(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097300
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/029 20180101AFI20220623BHJP
A01M 29/12 20110101ALI20220623BHJP
A01G 13/10 20060101ALI20220623BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220623BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220623BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20220623BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
A01G9/029 C
A01M29/12
A01G13/10 Z
A01N25/34 Z
A01P17/00
A01N43/16 A
A01N37/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210818
(22)【出願日】2020-12-18
(71)【出願人】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航太
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
2B327
4H011
【Fターム(参考)】
2B024GA10
2B121AA16
2B121CC21
2B121EA26
2B121EA30
2B121FA13
2B327NC02
2B327NC23
2B327NC24
2B327NC52
2B327ND09
2B327QB03
2B327QC11
4H011AE02
4H011BB06
4H011BB08
4H011BC19
4H011DH02
4H011DH04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】育苗中および土壌への移植後の両方において、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物から植物苗類の食害を効果的に防止することができる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供する。
【解決手段】育苗ポット100は、カップ本体110と、該側面部104の上端106近傍および外表面に設けられている忌避帯120とを備え、カップ本体および忌避帯はそれぞれ独立して生分解性材料で構成されており、該忌避帯が動物忌避剤を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ本体と、該側面部の上端近傍に設けられている忌避帯とを備え、
該カップ本体が生分解性材料で構成されており、そして該忌避帯が動物忌避剤を含有する、育苗ポット。
【請求項2】
前記生分解性材料が、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料である、請求項1に記載の育苗ポット。
【請求項3】
前記動物忌避剤が、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化学物質である、請求項1または2に記載の育苗ポット。
【請求項4】
前記忌避帯が前記カップ本体の外周に沿って配置されている、請求項1から3のいずれかに記載の育苗ポット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品。
【請求項6】
植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に請求項5に記載の植物苗類製品を該植物苗類製品の前記忌避帯が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業または園芸分野では、草花、果樹、庭木または樹木の生産のために、育苗ポットが多用されている。具体的には、例えば育苗ポット内で播種および発芽を行い、そのまま当該育苗ポット内で所定の大きさの苗(植物苗)になるまで成長させ、その後この苗を所定の土壌に移植することが行われている。一方で、その過程でナメクジ、カタツムリ、アブラムシなどの害虫による被害、特に芽から苗の状態ではナメクジやカタツムリなど柄眼目の軟体動物による食害が深刻である。
【0003】
これらを抑える手立てとしていくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1は、害虫の忌避剤を含む、ネットや織布、不織布、シートなどの部材を植物体の根元、あるいは植物体の幹または茎への巻き付けにより配置することにより、当該植物体の食害を防止することを開示している。
【0004】
しかし、こうした忌避剤を含む部材の配置では食害を十分に防止できず、さらに幹または茎への当該部材の巻き付けは植物体の成長自体に不適当となることもある。
【0005】
他方、特許文献2は、裏面には粘着剤などを付着させ、表面にはナメクジの忌避剤であるサポニンを付着させた合成樹脂製テープを植物の根元や茎に巻き付けることを開示している。特許文献3は、サポニンを含有する生分解性プラスチックフィルムからなる軟体動物用忌避剤を開示している。特許文献4は、軟体動物の忌避のために、パラヒドロキシ安息香酸アルキルを含有するエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA樹脂)を含む樹脂組成物の使用について開示する。特許文献5は、紙製基材に生分解性樹脂を積層し、これを育苗ポットに使用することを開示している。
【0006】
しかし、上記を用いて育苗した植物苗を土壌に移植しても、移植後はナメクジなどの軟体動物をそのままで撃退することが難しい。さらにこれを解決するためには忌避剤や忌避材のさらなる使用が必要となるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-298915号公報
【特許文献2】特開2002-171892号公報
【特許文献3】特開2017-137261号公報
【特許文献4】特開2020-055950号公報
【特許文献5】特開2002-101761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、育苗中および土壌への移植後の両方において、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物から植物苗類の食害を効果的に防止することができる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カップ本体と、該側面部の上端近傍に設けられている忌避帯とを備え、
該カップ本体が生分解性材料で構成されており、そして該忌避帯が動物忌避剤を含有する、育苗ポットである。
【0010】
1つの実施形態では、上記生分解性材料は、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料である。
【0011】
1つの実施形態では、上記動物忌避剤は、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化学物質である。
【0012】
1つの実施形態では、上記忌避帯が上記カップ本体の外周に沿って配置されている。
【0013】
本発明はまた、上記育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品である。
【0014】
本発明はまた、植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に上記植物苗類製品を該植物苗類製品の前記忌避帯が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物による食害から育苗中の植物苗類を効果的に保護できる。本発明の育苗ポットは、少なくともカップ本体が生分解性を有することにより、植物苗類とともに土壌にそのまま移植でき、これにより使用済のポットが廃棄ゴミとして残存する懸念から解放される。さらに、土壌への移植後は、本発明の育苗ポットの忌避帯に含まれる動物忌避剤が上記軟体動物からの食害を引き続き防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の育苗ポットの一例を示す図であって、(a)は当該育苗ポットの模式図であり、(b)は当該育苗ポットの縦方向断面図である。
【
図2】本発明の育苗ポットにおけるカップ本体と忌避帯との位置的関係を説明するための図であって、(a)はカップ本体の側面部上端が忌避帯の端部よりも上方に位置するように配置された当該育苗ポットの縦方向断面図であり、(b)は忌避帯の端部がカップ本体の側面部の上端よりも上方に位置するように配置された当該育苗ポットの縦方向断面図である。
【
図3】
図1の(a)および(b)に示す育苗ポットの分解斜視図である。
【
図4】本発明の育苗ポットの他の例を示す当該ポットの分解斜視図である。
【
図5】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの分解斜視図である。
【
図6】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの縦方向断面図である。
【
図7】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの縦方向断面図であって、(a)はカップ本体の上方を外側に折り曲げて忌避帯を形成した状態を説明する当該育苗ポットの縦方向断面図であり、(b)はカップ本体の上方を内側に折り曲げて忌避帯を形成した状態を説明する当該育苗ポットの縦方向断面図である。
【
図8】
図1に示す育苗ポットを用いた植物苗類製品の一例を説明するための斜視図である。
【
図9】
図8に示す植物苗類製品を土壌に移植する際の例を説明するための模式断面図である。
【
図10】実施例3および8、実施例4および9、ならびに実施例2および7において育苗ポットのカップ本体に使用したシートまたは積層体を用いた野外土壌設置試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について図面を用いて詳述する。
【0018】
(育苗ポット)
図1の(a)は、本発明の育苗ポットの一例を示す斜視図である。育苗ポット100は、底部102および側面部104で構成されておりかつ上方が開口するカップ本体110を備える。
【0019】
カップ本体110を構成する底部102は、例えば円形、楕円形または矩形、六角形等の多角形を有する。さらに、
図1の(b)に示すように、育苗ポット100の底部102には、必要に応じて1つまたはそれ以上の水捌け用の孔103が設けられている。側面部104は、底部102の外周から、好ましくは上方に向けて拡径または拡大するように設けられている。底部102および上端106により構成される開口部の大きさ、ならびにカップ本体110の高さは特に限定されず、育苗の種類やサイズ等によって適切な大きさまたは高さに設定され得る。
【0020】
このようなカップ本体110は生分解性材料で構成されている。
【0021】
カップ本体110を構成し得る生分解性材料は、後述のように土壌中に放置することにより徐々に分解し得る性質を有するものであり、例えば紙および生分解性高分子、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。カップ本体110を構成し得る生分解性材料は、上記紙および生分解性高分子のうちの複数を用いた積層体であってもよい。
【0022】
カップ本体110を構成し得る紙は、特に限定されないが、育苗ポットとして使用することを考慮すると、上記生分解性を有する一方で、降雨や散水によって簡単に破れることのない程度の適度な耐水性を有するものであることが好ましい。このような紙の具体例としては、上質紙、中質紙、更紙、ロール紙、クラフト紙、および工業用雑種紙、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0023】
カップ本体110を構成し得る生分解性高分子としては、生分解性を示す生化学材料(例えばセルロース、酢酸セルロース、キトサン、デンプン、および修飾デンプン)ならびに生分解性樹脂の1種またはそれらの組み合わせが挙げられる。生分解性樹脂としては、例えばポリ-3-ヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリ乳酸(PLA)系樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)系樹脂、およびポリグリコール酸(PGA)系樹脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。あるいは、生分解性樹脂は、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリエチレンサクシネート、およびポリビニルアルコール、ならびにそれらの組み合わせなどの生分解性熱可塑性樹脂であってもよい。取り扱い易く、かつ土壌中での生分解が早いという理由から、カップ本体110は、セルロース、PHA、PLAまたはPBSで構成されていることが好ましい。
【0024】
カップ本体110が、上記紙および生分解性高分子のうちの複数を用いた積層体からなる場合、当該積層体の各層は、生分解速度の異なる材料で構成されていることが好ましい。例えば、
図1の(b)のようにカップ本体110の外側に忌避帯120が配置されている場合には、カップ本体110を構成する積層体は、内側の層よりも外側の層の方が生分解速度が高いものが配置される。このような場合の積層体の一例としては、内側の層は例えば生分解性高分子からなり、外側の層は紙からなるものが挙げられる。
【0025】
カップ本体110は、上記生分解性材料に加えて、当該生分解性材料の生分解性や成形性を阻害しない範囲において他の添加剤を含有していてもよい。
【0026】
カップ本体110に含有され得る他の添加剤の例としては、必ずしも限定されないが、後述の動物忌避剤以外の他の薬効を有する薬剤(例えば、防ダニ剤、防虫剤);酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、および/またはリン系酸化防止剤);紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤および/またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);透明化剤(例えば、カルボン酸金属塩、ソルビトール類、および/またはリン酸エステル金属塩類);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);および可塑剤(例えば、エポキシ化植物油、フタル酸エステル類、および/またはポリエステル系可塑剤);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。カップ本体110に含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0027】
カップ本体110は、上記生分解性材料から、例えば、Tダイを用いた押出成形によって一旦シートまたはフィルムの形態に成形した後、鉢状に真空成形しその後必要に応じて底部102に排水用の孔を設けることによって作製することができる。あるいは、上記生分解性材料のシートまたはフィルムを底部の形状および側面部の展開図の形状に切断し、それらをヒートシール、高周波シールまたは所定の接着剤等を介して貼り合わせることにより作製することもできる。なお、上記にてヒートシールする際の温度は、使用する生分解性材料(生分解性樹脂)の種類によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば140℃~350℃である。
【0028】
図1の(a)および(b)に示す育苗ポット100では、カップ本体110の側面部(外表面)104でかつその上端106の近傍に忌避帯120が設けられている。ここで、「上端の近傍」とは、忌避帯の端部と側面部の上端とが重なっている状態、および忌避帯の端部と側面部の上端とが一定の距離、例えば15mm以下程度の距離で離間している状態を包含していう。すなわち、本発明の育苗ポットでは、例えば
図2の(a)に示すように、カップ本体110の側面部104の上端106が忌避帯120の端部107よりも15mm程度まで上方に設けられていてもよい。上記距離よりも大きくなると、育苗ポットにおける忌避帯の高さ方向の位置が低くなり、想定的にカップ本体内部に配置される培土の表面や育苗ポットの外側に位置する土壌の表面も低くする必要性を生じ、不都合となる場合がある。あるいは、忌避帯120の端部107がカップ本体110の側面部104の上端106よりも15mm程度まで上方に設けられていてもよい。上記距離より大きくなると、忌避帯がカップ本体よりも上方に突出し過ぎて取り扱い性が悪くなる場合がある。
【0029】
再び
図1の(a)を参照すると、忌避帯120を構成する材料は、必ずしも限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂および生分解性材料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
忌避帯120を構成し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂(EMA)、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA)は、主成分としてエチレン成分とエチルアクリレート成分との共重合体を含有する。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)よりも柔軟性に富み、エチルアクリレートの含有量が高いほど、融点が低下することが知られている。本発明に用いられ得るエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂は、例えば、65℃~110℃の融点を有する。
【0032】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるエチルアクリレート成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、さらにより好ましくは15質量%~35質量%である。エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂のエチルアクリレート成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、忌避帯120の表面において後述する動物忌避剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0033】
エチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂としては、例えば、株式会社NUC製押出コーティング用EEA(NUC-6220、NUC-6170、EERN-023、DPDJ-9165、DPDJ-9169、NUC-6510、NUC-6520、NUC-6570、NUC-6070、NUC-6940等)、日本ポリエチレン株式会社製レクスパールA1100、A3100、A1150、A4200、A6200、A4250等が市販されている。
【0034】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂(EMA)は、主成分としてエチレン成分とメチルアクリレート成分との共重合体を含有する。エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂は、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)よりも柔軟性に富み、メチルアクリレートの含有量が高いほど、融点が低下することが知られている。本発明に用いられ得るエチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂は、例えば、65℃~110℃の融点を有する。
【0035】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂に含まれるメチルアクリレート成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは15質量%~40質量%、さらにより好ましくは15質量%~35質量%である。エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂のメチルアクリレート成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、忌避帯102の表面において後述する動物忌避剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0036】
エチレン-メチルアクリレート共重合体樹脂としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製のレクスパールEB050S、EB240H、EB330H、EB140F、EB230X、EB440H等が市販されている。
【0037】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)は、主成分としてエチレン成分と酢酸ビニル成分との共重合体を含有する。エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、当該樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量によって結晶性または非晶性の性質を有する。
【0038】
結晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは19質量%以上25質量%以下である。結晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、忌避帯120の表面において後述する動物忌避剤の粉吹きや所望でない粘着性やゴム弾性の出現を防止できる。
【0039】
非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は成形加工性に優れるとの理由から軟質のものを選択することが好ましい。非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂に含まれる酢酸ビニル成分の含有量は、共重合体樹脂の質量を基準にして、好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15重量%~30重量%である。非晶性のエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル成分の含有量がこのような範囲内にあることにより、成形加工性が良好となるとともに、得られる忌避帯120の表面において、所望でない粘着性の出現を防止できる。
【0040】
本発明において、熱可塑性樹脂としてエチレン-酢酸ビニル(EVA)共重合体樹脂が採用される場合、適切な成形加工性を保持することができる点から、所定のメルトフローレート(MFR)(例えば、5g/10分~20g/10分)を有していることが好ましい。
【0041】
このようなエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、例えば、三井デュポンポリケミカル株式会社製エバフレックス(登録商標)EV45LX、EV40LX、EV150、V523、EV170、EV180、EV250、EV260、EV270、EV360等が市販されている。
【0042】
忌避帯120を構成し得る生分解性材料は、上記カップ本体110を構成し得る生分解性材料と同様である。本発明において、忌避帯120を構成し得る生分解性材料と、カップ本体110を構成し得る生分解性材料とは同一であっても異なっていてもよい。忌避帯120を構成する生分解性材料は、カップ本体110が生分解した後も動物忌避効果を効果的に発揮させるために、カップ本体110を構成する生分解性材料よりも生分解速度が遅いものであることが好ましい。
【0043】
忌避帯120はまた動物忌避剤を含有する。ここで、「動物忌避剤を含有する」とは、動物忌避剤が忌避帯120の内部に配置されていること、および動物忌避剤が忌避帯120の表面に存在していることのいずれをも包含していう。
【0044】
動物忌避剤は、軟体動物、特にナメクジやカタツムリなど柄眼目に属する軟体動物の忌避に有用な薬剤であり、例えばサポニン、パラオキシ安息香酸アルキル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
パラオキシ安息香酸アルキルは、例えば、パラオキシ安息香酸とアルキルアルコールとのエステル化反応生成物である。
【0046】
パラオキシ安息香酸アルキルは、その分子構造中、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数4~7のアルキル基を含む。当該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。パラオキシ安息香酸アルキルを構成するアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ペプチル基、n-オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、t-ペンチル基などが挙げられる。
【0047】
本発明におけるパラオキシ安息香酸アルキルの具体的な例としては、パラオキシ安息香酸ブチル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ブチル)およびパラオキシ安息香酸ヘキシル(例えば、パラオキシ安息香酸n-ヘキシル)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
本発明においては、市販により入手が容易であり、かつナメクジ、カタツムリなど軟体動物に対して優れた忌避効果を奏することができる点から、動物忌避剤の例として、サポニン、パラオキシ安息香酸ブチル、およびパラオキシ安息香酸ヘキシル、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0049】
忌避帯120における動物忌避剤の含有量は、忌避帯120の全体質量に対して0.5質量%~60質量%、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは1質量%~45質量%である。動物忌避剤の含有量が0.5質量%未満であれば、得られる忌避帯120について十分な軟体動物の忌避性能を提供することができない場合がある。動物忌避剤の含有量が60質量%を超えると、相対的に忌避帯120における生分解性材料の含有量が低下することにより、得られた忌避帯の表面のべとつきが大きくなる場合がある。
【0050】
忌避帯120は、上記生分解性材料の生分解性、動物忌避剤の薬効、ならびに両者の親和性および成形性を阻害しない範囲において他の添加剤を含有していてもよい。忌避帯120に含有され得る他の添加剤の例としては、上記カップ本体110に含有され得る他の添加剤と同様である。忌避帯120に含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0051】
本発明の育苗ポット100では、例えば
図3に示すように忌避帯120はカップ本体110の外周に沿って配置されている。忌避帯120とカップ本体110との間は、当該分野において公知のヒートシール、高周波シールまたは接着剤を介して貼り合わされている。その際、動物忌避剤130は、この貼り合わせの前に、忌避帯120内に(例えば、忌避帯120を構成する生分解性材料と動物忌避剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて忌避帯120の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いて外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0052】
あるいは、本発明においては、
図4に示す育苗ポット200のように、カップ本体110の上端106と略同じ大きさに成形されたリング状または紐状の忌避帯220が、当該カップ本体110の上端106と接着剤等を介して貼り合わされていてもよい。その際、動物忌避剤130は、この貼り合わせの前に、忌避帯220内に(例えば、忌避帯220を構成する生分解性材料と動物忌避剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて忌避帯220の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0053】
あるいは、本発明においては、
図5に示す育苗ポット300のように、カップ本体310の上端306の近傍部分をそのまま忌避帯320として使用してもよい。このため、
図5に示す育苗ポット300では、カップ本体310と忌避帯320とは一体となっている。その際、動物忌避剤130は、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて上記カップ本体310と忌避帯320とを一体成形した後、当該忌避帯320に相当する部分に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0054】
さらに、本発明においては、
図6に示す育苗ポット400のように、カップ本体110の内側面部(内表面)104’に忌避帯120が配置されてもよい。忌避帯120とカップ本体110との間は、当該分野において公知のヒートシール、高周波シールまたは接着剤を介して貼り合わされている。その際、動物忌避剤130は、この貼り合わせの前に、忌避帯120内に(例えば、忌避帯120を構成する生分解性材料と動物忌避剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて忌避帯120の形態に成形した後に、塗工、スプレー、含浸等の任意の手段を用いて外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0055】
またさらに、本発明においては、
図7の(a)に示す育苗ポット500のように、カップ本体110’の上方を外側に折り曲げることにより、忌避帯120’を形成し、当該忌避帯120’にスプレー、含浸等の任意の手段を用いて動物忌避剤が付与されたものであってもよい。あるいは、
図7の(b)に示す育苗ポット600のように、カップ本体110”の上方を内側に折り曲げることにより、忌避帯120”を形成し、当該忌避帯120”にスプレー、含浸等の任意の手段を用いて動物忌避剤が付与されたものであってもよい。
【0056】
(植物苗類製品および植物苗類の移植方法)
上記のように育苗ポットは、少なくともカップ本体自体が生分解性を有し、ポット内で育てられた植物苗や播種された種子(これらをまとめて植物苗類という)をそのまま1つの植物苗類製品として市場に流通させることができる。この点において、
図8に示すように、本発明の植物苗類製品500は、上記育苗ポット100内に植物苗類510および培土520が収容されている。
【0057】
植物苗類510の種類は特に限定されず、従来の育苗ポットで栽培可能な植物の苗や種子が挙げられる。具体的な例としては、トマト、キュウリ、オクラ、エンドウ、ナス、イチゴ、ハクサイ、ダイコンなどの農業用植物、アサガオ、パンジー、チューリップ、キク、アジサイなどの園芸植物の苗や種子、挿木が挙げられる。
【0058】
上記植物苗類製品によれば、育苗ポット内の植物苗類を以下のようにして土壌に移植することができる。具体的には、例えば、
図9に示すように、土壌610に設けられた孔620に上記植物苗類製品500が当該植物苗類製品500の忌避帯120が土壌610の表面から露出するように配置される。この場合、図示したように忌避帯120の下方の一部が土壌510中に埋設されていてもよい。
【0059】
このように、本発明では、植物苗類510を土壌610に移植する際に植物苗類510および培土520をカップ本体110から取り出すことなく、カップ本体110に収容された状態で配置される。ここで、忌避帯120は
図9に示すように高さtに相当する分が土壌610の表面から露出している。これにより、カップ本体110は土壌610に埋められており、かつ忌避帯120は土壌610の表面から露出した状態が保持される。
【0060】
このような配置によって、土壌610に移植された植物苗類510の周囲には、忌避帯120に含まれる動物忌避剤が、カップ本体110の内半径に相当する距離を離れて配置され、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物からの植物苗類510の食害を防止することができる。さらに、忌避帯120が土壌610の表面から高さtだけ露出することにより、軟体動物が植物苗類510に到達するためには、この忌避帯120を乗り越えなければならず、さらに食害の可能性を低減することができる。一方、少なくともカップ本体110が生分解性を有しているため、このまま土壌610中に放置しても廃棄ゴミとして環境を汚染することなく自然に分解することができる。
【0061】
これに対し、忌避帯120は、例えば熱可塑性樹脂で構成されている場合は、カップ本体110のような生分解は起こらず、植物苗類510の周囲にリング状に残存したままとなる。特に、カップ本体110の生分解が徐々に進む一方で、植物苗類510は上下方向や茎部分が成長するため、残存する忌避帯120は、植物苗類510から容易に外れ難くなる。これにより、忌避帯120は植物苗類510により風に飛ばされることが抑制され、植物苗類510の周囲における軟体動物からの食害を長期に亘って低減することも可能である。あるいは、忌避帯120が生分解性材料で構成されている場合は、カップ本体110の生分解と一緒にまたは前後して、忌避帯120自体の生分解も進行し、土壌610上で廃棄ゴミとして環境を汚染することなく自然に分解することができる。結果として、従来のポリエチレン等で構成される育苗ポットと比較して、廃棄ゴミとなって環境汚染の問題を引き起こす可能性を著しく低減できる。
【実施例0062】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1:育苗ポットの作製)
ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂(三菱ケミカル株式会社製BioPBS FZ71PB)をTダイ押し出し機によって厚さ約300μmのフィルムを作製した。このフィルムを真空成型機によって開口部分の口径が約9cm、深さが8cm、底部の直径が約6cm、かつ底部に直径1.5cmの孔の開いたカップ本体を作製した。
【0064】
一方、ナメクジ用忌避剤としてサポニンを20質量%の割合で配合したアクリル酸エチル(EA)系樹脂(株式会社NUC製 DPDJ9167)を幅1.5cm、厚さ300μmの長い紐状の成型体に成形かつ切断し、長さ方向を上記カップ本体の周縁にあわせてリング状にし、これをポット本体の周縁部にヒートシールすることにより育苗ポット(E1)を得た。
【0065】
(実施例2:育苗ポットの作製)
PBS樹脂フィルムの代わりに、半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)にポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂(三菱ケミカル株式会社製BioPBS FZ71PB)を押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用い、この積層体のPBS樹脂層がカップ本体の内側になるように裁断しかつ貼り合わせてカップを作製したこと以外は実施例1と同様にして育苗ポット(E2)を得た。
【0066】
(実施例3:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりにポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)製シート(厚さ100μm)を用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E3)を得た。
【0067】
(実施例4:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりに、半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)にポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)を押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用い、この積層体のPLA樹脂層がカップ本体の内側となるようにしたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E4)を得た。
【0068】
(実施例5:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりに半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)を用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E5)を得た。
【0069】
(実施例6:育苗ポットの作製)
サポニンの代わりにパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして育苗ポット(E6)を得た。
【0070】
(実施例7:育苗ポットの作製)
サポニンの代わりにパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E7)を得た。
【0071】
(実施例8::育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりにポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)製シート(厚さ100μm)を用い、かつサポニンの代わりにパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E8)を得た。
【0072】
(実施例9:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりに半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)にポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)を押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用い、この積層体のPLA樹脂層がカップ本体の内側となるようにし、かつサポニンの代わりにパラオロキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E9)を得た。
【0073】
(実施例10:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりに半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)を用い、かつサポニンの代わりにパラオキシ安息香酸ヘキシル(ナメクジ用忌避剤;上野製薬株式会社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(E10)を得た。
【0074】
(比較例1:育苗ポットの作製)
実施例2の積層体の代わりに半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm2)と低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂(住友化学株式会社製L405)とを押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用い、この積層体のPE樹脂層がカップ本体の内側となるように配置したこと以外は実施例2と同様にして育苗ポット(C10)を得た。
【0075】
(比較例2:市販の育苗ポットの選択)
実施例1~10で作製した育苗ポット(E1)~(E10)と略同様の大きさを有する、市販の黒色ポリエチレン製の育苗ポット(C2)を購入した。育苗ポット(C2)には動物忌避剤を使用しなかった。
【0076】
(評価:土壌への移植とナメクジの忌避および生分解性の各効果の確認)
実施例1~10で作製された育苗ポット(E1)~(E10)と、比較例1および2の育苗ポット(C1)および(C2)のそれぞれに、大阪府内1級河川の河口付近の畑の土(約200g)を詰め、これらに対して2019年5月中旬にオクラの種を播種して発芽させ、2019年6月12日までそのまま栽培して高さ15cm前後の苗を得た。
【0077】
次いで、上記畑の土を詰めた各25cm×45cm、深さ20cmのプランターの中央に上記育苗ポットの大きさに合わせた1つの孔を掘り、この孔に上記栽培したオクラの苗を育苗ポットとともに、当該ポットの上端から1cm程の高さが土から突出するようにして移植した。1つ育苗ポットに対して1つのプランター(以下、第1のプランターをいう)を使用した。
【0078】
なお、この第1のプランナーよりも幾分大きな第2のプランターを用意し、この第2のプランター内に、第2のプランターの内壁と接触しないように上記第1のプランターを配置した。さらに、第2のプランターの内壁と第1のプランターの外壁の間には上記と同様の畑の土を敷き詰め、そして第2のプランターの内壁の上部周辺には、ナメクジ用忌避剤であるパラオキシ安息香酸ヘキシルを20質量%の割合で含有する幅0.3mmおよび幅1.5cmのPBS樹脂(三菱ケミカル株式会社製BioPBS FZ71PB)製の帯テープを貼り付けた。第2のプランターの内壁側にこのような帯テープを設けた理由は、試験期間中、後述のように第1のプランター内にナメクジを置いた際、ナメクジが第1のプランターの外側に移動してそのまま離散することなく、少なくとも第2のプランター内には留まるようにするためである。
【0079】
移植1週間後に軽く散水し、ナメクジ3匹をプランター内の育苗ポットの外側の土壌の表面に略等間隔に置き、遮光のためにプランター全体に黒色木綿布製のカバーをかけた。1時間後にオクラの苗についたナメクジの数を数えて記録した。その後カバーを取り外し、すべてのナメクジを取り去って1週間放置した。これを合計4週間分(4回分)となるように繰り返し、オクラの苗についたナメクジの数を合計した。結果を表1に示す。
【0080】
また移植後4週間で、オクラの育ったポットをプランターから取り出し、各ポットの分解状態を目視で観察した。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
表1に示すように、実施例1~10で作製された育苗ポット(E1)~(E10)はいずれもオクラの苗にナメクジはほとんど付着しておらず、1ヶ月を経ても優れた忌避効果を持続していたことがわかる。さらに、これらの育苗ポット(E1)~(E10)はいずれも土の中での生分解が良好に進行していたことがわかる。これに対し、比較例1および2の育苗ポット(C1)および(C2)では、ポットの構成成分であるLDPEまたはPEがほぼ変化のないまま残存しており、こうした育苗ポットの放置は環境への悪影響が予想され、さらに根の伸長が空間的な制約を受けることによってオクラ自体の成長が阻害され得ることがわかる。
【0083】
(参考例1:育苗ポットのカップ本体に使用した材料の野外土壌設置試験)
実施例3および8で使用したポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)製シート(厚さ30μm)を10cm×10cmの大きさに切断し、これを野外の土壌中に埋設した。2019年6月12日に試験を開始し(第1日目)、第30日目、第57日目、および第85日目のそれぞれで埋設したシートを一旦取り出し、その写真を撮影した。結果を
図10に示す。
【0084】
(参考例2:育苗ポットのカップ本体に使用した材料の野外土壌設置試験)
PLAのシートの代わりに、実施例4および9で使用した、半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm
2)にポリ乳酸(PLA)樹脂(ユニチカ株式会社製テラマック TE-2000C)を押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして野外土壌設置試験を行った。結果を
図10に示す。
【0085】
(参考例3:育苗ポットのカップ本体に使用した材料の野外土壌設置試験)
PLAのシートの代わりに、実施例2および7で使用した、半晒クラフト紙(日本製紙株式会社製、坪量60g/cm
2)にポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂(三菱ケミカル株式会社製BioPBS FZ71PB)を押出して得た積層体(厚さ約100μm)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして野外土壌設置試験を行った。結果を
図10に示す。
【0086】
図10に示すように、参考例1~3で使用したシートまたは積層体はいずれも、試験開始後の第30日目で生分解が生じており、第85日目にはすべてのシートまたは積層体が完全に分解し、土壌上に何も残っていなかった。特に参考例3の積層体(実施例2および7で使用したPBSと紙との積層体)は生分解の速度が速く、第57日目の段階で完全に分解していた。このことから、参考例1~3のシートまたは積層体を用いて育苗ポットのカップ本体を形成すれば、当該育苗カップをそのまま土壌中に移植しても、約90日間で十分に生分解可能であることがわかる。