(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097462
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220623BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220623BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205154
(22)【出願日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2020210627
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松原 亮平
(72)【発明者】
【氏名】原口 崇
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 準
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健弘
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA222
4J038EA011
4J038GA16
4J038NA27
(57)【要約】
【課題】抗菌、抗ウイルス機能が付与されているかを容易に確認することが可能な塗料を得る。
【解決手段】塗料は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されたポリフェノール誘導体と、溶剤と、を含んでいる。溶剤は、有機溶剤であることが好ましく、例えば溶液もしくはペースト、エマルジョン又はスプレーの形態とされている。また、ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類の一部の水酸基における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が鎖状炭化水素基により置換されていてもよい。さらに、ポリフェノール誘導体は、ネットワークポリマー化されて高分子材料とされていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されたポリフェノール誘導体と、
溶剤と、
を含む塗料。
【請求項2】
前記溶剤は、有機溶剤を含む
請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
溶液、ペースト又はエマルジョンである
請求項1又は2に記載の塗料。
【請求項4】
前記発光性官能基の数が、1以上前記水酸基の水素原子数と前記芳香族環の水素原子数との合計より1少ない数以下となるように、前記水酸基又は前記芳香族環の水素原子が前記発光性官能基により置換されている
請求項1から3のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項5】
前記発光性官能基は、ピレン系、アントラセン系、フェナントレン系、ベンゾオキサゾール系、フラボン系、カルバゾール系及びクマリン系からなる群から選ばれる少なくとも一種の発光性官能基である
請求項1から4のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項6】
前記ピレン系の前記発光性官能基は、4-(1-ピレン)-酪酸骨格、1-ピレン酪酸骨格、又は1-(メチル)ピレン骨格からなる群から選ばれる少なくとも一種の骨格を有する発光性官能基である
請求項5に記載の塗料。
【請求項7】
前記ポリフェノール類の前記水酸基及び前記芳香族環の水素原子の一部が、鎖状炭化水素基により置換されている
請求項1から6のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項8】
前記鎖状炭化水素基は、アルキル基である
請求項7に記載の塗料。
【請求項9】
前記鎖状炭化水素基は、炭素数が1以上18以下である
請求項7又は8に記載の塗料。
【請求項10】
前記発光性官能基の数と前記鎖状炭化水素基の数との合計が、前記水酸基の水素原子数と前記芳香族環の水素原子数との合計より1少ない数以下となるように、前記水酸基又は前記芳香族環の水素原子が前記鎖状炭化水素基により置換されている
請求項7から9のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項11】
前記ポリフェノール類は、タンニン酸であり、
前記ポリフェノール誘導体は、タンニン酸誘導体である請求項1から10のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項12】
前記ポリフェノール誘導体は、ネットワークポリマー化されている
請求項1から11のいずれか1項に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌・抗ウイルス剤として用いられる塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機関、商業施設、学校、公共施設、食品工場、交通機関等において、感染症の発生・拡大防止等の衛生上の観点から、手すり、操作ボタン等の不特定多数の人が触れる物品等や、携帯通信端末、キーボード、マウス、タッチパネル、印刷物等の手指で直接触れる物品等に、抗菌・抗ウイルス機能を付与することが望まれている。
【0003】
このようなニーズに対応するために、従来、抗菌、抗ウイルス剤等を用いて建築物や輸送車両等の内装部材用の表面に抗菌、抗ウイルス機能を付与することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の抗菌・抗ウイルス剤は、抗菌・抗ウイルス物質として金属(特に銀)を含んでおり、変色や製造コストがかかるとともに、内装材に抗菌、抗ウイルス剤等を塗布したとしても、実際に抗菌、抗ウイルス機能が付与されているかを容易に確認することは困難であった。
【0006】
そこで、本開示は、抗菌、抗ウイルス機能が付与されているかを容易に確認することが可能な抗菌・抗ウイルス剤として用いられる塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本開示の一態様に係る塗料は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されたポリフェノール誘導体と、溶剤と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、抗菌、抗ウイルス機能が付与されているかを容易に確認することが可能な抗菌・抗ウイルス剤として用いられる塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本開示は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形(例えば各実施形態を組み合わせる等)して実施することができる。
【0010】
1.第一実施形態(塗料の第1の例)
以下、第一実施形態に係る塗料について説明する。本実施形態に係る塗料は、所望の部材の表面に抗菌・抗ウイルス機能を付与するための抗菌・抗ウイルス剤として用いられ、かつ抗菌・抗ウイルス機能の有無を視認することが可能である。本実施形態に係る塗料は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されたポリフェノール誘導体と、溶剤と、を含んでいる。また、第一実施形態に係る塗料は、着色剤や、その他の添加剤を含んでいても良い。ここで、本実施形態に係る塗料は、所望の面に皮膜を形成可能であればよく、皮膜形成方法については限定されない。例えば、塗布により皮膜を形成する塗料であってもよく、スプレーの噴射により皮膜を形成する塗料であっても良い。
【0011】
(1.1)塗料の形態及び機能
本実施形態に係る塗料は種々の形態であってよく、例えば溶液、ペースト、ゲル、エマルジョン、スプレーの形態で供される。
また、塗料は、例えば皮膜形成性を備えることが好ましい。例えば、基材上に溶液等の形態で施与された後に溶剤を除去すると、基材上に抗菌剤を含む膜(以下、抗菌・抗ウイルス膜と称する)が形成される。この抗菌・抗ウイルス膜は、連続膜であってもよく、例えばスプレー等によって非連続的に形成された非連続膜であってもよい。また、抗菌・抗ウイルス膜の耐久性向上等の目的でポリフェノール誘導体を架橋してもよく、樹脂等のマトリクスと混合してもよい。
このとき、架橋剤は、本実施形態に係る塗料に予め混合してもよく、抗菌剤を基材に塗布等される際に添加してもよい。
【0012】
本実施形態に係る塗料は、ポリフェノール誘導体の種々の作用と皮膜形成能を利用する種々の用途に用いられる。例えば、防錆剤、抗酸化剤、消毒剤、殺菌又は滅菌剤、殺ウイルス又は滅ウイルス剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤として供することができる。抗菌・抗ウイルス機能を施与する基材も限定されず、金属、金属酸化物、樹脂、エラストマー、ポリマー、無機物、コンクリート、モルタル、木材、動物もしくはヒトの皮膚等、多岐に亘る。
【0013】
(1.2)塗料の構成
以下、塗料に含まれるポリフェノール誘導体及び溶剤について詳細に説明する。
【0014】
<ポリフェノール誘導体>
本実施形態に係る塗料に含まれるポリフェノール誘導体は、抗菌・抗ウイルス性能を有する組成物である。ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されている。これにより、ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類と結合した発光性官能基による発光性能を有する。すなわち、ポリフェノール誘導体は、抗菌・抗ウイルス性能を有するポリフェノール類が存在する場合には、ポリフェノール類と結合した発光性官能基によって発光する。このため、抗菌・抗ウイルス剤として機能するポリフェノール誘導体が存在することにより抗菌・抗ウイルス性能を発揮できる領域では、例えば紫外線の照射によってポリフェノール誘導体が可視光を発光し、ポリフェノール誘導体の抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。
【0015】
ここで、「抗菌・抗ウイルス性能」とは、細菌又は真菌等の菌やウイルス等の微生物を殺菌・殺ウイルス(微生物を殺す)、静菌・静ウイルス(微生物の繁殖を抑える)、滅菌・滅ウイルス、消毒、制菌・制ウイルス、除菌・除ウイルス、防腐、防カビ等の少なくとも一つの性能を有することをいう。
【0016】
ポリフェノール誘導体を構成するポリフェノール類としては、タンニン酸、リグニン、カテキン、クロロゲン酸等が挙げられる。なかでも、ポリフェノール類は、タンニン酸であることが好ましい。すなわち、ポリフェノール誘導体は、タンニン酸の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されたタンニン酸誘導体であることが好ましい。
【0017】
タンニン酸は、加水分解で多価フェノールを生じる植物成分の総称である。ポリフェノール誘導体に用いられるタンニン酸としては、没食子酸やエラグ酸がグルコースなどの糖にエステル結合し、酸や酵素で加水分解されやすい加水分解型タンニン酸と、フラバノール骨格を持つ化合物が重合した縮合型タンニン酸とのいずれも用いることができる。これらのタンニン酸は、単体で用いられても良く、混合物として用いられても良い。なかでも、加水分解型タンニン酸が用いられることが好ましく、例えば以下の化学式(1)で表されるタンニン酸を主成分とするものが誘導体化されることが好ましい。
【0018】
【0019】
化学式(1)に示すように、タンニン酸等のポリフェノール類は末端に複数の水酸基を有している。上述したように、ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が後述する発光性官能基により置換されている。例えば、ポリフェノール誘導体の一例であるタンニン酸誘導体は、タンニン酸の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が後述する発光性官能基により置換されている。これにより、ポリフェノール類が存在する場合には、ポリフェノール類と結合した発光性官能基によって発光し、ポリフェノール類によって生じる抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。ここで、「視認」とは、人の目で直接(すなわち目視にて)可視光を確認すること及び可視外光を可視外光検出装置等を用いて検出し、当該装置の表示部に表示された情報を目視にて確認することをいう。
【0020】
ポリフェノール誘導体においては、ポリフェノール類の水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子のどちらが発光性官能基によって置換されていても良い。水酸基の水素原子を置換する際は、ポリフェノール類の水酸基数がn個である場合に、ポリフェノール類における水酸基数の1個以上n-1個以下が発光性官能基で置換されていることが好ましく、水酸基の1個のみが発光性官能基で置換されていることがより好ましい。芳香族環の水素原子を置換する際は、芳香族環の水素原子数がm個である場合に、ポリフェノール類における芳香族環の水素原子の1個以上m個以下が発光性官能基で置換されていることが好ましく、芳香族環の水素原子の1個のみが発光性官能基で置換されていることがより好ましい。
【0021】
したがって、ポリフェノール誘導体では、発光性官能基の数xが1以上かつポリフェノール類における水酸基の水素原子数nと芳香族環の水素原子数mとの合計より1少ない数以下、より好ましくは1個となるように、ポリフェノール類における水酸基又は芳香族環の水素原子が発光性官能基で置換されていることが好ましい。すなわち、ポリフェノール誘導体は、以下の式(1)を満たすように発光性官能基で置換されていることが好ましい。
1≦発光性官能基の数x≦水酸基の数n-1+芳香族環の水素原子の数m ・・・(1)
(式中、x、n、mは正の整数である。)
【0022】
これにより、ポリフェノール類によって生じる抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。また、発光性官能基は1つでも修飾されていれば発光機能を有するため、水酸基又は芳香族環の水素のいずれか1個が発光性官能基で置換される場合、ポリフェノール類の抗菌・抗ウイルス効果を最大限まで発揮させつつ、発光性を得られるため好ましい。
【0023】
例えば、タンニン酸における水酸基の水素原子の総数および芳香族環の水素原子の総数は、使用するタンニン酸の種類に応じて異なるが、例えば、上述の化学式(1)の場合、水酸基の数(水素原子の総数)は25個、芳香族環の水素原子の総数は20個である。化学式(1)で示すタンニン酸においては、発光性官能基の数xは1個以上44個以下であることが好ましく、1個の水素原子が発光性官能基で置換されていることがより好ましい。
【0024】
このように、ポリフェノール類における水酸基及び芳香族環の水素原子数の1個以上(n-1)+m個以下が発光性官能基で置換されることにより、ポリフェノール類によって生じる抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。
【0025】
また、ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類の水酸基及び芳香族環の水素原子の一部、すなわちポリフェノール類の水酸基及び芳香族環の水素原子の少なくとも1個が後述する鎖状炭化水素基により置換されていても良い。ポリフェノール類の水酸基及び芳香族環の水素原子の一部が後述する鎖状炭化水素基により置換されたポリフェノール誘導体は、有機溶剤との親和性が向上する。このため、用途によっては、ポリフェノール類の水酸基及び芳香族環の水素原子の一部が後述する鎖状炭化水素基により置換されることが好ましい。
【0026】
ポリフェノール誘導体では、ポリフェノール類の水酸基の水素原子数がn個であり、ポリフェノール類における芳香族環の水素原子数がm個である場合に、発光性官能基の数(x個)と鎖状炭化水素基の数(y個)との合計(x+y個)が、ポリフェノール類の水酸基の水素原子数(n個)と芳香族環の水素原子数(m個)との合計(n+m個)より1小さい数以下となるように、ポリフェノール類における水酸基又は芳香族環の水素原子が鎖状炭化水素基で置換されていることが好ましい。すなわち、ポリフェノール誘導体は、以下の式(2)を満たすように鎖状炭化水素基で置換されていることが好ましい。
発光性官能基の数x+鎖状炭化水素基の数y≦水酸基の数n-1+芳香族環の水素原子の数m ・・・(2)
(式中、x、y、n、mは正の整数である)
化学式(1)で示すタンニン酸においては、水酸基の数(水素原子の総数)は25個であり、芳香族環の水素原子の総数は20個である。このため、化学式(1)で示すタンニン酸においては、発光性官能基の数が1個である場合、1個以上43個以下の水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子が鎖状炭化水素基で置換されていることが好ましい。
【0027】
また、鎖状炭化水素基で置換された水酸基の水素原子数及び芳香族環の水素原子数が多くなる程有機溶剤との親和性が向上する。しかしながら、発光性官能基で置換された水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子数が減少して発光性能が低下するため、所望の発光性能やポリフェノール誘導体の塗布面の材料に応じて好ましい置換数を決定することが好ましい。例えば、金属、ガラス等の極性基材に対して抗菌・抗ウイルス機能を有するポリフェノール誘導体を塗布する場合には、水酸基の水素原子数及び芳香族環の水素原子数の合計の80%以下が置換されていることが好ましく、60%以下が置換されていることがより好ましい。例えば、上述の化学式(1)で示すタンニン酸の場合、36個以下の水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子が鎖状炭化水素基で置換されていることが好ましく、27個以下の水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子が鎖状炭化水素基で置換されていることがより好ましい。
【0028】
また、ポリフェノール誘導体では、ポリフェノール類の水酸基の水素原子又は芳香族環の水素原子のどちらか一方が発光性官能基により置換されていることが好ましいが、水酸基の水素原子及び芳香族環の水素原子の双方が発光性官能基により置換されていてもよい。
【0029】
上述したようなポリフェノール誘導体の構造は、例えば核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置等によって得たNMRスペクトルに基づいて特定することができる。
【0030】
(発光性官能基)
発光性官能基としては、何らかの手段によって光を発光し、抗菌・抗ウイルス性能を有するポリフェノール類の存在を視認可能であればいずれも用いることができる。
発光性官能基による発光は、例えばフォトルミネセンス等のルミネセンスによる発光であっても良く、特に、フォトルミネセンスにより発光する発光性官能基である場合、抗菌・抗ウイルス性能を容易に確認できるため好ましい。
また、発光性官能基によって発光される光としては、可視光であっても良く、可視外光であっても良いが、可視光である場合には、抗菌・抗ウイルス性能をさらに容易に確認できるため好ましい。
【0031】
ポリフェノール誘導体を発光させるための手段としては、発光性官能基に応じて適宜選択されればよく、ポリフェノール誘導体がフォトルミネセンス材料である場合には、例えば紫外線等の所定波長の光を照射すればよい。また、ポリフェノール誘導体がケミカルルミネセンス材料である場合、ポリフェノール誘導体を発光させるための手段としては、所定の液体を塗布したり、気体を吹き付けても良い。
また、ポリフェノール誘導体が可視外光を発光する場合、ポリフェノール誘導体の発光を確認するための手段としては、可視外光検出装置を用いて確認することができる。
【0032】
上述したように、発光性官能基としては、フォトルミネセンスにより可視光を発光することが可能な官能基を用いることが好ましい。より具体的には、例えば200nm以上400nm以下、好ましくは300nm以上380nmの波長域の紫外光で蛍光を発する発光性官能基が好ましく、特に取り扱いが容易なブラックライト(波長365nm)の光で蛍光を発する発光性官能基が好ましい。
このような発光性官能基としては、例えばピレン系、アントラセン系、フェナントレン系、ベンゾオキサゾール系、フラボン系、カルバゾール系及びクマリン系等の発光性官能基が挙げられる。
なかでも、ピレン系の発光性官能基としては、例えば4-(1-ピレン)-酪酸骨格、1-ピレン酪酸骨格、又は1-(メチル)ピレン骨格からなる群から選ばれる少なくとも一種の骨格を有する発光性官能基であることが好ましい。これらの骨格を有する発光性官能基は、例えば以下の化学式(2)で示す4-(1-ピレン)-酪酸クロリド、化学式(3)で示す1-ピレン酪酸又は化学式(4)で示す1-(ブロモメチル)ピレンに由来する官能基である。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
(鎖状炭化水素基)
鎖状炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、なかでもアルキル基であることが好ましい。これら鎖状炭化水素基は、水酸基由来の酸素原子を含む結合を介して、ポリフェノール類骨格に結合される。酸素原子を含む結合としては、例えばエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられる。なお、鎖状炭化水素基以外の官能基の場合であっても、有機溶剤への親和性が高く、ポリフェノール誘導体塗布面における皮膜形成能を有していればポリフェノール類に対して化学修飾することができる。
【0037】
また、鎖状炭化水素基は、炭素数が1以上18以下であることが好ましく、4以上18以下であることがより好ましく、6以上16以下であることがさらに好ましい。炭素数3以上18以下の鎖状炭化水素基としては、具体例に、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、プロピレン基、ヘキシレン基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
【0038】
<溶剤>
塗料が溶液もしくはペーストの形態の場合、塗料には少なくとも一種の溶剤が含まれる。溶剤としては、ポリフェノール誘導体を溶解することができればよく、有機溶剤を含むことが好ましい。
【0039】
有機溶剤としては、例えばプロピレンアルコール、ブタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤が挙げられる。
【0040】
塗料がクリーム、乳液等のエマルジョンの形態である場合、本実施形態に係る塗料は水もしくはアルコール類など水と相溶性を有する有機溶媒との混合溶媒を含む。エマルジョンの形態は限定されず、水中油滴型(o/w)、油中水滴型(w/o)エマルジョン、さらにはw/o/w型のいずれであってもよい。
エマルジョンの調整方法としては、ポリフェノール誘導体を水中に直接分散させてもよく、ポリフェノール誘導体の有機溶媒溶液を分散させてもよい。また、水と相溶性を有する有機溶媒との混合溶媒中でエマルジョンを作成した後、有機溶媒のみを揮発させることで得られる水分散体でもよい。
【0041】
塗料は、例えばスプレーノズル付きの容器に収容され、スプレーノズルを介して容器外に微粒子状(霧又はミスト等のエアロゾル状)に噴出、すなわち、スプレーとして使用されても良い。この場合、本実施形態に係る塗料は、噴射操作によって、噴射を終える度に外部から容器内に導入された空気によって加圧されて噴出されてもよく、噴射剤として作用する液化ガスもしくは圧縮ガスを予め容器内に含み、噴射剤によって噴出されてもよい。液化ガスとしては液化石油ガス、ジメチルエーテル等が、圧縮ガスとしては二酸化炭素、窒素が挙げられる。また、二酸化炭素は臨界点を超えた超臨界流体であってもよく、工業的殺菌プロセス等において使用してもよい。
【0042】
本実施形態に係る塗料は、目的に応じた濃度となる量のポリフェノール誘導体と上述した各成分を定法に従い混合することによって調製することができる。ポリフェノール誘導体の濃度は、用途、塗布法に応じて種々調整すればよい。また、塗料には、例えば界面活性剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、pH調節剤、架橋剤、フィラー等の慣用の添加剤を、本開示の目的を阻害しない範囲で配合してよい。
【0043】
皮膜の形成法は任意の方法であってよく、バーコータ法、スピンコーティング法、ディッピング法、スプレー法や、グラビア印刷、オフセット印刷などの各種印刷法などが挙げられる。皮膜の膜厚も限定されず、用途に応じて調整することが好ましい。例えば防錆膜の場合、皮膜の膜厚は100nm以上とすることが好ましい。皮膜の膜厚が100nm未満の場合、金属又は合金からなる基板の表面への水分子の接近を十分防止できず、十分な防錆効果が得られない場合がある。
【0044】
(1.3)塗料の製造方法
以下、本実施形態に係る塗料の製造方法について説明する。
【0045】
<ポリフェノール誘導体の製造方法>
ポリフェノール誘導体は、ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾する工程を経て製造される。また、ポリフェノール誘導体は、さらにポリフェノール類に鎖状炭化水素基を化学修飾する工程とを経て製造されてもよい。ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾する工程と、ポリフェノール類に鎖状炭化水素基を化学修飾する工程とは、いずれの工程が先でも良く、同時に行われても良い。
【0046】
ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾する工程では、例えばエステル化反応が用いられる。具体的には、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等の溶媒中で、酸性触媒の存在下で、ポリフェノール類にカルボキシル基を有する発光性化合物を反応させることで、ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾することができる。
カルボキシル基を有する発光性化合物としては、1-ピレンカルボン酸、9-アントラセンカルボン酸、9-フェナントレンカルボン酸等を用いることができる。
また、酸性触媒としては濃硫酸、リン酸、トルエンスルホン酸などのH+を供給する触媒を用いることができる。
エステル化反応は、20℃以上50℃以下の環境下で、約24時間程度反応させることが好ましい。ポリフェノール類に対するカルボキシル基を有する発光性化合物のモル比を変えることにより、発光性官能基のポリフェノール類中への導入割合を所望の値に設定できる。
【0047】
また、ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾する工程では、例えばアルキル化反応の一つであるウィリアムソンエーテル合成法が用いられてもよい。具体的には、テトラヒドロフラン、ジメチルスホキサイド等の溶媒中で、塩基性触媒の存在下で、ポリフェノール類にハロゲン化アルキル基を有する発光性化合物を反応させることで、ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾することができる。
ハロゲン化アルキル基を有する発光性化合物としては、1-ブロモメチルピレン、9-ブロモメチルアントラセン、4-ブロモメチル-7-ジエチルアミノクマリン等を用いることができる。
【0048】
また、塩基性触媒としては、MH、M2CO3、M(M:アルカリ金属)の群から選択される1又は2以上の触媒を用いることができる。例えば、K2CO3は、OH基をO-M+に変換し、ハロゲン化アルキル(X-R1、X:ハロゲン、R1:アルキル基)へのO-基の求核反応を促進することができる。
アルキル化反応は、70℃以上100℃以下の環境下で、約1時間程度反応させることが好ましい。また、ポリフェノール類に対するハロゲン化アルキル基を有する発光性化合物のモル比を変えることにより、発光性官能基のポリフェノール類中への導入割合を所望の値に設定できる。
【0049】
さらに、ポリフェノール類に発光性官能基を化学修飾する工程では、マイケル付加反応が用いられてもよい。
【0050】
ポリフェノール類に鎖状炭化水素基を化学修飾する工程では、例えばエステル化反応が用いられる。具体的には、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド等の溶媒中で、酸性触媒の存在下で、ポリフェノール類にアルキルカルボン酸を反応させることで、ポリフェノール類に鎖状炭化水素基であるアルキルカルボン酸を化学修飾することができる。
酸性触媒としては、濃硫酸、リン酸、トルエンスルホン酸などのH+を供給する触媒を用いることができる。
エステル化反応は、20℃以上50℃以下の環境下で、約24時間程度反応させることが好ましい。ポリフェノール類に対するアルキルカルボン酸のモル比を変えることにより、アルキル基のポリフェノール類中への導入割合を所望の値に設定できる。
【0051】
また、ポリフェノール類に鎖状炭化水素基を化学修飾する工程では、例えばアルキル化反応の一つであるウィリアムソンエーテル合成法が用いられても良い。具体的には、テトラヒドロフラン、ジメチルスホキサイド等の溶媒中で、塩基性触媒の存在下で、ポリフェノール類に鎖状炭化水素基であるハロゲン化アルキルを化学修飾することができる。
塩基性触媒としてはMH、M2CO3、M(M:アルカリ金属)の群から選択される1又は2以上の触媒を用いることができる。例えば、K2CO3は、OH基をO-M+に変換し、ハロゲン化アルキル(X-R1、X:ハロゲン、R1:アルキル基)へのO-基の求核反応を促進することができる。
【0052】
アルキル化反応は、70℃以上100℃以下の環境下で、約1時間程度反応させることが好ましい。また、ポリフェノール類に対するハロゲン化アルキルのモル比を変えることにより、アルキル基のポリフェノール類中への導入割合を所望の値に設定できる。
ポリフェノール類に鎖状炭化水素基を化学修飾する工程では、ハロゲン化アルキルに代えて、スルホニル基などを脱離基として有する材料を用いても良い。また、上述したウィリアムソンエーテル合成法以外のアルキル化反応を用いることもできる。さらに、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等の縮合剤を用いたカルボン酸類との脱水縮合反応や、イソシアネートとの縮合反応を用いることもできる。
【0053】
<塗料の製造方法>
塗料は、上述した方法により形成されたポリフェノール誘導体を、所望の溶剤に分散させるとともに、塗料の形態に応じて必要となる材料や添加剤が混合されることにより得られる。
【0054】
(1.4)第一実施形態の効果
上述した第一実施形態に係る塗料は、以下の効果を有する。
(1)
塗料は、植物由来の抗菌・抗ウイルス成分であるポリフェノール類を成分とするポリフェノール誘導体を含み、抗菌・抗ウイルス物質として銀等の金属を含んでいない。
これにより、本実施形態に係る塗料は、銀等の金属に由来する変色や、製造コストの向上を抑制することができる。また、本実施形態に係る塗料は、植物由来の抗菌・抗ウイルス成分であるポリフェノール類を含むため、高い安全性が得られる。
【0055】
(2)
塗料は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されている。
これにより、塗料は、ポリフェノール類が存在する場合には、ポリフェノール類と結合した発光性官能基によって発光し、ポリフェノール類によって生じる抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。
【0056】
(3)
塗料は、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が後述する鎖状炭化水素基により置換されていても良い。
これにより、塗料は、有機溶剤に対する親和性が向上し、有機溶剤にポリフェノール誘導体を分散させて、塗布面の表面に、抗菌・抗ウイルス効果を付与することができる。
【0057】
2.第二実施形態(塗料の第2の例)
以下、第二実施形態に係る塗料について説明する。本実施形態に係る塗料は、所望の部材の表面に抗菌・抗ウイルス機能を付与するための抗菌・抗ウイルス剤として用いられ、かつ抗菌・抗ウイルス機能の有無を視認することが可能であり、さらに第一実施形態に係る塗料に比べて耐溶剤性が向上している。
【0058】
本実施形態に係る塗料は、第一実施形態で説明したポリフェノール誘導体を含み、かつポリフェノール誘導体をネットワークポリマー化して耐溶剤性を向上させた点で、第一実施形態に記載の塗料と異なる。すなわち、本実施形態に係る塗料に含まれる溶剤は、第一実施形態で説明した溶剤と同様の材料を用いることができる。
以下、溶剤の説明を省略し、本実施形態で用いられるポリフェノール誘導体についてのみ説明する。
【0059】
(2.1)塗料の構成
<ポリフェノール誘導体>
本実施形態で用いられるポリフェノール類は、第一実施形態で説明したポリフェノール類と同様であり、例えば化学式(1)で示すタンニン酸であるため説明を省略する。
本実施形態におけるポリフェノール誘導体は、第一実施形態におけるポリフェノール誘導体と同様に、ポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が発光性官能基により置換されている。これにより、ポリフェノール類が存在する場合には、ポリフェノール類と結合した発光性官能基によって発光し、ポリフェノール類によって生じる抗菌・抗ウイルス効果を視認することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態におけるポリフェノール誘導体は、二官能性のアルキルジカルボン酸を用いたエステル化反応、または二官能性のハロゲン化アルキルを用いたエーテル化反応、または二官能性のアルキルジイソシアネートを用いたウレタン化反応等により、複数のポリフェノール類を連結することで、ポリフェノール類がネットワークポリマー化されている。エステル化反応、エーテル化反応は、第一実施形態で説明した合成方法と同様の方法を用いることができる。これにより、ポリフェノール類の水酸基が減少して、高分子材料の耐溶剤性が向上する。
また、本実施形態で用いられるポリフェノール誘導体は、第一実施形態におけるポリフェノール誘導体と同様に、ポリマーネットワーク化されたポリフェノール類の水酸基の一部における水素原子又は芳香族環の水素原子の一部が鎖状炭化水素基により置換されていてもよい。
【0061】
(2.2)第二実施形態の効果
上述した第二実施形態に係る塗料は、第一実施形態に係る塗料と同様の効果を有する。
【0062】
上述した抗菌・抗ウイルス剤として用いられるポリフェノール誘導体及び高分子材料は、種々の分野に適用することができる。例えば、医療分野、農林水産分野、化粧品分野、食品加工分野、繊維衣料分野、建築分野、寝装分野、船舶分野、電子工業分野、水処理分野などに使用できる。
【実施例0063】
以下、本開示に係る塗料を実施例により説明する。なお、本開示に係る塗料は、これら実施例に限定されない。
【0064】
<材料調製・材料合成>
(タンニン酸)
ポリフェノール類として、タンニン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、203-06331)を用意した。
【0065】
(ポリフェノール誘導体1)
タンニン酸と、アセチルクロリド及びトリエチルアミンとを脱水アセトンに加えて室温で20時間反応させることで中間化合物を得た。続いて、1-ピレン酪酸クロリド及びトリエチルアミンを、中間化合物を含む脱水アセトンに加えて室温で20時間反応させることにより、ポリフェノール誘導体1を合成した。合成されたポリフェノール誘導体1の発光性官能基置換数は1であり、アルキル基置換数は4であった。また、置換されたアルキル基の炭素数は1であった。
【0066】
(ポリフェノール誘導体2)
タンニン酸と及び炭酸カリウムに、ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて溶解し、さらにヨウ化アルキル(ヨウ化n-デシル)とブロモメチルピレンとを加えて、80℃で20時間反応させることにより、ポリフェノール誘導体2を合成した。合成されたポリフェノール誘導体2の発光性官能基置換数は1であり、アルキル基置換数は9であった。また、置換されたアルキル基の炭素数は10であった。
【0067】
(ポリフェノール誘導体3)
タンニン酸と、アクリロイルクロリド及びトリエチルアミンを脱水アセトンに加えて室温で20時間反応させることで中間化合物を得た。続いて、1-ピレン酪酸クロリド及びトリエチルアミンを、中間化合物を含む脱水アセトンに加えて室温で20時間反応させることにより、ポリフェノール誘導体3を合成した。なお、ポリフェノール誘導体3は、後述するように、光重合開始剤の存在下で紫外線照射することでネットワークポリマー化される。合成されたポリフェノール誘導体3の発光性官能基置換数は1であり、アルキル基置換数は5であった。また、置換されたアルキル基の炭素数は2であった。
【0068】
(ポリフェノール誘導体4)
タンニン酸と、1-ピレン酪酸クロリド及びトリエチルアミンとを脱水アセトンに加えて室温で20時間反応させることにより、ポリフェノール誘導体4を合成した。合成されたポリフェノール誘導体4の発光性官能基置換数は1であり、アルキル基置換数は0であった。
【0069】
[実施例1]
上述のように合成したポリフェノール誘導体1(1重量部)を、水とエタノールとを重量比1:9で混合した混合溶媒(9重量部)に溶解して、実施例1の塗料を調製した。
続いて、この塗料をボトルに封入し、手動の吸い上げ式スプレーノズル(吐出量約0.8ml/1プッシュ)を用いて5cm×5cmのガラス基板上へ塗料を塗布した。塗料の塗布後、自然乾燥により被膜を形成して実施例1の試料を作製した。
【0070】
[実施例2]
ポリフェノール誘導体1に代えてポリフェノール誘導体2を用いた以外は実施例1と同様にして実施例2の塗料を調製した。
続いて、この塗料を用いて実施例1と同様の方法により塗料の塗布した後、UV光(264nm・120W/cm)を2秒照射することで被膜を形成して実施例2の試料を作製した。
【0071】
[実施例3]
上述のように合成したポリフェノール誘導体3(1重量部)と、光重合開始剤(IGM Resins B.V.社製Omnirad 184)(0.2重量部)とをメチルエチルケトン(9重量部)に溶解して、実施例3の塗料を調製した。この塗料をガラス基板の表面にまんべんなく塗布した後、紫外光(264nm、120W/cm)を2秒間照射して、実施例3の試料を作製した。
【0072】
[実施例4]
水とエタノールとの混合溶媒に代えてエタノールのみを含む溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の塗料を調製した。
続いて、この塗料を用いて実施例1と同様の方法により被膜を形成して実施例4の試料を作製した。
【0073】
[実施例5]
ポリフェノール誘導体1に代えて、アルキル基に置換されていないポリフェノール誘導体4を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の塗料を調製した。
続いて、この塗料を用いて実施例1と同様の方法により被膜を形成して実施例5の試料を作製した。
【0074】
[比較例1]
ポリフェノール誘導体1に代えて、上述のような発光性官能基を有していないタンニン酸を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の塗料を調製した。
続いて、この塗料を用いて実施例1と同様の方法により被膜を形成して比較例1の試料を作製した。
【0075】
[比較例2]
塗料を塗布しないガラス基板を、比較例2の試料とした。
【0076】
<評価>
(発光性視認試験)
発光性視認試験に用いる各実施例及び比較例の試料は、スプレーノズルを5回プッシュしてガラス基板上に塗料の被膜を製膜した。
上述した方法で形成した各実施例及び比較例の試料に、365nmの紫外光を紫外光発光装置(アズワン株式会社製SLUV4)を用いて照射した。各実施例及び比較例の試料表面の発光を目視にて確認し、発光が確認された場合を「○」、発光が確認されなかった場合を「×」と評価した。
【0077】
(抗菌性試験)
抗菌性試験に用いる各実施例及び比較例1の試料は、スプレーノズルを20回プッシュしてガラス基板上に塗料の被膜を製膜した。
上述した方法で形成した各実施例及び比較例の試料に対して、JIS Z2801の方法に従って抗菌性試験を行い、抗菌活性値(大腸菌を使用)を確認した。
【0078】
(溶解性試験)
各実施例及び比較例で調整した塗料を目視にて確認し、ポリフェノール誘導体又はタンニン酸がすべて溶けている場合を「◎」、ポリフェノール誘導体又はタンニン酸が少量溶け残っている場合を「○」、ポリフェノール誘導体又はタンニン酸が大量に溶け残っている場合を「×」と評価した。
【0079】
以下の表1に評価結果を示す。
【0080】
【0081】
表1に示すように、発光性官能基を含むポリフェノール誘導体を用いた塗料が塗布された各実施例の試料では、発光性官能基を含まないタンニン酸を用いた比較例1と同等の十分な抗菌活性が得られており、抗菌・殺菌等の用途での活用が期待できることが確認された。また、各実施例の試料では、発光性視認試験に示すように、紫外光の照射で抗菌活性を有する化合物の存在を容易に判断することができ、抗菌機能が付与されているかを容易に確認することができた。
【0082】
また、溶剤として有機溶剤のみを含む実施例3及び実施例4や、溶剤の一部に水を含むものの、ポリフェノール誘導体の一部がアルキル基で置換された実施例1及び実施例2では、溶剤の一部に水を含み、かつポリフェノール誘導体の一部がアルキル基で置換されてない実施例5と比較してポリフェノール誘導体の溶解性が向上した。このため、有機溶剤のみを含む溶剤を用いたり、ポリフェノール誘導体の一部をアルキル基で置換したりすることでポリフェノール誘導体の抗菌機能をより得やすくなることが確認された。
【0083】
一方、発光性官能基を有していないタンニン酸を用いた比較例1は、塗料を塗布しないガラス基板を用いた比較例2と比較して抗菌活性は十分に得られているものの、抗菌活性を有する化合物の存在を発光により容易に判断することができなかった。
【0084】
本開示の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本開示の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。