(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097318
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】仮想空間マラソン大会運営システム
(51)【国際特許分類】
G06T 19/00 20110101AFI20220623BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20220623BHJP
A63B 69/16 20060101ALI20220623BHJP
A63B 22/06 20060101ALI20220623BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
G06T19/00 300B
A63B69/00 A
A63B69/16
A63B22/06 L
G06F3/01 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210849
(22)【出願日】2020-12-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年11月18日、内閣府地方創生推進室「地方創生☆政策アイデアコンテスト2020」、https://contest.resas-portal.go.jp/2020/final.html 2020年11月24日、東北経済産業局「地方創生☆政策アイデアコンテスト2020」、https://www.tohoku.meti.go.jp/kikaku/chihososei/topics/pdf/201124.pdf 2020年11月30日、内閣府地方創生推進室「地方創生☆政策アイデアコンテスト2020」、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/resas/pdf/201130_ideacontest2020.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】520502710
【氏名又は名称】江口 健介
(71)【出願人】
【識別番号】514191449
【氏名又は名称】木下 忠
(71)【出願人】
【識別番号】520502721
【氏名又は名称】北濱 慶
(71)【出願人】
【識別番号】520502732
【氏名又は名称】小薄 太志
(71)【出願人】
【識別番号】520502743
【氏名又は名称】酒井 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100185144
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 忠
(72)【発明者】
【氏名】江口 健介
(72)【発明者】
【氏名】木下 忠
(72)【発明者】
【氏名】北濱 慶
(72)【発明者】
【氏名】小薄 太志
(72)【発明者】
【氏名】酒井 利之
(72)【発明者】
【氏名】浅野 俊太
(72)【発明者】
【氏名】地引 智美
【テーマコード(参考)】
5B050
5E555
【Fターム(参考)】
5B050BA07
5B050BA11
5B050BA17
5B050CA06
5B050CA08
5B050EA07
5B050FA02
5E555AA76
5E555BA01
5E555BA02
5E555BB01
5E555BC01
5E555CB68
5E555DA01
5E555DB57
5E555FA00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エクササイズバイクで手軽に仮想空間マラソン大会に参加でき、マラソン大会主催者がランナーに開催都市の魅力的な場所をオンラインで訴求することができる仮想空間マラソン大会運営システムを提供する。
【解決手段】仮想空間マラソン大会運営システムは、マラソン大会参加者のエクササイズバイクと接続されるサーバーを介して、実在する場所又は実在していた場所のマラソンコースが仮想空間で形成されており、マラソンコースをランナーが走行した際に見える実在する景色又は実在していた景色の動画を備え、エクササイズバイクでの足漕ぎ運動の情報から、マラソン大会参加者の仮想空間の走行位置を導出し、マラソン大会参加者が走行位置に対応したマラソンコース上を走行しているように見える映像を前記動画から抽出し、マラソン大会参加者の情報端末に所定のマラソン速度以下で走行しているように表示させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラソン大会参加者のエクササイズバイクとインターネットで接続されるサーバーを介して仮想空間でのマラソン大会を運営する仮想空間マラソン大会運営システムにおいて、
実在する場所を走行するコース又は実在していた場所を走行するコースを含むマラソンコースが仮想空間で形成されており、
前記サーバーは仮想空間の情報、マラソンコース情報、マラソン大会参加者の情報、並びにマラソン大会開催中の参加者の仮想空間上での走行位置及び走行順位に関する情報を保持し、
前記サーバーは前記マラソンコースをランナーが走行した際に見える実在する景色又は実在していた景色の動画を備え、
前記サーバーでは、マラソン大会の開始時刻後のマラソン大会参加者のエクササイズバイクでの足漕ぎ運動の情報から、マラソン大会参加者の仮想空間の走行位置を導出し、
前記マラソン大会参加者が前記走行位置に対応したマラソンコース上を走行しているように見える映像を前記動画から抽出し、
前記映像はマラソン大会参加者の情報端末に所定のマラソン速度以下で走行しているように表示される、
ことを特徴とする仮想空間マラソン大会運営システム
【請求項2】
前記所定のマラソン速度以下とは時速22km以下であることを特徴とする請求項1に記載の仮想空間マラソン大会運営システム。
【請求項3】
前記景色の動画にはマラソンコースの沿道での応援の映像が含まれていることを特徴とする請求項1乃至2に記載の仮想空間マラソン大会運営システム
【請求項4】
前記仮想空間の走行位置を導出する際、マラソン大会参加者のエクササイズバイクでの消費カロリーをもとに導出することを特徴とする請求項1乃至3に記載の仮想空間マラソン大会運営システム
【請求項5】
前記仮想空間の走行位置を導出する際、各マラソン大会参加者に設定されたハンデを加味して導出することを特徴とする請求項1乃至4に記載の仮想空間マラソン大会運営システム
【請求項6】
前記マラソンコースは実在している場所又は実在していた場所であるが、マラソン大会を開催するのが実質的に困難なコースを含むことを特徴とする請求項1乃至5に記載の仮想空間マラソン大会運営システム
【請求項7】
前記マラソン大会は複数のランナーで順番にマラソンコースを走行する駅伝大会方式であることを特徴とする請求項1乃至6に記載の仮想空間マラソン大会運営システム。
【請求項8】
仮想空間のランナーに対してマラソン大会の観戦者がメッセージ又は投げ銭を送れることを特徴とする請求項1乃至7に記載の仮想空間マラソン大会運営システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想空間マラソン大会運営システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2020年、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の世界的な大流行が発生し依然として沈静化の兆しが見えない。2020年2月頃から感染者が世界中で急増し、日本では4月8日に緊急事態宣言が発令された。新型コロナウイルス感染症を防ぐには人々の接触をできるだけ避けることが推奨され外出の自粛が要請された。その後5月25日に緊急事態宣言は解除されたが人々の経済活動の再開にともない感染者は増加している。現在(2020年12月)日本では第3波が押し寄せておりこれまで以上に感染者が急増している。このような状況において、人と接する機会が多いスポーツイベントは軒並み中止または規模縮小を余儀なくされている。このようなコロナ禍の時代において新しい生活様式が世界中で模索されている。
【0003】
ところで、マラソン大会(特に地方の市民マラソン大会)はスポーツツーリズムや地方創生の担い手として大いに期待され近年急速に普及していた。地方マラソン大会主催者は開催都市の魅力的な場所をマラソンコースに含まれるように工夫することで、遠方から参加するランナーに開催都市の魅力をアピールすることができる。
図1は東北地方のマラソン参加数の推移である。年々参加者が増加していることがみてとれる。
図2は2019年の全国の大会数を都道府県毎に表示したものである(参考文献:マラソンインフォ (http://www.solius.jp/marathon/))。全国で500以上のマラソン大会が開かれていた。
【0004】
このように、地方マラソン大会が観光戦略の一部であるスポーツツーリズムとして定着してきたが、2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行により状況が一変する。マラソン大会も他のスポーツイベントと同様には軒並み中止を余儀なくされている。またコロナ禍で在宅勤務が増加し、人々の運動不足も社会的な問題となっている。一方で、コロナ禍でデジタル化が加速している。これまでオフラインで行っていたことをデジタル化しオンラインで解決することが世界中で模索されている。
【0005】
2020年12月現在、各地のマラソン大会はコロナ禍で大会を開催できていない。代わりに、いわゆる「GPSマラソン」などオンラインでマラソン大会を開催している(非特許文献1)。もっとも、GPSマラソンは実際のマラソンコースをランニングするのではなくユーザーが自宅の周りなど好きな時間に好きな場所をランニングし、走った距離をスマートフォンのGPSで計測する。走行データは大会主催者のサーバーで管理され指定期間内に指定した距離を走行できると完走証が発行される。
【0006】
特許文献1はzwift社のロードバイクトレーニングに関する発明である。zwifit社はこの発明に限らず本格的なロードレーサーのために様々なトレーニングメニュを提供している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山口一臣、「GPS計測とスマホアプリを活用 盛況の「オンラインマラソン」は定着するか」、2020年7月17日、朝日新聞DIGITAL、https://www.asahi.com/and_M/20200717/13942177/
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コロナ禍で在宅勤務が増加し、人々の運動不足が社会的な問題になっている。そのため、エクササイズバイクなど家庭で急速に普及している。しかし、エクササイズバイクは他のフィットネス器具と同様に単純動作の繰り返しであることから、使用者が退屈しやすいという課題がある。
【0010】
非特許文献1で紹介されているGPSマラソン(オンラインマラソン)は一人でこつこつ孤独に走る必要があるため、本格的なランナー以外には大変難易度が高いものである。またランニングに不慣れなユーザーにとっては屋外をランニングすること自体がハードルになっているため参加しづらい。室内でも利用できるなどより簡便な方法が望ましい。また実際のマラソンコースを走行するわけではないので、マラソン主催者はランナーに開催都市の魅力的な場所を訴求することができない。
【0011】
一方、特許文献1のZwift社などのロードバイクのトレーニングサービスは、本格的なロードレーサーを対象としているため、室内で利用できるサービスではあるが、コロナ禍の運動不足解消を願うライトなユーザーが気軽に参加できるものではない。また、サービスで提供されるコース動画は主にCGのツーリングコースであるため動画の流れる速度がロードサイクリングの速度であるため、参加者はマラソンコースを走行しているような没入感は得られない。たとえば、マラソンコース上の開催都市の名所や開催都市のならではの沿道での応援は、かりに存在していたとしてもロードレースの猛スピードで画面が流れるために参加者はゆっくり楽しむことができない。そもそも参加者や大会主催者はレース自体やトレーニングが目的であるため、仮想空間上の景色をゆっくり楽しむ目的がない。すなわち従来技術では、マラソン大会主催者はランナーに開催都市の魅力的な場所を訴求することができず、マラソン大会の代替には活用できないものである。マラソンコースを走っている際に見える景色を楽しむ(楽しませる)には、ランニングの適度な速度である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の仮想空間マラソン大会運営システムは、マラソン大会参加者のエクササイズバイクとインターネットで接続されるサーバーを介して仮想空間でのマラソン大会を運営する仮想空間マラソン大会運営システムであって、実在する場所を走行するコース又は実在していた場所を走行するコースを含むマラソンコースが仮想空間で形成されており、前記サーバーは仮想空間の情報、マラソンコース情報、マラソン大会参加者の情報、マラソン大会開催中の参加者の仮想空間上での走行位置及び走行順位に関する情報を保持し、前記サーバーは前記マラソンコースをランナーが走行した際に見える実在する景色又は実在していた景色の動画を備え、前記サーバーでは、マラソン大会の開始時刻後のマラソン大会参加者のエクササイズバイクでの足漕ぎ運動の情報から、マラソン大会参加者の仮想空間の走行位置を導出し、前記マラソン大会参加者が前記走行位置に対応したマラソンコース上を走行しているように見える映像を前記動画から抽出し、前記映像はマラソン大会参加者の情報端末に所定のマラソン速度以下で走行しているように表示される。
【発明の効果】
【0013】
エクササイズバイクで手軽に仮想空間(ライブ)マラソン大会に参加でき、マラソン大会主催者はランナーに開催都市の魅力的な場所をオンラインで訴求することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図10】運動データ受信処理の概要(サーバ側の処理)
【
図11】運動者位置問合せ処理の概要(サーバー側の処理)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態の説明は、次の項目に沿って行う。
[発明の概要]
[エクササイズバイク]
[ユーザーの運動情報]
[エクササイズバイク運動からマラソン運動への変換]
[ユーザーに提供される動画]
[サーバー]
[マラソンコース]
[仮想空間マラソン大会ならではの応援]
[システムの情報処理概要]
【0016】
[発明の概要]
エクササイズバイクでの運動を、仮想空間上のランニングとして再現することで、同時に多人数が参加できる仮想空間マラソン大会運営システムを提供する(
図3)。家庭にあるエクササイズバイクとスマートフォン、タブレット、パソコンなどの情報端末を通じ参加できる。複数人で参加する駅伝方式の参加も可能である。参加者のエクササイズバイクの回転数などの運動情報は、デジタル化されてサーバーに送信される。回転数などの運動情報はランニング距離などの仮想空間情報に換算される。仮想空間情報が地図上の位置情報に変換され、コースがユーザーの情報端末(デバイス画面)に表示されることで、参加者は実際にマラソンコースを走っている感覚となる(
図4)。
【0017】
より詳しく説明すると次のとおりである。
本発明の仮想空間マラソン大会運営システムはサーバーを有している。サーバーはマラソン大会参加者のエクササイズバイクとインターネット(オンライン)で接続される。後ほど詳述するが実在する場所を走行するコース又は実在していた場所(例:過去のコース、過去に撮影したコースなど)を走行するコースを含むマラソンコースが想定されている。これらのマラソンコースは仮想空間で仮想的に形成されている。
サーバーはマラソン大会運営に必要な様々な情報を有している。例えば、仮想空間の情報、マラソンコース情報、マラソン大会参加者の情報、マラソン大会開催中の参加者の仮想空間上での走行位置及び走行順位に関する情報を保持している。
サーバーはマラソンコースをランナーが走行した際に見える実在する景色又は実在していた景色の動画(又は動画を含むデータベース)を備えている。この動画はランナーの背後を走行する者が撮影したような動画を含む。このような動画は後ほど詳述するがGPS付カメラで容易に準備することができる。
サーバーでは、マラソン大会の開始時刻後のマラソン大会参加者のエクササイズバイクでの足漕ぎ運動の情報から、マラソン大会参加者の仮想空間の走行位置を導出し、前記マラソン大会参加者が前記走行位置に対応したマラソンコース上を走行しているように見える映像を前記動画から抽出する。
前記のマラソンコース上を走行しているように見える映像はマラソン大会参加者の情報端末に所定のマラソン速度以下で走行しているように表示する。本発明では、マラソン大会主催者はランナーに開催都市の魅力的な場所をオンラインで通じて訴求することを目的としているためにロードバイクのような猛スピードでコースを駆け抜けたのでは効果が期待できない。
なお、本発明のマラソン大会は陸上競技場などのトラック外のコースを走行する大会であれば足りランニング大会などと言い換えてもかわない。
【0018】
さらに発明を詳しく説明する。
本発明の仮想空間はマラソン大会のコースに沿って形成されている。基本的にはマラソンコースは一方通行の道であるため、本発明の仮想空間も同様にマラソンコースに沿った1本線のコースとなる。本発明の仮想空間のマラソンコースは、例えば撮影した動画にGPS情報を埋め込むことができるカメラ(以下、「GPS付カメラ」と呼ぶ)を用いて形成することができる。
まず、GPS付カメラをマラソンコースに沿って移動しながら撮影しておく。後からその動画に対して位置情報を指定するとその位置に相当するマラソンコース上の動画を得ることができる。その動画はその位置を走っているランナーから見える景色となる。
本発明では例えばエクササイズバイクの運動情報から仮想空間上での移動距離をもとめ、その移動距離に対応するマラソンコース上の位置を求めることでマラソン大会参加者にマラソンコース上での位置に対応したランナー目線の動画を提供することができる。
【0019】
[エクササイズバイク]
エクササイズバイクとは、自転車型の運動器具(運動負荷装置)であってエクササイズバイクに設けられたペダルを足で回転させることによって自転車を漕いでいるような負荷をユーザーに与える運動器具である。一般的には、自転車のようにハンド、サドル、ペダルを備えているが(
図5a参照)、本発明では必ずしもハンドルやサドルはなくても構わない。
図5bのようにペダルだけの運動器具でも構わない。
【0020】
エクササイズバイクのユーザーは、参加しているマラソン大会のコース画面/仮想空間上の走行風景をみるために近くに情報端末があるのが望ましい。情報端末がエクササイズバイクに備えられているものが好適であるが、エクササイズバイクの設置台に自分のスマートフォンやタブレッドなどの情報端末を配置するようにしてもよい。もちろん設置台はユーザーが別途用意するものであってもよい。また、パソコンやノートパソコンであっても構わない。また情報端末はヘッドマウントディスプレイ(VR(ヴァーチャルリアリティ)ゴーグル)であってもよい。その場合、ユーザーのヘッドマウントディスプレイに提供する動画はVR動画であることが望ましい。
【0021】
一般には、エクササイズバイクは、フィットネスバイク、スピンバイク、エルゴメーター、自転車型エルゴメーター、エアロバイク(登録商標)などと称されることもある。それぞれ技術的、機能的な違いはあるが、これらはすべて本発明のエクササイズバイクに含まれる。本発明のエクササイズバイクはペダルを備えている運動器具(運動負荷装置)であれば足り、いずれの呼び名で呼ばれていても構わない。
【0022】
また、エクササイズバイクには、負荷のかけ方の違いなどにより、電磁負荷式、マグネット負荷式、摩擦負荷式などがある。一般に、摩擦負荷式や電磁負荷式は連続運転に向いて、マグネット式は静音性に優れていると言われている。本発明では、いずれのエクササイズバイクであっても適用可能である。
【0023】
[ユーザーの運動情報]
エクササイズバイクユーザーの運動情報はエクササイズバイクに備え付けられたセンサーから取得できる。例えば、ジャイロセンサーなどのペダル(又はタイヤの)回転数を検知するセンサーを利用できる。または、磁石などを用いてペダルの回転にあわせてパルスを発生するパルス発生手段を用いてもよいが、これに限られない。
【0024】
[エクササイズバイク運動からマラソン運動への変換]
従来のロードバイクを用いたトレーニングではロードバイクでの運動に等しい運動が仮想空間上で再現され、その際の映像がユーザーの情報端末に表示される。ユーザーは家庭でロードバイクを運転しながら仮想世界でのロードレースを体感するしくみになっている。例えば、従来技術では、ロードバイクの車輪が10回転したら仮想空間上のロードバイクが10回転分進む際に見える仮想空間の景色が動画としてユーザーの情報端末に表現される。
【0025】
一方、本発明はエクササイズバイクの運動でマラソン大会を体感させるものであるため、エクササイズバイクの運動をそのまま仮想空間の運動に再現するのではなく、マラソン運動として変換することが特徴である。
【0026】
例えば、現時点でのマラソン大会、ハーフマラソン大会の世界記録はそれぞれ2時間1分39秒(平均時速約21km)、57分32秒(平均時速約22km)であるため、エクササイズバイクをどんなに早く漕いだとしても仮想空間上のランナーの最高速度又は平均速度が時速22km以下であれば、エクササイズバイクを動かしているにもかかわらずあたかもマラソンコースをランニングしているように体感できる。
もっともこれは世界クラスのトップ選手の速度であるため、もう少し最高速度を遅くてしてもよい。例えば、時速18km以下であり、場合によっては15km以下である。なお、最低限ランニングしているように見せるために平均時速は時速3km以上であることが望ましい。
【0027】
例えば、仮想空間マラソン大会に参加するユーザーのエクササイズバイクの単位時間あたりの標準的な回転数を予め決めておき、大会中にユーザーがその回転数でペダルを漕いだ場合は仮想空間のランナーが所定のマラソン速度で走行するように計算し、ユーザーが標準的な回転数より多い回転運動をした場合は所定のマラソン速度より速い速度で走行したようにみせることができる。ここで所定のマラソン速度とは、上記の世界最高速度の時速22kmと設定してもよいし、それより低い速度としてもよい。例えば、トップランナーモードでは時速22kmであり、中級ランナーモードでは時速15kmなどとしてもよい。ユーザーの自己申告で変更してもよいし、大会主催者の意向で設定してもよい。いずれにせよ、仮想空間上のランナーが時速22km以下でみえる景色を仮想空間マラソン大会ユーザーの情報端末に表示することでエクササイズバイクを動かしているにもかかわらずあたかもマラソンコースをランニングしているように体感できる。
【0028】
また、仮想空間マラソン大会参加者の過去の実世界でのマラソン大会、ハーフマラソン大会などの実績(記録)をもとに仮想空間でのマラソンの最高速度や平均速度を決定してもよい。例えば、ある参加者の過去のフルマラソン大会のタイムが4時間の場合、平均時速は10.5kmとなる。この値を上記の所定のマラソン速度とすることもできる。
【0029】
一般にエクササイズバイクは負荷の割合をある程度自由に選択できるので、重い負荷の参加者と軽い負荷の参加者の場合、単に回転数だけで距離や速度を決定すると不公平が生じ、仮想空間マラソン大会のレースとしての意義は失われる恐れがある。その場合、各参加者のエクササイズバイクの負荷の割合に応じて仮想空間上での速度や移動距離を調整してもよい。
【0030】
また、エクササイズバイクでの消費カロリーに応じて仮想空間上での速度や移動距離を調整してもよい。すなわち単位時間あたりの消費カロリーが多いユーザーの方が仮想空間上で先に進むことができる。
【0031】
エクササイズバイクでの消費カロリーからマラソン運動へ変換する場合は、身体活動の強さを表すメッツ(METs)をもとに変換してもよい。
例えば、メッツは国立健康・栄養研究所のhttps://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/program_kiso.html
などの情報を参考にできる。例えば、時速11kmの標準ランナー速度でのマラソンのMETsが定義されて、ある条件でのエクササイズバイクのMETsが定義されていて、その条件と実際のユーザーのエクササイズバイクの運動条件の違いを考慮して、次のような変換式でエクササイズバイクの運動をマラソン運動に変換することができる。
【0032】
(変換式)
仮想空間上でのランナーの速度=標準ランナー速度(例:11km/時間)×エクササイズバイク速度比(α)×エクササイズバイク負荷率(β)×運動強度(MET)比(エクササイズバイクのMETs/マラソンのMETs)
ここで、エクササイズバイク速度比、エクササイズバイク負荷率はそれぞれ「エクササイズバイクのMETs」の前提条件と実際のユーザーのエクササイズバイクの運動条件の比である。
【0033】
また、参加者同士のデットヒートを演出するために各参加者に何らかのハンデを設定してもよい。ハンデは過去の実績、基礎体力、身長、体重、年齢、何らかの障がい情報、をもとに決定することができる。例えば、エクササイズバイクの運動を仮想空間でのマラソン運動に変換する際、ハンデのある人、ハンデの数値の大きい人が、ハンデの無い人やハンデの数値が小さい人より有利に変換される。例えば、単位時間あたりの回転数、負荷率、消費カロリーなどが同じあっても、ハンデがある人、ハンデの数値の大きい人が、マラソンコースをより先に進むことができる。
【0034】
[ユーザーに提供される動画]
ユーザーに提供される動画は、マラソンコースをランナーが走行した際にランナーからみえる景色の実写であるが、景色の実写映像を基に3次元データ化した映像データであっても構わない。本発明は地方の市民マラソンの代替え手段となるものであるため、大会主催者が参加者に開催都市の魅力的な場所をオンラインで訴求することができるように実写の動画であることが望ましい。
【0035】
図6に大会参加者(エクササイズバイクユーザー/仮想空間マラソンのランナー)の情報端末に表示される画面の例を示す。メイン画面にマラソンコースの動画が表示される。動画は通常の動画のようにシームレスに表示されるのが望ましい。1秒あたり30フレームであることが望ましいがそれ以下でも構わない。少なくとも1秒あたり1フレーム以上であることが望ましい。
【0036】
また、参加者の情報端末で表示される動画には参加者や他の参加者のアバターが表示されることが望ましい。アバターはマラソン大会に実際に参加しているという体感を高めるため重要である。できればランナー型のアバターであることが望ましい。
図6メイン画面では「Eguchi」がユーザー本人のアバターであり、「kinoshita」、「T303」は大会に参加している他のユーザーである。この画面から「Eguchi」、「kinoshita」、「T303」の三者が現在タイム的に競っていることが一目瞭然となりマラソン大会のライブ感や没入感が向上する。
【0037】
また、マラソンコースの動画は季節に応じて変更することができる。
図6は秋の紅葉シーズンの動画であるが、
図7のように春の桜コース、夏のコース、冬の雪道のコースであってもよい。春に開催される仮想空間マラソン大会の場合は、春のコースであることが想定されるが、冬に開催される仮想空間マラソン大会に、春のコースを用いても構わない。また、同一のコースで、春、夏、秋、冬を同時に体験できても構わない。その場合、例えばコースがいくつかに分割されていて、春、夏、秋又は冬の景色をそれぞれ味わう分割されたコースが設定される。
【0038】
また、参加者の情報端末で表示される動画には沿道での地元の応援風景を含めることができる。現実世界の市民マラソン大会では沿道で多くの地元の団体の応援が繰り広げられることが多く、それを楽しむために遠方から参加するランナーも多い。例えば、仙台ハーフマラソンであれば定禅寺通りで繰り広げられる各種の応援グループの共演である。このような地元のマラソンコース上の実映像の応援風景が含まれるとより仮想空間マラソン大会の没入感が高まるので好適である。
【0039】
また、参加者の情報端末にはマラソン実況の情報を音声又はテキスト情報で提供することができる。
【0040】
また、参加者が仮想空間上で特定の観光スポットの周辺に立ち入った際には当該観光スポットの観光ガイドの情報を参加者の情報端末に音声又はテキスト情報で提供することができる。音声ガイドは、他のマラソン参加者の動向を伝える実況中継を流してもよい。また、地元に縁のある著名人や、観光地や景勝に詳しい有識者などが担当してもよい。大会の参加者は、自分の好みにあわせたチャンネルを選んでもよい。
【0041】
[サーバー]
仮想空間マラソン大会運営システムのサーバーには全国各地から参加するユーザーのエクササイズバイクがオンライン(インターネット)で接続する。サーバーはマラソン大会を運営するのに必要なデータが保持されている。例えば、マラソンコース情報、マラソン大会参加者の情報である。さらにマラソン大会開催中の参加者の仮想空間上での走行位置や走行順位に関する情報を保持し、ユーザーからのリクエストに応じてこのようなマラソン大会に関する情報をユーザーの情報端末に表示することができる。
【0042】
[マラソンコース]
本発明で利用するマラソンコースは、(1)リアル(現実世界)で実施されているマラソンコース、(2)リアルで実施可能なマラソンコース、(3)リアルでは実施が困難なマラソンコース、がある。
【0043】
(1)リアル(現実世界)で実施されているマラソンコースとは、その名のとおり実際に全国、全世界で行われているマラソンコース(ルート)が対象となる。秋田県仙北市の田沢湖マラソンであれば、
図8のような田沢湖周辺を走行するランニングコースを仮想空間上で再現する。マラソンコースはフルマラソンコースに限らず、5km、10km,ハーフマラソンコースであってもよい。
一般に、実際に開催されている市民マラソンのコースが開催年度毎に多少の変更があるように、仮想空間上で再現するマラソンコースも実際のマラソンコースを必ずしも忠実に再現していなくてもよい。例えば、実際の市民マラソンのシンボルとなるスポットを含まれていれば足りる。田沢湖マラソンであれば田沢湖周辺のコースであり、仙台ハーフマラソンであれば青葉通り、定禅寺通などのその大会の象徴的なコースが含まれているのが望ましい。
【0044】
(2)リアルで実施可能なマラソンコースとは、現在はまだそのコースではリアルなマラソン大会は開催されていないが実施自体は可能なコースである。例えば、秋田県仙北市角館エリアは、武家屋敷並ぶ「みちのくの小京都」と呼ばれる観光スポットである。これまでちょっとしたランニング大会は開催されていたかもしれないが、大規模な市民マラソンは開催されていなかったと仮定する。その場合、角館エリアの観光スポットを回るようなコースはリアルで実施可能なマラソンコースである。
【0045】
(3)リアルでは実施が困難なマラソンコースとは、実際の場所は現実世界に想定するものの物理的にマラソン大会を実施できないコース(ルート)である。例えば、何らかの制約により市民マラソンのランナーが容易には立ち入れないため実際のマラソン大会(例えば、100人以上が参加するマラソン大会又は500人以上が参加するマラソン大会)のコースにはなりえないコースである。
例えば、東北エリアでいえば世界自然遺産に登録されている白神山地のコースが考えられる。世界自然遺産にも登録されている山奥のエリアであるため同時に多数の市民ランナーがこの地に立ち入ってランニングをすることは困難である。また、白神山地のコアゾーン(核心地域)においては、原則入山禁止のエリアも設定されている。このようなコースであっても本発明であれば白神山地の風景を楽しみながらマラソン体験が可能となる。
【0046】
また、夜に行われるお祭りを見て回るマラソンコースはリアルでは実現が困難といえる。秋田県でいえば、例えば秋田竿燈まつり、大曲花火大会、能代天空の不夜城などである。また、日中であってもたくさんの群衆で賑わうお祭りを見て回るコースもリアルでは実現が困難又は不可といえる。例えば、宮城県仙台市でいえば、5月の青葉祭りや8月の七夕祭りである。
なお、本発明は、マラソン大会主催者がランナーに開催都市の魅力的な場所をオンラインで訴求することを目的としているため全く空想の世界のマラソンコースは含まない。
【0047】
リアルでは実施が困難なマラソンコースとしては、他には次のようなものがある。
(1)白神山地、自然保護区、世界自然遺産登録地域/コアゾーン、国立公園特別保護地区、お祭りの喧騒の間を通るコースなど立ち入り禁止、
(2)鉄道の線路上を走るコースがあげられる。電車が並行又は対向して走っているとより非現実感が増加する。
(3)海中のコース、水中のコース、火山の河口のコース
(4)富士山などの険しい山のコース
(5)複数の都市をまたぐコース
(6)火山の河口、富士山の頂上への道のり、洞窟
(7)昭和や戦時中など過去の町並みを走行するコース
なお、どの程度であれば実施が困難なマラソン大会であると言えるか定義を明確にするために、例えば、判断の基準を100人以上が参加するマラソン大会とすることができる。さらに厳しくは500人以上であり、さらに厳しくは1000人以上が参加するマラソン大会であれば実質的に開催困難なコースであってもよい。
【0048】
[仮想空間マラソン大会ならではの応援]
(1)チャットで応援(
図9a)
大会参加者以外にも応援者も仮想空間上のマラソン大会を閲覧できるようにする。例えば、応援者はマラソンコース上の特定の場所を指定するとその場所を通過するランナーのアバターなどの情報をみることができる。応援者は特定のランナーを指定するとそのランナーの情報端末に表示されている映像(動画)と同じものを閲覧することができる。応援者は応援のメッセージを送ることができ、応援者の応援メッセージはただちに参加者の情報端末に表示されランナーを励ますことができる。ランナーはあとから応援を確認することもできる。
【0049】
(2)投げ銭機能(
図9b)
応援者はマラソンコース上の特定のユーザーに対して投げ銭で応援することができる。投げ銭で応援されたランナーには所定の金銭が支払われるようにしてもいいが、大会主催者から地元の特産品が送られるようにすると、ランナー、応援者とも地方マラソン主催者の地域への貢献が可能となり望ましい。
【0050】
[駅伝大会]
実世界の大会では大規模な駅伝大会は運営上実現が大変であるが、仮想空間マラソンであればとても容易である。実世界の大会のようにランナーの交代場所に選手や大会スタッフを配置する必要がない。また、職場の仲間などチームで参加できるため気軽に参加しやすい。また、一般に、エクササイズバイクには長時間継続的に動作させることができないものもある。たとえば安価なエクササイズバイクの中には30分以上の動作が困難なものも多い。このようなエクササイズバイクを利用しているユーザーであっても、駅伝大会であれば短時間の走行で足りるので気軽に参加できる。駅伝大会はチームで参加してもよいし、一人で参加してチームのマッチングを大会主催者が行っても構わない。
なお、本発明ではそれぞれ異なる場所にいる複数のランナーで順番にマラソンコースを走行することを駅伝大会方式と呼ぶ。
【0051】
[システムの情報処理概要]
本発明を実現するサーバー側処理、スマートフォン側処理の一例として、
図10~12に、それぞれ運動データ受信処理の概要(サーバ側の処理)、運動者位置問合せ処理の概要(サーバー側の処理)、運動者表示処理(スマホ側処理)を示すが、これに限らなくてもよい。
【0052】
図10に、運動データ受信処理の概要を示す。サーバーが受信した、センサーに基づく運動者の運動量(例えば、バイクペダルの回転数)と前回の受信までの運動量の差を計算することにより、この区間の運動時間と運動量を算出する。この運動量と運動器具のパラメータから速度と消費カロリーを算出する(※この際、エクササイズバイクの負荷の大きさを考慮してもよい)。最終的に、この消費カロリーを基に、マラソンに換算した移動距離、移動速度を計算し、運動実績として格納する。
【0053】
図11に、運動者位置問合せ処理の概要を示す。問合せ元のクライアントのイベントID、参加者IDから、本大会の運動実績を参照し、当該参加者の経過時間、現在速度から現在位置を計算する。また、参加者の現在位置付近にいる他の参加者の情報をリストに整理する。当該参加者と付近の他の参加者の情報の座標を算出し、リスト形式でクライアントに返す。
【0054】
図12に、スマホ等のクライアント機器での、運動者表示処理の概要を示す。ログイン情報から、イベントと参加者の情報を取得し、前項の運動者位置問合せ処理を呼び出し、当該参加者、近傍参加者のIDと現在位置、現在速度、相対位置、座標位置のリストを取得する。本情報を基に、動画再生位置、動画再生速度を制御するとともに、現在位置、現在速度のステータス表示参加者・近傍者のアバター表示、地図情報でのアイコン表示、を行う。
【0055】
なお上記の実施例では、エクササイズバイクでの運動から消費カロリーを算出し、消費カロリーをもとにマラソンに換算した移動距離、移動速度を計算し、運動実績として格納しているが、消費カロリーを用いずにエクササイズバイクの回転数、回転速度、走行速度、エクササイズバイクの負荷の情報からこれらの情報を計算してもよい。