材70を軸方向に貫通した穴を設けてもよい。また、回転抑制部材70から径方向あるいは軸方向に突出した凸部を被係合部として設け、ハウジング40に、回転抑制部材70の凸部と周方向に嵌合する凹部を係合部として設けてもよい。あるいは、回転抑制部材70とハウジング40とを溶接やねじ止め等により固定することで、回り止め機構を構成してもよい。
【0054】
回転抑制部材70は、第1クラッチ部10の入力側回転体と出力側回転体との軸方向間に、これらと接触させた状態で配されていればよい。例えば、回転抑制部材70を、内輪13と外輪14との軸方向間、あるいは、側板11と外輪14との軸方向間に、これらと接触させた状態で配してもよい。
【0055】
上記の実施形態では、第1クラッチ部が、ころ付勢ばね16により円筒ころ15を楔すきま18の幅狭側に押し込む、常時噛合い式のクラッチである場合を示したが、これに限られない。例えば、第1クラッチ部が、操作レバーが中立位置にある状態では係合子を内輪及び外輪と非係合状態とし、操作レバーを操作するときに、係合子を楔すきまの幅狭側に押し込んで、内輪及び外輪との間でトルクを伝達するものであってもよい。
【0056】
また、上記の実施形態では、第1クラッチ部の内輪が入力側、外輪が出力側である場合を示したが、これとは逆に、第1クラッチ部の内輪が出力側、外輪が入力側であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 クラッチユニット
10 第1クラッチ部
11 側板(入力側回転体)
12 操作ブラケット(入力側回転体)
13 内輪(入力側回転体)
14 外輪(出力側回転体)
15 円筒ころ(係合子)
16 ころ付勢ばね(付勢部材)
20 第2クラッチ部
21 解除ブラケット
22 外輪
23 内輪
25 ころ付勢ばね
30 出力軸
40 ハウジング(静止系)
41 延在部(係合部)
50 座席シート
60 シートリフタ装置
61 操作レバー
70 回転抑制部材
71 凹部(被係合部)
80 回り止め機構