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特開2022-97161ヘッドアップディスプレイ装置を含む光学系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097161
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置を含む光学系
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220623BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210582
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】森 直也
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 健介
【テーマコード(参考)】
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA19
2H199DA22
2H199DA23
2H199DA24
2H199DA42
3D344AA19
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】車両用の窓に形成される反射像を虚像表示として視認する光学系であって、道路面や、水面での太陽光などの反射光による眩しさの低減と、鮮明なHUD映像の視認を両立できる光学系を提供する。
【解決手段】移動体に搭載され、S偏光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系であって、前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、路面を反射して前記投影部を経て前記移動体に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員との間にP偏光をカットするフィルターが配置された、光学系を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、フロントガラスに設けた投影部でのS偏光の反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、
前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、
路面を反射して前記投影部を経て前記移動体内に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員のアイポイントとの間にP偏光をカットする偏光フィルターが配置された、
光学系。
【請求項2】
前記投影光は、前記第一ガラス板に対し、ブリュースター角θ1=56度又はθ1±10°の入射角で前記投影光を投影される、請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記P偏光をカットするフィルターが、前記乗員のアイポイントに装着されるサングラスである、請求項1又は2に記載の光学系。
【請求項4】
請求項1~4のいずれか1項に記載された光学系を形成するためのキットであって、前記光学系は、移動体に搭載され、S偏光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置と、P偏光をカットするフィルターとの組み合わせからなるキット。
【請求項5】
投影部に旋光子層を備えたへッドアップディスプレイ装置を備えた移動体の乗員用に用いられる、偏光サングラスであって、
前記旋光子層は、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させるものであり、
前記偏光サングラスの各レンズの吸収軸が、レンズの縦幅方向にある、偏光サングラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両などの移動体に搭載されて、乗員の前方視野内の投影部に映像を投影して乗員に視認させるようにしたヘッドアップディスプレイ(以降-HUDと表記する場合がある)装置を含む光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の自動車用合わせガラスに表示画像を投射させて運転席の前方に虚像を表示すると、自動車用合わせガラスの車内側ガラス板表面と車外側ガラス板表面において映像光が反射されるため、反射像がずれて二重像となり、虚像表示が見づらくなるといった問題があった。
【0003】
これを改善する方法として、位相差フィルムなどの旋光性を有する旋光性フィルムを備える自動車用合わせガラスに、表示装置から直線偏光をブリュースター角で照射することで、自動車用合わせガラスの車内側ガラス板表面、または車外側ガラス板表面において偏光を反射させる方法が知られている。
【0004】
ここでいう直線偏光にはS偏光及びP偏光があり、S偏光はガラス板面の入射面に対して垂直に振動する偏光のことを言い、P偏光は入射面に対して平行に振動する偏光のことを言う。
【0005】
また位相差フィルムとは、光に含まれる直交する二つの振動成分の間に位相差を与えるフィルムのことを言う。偏光の位相を半波長分ずらすことができる位相差フィルム、即ち半波長フィルムの光学軸に対して45°の方向に振動する偏光が入射した場合、偏光は光学軸をまたいで90°回転される。
【0006】
例えば、自動車用合わせガラスに、光学軸がガラス表面に対して45°傾斜した半波長フィルムが含まれているとき、自動車用合わせガラスにS偏光が入射すると、半波長フィルムによって偏光の振動方向が90°回転し、P偏光に変換される。また逆に、P偏光が入射すると、半波長フィルムによってS偏光に変換される。
【0007】
自動車用合わせガラスに対しブリュースター角で入射される映像光がS偏光である場合、車内側ガラス板の車内側面に反射像が形成される。そして、投影部の位相差フィルムを通過した映像光はP偏光に変換される。前記P偏光は、車外側ガラス板の車外側面に達したとき、前記車外側面で反射されることなく、車外側へと出射される。乗員は車内側ガラスの車内側面に形成された、S偏光の反射像に基づく虚像表示を視認する。この場合をS-HUDと表記する。
【0008】
一方、入射される映像光がP偏光からなる場合、車内側ガラス板の車内側面では反射は生じない。投影部の位相差フィルムを通過した映像光はS偏光に変換される。S偏光に変換された映像光は、車外側ガラス板の車外側面に達したとき、一部は車外側面で反射像を形成し、残部は車外側面を通過する。この反射像を形成した映像光は位相差フィルムを再度通過し、P偏光へと変換される。乗員は、車外側ガラス板の車外側面に形成された反射像に基づく、P偏光による虚像表示を視認する。この場合をP-HUDと表記する。
【0009】
前記S-HUD、前記P-HUDにおける前記投影部は、前記移動体の窓の一部でもあるので、前記投影部は外部環境からの光が通過し、前記乗員が外部環境から窓を透過する光を投影部でも視認することになる。
【0010】
特許文献1には、ヘッドアップディスプレイ装置において、透過する直線偏光の偏光方向を90°回転させる偏光方向調整手段として2枚のガラス内に位相差フィルムを挟み込んだ自動車用合わせガラスと、自動車用合わせガラスの入射面に対し、ブリュースター角でS偏光又はP偏光を照射する投影部と、を備えるヘッドアップディスプレイ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2-141720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
移動体の前方の道路面や、水面での太陽光などの反射光(以下「路面反射光」という)は、前記乗員に眩しい光として認識されるので、この眩しい光を回避したい乗員は、偏光サングラスをアイポイントに装着する。路面反射光は、S偏光の直線偏光が主成分となるので、前記偏光サングラスとしては、S偏光をカットするフィルターが常用される。
しかしながら、前記S-HUD、前記P-HUDは、共に投影部に入射された直線偏光を半波長フィルムによって90°回転させることで二重像を防止するものなので、前記投影部を通過する路面反射光は、これらHUDの位相差フィルムの影響を受ける。S偏光の直線偏光が主成分である路面反射光は、前記乗員のアイポイントには、P偏光として到達する。そのため、前記S偏光をカットする偏光サングラスでは、路面反射光の眩しい光を回避したい前記乗員の要望を満足させることが難しいものとなる。
近年、投影部の大面積化が進行しており、前記路面反射光の影響を少なくしたHUDが求められている。
以上から、本開示では、偏光サングラスを用いても前記移動体の乗員にとって眩しい光として認識される、路面反射光の眩しさを低減しつつ、前記投影部の二重像を半波長フィルムを用いて防止したHUD装置の部材として大画面でも鮮明な映像を表示できる投影部として機能させることが可能な光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、移動体に搭載され、S偏光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、
前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、
路面を反射して前記投影部を経て前記移動体に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員との間にP偏光をカットするフィルターが配置された、
光学系を提供する。
【0014】
本開示の光学系では、S偏光の直線偏光を主に含む路面反射光が旋光子層を透過してP偏光の直線偏光を主成分とする反射光となるため、P偏光をカットするフィルターによってその輝度を軽減することができる。
また、映像表示器から照射される投影光はS偏光であるため、P偏光をカットするフィルターによって輝度を軽減されず、乗員は明瞭な虚像を視認することができる。
【0015】
さらに、本開示の光学系の別態様は、移動体に搭載され、S偏光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系 であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、
前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、
路面を反射して前記投影部を経て前記移動体に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員との間にP偏光をカットするフィルターが配置され、
前記投影光は、前記第二ガラス板に対し、46°~66°の入射角で前記投影光を投影された、光学系である。
【0016】
この光学系では、第二ガラス板を透過したS偏光からなる投影光が旋光子層によって90°回転されてP偏光となり、第一ガラス板の車外側面において反射することなく車外側に透過するため、乗員が視認する虚像が二重像になることを抑制することができる。
【0017】
また、本開示の光学系の別態様は、移動体に搭載され、S偏光の投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系 であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、
前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、
路面を反射して前記投影部を経て前記移動体に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員との間にP偏光をカットするフィルターが配置され、
前記P偏光をカットするフィルターが、前記乗員の視界部に装着されるサングラスである、光学系である。
【0018】
この光学系では、乗員がP偏光をカットするサングラスを備えることによって、路面反射光による眩しさを、領域を限定することなく軽減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示により、投影部を大面積化しても路面反射光による眩しさの低減と、HUD映像の鮮明な視認を両立できる光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の光学系の概略と、該光学系での光路を示す模式図である。
図2図2は、本開示の実験例1で示している、映像光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図3図3は、本開示の実験例1で示している、路面反射光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図4図4は、本開示の比較例1で示している、映像光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図5図5は、本開示の比較例1で示している、路面反射光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図6図6は、本開示の比較例2で示している、映像光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図7図7は、本開示の比較例2で示している、路面反射光の反射を示す画像の図面代用写真である。
図8図8は、本開示の実験で用いた光学系の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の光学系は、移動体に搭載され、フロントガラスに設けた投影部での反射像に基づく虚像を前記移動体の乗員に視認させる、へッドアップディスプレイ装置を含む光学系であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、S偏光からなる投影光を照射する映像表示器と、前記投影光が投影される投影部と、を備え、
前記投影部は、前記投影光の入射側に配置される第一ガラス板と、前記投影光の出射側に配置される第二ガラス板と、前記投影部に入射された直線偏光を90°回転させる旋光子層とを備え、
路面を反射して前記投影部を経て前記移動体内に入射する路面反射光の光路上、且つ前記投影部と、前記乗員のアイポイントとの間にP偏光をカットする偏光フィルターが配置された、光学系である。
【0022】
図1は、本開示の光学系の概略と、該光学系での光路を模式的に示したものであり、投影光の光路は実線で示され、路面反射光の光路は点線で表されている。
光学系1は、ヘッドアップディスプレイ装置2と、P偏光をカットするフィルター5とを備えている。ヘッドアップディスプレイ装置2は、投影部3と、映像表示器4とを備えている。
投影部3は、フロントガラスを構成する第一ガラス板31と、第二ガラス板32と、旋光子層33とを備えている。
【0023】
映像表示器4は、前記第一ガラス板31に対し、投影光41を照射する。このとき、投影光41が第一ガラス板31だけでなく第二ガラス板32でも反射して二重像とならないよう、投影光41の第一ガラス板31に対する入射角をブリュースター角θ1とするのが好ましい。
投影光41はS偏光からなる直線偏光であるため、第一ガラス板31の車内側面で反射した後P偏光をカットする偏光フィルター5を透過し、乗員のアイポイント7に入射する。
【0024】
一方、移動体の前方の路面8では、太陽光が反射して路面反射光81を形成する。路面反射光81はS偏光の直線偏光を主成分としている。路面反射光81が投影部3に入射すると、旋光子層33によって振動方向が90°回転する。結果、P偏光の直線偏光を主成分とする反射光となり、P偏光をカットする偏光フィルター5によってP偏光の直線偏光が減衰した状態で乗員のアイポイント7に入射する。
【0025】
乗員のアイポイント7には、P偏光をカットする偏光フィルター5によって減衰された路面反射光81とP偏光をカットする偏光フィルター5によって減衰されなかったS偏光からなる投影光41が入射するため、乗員は路面反射による眩しさを軽減しつつ、明瞭な虚像を視認することができる。
P偏光をカットする偏光フィルター5は、乗員のアイポイントに装着される吸収軸が鉛直方向である偏光サングラスであれば、乗員の視界全体を覆うことができるため好ましい。
また、例えば、偏光フィルターをサンバイザーの下端部やフロントパネル部に設けたコンバイナーの上端部に取り付けるようにしてもよい。
【0026】
本開示の光学系1は、投影部3を車両のウィンドシールド、映像表示器4をプロジェクターとした車両に搭載されるHUD装置とP偏光をカットする偏光フィルムを組み合わせたキットとして使用されてもよい。
【0027】
以下に、本開示のヘッドアップディスプレイ装置に使用される投影部の好適な形態を実施するための構成及び材料について説明する。
【0028】
<投影部>
投影部は、中間膜を第一ガラス板及び第二ガラス板で挟持して作製される合わせガラスである。また、S-HUD方式のHUD装置、又は、P-HUD方式のHUD装置の場合は、投影部に旋光子層として1/2波長フィルムが配置されている。図1の投影部3は、第一ガラス板31と、第二ガラス板32と、旋光子層33とを備える。
旋光子層33は、第一ガラス板31と第二ガラス板32との間に、第二ガラス板32の車内側面と第一ガラス板31の車外側面とに面するように配置される。
【0029】
<ガラス板>
第一ガラス板31及び第二ガラス板32としては、フロート法で製造されたガラス板を好適に用いることができる。ガラス板の材質としては、ISO16293-1で規定されているようなソーダ石灰珪酸塩ガラスの他、アルミノシリケートガラスやホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス等の公知のガラス組成のものを使用することができる。ガラス板の厚さは、約2mmのものを使うことが好ましいが、軽量化のためにこれよりも薄い厚さのものを用いてもよい。
【0030】
ガラス板として曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を軟化点以上に加熱した後、モールドによるプレスや自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように整形し、ガラスを冷却する。
【0031】
<旋光子層>
旋光子層33は、投影面に入射する投影光の位相をずらす、又は、投影光の振動方向を変えるものである。例えば、旋光子層33が1/2波長フィルムの場合は、投影面に入射する投影光の振動方向と、光軸とがなす角度をdθとしたとき、入射する投影光の振動方向を2dθ回転させる。
また、旋光子層33としては、基材を持たない層や膜を含んでもよい。例えば、投影部内に光軸を有する層を、塗布、積層、添着、付着、圧着、転写等により形成したものが挙げられる。
旋光子層33としては、1/2波長フィルムを使用してもよく、1/4波長フィルムを使用してもよい。また、1/4波長フィルムを2枚重ねて使用してもよい。
【0032】
1/2波長フィルムとしては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー等のプラスチックフィルムを一軸又は二軸延伸した位相差素子や、液晶ポリマーを特定方向に配向させて配向状態を固定化した位相差素子を用いることができる。ポリマーを配向させる方法としては、例えば、ポリエステルフィルムやセルロースフィルムなどの透明プラスチックフィルムをラビング処理する方法や、ガラス板やプラスチックフィルム上に配向膜を形成し、上記配向膜をラビング処理又は光配向処理する方法などが挙げられる。配向を固定化する方法としては、例えば、紫外線硬化型の液晶ポリマーを光重合開始剤の存在下、紫外線照射して重合反応によって硬化させる方法や、加熱により架橋させる方法や、高温状態で配向した後に急冷する方法などが挙げられる。
【0033】
液晶ポリマーとして使用される化合物は、特定方向へ配向する際、液晶性を示す化合物であれば特に限定されない。例えば、液晶状態でねじれネマティック配向し、液晶転移点以下ではガラス状態となるものを使用することができ、光学活性なポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステルイミドなどの主鎖型液晶ポリマー、光学活性なポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロート、ポリシロキサン、ポリエーテルなどの側鎖型液晶ポリマーや重合性液晶などが挙げられる。また、光学活性でないこれらの主鎖型あるいは側鎖型ポリマーに、他の低分子あるいは高分子の光学活性化合物を加えたポリマー組成物などを例示することができる。
【0034】
旋光子層33は、投影部の光路上に配置されていればよく、例えば、中間膜が半波長板を含んでいてもよいし、ガラス板に接する位置に配置されても良い。
【0035】
旋光子層33は、前記投影部の少なくとも下辺から上に、前記投影部の縦幅の4分の1の範囲に配置される。
【0036】
以下に、本開示の光学系に使用される映像表示器や映像表示器から照射される投影光の形態について説明する。
【0037】
<映像表示器>
図1に示す映像表示器4は、投影部3に対し、投影光41を照射する装置である。映像表示器4の例としては、S偏光を主成分として含む投影光を照射できるプロジェクターが好適に使用される。そのようなプロジェクターの例としては、DMD投影システム方式プロジェクター、レーザー走査型MEMS投影システム方式プロジェクター、または、反射型液晶方式プロジェクターからなるものが挙げられる。
【0038】
<投影光>
映像表示器4から投影部3に投影される投影光41としては、振動方向が入射面と垂直であるS偏光を主成分として含む投影光を使用することができる。
【0039】
また、投影光41は、投影部3に対して、ブリュースター角θ1を形成するような入射角度で、投影部3に入射されることが好ましい。
【0040】
以下に、本開示の光学系に適用される、S-HUD方式について説明する。
【0041】
<ヘッドアップディスプレイ装置>
ヘッドアップディスプレイ装置2は、投影部3及び映像表示器4で構成される。ヘッドアップディスプレイ装置2は、S-HUDである。この場合、投影光41はS偏光からなり、投影部3が旋光子層33を含む。そして、S偏光からなる投影光41を第一ガラス板31に対して、ブリュースター角θ1=56度とし、θ1±10°、好ましくは、ブリュースター角θ1で入射する。
S-HUDの場合、第一ガラス板31の車内側面で第一反射像が形成され、移動体6の乗員は、第一ガラス板31の車内側面での第一反射像に基づく虚像を視認する。第一ガラス板31の車内側面を透過し、投影部3内を進行した投影光41は、旋光子層33で、P偏光に変換され、第二ガラス板32の車外側面で反射が生じることなく、投影光41はP偏光のまま車外側へ放出される。
【0042】
以下に本開示の光学系に適用されるP偏光をカットする偏光フィルターについて説明する。
【0043】
P偏光をカットする偏光フィルターの態様は、透明基材上にP偏光をカットする偏光フィルムが配置されていれば特に限定されない。例えば、プラスチックやガラスなどの透明基材上に、P偏光をカットする偏光フィルムを、接着剤層を介して接着したものが挙げられる。また例えば、透明基材上にP偏光をカットする成分を含む溶液をコーティングしたものが挙げられる。
【0044】
P偏光をカットする偏光フィルターは、P偏光をカットする偏光フィルムをレンズ上に備える偏光サングラスとして使用することが好ましい。この場合、旋光子層33を経由した路面反射光81は、レンズの縦幅方向に対して平行に振動する偏光、即ちP偏光の成分を多く含むため、前記偏光サングラスの各レンズの吸収軸が、レンズの縦幅方向に対して垂直である必要がある。
【0045】
P偏光をカットする偏光フィルターを構成するフィルム内では、炭化水素の鎖状高分子がP偏光の振動方向と垂直な方向に整列している。該フィルムに光が照射されると、該フィルム内の分子の整列方向と平行な光のみが透過し、平行でない光は全て遮断される。これにより、旋光子層33を経由した路面反射光81のP偏光成分を遮断し、映像表示器4から照射されるS偏光からなる投影光41を透過することができる。
【0046】
P偏光をカットする偏光フィルターを構成するフィルムは、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系偏光膜が挙げられる。このポリビニルアルコール系偏光膜は、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムと、二色性物質(ヨウ素や二色性染料など)とで構成されている。ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルと少量の共重合性単量体(不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、カチオン性モノマーなど)との共重合体のケン化物、このケン化物からの誘導体(ホルマール化物、アセタール化物など)であってもよい。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂として、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどが例示できる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、例えば、1000~10000、好ましくは2000~7000、さらに好ましくは3000~5000程度であってもよい。また、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、85モル%以上、好ましくは90モル%以上(例えば、90~100モル%)、さらに好ましくは95モル%以上(例えば、98~100モル%)程度である。
【0047】
P偏光をカットする偏光フィルターを構成するフィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、膨潤処理、二色性物質による染色処理、架橋処理、延伸処理(倍率3~7倍程度の一軸延伸処理)などを施すことにより得ることができる。偏光膜の厚みは、例えば、5~100μm(例えば、10~80μm)程度であってもよい。偏光膜の表面は、密着性を向上させるため、種々の表面処理(例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、アンカーコート処理など)を施してもよい。
【0048】
以下に本開示の光学系に適用される、路面反射現象や路面反射光、P偏光をカットする偏光フィルターとの関係を説明する。
【0049】
路面反射は、太陽光が路面に存在する水たまりや濡れた路面等の平滑な表面に入射した際に起こる。路面反射光は、路面反射によって形成された反射光を指す。
太陽光には様々な方向に振動した光で構成され、その中には、路面に対する入射面に垂直に振動する直線偏光成分、即ちS偏光成分や、路面に対する入射面に平行に振動する直線偏光成分、即ちP偏光成分が含まれている。
路面反射では、S偏光成分の反射率がP偏光成分の反射率よりも大きいため、路面反射光は一般に、S偏光を多く含むことが知られている。
【0050】
路面反射光がそのまま一般的な合わせガラスを透過して乗員の視界部7に届いた場合、乗員は眩しい光として認識する。この眩しい光を回避したい乗員は、偏光サングラスをアイポイントに装着する。路面反射光は、S偏光の直線偏光が主成分となるので、前記偏光サングラスとしては、S偏光をカットする偏光フィルターが常用される。
【0051】
しかしながら、本開示では旋光子を用いた投影部3を窓としても使用するため、投影部3を透過する路面反射光は前述の一般的な合わせガラスを窓として用いる場合とは路面反射光の状態が異なる。
すなわち、路面反射光がそのまま投影部3を透過する場合、S偏光の直線偏光が主成分であった路面反射光の振動方向が、旋光子層33によって90°回転する。その結果、路面反射光に含まれるS偏光の直線偏光はP偏光の直線偏光に変換される。この場合、S偏光をカットする偏光フィルターが用いられている偏光サングラスでは、乗員は路面反射光の眩しさを軽減することが困難になる。
【0052】
本開示のP偏光をカットする偏光フィルターは、投影部3を透過した後の路面反射光の眩しさを軽減させるために用いられる。ここでいうP偏光とは、路面反射光81の反射面に対し平行に振動する直線偏光を指す。P偏光をカットする偏光フィルターは、路面を反射して前記投影部を経て前記移動体内に入射する路面反射光の光路上にあり、且つ投影部3と乗員のアイポイント7との間に配置される。
【0053】
映像表示器4から照射された投影光41は、第一ガラス板31の車内側面を反射してP偏光をカットする偏光フィルターを経て乗員のアイポイント7に入射する。投影光41はS偏光からなる直線偏光であるため、P偏光をカットする偏光フィルターの影響を受けることなく乗員の視界部7に入射する。
【0054】
以上より、本開示ではP偏光をカットする偏光フィルターを使用することによって、路面反射光の眩しさを軽減させつつ、十分な輝度の投影光による虚像を得ることが可能となる。
【0055】
<合わせガラスの作製手順>
以下に、本開示のヘッドアップディスプレイ装置の投影部となる合わせガラスを作製する方法の好適な一例を説明する。
ガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に中間膜(樹脂中間膜)を重ね、最後にもう一方のガラス板を置く。なお、樹脂中間膜としてPVBを用いる場合には、PVBの含水率を最適に保つために、作業時の温度を恒温恒湿に維持するのが好ましい。その後、サンドイッチ状に積層したガラスと樹脂中間膜との間に存在する空気を脱気しながら温度80~100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法には、ガラス板と樹脂中間膜の積層物を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法、積層物のガラス板の端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法、積層物をロールの間に通して最外層となる2枚のガラス板の両側から加圧するロール法などがあり、いずれの方法を用いても良い。
【0056】
予備接着が終了後、バッグ法を用いた場合は積層物をゴムバッグから取り出し、リング法を用いた場合は積層物からゴムリングを取り外す。その後、積層物をオートクレーブに入れ、10~15kg/cmの高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20分~40分間、加熱・加圧処理(仕上げ接着)する。処理後、50℃以下に冷却したのちに除圧し、合わせガラスをオートクレーブから取り出す。
【0057】
S-HUD方式のヘッドアップディスプレイ装置の投影部3となる合わせガラスの場合は、旋光子層33を第一ガラス板31と第二ガラス板32との間に挟持し、中間膜に含ませるようにしたものや、ガラス板の中間膜と接する面に旋光子層33が貼り付けられたものが用いられる。旋光子層33は、反射像が形成される領域に配置されていれば良く、ガラス板と同じ大きさの面積であっても、ガラス板よりも小さい面積でも良い。
<実験例1>
【0058】
以下の手順で実施態様をシミュレーションした実験を行った。
【0059】
(1)水平の作業台の上に、市販の金属トレイと、タブレット端末の映像を上面に印刷した箱(以下「映像表示箱」という)と、旋光子層を含む合わせガラスと、撮影用カメラと、市販の偏光サングラス(TALEX Optical Co. LTD.EM6-D0302)を用意した。
旋光子層を含む合わせガラスとしては 旋光子層付きの基材を中間膜でラッピングしたものを、2枚のガラス板で挟持してオートクレーブで圧着したもの(ガラス構成は、MFL2 / PVB 15mil / 旋光子フィルム(位相差フィルム) / PVB15mil / MFL2)を用いた。
ここでは、市販の金属トレイを路面、映像表示箱を映像表示器、旋光子層を含む合わせガラスを投影部、撮影用カメラを乗員のアイポイント、偏光サングラスをP偏光をカットする偏光フィルターとして扱っている。
【0060】
(2)金属トレイの近くに旋光子を含む合わせガラスを鉛直方向に対して傾斜角度θ3を34度として設置し、旋光子層を含む合わせガラスを挟んで金属トレイと反対側に映像表示箱を設置した。
【0061】
(3)撮影用カメラを映像表示箱側に設置し、金属トレイ、旋光子層を含む合わせガラス、映像表示箱及び撮影用カメラを同一直線上になるように整列させた。市販の金属トレイと映像表示箱の距離を約144cm、金属トレイとアイポイントの距離を約44cmとした。
金属トレイの中心と旋光子層の中心を結ぶ線の角度(路面反射光のガラス板に対する入射角に相当)は 約66度とした。また、ブリュースター角が約56度となるように映像表示箱を設置した。
【0062】
(4)偏光サングラスの向きを90°回転させ、偏光方向が金属トレイの上面と垂直になるように縦方向にした後、偏光サングラスの片方のレンズ撮影用カメラのレンズを覆うように配置した。
撮影用カメラで、偏光サングラスのレンズ越しに金属トレイ、旋光子層を含む合わせガラス及び映像表示箱を撮影した。撮影した画像を図2に示す。
【0063】
(5)撮影用カメラで取得した画像から、旋光子層を含む合わせガラスに映像表示箱が虚像(映像光の反射に相当)として映っているかを目視で確認した。
【0064】
(6)作業台から映像表示箱を除外し、撮影用カメラで金属トレイ及び旋光子層を含む合わせガラスを撮影した。撮影した画像を図3に示す。
【0065】
(7)撮影用カメラで取得した画像から、金属トレイの上面の明るさ(路面反射光の反射に相当)を目視で確認した。
<比較実験例1>
【0066】
偏光サングラスを通常の横向きに修正し、偏光方向が金属トレイの上面と平行になるようにしたこと以外は、実験例1と同様の方法で実験を行った。図4図5に、実験例1と同様に、撮影用カメラで取得した画像を示す。
<比較実験例2>
【0067】
偏光サングラスを撮影用カメラから外したこと以外は、実験例1と同様の方法で実験を行った。図6図7に、実験例1と同様に、撮影用カメラで取得した画像を示す。
【0068】
表1に、図2図7の目視による評価結果を示す。
【表1】


【0069】
実験例1の画像を示す図2を見ると、旋光子層を含む合わせガラスに映像表示箱が画像中心部に虚像として鮮明に映っていることが確認できた。これは、周囲の光が映像表示箱の表面に反射し、反射光に含まれるS偏光の直線偏光が旋光子層を含む合わせガラスの表面で反射しP偏光をカットする偏光フィルターを透過して撮影用カメラに入射したことを示している。
【0070】
実験例1の画像を示す図3を見ると、金属トレイの上面が画像中心部に暗く映っていることが確認できた。これは、金属トレイの上面で反射した光がS偏光の直線偏光を多く含んでいるが、旋光子層を含む合わせガラスを透過してP偏光の直線偏光に変換されたこと、及び、変換されたP偏光の直線偏光が、P偏光をカットする偏光フィルターによって遮断されたこと、すなわち路面反射光を遮断できることを示している。
【0071】
比較実験例1の画像を示す図4を見ると、図2と同様に、旋光子層を含む合わせガラスに映像表示箱が画像中心部に虚像として映っていることが確認できた。これは、映像表示箱の表面反射ではS偏光だけでなくP偏光も反射されていることが原因であり、周囲の光が映像表示箱の表面に反射し、反射光に含まれるS偏光の直線偏光が偏光サングラスによって遮断されるが、P偏光の直線偏光が旋光子層を含む合わせガラスの表面で反射して偏光サングラスを透過して撮影用カメラに入射したことを示している。
【0072】
比較実験例1の画像を示す図5を見ると、図3とは異なり、金属トレイの上面が画像中心部に明るく映っていることが確認できた。これは、金属トレイの上面で反射した光がS偏光の直線偏光を多く含んでいるが、旋光子層を含む合わせガラスを透過してP偏光の直線偏光に変換されたこと、及び、変換されたP偏光の直線偏光が、P偏光をカットする偏光フィルターを用いないと遮断されずに撮影用カメラに入射したこと、すなわち路面反射光を遮断するにはP偏光をカットする偏光フィルターが必要であることを示している。
【0073】
比較実験例2の画像を示す図6を見ると、図2図4よりも映像表示箱の周囲が暗くなっていることが確認できた。また、図2と同様に、旋光子層を含む合わせガラスに映像表示箱が虚像として映っていることが確認できた。これは、映像表示箱の表面反射ではS偏光だけでなくP偏光も反射されていることが原因であり、周囲の光が映像表示箱の表面に反射し、その反射光がさらに旋光子層を含む合わせガラスの表面で反射して撮影用カメラに入射したことを示している。
【0074】
比較実験例2の画像を示す図7を見ると、図3図5よりも金属トレイの周囲が暗くなっていることが確認できた。また、図3とは異なり、金属トレイの上面が明るく映っていることが確認できた。また、金属トレイの上面の明るさの程度は図5と同程度である。これは、変換されたP偏光の直線偏光がそのまま撮影用カメラに入射したこと、すなわち路面反射光を遮断するにはP偏光をカットする偏光フィルターが必要であることを示している。
【0075】
以上より、本開示の光学系において、P偏光をカットする偏光フィルターを乗員のアイポイントと投影部との間に設けることで、路面反射光が投影部を透過してアイポイントへ到達する場合に、路面反射による眩しさを軽減しつつ、映像表示箱の明瞭な反射像を乗員が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0076】
1 光学系
2 へッドアップディスプレイ装置
3 投影部
31 第一ガラス板
32 第二ガラス板
33 旋光子層
4 映像表示器
41 投影光
θ1 ブリュースター角
5 P偏光をカットするフィルター
6 移動体のフロントパネル部
7 乗員の視界部
8 路面
81 路面反射光
θ2 路面反射光の第二ガラス板に対する入射角
θ3 鉛直方向に対する合せガラスの傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8