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特開2022-97116波の振幅推定方法、振幅推定装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097116
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】波の振幅推定方法、振幅推定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 13/00 20060101AFI20220623BHJP
【FI】
G01C13/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210512
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
(57)【要約】
【課題】水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波の振幅を推定する。
【解決手段】加速度取得手段111は、インタフェース13を介して端末2から、加速度時系列データを取得する。平滑化手段112は、加速度取得手段111により取得され、メモリ12に記憶された加速度時系列データを読み出し、この加速度時系列データが示す加速度の所定の期間の経時変化を平滑化する。周期特定手段113は、加速度時系列データを用いて、水上に浮かぶ浮遊物Jが水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の経時変化の周期を特定する。振幅推定手段114は、波の振幅と、加速度の経時変化の周期との関係に従い、周期特定手段113により特定された周期に応じた波の振幅を推定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、
前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定工程と、
波の振幅と周期の関係に従い、前記周期特定工程において特定された周期に応じた波の振幅を推定する振幅推定工程と、
を備える波の振幅推定方法。
【請求項2】
前記周期特定工程は、前記加速度時系列データが示す経時変化する加速度が負値から正値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程と、
前記時間間隔算出工程において算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を前記周期として算出する統計値算出工程と、を有する
請求項1に記載の振幅推定方法。
【請求項3】
前記周期特定工程は、前記加速度時系列データが示す経時変化する加速度が正値から負値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程と、
前記時間間隔算出工程において算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を前記周期として算出する統計値算出工程と、を有する
請求項1に記載の振幅推定方法。
【請求項4】
前記関係として、波の振幅は、前記加速度の振幅に該加速度の周期の二乗を乗じ、円周率の二乗の4倍で除した値である、という関係を用いる
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振幅推定方法。
【請求項5】
前記加速度時系列データが示す加速度の所定の期間の経時変化を平滑化する平滑化工程を備え、
前記周期特定工程は、前記平滑化工程において平滑化された加速度の経時変化から前記周期を特定する
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振幅推定方法。
【請求項6】
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段と、
前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定手段と、
波の振幅と周期の関係に従い、前記周期特定手段により特定された周期に応じた波の振幅を推定する振幅推定手段と、
を備える波の振幅推定装置。
【請求項7】
コンピュータに、
水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する処理と、
前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する処理と、
波の振幅と周期の関係に従い、前記周期を特定する処理において特定した周期に応じた波の振幅を推定する処理と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波の振幅推定方法、振幅推定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
波高計は、施工現場の海域でリアルタイムに水位変動を把握するために利用される。波高計には、海底設置型、空中放射型、ブイ型等、各種の型式が存在する。
【0003】
海底設置型の波高計は、海底から超音波照射装置や水圧センサ等を使って水面変動を捉える方式の波高計である。海底設置型の波高計は、設置するために潜水士が必要となるため、大水深になると設置することが難しい。また、超音波照射装置や水圧センサ等が海底にあるため、洋上の作業船に観測データを伝達するにはケーブルで接続されている必要がある。
【0004】
空中放射型の波高計は、空中から水面に向かって超音波を放射し、その反射から水面変動を捉えるものである。しかし、作業船が動揺する場合は、その動揺を考慮する必要がある。また、水面に向かって直角に放射する必要があるため、船舶の動揺により超音波の放射角度を直角に保つことが難しい。
【0005】
ブイ式の波高計は、水面に浮遊させたブイ(浮標ともいう)を使って水面変動を捉える方式の波高計である。ブイ式の波高計は、全地球航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite System)を用いるものや、加速度センサを用いるもの等がある。
【0006】
GNSSを用いるブイ式の波高計は、GNSSによる標高情報を取得することができるものの、要求される精度によっては資機材が大きくなりやすい。
【0007】
加速度センサを用いるブイ式の波高計は、ブイに取り付けられた加速度センサにより、上下方向の加速度を計測し、この加速度を時間で二重積分することで水位変動を推定するものである。
【0008】
例えば、特許文献1には、加速度センサの出力を積分して速度成分を得、又はその速度成分を更に積分することによって変位成分を得るように構成した波浪観測装置等に於いて、抽出した速度成分又は変位成分を所要の通過域を有する高域ろ波器に通すことにより、その成分に重畳するトレンド成分を除去するようにしたことを特徴とする加速度センサを用いた波浪観測装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61-212716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、加速度を時間で二重積分する手法で水位変動を推定するためには、比較的高精度な加速度センサが必要である。
【0011】
本願の発明の目的の一つは、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波高いわゆる波の振幅を推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る振幅推定方法は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程と、前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定工程と、波の振幅と周期の関係に従い、前記周期特定工程において特定された周期に応じた波の振幅を推定する振幅推定工程と、を備える波の振幅推定方法である。
【0013】
本発明の請求項2に係る振幅推定方法は、請求項1に記載の態様において、前記周期特定工程は、前記加速度時系列データが示す経時変化する加速度が負値から正値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程と、前記時間間隔算出工程において算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を前記周期として算出する統計値算出工程と、を有する振幅推定方法である。
【0014】
本発明の請求項3に係る振幅推定方法は、請求項1に記載の態様において、前記周期特定工程は、前記加速度時系列データが示す経時変化する加速度が正値から負値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程と、前記時間間隔算出工程において算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を前記周期として算出する統計値算出工程と、を有する振幅推定方法である。
【0015】
本発明の請求項4に係る振幅推定方法は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の態様において、前記関係として、波の振幅は、前記加速度の振幅に該加速度の周期の二乗を乗じ、円周率の二乗の4倍で除した値である、という関係を用いる振幅推定方法である。
【0016】
本発明の請求項5に係る振幅推定方法は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の態様において、前記加速度時系列データが示す加速度の所定の期間の経時変化を平滑化する平滑化工程を備え、前記周期特定工程は、前記平滑化工程において平滑化された加速度の経時変化から前記周期を特定する振幅推定方法である。
【0017】
本発明の請求項6に係る振幅推定装置は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段と、前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定手段と、波の振幅と周期の関係に従い、前記周期特定手段により特定された周期に応じた波の振幅を推定する振幅推定手段と、を備える波の振幅推定装置である。
【0018】
本発明の請求項7に係るプログラムは、コンピュータに、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する処理と、前記加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する処理と、波の振幅と周期の関係に従い、前記周期を特定する処理において特定した周期に応じた波の振幅を推定する処理と、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データに対して積分をすることなく、波の振幅を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】振幅推定システム9の全体構成の一例を示す概略図。
図2】振幅推定装置1の構成の一例を示す図。
図3】端末2の構成の一例を示す図。
図4】振幅推定装置1の機能的構成の一例を示す図。
図5】振幅推定装置1の動作の流れの一例を示すフロー図。
図6】振幅推定装置が取得又は算出する時系列データの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<振幅推定システムの全体構成>
図1は、振幅推定システム9の全体構成の一例を示す概略図である。振幅推定システム9は、振幅推定装置1、及び端末2を有する。また、図1に示す振幅推定システム9は、通信回線3を有する。
【0022】
水面Lvは、海や湖の水面であり、波の作用により鉛直方向に上下動する。浮遊物Jは、水上に浮かぶブイ等の構造物である。浮遊物Jは、水面Lvの上下動に伴って鉛直方向に移動する。
【0023】
端末2は、浮遊物Jに取り付けられている。そのため、端末2は、浮遊物Jとともに水面Lvの上下動による鉛直方向の力を受ける。端末2は、少なくとも鉛直方向の加速度を測定する機能を有しており、この加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを生成して、これを振幅推定装置1に供給する。
【0024】
振幅推定装置1は、水面Lvに生じる波の振幅を推定する情報処理装置であり、例えば、コンピュータである。振幅推定装置1は、端末2から、上述した加速度時系列データを取得する。そして、振幅推定装置1は、取得した加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定し、予め定められた関係に従い、特定した周期を用いて波の振幅を推定する。
【0025】
通信回線3は、無線により振幅推定装置1と端末2とを通信可能に接続する回線である。端末2は、この通信回線3を介して、自身が生成した加速度時系列データを振幅推定装置1へ送信する。通信回線3は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)を用いた回線であってもよい。
【0026】
このLPWAとしては、例えば、「ELTRES(登録商標)」、「LoRa(登録商標)」、「LoRaWAN(登録商標)」、「RPMA(登録商標)」、「SIGFOX(登録商標)」、「EnOcean(登録商標) Long Range」、「NB-IoT」、「NB-Fi Protocol」、「GreenOFDM」、「DASH7」、「Wi-SUN」、「Weightless-P」、「LTE-MTC」、「LTE Cat.0」、「LTE Cat.M1」等が挙げられる。
【0027】
<振幅推定装置の構成>
図2は、振幅推定装置1の構成の一例を示す図である。振幅推定装置1は、プロセッサ11、メモリ12、及びインタフェース13を有する。プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を実行することにより振幅推定装置1を制御する。プロセッサ11は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0028】
インタフェース13は、プロセッサ11が通信回線3、及びその他の外部の装置等と情報のやり取りをするためのインタフェースである。
【0029】
プロセッサ11は、インタフェース13を介して通信回線3に接続し、通信回線3から端末2で生成された加速度時系列データを取得する。
【0030】
また、振幅推定装置1は、インタフェース13を介して例えば外部の表示装置と接続し、決定した情報をユーザに表示させる。
【0031】
メモリ12は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等の記憶手段であり、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する。
【0032】
<端末の構成>
図3は、端末2の構成の一例を示す図である。端末2は、プロセッサ21、メモリ22、インタフェース23、及び加速度センサ26を有する。
【0033】
プロセッサ21は、メモリ22に記憶されているプログラムを実行することにより端末2を制御する。プロセッサ21は、例えばCPUである。
【0034】
インタフェース23は、プロセッサ21が通信回線3、及びその他の外部の装置等と情報のやり取りをするためのインタフェースである。
【0035】
プロセッサ21は、インタフェース23を介して通信回線3に接続し、通信回線3を経由して加速度時系列データを振幅推定装置1へ送信する。
【0036】
また、端末2は、インタフェース23を介して例えばフラッシュメモリ等の外部の記憶装置と接続し、加速度時系列データ等をこの記憶装置に記憶させてもよい。
【0037】
メモリ22は、例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等の記憶手段であり、プロセッサ21に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する。
【0038】
加速度センサ26は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式で加速度を測定するセンサである。加速度センサ26は、少なくとも自身が受ける鉛直方向の加速度を測定して、順次、メモリ22に記憶する。これによりメモリ22には、測定された鉛直方向の加速度の経時変化を示す加速度時系列データが生成される。生成されたこの加速度時系列データは、上述した通り、振幅推定装置1へ送信される。なお、端末2は、浮遊物Jに取り付けられているので、プロセッサ21が測定する加速度は、端末2が受ける加速度であるとともに、浮遊物Jが受ける加速度でもある。
【0039】
<振幅推定装置の機能的構成>
図4は、振幅推定装置1の機能的構成の一例を示す図である。振幅推定装置1のプロセッサ11は、上述したプログラムを実行することにより、加速度取得手段111、平滑化手段112、周期特定手段113、振幅推定手段114、及び基準位置特定手段115として機能する。
【0040】
加速度取得手段111は、インタフェース13を介して端末2から、上述した加速度時系列データを取得する。すなわち、この加速度取得手段111として機能するプロセッサ11は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得手段の例である。
【0041】
図4に示す基準位置特定手段115は、端末2より送信され、加速度取得手段111が取得した加速度時系列データに基づき経時変化する位置に基いて、例えば、直近の100波程度(例えば100.3波や97.8波等の非整数波であってもよい)に相当する期間等、比較的長い所定期間(以下、第1期間とする)にわたる加速度の平均値を算出し、この平均値を利用すること等により、鉛直方向における水面の基準となる位置(基準位置という)を特定する。すなわち、この基準位置特定手段115として機能するプロセッサ11は、加速度時系列データが示す経時変化する加速度の所定の期間の平均値を算出し、その平均値に基いて鉛直方向における水面の基準位置を特定する基準位置特定工程を実行するプロセッサの例である。
【0042】
平滑化手段112は、加速度取得手段111により取得され、メモリ12に記憶された加速度時系列データを読み出し、この加速度時系列データが示す加速度の所定の期間の経時変化を平滑化する。この所定の期間は、比較的短い期間(以下、第2期間とする)例えば、2秒間である。この場合、平滑化手段112は、2秒間の加速度の移動平均値を算出することにより、端末2で実測された加速度のデータを平滑化する。なお、上述した第2期間は2秒間としたが、第2期間は後述する周期Ta以下であればよく、2秒間に限定されるものではない。
【0043】
周期特定手段113は、加速度時系列データを用いて、水上に浮かぶ浮遊物Jが水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の経時変化の周期を特定する。すなわち、周期特定手段113として機能するプロセッサ11は、加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定手段の例である。図4に示す周期特定手段113は、平滑化手段112により平滑化された加速度の経時変化の周期を特定する。
【0044】
なお、図4に示す周期特定手段113は、時間間隔算出手段113a、及び統計値算出手段113bを含む。
【0045】
図4に示す時間間隔算出手段113aは、平滑化手段112により平滑化された加速度が所定の変化をしたときのタイミングを特定し、そのタイミングどうしの時間間隔を算出する。
【0046】
例えば、時間間隔算出手段113aは、基準位置特定手段115で特定した基準位置に対応する加速度のゼロ点(第1期間の加速度の平均値)を用いて、加速度がプラスからマイナスに変化する、いわゆるゼロダウンクロス点を用い、隣り合う2つのゼロダウンクロス点どうしに挟まれる1つの波ごとの時間間隔を算出する。すなわち、時間間隔算出手段113aとして機能するプロセッサ11は、加速度時系列データが示す経時変化する加速度が正値から負値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程を実行するプロセッサの例である。
【0047】
図4に示す統計値算出手段113bは、時間間隔算出手段113aにおいて算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を加速度の経時変化の周期として算出する。この統計値算出手段113bは、例えば、過去に算出された時間間隔のうち、最近の3回分の平均値を、現在の加速度の経時変化の周期として算出する。
【0048】
振幅推定手段114は、波の振幅と、加速度の経時変化の周期との関係に従い、周期特定手段113により特定された周期に応じた波の振幅を推定する。例えば、波の振幅と、加速度の経時変化の周期との関係としては、波の振幅が、加速度の振幅にこの加速度の周期の二乗を乗じ、円周率の二乗の4倍で除した値である、という関係が挙げられる。
【0049】
振幅推定手段114は、推定した波の振幅の情報を、インタフェース13経由で、例えば、外部の表示装置に送信し、これを表示させる。
【0050】
<振幅推定装置の動作>
図5は、振幅推定装置1の動作の流れの一例を示すフロー図である。振幅推定装置1のプロセッサ11は、加速度時系列データを取得し(ステップS101)、取得したこの加速度時系列データが示す加速度の、第2期間(例えば、2秒間等)の経時変化を平滑化する。この平滑化は、例えば、その第2期間にわたって測定された加速度の相加平均値を算出することにより行われる(ステップS102)。
【0051】
なお、上述したステップS101は、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する加速度取得工程の例である。
【0052】
また、上述したステップS102は、加速度時系列データが示す加速度の所定の期間の経時変化を平滑化する平滑化工程の例である。
【0053】
図6は、振幅推定装置が取得又は算出する時系列データの例を示す図である。図6(a)に示す実測加速度a0は、端末2の加速度センサ26により測定された加速度の経時変化を示す曲線である。この図6(a)に示すグラフの横軸は時間であり、縦軸は、加速度の値である。なお、この実測加速度a0は、測定された加速度に-1を乗じたものであり、正負が逆転しているものである。
【0054】
図6(a)に示す平滑化加速度aaveは、上述したa0の2秒間の値を相加平均した値であり、いわゆる移動平均である。すなわち、図6(a)に示す平滑化加速度aaveは、所定の期間の実測加速度a0を平滑化したものである。
【0055】
一方、プロセッサ11は、ステップS102の処理の実行と並行して、波の振幅を推定するための周期を定めるために以下のステップS103、及びステップS104の処理を実行する。すなわち、プロセッサ11は、ステップS101で取得した加速度時系列データが示す加速度の、第1期間(例えば、直近の100波)にわたる平均値を算出し(ステップS103)、この平均値を用いて位置時系列データが示す水面の基準位置を特定する(ステップS104)。
【0056】
次に、図5に示す通り、プロセッサ11は、平滑化された加速度が所定の変化をしたタイミングの時間間隔を算出する(ステップS105)。所定の変化とは、例えば、上述したゼロダウンクロス点のタイミングが挙げられる。
【0057】
プロセッサ11は、算出した時間間隔のうち、連続する所定数の時間間隔の統計値を、加速度の経時変化の周期として算出(特定)する(ステップS106)。このステップS106は、加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する周期特定工程の例である。
【0058】
例えば、図6(a)において表示しているグラフは、正負が逆転しているため、時刻t0、t1、t2、t3、t4は、いずれも上述した平滑化加速度aaveの値が、正から負へ変化した時刻である。
【0059】
ここで、期間T1は、時刻t0から時刻t1までの時間間隔であり、期間T2は、時刻t1から時刻t2までの時間間隔である。また、期間T3は、時刻t2から時刻t3までの時間間隔であり、期間T4は、時刻t3から時刻t4までの時間間隔である。プロセッサ11は、時刻t1、時刻t2、時刻t3、及び時刻t4になったとき、期間T1、期間T2、期間T3、及び期間T4をそれぞれ算出する。
【0060】
すなわち、このステップS106は、加速度時系列データが示す経時変化する加速度が正値から負値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程を有する周期特定工程の例である。
【0061】
次に、プロセッサ11は、期間T4において、時刻t4となる前に、期間T1から期間T3に対応する加速度の経時変化の周期である周期Taを算出する。そして、プロセッサ11は、この周期Taを用いて、期間T4に発生する波をリアルタイムで予測する。プロセッサ11は、時刻t4以降に関しても同様に直近の3期間の相加平均値を算出し次のゼロダウンクロス点までの期間に発生する波のふり幅を予測する。
【0062】
なお、時間間隔工程における相加平均値の算出対象は直近の3期間としたが、これに縛られるものではなく直近の1以上の期間であればよい。
【0063】
周期Taは、期間T1、期間T2、及び期間T3によって次式(1)の通り、期間T1、期間T2、及び期間T3の相加平均値として算出される。すなわち、このステップS106は、時間間隔算出工程において算出された時間軸上で連続する所定数の時間間隔の統計値を加速度の経時変化の周期として算出する統計値算出工程を有する周期特定工程の例である。
【0064】
[数1]
Ta = (T1+T2+T3)/3 …(1)
【0065】
そして、プロセッサ11は、算出した周期Taに応じた波の振幅を推定する(ステップS107)。図6(b)に示す推定変位zestは、実際の変位zを平滑化加速度aaveから推定した値である。例えば、推定変位zestは、平滑化加速度aaveに、加速度の周期Taの二乗を乗じ、円周率πの二乗の4倍で除することによって算出される。この場合、推定変位zestは、平滑化加速度aave、周期Ta、及び円周率πによって次式(2)の通り、算出される。なお、上述した通り実測加速度a0には予め測定値の正負を逆転させる演算がされているため、式(2)における負符号はない。
【0066】
[数2]
est = (Ta2/4π2)×aave …(2)
【0067】
このステップS107は、周期特定工程において特定された周期に応じた波の振幅を推定する振幅推定工程の例である。
【0068】
上述したステップS101からステップS107の処理を実行することにより、プロセッサ11は、経時変化する水面に生じる波の振幅を推定する。すなわち、振幅推定装置1は、上述したステップS101からステップS107までの工程を備える波の振幅推定方法を行う装置である。
【0069】
以上の動作により、振幅推定装置1は、加速度時系列データから、直前の3つの加速度の経時変化における周期を算出し、加速度の経時変化から、水面の変位の経時変化を推定することができる。特に、海上における作業の安全を脅かす高波浪は、ある程度連続して来襲することが知られている。上述したこの振幅推定装置1は、直前の波浪の特性を考慮することで、作業の安全性に寄与する波の振幅の推定を可能とする。
【0070】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組合せてもよい。
【0071】
<1>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、時間間隔算出手段113aとして機能する際に、加速度がプラスからマイナスに変化する、いわゆるゼロダウンクロス点を特定し、隣り合う2つのゼロダウンクロス点どうしに挟まれる1つの波ごとの時間間隔を算出していたが、他の変化のタイミングを特定して、時間間隔を算出してもよい。
【0072】
例えば、プロセッサ11は、時間間隔算出手段113aとして機能する際に、加速度がマイナスからプラスに変化する、いわゆるゼロアップクロス点を特定してもよい。この場合、プロセッサ11は、隣り合う2つのゼロアップクロス点どうしに挟まれる1つの波ごとの時間間隔を算出すればよい。この場合のプロセッサ11は、加速度時系列データが示す経時変化する加速度が負値から正値へと変化するタイミングの時間間隔を算出する時間間隔算出工程を実行するプロセッサの例である。
【0073】
<2>
上述した実施形態において、プロセッサ11は、平滑化手段112として機能する際に、例えば2秒間等、所定の期間にわたって測定された加速度の移動平均値を算出することにより、端末2で実測された加速度のデータを平滑化していたが、平滑化を行わなくてもよい。この場合、周期特定手段113は、端末2において測定された加速度の経時変化の周期を特定すればよい。
【0074】
<3>
上述した実施形態において、端末2は、加速度センサ26を有していたが、水面Lvの変直方向の加速度が、時間軸に沿って測定できれば、加速度センサ26を有しなくてもよい。また、端末2は、浮遊物Jに取り付けられていたが、端末2そのものが水上に浮遊する構成であってもよい。
【0075】
<4>
上述した実施形態において、振幅推定装置1と端末2とは、通信回線3を介して互いに接続し、情報のやり取りをしていたが、通信回線3を介さずに、情報のやり取りをしてもよい。例えば、振幅推定装置1のインタフェース13、及び端末2のインタフェース23は、いずれも近距離無線通信の機能を有しており、この近距離無線通信によって、振幅推定装置1と端末2とが情報のやり取りをしてもよい。
【0076】
また、振幅推定装置1は、リアルタイムで端末2から加速度時系列データを取得しなくてもよい。例えば、振幅推定装置1は、端末2のメモリ22に記憶された加速度時系列データを、インタフェース23、及びインタフェース13を接続する有線ケーブル経由で取得してもよい。また、端末2は、メモリ22に記憶された加速度時系列データを、インタフェース23経由で外部のフラッシュメモリ等にコピーしてもよい。この場合、振幅推定装置1は、フラッシュメモリ等から上述した加速度時系列データのコピーを取得すればよい。
【0077】
<5>
上述したプロセッサ11によって実行されるプログラムは、磁気テープ及び磁気ディスク等の磁気記録媒体、光ディスク等の光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリ等の、コンピュータ装置が読取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムは、インターネット等の通信回線経由でダウンロードされてもよい。すなわち、このプログラムは、コンピュータに、水上に浮かぶ浮遊物が水面の上下動により受ける鉛直方向の加速度の測定値の経時変化を示す加速度時系列データを取得する処理と、その加速度時系列データが示す加速度の経時変化の周期を特定する処理と、波の振幅と周期の関係に従い、周期を特定する処理において特定したその周期に応じた波の振幅を推定する処理と、を実行させるためのプログラムである。なお、上述した振幅推定装置によって例示した制御手段としてはCPU以外にも種々の装置が適用される場合があり、例えば、専用のプロセッサ等が用いられる。
【符号の説明】
【0078】
1…振幅推定装置、11…プロセッサ、111…加速度取得手段、112…平滑化手段、113…周期特定手段、113a…時間間隔算出手段、113b…統計値算出手段、114…振幅推定手段、115…基準位置特定手段、12…メモリ、13…インタフェース、2…端末、21…プロセッサ、22…メモリ、23…インタフェース、26…加速度センサ、3…通信回線、9…振幅推定システム、Lv…水面、J…浮遊物、T1~T4…期間、t0~t4…時刻。
図1
図2
図3
図4
図5
図6