(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097012
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20220623BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20220623BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20220623BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20220623BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20220623BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20220623BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
H01L29/78 619A
H01L29/78 618B
H01L29/78 617T
H01L29/78 617U
H01L29/78 617V
H01L21/318 C
H01L21/31 C
C23C16/50
C23C16/42
C23C16/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210352
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏彦
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
5F110
【Fターム(参考)】
4K030AA04
4K030AA14
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA35
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA02
4K030DA09
4K030FA01
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA16
4K030LA02
4K030LA15
5F045AA08
5F045AB34
5F045AC02
5F045AC11
5F045AC15
5F045AD06
5F045AD07
5F045AE17
5F045AF03
5F045BB16
5F045CA15
5F045CB04
5F045DP04
5F045EH02
5F045HA01
5F045HA16
5F058BC12
5F058BF07
5F058BF24
5F058BF29
5F058BF30
5F058BH02
5F110AA08
5F110AA14
5F110AA16
5F110AA17
5F110CC01
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110EE02
5F110EE03
5F110EE04
5F110EE06
5F110EE07
5F110EE09
5F110EE15
5F110EE43
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF03
5F110FF04
5F110FF05
5F110FF10
5F110FF30
5F110FF35
5F110FF36
5F110GG01
5F110GG15
5F110GG17
5F110GG19
5F110GG43
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK04
5F110HK06
5F110HK07
5F110HK08
5F110HK33
5F110NN02
5F110NN03
5F110NN05
5F110NN22
5F110NN23
5F110NN28
5F110NN35
5F110NN39
5F110NN40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温プロセスにおいて良好な固定電荷密度の絶縁層を形成できる薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタ1の製造方法であって、半導体層5の表面に対して、窒素及び酸素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いてプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、SiF
4、窒素、酸素及び水素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法により、前記プラズマ処理後の半導体層の上に絶縁層(保護層8)を形成する絶縁層形成工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層の表面に対して、窒素及び酸素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いてプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、
SiF4、窒素、酸素及び水素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法により、前記プラズマ処理後の半導体層の上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、を備える薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記絶縁層がフッ素含有シリコン酸窒化膜である請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁層の固定電荷密度が3×1011cm-2以下である請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記プラズマ処理工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が90%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合と、前記絶縁層形成工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合とが同一である請求項1~4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ処理工程及び前記絶縁層形成工程を300℃以下で行う請求項1~5のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記半導体層がIn-Ga-Zn-Oにより構成されている請求項1~6のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、In-Ga-Zn-O系(IGZO)の酸化物半導体を半導体層(チャネル層)に用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている。この薄膜トランジスタでは、半導体層の周辺には、シリコン膜(SiNx)や酸化シリコン膜(SiOx)等からなる保護層やゲート絶縁層等の各種絶縁層が形成されている。例えば、特許文献1には、SiCl4ガスとSiF4ガスと酸素ガスとを含む混合ガスをプロセスガスとして用いたプラズマCVD法により、フッ素含有シリコン膜からなる絶縁層を半導体層の上に形成するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される製造方法は、300℃程度の低温プロセスにより絶縁層を成膜するので、絶縁層中の正の固定電荷密度が高くなることで、薄膜トランジスタの閾値電圧が負の方向へシフトし、信頼性が低下する恐れがある。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、低温プロセスでも良好な固定電荷密度の絶縁層を形成できる薄膜トランジスタの製造方法を提供することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、半導体層の表面に対して、窒素及び酸素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いてプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、SiF4、窒素、酸素及び水素を含む混合ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法により、前記プラズマ処理後の半導体層の上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを備えることを特徴とする。
このような製造方法であれば、半導体層の表面をプラズマ処理して活性化させた後で絶縁層を形成するので、例えば300℃以下の低温プロセスにおいても、良好な固定電荷密度の絶縁層を形成することができる。これによりゲート閾値電圧が高く、信頼性に優れた薄膜トランジスタを製造することができる。
【0007】
前記絶縁層の具体的態様としてはフッ素含有シリコン酸窒化膜が挙げられる。
【0008】
絶縁層形成工程で形成される絶縁層は固定電荷密度が3×1011cm-2以下であることが好ましい。
【0009】
前記プラズマ処理工程において供給する酸素ガスの流量が多いと、半導体層の表面が酸化しすぎて、良好な固定電荷密度の絶縁層が得られない恐れがある。そのため、前記プラズマ処理工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0010】
また、前記プラズマ処理工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合と、前記絶縁層形成工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合とが同一であることが好ましい。
このようにすれば、プラズマ処理工程と絶縁層形成工程での窒素ガスと酸素ガスの流量割合が同じであるので、プラズマ処理工程で発生させたプラズマを安定的に維持した状態で絶縁層形成工程に移行することができる。これによりタクトタイムを短くでき、製造コストを低減できる。またプラズマを安定的に維持した状態で絶縁層形成工程に移行できるので、半導体層と絶縁層との界面へのSiF4ガス等のプロセスガスの物理的な吸着を抑制でき、より密着性が高い良質な界面を得ることができる。
【0011】
本発明の効果をより顕著に奏する態様としては、前記プラズマ処理工程及び前記絶縁層形成工程を300℃以下で行うものが挙げられる。
このような低温であれば、樹脂等の融点が低い基板を用いた薄膜トランジスタを製造することができる。本発明の製造方法によれば、このような低温処理においても良好な固定電荷密度の絶縁層を備える薄膜トランジスタを製造できる。
【0012】
前記半導体層の具体的態様として、In-Ga-Zn-Oにより構成されているものが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、低温プロセスでも良好な固定電荷密度の絶縁層を形成できる薄膜トランジスタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のボトムゲート型の薄膜トランジスタの構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態の薄膜トランジスタの製造工程を模式的に示す図。
【
図3】同実施形態の薄膜トランジスタのプラズマ処理工程で用いられるプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図。
【
図4】他の実施形態のトップゲート型の薄膜トランジスタの構成を模式的に示す図。
【
図5】実験例におけるプラズマ処理と固定電荷密度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る薄膜トランジスタ及びその製造方法について説明する。
【0016】
<1.薄膜トランジスタ>
本実施形態の薄膜トランジスタ1は所謂ボトムゲート型のTFTであり、酸化物半導体をチャネルに用いたものである。具体的には
図1に示すように、基板2と、ゲート電極3と、ゲート絶縁層4と、半導体層5と、ソース電極6及びドレイン電極7と、保護層8とを有しており、基板2側からこの順に形成されている。なおこの実施形態では、保護層8が特許請求の範囲でいう“絶縁層”に相当する。以下、各部について詳述する。
【0017】
基板2は光を透過できるような任意の材料から構成されており、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリイミド等のプラスチック(合成樹脂)等の樹脂材料やガラス材料によって構成されてよい。
【0018】
ゲート電極3は、薄膜トランジスタ1に印加されるゲート電圧によって半導体層5中のキャリア密度を制御するものである。このゲート電極3は、高い導電性を有する任意の材料から構成されており、例えばSi、Al、Mo、Cr、Ta、Ti、Pt、Au、Ag等から選択される1種以上の金属から構成されてよい。また、Al-Nd、Ag合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)、In-Ga-Zn-O(IGZO)等の金属酸化物の導電性膜から構成されてよい。ゲート電極3は、これらの導電性膜の単層構造又は2層以上の積層構造から構成されてもよい。
【0019】
ゲート絶縁層4は高い絶縁性を有する任意の絶縁材料から構成されており、例えば、SiOx、SiNx、SiON、Al2O3、Y2O3、Ta2O5、Hf2等から選択される1つ以上の酸化物を含む絶縁膜であってよい。ゲート絶縁層4は、これらの導電性膜を単層構造又は2層以上の積層構造としたものであってよい。
【0020】
半導体層(チャネル層)5は、ソース電極6とドレイン電極7間を流れる電流を通過させるものである。本実施形態の半導体層5は、酸化物半導体からなるものであり、例えばIn、Ga、Zn、Sn、Al、Ti等から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を主成分として含んでいる。半導体層5を構成する材料の具体例としては、例えば、In-Ga-Zn-O(IGZO)、In-Al-Mg-O、In-Al-Zn-O又はIn-Hf-Zn-O等が挙げられる。この半導体層5は非晶質(アモルファス)の酸化物半導体膜により構成されている。本実施形態の半導体層5は単層構造であるが、これに限らず、組成や結晶性が互いに異なる複数の層を重ねて構成した積層構造であってもよい。
【0021】
ソース電極6及びドレイン電極7は、半導体層5の表面を部分的に覆うように、互いに離間して形成されている。ソース電極6及びドレイン電極7は、ゲート電極3と同様に、電極として機能するように高い導電性を有する材料から構成されている。ソース電極6及びドレイン電極7は、単一の材料からなる単層構造でよく、互いに異なる材料からなる複数の層を重ねた積層構造であってもよい。
【0022】
保護層(パッシベーション層)8は、ソース電極6とドレイン電極7の間から露出する半導体層5の表面(チャネル領域)を覆って保護するものであり、絶縁性の材料により構成されたものである。保護層8は、少なくとも半導体層5の表面に接触して設けられている。本実施形態の保護層8は、ソース電極6及びドレイン電極7の表面を更に覆うように設けられている。
【0023】
具体的にこの保護層8は、フッ素含有シリコン酸窒化膜(SiON:F)により構成されている。このフッ素含有シリコン酸窒化膜は、固定電荷密度が3×1011cm-2以下であることが好ましく、1×1011cm-2以下であることがより好ましい。
【0024】
なお保護層8の上には、例えばフッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等からなる第2の保護層が、必要に応じて更に設けられてもよい。
【0025】
<2.薄膜トランジスタの製造方法>
次に、上述した構造の薄膜トランジスタ1の製造方法を、
図2を参照して説明する。
本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法は、ゲート電極形成工程、ゲート絶縁層形成工程、半導体層形成工程、ソース・ドレイン電極形成工程、プラズマ処理工程及び保護層形成工程を含む。なおこの実施形態では、保護層形成工程が特許請求の範囲でいう“絶縁層形成工程”に相当する。以下、各工程について説明する。
【0026】
(1)ゲート電極形成工程
まず
図2の(a)に示すように、例えばPET等の樹脂材料からなる基板2を準備し、基板2の表面にゲート電極3を形成する。ゲート電極3の形成方法は特に制限されず、例えば真空蒸着法等の既知の方法により形成してよい。
【0027】
(2)ゲート絶縁層形成工程
次に、
図2の(b)に示すように、基板2及びゲート電極3の表面を覆うようにゲート絶縁層4を形成する。ゲート絶縁層4の形成方法は特に限定されず、既知の方法により形成してよい。
【0028】
(3)半導体層形成工程
次に、
図2の(c)に示すように、ゲート絶縁層4上に半導体層5を形成する。この半導体層5は、既知の方法により形成してよい。例えば、誘導結合型のプラズマを用いて、InGaZnO等の導電性酸化物焼結体をターゲットとしてスパッタリングすることにより半導体層5を形成してよい。なおこれに限らず、他の方法により酸化物半導体からなる半導体層5を形成してもよい。
【0029】
(4)ソース・ドレイン電極形成工程
次に、
図2の(d)に示すように、半導体層5上にソース電極6及びドレイン電極7を形成する。ソース電極6およびドレイン電極7の形成は、例えば、RFマグネトロンスパッタリング等を用いた既知の方法により形成することができる。ソース電極6及びドレイン電極7は、半導体層5の表面上で互いに離間し、半導体層5の表面の一部を露出させるように形成される。
【0030】
(5)プラズマ処理工程
次に、半導体層5の表面に保護層8を形成する前に、半導体層5の表面に対してプラズマ処理(成膜前処理)を行う。具体的にこのプラズマ処理は、
図3に例示するような誘導結合型のプラズマ処理装置100を用いて行われる。具体的にプラズマ処理装置100は、真空排気され且つプロセスガスGが導入される処理室10が内側に形成された真空容器20と、処理室10の外部に設けられたアンテナ30と、アンテナ30に高周波(13.56MHz)を印加する高周波電源40とを備えている。高周波電源40からアンテナ30に高周波を印加すると、アンテナ30から発生した高周波磁場が処理室10内に形成されることで誘導電界が発生し、これにより誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0031】
具体的にこの工程では、少なくとも窒素ガスと酸素ガスとを含む混合ガスをプロセスガスとして処理室10内に供給し、この状態でアンテナ30に高周波を印加して誘導結合型のプラズマを生じさせる。ここで供給するプロセスガスは、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(N2/N2+O2)が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。窒素ガスの流量割合が大きいほど、後で形成する保護層8中の固定電荷密度を小さくできるので好ましい。またこの工程は、基板温度を150℃以上300℃以下の低温で行うことが好ましい。プラズマ処理を行う処理時間は特に限定されないが、保護層8中の固定電荷密度をより小さくする観点から15秒以上45秒以下が好ましい。その他、RFパワー、成膜時圧力、プロセスガスの絶対量等は適宜設定されてよい。
【0032】
(6)保護層形成工程
プラズマ処理工程の後、
図2の(e)に示すように、ソース電極6及びドレイン電極7の間から露出する半導体層5の表面を覆うように保護層8を形成する。この保護層8の形成は、例えば前記したプラズマCVD装置100を用いてプラズマCVD法(化学気相成長法)を用いて行われる。ここでは、プラズマ処理工程においてプラズマCVD装置100の処理室10内に生成したプラズマを維持した状態で保護層形成工程に移行するようにしている。
【0033】
具体的にこの保護層形成工程では、プロセスガスとして、SiF4(四フッ化ケイ素)ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを処理室10内に供給し、この状態でアンテナ30に高周波を印加して誘導結合型のプラズマを生じさせる。供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(N2/N2+O2)は特に限定されないが、例えば前記したプラズマ処理工程における流量割合と略同一であることが好ましい。またこの工程は、基板温度を150℃以上300℃以下の低温で行うことが好ましい。その他、RFパワー、成膜時圧力、プロセスガスの絶対量等は適宜設定されてよい。
【0034】
必要に応じて、保護層8の上に、例えばフッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等からなる第2の保護層を成膜してもよい。この保護層の成膜は、保護層8と同様に、プラズマCVD装置を用いて行うことができる。
【0035】
(7)熱処理工程
必要に応じて酸素を含む大気圧下の雰囲気中で熱処理を行ってもよい。熱処理における炉内温度は特に限定されず、例えば150℃以上300℃以下である。また熱処理時間は特に限定されず、例えば1時間以上3時間以下である。
【0036】
以上により、本実施形態の薄膜トランジスタ1を得ることができる。
【0037】
<3.本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法であれば、半導体層を形成した後、プラズマ処理工程において半導体層5の表面をプラズマ処理して活性化させ、その状態で保護層8を形成するので、300℃以下の低温プロセスであっても、良好な固定電荷密度の保護層8を形成することができる。これによりゲート閾値電圧が高く、信頼性に優れた薄膜トランジスタ1を製造することができる。
【0038】
また、プラズマ処理工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合と、保護層形成工程において供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合とが同一であるので、プラズマ処理工程で発生させたプラズマを安定的に維持した状態で保護層形成工程に移行することができる。これによりタクトタイムを短くでき、製造コストを低減できる。またプラズマを安定的に維持した状態で保護層形成工程に移行できるので、半導体層5と保護層8との界面へのSiF4ガス等のプロセスガスの物理的な吸着を抑制でき、より密着性が高い良質な界面を得ることができる。
【0039】
<4.その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0040】
前記実施形態の薄膜トランジスタ1は、ゲート電極3、ゲート絶縁層4及び半導体層5が基板2側から順に積層されたボトムゲート型のものであったがこれに限らない。他の実施形態では、
図4に示すように、薄膜トランジスタ1は、半導体層5、ゲート絶縁層4、及びゲート電極3が基板2側から順に積層されたトップゲート型のものであってもよい。この場合には、半導体層5上に積層されるゲート絶縁層4が特許請求の範囲でいう“絶縁層”に相当する。この場合、ゲート絶縁層4は、フッ素含有シリコン酸窒化膜(SiON:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等により構成されるのが好ましく、その固定電荷密度が3×10
11cm
-2以下であることが好ましい。
【0041】
また薄膜トランジスタ1がトップゲート型である場合、その製造方法は、前記した半導体層形成工程、ソース・ドレイン電極形成工程、プラズマ処理工程、ゲート絶縁層形成工程及びゲート電極形成工程をこの順に行うことで行われる。この場合には、ゲート絶縁層形成工程が特許請求の範囲でいう“絶縁層形成工程”に相当する。
そのためこの実施形態では、ゲート絶縁層形成工程は、SiF4(四フッ化ケイ素)ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスの混合ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法により行われる。具体的な方法は、前記した保護層形成工程と同様である。
【0042】
前記実施形態では、半導体層5は酸化物半導体からなるものであったが、これに限らない。他の実施形態は、半導体層5は、例えばアモルファスSiや多結晶Si等、任意の半導体材料により構成されてもよい。
【0043】
前記実施形態では、保護層8はフッ素含有シリコン酸窒化膜であったがこれに限らない。他の実施形態では、保護層8はフッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等の絶縁材料からなる膜であってもよい。
【0044】
また、前記実施形態では、半導体層形成工程及びソース・ドレイン電極形成工程を行った後にプラズマ処理工程を行っていたが、これに限らない。他の実施形態では、半導体層形成工程の後、ソース・ドレイン電極形成工程の前にプラズマ処理工程を行ってもよい。
【0045】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
<半導体層へのプラズマ処理と固定電荷密度との関係性>
絶縁層の成膜前の半導体層の表面へのプラズマ処理と、成膜した絶縁層の固定電荷密度との関係性を評価した。
【0048】
(サンプル作製)
具体的にこの実施例では、前記したプラズマCVD装置を用いてn型のSi基板の表面をプラズマ処理した後、シリコン基板表面に、フッ素含有シリコン酸窒化膜をプラズマCVD法により成膜し、その後大気雰囲気の下250℃で60分間熱処理を行うことで、複数のMIS構造のサンプルを作製した。
【0049】
いずれのサンプルも、シリコン基板へのプラズマ処理は、G4基板サイズ(680×880mm)のプラズマ処理装置を用いて、プロセスガスとして窒素と酸素とを含む混合ガスを供給し、RFパワー:0.47W/cm2、成膜時の圧力:6Pa、設定温度:200℃の条件で行った。ここで、作製するサンプル毎に、プラズマ処理の時間(0~120秒)と、窒素ガス及び酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(0%、96.7%)とを変更した。またいずれのサンプルも、プラズマ処理後の絶縁層の成膜処理を、プラズマCVD装置を用いて、原料ガスとしてSiF4、N2、O2及びH2の混合ガスを用い、RFパワー:0.71W/cm2、成膜時の圧力:6Pa、設定温度:200℃、ガス流量:SiF4/N2/O2/H2=200/1160/40/360sccm、の条件で行った。
【0050】
(固定電荷密度の測定)
次に作製した各サンプルの固定電荷密度を測定した。具体的には、フッ素含有シリコン酸窒化膜およびSi基板それぞれにコンタクトするアルミニウム含有の電極を形成し、CV測定からフラットバンドシフト量を求めることにより、各サンプルの固定電荷密度を算出した。その結果を
図5に示す。
図5から分かるように、プロセスガスにおける窒素ガスの流量の割合が96.7%である混合ガスを用いてプラズマ処理をしたサンプルは、3×10
11cm
-2以下の良好な固定電荷密度を示すことが分かった。さらに、プラズマ処理の時間を15秒~45秒としたサンプルは、1×10
11cm
-2以下の良好な固定電荷密度を示すことが分かった。