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特開2022-97081樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097081
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20220623BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220623BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20220623BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A01N31/02
A01P3/00
A01N25/10
A01N25/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210455
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】507212768
【氏名又は名称】株式会社三菱ケミカルホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齊田 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】村田 貴朗
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB03
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
4H011DH04
4H011DH06
(57)【要約】
【課題】簡便な製造方法で製造できる樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤を表面に接触させて前記表面に抗微生物活性を付与した樹脂層を含む樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤を表面に接触させて前記表面に抗微生物活性を付与した樹脂層を含む樹脂フィルム。
【請求項2】
前記抗微生物活性が、抗細菌活性、抗カビ活性及び抗ウイルス活性からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記樹脂層は前記表面に凹凸構造を有する、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記凹凸構造が、原子間力顕微鏡によって前記表面の断面観察をした際に1μm間に1nm以上の高低差を持つ、幅100nm以下の凸部が10個以上存在する部分を含む、請求項3に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層は前記少なくとも1種の薬剤が浸透している、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記少なくとも1種の薬剤が過酸化水素の水溶液及び次亜塩素酸ナトリウムの水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記少なくとも1種の薬剤がエタノール、プロパノール、2-プロパノール及びこれらのうちのいずれか1種と水との混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
前記少なくとも1種の薬剤がエタノールと水との混合物であり、前記混合物は40~90体積%のエタノールを含む、請求項7に記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
前記少なくとも1種の薬剤を前記表面に5秒以上接触させる、請求項1~8のいずれか
1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
前記樹脂層はASTM D570のプラスチックの吸水標準試験法によって測定した吸水率が0.4%以上である樹脂を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
前記樹脂層がポリアミド系樹脂を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
前記ポリアミド系樹脂がナイロン6又はナイロン66である、請求項11に記載の樹脂フィルム。
【請求項13】
前記樹脂層がセルロース系樹脂を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項14】
前記樹脂層がウレタン樹脂を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項15】
酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤を樹脂フィルムの表面に5秒以上接触させる、請求項1~14のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗微生物活性を有する樹脂フィルムは、食品包装フィルム等に使用されている。
近年、フードロスが大きな社会問題となっている。抗微生物活性を有する食品包装フィルムを用いることにより食品の消費期間を延長できれば、フードロスを減少できると期待されている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレン系フィルムと、延伸フィルムと、前記ポリエチレン系フィルム及び前記延伸フィルムを接着する接着層と、を備える鮮度保持ラミネートフィルムであって、前記ポリエチレン系フィルムが、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、グリセリンモノラウレート及びジグリセリンモノラウレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、かつ、前記ポリエチレン系フィルムの、前記接着層と接する面とは反対側の表面に、前記化合物が0.002~0.5g/m存在し、前記接着層が、接着剤と溶媒とを含む接着剤溶液を付与し、乾燥することで形成され、前記溶媒が、前記溶媒全体の質量に対して、アルコール系溶剤及び/又はエーテル系溶剤を60質量%以上含む鮮度保持ラミネートフィルムが記載されている。
【0004】
特許文献2には、樹脂層に揮発性の抗菌成分を担持した担持体粒子が配合されてなる鮮度保持フィルムであって、前記鮮度保持フィルムの表面に凹凸構造を有することを特徴とする鮮度保持フィルムが記載されている。
【0005】
特許文献3には、ヒドロキシ基を有する式(I)で表される繰り返し単位及びパラオキシ安息香酸エステル基を有する式(II)で表される繰り返し単位からなる抗菌性ポリマーを成形して得られる成形品が記載されている。
【0006】
特許文献4には、抗菌性を有する材料の微粒子が基体表面のみに、シラン化合物の放射線グラフト重合にて結合されてなる抗菌性を有する部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6395630号公報
【特許文献2】特開2020-041039号公報
【特許文献3】特開2013-227258号公報
【特許文献4】特許第4585188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
抗微生物活性を有する樹脂フィルムを、より簡便な製造方法で製造することが望まれる。
【0009】
本発明は、簡便な製造方法で製造できる樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤を表面に接触させて前記表面に抗微生物活性を付与した樹脂層を含む樹脂フィルム。
[2] 前記抗微生物活性が、抗細菌活性、抗カビ活性及び抗ウイルス活性からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の樹脂フィルム。
[3] 前記樹脂層は前記表面に凹凸構造を有する、[1]又は[2]に記載の樹脂フィルム。
[4] 前記凹凸構造が、原子間力顕微鏡によって前記表面の断面観察をした際に1μm間に1nm以上の高低差を持つ、幅100nm以下の凸部が10個以上存在する部分を含む、[3]に記載の樹脂フィルム。
[5] 前記樹脂層は前記少なくとも1種の薬剤が浸透している、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[6] 前記少なくとも1種の薬剤が過酸化水素の水溶液及び次亜塩素酸ナトリウムの水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[7] 前記少なくとも1種の薬剤がエタノール、プロパノール、2-プロパノール及びこれらのうちのいずれか1種と水との混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[8] 前記少なくとも1種の薬剤がエタノールと水との混合物であり、前記混合物は40~80体積%のエタノールを含む、[7]に記載の樹脂フィルム。
[9] 前記少なくとも1種の薬剤を前記表面に5秒以上接触させる、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[10] 前記樹脂層はASTM D570のプラスチックの吸水標準試験法によって測定した吸水率が0.4%以上である樹脂を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[11] 前記樹脂層がポリアミド系樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[12] 前記ポリアミド系樹脂がナイロン6又はナイロン66である、[11]に記載の樹脂フィルム。
[13] 前記樹脂層がセルロース系樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[14] 前記樹脂層がウレタン樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[15] 酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の薬剤を樹脂フィルムの表面に5秒以上接触させる、[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な製造方法で製造できる樹脂フィルム及び樹脂フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、生菌数測定結果を示す棒グラフである。
図2図2は、生菌数測定結果を示す棒グラフである。
図3図3は、生菌数測定結果を示す棒グラフである。
図4図4は、生菌数測定結果を示す棒グラフである。
図5図5は、生菌数測定結果を示す棒グラフである。
図6図6は、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察した観察結果を示す画像である。
図7図7は、走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察した観察結果を示す画像である。
図8図8は、浸漬時間とフィルムの重量変化との関係を示すグラフである。
図9図9は、追加した風乾時間とフィルムの重量変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両側の数値をその範囲内に含む。
ASTMは、ASTMインターナショナルが設定・発行した工業規格であるASTM規格を示す。
【0014】
本発明の樹脂フィルムは、薬剤を表面に接触させて、表面に抗微生物活性を付与した樹脂層を含む樹脂フィルムである。
【0015】
樹脂フィルムを構成する樹脂は、特に限定されないが、ASTM D570(プラスチックの吸水標準試験法)に従って測定した吸水率が0.4%以上である合成樹脂を含むものが好ましく、上記吸水率が0.4%以上である樹脂からなるものがより好ましい。上記吸水率は、0.6%以上がさらに好ましく、0.8%以上が特に好ましい。
上記樹脂は、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂及びウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むものが好ましく、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂及びウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種からなるものがより好ましく、ポリアミド系樹脂が特に好ましい。
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T及びナイロン612等のナイロンが挙げられる。上記ポリアミド系樹脂としては、フィルムにした場合の引張り強さ及び破裂強さに優れていることから、ナイロン6又はナイロン66が好ましく、ナイロン6がより好ましい。なお、ナイロン6の吸水率は1.1であり、ナイロン66の吸水率は1.5である。
上記セルロース系樹脂としては、例えば、ニトロセルロース及びアセチルセルロースが挙げられる。
上記ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン、ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン及びポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。
樹脂フィルムは、複数の単層フィルムが積層された積層樹脂フィルムであってもよい。
【0016】
上記薬剤は、酸化性物質を含む液体及び炭素数1~10のアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であれば特に限定されない。
上記酸化性物質を含む液体としては、例えば、過酸化水素の水溶液、次亜塩素酸塩の水溶液、亜塩素酸塩の水溶液、塩素酸塩の水溶液、過塩素酸塩の水溶液及びヨウ素の水溶液等のハロゲン又はハロゲン化合物の水溶液が挙げられる。上記酸化性物質としては、取扱いが容易であり、樹脂フィルムの表面に優れた抗微生物活性を付与できることから、過酸化水素の水溶液又は次亜塩素酸ナトリウムの水溶液が好ましい。
上記炭素数1~10のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール及び1-デカノール等の1価アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール及び2-ブチン-1,4-ジオール等の2価アルコールが挙げられる。
上記炭素数1~10のアルコールは、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができ、また、水と混合した水溶液として用いてもよい。
上記炭素数1~10のアルコールとしては、エタノール、プロパノール、2-プロパノールが好ましく、薬剤としてはこれらのうちのいずれか1種と水との混合物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エタノールと水との混合物がより好ましい。
上記炭素数1~10のアルコールと水との混合物を用いる場合の、上記炭素数1~10のアルコールの濃度は、混合物の40~90体積%が好ましく、60~80体積%がより好ましい。
【0017】
本発明の樹脂フィルムは、薬剤を表面に接触させることにより、薬剤を接触させた表面に抗微生物活性を付与する。
薬剤を樹脂フィルムの表面に接触させる方法は特に限定されない。例えば、スプレー塗布、ローラー塗布等により薬剤を樹脂フィルムの表面に接触させる方法、樹脂フィルムを薬剤に浸漬することにより薬剤を樹脂フィルムの表面に接触させる方法が挙げられる。なかでも、樹脂フィルムを薬剤に浸漬する方法が好ましい。
薬剤を樹脂フィルムと接触を浸漬する際の接触時間は、特に限定されないが、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、1分以上がさらに好ましく、5分以上がいっそう好ましい。20分以上接触させてもよいが、通常、20分間の接触で充分な抗微生物活性が得られる。
薬剤を樹脂フィルムと接触を浸漬する際の温度は、特に限定されないが、0~50℃が好ましく、5~35℃がより好ましい。
薬剤を樹脂フィルムに接触させた後は、表面を乾燥させることが好ましい。薬剤を接触させた後の樹脂フィルムの表面の乾燥は、0~50℃で風乾することが好ましく、5~35℃で風乾することがより好ましい。
このようにして得られた本発明の樹脂フィルムがなぜ驚くべき程の高い抗菌活性、抗カビ活性及び抗ウイルス活性が得られるのかその機構はまだ明らかになっていないが、接触させる薬剤と、本発明で用いる特定の樹脂フィルムとの相乗効果により本発明の樹脂フィルムの表面に効果的な同活性が付与されるものと考えられる。
本発明の薬剤を表面に接触させた樹脂フィルムは、表面の特徴として微細な凹凸構造が賦形される場合がある。その凹凸構造は、後述するように、例えば、原子間力顕微鏡によって観察することで確認できる。
【0018】
抗微生物活性は、抗細菌活性、抗カビ活性及び抗ウイルス活性からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
抗細菌活性は、JIS Z 2801:2012(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)の試験方法によって評価する。
抗カビ活性は、JIS Z 2911:2018(かび抵抗性試験方法)の試験方法によって評価する。
抗ウイルス活性は、ISO 21702:2019(プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定)の試験方法によって評価する。
【0019】
本発明の樹脂フィルムは、大腸菌以外のグラム陰性細菌、例えば、サルモネラ菌(Salmonella)、腸内細菌(Enterobacter)、シュードモナス(Pseudomonas)、モラクセラ(Moraxella)、ヘリコバクター(Helicobacer)、ブデロビブリオ(Bdellovibrio)、アセトバクター(Acetobacter)及びレジオネラ(Legionella)からなる群から選択される少なくとも1種に対しても抗細菌活性を有することが望ましい。
本発明の樹脂フィルムは、黄色ブドウ球菌以外のグラム陽性細菌、例えば、バシラス(Bacillus)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモアネロバクター(Thermoanaerobacter)、ハロアネロビウム(Haloanaerobium)、ナトラナエロビウス(Natraanaerobius)及びエリュシペロトリクス(Erysipelotrichus)等のフィルミクテス類、並びにアクチノマイセス(Actinomyces)、ストレプトマイセス(Sterptomyces)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)等の放線菌類からなる群から選択される少なくとも1種に対しても抗細菌活性を有することが望ましい。
【0020】
本発明の樹脂フィルムは、アスペルギルス(Aspergillus)及びクラドスポリウム(Cladosporium)以外のカビ及び酵母、例えば、ペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Trichoderma)、フザリウム(Fusarium)、ニューロスポラ(Neurospora)、アウレオバシヂウム(Aureobasidium)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、カンジダ(Candida)、クリプトコッカス(Cryptococcus)及びシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群から選択される少なくとも1種に対しても抗カビ活性を有することが望ましい。
【0021】
本発明の樹脂フィルムは、A型インフルエンザウイルス(H3N2)以外のエンベロープを持つウイルス、例えば、水痘・帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、D型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ヒト免疫不全ウイルス及び成人T細胞白血病ウイルスからなる群から選択される少なくとも1種に対しても抗ウイルス活性を有することが望ましい。
本発明の樹脂フィルムは、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代替)以外のエンベロープを持たないウイルス、例えば、アデノウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、ノロウイルス及びロタウイルスからなる群から選択される少なくとも1種に対しても抗ウイルス活性を有することが望ましい。
【0022】
本発明の樹脂フィルムの表面が抗微生物活性を有する理由は明らかになってはいないが、一説として、表面の微細な凹凸構造によって、微生物の細胞又はウイルス粒子が障害を受けるためではないかと考えられる。また、別の一説として、表面に浸透した薬剤の抗微生物効果によるものではないかとも考えられる。
そのため、本発明の樹脂フィルムは、上記樹脂層の表面に凹凸構造を有すること、及び/又は、上記表面に上記薬剤が浸透していること、が好ましい。上記凹凸構造は、原子間力顕微鏡によって上記表面の断面観察をした際の上記凹凸構造が、1μm間に1nm以上の高低差を持つ、幅100nm以下の凸部が10個以上存在する部分を含むことが好ましく、12個以上存在する部分を含むことがより好ましく、15個以上存在する部分を含むことが特に好ましい。また、上記凹凸構造の規定には、一般的に用いられる算術平均粗さRa、十点平均粗さRz、二乗平均平方根傾斜Rdq等を用いることもできる。
【0023】
以下では、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明が後述する実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。
【実施例0024】
[実施例1]
(試験片の作製)
ナイロン製フィルム(50mm×50mm×厚み100μm;ナイロン6製、三菱ケミカル社製ダイアミロン(登録商標)C)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを試験片とした。
アクリル製フィルム(50mm×50mm;メタクリル樹脂製、アクリルサンデー社製アクリルサンデー板1mm)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを比較試験片とした。
【0025】
(抗菌性試験)
JIS Z 2801に準拠して抗菌性試験を行った。
・供試菌
黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus (ATCC12732)
大腸菌:Escherichia coli (ATCC3972)
供試菌を普通寒天培地に移植し、35℃で24時間培養した。培養により生成した、菌の集落3~5個を1/500濃度の普通ブイヨン培地2mLに均一に分散させ、そのうち100μLを1/500濃度の普通ブイヨン培地10mLに均一に分散させたものを試験菌液とした。
【0026】
試験片(表面処理ナイロン製フィルム)の表面に、試験菌液300μLを滴下し、その上からアクリル製フィルム(40mm×40mm)を被せ、試験菌液が全体に行き渡るように押さえつけた。
試験片を温度35℃、相対湿度90%以上で24時間静置した。24時間静置後の試験片を滅菌ストマッカー袋に入れ、これにSCDLPブイヨン培地10mLを加え、菌液を十分に洗い出して試料とした。試料1mLを、標準寒天培地を用いて35℃で48時間培養した後、生菌数を測定し、洗液中の生菌数で抗菌性を評価した(実施例1)。
【0027】
比較試験片(表面未処理アクリル製フィルム)の表面に、試験菌液300μLを滴下し、その上からポリエチレンテレフタレート板(40mm×40mm)を被せ、試験菌液が全体に行き渡るように押さえつけた。
比較試験片の1つは、その直後に生菌数を測定した(比較試験片(初発))。
比較試験片の別の1つは、温度35℃、相対湿度95%で24時間静置した。24時間静置後の比較試験片を滅菌ストマッカー袋に入れ、これにSCDLPブイヨン培地10mLを加え、菌液を十分に洗い出して試料とした。試料1mLを、標準寒天培地を用いて35℃で48時間培養した後、生菌数を測定し、洗液中の生菌数で抗菌性を評価した(比較試験片(24時間後))。なお、試験片は3枚作成してすべて抗菌性試験を行い、生菌数の平均値を抗菌性の評価に用いた。比較試験片についても同様である。
【0028】
実施例1、比較例1、2の生菌数測定結果を、図1の棒グラフに示す。縦軸は常用対数目盛である。
実施例1は比較例2に比べて、生菌数が少なかった。
【0029】
[実施例2]
実施例1と同様にして試験片及び比較試験片を作製した。
ナイロン製フィルムの試験片の75%エタノール浸漬時間を5分間、1時間、6時間、24時間に変更した点を除いて、実施例1と同様にして生菌数を測定した。アクリル製フィルムの比較試験片の生菌数を100%として、試験片の生菌数を%で算出し、図2に示した。
浸漬時間が6時間以上では生菌数が実質的にゼロとなった。
【0030】
[実施例3]
(試験片の作製)
実施例1と同様にして試験片及び比較試験片を作製した。
実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。ただし、菌液調整の際、菌体を均一に分散する普通ブイヨン培地の濃度を、JIS規格よりも10倍濃い1/50濃度、50倍濃い1/10濃度、500倍濃い1/1濃度とし、それぞれの培地濃度で抗菌性試験を実施した。
生菌数測定結果を、図3の棒グラフに示す。縦軸は常用対数目盛である。
【0031】
[比較例1~3]
実施例1と同様にして比較試験片を作製した。
実施例1と同様にして抗菌性試験を行った。ただし、「75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾する操作」を、比較例1に於いては割愛し、比較例2に於いては75%エタノールを染み込ませた脱脂綿で2秒間拭くこととし、比較例3に於いてはオートクレーブ滅菌(121℃、15分)することとした。
24時間後の生菌数測定結果を、図4の棒グラフに示す。縦軸は常用対数目盛である。
【0032】
[比較例4]
アクリル製フィルム(50mm×50mm;メタクリル樹脂製、アクリルサンデー社製アクリルサンデー板1mm)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを比較試験片1とした。
アルミニウム製プレート(50mm×50mm;純度99.99%)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを比較試験片2とした。
実施例1と同様にして、抗菌性試験を行った。ただし、普通ブイヨン培地の濃度を、JIS規格よりも10倍濃い1/50濃度とした。
生菌数測定結果を、図5の棒グラフに示す。縦軸は常用対数目盛である。
【0033】
[実施例4]
ナイロン製フィルム(50mm×50mm;ナイロン6製、三菱ケミカル社製ダイアミロンC)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを試験片とし、何も処理を施していないナイロン製フィルムを比較試験片とした。
試験片及び比較試験片の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。
観察結果を図6及び図7に示す。原子間力顕微鏡によって前記表面の断面観察をした際の前記凹凸構造が1μm間に1nm以上の高低差を持つ、幅100nm以下の凸部が、エタノール処理を行なった試験片では17個、何も処理を施していない比較試験片では3個だった。
【0034】
[実施例5]
ナイロン6単層フィルム(ダイアミロンCz(三菱ケミカル社製、厚さ100μm)、以下「6Nyフィルム」ともいう。)、ポリプロピレン/ナイロン6/ポリプロピレン積層フィルム(ダイアミロンH436(三菱ケミカル社製、厚さ130μm)、以下「PP系フィルム」ともいう。)、ポリエチレンテレフタレート単層フィルム(ノバクリアーSP307(三菱ケミカル社製、厚さ250μm)、以下「A-PETフィルム」ともいう。)を準備し、75%エタノールに浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを試験片とした。浸漬時間は、0分、1分、5分、10分、20分、1時間、6時間、24時間とした。
浸漬時間と各フィルムの重量変化との関係を図8に示す。
【0035】
[実施例6]
ナイロン6単層フィルム(ダイアミロンCz(三菱ケミカル社製、厚さ100μm)、以下「6Nyフィルム」ともいう。)を準備し、75%エタノールに20分間浸漬した後、25℃で20分間風乾したものを試験片とした。試験片は、20分間の風乾直後のもの、20分間の風乾後、さらに1時間風乾したもの、さらに6時間風乾したもの、さらに18時間風乾したもの、さらに24時間風乾したもの、さらに96時間風乾したものを用いた。
追加した風乾時間と6Nyフィルムの重量変化との関係を図9に示す。
【0036】
[結果の説明]
樹脂フィルムの表面をエタノールで処理した試験片は、良好な抗菌性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の樹脂フィルムは、優れた抗微生物活性を有するので、食品包装用フィルムとして用いた場合に、微生物による食品の変敗を長期に渡って抑制できる。そのため、廃棄する食品が減少し、フードロスを大きく減少させることができる。
図1
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図8
図9