(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097182
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】陰イオン又は陽イオンの分離方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20060101AFI20220623BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/44 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210616
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA18
4D006HA41
4D006KA03
4D006KD30
4D006MA03
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB28
4D061DA04
4D061DA08
4D061DB18
4D061DC13
4D061EA09
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB16
4D061ED12
(57)【要約】
【課題】
分離対象であるイオン種を電気透析により、より高い分解能で分離できる方法を提供すること。
【解決手段】
陰イオン交換膜を用いた電気透析法により、ヨウ化物イオンとヨウ化物イオンよりも当該陰イオン交換膜に対する吸着選択性が小さい第1の無機陰イオンとを分離する方法であって、ヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとを含む原液に、陰イオン交換膜に対する吸着選択性がヨウ化物イオンと第1の無機陰イオンとの間にある第2の陰イオンの塩(ただし水酸化物塩を除く)を添加して被処理液を得ることと、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む、陰イオンの分離方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換膜を用いた電気透析法により、ヨウ化物イオンとヨウ化物イオンよりも当該陰イオン交換膜に対する吸着選択性が小さい第1の無機陰イオンとを分離する方法であって、
ヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとを含む原液に、前記陰イオン交換膜に対する吸着選択性がヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとの間にある第2の陰イオンの塩(ただし水酸化物塩を除く)を添加して被処理液を調製することと、
前記被処理液に電気透析を行うこととを含む、陰イオンの分離方法。
【請求項2】
前記第1の無機陰イオンがフッ化物イオン及びイオン状態のホウ酸の少なくとも一方である、請求項1に記載の陰イオンの分離方法。
【請求項3】
前記第2の陰イオンが塩素を含む陰イオン、硫黄を含む陰イオン、重炭酸イオン及び炭酸イオンの少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の陰イオンの分離方法。
【請求項4】
前記第2の陰イオンが塩化物イオンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の陰イオンの分離方法。
【請求項5】
陰イオン交換膜を用いた電気透析法により陰イオンを分離する方法であって、
少なくとも2種の陰イオンを含む原液に、前記陰イオン交換膜に対する吸着選択性が前記少なくとも2種の陰イオンのうちいずれか2種の陰イオンの間にある陰イオンを添加して被処理液を調製することと、
前記被処理液に電気透析を行うこととを含む、陰イオンの分離方法。
【請求項6】
陽イオン交換膜を用いた電気透析法により陽イオンを分離する方法であって、
少なくとも2種の陽イオンを含む原液に、前記陽イオン交換膜に対する吸着選択性が前記少なくとも2種の陽イオンのうちいずれか2種の陽イオンの間にある陽イオンを添加して被処理液を調製することと、
前記被処理液に電気透析を行うこととを含む、陽イオンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン又は陽イオンの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃液、海水等、イオンを複数種含む水溶液から特定のイオンを分離する技術として電気透析法が知られている(特許文献1~3)。電気透析は、一度に大量の水溶液を短時間で連続処理することが可能であり、また、分離能も高いことから、ホウ素、フッ素等を含む化合物を水溶液から分離して廃液が排水基準を満たすための排水処理、食塩水等の電解質の濃縮処理、ヨウ素等の希少元素を抽出回収するなどの目的で幅広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-94525号公報
【特許文献2】特開2001-314864号公報
【特許文献3】特開2008-13379号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】妹尾学、”膜透過の選択性”、膜(MEMBRANE)、1977年、Vol.2、No.1、p.12~24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、目的のイオン同士の分離能を更に高めれば、電気透析の後の追加の精製工程を省略できる場合もあり、廃液等の処理について、処理にかかる時間及び費用等を節約できうる。そのため、より簡便に、分解能を高めた電気透析による分離方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、分離対象であるイオン種を電気透析により、より高い分解能で分離できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の陰イオンの分離方法は、陰イオン交換膜を用いた電気透析法により、ヨウ化物イオンとヨウ化物イオンよりも当該陰イオン交換膜に対する吸着選択性が小さい第1の無機陰イオンとを分離する方法であり、ヨウ化物イオンと第1の無機陰イオンとを含む原液に、上記陰イオン交換膜に対する吸着選択性がヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとの間にある第2の陰イオンの塩(ただし水酸化物塩を除く)を添加被処理液を得る工程と、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む。
【0008】
上記第1の無機陰イオンがフッ化物イオン及びイオン状態のホウ酸の少なくとも一方であると好ましい。
【0009】
上記第2の陰イオンが塩素を含む陰イオン、硫黄を含む陰イオン、重炭酸イオン及び炭酸イオンの少なくとも一つであると好ましい。
【0010】
上記第2の陰イオンが塩化物イオンであると好ましい。
【0011】
本発明の陰イオンの分離方法は、陰イオン交換膜を用いた電気透析法により陰イオンを分離する方法であって、少なくとも2種の陰イオンを含む原液に、上記陰イオン交換膜に対する吸着選択性が当該少なくとも2種の陰イオンのうちいずれか2種の陰イオンの間にある陰イオンを添加被処理液を得ることと、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む。
【0012】
本発明の陽イオンの分離方法は、陽イオン交換膜を用いた電気透析法により陽イオンを分離する方法であって、少なくとも2種の陽イオンを含む原液に、上記陽イオン交換膜に対する吸着選択性が前記少なくとも2種の陽イオンのうちいずれか2種の陽イオンの間にある陽イオンを添加して被処理液を得ることと、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分離対象であるイオン種を電気透析により、より高い分離能で分離できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気透析装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る陰イオンの分離方法は、陰イオン交換膜を用いた電気透析法により陰イオンを分離する方法であって、少なくとも2種の陰イオンを含む原液に、上記陰イオン交換膜に対する吸着選択性が当該少なくとも2種の陰イオンのうちいずれか2種の陰イオンの間にある陰イオン(以下、追加の陰イオンとも呼ぶ)を添加被処理液を得ることと、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む。
また、本実施形態に係る陽イオンの分離方法は、陽イオン交換膜を用いた電気透析法により陽イオンを分離する方法であって、少なくとも2種の陽イオンを含む原液に、上記陽イオン交換膜に対する吸着選択性が当該少なくとも2種の陽イオンのうちいずれか2種の陽イオンの間にある陽イオン(以下、追加の陽イオンとも呼ぶ)を添加して被処理液を得ることと、当該被処理液に電気透析を行うこととを含む。
このような方法によれば、原液に含まれる2種の陰イオン又は陽イオンを互いに電気透析により分離する際に、高い分離能が得られるという効果が奏される。
【0016】
上記陰イオンの分離方法は、特に、陰イオン交換膜を用いた電気透析法により、ヨウ化物イオンとヨウ化物イオンよりも当該陰イオン交換膜に対する吸着選択性が小さい第1の無機陰イオンとを分離する方法に対して有用である。かかる方法は、ヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとを含む原液に、前記陰イオン交換膜に対する吸着選択性がヨウ化物イオンと前記第1の無機陰イオンとの間にある第2の陰イオンの塩(ただし水酸化物塩を除く)を添加して得られた被処理液に電気透析を行うこととを含む。
【0017】
なお、被処理液とは、上記分離対象の陰イオン又は陽イオンを含む原液に、上記追加の陰イオン又は追加の陽イオンを添加した液のことを言い、電気透析に供される液のことである。
【0018】
本発明者は、上記効果が奏される理由について以下の機構に基づくと考えている。
まず、電気透析による同符号イオン(陽イオン同士又は陰イオン同士)の分離は、被処理液に含まれる同符号イオンのイオン交換膜に対する透過速度の差を利用するものである。つまり、イオンごとに、陽イオンであれば陽イオン交換膜に対する透過速度が、陰イオンであれば陰イオン交換膜に対する透過速度が異なる。電気透析で複数の同符号イオンを含む水溶液から同符号イオンを分離する場合、イオン交換膜に吸着しやすい(吸着選択性が高い)イオンのほうがより透過速度に優れる傾向にある。そして、イオン交換膜内に存在するイオンが吸着できる箇所(サイト)の個数は有限であるため、最初に分離対象のイオンのうち吸着選択性の高いイオンが優先的に吸着し、イオン交換膜内に存在するサイトが飽和すると、吸着選択性の低いイオンはイオン交換膜に吸着できなくなる。
その後、吸着性の高いイオンがイオン交換膜を透過し、被処理液中の吸着性の高いイオンの濃度が下がり、イオン交換膜内に吸着性の高いイオンに占有されていないサイトが増えるため、吸着選択性の低いイオンがイオン交換膜を透過できるようになる。
言い換えれば、吸着性の高いイオンは、吸着選択性の低い同符号のイオンがイオン交換膜を透過することを遅らせる効果がある。
本実施形態の陰イオンの分離方法では、追加の陰イオンを原液に添加して調製した被処理液に電気透析を行う。追加の陰イオンは、使用する陰イオン交換膜に対し、吸着選択性が分離対象である2種の陰イオンの間にある(つまり、分離対象である2種の陰イオンの一方よりも吸着選択性が大きく、他方よりも吸着選択性が小さい)。そのため、分離対象である2種の陰イオンのうち吸着選択性の低い陰イオンは、追加の陰イオンにより、更に陰イオン交換膜に対する透過が遅れるため、吸着選択性の高い陰イオンと更に分離しやすくなる。同様に、原液に含まれる2種の陽イオンを分離する際に、上記追加の陽イオンを添加してから電気透析を行うと、分離対象である2種の陽イオンのうち吸着選択性の低い陽イオンは、追加の陽イオンにより、更に陽イオン交換膜に対する透過が遅れるため、吸着選択性の高い陽イオンと更に分離しやすくなる。
【0019】
本明細書において、陰イオン交換膜に対する吸着選択性として、陰イオン交換膜を隔膜として電気透析を行った際の選択透過係数を使用することができる。二種類の陰イオンA及び陰イオンBについて、選択透過係数TA
Bは、以下の式で定義される。
TA
B=(JB/JA)/(cB/cA)=(JB/cB)/(JA/cA)・・・(I)
上記式(I)において、JA及びJBは、それぞれ、陰イオンA及び陰イオンBの流束(単位時間あたり、単位面積の有効膜面積の陰イオン交換膜を透過するイオンの量。単位は、例えば、mol/(m2・s))を表し、cA及びcBは、それぞれ陰イオンA及び陰イオンBの被処理液側(脱塩室側)の濃度(単位は、例えば、mol/l)を表す。
式(I)からわかるように、選択透過係数TA
Bは、陰イオンAに対する陰イオンBの単位濃度当たりの流束であり、TA
Bが1より大きければ、陰イオンBのほうが陰イオンAよりも単位時間あたりに陰イオン交換膜を透過する量が大きく、吸着選択性が高いことを意味する。
陽イオン交換膜に対しても、同様に吸着選択性の指標として選択透過係数を使用することができる。
【0020】
種々の陰イオンについて、選択透過係数の測定が行われており、例えば、選択透過係数TA
Bとして、非特許文献1に記載される選択透過係数を参照することができる。選択透過係数が未知の陰イオンについて、選択透過係数TA
Bを測定する場合は、当該2種類の陰イオンを含む試験用水溶液を用意し、pHや温度を調整し、所定の陰イオン交換膜を有する電気透析装置を用いて試験用水溶液に電気透析を行い、濃縮室側に流出する流束と脱塩室側のイオン濃度を測定することで算出することができる。ただし、脱塩室側のイオン濃度比が変化すると選択透過係数が変化するため、脱塩室側の溶液容積を十分に大きくするか、一定組成の溶液を常に脱塩室に補給し続けながら測定することが好ましい。選択透過係数の測定に使用する陰イオン交換膜としては、イオン交換基として第四級アンモニウム基を有する陰イオン交換膜であってよい。
【0021】
イオン交換膜への吸着選択の原理は、イオン交換樹脂への吸着と同じ原理を利用している。例えば、イオン効果クロマトグラフィーでは、陰イオン交換樹脂カラムに複数の陰イオンを含む水溶液を通液すると、陰イオン交換樹脂と選択吸着性が高いほど保持時間が長くなり、吸着選択性が低いほど保持時間が短くなる。したがって、複数の同一価数の陰イオンのうち、選択吸着性の順番を同時に定性的に判断する場合、イオン交換クロマトグラフィーのリテンション・タイムが長いほど吸着選択性が高いと判断できる。陰イオン交換樹脂カラムのイオン交換樹脂としては、電気透析に用いる陰イオン交換膜のイオン交換基と同様の分子構造を有する官能基を含むイオン交換樹脂であってよい。
【0022】
同符号の2種類の陰イオンのうち、どちらがより吸着選択性が高いか(透過速度が大きいか)を判断する場合、例えば、当該2種類の同符号イオンを含む試験用水溶液を用意し、pHや温度を調整し、所定の陰イオン交換膜を有する電気透析装置を用いて試験用水溶液に電気透析を行い、選択透過係数を確認することによっても決めることができる。この方法では、イオン交換膜特有の多価イオン難透過性等を考慮に入れた選択透過係数の序列を判断できる。選択透過係数の測定に使用する陰イオン交換膜としては、イオン交換基として第四級アンモニウム基を有する陰イオン交換膜であってよい。
【0023】
例えば、一部の陰イオンについての選択透過係数の序列は、典型的には以下のとおりである。
I->NO3
->S2O3
2->Br->Cl->SO4
2->HPO4
2->OH->CH3COO->F->イオン状態のホウ酸
【0024】
分離対象の陰イオンとしては、イオン種が異なれば、陰イオン交換膜に対する吸着選択性が異なるため、特に制限はない。そのため、有機陰イオン同士の組み合わせ、無機陰イオン同士の組み合わせ、有機陰イオンと無機陰イオンとの組み合わせのいずれであってもよい。
【0025】
無機陰イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ハロゲンを含むオキソ酸イオン、ポリハロゲン化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン等の硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン等のリンを含むオキソ酸イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。無機陰イオンは金属元素を含まない(つまり、金属錯陰イオンでない)ことが好ましい。
【0026】
ハロゲンを含むオキソ酸イオンは、ハロゲンとして、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のいずれを含んでいてもよい。より具体的には、ヨウ素酸イオン(IO3-)、次亜ヨウ素酸イオン(IO-)等のヨウ素を含むオキソ酸イオン;塩素酸イオン(ClO3-)、次亜塩素酸イオン(ClO-)等の塩素を含むオキソ酸イオン;臭素酸イオン(BrO3-)、次亜臭素酸イオン(BrO-)等の臭素のオキソ酸イオン;フッ素酸イオン(FO3-)、次亜フッ素酸イオン(FO-)等のフッ素のオキソ酸イオンなどが挙げられる。
【0027】
ポリハロゲン化物イオンとしては、単一のハロゲン元素のみを含むもの及び2種類以上のハロゲン元素を含むもののいずれであってもよく、具体的には、I2Cl-、I3
-、ICl2
-、I2Br-、IBr2
-等が挙げられる。
【0028】
有機陰イオンとしては、酢酸イオン、ギ酸イオン、メタクリル酸イオン、シュウ酸イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン等が挙げられる。
【0029】
原液は、ヨウ化物イオンを含むと好ましい。原液がヨウ化物イオンを含む場合、ヨウ化物イオン以外に原液に含まれる陰イオンとしては、ヨウ化物イオンよりも陰イオン交換膜に対する吸着選択性が低い無機陰イオン(以下、第1の無機陰イオンとも呼ぶ。)であることが好ましい。第1の無機陰イオンとしては、特に制限はないが、フッ化物イオン及びイオン状態のホウ酸の少なくとも一方であると好ましい。
【0030】
原液における第1の無機陰イオンの濃度は、特に制限されないが、0.05mmol/l以上であってよく、0.01mol/l以上であってよく、0.1mol/l以上であってよく、0.3mol/l以上であってよく、1mol/l以上であってよい。原液におけるヨウ化物イオンの濃度は、当該原液における飽和濃度以下であってよく、2.0mol/l以下であってよい。
【0031】
水溶液中に弱解離性電解質を含む場合、水溶液中で非解離分子状態と解離イオン状態の平衡状態として存在する。選択透過係数はこれらのイオン形態によって異なるため、電気透析中に被処理液中の分離対象である2種の陰イオンと追加の陰イオンの各イオン形態における存在割合が変化しないことが好ましい。
【0032】
原液がホウ酸を含む場合、ホウ酸は弱解離性電解質の一つであり、水溶液中で、B(OH)3、メタホウ酸(O=B-OH)、ポリホウ酸等の分子状態、及びそれらがイオン化したイオン状態で存在する。例えば、イオン状態のホウ酸としては、B(OH)4
-;及びB3O3(OH)4
-、B5O6(OH)4
-、B3O3(OH)5
2-、B4O5(OH)4
2-等のポリホウ酸型の陰イオンなどが挙げられる。また、複数のホウ酸同士が脱水縮合してより高分子量化したポリホウ酸イオンもイオン状態のホウ酸に含まれる。なお、本明細書において、「ホウ酸」との用語は、上述のホウ酸が水溶液中でとり得る分子状態及びイオン状態のすべての状態を含むものとする。
【0033】
原液に含まれる陽イオンとしては、特に制限はなく、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン等の金属イオン;アンモニウムイオン;水素イオン等が挙げられる。アンモニウムイオンは、第1級~第4級アンモニウムイオンのいずれであってもよく、NH4
+であってもよい。
【0034】
追加の陰イオンは、陰イオン交換膜に対する吸着選択性が原液に含まれる陰イオンのうちいずれか2種の陰イオンの間にあるものであれば、特に制限はない。言い換えれば、追加の陰イオンは、原液に含まれる陰イオンのうち陰イオン交換膜に対する吸着選択性が最大のものより大きな吸着選択性を有するもの、及び原液に含まれる陰イオンのうち陰イオン交換膜に対する吸着選択性が最小のものより小さな吸着選択性を有するもののいずれでもなければよい。原液が3種類以上の陰イオンを含む場合、上記いずれか2種の陰イオンの組み合わせは、随意に選択することができ、分離することが望まれる2種を選択してよい。
【0035】
原液がヨウ化物イオン及び上記第一の陰イオンを含む場合、追加の陰イオンは、陰イオン交換膜に対する吸着選択性がヨウ化物イオンと上記第1の無機陰イオンとの間にあるもの(以下、第2の陰イオンとも呼ぶ。)であれば特に制限はない。第2の陰イオンとしては、塩素を含むイオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫黄を含むイオン、重炭酸イオン及び炭酸イオンの少なくとも一つであることが好ましく、塩素を含むイオン、硫黄を含むイオン、重炭酸イオン及び炭酸イオンの少なくとも一つであることがより好ましく、塩素を含むイオンであることが更に好ましい。これらは第1の陰イオンがフッ化物イオン及びイオン状態のホウ酸の少なくとも一方である場合に特に好ましい。
【0036】
塩素を含むイオンは、金属元素を含まないイオンである(つまり、金属錯イオンではない。)ことが好ましく、具体的には、塩化物イオン;次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン等の塩素のオキソ酸イオンが挙げられる。硫黄を含むイオンとしては、金属元素を含まないイオンである(つまり、金属錯イオンではない。)ことが好ましく、例えば、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン等の硫黄のオキソ酸イオンが挙げられる。
【0037】
追加の陰イオンは、当該陰イオンを含み、且つ水溶性の化合物として原液に添加することが好ましい。その中でも、水酸化物イオンは吸着選択性を有する陰イオンの一つであり、分離対象である2種の陰イオンの吸着選択性に影響を与える虞があることから、追加の陰イオンは、正塩に含まれていることが好ましく、水酸化物塩、又は酸(追加の陰イオンがプロトン化された共役酸)の形態でないことが好ましい。つまり、追加の陰イオンを原液に添加することで分離対象である2種の陰イオンが非解離分子状態にならないことが好ましい。
【0038】
追加の陰イオンの塩としては、特に限定はなく、水溶性の塩であればよく、例えば、1価の陽イオン又は2価の陽イオンと追加の陰イオンとの塩であってよい。より具体的には、例えば、塩化物イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、又は炭酸イオンとアルカリ金属との塩であってよい。当該塩に含まれる陽イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムのうち1種又は2種以上であってよい。追加の陰イオンの塩は、追加の陰イオンを遊離のイオンとして水溶液に含ませるため、遷移金属元素を含まないことが好ましい。
【0039】
添加する化合物の状態は特に制限はなく、事前に化合物を溶解させた水溶液であってもよい。被処理液中で完全に溶解していることが好ましく、追加後に固体化合物が析出しないことが好ましい。
【0040】
陰イオン交換膜を十分に飽和して、吸着選択性の低い陰イオンの透過を更に有効に阻害する観点から、分離対象である2種の陰イオンのうち陰イオン交換膜と吸着特性が高い陰イオンに対してモル濃度比が5%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上となるように追加の陰イオンを添加することが好ましい。原液に元々追加の陰イオンと同じイオンが含まれている場合、追加の陰イオンを添加して、被処理液における追加の陰イオンの濃度を上記範囲に調整してよい。
【0041】
原液としては特に制限はなく、例えば、工場の排水、浸出水等であってよい。工場の排水としては、偏光フィルムの製造の際に生じる排水等が挙げられる。また、海水等の自然に存在する水溶液であってもよい。
【0042】
原液は、無機陰イオンを含む塩を水溶液に溶解することにより調製したものであってよい。原液がヨウ化物イオンを含む場合、原液は、ヨウ化物イオンの塩、好ましくはヨウ化物イオンと金属イオンとの塩、より好ましくはヨウ化物イオンとアルカリ金属イオンとの塩を溶解することにより調製したものであってよい。原液がフッ化物イオンを含む場合、原液は、フッ化物イオンの塩、好ましくはヨウ化物イオンと金属イオンとの塩、より好ましくはヨウ化物イオンとアルカリ金属イオンとの塩を溶解することにより調製したものであってよい。なお、原液に追加の陰イオンを添加する前に(被処理液の調製前に)濃縮又は希釈することにより、原液の濃度調整を行ってもよい。
【0043】
原液がイオン状態のホウ酸を含む場合、ホウ酸は、B(OH)3、メタホウ酸、ポリホウ酸、及びそれらの塩の少なくとも一つを溶解することにより配合したものであってよい。B(OH)3、メタホウ酸、及びポリホウ酸の塩におけるカチオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオンが挙げられる。ポリホウ酸の塩としては、例えば、硼砂が挙げられる。
【0044】
原液には、非イオン性の不純物が含まれていてもよい。そのような不純物としては、例えば、水溶性のポリマー等、親水性の有機溶媒などの水溶性の有機化合物などが挙げられる。非イオン性の化合物は、電場に応答しないため、電気透析により首尾よく分離することができるが、電気透析前に予め原液又は被処理液から取り除いておいてもよい。また、原液が不溶性の不純物を含む場合は、電気透析中の配管の詰まり等の原因となり得るため、濾過などにより電気透析前に予め原液又は被処理液から取り除いておくことが好ましい。被処理液を調製後、電気透析に供される前に濃縮又は希釈することによって被処理液の濃度調整を行ってもよい。
【0045】
本実施形態の方法では、まず、原液に上述の追加の陰イオンを添加して被処理液を用意する。なお、追加の陰イオンの添加前に原液のpH調整を行ってもよく、追加の陰イオンの添加後に被処理液のpH調整を行ってもよい。陰イオン交換膜に対する吸着選択性を利用して陰イオン同士を分離するためには、分離対象である2種の陰イオンと追加の陰イオンは被処理液中あるいはイオン交換膜中でイオン状態である必要があり、それぞれの陰イオンの第一酸解離定数pKaのうち最も大きなpKa(max)に対して、pHがpKa(max)より大きいと好ましく、pKa(max)+1以上であると更に好ましく、10以上であると特に好ましい。被処理液のpHの上限は特に制限がないが、イオン交換膜の耐久性の観点から、被処理液のpHは、14以下であってよい。
【0046】
本実施形態の方法を実施するために用いる電気透析装置としては、特に制限はない。例えば、
図1は、電気透析装置の一例を表す概略図である。電気透析装置1は、陽極8を有する電極室(陽極室)と、陰極9を有する電極室(陰極室)と、陽極室と陽イオン交換膜6で仕切られた濃縮室11と、陰極室と陽イオン交換膜6で仕切られた脱塩室10とを備える電気透析槽20を有する。脱塩室10と濃縮室11とは、陰イオン交換膜7で仕切られている。陰極室及び陽極室には極性液が収容されている。極性液としては、特に限定されないが、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が挙げられる。
【0047】
陰イオン交換膜としては、特に制限はなく、強塩基性陰イオン交換膜等が使用できる。陰イオン交換膜としては、強塩基性陰イオン交換膜が好ましい。強塩基性陰イオン交換膜は、イオン交換基として第4級アンモニウム基を有するものであってよい。また、陰イオン交換膜としては、一価イオン選択透過陰イオン交換膜、全透過性の陰イオン交換膜、高強度耐アルカリ陰イオン交換膜を使用してもよく、一価イオン選択透過陰イオン交換膜であってよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強塩基性陰イオン交換基である第4級アンモニウム基を導入した陰イオン交換膜が使用できる。陰イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)AMV、セレミオン(登録商標)AMT、一価陰イオン選択膜であるセレミオン(登録商標)ASV等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)ASE(全透過性の陰イオン交換膜)、一価陰イオン選択膜ACS、ネオセプタ(登録商標)AXP-D等も使用できる。
【0048】
陽イオン交換膜としては、特に制限はなく、強酸性陽イオン交換膜、高強度耐アルカリ陽イオン交換膜等を使用できる。また、陽イオン交換膜は、一価イオン選択透過陽イオン交換膜であってもよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強酸性陽イオン交換基であるスルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が使用できる。陽イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)CMV、セレミオン(登録商標)CMB等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)CSE、ネオセプタ(登録商標)CMB等も使用できる。
【0049】
電気透析装置1は、脱塩室10に移送される原液等を収容する貯留槽2と、貯留槽2に収容された原液を調整するための調整槽12を備える。例えば、調整槽12には、追加の陰イオンを含む水溶液が収容されていてもよく、当該水溶液を貯留槽2の原液に移送することにより、原液に追加の陰イオンを添加し、被処理液を調製することができる。また、調整槽12には、追加の陰イオンを含む水溶液以外のそのほかの添加物を添加するための水溶液が含まれていてもよく、例えば、貯留槽2に収容された原液のpHを調整するためのアルカリ性又は酸性の水溶液を収容していてもよい。また、貯留槽2の追加の陰イオンを含む水溶液にアルカリ性又は酸性の物質を添加して、原液に対して追加の陰イオンの添加とpHの調整を同時に行ってもよい。
【0050】
なお、貯留槽2に収容された原液に直接追加の陰イオンを含む水溶液を添加する、又は追加の陰イオンを含む塩を固体のまま添加する等により、貯留槽2内で被処理液を調製してもよい。また、貯留槽2に収容する前の原液に予め追加の陰イオンを添加して被処理液を調製し、予め調製された被処理液を貯留槽2に投入してもよい。これらの場合、電気透析装置1に調整槽12を設けなくてもよいし、脱塩室10に直接被処理液を投入する場合、電気透析装置1に貯留槽2を設けなくてもよい。
【0051】
貯留槽2内に収容された被処理液は、配管を通じて脱塩室10に移送される。ここで、脱塩室に収容又は流通される水溶液を脱塩液と呼ぶ。脱塩室10に連続的に被処理液を供給しながら、連続的に脱塩液を排出する連続運転を行ってもよい。
【0052】
電気透析前には、濃縮室11には、電解液が収容されている。電解液としては特に制限はないが、例えば、塩化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムの水溶液等が挙げられる。なお、濃縮室11に収容又は流通される水溶液を濃縮液と呼ぶ。連続運転する際には適宜濃縮液を抜き出して、濃縮室に電解液を供給してもよい。
【0053】
電気透析の運転条件としては特に制限されないが、予め被処理液における各イオンの濃度を測り、濃縮室側への移動に要する電気量を算出しておけば、各成分を分画分取するための運転条件の参考にすることができる。共存イオンの種類や濃度、ヨウ素回収装置側の受け入れ条件などを勘案しながら、予め予備実験等により、濃縮室側に移動するイオンの濃度の経時変化を分析し、電気透析装置の運転条件を決定することがさらに好ましい。
【0054】
電気透析中、被処理液に含まれる分離対象の陰イオン及び追加の陰イオンが、陰イオン交換膜に対する吸着選択性が高い順に濃縮室11側に流出する。分離対象の陰イオンと追加の陰イオンとの組み合わせは、その分離の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、原液に3種類以上の陰イオンが含まれ、そのうち2種の陰イオンのみを分離したい場合は、陰イオン交換膜に対する吸着選択性が当該2種の陰イオンの間にある陰イオンを追加の陰イオンとして添加すればよい。
【0055】
濃縮室11には、分離対象の陰イオンのうち陰イオン交換膜に対する吸着選択性の高い陰イオンが流出して第1の濃縮液が生成する。第1の濃縮液は、濃縮室11から移送され、第1の濃縮液槽3に収容される。当該第一の濃縮液を回収して別の精製を行ってもよいが、第一の濃縮液を第1の濃縮液槽3から濃縮室11に返送して更に電気透析を行って、目的の分離対象の陰イオンの濃度を高めてもよい。
【0056】
電気透析中、濃縮室11における分離対象の陰イオンの濃度を監視することが好ましい。これにより、濃縮室11において、分離対象の陰イオンのうち特定の陰イオンの濃度が高まり、且つ他の分離対象の陰イオンの濃度が低いという分離に最適な時間帯を見出すことができる。
【0057】
また、電気透析装置1は、第2の濃縮液槽4及び第3の濃縮液槽5を更に備えており、濃縮液を第1の濃縮液とは別に分取することができる。
【0058】
なお、被処理液の調製は、脱塩室10中で行ってもよい。つまり、原液を脱塩室10に投入した後、原液に追加の陰イオンを添加して被処理液を調製してもよい。この場合、被処理液の調製後に電気透析を開始してもよいが、吸着選択性の低い陰イオンが流出し始めるまである程度時間がかかるため、電気透析の開始後に追加の陰イオンを添加して被処理液を調製しもよい。
【0059】
本実施形態の分離方法は、原液に含まれるいずれの陰イオン同士を分離するか等、目的に応じて適宜変更することが可能である。例えば、原液に含まれる陰イオンのうち2種の陰イオン(それぞれ陰イオンA及びBとし、陰イオン交換膜に対する吸着選択性は、陰イオンAのほうが高いものとする。)のみを分離する場合は、追加の陰イオンとして吸着選択性が陰イオンA及びBの間にあるものを原液に添加して被処理液を調製してよい。この例では、陰イオンAが先に濃縮室側に流出を開始し、陰イオンAの流出量が低下したところで、陰イオンBの流出が増加し始める。電気透析中に、濃縮液に含まれる陰イオンBの濃度を監視しておき、濃縮室における陰イオンB(又は追加の陰イオン)の濃度が所望の濃度以下であるうちに電気透析を終了し、濃縮液を回収してよい。あるいは、濃縮液における予め陰イオンB(又は追加の陰イオン)の濃度の閾値を設定しておき、閾値に達するまでは、濃縮液を第1の濃縮液として第1の濃縮液槽3に貯留し、閾値を超えたところで、濃縮液の搬送先を切り替え、第2の濃縮液として第2の濃縮液槽4に貯留してよい。第2の濃縮液は、第1の濃縮液に比べて陰イオンAの純度が低いため、
図1に示すように貯留槽2に戻して再度電気透析を行ってもよい。原液が、陰イオンA及びB以外のその他の陰イオンを含む場合、その他の陰イオンを陰イオンA及びBと分離する必要がなければ、その他の陰イオンは、脱塩液及び濃縮液のいずれに含まれていてもよい。
【0060】
原液に含まれる陰イオンのうち、3種類以上の陰イオンの分離をする場合は、分離すべき陰イオンの総数がn種類である場合、分離すべき陰イオンを吸着選択性の高いものから低いものへと順に並べ、追加の陰イオンとして、吸着選択性がk番目に高い(kは、1~(n-1)までの整数)陰イオンと(k+1)番目に高い陰イオンとの間にある陰イオンを原液に添加して被処理液を調製してよい。つまり、本実施形態の方法では、(n-1)種類の追加の陰イオンを使用することになる。(n-1)種類の追加の陰イオンは、すべてを電気透析前に原液に添加してもよいが、電気透析の進行段階に応じて順次添加してもよい。進行段階に応じた添加の仕方としては、例えば、電気透析を開始した時点での被処理液には、吸着選択性が原液に含まれる陰イオンのうち吸着選択性が一番高いものと2番目に高いものの間にある陰イオンを追加の陰イオンとして添加しておき、電気透析が進行して吸着選択性の一番高い陰イオンが十分に濃縮室に流出したところを見計らって、吸着選択性が2番目に高いものと3番目に高いものの間にある陰イオンを追加の陰イオンとして脱塩液に添加してよく、以降同様に、(n-1)番目に吸着選択性の高い追加の陰イオンまで順次添加して電気透析を行ってよい。
【0061】
原液に水溶性ポリマー等の非イオン性の化合物が含まれる場合、分離対象の陰イオンのうち、最も吸着選択性の低いものについても、電気透析を行い、濃縮室に流出させて良い。これにより、電気的に中性の化合物とイオン性の化合物とを分離することができる。
【0062】
本実施形態の方法では、第1の濃縮液に再度電気透析を行って第1の濃縮液に含まれる更に精製してもよい。具体的には、第1の濃縮液を濃縮室11に返送して再度電気透析を行ってもよく、貯留槽2に返送して、再度脱塩室10に移送して再度電気透析を行ってもよい。あるいは、濃縮室11から第1の濃縮液を別の電気透析槽(第2の電気透析槽)の脱塩室、又は別途用意した第2の原液室を経由して第2の電気透析槽に移送し、当該別の電気透析槽において電気透析を行ってもよい。
【0063】
分離対象のイオンがヨウ化物イオンであり、電気透析による分離後、ヨウ化物イオンを含む水溶液を回収した場合、ヨウ化物イオンは、当該水溶液にヨウ化物イオンを含む塩又はヨウ化水素酸として含まれていてよい。原液に含まれる陽イオンとしては、極性液又は濃縮室11の電解液として使用した電解質に含まれる陽イオンであってよい。
【0064】
本実施形態の方法でヨウ化水素酸を製造する場合、バイポーラ膜を使用してよい。例えば、電気透析室において、陰イオン交換膜の陽極側及び陰極側にそれぞれバイポーラ膜を配置することができる。この場合、陽極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を濃縮室とし、陰極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を脱塩室とした電気透析装置を用いて電気透析を行うと、濃縮液では水素イオンが発生してヨウ化水素が生成する。脱塩室側には水酸化物イオンが放出されるため、陰イオン交換膜を通じて水酸化物イオンが濃縮液に移動しても濃縮室のpHを低く、脱塩室のpHを高く維持できる傾向にある。
【0065】
なお、陽イオンの分離方法についても、陰イオンの分離方法と原理は同じであるため、同様の装置を用いることにより実施可能である。また、本実施形態の陰イオンの分離方法及び陽イオンの分離方法は、併用することも可能である。すなわち、複数の陰イオン及び複数の陽イオンを含む原液に追加の陰イオン及び追加の陽イオンの両方を添加して得られた被処理液に電気透析を行って陰イオンの分離及び陽イオンの分離の両方を行ってもよい。
【0066】
本実施形態の陰イオンの分離方法では、追加の陰イオンは、原液に直接添加しなくてもよく、原液中での反応により生じさせてもよい。このような反応としては、例えば酸・塩基反応が挙げられる。例えば、水酸化物イオンを含む原液に塩素分子を添加して、水酸化物イオンと塩素分子との反応により次亜塩素酸イオン(ClO-)を生じさせることにより、追加の陰イオンとして次亜塩素酸イオンを含む被処理液を調製してもよい。また、水酸化ナトリウムを含む溶液に二酸化炭素を添加して、炭酸イオン(CO3
2-)を生じさせてもよい。追加の陽イオンについても同様に原液中での反応により生じさせてもよく、例えば、酸性の原液にアンモニアを添加してアンモニウムイオン(NH4
+)を生じさせることにより、アンモニウムイオンを含む被処理液を調製してよい。
【実施例0067】
(原液及び被処理液の調製)
水にヨウ化カリウム及びフッ化カリウムを溶解して原液を調製した。原液におけるヨウ化カリウム及びフッ化カリウムの濃度は、それぞれ約1.00mol/lであった。
上記原液に、更に塩化カリウムを添加して被処理液を調製した。被処理液における塩化カリウムの濃度は、約1.00mol/lであった。
【0068】
(電気透析装置)
電気透析装置として、アストム株式会社製のマイクロアシライザーEX3Bを使用した。一対の陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜を1ユニットとし、10ユニットの2室法電気透析装置とした。陽イオン交換膜としては、アストム株式会社製の強酸性陽イオン交換膜(アストム株式会社製、商品名:ネオセプタCSE)を用い、陰イオン交換膜としては、一価陰イオン選択膜(商品名:ネオセプタAXP-D)を用いた。有効膜面積は、550cm2であった。
【0069】
(実施例)
上記被処理液700mlを脱塩室に導入した。濃縮室には、電解液として0.1MのNaCl水溶液を700ml導入した。25℃の室温で、平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。
電気透析開始から90分、120分、及び150分の時点で、イオンクロマトグラフィーにより、濃縮室に流出したヨウ化物イオン、及びフッ化物イオンの量をそれぞれ測定した。各イオンについて、電気透析を行う前の被処理液における濃度に対する濃縮室側への流出量の割合(それぞれI透過率、F透過率とする)を算出した。また、濃縮室側に流出したヨウ化物イオンに対するフッ化物イオンのモル比(I/F)を算出した。表1に結果を示す。
なお、イオンクロマトグラフィー装置としては、 Dionex(登録商標) イオンクロマトグラフィー(IC)(Thermo Scientific社製)により測定し、選択透過係数を算出した。
【0070】
(比較例)
上記被処理液に代えて、脱塩室に上記原液700mlを投入した以外は実施例と同様に電気透析を行った。実施例と同様に、電気透析開始から90分、120分、及び150分の時点でのヨウ化物イオンに対するフッ化物イオンの流束の比をとることにより選択透過係数を算出した。表1に結果を示す。
【0071】
【0072】
表1示すとおり、90分時点まではヨウ化物イオンが十分に存在するため、どちらも低い選択透過係数TI
Fを示している。実施例では、150分経過時点でヨウ化物イオンのほぼすべて濃縮室側へ移動したが、フッ化物イオンは6%程度しか濃縮室側に移動せず、ヨウ化物イオンとフッ化物イオンとの選択透過係数が良好であった。一方、比較例では、実施例と同様に150分経過時点でヨウ化物イオンのほぼすべて濃縮室側へ移動したが、フッ化物イオンも60%程度濃縮室側に移動してしまい、ヨウ化物イオンとフッ化物イオンとの選択透過係数が大幅に上昇した。
1…電気透析装置、2…貯留槽、3…第1の濃縮液槽、4…第2の濃縮液槽、5…第3の濃縮液槽、6…陽イオン交換膜、7…陰イオン交換膜、8…陽極、9…陰極、10…脱塩室、11…濃縮室、12…調整槽、20…電気透析槽。