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特開2022-97085フツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及びフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097085
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】フツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及びフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220623BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20220623BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20220623BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
C03C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210465
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 智之
【テーマコード(参考)】
3C158
4G059
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158CA01
3C158CA06
3C158CB01
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158EB01
3C158ED02
3C158ED10
3C158ED22
3C158ED26
4G059AA11
4G059AB03
4G059AC07
(57)【要約】
【課題】高い研磨速度を有し、酸化セリウム系研磨剤の代替としてフツリン酸ガラスの研磨が可能なフツリン酸ガラス用研磨剤組成物の提供を課題とする。
【解決手段】フツリン酸ガラス用研磨剤組成物は、シリカと、水溶性高分子化合物と、酸及び/またはその塩と、水とを含有し、pH(25℃)の値が1.0~9.0の範囲である。更に、上記シリカは、コロイダルシリカであり、平均粒子径(D50)は、10nm~200nmの範囲であり、また水溶性高分子化合物として、多糖類、及び/または、不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体を用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、
水溶性高分子化合物と、
酸及び/またはその塩と、
水と
を含有し、
pH(25℃)の値が1.0~9.0の範囲であるフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記シリカは、
コロイダルシリカであり、
平均粒子径(D50)は、
10nm~200nmの範囲である請求項1に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物は、
多糖類、及び/または、不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体である請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記酸及び/またはその塩は、
無機酸及び/またはその塩である請求項1~3のいずれか一項に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記酸及び/またはその塩は、
有機酸及び/またはその塩である請求項1~3のいずれか一項に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項6】
前記不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体は、
(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位と、
(メタ)アクリル酸及び/またはその塩に由来する構成単位と
を含有する共重合体である請求項3に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項7】
前記無機酸及び/またはその塩は、
リン含有無機酸及び/またはその塩である請求項4に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項8】
前記有機酸及び/またはその塩は、
キレート性化合物である請求項5に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項9】
前記キレート性化合物は、
ジカルボン酸及び/またはその塩、トリカルボン酸及び/またはその塩、ポリアミノカルボン酸系化合物、及びホスホン酸系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用い、フツリン酸ガラスを研磨するフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及びフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法に関するものである。更に詳しくは、デジタルカメラのレンズやスマートフォンに内蔵されるカメラのレンズ等に好適に使用されるフツリン酸ガラスを研磨するためのフツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及び当該フツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラやスマートフォンに内蔵されるカメラ等に使用される固体撮像素子は、可視領域から1200nm付近の近赤外領域に至る分光感度を有している。したがって、そのまま使用した場合には良好な色再現性を得ることが困難となるため、赤外線吸収特性を有する特定の物質を添加して形成された近赤外線カットフィルタガラスを用いることにより、視感度の補正が行われている。
【0003】
近赤外線カットフィルタガラスとして、近赤外領域の波長の赤外線を選択的に吸収する特性を有し、かつ高い耐候性を備えるために、フツリン酸ガラスに酸化銅を添加した光学ガラスが開発され、使用されている。一般的なガラスは、シリカ成分またはシリカ成分・アルミナ成分を主として含有するものであり、フツリン酸ガラスは、実質的にシリカ成分を含有せず、近赤外領域の波長の赤外線を吸収するために最適化された組成成分で構成されている。
【0004】
更に詳細に説明すると、フツリン酸ガラスは、一般的な組成成分として、カチオン%表示でリンイオン(P5+)が15~50%、アルミニウムイオン(Al3+)が5~30%、カルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)とストロンチウムイオン(Sr2+)とバリウムイオン(Ba2+)と亜鉛イオン(Zn2+)から選択される1種または2種以上の合計量が10~40%、リチウムイオン(Li)とナトリウムイオン(Na)とカリウムイオン(K)から選択される1種または2種以上の合計量が5~30%、及び銅イオン(Cu2+)が0~20%、アニオン%表示でフッ素イオン(F)が10~50%、及び酸素イオン(O2-)が50~90%の範囲内で含有されている。
【0005】
ここで、「カチオン%」及び「アニオン%」とは、下記に示す単位を示すものとして定義されるものである。すなわち、フツリン酸ガラスの構成成分をカチオン成分とアニオン成分とに分けた上で、フツリン酸ガラス中に含まれる全カチオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各カチオン成分の含有量をモル百分率で表記した単位が「カチオン%」に相当する。一方、フツリン酸ガラス中に含まれる全アニオン成分の合計含有量を100モル%としたときに、各アニオン成分の含有量をモル百分率で表記した単位が「アニオン%」に相当する。
【0006】
また、近赤外線カットフィルタガラスの製造は、トリポリリン酸塩粉末や正リン酸などのリン酸原料、フッ化物原料、銅酸化物原料等のガラス原料を600℃~1000℃の温度で2時間~80時間かけて溶解する溶解工程、ガラス中の泡を除去する清澄工程、ガラスを均質化する攪拌工程、溶融ガラスを流出して成形する成形工程によって主に構成されている。上記のそれぞれの工程を一つのるつぼ炉を用いて行う方法、或いは、それぞれの工程を実施する異なる複数の槽を有し、互いの槽の間を輸送管で接続した連続炉を用いて行う方法等が知られている。
【0007】
これにより製造されたフツリン酸ガラスは、その他の一般的な光学ガラスの特性と比較し、摩耗度が大きく、かつ、熱膨張係数が高い性状を示している。そのため、かかるフツリン酸ガラスの研磨加工が困難となる。
【0008】
このような研磨加工が困難な性状のガラス材料は難硝材と称され、ガラス製造工程における加工プロセスの際の取り扱いに注意を要するものである。すなわち、ガラス材料が柔らかく、表面に傷が付きやすかったり、硬すぎて加工が進み難かったりするものであり、上記のフツリン酸ガラス以外に、例えば、リン酸ニオブ含有高屈折率高分散ガラスやホウ酸ランタン含有高屈折率低分散ガラス等が知られている。
【0009】
特に、研磨対象となるガラス材料の摩耗度が大きい場合、加工精度が低下し、研磨時に生じる傷がガラス表面に残留しやすい傾向がある。そのため、フツリン酸ガラスの研磨を行う場合、一般的な光学ガラスと比して、研磨剤の選定や研磨条件の設定に特に注意する必要がある。
【0010】
そこで、フツリン酸ガラスの研磨のために、酸化セリウムを主成分とする酸化セリウム系研磨剤を用いる方法が従来から行われている(特許文献1,2参照)。しかしながら、セリウムは、希少金属であり、資源の枯渇やセリウム価格の高騰等による供給面の不安があった。そのため、安価かつ安定供給が可能なシリカを主成分とするシリカ系研磨剤による代替が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013―141737号公報
【特許文献2】国際公開第2017/102826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、シリカ系研磨剤は、上記に示した酸化セリウム系研磨剤と比較して、研磨速度が低い問題があり、かかる研磨速度の向上が期待されていた。
【0013】
そこで、本願発明は、上記実情に鑑み、高い研磨速度を有し、酸化セリウム系研磨剤の代替としてフツリン酸ガラスの研磨が可能なフツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及び当該フツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、上記の課題を解決すべくシリカ系研磨剤の課題である研磨速度が低い点について、鋭意研究を重ねた結果、シリカ系研磨剤の研磨速度を向上させるとともに、研磨後のフツリン酸ガラスのガラス表面に曇りや傷の発生が無い、平滑性に優れたガラス表面に仕上げることが可能なフツリン酸ガラス用研磨剤組成物、及び当該フツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法を見出し、下記に示す本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
[1] シリカと、水溶性高分子化合物と、酸及び/またはその塩と、水とを含有し、pH(25℃)の値が1.0~9.0の範囲であるフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0016】
[2] 前記シリカは、コロイダルシリカであり、平均粒子径(D50)は、10nm~200nmの範囲である前記[1]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0017】
[3] 前記水溶性高分子化合物は、多糖類、及び/または、不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体である前記[1]または[2]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0018】
[4] 前記酸及び/またはその塩は、無機酸及び/またはその塩である前記[1]~[3]のいずれかに記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0019】
[5] 前記酸及び/またはその塩は、有機酸及び/またはその塩である前記[1]~[3]のいずれかに記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0020】
[6] 前記不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体は、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位と、(メタ)アクリル酸及び/またはその塩に由来する構成単位とを含有する共重合体である前記[3]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0021】
[7] 前記無機酸及び/またはその塩は、リン含有無機酸及び/またはその塩である前記[4]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0022】
[8] 前記有機酸及び/またはその塩は、キレート性化合物である前記[5]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0023】
[9] 前記キレート性化合物は、ジカルボン酸及び/またはその塩、トリカルボン酸及び/またはその塩、ポリアミノカルボン酸系化合物、及びホスホン酸系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[8]に記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物。
【0024】
[10] 前記[1]~[9]のいずれかに記載のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用い、フツリン酸ガラスを研磨するフツリン酸ガラス用研磨剤組成物を用いた研磨方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物は、シリカと、水溶性高分子化合物と、酸及び/またはその塩と、水とを含有するものであり、フツリン酸ガラスの研磨を行うことにより、研磨速度の向上を図ることができ、かつ、研磨後に曇りや傷の無い平滑なガラス表面を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0027】
1.フツリン酸ガラス用研磨剤組成物
本実施形態のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物(以下、単に「研磨剤組成物」と称す。)は、シリカと、水溶性高分子化合物と、酸及び/またはその塩と、水とを含有して構成されている。
【0028】
1.1 シリカ
本実施形態の研磨剤組成物の一成分として含有されるシリカは、ヒュームドシリカ、湿式法シリカ、及びコロイダルシリカ等を使用することが可能であり、特にコロイダルシリカを好適に使用することができる。更に、コロイダルシリカは、平均粒子径(D50)が10nm~200nmの範囲のものが好ましく、更には平均粒子径(D50)が20nm~150nmの範囲のものがより好ましい。
【0029】
コロイダルシリカの平均粒子径(D50)を10nm以上とすることにより、コロイダルシリカの凝集が発生し難くなり、保存安定性を良好にすることができる。一方、コロイダルシリカの平均粒子径(D50)を200nm以下とすることにより、研磨後のガラス表面の平滑性を良好なものとすることができ、曇りや傷の発生を抑制することができる。ここで、コロイダルシリカの平均粒子径(D50)は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果に基づいて解析し、算出されたものである(詳細は後述する)。
【0030】
コロイダルシリカは、例えば、球状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)等の周知の形状のものを使用することが可能であり、水中に一次粒子が単分散してコロイド状を呈するものである。
【0031】
使用されるコロイダルシリカは、従来から周知の製造方法により製造することが可能であり、例えば、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させることでコロイダルシリカの粒子を成長させる水ガラス法、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含む溶媒中で、酸またはアルカリで加水分解による縮合反応させることでコロイダルシリカの粒子を成長させるアルコキシシラン法、或いは金属ケイ素と水とをアルカリ触媒存在下で反応させてコロイダルシリカを合成する方法等が知られている。なお、製造コストの点において水ガラス法を好適に用いることができる。これらの合成方法等を適宜用いて、本実施形態のフツリン酸ガラス用研磨剤組成物の使用材料となるコロイダルシリカを製造することができる。
【0032】
本実施形態の研磨剤組成物において、研磨剤組成物中に含まれるコロイダルシリカの濃度(含有率)は、研磨剤粒子の安定した分散状態の確保や経済性の点から、1質量%~50質量%の範囲であることが好ましく、更に2質量%~45質量%の範囲であることがより好ましい。
【0033】
コロイダルシリカの濃度を1質量%以上とすることにより、研磨速度の向上を図ることができる。一方、コロイダルシリカの濃度を50質量%以下とすることにより、経済性の点において有利となるとともに、コロイダルシリカ以外の研磨剤やその他の配合剤等を更に添加して配合する際に、凝集やゲル化が生じ難いといった利点を有する。
【0034】
1.2 水溶性高分子化合物
本実施形態の研磨剤組成物の一成分として含有される水溶性高分子化合物は、多糖類、アクリル酸重合体やメタクリル酸重合体、不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体等を使用することが可能であり、更に多糖類または不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体の使用が好ましい。
【0035】
更に、本実施形態の研磨剤組成物において、研磨剤組成物中に含まれる水溶性高分子化合物の濃度は、0.0001質量%~10.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.001質量%~5.0質量%の範囲である。
【0036】
水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%以上であることにより、研磨後の基板表面の曇りと傷が抑制される。水溶性高分子化合物の濃度が10.0質量%以下であることにより、経済性の面で有利であるばかりでなく、フツリン酸ガラス用研磨剤組成物が高粘度化することを回避できる。
【0037】
更に、水溶性高分子化合物として使用される多糖類としては、アルギン酸、アルギン酸エステル、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、キトサン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができる。
【0038】
一方、水溶性高分子化合物として使用される不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体としては、不飽和アミドに由来する構成単位とカルボキシル基含有ビニルモノマーに由来する構成単位とを含有する共重合体が好ましく、更に好ましくは、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位と(メタ)アクリル酸及び/またはその塩に由来する構成単位とを含有する共重合体等を上げることができる。
【0039】
ここで、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド及び/またはメタクリルアミドを示すものであり、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を示すものである。以下、本明細書中において、(メタ)とは、上記と同様の意味を示すものとする。
【0040】
更に、N-置換(メタ)アクリルアミドは、下記の式(1)

CH=C(R)-CONR(R) ・・・(1)

で一般化して表される化合物である。
ここで、Rは水素原子またはメチル基、Rは水素原子または炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状のアルキル基、Rは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を示す。
【0041】
上記の式(1)に示されるRまたはRにおける炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i―プロピル基、n―ブチル基、i―ブチル基、s-ブチル基、及びt-ブチル基等が挙げられ、一方、N-置換(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N、N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-i-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-i-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-s-ブチル(メタ)アクリルアミド、及びN-t-ブチル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0042】
また、カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、(メタ)アクリルカルボン酸等のモノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、またはこれら各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸、またはイタコン酸を使用するものが好ましい。
【0043】
更に、共重合体中の不飽和アミドに由来する構成単位の割合及びカルボキシル基含有ビニルモノマーに由来する構成単位の割合は、モル比で99:1~10:90の範囲のものが好ましく、より好ましくは98:2~10:90の範囲のものである。
【0044】
更に、上記以外のビニルモノマーも好適に使用することができる。例えば、アニオン性ビニルモノマーとして、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の有機スルホン酸、または、これらの種々の有機酸のナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩等が上げられる。
【0045】
更に、ノニオン性ビニルモノマーとして、カルボキシル基含有ビニルモノマーまたは前述のアニオン性ビニルモノマーのアルキルエステル、アクリロニトリル、スチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、メチルビニルエーテル、及びN-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0046】
なお、(メタ)アクリルアミド及び/またはN-置換(メタ)アクリルアミド、カルボキシル基含有ビニルモノマー、及び必要により前述したもの以外のビニルモノマーを共重合したカルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドを製造する方法において、周知の手段を採用することが可能である。
【0047】
これについて一例を説明すると、所定の反応容器の中に前述の各種モノマー及び水を仕込み、ラジカル重合開始剤を添加し、攪拌下、加温することにより目的とするカルボキシル基含有ポリ(メタ)アクリルアミドを得ることができる。
【0048】
このとき、ラジカル重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、またはこれらと亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせた形のレドックス系重合開始剤等の通常のラジカル重合開始剤を使用できる。更に、ラジカル重合開始剤として、アゾ系開始剤を用いるものであっても構わない。かかるラジカル重合開始剤の使用量は、ビニルモノマーの総使用量の和の0.05質量%~2質量%の範囲とすることができる。
【0049】
不飽和アミドに由来する構成単位を有する重合体の重量平均分子量は、通常、1,000~10,000,000程度であり、好ましくは10,000~5,000,000であり、更に好ましくは100,000~3,000,000である。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて、標準ポリスチレン換算により測定したときの値を示している。
【0050】
1.3 酸及び/またはその塩
本実施形態の研磨剤組成物の一成分として含有される酸及び/またはその塩は、無機酸及び/またはその塩、或いは有機酸及び/またはその塩である。なお、酸及び/またはその塩として、無機酸及び/またはその塩と有機酸及び/またはその塩を併用することもできる。
【0051】
無機酸及び/またはその塩として、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、トリポリリン酸、ピロリン酸、及び/またはこれらの塩等が挙げられる。更に好ましくはリン含有無機酸及び/またはその塩を使用することができ、特に好ましくは、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、トリポリリン酸、ピロリン酸、及び/またはその塩等を使用することができる。
【0052】
一方、有機酸及び/またはその塩として、モノカルボン酸及び/またはその塩、ジカルボン酸及び/またはその塩、トリカルボン酸及び/またはその塩、ポリアミノカルボン酸系化合物、及びホスホン酸系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。更に好ましくはキレート性化合物を使用することができる。
【0053】
キレート性化合物として、ジカルボン酸及び/またはその塩、トリカルボン酸及び/またはその塩、ポリアミノカルボン酸系化合物、及びホスホン酸系化合物等を使用することができる。ジカルボン酸及び/またはその塩として、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、酒石酸及び/またはその塩等を使用することができ、トリカルボン酸及び/またはその塩として、クエン酸及び/またはその塩等を使用することができる。
【0054】
一方、ポリアミノカルボン酸系化合物として、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、及びこれらのアンモニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を使用することができる。また、ホスホン酸系化合物として、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノヒドロキシ酢酸、ヒドロキシエチルジメチレンホスホン酸、アミノトリスメチレンホスホン酸、ヒドロキシエタンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等、及びこれらのアンモニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等を使用することができる。上記のキレート性化合物の中でも更に好ましくは、トリカルボン酸及び/またはその塩、及びポリアミノカルボン酸系化合物等を使用することができる。
【0055】
フツリン酸ガラス用研磨剤組成物中の酸及び/またはその塩の含有量は、フツリン酸ガラス用研磨剤組成物のpH値(25℃)を設定値に調整する観点から決定され、0.01質量%~10質量%が好ましく、より好ましくは、0.05質量%~8質量%である。0.01質量%以上とすることにより研磨速度を向上させることができる。10質量%以下とすることにより、研磨後の基盤表面の曇りを抑制することができる。
【0056】
1.4 水
本実施形態の研磨剤組成物の一成分として含有される水は、研磨剤組成物のその他成分を分散させるための媒体として用いられ、純水、超純水、及び蒸留水等が好ましく用いられる。研磨剤組成物のその他成分を円滑に分散させるために、アルコール等の有機媒体を適量含有するものであってもよい。
【0057】
1.5 研磨剤組成物の物性
本実施形態の研磨剤組成物のpH値(25℃)は、1.0~9.0の範囲であり、好ましくは2.0~8.0の範囲である。pH値(25℃)が1.0未満の場合、研磨工程後の基板表面の曇りが悪化する懸念があり、pH値(25℃)が9.0を超える場合、研磨速度が低下する懸念がある。ここで、pH値(25℃)は、25℃におけるpH値を示す。
【0058】
2.フツリン酸ガラスの研磨方法
本実施形態の研磨剤組成物を用い、フツリン酸ガラスの研磨を行う場合、従来から周知の種々の研磨方法を適宜選択することができる。例えば、所定量の研磨剤組成物を研磨機に設置された供給容器の中に投入する。かかる供給容器からノズルやチューブを介して、研磨機の定盤上に貼付された研磨パッドに対し、当該研磨剤組成物を滴下し供給するとともに、被研磨物の研磨面を研磨パッドに押圧しながら定盤を所定の回転速度で回転させることにより、被研磨物の研磨表面を研磨する。
【0059】
なお、研磨パッドは、研磨において一般的に使用される不織布、発泡ポリウレタン、多孔質樹脂、及び非多孔質樹脂等を使用することができる。更に、研磨パッドへの研磨剤組成物の供給を促進するため、或いは研磨パッド上に研磨剤組成物が一定量留まるようにするために、当該研磨パッドのパッド面に格子状、同心円状、或いは螺旋状等の種々の溝加工が施されていてもよい。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えることができる。
【0061】
以下に示す、実施例1~10及び比較例1~4のそれぞれの実験例は、表1に記載された材料及び添加量を含有するフツリン酸ガラスの研磨用の研磨剤組成物(フツリン酸ガラス研磨用組成物)を用い、所定の研磨試験を行った結果である。更に、研磨試験の結果を表2に示す。
【0062】
表1及び表2において、“AM”はアクリルアミド、“MAA”はメタクリル酸、“AA”はアクリル酸、“EDTA2N”はエチレンジアミン四酢酸二アンモニウム、“EDTA3K”はエチレンジアミン四酢酸三カリウム、及び“クエン酸2N”はクエン酸水素二アンモニウムをそれぞれ示す。また、MWは重量平均分子量の略号である。
【0063】
(1)水溶性高分子化合物の合成
実施例1~10及び比較例1~4において使用した水溶性高分子化合物の合成手順の詳細を以下に示す。
【0064】
(合成例1)
温度計、還流冷却管、及び窒素導入管を備えた四つ口フラスコにアクリルアミド100質量部(ビニルモノマー総モル和に対し95モル%)、メタクリル酸6.3質量部(5モル%)、イソプロピルアルコール5.3質量部及びイオン交換水400質量部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。反応系内を40℃に調整し、攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3質量部及び亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を投入した。発熱により重合の開始を確認し、反応液温が90℃に達した後、2時間保温した。重合終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液5.5質量部及びイオン交換水11質量部を投入し、pH値(25℃)が7.5、ポリマー濃度20%のカルボキシル基含有ポリアクリルアミド水溶液を得た。得られた水溶性高分子化合物の組成はアクリルアミド/メタクリル酸=95/5(モル%)、重量平均分子量は1,400,000であった。
【0065】
(合成例2)
温度計、還流冷却管、及び窒素導入管を備えた四つ口フラスコにアクリルアミド100質量部(ビニルモノマー総モル和に対し95モル%)、アクリル酸5.3質量部(5モル%)、イソプロピルアルコール5.3質量部及びイオン交換水400質量部を仕込み、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した。反応系内を40℃に調整し、攪拌下に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.3質量部及び亜硫酸水素ナトリウム0.2質量部を投入した。発熱により重合の開始を確認し、反応液温が90℃に達した後、2時間保温した。重合終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液5.5質量部及びイオン交換水11質量部を投入し、pH値(25℃)が7.5、ポリマー濃度20%のカルボキシル基含有ポリアクリルアミド水溶液を得た。得られた水溶性高分子化合物の組成はアクリルアミド/アクリル酸=95/5(モル%)、重量平均分子量は900,000であった。
【0066】
(合成例3)
上記合成例2で使用したアクリルアミドに代えてアクリル酸を使用し、アクリル酸の単独重合を行った。得られた水溶性高分子化合物は、アクリル酸単独重合体であり、重量平均分子量は12,000であった。
【0067】
(2)研磨剤組成物の調製
(実施例1の研磨剤組成物)
市販のコロイダルシリカスラリー(平均粒子径(D50)=40nm、シリカ濃度=40質量%)と、合成例1で合成された水溶性高分子化合物と、エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)とを、表1に記載された濃度となるように純水で希釈しながら添加、攪拌混合して均質化したものを実施例1の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0068】
(実施例2の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用した合成例1の水溶性高分子化合物に代えて、合成例2で合成された水溶性高分子化合物を用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例2の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0069】
(実施例3の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用した合成例1の水溶性高分子化合物に代えて、合成例3で合成された水溶性高分子化合物を用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例3の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0070】
(実施例4の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用した合成例1の水溶性高分子化合物に代えて、アルギン酸プロピレングリコールエステルを用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例4の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0071】
(実施例5の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用した市販のコロイダルシリカスラリー(平均粒子径(D50)=40nm、シリカ濃度=40質量%)に代えて、平均粒子径(D50)=110nm、シリカ濃度=40質量%のコロイダルシリカスラリーを用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例5の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0072】
(実施例6の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用したエチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)に代えて、クエン酸水素二アンモニウム(クエン酸2N)を用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例6の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0073】
(実施例7の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用した水溶性高分子化合物の濃度を1.5質量%に変更して用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例7の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0074】
(実施例8の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用したエチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)に代えて、表1に記載された濃度(pH値(25℃)が1.4となる濃度)のリン酸を用いた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例8の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0075】
(実施例9の研磨剤組成物)
実施例1の研磨剤組成物の調製において使用したエチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)の濃度を、表1に記載された濃度(pH値(25℃)が8.5となる濃度)に変えた。それ以外の条件は、実施例1と同様に調製し、実施例9の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0076】
(実施例10の研磨剤組成物)
実施例8の研磨剤組成物の調製において使用したリン酸の濃度を、表1に記載された濃度(pH値(25℃)が2.5となる濃度)に変えた。それ以外の条件は、実施例8と同様に調製し、実施例10の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0077】
(比較例1の研磨剤組成物)
市販の酸化セリウムスラリー(平均粒子径=300nm、固体濃度=20質量%)を純水で希釈し、表1に記載された濃度に調製したものを、比較例1の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0078】
(比較例2の研磨剤組成物)
市販のコロイダルシリカスラリー(平均粒子径(D50)=40nm、シリカ濃度=40質量%)と、エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)とを表1に記載された濃度となるように純水で希釈しながら添加、攪拌混合して均質化したものを、比較例2の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0079】
(比較例3の研磨剤組成物)
実施例8の研磨剤組成物の調製において使用したリン酸を硫酸に代え、表1に記載された濃度(pH値(25℃)が0.5となる濃度)となるようにした。それ以外の条件は、実施例8と同様に調製し、比較例3の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0080】
(比較例4の研磨剤組成物)
実施例9の研磨剤組成物の調製において使用したエチレンジアミン四酢酸二アンモニウム(EDTA2N)をエチレンジアミン四酢酸三カリウム(EDTA3K)に代え、表1に記載された濃度(pH値(25℃)が9.5となる濃度)となるようにした。それ以外の条件は、実施例9と同様に調製し、比較例4の研磨剤組成物として研磨試験に用いた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
(コロイダルシリカの粒子径)
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX (200kV))を用いて倍率10万倍の視野の写真を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac―View Ver 4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカ粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver 4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0084】
(研磨条件)
実施例1~10、及び比較例1~4の研磨剤組成物について、研磨装置を用いた研磨試験を実施した。研磨試験のための研磨条件は下記の通りである。
研磨機 :両面研磨機(SPEED FAM社製 6B-5P-II)
基板 :フツリン酸ガラス基板 ×3枚
(76mm×76mmの正方形状、厚さ0.9mm)
研磨パッド :2900W(スウェード:XY溝付き)
定盤回転数 :50rpm
加工圧 :63g/cm
加工時間 :20min
研磨剤組成物供給量 :200ml/min(循環方式)
【0085】
(研磨速度の測定方法)
研磨開始前の基板の厚さと研磨後の基板の厚さをマイクロメータ(ミツトヨ社製、測定精度:1μm)を用いて測定し、これにより研磨速度(μm/min)を測定した。なお、それぞれの実施例等及び比較例等の研磨剤組成物について、3枚の研磨対象の基板を同時に研磨したため、かかる研磨速度はそれらの3枚についての平均値を記載している。
【0086】
(研磨後の基板表面の曇り評価方法)
研磨後の基板表面の曇りは、基板表面に集光灯(株式会社永田製作所製、ECO LIGHT 3万Lux)の光を当て、反射観察により、下記の評価条件に基づいて目視にて判定した。なお、判定は同時に研磨した3枚の基板についての総合判定を示している。
・曇り評価条件
〇:曇りなし
△:曇り一部あり
×:全面に曇りあり
【0087】
(研磨後の基板表面の傷の評価方法)
超微細欠陥高速可視化マクロ検査装置(株式会社ワコム電創製、W-SCOPE WUV)を使用し、研磨後の基板表面の傷についての評価を行った。基板表面に生じた凹欠陥のうち、長短比が“5以上:1”の比率を示し、かつ、幅が5μm以上のものと傷とする。なお、判定は同時に研磨した3枚の基板計6面についての1面あたりの平均値に基づいて示している。
・基板表面の傷の評価条件
〇:傷なし(0個/基板1面当たり)
△:傷少しあり(1個~4個/基板1面あたり)
×:傷多数あり(5個以上/基板1面あたり)
【0088】
(考察)
比較例1の酸化セリウム砥粒を用いた研磨剤組成物に対して、比較例2のコロイダルシリカ砥粒を用いた研磨剤組成物は、研磨後の基板表面(フツリン酸ガラス表面)の曇りは若干改善されているものの、研磨速度が低く、基板表面の傷は改善されていない。一方、比較例2の研磨剤組成物に水溶性高分子化合物を加えた実施例1は、比較例2に対して研磨速度が向上し、曇りが改善され、傷も改善されている。すなわち、研磨剤組成物に水溶性高分子化合物を添加することにより、曇りの改善及び傷の改善が認められる。
【0089】
実施例2~4の研磨剤組成物は、実施例1の研磨剤組成物の調製と比較し、水溶性高分子化合物の種類を変更した例である。実施例5の研磨剤組成物は、実施例1の研磨剤組成物の調製と比較し、平均粒子径(D50)が異なるコロイダルシリカ砥粒を用いた例である。一方、実施例6の研磨剤組成物は、実施例1の研磨剤組成物の調製において、酸及び/またはその塩をEDTA2Nからクエン酸2Nに変更した例である。
【0090】
実施例7の研磨剤組成物は、実施例1の研磨剤組成物の調製と比較し、水溶性高分子化合物の添加量を変更した例である。
【0091】
実施例8,10の研磨剤組成物と、比較例3の研磨剤組成物との対比から、研磨剤組成物のpH値(25℃)が1.0以上であることにより、研磨後のフツリン酸ガラスの表面の曇りと傷が改善されることがわかる。
【0092】
加えて、実施例9の研磨剤組成物と比較例4の研磨剤組成物との対比から、研磨剤組成物のpH値(25℃)が9.0以下であることにより、研磨後の基板表面の曇りと傷とが改善されていることがわかる。
【0093】
以上のことから、本発明の研磨剤組成物を用い、フツリン酸ガラスの研磨を行うことで、研磨速度の向上が認められ、かつ、研磨後のフツリン酸ガラスの表面の曇り及び傷の発生を抑制することが明らかとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の研磨剤組成物(フツリン酸ガラス用研磨剤組成物)は、デジタルカメラのレンズ、或いはスマートフォンに内蔵されたカメラ部分に使用されるフツリン酸ガラスの研磨に好適に使用することができる。