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特開2022-97321石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器
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  • 特開-石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器 図1
  • 特開-石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器 図2
  • 特開-石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器 図3
  • 特開-石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097321
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を除去する方法および除水器
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/00 20060101AFI20220623BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B01D15/00 101B
B01J20/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020210852
(22)【出願日】2020-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】720004588
【氏名又は名称】上村 直久
(72)【発明者】
【氏名】上 村 直 久
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA05
4D017BA01
4D017CA13
4D017CB01
4D017EA05
4G066AC17B
4G066BA09
4G066CA43
4G066DA09
(57)【要約】
【課題】 従来の石油系液体燃料のタンクの除水は、付属する水抜き栓等の水抜き用設備を使用するが、作業を行う前に、水抜き栓の下に受け皿を用意する必要があり、かつ燃料油も抜け出てくる。抜け出た油水または油の処置のため、別途、油水分離を行うか廃棄物処理のためにコストを要する。もしくは使用を中断し、タンクを開放し、清掃を実施することになる。そのコストは大型タンクほど膨大になる。
【解決手段】 本除水器を用いれば、本器をタンク内の底部に一定時間寝かしておくだけで、目的の水を除去できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油系液体燃料の貯槽タンク内の水を吸水する、ポリアクリル酸塩を主成分とする粒状の吸水性ポリマーを封入した除水器
【請求項2】
請求項1の除水器の形状が、水平方向に長い筒状であり、筒の一端には、自由度の高いワイヤーが接続され、その先端はマグネットフックに結びついていることを特徴とする除水器
【請求項3】
請求項2の除水器の形状が、吸水効果を高めるために、タンク底部との接触面が広くなる多角形構造を有することを特徴とする除水器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水を、手軽で安価に除去する方法およびその除水器に関する。
【背景技術】
【0002】
石油系液体燃料の貯蔵タンクには、少量の水が存在することがある。これが錆の発生を引き起こし、ひいてはタンク内部の劣化や燃料油の品質低下を招くと言われている。水が存在する原因は、気温変動に伴う結露や溶存水の析出、または移送の過程での混入が考えられている。
【0003】
貯蔵タンク内の水の対処として、例えば、灯油のホームタンク設備では、タンク底部に設置された水抜栓からの水抜き作業がある。この作業は、貯蔵タンクの規模、設置状況によっては手間を要し、特に地下タンクや屋外タンクであれば、定期的又は必要の都度、タンク開放等の手間とコストを投じて、大がかりなタンク内清掃を行うことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実全昭60-009503
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、灯油のホームタンクには、フィルターセパレーターのような脱水設備がなく、通常はホームタンクの底部に設置された水抜き栓から人的操作による水抜き作業を行う。作業を行う前に、水抜き栓の下部に受け皿を用意する必要があり、かつ完全に水を抜き出そうとすれば灯油も混入してくる。混入した灯油については、別途油水分離を行ってタンクに戻すか廃棄物として処理することになる。タンク内の汚れが進行している場合は、タンクの使用を中断し、開放して清掃を実施することになる。そのコストは大型タンクほど膨大になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題において、灯油のホームタンク内部に水が存在する時間を少なくすることができれば、灯油のホームタンク内部の錆の発生は抑制され、ストレーナーの寿命延長やタンク内部の清掃の周期を延ばすことが期待できる。
【0007】
この課題を解決するには、水のみを分離除去できる除水器があれば達成しうる。除水器は、ハンドリングが容易で、ランニングコストが安価であることが望まれ、さらに火災予防上安全であれば、貯蔵タンク使用者に喜ばれる。
【0008】
これまでに燃料油中の除水器として、実用新案出願 昭58-097980の吸着器が提案されている。しかしながら、この吸着器の提案は、実用化に向けて改善の余地がある。これらの点を改善できれば、実用的な除水器の製作が可能となる。
【0009】
第一に吸着器の構造である。筒状、無数の細孔を有する、細長い網袋、吸着剤が水を充分吸収できる大きさとされるが、実器製作にあたり、その素材とサイズ、細孔の口径等の仕様が抽象的明示にとどまる。吸着器がタンク挿入口の口径より大きく膨潤した場合は取り出すことができない。また、吸着器の素材が可燃性であれば、消防法に定める危険物第四類を取扱う設備に対して適当ではない。当該吸着器に繋がれた紐も同様である。
【0010】
第二に、水を除去するための核となる、粒状の吸水性ポリマーの種類である。当該機能を伴えば例示の商品に限定されるものではないが、粒径が150~250マイクロメートルと細粒であり、つまりは粉体である。マイクロメートル単位の粉体の取り扱いには、ユーザーへの暴露の懸念がある。また、吸着器の細孔より小さい粉体であれば、タンク内に分散し、タンク内汚染に至りかねない。
【0011】
第三に使用方法である。タンク底部に静置させるだけでは、吸着器内の吸水性ポリマーの膨潤が進展して積層が進むことで、吸着器の細孔で目詰まりを生じたり、相互圧迫による破損を引き起こしたりの不具合を起こす懸念がある。
【発明の効果】
【0012】
タンク内での結露や輸送元から持ち込まれた水は、燃料油との密度差からタンク内の底部に溜まるので、本方法の除水器をタンク内の底部に沈めて一定時間寝かしておけば、粒状の吸水性ポリマーに水が吸収され、タンク内壁面と燃料油に接触する水を消失させることができる。
【0013】
灯油のホームタンクの底部に設置された水抜き栓からの水抜き作業においては、操作上、水を全量抜き出そうとすれば油分も混入し、いわゆる廃油の発生は避けられない。しかし、本除水器を使用した場合は、液体を抜き出す作業工程はなく、水分を吸水した粒状の吸水性ポリマーを内封した金属容器を引き上げ、タンク内から取り出して交換すればよい。
【0014】
吸水して膨潤した使用済吸水性ポリマーは、プラスティック廃棄物として処分が可能であるため、廃油の発生は抑えられる。この手法は、屋外貯蔵タンク、屋内貯蔵タンク、ドラム容器等への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】灯油のホームタンクに除水器を投入した状態の概念図
図2】除水器の概要図
図3】金属網による除水器本体の構造
図4】パンチング加工により製作される除水器本体の構造
【発明を実施するための形態】
【0016】
本除水器の使用による水の除去方法は、図2に示す構成の除水器を図1のようにタンク内に投入し、横長に寝かせるだけでよく、手軽である。
【0017】
まず、第一の改良点を列記する。図2に示す粒状の吸水性ポリマーを保持する容器は、石油に侵食されず、導電性のある金属容器であり、図3および図4のように、水滴と粒状の吸水性ポリマーが接触できるよう網目構造である。
【0018】
粒状の吸水性ポリマーの吸水を効率的に実施させるためには、除水器の形状が重要な要素となる。また、吸水性ポリマーが吸水して膨潤した後の吸水性ポリマーの破損を避ける必要がある。破損の原因は、除水器と隣接する、膨潤した吸水性ポリマーとの積層状態の進展に伴う金属網目との相互圧迫作用がある。この現象を回避するため、図2のように、粒状の吸水性ポリマーを均一に分散させられるよう、使用時に水平方向に長い筒形として使用する。
【0019】
図2の筒形の除水器の外径は、ホームタンクの給油口から挿入できるようなサイズとする必要があり、灯油のホームタンクの場合、一般的には47ミリメートルから61ミリメートルの範囲となる。
【0020】
図2の除水器の長さは、粒状の吸水性ポリマーが吸水により膨潤する容積より十分余裕のある容積を確保する前提で設定すればよいが、粒状の吸水性ポリマー1グラムを投入した場合、100ミリメートルから200ミリメートルあればよい。
【0021】
図2の除水器は、筒状でよいが、水と粒状の吸水性ポリマーとの接触面を増やすことは吸水効率を高めることから、タンク底面との接地面が平坦な多角形の構造とすることが望ましい。また、粒状の吸水性ポリマーを穏やかに攪拌できるように、ワイヤー伝いに筒を転がすことが容易である六角形以上が望ましい。
【0022】
図2の除水器の両端は金属板で金属網を固定する。金属板の一端は、粒状の吸水性ポリマーの出し入れをするため、簡便に開閉が可能なものとする必要がある。その一方法として、スクリューキャップ構造がある。
【0023】
または、金属板の一辺を蝶番により容器本体と繋ぎ、反対側は、ロックリング方式等の着脱固定機能のある部材を取り付けた構造とする。掛金を取り付けてもいいが、使用中に外れないような工夫、例えば南京錠を噛ませる等を施す必要がある。
【0024】
図2の除水器は、内封した吸水性ポリマーに水を接触させる必要があるため、メッシュ構造の金網とする。例えば茶こしのような網でよく、パンチング加工した金属板としてもよい。
【0025】
図2の除水器のメッシュサイズは、水分を吸水する前の粒状の吸水性ポリマーが金属網またはパンチング加工の穴の空間から抜け落ちなければよい。粒状の吸水性ポリマーを包含する市販品のサイズを前提にすれば、100メッシュ以上が望ましい。
【0026】
図3の金属網または図4のパンチング加工する金属板の厚みは、形状を維持する強度と遊離水の移動を妨げない要件を満たす必要があるが、0.5ミリメートルから1ミリメートルが適当である。
【0027】
図3または図4の金属製の蓋は、水と接する必要はないため、網目構造を必須としない。むしろ、容器内に投入した粒状の吸水性ポリマーが抜けださないように十分な蓋の機能を有するように加工されていればよい。
【0028】
図3または図4の金属製の蓋には、ワイヤーを繋ぐための金属性のワイヤークリップが備えられている。
【0029】
当該ジョイント部に直接ワイヤーを繋げてもいいが、除水器がワイヤーの靭性によって振られすぎないように金属性の鎖を挟む。その目的は、除水器が投入位置からワイヤーロープの靭性により反動で目的外の位置に動く作用を緩衝することにある。したがって、ワイヤーロープの太さと長さ、ジョイント部の鎖の太さと長さは、除水器の重量とそれぞれの相互作用を考慮して選択すればよい。
【0030】
ワイヤーの他端は、ワイヤーの落下防止用にマグネットフックを備え、タンクの内側上部にくっつけ固定できるようにする。これらにより、ワイヤーロープを落下させることなく、すぐにワイヤーロープを手繰り寄せてタンク内に挿入し底部に沈めた除水器を引き上げることができる。
【0031】
ワイヤーロープとマグネットフックは、スプリングフックカラビナ等のロック機能を有する連結金具とし、マグネットフックと取り外しが可能な形態とする。これにより、ワイヤーロープを捩じる等の操作が容易となる。
【0032】
次に、第二の改良点を記述する。除水にはポリアクリル酸塩を主成分とする粒状の吸水性ポリマーを使用する。この粒状の吸水性ポリマーは、一般名称を「植物栽培用高分子吸水球」、個別商品名として「プランツボール」、「アクアボール」等の名称で安価に市販されている。
【0033】
最後に第三の改良点を列記する。ワイヤーを使用する目的は、ワイヤーを捩じることにより金属容器を回転させることにある。除水器内の粒状の吸水性ポリマーを強制的に攪拌させることで、タンク底部の水と接触した一部の吸水性ポリマーが飽和し膨潤しても、金属容器をタンク内から引き出すことなく、まだ飽和していない吸水性ポリマーを底部に移動させることができる。これにより、すべての吸水性ポリマーを無駄なく、効率的に除水させることができるようになる。また、積層化と相互圧力による吸水性ポリマーの破損を防ぐことができる。
【0034】
除水器の一回の投入時間は、1時間程度でよい。吸水の有無はと除水気を撤去した後のタンク内の水の有無を視覚で確認することができる。粒状の吸水性ポリマーの膨潤が限界まで達している、または吸水能力の限界であるとの懸念を感じる場合は、新しい粒状の吸水性ポリマーを交換して再投入する。
【実施例0035】
500ミリリットルビーカーに灯油100ミリリットル、水道水60ミリリットルを入れ、プランツボール1グラムを封入した18-8ステンレス鋼のカプセルこし器(パール金属社製)を浸した。1時間後、茶こしをビーカーから引き揚げた。プランツボールは膨潤し、二層だったビーカー内の液体は灯油のみ、ほぼ100ミリリットル残った。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、石油系液体燃料の貯蔵タンク内の水の処置について、例えば、灯油のホームタンク設備では水抜き栓からの水抜き作業の手間を省力化し、例えば、地下タンクや容量の大きなタンクであれば、構造上困難又は不可能である場合のタンク内清掃の頻度の低減が可能となる。
【0037】
自動車燃料の給油所の地下タンクについては、当該除水器を出し入れ可能な構造物があれば適用可能である。また、屋外貯蔵タンク、屋内貯蔵タンク、ドラム容器等においても、当該除水器のサイズを工夫すれば適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 ホームタンク
2 通気管
3 油量計
4 給油口
5 水抜き栓
6 ストレーナーバルブ
7 送油口
8 除水器
9 マグネットフック
10 ワイヤー
11 スプリングフック
12 金属チェーン
13 ワイヤークリップ
14 蝶番
15 ロックリング
16 粒状の吸水性ポリマー
17 燃料油の液面
図1
図2
図3
図4