(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097127
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】Zr含有高Ni合金塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/18 20060101AFI20220623BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220623BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20220623BHJP
C22B 9/187 20060101ALI20220623BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C22B9/18 F
C22C19/05 Z
C22B23/02
C22B9/187 A
C22C1/02 503G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210527
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】成田 駿介
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA19
4K001AA27
4K001AA31
4K001BA23
4K001FA02
4K001FA07
4K001KA01
4K001KA03
4K001KA06
4K001KA07
4K001KA10
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】 ZrO
2のフラックスへの添加量の抑制を図りつつ、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造する方法の提供。
【解決手段】 ESRプロセスを利用したZrとともに少なくともAl及びTiを含む高Ni合金塊の製造方法である。フラックスは、質量%で、CaO:10~40%、ZrO
2:0.01~2.0%、Al
2O
3:10~40%、TiO
2:0.1~10%、MgO:5%以下、SiO
2:3%以下、で残部をCaF
2とした成分組成を有し、 以下の式1、式2、式3において定めるZ、A、Tにおいて、-1.0≦A-Z≦1.0、0.5≦T-Z≦2.5とするように成分組成を調整することを特徴とする。
【数1】
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセスを利用したZrとともに少なくともAl及びTiを含む高Ni合金塊の製造方法であって、
フラックスは、質量%で、
CaO:10~40%、
ZrO
2:0.01~2.0%、
Al
2O
3:10~40%、
TiO
2:0.1~10%、
MgO:5%以下、
SiO
2:3%以下、
で残部をCaF
2とした成分組成を有し、
以下の式1、式2、式3において定めるZ、A、Tにおいて、
-1.0≦A-Z≦1.0、0.5≦T-Z≦2.5とするように前記フラックス及び消耗電極の成分組成を調整することを特徴とするZr含有高Ni合金塊の製造方法。
【数1】
【請求項2】
前記高Ni合金塊の成分組成は、主として、Crを10~25%含むNi合金であって、Feを5%以下とすることを特徴とする請求項1記載のZr含有高Ni合金塊の製造方法。
【請求項3】
前記消耗電極は、質量%で、
Cr:10~25%、
Al:1~5%、
Ti:1~4%、
Zr:0.01~0.1%、
残部Niとした成分組成を有することを特徴とする請求項1記載のZr含有高Ni合金塊の製造方法。
【請求項4】
前記消耗電極の前記成分組成は、
Co:25%以下、
Mo:5%以下、
W :3%以下、
Fe:5%以下、
Nb:3%以下、
Mg:0.1%以下、
B :0.1%以下
で含み得ることを特徴とする請求項3記載のZr含有高Ni合金塊の製造方法。
【請求項5】
300mm以上の電極径を有することを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のZr含有高Ni合金塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESRプロセスによりZrを均一に分布させたZr含有高Ni合金塊を製造する方法に関し、特に、Zrとともに少なくともAl及びTiを含む高Ni合金塊を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での耐食性や機械強度に優れる高Ni合金において、Zrを含むことで一層の高温強度の向上を図ることができる。かかる高Ni合金については、フラックスを溶融させたスラグと消耗電極との間でのメタル-スラグ反応による精錬を経て所定の成分組成に調整された合金塊を得るエレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセスが用い得る。一方、Zrは酸素との親和性の高い活性元素であるため、スラグと反応し摩耗し易く、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を得ることは難しい。
【0003】
ここで、Zr含有高Ni合金のESRプロセスにおいて、フラックスにZrO2を添加してメタル-スラグ反応を制御し、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、100mm径程度の比較的小型であってZrを含有するNi基Cr-Mo-Fe合金塊を製造するためのESRプロセスにおいて、電極成分とフラックス組成が平衡するように、ZrO2とともに電極成分(鋳塊目標成分)に含まれているSi,Ti,Al等の活性成分の酸化物の適量をフラックス組成(CaF2-CaO系)に加えることを開示している。フラックス組成にZrO2を加えることで、Zrを含有しない電極を用いたESRプロセスであっても、得られる合金塊にZrが残留するとしている。具体的には、CaF2及びCaOにZrO2を5~25重量%を含有したフラックスに選択的に、SiO2を10重量%以下、TiO2を5~25重量%、Al2O3を5~30重量%の範囲で加えることを述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ESRプロセスによりZrを均一に分布させた高Ni合金塊を得ることは難しいが、特に、300mm径以上の大型の合金塊では、ボトム(底部)側でのZrの損失が大きくなる傾向にある。これに対して、上記したように、ESRプロセスでのフラックスにZrO2を大量に添加することで、ある程度、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を得られる。一方、CaF2やCaOなどの一般的なスラグ材料の価格と比較して、ZrO2は高価であり、スラグの多くは除去されてしまうため、添加したZrの利用効率も低いといった指摘もある。そこで、所望とする合金塊の組成に対応したフラックスへの添加量の最適化が望まれた。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、Zr含有高Ni合金のESRプロセスにおけるZrO2のフラックスへの添加量の抑制を図りつつ、メタル-スラグ反応を制御してZrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Zrとともに少なくともAl及びTiを含む高Ni合金塊であれば、ESRプロセスにおいてZrO2のフラックスへの添加量の抑制をしつつ所定の制御をすることで、大型の合金塊であっても、Zrを均一に分布させ得ることを見いだしたものである。
【0009】
本発明による製造方法は、エレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセスを利用したZrとともに少なくともAl及びTiを含む高Ni合金塊の製造方法であって、フラックスは、質量%で、CaO:10~40%、ZrO2:0.01~2.0%、Al2O3:10~40%、TiO2:0.1~10%、MgO:5%以下、SiO2:3%以下、で残部をCaF2とした成分組成を有し、以下の式1、式2、式3において定めるZ、A、Tにおいて、-1.0≦A-Z≦1.0、0.5≦T-Z≦2.5とするように前記フラックス及び消耗電極の成分組成を調整することを特徴とする。
【0010】
【0011】
かかる特徴によれば、ZrO2のフラックスへの添加量の抑制を図りつつ、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記高Ni合金塊の成分組成は、主として、Crを10~25%含むNi合金であって、Feを5%以下とすることを特徴としてもよい。かかる特徴によればスラグ中の鉄酸化物を抑制できて、スラグ-メタル反応を安定化でき、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造できるのである。
【0013】
上記した発明において、前記消耗電極は、質量%で、Cr:10~25%、Al:1~5%、Ti:1~4%、Zr:0.01~0.1%、残部Niとした成分組成を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、スラグ-メタル反応を安定化でき、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造できるのである。
【0014】
上記した発明において、前記消耗電極の前記成分組成は、Co:25%以下、Mo:5%以下、W:3%以下、Fe:5%以下、Nb:3%以下、Mg:0.1%以下、B:0.1%以下で含み得ることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、スラグ-メタル反応に大きな影響を与えず、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造できるのである。
【0015】
上記した発明において、300mm以上の電極径を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、大型の合金塊であっても、Zrを均一に分布させた高Ni合金塊を製造できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】製造試験に用いた消耗電極の成分組成を示す表である。
【
図2】消耗電極の一部の成分についての詳細である。
【
図3】フラックスの成分組成を(a)質量%及び(b)モル分率で示した表である。
【
図4】Z値、A値、T値と得られた合金塊のZrの分析結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による1つの実施例としての高Ni合金塊の製造方法について説明する。
【0018】
得ようとする高Ni合金塊は、Zrとともに少なくともAl及びTiを含む成分組成を有し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)プロセスを利用して製造される。かかるESRプロセスにおいて用いられるフラックスは、質量%で、CaO:10~40%、ZrO2:0.01~2.0%、Al2O3:10~40%、TiO2:0.1~10%、MgO:5%以下、SiO2:3%以下、で残部をCaF2とした成分組成を有する。
【0019】
ここでESRプロセスに用いる消耗電極と、上記したフラックスとは、スラグ-メタル反応を制御するため、Al、Ti、Zrの含有量を以下のように調整された成分組成を有するものとする。すなわち、以下の式1、式2、式3において定めるZ、A、Tにおいて、
A値からZ値を引いた(A-Z)を-1.0から1.0の範囲内とするとともに、T値からZ値を引いた(T-Z)を0.5から2.5の範囲内とする。つまり、-1.0≦(A-Z)≦1.0、0.5≦(T-Z)≦2.5である。
【0020】
【0021】
(A-Z)及び(T-Z)を上記したように所定の範囲内にすることは、以下のZrに関するAl及びTiのスラグ-メタル反応を安定化させることを意図している。
4Al+3ZrO2=2Al2O3+3Zr
Ti+ZrO2=TiO2+Zr
【0022】
すなわち、(A-Z)、(T-Z)の値を所定の範囲内とすることで、Zrに関する平衡状態を維持するようにスラグ-メタル反応を安定させてESRプロセスを進行させるのである。その結果、メタル及びスラグの両者にZrを安定して存在させることができ、Zrを安定的に含有した高Ni合金塊を得ることができる。これにより、特に、大型の合金塊であってもZrO2のフラックスへの添加量の抑制を図りつつ、Zrを均一に分布させることができる。
【0023】
一般に、フラックスに含有されるZrは、その一部しか合金塊に移行させることができず利用効率が低い。そのため、合金塊にZrを含有させようとすると、ZrO2のフラックスへの含有量を多くすることが一般的である。例えば、上記した特許文献1ではフラックスにおけるZrO2の含有量を5~25重量%含有させることとしている。これに対して上記した方法によれば、ZrO2の添加量を抑制して0.01~2.0質量%としても、スラグ-メタル反応における平衡状態を安定させることができるので、得られる合金塊に均一にZrを含有させることができるのである。
【0024】
また、得られる合金塊において、主としてCrを10~25質量%含み、Feを5質量%以下とする成分組成を有することも好ましい。Feの含有量を少なくすることで、スラグ中の鉄酸化物の含有量を抑制してESRプロセスを進行させることができる。これによって、Zrに関する平衡状態に影響を与えないようスラグ-メタル反応を安定化させ得て、Zrを均一に分布させた合金塊を得ることができる。
【0025】
さらに、ESRプロセスに用いる消耗電極において、質量%で、Cr:10~25%、Al:1~5%、Ti:1~4%、Zr:0.01~0.1%、残部Niとした成分組成を有することも好ましい。これによっても同様にメタル-スラグ反応を安定化させることができる。また、この消耗電極について、上記したスラグ-メタル反応に大きな影響を与えない成分組成として、Co:25%以下、Mo:5%以下、W:3%以下、Fe:5%以下、Nb:3%以下、Mg:0.1%以下、B:0.1%以下で含むようにすることもできる。なお、Si、C、Nは不可避的に含有され得るが、その含有量を低減されることが好ましい。
【0026】
上記した高Ni合金塊の製造方法は、前述したように大型の合金塊を得る場合にも用い得る。例えば、消耗電極の電極径を300mm以上とするものであっても、Zrを均一に分布させた合金塊を製造することができる。
【0027】
[製造試験]
次に、上記した方法で高Ni合金塊を製造する試験を行った結果について説明する。
【0028】
まず、
図1に示す範囲の各成分を含む成分組成の高Ni合金による消耗電極を5本用意した。なお、いずれも電極径を300mm以上とする大型の電極を用いた。
【0029】
特に、
図2には、この5本の消耗電極について比較例及び実施例1~4を割り振り、それぞれについてのAl、Ti、Si、Zrの含有量の分析値を示した。
【0030】
また、
図3の比較例及び実施例1~4に示す成分組成((a)質量%、(b)モル分率)となるようにフラックスをそれぞれ用意した。
【0031】
ここで、
図4には、フラックス中のAl
2O
3、TiO
2、ZrO
2と、消耗電極中のAl、Ti、Zrとの関係についての上記した「Z」、「A」、「T」の値、及び「A-Z」、「T-Z」の値を示した。そして、これらの消耗電極及びフラックスを用いてESRを行い、比較例、実施例1~4のそれぞれについて合金塊を得た。
【0032】
また、得られた合金塊のBottom側から100mmの位置から切り出した合金片においてZrの含有量を分析した結果についても同図の「ESR鋳塊Bot.[Zr]」の欄に質量%で示した。なお、「変化率」は、合金片におけるZrの含有量の分析値から消耗電極におけるZrの含有量の分析値を引いた差についての消耗電極におけるZrの含有量の分析値に対する割合を100分率で示したものである。また、変化率の絶対値を10%以下とするものを良と評価し「◎」を、10%超30%以下のものを可と評価し「〇」を、30%を超えるものを不可と評価し「×」を、それぞれ付して示した。
【0033】
その結果、比較例においては評価を「不可」としたが、実施例1~4においては評価を「良」又は「可」とした。つまり、実施例1~4においては、消耗電極に対する得られた合金塊のZrの含有量の変化が小さく、スラグ-メタル反応における平衡状態を安定させることができたと考えられる。その結果、得られた合金塊に均一にZrを含有させることができたものと推定される。
【0034】
ここで、
図5に、Z値とA値との平衡図を示した。図内の右上がりの直線は、上がA-Z=1.0、下がA-Z=-1.0を示す。そして、実施例1~4のZ及びAの値は、これらの直線の間にプロットされる。つまり、(A-Z)を-1.0から1.0の範囲内としていた。
【0035】
また、
図6に、Z値とT値との平衡図を示した。図内の右上がりの直線は、上がT-Z=2.5、下がT-Z=0.5を示す。そして、実施例1~4のZ及びTの値は、これらの直線の間にプロットされる。つまり、(T-Z)を0.5から2.5の範囲内としていた。
【0036】
実施例1~4では、Zrを均一に分布させた合金塊を製造できたが、これはスラグ-メタル反応における平衡状態を安定させたためである。そして、実施例1~4を踏まえて、メタル-スラグ反応を安定させ得る範囲として上記した平衡図上の直線を定めた。換言すると、Z値とA値及びT値を上記した直線の間の範囲内とすることでZrを均一に分布させた合金塊を製造し得る。
【0037】
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。