(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097412
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】ガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法
(51)【国際特許分類】
F16L 9/18 20060101AFI20220623BHJP
F17D 1/02 20060101ALI20220623BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
F16L9/18
F17D1/02
B63H21/14
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199846
(22)【出願日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020210321
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】阿部 伸也
(72)【発明者】
【氏名】田窪 竜太
【テーマコード(参考)】
3H111
3J071
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111CA17
3H111CB14
3H111CB27
3H111DB08
3H111DB11
3H111DB27
3H111EA14
3J071AA02
3J071AA23
3J071BB11
3J071CC04
3J071CC06
3J071EE09
3J071EE33
3J071FF02
(57)【要約】
【課題】
外管間を塞ぐスリーブ製作の際にも,半割り時の形状変形や半割り切断面溶接時にも溶接熱の影響を受けることなく、断面真円を維持でき、かつ、半割り切断面の溶接接合部のRT検査を必要としないガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法を提供する。
【解決手段】
所定長のガス燃料船のガス供給二重管の内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査に必要な作業の離間間隔に配置される外管と、当該離間間隔を覆う長さで、外管外周を摺動可能なスライドスリーブと、スライドスリーブ両端と外管との間の隅肉溶接部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長のガス燃料船のガス供給二重管の内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査に必要な作業の離間間隔に配置される外管と、
当該離間間隔を覆う長さで、外管外周を摺動可能なスライドスリーブと、
スライドスリーブ両端と外管との間の隅肉溶接部と、
を有することを特徴とするガス燃料船二重管構造。
【請求項2】
内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査に必要な作業の離間間隔に外管を配置するステップと、
外管に当該離間間隔より長いスライドスリーブを外管外周に挿通するステップと、
内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査の終了後に当該スライドスリーブを摺動させて当該離間間隔を覆うステップと、
スライドスリーブの両端と外管との間を隅肉溶接で接合するステップと、
からなることを特徴とするガス燃料船二重管構造の製作方法。
【請求項3】
前記離間間隔が200mmであることを特徴とする請求項1に記載のガス燃料船二重管構造。
【請求項4】
前記離間間隔が200mmであることを特徴とする請求項2に記載のガス燃料船二重管構造の製作方法。
【請求項5】
外管と内管を同心に外管内端部近傍に溶接配置する断面T字状内管サポート部材と、
内管サポート部材上に内管を把持するUボルトと、
を有することを特徴とするガス燃料船二重管構造。
【請求項6】
断面T字状サポート部材が、高さ調整シムプレートと、
高さ調整シムプレート上に内管に接して配置されるPTFEシートとを有し、
Uボルトが、内周面にピラフロン材を有するピラフロンUボルトであることを特徴とする請求項5に記載のガス燃料船二重管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LNGを燃料とするガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG燃料船のガス燃料供給配管(以下、「ガス燃料管」)は、気化された天然ガス燃料を供給するガス供給管(以下、「内管」とも称する)を通気管(以下、「外管」とも称する)で囲った二重構造配管を使用することが義務付けられている区画がある。
【0003】
図5は、LNG燃料船に使用されるガス燃料管の概略を示す図であり、
図5において、符号100は、内管、101は、外管、103は、内管用サポートであり、内管100には、内燃機関(主機、発電機)及びボイラーバーナーに供給される気化された天然ガスが、外管101には、内管100内のガスが漏洩した際、速やかにガスを船外に排出させるために通気が行われている。なお、上記内管用サポート103も本願出願人会社が採用する独自の形状ないし構造の内管用サポートである。
このような二重管構造のガス燃料管を船内に配置するには,所定長の二重管同士の接続箇所に対して、内管100は完全溶け込みの突合せ溶接をする必要があり、外管101の接合については、外管の接合箇所を外側から覆うスリーブを縦方向に2分割にした半割形状のスリーブ(以下、「半割スリーブ」とも称する)で塞ぎ、この半割スリーブの半割切断部分を溶接し、その後、外管101と半割スリーブの間を接合(隅肉溶接)にて接合するようにしている。
【0004】
図6(a)(b)(c)は、この種のガス燃料管の接合の概略を示す図であり、
図6(a)(b)(c)において、100は、内管、101は、外管、104は、溶接された半割スリーブ、104a、104bは、半割スリーブである。
ところが、外管101を外側から覆うスリーブは、元の形状から半割りに切断する必要があり、この半割り切断の際に、半割スリーブ104a、104b自体に歪みが生じて変形してしまうという問題があり、また、半割スリーブ104a、104bの切断面を完全溶け込み突合せ溶接を行う際に、溶接熱の影響を受けることでも熱変形が生じ、これらのことから溶接された半割スリーブ104の断面形状が真円にならないという問題があった。
【0005】
また、この種のガス燃料船のガス供給配管について、所定長の二重管を現地で溶接を要する際には、溶接部に対しても、溶接品質を検証する品質検査を行うことが義務付けられ、非破壊検査である放射線透過試験(JIS Z3104)が行われる(鋼船規則GF編参照)。放射線透過試験は、レントゲン(X線)を用いた検査(以下、「RT」とも称する)であって、溶接部を挟んで片方に放射線源(X線源)を, もう一方にフィルムをセットしてX線を放射して撮影することにより, 接合部の内部の欠陥位置や大きさを調べる方法である。
【0006】
このため、この種のガス燃料船の所定長の二重管を現地で溶接においても、内管100の完全溶け込み突合せ溶接後には、RT検査を行い、その後、さらに、外管101を半割スリーブ104a、104bで塞ぎ、半割スリーブ104a、104bの半割り切断面を鋼船規則GF編に則り完全溶け込み突合せ溶接を行い、その後、外管101と溶接された半割スリーブ104との間に隅肉溶接を行い、これらの接合部に対しRT検査を行うようにしている(
図6(a)(b)(c)においては、RT検査の概略は省略している。)。
【0007】
図7は、ガス燃料管(二重管)について、RT検査の実施概略を示す図であり、
図7において、符号100は、内管、101は、外管、106は、X線発生器、107は、フィルム、108は、架台である。
図7に示すように、半割スリーブ104a、104bの切断面に対して完全溶け込み突合せ溶接をした後、当該溶接接合部に対してRT検査を実施する際には、内部の内管100も一緒に撮影されてしまい、接合内部の小さな傷などが視認できない可能性などがあり、品質検査判定に困難が伴うなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本願発明は、そもそも外管間を塞ぐ半割りスリーブを必要とすることなく、したがって、スリーブ製作の際の半割り時の形状変形や半割り切断面溶接時にも溶接熱の影響を受けることなく、断面真円を維持でき、かつ、半割り切断面の溶接接合部のRT検査を必要としないガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、ガス燃料船二重管構造において、所定長のガス燃料船のガス供給二重管の内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査に必要な作業の離間間隔に配置される外管と、当該離間間隔を覆う長さで、外管外周を摺動可能なスライドスリーブと、スライドスリーブ両端と外管との間の隅肉溶接部と、を有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、ガス燃料船二重管構造の製作方法において、内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査に必要な作業の離間間隔に外管を配置するステップと、外管に当該離間間隔より長いスライドスリーブを外管外周に挿通するステップと、内管の完全溶け込み突合せ溶接作業及びその溶接部の非破壊検査の終了後に当該スライドスリーブを摺動させて当該離間間隔を覆うステップと、スライドスリーブの両端と外管との間を隅肉溶接で接合するステップと、からなることを特徴とする。
そして、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1に記載のガス燃料船二重管構造において、前記離間間隔が200mmであることを特徴とする。
さらに、本願請求項4に係る発明は、前記請求項2に記載のガス燃料船二重管構造の製作方法において、前記離間間隔が200mmであることを特徴とする。
また、本願請求項5に係る発明は、ガス燃料船二重管構造において、外管と内管を同心に外管内端部近傍に溶接配置する断面T字状内管サポート部材と、内管サポート部材上に内管を把持するUボルトと、を有することを特徴とする。
そして、本願請求項6に係る発明は、前記請求項5に記載のガス燃料船二重管構造において、 断面T字状サポート部材が、高さ調整シムプレートと、高さ調整シムプレート上に内管に接して配置されるPTFEシートとを有し、Uボルトが、内周面にピラフロン材を有するピラフロンUボルトであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成からなる本願発明は次のような効果を有する。
(1)半割スリーブを使用しないので、突合せ溶接箇所が少ない形状とすることができ、鋼船規則GF編で要求されるRT検査を実施する箇所を少なくすることが可能となり、現場の作業を軽減できるガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法とすることができる。
(2)外管を外側からスライドさせて覆う環状のスリーブ形状としたので、予め半割りする等の作業や半割り切断面の溶接接合時の溶接熱による影響を受けることがなく真円を維持できるスリーブ形状としたので、ガス燃料船二重管の接合作業の作業効率が格段に向上することとなる。
(3)内部を流れる流体の温度変化の影響や、船体のホギング・サギング、船体運動の加速度の影響で内管と外管で変位・伸縮が異なる二重管において、内管と外管はそれぞれの動きに追従することなく一定位置に固定することができる。
(4)二重管の外管と内管を固定する際に容易に、かつ確実に外管の芯に対して内管の芯が重なるような施工ができ、さらに施工設置後の二重管の内管・外管が動く際に、メタルタッチ箇所がないので、金属接触による摩耗が原因となる内管の破損及びスパークが起きないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)(b)(c)は、本発明に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法を実施するための実施例1を示す概略図であり、
図1(a)は、ガス燃料管の接合前を、
図1(b)は、内管接合時を、
図1(c)は、外管接合後を示す概略図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例2に係る内管サポート部材の斜視図、
図2(b)は、同内管サポート部材に使用するピラフロンUボルト中央部の断面概略図である。
【
図3】
図3は、ピラフロンUボルト14を用いて内管100と外管101との間に組み立て固定する概略を示す図である。
【
図4】
図4(a)(b)(c)は、所定長の外管101の端部内近傍に実施例2に係る内管サポート部材10を溶接固定した概略を示す図である。
【
図5】
図5は、LNG燃料船に使用されるガス燃料管の概略を示す図である。
【
図6】
図6(a)(b)(c)は、ガス燃料管の接合の概略を示す図である。
【
図7】
図7は、ガス燃料管(二重管)について、RT検査の実施概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法を実施するための一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0014】
図1(a)(b)(c)は、本発明に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法を実施するための実施例1を示す概略図であり、
図1(a)は、ガス燃料管の接合前を、
図1(b)は、内管接合時を、
図1(c)は、外管接合後を示す概略図であり、
図1(a)(b)(c)において、符号1は、本発明の実施例1に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法概略であり、2は、外管を外側から覆いスライド可能なスライドスリーブである。その余の符号100は、内管、101は、外管、103は、内管用サポート、105は、溶接部である。
図1(a)に示すように、ガス燃料船の所定長の気化された天然ガス燃料ス供給二重菅の接合においては、まず、内管100溶接時又は内管100突合せ溶接部105のRT検査実施時にはスライドスリーブ2は,これらの作業の邪魔にならない所へスライドさせておく(
図1(a))。
【0015】
なお、この場合の、それぞれの外管101の開放端の離間間隔は、内管100同士の接合溶接に充分な作業域が確保できる間隔であり、かつ、その後のRT検査においても、内管100の接合部105のRT検査に十分な間隔、例えば、200mmの間隔を開けるものとし、したがって、スライドスリーブ2の長さもこの間隔を覆うに必要充分な長さとする。
その離間間隔の隙間で内管100同士の完全溶け込み突合せ溶接を行う。
しかる後、内管100の突合せ溶接部105のRT検査を行う。
次に、内管100の溶接部105のRT検査が終了した後にスライドスリーブ2を前述の離間管間隔を覆う位置(正規の位置)にスライドさせる(
図1(c))。
しかる後、スライドスリーブ2の両端を2つの外管101、101に隅肉溶接を行う。
なお、外管101、101とスライドスリーブ2の両端との溶接は隅肉溶接となるため、鋼船規則等では非破壊検査は義務付けられてなく、この面からも作業効率の格段の向上ができることとなる。
【0016】
上述してきたように、本実施例1に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法によれば、外管101同士の接続に半割りスリーブ104a、104bで必要な切断面の突合せ溶接を行う必要がないので、外管101同士の接合時におけるRT検査が不要となり、この面で作業効率が向上する。
また、半割りスリーブ104a、104bを用いるものではないので、半割りスリーブ104a、104bを作製する際の形状変形や半割りスリーブ104a、104の切断面の突合せ溶接を行う必要がないので、溶接熱変形も生じることがなく、現場作業の効率が向上する。
【0017】
すなわち、本実施例1に係るガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法によれば、全体として、突合せ溶接の少ない二重管構造とすることができ、また、非破壊試験(RT検査)項目を減少させることができる二重管構造とすることができるので、現場作業の少ない極めて効率的なガス燃料船二重管構造及び同構造の製作方法とすることができることとなる。
本願出願人は、上述の内管サポート103について、種々検討するうちに、当該内管サポートは、外管101の内部から内管100を固定する必要があり、通常通りのアングル材を使用した内管サポート103は外管101の内部に挿入するにはサイズが限定され、内管サポート103の溶接作業に困難を極める。また、内管サポート103は、アングル材及びUバンドと内管100はメタルタッチとなり、各々がメタルタッチとなっているために、二重管全体の伸縮により、内管100と外管101との間では伸縮度合いが異なり、その結果、金属接触箇所の摩耗が懸念されることが判明した。
そこで、この内管サポート103について、二重管外管101と内管100を固定する際に確実に施工ができ、さらに内管100と外管101とが伸縮等によって動く際にもメタルタッチ箇所が生じないようにすることにり、金属接触による摩耗が原因となる内管100の破損及びスパーク(金属摩耗による発火)が起きない形状の内管サポートを案出するに至ったものである。
すなわち、本実施例2に係る内管サポート部の構造ないし形状は、外管と内管を同心に外管内端部近傍に溶接配置する断面T字状内管サポート部材と、内管サポート部材上に内管を把持するUボルトとを有する基本的構造ないしは形状としたものである。そして、断面T字状サポート材は、その上に高さ調整シムプレートが配置され、高さ調整シムプレート上に内管に接して配置されるPTFEシートと、内管に跨がるUボルトが内周面にピラフロンが内管に接するピラフロンUボルトと、を有する構造ないし形状としたものである。
また、内管100は、摺動性の優れたPTFEシート13及び同ピラフロン材14bと接触するようにしたので、本実施例2に係る内管サポート部材10は、内管100の接触部にPTFEシート13を挟むことで滑りを良くし、メタルタッチによる金属磨耗を防ぐ形状とし、さらに、内管100と外管101の変位量が異なることから、Uボルト14に対して内管100からの応力を受けないようにして、内管100の上下両サイドとUボルト14が干渉しないような"コの字形状"としたものである。
この結果、内部を流れる流体の温度変化や船体のホギング・サギング、船体運動の加速度等の影響で船内配管自体が伸縮・変位し、その伸縮と変位は二重管の内管と外管では異なる二重管において、上記のような構造ないしは形状の本実施例2に係る内管サポート部材10を使用したので、内管100と外管101のそれぞれの動きに追従することなく、内管100を常に一定の状態で固定することができることとなる。
また、本実施例2に係る内管サポート部材10を使用する二重管は、外管101と内管100を固定する際に容易に、かつ確実に外管の芯に対して内管の芯が重なるような施工ができ、さらに内管100・外管101が動く際に、メタルタッチ箇所がないので、金属接触による摩耗が原因となる内管100の破損及びスパークが起きないという効果を奏することとなる。